(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240807BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H02M7/48 T
E02F9/20 Z
(21)【出願番号】P 2023512894
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022012051
(87)【国際公開番号】W WO2022215469
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021065182
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-104973(JP,A)
【文献】特開2006-246700(JP,A)
【文献】特開2010-138586(JP,A)
【文献】特開2008-022633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42- 7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位側ラインと低電位側ラインの間で直流電圧が入力される直流電圧入力部と、
前記高電位側ラインと前記低電位側ラインの間に直列に設けられ、前記直流電圧を分圧する複数の分圧素子と、
前記複数の分圧素子それぞれの高電位側電極に接続される高電位側端子と、前記複数の分圧素子それぞれの低電位側電極に接続される低電位側端子とから入力される分圧された直流電圧を交流電圧に変換して複数のアクチュエータにそれぞれ供給する複数のインバータと、
前記各アクチュエータの電力需要情報を取得する電力需要情報取得部と、
前記各アクチュエータの電力需要情報に基づいて、前記各インバータの高電位側端子と低電位側端子の間の導通状態を制御する制御部と
を備え
、
前記電力需要情報は、前記各アクチュエータの動作状態に関する測定情報であり、
前記制御部は、動作していないアクチュエータに対応するインバータの高電位側端子と低電位側端子の間を導通させるインバータ制御装置。
【請求項2】
前記各インバータは、高電位側端子と低電位側端子の間の導通状態を切り替えるトランジスタを備え、
前記制御部は、前記トランジスタの制御電極にパルス幅変調による制御信号を印加する
請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記分圧素子はコンデンサであり、
前記制御部は、前記各インバータの高電位側端子と低電位側端子の間を導通させる際、導通開始時点において前記トランジスタの制御電極に印加する制御信号のデューティ比を、前記導通開始時点より後の少なくとも一時点において前記トランジスタの制御電極に印加する制御信号のデューティ比より小さくする
請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記高電位側ラインと前記低電位側ラインの間に前記複数のインバータと並列に設けられる別のインバータであって、高電位側端子と低電位側端子の間で入力される直流電圧を交流電圧に変換してアクチュエータに供給する別のインバータを更に備える請求項1から3のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
地面を走行可能な走行部と、走行部に対して旋回可能に取り付けられた旋回部と、旋回部に取り付けられて作業を行う作業部とを備える建設機械用のインバータ制御装置であって、
前記別のインバータは、前記走行部または前記旋回部を駆動するアクチュエータに交流電圧を供給する
請求項4に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記別のインバータの高電位側端子と低電位側端子の間で入力される直流電圧を昇圧および降圧可能な昇降圧回路を更に備える請求項5に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
前記各アクチュエータはコイルを備えるモータであり、
前記動作状態に関する測定情報は前記コイルの電流の測定値である
請求項
1から6のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項8】
前記電力需要情報は、前記各アクチュエータに対する動作指令であり、
前記制御部は、動作指令が出されていないアクチュエータに対応するインバータの高電位側端子と低電位側端子の間を導通させる
請求項1から
7のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項9】
