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特許7535119高効率複合素材を具備した超軽量水素生産反応器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】高効率複合素材を具備した超軽量水素生産反応器
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20240807BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C01B3/04 B
B01J23/46 301M
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022552432
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 KR2021008340
(87)【国際公開番号】W WO2022010178
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0083476
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ヨン スク ジョ
(72)【発明者】
【氏名】アラシュ バダクシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ヨン チャ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン チョン キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒャン ス ジェオン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ミン キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン テ ソン
(72)【発明者】
【氏名】ソン チョル ジャン
(72)【発明者】
【氏名】スン ピル ユン
(72)【発明者】
【氏名】スク ウ ナム
(72)【発明者】
【氏名】タイク ジン リ
(72)【発明者】
【氏名】チャン ウン ユン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ヘ ハン
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-009917(JP,A)
【文献】特開2006-032192(JP,A)
【文献】特開平07-126002(JP,A)
【文献】特表2015-514654(JP,A)
【文献】特開昭56-084789(JP,A)
【文献】特開2011-256059(JP,A)
【文献】特開2006-052120(JP,A)
【文献】特開平10-236802(JP,A)
【文献】特開2015-127273(JP,A)
【文献】特表2012-521960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/04
B01J 23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼反応が起きる第1領域;
水素抽出反応が起きる第2領域;
前記第1領域と前記第2領域とを区分する金属基材;および
窒化ホウ素(Boron nitride、BN)を含み、前記金属基材の少なくとも一面に形成されたコーティング層;を備え、
前記第1領域で発生する熱が、前記金属基材を通して前記第2領域に伝達され、
前記金属基材の少なくとも一面は前記第2領域を向く面を含み、
前記水素抽出反応がアンモニアの分解反応を含み、
前記金属基材は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、鉄(Fe)、インコネル(Inconel)(登録商標)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする、水素生産反応器。
【請求項2】
内部に前記第1領域と前記第2領域を有するハウジング;および
前記第1領域と前記第2領域とを区分し、前記金属基材を含み、前記ハウジングの内部に設けられた隔壁を備える、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項3】
内部管と外部管を有する二重管構造を備え、
前記内部管が前記第1領域を含み、前記外部管が前記第2領域を含む、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項4】
前記内部管を複数備える、請求項3に記載の水素生産反応器。
【請求項5】
前記燃料は水素、炭化水素およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含む、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項6】
前記第1領域に燃料の燃焼反応のための触媒が充填されている、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項7】
前記第2領域に水素抽出反応のための触媒が充填されている、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項8】
前記第2領域の温度は200℃~800℃である、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項9】
前記コーティング層は厚さが1μm~10μmである、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項10】
