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  • 特許-二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240807BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240807BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240807BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240807BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240807BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240807BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
H01M10/052
H01M10/0567
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022532828
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 CN2021141757
(87)【国際公開番号】W WO2023060771
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】202111189949.7
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513222359
【氏名又は名称】シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CAPCHEM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1901, Capchem Plaza, No. 9 Changye Road, Liulian Community, Pingshan Street, Pingshan District, Shenzhen City, 518118, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】銭 ▲ゆぃん▼嫻
(72)【発明者】
【氏名】胡 時光
(72)【発明者】
【氏名】▲とう▼ 永紅
(72)【発明者】
【氏名】李 紅梅
(72)【発明者】
【氏名】向 暁霞
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109841908(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101192682(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112271337(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109888368(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113644275(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113972366(CN,A)
【文献】特開2002-270184(JP,A)
【文献】特開2015-162356(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203920(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111129467(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112820941(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極材料層を含む正極を含む二次電池であって、
前記正極材料層は、正極活物質と、構造式1で表される化合物とを含み、
式中、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1-5のアルキル基、炭素数1-5のフルオロアルキル基、炭素数1-5のエーテル基、炭素数1-5のフルオロエーテル基、炭素数2-5の不飽和炭化水素基から選択され、かつR、R、Rのうちの少なくとも1つは、炭素数2-5の不飽和炭化水素基であり、
前記正極活物質は、式(1)及び式(2)で表される化合物のうちの1種又は複数種を含み、
Li1+xNiCoM’1-a-b2-y 式(1)
Li1+zMn2-c4-d 式(2)
式(1)中、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、M’は、Mn及びAlのうちの1種又は複数種を含み、かつSr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si、Fe及びCeのうちの0種、1種又は複数種を含み、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種又は複数種を含み、
式(2)中、-0.1≦z≦0.2、0<c≦2、0≦d<1であり、Lは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種又は複数種を含み、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種又は複数種を含み、
前記正極材料層は、
0.05≦p・u/v≦15
を満たし、ここで、uは正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量を示し、uのリン元素は構造式1が示す化合物から由来するものであり、単位はwt%であり、
vは正極材料層中のM元素の質量百分率含有量を示し、vのM元素は正極活物質から由来するものであり、M元素はMn及びAlから選択される1種又は2種であり、単位はwt%であり、
pは正極材料層の片面面密度を示し、単位はmg/cmであることを特徴とする、二次電池。
【請求項2】
前記正極材料層は、
0.1≦p・u/v≦10を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極材料層は、
0.5≦p・u/v≦5を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記構造式1で表される化合物は、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパルギルメチルホスフェート、ジプロパルギルフルオロメチルホスフェート、ジプロパルギルメトキシメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジプロパルギルホスフェート、ジプロパルギル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ヘキサフルオロイソプロピルジプロパルギルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジアリルホスフェート、2,2,2-トリフルオロエチルジアリルホスフェート、ジプロパルギルメチルエーテルホスフェート、ジプロパルギルフルオロメチルエーテルホスフェート、ジアリル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート及びジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
