IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧

特許7535235表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体
<>
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図1
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図2
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図3
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図4
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図5
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図6
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図7
  • 特許-表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20240808BHJP
   B29C 48/154 20190101ALI20240808BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240808BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240808BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20240808BHJP
   B29K 27/12 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C08J7/00 306
C08J7/00 CEW
B29C48/154
B32B27/30 D
B32B27/32 Z
B32B25/08
B29K27:12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020049795
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147534
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】工藤 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
(72)【発明者】
【氏名】石井 睦
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178063(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042217(WO,A1)
【文献】特開平07-178875(JP,A)
【文献】特開2013-107961(JP,A)
【文献】国際公開第2000/020489(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3174358(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00- 7/02、 7/12- 7/18
B29C 48/00-48/96、71/04
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロール型のプラズマ処理装置により、フッ素系樹脂フィルムの少なくとも一方の表面が改質処理されることにより得られた、表面改質フッ素系樹脂フィルムを準備し、
押出ラミネート法により、前記表面改質フッ素系樹脂フィルムの前記表面にシーラント層を積層することにより得られた積層体を準備し、
前記積層体の前記シーラント層と、ゴム基材とが加熱圧着される、複合ゴム成形体の製造方法であって、
前記改質処理において、プラズマガスが希ガスを少なくとも含み、プラズマ密度が0.20W・min/(Pa・m ・sccm)以上であり、
前記表面改質フッ素系樹脂フィルムが、エチレンと、テトラフルオロエチレンとの共重合体樹脂を含み、
前記表面改質フッ素系樹脂フィルムの前記改質処理表面において、X線光電子分光分析装置により測定したF1s軌道由来のピーク面積の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、29.0%以下であり、
前記シーラント層が、ポリオレフィンを含む、複合ゴム成形体の製造方法
【請求項2】
前記改質処理表面において、水の接触角が54.0°以下である、請求項に記載の複合ゴム成形体の製造方法
【請求項3】
前記改質処理表面において、L*a*b*表色系におけるb*が5.0以下である、請求項又はに記載の複合ゴム成形体の製造方法
【請求項4】
前記改質処理表面において、X線光電子分光分析装置により測定したC1s軌道由来のピーク面積と、O1s軌道由来のピーク面積との和の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、71.0%以上である、請求項のいずれか一項に記載の複合ゴム成形体の製造方法
【請求項5】
