(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】回路基板及びその製造方法、並びにパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20240807BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20240807BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240807BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240807BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240807BHJP
【FI】
H05K1/03 650
H05K1/03 630J
H01L23/12 C
H01L23/12 Q
H01L25/04 C
(21)【出願番号】P 2023550661
(86)(22)【出願日】2023-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2023011995
(87)【国際公開番号】W WO2023190244
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022060336
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼岡 知広
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】江嶋 善幸
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-086581(JP,A)
【文献】特開2009-158611(JP,A)
【文献】特開2013-118299(JP,A)
【文献】特開2010-206090(JP,A)
【文献】特開2017-011216(JP,A)
【文献】特開2022-000871(JP,A)
【文献】特開2021-150455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H01L 23/13
H01L 23/12
H01L 25/07
H05K 1/02
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック板と、金属板と、前記セラミック板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える回路基板であって、
前記金属板の前記主面の外縁
の一部
のみに沿って前記金属板に凹部が形成されており、
前記金属板の側面における前記凹部の端縁に直交し、前記金属板の厚さ方向に沿う断面で見たときに、前記凹部の幅Xが
0.3mm以下
、且つ前記凹部の投影面積が0.04~0.10mm
2
であり、
前記凹部を構成する前記金属板の壁面の入隅部が前記ろう材層で覆われている、回路基板。
【請求項2】
前記断面で見たときに、前記入隅部を覆う前記ろう材層が、前記入隅部から前記凹部の前記端縁に近づくにつれて前記セラミック板の前記主面から離れるように傾斜する傾斜部を有する、請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記断面において、前記凹部の高さZが0.1mm以上である、請求項1に記載の回路基板。
【請求項4】
前記断面において、前記凹部の幅Xが0.05~
0.3mm、及び、前記凹部の高さZが0.05~0.4mmである、請求項1に記載の回路基板。
【請求項5】
前記ろう材層は、銀、銅、錫、及び、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、及びニオブからなる群より選ばれる一種又は二種以上を含む、請求項1に記載の回路基板。
【請求項6】
前記ろう材層は、窒化チタン及び/又は水素化チタンを含む、請求項1に記載の回路基板。
【請求項7】
セラミック板と、複数の金属板と、前記セラミック板の主面と前記複数の金属板の主面のそれぞれとを接合する複数のろう材層と、を備え、
前記複数の金属板の少なくとも一つに前記凹部が形成されている、請求項1に記載の回路基板。
【請求項8】
一方の主面の外縁
の一部
のみに沿って凹部が形成されている一つ又は複数の金属板を準備する準備工程と、
セラミック板の主面にろう材を塗布及び乾燥して一つ又は複数の塗布層を設ける塗布乾燥工程と、
前記一つ又は複数の塗布層を挟むようにして前記セラミック板と前記一つ又は複数の金属板とを積層して積層体を作製する積層工程と、
前記積層体を加熱して前記セラミック板と前記一つ又は複数の金属板とが一つ又は複数のろう材層で接合された接合体を得る接合工程と、を有し、
前記金属板の側面における前記凹部の端縁に直交し、前記一つ又は複数の金属板の厚さ方向に沿う断面で見たときに、前記凹部の幅Xが
0.3mm以下
、且つ前記凹部の投影面積が0.04~0.10mm
2
であり、前記凹部を構成する前記金属板の壁面の入隅部が前記ろう材層で覆われており、
前記積層工程において、前記一つ又は複数の金属板の前記一方の主面と前記セラミック板の前記主面とが対向するように前記セラミック板と前記一つ又は複数の金属板とを積層する、回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記準備工程では前記凹部が形成されている複数の金属板を準備し、
前記積層工程では、前記複数の金属板のそれぞれが、前記セラミック板の前記主面における区画線で画定される区画領域毎に独立して設けられた前記積層体を作製し、
前記接合工程の後に、前記接合体における前記セラミック板を前記区画線に沿って分割する分割工程を有する、請求項8に記載の回路基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の回路基板と、当該回路基板の前記金属板に電気的に接続される半導体素子と、を備えるパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回路基板及びその製造方法、並びにパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット及びモーター等の産業機器の高性能化に伴い、大電流及び高電圧を制御するパワーモジュールが使用されている。このようなパワーモジュールに備えられる回路基板は、セラミック基板と銅板と備えており、これらは活性金属を含有するろう材を介して接合される。このような回路基板を形成する際に、ろう材が銅板の表面に染み出して銅板の側面を伝って這い上がる現象が生じる。このような現象が生じると、外観を損なうだけではなく、例えば半導体素子を接合する際に用いるはんだ材のぬれ製の悪化につながることも懸念される。