前記コーティング層は燃料の燃焼反応または水素抽出反応のための触媒をさらに含む、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項11】
前記触媒が前記コーティング層上に塗布されて触媒層を形成している、請求項10に記載の水素生産反応器。
【請求項12】
前記触媒が前記コーティング層の窒化ホウ素上に担持されている、請求項10に記載の水素生産反応器。
【請求項13】
前記触媒は、ルテニウム(Ru)、ランタン(La)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つの触媒金属を含む、請求項10に記載の水素生産反応器。
【請求項14】
前記第2領域で発生した水素を前記第1領域に供給する循環流路をさらに含む、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項15】
前記水素生産反応器を外部から断熱させる断熱部材をさらに含む、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項16】
前記コーティング層は燃料の燃焼反応または水素抽出反応に対する触媒をさらに含み、
前記触媒は前記コーティング層の窒化ホウ素上に担持されているものである、請求項1に記載の水素生産反応器。
【請求項17】
燃料の燃焼反応が起きる第1領域;
水素抽出反応が起きる第2領域;
前記第1領域と前記第2領域を区画する金属基材;および
窒化ホウ素(Boron nitride、BN)を含み、前記金属基材の少なくとも一面に形成されたコーティング層;を含み、
前記第1領域で発生する熱が前記金属基材を通じて前記第2領域に伝達され、
前記コーティング層は燃料の燃焼反応または水素抽出反応に対する触媒をさらに含み、
前記触媒は前記コーティング層の窒化ホウ素上に担持され、
前記水素抽出反応がアンモニアの分解反応を含み、
前記金属基材は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、鉄(Fe)、インコネル(Inconel)(登録商標)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含む水素生産反応器。
【請求項18】
水素生産反応器における水素生産方法であって、
前記水素生産反応器の第1領域で燃料を燃焼させる段階と、
前記水素生産反応器の第2領域で水素を抽出する段階とを含み、
金属基材が前記第1領域と前記第2領域を区画し、
窒化ホウ素(BN)を含むコーティング層が、前記金属基材の少なくとも一面に形成され、
前記第1領域で発生する熱が前記金属基材を通じて前記第2領域に伝達され、
前記金属基材の少なくとも一面は前記第2領域を向く面を含み、
前記水素抽出する段階がアンモニアの分解反応を含み、
前記金属基材は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、鉄(Fe)、インコネル(Inconel)(登録商標)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含む水素生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が高く、酸化防止性を有する高効率複合素材を具備した水素生産反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、圧力タンク当たり0.1~10MWhまたは液状タンク当たり0.1~100GWhの大容量の再生可能なエネルギーを貯蔵できる環境に優しいおよび持続可能なエネルギーキャリアとして最近注目をあびている。これとともに、水素エネルギーは環境に否定的な影響を及ぼす化石燃料で駆動される既存のエネルギーシステムに代わる効率的なエネルギーシステムとして積極的に開発されている。これに伴い、水素燃料電池は高効率および水(HO)を副産物とする環境に優しいシステムとして位置づけられつつある。
【0003】
水素は重さ対比非常に高いエネルギー密度(33.3kWh・kg-1)を有しているが、体積対比で低いエネルギー密度(2.97Wh・L-1、Hガス、0℃、1気圧)を有するため、適切な方法で貯蔵して体積対比エネルギー密度を高める必要がある。これに伴い、水素を効率的に貯蔵するために圧縮水素貯蔵、液化水素貯蔵などの物理的水素貯蔵方法などが産業的に多く研究されてきたが、このような方法は安全とエネルギー損失の面で問題がある。このような理由で潜在的に大容量の水素を安定的に貯蔵できる化学的水素貯蔵方法に関する関心が高まっている。化学的水素貯蔵方法に利用可能な候補物質としては、メタノール(CHOH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、アンモニアボラン(NHBH)、およびギ酸(HCOH)等が挙げられる。
【0004】
一方、化学的水素貯蔵方法は化学反応を伴うため、触媒反応性を向上するためには高い熱伝達効率が必要である。したがって、反応器を熱伝導度が高い金属などの物質で製造することが好ましいが、金属は酸化するため耐久性が落ちるという問題がある。これを防止するために金属の表面にセラミックなどの酸化防止膜を形成すると、熱伝導度が低下するという問題が発生する。したがって、化学的水素貯蔵方法に使われる反応器がより効率的に熱伝達ができるように改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱伝達効率が優秀な水素生産反応器を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、高温で安定的であり反応性が低い素材を使って耐久性に優れた水素生産反応器を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、酸化防止性に優れ耐久性が高い水素生産反応器を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は体積および触媒の含量を従来に比べて小さくできる水素生産反応器を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の目的は以上で言及した目的に制限されない。