特許 7535254 切削工具

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B1)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-08-07

(45)【発行日】2024-08-16

(54)【発明の名称】切削工具

(51)【国際特許分類】

   B23B 27/10 20060101AFI20240808BHJP

   B23B 51/06 20060101ALI20240808BHJP

   B23B 51/00 20060101ALI20240808BHJP

【ＦＩ】

B23B27/10

B23B51/06 C

B23B51/06 D

B23B51/00 P

B23B51/00 L

【請求項の数】 21

(21)【出願番号】P 2024012575

(22)【出願日】2024-01-31

【審査請求日】2024-01-31

【早期審査対象出願】

(73)【特許権者】

【識別番号】000221144

【氏名又は名称】株式会社タンガロイ

(74)【代理人】

【識別番号】100079108

【弁理士】

【氏名又は名称】稲葉 良幸

(74)【代理人】

【識別番号】100109346

【弁理士】

【氏名又は名称】大貫 敏史

(74)【代理人】

【識別番号】100117189

【弁理士】

【氏名又は名称】江口 昭彦

(74)【代理人】

【識別番号】100134120

【弁理士】

【氏名又は名称】内藤 和彦

(72)【発明者】

【氏名】佐々木 凌

【審査官】増山 慎也

(56)【参考文献】

【文献】特開２００２－１６６３１６（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開平１０－１５１５０７（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００７－１８５７６５（ＪＰ，Ａ）

【文献】中国特許出願公開第１０２８３７０１７（ＣＮ，Ａ）

【文献】英国特許出願公告第００２６１６５１（ＧＢ，Ａ）

【文献】特表２０１３－５０１６３８（ＪＰ，Ａ）

【文献】特開２００２－３０７２１１（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｂ２３Ｂ ２７／１０

Ｂ２３Ｂ ２９／１２

Ｂ２３Ｂ ５１／００、０６

Ｂ２３Ｃ ５／２８

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

切削工具であって、
当該切削工具の基端部に設けられた、工作機械に搭載可能なスリーブに取り付けられる部分となる、略円柱形状であるシャンク部と、
先端部に配置された切れ刃と、
該切れ刃から当該切削工具の基端部へ向け形成された、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝と、
前記先端部に向けてクーラントを供給する、当該切削工具の外周に設けられた複数の溝状のクーラント流路と、
を備え、
複数の前記クーラント流路のひとつである第１のクーラント流路は、当該切削工具の長手方向に延びる中心軸に沿って前記先端部からみた先端視にて、当該切削工具の外周のうち前記切れ刃のすくい面がある側であって、前記切れ刃に垂直に交わる垂線が通り、かつ、前記切りくず排出溝とは連通しない位置に配置されていて、
前記切りくず排出溝が螺旋状に形成されており、
前記シャンク部はその外径が前記先端部の外径よりも大きく、
複数の前記クーラント流路は、いずれも、前記シャンク部の外周にのみ設けられ、かつ、当該切削工具の前記中心軸と平行に真っ直ぐ形成されている、切削工具。

【請求項2】

複数の前記クーラント流路のうち、前記第１のクーラント流路以外のものは、前記先端部から見た先端視にて、前記切れ刃と前記切りくず排出溝のいずれとも重なり合わない位置に設けられている、請求項１に記載の切削工具。

【請求項3】

前記複数の前記クーラント流路のうち、前記第１のクーラント流路以外のものとして、第２のクーラント流路と第３のクーラント流路とが設けられている、請求項２に記載の切削工具。

【請求項4】

前記先端部から見た先端視にて、前記第２のクーラント流路および前記第３のクーラント流路は、周方向にて前記切りくず排出溝とは異なる位置に設けられている、請求項３に記載の切削工具。