【0003】
特許文献1では、ろう材の這い上がりを抑制するため、金属板の側面に表面粗さの大きい粗部を設けることが提案されている。特許文献2では、這い上がり現象によるシミの発生を抑制するため、半導体素子が搭載される搭載予定面を囲むように回路層にリブを設ける技術が提案されている。特許文献3では、金属板のうち、バリが生じている側の表面をセラミック板の一方の面に重ねるようにして積層してろう付けすることが提案されている。このような技術によって、ろう材の這い上がりによって生じるシミの問題を解決することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/163941号
【文献】特開2020-155444号公報
【文献】特開2016-39163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多数個取りの回路基板の製造方法としては、エッチング法が知られている。エッチング法では、金属板を所定のサイズに加工するためにレジスト印刷及びエッチングの工程が必要となる。一方、予め所定のサイズに加工された金属板を接合する搭載法であれば、このような工程が不要となり、生産効率を向上することができる。このような搭載法の場合、金属板の端部とセラミック板との接合信頼性を確保するために、ろう材の塗布量を十分に確保する必要がある。ところが、ろう材の塗布量が多くなると、ろう材の這い上がりが生じることが懸念される。そこで、本開示は、ろう材の這い上がりを低レベルに抑制しつつ、金属板とセラミック板の接合信頼性に優れる回路基板及びその製造方法を提供する。また、本開示は、そのような回路基板を備えるパワーモジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る回路基板は、セラミック板と、金属板と、セラミック板の主面と金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える回路基板であって、金属板の主面の外縁の少なくとも一部に沿って金属板に凹部が形成されており、金属板の側面における凹部の端縁に直交し、金属板の厚さ方向に沿う断面(厚さ方向に平行な断面)で見たときに、凹部の幅Xが0.8mm以下である。
【0007】
上記回路基板では、金属板の主面の外縁の少なくとも一部に沿って金属板に凹部が形成されている。このような回路基板は、金属板のセラミック板側とは反対側の主面へのろう材の這い上がりを低レベルに抑制できる。そして、凹部の幅Xの値が所定の範囲にあるため、金属板の主面とセラミック板の主面との間のボイドを低減できる。このため、金属板とセラミック板との接合信頼性に優れる。したがって、このような回路基板は、外観及び半導体素子等の外部回路との接続信頼性に優れる。
【0008】
上記凹部を構成する金属板の壁面の少なくとも一部はろう材層で覆われていてもよい。これによって、凹部を構成する金属板の壁面とろう材層とが接することになるため、金属板とセラミック板との接合信頼性を一層向上することができる。
【0009】
上記凹部を構成する金属板の壁面の入隅部がろう材層で覆われており、上記断面で見たときに、入隅部を覆うろう材層が、入隅部から凹部の上記端縁に近づくにつれてセラミック板の主面から離れるように傾斜する傾斜部を有していてよい。これによって、金属板のセラミック板側とは反対側の主面へのろう材の這い上がりを低レベルに抑制しつつ、金属板とろう材層との接触面積を増やして金属板とセラミック板との接合信頼性を向上することができる。
【0010】
上記金属板における凹部は、金属板の主面の外縁の全周にわたって形成されていてよい。これによって、金属板のセラミック板側とは反対側への主面のろう材の這い上がりを一層低レベルに抑制することができる。
【0011】
上記断面において、凹部の幅Xが0.05~0.8mmであり、凹部の高さZが0.05~0.4mmであってよい。これによって、金属板の主面とセラミック板の主面との間のボイドを十分に低減しつつ、ろう材の這い上がりも十分低レベルに抑制することができる。
【0012】
上記断面における凹部の投影面積(幅X×高さZ)は、0.001~0.35mm2であってよい。これによって、金属板の主面とセラミック板の主面との間のボイドとろう材の這い上がりを一層低レベルに抑制することができる。
【0013】
本開示の一側面に係る回路基板は、セラミック板と、複数の金属板と、セラミック板の主面と前記複数の金属板の主面のそれぞれとを接合する複数のろう材層と、を備え、複数の金属板の少なくとも一つに上記凹部が形成されていてもよい。
【0014】
上記回路基板では、複数の金属板の少なくとも一つにおける主面の外縁の少なくとも一部に沿って凹部が形成されている。このような回路基板は、凹部が形成されている金属板のセラミック板側とは反対側の主面へのろう材の這い上がりを低レベルに抑制できる。そして、凹部の幅Xの値が所定の範囲にあるため、金属板の主面とセラミック板の主面との間のボイドを低減できる。このため、金属板とセラミック板との接合信頼性に優れる。したがって、このような回路基板は、外観及び半導体素子等の外部回路との接続信頼性に優れる。なお、複数の金属板のそれぞれは、セラミック板の主面における区画線で画定される区画領域毎に独立して設けられてよい。このような回路基板は、多数個取り回路基板であってよい。このような多数個取り回路基板を分割すれば、複数の個片化基板(分割基板)を纏めて製造することができる。このような回路基板は、生産効率に優れる。
【0015】
本開示の一側面に係る回路基板の製造方法は、一方の主面の外縁の少なくとも一部に沿って凹部が形成されている一つ又は複数の金属板を準備する準備工程と、セラミック板の主面にろう材を塗布及び乾燥して一つ又は複数の塗布層を設ける塗布乾燥工程と、一つ又は複数の塗布層を挟むようにしてセラミック板と一つ又は複数の金属板とを積層して積層体を作製する積層工程と、積層体を加熱してセラミック板と一つ又は複数の金属板とが一つ又は複数のろう材層で接合された接合体を得る接合工程と、を有し、金属板の側面における凹部の端縁に直交し、一つ又は複数の金属板の厚さ方向に沿う断面で見たときに、凹部の幅Xが0.8mm以下であり、積層工程において、一つ又は複数の金属板の一方の主面とセラミック板の主面とが対向するようにセラミック板と一つ又は複数の金属板とを積層する。
【0016】
上記製造方法では、積層工程で、一つ又は複数の金属板の主面のうち凹部が形成されている方の主面と金属板とが対向するようにセラミック板と一つ又は複数の金属板とを積層している。この金属板に形成される凹部の幅Xの値が所定の範囲にある。このようにして得られる積層体を用いて接合工程を行って得られる回路基板は、ろう材が金属板のセラミック板側とは反対側の主面へのろう材の這い上がりを低レベルに抑制できる。また、このような回路基板は、凹部の幅Xの値が所定の範囲にあるため、金属板の主面とセラミック板の主面との間のボイドを低減できる。このため、金属板とセラミック板との接合信頼性に優れる。したがって、このような回路基板は、外観及び半導体素子等の外部回路との接続信頼性に優れる。