本発明の目的は以下の説明でより明確となるであろうし、特許請求の範囲に記載された手段およびその組み合わせで実現されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態に係る水素生産反応器は、燃料の燃焼反応が起きる第1領域;水素抽出反応が起きる第2領域;第1領域と第2領域を区分する金属基材;および窒化ホウ素(Boron nitride、BN)を含み、金属基材の少なくとも一面に形成されたコーティング層;を含み、第1領域で発生した熱が金属基材を通して第2領域に伝達されることを特徴とする。
【0011】
水素生産反応器は、内部に第1領域と第2領域が設けられたハウジング;および、第1領域と第2領域を区分し、金属基材を含み、ハウジングの内部に設けられた隔壁を含むものであり得る。
【0012】
水素生産反応器は、内部管と外部管を有する二重管構造を備え、内部管が第1領域を含み、外部管が第2領域を含むものであり得る。
【0013】
水素生産反応器は、内部管を複数個備えたものであり得る。
【0014】
燃料は、水素、炭化水素およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0015】
第1領域は燃料の燃焼反応のための触媒が充填されているものであり得る。
【0016】
水素抽出反応は、メタンの改質反応、メタノールの改質反応、アンモニアの分解反応、液状有機水素運搬体(Liquid organic hydrogen carrier、LOHC)の脱水素化反応およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0017】
第2領域は水素抽出反応のための触媒が充填されているものであり得る。
【0018】
第2領域の温度は300℃~900℃であり得る。
【0019】
金属基材は銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、鉄(Fe)、インコネル(Inconel)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0020】
コーティング層は厚さが1μm~10μmであり得る。
【0021】
コーティング層は、燃料の燃焼反応または水素抽出反応のための触媒をさらに含むものであり得る。
【0022】
触媒は、前記コーティング層上に塗布されて触媒層を形成しているものであり得る。
【0023】
触媒はコーティング層の窒化ホウ素上に担持されているものであり得る。
【0024】
触媒はルテニウム(Ru)、ランタン(La)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つの触媒金属を含むものであり得る。
【0025】
水素生産反応器は第2領域で発生した水素を第1領域に供給する循環流路をさらに含むことができる。
【0026】
水素生産反応器は水素生産反応器を外部から断熱させる断熱部材をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る水素生産反応器は、熱伝導度が高い金属および窒化ホウ素を通じて熱を伝達するため、熱伝達効率が非常に優れている。
【0028】
また、本発明に係る水素生産反応器は、金属の表面に窒化ホウ素がコーティングされているため高温で安定的であり、反応性が低いため耐久性が非常に高い。
【0029】
また、本発明に係る水素生産反応器は、金属の表面に窒化ホウ素がコーティングされているため、金属が酸化することを防止することができる。
【0030】
また、本発明に係る水素生産反応器は熱伝達効率が高いため、これを使用すると反応器の体積および触媒の含量を従来に比べて小さくできる。
【0031】
また、本発明に係る水素生産反応器は水素に対する脆性を有する金属の表面に窒化ホウ素をコーティングしたものであるため、水素分子は金属を透過できない。したがって、本発明に係る水素生産反応器を使用すると、安定的に水素を生産および抽出することができる。
【0032】
本発明の効果は以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は以下の説明で推論可能なすべての効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係る水素生産反応器の第1実施形態を概略的に図示したものである。
図2】本発明に係る水素生産反応器の第2実施形態を概略的に図示したものである。
図3】本発明に係る水素生産反応器の第3実施形態を概略的に図示したものである。
図4】水素生産反応器に含まれた金属基材およびコーティング層を概略的に図示したものである。
図5】水素生産反応器に含まれた金属基材、コーティング層および触媒層を概略的に図示したものである。
図6】本発明の製造例で製造された水素生産反応器を図示したものである。
図7a】本発明の製造例の水素生産反応器に含まれる銅管の外壁に対する走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope、SEM)分析結果である。
図7b】本発明の製造例の水素生産反応器に含まれた銅管の内壁に対する走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope、SEM)分析結果である。