X線光電子分光法により前記正極材料層の表面を検出した結果、284.5eVに炭素の1sピークが得られる場合、130~140eVの領域にリン元素の特徴的なピークが現れることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは0.1wt%~3wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは0.1wt%~2wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項8】
前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%~60wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項9】
前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%~30wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極材料層の片面面密度pは10~30mg/cmであることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項11】
前記正極材料層の片面面密度pは15~20mg/cmであることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項12】
前記二次電池は、非水電解液をさらに含み、前記非水電解液は、添加剤を含み、前記添加剤は、環状硫酸エステル系化合物、スルトン系化合物、環状カーボネート系化合物、不飽和リン酸エステル系化合物及びニトリル系化合物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二次電池。
【請求項13】
前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記添加剤の添加量は0.01%~30%であることを特徴とする、請求項12に記載の二次電池。
【請求項14】
前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記添加剤の添加量は0.01%~10%であることを特徴とする、請求項12に記載の二次電池。
【請求項15】
前記環状硫酸エステル系化合物は、硫酸エチレン、硫酸1,3-プロピレン又は4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2-オキシドから選択される少なくとも1種であり、
前記スルトン系化合物は、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン又は1,3-プロペンスルトンから選択される少なくとも1種であり、
前記環状カーボネート系化合物は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカボネート、フルオロエチレンカーボネート及び構造式2で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
前記構造式2において、R21、R22、R23、R24、R25、R26は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1-C5基から選択される1種であり、
前記不飽和リン酸エステル系化合物は、構造式3で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
前記構造式3において、R31、R32、R32は、それぞれ独立してC1-C5の飽和炭化水素基、C1-C5の不飽和炭化水素基、C1-C5のハロゲン化炭化水素基、-Si(C2m+1から選択され、mは1~3の自然数であり、かつR31、R32、R33のうちの少なくとも1つは不飽和炭化水素基であり、
前記ニトリル系化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ヘキサントリカルボニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバシン酸ジニトリルのうちの1種又は複数種を含むことを特徴とする、請求項12に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵電池デバイスの技術分野に属し、具体的には、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、動作電圧が高く、サイクル寿命が長く、エネルギー密度が高く、メモリー効果がないなどの優位性により、1991年に発売されて以来、移動体通信やノートパソコンなどの分野で迅速に広く利用されている。リチウムイオン電池の充放電過程は、正負極へのリチウムイオンのデインターカレーション及びインターカレーション過程である。正極材料で作製された正極板は、リチウムイオン電池内のリチウムイオンの唯一の(又は主な)プロバイダーであり、正極材料の種類は、リチウムイオン電池のエネルギー密度の高さを決定する。
【0003】
リチウムイオン二次電池の用途がますます広まるにつれて、リチウムイオン二次電池の安全性に対する要求が高くなっている。三元系正極活物質を使用したリチウムイオン二次電池は、放電容量が大きく、エネルギー密度が高いため、大きく期待されている。しかし、このようなリチウムイオン二次電池の安全性は低い。リチウムイオン二次電池の性能に対する要求が高まるにつれて、優れた高温保存特性とサイクル特性に加えて、リチウムイオン二次電池の高い安全性も早急に解決すべき重要な課題となっている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車又は電子製品の電源として使用されており、様々な条件下での安全性は、作業者の生命の安全と密接につながっている。
【発明の概要】
【0004】
従来の二次電池に存在する安全性が不十分であるという問題を解決するために、本発明によれば、二次電池が提供される。
【0005】
上記の技術的問題を解決するために本発明が採用する技術的手段は以下の通りである。
【0006】
本発明によれば、正極材料層を含む正極を含む二次電池であって、
前記正極材料層は、正極活物質と、構造式1で表される化合物とを含み、
構造式1


式中、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1-5のアルキル基、炭素数1-5のフルオロアルキル基、炭素数1-5のエーテル基、炭素数1-5のフルオロエーテル基、炭素数2-5の不飽和炭化水素基から選択され、かつR、R、Rのうちの少なくとも1つは、炭素数2-5の不飽和炭化水素基であり、
前記正極活物質は、式(1)及び式(2)で表される化合物のうちの1種又は複数種を含み、
Li1+xNiCoM’1-a-b2-y 式(1)
Li1+zMn2-c4-d 式(2)
式(1)中、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、M’は、Mn及びAlのうちの1種又は複数種を含み、かつSr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si、Fe及びCeのうちの0種、1種又は複数種を含み、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種又は複数種を含み、
式(2)中、-0.1≦z≦0.2、0<c≦2、0≦d<1であり、Lは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種又は複数種を含み、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種又は複数種を含み、
前記正極材料層は、
0.05≦p・u/v≦15
を満たし、ここで、uは正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量を示し、単位はwt%であり、
vは正極材料層中のM元素の質量百分率含有量を示し、M元素はMn及びAlから選択される1種又は2種であり、単位はwt%であり、
pは正極材料層の片面面密度を示し、単位はmg/cmである二次電池が提供される。