前記フッ素系樹脂フィルムと前記シーラント層との剥離強度が、15mm幅において、3.0N/15mm以上である、請求項のいずれか一項に記載の複合ゴム成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体の製造方法、並びに表面改質フッ素系樹脂フィルム、積層体、及び複合ゴム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系樹脂フィルムは、一般に、極めて不活性であることから、医薬品容器のゴム栓や注射器のガスケット等の種々の医薬品用ゴム製品に、耐薬品性、滑り性、付着防止性を向上させるために、ゴム基材の表面を被覆するフィルムとして多用されている。また、フッ素系樹脂フィルムは、医療用包装材料(例えば、点滴パック等)にも用いられている。さらに、フッ素系樹脂フィルムは、耐候性にも優れることから、太陽電池セルの保護部材としても用いられている。
【0003】
このようなフッ素系樹脂フィルムには、ゴム基材や他のフィルム等との接着性(以下、密着性とも記載する)が高まるように、スパッタエッチング処理や化学処理等で表面改質されたものがある(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-129015号公報
【文献】特開2002-177390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面が改質処理されたフッ素系樹脂フィルムであっても、ゴム基材や他のフッ素系樹脂フィルムとの密着性の向上は不十分であることから、依然として密着性の改善が望まれている。
【0006】
本発明者らは、フッ素系樹脂フィルム表面にシーラント層を形成し、このシーラント層を介して、フッ素系樹脂フィルムとゴム基材等と接着することで、上記問題を解決できると考えた。しかしながら、フッ素系樹脂フィルムはシーラント層との密着性が低く、フッ素系樹脂フィルムと、シーラント層との間で剥離が生じてしまうという新たな問題が生じた。
本発明者らは、鋭意検討した結果、フッ素系樹脂フィルム表面を、特定の方法によって表面改質処理を行うことにより、密着性に優れた表面改質フッ素系樹脂フィルムが製造できるとの知見を得た。
【0007】
本発明は、上記知見に鑑みてなされたものであり、その目的は、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルム、該表面改質フッ素系樹脂フィルムを備える積層体、及び該積層体を備える複合ゴム成形体の製造方法を提供することである。
また、本発明の別の目的は、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルム、該表面改質フッ素系樹脂フィルムを備える積層体、及び該積層体を備える複合ゴム成形体である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの製造方法は、ロールツーロール型のプラズマ処理装置により、フッ素系樹脂フィルムの少なくとも一方の表面が改質処理され、
改質処理において、プラズマガスが希ガスを少なくとも含み、プラズマ密度が0.20W・min/(Pa・m・sccm)以上であり、
表面改質フッ素系樹脂フィルムが、エチレンと、テトラフルオロエチレンとの共重合体樹脂を含み、
表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面において、X線光電子分光分析装置により測定したF1s軌道由来のピーク面積の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、29.0%以下である。
【0009】
本発明の積層体の製造方法は、上記方法により得られた表面改質フッ素系樹脂フィルムを準備し、
押出ラミネート法により、表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面にシーラント層を積層する。
【0010】
本発明の複合ゴム成形体の製造方法は、上記方法により得られた積層体を準備し、積層体のシーラント層と、ゴム基材とが加熱圧着される。
【0011】
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムは、エチレンと、テトラフルオロエチレンとの共重合体樹脂を含み、
少なくとも一方の表面において、X線光電子分光分析装置により測定したF1s軌道由来のピーク面積の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、29.0%以下である。
【0012】
表面改質フッ素系樹脂フィルムは、少なくとも一方の表面において、水の接触角が54.0°以下であってもよい。
【0013】
表面改質フッ素系樹脂フィルムは、少なくとも一方の表面において、L*a*b*表色系におけるb*が5.0以下であってもよい。
【0014】
表面改質フッ素系樹脂フィルムは、少なくとも一方の表面において、X線光電子分光分析装置により測定したC1s軌道由来のピーク面積と、O1s軌道由来のピーク面積との和の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、71.0%以上であってもよい。
【0015】
本発明の積層体は、上記表面改質フッ素系樹脂フィルムと、シーラント層とを少なくとも備え、
シーラント層が、表面改質フッ素系樹脂フィルムの上記表面側に直接積層されている。
【0016】
積層体は、上記フッ素系樹脂フィルムとシーラント層との剥離強度が、15mm幅において、3.0N/15mm以上であってもよい。
