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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】波長変換部材、プロジェクタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240808BHJP
   C09K 11/79 20060101ALI20240808BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240808BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20240808BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
G02B5/20
C09K11/79
H01L33/50
H01S5/022
G03B21/14 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020176713
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067867
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 正樹
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/213456(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170609(WO,A1)
【文献】特開2018-106176(JP,A)
【文献】特開2018-180271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
C09K 11/79
H01L 33/50
H01S 5/022
G03B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系の窒化物蛍光体材料からなる複数の蛍光体粒と、
少なくとも前記蛍光体粒の周縁部分に形成され、粒径がサブミクロンオーダーである、第一MgO粒と、
隣接する前記蛍光体粒の周縁部分に位置するそれぞれの前記第一MgO粒同士を連絡するように形成され、粒径が前記第一MgO粒の2倍以上である第二MgO粒とを含み、
前記第二MgO粒は、隣接する前記第二MgO粒との間で粒界を介して結合していることを特徴とする、波長変換部材。
【請求項2】
前記第一MgO粒は粒径が0.3μm以下であり、
前記第二MgO粒は粒径が1.4μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記第二MgO粒は多結晶体を構成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記蛍光体粒が、La及びSiを含む窒化物材料からなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記蛍光体粒は、2種類以上の異なる組成を示す窒化物材料からなることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
相対密度が97%以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記蛍光体粒の粒径が4μm以上、30μm以下であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記波長変換部材の全体質量に対する前記蛍光体粒の質量割合が30質量%以下であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項9】
励起光を発する励起光源と、
前記励起光が入射される、請求項1~8のいずれか1項に記載の波長変換部材と、
前記波長変換部材から出射される蛍光及び前記励起光が入射される光学系とを備えたことを特徴とする、プロジェクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体を含む波長変換部材に関する。また、本発明は、かかる波長変換部材を搭載したプロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光体を含有してなる波長変換部材を有する蛍光発光素子と、半導体レーザ素子からなる励起光源とを備え、励起光源から出射される光(レーザ光)を蛍光体に照射して蛍光を発生させる蛍光光源装置が知られている。このような蛍光光源装置で生成された蛍光は、例えばプロジェクタ用の光源として利用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体とアルミナ(Al23)からなるバインダとで構成された波長変換部材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ガーネット構造を有する酸化物蛍光体(Y3Al512: Ce3+、Lu3Al512: Ce3+等)からなる蛍光体粒子と、酸化マグネシウム粒子との混合粒子を焼結することで、蛍光体粒子が酸化マグネシウム粒子に結着されてなる波長変換部材が開示されている。このような波長変換部材は、蛍光体粒子と酸化マグネシウム粒子を所定の割合で混合した原料粉末を予備成形した後、焼成することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5900563号公報