【0017】
上記製造方法の準備工程では凹部が形成されている複数の金属板を準備し、積層工程では、複数の金属板のそれぞれが、セラミック板の主面における区画線で画定される区画領域毎に独立して設けられた積層体を作製し、接合工程の後に、接合体におけるセラミック板を区画線に沿って分割する分割工程を有してよい。
【0018】
このような接合工程で得られる接合体は、多数個取り回路基板ということもできる。分割工程において、このような多数個取り回路基板を分割すれば、複数の個片化基板(分割基板)を纏めて製造することができる。このような製造方法は、高い生産効率で回路基板(個片化基板)を製造することができる。
【0019】
本開示の一側面に係るパワーモジュールは、上述のいずれかの回路基板と、当該回路基板の金属板に電気的に接続される半導体素子と、を備える。このようなパワーモジュールは、上述のいずれかの回路基板を備えることから信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0020】
ろう材の這い上がりを低レベルに抑制しつつ、金属板とセラミック板の接合信頼性に優れる回路基板及びその製造方法を提供することができる。また、そのような回路基板を備えるパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】
図3は、
図2の回路基板のIII-III線断面図である。
【
図4】
図4は、
図3の断面の一部を拡大して示す断面図である。
【
図6】
図6(A)は、実施例1の回路基板の厚さ方向に沿う断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図6(B)は、実施例1の回路基板の超音波探傷検査の結果を示す写真である。
【
図7】
図7(A)は、比較例4の回路基板の厚さ方向に沿う断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図7(B)は、比較例4の回路基板の超音波探傷検査の結果を示す写真である。
【
図8】
図8は、比較例6の回路基板の厚さ方向に沿う断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。なお、「~」の記号で示される数値範囲は、下限値及び上限値を含む。すなわち、「x~y」で示される数値範囲は、x以上且つy以下を意味する。各実施形態における各数値範囲の上限又は下限をいずれかの実施例の数値で置き換えた数値範囲も本開示に含まれる。
【0023】
一実施形態に係る回路基板は、セラミック板と、金属板と、セラミック板の主面と金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える。一枚のセラミック板の一方の主面に接合される金属板は、一つであってもよいし、複数であってもよい。セラミック板の材質は特に制限されず、例えば、窒化物焼結体、炭化物焼結体、又は酸化物焼結体で構成されていてよい。具体的には、窒化ケイ素焼結体、窒化アルミニウム焼結体、酸化アルミニウム焼結体、及び炭化ケイ素焼結体等が挙げられる。セラミック板の板状であれば特に制限されない。セラミック板の厚みは、例えば0.2~2mmであってよく、0.32~1.1mmであってもよい。
【0024】
金属板は、例えば銅板であってよい。金属板は、セラミック板の主面に対向する主面の外縁の少なくとも一部に沿って凹部が形成されている。金属板の厚み(主面間の距離)は、例えば0.1~1.2mmであってよく、0.2~1.0mmであってもよい。金属板は表面にめっき膜を有していてもよい。凹部は屈曲した壁面によって構成されていてよい。すなわち、金属板は、凹部に入隅部を有してよい。この入隅部は、金属板の側面における凹部の端縁と平行に延びていてよい。金属板がこのような凹部を備えることによって、ろう材が金属板のセラミック板側とは反対側の主面へ這い上がることを一層低レベルに抑制することができる。
【0025】
ろう材層は、銀及び銅を含んでよく、さらに、錫及び活性金属からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属を含有してよい。二種以上の金属は合金となっていてもよい。活性金属は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、及びニオブからなる群より選ばれる一種又は二種以上を含んでいてよい。ろう材層に含まれる銀及び銅は、例えばAg-Cu共晶合金等の合金としてろう材層に含まれていてもよい。ろう材層における銀の含有量は、Ag換算で45~95質量%であってよく、50~95質量%であってもよい。ろう材層における銀及び銅の合計含有量は、それぞれAg及びCuに換算して65~100質量%であってよく、70~99質量%であってよく、90~98質量%であってもよい。これによって、ろう材層における残留応力を十分に低減しつつ、ろう材層の緻密性を向上することができる。
【0026】
ろう材層における活性金属の含有量は、Ag及びCuの合計100質量部に対して、0.5~8質量部であってよい。活性金属の含有量を0.5質量部以上とすることで、セラミック板とろう材層との接合性を向上することができる。一方、活性金属の含有量を8質量部以下とすることで、接合界面に脆弱な合金層が形成されることを抑制できる。
【0027】
ろう材層に含有される上記金属は、窒化物、酸化物、炭化物又は水素化物として含まれていてもよい。一例として、ろう材層は、窒化チタン及び/又は水素化チタン(TiH2)を含んでいてよい。これによって、セラミック板と金属板との接合強度を十分に高くすることができる。AgとCuの合計100質量部に対するTiH2の含有量は例えば1~8質量部であってよい。
【0028】
図1は、本実施形態に係る回路基板の一例を示す斜視図である。
図2は、
図1の回路基板の平面図であり、
図3は、
図2のIII-III線断面図である。
図1、
図2及び
図3に示すように、回路基板100は、セラミック板10と、セラミック板10の主面10A及び主面10B上に複数の金属板20と、を備える。
【0029】
セラミック板10は、平板形状を有する。セラミック板10は主面10Aにおける区画線によって複数に区画されている。主面10Aには、区画線として、第1の方向に沿って延在し且つ等間隔で並ぶ複数の区画線L1と、第1の方向に直交する第2の方向に沿って延在し且つ等間隔で並ぶ複数の区画線L2と、が設けられている。区画線L1と区画線L2とは互いに直交している。
【0030】
