(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】ロータ構造
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
H02K1/22 A
(21)【出願番号】P 2024033422
(22)【出願日】2024-03-05
【審査請求日】2024-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523429519
【氏名又は名称】MCF Electric Drive株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】板坂 直樹
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-80421(JP,A)
【文献】特開2018-11450(JP,A)
【文献】特開2018-11466(JP,A)
【文献】特開2016-208805(JP,A)
【文献】特開2007-89291(JP,A)
【文献】特開2019-62673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0111602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータで発生する回転磁界に同期してロータが回転する同期型モータのロータ構造であって、
上記ロータは、円筒状のロータコアと、当該ロータにおける周方向に並ぶ複数の磁極を構成する、当該ロータコアに埋め込まれた複数の永久磁石と、を備え、
上記ロータコアの外周面には、軸方向に見て、相隣り合う上記磁極に跨るように周方向に延び、且つ、径方向外側に突出する第1突状部が形成されており、
上記第1突状部の内部には、軸方向に見て、周方向に延びる第1の空隙が形成されているとともに、当該第1の空隙の径方向内側を区画する部位から径方向外側に突出する第2突状部が形成されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項2】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記第1突状部は、軸方向に見て、その周方向の両端部に対応する上記ロータコアの外周面を径方向内側に窪ませることで、相対的に径方向外側に突出するように形成されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項3】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記第2突状部は、径方向外側に行くほど周方向に所定角度で傾くように、径方向に対し傾斜して突出していることを特徴とするロータ構造。
【請求項4】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記第2突状部は、上記第1の空隙を周方向に分断するように、当該第1の空隙の径方向外側を区画する部位まで延びていることを特徴とするロータ構造。
【請求項5】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記永久磁石は、上記ロータコアを軸方向に貫通する磁石孔に挿入されており、
軸方向に見て、上記各磁極における、上記永久磁石の位置、形状、大きさ、および、傾き、並びに、上記磁石孔の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つが、周方向で隣接する上記磁極間で非対称となるように設定されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項6】
上記請求項5に記載のロータ構造において、
上記第1突状部は、軸方向に見て、その周方向の両端部に対応する上記ロータコアの外周面を径方向内側に窪ませることで、相対的に径方向外側に突出するように形成されており、
上記第1突状部の周方向両端部における窪みの深さが、非対称となるように設定されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項7】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記永久磁石は、上記ロータコアを軸方向に貫通する磁石孔に挿入されており、
上記各磁極には、上記磁石孔内で周方向に隣接する2つの永久磁石が含まれており、
上記隣接する2つの永久磁石の間が第2の空隙であることを特徴とするロータ構造。
【請求項8】
上記請求項7に記載のロータ構造において、
上記2つの永久磁石が挿入される上記磁石孔の端部は、上記ロータコアの外周面に近接しているとともに、当該端部における上記永久磁石で埋められていない第3の空隙がブリッジ部で区分されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項9】
上記請求項8に記載のロータ構造において、
軸方向に見て、上記各磁極における、上記永久磁石の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つが、周方向で隣接する上記磁極間で非対称となるように設定されており、
上記永久磁石と上記ブリッジ部との相対角度が、周方向に隣接する上記磁極間で非対称となるように設定されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項10】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記永久磁石は、上記ロータコアを軸方向に貫通する磁石孔に挿入されており、
上記各磁極には、上記ロータコアの最外周に形成された、周方向に延びる外側磁石孔と、当該外側磁石孔よりも径方向内側に形成された、周方向に延びる内側磁石孔と、が含まれており、
上記内側磁石孔は、当該内側磁石孔に挿入された内側永久磁石の径方向外側の面が、上記ロータコアに接触し、且つ、当該内側永久磁石によって埋められていない径方向内側の部分に相対的に大きな第4の空隙を有するような形状に形成されており、
上記ロータコアには、軸方向に見て、当該ロータコアにおける上記内側永久磁石よりも径方向内側の部位と当該内側永久磁石とを繋ぐように、上記第4の空隙を周方向に分断して各磁極のd軸を通って径方向に延びる細長い絞り部が形成されていることを特徴とするロータ構造。
【請求項11】
上記請求項1に記載のロータ構造において、
上記ロータコアは、スキュー角が0度であることを特徴とするロータ構造。
【請求項12】
上記請求項4、7または10に記載のロータ構造において、
上記磁石孔を、冷却用オイルを流す油路として用いることを特徴とするロータ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータ構造に関し、特に、ステータで発生する回転磁界に同期してロータが回転する同期型モータのロータ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及に伴い、その駆動源であるモータの、搭載性および生産性の向上、車種展開の容易化、並びに、低コスト化が望まれているところ、これらを実現するには、出力レベル(トルク)を維持したままでのモータの小型化が要求される。
【0003】
この点、同期型モータは、磁石の吸引・反発によるマグネットトルクと、ロータコアの磁気的な突極性を利用するリラクタンストルクとを併用するものであり、高出力化を図れるという特徴を有することから、出力レベルを維持したままでのモータの小型化に適していると言える。
【0004】
かかる同期型モータの小型化につき、例えば特許文献1には、ステータコイルが巻回されるティース部の外側に位置される環状のバックヨーク部の軸方向端部に、磁性材料からなる環状の補助コアを設けた電動機のステータが開示されている。
【0005】
この特許文献1のものによれば、所望のトルクを得るための磁束を通すのに必要なバックヨーク部の断面積を、補助コアにより補うことができることから、バックヨーク部の半径方向の厚さを薄くして、ステータコアの外径を小さくすることが可能となるので、モータの外径を小さくすることができるとされている。
【0006】
しかしながら、バックヨーク部の半径方向の厚さを薄くする程度では、大幅なモータの小型化は望めない上、特許文献1のものでは、補助コアを別途設けるため、低コスト化という要請にも反することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、モータを小型化することは、モータの損失が同一であっても温度上昇が大きくなることを意味する。そうして、同期型モータにおいて、モータ内部の温度が大きく上昇すると、例えばロータコアに埋め込まれた永久磁石が高温となり、その結果、永久磁石の減磁、延いてはトルクの低下に繋がるおそれがある。このため、同期型モータの小型化を実現するには、モータ内部の発熱量を低下させるべく、損失を低下させるために、モータの高効率化を図ることが要求される。
【0009】
また、出力レベルを維持したままでのモータの小型化には、電流密度および磁束密度を高めることが不可欠であるが、これら電流密度および磁束密度を高めると、振動(トルクリップル)およびそれに伴う騒音が大きくなることから、モータの小型化の実現には、その高効率化のみならず、低振動化・低騒音化も要求される。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、同期型モータを小型化した場合でも、高効率化および低振動化・低騒音化を実現可能なロータ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明に係るロータ構造では、モータの高効率化および低振動化・低騒音化を阻害する、磁束の高調波成分の発生を抑制するようにしている。
【0012】
具体的には、本発明は、ステータで発生する回転磁界に同期してロータが回転する同期型モータのロータ構造を対象としている。
【0013】
そして、このロータ構造は、上記ロータは、円筒状のロータコアと、当該ロータにおける周方向に並ぶ複数の磁極を構成する、当該ロータコアに埋め込まれた複数の永久磁石と、を備え、上記ロータコアの外周面には、軸方向に見て、相隣り合う上記磁極に跨るように周方向に延び、且つ、径方向外側に突出する第1突状部が形成されており、上記第1突状部の内部には、軸方向に見て、周方向に延びる第1の空隙が形成されているとともに、当該第1の空隙の径方向内側を区画する部位から径方向外側に突出する第2突状部が形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、上述の如く、同期型モータを小型化した場合でも、その高効率化および低振動化・低騒音化を図るところ、モータにおける「効率」とは、「出力/(出力+損失)」であることから、モータの高効率化を図るには、損失を抑え(要件1)つつ、出力を高めることが要求される。
