(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ガラス繊維の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/085 20060101AFI20240808BHJP
D01D 4/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C03B37/085
D01D4/00 Z
(21)【出願番号】P 2020018665
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松浦 禅
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221471(WO,A1)
【文献】特開昭61-174141(JP,A)
【文献】特開2008-069025(JP,A)
【文献】特開2012-091954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00
D01D 1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを流通させるフィーダーと、扁平なノズル孔が設けられ且つ前記フィーダーよりも下方に配置されたブッシングと
、前記フィーダーと前記ブッシングとを接続するパイプと、前記ブッシングと前記パイプとに温度差を設けるための加熱手段と、を備え、
前記フィーダー内から前記ブッシングの前記ノズル孔に至るまでの流路全体が溶融ガラスで満たされた状態で、前記フィーダーから前記ブッシングに供給された溶融ガラスを前記ノズル孔より流出させて異形断面ガラス繊維を製造するガラス繊維の製造装置であって、
前記加熱手段により前記パイプの温度が前記ブッシングの温度に比べて高温に調節されているとともに、前記ノズル孔と前記フィーダー内の溶融ガラスの液面との高低差が0.3m~1.5mとなるように構成されているガラス繊維の製造装置。
【請求項2】
前記ブッシングと前記パイプの温度差が50℃~200℃である請求項1に記載のガラス繊維の製造装置。
【請求項3】
溶融ガラスを流通させるフィーダーと、扁平なノズル孔が設けられ且つ前記フィーダーよりも下方に配置されたブッシングと
、前記フィーダーと前記ブッシングとを接続するパイプと、前記ブッシングと前記パイプとに温度差を設けるための加熱手段と、を用いて、
前記フィーダー内から前記ブッシングの前記ノズル孔に至るまでの流路全体を溶融ガラスで満たした状態で、前記フィーダーから前記ブッシングに供給した溶融ガラスを前記ノズル孔より流出させて異形断面ガラス繊維を製造するガラス繊維の製造方法であって、
前記加熱手段により前記パイプの温度が前記ブッシングの温度に比べて高温に調節するとともに、前記ノズル孔と前記フィーダー内の溶融ガラスの液面との高低差を0.3m~1.5mとしたガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス繊維の製造装置および製造方法に係り、詳しくは断面形状が扁平な異形断面ガラス繊維を製造するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維の一種として、断面形状が扁平な異形断面ガラス繊維が知られている(特許文献1を参照)。異形断面ガラス繊維と樹脂とを混練して複合化することで得られた繊維強化プラスチック(FRP)は、強度が高いため、異形断面ガラス繊維は、FRP用の繊維等の様々な分野で利用される。
【0003】
ここで、異形断面ガラス繊維は、例えば、以下の方法により製造できる。
【0004】
異形断面ガラス繊維は、ガラス溶解炉等で生成した溶融ガラスを流通させるためのフィーダーと、フィーダーよりも下方に配置されたブッシングとを備える装置を用いて製造される。ブッシングは多数のノズルを備えており、各ノズルに設けられたノズル孔は扁平な形状(長円形や楕円形等)に形成されている。異形断面ガラス繊維は、フィーダー内からブッシングのノズル孔に至るまでの流路全体を溶融ガラスで満たした状態で、溶融ガラスを各ノズルのノズル孔から流出させ、流出した溶融ガラスを引き出しつつ冷却することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法は、下記のような問題を有する。