【0007】
選択的に、前記正極材料層は、
0.1≦p・u/v≦10を満たす。
好ましくは、前記正極材料層は、
0.5≦p・u/v≦5を満たす。
【0008】
選択的に、前記構造式1で表される化合物は、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパルギルメチルホスフェート、ジプロパルギルフルオロメチルホスフェート、ジプロパルギルメトキシメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジプロパルギルホスフェート、ジプロパルギル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ヘキサフルオロイソプロピルジプロパルギルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジアリルホスフェート、ジプロパルギルメチルエーテルホスフェート、ジプロパルギルフルオロメチルエーテルホスフェート、2,2,2-トリフルオロエチルジアリルホスフェート、ジアリル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート及びジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートのうちの少なくとも1種を含む。
【0009】
選択的に、X線光電子分光法により前記正極材料層の表面を検出した結果、284.5eVに炭素の1sピークが得られる場合、130~140eVの領域にリン元素の特徴的なピークが現れる。
【0010】
選択的に、前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは0.1wt%~3wt%である。
好ましくは、前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは0.1wt%~2wt%である。
選択的に、前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%~60wt%である。
好ましくは、前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%~30wt%である。
【0011】
選択的に、前記正極材料層の片面面密度pは10~30mg/cmである。
好ましくは、前記正極材料層の片面面密度pは15~20mg/cmである。
【0012】
選択的に、前記二次電池は、非水電解液をさらに含み、前記非水電解液は、添加剤を含み、前記添加剤は、環状硫酸エステル系化合物、スルトン系化合物、環状カーボネート系化合物、不飽和リン酸エステル系化合物及びニトリル系化合物のうちの少なくとも1種を含む。
【0013】
選択的に、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記添加剤の添加量は0.01%~30%である。
好ましくは、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記添加剤の添加量は0.01%~10%である。
【0014】
選択的に、前記環状硫酸エステル系化合物は、硫酸エチレン、硫酸1,3-プロピレン又は4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2-オキシドから選択される少なくとも1種であり、
前記スルトン系化合物は、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン又は1,3-プロペンスルトンから選択される少なくとも1種であり、
前記環状カーボネート系化合物は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカボネート、フルオロエチレンカーボネート及び構造式2で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
構造式2

前記構造式2において、R21、R22、R23、R24、R25、R26は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1-C5基から選択される1種であり、
前記不飽和リン酸エステル系化合物は、構造式3で表される化合物から選択される少なくとも1種であり、
構造式3

前記構造式3において、R31、R32、R32は、それぞれ独立してC1-C5の飽和炭化水素基、C1-C5の不飽和炭化水素基、C1-C5のハロゲン化炭化水素基、-Si(C2m+1から選択され、mは1~3の自然数であり、かつR31、R32、R33のうちの少なくとも1つは不飽和炭化水素基であり、
前記ニトリル系化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ヘキサントリカルボニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバシン酸ジニトリルのうちの1種又は複数種を含む。
【0015】
本発明に係る電池によれば、正極材料層に構造式1で表される化合物を添加するとともに、正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uと、Mn及び/又はAl元素の質量百分率含有量vと、正極材料層の片面面密度pとの間の関係を合理的に設計し、正極材料層が0.05≦p・u/v≦15を満たすようにすることにより、構造式1で表される化合物と、正極活物質の元素の選択と、片面面密度との相乗作用が十分に発揮され、正極活物質が比較的高い構造安定性を有し、正極材料層の表面での非水電解液の副反応が顕著に減少し、特に、電池の耐熱衝撃性も顕著に向上し、電池の安全性能が大幅に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例3に係る二次電池における正極板のXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明が解決しようとする課題、技術的手段及び有益な効果をより明確にするために、以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本明細書に記載の具体的な実施例は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0018】
本発明の実施例によれば、正極と、負極と、非水電解液とを含む二次電池が提供される。前記正極は、正極材料層を含む。前記正極材料層は、正極活物質と、構造式1で表される化合物とを含む。
構造式1

式中、R、R、Rそれぞれ独立して炭素数1-5のアルキル基、炭素数1-5のフルオロアルキル基、炭素数1-5のエーテル基、炭素数1-5のフルオロエーテル基、炭素数2-5の不飽和炭化水素基から選択され、かつR、R、Rのうちの少なくとも1つは炭素数2-5の不飽和炭化水素基である。
前記正極活物質は、式(1)及び式(2)で表される化合物のうちの1種又は複数種を含む。
Li1+xNiCoM’1-a-b2-y 式(1)
Li1+zMn2-c4-d 式(2)
式(1)中、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、M’は、Mn及びAlのうちの1種又は複数種を含み、かつSr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si、Fe及びCeのうちの0種、1種又は複数種を含み、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種又は複数種を含み、
式(2)中、-0.1≦z≦0.2、0<c≦2、0≦d<1であり、Lは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種又は複数種を含み、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種又は複数種を含む。
前記正極材料層は、
0.05≦p・u/v≦15を満たし、