【0015】
ここで、モータの「出力」とは、「トルク×回転数」であることから、出力を高めるには、同じ大きさのステータコイル電流によって発生可能なトルクを高める(要件2)とともに、ロータを無駄なく滑らかに回転させる必要がある。そうして、発生可能なトルクを高めるためには、トルクの発生に寄与する磁束(基本波成分)の割合を増やすことが有効となる。また、ロータを無駄なく滑らかに回転させるには、ロータの各磁極における、ステータとロータとの間の空間(エアギャップ)での磁束密度を正弦波状に変化(分布)させる(要件3)のが理想とされている。このようにステータとロータとの間のエアギャップで磁束密度が正弦波状に変化すれば、トルクリップル(振動)も抑制されるので、高効率化と同時に振動化・低騒音化も図ることが可能となる。
【0016】
もっとも、同期型モータでは、トルクの発生に寄与しないのみならず、基本波成分に重畳して、ステータとロータとの間のエアギャップでの磁束密度の波形を歪める高調波成分が磁束に含まれることが知られている。また、磁性材料を主体とするロータにおける「損失」とは鉄損であり、鉄損は磁束の変動周波数に依存するところ、高調波成分は高い周波数成分を持つため、鉄損の増大を招くという点でも、モータの高効率化を阻害するものである。
【0017】
このような高調波成分は、ロータとステータとで磁気交換が行われるエアギャップ、および、磁束の短絡等が生じ易い磁極間に、換言すると、ロータコアの外周部における磁極間の近傍に出易いことが知られている。
【0018】
この点、本発明によれば、ロータコアの外周面で、相隣り合う磁極に跨るように周方向に延びる第1突状部の内部に、周方向に延びる第1の空隙が形成されていることから、かかる第1の空隙によって磁束が遮られ、磁極間での磁束の短絡等が抑えられるので、高調波成分の発生を抑制することができる。このように、高い周波数成分を持つ高調波成分の発生が抑制されることで、磁束の変動周波数を低下させることができ、これにより、磁束の変動周波数に依存する鉄損の増大を抑えることができる(要件1を充足)。また、鉄損(損失)の増大が抑えられることで、同期型モータを小型化した場合でも、モータ内部の発熱量を低下させることが可能となる。
【0019】
さらに、高調波成分の発生を抑制することで、ステータとロータとの間のエアギャップでの磁束密度を理想とされる正弦波状に近付けることが可能となる(要件3を充足)。これにより、ロータを無駄なく滑らかに回転させることが可能となるとともに、振動(トルクリップル)を低減することができる。
【0020】
加えて、第1の空隙によってトルクの発生に寄与しない磁束の高調波成分の発生を抑制することで、トルクの発生に寄与する磁束の基本波成分の割合を増大させることができる。もっとも、単に第1の空隙を形成するだけでは、トルクが目減りしてしまう場合があり、その場合には、磁束の基本波成分の割合を増大させても、総トルクを高める効果が小さくなることも想定される。
【0021】
この点、本発明では、ロータコアの外周面に径方向外側に突出する第1突状部が形成されているとともに、かかる第1突状部の内部に、第1の空隙の径方向内側を区画する部位から径方向外側に突出する第2突状部が形成されていることから、ステータの回転磁界による極と突極(第1および第2突状部)との吸引力により生ずるリラクタンストルクによって、トルクの減少を補うことができる。このように、磁気的な突極性によるリラクタンストルクの確保と、上述した磁束の基本波成分の割合が増大することと、が相俟って、同じ大きさのステータコイル電流によって発生可能なトルクを高めることができる(要件2を充足)。
【0022】
しかも、第1および第2突状部という、径方向に並ぶ2重の突状部が形成されていることから、例えば同等のリラクタンストルクを発生させる場合に、第1突状部のみが形成されたロータ構造に比して、第1突状部自体の径方向外側への突出高さを低くすることができる。このように、第1突状部の径方向外側への突出高さを低く設定して、円筒状のロータコアの外周面を真円に近付けることが可能になることから、コギングトルクの低減を図ることも可能となる。それ故、かかるコギングトルクの低減と、上述のトルクリップルの低減と、が相俟って、同期型モータの小型化に当たり電流密度および磁束密度を高めた場合でも、モータの振動およびそれに伴う騒音を確実に抑えることができる。
【0023】
以上のように、本発明によれば、同期型モータを小型化した場合でも、高効率化および低振動化・低騒音化を図ることができるので、高温による永久磁石の減磁や振動・騒音を伴うことなく、出力レベルを維持したままでのモータの小型化を実現することが可能となる。
【0024】
また、上記ロータ構造では、上記第1突状部は、軸方向に見て、その周方向の両端部に対応する上記ロータコアの外周面を径方向内側に窪ませることで、相対的に径方向外側に突出するように形成されていてもよい。
【0025】
この構成によれば、第1突状部を、円筒状のロータコアの外周面から径方向外側へ絶対的に突出させるのではなく、第1突状部の周方向の両端部に対応するロータコアの外周面を径方向内側に窪ませることで、相対的に径方向外側に突出させることから、コギングトルクをより一層低減することができる。これにより、同期型モータを小型化した場合でも、低振動化・低騒音化をより一層図ることができる。
【0026】
さらに、上記ロータ構造では、上記第2突状部は、径方向外側に行くほど周方向に所定角度で傾くように、径方向に対し傾斜して突出していてもよい。
【0027】
この構成によれば、磁気的な突極性に寄与する第2突状部が、径方向外側に行くほど周方向に所定角度で傾くように、径方向に対し傾斜して突出していることから、所定角度の設定によって、リラクタンストルクのリップル成分(高調波成分)を木目細かく制御することが可能となる。
【0028】
また、上記ロータ構造では、上記第2突状部は、上記第1の空隙を周方向に分断するように、当該第1の空隙の径方向外側を区画する部位まで延びていてもよい。
【0029】
この構成によれば、第1の空隙の径方向外側を区画する部位まで届かないように第2突状部を形成する場合に比して、第2突状部の突出長を長くすることができる。これにより、磁気的な突極性によるリラクタンストルクをより一層確保することが可能となる。
【0030】
ところで、ステータとロータとの間のエアギャップにおける磁束の高調波成分の存在がトルクリップルの要因であるが、かかる磁束はインダクタンスの関数であり、また、インダクタンスは、磁気抵抗の関数であることから、磁気抵抗の変化は磁束における高調波成分を増幅させて、トルクリップルを悪化させるものと位置付けられる。それ故、各磁極における永久磁石やフラックスバリアの配置等によっては、ロータの回転に伴って、ステータのティースと永久磁石等との位置関係が変化することで、磁気抵抗が大きく変化してしまう場合もあり、その場合には、磁束の高調波成分が増幅し、トルクリップルが悪化してしまう可能性がある。
【0031】
また、通常、ティースは均等に並んでいるため、仮に、周方向に並ぶ複数の磁極が全く同じに(永久磁石の配置が全く同じに)構成されていると、一の永久磁石と一のティースとの相対的な位置関係が、他の永久磁石と他のティースとの相対的な位置関係と合致してしまうことになる。ここで、高調波成分とは、ある周波数成分を持つ基本波成分に対する、その「整数倍」の高次の周波数成分であることから、永久磁石とティースとの位置関係が合致する組が、複数組存在すると、整数倍の周波数成分である高調波成分が生じ易くなる可能性もある。
【0032】
そこで、上記ロータ構造では、上記永久磁石は、上記ロータコアを軸方向に貫通する磁石孔に挿入されており、軸方向に見て、上記各磁極における、上記永久磁石の位置、形状、大きさ、および、傾き、並びに、上記磁石孔の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つが、周方向で隣接する上記磁極間で非対称となるように設定されていてもよい。
【0033】
この構成によれば、周方向で隣接する磁極の間で、永久磁石や磁石孔の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つ(以下、「位置等」ともいう。)が非対称とされるところ、永久磁石や磁石孔の位置等を調整することにより、隣接する磁極の間で高調波成分同士を打ち消し合うことや、ロータが回転しても、例えばティースと永久磁石等との位置関係が大きく変化してしまうのを抑えることが可能となる。これにより、磁気抵抗の変化を抑制することが可能となることから、かかる磁気抵抗の変化の抑制に基づく高調波成分の増幅の抑制と、高調波成分同士の打ち消し合いと、が相俟って、トルクリップルを確実に抑えて、モータの高効率化および低振動化・低騒音化をより一層図ることができる。
【0034】
もっとも、永久磁石の位置等を、隣接する磁極間で非対称とすれば、例えば、相対的に大きな永久磁石で構成される磁極と、相対的に小さな永久磁石で構成される磁極とで、トルクの発生に寄与する磁束(基本波成分)量にバラツキが生じてしまう可能性がある。
【0035】
そこで、上記ロータ構造では、上記第1突状部は、軸方向に見て、その周方向の両端部に対応する上記ロータコアの外周面を径方向内側に窪ませることで、相対的に径方向外側に突出するように形成されており、上記第1突状部の周方向両端部における窪みの深さが、非対称となるように設定されていてもよい。
【0036】
この構成では、第1突状部の周方向両端部における窪みの深さが非対称となるように設定されているところ、第1突状部の端部における窪みの深さが深ければ、大きな空隙が存在するのと同様に磁束が通り難くなる一方、第1突状部の端部における窪みの深さが浅ければ、小さな空隙が存在するのと同様に磁束が通り易くなる。したがって、第1突状部の深い側の端部を、大きい永久磁石で構成される、磁束量が多い磁極側に設定する一方、第1突状部の浅い側の端部を、小さい永久磁石で構成される、磁束量が少ない磁極側に設定することで、隣接する磁極間での非対称に基づく磁束(基本波成分)量のバラツキを軽減することができる。加えて、第1突状部の周方向両端部における窪みの深さを変えることで、ゼロクロス点(磁束の極性が変化する点)がq軸に寄ることから、磁束の基本波成分量のバラツキをより一層軽減することができる。
【0037】
また、上記ロータ構造では、上記永久磁石は、上記ロータコアを軸方向に貫通する磁石孔に挿入されており、上記各磁極には、上記磁石孔内で周方向に隣接する2つの永久磁石が含まれており、上記隣接する2つの永久磁石の間が第2の空隙であってもよい。
【0038】
この構成によれば、隣接する2つの永久磁石の間が第2の空隙であることから、換言すると、2つの永久磁石の間に、漏れ磁束経路となるブリッジ部が存在しないことから、2つの永久磁石の間で生じる、トルクに寄与しない短絡磁束(漏れ磁束)を抑制して、磁石磁束を有効活用することができる。これにより、ステータコイル電流が低い場合であっても高いトルクを得ることが可能となることから、モータの高効率化をより一層確実に図ることができる。