【0007】
溶融ガラスがノズル孔から流出する際に、表面張力の影響により、溶融ガラスは、その表面積が小さくなる方向に変形する。すなわち、溶融ガラスは、断面が真円になるように変形する。そのため、高い扁平率を有する異形断面ガラス繊維を成形することは容易ではない。この対策としては、溶融ガラスの粘度を高めて表面張力による変形を抑制することを目的に、ノズル孔から流出する溶融ガラスの温度を低温にすることが考えられる。しかしながら、当該対策により溶融ガラスの粘度が高くなるため、これをノズル孔から流出させることが困難になりやすい。従って、異形断面ガラス繊維を製造するにあたり、ノズル孔から溶融ガラスを容易に流出させるための改良が必要である。しかし、当該改良により、ブッシングに負荷がかかる。そのため、ブッシングへの負荷を増やさず、かつ、高い扁平率を有する異形断面ガラス繊維を製造することが望まれる。
【0008】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、異形断面ガラス繊維を製造するに際して、ノズル孔から溶融ガラスを容易に流出させ得るようにすると共に、ブッシングに過度な負荷が掛かるのを回避することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明は、溶融ガラスを流通させるフィーダーと、扁平なノズル孔が設けられ且つフィーダーよりも下方に配置されたブッシングとを備え、フィーダー内からブッシングのノズル孔に至るまでの流路全体が溶融ガラスで満たされた状態で、フィーダーからブッシングに供給された溶融ガラスをノズル孔より流出させて異形断面ガラス繊維を製造するガラス繊維の製造装置であって、ノズル孔とフィーダー内の溶融ガラスの液面との高低差が0.3m~1.5mとなるように構成されている。
【0010】
本装置においては、ノズル孔とフィーダー内の溶融ガラスの液面との高低差が1.5m以下であることで、溶融ガラスからブッシングに作用する圧力を、ブッシングに掛かる負荷が過度にならない範囲に収めることが可能となる。さらには、上記の高低差が0.3m以上であることにより、溶融ガラスをノズル孔から容易に流出させるのに充分な大きさの圧力(ヘッド圧)を確保できる。以上のことから、本装置によれば、異形断面ガラス繊維を製造するに際して、溶融ガラスをノズル孔から容易に流出させることができると共に、ブッシングに過度な負荷が掛かるのを抑制できる。また、本装置によれば、下記のような効果も得られる。すなわち、ブッシングに過度な負荷がかかることを回避できることから、従来と比較してブッシングに設けるノズル孔の個数を増加させる、或いは、ノズル孔一つあたりの開口面積を拡大させるといったブッシングの強度を低下させ得るような設計の変更も可能となり、多様なガラス繊維の製造条件に幅広く対応できる。
【0011】
上記の構成において、フィーダーとブッシングとを接続するパイプを備えることが好ましい。
【0012】
このようにすれば、パイプの上下方向に沿った長さを調整することにより、ノズル孔とフィーダー内の溶融ガラスの液面との高低差を容易に変更することが可能となる。従って、溶融ガラスからブッシングに作用する圧力を簡便に変更できる。その結果、ノズル孔から溶融ガラスを容易に流出させるための扁平ノズル孔に適したヘッド圧を確保しつつ、ブッシングに過度な負荷が掛かるのを回避することができる。
【0013】
また、上記の課題を解決するための本発明は、溶融ガラスを流通させるフィーダーと、扁平なノズル孔が設けられ且つフィーダーよりも下方に配置されたブッシングとを用いて、フィーダー内からブッシングのノズル孔に至るまでの流路全体を溶融ガラスで満たした状態で、フィーダーからブッシングに供給した溶融ガラスをノズル孔より流出させて異形断面ガラス繊維を製造するガラス繊維の製造方法であって、ノズル孔とフィーダー内の溶融ガラスの液面との高低差を0.3m~1.5mとした。
【0014】