ここで、uは正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量を示し、単位はwt%である。
vは正極材料層中のM元素の質量百分率含有量を示し、M元素はMn及びAlから選択される1種又は2種であり、単位はwt%である。
pは正極材料層の片面面密度を示し、単位はmg/cmである。
【0019】
本発明の電池正極に対する構造式1で表される化合物の作用メカニズムは明確ではないが、本発明者らは、本発明において構造式1で表される化合物を正極材料層に加えると、この化合物が正極活物質粒子の表面を包むことにより、正極活物質をより良好に保護するとともに、正極材料層の難燃性を顕著に向上できることを推測している。また、本発明者らは、構造式1で表される化合物は、異なる正極活物質及び片面面密度が異なる正極材料層との併用効果は、大きく異なっており、特に、構造式1で表される化合物は、Mn及びAl元素との親和性が良好であるため、両者の併用により正極活物質の長期サイクルでの安定性がある程度向上することを見出した。また、構造式1で表される化合物は、必然的に正極活物質のアルカリ金属イオンのインターカレーション及びデインターカレーションサイトを占め、これは、正極材料層の片面面密度が高すぎるか又は低すぎる場合には特に顕著である。構造式1で表される化合物を加えた後、この化合物と、Mn及びAl元素と、片面面密度との相互作用は、正極材料層中のアルカリ金属イオンの移動に影響を与え、電池の内部抵抗及びハイレート充放電特性に直接影響するとともに、構造式1で表される化合物、正極活物質の選択及び正極材料層の片面面密度も正極材料層の表面不動態膜の安定性に影響を与えると推測される。そのため、本発明者らは、実験を設計し、総合的に考慮した結果、0.05≦p・u/v≦15という関係式を見出し、構造式1で表される化合物、Mn、Al元素及び片面面密度の要素を合理的に定量化することにより、エネルギー密度が高く、安全性に優れた電池を得た。
【0020】
好ましい実施例において、前記正極材料層は、
0.1≦p・u/v≦10を満たす。
より好ましい実施例において、前記正極材料層は、
0.5≦p・u/v≦5を満たす。
【0021】
正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量u、Mn及び/又はAl元素の質量百分率含有量v、並びに正極材料層の片面面密度pを上記関係範囲とすることにより、電池の耐熱衝撃性がさらに改善される。
【0022】
本発明において、正極活物質にMn元素のみが含まれる場合、正極材料層中のM元素の質量百分率含有量はMn元素の質量百分率含有量を指す。正極活物質にAl元素のみが含まれる場合、正極材料層中のM元素の質量百分率含有量はAl元素の質量百分率含有量を指す。正極活物質にAlとMn元素が同時に含まれる場合、正極材料層中のM元素の質量百分率含有量はAl元素とMn元素の質量百分率含有量の合計を指す。
【0023】
本明細書において、「正極材料層の片面面密度」という用語は、単位面積当たりの正極板面上の正極材料層の塗布重量を指す。塗布重量の測定方法では、面積がS1の集電体箔材を30枚取り、それぞれの重量を測り、平均値を求め、W1と記し、各集電体箔材の片面に同じ重量のスラリーを均一に塗布した後、120℃で1時間乾燥し、溶媒がほとんど含まれないことをテストした後、乾燥後の片面にスラリーが塗布された集電体箔材について重量を測り、平均値を求め、W2と記し、これによって、集電体の片面にある活物質層の面密度W=(W2-W1)/S1が得られる。
【0024】
本発明において、炭素数1-5のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基又はネオペンチル基から選択されてもよい。炭素数1-5のフルオロアルキル基は、上記の炭素数1-5のアルキル基における1つ又は複数の水素がフッ素で置換された基から選択される。
【0025】
炭素数2-5の不飽和炭化水素基は、例えば、ビニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、メチルビニル基、メタリル基、エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基から選択されてもよい。
【0026】
炭素数1-5のエーテル基は、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテルから選択されてもよい。
【0027】
炭素数1-5のフルオロエーテル基は、例えば、フルオロジメチルエーテル、フルオロジエチルエーテル、フルオロメチルエチルエーテル、フルオロジプロピルエーテル、フルオロメチルプロピルエーテル、フルオロエチルプロピルエーテルから選択されてもよい。
【0028】
いくつかの実施例において、前記構造式1で表される化合物は、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパルギルメチルホスフェート、ジプロパルギルフルオロメチルホスフェート、ジプロパルギルメトキシメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジプロパルギルホスフェート、ジプロパルギル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ヘキサフルオロイソプロピルジプロパルギルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジアリルホスフェート、2,2,2-トリフルオロエチルジアリルホスフェート、ジプロパルギルメチルエーテルホスフェート、ジプロパルギルフルオロメチルエーテルホスフェート、ジアリル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート及びジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートのうちの少なくとも1種を含む。
【0029】
上記の化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
いくつかの実施例において、X線光電子分光法により前記正極材料層の表面を検出した結果、284.5eVに炭素の1sピークが得られる場合、130~140eVの領域にはリン元素の特徴的なピークが現れる(図1を参照)。これは、構造式1で表される化合物が正極材料層の表層不動態膜の形成に関与していることを示している。
【0031】
いくつかの実施例において、前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは0.1wt%~3wt%である。
【0032】
好ましい実施例において、前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは0.1wt%~2wt%である。
【0033】
具体的には、前記正極材料層中のリン元素の質量百分率含有量uは、0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%、0.8wt%、1.0wt%、1.5wt%、2.0wt%、2.5wt%又は3wt%であってもよい。
【0034】
前記リン元素は、構造式1で表される化合物に由来し、その質量百分率含有量は、構造式1で表される化合物の添加量と正の相関がある。構造式1で表される化合物は、リン含有基を含むため、良好な難燃特性を有するとともに、正極材料層と非水電解液とが接触する界面に安定したリン元素含有不動態膜を形成することができる。この不動態膜は、正極材料層と非水電解液との過度な副反応を抑制できるため、正極活物質から溶出したマンガン又はアルミニウムイオンが負極材料層の内部に入ることを効果的に阻止し、正負極活物質の構造安定性を向上させ、リチウムイオン電池の熱安定性を向上させる。
【0035】
いくつかの実施例において、前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%~60wt%である。
