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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】バッテリーシステム
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240808BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240808BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/44 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019229604
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021097023
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山口 滝太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】星河 浩介
(72)【発明者】
【氏名】市坪 哲
(72)【発明者】
【氏名】李 弘毅
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-126587(JP,A)
【文献】特開平04-253159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 10/052
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池ユニットと、
制御部と、を備え、
前記リチウム二次電池ユニットは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属負極と、
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、
前記金属負極と前記正極との間に配置された電解質と、を有し、
前記金属負極は板状であり、リチウムと、前記リチウムが固溶する母材とからなり、
放電状態の前記金属負極は、置換型固溶体の層を有し、
前記置換型固溶体は、前記母材を構成する金属の結晶格子の一部を前記リチウムで置換した構造を有し、
前記制御部は、前記リチウム二次電池ユニットの作動電圧を、前記置換型固溶体からリチウムイオンを脱離させない電圧に制御しているバッテリーシステム。
【請求項2】
前記母材は、アルミニウム、シリコン、スズ、鉛からなる群より選択される1種以上の金属を含む請求項に記載のバッテリーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池及びバッテリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
充電が可能なリチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中型又は大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0003】
従来、リチウム二次電池を構成する負極について、従来の負極材料である黒鉛よりも理論容量が大きい材料を用い、電池性能を向上させる検討が行われている。このような材料として、黒鉛と同様にリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属材料が注目されている。以下の説明では、金属材料から形成された負極を「金属負極」と称することがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、リチウムと合金化しない基材層と、リチウムと合金を形成するアルミニウム層とを接合させたクラッド材を金属負極として用いた非水電解質電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-195028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウム二次電池は、応用分野が広がる中、サイクル特性のさらなる向上が求められている。金属負極を用いたリチウム二次電池は、サイクル特性において改良の余地がある。また、リチウム二次電池のみならず、リチウム二次電池の電池セルを含むバッテリーシステムにおいても同様に、サイクル特性の向上が求められている。また、リチウム二次電池の分野においては、コストダウン競争が激しく、コストアップ要因の一つであるクラッド材を使用しないことが求められていた。
【0007】
なお、「サイクル特性」とは、繰り返し充放電させたときの放電容量維持率のことを指す。二次電池を繰り返し充放電させたときに放電容量維持率が高いことを、「サイクル特性が良い」と評価する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、クラッド材を用いることなくサイクル特性が良いリチウム二次電池、及びバッテリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らが上記課題について検討したところ、金属負極を有するリチウム二次電池は、放電時に負極が崩れ、負極が破損する場合があることが分かった。このような負極の破損がリチウム二次電池のサイクル特性の悪化を引き起こしていると考えられた。また、また、リチウム二次電池の電池セルを含むバッテリーシステムにおいても、同様のメカニズムにより、サイクル特性が悪化し得ると考えられる。
【0010】
発明者らは、負極の破損を抑制することにより、サイクル特性がリチウム二次電池、及びバッテリーシステムを実現することができると考え、鋭意検討した結果、本願発明を完成させた。
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
【0012】
[1]リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属負極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、前記金属負極と前記正極とで挟持した電解質と、を有し、前記金属負極は板状であり、リチウムと、前記リチウムが固溶する母材とからなり、放電状態の前記金属負極は、置換型固溶体の層を有し、前記置換型固溶体は、前記母材を構成する金属の結晶格子の一部を前記リチウムで置換した構造を有し、前記置換型固溶体の層は、前記金属負極の少なくとも前記正極と対向する面とは反対側の表面、又は前記金属負極の内部に位置するリチウム二次電池。
【0013】
[2]前記母材は、アルミニウム、シリコン、スズ、鉛からなる群より選択される1種以上の金属である[1]に記載のリチウム二次電池。
【0014】
[3]リチウム二次電池ユニットと、制御部と、を備え、前記リチウム二次電池ユニットは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属負極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、前記金属負極と前記正極との間に配置された電解質と、を有し、前記金属負極は板状であり、リチウムと、前記リチウムが固溶する母材とからなり、放電状態の前記金属負極は、置換型固溶体の層を有し、前記置換型固溶体は、前記母材を構成する金属の結晶格子の一部を前記リチウムで置換した構造を有し、前記制御部は、前記リチウム二次電池ユニットの作動電圧を、前記置換型固溶体からリチウムイオンを脱離させない電圧に制御しているバッテリーシステム。