本方法によれば、上記のガラス繊維の製造装置で得られる既述の作用・効果を同様に獲得することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異形断面ガラス繊維を製造するに際して、ノズル孔から溶融ガラスを容易に流出させることができると共に、ブッシングに過度な負荷が掛かるのを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態に係るガラス繊維の製造装置および製造方法を示す断面図である。
【
図2】第一実施形態に係るガラス繊維の製造装置に備わった異形断面ガラス繊維用ノズルの周辺を示す断面図である。
【
図3】第一実施形態に係るガラス繊維の製造装置に備わった異形断面ガラス繊維用ノズルの周辺を示す底面図である。
【
図4】第一実施形態に係るガラス繊維の製造装置に備わった異形断面ガラス繊維用ノズルを示す図であり、(a)はノズルの側面図、(b)は(a)の4b-4b断面図、(c)は(a)の4c-4c断面図、(d)は(a)の4d-4d断面図である。
【
図6】第二実施形態に係るガラス繊維の製造装置に備わった異形断面ガラス繊維用ノズルを示す図であり、(a)はノズルの側面図、(b)は(a)の9b-9b断面図、(c)は(a)の9c-9c断面図である。
【
図7】第三実施形態に係るガラス繊維の製造装置に備わった異形断面ガラス繊維用ノズルを示す図であり、(a)はノズルの側面図、(b)は平面図である。
【
図8】第四実施形態に係るガラス繊維の製造装置および製造方法を示す断面図である。
【
図9】第五実施形態に係るガラス繊維の製造装置に備わった異形断面ガラス繊維用ノズルの周辺を模式的に示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るガラス繊維の製造装置および製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0018】
<第一実施形態>
第一実施形態に係るガラス繊維の製造方法の実行には、
図1に示すようなガラス繊維の製造装置1(以下、製造装置1と表記)が用いられる。製造装置1は、溶融ガラス2を流通させるフィーダー3と、フィーダー3よりも下方に配置されたブッシング4と、フィーダー3とブッシング4とを接続するパイプ5とを備えている。製造装置1は、フィーダー3からパイプ5を介してブッシング4に溶融ガラス2を供給し、ブッシング4のノズル孔6より流出させた溶融ガラス2を引き出しつつ冷却して異形断面ガラス繊維2f(以下、ガラス繊維2fと表記)を製造する構成となっている。
【0019】
本実施形態においては、溶融ガラス2がEガラスからなる。しかしながら、この限りではなく、溶融ガラス2がDガラス、Sガラス、ARガラス、Cガラス等の他のガラスからなってもよい。
【0020】
フィーダー3は、図示省略のガラス溶解炉と接続されており、当該溶解炉でガラス原料を連続的に溶解させることで生成された溶融ガラス2を流通させることが可能である。このフィーダー3の内部には溶融ガラス2の液面2aが形成されている。溶融ガラス2の液面2aの高さは、単位時間当たりに溶融炉に供給されるガラス原料の量などにより調整される。
【0021】
ブッシング4は、底部にベースプレート7を備えている。ベースプレート7には、相互に同一の構成を有する複数の異形断面ガラス繊維用ノズル8(以下、ノズル8と表記)と、これらノズル8の近傍に配置された冷却管9とが備わっている。そして、各ノズル8には1個のノズル孔6が形成されている。詳細は後述するが、各ノズル8に設けられたノズル孔6は扁平に形成されている。
【0022】
パイプ5は、断面形状が円筒状に形成されると共に、管軸が上下方向に延びるように配置されている。パイプ5の上端部はフィーダー3の底部と連結されており、パイプ5の下端部はブッシング4の上端部と連結されている。なお、パイプ5は、相対的に上方に位置するフィーダー3と、相対的に下方に位置するブッシング4とを接続できるものであれば、パイプ5の断面形状や管軸が延びる方向は、本実施形態とは異なっていてもよい。また、フィーダー3とパイプ5とは、図示省略のフローブロックやブッシングブロックにより連結されてもよい。
【0023】
ブッシング4、パイプ5、ノズル8および冷却管9の各部材は、その一部または全体が白金または白金合金(例えば、白金ロジウム合金)により構成されている。
【0024】