【0017】
本発明の複合ゴム成形体は、上記積層体と、ゴム基材とを備え、
表面改質フッ素系樹脂フィルムと、ゴム基材とが、シーラント層を介して接着されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルム、該表面改質フッ素系樹脂フィルムを備える積層体、及び該積層体を備える複合ゴム成形体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルム、該表面改質フッ素系樹脂フィルムを備える積層体、及び該積層体を備える複合ゴム成形体を供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ロールツーロール型のプラズマ処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの一実施形態を示した断面概略図である。
図3】本発明の積層体の一実施形態を示した断面概略図である。
図4】本発明の複合ゴム成形体(ラミネートゴム栓)の一実施形態を示した断面概略図である。
図5】本発明の複合ゴム成形体(ラミネートゴム栓)の一実施形態を示した外観斜視図である。
図6】剥離強度の測定方法の一例を示す図である。
図7】剥離強度の測定方法の一例を示す図である。
図8】剥離強度を測定するために表面改質フッ素系樹脂フィルムとシーラント層とを引っ張る一対のつかみ具の間の間隔に対する引張応力の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図8を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから適宜変更し誇張してある。
【0021】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0022】
<表面改質フッ素系樹脂フィルムの製造方法>
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの製造方法において、フッ素系樹脂フィルムは、ロールツーロール型のプラズマ処理装置により、少なくとも一方の表面が改質処理される。ロールツーロール型のプラズマ処理装置を用いることにより、フッ素系樹脂フィルムの表面の改質処理を好適に行うことができ、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルムを得ることができる。ロールツーロール型のプラズマ処理装置(以下、「ロールツーロール型のプラズマ処理装置」を単に「プラズマ処理装置」とも称する)の一例について、図1を参照して以下に説明する。
【0023】
図1は、プラズマ処理装置1の概略構成図である。一実施形態において、図1に示すようなプラズマ処理装置1は、チャンバー2、このチャンバー2内に配設された供給ローラ3、巻き取りローラ4、冷却・電極ドラム5、補助ローラ6,6を備え、冷却・電極ドラム5は電源7に接続されているとともに、チャンバー2内は真空ポンプ8により、所望の真空度に設定できるようになっている。さらに、チャンバー2内の冷却・電極ドラム5の近傍には、ノズル9の開口部が位置しており、このノズル9の他端は、チャンバー2外部に配設されているガス供給装置10に接続されている。そして、ガス供給装置10からプラズマガスが供給されることとなる。また、冷却・電極ドラム5の近傍にはマグネット11を設置し、プラズマの発生を促進している。さらに、プラズマ処理装置1は、冷却・電極ドラム5の周囲にマスク12,12を備え、マグネット11側においては、冷却・電極ドラム5が剥き出しとなっている、マスク12,12の開口部が存在する。
【0024】
上述のようなプラズマ処理装置1の供給ローラ3に、フッ素系樹脂フィルム13の原反を装着し、補助ローラ6、冷却・電極ドラム5、補助ローラ6を経由して巻取ローラ4に至る図示のような原反搬送パスを形成する。
【0025】
プラズマ処理装置1による改質処理は、まず、チャンバー2内の真空ポンプ8により減圧する。そして、ガス供給装置10から供給されるプラズマガスをノズル9を介してチャンバー2中に導入する。
【0026】
一方、冷却・電極ドラム5には電源7から所定の電圧が印加されているため、チャンバー2内のノズル9の開口部と冷却・電極ドラム5との近傍でグロー放電プラズマPが確立される。このグロー放電プラズマPは、プラズマガス成分から導出されるものである。この状態で、フッ素系樹脂フィルム13を一定速度で搬送させ、グロー放電プラズマPによって冷却・電極ドラム5の周面上のフッ素系樹脂フィルム13の片側表面が改質処理される。このように改質処理がなされた表面改質フッ素系樹脂フィルム20は巻取ローラ4に巻き上げられる。
【0027】
本発明の方法の改質処理において、プラズマ密度は0.20W・min/(Pa・m・sccm)以上である。これにより、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルムを得ることができる。
プラズマ密度は、0.20W・min/(Pa・m・sccm)以上3.00W・min/(Pa・m・sccm)以下であることが好ましく、0.25W・min/(Pa・m・sccm)以上2.70W・min/(Pa・m・sccm)以下であることがより好ましく、0.40W・min/(Pa・m・sccm)以上1.50W・min/(Pa・m・sccm)以下であることがさらに好ましい。これにより、フッ素系樹脂フィルムの改質処理を良好に実施できると共に、表面改質フッ素系樹脂フィルムの着色を低減させることができる。