前記複数の分圧素子および前記複数のインバータは、Nを3以上の自然数としてそれぞれN個あり、
前記制御部は、N個の前記インバータの導通状態を制御する際、高電位側端子と低電位側端子の間を同時に導通させるインバータの最大数をN-2個とする
請求項1から
8のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項10】
地面を走行可能な下部走行体と、下部走行体に対して旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、上部旋回体に起伏可能に取り付けられたブームと、ブームに屈曲可能に取り付けられたアームと、アームに屈曲可能に取り付けられたバケットとを備える建設機械用のインバータ制御装置であって、
Nを4以上の自然数としてN個の前記インバータは、前記上部旋回体、前記ブーム、前記アーム、前記バケットを駆動するアクチュエータに交流電圧を供給するインバータを含む
請求項
9に記載のインバータ制御装置。
【請求項11】
前記分圧素子はコンデンサである請求項1から1
0のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項12】
複数のアクチュエータと、
高電位側ラインと低電位側ラインの間で直流電圧が入力される直流電圧入力部と、
前記高電位側ラインと前記低電位側ラインの間に直列に設けられ、前記直流電圧を分圧する複数の分圧素子と、
前記複数の分圧素子それぞれの高電位側電極に接続される高電位側端子と、前記複数の分圧素子それぞれの低電位側電極に接続される低電位側端子とから入力される分圧された直流電圧を交流電圧に変換して前記複数のアクチュエータにそれぞれ供給する複数のインバータと、
前記複数のアクチュエータそれぞれの電力需要情報を取得する電力需要情報取得部と、
前記複数のアクチュエータそれぞれの電力需要情報に基づいて、前記各インバータの高電位側端子と低電位側端子の間の導通状態を制御する制御部と
を備え
、
前記電力需要情報は、前記各アクチュエータの動作状態に関する測定情報であり、
前記制御部は、動作していないアクチュエータに対応するインバータの高電位側端子と低電位側端子の間を導通させる駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインバータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場で使用される建設機械(以下、建機ともいう)として、電動機(以下、電気モータまたはモータともいう)で駆動される電動建機や、油圧機器と電動機が併用されるハイブリッド建機が知られている(以下、総称して電動建機ともいう)。モータの回転動力で駆動されるボールねじ等の機械要素によって電動建機の各駆動部を直接的に駆動する方式のアクチュエータは電気機械式アクチュエータ(EMA:Electro-Mechanical Actuator)と呼ばれ、モータの回転動力で駆動される油圧ポンプ等の油圧機器によって電動建機の各駆動部を間接的に駆動する方式のアクチュエータは電気油圧式アクチュエータ(EHA:Electro-Hydrostatic Actuator)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動建機の各駆動部、例えば、下部走行体、上部旋回体、ブーム、アーム、バケットをモータで駆動する場合、共通の電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換して各モータに供給するインバータが各駆動部に設けられる。通常、これらの複数のインバータは、電源の高電位側端子に接続された共通の高電位側ラインと、電源の低電位側端子に接続された共通の低電位側ラインの間に並列に設けられる。この場合、並列接続された全てのインバータに常に大きな直流電圧が印加されるが、電動建機の稼働中に全ての駆動部が同時に最大負荷で駆動されることはほとんどなく、駆動されていない駆動部や負荷の小さい駆動部のインバータへの直流電圧が無駄になっている。本発明者は、このような無駄な電力を削減することで、電動建機を省電力化できる可能性を認識した。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、省電力化が可能なインバータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインバータ制御装置は、高電位側ラインと低電位側ラインの間で直流電圧が入力される直流電圧入力部と、高電位側ラインと低電位側ラインの間に直列に設けられ、直流電圧を分圧する複数の分圧素子と、複数の分圧素子それぞれの高電位側電極に接続される高電位側端子と、複数の分圧素子それぞれの低電位側電極に接続される低電位側端子とから入力される分圧された直流電圧を交流電圧に変換して複数のアクチュエータにそれぞれ供給する複数のインバータと、各アクチュエータの電力需要情報を取得する電力需要情報取得部と、各アクチュエータの電力需要情報に基づいて、各インバータの高電位側端子と低電位側端子の間の導通状態を制御する制御部とを備える。