好ましい実施例において、前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%~30wt%である。
【0036】
具体的には、前記正極材料層中のM元素の質量百分率含有量vは3wt%、5wt%、8wt%、10wt%、12wt%、15wt%、21wt%、23wt%、27wt%、30wt%、36wt%、42wt%、48wt%、50wt%、55wt%又は60wt%であってもよい。
【0037】
正極活物質中のマンガン又はアルミニウム元素は、正極活物質の構造安定性を保証し、正極活物質の分解によるガス放出を減少させ、ガスの発生を抑制し、発熱量を減少させることができることで、二次電池が制御不能になるリスクが低下するため、比較的高い安全性を有する。
【0038】
いくつかの実施例において、前記正極材料層の片面面密度pは10~30mg/cmである。
好ましい実施例において、前記正極材料層の片面面密度pは15~20mg/cmである。
【0039】
具体的には、前記正極材料層の片面面密度pは、10mg/cm、12mg/cm、14mg/cm、16mg/cm、18mg/cm、21mg/cm、24mg/cm、28mg/cm又は30mg/cmであってもよい。
【0040】
正極材料層の片面面密度は、二次電池の設計及び作製にとって重要な技術パラメータである。正極板の長さが同じである場合、正極材料層の片面面密度が大きいほど、電池の容量が大きくなり、充電過程における電池の昇温が大きくなるため、安全性に影響を与える。一方、正極板の片面面密度が小さいほど、電池の容量が小さくなり、充電過程における電池の昇温が小さくなる。
【0041】
以上の分析は、それぞれのパラメータが単独で存在するときの電池に対する影響のみに基づくものであるが、電池の実用過程において、以上の3つのパラメータは互いに密接な関係を有する。本明細書に記載の関係式により、この3者が関連付けられ、共同で電池の容量及び耐熱衝撃性に影響を与える。そのため、正極板中のリン元素とM元素の質量百分率含有量の比率及び正極材料層の設計パラメータである片面面密度を0.05≦p・u/v≦15とすることにより、二次電池が比較的高い比容量及びエネルギー密度を有することが保証されるとともに、リチウムイオン二次電池の安全性などの特性が向上する。p・u/v値が高すぎるか又は低すぎる場合、電池は動力学的に劣化するため、極端な環境では発火が発生しやすく、安全上の問題が存在する。
【0042】
いくつかの実施例において、前記正極材料層は、正極バインダー及び正極導電剤をさらに含む。前記正極活物質と、前記構造式1で表される化合物と、前記正極バインダーと、前記正極導電剤とを混合することで前記正極材料層が得られる。
【0043】
前記正極材料層の総質量を100%とすると、前記正極バインダーの質量百分率含有量は1~2%であり、前記正極導電剤の質量百分率含有量は0.5~2%である。
【0044】
前記正極バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンテトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン及びポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂;アクリル酸系樹脂;ヒドロキシメチルセルロースナトリウム;ポリビニルブチラール;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;及びスチレン・ブタジエンゴムのうちの1種又は複数種を含む。
【0045】
前記負極導電剤は、導電性カーボンブラック、導電性カーボンボール、導電性黒鉛、導電性炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン及び還元酸化グラフェンのうちの1種又は複数種を含む。
【0046】
いくつかの実施例において、前記構造式1で表される化合物は、前記正極材料層の表面に形成され、又は前記正極材料層の内部にドーピングされる。
【0047】
前記構造式1で表される化合物が前記正極材料層の表面に形成される場合、その作製方法は以下の通りである。
表面塗布により前記正極材料層の表面に構造式1で表される化合物を含むコーティング層を形成する。具体的には、まず正極活物質、正極導電剤及び正極バインダーを有機溶媒中に分散させて正極スラリーを調製し、次いで正極スラリーを塗布、乾燥して正極材料層を形成した後、構造式1で表される化合物を有機溶媒中に分散させ、得られた構造式1で表される化合物溶液を正極材料層の表面にスプレーし、乾燥により溶媒を除去し、構造式1で表される化合物の正極材料層を得る。
【0048】
前記構造式1で表される化合物が前記正極材料層の内部にドーピングされる場合、その作製方法は以下の通りである。
1、構造式1で表される化合物を含む前記正極材料層の正極スラリーを調製する。具体的には、構造式1で表される化合物、正極活物質、正極導電剤及び正極バインダーを有機溶媒に分散させて正極スラリーを調製し、正極スラリーを塗布、乾燥して正極材料層を形成する。
2、正極材料層を作製した後、正極材料層を構造式1で表される化合物の溶液中に浸漬することで構造式1で表される化合物を前記正極材料層の内部まで浸透させ、乾燥により溶媒を除去し、構造式1で表される化合物を含む正極材料層を得る。
【0049】
いくつかの実施例において、前記正極は、正極集電体をさらに含む。前記正極材料層は、前記正極集電体の表面に被覆される。
【0050】
前記正極集電体は、電子伝導可能な金属材料から選択される。好ましくは、前記正極集電体は、Al、Ni、スズ、銅、ステンレス鋼のうちの1種又は複数種を含む。より好ましい実施例において、前記正極集電体は、アルミ箔から選択される。
【0051】
いくつかの実施例において、前記負極は、負極材料層を含む。前記負極材料層は、負極活物質を含む。前記負極活物質は、ケイ素系負極、炭素系負極、リチウム系負極及びスズ系負極のうちから選択される少なくとも1種である。
【0052】
前記ケイ素系負極は、ケイ素材料、ケイ素の酸化物、ケイ素炭素複合材料及びケイ素合金材料のうちの1種又は複数種を含む。前記炭素系負極は、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、メソカーボンミクロスフェアのうちの1種又は複数種を含む。前記リチウム系負極は、金属リチウム及びリチウム合金のうちの1種又は複数種を含む。前記リチウム合金は、具体的にはリチウム-シリコン合金、リチウム-ナトリウム合金、リチウム-カリウム合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-スズ合金、リチウム-インジウム合金のうちの少なくとも1種であってもよい。前記スズ系負極は、スズ、スズ-炭素、スズ-酸素、スズ金属化合物のうちの1種又は複数種を含む。
【0053】
いくつかの実施例において、前記負極材料層は、負極バインダー及び負極導電剤をさらに含む。前記負極活物質と、前記負極バインダーと、前記負極導電剤とを混合することで前記負極材料層が得られる。
【0054】
前記負極バインダー及び負極導電剤の選択可能な範囲は、それぞれ前記正極バインダー及び正極導電剤と同じであるため、説明を省略する。
【0055】
いくつかの実施例において、前記負極は、負極集電体をさらに含む。前記負極材料層は、前記負極集電体の表面に被覆される。
【0056】
前記負極集電体は、電子伝導可能な金属材料から選択される。好ましくは、前記負極集電体は、Al、Ni、スズ、銅、ステンレス鋼のうちの1種又は複数種を含む。より好ましい実施例において、前記負極集電体は、銅箔から選択される。
【0057】
いくつかの実施例において、前記非水電解液は、溶媒、リチウム塩及び添加剤を含む。前記添加剤は、環状硫酸エステル系化合物、スルトン系化合物、環状カーボネート系化合物、不飽和リン酸エステル系化合物及びニトリル系化合物のうちの少なくとも1種を含む。
【0058】
