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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/35 20210101AFI20240807BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20240807BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20240807BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20240807BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240807BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240807BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20240807BHJP
【FI】
H01M50/35 101
H01M50/342 101
H01M50/103
H01M10/04 Z
H01M10/052
H01M10/058
H01G11/78
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022058764
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023149937
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 治成
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-265656(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133775(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/00-50/198
H01M 50/30-50/392
H01M 50/40-50/497
H01G 11/78-11/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体と、
上記電極体を内部に収容するケースと、
上記ケースに設けられ、上記ケース内で発生したガスを上記ケース外に放出する安全弁と、を備える
蓄電デバイスであって、
上記ケースは、
直方体箱状で、
一対の長辺及び一対の短辺を有する矩形状の上壁部、
上記上壁部と対向する矩形状の底壁部、
上記上壁部と上記底壁部との間を結び、上記一対の長辺からそれぞれ延びる一対の長側壁部、及び、
上記上壁部と上記底壁部との間を結び、上記一対の短辺からそれぞれ延びる一対の短側壁部を有し、
上記電極体は、
重なって上記電極体をなす電極板またはセパレータの周縁部が、厚み方向に並んで構成され、かつ、上記ケースの上記一対の短側壁部とそれぞれ対向する一対の周縁対向面を有しており、
上記安全弁は、
上記ケースの上記上壁部に設けられており、
上記電極体から上記ガスが噴出した場合に、噴出した上記ガスを上記安全弁に向けて誘導するガス誘導部であって、
上記ケースとは別体のガス誘導部材からなり、
上記ケースの上記短側壁部と上記電極体の上記周縁対向面との間に設けられ、
上記周縁対向面から上記短側壁部に向けて噴出した前記ガスを、上記上壁部に向けて誘導する形態を有し、
上記電極体の上記周縁対向面のうち、上記上壁部と上記底壁部との間を結ぶ上底方向の50%以上の範囲に対向し、かつ、
上記上壁部に向かうほど、上記周縁対向面との間隙が拡くなる傾斜面をなす傾斜部を有する
ガス誘導部を備える
蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項に記載の蓄電デバイスであって、
前記ガス誘導部は、
前記周縁対向面の前記上底方向の全範囲に対向する前記傾斜面をなす前記傾斜部を有する
蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電デバイスであって、
前記傾斜部の前記傾斜面は、平面であり、
上記傾斜部のうち、最も前記底壁部側の底端部における底端部厚みをtd、
上記傾斜部のうち、最も前記上壁部側の上端部における上端部厚みをtc、