【0039】
もっとも、隣接する2つの永久磁石の間に従来設けられていたブリッジ部は、機械的な強度を確保するためのものであることから、隣接する2つの永久磁石の間を第2の空隙とする(ブリッジレス化する)と、これらの永久磁石の近傍における他の部位に作用する応力(遠心力や焼き嵌めによる応力)が相対的に増大することになる。
【0040】
そこで、上記ロータ構造では、上記2つの永久磁石が挿入される上記磁石孔の端部は、上記ロータコアの外周面に近接しているとともに、当該端部における上記永久磁石で埋められていない第3の空隙がブリッジ部で区分されていてもよい。
【0041】
この構成によれば、磁石孔の端部における、磁石で埋められていない第3の空隙に、ロータコアの表面部で構成されるブリッジ部、および、第3の空隙を区分するブリッジ部という二重のブリッジ部が設けられることから、遠心力や焼き嵌めによる応力集中を抑制することができ、これにより、ロータコアが変形するのを回避することができる。
【0042】
さらに、上記ロータ構造では、軸方向に見て、上記各磁極における、上記永久磁石の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つが、周方向で隣接する上記磁極間で非対称となるように設定されており、上記永久磁石と上記ブリッジ部との相対角度が、周方向に隣接する上記磁極間で非対称となるように設定されていてもよい。
【0043】
2つの永久磁石の位置等が磁極間で非対称である場合には、これらの永久磁石の近傍で応力集中が生じ易くなるところ、この構成によれば、永久磁石とブリッジ部との相対角度も磁極間で非対称となるように設定されていることから、永久磁石とブリッジ部との相対角度の設定次第で、非対称化による応力集中を抑制することができ、これにより、ロータコアが変形するのを回避することができる。
【0044】
また、上記ロータ構造では、上記永久磁石は、上記ロータコアを軸方向に貫通する磁石孔に挿入されており、上記各磁極には、上記ロータコアの最外周に形成された、周方向に延びる外側磁石孔と、当該外側磁石孔よりも径方向内側に形成された、周方向に延びる内側磁石孔と、が含まれており、上記内側磁石孔は、当該内側磁石孔に挿入された内側永久磁石の径方向外側の面が、上記ロータコアに接触し、且つ、当該内側永久磁石によって埋められていない径方向内側の部分に相対的に大きな第4の空隙を有するような形状に形成されており、上記ロータコアには、軸方向に見て、当該ロータコアにおける上記内側永久磁石よりも径方向内側の部位と当該内側永久磁石とを繋ぐように、上記第4の空隙を周方向に分断して各磁極のd軸を通って径方向に延びる細長い絞り部が形成されていてもよい。
【0045】
この構成によれば、内側永久磁石よりも径方向内側に相対的に大きな第4の空隙を有するような形状にロータコアが形成されていることから、例えば、ロータコア(磁性体)に接触する、内側永久磁石の径方向外側の面から出た磁束は、第4の空隙を通ることが困難になる。このため、ロータコアと内側永久磁石とを繋ぐように、第4の空隙を分断し、d軸を通って径方向に延びる絞り部に磁石磁束が集中することになる。もっとも、絞り部は、細長く形成されているため、軽負荷時(例えば無負荷時)には、直ぐに磁気飽和となり、透磁率が非常に小さくなって真空(空隙)に近い値になるため、結局、内側永久磁石の径方向内側の面は、全面的に第4の空隙で覆われるのと同様の状態になる。このように、絞り部の磁気飽和により、磁石磁束が抑制されるので、軽負荷時(無負荷時)の鉄損を低減することができ、これにより、モータの高効率化をより一層図ることができる。
【0046】
一方、一般に逆突極性を有する同期型モータにおける高トルク発生時(高負荷時)には、リラクタンストルクの活用を目的とした、電流の進角制御が行われる。ここで、電流の進角制御≒弱め界磁制御であることから、かかる電流の進角制御で発生する永久磁石の磁束は、ステータコイルから生じる、永久磁石の磁束と対抗する磁束成分によって抑制される。その結果、絞り部の磁気飽和が解消されるので、磁気飽和により制限を受けていた永久磁石の磁束をトルク発生に有効活用することができる。これにより、進角制御(≒弱め界磁制御)でも高いトルクが得られることから、モータの高効率化をより一層図ることができる。
【0047】
したがって、絞り部を形成するという簡単な構成で、軽負荷時および高負荷時共に、モータの高効率化をより一層確実に図ることができる。
【0048】
さらに、上記ロータ構造では、上記ロータコアは、スキュー角が0度であってもよい。
【0049】
この構成によれば、ロータコアがスキュー角を有することに起因して生じる、平均トルクの低下、軸方向へのスラスト力の発生、および、鉄損の増加を確実に抑えることができる。したがって、モータの高効率化および低振動化・低騒音化をより一層確実に図ることができる。
【0050】
また、上記ロータ構造では、上記磁石孔を、冷却用オイルを流す油路として用いてもよい。
【0051】
この構成によれば、磁石孔を、冷却用オイルを流す油路として用いることで、磁石孔に挿入される永久磁石を直接的に冷やすことができる。このように、冷却用オイルで永久磁石を直接的に冷やすことと、モータの高効率化によるモータ内部の発熱量の低下と、が相俟って、同期型モータを小型化した場合の永久磁石の減磁をより確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0052】
以上説明したように、本発明に係るロータ構造によれば、同期型モータを小型化した場合でも、高効率化および低振動化・低騒音化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明の実施形態に係る同期型モータの概略を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】ロータコアおよび永久磁石を模式的に示す断面図である。
【
図5】高調波成分が磁束密度に及ぼす影響を模式的に説明する図である。
【
図6】第1の空隙および突状部を模式的に示す図である。
【
図7】二重の突状部の利点を模式的に説明する図である。
【
図8】第2突状部のバリエーションを模式的に示す図である。
【
図10】一般的な磁気抵抗の変化を模式的に説明する図である。
【
図11】ステータとロータとの間のエアギャップにおける理想的な磁束密度の空間的な分布を模式的に説明する図である。
【
図12】非対称化された隣接する磁極を模式的に示す図である。
【
図13】非対称化された隣接する磁極間における第1突状部の一例を模式的に示す図である。
【
図16】高回転域でのトルクの時間変化を模式的に示す図である。
【
図17】モータに印可される三相交流の線間電圧の回転角度に対する変化を模式的に示す図である。
【
図18】センターブリッジレス構造を模式的に説明する図である。
【
図19】ロータコアにおけるブリッジ部を模式的に説明する図である。
【
図22】軽負荷時における絞り部の機能を模式的に説明する図である。
【
図23】高負荷時における絞り部の機能を模式的に説明する図である。
【
図24】本発明の実施形態および従来のロータ構造に係る効率特性図および鉄損比較図である。
【
図25】ロータにおける油路を模式的に示す図である。
【
図26】ロータにおけるオイルの流れる経路を模式的に示す図である。
【
図27】その他の実施形態に係る永久磁石の配置パターンを模式的に示す断面図である。
【
図28】その他の実施形態に係る永久磁石の配置パターンを模式的に示す断面図である。
【
図29】その他の実施形態に係るロータコアを模式的に示す断面図である。
【
図30】その他の実施形態に係るロータコアを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0055】
-モータの概要-
図1は、本実施形態に係る同期型モータ1の概略を模式的に示す縦断面図である。
図1における、符号ACは同期型モータ1の軸心を、符号OSは出力軸側を、符号AOSは反出力軸側をそれぞれ示している。また、
図1では、ステータ90については、図を見易くするために、ステータコア91の詳細な断面を示すことなく、ステータコア91の外形、および、ステータコア91に装着されるステータコイル93(
図4参照)のコイルエンド93a,93bのみを示している。なお、
図1は、飽く迄も同期型モータ1の概略を示すものであり、分かり易さを重視していることから、ロータ10における各部品の周方向の位置は必ずしも整合がとれていない。
【0056】
この同期型モータ1は、例えば電気自動車に搭載されるものであり、
図1に示すように、ロータシャフト20が中心を貫通しているロータコア30を有するロータ10と、ロータコア30の外周を囲むように配置されたステータコア91を有するステータ90と、を備えていて、ステータ90で発生する回転磁界に同期してロータ10が回転するように構成されている。詳しくは後述するが、この同期型モータ1は、小型化した場合でも、その高効率化および低振動化・低騒音化が可能なロータ構造を備えている。
【0057】
-ロータの概要-
図2は、ロータ10を模式的に示す斜視図である。ロータ10は、
図2に示すように、上述のロータシャフト20およびロータコア30の他、ロータコア30に形成された磁石孔31に埋め込まれる永久磁石101,102,103,104,105,106と、ロータコア30の軸方向(軸心ACの延びる方向)の両端部にそれぞれ取り付けられる第1および第2エンドプレート40,50と、を有している。
【0058】
ロータシャフト20は、オイル導入部21と、シャフト本体部27と、を有していて、その内部に冷却用オイルが流れるオイル導入路20aが形成されている。
図1に示すように、第1エンドプレート40は軸方向の反出力軸側AOS(以下、単に「反出力軸側AOS」ともいう。)のコイルエンド93aと、また、第2エンドプレート50は軸方向の出力軸側OS(以下、単に「出力軸側OS」ともいう。)のコイルエンド93bと、それぞれ径方向に見て重なるように配置されている。
【0059】
ロータコア30は、所定の形状に成形された円環状の磁性体薄板を所定枚数で軸方向に積み重ねた積層体であり、ロータシャフト20が焼き嵌めにて固定される中心穴38を有する円筒状に形成されている。より詳しくは、ロータコア30は、
図2に示すように、各々磁性体薄板を積み重ねた4つの積層体30A,30B,30C,30Dを、スキュー角=0度で組み合わせた、所謂スキューレスのロータコアとして構成されている。これにより、本実施形態では、平均トルクの低下、および、軸方向へのスラスト力の発生が抑制されるようになっている。また、スキューレスのロータコア30とすることで、磁石孔31および永久磁石101,102,…は、軸方向におけるロータコア30の反出力軸側AOSの端から出力軸側OSの端まで真っ直ぐに延びている。なお、磁性体薄板の材質としては、珪素鋼板の一種である電磁鋼板を用いることができる。