上記の条件を満たす場合、非水電解液に上記の添加剤を添加することにより、構造式1で表される化合物の正極と良好に協働し、電池の耐熱衝撃性を相乗的に向上させることができる。これは、上記の添加剤と正極中の構造式1で表される化合物とが共同で正極表面の不動態膜の形成に関与し、両者が協働して正極活物質の安定性を向上させる作用を有するためであると推測される。
【0059】
いくつかの実施例において、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記添加剤の添加量は0.01%~30%である。
なお、特に明記のない限り、一般的に、前記添加剤のうちのいずれか1種の選択可能な物質は、非水電解液中の添加量が10%以下、好ましくは0.1-5%、より好ましくは0.1%~2%である。具体的には、前記添加剤のうちのいずれか1種の選択可能な物質の添加量は、0.05%、0.08%、0.1%、0.5%、0.8%、1%、1.2%、1.5%、1.8%、2%、2.2%、2.5%、2.8%、3%、3.2%、3.5%、3.8%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、7.8%、8%、8.5%、9%、9.5%又は10%であってもよい。
【0060】
いくつかの実施例において、添加剤がフルオロエチレンカーボネートから選択される場合、前記非水電解液の総質量を100%とすると、前記フルオロエチレンカーボネートの添加量は0.05%~30%である。
【0061】
いくつかの実施例において、前記環状硫酸エステル系化合物は、硫酸エチレン、硫酸1,3-プロピレン又は4-メチル-1,3,2-ジオキサチオラン2-オキシドから選択される少なくとも1種である。
前記スルトン系化合物は、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン又は1,3-プロペンスルトンから選択される少なくとも1種である。
前記環状カーボネート系化合物は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカボネート、フルオロエチレンカーボネート及び構造式2で表される化合物から選択される少なくとも1種である。
構造式2

前記構造式2において、R21、R22、R23、R24、R25、R26は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、C1-C5基から選択される1種である。
前記不飽和リン酸エステル系化合物は、構造式3で表される化合物から選択される少なくとも1種である。
構造式3

前記構造式3において、R31、R32、R32は、それぞれ独立してC1-C5の飽和炭化水素基、C1-C5の不飽和炭化水素基、C1-C5のハロゲン化炭化水素基、-Si(C2m+1から選択され、mは1~3の自然数であり、かつR31、R32、R33のうちの少なくとも1つは不飽和炭化水素基である。具体的には、前記不飽和リン酸エステル系化合物は、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパルギルメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジプロパルギルホスフェート、ジプロパルギル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ヘキサフルオロイソプロピルジプロパルギルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、トリフルオロメチルジアリルホスフェート、ジアリル-2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジアリル-3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートのうちの少なくとも1種であってもよい。
【0062】
前記ニトリル系化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、ヘキサントリカルボニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリル、セバシン酸ジニトリルのうちの1種又は複数種を含む。
【0063】
別の実施例において、前記補助添加剤は、電池特性を改善できる他の添加剤をさらに含んでもよい。例えば、インピーダンスを低下させる添加剤として、例えば、ジフルオロリン酸リチウム、リチウムジフルオロ(オキサラート)ボレート、リン含有酸無水物、テトラフルオロホウ酸リチウムなどが挙げられる。インピーダンスの増加を抑制する添加剤として、例えば、ジフルオロビス(オキサラート)リン酸リチウムなどの添加剤が挙げられる。電池の安全性を向上させる添加剤として、例えば、フルオロホスフェート、シクロホスファゼンなどの難燃剤、又はtert-アミルベンゼン、tert-ブチルベンゼンなどの過充電防止添加剤が挙げられる。
【0064】
いくつかの実施例において、前記溶媒は、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、炭酸エステル系溶媒、及びカルボン酸エステル系溶媒のうちの1種又は複数種を含む。
【0065】
いくつかの実施例において、エーテル系溶媒は、環状エーテル又は鎖状エーテルを含み、好ましくは炭素数3~10の鎖状エーテル及び炭素数3~6の環状エーテルである。環状エーテルとして、具体的には、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,4-ジオキサン(DX)、クラウンエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-CH-THF)、2-トリフルオロメチルテトラヒドロフラン(2-CF-THF)のうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。前記鎖状エーテルは、具体的には、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルであってもよいが、これらに限定されない。鎖状エーテルは、リチウムイオンとの溶媒化能力が高く、イオン解離性を向上できるため、粘性が低く、高イオン伝導率を付与可能なジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンが特に好ましい。エーテル系化合物は、単独で使用してもよく、任意の組み合わせ及び比率で2種以上を組み合わせて使用してもよい。エーテル系化合物の添加量は特に制限されず、本発明の高圧密のリチウムイオン電池の効果を大きく損なうことのない範囲内であれば任意である。非水溶媒体の体積を100%とすると、体積比は、通常1%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。また、体積比は、通常30%以下、好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。2種以上のエーテル系化合物を組み合わせて使用する場合、エーテル系化合物の総量を上記の範囲とすればよい。エーテル系化合物の添加量が上述した好ましい範囲内である場合、鎖状エーテルによるリチウムイオン解離度の向上、及び粘度低下によるイオン伝導率の改善効果が確保されやすい。また、負極活物質が炭素材料である場合、鎖状エーテルとリチウムイオンの共インターカレーション現象の発生を抑制できるため、入出力特性及び充放電速度特性を適切な範囲にすることができる。
【0066】
いくつかの実施例において、ニトリル系溶媒は、具体的には、アセトニトリル、グルタロニトリル、マロノニトリルのうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。
【0067】