【請求項5】

前記先端部に、前記クーラント流路から供給されたクーラントの前記切りくず排出溝までの流路を拡大する切り欠き部が設けられている、請求項４に記載の切削工具。

【請求項6】

前記切り欠き部は、前記中心軸に垂直ではない傾斜面で構成されている、請求項５に記載の切削工具。

【請求項7】

前記切り欠き部は、前記先端部からみた先端視にて、前記第２のクーラント流路または前記第３のクーラント流路がある側に設けられている、請求項５に記載の切削工具。

【請求項8】

前記シャンク部は、その外径が、前記先端部の外径よりも大きい、請求項４に記載の切削工具。

【請求項9】

前記シャンク部と、前記シャンク部よりも前記先端部寄りの部分との間に段差部が形成されている、請求項８に記載の切削工具。

【請求項10】

複数の前記クーラント流路は、いずれも、前記シャンク部の外周にのみ設けられている、請求項９に記載の切削工具。

【請求項11】

前記シャンク部に、前記工作機械の前記スリーブに対する回り止めとして機能する切り欠き部が平坦面で構成されていて、前記クーラント流路は、前記切り欠き部とは重なり合わない位置に形成されている、請求項１０に記載の切削工具。

【請求項12】

前記クーラント流路は、円弧形状の溝で構成されている、請求項１に記載の切削工具。

【請求項13】

切削工具であって、
当該切削工具の基端部に設けられた、工作機械に搭載可能なスリーブに取り付けられる部分となる、略円柱形状であるシャンク部と、
先端部に配置された切れ刃と、
該切れ刃から当該切削工具の基端部へ向け形成された、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝と、
前記先端部に向けてクーラントを供給する、当該切削工具の外周に設けられた複数の溝状のクーラント流路と、
を備え、
複数の前記クーラント流路のひとつである第１のクーラント流路は、当該切削工具の長手方向に延びる中心軸に沿って前記先端部からみた先端視にて、前記切れ刃のすくい面がある側に配置されていて、
複数の前記クーラント流路のうち、前記第１のクーラント流路以外のものとして、第２のクーラント流路と第３のクーラント流路とが設けられていて、前記先端部から見た先端視にて、前記第２のクーラント流路および前記第３のクーラント流路は、周方向にて前記切りくず排出溝とは異なる位置に設けられ、
前記シャンク部は、その外径が、前記先端部の外径よりも大きく、
複数の前記クーラント流路は、いずれも、前記シャンク部の外周にのみ設けられていて、
前記切りくず排出溝が螺旋状に形成されており、
前記シャンク部はその外径が前記先端部の外径よりも大きく、
複数の前記クーラント流路は、いずれも、前記シャンク部の外周にのみ設けられ、かつ、当該切削工具の前記中心軸と平行に真っ直ぐ形成されている、切削工具。

【請求項14】

切削工具であって、
当該切削工具の基端部に設けられた、工作機械に搭載可能なスリーブに取り付けられる部分となる、略円柱形状であるシャンク部と、
先端部に配置された切れ刃と、
該切れ刃から当該切削工具の基端部へ向け形成された、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝と、
前記先端部に向けてクーラントを供給する、当該切削工具の外周に設けられた複数の溝状のクーラント流路と、
を備え、
複数の前記クーラント流路のひとつである第１のクーラント流路は、当該切削工具の長手方向に延びる中心軸に沿って前記先端部からみた先端視にて、前記切れ刃のすくい面がある側に配置されていて、
複数の前記クーラント流路のうち、前記第１のクーラント流路以外のものは、前記先端部から見た先端視にて、前記切れ刃と前記切りくず排出溝のいずれとも重なり合わない位置に設けられていて、
前記切りくず排出溝が螺旋状に形成されており、
前記シャンク部はその外径が前記先端部の外径よりも大きく、
複数の前記クーラント流路は、いずれも、前記シャンク部の外周にのみ設けられ、かつ、当該切削工具の前記中心軸と平行に真っ直ぐ形成されている、切削工具。