【0015】
[4]前記母材は、アルミニウム、シリコン、スズ、鉛からなる群より選択される1種以上の金属である[3]に記載のバッテリーシステム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、サイクル特性が良いリチウム二次電池、及びバッテリーシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係るリチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図2図2は、金属負極3の厚さ方向の断面におけるSEM写真である。
図3図3は、金属負極3の厚さ方向の断面におけるSEM写真である。
図4図4は、金属負極3の厚さ方向の断面におけるTOF-SIMSによるLiマッピング像である。
図5図5は、金属負極の結晶構造を示す模式図である。
図6図6は、第2実施形態に係るバッテリーシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
[リチウム二次電池]
以下、図を参照しながら、本実施形態に係るリチウム二次電池について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0019】
図1は、本実施形態に係るリチウム二次電池の一例を示す模式図である。リチウム二次電池10は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極2と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属負極3と、金属負極3と正極2との間に配置された電解液6と、を有する。
【0020】
また、リチウム二次電池10は、正極2と金属負極3との物理的接触を防ぐセパレータ7と、正極2、金属負極3、電解液6及びセパレータ7を収容する電池外装体5を有する。
以下、各構成について、順に説明する。
【0021】
(金属負極)
金属負極3は板状であり、リチウムと、リチウムが固溶する母材とからなる。
【0022】
「母材」は、金属負極3全体からリチウムを除いた残部を構成する金属材料である。後述するように母材は、金属単体であってもよく、合金であってもよい。母材には、精製工程において不可避的に混入する製造残渣等の不可避不純物が含まれてもよい。
【0023】
本実施形態において「板状」とは、少なくとも対向する2つの平面を有する三次元形状を意味する。本実施形態における「板状」の金属負極3において、上述の対向する2つの平面の間の間隔は、金属負極3の厚みに該当する。金属負極3の厚みは、種々の値を採用し得る。板状の金属負極3としては、湾曲や屈曲が容易な可撓性を有する薄膜形の電極や、湾曲や屈曲が困難な薄板形の電極を含む。
【0024】
本実施形態において、金属負極3の厚みは、5μm以上が好ましく、6μm以上がより好ましく、7μm以上がさらに好ましい。また、200μm以下が好ましく、190μm以下がより好ましく、180μm以下が特に好ましい。
【0025】
上記金属負極3の厚みの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
本実施形態においては、金属負極3の厚みは、5μm以上200μm以下が好ましく、6μm以上190μm以下がより好ましく、7μm以上180μm以下が特に好ましい。
【0026】
本実施形態において、金属負極3の厚みは、シックネスゲージ又はノギスを用いて測定すればよい。
金属負極3の厚みとは、金属負極3について、厚みを5点測定したときの平均値を意味する。
【0027】
なお、上述した金属負極3の厚みは、金属負極3の放電時の厚みを指す。
【0028】
リチウム二次電池10を組み立てる前であれば、金属負極3の厚みは、未充電の金属負極3の厚みを測定して求める。
【0029】
また、リチウム二次電池10に含まれる金属負極3の厚みは、リチウム二次電池10を放電した後にリチウム二次電池10から取り出した金属負極3の厚みを測定して求める。「放電時」とは、リチウム二次電池10を電池電圧4.2Vまで充電後、負極の電位変化が0.2V未満に制御される電池電圧まで放電させたときのことを指す。
【0030】
金属負極3において、上記2つの平面のうち、正極と対向する面3aは、負極活物質としての機能を示す。
また、金属負極3において、正極と対向する面3aとは反対側の面3bは、集電体としての機能を示す。
【0031】
すなわち、金属負極3は、負極活物質の役割と集電体の役割とを兼ねた集電体一体型の負極である。そのため、金属負極3によれば、別部材としての集電体が不要となる。
【0032】
別部材の集電体に、負極活物質を担持させて負極を作製する場合には、充放電に伴い集電体から負極活物質が剥離し、負極が破損するおそれがある。対して、本実施形態において用いる金属負極3は、集電体と負極活物質とが一つの部材であるため、上記負極活物質の剥離の問題がそもそも発生しにくいという利点がある。
【0033】
また、金属負極3を有するリチウム二次電池10は、製造工程において、集電体に負極活物質を担持させるという工程が不要となる。
【0034】
母材は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な金属材料を含む。母材は、材料としてアルミニウム、シリコン、スズ及び鉛からなる群より選択される1種以上の金属を含むことが好ましい。
具体的には、母材は、高純度アルミニウム、高純度シリコン、高純度スズ及び高純度鉛が挙げられる。
【0035】
本実施形態において、母材は高純度アルミニウムであることが好ましい。高純度アルミニウムとは、純度が99質量%以上のアルミニウムを指す。高純度アルミニウムは、純度99.8質量%以上が好ましく、99.9質量%以上がより好ましく、99.95質量%以上がさらに好ましく、99.99質量%以上がよりさらに好ましい。
【0036】
母材の純度は、固体発光分光分析法により確認することができる。
【0037】
アルミニウムを上記の純度まで高純度化する精製方法として、例えば偏析法及び三層電解法を例示できる。
【0038】
(偏析法)
偏析法は、アルミニウム溶湯の凝固の際の偏析現象を利用した純化法であり、複数の手法が実用化されている。偏析法の一つの形態としては、容器の中に溶湯アルミニウムを注ぎ、容器を回転させながら上部の溶湯アルミニウムを加熱、撹拌しつつ底部より精製アルミニウムを凝固させる方法がある。偏析法により、純度99質量%以上のアルミニウムを得ることができる。
【0039】
(三層電解法)
三層電解法の一つの形態としては、まず、Al-Cu合金層に、アルミニウム等(例えば純度99質量%のJIS-H2102の時1種程度のグレード)を投入する。その後、溶融状態で陽極とし、その上に例えばフッ化アルミニウム及びフッ化バリウム等を含む電解浴を配置し、陰極に高純度のアルミニウムを析出させる方法である。
三層電解法では純度99.999質量%以上の高純度アルミニウムを得ることができる。
【0040】
アルミニウムを高純度化する精製方法は、偏析法、三層電解法に限定されず、帯溶融精製法、超高真空溶解性製法等、既に知られている他の方法でもよい。
【0041】