【0028】
本発明の方法において、プラズマ密度は、以下の式(I)及び式(II)により算出されたものである。
プラズマ強度=電力/(マグネット面積×圧力×ガス供給量) (I)
プラズマ密度=プラズマ強度×マスク開口部長さ/搬送速度 (II)
式(I)において、電力とは、冷却・電極ドラムに供給される電力を意味し、単位は[W]である。
式(I)において、マグネット面積とは、マグネットのフィルム側の表面積を意味し、単位は[m]である
式(I)において、圧力とは、プラズマ処理時の装置内の圧力を意味し、単位は[Pa]である。
式(I)において、ガス供給量とは、プラズマ処理時のプラズマガスの供給量を意味し、単位は[sccm]である。
式(II)において、マスク開口部長さとは、冷却・電極ドラムの流れ方向において、マグネット側のマスクの直線開口幅を意味し、単位は[m]である。
式(II)において、搬送速度とは、樹脂フィルムの搬送速度を意味し、単位は[m/min]である。
【0029】
本発明の方法において、冷却・電極ドラムに供給される電力は、上記プラズマ密度の数値範囲を満たす電力であれば特に限定されないが、電力は、100W以上10000W以下であることが好ましく、300W以上8000W以下であることがより好ましく、500W以上1000W以下であることがさらに好ましい。
電力を上記範囲とすることにより、異常な放電を抑制し、安定なプラズマ放電を得ることができる。
【0030】
本発明の方法において、マグネット面積は、上記プラズマ密度の数値範囲を満たす面積であれば特に限定されないが、マグネット面積は、0.01m以上1.00m以下であることが好ましく、0.05m以上0.50m以下であることがより好ましく、0.10m以上0.20m以下であることがさらに好ましい。
マグネット面積を上記範囲とすることにより、フッ素系樹脂フィルムに対して、有効な範囲の改質処理を行うことができる。
【0031】
本発明の方法において、プラズマ処理時の装置内の圧力は、上記プラズマ密度の数値範囲を満たす圧力であれば特に限定されないが、圧力は、0.1Pa以上100.0Pa以下であることが好ましく、1.0以上20Pa以下であることがより好ましく、1.0以上5.0Pa以下であることがさらに好ましい。
圧力を上記範囲とすることにより、安定なプラズマ放電を得ることができる。
【0032】
本発明の方法において、ガス供給量は、上記プラズマ密度の数値範囲を満たす供給量であれば特に限定されないが、ガス供給量は、1sccm以上10000sccm以下であることが好ましく、100sccm以上8000sccm以下であることがより好ましく、200sccm以上3000sccm以下であることがさらに好ましい。
ガス供給量を上記範囲とすることにより、安定なプラズマ放電を得ることができる。
【0033】
本発明の方法において、改質処理に用いられるプラズマガスは希ガスを少なくとも含む。これにより、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルムを得ることができる。希ガスとしては、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン等が挙げられるが、その中でも、発生するプラズマの安定性の観点からアルゴンであることが好ましい。プラズマガスは、希ガスを単独で用いてもよい。
【0034】
本発明の方法の改質処理において、プラズマガスは、希ガスと酸素ガスとの混合ガスであることが好ましい。これにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムの着色を低減させることができる。
酸素ガスと希ガスとの混合比率、即ち、酸素ガス/希ガスは、1以上20以下であることが好ましく、5以上15以下であることがより好ましい。これにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムの着色をより防止させることができる。
【0035】
本発明の方法において、マスク開口部長さは、上記プラズマ密度の数値範囲を満たす長さであれば特に限定されないが、マスク開口部長さは、0.1m以上5.0m以下であることが好ましく、0.12m以上1.0m以下であることがより好ましく、0.15m以上0.5m以下であることがさらに好ましい。
マスク開口部長さを上記範囲とすることにより、フッ素系樹脂フィルムに対して、有効な範囲で改質処理を行うことができる。
【0036】
本発明の方法において、フッ素系樹脂フィルムの搬送速度は、上記プラズマ密度の数値範囲を満たす速度であれば特に限定されないが、搬送速度は、0.1m/min以上50m/min以下であることが好ましく、0.5m/min以上20m/min以下であることがより好ましい。
搬送速度を上記範囲とすることにより、フッ素系樹脂フィルムの改質処理を良好に実施できると共に、表面改質フッ素系樹脂フィルムの生産性を向上することができる。
【0037】
<表面改質フッ素系樹脂フィルム>
上記方法により得ることができる本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルム20(図2参照)は、少なくとも一方の表面が改質処理され、該表面(以下、改質処理表面とも称する)において、X線光電子分光分析装置により測定したF1s軌道由来のピーク面積の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、29.0%以下である。これにより、シーラント層との密着性に優れる表面改質フッ素系樹脂フィルムとすることができる。