図8】本発明の実験例で水素生産反応器のアンモニア転換率を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴および利点は、添付された図面に関連した以下の好ましい実施例を通じて容易に理解され得るであろう。しかし、本発明はここで説明される実施例に限定されず他の形態で具体化されてもよい。かえって、ここで紹介される実施例は、開示された内容が徹底かつ完全となり得るように、そして通常の技術者に本発明の思想が十分に伝達され得るようにするために提供されるものである。
【0035】
各図面の説明において、類似する参照符号を類似する構成要素に対して使った。添付された図面において、構造物の寸法は本発明の明確性のために実際より拡大して図示したものである。第1、第2等の用語は多様な構成要素の説明に使われ得るが、前記構成要素は前記用語によって限定されてはならない。前記用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ使われる。例えば、本発明の権利範囲を逸脱することなく第1構成要素は第2構成要素と命名され得、同様に第2構成要素も第1構成要素と命名され得る。単数の表現は文脈上明白に異なるように意味しない限り、複数の表現を含む。
【0036】
本明細書で、「含む」、「有する」等の用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは他の部分の「真上に」ある場合だけでなく、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。反対に層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下部に」あるとする場合、これは他の部分の「真下に」ある場合だけでなく、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。
【0037】
特に明示されない限り、本明細書で使われた成分、反応条件、ポリマー組成物および配合物の量を表現するすべての数字、値および/または表現は、このような数字が本質的に異なるものの中で、このような値を得るのに発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、すべての場合「約」という用語によって修飾されるものと理解されるべきである。また、本記載で数値範囲が開示される場合、このような範囲は連続的であり、特に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までのすべての値を含む。ひいては、このような範囲が整数を指称する場合、特に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含むすべての整数が含まれる。
【0038】
図1は、本発明に係る水素生産反応器の第1実施形態を図示したものである。これを参照すると、水素生産反応器1は、内部に第1領域11および第2領域12を有するハウジング10および第1領域11と第2領域12を区分するようにハウジング10の内部に設けられた隔壁20を含む。
【0039】
第1領域11は燃料の燃焼反応が起きる空間であり、第2領域12は原料の水素抽出反応が起きる空間である。
【0040】
具体的には、第1領域11では燃料流入口111を通じて流入した燃料が燃焼して熱が発生する。燃料が燃焼して発生する燃焼生成物は燃料排出口112を通じて外部に排出される。
【0041】
燃料は水素、炭化水素およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0042】
燃料を燃焼させる方法は特に制限されず、例えば燃料と空気(または酸素)を第1領域11に備えられたスパーク、熱等を発生させる装置(図示されず)に供給して燃焼させることができる。
【0043】
燃料として水素を使う場合には、下記の反応式1のような水素の燃焼反応を起こすことができる。
【0044】
<反応式1>
2H(g)+O(g)→2HO(l)△H=-572kJ/mol
【0045】
一方、燃料として炭化水素を使う場合には、下記の反応式2のような炭化水素の燃焼反応を起こすことができる。
【0046】
<反応式2>
(g)+(x+y/4)O(g)→xCO(g)+y/2HO(l)
【0047】
第1領域11は燃料の燃焼反応のための第1触媒113を含むことができる。第1触媒113は特に制限されず、例えば白金(Pt)触媒であり得る。また、図1には第1触媒113を充填層(Packed bed)の形態で図示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、第1触媒113が燃料と接触できるのであれば第1触媒113はいかなる形態で存在してもよい。
【0048】
燃料の燃焼反応は発熱反応であって、発生する熱は第2領域12での水素抽出反応に伝達される。具体的には、第1領域11で発生した熱は隔壁20を通して第2領域12に伝達される。隔壁20は熱伝導度が高い素材で形成されているところ、これについては後述する。
【0049】
第2領域12では原料流入口121を通じて流入した原料の水素抽出反応が起きる。水素抽出反応によって生成される水素および副産物は、生成物排出口122を通じて外部に排出される。
【0050】
原料は、メタン、メタノール、アンモニア、液状有機水素運搬体(Liquid organic hydrogen carrier、LOHC)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0051】
水素抽出反応は、メタンの改質反応、メタノールの改質反応、アンモニアの分解反応、液状有機水素運搬体(Liquid organic hydrogen carrier、LOHC)の脱水素化反応およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0052】
水素抽出反応に使うための二酸化炭素などの反応物を、原料とともに第2領域12に投入してもよい。