区画線L1,L2は、例えば、複数の凹みが直線状に並んで構成されていてもよいし、線状に溝が形成されていてもよい。具体的には、レーザー光で形成されるスクライブラインであってよい。レーザー源としては、例えば、炭酸ガスレーザー及びYAGレーザー等が挙げられる。このようなレーザー源からレーザー光を間欠的に照射することによってスクライブラインを形成することができる。なお、区画線L1,L2は、等間隔で並んでいなくてもよく、また、直交するものに限定されない。また、区画線L1,L2は、直線状ではなく、曲線状であってもよいし、折れ曲がっていてもよい。
【0031】
セラミック板10は、区画線L1及び区画線L2によって画定される複数の区画領域50を有する。複数の区画領域50のそれぞれに、金属板20が設けられている。複数の金属板20は、それぞれ互いに独立している。回路基板100は、集合基板とも称されるものであり、区画線L1,L2に沿って分割することができる。分割することによって複数の回路基板(個片化基板)を得ることができる。このように分割して得られる個片化基板も、本実施形態の回路基板の一例である。
【0032】
金属板20の一方の主面20Aは外部に露出している。金属板20の他方の主面20Bとセラミック板10の主面10A(主面10B)は、ろう材層30によって接合されている。金属板20の主面20B(ろう材層30との接合面)の外縁に沿って、金属板20には凹部22が形成されている。このような凹部22が形成された金属板20は、主面20Bの外側が階段状になるように切り欠かれたものであってよい。
図2に示されるように、凹部22は、金属板20の主面20Bにおける外縁の全周にわたって形成されている。すなわち、主面20Bの外縁は凹部22で形成されている。ただし、凹部22を主面20Bの外縁の全周にわたって設けることは必須ではない。変形例では、金属板20の上に半導体素子が搭載される際に半田付けがなされる部分の近傍のみに、凹部22を設けてもよい。また、複数の金属板20の一部のみに凹部22を設けてもよい。例えば、パワーモジュールの放熱板となる金属板20には凹部22を設けなくてもよい。
【0033】
図3に示すように、凹部22を構成する金属板20の壁面はろう材層30で覆われている。すなわち、ろう材層30の端部が、凹部22を構成する金属板20の壁面を覆っている。金属板20は、このようなろう材層30によって、セラミック板10に強固に固定される。したがって、金属板20とセラミック板10の接合信頼性を向上することができる。なお、ろう材層30が凹部22を構成する金属板20の壁面の全てを覆うことは必須ではなく、変形例では、当該壁面の一部のみを覆っていてもよい。
【0034】
図4は、
図3に示す回路基板100の断面の一部を拡大して示している。
図3及び
図4は、ともに、金属板20の側面20Cにおける凹部22の端縁27に直交し、金属板20の厚さ方向に沿う断面を示している。この断面は、凹部22の端縁27の延在方向に直交し、且つ金属板20及びセラミック板10の厚さ方向に沿って回路基板100を切断することによって得ることができる。このような断面で見たときに、凹部22の幅Xは、0mmを超え且つ0.8mm以下である。上記断面で見たときに、凹部22の高さZは、例えば0mmを超え且つ0.4mm以下であってよい。幅Xは、
図3及び
図4に示す断面において、セラミック板10の主面10A,主面10Bに対して平行な方向に沿って測定される。高さZは、
図3及び
図4に示す断面において、セラミック板10の主面10A,主面10Bに対して垂直な方向に沿って測定される。
【0035】
幅Xが0.8mm以下である凹部22を備えることによって、金属板20の主面20Bとセラミック板10の主面10A及び主面10Bとの間のボイドを低減し、接合面積を十分に大きくすることができる。このような回路基板100は、金属板20とセラミック板10との接合信頼性に優れる。
【0036】
金属板20のセラミック板10側とは反対側の主面20Aへのろう材の這い上がりを一層低レベルに抑制する観点から、幅Xは、0.05mm以上であってよく、0.15mm以上であってよく、0.2mm以上であってもよい。同様の観点から、高さZは、0.05mm以上であってよく、0.15mm以上であってもよい。幅X及び又は高さZが大きくなると、ろう材層30から金属板20の側面20Cまでの距離が長くなる。したがって、金属板20の主面20Aへのろう材の這い上がりを十分に抑制することができる。
【0037】
一方、幅Xが大きくなり過ぎると、金属板20とセラミック板10との間のボイドが増加する傾向にある。また、回路基板100を用いてパワーモジュールを作製したときに、凹部22に樹脂が充填され難くなる傾向にある。金属板20とセラミック板10との接合信頼性を一層向上する観点から、幅Xは、0.8mm以下であってよく、0.5mm以下であってよく、0.2mm以下であってもよい。これによって、ボイドの面積割合を十分に小さくすることができる。
【0038】
高さZが大きくなり過ぎると、回路基板100を用いてパワーモジュールを作製したときに、凹部22に樹脂が十分に充填されなくなる場合がある。このため、高さZは、0.4mm以下であってよく、0.3mm以下であってもよい。
【0039】
ろう材の這い上がりの抑制と接合信頼性とを高水準で両立する観点から、幅Xと同じ方向に沿って測定される金属板20の主面20Aの長さに対する幅Xの比は、0.0005~0.3であってよく、0.001~0.2であってよく、0.002~0.1であってもよい。主面20Aの長さは、例えば、5~100mmであってよく、15~50mmであってもよい。ろう材の這い上がりの抑制と、樹脂の充填性を高水準で両立する観点から、金属板20の厚みに対する高さZの比は、0.04~0.8であってよく、0.1~0.6であってもよい。
【0040】
ろう材の這い上がりの抑制、ボイドの低減、及び樹脂の充填性の各特性をバランスよく満足する観点から、幅Xに対する高さZの比は、0.06~8であってよく、0.1~6であってよく、0.15~4であってもよい。
【0041】
図3及び
図4に示すような断面における凹部22の投影面積は、0.001~0.35mm
2であってよく、0.01~0.30mm
2であってもよい。これによって、ろう材の這い上がりの抑制と接合信頼性とを更に高水準で両立することができる。凹部22の投影面積は、上記断面において凹部22が矩形である場合、幅X×高さZによって算出することができる。凹部22が矩形とは異なる形状である場合、金属板20の切り欠き部分の面積として算出される。例えば、上記断面における凹部22が直角三角形である場合、底辺の長さ×高さ/2の式で算出される。ろう材の這い上がりを抑える観点から、凹部22の投影面積の下限は0.04mm
2であってよい。一方、凹部22の投影面積の上限は0.30mm
2であってもよく、0.25mm
2であってよく、0.20mm
2であってもよく、0,15mm
2であってよく、0.10mm
2であってもよい。
【0042】
