(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】転写物
(51)【国際特許分類】
B29C 59/04 20060101AFI20240807BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240807BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240807BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240807BHJP
G03F 7/24 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
G02B5/18
H01L21/30 502D
G03F7/20 505
G03F7/24
(21)【出願番号】P 2023060969
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2022063718の分割
【原出願日】2017-12-26
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正尚
(72)【発明者】
【氏名】田澤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】野上 朝彦
(72)【発明者】
【氏名】林部 和弥
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/162374(WO,A1)
【文献】特開2017-083794(JP,A)
【文献】特開2007-127855(JP,A)
【文献】国際公開第2017/028948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00 - 59/18
B29C 33/00 - 33/76
G02B 1/10 - 1/18
G02B 5/18
G02B 5/32
H01L 21/30
H01L 21/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凹部又は凸部にて構成される複数の凹凸集合体が基材上に互いに離隔されて設けられ、
隣り合う前記凹凸集合体の間の前記基材表面は平坦面であり、
前記凹部又は凸部の前記基材表面に占める領域の平均幅は、可視光帯域に属する波長以下であり、
前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、中心値が異なる少なくとも3以上のグループのいずれかに属し、
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体が実現する
反射防止機能以外の光学機能に基づいて、前記凹凸集合体内で所定の方向に沿って段階的に変化し、
前記基材表面は平坦面であり、
前記基材表面の変化に依らずに、前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さの変化と、当該凹部又は凸部の配置とに依って、前記
光学機能が実現される、転写物。
【請求項2】
前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面に占める領域の平均幅は、中心値が異なる少なくとも2以上のグループのいずれかに属する、請求項1に記載の転写物。
【請求項3】
前記凹部又は凸部の前記基材表面に占める領域の平均幅は、前記凹部又は凸部の前記基材表面からの形成長さが長くなるほど大きくなる、請求項2に記載の転写物。
【請求項4】
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面に占める領域の平面形状は、円形状である、請求項1~3のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項5】
前記凹凸集合体の各々が設けられた間隔は、可視光帯域に属する波長よりも大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項6】
前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々は、最密充填配置にて設けられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項7】
前記光学機能は、回折素子の機能であり、
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体が実現する
前記回折素子の機能に基づいて、前記凹凸集合体内で第1の方向に段階的に増加又は減少するように設けられ、前記第1の方向と直交する第2の方向では、同一の高さとなるように設けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項8】
前記光学機能は、マイクロレンズの機能であり、
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体が実現する
前記マイクロレンズの機能に基づいて、前記凹凸集合体内で前記凹凸集合体の中央に向かうほど段階的に増加するように設けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項9】
前記光学機能は、フレネルレンズの機能であり、
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体が実現する
前記フレネルレンズの機能に基づいて、前記凹凸集合体内のうち中心領域で前記凹凸集合体の中央に向かうほど段階的に増加し、かつ、前記中心領域の周辺領域で所定の範囲に収まるように同心円状に減少するように設けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項10】
前記凹凸集合体の各々は、規則的に配列される、請求項1~9のいずれか一項に記載の転写物。
【請求項11】
前記凹凸集合体の各々は、不規則的に配列される、請求項1~9のいずれか一項に記載の転写物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術の一つであるインプリント技術の開発が進展している。インプリント技術とは、表面に微細な凹凸構造を形成した原盤を樹脂シート等に押し当てることで、原盤表面の凹凸構造を樹脂シートに転写する技術である。