上記傾斜部の高さをh、
上記高さhを隣辺、上記底端部厚みtdと上記上端部厚みtcとの差(td-tc)を対辺とする直角三角形がなす内角を、上記傾斜面の傾斜角θとしたとき、
上記傾斜角θは、0.36度以上である
蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体を内部に収容するケースに、安全弁が設けられた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池やキャパシタなどの蓄電デバイスとして、ケースに安全弁が設けられた形態の蓄電デバイスがある。このような蓄電デバイスでは、電極体内でガスが発生しても、ケースの内圧が開弁圧に達すると安全弁が開弁し、開弁した安全弁を通じてガスがケース外に放出される。例えば特許文献1(図1,2等参照)に、このような形態の二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-121999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ケース内で電極体からガスが勢いよく噴出した場合、噴出したガスを上述のように安全弁を通じてケース外に放出できる場合のほか、噴出した高温のガスがケースの一部に集中して当たり、ケースを突き破ってケース外に放出されるおそれがあった。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、ケース内で電極体から噴出したガスが、ケースを突き破ってケース外に放出されるのを抑制できる蓄電デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、電極体と、上記電極体を内部に収容するケースと、上記ケースに設けられ、上記ケース内で発生したガスを上記ケース外に放出する安全弁と、を備える蓄電デバイスであって、上記ケースは、直方体箱状で、一対の長辺及び一対の短辺を有する矩形状の上壁部、上記上壁部と対向する矩形状の底壁部、上記上壁部と上記底壁部との間を結び、上記一対の長辺からそれぞれ延びる一対の長側壁部、及び、上記上壁部と上記底壁部との間を結び、上記一対の短辺からそれぞれ延びる一対の短側壁部を有し、上記電極体は、重なって上記電極体をなす電極板またはセパレータの周縁部が、厚み方向に並んで構成され、かつ、上記ケースの上記一対の短側壁部とそれぞれ対向する一対の周縁対向面を有しており、上記安全弁は、上記ケースの上記上壁部に設けられており、上記電極体から上記ガスが噴出した場合に、噴出した上記ガスを上記安全弁に向けて誘導するガス誘導部であって、上記ケースとは別体のガス誘導部材からなり、上記ケースの上記短側壁部と上記電極体の上記周縁対向面との間に設けられ、上記周縁対向面から上記短側壁部に向けて噴出した前記ガスを、上記上壁部に向けて誘導する形態を有し、上記電極体の上記周縁対向面のうち、上記上壁部と上記底壁部との間を結ぶ上底方向の50%以上の範囲に対向し、かつ、上記上壁部に向かうほど、上記周縁対向面との間隙が拡くなる傾斜面をなす傾斜部を有するガス誘導部を備える蓄電デバイスである。
【0007】
上述の蓄電デバイスでは、上述のガス誘導部を備えるので、ケース内で電極体から噴出したガスは、このガス誘導部によって安全弁に向けて誘導される。このため、電極体から噴出したガスが、ケースを突き破ってケース外に放出されるのを抑制できる。
更に上述の蓄電デバイスでは、ガス誘導部が上述の形態を有している。このため、電極板またはセパレータの周縁が厚み方向に並んで構成された電極体の周縁面のうち、ケースの短側壁部に対向する周縁対向面から、短側壁部に向けてガスが噴出した場合には、噴出したガスを、短側壁部と周縁対向面との間に設けたガス誘導部によって、安全弁が設けられた上壁部に向けて誘導できる。このため、電極体の周縁対向面からケースの短側壁部に向かって噴出したガスが短側壁部を突き破ってケース外に放出されるのを抑制できる。
更に上述の蓄電デバイスでは、ガス誘導部が上述のように電極体の周縁対向面に広い範囲にわたって対向する傾斜面を有するので、電極体の周縁対向面から噴出したガスの多くを、この傾斜面に沿って上壁部側に流し、安全弁側に誘導することができる。
更に上述の蓄電デバイスでは、ガス誘導部は、ケースとは別体のガス誘導部材からなる。このようにケースとは別体のガス誘導部材を配置することにより、電極体から噴出したガスが、直接ケースに当たるのを防止または抑制できるため、噴出したガスがケースを突き破ってケース外に放出されるのをより効果的に抑制できる。