【文献】特開2018-180271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、プロジェクタ等では、蛍光体とシリコーン樹脂を混合した蛍光ホイールが利用される場合があった。この蛍光ホイールは、励起光が照射されて蛍光を発する際に生じる熱を排出する観点から、モータ等の駆動系を介して回転制御が行われるのが一般的である。しかし、駆動のための機構が必要となるため、装置構成が複雑化する。かかる観点から、本出願人は、固定式の蛍光発光素子の開発を進めている。
【0007】
蛍光の強度を高めるためには、入射される励起光の強度を高める必要があるが、強度の高い励起光が波長変換部材に対して入射され続けると、波長変換部材の温度が上昇してしまう。蛍光体は、例えば150℃といった高温になると、温度消光と呼ばれる現象が生じ、発光効率が低下することが知られている。従って、高い発光効率を実現するためには、波長変換部材の温度が上昇しないように排熱性を高める必要がある。この事情は、高輝度の蛍光発光素子を実現するためには、より顕著になる。
【0008】
本発明者の鋭意研究によれば、上述した特許文献2の構造の波長変換部材を含む蛍光発光素子の場合には、高い蛍光発光効率が得られないことを突き止めた。本発明者は、この理由が以下の2点にあると考えている。
【0009】
第一の理由は、特許文献2に記載された構造の波長変換部材の場合、冷却性能が充分に得られず、上述した温度消光に起因した発光効率の低下が生じたためである。第二の理由は、酸化マグネシウムの粒子によって入射された励起光が散乱することにより、蛍光体粒子に対して高い光量で励起光が入射されなかったためである。
【0010】
なお、特許文献2によれば、一次焼成後、焼成温度を一次焼成温度の±150℃としてHIP(熱間静水圧プレス)処理を施すことで、光の散乱が抑制できると記載されている。しかし、この方法を行うには、焼成処理後に、チャンバから焼成後のプレートを取り出した後、別の装置(HIP装置)内にプレートを搬入する必要がある等、製造工程が煩雑化する。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑み、従来よりも発光効率の高い蛍光発光素子を実現可能な、波長変換部材を提供することを目的とする。また、本発明は、このような波長変換部材が搭載されたプロジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る波長変換部材は、
無機系の窒化物蛍光体材料からなる複数の蛍光体粒と、
少なくとも前記蛍光体粒の周縁部分に形成され、粒径がサブミクロンオーダーである、第一MgO粒と、
隣接する前記蛍光体粒子の周縁部分に位置するそれぞれの前記第一MgO粒同士を連絡するように形成され、粒径が前記第一MgO粒の2倍以上である第二MgO粒とを含むことを特徴とする。
【0013】
本明細書において、単に「粒」と記載されている場合には、他の「粒子」と分離して存在している「粒子」と、粒子同士が結合することで「粒子」としては分離されていないものの、「粒界」によって境界の識別が可能な「狭義の粒」とを含む概念である。
【0014】
上記構造の波長変換部材によれば、隣接する蛍光体粒同士の間の位置には、粒径が相対的に大きい酸化マグネシウム粒(第二MgO粒)が形成されている。これにより、入射された励起光の散乱が抑制され、励起光を高い割合で蛍光体粒に導くことができ、外部量子効率が高められる。更に、蛍光体粒同士の間の領域は多く存在するため、この領域に粒径が相対的に大きな第二MgO粒が存在することで、高い熱伝導率が確保され、排熱性に優れる。第二MgO粒は、より好ましくは粒径が1.4μm以上である。
【0015】
また、蛍光体粒の周縁部分すなわち近傍には、粒径が極めて小さいサブミクロンオーダーの酸化マグネシウム粒(第一MgO粒)が存在する。これにより、製造時において蛍光体粒子と酸化マグネシウム粒子との反応が抑制され、蛍光体粒子の組成変化が防止できる。第一MgO粒は、より好ましくは粒径が0.3μm以下である。
【0016】
励起光が、当該励起光の波長と同程度の大きさの粒子に入射されると、ミー散乱を生じる。このため、波長変換部材に入射された励起光の散乱を抑制するためには、波長変換部材内に含まれる粒を、励起光の波長に対して充分小さくするか、逆に充分大きくするのが好適である。よって、相対的に粒径の小さい第一MgO粒の粒径を励起光の波長よりも充分小さい値とし、逆に、相対的に粒径の大きい第二MgO粒の粒径を励起光の波長よりも充分大きい値とすることで、排熱性を高めつつ、励起光の散乱が抑制でき、蛍光変換効率が高められる。
【0017】
つまり、本発明に係る波長変換部材によれば、高い排熱性を確保しつつ、蛍光の散乱が抑制できる。また、上記構造の蛍光発光素子は、1回の焼結処理で製造することができるため、簡易な製造工程で実現できる。詳細は、「発明の詳細な説明」の項で後述される。