【0007】
この態様では、各アクチュエータの電力需要情報に基づいて、直列接続された各インバータの端子間の導通状態が制御される。例えば、電力需要のないアクチュエータのインバータの端子間を完全に導通させれば、当該インバータの端子間の直流電圧は0となって無駄な電力が削減されるとともに、余剰の電力は直列接続された他のインバータで有効に消費される。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、省電力化が可能なインバータ制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】電動建機の各駆動部に対応するドライバの詳細な構成を示す図である。
【
図5】制御部が各インバータのトランジスタの各制御電極に印加する制御信号を模式的に示す図である。
【
図6】電動建機の各種の動作時の各駆動部の負荷を模式的に示す図である。
【
図7】インバータ制御装置の変形例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のインバータ制御装置は、交流電圧で駆動される複数のアクチュエータを備える任意の装置に適用できる。したがって、適用対象の装置が特に限定されるものではないが、本実施形態ではアクチュエータによって駆動される複数の駆動部を備える電動建機の例を説明する。また、本実施形態ではモータの回転動力で駆動される機械要素によって電動建機の各駆動部を直接的に駆動するEMAをアクチュエータとして例示するが、本発明はモータの回転動力で駆動される油圧機器によって電動建機の各駆動部を間接的に駆動するEHAにも適用できる。
【0012】
図1は、電動建機100の概略構成図である。
図2は、電動建機100の上面図である。なお、以下の説明において、前後上下左右等の向きは、電動建機100の向きと同一とする。すなわち、以下の説明では、電動建機100の進行方向前方を単に前方と称し、電動建機100の進行方向後方を単に後方と称し、重力方向上側を単に上側と称し、重力方向下側を単に下側と称し、前方を向いて車幅方向右側を単に右側と称し、車幅方向左側を単に左側と称して説明する。
【0013】
建設機械である電動建機100では、地面を前方および後方に走行可能な下部走行体101の上に上部旋回体102が旋回可能に取り付けられている。上部旋回体102は、電動建機100に設けられたインバータ制御装置1(
図3参照)によって、下部走行体101に対して旋回駆動される。
【0014】
上部旋回体102には、前方左側にキャブ103が設けられると共に、前方中央部にブーム104が起伏可能に取り付けられている。ブーム104の先端には、アーム105が上下に屈曲可能に取り付けられている。アーム105の先端には、バケット106が上下に屈曲可能に取り付けられている。
【0015】
キャブ103の前方左側には、ジャイロセンサ110が取り付けられている。換言すれば、上部旋回体102において、旋回中心C1から最大限離間した位置にジャイロセンサ110が取り付けられている。ジャイロセンサ110は、キャブ103(下部走行
体101、上部旋回体102)の傾斜角度、傾斜方向、旋回位置、回転角速度を検出可能なセンサである。なお、傾斜方向とは、傾斜の上り方向または下り方向をいう。
【0016】
以下、下部走行体101、上部旋回体102、ブーム104、アーム105、バケット106を電動建機100の駆動部と総称する。したがって、
図1、2の電動建機100は5個の駆動部を有する建設機械である。なお、下部走行体101は地面を走行可能な走行部を構成し、上部旋回体102は走行部に対して旋回可能な旋回部を構成し、ブーム104、アーム105、バケット106は旋回部に取り付けられて作業を行う作業部を構成する。
【0017】
図3は、インバータ制御装置1の概略構成図である。インバータ制御装置1は、直流電源10と、5個の駆動部に対応して設けられる5個のコンデンサ21~25(コンデンサ20と総称する)と、5個の抵抗31~35(抵抗30と総称する)と、5個のインバータ41~45(インバータ40と総称する)を備える。5個のインバータ41~45は、直流電源10から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、各駆動部のアクチュエータとしての5個のモータ51~55(モータ50と総称する)にそれぞれ供給する。以下、5個の駆動部に対応して設けられるコンデンサ21~25、抵抗31~35、インバータ41~45のそれぞれの組をドライバ91~95と総称する。また、5個のドライバ91~95をドライバ90と総称する。