【0003】
インプリント技術に用いられる原盤の凹凸構造は、以下で示す微細加工技術を用いることで形成することができる。
【0004】
例えば、平板形状の原盤に凹凸構造を形成する場合、下記特許文献1に記載されるように、レーザ干渉露光法を用いることによって、レーザ光の干渉パターンに対応する凹凸構造を原盤の一主面に形成することができる。
【0005】
また、円柱形状の原盤に凹凸構造を生成する場合、例えば、レーザ光によるリソグラフィ技術を用いることによって、円柱形状の原盤の外周面に凹凸構造を形成することができる。具体的には、円柱形状の基材を底面及び上面の中心を通る回転軸にて回転させた上で、レーザ光を基材の軸方向に走査させながら基材の外周面に照射することで、該外周面に連続的に凹凸構造を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した凹凸構造の形成方法では、形成方法に起因した特定の凹凸構造しか形成することができず、任意の凹凸構造を形成することは困難であった。特に、複数の凹部又は凸部から構成される凹凸集合体をさらに複数配列させたような複雑な凹凸構造を形成することは困難であった。そのため、より複雑な凹凸構造を自由に形成することが可能なパターン形成方法、及び該パターン形成方法によって形成された原盤が求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、より複雑な凹凸構造が形成された原盤を用いた転写物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、複数の凹部又は凸部にて構成される凹凸集合体が基材上に互いに離隔されて複数設けられ、前記凹部又は凸部の前記基材表面に占める領域の平均幅は、可視光帯域に属する波長以下であり、前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、中心値が異なる少なくとも2以上のグループのいずれかに属する、原盤が提供される。
【0010】
前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面に占める領域の平均幅は、中心値が異なる少なくとも2以上のグループのいずれかに属してもよい。
【0011】
前記凹部又は凸部の前記基材表面に占める領域の平均幅は、前記凹部又は凸部の前記基材表面からの形成長さが長くなるほど大きくなってもよい。
【0012】
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面に占める領域の平面形状は、略円形状であってもよい。
【0013】
前記凹凸集合体の各々が設けられた間隔は、可視光帯域に属する波長よりも大きくともよい。
【0014】
前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々は、最密充填配置にて設けられてもよい。
【0015】
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体内で段階的に変化してもよい。
【0016】
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体内で不規則に変化してもよい。
【0017】
前記凹凸集合体の各々は、規則的に配列されてもよい。
【0018】
前記凹凸集合体の各々は、不規則的に配列されてもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、
複数の凹部又は凸部にて構成される複数の凹凸集合体が基材上に互いに離隔されて設けられ、隣り合う前記凹凸集合体の間の前記基材表面は平坦面であり、
前記凹部又は凸部の前記基材表面に占める領域の平均幅は、可視光帯域に属する波長以下であり、
前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、中心値が異なる少なくとも3以上のグループのいずれかに属し、
前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さは、前記凹凸集合体が実現する反射防止機能以外の光学機能に基づいて、前記凹凸集合体内で所定の方向に沿って段階的に変化し、
前記基材表面は平坦面であり、
前記基材表面の変化に依らずに、前記凹凸集合体内の前記凹部又は凸部の各々の前記基材表面からの形成長さの変化と、当該凹部又は凸部の配置とに依って、前記光学機能が実現される、転写物が提供される
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、基材の表面にレジスト層を形成する工程と、レーザ光源の出力強度及び照射タイミングを任意に制御しながら、前記レーザ光源から前記レジスト層にレーザ光を照射する工程と、前記レーザ光が照射された、又は照射されていない領域の前記レジスト層を除去することで、複数の凹部又は凸部にて構成される凹凸集合体が複数設けられたパターンを前記レジスト層に形成する工程と、前記パターンが形成された前記レジスト層をマスクとしてエッチングを行うことで、前記基材の表面に前記パターンに対応する凹凸構造を形成する工程と、を含む、原盤の製造方法が提供される。
【0021】
前記基材は、円柱又は円筒形状であり、前記レーザ光源は、前記円柱又は円筒形状の高さ方向を回転軸として前記基材を回転させながら、前記回転軸と平行に相対移動することで、前記基材の上の前記レジスト層に前記レーザ光を照射してもよい。
【0022】
前記レーザ光源の制御信号は、前記基材の回転の制御信号と同期するように生成されてもよい。
【0023】
前記レーザ光源は、半導体レーザ光源であってもよい。
【0024】
上記構成によれば、原盤に凹凸構造を形成するためのレーザ光の出力を任意に制御することができるため、凹部または凸部の配置及び形成長さをより高い精度及びより高い再現性で制御することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、より複雑な凹凸構造が形成された原盤、該原盤を用いた転写物、及び該原盤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る原盤の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図2A】原盤の外周面に形成された凹凸構造の一例を示す断面図である。