また、母材は、母材全体の8.0質量%以下の割合で、意図的に他の金属を添加して製造した合金であってもよい。他の金属としては、Mg、Ni、Mn、Zn、Cd及びGeからなる群より選択される1種以上の金属が挙げられる。
【0042】
母材がアルミニウム、スズ、鉛からなる群より選択される1種以上の金属である場合には、上記他の金属として、Siを用いることもできる。
【0043】
母材全体に対する上記他の金属の含有率は、8.0質量%以下であり、2.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0044】
また、母材に上記他の金属を添加する場合、母材に含まれる上記他の金属の含有率は、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。
【0045】
上述の他の金属の含有率について、上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。本実施形態においては、母材に含まれる他の金属の含有率は、0.01質量%以上8.0質量%以下が好ましく、0.02質量%以上2.0質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。
【0046】
本実施形態において、母材を構成する金属がアルミニウムである場合には、母材のビッカース硬度は10HV以上70HV以下であることが好ましく、20HV以上70HV以下がより好ましく、30HV以上70HV以下がさらに好ましい。
【0047】
ビッカース硬度が上記上限値以下であると、母材がリチウムを吸蔵した際に結晶構造のひずみを緩和でき、結晶構造を維持できると推察される。このため、本実施形態の金属負極3を用いたリチウム二次電池は、充電および放電を繰り返した場合にも、放電容量を維持できる。
【0048】
ビッカース硬度は下記の方法により測定した値を用いる。
【0049】
[測定方法]
母材の硬度の指標として、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬度(HV0.05)を測定する。
ビッカース硬度は、JIS Z2244:2009「ビッカース硬さ試験-試験方法」に従って測定される値である。ビッカース硬度の測定には、母材に正四角錐のダイヤモンド圧子を試験片の表面に押し込み、その試験力を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さから算出する。
上記の規格では、試験力によって硬さ記号を変えることが定められている。本実施形態においては、例えば、試験力0.05kgf(=0.4903N)のときのマイクロビッカース硬さHV0.05である。
【0050】
また、金属負極3は、面3bを構成する金属材料が、母材を構成する金属材料の結晶格子の一部をリチウムで置換した置換型固溶体となっている。面3bを構成する金属材料が置換型固溶体であることは、充電状態の金属負極の厚さ方向の断面について、断面SEM-EDX観察及び飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)によるLiマッピングを行うことによって確認することができる。
【0051】
断面SEM観察は、以下の方法で行うことができる。
まず、金属負極3について、水分値1ppm以下で管理したグローブボックスの内部にて、集束イオンビーム加工装置(型番:FB-2200、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて加工し、断面を作製する。断面の作製は、上記断面SIM観察における加工条件と同じ加工条件で行うとよい。
【0052】
次いで、得られた断面について、下記の走査型電子顕微鏡を用い、下記条件で走査電子顕微鏡像(SEM像)を得る。
また、得られた断面について、下記のエネルギー分散型蛍光X線分析装置を用い、下記条件で金属の分布状態を観察する。
<測定条件>
走査型電子顕微鏡:電界放出形走査電子顕微鏡(型番:SU-8230、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
エネルギー分散型蛍光X線分析装置:X-MaxN(OXFORD INSTRUMENTS社製)
加速電圧 :1kV(観察時)、10kV(EDX時)
拡大倍率 :700倍
【0053】
TOF-SIMSは、以下の方法で行うことができる。
まず、上述の断面SEM観察時と同じ方法で、金属負極3を加工し断面を作製する。
次いで、得られた断面について、下記の飛行時間型二次イオン質量分析計を用い、下記条件で観察する。
<測定条件>
飛行時間型二次イオン質量分析計:TOF-SIMS V(ION-TOF社製)
一次イオン :209Bi3+
拡大倍率 :700倍
測定範囲 :約200μm×200μm
検出した2次イオン:Positive
情報深さ :約1nm
検出下限 :数10ppm~数100ppm
【0054】
検出下限の変動は、観察する原子種の違いに起因する。
【0055】
また、金属負極3の結晶粒サイズは、断面SIM観察により確認した。
【0056】
断面SIM観察は、以下の方法で行うことができる。
まず、水分値1ppm以下で管理したグローブボックスの内部にて、未充電又は充電状態の板状の金属箔について下記の集束イオンビーム加工装置で加工し、断面を作製する。次いで、得られた断面について、下記の集束イオンビーム加工装置を用いて観察する。
<測定条件>
集束イオンビーム加工観察装置:FB-2100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
イオン源 :ガリウム液体金属
加速電圧 :40kV
拡大倍率 :700倍
【0057】
図2~4は、充電状態の金属負極における厚さ方向の断面について観察した結果を示す図である。
【0058】
図2~4において観察した金属負極は、以下のようにして準備した。
まず、母材がアルミニウムである金属負極を用い、リチウム酸コバルトを対極としてリチウム二次電池を組み上げた。得られたリチウム二次電池を室温で3.9Vまで0.2Cで定電流-定電圧充電を行った後に、3.9Vから3.0Vまで0.2Cの放電を行った。上記充電及び放電を1サイクルとして、5サイクルの充放電を行い、さらに上記条件で充電を行ったリチウム二次電池を分解して取り出した金属負極を、図2~4の観察対象とした。
【0059】
図2~4においては、符号A側がリチウム二次電池内において対極に面する側であり、符号B側が対極とは反対側である。金属負極において符号A側の面は、図1における面3aに該当し、符号B側の面は、図1における面3bに該当する。
【0060】
図2、3は、金属負極3の厚さ方向の断面におけるSEM写真である。図2は倍率700倍の拡大写真である。図3は倍率5000倍の拡大写真であり、図2において符号Pで示す部分の拡大図である。
【0061】
図2,3に示すように、充電状態の金属負極の断面をSEM観察すると、コントラストの異なる3つの層を確認することができた。図では、3つの層について、符号A側からそれぞれ符号AR1,AR2,AR3として示している。SEM写真では、符号AR1で示す領域の色が最も薄く、符号AR3で示す領域の色が最も濃く写っていた。符号AR2で示す領域は、符号AR1とAR3との間のコントラストであった。
【0062】
図4は、金属負極3の厚さ方向の断面におけるTOF-SIMSによるLiマッピング像である。図4の拡大倍率は700倍である。図中、両矢印で示す範囲が金属負極に該当する。図に示す破線は、金属負極と測定時に金属負極を載置した基台との境界を示す。
【0063】