【0018】
図4は、各駆動部に対応するドライバ90の詳細な構成を示す。各ドライバ90のインバータ40は、高電位側端子401と低電位側端子402の間で入力される直流電圧に基づいて3相の交流電力を生成する。具体的には、直流電圧に基づいてU相の交流電流I
Uを生成するU相インバータ40Uと、直流電圧に基づいてV相の交流電流I
Vを生成するV相インバータ40Vと、直流電圧に基づいてW相の交流電流I
Wを生成するW相インバータ40Wが並列に設けられる。各相のインバータ40U、40V、40Wの構成は共通であるため、以下では適宜インバータ40と総称してまとめて説明する。
【0019】
インバータ40は、高い直流電位が入力される高電位側端子401と、低い直流電位が入力される低電位側端子402と、両入力端子401、402の直流電位の間で変動する交流電圧を出力する出力端子403を備える。高電位側端子401と出力端子403の間には高電位トランジスタ404Hが接続され、低電位側端子402と出力端子403の間には低電位トランジスタ404Lが接続される。各トランジスタ404H、404Lは、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成されるが、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)や、バイポーラトランジスタ等の他のタイプのトランジスタで構成してもよい。
【0020】
高電位トランジスタ404Hおよび低電位トランジスタ404Lは、それぞれの制御電極に印加される制御部60(
図3参照)からの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。具体的には、インバータ40の通常稼働時において、後述する制御部60のPWM信号生成部62が、高電位トランジスタ404Hおよび低電位トランジスタ404Lからなるトランジスタ対404の導通状態を相補的に切り替えるスイッチング制御を行うことで直流電力を交流電力に変換する。ここで「相補的に切り替える」とは、各トランジスタ404H、404Lの一方がオンの時に他方がオフになるように制御することを意味する。すなわち、トランジスタ404Hがオンの時はトランジスタ404Lをオフとし、トランジスタ404Lがオンの時はトランジスタ404Hをオフとする。これによって、高電位トランジスタ404Hがオンの時は出力端子403に高電位が現われて他相のコイルとの間で正の電流を流し、低電位トランジスタ404Lがオンの時は出力端子403に低電位が現われて他相のコイルとの間で負の電流を流す。このようなスイッチング制御を繰り返すことで、出力端子403には正と負の電流が交互に流れるため交流電力が生成される。
【0021】
インバータ40で生成された3相の交流電流IU、IV、IWは、電動建機100の各駆動部を駆動するモータ50に供給される。モータ50は、U相、V相、W相の3相のコイルを備える3相ブラシレスモータである。U相コイルにはU相インバータ40UからのU相電流IUが流れ、V相コイルにはV相インバータ40VからのV相電流IVが流れ、W相コイルにはW相インバータ40WからのW相電流IWが流れる。各相のインバータ40U、40V、40Wは、モータ50の複数(例えば3個)のホール素子が検知した回転子の回転位置に基づき、互いに位相が異なる交流電流IU、IV、IWを各相のコイルに流すことで回転磁界を発生させる。この回転磁界によって回転する回転子から所望の回転動力が得られる。なお、モータ50は、交流電力で駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ50の相の数は3に限られず、2以上の任意の自然数でよい。
【0022】
インバータ40に並列に設けられるコンデンサ20および抵抗30は、インバータ40の動作を安定させる機能を持つ。例えば、コンデンサ20は直流電源10から入力される直流電圧を平滑して波形を整える機能を持ち、抵抗30は直流電圧の急激な変動を緩和する機能を持つ。
【0023】
図3に戻り、各駆動部に対応するドライバ90(コンデンサ20、抵抗30、インバータ40の組)の配置を説明する。
図3の例では、直流電源10の高電位側端子に接続された高電位側ライン11と、直流電源10の低電位側端子に接続された低電位側ライン12の間に、第1~第4のドライバ91~94が直列に設けられる。また、第5のドライバ95は、高電位側ライン11と低電位側ライン12の間に、第1~第4のドライバ91~94と並列に設けられる。