【0060】
図3は、ロータコア30および永久磁石101,102,…を模式的に示す断面図である。
図3(a)は、ロータコア30の全体図であり、
図3(b)は、磁極MP1の拡大図である。なお、
図3(a)では、図を見易くするために、磁性体の断面ハッチングを省略している。ロータコア30には、
図3(a)に示すように、ロータ10における、周方向に並ぶ磁極数が8で且つ軸心ACから見た1磁極分の周方向に沿った見込み角度が45度になるように、永久磁石101,102,103,104,105,106が埋め込まれている。
【0061】
なお、各磁極MP1,MP2,MP3,MP4,MP5,MP6,MP7,MP8は、磁石孔31,33,…および永久磁石101,102,…の位置や形状が異なるものの、基本的な構成は同じであることから、以下では、8つの磁極MP1,MP2,…を代表して
図3(b)の拡大図に示す磁極MP1を参照して、各磁極MP1,MP2,…における磁石孔31,33,…および永久磁石101,102,…等について説明する。
【0062】
各磁極MP1,MP2,…は、
図3(b)に示すように、径方向外側でV字状に配置された2つの永久磁石101,102を含む外側埋込磁石部100Aと、径方向内側でU字状に配置された4つの永久磁石103,104,105,106を含む内側埋込磁石部100Bとの2層構造で構成されている。
【0063】
外側埋込磁石部100Aは、V字状に形成された1つの磁石孔31を有していて、2つの永久磁石101,102は、径方向外側に向かって互いの間隔が拡がり且つ径方向内側で互いの間隔が狭まるV字状をなすように、磁石孔31に挿入されている。V字状の磁石孔31のうち、2つの永久磁石101,102等で埋められていない部分(
図3(b)の白抜き部分)は、空隙(フラックスバリア)として残る。
【0064】
内側埋込磁石部100Bは、4つの磁石孔33,34,35,36を有している。永久磁石103および永久磁石106は、径方向外側に向かって互いの間隔が拡がり且つ径方向内側で互いの間隔が狭まるように磁石孔33および磁石孔36にそれぞれ挿入されている。磁石孔33,36のうち永久磁石103,106で埋められていない部分は、空隙として残る。また、永久磁石104および永久磁石105は、磁石孔34および磁石孔35にそれぞれ挿入されていて、磁石孔34,35のうち永久磁石104,105等で埋められていない部分は、空隙として残る。
【0065】
-ロータ構造-
本実施形態では、上述の如く、同期型モータ1を小型化した場合でも、その高効率化および低振動化・低騒音化が可能なロータ構造を備えるところ、モータにおける「効率」とは、「出力/(出力+損失)」であることから、モータの高効率化を図るには、損失を抑え(要件1)つつ、出力を高めることが要求される。
【0066】
ここで、モータの「出力」とは、「トルク×回転数」であることから、出力を高めるには、同じ大きさのステータコイル電流によって発生可能なトルクを高める(要件2)とともに、ロータ10を無駄なく滑らかに回転させる必要がある。そうして、発生可能なトルクを高めるためには、トルクの発生に寄与する磁束(基本波成分)の割合を増やすことが有効となる。また、ロータ10を無駄なく滑らかに回転させるには、ロータ10の各磁極MP1,MP2,…における、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGでの磁束密度を時間的に正弦波状に変化(空間的に正弦波状に分布)させる(要件3)のが理想とされている。このようにステータ90とロータ10との間のエアギャップGで磁束密度が正弦波状に変化すれば、トルクリップル(振動)も抑制されるので、高効率化と同時に振動化・低騒音化も図ることが可能となる。もっとも、一般的に同期型モータ1では、これらの要件1~3を阻害する高調波成分が磁束に含まれることが知られている。
【0067】
<高調波成分の存在>
図4は、高調波成分を模式的に説明する図であり、
図5は、高調波成分が磁束密度に及ぼす影響を模式的に説明する図である。なお、
図5(a)は、基本波と高調波とを分解して示す図であり、
図5(b)は、基本波と高調波との合成波を示す図である。また、
図4の二点鎖線は、磁極MPを区切る仮想線である。さらに、
図5(a)では、基本波を実線で、n次高調波を破線で、またn’次高調波(n’>n)を二点鎖線でそれぞれ示している。
【0068】
トルクの発生に寄与する磁束とは、
図4の符号BWで示すように、ロータコア30内部を大きく回って通る磁束であり、基本波(基本波成分)と呼ばれるものである。一方、高調波成分とは、基本波成分に対する、その「整数倍」の高次の周波数成分であり、
図4の符号Hで示すように、ロータコア30の外周部を掠るように通ることから、トルクの発生に寄与しないことが知られている。のみならず、高調波成分は、
図5(a)に示すように、正弦波状に変化するのが理想とされる基本波に重畳して、
図5(b)に示すように、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGでの磁束密度の波形を歪めることが知られている。
【0069】
他方、「損失」とは、「鉄損+銅損+機械損」であるところ、磁性材料を主体とするロータ10における「損失」とは「鉄損」である。この「鉄損」には、シュタインメッツの実験式から導かれる、磁界の向きを変えるときに生じる摩擦損失であるヒステリシス損(下記の式(1)参照)と、ロータコア30の電気抵抗により生ずるエネルギー損失である渦電流損(下記の式(2)参照)とがある。
【0070】
【0071】
【0072】
上記式(1)および式(2)から分かるように、ヒステリシス損および渦電流損、すなわち「鉄損」は、磁束の変動周波数fに依存し、磁束の変動周波数fが高くなれば増大する。また、
図4(a)に示すように、高調波成分は基本波成分よりも高い周波数成分を持っている。このため、高調波成分の存在は、鉄損の増大を招き、この点でも、同期型モータ1の高効率化を阻害するものである。
【0073】
そうして、このような高調波成分は、ロータ10とステータ90とで磁気交換が行われるエアギャップG、および、磁束の短絡が生じ易い磁極MP間に、換言すると、
図4の楕円枠で囲ったような、ロータコア30の外周部における磁極MP間の近傍に出易いことが知られている。
【0074】
そこで、本実施形態では、同期型モータ1の高効率化および低振動化・低騒音化を阻害する、磁束の高調波成分の発生を抑制するようにしている。以下では、磁束の高調波成分の発生を抑制して、高効率化および低振動化・低騒音化を実現するための構成((1)第1の空隙および突状部、および(2)非対称構造)、並びに、主として同期型モータ1の更なる高効率化を図る構成((3)センターブリッジレス構造、(4)絞り部、および(5)油路)についてそれぞれ詳細に説明する。
【0075】
<(1)第1の空隙および突状部>
図6は、第1の空隙G1および突状部61,62を模式的に示す図である。より詳しくは、
図6(a)は、磁極MP1および磁極MP8を示す断面図およびその拡大図であり、
図6(b)は、第1の空隙G1による効果を示す図である。本実施形態のロータ構造では、
図6(a)に示すように、ロータコア30の外周面32に、軸方向に見て、相隣り合う磁極MP1と磁極MP8とに跨るように周方向に延び、且つ、径方向外側に突出する第1突状部61を形成するとともに、第2突状部62の内部に、軸方向に見て、周方向に延びる第1の空隙G1を形成するようにしている。なお、突状部61,62および第1の空隙G1は、磁極MP1-磁極MP8間のみならず、例えば
図3に示すように、周方向に相隣り合う磁極MP間すべてに形成されている。
【0076】
第1突状部61は、軸方向に見て、
図6(a)の拡大図において、共に符号32a,32bで指し示す仮想線(二点鎖線)と実線とを見比べれば分かるように、その周方向の両端部に対応するロータコア30の外周面32a,32b(仮想線)を径方向内側に窪ませる(窪み32a,32b(実線))ことで、相対的に径方向外側に突出するように形成されている。つまり、第1突状部61は、円筒状のロータコア30の外周面32から径方向外側へ絶対的に突出しているのではなく、その両端部を径方向内側に窪ませることで、窪み32a,32bに対して相対的に径方向外側に突出している。また、第1の空隙G1は、断面矩形状に形成されているが、後述する第2突状部62が形成されることで、径方向内側に開くコ字状をなしている。
【0077】
このように、相隣り合う磁極MP1,MP8に跨るように形成された第1突状部61の内部に、周方向に延びる第1の空隙G1を形成することで、
図6(b)に示すように、フラックスバリアである第1の空隙G1によって磁束が遮られ、磁極MP1,MP8間での磁束の短絡等が抑えられて、高調波成分の発生を抑制することができる。そうして、高い周波数成分を持つ高調波成分の発生が抑制されることで、磁束の変動周波数を低下させることができ、これにより、磁束の変動周波数に依存する鉄損の増大を抑えることができる(要件1を充足)。そうして、このような高調波成分を抑えることによる鉄損の増大の抑制と、スキューレスのロータコア30による鉄損の増大の抑制と、が相俟って、損失の増大を確実に抑えることができる。また、損失の増大が抑えられることで、同期型モータ1を小型化した場合でも、モータ内部の発熱量を低下させることが可能となる。
【0078】
さらに、高調波成分の発生を抑制することで、
図5(b)に示すような合成波の発生が抑えられることから、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGでの磁束密度を理想とされる正弦波状に近付けることが可能となる(要件3を充足)。これにより、ロータ10を無駄なく滑らかに回転させることが可能となるとともに、振動(トルクリップル)を低減することができる。加えて、第1の空隙G1によってトルクの発生に寄与しない磁束の高調波成分の発生を抑制することで、トルクの発生に寄与する磁束の基本波成分の割合を増大させることができる。
【0079】
もっとも、単に第1の空隙G1を形成するだけでは、トルクが目減りしてしまう場合があり、その場合には、磁束の基本波成分の割合を増大させても、総トルクを高める効果が小さくなることも想定される。
【0080】
そこで、本実施形態のロータ構造では、
図6(a)に示すように、第1突状部61の内部に、軸方向に見て、第1の空隙G1の径方向内側を区画する部位G1aから径方向外側に突出する断面矩形状の第2突状部62を形成するようにしている。ここで、突極性とは、磁気抵抗(リラクタンス)がロータコア30の円周上の位置によって不均一なことであるところ、ロータコア30の外周面32に形成された第1突状部61の内部に、径方向外側に突出する第2突状部62が形成されていることから、ステータ90の回転磁界による極と突極(第1および第2突状部61,62)との吸引力により生ずるリラクタンストルクによって、トルクの減少を補うことができる。このように、磁気的な突極性によるリラクタンストルクの確保と、上述した磁束の基本波成分の割合が増大することと、が相俟って、同じ大きさのステータコイル電流によって発生可能なトルクを高めることができる(要件2を充足)。