【0008】
なお、「蓄電デバイス」としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池や、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタなどが挙げられる。
「電極体」としては、例えば、帯状の電極板を帯状のセパレータを介して円筒状や扁平状に捲回した捲回型の電極体や、複数の矩形状の電極板をセパレータを介して直方体状に積層した積層型の電極体などが挙げられる。また、蓄電デバイスは、電極体を単数備えて
いても複数備えていてもよい。
【0009】
「ケース」としては、例えば、金属缶からなるケースや、樹脂からなるケース、ラミネートフィルムからなるケースが挙げられる。
「安全弁」としては、ケースの内圧が開弁圧を超えたときに破断して開弁する非復帰型の安全弁や、ケースの内圧が開弁圧を超えたときに開弁する一方、ケースの内圧が開弁圧よりも下がると閉弁する復帰型の安全弁が挙げられる。
「ガス誘導部」としては、後述するように、ケースとは別体とされ、ケース内に配置されたガス誘導部材や、ケースと一体とされ、ケースの一部となっているガス誘導部が挙げられる。
なお、例えば、電極体が扁平状捲回型の電極体であり、その捲回軸がケースの短側壁部に直交する姿勢でケース内に収容された蓄電デバイスでは、電極体のうち、捲回軸方向の両側の端面(捲回軸に直交する一対の端面)が、前述の「一対の周縁対向面」に該当する。この一対の周縁対向面は、電極板の周縁が電極体の厚み方向に並んで構成される。
また、電極体が扁平状積層型の電極体である場合、この電極体は、電極板よりも若干大きくされたセパレータの周縁が電極体厚み方向に並んで構成された周縁面を4つ有しており、このうち、ケースの一対の短側壁部とそれぞれ対向する一対の周縁面が、前述の「一対の周縁対向面」に該当する。
【0012】
なお、「ガス誘導部材」の材質は、噴出するガスの温度に 10秒以上にわたり耐えられる材質を選択すると良く、例えば、金属材やセラミック材、軟化点が100℃以上のプラスチック材(例えば軟化点が100℃以上の、アクリル樹脂、イミド系アクリル樹脂、ポリイミド樹脂)などを用い得る。
【0018】
更に上記の蓄電デバイスであって、前記ガス誘導部は、前記周縁対向面の前記上底方向の全範囲に対向する前記傾斜面をなす前記傾斜部を有する蓄電デバイスとすると良い。
【0019】
上述の蓄電デバイスでは、ガス誘導部が更に広い範囲にわたって電極体の周縁対向面に対向する傾斜面を有するので、電極体の周縁対向面から噴出したガスの更に多くを、この傾斜面に沿って上壁部側に流し、安全弁側に誘導することができる。
【0020】
更に上記のいずれかに記載の蓄電デバイスであって、前記傾斜部の前記傾斜面は、平面であり、前記傾斜部のうち、最も前記底壁部側の底端部における底端部厚みをtd、上記傾斜部のうち、最も前記上壁部側の上端部における上端部厚みをtc、上記傾斜部の高さをh、上記高さhを隣辺、上記底端部厚みtdと上記上端部厚みtcとの差(td-tc)を対辺とする直角三角形がなす内角を、上記傾斜面の傾斜角θとしたとき、上記傾斜角θは、0.36度以上である蓄電デバイスとすると良い。
【0021】
上述の蓄電デバイスでは、傾斜面の傾斜角θが大きいため、この傾斜面によって、電極体の周縁対向面から噴出したガスをより効果的に上壁部側に流し、安全弁に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態1~3及び参考形態に係る電池の斜視図である。
図2】実施形態1に係る電池の電池縦方向及び電池横方向に沿う断面図である。
図3】実施形態1に係り、電極体の周縁対向面からケースの短側壁部に向けて噴出したガスが、ガス誘導部材によってケースの上壁部側に誘導される様子を示す説明図である。
図4】実施形態1に係るガス誘導部材の斜視図である。
図5】実施形態2に係るガス誘導部材の斜視図である。
図6】実施形態3に係るガス誘導部材の斜視図である。
図7参考形態に係る、ケースと一体化されたガス誘導部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態1に係る電池(蓄電デバイス)1の斜視図を、図2に電池1の断面図を示す。なお、以下では、電池1の電池縦方向AH、電池横方向BH及び電池厚み方向CHを、図1及び図2に示す方向と定めて説明する。この電池1は、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両などに搭載される角型で密閉型のリチウムイオン二次電池である。