【0024】
直列に接続された第1~第4のドライバ91~94において、コンデンサ21~24は、高電位側ライン11と低電位側ライン12の間で入力される直流電源10からの直流電圧を分圧する分圧素子として機能する。そして、インバータ41~44は、各分圧コンデンサ21~24の高電位側電極と低電位側電極から入力される分圧された直流電圧を交流電圧に変換して各モータ51~54に供給する。このように、直列に接続された第1~第4のドライバ91~94の間で、直流電源10からの直流電圧の分配が行われる。一方、第1~第4のドライバ91~94と並列に接続された第5のドライバ95には、直流電源10からの直流電圧がそのまま印加される。なお、直流電圧を分圧する分圧素子はコンデンサに限らず、高電位側ライン11と低電位側ライン12の間に直列に接続されたドライバと同数の複数の抵抗でもよい。
【0025】
5個のドライバ91~95を5個の駆動部に割り当てる方法は任意であるが、各駆動部の負荷を考慮するのが好ましい。例えば、常に最大の直流電圧が印加される第5のドライバ95を、高い頻度で大きな負荷がかかる下部走行体101や上部旋回体102に割り当てることによって、負荷が大きくなっても安定した駆動が可能になる。以下の説明では、第5のドライバ95が上部旋回体102に割り当てられるものとする。また、分圧された直流電圧が印加される第1~第4のドライバ91~94は、負荷が小さい駆動部や、負荷のかかるタイミングが互いに異なる複数の駆動部に割り当てるのが好ましい。
【0026】
例えば、作業部を構成するブーム104、アーム105、バケット106は、作業中に同じタイミングで駆動されることが多いが、それぞれにかかる負荷は小さいため分圧された直流電圧でも十分に駆動できる。また、作業部の作業中に下部走行体101が走行することや、下部走行体101の走行中に作業部が作業することはほとんどなく、作業部と下部走行体101で負荷がかかるタイミングは互いに異なる。このため、作業部を構成する3個の駆動部(ブーム104、アーム105、バケット106)と下部走行体101を第1~第4のドライバ91~94に割り当てることで、作業部の作業中にはブーム104、アーム105、バケット106に電力を供給でき、下部走行体101の走行中には下部走行体101に電力を供給できる。このように、作業部と下部走行体101の間で効率的な電力の分配が実現される。電力の分配の具体的な方法については後述する。
【0027】
なお、電動建機100が5個のドライバ91~95を有する
図3の例では4個のドライバ91~94を直列接続し1個のドライバ95を並列接続したが、直列接続されるドライバの数は2以上の任意の整数でよく、並列接続されるドライバの数は0以上の任意の整数でよい。直列接続されるドライバの数を括弧内で区切って表記すれば
図3の例は(4,1)となるが、この変形例として(5)、(3,2)、(3,1,1)、(2,2,1)、(2,1,1,1)、(1,1,1,1,1)の組合せが考えられる。ここで、最後の変形例(1,1,1,1,1)は、5個のドライバ91~95が高電位側ライン11と低電位側ライン12の間に並列に設けられる例であり、上記の直列接続されたドライバ間の電力分配の効果は得られない。逆に、最初の変形例(5)は、5個のドライバ91~95が高電位側ライン11と低電位側ライン12の間に直列に設けられる例であり、全ての駆動部の間で電力が分配される。
【0028】
後述するように、直列接続されたドライバ(
図3の例では91~94)の内、一部のドライバへの電力供給を無効化して、余剰電力を他のドライバに供給することもできる。Nを4以上の自然数として直列接続されたドライバの総数がN(
図3の例では4)の場合、電力供給を無効化するドライバの最大数をN-2(
図3の例では2)に限定すれば、常に少なくとも2個のドライバに電力供給が行われている状態を実現できる。この場合、1個のドライバに直流電源10からの直流電圧が集中することがないため(並列接続されたドライバ95を除く)、各ドライバを耐圧の低い安価な部品で構成できる。このような直列接続されたN個のドライバを各駆動部に割り当てる方法は任意であるが、下部走行体101、ブーム104、アーム105、バケット106にN(4)個のドライバを割り当てる以下の例に限らず、上部旋回体102、ブーム104、アーム105、バケット106にN(4)個のドライバを割り当ててもよい。
【0029】
続いて、直列接続されたドライバ(