また、上記F1s軌道由来のピーク面積の割合は、1.0%以上29.0%以下であることが好ましく、4.0%以上28.0%以下であることがより好ましく、10.0%以上27.0%以下であることがさらに好ましく、15.0%以上27.0%以下であることがさらにより好ましい。F1s軌道由来のピーク面積の割合を該範囲とすることにより、シーラント層との密着性に優れると共に、表面改質フッ素系樹脂フィルムの着色を低減し、フッ素系樹脂フィルムの強度低下を抑制することができる。
【0038】
X線光電子分光分析装置による測定は、X線銃:MgKα、20mA、10kVとして、C1s、N1s、O1s、F1sを表1に記載の条件により行い、解析ソフトにより、測定で得られた各元素のピークにShirley法でバックグラウンドを引き、各元素の1s軌道由来のピークの積分強度(面積)を得る。なお、X線光電子分光分析装置としては、KRATOS社製のESCA-3400を用いることができる。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムは、改質処理表面において、X線光電子分光分析装置により測定した、C1s軌道由来のピーク面積とO1s軌道由来のピーク面積との和の割合が、C1s軌道、N1s軌道、O1s軌道及びF1s軌道由来の合計ピーク面積に対して、71.0%以上であることが好ましい。これにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムのシーラント層との密着性を向上することができる。
また、上記C1s軌道由来のピーク面積と、O1s軌道由来のピーク面積との和の割合は、71.0%以上99.0%以下であることがより好ましく、71.5%以上95.0%以下であることがさらに好ましく、72.0%以上80.0%以下であることがさらにより好ましい。C1s軌道由来のピーク面積と、O1s軌道由来のピーク面積との和の割合を該範囲とすることにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムのシーラント層との密着性を向上することができると共に、表面改質フッ素系樹脂フィルムの着色を低減し、フッ素系樹脂フィルムの強度低下を抑制することができる。
【0041】
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面において、水の接触角は、54.0°以下であることが好ましい。これにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムのシーラント層との密着性をより向上することができる。また、水の接触角は、1.0°以上54.0°以下であることがより好ましく、20.0°以上53.0°以下であることがさらに好ましく、40.0°以上52.0°以下であることがさらにより好ましい。
水の接触角の測定は、接触角試験機を用いて、20℃、50%RHの条件下で測定することができる。接触角試験機としては、協和界面科学(株)製の全自動接触角計Drop Master700を用いることができる。
【0042】
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面において、L*a*b*表色系におけるb*は、5.0以下であることが好ましい。これにより、着色が低減された表面改質フッ素系樹脂フィルムを得ることができる。b*は、-5.0以上5.0以下であることがより好ましく、-3.0以上3.0以下であることがさらに好ましく、-2.0以上2.0以下であることがさらにより好ましい。
また、本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面において、L*a*b*表色系におけるa*は、-4.0以上4.0以下であることが好ましい。これにより、着色を低減された表面改質フッ素系樹脂フィルムを得ることができる。a*は、-2.0以上2.0以下であることがより好ましく、-1.0以上1.0以下であることがさらに好ましい。
L*a*b*表色系の測定は、分光測色計を用いて行うことができる。具体的には、白色校正板の上に測定する表面改質フッ素系樹脂フィルムのサンプルを置き、反射光で、L*a*b*表色系で表わされる色を測定し、着色性を評価することができる。分光測色計としては、コミカミノルタ製の分光測色計CM-600dを用いることができ、測定条件は、SCE(正反射光除去)、10°視野、D65光源とすることができる。
【0043】
本発明において、フッ素系樹脂フィルムは、エチレンと、テトラフルオロエチレンの共重合体樹脂(ETFE)を含む。フッ素系樹脂フィルムがETFEを含むことにより、シーラント層との接着性により優れ、また耐薬品性、耐溶剤性や滑り性を備える表面改質フッ素系樹脂フィルムとすることができる。また、表面改質フッ素系樹脂フィルムは、ETFEにより構成されたものであってもよい。
本発明のフッ素系樹脂フィルムにおいて、ETFEは、変性タイプのエチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体樹脂(変成ETFE)であってもよい。変成ETFEは、エチレンとテトラフルオロエチレンとこれらと共重合可能な含フッ素ビニルモノマーとを三元共重合させてなるものが好ましい。
【0044】