【
図2B】原盤の外周面に形成された凹凸構造の一例を示す平面図である。
【
図3】開口の大きさが同じ場合、又は開口の大きさが異なる場合における凹部の配置の一例を示す模式図である。
【
図4】原盤に設けられた凹凸構造を転写した転写物の一例を模式的に示す断面図及び平面図である。
【
図5】原盤に設けられた凹凸構造を転写した転写物の他の例を模式的に示す断面図及び平面図である。
【
図6】原盤に設けられた凹凸構造を転写した転写物の他の例を模式的に示す断面図及び平面図である。
【
図7】原盤に設けられた凹凸構造を転写した転写物の他の例を模式的に示す断面図及び平面図である。
【
図8】原盤に設けられた凹凸構造を転写した転写物の他の例を模式的に示す断面図及び平面図である。
【
図9】原盤を用いて転写物を製造する転写装置の構成を示す模式図である。
【
図10】原盤に凹凸構造を形成するための露光装置の具体的な構成を説明するブロック図である。
【
図11A】実施例1に係る原盤の凹凸構造のうち1つの凹部集合体を形成するための制御信号を示すグラフ図である。
【
図11B】実施例2に係る原盤の凹凸構造を形成するための制御信号を示すグラフ図である。
【
図12A】実施例1に係る原盤の転写物を拡大倍率30,000倍にて撮像したSEM画像図である。
【
図12B】実施例2に係る原盤の転写物を拡大倍率30,000倍にて撮像したSEM画像図である。
【
図13A】実施例1に係る原盤の転写物を傾き30°及び拡大倍率10,000倍にて撮像したSEM画像図である。
【
図13B】実施例2に係る原盤の転写物を傾き30°及び拡大倍率10,000倍にて撮像したSEM画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
<1.原盤の外観>
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る原盤の外観について説明する。
図1は、本実施形態に係る原盤の外観を模式的に示す斜視図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る原盤1は、例えば、外周面に凹凸構造20が形成された基材10にて構成される。
【0030】
原盤1は、例えば、ロールツーロール(roll-to-roll)方式のインプリント技術に用いられる原盤である。ロールツーロール方式のインプリント技術では、原盤1を回転させながら、原盤1の外周面をシート状基材等に押圧することで、外周面に形成された凹凸構造をシート状の基材等に転写することができる。このようなインプリント技術によれば、原盤1は、外周面に形成された凹凸構造20を転写した転写物を効率良く製造することができる。
【0031】
なお、凹凸構造20が転写された転写物は、様々な用途に用いることができる。例えば、凹凸構造20が転写された転写物は、導光板、光拡散板、マイクロレンズアレイ、フレネルレンズアレイ、回折格子、又は反射防止フィルムなどの光学部材として用いることができる。
【0032】
基材10は、例えば、円筒形状又は円柱形状の部材である。基材10の形状は、
図1で示すように内部に空洞を有する中空の円筒形状であってもよく、内部に空洞を有さない中実の円柱形状であってもよい。基材10は、例えば、溶融石英ガラス又は合成石英ガラスなどのSiO
2を主成分とするガラス材料で形成されてもよく、ステンレス鋼などの金属で形成されてもよい。また、基材10の外周面は、SiO
2等で被覆されていてもよい。
【0033】
基材10は、少なくとも外周面がSiO2を主成分とするガラス材料で形成されことが好ましく、全体がSiO2を主成分とするガラス材料で形成されることがより好ましい。これは、基材10の主成分がSiO2である場合、フッ素化合物を用いたエッチングによって、基材10を容易に加工することができるためである。例えば、凹凸構造20に対応したパターンを形成したレジスト層をマスクとして、フッ素化合物を用いたエッチングを行うことによって、基材10の外周面に凹凸構造20を容易に形成することができる。
【0034】
なお、基材10が円柱形状である場合、基材10は、例えば、円柱形状の高さ(軸方向の長さ)が100mm以上であり、円柱形状の底面又は上面の円の直径(軸方向と直交する径方向の外径)が50mm以上300mm以下であってもよい。また、基材10が円筒形状である場合、円筒の外周面の厚みは2mm以上50mm以下であってもよい。ただし、基材10の大きさは、上記に限定されるものではない。
【0035】
凹凸構造20は、基材10の外周面に形成され、凹部又は凸部が規則的又は不規則的に配列された構造である。具体的には、凹凸構造20は、複数の凹部にて構成される凹部集合体が複数配列された構造であってもよい。凹部は、開口の大きさ及び間隔の平均が可視光帯域に属する波長以下となるように設けられ、凹部集合体は、可視光帯域に属する波長よりも大きい間隔で互いに離隔されて設けられる。なお、凹部とは、基材10の外周面に対して略垂直な方向に落ち窪んだ凹構造を表す。
【0036】
以下では、凹凸構造20が、複数の凹部にて構成される凹部集合体を複数配列された構造である場合を例示して説明を行う。ただし、本実施形態に係る原盤1において、凹凸構造20は、複数の凸部にて構成される凸部集合体を複数配列された構造であってもよいことは言うまでもない。
【0037】
<2.原盤の構成>
次に、
図2A及び
図2Bを参照して、本実施形態に係る原盤1の外周面に形成された凹凸構造20のより具体的な構造について説明する。
図2Aは、原盤1の外周面に形成された凹凸構造20の一例を示す断面図であり、
図2Bは、原盤1の外周面に形成された凹凸構造20の一例を示す平面図である。
図2Aは、原盤1の外周面に垂直な方向で切断した断面図を示し、
図2Bは、原盤1の外周面に垂直な方向から平面視した平面図を示す。
【0038】
図2A及び
図2Bに示すように、凹凸構造20は、凹部200を複数集合させた凹部集合体210が複数配列されることで構成される。
【0039】