図3の例では91~94)の間で電力を効率的に分配する方法を説明する。以下の説明では、上記の例に従って、下部走行体101、ブーム104、アーム105、バケット106の4個の駆動部が、この順で第1~第4のドライバ91~94に割り当てられているものとする。
【0030】
第1の電力分配方法では、各ドライバ91~94の分圧コンデンサ21~24の容量値を利用する。例えば、4個の駆動部のうち、負荷が比較的大きい下部走行体101の分圧コンデンサ21の容量値を小さくし、負荷が比較的小さいブーム104、アーム105、バケット106の分圧コンデンサ22~24の容量値を大きくする。分圧コンデンサ21~24の電極間の電圧は容量値に反比例するため、容量値が小さいほど分圧される直流電圧が大きくなる。このように、容量値の小さい分圧コンデンサ21には大きな直流電圧が分圧されるため、負荷の大きい下部走行体101を安定して走行駆動できる。なお、各分圧コンデンサ21~24の容量値は可変としてもよく、後述する電力需要情報取得部70が取得する電力需要情報から各駆動部の負荷をリアルタイムで検知し、それに応じて各分圧コンデンサ21~24の容量値をリアルタイムで変化させてもよい。
【0031】
第2の電力分配方法では、制御部60が、各モータ51~54の電力需要情報に基づいて、各インバータ41~44の高電位側端子401と低電位側端子402の間の導通状態を制御する。具体的には、制御部60の導通状態制御部61が、各インバータ41~44のトランジスタ404H、404Lの各制御電極に制御信号を印加して、各インバータ41~44の導通状態を制御する。
【0032】
図5は、制御部60が各インバータ41~44のトランジスタ404H、404Lの各制御電極に印加する制御信号を模式的に示す。
図5(A)は制御部60が高電位トランジスタ404Hの制御電極に印加する制御信号の例を示し、
図5(B)は制御部60が低電位トランジスタ404Lの制御電極に印加する制御信号の例を示し、
図5(C)は出力端子403を流れる電流の例を示す。
【0033】
ここで、パルスP1は制御部60の導通状態制御部61が生成し、パルスP2は制御部60のPWM信号生成部62が生成する。
【0034】
導通状態制御部61は、駆動する必要のない駆動部のインバータ40(4個のインバータ41~44の少なくとも一つ)の両トランジスタ404H、404Lを同時にオンにするパルスP1を生成する。両トランジスタ404H、404Lがオンになると、インバータ40の高電位側端子401と低電位側端子402の間が導通するため、両端子401、402間の直流電圧が0になる。このため、インバータ40は実質的に無効化される。このように、動作させる必要のないインバータ40での電力消費が防止されるとともに、余剰の電力は直列接続された他のインバータで有効に消費される。
【0035】
ここで、分圧コンデンサ20に大きな電荷が蓄積されている状態でパルスP1によってインバータ40の高電位側端子401と低電位側端子402の間を短絡すると、分圧コンデンサ20に蓄積された電荷による過大な短絡電流がインバータ40を流れる可能性がある。これを防止するために、導通状態制御部61は、各インバータ40の高電位側端子401と低電位側端子402の間を導通させる際、両トランジスタ404H、404Lの制御電極に印加するパルスP1のデューティ比を徐々に大きくしてもよい。すなわち、
図5に示されるパルスP1を小区間に分割し、各小区間におけるパルスP1のデューティ比を0%から100%まで徐々に大きくすることで過大な短絡電流の発生を防止できる。換言すれば、導通開始時点において両トランジスタ404H、404Lの制御電極に印加するパルスP1のデューティ比を、導通開始時点より後の少なくとも一時点においてトランジスタ404H、404Lの制御電極に印加するパルスP1のデューティ比より小さくする。
【0036】
なお、次に説明するPWM信号生成部62が生成するパルスP2と異なり、導通状態制御部61が生成するパルスP1は、トランジスタ対404の導通状態を相補的に切り替えるものではない。すなわち、一方のトランジスタがオンの時に他方のトランジスタもオンになるため、通常のインバータ動作が行われない。
【0037】
PWM信号生成部62が生成するパルスP2は、インバータ41~44の通常のインバータ動作のためのパルス幅変調(PWM: pulse width modulation)信号である。
図5(C)の正弦波状の交流を生成するために、正弦波の正の区間では
図5(A)のように高電位トランジスタ404Hを間欠的にオン状態とする幅の異なるパルス群P21が生成され、正弦波の負の区間では
図5(B)のように低電位トランジスタ404Lを間欠的にオン状態とする幅の異なるパルス群P22が生成される。
【0038】