【0053】
水素抽出反応はいずれも吸熱反応である。一例として、アンモニアの分解反応は下記の反応式3の通りである。
【0054】
<反応式3>
2NH(g)→3H(g)+N(g)△H=46kJ/mol
【0055】
水素抽出反応を正方向に進行させるためには高い熱が必要である。本発明は第1領域11で発生した熱を第2領域12に効果的に伝達することによって、水素生産反応器1の効率を高めたことを特徴とする。
【0056】
第2領域12の温度は特に制限されないが、例えば200℃~800℃であり得る。水素抽出反応がメタンの改質反応、アンモニアの分解反応である場合には第2領域12の温度を500℃~800℃に調節することができ、メタノールの改質反応、液状有機水素運搬体(LOHC)の脱水素化反応である場合には200℃~400℃に調節することができる。
【0057】
第2領域12は原料の水素抽出反応のための第2触媒123を含むことができる。第2触媒123は特に制限されず、例えばルテニウム(Ru)、ランタン(La)等の触媒金属をアルミナ(Al)等の担体上に担持したものであり得る。また、図1には第2触媒123を充填層(Packed bed)の形態で図示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、第2触媒123が前記原料と接触できるのであれば第2触媒123はいかなる形態で存在してもよい。
【0058】
第1領域11と第2領域12は隔壁20により空間的に分離されていてもよい。前記第1領域11で発生した熱は隔壁20を通じて第2領域12に伝達されるところ、これに対する具体的な内容は後述する。
【0059】
水素生産反応器1は第2領域12で発生した水素の一部を第1領域11に供給する循環流路(図示されず)をさらに含むことができる。水素生産反応器1自体でエネルギーの流れを循環させることによって、水素生産の効率をより向上させることができる。
【0060】
また、水素生産反応器1はこれを外部から断熱させる断熱部材(図示されず)をさらに含むことができる。ハウジング10を断熱素材で形成して断熱部材を省略してもよい。水素生産反応器は高い温度で運転されるので、その内部の熱が外部に漏れ出て水素の生産効率が落ちることを防止するためである。
【0061】
図2は、本発明に係る水素生産反応器の第2実施形態を図示したものである。これを参照すると、水素生産反応器1は内部管30と外部管40を有する二重管の構造であり、内部管30が第1領域31を含み、外部管40が第2領域41を含むものであり得る。
【0062】
第1領域31は燃料の燃焼反応が起きる空間であり、第2領域41は原料の水素抽出反応が起きる空間である。
【0063】
具体的には、燃料流入口32を通って内部管30に流入した燃料は第1領域31で燃焼する。燃料の燃焼によって発生する燃焼生成物は燃料排出口33を通じて外部に排出される。
【0064】
燃料および燃料の燃焼反応は前述した通りであり、以下では省略する。
【0065】
第1領域31は前記燃料の燃焼反応のための第1触媒34を含むことができる。第1触媒34は特に制限されず、例えば白金(Pt)触媒であり得る。また、図2には第1触媒34を充填層(Packed bed)の形態で図示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、第1触媒34が燃料と接触できるのであれば第1触媒34はいかなる形態で存在してもよい。
【0066】
燃料の燃焼反応によって発生する熱は、内部管30を通って第2領域41に伝達される。内部管30は熱伝導度が高い素材で形成されているところ、これについては後述する。
【0067】
第2領域41では原料流入口42を通って流入した原料の水素抽出反応が起きる。水素抽出反応によって生成される水素および副産物は生成物排出口43を通じて外部に排出される。
【0068】
原料および原料の水素抽出反応は前述した通りであり、以下では省略する。
【0069】
第2領域41の温度は特に制限されないが、例えば200℃~800℃であり得る。水素抽出反応がメタンの改質反応、アンモニアの分解反応である場合には第2領域41の温度を500℃~800℃に調節することができ、メタノールの改質反応、液状有機水素運搬体(LOHC)の脱水素化反応である場合には200℃~400℃に調節することができる。
【0070】
第2領域41は原料の水素抽出反応のための第2触媒44を含むことができる。第2触媒44は特に制限されず、例えばルテニウム(Ru)、ランタン(La)等の触媒金属をアルミナ(Al)等の担体上に担持したものであり得る。また、図2には第2触媒44を充填層(Packed bed)の形態で図示したが、本発明はこれに制限されるものではなく、第2触媒44が原料と接触できるのであれば第2触媒44はいかなる形態で存在してもよい。
【0071】
第1領域31と第2領域41は内部管30により空間的に分離されていてもよい。第1領域31で発生した熱は内部管30を通じて第2領域41に伝達されるところ、これについての具体的な内容は後述する。
【0072】
図3は、本発明に係る水素生産反応器の第3実施形態を図示したものである。これを参照すると、水素生産反応器1は、第2領域41を含む外部管に第1領域31を含む内部管30が複数備えられた多重管構造の反応器であり得る。その他には前述した第2実施形態の水素生産反応器と構成、機能などが同一であるので、以下ではそれに対する具体的な説明は省略する。
【0073】
前述した通り、本発明に係る水素生産反応器の多様な形態は、燃料の燃焼反応が起きる第1領域で発生した熱を原料の水素抽出反応が起きる第2領域に効果的に伝達することを目的として具現されたものである。具体的には、第1実施形態では隔壁20、第2実施形態および第3実施形態は内部管30を通じて前記熱が伝達される。
【0074】