凹部22を構成する金属板20の壁面は、セラミック板10の主面10A,主面10Bと対向する対向面24と、主面10A,主面10Bに直交する立設面23と、を含む。対向面24と立設面23との境界には、凹部22の端縁27と平行に入隅部25が延在している。金属板20は、凹部22に対向面24及び入隅部25を有することによって、ろう材層30からのろう材の這い上がりを一層抑制することができる。本例では、立設面23が主面10A,主面10Bに直交しているが、これに限定されない。例えば、対向面24及び/又は立設面23は、主面10A,主面10Bに対して傾斜していてもよい。
【0043】
図4に示すような断面において凹部22が矩形である場合の幅X及び高さZは
図4に示すとおりである。一方、凹部22を構成する壁面が傾斜していたり、湾曲したりしている場合、幅X及び高さZは、凹部22の最も凹んだ部分に基づいて測定される。また、側面20Cが曲がっている場合、幅Xは側面20Cの最も外方に突出した部分を基準に測定される。すなわち、幅Xは、
図4に示すような断面において、主面20Aと平行方向に測定される、側面20Cと凹部を構成する壁面との距離の最大値として求めることができる。また、高さZは、
図4に示すような断面において、主面20Aと直交する方向に測定される、主面10A(主面10B)と凹部22を形成する壁面(対向面24)との距離の最大値として求めることができる。
【0044】
凹部22を構成する対向面24及び立設面23は、ろう材層30で覆われている。これによって、凹部を構成する壁面である対向面24及び立設面23とろう材層30とが接することになるため、金属板20とセラミック板10との接合信頼性を一層向上することができる。
【0045】
入隅部25を覆うろう材層30は、入隅部25から凹部22の端縁27に近づくにつれて、セラミック板10の主面10A(主面10B)から離れるように傾斜する傾斜部28を有する。これによって、金属板20の主面20Aへのろう材の這い上がりを低レベルに抑制しつつ、金属板20とろう材層30との接触面積を増やして金属板20とセラミック板10との接合信頼性を向上することができる。
【0046】
本例では、凹部を構成する壁面の全体がろう材層30で覆われているが、これに限定されない。幾つかの変形例では、凹部を構成する壁面の一部のみがろう材層30で覆われていてもよい。これによって、主面20Aへのろう材の這い上がりを十分に抑制することができる。この場合も、金属板20とセラミック板10との接合信頼性を十分に高く維持する観点から、入隅部25がろう材層30で覆われていてよい。
【0047】
回路基板100は、必要に応じて分割して個片化された後、例えば、パワーモジュールに搭載されてもよい。金属板20は、電気信号を伝達する機能を有する回路板、又は熱を伝達する機能を有する放熱板として機能してよい。また、金属板20は、熱を伝達する機能と、電気信号を伝達する機能を兼ね備えていてもよい。回路基板100及びこれを分割して得られる個片化基板(回路基板)は、金属板20のセラミック板側とは反対側の主面20Aにおけるろう材の這い上がりが低レベルに抑制されている。また、金属板とセラミック板との接合信頼性に優れる。このため、外観及び半導体素子等の外部回路との接続信頼性に優れる。したがって、高い信頼性が求められるパワーモジュールに搭載される部品として好適である。
【0048】
一実施形態に係るパワーモジュールは、回路基板と、回路基板の金属板に電気的に接続される半導体素子と、を備える。回路基板は、上述の回路基板100又はその変形例であってよいし、別の回路基板であってもよい。回路基板100及びその変形例に関する説明内容は、本実施形態のパワーモジュールに適用される。このようなパワーモジュールは、信頼性に優れる。回路基板及び半導体素子は、樹脂によって封止されていてもよい。
【0049】
図5は、本実施形態に係るパワーモジュールの一例を示す断面図である。パワーモジュール300は、ベース板70と、ハンダ62を介してベース板70の一方面と接合される回路基板101とを備える。回路基板101の一方面側における金属板21がハンダ62を介してベース板70と接合している。
【0050】
回路基板101の他方面側における金属板20の少なくとも一つには、ハンダ61を介して半導体素子60が取り付けられている。半導体素子60は、アルミワイヤ(アルミ線)等の金属ワイヤ64で金属板20の所定箇所に接続されている。このようにして、半導体素子60と金属板20とは電気的に接続されている。筐体66の外部と金属板20とを電気的に接続するため、金属板の一つである金属板20aは、ハンダ65を介して筐体66を貫通して設けられる電極63に接続されている。
【0051】
ベース板70の一方の主面上には、当該主面と一体になって回路基板101を収容する筐体66が配置されている。ベース板70の一方の主面と筐体66とで形成される収容空間には樹脂80が充填されている。樹脂80は、回路基板101及び半導体素子60を封止している。樹脂は、例えば、熱硬化型樹脂であってよく、光硬化型樹脂であってもよい。
【0052】
ベース板70の他方の主面には、グリース74を介して放熱部をなす冷却フィン72が接合されている。ベース板70の端部には冷却フィン72をベース板70に固定するネジ73が取り付けられている。ベース板70及び冷却フィン72はアルミニウムで構成されていてもよい。ベース板70及び冷却フィン72は、高い熱伝導率を有することによって放熱部として良好に機能する。
【0053】
セラミック板10によって、金属板20と金属板21は電気的に絶縁される。金属板20(20a)は電気回路を形成していてよい。金属板20及び金属板21は、ろう材層(不図示)によってセラミック板10の主面10A及び主面10Bにそれぞれ接合されている。金属板20には、
図1~
図4に示すような凹部が形成されている。この凹部は、凹部22と同様のサイズを有し、凹部を形成する金属板20の壁面の少なくとも一部はろう材層で覆われていてよい。これによって、半導体素子60が搭載される金属板20の主面におけるろう材の這い上がりが十分に抑制されている。したがって、パワーモジュール300は、半導体素子60と金属板20との電気的な接続の信頼性に優れる。金属板21にも、金属板20と同様に凹部22が形成されていてよい。
【0054】
一実施形態に係る回路基板の製造方法は、一方の主面の外縁に沿って凹部が形成されている一つ又は複数の金属板を準備する準備工程と、セラミック板の主面にろう材を塗布及び乾燥して一つ又は複数の塗布層を設ける塗布乾燥工程と、一つ又は複数の塗布層を挟むようにしてセラミック板と一つ又は複数の金属板とを積層して積層体を作製する積層工程と、積層体を加熱してセラミック板と一つ又は複数の金属板とが一つ又は複数のろう材層で接合された接合体を得る接合工程と、を有する。
【0055】