【0018】
前記第二MgO粒は多結晶体を構成するものとしても構わない。
【0019】
粒子の焼結は、粉末成形体を加熱して焼き固める現象を指す。製品になる粉末成形体が高温にさらされると、粉末粒子同士が結合される。この結合部分は、一般的に「ネック」と称される。焼結が進むに連れ、粉末粒子の表面や接合部から物質が移動して、ネック表面に原子等が拡散しネックが成長する。この状態は、粒子間が結着しており、焼結初期の段階に対応する。この時点では、ネックが存在することから気孔の割合が高くなる。特許文献2に記載された構造の場合、粒子間が結着しているため、気孔が多く存在していたものと推定される。気孔は、MgOよりも熱伝導率が低いため、気孔が多く存在すると排熱性が低下する。
【0020】
これに対し、粒径の大きい前記第二MgO粒を多結晶体とすることで、極めて緻密な構造となり、気孔をほとんど有しないバルク状態にできる。これにより、特許文献2に記載された構造と比較して高い排熱性が実現される。このような構造は、閉気孔が生じる程度に焼結処理を進行させることで実現できる。
【0021】
前記蛍光体粒は、La及びSiを含む窒化物材料からなるものとしても構わない。一例として、前記蛍光体粒は、La3Si611、(La,Y)3Si611等を用いることができる。
【0022】
前記蛍光体粒は、2種類以上の異なる組成を示す窒化物蛍光体材料からなるものとしても構わない。
【0023】
蛍光体の材料としては、特許文献1に記載されているような、ガーネット構造をもつYAG蛍光体が広く利用されている。これに対し、窒化物材料からなる蛍光体は、ガーネット構造をもつYAG蛍光体と比較して、長波長化をしたときの温度消光の影響が小さいという性質を示す。このため、窒化物材料からなる蛍光体は、YAG蛍光体と比較して赤色光の強度増加が可能となる。
【0024】
上記構造のように、波長変換部材が2種類以上の窒化物材料からなる蛍光体粒を含むことで、励起光の散乱が少なく、高輝度で効率のよい赤補色の蛍光発光素子が実現される。
【0025】
前記波長変換部材は、相対密度が97%以上としても構わない。本明細書において、「相対密度」とは、理論密度に対する焼結体の見かけ密度の比率を指す。相対密度を97%以上と高くすることで、内部に存在する気孔の量が少なくなり、高い排熱性が実現される。
【0026】
前記波長変換部材において、前記蛍光体粒の粒径は4μm以上、30μm以下とするのが好適である。
【0027】
蛍光体粒の粒径が4μm未満と極めて小さい場合には、蛍光体粒子が活性となりMgOとの化学的反応が生じるため、蛍光効率が低下してしまう。一方、蛍光体粒子の粒径が30μmより大きくなると、波長変換部材を薄くした場合、機械的強度が低下するため破損しやすくなる。
【0028】
前記波長変換部材において、全体質量に対する前記蛍光体粒の質量割合が30%以下であるのが好適である。
【0029】
蛍光体粒の質量割合が30質量%を超える程度に波長変換部材内に存在すると、蛍光体同士が接触しプレス圧力がバインダーに加わらなくなるのでバインダーの焼結が進まなくなる場合がある。なお、蛍光体粒子の質量割合があまりに低いと高い蛍光輝度が得られなくなるため、10質量%以上とするのが好ましい。
【0030】
また、本発明に係るプロジェクタは、
励起光を発する励起光源と、
前記励起光が入射される前記波長変換部材と、
前記波長変換部材から出射される蛍光及び前記励起光が入射される光学系とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の波長変換部材によれば、従来よりも発光効率の高い蛍光発光素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の波長変換部材を含む蛍光発光素子を搭載した、蛍光光源装置の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。
図2】蛍光発光素子の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図3】波長変換部材の模式的な断面図である。
図4】波長変換部材のSEM写真像である。
図5図4の一部拡大写真である。
図6図5とは別の箇所における、図4の一部拡大写真である。
図7図5及び図6とは別の箇所における、図4の一部拡大写真である。
図8】隣接する蛍光体粒の間に位置するMgO粒の粒径と、励起光の散乱割合r1及び外部量子効率e1との関係を示すグラフである。
図9】2種類の組成の蛍光体粒を含む波長変換部材に対して、励起光を照射したときの発光スペクトルの一例である。
図10】プロジェクタの構成例を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の波長変換部材の構成につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図において、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しない。
【0034】
[構造]
図1は、波長変換部材を含む蛍光発光素子を搭載した、蛍光光源装置の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。図1に示す蛍光光源装置1は、励起光源2と、ダイクロイックミラー3と、蛍光発光素子10とを備える。