図に示すように、充電状態の金属負極の断面では、符号A側が明るくなっており、符号A側に多くのLiを確認することができた。また、符号B側ではLiを検出できなかった。さらに、符号A側から符号B側に向けたLi量の変化を確認すると、金属負極の厚さ方向の中央付近に徐々に暗くなっている部分、すなわちLi量が漸減する部分が確認できた。
【0064】
図2,3に示すSEM観察の結果と、図4に示すLiの分布とから、符号AR1はアルミニウムの原子間にLiが侵入した侵入型固溶体の層、符号AR2はAlの結晶構造の一部をLiで置換した置換型固溶体の層、符号AR3は母材を構成するアルミニウムの層であると考えられる。
【0065】
図5は、金属負極の結晶構造を示す模式図である。
図5(a)に示すように、例えば母材がアルミニウムである場合、結晶構造は面心立方格子構造である。図2~4の符号AR3は、図5(a)に示す結晶構造であると考えられる。
【0066】
母材にリチウムを固溶させると、図5(b)に示すように、面心立方格子を構成するアルミニウム原子の一部を、リチウム原子で置換した置換型固溶体となる。図2~4の符号AR2は、図5(b)に示す結晶構造であると考えられる。
【0067】
ここで、図5(b)に示すような結晶構造においては、符号αで示すアルミニウムの層の間に、符号βで示す層状の隙間が存在していることが分かる。本実施形態のリチウム二次電池10を充電すると、金属負極3では、符号βで示した原子間の隙間にリチウムイオンが吸蔵される。その結果、図5(c)に示すように、アルミニウム原子とリチウム原子とが層状に交互に配置した侵入型固溶体を形成すると考えられる。
【0068】
上記説明では金属負極3の形成材料がアルミニウムであることとしたが、金属負極3の形成材料がシリコン、スズ及び鉛である場合も、断面観察から同様に説明することができる。
【0069】
本実施形態のリチウム二次電池10においては、充放電を行っても、金属負極3の一部を構成する金属材料が、図5(b)に示す置換型固溶体であることを維持している。詳しくは、本実施形態のリチウム二次電池10は、放電状態の金属負極3が、置換型固溶体の層を有している。
【0070】
金属負極3の容量は、金属負極3の厚みで変化する。厚い金属負極は、相対的に薄い金属負極よりも容量が大きい。そのため、例えば正極の容量を一定とした場合、金属負極3は以下のような構成を採用し得る。なお、「容量」とは、電極(正極又は負極)がリチウムを吸蔵又は放出する量を意味する。
【0071】
例えば、金属負極3の容量が正極の容量に対して大過剰、すなわち金属負極3が相対的に厚い場合、放電状態の金属負極3における置換型固溶体の層は、金属負極3の内部に位置する。
ここで、「大過剰」とは、正極の容量に対する負極の容量が150%以上の場合を指す。
【0072】
また、金属負極3の容量が正極の容量とほぼ同じで、すなわち金属負極3が相対的に薄い場合、放電状態の金属負極3における置換型固溶体の層は、金属負極3の面3bに位置する。
ここで、「ほぼ同じ」とは、正極の容量に対する負極の容量が100%以上150%未満の場合を指す。
【0073】
本実施形態のリチウム二次電池10においては、金属負極3が有する置換型固溶体の層が無くならない条件で充放電を行う。
【0074】
仮に、図5(b)において符号Xで示すリチウム原子まで放出するような条件でリチウム二次電池10を放電した場合、符号Xで示すリチウム原子が抜けた後にアルミニウムが再度置換されることなく欠陥となり、面心立方格子構造が崩れると考えられる。このような結晶構造の崩れが金属負極3の全体で同時多発的に生じることにより、放電時に金属負極3が崩れ、金属負極3が破損すると考えられる。金属負極3の破損は、例えば金属負極3の表面のひび割れとして顕在化する。
【0075】
また、金属負極は、Liの挿入に応じて膨張し、Liの脱離に応じて収縮する。その際、図5(b)において符号Xで示すリチウム原子が挿入・放出されるような条件でリチウム二次電池10を充放電すると、図5(b)において符号Xで示すリチウム原子を放出させない条件でリチウム二次電池10を充放電した場合と比べ、金属負極の体積変化が大きくなる。そのため、金属負極の体積変化によって金属負極が受ける応力が大きくなり、破損しやすくなると考えられる。
【0076】
対して、本実施形態のリチウム二次電池10においては、金属負極3が、図5(b)に示す置換型固溶体であることを維持するため、結晶構造の崩れが生じにくく、充放電に伴う体積変化によって金属負極が受ける応力も小さくなる。そのため、本実施形態のリチウム二次電池10は、上述のような金属負極3の破損を抑制することができ、クラッド材を用いることなくサイクル特性が良いリチウム二次電池となる。
【0077】
本実施形態においてリチウム二次電池の「サイクル特性」は、以下の方法で求めた放電容量維持率により評価することができる。
【0078】
[正極の作製]
正極活物質としてコバルト酸リチウム(製品名セルシード。日本化学工業株式会社製。平均粒径(D50)10μm)90質量部と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)5質量部と、導電材としてアセチレンブラック(製品名デンカブラック。デンカ株式会社製)5質量部とを混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン70質量部を混合して正極の電極合剤とする。
【0079】
得られた電極合剤を、ドクターブレード法により、集電体である厚み15μmのアルミニウム箔上に塗工する。塗工した電極合剤を、60℃で2時間乾燥させた後、更に150℃で10時間真空乾燥させて、N-メチル-2-ピロリドンを揮発させる。
【0080】
得られた電極合剤層と集電体との積層体を圧延した後、φ14mmの円盤状に切り出し、コバルト酸リチウムを形成材料とする正極合剤層と、集電体との積層体である正極を製造する。
【0081】
[負極の作製]
上述した本実施形態の金属負極をφ16mmの円盤状に切り出す。金属負極の厚みは、50μmとする。
【0082】
[電解液の作製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=30:70(体積比)で混合させてなる混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルとなるように溶解した電解液を作製する。
【0083】
[リチウム二次電池の作製]
上記の金属負極と正極との間にポリエチレン製多孔質セパレータを配置して、電池ケース(規格2032)に収納し、上記の電解液を注液し、電池ケースを密閉することにより、直径20mm、厚み3.2mmのコイン型(フルセル)のリチウム二次電池を作製する。
【0084】
[充放電評価:初回放電容量]
コイン型のリチウム二次電池を室温で10時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
次に、室温において4.2Vまで1mAで定電流充電(AlにLi吸蔵)してから4.2Vで定電圧充電する定電流定電圧充電を5時間行った後、3.4Vまで1mAで放電(AlからLi放出)する定電流放電を行うことで初期充放電を行う。
放電容量を測定し、得られた値を「初回放電容量」(mAh)とする。
【0085】
[充放電評価:25サイクル目の放電容量]
初期充放電後、初期充放電の条件と同様に1mAで充電、1mAで放電を繰り返す。
放電容量を測定し、得られた値を「25サイクル目の放電容量」(mAh)とする。
【0086】