凹部200は、基材10の一主面と略垂直な方向に落ち窪んだ凹構造である。凹部200の各々の深さは、中心値が異なる少なくとも2以上のグループのいずれかに属するように設けられる。例えば、
図2Aに示すように、凹部200は、形成深さが最も浅い第1の凹部222と、形成深さが最も深い第3の凹部226と、形成深さが第1の凹部222及び第3の凹部226の中間である第2の凹部224と、を含んでもよい。第1の凹部222、第2の凹部224、及び第3の凹部226は、形成深さが形成ばらつき以上の差を有するように設けられ、凹部集合体210は、異なる形成深さにて設けられた複数種の凹部200を含むように設けられ得る。すなわち、凹部200の各々の形成深さは、ランダムな深さではなく、所望の深さとなるように制御され得る。なお、凹部200は、4種以上の形成深さにて設けられてもよいことは言うまでもない。
【0040】
ここで、凹部200の開口の大きさは、凹部200の形成深さが深くなるほど、より大きくなるように設けられ得る。例えば、第1の凹部222、第2の凹部224、及び第3の凹部226は、第1の凹部222が最も開口の大きさが小さく、第3の凹部226が最も開口の大きさが大きく、第2の凹部224が第1の凹部222及び第3の凹部226の中間の開口の大きさとなるように形成されてもよい。凹部200は、後述するように基材10へのエッチングによって形成されるため、形成深さが深い凹部200では、基材10の厚み方向へのエッチングのみならず、基材10の面内方向へのエッチングも進みやすい。そのため、凹部200の形成深さ及び開口の大きさは、連動して変動することになる。
【0041】
なお、異なる形成深さにて形成された複数種の凹部200(
図2Aでは、第1の凹部222、第2の凹部224、及び第3の凹部226)の各々は、1つの凹部集合体210内に少なくとも1種以上設けられていればよい。例えば、1つの凹部集合体210は、第1の凹部222、第2の凹部224、及び第3の凹部226の各々をすべて含むように構成されてもよい。又は、1つの凹部集合体210は、第1の凹部222、第2の凹部224、及び第3の凹部226のいずれかにて構成されてもよい。凹部集合体210内にて、第1の凹部222、第2の凹部224、及び第3の凹部226の各々が設けられる数及び配置は、凹部集合体210又は凹凸構造20が実現する機能に基づいて、適宜制御することが可能である。
【0042】
例えば、凹部集合体210は、凹部集合体210内で凹部200の形成深さが段階的に変化するように構成されてもよい。すなわち、凹部集合体210は、所定の方向に沿って凹部200の形成深さが徐々に変化するように設けられてもよい。具体的には、凹部200の形成深さは、凹部集合体210全体で所定の方向に沿って弧を描くように、又は直線となるように変化してもよい。
【0043】
または、例えば、凹部集合体210は、凹部200の形成深さが不規則に変化するように構成されてもよい。すなわち、凹部集合体210は、凹部200の形成深さがランダムに変化するように設けられてもよい。具体的には、凹部200の形成深さは、凹部集合体210全体で規則性が見られないように変化してもよい。
【0044】
凹部集合体210は、複数の凹部200が集合することで構成され、凹部集合体210の各々は、可視光帯域に属する波長よりも大きい間隔で互いに離隔されてもよい。例えば、
図2Bに示すように、凹部集合体210は、略円形状の開口を有する複数の凹部200が最密充填配置されることで構成され、凹部集合体210の各々は、凹部200の各々の間隔よりも広い間隔で互いに離隔されてもよい。
【0045】
凹部200の開口形状は、上述したように、略円形状であってもよいが、例えば、楕円形状、又は多角形形状などであってもよい。ただし、凹部200の開口形状が略円形状又は楕円形状の場合、凹部200の形成がより容易になる。また、凹部集合体210内における凹部200の配置は、上述したように最密充填配置であってもよいが、四方格子状配置、六方格子状配置、又は千鳥格子状配置などであってもよい。凹部200の開口形状、及び凹部200の凹部集合体210内における配置は、凹部集合体210又は凹凸構造20が実現する機能に基づいて、適宜制御することが可能である。
【0046】
ここで、
図3を参照して、凹部集合体210内における凹部200の配置について、より具体的に説明する。
図3は、開口の大きさが同じ場合、又は開口の大きさが異なる場合における凹部200の配置の一例を示す模式図である。
【0047】
図3に示すように、例えば、凹部200の開口の大きさが略一定である場合(凹部200Aの場合)、凹部200Aは、最密充填配置となるように、開口の大きさと同じ間隔を置いて設けられてもよい。例えば、凹部200の開口の大きさが変動する場合(凹部200Bの場合)、凹部200Bは、一定の間隔を置いて設けられてもよい。このような場合、凹部200Bは、最密充填配置にはならないものの、凹部200Bの形成が容易になる。また、凹部200の開口の大きさが変動する場合(凹部200Cの場合)、凹部200Cは、凹部200Cの各々の開口の大きさに応じて制御された間隔を置いて設けられてもよい。このような場合、凹部200Cは、凹部200の開口の大きさが変動する場合でも、最密充填配置を実現することができる。本実施形態によれば、凹部200の各々の配置及び開口の大きさを高い精度で制御することができるため、凹部200の開口の大きさが変動する場合(凹部200Cの場合)でも、凹部200を最密充填配置にて形成することが可能である。
【0048】
凹部200の各々は、例えば、開口の大きさの平均が可視光帯域に属する波長以下となるように設けられてもよい。また、凹部集合体210内での凹部200の各々の間隔は、同様に、可視光帯域に属する波長以下となるように設けられてもよい。具体的には、凹部200の開口の大きさ及び間隔は、1μm未満であってもよく、好ましくは100nm以上350nm以下であってもよい。凹部200の開口の大きさ及び間隔が上記の範囲である場合、凹部集合体210及び凹凸構造20は、可視光帯域に属する入射光の反射を抑制する、いわゆるモスアイ構造として機能することができる。
【0049】
ただし、凹部200の開口の大きさ及び間隔が100nm未満である場合、凹部200の形成が困難になる。また、凹部200の開口の大きさ及び間隔が350nmを超える場合、可視光の回折が生じ、モスアイ構造としての機能が低下する可能性がある。