本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルムの厚さは、10μm以上150μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0045】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、上記の方法により得られた表面改質フッ素系樹脂フィルムを準備し、押出ラミネート法により、表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面にシーラント層を積層する。これにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムとシーラント層との密着性に優れた積層体を得ることができる。
【0046】
押出ラミネート法によるシーラント層の積層方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。具体的には、例えば、後述するシーラント層を構成する樹脂を乾燥させた後、この樹脂を融点以上の温度(Tm)~Tm+70℃の温度に加熱された溶融押出機に供給して溶融し、Tダイのダイよりシート状に表面改質フッ素系樹脂フィルムの改質処理表面に積層する。
【0047】
<積層体>
上記方法により得ることができる本発明の積層体30は、図3に示すように、本発明の表面改質フッ素系樹脂フィルム20と、シーラント層31を少なくとも備え、シーラント層31は表面改質フッ素系樹脂フィルム20の改質処理表面側に直接積層されている。これにより、表面改質フッ素系樹脂フィルムとシーラント層との密着性に優れた積層体とすることができる。
【0048】
本発明の積層体において、表面改質フッ素系樹脂フィルムとシーラント層との剥離強度は、15mm幅において、3.0N/15mm以上であることが好ましく、3.0N/15mm以上30N/15mm以下であることがより好ましく、5.0N/15mm以上20N/15mm以下であることがさらに好ましい。
なお、剥離強度の測定方法については、後述する実施例において説明する。
【0049】
以下、本発明の積層体を構成する各要素について説明するが、表面改質フッ素系樹脂フィルムについては上述したため、ここでは記載を省略する。
【0050】
(シーラント層)
シーラント層は、表面改質フッ素系樹脂フィルムと、ゴム基材や他のフィルム等と密着させるために用いられる層であり、ヒートシール性を有する樹脂を用いることが好ましい。
ヒートシール性を有する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE))やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマ-樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマ-、ポリブテンポリマ-、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸を使用して酸変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他等の樹脂を1種又は2種以上使用することができる。これらの中でも、フッ素系樹脂フィルムとの密着性の観点から、ポリオレフィンを使用することが好ましく、ポリエチレンを使用することがより好ましく、LDPE、LLDPE及びこれらのブレンド樹脂を使用することがさらに好ましい。
【0051】
シーラント層は、単層であっても、2層以上の多層であってもよい。シーラント層が多層である場合、それぞれが、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
【0052】
シーラント層の厚さは、10μm以上50μm以下であることが好ましく、15μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0053】
<積層体の用途>
本発明の積層体は、耐薬品性、滑り性、付着防止性に優れていることから、医療用途に用いることができる。また、本発明の積層体はシーラント層を備えることから、包装材料に用いることができ、医療用包装材料に好適に用いることができる。さらに、ゴム成分の溶出の抑制に優れていることから、複合ゴム成形体の表面に用いることができる。
【0054】
<複合ゴム成形体の製造方法>
本発明の複合ゴム成形体の製造方法は、上記の方法により得られた積層体を準備し、積層体のシーラント層と、ゴム基材とが、加熱圧着される。これにより、積層体とゴム基材との密着性に優れた複合ゴム成形体を得ることができる。
【0055】
本発明の積層体のシーラント層と、ゴム基材との加熱圧着方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。また、ゴム基材を加硫成形する場合に、加硫成形方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0056】
一実施形態において、後述するゴム基材としてゴムシートを使用し、本発明の積層体のヒートシール層の面と重ね合わせ、加熱圧着することにより、片面の滑り性及び耐薬品性が向上された複合ゴムシートとし、この複合ゴムシートを任意の形状に打ち抜いて、複合ゴム成形体を製造することができる。
【0057】