1回と25回のサイクル試験にて放電容量を測定し、放電容量維持率を以下の式にて算出する。
放電容量維持率(%)
=25サイクル目の放電容量(mAh)/初回放電容量(mAh)×100
【0087】
特に、図2~4に示すように、置換型固溶体の層(符号X2)が、侵入型固溶体(符号X1)と、母材の層(符号X3)と、に挟持されていると、充放電に伴う侵入型固溶体の体積変化を置換型固溶体の層(符号X2)が緩衝し、破損を抑制することができる。
【0088】
(金属負極3の製造方法)
金属負極3は、鋳造工程、箔状加工工程をこの順で備える製造方法により製造できる。以下、一例として、金属負極3の母材が高純度アルミニウムである場合について説明する。
【0089】
(鋳造工程)
鋳造工程は、例えばアルミニウムを約680℃以上800℃以下で溶融し、通常知られたガスや非金属介在物を除去して清浄にする処理(例えば、合金溶湯の真空処理)を行う。
【0090】
真空処理は、例えば700℃以上800℃以下で、1時間以上10時間以下、真空度0.1Pa以上100Pa以下の条件で行われる。
【0091】
アルミニウムを清浄にする処理としては、フラックス、不活性ガスや塩素ガスを溶湯アルミニウムに吹き込む処理も利用できる。真空処理などで清浄にされたアルミニウム溶湯は、通常、鋳型にて鋳造され、アルミニウム鋳塊が得られる。
【0092】
鋳型は50℃以上200℃以下に加熱した鉄や黒鉛製を用いる。アルミニウムは、680℃以上800℃以下のアルミニウム溶湯を鋳型に流し込む方法で鋳造する。また、一般的に利用されている連続鋳造により鋳塊を得ることもできる。
【0093】
上述の鋳造工程での溶融の際に、合金とする他の金属元素を所定量添加することで、アルミニウム合金を得ることができる。
【0094】
(箔状加工工程)
得られたアルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊は、圧延加工、押出加工、鍛造加工などを施して箔状に加工することで、金属箔となる。
板状の金属負極とする場合には、本工程において板状に加工すればよい。
【0095】
鋳塊の圧延加工においては、例えば、熱間圧延と冷間圧延とを行い、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊を箔状に加工する。
【0096】
熱間圧延を実施する温度条件は、例えば、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊を温度350℃以上450℃以下とすることが挙げられる。
【0097】
圧延加工では、一対の圧延ロール間に材料を繰り返し通過させ、目標の板厚に仕上げてゆく。一対の圧延ロール間に通過させることを「パス」と記載する。
【0098】
1回のパス(1パス)当たりの加工率rは、圧延ロールを1回通過したときの板厚減少率であり、下記の式で算出される。
r=(T0-T)/T0×100
(T0:圧延ロール通過前の厚み、T:圧延ロール通過後の厚み)
【0099】
本実施形態においては、加工率rが2%以上20%以下の条件で、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊を目的の厚さとなるまで繰り返し行うことが好ましい。
【0100】
熱間圧延後、冷間圧延の前に中間焼鈍処理を行ってもよい。
中間焼鈍処理は、例えば、熱間圧延したアルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊を、350℃以上450℃以下に加熱、昇温後直ちに放冷してもよい。
また、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊を350℃以上450℃以下に加熱し、昇温させた温度にて1時間以上5時間以下程度保持した後に放冷してもよい。
この処理によって、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊の材料が軟質化して、冷間圧延しやすい状態が得られる。
【0101】
冷間圧延は、例えば、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊の再結晶温度未満の温度、通常、室温から80℃以下で行われる。1パスの冷間圧延においては、加工率rが1%以上10%以下の条件で、アルミニウム鋳塊を目的の厚さとなるまで繰り返し圧延を行う。以下の説明では、アルミニウム鋳塊又はアルミニウム合金鋳塊を冷間圧延した後の板材を、単に「アルミニウム板材」と称することがある。
【0102】
(プレドープ工程)
アルミニウム板材は、リチウム二次電池に組み上げる前に、予めリチウムをドープしてもよい。リチウム二次電池に組み上げる前のアルミニウム板材に、リチウムを意図的にドープすることを「プレドープ」と称する。
【0103】
アルミニウム板材にリチウムをドープし、アルミニウム金属の結晶格子の一部をリチウムで置換すると、上述した置換型固溶体を形成する。このように結晶格子の一部に組み込まれたリチウムは、リチウム二次電池の充放電に寄与することが無くなる。そのため、上述のアルミニウム板材を用いてリチウム二次電池を組み上げた後に充放電を行い、アルミニウム板材にリチウムをドープして金属負極3を生じさせると、リチウム二次電池の容量が低下する。
【0104】
対して、アルミニウム板材にプレドープすると、置換型固溶体の形成に消費されるリチウムがリチウム二次電池の正極から供給されることが無く、リチウム二次電池の容量低下を抑制できる。
【0105】
アルミニウム板材にリチウムをプレドープする方法は、アルミニウム板材にリチウム箔を貼付け、リチウム箔を貼り付けたアルミニウム板材、セパレータ、正極を電池ケースに入れたのち、電池ケースに電解液を注液する方法が挙げられる。電池ケースに電解液を注液することで、アルミニウム板材は自然にプレドープされる。また、プレドープにより、アルミニウム板材に貼り付けたリチウム箔は、消費され消失する。
【0106】
アルミニウム板材へのリチウム箔の貼付け方法としては、例えば、不活性雰囲気又は露点温度-60℃の雰囲気で、アルミニウム板材とリチウム箔とをロールプレスで同時圧延加工する方法が挙げられる。
【0107】
(正極)
正極2は、正極活物質層201と、正極集電体202とを有する。正極2は、まず正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体202に担持させ正極活物質層201を形成することで製造することができる。
【0108】
(正極活物質)
正極活物質層201に含まれる正極活物質には、リチウム含有化合物又は他の金属化合物を用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物が挙げられる。
【0109】
また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、又は硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの硫化物が挙げられる。
【0110】
(導電材)
導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きい。このため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率及び出力特性を向上させることができる。一方、カーボンブラックを多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体202との結着力、及び正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0111】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、正極合剤中の導電材の割合を下げることも可能である。