各工程の詳細について説明する。まず、一方の主面の外縁に沿って凹部が形成されている一つ又は複数の金属板を準備する。金属板は例えば銅板であってよい。凹部は、例えば、マシニングセンタを用いた機械加工で形成することができる。凹部のサイズ、すなわち幅X、高さZ及び投影面積は、上述したとおりであってよい。これらのサイズは切削量を変えることで調整することができる。凹部は、金属板の主面の外縁の一部に形成してもよいし、金属板の主面の外縁を全周にわたって切削して形成してもよい。
【0056】
塗布乾燥工程で用いるセラミック板は、例えば以下の手順で作製できる。まず、無機化合物の粉末、バインダ樹脂、焼結助剤、可塑剤、分散剤、及び溶媒等を含むスラリーを成形してグリーンシートを作製する。無機化合物の例としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si3N4)、炭化ケイ素、及び酸化アルミニウム等が挙げられる。焼結助剤としては、希土類金属、アルカリ土類金属、金属酸化物、フッ化物、塩化物、硝酸塩、及び硫酸塩等が挙げられる。これらは一種のみ用いてもよいし二種以上を併用してもよい。焼結助剤を用いることにより、無機化合物粉末の焼結を促進させることができる。バインダ樹脂の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及び(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0057】
可塑剤の例としては、精製グリセリン、グリセリントリオレート、ジエチレングリコール、ジ-n-ブチルフタレート等のフタル酸系可塑剤、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等の二塩基酸系可塑剤等が挙げられる。分散剤の例としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸-マレイン酸塩コポリマーが挙げられる。溶媒の例としては、エタノール及びトルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0058】
スラリーの成形方法の例としては、ドクターブレード法及び押出成形法が挙げられる。次に、成形して得られたグリーンシートを脱脂して焼結する。脱脂は、例えば、400~800℃で、0.5~20時間加熱して行ってよい。これによって、無機化合物の酸化及び劣化を抑制しつつ、有機物(炭素)の残留量を低減することができる。焼結は、例えば、窒素、アルゴン、アンモニア又は水素等の非酸化性ガス雰囲気下、1700~1900℃に加熱して行う。これによって、例えばセラミック板10を得ることができる。必要に応じてセラミック板のレーザー加工を行い、端部を切断したり、スクライブラインを設けたりしてもよい。
【0059】
上述の脱脂及び焼結は、グリーンシートを複数積層した状態で行ってもよい。積層して脱脂及び焼結を行う場合、焼成後の基材の分離を円滑にするため、グリーンシート間に離型剤による離型層を設けてよい。離型剤としては、例えば、窒化ホウ素(BN)を用いることができる。離型層は、例えば、窒化ホウ素の粉末のスラリーを、スプレー、ブラシ、ロールコート、又はスクリーン印刷等の方法により塗布して形成してよい。積層するグリーンシートの枚数は、セラミック板の量産を効率的に行いつつ、脱脂を十分に進行させる観点から、例えば8~100枚であってよく、30~70枚であってもよい。
【0060】
セラミック板の一方の主面に複数の金属板を接合する場合、当該一方の主面に区画線を形成してもよい。例えば、セラミック板の主面にレーザー光を照射して、区画線としてスクライブラインを設けてもよい。セラミックの主面に照射するレーザー光としては、例えば、炭酸ガスレーザー及びYAGレーザー等が挙げられる。このようなレーザー源からレーザー光を間欠的に照射することによって、
図1及び
図2に示すような区画線L1,L2となるスクライブラインを形成する。このような区画線L1,L2は、後工程において、回路基板を分割する際の切断線として利用することができる。
【0061】
セラミック板の主面に塗布するろう材は、例えば、銀、銅、錫、活性金属、及びこれらを構成元素とする金属化合物、有機溶媒、並びにバインダ等を含有する。ろう材の粘度は、例えば5~20Pa・sであってよい。ろう材における有機溶媒の含有量は、例えば、5~25質量%、バインダ量の含有量は、例えば、2~15質量%であってよい。
【0062】
ろう材は、金属単体又は金属化合物(合金)の形態で、銀を含んでよく、銀に加えて、銅、錫、及び活性金属からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属を含有してよい。二種以上の金属は合金となっていてもよい。活性金属は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、及びニオブからなる群より選ばれる一種又は二種以上を含んでいてよい。ろう材における銀の含有量は、Ag換算で45~95質量%であってよく、50~95質量%であってもよい。ろう材における銀及び銅の合計含有量は、それぞれAg及びCuに換算して65~100質量%であってよく、70~99質量%であってよく、90~98質量%であってもよい。これによって、後工程で形成されるろう材層における残留応力を十分に低減しつつ、ろう材層の緻密性を向上することができる。
【0063】
ろう材における活性金属の含有量は、Ag及びCuの合計100質量部に対して、0.5~8質量部であってよい。活性金属の含有量を0.5質量部以上とすることで、セラミック板とろう材との接合性を向上することができる。一方、活性金属の含有量を8質量部以下とすることで、接合界面に脆弱な合金層が形成されることを抑制できる。
【0064】
ろう材に含有される上記金属は、窒化物、酸化物、炭化物又は水素化物として含まれていてもよい。一例として、ろう材は、窒化チタン及び/又は水素化チタン(TiH2)を含んでいてよい。これによって、セラミック板と金属板との接合強度を十分に高くすることができる。AgとCuの合計100質量部に対するTiH2の含有量は例えば1~8質量部であってよい。
【0065】
ろう材における錫の含有量は、Ag及びCuの合計100質量部に対して、0.5~5質量部であってよい。錫の含有量を0.5質量部以上とすることで、セラミック板とろう材との接合性を向上することができる。一方、錫の含有量を5質量部以下とすることで、接合界面に脆弱な合金層が形成されることを抑制できる。
【0066】
セラミック板の主面に、ロールコーター法、スクリーン印刷法、又は転写法等の方法によってろう材を塗布して一つ又は複数の塗布層を設ける。塗布層は、金属板が接合される位置に設ければよい。したがって、塗布層の数は、セラミック板に接合される金属板の数と同じであってよい。
【0067】
塗布層を形成したら、塗布層を挟むようにしてセラミック板と金属板とを積層して積層体を作製する。このとき、金属板の2つの主面のうち、凹部が形成されている方の主面とセラミック板の主面とが対向するようにして積層する。積層体を作製する際に、金属板をセラミック板に向かう方向に押圧してもよい。押圧に伴って、塗布層が拡がって、塗布層でセラミック板と金属板とが良好に接着された積層体が得られる。