【0024】
電池1は、ケース10と、ケース10の内部に収容された電極体30及び一対のガス誘導部材(ガス誘導部)40,50と、ケース10に支持された正極端子60及び負極端子70等から構成されている。ケース10には、ケース10の他の部位よりも薄肉化され、ケース10の内圧が開弁圧を超えたときに破断して開弁し、ケース10内で発生したガスGAをケース外に放出する非復帰型の安全弁25が設けられている。またケース10内には、電解液80が収容されており、その一部は電極体30内に含浸され、一部はケース10の底壁部12上に溜まっている。また電極体30は、縦方向AHの一方側AH1に開口した袋状の絶縁フィルム90に覆われている。
【0025】
このうちケース10は、金属(本実施形態1ではアルミニウム)からなる直方体箱状である。このケース10は、一対の長辺11a及び一対の短辺11bを有する矩形状の上壁部11と、これに対向する矩形状の底壁部12と、上壁部11と底壁部12との間を結び、一対の長辺11aからそれぞれ延びる一対の長側壁部13,14と、上壁部11と底壁部12との間を結び、一対の短辺11bからそれぞれ延びる一対の短側壁部15,16とを有する。
【0026】
ケース10は、縦方向AHの一方側AH1に開口21cを有する有底角筒状で、ケース10の底壁部12、一対の長側壁部13,14及び一対の短側壁部15,16をなすケース本体部材21と、このケース本体部材21の開口21cを閉塞する形態で溶接された矩形板状で、ケース10の上壁部11をなすケース蓋部材22とから構成されている。ケース本体部材21の厚みは0.2~3.0mm(本実施形態では1.0mm)であり、ケース蓋部材22の厚みは0.2~3.0mm(本実施形態では2.0mm)である。
【0027】
ケース本体部材21は、絶縁フィルム90で覆われた電極体30と、ガス誘導部材40,50とを収容している。
一方、ケース蓋部材22のうち電池横方向BHの中央付近には、前述の安全弁25が設けられている。またケース蓋部材22には、ケース10の内外を連通する注液孔(不図示)が形成されており、封止部材(不図示)で気密に封止されている。更にケース蓋部材22には、複数のアルミニウムの部材から構成される正極端子60が、ケース蓋部材22と絶縁された状態で固設されている。この正極端子60は、ケース10の内部で電極体30の正極タブ30p(後述する)に接続し導通する一方、ケース蓋部材22を貫通して電池外部まで延びている。またケース蓋部材22には、複数の銅の部材から構成される負極端子70が、ケース蓋部材22と絶縁された状態で固設されている。この負極端子70は、ケース10の内部で電極体30の負極タブ30q(後述する)に接続し導通する一方、ケース蓋部材22を貫通して電池外部まで延びている。
【0028】
電極体30は、扁平な直方体状であり、複数の矩形状の正極板(電極板)31と、複数の矩形状の負極板(電極板)32とを、樹脂製の多孔質膜からなる矩形状のセパレータ33を介して、電極体30の厚み方向DHに交互に積層した積層型の電極体である。なお、負極板32は正極板31よりも若干大きくされ、セパレータ33は負極板32よりも若干大きくされている。また厚み方向DHに重なる正極板31とセパレータ33、負極板32とセパレータ33とは、それぞれ接着剤で接着されており、これにより電極体30が一体化されている。
【0029】
この電極体30は、6つの平面から構成されている。即ち、電極体30は、厚み方向DHに直交する(厚み方向DHの外側に位置する)一対の平坦面30a,30bと、これら平坦面30a,30bの間を結ぶ4つの周縁面30c,30d,30e,30fとを有する。電気絶縁性を確保するため、セパレータ33は正極板31及び負極板32よりも全周にわたり若干大きな矩形状とされているので、電極体30の各周縁面30c,30d,30e,30fは、それぞれセパレータ33の周縁33cが電極体30の厚み方向DHに並んで構成された面となっている。
【0030】
これらの周縁面30c,30d,30e,30fのうち、周縁面30e,30fが前述の「周縁対向面」である。具体的には、電池1において、電極体30の平坦面30aはケース10の長側壁部13と対向し、電極体30の平坦面30bはケース10の長側壁部14と対向している。また、電極体30の周縁面30cはケース10の上壁部11と対向し、電極体30の周縁面30dはケース10の底壁部12と対向している。また、電極体30の周縁面(周縁対向面)30eはケース10の短側壁部15と対向し、電極体30の周縁面(周縁対向面)30fはケース10の短側壁部16と対向している。