【0050】
凹部集合体210の各々は、規則的に配列されてもよい。例えば、
図2Bに示すように、凹部集合体210の各々は、凹部200の構成及び配置が同一の凹部集合体210が所定の間隔を置いて規則的に配列されてもよい。または、凹部集合体210の各々は、不規則的に配列されてもよい。例えば、凹部集合体210の各々は、互いにランダムな大きさの間隔を置いて不規則的に配列されてもよい。凹部集合体210の各々の配列は、凹凸構造20が実現する機能に基づいて、適宜制御することが可能である。
【0051】
以上に説明したように、凹凸構造20の凹部200は、複数種の異なる形成深さにて形成される。すなわち、凹部200の形成深さは、中心値が異なる複数のグループのいずれかに属するように設けられる。したがって、凹凸構造20では、凹部200の各々の形成深さは、凹部200ごとに所定の形成深さになるように、高い精度で制御されることになる。また、凹凸構造20は、凹部200が所定の間隔で連続的に設けられるのではなく、複数の凹部200から構成される凹部集合体210が互いに離隔されるように設けられる。したがって、凹凸構造20では、凹部200は、凹部集合体210内と、凹部集合体210間とで異なる間隔で設けられるように、形成位置が高い精度で制御されることになる。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、凹部200の配置及び形成深さがより高い精度及びより高い再現性にて制御され得る。よって、本実施形態に係る原盤1は、より複雑な凹凸構造20を備えることができる。
【0053】
<3.原盤の具体例>
次に、
図4~
図8を参照して、本実施形態に係る原盤1の外周面に形成される凹凸構造20の具体例について説明する。
図4~
図8は、原盤1に設けられた凹凸構造20を転写した転写物の一例を模式的に示す断面図及び平面図である。そのため、
図4~
図8で示す凹凸構造20は、原盤1に形成された凹凸構造20とは、凹凸形状が反転している。なお、
図4~
図8の平面図では、ドットハッチングが濃い円ほど、より高さが高い凸部に対応することを表す。
【0054】
(第1の具体例)
図4に示すように、凹凸構造21は、凸部201(すなわち、原盤1上では凹部)を四方格子状に配列した凸部集合体211(すなわち、原盤1上では凹部集合体)が所定の間隔を置いて設けられた構造であってもよい。凹凸構造21では、凸部集合体211内の凸部201の高さが第1の方向に段階的に増加又は減少するように設けられ、第1の方向と直交する第2の方向では、凸部201の高さが略同一の高さとなるように設けられる。したがって、
図4に示す凹凸構造21では、凸部集合体211は、第1の方向において全体として三角波様(のこぎり歯様)の形状を示す構造として形成され得る。凹凸構造21を備える転写物は、例えば、モスアイ構造による反射防止能を備えた回折素子として用いることが可能である。
【0055】
(第2の具体例)
図5に示すように、凹凸構造22は、凸部202(すなわち、原盤1上では凹部)を四方格子状に配列した凸部集合体212(すなわち、原盤1上では凹部集合体)が所定の間隔を置いて設けられた構造であってもよい。凹凸構造22では、凸部集合体212内の凸部202の高さが凸部集合体212の中央に向かうほど段階的に増加するように設けられる。したがって、
図5に示す凹凸構造22では、凸部集合体212は、全体として凸レンズ様の形状を示す構造として形成され得る。凹凸構造22を備える転写物は、例えば、モスアイ構造による反射防止能を備えたマイクロレンズアレイとして用いることが可能である。
【0056】
(第3の具体例)
図6に示すように、凹凸構造23は、凸部203(すなわち、原盤1上では凹部)を四方格子状に配列した凸部集合体213(すなわち、原盤1上では凹部集合体)が所定の間隔を置いて設けられた構造であってもよい。凹凸構造23では、凸部集合体213内の凸部203の高さが凸部集合体213の中央に向かうほど段階的に増加するように設けられ、かつ凸部203の高さが所定の範囲に収まるように同心円状に高さが減少する形状にて設けられる。したがって、
図6に示す凹凸構造23では、凸部集合体213は、全体としてフレネルレンズ様の形状を示す構造として形成され得る。凹凸構造23を備える転写物は、例えば、モスアイ構造による反射防止能を備えたフレネルレンズアレイとして用いることが可能である。
【0057】
(第4の具体例)
図7に示すように、凹凸構造24は、凸部204(すなわち、原盤1上では凹部)を四方格子状に配列した凸部集合体214(すなわち、原盤1上では凹部集合体)が所定の間隔を置いて設けられた構造であってもよい。凹凸構造24では、凸部集合体214内の凸部204の高さが不規則に(ランダムに)なるように設けられる。ただし、凸部204の高さは、中心値が異なる複数のグループのいずれかに属するように設けられるため、厳密には、異なる高さを有する凸部204の配置が凸部集合体214内で不規則に(ランダムに)なるように設けられる。したがって、
図7に示す凹凸構造24では、凸部集合体214は、全体として凸部204の高さが不規則なモスアイ構造として形成され得る。凹凸構造24を備える転写物は、例えば、干渉光及び回折光が少ない反射防止フィルム又は光拡散板として用いることが可能である。
【0058】
(第5の具体例)
図8に示すように、凹凸構造25は、凸部205(すなわち、原盤1上では凹部)を不規則的な(ランダムな)配置にて配列した凸部集合体215(すなわち、原盤1上では凹部集合体)が所定の間隔を置いて設けられた構造であってもよい。凹凸構造25では、
図8に示した凹凸構造24と同様に、異なる高さを有する凸部205の配置が凸部集合体215内で不規則に(ランダムに)なるように設けられる。したがって、
図8に示す凹凸構造25では、凸部集合体215は、全体として凸部205の高さ及び配置が不規則なモスアイ構造として形成され得る。凹凸構造25を備える転写物は、例えば、干渉光及び回折光がより少ない反射防止フィルム又は光拡散板として用いることが可能である。なお、
図8に示す凹凸構造25は、
図7に示す凹凸構造24よりも規則性が低いため、意図しない回折光又は干渉光の発生をより抑制することができる。
【0059】
<4.原盤の使用例>
続いて、
図9を参照して、本実施形態に係る原盤1の使用例を説明する。本実施形態に係る原盤1を用いることによって、原盤1の凹凸構造20を転写した転写物を製造することができる。