【0068】
図1~
図3に示すような回路基板100を製造する場合、複数の金属板20のそれぞれが、セラミック板10の主面10Aにおける区画線L1,L2で画定される区画領域50毎に独立するようにして、積層体を作製する。
【0069】
得られた積層体を、加熱炉で加熱してセラミック板と金属板とがろう材層で接合された接合体を得る。加熱温度は例えば700~900℃であってよい。炉内の雰囲気は窒素等の不活性ガスであってよく、大気圧未満の減圧下で行ってもよいし、真空下で行ってもよい。加熱炉は、複数の接合体を連続的に製造する連続式のものであってもよいし、一つ又は複数の接合体をバッチ式で製造するものであってもよい。加熱は、接合体を上記積層体の積層方向に押圧しながら行ってもよい。
【0070】
積層体を加熱すると、塗布層に含まれるろう材は流動しつつ金属板と反応し、ろう材層が形成される。すなわち、ろう材層は、ろう材と金属板に含まれる金属成分との反応生成物を含んでよい。このとき、ろう材の一部が凹部を構成する金属板の壁面を這い上がって、
図4に示すような傾斜部28が形成されてもよい。その後、金属板にめっき膜を形成する等の表面処理を行う。このとき、ろう材層の形状を整える切削加工等を行ってもよい。このようにして、回路基板を製造することができる。
【0071】
接合体が、
図1~
図3に示すようにセラミック板の一方の主面に複数の金属板を備える集合基板である場合、集合基板を分割して個片化する分割工程を行ってもよい。分割工程では、区画線L1,L2に沿って集合基板を分割し、複数の回路基板を得ることができる。
【0072】
上述の製造方法は、予め所定のサイズに加工された複数の金属板を接合して接合体を得ることができる。このような製造方法によれば、レジスト印刷工程及び金属板のエッチング工程を行うことなく、這い上がりが低レベルに抑制されるとともに接合信頼性に優れる回路基板を効率よく製造することができる。このような製造方法で得られる回路基板は、製造コストが低減できるうえに、外観及び半導体素子等の外部回路との接続信頼性に優れる。
【0073】
このようにして得られた回路基板を用いて、パワーモジュールを製造してもよい。パワーモジュールは、回路基板に、ハンダとワイヤボンディング等を用いて半導体素子を搭載し、回路基板及び半導体素子を筐体の収容空間内に収容したうえで樹脂封止を行って製造することができる。
【0074】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、
図1~
図3の例では、セラミック板の一対の主面のそれぞれに複数の金属板を備えていたが、これに限定されない。例えば、一つ又は複数の金属板がセラミック板の一方の主面にのみ設けられていてもよい。セラミック板の一対の主面のそれぞれに設けられるろう材層及び金属板の構造及び形状は、互いに異なっていてもよい。また、セラミック板の一対の主面のそれぞれに一つの金属板が設けられていてもよい。また、凹部は、主面を取り囲むように設けられていなくてもよい。
【0075】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]セラミック板と、金属板と、前記セラミック板の主面と前記金属板の主面とを接合するろう材層と、を備える回路基板であって、
前記金属板の前記主面の外縁の少なくとも一部に沿って前記金属板に凹部が形成されており、
前記金属板の側面における前記凹部の端縁に直交し、前記金属板の厚さ方向に沿う断面で見たときに、前記凹部の幅Xが0.8mm以下である、回路基板。
[2]前記凹部を構成する前記金属板の壁面の少なくとも一部が前記ろう材層で覆われている、[1]に記載の回路基板。
[3]前記凹部を構成する前記金属板の壁面の入隅部が前記ろう材層で覆われており、
前記断面で見たときに、前記入隅部を覆う前記ろう材層が、前記入隅部から前記凹部の前記端縁に近づくにつれて前記セラミック板の前記主面から離れるように傾斜する傾斜部を有する、[1]又は[2]に記載の回路基板。
[4]前記金属板における前記凹部は、前記金属板の前記主面の外縁の全周にわたって形成されている、[1]~[3]のいずれか一つに記載の回路基板。
[5]前記断面において、前記凹部の幅Xが0.05~0.8mm、及び、前記凹部の高さZが0.05~0.4mmである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の回路基板。
[6]前記断面における前記凹部の投影面積が0.001~0.35mm2である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の回路基板。
[7]セラミック板と、複数の金属板と、前記セラミック板の主面と前記複数の金属板の主面のそれぞれとを接合する複数のろう材層と、を備え、
前記複数の金属板の少なくとも一つに前記凹部が形成されている、[1]~[6]のいずれか一つに記載の回路基板。
[8]一方の主面の外縁の少なくとも一部に沿って凹部が形成されている一つ又は複数の金属板を準備する準備工程と、
セラミック板の主面にろう材を塗布及び乾燥して一つ又は複数の塗布層を設ける塗布乾燥工程と、
前記一つ又は複数の塗布層を挟むようにして前記セラミック板と前記一つ又は複数の金属板とを積層して積層体を作製する積層工程と、
前記積層体を加熱して前記セラミック板と前記一つ又は複数の金属板とが一つ又は複数のろう材層で接合された接合体を得る接合工程と、を有し、
前記金属板の側面における前記凹部の端縁に直交し、前記一つ又は複数の金属板の厚さ方向に沿う断面で見たときに、前記凹部の幅Xが0.8mm以下であり、
前記積層工程において、前記一つ又は複数の金属板の前記一方の主面と前記セラミック板の前記主面とが対向するように前記セラミック板と前記一つ又は複数の金属板とを積層する、回路基板の製造方法。
[9]前記準備工程では前記凹部が形成されている複数の金属板を準備し、
前記積層工程では、前記複数の金属板のそれぞれが、前記セラミック板の前記主面における区画線で画定される区画領域毎に独立して設けられた前記積層体を作製し、
前記接合工程の後に、前記接合体における前記セラミック板を前記区画線に沿って分割する分割工程を有する、[8]に記載の回路基板の製造方法。
[10]上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の回路基板、又は上記[8]又は[9]に記載の製造方法で得られる回路基板と、当該回路基板の前記金属板に電気的に接続される半導体素子と、を備えるパワーモジュール。
【実施例】
【0076】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
[回路基板の作製]