なお、導通状態制御部61およびPWM信号生成部62は、インバータ40のトランジスタ対404への制御信号(パルス)を生成するという共通の機能を有するため、同一または共通のハードウェア資源によって構成できる。後述するように、各インバータ40に導通状態制御部61のパルスP1が印加される停止フェーズと、各インバータ40にPWM信号生成部62のパルスP2が印加される通常フェーズは、電動建機100の動作に応じて動的に切り替わる。フェーズが切り替わる際にパルスP1、P2を一方から他方に短い時間で切り替えると、コンデンサ20、抵抗30、インバータ40等のドライバ90の各構成要素に過大な負荷がかかる可能性があるため、一方のパルスから他方のパルスへの遷移は、デューティ比を緩やかに変化させながら徐々に行うのが好ましい。
【0039】
図5の変形例として、PWM信号生成部62が生成する通常のインバータ動作のためのパルスP2に、導通状態制御部61が生成するインバータ端子間の直流電圧制御のためのパルスP1を所定の割合で織り交ぜてもよい。この時、インバータ40はパルスP2によって通常のインバータ動作を行うが、織り交ぜられるパルスP1の割合に応じて高電位側端子401と低電位側端子402の間の直流電圧が低下するため、低電圧でのインバータ動作を実現できる。
【0040】
図5のパルスP1(導通状態制御部61)およびパルスP2(PWM信号生成部62)の切替えを行うために、インバータ制御装置1は電力需要情報取得部70を更に備える。電力需要情報取得部70は、電流値取得部71と動作指令取得部72を備え、各駆動部のモータ51~55の電力需要情報を取得する。ここで、電流値取得部71によって取得される電流値および動作指令取得部72で取得される動作指令は、各モータ50の電力需要を表す電力需要情報の一例である。
【0041】
電流値取得部71は、各モータ50の動作状態に関する測定情報として、各モータ50の各相のコイルの電流IU、IV、IWの測定値を取得する。制御部60は、取得された電流値に基づいて各モータ50の動作状態を把握でき、動作しているモータ50に対応するインバータ40にはPWM信号生成部62が通常のインバータ動作のためのパルスP2を加え、動作していないモータ50に対応するインバータ40には導通状態制御部61がインバータ動作を無効化して無駄な電力消費を防止するためのパルスP1を加える。なお、各モータ50の動作状態に関する測定情報は、各相のコイルの電流IU、IV、IWの測定値に限らず、回転子の回転数の測定値でもよい。これらの測定情報はいずれも各モータ50の電力需要を表す電力需要情報の一例である。
【0042】
動作指令取得部72は、電動建機100のオペレータが操作する操作レバー等の動作指令部80からの各モータ50に対する動作指令を電力需要情報として取得する。制御部60は、取得された動作指令に基づいて各モータ50が取るべき動作を把握でき、動作が求められるモータ50に対応するインバータ40にはPWM信号生成部62が動作指令部80からの動作指令に応じた通常のインバータ動作のためのパルスP2を加え、動作が求められないモータ50に対応するインバータ40には導通状態制御部61がインバータ動作を無効化して無駄な電力消費を防止するためのパルスP1を加える。
【0043】
図6は、電動建機100の各種の動作時の各駆動部の負荷を模式的に示す。上記の例に従って、下部走行体101(本図では「走行」と示される)、ブーム104、アーム105、バケット106の4個の駆動部が、この順で直列接続された第1~第4のドライバ91~94に割り当てられており、上部旋回体102(本図では「旋回」と示される)が並列接続された第5のドライバ95に割り当てられている。
【0044】
掘削時は、下部走行体101が小刻みに移動しながら、作業部を構成するブーム104、アーム105、バケット106が最大負荷で稼働する。下部走行体101の負荷は小さいため、これを駆動するドライバ91に印加されるPWM信号生成部62のパルスP2に導通状態制御部61のパルスP1を織り交ぜることで、低電圧でインバータ動作させてもよい。これによって、負荷が大きな作業部の3個の駆動部に余剰の電力を分配できる。また、掘削時に上部旋回体102を駆動する必要がない場合は、導通状態制御部61のパルスP1によってドライバ95を無効化してもよい。
【0045】
法面押し当て時は、下部走行体101が停止した状態で上部旋回体102が旋回し、作業部を法面に押し当てる。下部走行体101を駆動する必要がないため、導通状態制御部61のパルスP1によってドライバ91を無効化して消費電力の低減を図る。上部旋回体102には大きな負荷がかかるが、これを駆動する第5のドライバ95には常に最大の直流電圧が印加されるため、安定した駆動が可能になる。
【0046】