【0031】
正極板31は、矩形状のアルミニウム箔からなる正極集電箔(不図示)の両主面上にそれぞれ正極活物質層(不図示)を有する。正極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質粒子と、導電粒子と、結着剤とから構成されている。正極板31のうち、縦方向AHの一方側AH1に延びる延出部は、厚み方向に正極活物質層が存在せず、正極集電箔が厚み方向に露出した正極露出部31rとなっており、各々の正極露出部31r同士が厚み方向に重なって前述の正極タブ30pを形成している。この正極タブ30pは、前述のように正極端子60と接続している。
【0032】
負極板32は、矩形状の銅箔からなる負極集電箔(不図示)の両主面上にそれぞれ負極活物質層(不図示)を有する。負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質粒子と、結着剤とから構成されている。負極板32のうち、縦方向AHの一方側AH1に延びる延出部は、厚み方向に負極活物質層が存在せず、負極集電箔が厚み方向に露出した負極露出部32rとなっており、各々の負極露出部32r同士が厚み方向に重なって前述の負極タブ30qを形成している。この負極タブ30qは、前述のように負極端子70と接続している。
【0033】
次に、ガス誘導部材40,50について説明する(図3及び図4も参照)。これらのガス誘導部材40,50は、電極体30からガスGAが噴出した場合に、この噴出したガスGAを安全弁25に向けて誘導するものであり、本実施形態1では、ケース10とは別部材(本実施形態1では、アルミニウム材)からなる。
一方のガス誘導部材40は、ケース10の短側壁部15と電極体30の周縁対向面30eとの間に設けられており、電極体30の周縁対向面30eからケース10の短側壁部15に向けて噴出したガスGAを、ケース10の上壁部11に向けて(安全弁25に向けて)誘導する形態を有する。
他方のガス誘導部材50は、ケース10の短側壁部16と電極体30の周縁対向面30fとの間に設けられており、電極体30の周縁対向面30fからケース10の短側壁部16に向けて噴出したガスGAを、ケース10の上壁部11に向けて(安全弁25に向けて)誘導する形態を有する。
なお、これらのガス誘導部材40,50は、同様の形態を有するので、以下ではまとめて説明する。
【0034】
具体的には、ガス誘導部材40,50は、概略板状であり、平面である傾斜面41m,51mをなす傾斜部41,51からなる。傾斜部41,51は、最も底壁部12側の底端部41d,51dから、最も上壁部11側の上端部41c,51cに向かうに連れて、徐々に厚みが薄くなっている。傾斜部41,51の傾斜面41m,51mは、電極体30の周縁対向面30e,30fのうち、上壁部11と底壁部12との間を結ぶ上底方向(電池縦方向)AHの50%以上の範囲(本実施形態1では全範囲(100%))に対向している。また傾斜面41m,51mと電極体30の周縁対向面30e,30fとの間隙は、上壁部11に向かう(電池縦方向AHの一方側AH1)ほど拡くなっている。
【0035】
また傾斜部41,51の各寸法は、上端部41c,51cの上端部厚みtcがtc=0.5mm、底端部41d,51dの底端部厚みtdがtd=2.0mm、高さh(上底方向AHの寸法)がh=95mmである。また、高さhを隣辺、底端部厚みtdと上端部厚みtcとの差(td-tc)を対辺とする直角三角形がなす内角を、傾斜面41m,51mの傾斜角θとしたとき、この傾斜角θは0.36度以上(本実施形態1ではθ=0.91度)である。
【0036】
電極体30の周縁対向面30eからケース10の短側壁部15に向けて高温のガスGAが噴出した場合、まずこのガスGAの温度により電極体30を包む絶縁フィルム90が溶ける。そしてガスGAは、図3に示すように、ガス誘導部材40(傾斜部41)の傾斜面41mに当たり、傾斜面41mに沿って、安全弁25が設けられた上壁部11に向けて流れる。これにより、電極体30の周縁対向面30eから噴出したガスGAが、ケース10の短側壁部15を突き破ってケース10外に放出されるのを抑制できる。
【0037】