図9は、本実施形態に係る原盤1を用いて転写物を製造する転写装置5の構成を示す模式図である。
【0060】
図9に示すように、転写装置5は、原盤1と、基材供給ロール51と、巻取ロール52と、ガイドロール53、54と、ニップロール55と、剥離ロール56と、塗布装置57と、光源58とを備える。すなわち、
図9に示す転写装置5は、ロールツーロール方式のインプリント装置である。
【0061】
基材供給ロール51は、例えば、シート状基材61がロール状に巻かれたロールであり、巻取ロール52は、凹凸構造20が転写された樹脂層62を積層した転写物を巻き取るロールである。また、ガイドロール53、54は、転写前後で、シート状基材61を搬送するロールである。ニップロール55は、樹脂層62が積層されたシート状基材61を原盤1に押圧するロールであり、剥離ロール56は、凹凸構造20を樹脂層62に転写した後、樹脂層62が積層されたシート状基材61を原盤1から剥離するロールである。
【0062】
塗布装置57は、コーターなどの塗布手段を備え、光硬化樹脂組成物をシート状基材61に塗布し、樹脂層62を形成する。塗布装置57は、例えば、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター、又はダイコーターなどであってもよい。また、光源58は、光硬化樹脂組成物を硬化可能な波長の光を発する光源であり、例えば、紫外線ランプなどであってもよい。
【0063】
なお、光硬化性樹脂組成物は、所定の波長の光が照射されることによって硬化する樹脂である。具体的には、光硬化性樹脂組成物は、アクリルアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂などの紫外線硬化樹脂であってもよい。また、光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、重合開始剤、フィラー、機能性添加剤、溶剤、無機材料、顔料、帯電抑制剤、又は増感色素などを含んでもよい。
【0064】
なお、樹脂層62は、熱硬化性樹脂組成物で形成されていてもよい。このような場合、転写装置5には、光源58に替えてヒータが備えられ、ヒータによって樹脂層62を加熱することで樹脂層62を硬化させ、凹凸構造20を転写する。熱硬化性樹脂組成物は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、又は尿素樹脂等であってもよい。
【0065】
転写装置5では、まず、基材供給ロール51からガイドロール53を介して、シート状基材61が連続的に送出される。送出されたシート状基材61に対して、塗布装置57により光硬化樹脂組成物が塗布され、シート状基材61に樹脂層62が積層される。また、樹脂層62が積層されたシート状基材61は、ニップロール55によって原盤1に押圧される。これにより、原盤1の外周面に形成された凹凸構造20が樹脂層62に転写される。凹凸構造20が転写された樹脂層62は、光源58からの光の照射により硬化される。これにより、凹凸構造20の反転構造が樹脂層62に形成される。凹凸構造20が転写されたシート状基材61は、剥離ロール56により原盤1から剥離され、ガイドロール54を介して巻取ロール52に送出され、巻き取られる。
【0066】
このような転写装置5によれば、原盤1の外周面に形成された凹凸構造20をシート状基材61に効率的に転写することが可能である。したがって、本実施形態に係る原盤1によれば、凹凸構造20が転写された転写物を効率良く製造することが可能である。
【0067】
<5.原盤の製造方法>
(製造方法の全体工程)
続いて、本実施形態に係る原盤1の製造方法について説明する。
【0068】
本実施形態に係る原盤1は、レーザ光による熱リソグラフィを用いて、基材10の外周面に凹凸構造20に対応するレジストパターンを形成した後、該レジストパターンをマスクとして基材10をエッチングすることで製造され得る。
【0069】
本実施形態では、熱リソグラフィに用いるレーザ光の強度及び照射タイミングを任意に制御することで、より複雑な凹凸構造20を形成することができる。これは、レーザ光は、制御信号を変調させることで、強度及び照射位置を高い精度にて制御することが可能なためである。したがって、本実施形態に係る原盤1の製造方法によれば、凹凸構造20の凹部集合体210及び凹部200の配列を高い精度及び再現性にて制御することが可能である。
【0070】
具体的には、本実施形態に係る原盤1の製造方法は、基材10の外周面にレジスト層を成膜する成膜工程と、レジスト層にレーザ光を照射することで潜像を形成する露光工程と、潜像が形成されたレジスト層を現像し、レジスト層にパターンを形成する現像工程と、パターンが形成されたレジスト層をマスクとして基材10をエッチングし、基材10の外周面に凹凸構造20を形成するエッチング工程と、を含む。
【0071】
成膜工程では、基材10の外周面にレジスト層を成膜する。レジスト層は、レーザ光によって潜像を形成することが可能な無機系材料又は有機系材料にて形成される。無機系材料としては、例えば、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)などの1種又は2種以上の遷移金属を含む金属酸化物を用いることができる。このような無機系材料は、例えば、スパッタ法などを用いることでレジスト層として成膜することができる。一方、有機系材料としては、例えば、ノボラック系レジスト又は化学増幅型レジストなどを用いることができる。このような有機系材料は、例えば、スピンコート法などを用いることでレジスト層として成膜することができる。
【0072】
露光工程では、基材10の外周面に形成されたレジスト層にレーザ光を照射することで、レジスト層に凹凸構造20に対応する潜像を形成する。レジスト層に照射されるレーザ光の波長は、特に限定されないが、400nm~500nmの青色光帯域に属する波長であってもよい。露光工程では、基材10の外周面に照射されるレーザ光の制御信号を変調させることで、レーザ光の出力強度及び照射位置を制御し、レジスト層に形成される凹部200の開口の大きさ及び位置を制御する。そのため、レーザ光を出射する光源は、例えば、出力の変調が容易な、半導体レーザ光源であってもよい。なお、露光工程で用いられる露光装置については、後述する。