【0112】
(バインダー)
バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0113】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂及びポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体202との密着力及び正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0114】
(正極集電体)
正極集電体202としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、集電体としては、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工した成形体が好ましい。
【0115】
正極集電体202に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体202上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体202の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体202に正極合剤を担持させてもよい。
【0116】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0117】
正極合剤のペーストを正極集電体202へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
【0118】
(セパレータ)
セパレータ7としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータ7を形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータ7を形成してもよい。
【0119】
本実施形態において、セパレータ7は、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0120】
また、セパレータ7の空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータ7は空孔率の異なるセパレータを積層した積層体であってもよい。
【0121】
(電解液)
電解液6は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0122】
電解液6に含まれる電解質としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(COCF)、Li(CSO)、LiC(SOCF、Li10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF及びLiC(SOCFからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む混合物を用いることが好ましい。
【0123】
また電解液6に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入した化合物(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換した化合物)を用いることができる。
【0124】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液6は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難い。
【0125】
また、電解液6としては、得られるリチウム二次電池の安全性を高める観点から、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても放電容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0126】
リチウム二次電池10の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0127】
さらに、リチウム二次電池10は、図1に示す構成に限らず、公知の構成を採用することができる。例えば、リチウム二次電池10は、帯状のセパレータ、帯状の正極、帯状の金属負極を、セパレータ、正極、セパレータ、金属負極3の順に積層し、巻回した電極群を、電解液と共に外装体に収容して構成する巻回型の構成であってもよい。
【0128】
また、リチウム二次電池10は、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0129】
以上のような構成のリチウム二次電池によれば、クラッド材を用いることなく、金属負極の破損を抑制し、サイクル特性が良いリチウム二次電池となる。
【0130】
[第2実施形態]
[バッテリーシステム]
図6は、第2実施形態に係るバッテリーシステムを示す模式図である。
【0131】
本実施形態のバッテリーシステム100は、リチウム二次電池ユニット10と、リチウム二次電池ユニット10の充放電を制御する制御部50と、を備える。
【0132】
リチウム二次電池ユニット10としては、上述の実施形態におけるリチウム二次電池10を採用することができる。以下、バッテリーシステムの一例として、リチウム二次電池ユニット10が有する正極が正極活物質としてLiCoOを有し、負極(金属負極)の母材がアルミニウムである場合の構成について説明する。
【0133】
図に示すバッテリーシステム100は、3つのリチウム二次電池ユニット10を備える。バッテリーシステム100が備えるリチウム二次電池ユニット10の数は、設計に応じて適宜定めることができる。
【0134】
制御部50は、リチウム二次電池ユニット10に一対一で接続されたCMU(Cell Management Unit)51と、CMU51と接続される1つのBMU(Battery Management Unit)52とを有する。
【0135】
CMU51は、リチウム二次電池ユニット10と信号線を介して接続している。CMU51は、例えばリチウム二次電池ユニット10の端子部に設けられた不図示の電圧センサ(電圧検知線)で測定された電圧を信号として受けとる。次いで、CMU51は、電圧に関する信号をBMU52に出力する。
【0136】
BMU52は、リチウム二次電池ユニット10の電圧に関する信号に基づいて、リチウム二次電池ユニット10の作動電圧の下限を3.4V以上に制御する。すなわち、BMU52は、リチウム二次電池ユニット10の作動電圧が3.4Vを下回りそうな場合には、当該リチウム二次電池ユニット10からの放電を停止する。
【0137】
また、BMU52は、リチウム二次電池ユニット10の作動電圧が4.2Vを超えそうな場合には、リチウム二次電池ユニット10への充電を停止する。この場合、制御部50は、リチウム二次電池ユニット10の作動電圧範囲を3.4V~4.2Vの範囲で制御することとなる。
【0138】