また電極体30の周縁対向面30fからケース10の短側壁部16に向けてガスGAが噴出した場合、上述のようにガスGAの温度により絶縁フィルム90が溶けた後、ガスGAは、ガス誘導部材50の傾斜部51の傾斜面51mに当たり、傾斜面51mに沿って、安全弁25が設けられた上壁部11に向けて流れる。これにより、電極体30の周縁対向面30fから噴出したガスGAが、ケース10の短側壁部16を突き破ってケース10外に放出されるを抑制できる。
【0038】
次いで、上記電池1の製造方法について説明する。まず正極板31、負極板32及びセパレータ33を厚み方向DHに積層して電極体30を形成する。次に、ケース蓋部材22に正極端子60及び負極端子70を固設し、更に正極端子60及び負極端子70を、電極体30の正極タブ30p及び負極タブ30qにそれぞれ溶接して接続する。その後、電極体30を袋状の絶縁フィルム90で包む。
【0039】
また別途、ケース本体部材21内にガス誘導部材40,50を収容し、接着剤により、ガス誘導部材40,50を短側壁部15,16にそれぞれ固着させておく。そして、前述の絶縁フィルム90で覆われた電極体30を、ケース本体部材21内に挿入すると共に、ケース本体部材21の開口21cをケース蓋部材22で塞ぐ。その後、ケース本体部材21とケース蓋部材22とを、ケース蓋部材22の全周にわたり溶接してケース10を形成する。次に、電解液80をケース蓋部材22の注液孔(不図示)を通じてケース10内に注液し、その後、この注液孔を封止部材(不図示)で封止する。その後は、この電池1に初充電や各種検査等を行う。かくして、電池1が完成する。
【0040】
本実施形態1の電池1は、前述のようにガス誘導部材40,50を備えるので、電極体30の周縁対向面30e,30fからケース10の短側壁部15,16に向けてガスGAは、ガス誘導部材40,50によって安全弁25に向けて誘導される。このため、電極体30からケース10の短側壁部15,16に向けて噴出したガスGAが、ケース10の短側壁部15,16を突き破ってケース10外に放出されるのを抑制できる。
また本実施形態1では、ガス誘導部40,50は、ケース10とは別体のガス誘導部材からなる。このようにケース10とは別体のガス誘導部材40,50を配置することにより、電極体30から噴出したガスGAが、直接ケース10に当たるのを抑制できるため、噴出したガスGAがケース10を突き破ってケース10外に放出されるのをより効果的に抑制できる。
【0041】
更に本実施形態1では、ガス誘導部材40,50は、電極体30の周縁対向面30e,30fのうち上底方向AHの全範囲に対向する傾斜面41m,51mを有するので、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスの多くを、この傾斜面41m,51mに沿って上壁部11側に流し、安全弁25に誘導することができる。
また本実施形態1では、傾斜部41,51の傾斜面41m,51mの傾斜角θが0.36度以上であり、傾斜角θが大きいため、この傾斜面41m,51mによって、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスGAをより効果的に上壁部11側に流し、安全弁25に誘導することができる。
【0042】
(実施形態2,3及び参考形態
次いで、第2,第3の実施形態及び参考形態について説明する。なお、実施形態1と同様な部分の説明は、省略または簡略化する。実施形態1の電池1では、ガス誘導部材40,50の傾斜面41m,51mを平面とした。
これに対し、実施形態2の電池100では、ガス誘導部材140,150(傾斜部141,151)の傾斜面141m,151mを、階段状としている(図5参照)。具体的には、ガス誘導部材140,150(傾斜部141,151)は、長さの異なる4枚の矩形状の板部材(本実施形態2ではアルミニウムからなる板部材)を貼り合わせたものである。これにより、傾斜部141,151は、底端部141d,151dから上端部141c,151cに向かうに連れて、階段状に厚みが薄くなっている。そして電池100において、底壁部12から上壁部11に向かうほど電極体30の周縁対向面30e,30fとの間隙が階段状に拡くなっている。
【0043】