本発明は隔壁20および内部管30として熱伝導度が高い金属基材を用いるものの、金属基材の少なくとも一面に窒化ホウ素(Boron nitride、BN)を含むコーティング層を形成したことを特徴とする。
【0075】
図4は、金属基材50および金属基材上に形成されたコーティング層60を図示したものである。金属基材50およびコーティング層60は前述した隔壁20のすべてまたは一部、内部管30のすべてまたは一部を構成することができる。
【0076】
金属基材50は熱伝導度および融点が高い素材を含むことができ、具体的には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、鉄(Fe)、インコネル(Inconel)、これらの組み合わせおよびこれらの合金からなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0077】
金属基材50は熱伝導度が高いため、第1領域で発生する熱を第2領域に伝達するのに有利であるが、容易に酸化するため反応器の耐久性が顕著に低下し得る。本発明はこれを防止するために、金属基材50の少なくとも一面に窒化ホウ素(BN)を含むコーティング層60を形成したことを技術的特徴とする。
【0078】
窒化ホウ素(BN)は熱伝導度が非常に高いので、金属基材50上にコーティングしても高い熱伝導度を維持することができる。
【0079】
また、窒化ホウ素(BN)は高温で安定的であり反応性が低いため、水素生産反応器の耐久性をより一層高めることができる。
【0080】
これに加えて、金属基材50は水素に対する脆性を有し得るが、金属基材50上に窒化ホウ素(BN)をコーティングすれば水素分子が金属基材50に接することができないため、第2領域で安定的に水素抽出反応が発生し得る。
【0081】
窒化ホウ素(BN)の種類は特に制限されず、例えば六方晶結晶構造を有するもの、キュービック型結晶構造を有するもの、ウルツ鉱(wurtzite)結晶構造を有するものなどであり得る。
【0082】
コーティング層60は厚さが1μm~10μmであり得る。厚さが1μm未満であると金属基材50を保護する目的を達成することが困難であり得、10μmを超過すると熱伝導が円滑でない可能性がある。
【0083】
コーティング層60の製造方法は特に制限されず、例えば窒化ホウ素(BN)を金属基材50上に塗布したり、蒸着して形成することができる。
【0084】
コーティング層60は燃料の燃焼反応または水素抽出反応の触媒に対する一種の支持体の役割も遂行できる。
【0085】
具体的には、図5のように、触媒をコーティング層60上に塗布して触媒層61、61′を形成することができる。この時、第1領域側の触媒層61′は燃料の燃焼反応のための第1触媒を含むことができ、第2領域側の触媒層61は水素抽出反応のための第2触媒を含むことができる。
【0086】
第1触媒および第2触媒は触媒金属が担体上に担持されたものであり得る。
【0087】
触媒金属はルテニウム(Ru)、ランタン(La)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0088】
担体は、アルミナ(Al)、黒鉛、カーボンブラックおよびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つを含むことができる。
【0089】
コーティング層60は、第1領域側の触媒層61′および第2領域側の触媒層61のうち少なくとも一つを含むことができる。
【0090】
触媒層61、61′の形成方法は特に制限されず、触媒を含むスラリーをコーティング層60上に塗布したり、触媒をコーティング層60上に蒸着して形成することができる。
【0091】
一方、触媒を一連の層で形成せずに、コーティング層60の窒化ホウ素(BN)に担持させるか窒化ホウ素(BN)と混合してもよい。このような場合、触媒はコーティング層60に内包される形態で存在することができる。
【0092】
製造例1
図6に図示されたような二重管構造の水素生産反応器を製造した。内部管としては銅(Cu)管を使い、外部管としては石英(Quartz)管を使った。銅管の外壁および内壁に窒化ホウ素(BN)を含むペイントをコーティングした後、熱処理してコーティング層を形成した。
【0093】
図7aはコーティング層を形成した銅管の外壁に対する走査電子顕微鏡分析結果であり、図7bはコーティング層を形成した銅管の内壁に対する走査電子顕微鏡分析結果である。これらを参照すると、銅管の外壁および内壁に窒化ホウ素を含むコーティング層がきちんと形成されたことが分かる。
【0094】
製造例2
銅管の外面に窒化ホウ素(BN)を含むペイントをコーティングする時、ペイントに触媒をさらに混合してコーティングしたことを除いては製造例1と同一にして水素生産反応器を製造した。触媒としてはアルミナ(Al)にルテニウム(Ru)を担持したものを使った。
【0095】
比較製造例
銅管にコーティング層を形成しない点を除き、製造例1と同様の水素生産反応器を製造した。
【0096】
実験例
製造例1、製造例2および比較製造例による水素生産反応器でアンモニア分解反応を生じさせて水素を生産しながら、アンモニアの転換率を測定した。その結果は図8の通りである。これを参照すると、製造例2による水素生産反応器はアンモニア分解反応に活性を有する触媒が銅管の外壁に含まれているので、アンモニアの転換率が40%に達することが分かる。
【0097】
以上、本発明の非制限的で例示的な実施例を説明したが、本発明の技術思想は添付図面や前記説明内容に限定されない。本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で多様な形態の変形が可能であることがこの分野の通常の知識を有する者には自明であり、また、このような形態の変形は本発明の特許請求の範囲に属すると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8