フィーダー3の底部とパイプ5の上端部との接続部から、ブッシング4のノズル孔6に至るまでの流路全体は溶融ガラス2で満たされている。これにより、ノズル孔6から溶融ガラス2を流出させるための圧力(ヘッド圧)が、ノズル孔6とフィーダー3内の溶融ガラス2の液面2aとの高低差Hで決定される。ここで、高低差Hは、例えば主にパイプ5の長さを変更することで調節が可能である。
【0025】
高低差Hは0.3m~1.5mに調節している。これは、高低差Hが0.3m未満であると、ヘッド圧が小さくなりすぎ扁平なノズル孔6から溶融ガラス2を流出させるのが困難になる虞があるためである。一方、高低差Hが1.5m超であると、ヘッド圧が大きくなりすぎ、ブッシング4(ベースプレート7)に過度な負荷が掛かるためである。なお、好ましくは高低差Hを0.5m~1.2mに調節し、さらに好ましくは高低差Hを0.5m~1mに調整する。
【0026】
ガラス繊維2fを成形する際の溶融ガラス2の温度・粘度は、それぞれ1100℃~1250℃(好ましくは1150℃~1200℃)、102.6dPa・s~103・8dPa・s(好ましくは102.9dPa・s~103・3dPa・s)に設定される。ここで言う「溶融ガラス2の温度・粘度」とは、ノズル8に流入する位置における溶融ガラス2の温度・粘度である。なお、溶融ガラス2の温度・粘度は、例えば、ブッシング4とパイプ5との両者を加熱する等により調整される。この他、ガラス溶解炉内の溶融ガラス2やフィーダー3を通電加熱等で加熱して溶融ガラス2の温度・粘度を調節してもよい。
【0027】
ガラス繊維2fの表面には、図示省略のアプリケーターにより集束剤が塗布されると共に、数百本~数千本程度のガラス繊維2fが一本のストランド2sとして紡糸される。紡糸されたストランド2sは、巻き取り装置であるボビン10の周りに繊維束2rとして巻き取られる。ストランド2sは、例えば、1mm~20mm程度の長さに切断され、チョップドストランドとして利用される。
【0028】
図2および
図3に示すように、ノズル8は、溶融ガラス2を流出させる先端部に、相対的に長尺な一対の長壁部11と、相対的に短尺な一対の短壁部12とを備えている。これらの壁部11,12により囲われることで扁平なノズル孔6が形作られている。一対の長壁部11,11の各々には切欠き部13が設けられており、ノズル孔6が切欠き部13を通じてノズル8の外部空間と連なっている。
【0029】
冷却管9は、その内部に冷却水14を循環させることで、溶融ガラス2を冷却する。冷却管9は外形が板状に形成されており、板面が長壁部11と平行になるように配置されている。ここで、冷却管9はベースプレート7と一体に設けられているが、ベースプレート7から離れた位置に設けられていてもよい。また、冷却管9は円管状に形成されていてもよい。
【0030】
冷却管9の高さ位置は、溶融ガラス2の冷却条件に応じて調整される。一例として、冷却管9は、ノズル8から引き出された溶融ガラス2と板面とが面しないように、ノズル8の先端部よりも上方に配置されていてもよい。一方、ノズル8及びノズル8から引き出された溶融ガラス2の双方と板面とが面するように、ノズル8の先端部の上方と下方とに跨って配置されていてもよい。なお、溶融ガラス2の冷却には、冷却管9の他、空気流により溶融ガラス2を冷却する冷却フィン等を用いてもよい。また、冷却管9は、必須の構成ではなく省略してもよい。
【0031】
図3に示すように、ベースプレート7には、複数のノズル列Pが間隔を空けて平行に配置されている。各ノズル列Pには複数のノズル8が含まれる。同じノズル列Pに含まれる複数のノズル8は、これらに形成されたノズル孔6が同一直線上に位置するように配置されている。ノズル孔6の数としては、例えば、100個以上であり、300個以上が好ましく、800個以上がより好ましい。また、ノズル孔6の数としては、5000個以下であり、3000個以下が好ましく、1500個以下がより好ましい。
【0032】
上記の冷却管9は、隣り合う両ノズル列P,Pの相互間において、ノズル列Pと平行に延びるように配置されている。これにより、冷却管9に面した切欠き部13を通じてノズル孔6内の溶融ガラス2が冷却される。具体的には、ノズル8の先端部において、溶融ガラス2は、冷却管9により1000℃以上の温度から急激に冷却される。ここで、冷却管9は、ブッシング4(ベースプレート7)やノズル8を冷却することで、これらの部材の熱による劣化を抑制して耐久性を高める機能もある。