【0081】
図7は、二重の突状部61,62の利点を模式的に説明する図である。なお、
図7(a)は、第1突状部161のみを有するロータコア130を、
図7(b)は、第1および第2突状部61,62を有する本実施形態のロータコア30を、
図7(c)は、第2突状部262のみを有するロータコア230をそれぞれ示している。本実施形態のロータ構造では、第1および第2突状部61,62という、径方向に並ぶ2重の突状部61,62が形成されていることから、例えば同等のリラクタンストルクを発生させる場合に、
図7(a)に示すような、第1突状部161のみが形成されているロータコア130に比して、第1突状部61自体の径方向外側への突出高さを低くすることができる(
図7(a)-
図7(b)間の二点鎖線参照)。換言すると、外周面132からの第1突状部161の突出高さと、外周面32からの第1突状部61の突出高さと、が同じであれば、本実施形態のロータコア30では、第1突状部161のみが形成されているロータコア130よりも大きなリラクタンストルクを確保することが可能となる。
【0082】
このように、第1突状部61の径方向外側への突出高さを低く設定して、円筒状のロータコア30の外周面32を真円に近付けることが可能になることから、スキューレスのロータコア30を採用しても、コギングトルクの低減を図ることが可能となる。しかも、第1突状部61を、上述の如く、径方向外側へ絶対的にではなく相対的に突出させることから、コギングトルクをより一層低減することができる。それ故、かかるコギングトルクの低減と、上述したトルクリップルの低減と、が相俟って、同期型モータ1の小型化に当たり電流密度および磁束密度を高めた場合でも、モータの振動およびそれに伴う騒音を確実に抑えることができる。
【0083】
また、本実施形態のロータ構造では、径方向に並ぶ2重の突状部61,62が形成されていることから、
図7(c)に示すような、外周面232に凹凸が無く、第2突状部262のみが形成されているロータコア230に比して、より大きなリラクタンストルクを確保することが可能となる。
【0084】
図8は、第2突状部62のバリエーションを模式的に示す図である。なお、
図8(a)および(b)では、説明の便宜上、第2突状部62’を極端に傾斜させている。第2突状部62は、第1の空隙G1の径方向内側を区画する部位G1aから径方向外側に突出しているのであれば、径方向外側に真っ直ぐ延びていることは必須ではない。例えば、
図8(a)に示すように、径方向外側に行くほど周方向(
図8(a)の反時計回り側)に所定角度で傾くように、径方向に対し傾斜して第2突状部62’を突出させてもよいし、また、
図8(b)に示すように、径方向外側に行くほど周方向(
図8(b)の時計回り側)に所定角度で傾くように、径方向に対し傾斜して第2突状部62’を突出させてもよい。このように、磁気的な突極性に寄与する第2突状部62’を、径方向外側に行くほど周方向に所定角度で傾くように、径方向に対し傾斜して突出させれば、所定角度の設定によって、リラクタンストルクのリップル成分(高調波成分)を木目細かく制御することが可能となる。
【0085】
さらに、第2突状部62が、第1の空隙G1の径方向内側を区画する部位G1aから径方向外側に突出しているのであれば、第1の空隙G1が周方向に連続した空隙である必要はない。例えば、
図8(c)に示すように、第1の空隙G1を周方向に分断して、第1の空隙G1の径方向外側を区画する部位G1bまで延びるように、第2突状部62”を突出させてもよい。このように、第1の空隙G1を周方向に分断しても、高調波成分の発生を抑制することができるとともに、部位G1bまで届かないように第2突状部62を形成する場合に比して、第2突状部62”の突出長を長くすることができる。これにより、磁気的な突極性によるリラクタンストルクをより一層確保することができる。
【0086】
以上のように、本実施形態に係るロータ構造によれば、同期型モータ1を小型化した場合でも、高効率化および低振動化・低騒音化を実現することができ、それ故、高温による永久磁石101,102,…の減磁や振動・騒音を伴うことなく、出力レベルを維持したままでの同期型モータ1の小型化を実現することができる。
【0087】
<(2)非対称構造>
上述の如く、ステータ90の回転磁界やロータ10の起磁力に含まれる高調波成分がトルクリップルの発生要因であるが、以下に説明するように、かかる高調波成分を増幅させるものとして「磁気抵抗の変化」が知られている。そもそも、トルクリップルとは、モータで生成されるトルクが一貫性を失うことで、トルク出力の周期的な変動を表す概念である。そうして、モータのトルクTは、下記の式(3)(トルクの基本式)で定義される。
【0088】
【0089】
式(3)におけるL・i(インダクタンスと電流との積)はステータコイル電流が生じる鎖交磁束を示しており、式(3)を変形すると、下記の式(4)のように、トルクTを鎖交磁束φと電流iとの式として整理することができる。
【0090】
【0091】
式(4)から分かるように、トルクリップルがある状態とは、鎖交磁束φまたは電流iがリップル成分(高調波成分)を含んでいる状態を指す。そうして、仮に電流(idまたはiq)が一定であるなら、トルクリップルの主要因は磁束(φdまたはφq)であり、かかる磁束(φdまたはφq)はインダクタンス(LdまたはLq)の関数であり、また、インダクタンスは磁気抵抗の関数であることから、磁気抵抗の変化は磁束における高調波成分を増幅させて、トルクリップルを悪化させるものと位置付けられる。
【0092】
図9は、磁気等価回路を模式的に説明する図であり、
図9(a)は磁気等価回路を示し、
図9(b)は磁気等価回路網のイメージを示している。また、
図10は、一般的な磁気抵抗の変化を模式的に説明する図である。さらに、
図11は、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGにおける理想的な磁束密度の空間的な分布を模式的に説明する図である。
【0093】
磁気等価回路とは、
図9(a)に示すように、磁束、起磁力および磁気抵抗の関係を、電流、電圧および抵抗の関係に置き換えて説明するためのものである。ここで、「起磁力」とは、磁気回路に磁束を生じさせる力であり、永久磁石101,102,…やステータコイル93が、これに相当する。また、「磁気抵抗」は、ロータコア30の形状、フラックスバリアや永久磁石101,102,…の形状・配置によって決まり、ロータ10の回転角度に応じて変化したり、同期型モータ1の運転状態(磁気飽和による透磁率の変化)に応じて変化したりするものである。それ故、同期型モータ1では、起磁力の大きさや向き(永久磁石101,102,…等の大きさや向き)と、磁気抵抗(フラックスバリア等の形状や配置)と、の配分によって、
図9(b)の太線矢印で示すように、磁束の流れ方が決まるようになっている。
【0094】
もっとも、
図10(a)に示すように磁束MFの流れ方が決まっていても、
図10(b)の太線矢印で示すように、ロータ10が回転すると、ステータ90のティース95と永久磁石100等との位置関係が変化することで、
図10(a)と
図10(b)とを見比べれば分かるように、磁束MFの流れが変化することになる。そうして、ロータ10の磁極MP1,MP2,…における永久磁石101,102,…やフラックスバリアの配置等によっては、ロータ10の回転に伴って、ステータ90のティース95と永久磁石101,102,…等との位置関係が変化することで、磁気抵抗が大きく変化してしまう場合もあり、その場合には、高調波成分が増幅して、トルクリップルが悪化してしまう可能性がある。
【0095】
それ故、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGにおける理想的な磁束密度の状態とは、磁束密度がN極で最大でS極で最少となるように、単に磁束密度が正弦波状に変化するだけではなく、
図11の太線矢印で示すように、ロータ10の回転角度が変化(ロータ10が回転)しても、エアギャップGでの磁束密度が、どの回転角度においても常に正弦波状に分布しているような状態をいう。これをトルクリップルに着目して言い換えれば、ロータ10の回転角度が変化しても、磁気抵抗の変化を抑えられるのであれば、高調波成分の増幅が抑えられて、トルクリップルを効果的に抑制することができると言える。
【0096】
そこで、本実施形態にかかるロータ構造では、軸方向に見て、各磁極MP1,MP2,…における、永久磁石101,102,103,104,105,106の位置、形状、大きさ、および、傾き、並びに、磁石孔31,33,34,35,36の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つを、周方向で隣接する磁極間で非対称となるように設定している。
【0097】
図12は、非対称化された隣接する磁極MP1,MP8を模式的に示す図である。
図12(a)は、隣接する磁極MP1,MP8の一例を模式的に示す断面図であり、
図12(b)は、磁極MP1と磁極MP8とを重ねた仮想状態を示している。
図12(a)では、図を見易くするために、磁性体の断面ハッチングを省略している。なお、
図12は例示であり、磁極MP1と磁極MP8とのみが非対称となっている訳では無く、例えば
図3(a)に示すように、周方向に相隣り合うすべての磁極MP1,MP2,…同士が非対称化されている。
【0098】
図12(b)に示すように、磁極MP1と磁極MP8とを重ね合わせると、
図12(a)に示す周方向に相隣り合う磁極MP1と磁極MP8とで、以下の要素が非対称となっていることが分かる。すなわち、永久磁石101,102の大きさおよび傾き、永久磁石103,106の傾き、永久磁石104,105の位置、磁石孔31の大きさおよび形状、磁石孔33,36の大きさ、形状および傾き、磁石孔34,35の大きさおよび形状などが、磁極MP1と磁極MP8とで大きく異なっている。
【0099】
なお、周方向で隣接する磁極間で、永久磁石101,102,…や磁石孔31,33,…の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つ(以下、「位置等」ともいう。)が単に非対称とされていれば良いという訳では無く、上で説明したように、ロータ10の回転角度が変化しても、磁気抵抗の変化を抑えられるような永久磁石101,102,…や磁石孔31,33,…の位置等の非対称化が要求される。もっとも、磁気抵抗の変化を抑えられるような非対称化は、例えば「永久磁石101を大きくし、磁石孔31の形状を変えれば良い」といった具合に、単純に規定することができるものでは無く、ティース95の関係性等を加味した上で、CAE(computer-aided engineering)によるシミュレーション解析や実験などを通じて設定されるものである。