【0035】
励起光源2は、例えば主ピーク波長が400nm以上500nm以下の青色領域の光を出射する半導体レーザ素子を含んで構成される。励起光源2は、必要に応じてコリメートレンズなどの光学系を備える。
【0036】
蛍光発光素子10は、後述する波長変換部材30を含んで構成される(図3参照)。励起光源2から出射された励起光21が蛍光発光素子10に照射されると、波長変換部材30内の蛍光体粒35が励起され、蛍光発光素子10から蛍光22が放射される。蛍光22は、励起光21よりも長波長の光であり、例えば、主ピーク波長が500nm以上、700nm以下であり、励起光よりも帯域幅がブロードである。本明細書において、「主ピーク波長」とは、スペクトル上において最も高い光強度を示す波長を指す。
【0037】
図1に示される蛍光光源装置1において、ダイクロイックミラー3は、励起光源2から出射される励起光21を透過し、蛍光発光素子10から出射される蛍光22を反射するように構成されている。ダイクロイックミラー3は、ミラー面が例えば励起光21の入射角度に対して45°の角度で傾斜するように配置されている。かかる構成とすることで、蛍光22が蛍光光源装置1の外部に取り出され、例えば、図示しない後段の光学系に入射される。
【0038】
後述されるように、蛍光発光素子10は、排熱性に優れた波長変換部材30を備えるため、冷却のために別途の回転ホイールなどに設置する必要がなく、装置の所定の箇所に固定的に設置できる。
【0039】
図2は、蛍光発光素子10の構成の一例を模式的に示す断面図である。蛍光発光素子10は、基板11と、接合層12と、反射層13と、波長変換部材30とを有する。
【0040】
(基板11)
基板11は、波長変換部材30で発せられた熱を排熱するために設けられている。基板11は、例えば熱伝導率が90[W/m・K]以上、具体的には例えば230~400[W/m・K]である材料で構成される。このような材料の例としては、Cu、銅化合物(MoCu、CuWなど)、Al、AlNなどが挙げられる。
【0041】
基板11の厚みは、例えば0.5mm~5mmである。また、排熱性などの観点から、基板11の表面における面積は、波長変換部材30の面積よりも大きいことが好ましい。
【0042】
(接合層12)
接合層12は、基板11と波長変換部材30とを接合する層であり、例えばハンダ材料からなる。排熱性などの観点から、接合層12を構成する材料としては、例えば熱伝導率が40[W/m・K]以上であるものが用いられることが好ましい。より詳細には、例えば、Sn、Pbなどの材料にフラックスやその他の不純物を混ぜてクリーム状(ペースト状)の形態としたクリームハンダ、Sn-Ag-Cu系ハンダ、Au-Sn系ハンダなどを用いることができる。接合層12の厚みは、例えば20μm~200μmである。
【0043】
なお、図示していないが、基板11と接合層12との接合性を更に高める観点から、基板11と接合層12との間に、例えばメッキ法によって形成された、Ni/Au膜よりなる金属膜が形成されているものとしても構わない。この金属膜の厚みは、例えばNi/Au=1000nm~5000nm/30nm~1000nmとすることができる。
【0044】
(反射層13)
反射層13は、波長変換部材30の面のうちの、基板11側の面に形成されている。この反射層13は、波長変換部材30で生成された蛍光22のうち、光取り出し面10aとは反対側(基板11側)に進行した蛍光22を反射させて、光取り出し面10aに導くために設けられている。反射層13は、例えば、Al、Ag等の金属膜や、前記金属膜上に誘電体多層膜を形成した増反射膜などで構成されることができる。
【0045】
なお、図示していないが、波長変換部材30と接合層12との接合性を更に高める観点から、波長変換部材30の面のうちの、基板11側の面、より具体的には、反射層13と波長変換部材30との間に、例えば蒸着によって形成されたNi/Pt/Au膜、Ni/Au膜よりなる金属膜が形成されているものとしても構わない。この金属膜の厚みは、例えばNi/Pt/Au=30nm/500nm/500nmとすることができる。
【0046】
(波長変換部材30)
波長変換部材30は、反射層13の上層に形成されている。波長変換部材30は、励起光源2から出射される励起光21が入射されると、蛍光22を出射する。波長変換部材30は、一例として平板状の構造を示し、より詳細には、基板11の面に直交する方向から見たときに矩形状を示す。波長変換部材30の厚みは、例えば0.05mm~1mmである。
【0047】
図2に示すように、波長変換部材30は、基板11とは反対側に位置する面、すなわち光取り出し面10a側において、微細な凹凸加工が施されたモスアイ構造30aを有しているものとしても構わない。ただし、本発明の波長変換部材30は、表面にモスアイ構造30aを有するか否かは任意である。
【0048】
図3は、波長変換部材30の模式的な断面図である。図4図7は、いずれも波長変換部材30のSEM写真である。図3は、SEM写真の像を模式的に図示したものである。
【0049】