また実施形態3の電池200では、ガス誘導部材240,250(傾斜部241,251)の傾斜面241m,251mを、曲面としている(図6参照)。具体的には、ガス誘導部材240,250(傾斜部241,251)は、底端部241d,251d側ほど急激に厚みが厚くなる(上端部241c,251c側ほど穏やかに厚みが薄くなる)曲面からなる傾斜面241m,251mを有する。そして電池200において、底壁部12から上壁部11に向かうほど電極体30の周縁対向面30e,30fとの間隙が拡くなっている。
【0044】
また参考形態の電池300では、ガス誘導部340,350は、ケース310と一体(詳細にはケース本体部材321と一体)となっている(図7参照)。具体的には、実施形態1のガス誘導部材40,50と概略同形態の、傾斜面341m,351mをなす傾斜部341,351からなるガス誘導部340,350と、実施形態1のケース本体部材21とが一体となって、本参考形態のケース本体部材321を構成している。傾斜部341,351は、底端部341d,351dから上端部341c,351cに向かうに連れて薄く、電池300において、底壁部12から上壁部11に向かうほど電極体30の周縁対向面30e,30fとの間隙が拡くなっている。
【0045】
これら実施形態2,3及び参考形態の電池100,200,300においても、ガス誘導部材140,150,240,250またはガス誘導部340,350によって、電極体30の周縁対向面30e,30fから短側壁部15,16に向けて噴出したガスGAは、上壁部11(安全弁25)に向けて誘導される。これにより、このガスGAが短側壁部15,16を突き破ってケース10,310外に放出されるのを抑制できる。また実施形態1と同様な部分は、実施形態1と同様な作用効果を奏する。
【0046】
(試験結果)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験結果について説明する。実施例1として、実施形態2(図5参照)に係る電池100を用意した(表1も参照)。この電池100のガス誘導部材140,150は、前述のように、傾斜面141m,151mが、電極体30の周縁対向面30e,30fのうち、上底方向AHの全範囲(100%)に対向している(表1に「対向範囲」として示す)。
また実施例2,3として、実施例1の電池100において、ガス誘導部材140,150をそれぞれ変更した電池を用意した。具体的には、実施例2のガス誘導部材は、傾斜面が電極体30の周縁対向面30e,30fのうち上底方向AHの70%の範囲に対向し、実施例3のガス誘導部材は、傾斜面が電極体30の周縁対向面30e,30fのうち上底方向AHの50%の範囲に対向している。
【0047】
【表1】
【0048】
一方、比較例1として、ガス誘導部材を全く有しない電池(実施例1の電池100からガス誘導部材140,150を無くした電池)を用意した。
また比較例2として、実施例1の電池100において、ガス誘導部材140,150の代わりに、傾斜面の無い(傾斜角θ=0度の)平板部材を配置した電池を用意した。
【0049】
次に、これら実施例1~3及び比較例1,2の各電池に、加温状態で釘刺し試験を行い、電極体30内で内部短絡させて、電極体30内で高温のガスGAを発生させた。この釘刺し試験後、ケース10の短側壁部15,16の破損を調査した。具体的には、SOC100%に充電した電池を60℃まで加温し、この加温した電池の中央部に鉄丸釘(サイズ:N65,φ3mm)を刺して電極体30内でガスGAを発生させた。釘刺し試験後、ケース10の短側壁部15,16に破損が生じていないかを、目視で調査した。
【0050】
その結果、比較例1,2の各電池では、ケース10の短側壁部15,16に破損が生じていた。一方、実施例1~3の各電池では、ケース10の短側壁部15,16に破損が生じていなかった。このような結果が生じた理由は、以下であると考えられる。
即ち、比較例1の電池には、電極体30の周縁対向面30e,30fとケース310の短側壁部15,16との間にガス誘導部材も平板部材も存在しないため、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスGAが、直接、ケース10の短側壁部15,16に当たって短側壁部15,16を突き破ったと考えられる。
【0051】
また比較例2の電池では、電極体30の周縁対向面30e,30fとケース310の短側壁部15,16との間に平板部材を配置しているため、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスGAが、直接、ケース10の短側壁部15,16に当たることは防止できる。しかし、平板部材は、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスGAを上壁部11(安全弁25)に向けて誘導しない。このため、このガスGAが、平板部材及び短側壁部15,16を突き破ったと考えられる。