【0033】
図4(a)~(d)に示すように、各ノズル8の長壁部11にそれぞれ設けられた切欠き部13は、上底が下底よりも短い等脚台形状に形成されている。これにより、切欠き部13は、ノズル8の先端部側に移行するに連れて開口幅が漸次に拡大している。なお、本実施形態では、台形状の下底は、長壁部11の長さとほぼ同じである。また、切欠き部13の深さD(上下方向に沿った長さ)は、0.1mm~2mmとされている。これは、深さDが2mmを超える場合には、製造されたガラス繊維2fの断面において、長手方向の両端部が細くなりすぎ、当該ガラス繊維2fが破損しやすくなるためである。
【0034】
切欠き部13の形状は、台形状に限定されるものではなく、他の形状としてもよい。例えば、三角形状や半円形状であってもよい。ただし、これら他の形状を採用する場合でも、切欠き部13は、ノズル8の先端部側に移行するに連れて開口幅が漸次に拡大していることが好ましい。また、切欠き部13は、必須の構成ではなく省略してもよい。
【0035】
ノズル孔6は、ノズル8の基端部側に形成された溶融ガラス2の流入口と、先端部側に形成された溶融ガラス2の流出口とを有し、ノズル孔6の断面は、流入口から流出口までが均一な形状である。ここで、複数のノズル8に形成された各ノズル孔6は、相互に同一の構成(形状、寸法、内周面15の表面粗さ)とされている。なお、流入口と流出口との間でノズル孔6の断面形状は異なっていてもよい。つまり、流入口から流出口に至るまでにノズル孔6の形状が変化していてもよい。
【0036】
ノズル孔6は、白金または白金合金で構成された内周面15を有している。内周面15は、ノズル孔6の長径方向で対向する一対の短壁面15a,15aと、短径方向で対向する一対の長壁面15b,15bとを有する。本実施形態では、一対の短壁面15a,15aは円弧状となっており、一対の長壁面15b,15bが平行になっている。そのため、ノズル孔6は、長円形状である。ここで、短壁面15aの短径方向に沿った長さをXとし、長壁面15bの長径方向に沿った長さをYとしたとき、(Y/X)の値は2~5とされている。なお、流入口から流出口に至るまでにノズル孔6の断面形状が変化する場合には、変化の前後で(Y/X)の値が2~5の範囲内となるようにする。この場合、変化の前後で(Y/X)の値が異なっていてもよい。
【0037】
また、短壁面15aにおける表面粗さRaの平均値は、長壁面15bにおける表面粗さRaの平均値よりも大きくなっている。具体的には、短壁面15aにおける表面粗さRaの平均値は、2μm以上で且つ10μm以下の範囲内であり、長壁面15bにおける表面粗さRaの平均値は、1μm以上で且つ10μm未満の範囲内となっている。
【0038】
上記の表面粗さRaの平均値は、孔開け加工でノズル孔6を形成するに際して、用いるドリルの形状を変更したり、ドリルを振動させたりすることで調節できる。また、形成後のノズル孔6に対し、再度ドリルを接触させたり、焼きなましを施したりすることでも調節が可能である。
【0039】
ここで、表面粗さRaの平均値は、未使用の状態(溶融ガラス2を流通させる前の状態)における値である。具体的な表面粗さRaの平均値の測定態様は、以下の(1)~(4)のとおりである。(1)本製造装置に組み込むことが可能なノズル8を同一の作製条件の下で複数作製した後、これらの中から測定対象となるノズル8をサンプルとして抜き取る。(2)抜き取ったサンプルをノズル孔6の孔軸が延びる方向(本製造装置に組み込んだ場合に、
図1,2の上下方向となる方向)に沿って切断する。(3)ノズル孔6の内周面15(短壁面15aおよび長壁面15b)について、JIS B 0601:2001に準拠し、孔軸が延びる方向に沿って測定を行う。なお、測定には小坂研究所社製のサーフコーダ(製品名:ET4000)を使用し、測定距離は1mmとする。ここで、測定は相互に位置が異なる6箇所(短壁面15aおよび長壁面15bの各々について3箇所ずつ)に対して実施する。(4)6箇所のそれぞれで測定された表面粗さRaの値の平均をとり、内周面15の表面粗さRaの平均値とする。さらに、短壁面15aおよび長壁面15bのそれぞれで測定された3個の表面粗さRaの値の平均をとり、それぞれ短壁面15aおよび長壁面15bの表面粗さRaの平均値とする。その上でサンプル以外のノズル8の内周面15、短壁面15aおよび長壁面15bにおける各表面粗さRaの平均値を、サンプルについて測定された各表面粗さRaの平均値と同じ値とみなす。