【0100】
このように、周方向で隣接する磁極間で、永久磁石101,102,…や磁石孔31,33,…の位置等が非対称とされることにより、ロータ10が回転しても、ティース95と永久磁石101,102,…等との位置関係が大きく変化してしまうのを抑えることが可能となる。これにより、磁気抵抗の変化を抑制することが可能となり、高調波成分の増幅を抑えて、トルクリップルの悪化を抑えることができる。
【0101】
また、通常、ティース95は均等に並んでいるため、仮に、周方向に並ぶ複数の磁極MP1,MP2,…が全く同じに構成されていると、一の永久磁石101,102,…と一のティース95との相対的な位置関係が、他の永久磁石101,102,…と他のティース95との相対的な位置関係と合致してしまうことになる。このような永久磁石101,102,…とティース95との位置関係が合致する組が、複数組存在すると、整数倍の周波数成分である高調波成分が生じ易くなる可能性もあるが、本実施形態では、隣接する磁極を非対称化することで、隣接する磁極の間で高調波成分同士を打ち消し合わせることも可能となる。
【0102】
それ故、周方向で隣接する磁極MP1,MP8間での、永久磁石101,102,…や磁石孔31,33,…の非対称化により、磁気抵抗の変化の抑制に基づく高調波成分の増幅の抑制と、高調波成分同士の打ち消し合いとが相俟って、トルクリップルを確実に抑えて、同期型モータ1の高効率化および低振動化・低騒音化をより一層図ることができる。
【0103】
もっとも、永久磁石101,102,…や磁石孔31,33,…の位置等を、隣接する磁極MP1,MP8間で非対称とすれば、相対的に大きな永久磁石101,102で構成される磁極MP1と、相対的に小さな永久磁石101,102で構成される磁極MP8とで、トルクの発生に寄与する磁束(基本波成分)量にバラツキが生じてしまう可能性がある。また、永久磁石101,102,…や磁石孔31,33,…の位置等を、隣接する磁極MP1,MP8間で非対称とすれば、磁束の基本波成分のゼロクロス点がq軸からずれてしまう可能性もある。
【0104】
そこで、隣接する磁極MP1,MP8同士を非対称化するのであれば、第1突状部61については、周方向両端部における窪み32a,32bの深さを、非対称となるように設定することが好ましい。
【0105】
図13は、非対称化された隣接する磁極MP1,MP8間における第1突状部61’の一例を模式的に示す図である。なお、
図13(a)は、磁極MP1および磁極MP8を示す断面図であり、
図13(b)は、
図13(a)における丸枠B内で囲った部分を拡大して示す図である。
【0106】
図13(a)および(b)に示すように、第1突状部61’の周方向の端部における窪み32a’の深さが深ければ、大きな空隙が存在するのと同様に磁束が通り難くなる。これに対し、第1突状部61’の周方向の端部における窪み32b’の深さが浅ければ、小さな空隙が存在するのと同様に磁束が通り易くなる。したがって、第1突状部61’の深い側の端部(窪み32a’)を、相対的に大きい永久磁石101,102で構成される、磁束量が多い磁極MP1側に設定する一方、第1突状部61’の浅い側の端部(窪み32b’)を、相対的に小さい永久磁石101,102で構成される、磁束量が少ない磁極MP8側に設定することで、隣接する磁極MP1,MP8間での非対称化に基づく磁束の基本波成分量のバラツキを軽減することができる。また、第1突状部61の周方向両端部における窪み32a,32bの深さを変えることで、ゼロクロス点がq軸に寄ることから、磁束の基本波成分量のバラツキをより一層軽減することができる。
【0107】
≪(1)および(2)の構成による効果≫
以上のように、本実施形態に係るロータ構造では、第1の空隙G1および突状部61,62、並びに、磁極間での非対称構造を採用することで、高調波成分を抑制するところ、以下では、これらによる効果について、シミュレーション試験や実験の結果に基づいて説明する。
【0108】
図14は、磁束密度の空間分布図であり、
図15は、磁束密度の時間分布図である。より詳しくは、
図14は、磁束密度を縦軸とするとともに、ロータコア30の外周上の角度を横軸として、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGでの磁束密度の空間的な分布を表したものである。また、
図15は、磁束密度を縦軸とするとともに、時間を横軸として、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGでの磁束密度の時間的な変化を表したものである。そうして、
図14(a)および
図15(a)は共に、本実施形態に係る同期型モータ1に関するものであり、
図14(b)および
図15(b)は共に、第1の空隙G1や突状部61,62や非対称構造を採用していない従来の同期型モータ(図示せず)に関するものである。
【0109】
図14(a)と
図14(b)を見比べれば明らかなように、本実施形態に係る同期型モータ1では、高調波成分の発生が抑制されることから、従来の同期型モータのように合成波とはならず、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGで磁束密度が正弦波状に分布していることが分かる。なお、
図14(a)に示す符号Dは、磁束が出ないステータ90のスロット位置(ティース95とティース95との間)で不可避的に生じる、磁束密度の急激な落ち込みであり、正弦波状の分布を否定するものではない。また、
図15(a)と
図15(b)を見比べれば明らかなように、本実施形態に係る同期型モータ1では、ステータ90とロータ10との間のエアギャップGで磁束密度が時間的にも正弦波状に変化していることが分かる。
【0110】
図16は、高回転域でのトルクの時間変化を模式的に示す図である。
図16(a)は、本実施形態に係る同期型モータ1に関するものであり、
図16(b)は、第1の空隙G1や突状部61,62や非対称構造を採用していない従来の同期型モータに関するものである。なお、ここでの高回転域とはモータ回転数が14000~16000(rpm)の領域を指す。
【0111】
上述の如く、ロータ10の回転に伴って磁気抵抗が大きく変化してしまうと、高調波成分が増幅されることから、高回転域ではトルクリップルに対して不利になるはずである。もっとも、
図16(a)と
図16(b)を見比べれば明らかなように、本実施形態に係る同期型モータ1では、高調波成分の発生を抑制するのみならず、隣接する磁極間での非対称構造の採用により、トルクリップルに対して不利なはずの高回転域においても、従来の同期型モータに比して、トルクの周期的な変動、すなわち、トルクリップルの発生を大幅に低減することが可能となる。
【0112】
図17は、モータに印可される三相交流の線間電圧の回転角度に対する変化を模式的に示す図である。
図17(a)は、本実施形態に係る同期型モータ1における、最高回転動作点での線間電圧を示し、
図17(b)は、第1の空隙G1や突状部61,62や非対称構造を採用していない従来の同期型モータにおける、最高回転動作点での線間電圧を示している。回転中のモータに印加されている電圧に対抗してモータが発電する電圧である逆起電圧の電圧リップルは、トルクリップルと同様に、磁束の高調波成分をその起源とするところ、本実施形態に係る同期型モータ1では、トルクリップルが低減されることの副次的な効果として、電圧リップルも低減されることになる。
【0113】
具体的には、
図17(b)に示すように、回転角度に応じて、電圧制限に達するように三相交流の線間電圧が乱れる従来の同期型モータと異なり、本実施形態の同期型モータ1では、
図17(a)に示すように、三相交流の線間電圧の波形が、電圧制限の範囲内で、理想とされる正弦波に近付くことになる。このように、最高回転動作点での三相交流の線間電圧波形を正弦波に近付けることができるので、高回転時の同期型モータ1の制御性を高めることが可能となる。
【0114】
<(3)センターブリッジレス構造>
図18は、センターブリッジレス構造を模式的に説明する図である。具体的には、
図18(a)は、本実施形態に係るロータコア30の外側埋込磁石部100Aを示し、
図18(b)は、従来のロータコア330における
図18(a)に相当する部位を示し、
図18(c)は、
図18(a)の丸枠Cで囲った部分を拡大して示している。本実施形態のロータ構造では、外側埋込磁石部100Aは、上述の如く、V字状に形成された1つの磁石孔31を有していて、2つの永久磁石101,102がV字状をなすように、磁石孔31に挿入されている。このようなV字状の磁石孔31のうち、2つの永久磁石101,102等で埋められていない部分は、空隙として残っている。
【0115】
一方、従来のロータコア330では、
図18(b)に示すように、磁石孔331のうち、2つの永久磁石101,102で埋められていない、2つの永久磁石101,102の間の部分には、機械的な強度を確保するために、所謂センターブリッジ337が設けられている。もっとも、このようなセンターブリッジ337は、漏れ磁束経路となるため、2つの永久磁石101,102の間に短絡磁束が発生し易くなる。
【0116】
そこで、本実施形態に係るロータ構造では、
図18(a)に示すように、隣接する2つの永久磁石101,102の間を第2の空隙G2として残すようにしている。このように、隣接する2つの永久磁石101,102の間が第2の空隙G2であることから、換言すると、2つの永久磁石101,102の間に、漏れ磁束経路となるセンターブリッジ337が存在しないことから、2つの永久磁石101,102の間で生じる、トルクに寄与しない短絡磁束(漏れ磁束)を抑制して、磁石磁束を有効活用することができる。これにより、例えばステータコイル電流が低い場合であっても、高いトルクを得ることが可能となることから、同期型モータ1の高効率化をより一層確実に図ることができる。
【0117】
もっとも、隣接する2つの永久磁石101,102の間に従来設けられていたセンターブリッジ337は、機械的な強度を確保するためのものであるから、隣接する2つの永久磁石101,102の間を第2の空隙G2とする(ブリッジレス化する)と、これらの永久磁石101,102の近傍における他の部位に作用する応力(遠心力や焼き嵌めによる応力)が相対的に増大することになる。
【0118】
そこで、本実施形態のロータ構造では、
図18(c)に示すように、V字形状をなす磁石孔31の径方向外側の端部を、ロータコア30の外周面32に近接させるとともに、当該端部における永久磁石101,102で埋められていない第3の空隙G3を、ブリッジ部37で第3の空隙G3’と第3の空隙G3”とに区分するようにしている。これにより、第3の空隙G3’は、磁石孔31の孔壁の一部と、ロータコア30の表面部(ブリッジ部32c)と、ブリッジ部37とで区画される。また、第3の空隙G3’は、磁石孔31の孔壁の一部と、永久磁石101,102の径方向外側の端面と、ブリッジ部37とで区画される。