いくつかの実施例において、炭酸エステル系溶媒は、環状炭酸エステル又は鎖状炭酸エステルを含む。環状炭酸エステルは、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、ブチレンカーボネート(BC)のうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。鎖状炭酸エステルは、具体的には、炭酸ジメチル(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)のうちの1種又は複数種であってもよいが、これらに限定されない。環状炭酸エステルの含有量は、特に制限されず、本発明の高圧密のリチウムイオン電池の効果を大きく損なうことのない範囲内であれば任意であるが、1種を単独で使用する場合、含有量の下限について、非水電解液の溶媒の総量に対して、体積比は、通常3%以上、好ましくは5%以上である。この範囲に設定することにより、非水電解液の誘電率の低下による電気伝導率の低下が回避され、非水電解質電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲にすることが容易になる。また、上限について、体積比は、通常90%以下、好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。この範囲に設定することにより、非水電解液の耐酸化/還元性が向上するため、高温保存時の安定性の向上に有利である。鎖状炭酸エステルの含有量は特に制限されず、非水電解液の溶媒総量に対して、体積比は、通常15%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。また、体積比は、通常90%以下、好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。鎖状炭酸エステルの含有量をこの範囲に設定することにより、非水電解液の粘度を適切な範囲にすることが容易になり、イオン伝導率の低下が抑制され、非水電解質電池の出力特性を良好な範囲にすることができる。2種以上の鎖状炭酸エステルを組み合わせて使用する場合、鎖状炭酸エステルの総量は上記の範囲を満たせばよい。
【0068】
いくつかの実施例において、好ましくはフッ素原子を有する鎖状炭酸エステル系(以下、「フッ素化鎖状炭酸エステル」と略記する)を使用してもよい。フッ素化鎖状炭酸エステルが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状炭酸エステルが複数のフッ素原子を有する場合、これらのフッ素原子は同一の炭素に結合してもよく、異なる炭素に結合してもよい。フッ素化鎖状炭酸エステルとして、フッ素化炭酸ジメチル誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体などが挙げられる。
【0069】
カルボン酸エステル系溶媒は、環状カルボン酸エステル及び/又は鎖状カルボン酸エステルを含む。環状カルボン酸エステルの例として、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトンのうちの1種又は複数種が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例として、例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(EP)、酢酸ブチル、プロピオン酸プロピル(PP)、プロピオン酸ブチルのうちの1種又は複数種が挙げられる。
【0070】
いくつかの実施例において、スルホン系溶媒は、環状スルホン及び鎖状スルホンを含む。好ましくは、環状スルホンである場合、通常、炭素数3~6、好ましくは炭素数3~5の化合物である。鎖状スルホンである場合、通常、炭素数2~6、好ましくは炭素数2~5の化合物である。スルホン系溶媒の添加量は特に制限されず、本発明の高圧密のリチウムイオン電池の効果を大きく損なうことのない範囲内であれば任意である。非水電解液の溶媒の総量に対して、体積比は、通常0.3%以上、好ましくは体積比は0.5%以上、さらに好ましくは体積比は1%以上である。また、体積比は、通常40%以下、好ましくは体積比は35%以下、さらに好ましくは体積比は30%以下である。2種以上のスルホン系溶媒を組み合わせて使用する場合、スルホン系溶媒の総量は上記の範囲を満たせばよい。スルホン系溶媒の添加量が上記の範囲内である場合、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0071】
好ましい実施例において、前記溶媒は、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとの混合物である。
【0072】
いくつかの実施例において、前記二次電池は、セパレータをさらに含む。前記セパレータは、前記正極と前記負極との間に位置する。
【0073】
前記セパレータは、既存の通常セパレータ、例えば、ポリマーセパレータ、不織布などであってもよく、単層PP(ポリプロピレン)、単層PE(ポリエチレン)、2層PP/PE、2層PP/PP及び3層PP/PE/PPなどのセパレータを含むが、これらに限定されない。
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0075】
I.実施例と比較例の設計
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
II.実施例及び比較例で使用されるリチウムイオン電池の作製
1)正極板の作製
ステップ1:NMP溶媒にバインダーであるPVDF及び表2で表される不飽和リン酸エステルを加え、十分に撹拌し、不飽和リン酸エステルを含むPVDFバインダー液を得た。
【0079】
ステップ2:PVDFバインダー液に導電剤(super P+CNT)を加え、十分に撹拌した。
【0080】
ステップ3:次に表2に示す正極活物質を加え、十分に撹拌し、最終的に必要な正極スラリーを得た。構造式1で表される化合物及び正極活物質の添加量は、表2に示すリン及びM元素の含有量で換算したものである。
【0081】
ステップ4:調製された正極スラリーを表2に示す片面面密度で正極集電体(例えば、アルミ箔)に均一に塗布し、乾燥、ローラプレス、ダイカッティング又はストライピングを行い、正極板を得た。
【0082】
2)負極板の作製
ステップ1:黒鉛(上海杉杉、FSN-1):導電性カーボン(super P):カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)=96.3:1.0:1.2:1.5(質量比)の負極板配合比で各物質を量り取った。
【0083】
ステップ2:まずCMCを1.5%の固形分含有量で純水に入れ、十分に撹拌し(例えば、撹拌時間120min)、透明なCMCバインダー液を調製した。
【0084】
ステップ3:CMCバインダー液に導電性カーボン(super P)を加え、十分に撹拌し(例えば、撹拌時間90min)、導電性バインダーを調製した。
【0085】
ステップ4:次に黒鉛を加え、十分に撹拌し、最終的に必要な負極スラリーを得た。
【0086】
ステップ5:調製された負極スラリーを銅箔に均一に塗布し、乾燥、ローラプレス、ダイカッティング又はストライピングを行い、負極板を得た。
【0087】
3)非水電解液の調製
エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを質量比EC:DEC:EMC=1:1:1で混合し、表2に示す質量百分比で添加剤を加え、次に、モル濃度が1mol/Lとなるまでヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を加えた。
【0088】
4)リチウムイオンセルの作製
作製された正極板と上記の負極板とを組み立てて積層型ソフトパックセルを形成した。
【0089】
5)セルの液注入及び形成
露点温度が-40℃以下に制御されたグローブボックスにおいて、調製された電解液をセルに注入し、真空パッケージングした後、24h静置した。次に、以下のステップに従って初期充電の通常形成を行った。0.05Cで180min定電流充電し、0.2Cで3.95Vまで定電流充電し、2回目真空パッケージングし、次に0.2Cの電流で4.2Vまで定電流充電し、常温で24h静置した後、0.2Cの電流で3.0Vまで定電流放電した。