【0040】
また、ノズル孔6の内周面15におけるクルトシスRku(尖度)の平均値は、2以上(好ましくは4~10の範囲内)である。短壁面15aと長壁面15bとの間におけるクルトシスRkuの大小関係は、表面粗さRaと同じである。
【0041】
上記のように構成された本製造装置により製造されるガラス繊維2fの各々は、
図5に示すように、扁平な断面形状(引き出し方向に垂直な断面における形状)を有する異形断面ガラス繊維となる。本製造装置によれば、短壁面15aにおける溶融ガラス2と内周面15との接触抵抗が、長壁面15bにおける溶融ガラス2と内周面15との接触抵抗よりも大きくなる。そのため、ガラス繊維2fの断面全体の丸まりを回避でき、高扁平率繊維を製造することが可能である。
【0042】
よって、上記のように構成された製造装置1によれば、高低差Hが1.5m以下にでき、ブッシング4(ベースプレート7)に過度な負荷が掛かるのを回避することができる。また、上記のように構成された製造装置1によれば、高低差Hが0.3m以上であることにより、ノズル孔6から溶融ガラス2を容易に流出させることができる。そのため、高圧によるブッシング4(ベースプレート7)の損傷を回避しつつ、
図5に示すような高扁平率の断面形状(ガラス繊維2fの引出方向に対して垂直な断面形状)を有するガラス繊維2fが得られる。具体的には、ガラス繊維2fの断面形状が長円形に近い形状に形成される。
【0043】
以下、他の実施形態について説明する。なお、他の実施形態の説明において、上記の第一実施形態で説明済みの要素と実質的に同一の要素については、同一の符号を付すことで重複する説明を省略し、第一実施形態との相違点についてのみ説明する。
【0044】
<第二実施形態>
図6(a)~(c)に示すように、第二実施形態が上記の第一実施形態と相違する点は、ノズル孔6の軸に沿う方向から視て、一対の短壁面15aが直線状であり、これらが平行である点と、一対の長壁面15b間の距離が、ノズル孔6の中央側に向かうにつれて小さくなる点である。これにより、ノズル孔6の両端側の断面積が、中央側に比べて大きくなる。これにより、ノズル孔6の中央側から流出する溶融ガラス2の量が、ノズル孔6の両端側から流出する溶融ガラス2の量よりも少なくなるため、中央側の溶融ガラス2が速やかに冷却されて固化し、その結果、溶融ガラス2の表面積が小さくなる方向に変形しにくくなる。そのため、高扁平率繊維を製造することが可能である。また、中央部及び両端側における一対の長壁面15b間の距離を調整することにより、距離に応じた高低差Hに設定することができる。
【0045】
なお、短壁面15aおよび長壁面15bの表面粗さRaは、第一実施形態のようにすることが好ましい。
【0046】
<第三実施形態>
図7(a)および(b)に示すように、第三実施形態が上記の第一実施形態と相違する点は、ノズル孔6がダンベル形状に形成されている点である。本実施形態においては、
図7に示すように、ノズル8は、ノズル孔6の中央側の壁面を構成する一対の中央壁面15c,15c、ノズル孔6の両端側の壁面を構成する一対の両端壁面15d,15dを備える。また、両壁壁面15dは、中央壁面15cと連なり、平面視において中央壁面15cと垂直な一対の垂直両端壁面15d1,15d1、垂直両端壁面15d1と連なり、平面視において中央壁面15cと平行な一対の平行両端壁面15d2,15d2、一対の平行両端壁面15d2と連なり、かつ垂直両端壁面15d1と平行な終端両壁壁面15d3とを備える。これにより、両端壁面15dから流出する溶融ガラス2は、垂直両端壁面15d1、平行両端壁面15d2及び終端両壁壁面15d3に囲まれるため、当該溶融ガラス2は両端壁面15dから大きな抵抗力を受ける。その結果、ガラス繊維2fの断面全体の丸まりを回避でき、高扁平率繊維を製造することが可能である。両端壁面15dの形状を調整することにより、高低差Hを調整することができる。
【0047】