【0119】
このように、V字形状をなす磁石孔31の径方向外側の端部における、永久磁石101,102で埋められていない第3の空隙G3に、ロータコア30の表面部で構成されるブリッジ部32c、および、第3の空隙G3を区分するブリッジ部37という二重のブリッジ部37,32cが設けられることから、遠心力や焼き嵌めによる応力集中を抑制することができ、これにより、ロータコア30が変形するのを回避することができる。
【0120】
図19は、ロータコア30におけるブリッジ部37,37’,37”を模式的に説明する図である。なお、
図19(a)は、焼き嵌め時のロータコア30の応力状態を示し、
図19(b)は、最高回転時におけるロータコア30の応力状態を示している。また、
図19(c)は、ブリッジ部37,37’,37”と永久磁石101,102,…との関係を示している。上述の如く、本実施形態のロータ構造では、隣接する磁極MP1,MP2,…同士を非対称化することから、非対称となっていない従来のロータ構造に比べて、応力集中が生じ易くなっている。
【0121】
例えば、ロータシャフト20をロータコア30の中心穴38に固定する焼き嵌め時には、ロータコア30における
図19(a)に示す黒塗り部分に応力が集中し易くなる。また、ロータコア30に相対的に大きな遠心力が作用する最高回転時には、ロータコア30における
図19(b)に示す黒塗り部分に応力が集中し易くなる。
【0122】
そこで、本実施形態のロータ構造では、軸方向に見て、V字形状をなす永久磁石101,102の位置、形状、大きさ、および、傾きの少なくとも1つが、周方向で隣接する磁極間(例えば磁極MP7と磁極MP8と)で非対称となるように設定されている場合には、
図19(c)に示すように、永久磁石101,102とブリッジ部37との相対角度θ1,θ2も、磁極MP7,MP8間で非対称となるように設定している。
【0123】
V字形状をなす2つの永久磁石101,102の位置等が磁極MP7,MP8間で非対称である場合には、これらの永久磁石101,102の近傍で応力集中が生じ易くなるところ、この構成によれば、磁極MP7における永久磁石101とブリッジ部37との相対角度θ1と、磁極MP8における永久磁石102とブリッジ部37との相対角度θ2と、を非対称となるように設定していることから、相対角度θ1,θ2の設定次第で、非対称化による応力集中を抑制することができ、これにより、ロータコア30が焼き嵌め時や最高回転時に変形するのを回避することができる。
【0124】
同様に、磁極MP7,MP8間で2つの永久磁石103,106の位置等が非対称である場合には、
図19(c)に示すように、磁極MP7における永久磁石103とブリッジ部37’との相対角度θ1’と、磁極MP8における永久磁石106とブリッジ部37’との相対角度θ2’と、が非対称となるように設定してもよい。また、磁極MP7,MP8の間で2つの永久磁石104,105の位置等が非対称である場合には、磁極MP7における永久磁石104とブリッジ部37”との相対角度θ1”と、磁極MP8における永久磁石105とブリッジ部37”との相対角度θ2”と、が非対称となるように設定してもよい。
【0125】
<(4)絞り部>
図20は、磁石鎖交磁束を示すグラフ図である。本実施形態では、同期型モータ1の高効率化を志向するところ、上述の如く、モータにおける「効率」とは、「出力/(出力+損失)」であることから、モータの高効率化を図るには、損失(鉄損)を抑えつつ、出力を高めることが要求される。
【0126】
例えば無負荷時における永久磁石の磁束はトルク発生に寄与しないことから、鉄損を低減するという観点からは、無負荷時の磁石磁束を抑制することが好ましい。一方、一般に逆突極性(d軸リアクタンスがq軸リアクタンスより小さい)を有する同期型モータにおける高負荷時には、リラクタンストルクの活用を目的として、モータに最大トルクを発揮させるべく、最大電流にて電流位相を50(deg)程度まで進角させる制御(進角制御)を行うことが多いが、かかる進角制御では、ステータコイル電流により生じる、永久磁石の磁束に対抗する磁束成分によって、永久磁石の磁束が抑制され、モータ全体の磁束が弱められる可能性がある。これらのことから、モータの高効率化を図るには、軽負荷時(例えば無負荷時)には磁石磁束を抑制する一方、高負荷時(例えば最大トルク時)には、磁石磁束を確保することが好ましい。
【0127】
この点、本実施形態のロータ構造では、ロータコア30の形状に工夫を凝らすことで、
図20に示すように、無負荷時の磁石鎖交磁束(電流振幅ゼロ時の磁石鎖交磁束)よりも、最大トルク時の磁石鎖交磁束の方が大きい状態を実現している。以下、このような状態の実現を可能とする、「絞り部」について詳細に説明する。
【0128】
図21は、絞り部39を模式的に示す図である。
図21(a)は、ロータコア30における1つの磁極MPに相当する部分を示し、
図21(b)は、
図21(a)の丸枠Bで囲った部分を拡大して示している。上述の如く、各磁極MPには、
図21(a)に示すように、ロータコア30の最外周に形成された、V字状をなして周方向に延びる磁石孔(外側磁石孔)31と、磁石孔31よりも径方向内側に形成された、周方向に延びる磁石孔(内側磁石孔)34,35と、が含まれている。
【0129】
磁石孔34,35は、
図21(b)に示すように、これらの磁石孔34,35に挿入された永久磁石(内側永久磁石)104,105の径方向外側の面104a,105aが、ロータコア30に接触し、且つ、永久磁石104,105によって埋められていない径方向内側の部分(より正確には、永久磁石104,105を固定するための固定部30eよりも径方向内側の部分)に、相対的に大きな第4の空隙G4を有するような形状に形成されている。
【0130】
そうして、ロータコア30には、軸方向に見て、ロータコア30における永久磁石104,105よりも径方向内側の部位30fと、永久磁石104,105(より正確には、固定部30e)とを繋ぐように、第4の空隙G4を周方向に分断して各磁極MPのd軸を通って径方向に延びる細長い絞り部39が形成されている。
【0131】
図22は、軽負荷時における絞り部39の機能を模式的に説明する図である。ロータコア30は、永久磁石104,105よりも径方向内側に相対的に大きな第4の空隙G4を有するような形状に形成されていることから、磁性体であるロータコア30に接触する、永久磁石104,105の径方向外側の面104a,105aから出た磁束は、
図22(a)の×印で示すように、第4の空隙G4を通ることが困難になる。このため、
図22(b)に示すように、ロータコア30と永久磁石104,105とを繋ぐように、第4の空隙G4を分断する絞り部39に磁石磁束が集中することになる。
【0132】
もっとも、絞り部39は、細長く形成されていることから、例えば軽負荷時には、
図22(c)のハッチングで示すように、直ぐに磁気飽和となり、透磁率が非常に小さくなって真空(空隙)に近い値になるため、結局、永久磁石104,105の径方向内側の面104b,105bは、全面的に第4の空隙G4で覆われるのと同様の状態になる。このように、軽負荷時(例えば無負荷時)には、絞り部39の磁気飽和により、
図20の破線で示すように、最大トルク時(Beta=50(deg))における磁石磁束(磁石鎖交磁束)を抑制することができる。
【0133】
図23は、高負荷時における絞り部39の機能を模式的に説明する図である。上述の如く、電流の進角制御≒弱め界磁制御であることから、かかる電流の進角制御で発生する永久磁石104,105の磁束は、
図23(a)に示すように、ステータコイル93から生じる、永久磁石104,105の磁束と対抗する磁束成分SFによって抑制される。
【0134】
その結果、言うなれば磁束成分SFによって磁束の渋滞状態にある絞り部39の交通整理が行われて、
図23(b)に示すように、絞り部39の磁気飽和が解消されることから、磁気飽和により制限を受けていた永久磁石104,105の磁束をトルク発生に有効活用することができる。つまり、高負荷時(例えば最大トルク時)には、進角制御によって、ステータコイル電流により、モータ全体の磁束が弱められた場合でも、このような絞り部39の磁気飽和の解消により、
図20に示すように、最大トルク時(Beta=50(deg))における磁石磁束(磁石鎖交磁束)を確保することができる。
【0135】
≪(1)、(2)および(4)の構成による効果≫
図24は、本実施形態および従来のロータ構造に係る効率特性図および鉄損比較図である。より詳しくは、
図24(a)は、本実施形態に係る同期型モータ1の効率特性図であり、
図24(b)は、第1の空隙G1、突状部61,62、非対称構造および絞り部39を採用していない従来の同期型モータの効率特性図であり、
図24(c)は、両ロータ構造の鉄損比較図である。
【0136】
本実施形態の同期型モータ1では、磁束の高調波成分を抑制するとともに、軽負荷時(例えば無負荷時)には磁石磁束を抑制する一方、高負荷時(最大トルク時)には、進角制御でも高いトルクが得られることから、
図24(a)に示すように、最高回転動作点でのモータ効率を91.6(%)まで高めることができる。一方、従来の同期型モータでは、同様の制御を行った場合でも、
図24(b)に示すように、最高回転動作点でのモータ効率が86.9(%)に止まった。これらを、鉄損に換算すると、
図24(c)に示すように、本実施形態の同期型モータ1では、従来の同期型モータに比して、鉄損(損失)を47(%)も引き下げられることが確認された。
【0137】
以上のように、本実施形態の同期型モータ1では、第1の空隙G1や突状部61,62や非対称構造を採用するのみならず、絞り部39を形成するという簡単な構成を付加することで、軽負荷時および高負荷時共に、同期型モータ1の高効率化をより一層確実に図ることができる。
【0138】
<(5)油路>
図25は、ロータ10における油路を模式的に示す図であり、
図26は、ロータ10におけるオイルの流れを模式的に示す断面図および斜視図である。本実施形態の同期型モータ1では、上述の如く、鉄損(損失)の増大が抑えられることで、同期型モータ1を小型化した場合でも、モータ内部の発熱量を低下させることが可能となるが、電流密度を上げた場合には、鉄損の増大の抑制による発熱量の低下を上回る程、ステータ90に近い永久磁石101,102,103,106の発熱量が大きくなる可能性が有る。
【0139】
そこで、本実施形態のロータ構造では、磁石孔31,33,36を、冷却用オイルを流す油路として用いるようにしている。以下では、そのような油路を可能とする構成について説明する。
【0140】
第1エンドプレート40の内部には、