【0073】
現像工程では、レーザ光の照射によって潜像が形成されたレジスト層を現像することで、レジスト層に潜像に対応するパターンを形成する。例えば、レジスト層が上述した無機系材料である場合、レジスト層の現像には、TMAH(TetraMethylAmmonium Hydroxide:水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液などのアルカリ系溶液を用いることができる。また、レジスト層が上述した有機系材料である場合、レジスト層の現像には、エステル又はアルコールなどの各種有機溶剤を用いることができる。
【0074】
エッチング工程では、パターンが形成されたレジスト層をマスクとして基材10をエッチングすることで、基材10の外周面に潜像に対応する凹凸構造20を形成する。基材10のエッチングは、ドライエッチング又はウェットエッチングのいずれで行ってもよい。基材10がSiO2を主成分とするガラス材料(例えば、石英ガラスなど)である場合、基材10のエッチングは、フッ化炭素ガスを用いたドライエッチング又はフッ化水素酸等を用いたウェットエッチングによって行うことができる。
【0075】
(露光装置)
次に、
図10を参照して、上述した露光工程において、円筒形状又は円柱形状の基材10にレーザ光を照射する露光装置3の具体的な構成について説明する。
図10は、露光装置3の具体的な構成を説明するブロック図である。
【0076】
図10に示すように、露光装置3は、レーザ光源31と、第1ミラー33と、フォトダイオード(PhotoDiode:PD)34と、集光レンズ36と、電気光学偏向素子(Electro-Optic Deflector:EOD)39と、コリメータレンズ38と、第2ミラー41と、ビームエキスパンダ(Beam expander:BEX)43と、対物レンズ44と、を備える。
【0077】
レーザ光源31は、制御機構47が生成した露光信号にて制御され、レーザ光源31から出射されたレーザ光30は、ターンテーブル46上に載置された基材10に照射される。また、基材10が載置されたターンテーブル46は、露光信号と同期する回転制御信号にて制御されるスピンドルモータ45によって回転する。
【0078】
レーザ光源31は、上述したように、基材10の外周面に成膜されたレジスト層を露光するレーザ光30を出射する光源である。レーザ光源31は、例えば、400nm~500nmの青色光帯域に属する波長のレーザ光を発する半導体レーザ光源であってもよい。レーザ光源31から出射されたレーザ光30は、平行ビームのまま直進し、第1ミラー33で反射される。
【0079】
第1ミラー33にて反射されたレーザ光30は、集光レンズ36によって電気光学偏向素子39に集光された後、コリメータレンズ38によって、再度、平行ビーム化される。平行ビーム化されたレーザ光30は、第2ミラー41によって反射され、ビームエキスパンダ43に水平に導かれる。
【0080】
第1ミラー33は、偏光ビームスプリッタで構成され、偏光成分の一方を反射させ、偏光成分の他方を透過させる機能を有する。第1ミラー33を透過した偏光成分は、フォトダイオード34によって光電変換され、光電変換された受光信号は、レーザ光源31に入力される。これにより、レーザ光源31は、入力された受光信号によるフィードバックに基づいてレーザ光30の出力を調整等することができる。
【0081】
電気光学偏向素子39は、レーザ光30の照射位置をナノメートル程度の距離で制御することが可能な素子である。露光装置3は、電気光学偏向素子39により、基材10に照射されるレーザ光30の照射位置を微調整することが可能である。
【0082】
ビームエキスパンダ43は、第2ミラー41によって導かれたレーザ光30を所望のビーム形状に整形し、対物レンズ44を介して、レーザ光30を基材10の外周面に形成されたレジスト層に照射する。
【0083】
ターンテーブル46は、基材10を支持し、スピンドルモータ45によって回転されることで、基材10を回転させる。ターンテーブル46は、基材10を回転させながら、基材10の軸方向(すなわち、矢印R方向)にレーザ光30の照射位置を移動させることで、基材10の外周面にスパイラル状に露光を行うことができる。なお、レーザ光30の照射位置の移動は、レーザ光源31を含むレーザヘッドをスライダに沿って移動させることで行ってもよい。
【0084】
制御機構47は、フォーマッタ48と、ドライバ49とを備え、レーザ光源31を制御することで、レーザ光30の出力強度及び照射位置を制御する。
【0085】
ドライバ49は、フォーマッタ48が生成した露光信号に基づいてレーザ光源31の出射を制御する。具体的には、ドライバ49は、露光信号の波形振幅の大きさが大きくなるほど、レーザ光30の出力強度が大きくなるようにレーザ光源31を制御してもよい。また、ドライバ49は、露光信号の波形形状に基づいてレーザ光30の出射タイミングを制御することで、レーザ光30の照射位置を制御してもよい。レーザ光30の出力強度が大きくなるほど、レジスト層に形成される潜像の大きさ及び深さを大きくすることができるため、最終的に基材10に形成される凹部の開口の大きさ及び形成深さを大きくすることができる。
【0086】
スピンドルモータ45は、回転制御信号に基づいて、ターンテーブル46を回転させる。スピンドルモータ45は、回転制御信号によって所定の数のパルスが入力された場合にターンテーブル46が1回転するように回転を制御してもよい。なお、回転制御信号は、露光信号と共通の基準クロックから生成されることで、露光信号と同期するように生成され得る。
【0087】
以上のような露光装置3により、基材10へのレーザ光30の照射を行うことができる。このような露光装置3によれば、基材10の外周面に任意のパターンの潜像を高い精度及び高い再現性で形成することが可能である。
【0088】
以上にて、本実施形態に係る原盤1及び原盤1の製造方法について詳細に説明を行った。本実施形態によれば、凹部200の配置及び形成深さをより高い精度及びより高い再現性で制御することができるため、より複雑な凹凸構造20を備える原盤1を提供することができる。
【実施例】
【0089】