また、一実施形態において、未加硫のゴムシートを、所望の形状に加硫成形し、得られた加硫成形体を、本発明の積層体のシーラント層の面と重ね合わせ、加熱圧着することにより、本発明の積層体で表面をラミネートされた複合ゴム成形体を製造することができる。
【0058】
また、一実施形態において、ゴム基材として、未加硫のゴムシートを用いて、本発明の積層体のシーラント層の面と重ね合わせ、任意の成形用金型内に配置し、所望の形状に加硫成形し、同時に加熱圧着することにより、複合ゴム成形体を製造することができる。
【0059】
また、一実施形態において、未加硫のゴムシートを、所望の形状に半加硫成形し、得られた半加硫成形体をゴム基材として、本発明の積層体のシーラント層の面と重ね合わせ、残りの加硫成形を行うと同時に加熱圧着を行うことにより、複合ゴム成形体を製造することができる。
【0060】
なお、本発明において、加硫とは、硫黄による架橋、及び硫黄以外の架橋剤による架橋の両方を意味する。また、半加硫とは、ゴム組成物が完全に加硫する前に、加硫を一旦中止した状態をいう。加硫の程度は、当業者が適宜に設定することができる。
【0061】
<複合ゴム成形体>
上記方法により得ることができる本発明の複合ゴム成形体は、本発明の積層体と、ゴム基材とを備え、表面改質フッ素系樹脂フィルムと、ゴム基材とが、シーラント層を介して接着されている。これにより、積層体とゴム基材との密着性に優れた複合ゴム成形体とすることができる。
【0062】
複合ゴム成形体としては、種々の医療用ゴム製品、例えば、注射器用滑栓、医薬バイアル用ゴム栓が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の複合ゴム成形体の一実施形態としては、例えば、積層フィルムをゴム栓の脚部にラミネートしたラミネートゴム栓が挙げられる。図4には、本発明の複合ゴム成形体の一実施形態の断面概略図を示し、図5には、本発明の複合ゴム成形体の一実施形態の外観斜視図を示す。図4に示すラミネートゴム栓40は、フッ素系樹脂フィルム20と、シーラント層31とを備える積層体30を、ゴム栓41の脚部にラミネートしたものである。このような構成とすることで、例えば液体を収容する容器の栓として用いた場合、ゴムに含まれる成分が液体中に溶出することを防ぎつつ、容器に入れた液体が漏出するのを効果的に防ぐことができる。
【0064】
以下、本発明の複合ゴム成形体を構成する各要素について説明するが、積層体については上述したため、ここでは記載を省略する。
【0065】
(ゴム基材)
ゴム基材としては、適用する用途に応じて任意のものを使用することができる。例えば、任意の合成ゴムや天然ゴムを主原料とし、これに必要に応じて任意の配合剤を混練して得られるゴム組成物を用いて、公知の成形方法によって、シート状、ゴム栓状等の任意の形状に成形されたものが挙げられる。
【0066】
本発明において、ゴム基材の主原料となる合成ゴムとしては、例えば、ブチルゴム、塩
素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、ジビニルベンゼン共重合ブチルゴムなどのブチル系
ゴム、イソプレンゴム、イソプレン-イソブチレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタ
ジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。
【実施例
【0067】
以下に、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
フッ素系樹脂フィルムとして幅300mm、厚さ50μmのETFEフィルム(ダイキン(株)製、ネオフロンEF-0050)を準備した。この樹脂フィルムを、図1に示すようなロールツーロール型プラズマ処理装置内に通し、チャンバーを閉めて0.01Pa以下まで減圧した後、プラズマガスとして、アルゴン(Ar)を118sccm、酸素(O)を1182sccm導入した。排気量を調整して真空チャンバー内の処理圧力を3.5Paに調整したのち、電力を700Wとし、プラズマ処理を行った。フッ素系樹脂フィルムの搬送速度は0.5m/minとした。プラズマ処理終了後、放電とガスの供給を止めて、0.01Pa以下まで減圧した後、ベントして大気圧に戻して、表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。なお、ロールツーロール型プラズマ処理装置のマグネット面積は0.102mであり、マスク開口部長さは0.175mであった。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0069】
[実施例2]
プラズマ処理において、フィルムの搬送速度を0.1m/minとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0070】
[実施例3]
プラズマ処理において、フィルムの搬送速度を1.0m/minとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0071】
[実施例4]
プラズマ処理において、ガス供給量を300sccmとし、プラズマガスをアルゴンのみとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0072】
[実施例5]
プラズマ処理において、フィルムの搬送速度を1.0m/minとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0073】