なお、第一実施形態のように、両端壁面15dにおける表面粗さRaの平均値は、中央壁面15cにおける表面粗さRaの平均値よりも大きいことが好ましい。
【0048】
<第四実施形態>
図8に示す第四実施形態においては、製造装置1が、ブッシング4とパイプ5とに温度差を設けるための加熱手段18を備え、この加熱手段18によりパイプ5の温度がブッシング4の温度に比べて高温に調節されている。これにより、ブッシング4に流入する前の溶融ガラス2の温度が、ノズル孔6から流出する際の溶融ガラス2の温度(ガラス繊維2fの成形に適した温度)よりも高温に保持される。そして、ブッシング4に流入する前の溶融ガラス2の温度と、ノズル孔6から流出する際の溶融ガラス2の温度を、以下に説明する通り調整することにより、温度に応じた高低差Hに設定することができる。
【0049】
加熱手段18は、ブッシング4を通電加熱する第一加熱器19と、パイプ5を通電加熱する第二加熱器20とを備えている。第一加熱器19と第二加熱器20との両者は、それぞれ独立してブッシング4およびパイプ5に流れる電流の大きさを調節でき、これにより、ブッシング4とパイプ5とを個別に加熱することが可能となっている。なお、第二加熱器20に代えて、パイプ5を包囲する誘導加熱用のコイルを備えた加熱器を配置してもよい。
【0050】
本装置においては、パイプ5の温度がブッシング4の温度に比べて高温に調節可能に構成されているため、パイプ5からブッシング4に流入する直前まで溶融ガラス2の温度を高く保持することができ、ブッシング4よりも上流側において、その粘度を低い状態に維持できる。さらに、ブッシング4に流入させた後で溶融ガラス2の温度を低下させ、その粘度を高扁平率の繊維の製造に適した粘度に高めることが可能となる。このとおり、ブッシング4に流入する直前まで溶融ガラス2の粘度を低くできる分だけ、溶融ガラス2がパイプ5を流れる際の圧力損失を小さくすることが可能となる。そのため、ノズル孔6とフィーダー3内の溶融ガラス2の液面との高低差を小さくすることができる。
【0051】
ここで、ブッシング4の温度は、溶融ガラス2に失透が生じるのを回避するために1100℃以上とすることが好ましい。ブッシング4の温度は、例えば1130℃~1280℃である。一方、パイプ5の温度は、例えば1180℃~1350℃である。なお、本実施形態では、ブッシング4とパイプ5との温度差を50℃~200℃としている。
【0052】
<第五実施形態>
図9(ノズル孔6、ベースプレート7以外は図示省略)に示す第五実施形態においては、ノズル孔6が長円形に形成されると共に、ベースプレート7の単位面積あたりに占めるノズル孔6の開口面積の割合が、5%~15%となるように調節されている。この範囲内に調節するのは、割合が5%未満であるとノズル孔6から溶融ガラス2を流出させるのが困難となる虞があり、割合が15%超であるとブッシング4(ベースプレート7)の強度が不十分となる虞があるためである。
【0053】
本実施形態において、上記の割合は、{(
図9でハッチングを施した領域の面積の和)/(S1×S2)}×100で算出される。なお、上記の割合は、ノズル孔6の一つあたりの開口面積を固定した上でノズル孔6の個数を増減させて調節してもよいし、ノズル孔6の個数を固定した上でノズル孔6の一つあたりの開口面積を拡縮させて調節してもよい。ただし、ノズル孔6の一つあたりの開口面積は、3mm
2~15mm
2とすることが好ましい。また、ノズル孔6について、(Y/X)の値は2~8とすることが好ましい。
【0054】
ここで、本発明に係るガラス繊維の製造装置および製造方法は、上記の実施形態で説明した構成や態様に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、フィーダー3の底部とブッシング4の上端部とをパイプ5で接続しているが、この限りではない。パイプ5を取り除いてフィーダー3の底部にブッシング4の上端部を直接に取り付けてもよい。この場合においても、ノズル孔6とフィーダー3内の溶融ガラス2の液面2aとの高低差Hは、0.3m~1.5mとする。
【符号の説明】
【0055】
1 ガラス繊維の製造装置
2 溶融ガラス
2a 液面
2f 異形断面ガラス繊維
3 フィーダー
4 ブッシング
5 パイプ
6 ノズル孔
H 高低差