【0052】
これらに対し、実施例1~3の各電池では、ガス誘導部材によって、電極体30の周縁対向面30e,30fからケース310の短側壁部15,16に向けて噴出したガスGAが、上壁部11(安全弁25)に向けて誘導される。特にガス誘導部材の傾斜面の対向範囲が50%以上であるため、噴出した上記ガスGAの多くが、ガス誘導部材によって上壁部11側に誘導される。これにより、ガスGAがガス誘導部材及びケース10の短側壁部15,16を突き破ることを防止できたと考えられる。
【0053】
次に、実施例4~7として、実施形態1に係る電池1において、ガス誘導部材40,50の上端部厚みtc及び底端部厚みtdを変更することにより、傾斜面41m,51mの傾斜角θを変更した4種類の電池を用意した。具体的には、表1にも示すように、実施例4では傾斜角θを0.36度とし、実施例5では傾斜角θを0.54度とし、実施例6では傾斜角θを5.95度とし、実施例7では傾斜角θを7.14度とした。そして、これらの電池について、前述のように釘刺し試験を行って、ケース10の短側壁部15,16の破損を調査した。
【0054】
その結果、実施例4~7のいずれの電池においても、ケース10の短側壁部15,16に破損が生じていなかった。これらの電池でも、ガス誘導部材によって、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスGAが上壁部11(安全弁25)に向けて誘導される。特に傾斜面の傾斜角θが0.36度以上であり、傾斜面の傾斜が大きいので、ガスGAが上壁部11(安全弁25)に向けて誘導され易い。このため、電極体30から噴出したガスGAがガス誘導部材及びケース10の短側壁部15,16を突き破ることを防止できたと考えられる。
【0055】
次に、実施例8~10として、実施例1の電池100において、ガス誘導部材140,150の材質をそれぞれ変更した3種類の電池を用意した。具体的には、表1にも示すように、実施例12では、アルミナからなるガス誘導部材を用い、実施例13の電池では、ジルコニアからなるガス誘導部材を用い、実施例14の電池では、ステンレスからなるガス誘導部材を用いた。そして、これらの電池について、前述のように釘刺し試験を行って、ケース10の短側壁部15,16の破損を調査した。
【0056】
その結果、実施例12~14のいずれの電池においても、ケース10の短側壁部15,16に破損が生じていなかった。これらの電池でも、ガス誘導部材によって、電極体30の周縁対向面30e,30fから噴出したガスGAが上壁部11(安全弁25)に向けて誘導される。特にガス誘導部材が金属またはセラミックからなり、噴出したガスGAの温度に10秒以上にわたり耐えられるため、噴出したガスGAがガス誘導部材及びケース10の短側壁部15,16を突き破ることを防止できたと考えられる。
【0057】
以上において、本発明を実施形態1~に即して説明したが、本発明は実施形態1~に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば実施形態1~3及び参考形態では、電池1等が備える電極体として、積層型の電極体30を例示したが、これに限られない。例えば、帯状の正極板と帯状の負極板とを帯状のセパレータを介して扁平状に捲回した捲回型の電極体を用いることもできる。
【符号の説明】
【0058】
1,100,200,300 電池(蓄電デバイス)
10,310 ケース
11a 長辺
11b 短辺
11 上壁部
12 底壁部
13,14 長側壁部
15,16 短側壁部
25 安全弁
30 電極体
30c,30d 周縁面
30e,30f 周縁面(周縁対向面)
31 正極板(電極板)
32 負極板(電極板)
33 セパレータ
33c (セパレータの)周縁
40,50,140,150,240,250 ガス誘導部材(ガス誘導部)
340,350 ガス誘導部
41,51,141,151,241,251,341,351 傾斜部
41m,51m,141m,151m,241m,251m,341m,351m 傾斜面
AH 電池縦方向(上底方向)
DH (電極体の)厚み方向
GA ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7