上述のように、バッテリーシステム100においては、制御部50がリチウム二次電池ユニット10の作動電圧の下限を3.4V以上に制御する。これにより、リチウム二次電池ユニット10においては、上述した金属負極3が、図5(b)に示す置換型固溶体であることを維持することができ、金属負極3の破損を抑制することができる。
【0139】
上記作動電圧は、金属負極の母材がアルミニウム、正極の正極活物質がLiCoOであるリチウム二次電池において、金属負極が有するアルミニウムの置換型固溶体からリチウムイオンを脱離させない電圧として規定したものである。すなわち、金属負極の母材がアルミニウム、正極の正極活物質がLiCoOであるリチウム二次電池において、金属負極が有するアルミニウムの置換型固溶体からリチウムイオンを脱離させない電圧の下限値は、3.4Vである。
【0140】
上記作動電圧は、金属負極の母材及び正極の正極活物質の組み合わせに応じ、「リチウムイオンを脱離させない電圧」として適切な値を設定する。
【0141】
「リチウムイオンを脱離させない電圧」は、例えば、金属リチウムを参照電極にした三極式セルで、負極の電位変化を測定することで確認することができる。
「リチウムイオンを脱離させない電圧」の一例としては、上記三極式セルで電池電圧4.2Vまで充電後、放電させたときに、負極の電位変化が0.2V未満に制御される電池電圧を挙げることができる。
【0142】
以上のような構成のバッテリーシステムによれば、リチウム二次電池ユニットが有する金属負極の破損を抑制し、サイクル特性が良いバッテリーシステムとなる。
【0143】
なお、本実施形態においては、図6に示すように、CMU51は3つのリチウム二次電池ユニット10にそれぞれ接続され、BMU52は3つのCMU51と接続されているが、これに限らない。例えば1つのCMU51に複数のリチウム二次電池ユニット10が接続されていてもよい。また、BMU52がCMU51の機能を備える場合、制御部50は、BMU52のみであってもよい。
【0144】
また、制御部50は、リチウム二次電池ユニット10から供給される電力により駆動する電子機器等が備えていてもよい。この場合、例えば交換式のリチウム二次電池ユニット10と制御部50とは別体となることがあり、電子機器にリチウム二次電池ユニット10を接続することにより、電子機器は、本実施形態のバッテリーシステム100を備えた機器となる。
【0145】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例
【0146】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0147】
<実施例1>
[負極1の作製]
実施例1に用いたアルミニウム金属箔は下記の方法により製造した。以下の説明では、アルミニウム金属箔を「金属箔」と省略する場合がある。
【0148】
(鋳造工程)
4600gのアルミニウム(純度:99.99質量%以上)を秤量した。
次に、アルミニウムを溶湯させたアルミニウム溶湯を得た。
次に、アルミニウム溶湯を温度740℃で、2時間、真空度50Paの条件で保持して清浄化した。
アルミニウム溶湯を150℃にて乾燥した鋳鉄鋳型(22mm×150mm×200mm)を用いて鋳造し、鋳塊を得た。
得られた鋳塊の結晶組織を均質化するため、大気中にて580℃、9時間の熱処理を行った。
【0149】
(箔状加工工程)
圧延は以下の条件で行った。鋳塊の両面を2mm面削加工した後、厚さ18mmから加工率rが99.6%で冷間圧延を行った。得られた金属箔の厚みは50μmであった。金属箔を構成する純度99.99質量%以上のアルミニウムは、本発明における母材に該当する。
【0150】
アルミニウム金属箔を、下記条件にて断面SIM観察したところ、実施例1で用いる金属箔には、結晶粒が観察された。結晶粒の大きさを50個の結晶粒について観察したところ、結晶粒サイズは0.5μm~5μmの範囲に含まれていた。
【0151】
(断面SIM観察)
断面SIM観察は、以下の方法で行った。
まず、アルミニウム金属箔について、水分値1ppm以下で管理したグローブボックスの内部にて、下記の集束イオンビーム加工装置で加工し、断面を作製した。次いで、得られた断面について、下記の集束イオンビーム加工装置を用いて観察した。
<測定条件>
集束イオンビーム加工観察装置:FB-2100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
イオン源 :ガリウム液体金属
加速電圧 :40kV
拡大倍率 :700倍
【0152】
また、金属箔のビッカース硬度は35HVであった。ビッカース硬度は、下記方法で測定した値を採用した。
【0153】
(ビッカース硬度)
作製した金属箔について、硬度の指標として、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬度(HV0.05)を測定した。
ビッカース硬度は、JIS Z2244:2009「ビッカース硬さ試験-試験方法」に従って測定される値である。測定には、島津製作所のマイクロビッカース硬度計を用いた。
ビッカース硬度の測定には、正四角錐のダイヤモンド圧子を試験片(金属箔)の表面に押し込み、圧子を押し込む力(試験力)を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さから算出した。
本実施例では、試験力0.05kgf(=0.4903N)のときのマイクロビッカース硬さHV0.05を採用した。
【0154】
得られたアルミニウム金属箔(厚さ50μm)を、φ16mmの円盤状に切り出し、負極を製造した。
【0155】
[正極の作製]
正極活物質としてコバルト酸リチウム(製品名セルシード。日本化学工業株式会社製。平均粒径(D50)10μm)90質量部と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)5質量部と、導電材としてアセチレンブラック(製品名デンカブラック。デンカ株式会社製)5質量部とを混合し、更にN-メチル-2-ピロリドン70質量部を混合して正極の電極合剤とした。
【0156】
得られた電極合剤を、ドクターブレード法により、集電体である厚み15μmのアルミニウム箔上に塗工した。塗工した電極合剤を、60℃で2時間乾燥させた後、更に150℃で10時間真空乾燥させて、N-メチル-2-ピロリドンを揮発させた。乾燥後の正極活物質の塗工量は21.5mg/cmであった。
【0157】
得られた電極合剤層と集電体との積層体を圧延した後、φ14mmの円盤状に切り出し、コバルト酸リチウムを形成材料とする正極合剤層と、集電体との積層体である正極を製造した。
【0158】
圧延後の正極合材層(アルミニウム集電体層除く)の厚さは、60~65μm、電極密度は3.0~3.5g/cmであった。
【0159】
[電解液の作製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=30:70(体積比)で混合させてなる混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルとなるように溶解した電解液を作製した。
【0160】
[リチウム二次電池の作製]
上記の負極と正極との間にポリエチレン製多孔質セパレータを配置して、電池ケース(規格2032)に収納し、上記の電解液を注液し、電池ケースを密閉することにより、直径20mm、厚み3.2mmのコイン型(フルセル)のリチウム二次電池を作製した。
【0161】
[充放電評価:初回放電容量]