波長変換部材30は、蛍光体粒35と、酸化マグネシウム粒(31,32)とを含んで構成される。なお、図3には図示されていないが、蛍光光源装置1として利用される間に、経時的に波長変換部材30が大気中の水分を吸収して蛍光変換効率を低下させるのを抑制する目的で、波長変換部材30の表面近傍をジルコニア(ZrO2)で形成しても構わない。つまり、図2を参照して上述したように、波長変換部材30の表面近傍にモスアイ構造30aが形成されている場合には、このモスアイ構造30aがジルコニアで形成される。
【0050】
蛍光体粒35は、無機系の窒化物蛍光体材料からなる。一例として、蛍光体粒35は、組成式La3Si611、(La,Y)3Si611で表され、適宜、希土類化合物(Ce等)が賦活されたLSN蛍光体からなる。蛍光体粒35は、波長変換部材30内において主として分散的に配置される。すなわち、蛍光体粒35は、粒子の性質を残した状態で波長変換部材30内に存在するものとしても構わない。蛍光体粒35の粒径は、好ましくは4μm~30μm程度であり、より好ましくは5μm~20μmである。ただし、本発明において、蛍光体粒35の粒径は限定されない。
【0051】
なお、製造条件によっては、一部の蛍光体粒35同士が接触する場合もある。しかしながら、波長変換部材30内に存在する蛍光体粒35のうち、他の蛍光体粒35と接触した状態で存在するものは、全体の10%未満である。本発明は、このように一部の蛍光体粒35同士が隣接して接触する構成を排除するものではない。
【0052】
波長変換部材30は、粒径が大きく異なる酸化マグネシウム粒(31,32)を備える。これらのうち、粒径が相対的に小さい、サブミクロンオーダーの酸化マグネシウム粒31(以下、「第一MgO粒31」と称する。)は、主として蛍光体粒35の周縁部分に形成されている。また、粒径が相対的に大きい、ミクロンオーダーの酸化マグネシウム粒32(以下、「第二MgO粒32」と称する。)は、分散して存在する蛍光体粒35同士の周縁に形成される第一MgO粒31同士を連絡するように形成される。言い換えれば、分散して配置された蛍光体粒35同士は、蛍光体粒35の近傍付近に形成された第一MgO粒31と、その外側の領域に形成された第二MgO粒32とによって連絡される。第二MgO粒32は、第一MgO粒31の粒径の2倍以上の粒径を示しており、両者はSEM写真に基づいて明らかに識別が可能である。この点は、図4図7のSEM写真を参照して後述される。
【0053】
第一MgO粒31は、好ましくは粒径が0.3μm以下である。なお、後述するように、波長変換部材30は、粒子粉末を混合した後、昇温して焼結することにより製造される。この昇温の際に、粒子が粒成長をする。つまり、第一MgO粒31の粒径の下限値は、製造時に混在される酸化マグネシウムの微粒子の粒径や粒成長の程度にも依存するが、概ね0.05μm以上である。第一MgO粒31は、MgO粒子としての性質を残した状態で波長変換部材30内に存在するものとしても構わない。
【0054】
第二MgO粒32は、好ましくは粒径が1.4μm以上である。なお、第二MgO粒32の粒径の上限値は特に制限がないが、概ね20μm以下である。第二MgO粒32は、隣接する第二MgO粒32との間で粒界を介して結合されており、実質的に多結晶体を構成する。すなわち、第二MgO粒32は、実質的に粒子としての性質を示さない。ただし、製造条件によっては、一部の第二MgO粒32が粒子としての性質を示す状態で存在していても構わない。ただし、その割合は5%未満である。
【0055】
また、製造条件によっては、隣接する蛍光体粒35同士の間の位置に第一MgO粒31が残留することがある。しかしながら、波長変換部材30内に存在する第一MgO粒31のうち、蛍光体粒35の周縁部分ではなく、隣接する蛍光体粒35同士の間の位置に存在するものは、全体の10%未満である。本発明は、このように一部の第一MgO粒31が、蛍光体粒35の周縁部分でなく、隣接する蛍光体粒35同士の間に存在する構成を排除するものではない。
【0056】
図3では、第一MgO粒31が、蛍光体粒35の周縁を完全に覆うように形成されている構造が図示されている。しかし、第一MgO粒31は、少なくとも蛍光体粒35の周縁の一部分に形成されていればよい。言い換えれば、本発明は、蛍光体粒35の一部分が、第二MgO粒32の一部分と接触する構成を排除するものではない。ただし、波長変換部材30内に存在する第二MgO粒32のうち、隣接する蛍光体粒35同士の間の位置ではなく蛍光体粒35の周縁部分に位置するものは、全体の10%未満である。
【0057】
図4のSEM写真像には、蛍光体粒35のうちの2つの蛍光体粒(35a,35b)と、第二MgO粒32のうちの1つの第二MgO粒32aとに対して、符号が付されている。図5図7は、いずれも図4のSEM写真を拡大したものである。図5は、蛍光体粒35aの近傍領域の拡大写真である。図6は、蛍光体粒35bの近傍領域の拡大写真である。図7は、第二MgO粒32aの近傍領域の拡大写真である。
【0058】
図5によれば、蛍光体粒35aの周縁には、極めて粒径の小さい第一MgO粒31が位置していることが確認される。同様に、図6によれば、蛍光体粒35bの周縁には、極めて粒径の小さい第一MgO粒31が位置していることが確認される。
【0059】