以下では、実施例及び比較例を参照しながら、本実施形態に係る原盤について、さらに具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る原盤及びその製造方法の実施可能性及び効果を示すための一条件例であり、本発明に係る原盤及びその製造方法が以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
以下の工程により、実施例1に係る原盤を作製した。まず、円筒形状の石英ガラスにて構成された基材(軸方向長さ100mm、外周面の肉厚4.5mm)の外周面に、スパッタ法でタングステン酸化物を55nmにて成膜し、レジスト層を形成した。次に、
図10に示す露光装置を用いて、波長405nmの半導体レーザ光源からのレーザ光によって熱リソグラフィを行い、レジスト層に潜像を形成した。なお、基材の回転数は、900rpmとした。
【0091】
ここで、レーザ光の出力を制御する制御信号を任意に変調させることにより、レジスト層に任意の潜像を形成した。実施例1では、レーザ光の出力を制御する制御信号として
図11Aに示すような制御信号を用いた。具体的には、
図11Aに示すように、周期が一定であり、振幅が徐々に大きくなるような制御信号を用いてレーザ光の出力を制御した。なお、
図11Aで示す制御信号は、実施例1に係る原盤の凹凸構造のうち1つの凹部集合体を形成するための制御信号を示している。
【0092】
続いて、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38質量%水溶液(東京応化工業製)を用いて、露光後の基材を27℃、900秒で現像処理することにより、潜像部分のレジスト層を溶解し、レジスト層に凹部の形成深さ及び開口の大きさが異なる凹凸構造を形成した。次に、現像後のレジスト層をマスクにして、CHF3ガス(30sccm)を用いて、ガス圧0.5Pa、投入電力150Wにて反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)を行い、基材を30分間エッチングした。その後、残存したレジスト層を除去した。
【0093】
以上の工程により、外周面に凹凸構造が形成された原盤を製造した。さらに、製造した原盤を用いて転写物を製造した。具体的には、
図9で示した転写装置を用いて、原盤の外周面に形成された凹凸構造を紫外線硬化樹脂に転写した。なお、転写物のシート状基材には、ポリエチレンテレフタレート(PolyEthylene Terephthalate:PET)フィルムを用い、紫外線硬化樹脂は、メタルハライドランプにより、1000mJ/cm
2の紫外線を1分間照射することで硬化させた。
【0094】
(実施例2)
レーザ光の出力を制御する制御信号として
図11Bに示す制御信号を用いた以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2に係る原盤を製造した。具体的には、
図11Bに示すように、周期が一定であり、振幅の大きさが不規則に(ランダムに)変化するような制御信号を用いてレーザ光の出力を制御した。なお、
図11Bで示す制御信号は、実施例2に係る原盤の凹凸構造を形成するための制御信号を示している。さらに、製造した原盤を用いて、実施例1と同様の方法にて、転写物を製造した。
【0095】
(評価結果)
実施例1及び実施例2に係る原盤を用いて製造した転写物を走査型電子顕微鏡(Scanning Electoron Microscope:SEM)にて観察した画像を
図12A~
図13Bに示す。
図12Aは、実施例1に係る原盤の転写物を拡大倍率30,000倍にて撮像したSEM画像であり、
図12Bは、実施例2に係る原盤の転写物を拡大倍率30,000倍にて撮像したSEM画像である。
図13Aは、実施例1に係る原盤の転写物を傾き30°及び拡大倍率10,000倍にて撮像したSEM画像であり、
図13Bは、実施例2に係る原盤の転写物を傾き30°及び拡大倍率10,000倍にて撮像したSEM画像である。なお、
図12A~
図13Bでは、X方向が基材の周方向に相当し、Y方向が基材の軸方向に相当する。
【0096】
図12A及び
図13Aを参照すると、実施例1に係る転写物では、基材の周方向に段階的に高さ及び幅が大きくなる凸部(すなわち、原盤上では凹部)が形成されていることがわかる。また、実施例1に係る原盤及び転写物では、高さ及び幅が単調増加する複数の凸部の集合にて凸部集合体(すなわち、原盤上では凹部集合体)が形成されていることがわかる。
【0097】
図12B及び
図13Bを参照すると、実施例2に係る転写物では、基材の周方向及び軸方向に等間隔で高さが異なる凸部(すなわち、原盤上では凹部)が形成されていることがわかる。また、実施例2に係る原盤及び転写物では、凸部の高さの変化が不規則(ランダム)であることがわかる。
【0098】
なお、図示しないが、実施例1及び実施例2に係る転写物の凸部の高さ(原盤上では凹部の深さ)を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)にて観察したところ、実施例1及び実施例2に係る転写物の凸部の各々の高さは、中心値が異なる少なくとも2以上のグループに分けられることがわかった。
【0099】
以上説明したように、本実施形態によれば、凹部の配置及び形成深さをより高い精度及びより高い再現性で制御することができるため、より複雑な凹凸構造を備える原盤、及び該原盤を用いて形成された転写物を提供することができる。
【0100】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0101】
例えば、上記実施形態では、凹凸構造20は、凹部200が集合した凹部集合体210から構成されるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、凹凸構造20は、凹部集合体210に替えて、基材10の外周面に対して略垂直な方向に突出した凸部が集合した凸部集合体から構成されてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 原盤
3 露光装置
5 転写装置
10 基材
20、21、22、23、24、25 凹凸構造
200 凹部
201、202、203、204、205 凸部
210 凹部集合体
211、212、213、214、215 凸部集合体
222 第1の凹部
224 第2の凹部
226 第3の凹部