図25に示すように、軸心ACと同心の、円環状をなすチャンバー空間41と、ロータシャフト20のオイル導入路20aとチャンバー空間41とを連結する連結流路43と、径方向内側の端部でチャンバー空間41と連通し、径方向外側に放射状に延びる径方向油路45と、が形成されている。径方向油路45の径方向外側の端部は、第2の空隙G2や、磁石孔33のうち永久磁石103で埋められていない部分(空隙)33bや、磁石孔36のうち永久磁石106で埋められていない部分(空隙)36aと連通している。
【0141】
このようなチャンバー空間41および連結流路43を、第1エンドプレート40の内部に形成することで、ロータシャフト20のオイル導入路20aから送り出された冷却用オイルが、
図26(b)の符号OF1で示すように、チャンバー空間41に充填されることになる。
【0142】
さらに、第1エンドプレート40の内部に径方向油路45を形成することで、チャンバー空間41に充填された冷却用オイルが、径方向油路45を介して、第2の空隙G2および空隙33b,36aに対して分配されて、
図26(b)の符号OF2で示すように、冷却用オイルが第2の空隙G2および空隙33b,36aを通って(
図26(a)の黒塗り部分参照)、ロータコア30内部を反出力軸側AOSから出力軸側OSへ流れることになる。このように、一旦チャンバー空間41に充填された冷却用オイルを、第2の空隙G2および空隙33b,36aへ送ることから、第2の空隙G2および空隙33b,36aに対してオイルを均等に分配することができる。
【0143】
以上により、磁石孔31,33,36を、冷却用オイルを流す油路として用いることで、
図26(a)に示すように、磁石孔31,33,36に挿入される永久磁石101,102,103,106を直接的に冷やすことができる。このように、冷却用オイルで永久磁石101,102,103,106を直接的に冷やすことと、同期型モータ1の高効率化によるモータ内部の発熱量の低下と、が相俟って、同期型モータ1を小型化した場合の永久磁石101,102,…の減磁をより確実に抑えることができるとともに、ステータコイル93に流す電流の電流密度を上げることが可能となる。
【0144】
なお、第1エンドプレート40の内部には、
図25に示すように、径方向内側の端部でチャンバー空間41と連通し、径方向外側に放射状に延びて第1エンドプレート40の外周面で開口する第1拡散油路47を形成するようにしてもよい。このような第1拡散油路47を形成することで、チャンバー空間41に充填された冷却用オイルの一部を、
図26(b)の符号OF3で示すように、第1拡散油路47を通じて、遠心力によって第1エンドプレート40の外周面から径方向外側に飛ばすことが可能となる。そうして、第1エンドプレート40は、反出力軸側AOSのコイルエンド93aと径方向に見て重なるように配置されていることから、ロータコア30内部のみならず、コイルエンド93aを冷却することも可能となる。
【0145】
さらに、第2エンドプレート50の内部にも、
図25に示すように、径方向内側の端部で第2の空隙G2および空隙33b,36aと連通し、径方向外側に放射状に延びて第2エンドプレート50の外周面で開口する第2拡散油路51を形成するようにしてもよい。このような第2拡散油路51を形成することで、永久磁石101,102,…を冷却した後の冷却用オイルを、
図26(b)の符号OF4で示すように、第2拡散油路51を通じて、遠心力によって第2エンドプレート50の外周面から径方向外側に飛ばすことが可能となる。そうして、第2エンドプレート50は、出力軸側OSのコイルエンド93bと径方向に見て重なるように配置されていることから、コイルエンド93bを冷却することも可能となる。
【0146】
なお、ロータコア30は磁性体薄板を積み重ねた積層体であることから、ロータコア30内部を軸方向に流れるオイルが磁性体薄板同士の隙間に漏れる場合も想定される。この場合には、第1エンドプレート40と第2エンドプレート50とで挟まれていることで、漏れオイルが逃げ場を失うとも思えるが、
図1に示すように、第1および第2エンドプレート40,50に排出凹部49,53を形成することで、かかる排出凹部49,53を通じて、磁性体薄板同士の隙間に漏れたオイルをロータコア30外に排出することが可能となる。
【0147】
また、これらのチャンバー空間41、連結流路43、径方向油路45、第1拡散油路47および第2拡散油路51は、例えば鋳造用砂型を用いて形成してもよいし、また、第1および第2エンドプレート40,50を軸方向に分割される複数のプレート(図示せず)でそれぞれ構成し、各プレートの表面や裏面に油路の一部となる溝等を設け、それらの溝等を軸方向に組み合わせることで形成してもよい。
【0148】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0149】
上記実施形態では、(1)第1の空隙G1および突状部61,62、(2)非対称構造、(3)センターブリッジレス構造、(4)絞り部39、および(5)油路を組み合わせたロータ構造としたが、少なくとも(1)第1の空隙G1および突状部61,62を含んでいるのであれば、これに限らず、例えば、(1)第1の空隙G1および突状部61,62のみを備えるロータ構造や、(1)第1の空隙G1および突状部61,62と(2)非対称構造と、を組み合わせたロータ構造や、(1)第1の空隙G1および突状部61,62と(4)絞り部39と、を組み合わせたロータ構造や、(1)第1の空隙G1および突状部61,62、(2)非対称構造および(5)油路を組み合わせたロータ構造等としてもよい。
【0150】
また、上記実施形態では、8つの磁極MP1,MP2,…を、V字状に配置された2つの永久磁石101,102を含む外側埋込磁石部100Aと、U字状に配置された4つの永久磁石103,104,105,106を含む内側埋込磁石部100Bとの2層構造で構成したが、磁極の構成や磁極数はこれに限定されない。
【0151】
例えば、(3)センターブリッジレス構造や(4)絞り部39を採用しないのであれば、
図27(a)に示すように、周方向と略平行な1つの永久磁石からなる1層構造の磁石部110Aを各磁極MPに有する4極のロータ10Aとしてもよいし、
図27(b)に示すように、周方向と略平行な1つの永久磁石からなる1層構造の磁石部110Bを各磁極MPに有する8極のロータ10Bとしてもよいし、
図27(c)に示すように、V字状に配置された2つの永久磁石からなる1層構造の磁石部110Cを各磁極MPに有する8極のロータ10Cとしてもよいし、
図27(d)に示すように、逆円弧状の1つの永久磁石からなる1層構造の磁石部110Dを各磁極MPに有する8極のロータ10Dとしてもよい。
【0152】
また、例えば、(3)センターブリッジレス構造や(4)絞り部39を採用するのであれば、
図28(a)に示すように、周方向と略平行な1組の永久磁石と、その内側にU字状に配置された4つの永久磁石とからなる2層構造の磁石部110Eを各磁極MPに有する8極のロータ10Eとしてもよいし、
図28(b)に示すように、V字状に配置された2つの永久磁石と、その内側にV字状に配置された2つの永久磁石とからなる2層構造の磁石部110Fを各磁極MPに有する8極のロータ10Fとしてもよいし、
図28(c)に示すように、V字状に配置された2つの永久磁石と、その内側にU字状に配置された4つの永久磁石とからなる2層構造の磁石部110Gを各磁極MPに有する8極のロータ10Gとしてもよいし、
図28(d)に示すように、逆円弧状の2つの永久磁石と、その内側にU字状に配置された4つの永久磁石とからなる2層構造の磁石部110Hを各磁極MPに有する8極のロータ10Hとしてもよい。
【0153】
さらに、上記実施形態では、第1突状部61を、その周方向の両端部に対応するロータコア30の外周面32a,32bを径方向内側に窪ませることで、相対的に径方向外側に突出するように形成したが、これに限らず、例えば
図29に示すように、ロータコア30の外周面32から径方向外側に絶対的(実際に)に突出するように、第1突状部61”を形成してもよい。この場合には、コギングトルクの低減効果は弱まるものの、磁気的な突極性をより一層強調することが可能となる。
【0154】
また、上記実施形態では、ロータコア30を所謂スキューレスとしたが、これに限らず、例えば
図30に示すような、各々磁性体薄板を所定枚数で軸方向に積み重ねた4つの積層体30A’,30B’,30C’,30D’を、所定角度θずつずらして組み合わせた、スキュー角θを有するロータコア30’に本発明を適用してもよい。この場合には、コギングトルクをより一層低減することが可能となる。
【0155】
さらに、上記実施形態では、永久磁石101,102,103,106およびコイルエンド93a,93bを冷却対象部としたが、これに限らず、例えば、コイルエンド93a,93bについては別の冷却手段を講じ、永久磁石101,102,103,106のみを冷却するようにしてもよい。
【0156】
また、上記実施形態では、各磁極を構成する6つの永久磁石101,102,103,104,105,106のうち4つの永久磁石101,102,103,106を冷却対象としたが、これに限らず、例えば永久磁石104,105を冷却対象とするようにしてもよい。
【0157】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によると、同期型モータを小型化した場合でも、高効率化および低振動化・低騒音化を実現することができるので、同期型モータのロータ構造に適用して極めて有益である。
【符号の説明】
【0159】
1 同期型モータ
10 ロータ
30,30’ ロータコア
31 磁石孔(外側磁石孔)
32 外周面
32a,32b 窪み
34,35 磁石孔(内側磁石孔)
32c,37 ブリッジ部
39 絞り部
61,61’,61” 第1突状部
62,62’,62” 第2突状部
90 ステータ
101,102 永久磁石(外側永久磁石)
103,106 永久磁石
104,105 永久磁石(内側永久磁石)
104a,105a 径方向外側の面
G1 第1の空隙
G1a 径方向内側を区画する部位
G1b 径方向外側を区画する部位
G2 第2の空隙
G3 第3の空隙
G4 第4の空隙
MP1~MP8 磁極
【要約】
【課題】同期型モータを小型化した場合でも、高効率化および低振動化・低騒音化を実現可能なロータ構造を提供する。
【解決手段】ステータ90で発生する回転磁界に同期してロータが回転する同期型モータのロータ構造である。ロータは、円筒状のロータコア30と、ロータにおける周方向に並ぶ複数の磁極を構成する、ロータコア30に埋め込まれた複数の永久磁石103,106と、を備えている。ロータコア30の外周面32には、軸方向に見て、相隣り合う磁極MP1,MP8に跨るように周方向に延び、且つ、径方向外側に突出する第1突状部61が形成されている。第1突状部61の内部には、軸方向に見て、周方向に延びる第1の空隙G1が形成されているとともに、第1の空隙G1の径方向内側を区画する部位G1aから径方向外側に突出する第2突状部62が形成されている。
【選択図】
図6