また、図7は、2つの蛍光体粒(35a,35b)の間の位置に形成された、第二MgO粒32aの近傍の拡大写真であるが、この写真によれば、第二MgO粒32aの周囲は、第二MgO粒32aとほぼ同サイズのマグネシウム粒子(第二MgO粒32)が存在していることが確認される。なお、図7に示される第二MgO粒32は、粒界によって各粒が識別できるものの、全体として多結晶化されている。
【0060】
[製造方法]
波長変換部材30は、例えば以下の方法で製造できる。
【0061】
まず、蛍光体粒35を構成する無機系窒化物材料からなる粒子(一例としてLa3Si611で規定されるLSN蛍光体の粒子)と、MgO粒子とを混合して混合粉を得る。混合粉に対する蛍光体粒子の質量割合は、例えば、10質量%以上、40質量%以下である。なお、混合時にB23等からなる助剤を微量(3質量%以下)に含むものとしても構わない。
【0062】
混合粉を得る方法としては、ボールミル、Vブレンダーなどの乾式混合法を用いる方法や、酸化マグネシウム粒子と蛍光体の粒子に所定の溶媒を加えてスラリー状態にした後、ボールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、二軸混練機などを用いた湿式混合法を用いて混合させた後、得られたスラリーを所定の温度で溶媒を揮発させる方法を採用することができる。
【0063】
得られた混合粉を加圧下で板形状に成形する。成形方法としては、一軸金型成形や、冷間静水圧成形などの手法を用いることができる。
【0064】
次に、成形体を焼結する。具体的には、所定の炉や加熱装置内に成形体を設置して、焼結に必要な温度まで加熱する。焼結処理時には、いったん真空にして成形体に含まれる水分を脱離させるのが好ましい。その後、昇温時には、所定の気圧で窒素ガス雰囲気とする。窒素ガス雰囲気とすることで、焼結処理時に蛍光体粒子を構成する窒素原子の脱離が抑制され、緻密な焼結体が実現される。ただし、製造時の雰囲気は窒素ガスには限られず、Ar雰囲気としても構わない。
【0065】
なお、上述したように、波長変換部材30の表面近傍をジルコニア(ZrO2)で形成する場合には、この焼結工程の後、研磨処理を経てスパッタリングによってZrO2が蒸着される。
【0066】
その後、得られた焼結体の一方の面(ZrO2が蒸着されている場合にはZrO2の蒸着面)に対してエッチング処理を施すことで、微細なモスアイ構造30aを有する波長変換部材30が生成される。得られた波長変換部材30は、光取り出し面10aとは反対側の面に反射層13が形成され、接合層12を介して基板11に固定される。
【0067】
[検証]
下記表1は、製造条件を異ならせて波長変換部材30のサンプルを6種類製造した。具体的には、焼結時の窒素ガス圧をそれぞれ異ならせて、6種類のサンプル(P1~P6)を製造した。各サンプル(P1~P6)の寸法は、いずれも、縦×横×厚みが3mm×3mm×0.13mmで共通とされた。焼結対象となる材料としては、いずれもLSN蛍光体粒子を19.8質量%、MgO粒子を79.4質量%、助剤としてのB23粒子を0.8質量%含む混合物が採用された。
【0068】
得られた各サンプル(P1~P6)に含まれる、MgO粒の粒径及び相対密度を測定した。また、それぞれに対して主ピーク波長が450nmの励起光21を照射したときの、内部量子効率、励起光21の散乱割合r1、及び外部量子効率e1をそれぞれ測定した。結果を、下記表1及び図8に示す。図8は、隣接する蛍光体粒35の間に位置するMgO粒の粒径と、励起光21の散乱割合r1及び外部量子効率e1との関係を示すグラフである。
【0069】
なお、図8及び表1に示すように、6種類のサンプルの中には、隣接する蛍光体粒35の間に位置するMgO粒の粒径が1μm未満のサンプル(P1~P3)と、隣接する蛍光体粒の間に位置するMgO粒子の粒径が1μm以上、より詳細には1.4μm以上であるサンプル(P4~P6)が存在する。
【0070】
【表1】
【0071】
なお、表1における各値の測定方法は、以下の通りである。
【0072】
(1)MgO粒の粒径は、それぞれのサンプル(P1~P6)のSEM画像に基づき、30箇所のMgO粒の形状に基づいて算定した粒径の平均値が採用された。より具体的には、SEM画像上に映るMgO粒の中から、比較的円形に近い粒を選択し、最短と最長の平均を求めることにより一のMgO粒の粒径が算定された。他のMgO粒に対しても同様の方法で算定が行われ、この算定値の平均値が粒径とされた。
【0073】
(2)各サンプル(P1~P6)の相対密度は、各サンプルの体積と、製造時に利用された材料の混合比を考慮した質量とに基づいて算定された。
【0074】
(3)各サンプル(P1~P6)の内部量子効率は、JIS R 1697(白色発光ダイオード用蛍光体の積分球を用いた内部量子効率絶対測定方法)に準拠した方法で測定された。
【0075】
詳細には、まず積分球内に拡散板を配置し、励起光源2から励起光21を照射して、受光した励起光21のパワーW1を測定した。次に、拡散板に替えて各サンプル(P1~P6)を設置し、励起光源2から同じ出力で励起光21を照射し、受光した励起光21のパワーW2及び蛍光22のパワーW3を測定した。そして、W3/(W1-W2)によって得られた値が内部量子効率とされた。
【0076】
(4)各サンプル(P1~P6)における励起光21の散乱割合r1は、r1=W2/W1によって得られた値とされた。
【0077】