窒化ケイ素製のセラミック板(厚さ:0.32mm)、24枚の銅板(材質:無酸素銅、サイズ:縦×横×厚さ=17mm×38mm×0.8mm)及びろう材を準備した。機械加工によって、各金属板の一方の主面(主面20B)の外縁部を全周にわたって切削して凹部を形成した。これによって、
図1~
図4に示す金属板20と同様の形状を有する銅板を得た。
【0078】
Ag、Cu、Sn、及びTiH2を含むろう材を準備した。ろう材におけるAgとCuの質量比は9:1であった。このろう材は、AgとCuの合計100質量に対し、Snを3質量部、及びTiH2を3.5質量部含んでいた。
【0079】
セラミック板の主面をスクライブラインによって24個の区画領域に区画した。各区画に、スクリーン印刷でろう材を塗布して塗布層を形成した。塗布層の塗布面積は、セラミック板に接合される銅板の面積と同じとした。塗布層を形成した後、セラミック板の上に、塗布層と銅板の主面とが接するようにして銅板を積層した。このようにして、セラミック板の一方の主面に、区画部毎に独立するように合計で24個の銅板を積層した。
【0080】
セラミック板の主面上の銅板をセラミック板に向けて0.015MPaでプレスして積層体を得た。その後、積層体を、真空中(1.0×10-3Pa)、790℃で1時間加熱した。このようにしてセラミック板の主面にろう材層を介して銅板が接合された接合体を得た。その後、Ni-Pめっき液(リン濃度:8~12質量%)を用いて無電解メッキ処理を行い、銅板上にめっき膜を有する多数個取り回路基板を形成した。スクライブラインに沿って多数個取り回路基板を分割し、24個の回路基板を得た。一つの回路基板のセラミック板のサイズは、縦×横×厚さ=20mm×41mm×0.32mmであった。
【0081】
(実施例2~8、比較例1~5)
機械加工による銅板の一方の主面における外縁部の切削量を変更して、銅板における凹部の幅X及び高さZを表1に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして回路基板を作製した。
【0082】
(比較例6)
銅板の機械加工を行わず、凹部を有しない銅板をセラミック板上に積層したこと以外は、実施例1と同様にして回路基板を作製した。
【0083】
[回路基板の評価]
<超音波探傷検査(SAT)>
超音波探傷検査によって、各実施例及び各比較例のセラミック板と銅板の接合信頼性を評価した。具体的には、株式会社日立パワーソリューションズ製の超音波探傷検査装置(装置名:Fine SAT V)を用いて、セラミック板と銅板との間におけるボイドの面積割合を算出した。24個の回路基板の検査を、画像解析ソフト(GIMP)を使用して行って、回路基板の全体に対するボイドの面積割合を計算した。面積割合の平均値は、表1に示すとおりであった。
【0084】
表1に示すとおり、実施例1~8の回路基板のボイドの面積割合は7%以下であった。これらの回路基板は。接合信頼性に優れることが確認できた。一方、比較例1~5の回路基板のボイドの面積割合は9%を超えていた。
【0085】
図6(A)は実施例1の回路基板の断面を示すSEM写真であり、
図6(B)は実施例1の回路基板の超音波探傷検査の結果を示す写真である。
図7(A)は、比較例1の回路基板の断面を示すSEM写真であり、
図7(B)は比較例1の回路基板の超音波探傷検査の結果を示す写真である。
図6(A)及び
図7(A)の断面は、
図3及び
図4と同様に、凹部22(凹部122)の端縁(側面20C,120Cにおける端縁)に直交し、銅板(金属板20,120)及びセラミック板10,110の厚さ方向に沿う断面を示している。
図6(A)と
図7(A)を比べると分かるように、実施例1の回路基板の凹部の方が小さく、且つ凹部22を構成する壁面の全てがろう材層30で覆われていた。このことは、凹部が小さい方が、ろう材層で覆われやすくなることを示している。
図7(A)のろう材層130は、凹部122の下部に留まっていた。
図6(B)及び
図7(B)を比べると、
図6(B)の方が
図7(B)よりも端部のボイドが明らかに少ないことが分かる。
【0086】
<這い上がりの評価>
ボイドの面積比率が7%以下であった実施例1~8、及び比較例1~6の回路基板における銅板の表面(セラミック板側の主面とは反対側の主面)を、ルーペ(倍率10倍)を使用して目視観察を行い、ろう材の這い上がりの有無を判定した。銅板の主面に這い上がりが検知されなかったものを「A」、銅板の主面に這い上がりが検知されたものを「B」と判定した。24個の回路基板のうち、評価が「A」である回路基板の個数とその割合は表1に示すとおりであった。
【0087】
表1に示すとおり、実施例1~8の這い上がりの評価の「A」の割合は21%以上であった。比較例6の這い上がりの評価の「A」の割合は0%であった。
図8は、比較例6の回路基板の断面を示すSEM写真である。このSEM写真に示されるように、銅板のセラミック板とは反対側の主面に大量のろう材が這い上がっていることが確認された。24個の回路基板の全てにおいて、ろう材が同様に這い上がっていた。このことから、実施例1~8のような凹部のサイズであっても、ろう材の這い上がりを抑制する効果が十分にあることが確認された。
【0088】
<凹部のサイズの測定>
金属板の側面における凹部の端縁に直交し、銅板の厚さ方向に沿う断面に沿って各実施例及び各比較例の回路基板を切断し、
図4に示すような断面を得た。この断面のSEM観察を行って、凹部の幅X及び高さZを測定した。測定結果は表1に示すとおりであった。当該断面で見たとき、凹部を形成する対向面24と立設面23は直交していた。当該断面でみたときの凹部の投影面積(幅X×高さZ)、及びXに対するZの比(Z/X)は、表1に示すとおりであった。測定は、1個の回路基板についてのみ行った。なお、各実施例及び各比較例の24個の銅板は、いずれも、同じ機械加工の条件で加工した。このため、凹部の幅X、高さZ及び投影面積の値は同一とみなすことができる。
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示によれば、本開示は、ろう材の這い上がりを低レベルに抑制しつつ、金属板とセラミック板の接合信頼性に優れる回路基板及びその製造方法を提供することができる。また、信頼性に優れるパワーモジュールを提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
10,110…セラミック板、10A,10B…主面、20,20a,120…金属板、20A…主面、20B…主面、20C,120C…側面、22…凹部、23…立設面、24…対向面、25…入隅部、27…端縁、28…傾斜部、30,130…ろう材層、50…区画領域、60…半導体素子、61,62,65…ハンダ、63…電極、64…金属ワイヤ、66…筐体、70…ベース板、72…冷却フィン、73…ネジ、74…グリース、80…樹脂、100,101…回路基板、300…パワーモジュール、L1,L2…区画線。