[実施例6]
プラズマ処理において、フィルムの搬送速度を2.0m/minとしたこと以外は、実施例4と同様の方法で表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0074】
[比較例1]
プラズマ処理において、フィルムの搬送速度を2.0m/minとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0075】
[比較例2]
スパッタターゲットを用いたスパッタ方式によりプラズマ処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の条件でプラズマ処理を行い、表面改質フッ素系樹脂フィルムを得た。ターゲット材としては、チタン(Ti)を用いた。プラズマ処理装置としては、株式会社ヒラノK&T社製、成膜装置MIC350を用いた。処理条件、並びに算出したプラズマ強度及びプラズマ密度を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
<<改質表面の測定>>
実施例及び比較例のフッ素系樹脂フィルムにおいて、X線光電子分光分析装置(KRATOS社製ESCA-3400)を用いて、X線銃:MgKα、20mA、10kVとして、C1s、N1s、O1s、F1sを表3に記載の条件で測定した。解析ソフトにより、測定で得られた各元素のピークにShirley法でバックグラウンドを引き、各元素のピークの積分強度(面積)を得た。なお、比較例3は、改質処理を実施しなかったフッ素系樹脂フィルムである。測定結果を表4に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
<<色の測定>>
実施例及び比較例のフッ素系樹脂フィルムにおいて、コミカミノルタ製の分光測色計CM-600dを用いて、白色校正板の上に測定する表面改質フッ素系樹脂フィルムのサンプルを置き、反射光で、L*a*b*表色系で表される色を測定し、着色性を評価した。測定条件は、SCE(正反射光除去)、10°視野、D65光源とした。なお、比較例3は、改質処理を実施しなかったフッ素系樹脂フィルムである。測定結果を表4に示す。
【0080】
<<接触角の測定>>
実施例及び比較例のフッ素系樹脂フィルムにおいて、改質表面の水の接触角を、接触角試験機を用いて、20℃、50%RHの条件下で測定した。接触角試験機としては、協和界面科学(株)製の全自動接触角計Drop Master700を用いた。なお、比較例3は、改質処理を実施しなかったフッ素系樹脂フィルムである。測定結果を表4に示す。
【0081】
<<剥離強度の測定>>
実施例及び比較例のフッ素系樹脂フィルムの改質表面上に、溶融した低密度ポリエチレン(LC522、日本ポリエチレン(株)製)を押し出して、これを溶融し、シーラント層を形成した。シーラント層の厚さは、30μmとした。
【0082】
続いて、表面改質フッ素系樹脂フィルムとシーラント層との間の剥離強度を測定した。測定器としては、A&D製のテンシロン万能材料試験機RTC-1310を用いた。具体的には、まず、積層フィルム30を切り出して、図6に示すように、表面改質フッ素系樹脂フィルム20とシーラントフィルム31とを長辺方向において15mm剥離させた矩形状の試験片50を準備した。試験片50の幅(短辺の長さ)は15mmとした。その後、図7に示すように、表面改質フッ素系樹脂フィルム20及びシーラントフィルム31の既に剥離されている部分をそれぞれ、測定器のつかみ具51及びつかみ具52で把持した。また、つかみ具51,52をそれぞれ、表面改質フッ素系樹脂フィルム20とシーラントフィルム31とがまだ積層されている部分の面方向に対して直交する方向において互いに逆向きに、50mm/分の速度で引っ張り、安定領域(図8参照)における引張応力の平均値を測定した。引っ張りを開始する際の、つかみ具51,52間の間隔Sは30mmとし、引っ張りを終了する際の、つかみ具51,52間の間隔Sは60mmとした。図8は、つかみ具51,52間の間隔Sに対する引張応力の変化を示す図である。図8に示すように、間隔Sに対する引張応力の変化は、第1領域を経て、第1領域よりも変化率の小さい第2領域(安定領域)に入る。
【0083】
5個の試験片50について、安定領域における引張応力の平均値を測定し、その平均値を表面改質フッ素系樹脂フィルムとシーラント層との間の剥離強度とした。測定時の環境は、温度23℃、相対湿度50%とした。測定結果を表4に示す。なお、比較例3では、フッ素系樹脂フィルムとシーラント層とが密着せず、剥離強度を測定することができなかった。
【0084】
【表4】
【0085】
本発明の方法で得られた表面改質フッ素系樹脂フィルムは、F1s軌道由来のピーク面積の割合が29%以下であり、シーラント層との剥離強度が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0086】
1:プラズマ処理装置
2:チャンバー
3:供給ローラ
4:巻き取りローラ
5:冷却・電極ドラム
6:補助ローラ
7:電源
8:真空ポンプ
9:ノズル
10:ガス供給装置
11:マグネット
12:マスク
13:フッ素系樹脂フィルム
20:表面改質フッ素系樹脂フィルム
30:積層体
31:シーラント層
40:ラミネートゴム栓
41:ゴム栓
50:試験片
51,52:つかみ具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8