(5)各サンプル(P1~P6)の外部量子効率e1は、e1=W3/W1によって得られた値とされた。
【0078】
評価の方法は、以下の通りである。励起光21の散乱割合r1が18%以下であり、且つ、外部量子効率e1が50%以上である場合を「A」とした。評価「A」に該当しなかったもののうち、外部量子効率e1が45%以上であり、焼結体として破損が見られなかったものを「B」とし、破損が発生したものを「C」とした。評価「A」又は「B」の波長変換部材30によれば、入射された励起光21を高い割合で蛍光体粒35に入射できると共に、蛍光体粒35で生成された蛍光22を高出力で外部に取り出すことができる。
【0079】
表1によれば、サンプルP1は、他のサンプルP2~P6と比較して、内部量子効率が大幅に低下している。これは、1気圧の雰囲気で焼結されたことで、窒化物蛍光体の粒子から窒素が脱離し、近接位置に存在していた酸化マグネシウム粒子と反応をした結果、一部の蛍光体の組成が変化したものと考えられる。具体的には、窒化物蛍光体として用いられたLa3Si611が、La2Si683やLaSi35等に変化したことで、励起光21を蛍光22に変換する機能が低下したものと考えられる。
【0080】
また、サンプルP1は、他のサンプルP2~P6と比較して、隣接する蛍光体粒35の間に位置するMgO粒の粒径が、蛍光体粒35の近傍に位置するMgO粒の粒径と同程度に小さくなっていた。すなわち、サンプルP1では、隣接する蛍光体粒35の間に位置するMgO粒は、「粒子」の性質を残しており、もろく、破損しやすい焼結体となっていた。
【0081】
すなわち、サンプルP1の場合には、隣接する蛍光体粒35の間に位置するMgO粒の粒径が小さいため、充分な排熱性も得られないことが分かった。
【0082】
サンプルP2~P3は、サンプルP1と比べて、隣接する蛍光体粒35の間に位置するMgO粒の粒径が、蛍光体粒35の近傍に位置するMgO粒の粒径よりも大きく、内部量子効率も高い。これは、焼結時の周辺ガス圧等の焼結条件によって、サンプルP1よりも焼結が進行し、粒成長が進展したためと考えられる。このことは、サンプルP4~P6についても同様である。
【0083】
ただし、サンプルP2~P3は、サンプルP4~P6と比較すると、励起光21の散乱割合r1は高いが、外部量子効率e1の点では47%以上を実現している。サンプルP4~P6の場合、いずれも励起光21の散乱割合r1が低下できており、外部量子効率e1が更に高く50%を超えていることが確認される。
【0084】
特に、サンプルP4~P6の場合、隣接する蛍光体粒35同士の間に位置するMgO粒の粒径が1.4μm以上であり、上述した第二MgO粒32が形成されている状態である。この第二MgO粒32は粒径が1.4μm以上と極めて大きく、励起光21の主ピーク波長450nmの値と比較して充分大きな値であるため、入射した励起光21が第二MgO粒32に照射されてミー散乱が生じるのを抑制する効果が得られる。
【0085】
サンプルP4~P6の場合、隣接する蛍光体粒35同士の間に位置するMgO粒(第二MgO粒32)の粒径が大きいことで、蛍光体粒35で発生した熱を効率的に排熱する効果も得ることができる。
【0086】
また、サンプルP2~P6によれば、隣接する蛍光体粒35同士の間に位置するMgO粒(第二MgO粒32)と比較して、蛍光体粒35の近傍に位置するMgO粒の粒径を小さくできている(第一MgO粒31)。このことは、焼結時の気圧を高めて、隣接する蛍光体粒35同士の間に位置するMgO粒については、バルク化する程度に焼結を進行しつつも、蛍光体粒35の近傍に位置するMgO粒(第一MgO粒31)については、蛍光体粒35との間での反応を抑制できていることを意味するものである。すなわち、焼結時に窒化物蛍光体粒子と酸化マグネシウム粒子との間での反応が抑制され、蛍光体材料の組成変化が抑制されている。
【0087】
この理由としては、焼結時にガス圧を上げることで、窒化物蛍光体粒子に含まれる窒素原子の脱離が抑制された結果、窒化物蛍光体粒子の近傍に位置していた酸化マグネシウム粒子は、蛍光体粒子の存在によって粒成長があまり進行せず、粒径が小さくなったものと考えられる。一方、蛍光体粒子と蛍光体粒子の間に位置していた酸化マグネシウム粒子は、処理時に酸化マグネシウム粒子同士の結合が進み、粒成長が進行して粒径が大きく成長したものと考えられる。
【0088】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0089】
〈1〉 波長変換部材30は、異なる2種類以上の組成を示す蛍光体粒35を含むものとしても構わない。窒化物蛍光体は、ガーネット構造をもつYAG蛍光体と比較して、長波長化をしたときの温度消光の影響が小さいという性質を示す。このため、窒化物蛍光体は、YAG蛍光体と比較して赤色光の強度を高めることができる。
【0090】
図9は、2種類の組成の蛍光体粒35を含む波長変換部材30に対して、励起光21を照射したときの発光スペクトルの一例である。一の組成の蛍光体粒35からは蛍光22aが発せられ、別の組成の蛍光体粒35からは蛍光22bが発せられる。これにより、蛍光22を長波長化することができる。なお、図9では、比較のため、YAG蛍光体に対して励起光が照射された場合の蛍光22yのスペクトルが重ねて表示されている。