【0090】
III.特性試験
上記の実施例1~25及び比較例1~18で作製された正極板及び電池について以下の特性試験を行った。
1、リチウムイオン二次電池の初期容量試験
形成後の電池を常温で1Cの電流で4.2Vまで定電流充電し、次に電流が0.05C以下まで定電流定電圧充電し、次に1Cの電流で3.0Vまで定電流放電し、電池の初期放電容量を測定した。
【0091】
2、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性試験
45℃で形成後の電池を1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電し、電流が0.05Cに降下するまで定電圧充電し、次に1Cの電流で3.0Vまで定電流放電し、これを繰り返した。1回目の放電容量及び最後1回の放電容量を記録した。
【0092】
下式により高温サイクルでの容量維持率を計算した。
容量維持率=最後1回の放電容量/1回目の放電容量×100%。
【0093】
3、リチウムイオン二次電池の熱衝撃試験
25℃で、実施例及び比較例で作製されたリチウムイオン二次電池を5分間静置し、1C倍率で4.2Vまで定電流充電し、次に電流が0.05C以下まで定電圧充電し、次に5分間静置した。次にリチウムイオン二次電池をオーブンに入れ、オーブンの温度を2℃/minの昇温速度で25℃から130℃まで昇温し、2時間保温した。昇温過程及び保温過程において電池表面の温度及び電池の現象を監視した。
【0094】
(1)実施例1~7及び比較例1~6で作製されたリチウムイオン電池の特性試験結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
実施例1-7及び比較例1-6から分かるように、正極活物質の種類が同じであり、正極材料層中のリン含有量、マンガン含有量及び正極の片面面密度が事前設定された関係0.05≦p・u/v≦15を満たす場合、リチウムイオン二次電池は、熱衝撃試験では制御不能や発火の現象が発生しなかったため、比較的高い安全性、高温サイクル特性及び初期容量を有する。
【0097】
実施例1~7の試験結果から分かるように、p・u/v値の増大に伴い、リチウムイオン二次電池の初期容量、高温サイクル特性及び耐熱衝撃特性は向上してから低下した。これは、正極材料層中のリン含有量、マンガン含有量及び正極の片面面密度がリチウムイオン二次電池の電気化学的特性及び安全性に関係があることを示している。特に、0.5≦p・u/v≦5の場合、リチウムイオン二次電池は、最適な初期容量、高温サイクル特性及び耐熱衝撃特性を有する。
【0098】
比較例1-3のリチウムイオン二次電池において、正極材料層にリン元素が含まれないため、リチウムイオン二次電池の熱衝撃試験では、最大表面温度は顕著に高くなるとともに、発煙、発火の現象が発生したため、リチウムイオン二次電池の安全性が比較的低かった。比較例4のリチウムイオン二次電池において、正極材料層中のリン元素の含有量が極めて低いため、リチウムイオン電池の熱衝撃試験では、最大表面温度は顕著に高くなるとともに、発煙、発火の現象が発生したため、安全性が比較的低かった。比較例5-6のリチウムイオン二次電池において、正極材料層中のリン元素の含有量が比較的高いため、熱衝撃試験では、電池の最大表面温度が比較的低く、制御不能や発火の現象が発生しなかったが、正極材料層中のリン含有量、マンガン含有量及び正極の片面面密度が事前設定された関係0.05≦p・u/v≦15を満たさないため、電池の放電容量が低く、サイクル特性が十分ではなく、電気化学的特性及び安全性を両立できなかった。
【0099】
比較例2、比較例3及び実施例3の試験結果から分かるように、構造式1で表される化合物を非水電解液に添加することによる電池特性の向上程度は、構造式1で表される化合物を正極材料層に添加することによる電池特性の向上程度よりも遥かに低かった。これは、構造式1で表される化合物の粘度が比較的高く、導電率が低いため、電解液に添加されると電池の初期効率、内部抵抗及びサイクルなどの特性に影響を与える可能性があるからである。
【0100】
(2)実施例3、8~11及び比較例1、7~10で作製されたリチウムイオン電池の特性試験結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
実施例3、8~11の試験結果から分かるように、本発明に係る正極を含む電池において、非水電解液に上記の添加剤DTD(硫酸エチレン)、VC(エチレンカーボネート)、FEC(フルオロエチレンカーボネート)又はPS(1,3-プロパンスルトン)を添加することにより、電池の高温サイクル特性がさらに向上し、熱衝撃試験中の電池の最大表面温度が低くなる。これは、正極中の構造式1で表される化合物及び上記の添加剤は共同で電極表面の不動態膜の形成に関与し、熱安定性に優れた不動態膜が得られることで電極表面の電解液の反応を効果的に低減し、電池の安全性を向上させるためであると推測される。
【0103】
より好ましくは、上記の添加剤のうちのDTDと、構造式1で表される化合物を含む正極との組み合わせは、電池の高温サイクル特性及び耐熱衝撃特性に対する向上が最も顕著である。
【0104】
(3)実施例3、12~15で作製されたリチウムイオン電池の特性試験結果を表5に示す。
【0105】
【表5】
【0106】
表5の試験結果から分かるように、構造式1で表されるさまざまな化合物は、正極材料層中のリン含有量、マンガン含有量及び正極の片面面密度が事前設定された関係0.05≦p・u/v≦15を満たす場合、作用が類似し、いずれも電池の電池容量及び安全性を改善することができる。これは、本発明で提供される関係式が、構造式1で表されるさまざまな化合物に適用されることを示している。
【0107】
(4)実施例16~25及び比較例11~18で作製されたリチウムイオン電池の特性試験結果を表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
実施例16及び比較例11の試験結果から分かるように、正極活物質中のM元素がAlである場合でも、正極材料層中のリン含有量、アルミニウム含有量及び正極の片面面密度が事前設定された関係0.05≦p・u/v≦15を満たすと、電池は同様に高い高温サイクル特性及び耐熱衝撃性を有する。
【0110】
実施例17-20及び比較例12、13の試験結果から分かるように、LiNi0.5Co0.2Mn0.3を正極活物質として使用する場合、正極材料層中のリン含有量、マンガン含有量及び正極の片面面密度が事前設定された関係0.05≦p・u/v≦15を満たすと、電池は同様に高い高温サイクル特性及び耐熱衝撃性を有する。
【0111】
実施例21-25及び比較例14-18の試験結果から分かるように、リチウムイオン二次電池の正極板中のマンガン元素含有量が比較的高い場合、正極板に構造式1で表される化合物を添加しなくても、発煙、発火の現象が発生しなかった。これは、高含有量のマンガン元素が、正極活物質の構造安定性を向上させ、正極活物質の分解によるガス放出を減少させることできることを示している。しかし、電池のエネルギー密度が低下した。正極板に構造式1で表される化合物を添加することにより、正極材料層に安定したリン元素含有固体電解質界面膜が形成される。この界面膜は、正極活物質と電解液との間の過度な副反応を抑制することができる。さらに、正極の片面面密度の設計により、三者は電池のガス産生を相乗的に抑制し、発熱量を減少させることで、リチウムイオン二次電池が制御不能になるリスクが低下し、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性が向上し、リチウムイオン二次電池は、比較的高い安全性及びエネルギー密度を有する。
【0112】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限するものではない。本発明の思想及び原則の範囲内に行われる全ての修正、同等置換及び改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
図1