90度旋回積み込み時は、下部走行体101が停止した状態で、作業部が掻き取った掘削物等を上部旋回体102の旋回によって所定の場所に積み込む。下部走行体101を駆動する必要がないため、導通状態制御部61のパルスP1によってドライバ91を無効化して、負荷が大きな作業部の3個の駆動部に余剰の電力を分配する。また、上部旋回体102には大きな負荷がかかるが、これを駆動する第5のドライバ95には常に最大の直流電圧が印加されるため、安定した駆動が可能になる。
【0047】
走行時は、上部旋回体102、ブーム104、アーム105、バケット106が停止した状態で、下部走行体101が走行する。ブーム104、アーム105、バケット106を駆動する必要がないため、導通状態制御部61のパルスP1によってドライバ92~94を無効化して、負荷が大きな下部走行体101のドライバ91に余剰の電力を分配する。これによって、ドライバ91には最大の直流電圧が印加されるため、安定した駆動が可能になる。また、走行時に上部旋回体102を駆動する必要がない場合は、導通状態制御部61のパルスP1によってドライバ95を無効化してもよい。
【0048】
以上のように、電動建機100の各種の動作において、駆動する必要がない駆動部や負荷が小さい駆動部のドライバに導通状態制御部61のパルスP1を印加することで、当該ドライバでの電力消費を抑制できるとともに、負荷の大きい他のドライバに余剰の電力を分配できる。したがって、本実施形態によれば電動建機100を省電力化できる。
【0049】
図7は、インバータ制御装置1の変形例の概略構成図である。この変形例では、3個のドライバ91~93が直列に接続され、それと並列にドライバ94、95がそれぞれ接続されている。上記の表記に従えば(3,1,1)の構成である。例えば、ドライバ91~93には作業部を構成するブーム104、アーム105、バケット106が割り当てられ、ドライバ94には下部走行体101が割り当てられ、ドライバ95には上部旋回体102が割り当てられる。
【0050】
インバータ制御装置1は、並列接続されたドライバ94、95に入力される直流電圧を昇圧および降圧可能な昇降圧回路13を備える。昇降圧回路13は、いわゆる昇降圧チョッパ回路あるいはバックブーストコンバータであり、トランジスタによる2個の半導体スイッチ131、132と、リアクトル133と、キャパシタ134を備える。
【0051】
電気二重層キャパシタ(EDLC: Electric double-layer capacitor)等で構成されるキャパシタ134には下部走行体101のモータ54および上部旋回体102のモータ55で発生した回生電力が蓄積され、半導体スイッチ131、132のスイッチング制御におけるデューティ比を変えることでリアクトル133を介して昇圧または降圧された回生電力が各駆動部に供給される。これらの回生電力は主として加減速による急激な負荷の変化を伴う下部走行体101および上部旋回体102に補助電力として供給されるが、作業部の負荷が一時的に増加した場合等はブーム104、アーム105、バケット106にも供給される。このように、昇降圧回路13によれば、電動建機100の各駆動部における電力の更なる有効活用が図られる。なお、高電位側ライン11のダイオード14は、回生電力が主電源としての直流電源10に悪影響を及ぼさないように設けられる。
【0052】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0053】
実施形態ではモータ50が電動建機100の各駆動部を直接的に駆動するEMAの例を説明したが、電動建機100の各駆動部はモータ50によって間接的に駆動されてもよい。例えば、各駆動部を直接的に駆動するのが油圧モータや油圧シリンダ等の油圧機器である場合、各油圧機器への油圧を制御する油圧バルブの制御にモータ50を用いることでアクチュエータをEHAとして構成してもよい。
【0054】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0055】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明はインバータ制御装置に関する。
【符号の説明】
【0057】
1 インバータ制御装置、10 直流電源、11 高電位側ライン、12 低電位側ライン、13 昇降圧回路、20 コンデンサ、40 インバータ、50 モータ、60 制御部、61 導通状態制御部、62 PWM信号生成部、70 電力需要情報取得部、71 電流値取得部、72 動作指令取得部、80 動作指令部、90 ドライバ、100 電動建機、101 下部走行体、102 上部旋回体、104 ブーム、105 アーム、106 バケット、401 高電位側端子、402 低電位側端子、403 出力端子、404 トランジスタ対。