【0091】
2種類の組成の蛍光体粒35としては、例えば、La3Si611と、(La,Y)3Si611とを利用することができる。(La,Y)3Si611は、La3Si611に比べて長波長の蛍光を生成できる。
【0092】
後述するように、特に蛍光発光素子10をプロジェクタに利用する場合には、波長変換部材30で得られた蛍光22を用いて白色光が生成される。プロジェクタとして要求される白色光としては、例えばIEC 61966-2-1の規格で規定されたsRGB色空間内において、色度座標上の白色点D65(x=0.3127, y=0.3290)を満たすことが推奨されている。
【0093】
波長変換部材30が、単一のLa3Si611からなる蛍光体粒35を含む場合、波長変換部材30で得られた蛍光22と青色光(例えば励起光21と同じ青色レーザ光)とを重ね合わせて上記規格を満たす白色光を生成しようとすると、G(緑色光)領域及びR(赤色光)領域の液晶フィルタの開閉率を、例えば70%~85%程度に設定する必要が生じる。この場合、一部の光が液晶フィルタで遮られてしまい、光ロスが生じる。
【0094】
これに対し、波長変換部材30が、La3Si611と、これよりも長波長側の蛍光の生成が可能な(La,Y)3Si611の2種類の蛍光体を含む場合、これらの混合率を調整することで、生成される白色光の色度値を規格値に近づけることができる。この結果、プロジェクタにおいて、R,G,Bそれぞれの液晶フィルタの開閉率を100%に近づけることが可能となり、光ロスを低減できる。
【0095】
かかる観点から、波長変換部材30に含まれる蛍光体粒35のうち、(La,Y)3Si611の混合割合を、30質量%以上、60質量%以下とするのが好ましく、35質量%以上、55質量%以下とするのがより好ましく、40質量%以上、50質量%以下とするのが特に好ましい。
【0096】
なお、蛍光体粒35に含まれる(La,Y)3Si611の割合を高めるほど、蛍光22のピーク波長は長波長側にシフトする。蛍光体粒35に、上述した割合で(La,Y)3Si611を混合させた場合、蛍光22のピーク波長は、好ましくは540nm以上、555nm以下であり、より好ましくは542nm以上、553nm以下であり、特に好ましくは、545nm以上、552nm以下である。この場合、蛍光22の半値幅は105nm以上、115nm以下程度である。上記のような混合割合で(La,Y)3Si611を混合させたときの光利用効率(励起光21の光強度に対する蛍光22の光強度の比率)は、34%を超える値を示す。
【0097】
〈2〉 本発明の波長変換部材30を含む蛍光発光素子10は、例えばプロジェクタに利用できる。図10は、プロジェクタの構成の一例を模式的に示す図面である。プロジェクタ50は、励起光源2と、蛍光発光素子10と、ダイクロイックミラー3と、色分解合成光学系53と、投影光学系55とを備える。なお、図10に示す例では、ダイクロイックミラー3と蛍光発光素子10との間に、位相差板51が設けられている。位相差板51は、例えば1/4波長板である。
【0098】
励起光源2から出射された励起光21は、ダイクロイックミラー3で反射された後、蛍光発光素子10に向かう。蛍光発光素子10は、入射された励起光21の一部を励起光21よりも長波長の蛍光22に変換して出射する。また、励起光21の一部は蛍光発光素子10で反射される。ここで、励起光21は、ダイクロイックミラー3と蛍光発光素子10の間で位相差板51を2回通過することで、偏光状態が変換される。例えば、励起光源2から出射された時点の励起光21をP偏光とし、ダイクロイックミラー3を、P偏光の励起光21を反射し、S偏光の励起光21及び蛍光22を透過するように設計しておくことで、蛍光発光素子10から出射された励起光21及び蛍光22は、白色光20としてダイクロイックミラー3を通過して後段の色分解合成光学系53に導かれる。
【0099】
色分解合成光学系53は、図示しないが、光分解光学系と、液晶パネルと、光合成光学系とを含む。光分解光学系が、入射された白色光20を、R・G・Bの3色の光に分離して、それぞれの色ごとに設けられた液晶パネルに導かれ、液晶パネルにおいて、画像変調される。画像変調されたR・G・Bそれぞれの光は、光合成光学系で合成されて、画像表示光25として投影光学系55によってスクリーン(不図示)に投影される。
【0100】
なお、図10では、励起光21の一部と蛍光22とを合成して白色光20としたが、励起光21と同等の波長を示す別の光源(青色光源)を準備し、この青色光源から出射された青色光と蛍光22とが合成されることで、白色光20が生成されるものとしても構わない。
【符号の説明】
【0101】
1 :蛍光光源装置
2 :励起光源
3 :ダイクロイックミラー
10 :蛍光発光素子
10a :光取り出し面
11 :基板
12 :接合層
13 :反射層
20 :白色光
21 :励起光
22 :蛍光
25 :画像表示光
30 :波長変換部材
30a :モスアイ構造
31 :第一MgO粒
32,32a :第二MgO粒
35,35a,35b :蛍光体粒
50 :プロジェクタ
51 :位相差板
53 :色分解合成光学系
55 :投影光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10