コイン型のリチウム二次電池を室温で10時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させた。
次に、室温において4.2Vまで1mAで定電流充電(AlにLi吸蔵)してから4.2Vで定電圧充電する定電流定電圧充電を5時間行った後、3.4Vまで1mAで放電(AlからLi放出)する定電流放電を行うことで初期充放電を行った。
放電容量を測定し、得られた値を「初回放電容量」(mAh)とした。
【0162】
上述のリチウム二次電池を別途準備し、上記定電流定電圧充電の後、リチウム二次電池を分解して初回の充電状態の金属負極を取り出した。取り出した金属負極について、下記条件にて断面SEM観察、及びTOF-SIMS観察を行った。
【0163】
(断面SEM観察)
断面SEM観察は、以下の方法で行った。
まず、金属負極について、水分値1ppm以下で管理したグローブボックスの内部にて、集束イオンビーム加工装置(型番:FB-2200、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて加工し、断面を作製した。加工条件は、上記断面SIM観察時に断面を作製した条件と同様とし、作製した断面が断面SIM観察時と同様となるように調整した。
【0164】
次いで、得られた断面について、下記の走査型電子顕微鏡を用い、下記条件で走査電子顕微鏡像(SEM像)を得た。
また、得られた断面について、下記のエネルギー分散型蛍光X線分析装置を用い、下記条件で金属の分布状態を観察した。
<測定条件>
走査型電子顕微鏡:電界放出形走査電子顕微鏡(型番:SU-8230、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
エネルギー分散型蛍光X線分析装置:X-MaxN(OXFORD INSTRUMENTS社製)
加速電圧 :1kV(観察時)、10kV(EDX時)
拡大倍率 :700倍
【0165】
(TOF-SIMS観察)
TOF-SIMSは、以下の方法で行った。
まず、上述の断面SEM観察時と同じ方法で、金属負極を加工し断面を作製した。
次いで、得られた断面について、下記の飛行時間型二次イオン質量分析計を用い、下記条件で観察した。
<測定条件>
飛行時間型二次イオン質量分析計:TOF-SIMS V(ION-TOF社製)
一次イオン :209Bi3+
拡大倍率 :700倍
測定範囲 :約200μm×200μm
検出した2次イオン:Positive
情報深さ :約1nm
検出下限 :数10ppm~数100ppm
【0166】
観察の結果、正極側から、Liを大量に含んだLiの侵入型固溶体の層、母材がAlでありAlの結晶構造の一部をLiで置換した置換型固溶体の層、及びLiが検出されないAl層が積層された三層構造であることを確認した。
【0167】
[充放電評価:25サイクル目の放電容量]
初期充放電後、初期充放電の条件と同様に1mAで充電、1mAで放電を繰り返した。
放電容量を測定し、得られた値を「25サイクル目の放電容量」(mAh)とした。
【0168】
1回と25回のサイクル試験にて放電容量を測定し、放電容量維持率を以下の式にて算出した。
放電容量維持率(%)
=25サイクル目の放電容量(mAh)/初回放電容量(mAh)×100
【0169】
実施例1において、上記の方法により算出した放電容量維持率は、90%であった。
【0170】
<比較例1>
充放電評価において3.0Vまで放電したこと以外は、実施例1と同様の方法により充放電評価を行った。
【0171】
比較例1において、上記の方法により算出した放電容量維持率は、10%であった。
【0172】
実施例1の放電条件で放電させたリチウム二次電池と、比較例1の放電条件で放電させたリチウム二次電池と、をそれぞれ解体し、金属負極の裏面を観察した。裏面とは、金属負極において正極と対向する面とは反対側の面を指し、図1における面3bに該当する。
【0173】
観察の結果、実施例1のリチウム二次電池から取り出した金属負極の裏面は、亀裂が無く、金属光沢を示していた。金属光沢は、金属アルミニウムに起因していると考えられる。
【0174】
実施例1の放電条件では、金属負極の置換型固溶体の層が維持される条件であるため、充放電に伴う侵入型固溶体の体積変化を置換型固溶体の層が緩衝し、破損を抑制していると考えられる。すなわち、実施例1においては、放電状態の金属負極が、置換型固溶体の層を有していることが分かる。
【0175】
一方、比較例1のリチウム二次電池から取り出した金属負極の裏面は、多数の亀裂が生じ、金属光沢を失っていた。
【0176】
比較例1の放電条件では、金属負極の置換型固溶体の層が維持されない条件であるため、充放電に伴う侵入型固溶体の体積変化を置換型固溶体の層が緩衝することができず、金属負極が破損したと考えられる。すなわち、比較例1においては、放電状態において、金属負極が、置換型固溶体の層を有していないと考えられる。
【0177】
また、上記の結果から、実施例1のリチウム二次電池から取り出した金属負極は、金属負極の裏面が金属アルミニウムであり、集電体としての機能を示すことが分かった。一方、比較例1のリチウム二次電池から取り出した金属負極は、全体として集電機能が低下していることが分かった。
【0178】
<実施例2>
高純度アルミニウム(純度:99.99質量%以上)4500g及び高純度化学製シリコン(純度:99.999質量%以上)45gを混合し、混合物を760℃に加熱して760℃で保持することで、シリコン含有量が1.0質量%であるAl-Si合金溶湯を得た。
【0179】
得られた溶湯を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の金属箔を得た。金属箔を構成するAl-Si合金は、本発明における母材に該当する。
【0180】
得られた金属箔を、断面SIMで50個観察したところ、縦方向、横方向の結晶粒サイズは0.5μmから5μmであった。またビッカース硬度は40HVであった。縦方向とは、断面SIM観察した矩形の視野における縦方向であり、横方向とは同視野において縦方向に直交する方向である。
【0181】
得られた金属箔を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウム二次電池を作製した。
得られたリチウム二次電池について、実施例1と同様の条件で充放電評価を行った。
【0182】
実施例2のリチウム二次電池から取り出した金属負極の裏面は、亀裂が無く、金属光沢を示していた。実施例1と同様に、実施例2の放電条件では、金属負極の置換型固溶体の層が維持される条件であるため、充放電に伴う侵入型固溶体の体積変化を置換型固溶体の層が緩衝し、破損を抑制していると考えられる。すなわち、実施例2においては、放電状態の金属負極が、置換型固溶体の層を有していることが分かる。
【0183】
実施例2において、上記の方法により算出した50サイクル目の放電容量維持率は、98%であった。また、100サイクル目の放電容量維持率は90%であった。
【0184】
以上の結果から、本発明が有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0185】
2…正極、3…金属負極、3a…正極と対向する面、3b…正極と対向する面とは反対側の面、10…リチウム二次電池、リチウム二次電池ユニット、50…制御部、100…バッテリーシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6