【請求項15】

切削工具であって、
当該切削工具の基端部に設けられた、工作機械に搭載可能なスリーブに取り付けられる部分となる、略円柱形状であるシャンク部と、
先端部に配置された切れ刃と、
該切れ刃から当該切削工具の基端部へ向け形成された、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝と、
前記先端部に向けてクーラントを供給する、当該切削工具の外周に設けられた複数の溝状のクーラント流路と、
を備え、
複数の前記クーラント流路のひとつである第１のクーラント流路は、当該切削工具の長手方向に延びる中心軸に沿って前記先端部からみた先端視にて、前記切れ刃のすくい面がある側に配置されていて、
前記先端部に、前記クーラント流路から供給されたクーラントの前記切りくず排出溝までの流路を拡大する切り欠き部が設けられていて、
前記切りくず排出溝が螺旋状に形成されており、
前記シャンク部はその外径が前記先端部の外径よりも大きく、
複数の前記クーラント流路は、いずれも、前記シャンク部の外周にのみ設けられ、かつ、当該切削工具の前記中心軸と平行に真っ直ぐ形成されている、切削工具。

【請求項16】

前記クーラント流路は、当該切削工具の中心軸と平行に真っ直ぐ形成されている、請求項１から１５のいずれか一項に記載の切削工具。

【請求項17】

前記切りくず排出溝が螺旋状に形成されている、請求項１６に記載の切削工具。

【請求項18】

前記切れ刃は、当該切削工具と一体の刃で構成されている、請求項１から１５のいずれか一項に記載の切削工具。

【請求項19】

前記先端部に、切削インサートが取り付けられるインサート取付座が設けられている、請求項１から１５のいずれか一項に記載の切削工具。

【請求項20】

旋削用工具である、請求項１から１５のいずれか一項に記載の切削工具。

【請求項21】

前記先端部に、切削インサートがロウ付けされるロウ付け工具である、請求項１から１５のいずれか一項に記載の切削工具。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、切削工具に関する。

【背景技術】

【0002】

工具の外部から給油するいわば外部給油タイプの切削工具には、加工点にクーラントが届きにくいという課題がある。そのような課題を解決するための従来技術として、特許文献３，４，５といった内部給油タイプの切削工具が提案されている。ただし、これら内部給油タイプの切削工具は、内部に設けられた流路を通じて給油するという構造上、小型化に向いていない。その解決手段として特許文献１，２のような、シャンクに溝が設けられた工具のような従来技術が提案されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特表２０１３－５０１６３８号公報

【文献】特表２０１３－５１９５３７号公報

【文献】特開２００３－７１６０８号公報

【文献】特開２００７－１８５７６５号公報

【文献】特開２０１０－１０５０８４号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかし、当該工具の外周側からクーラントをはじめとする流体を供給するいわば外部供給タイプの切削工具だと、内径加工や穴あけ加工において、流体がワーク（被削材）内の加工点近傍に十分に届かないことがある。このような場合、工具内部の穴４０’を通して流体を供給するいわば内部供給タイプの切削工具１０’を代わりに用いることが考えられるが（図７参照）、比較的小径の加工を行う場合、小さな穴の中に入る程度に工具を小型化すると、もはや当該工具内に給油穴を設けるスペースが無くなってしまうことがある。また、外部供給タイプの切削工具、とくに小型の切削工具に対しては、刃先を十分に冷却できるようにしてより長寿命なものとしてほしい、切りくずの排出性をさらに向上させてほしいといった要望が実在している。

【0005】

そこで、本発明は、工具自体がとくに小型である場合にもクーラント等の流体をワークの加工点近傍へ十分に供給することが可能であり、かつ、刃先の冷却性能、切りくずの排出性能を向上させた構造の切削工具を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

かかる課題を解決するべく、本発明者は種々検討した。従来の切削工具には、シャンク部に冷却溝を保有することで加工点近傍に給油をするものがあり、このような切削工具における給油の方向は、加工時に加工点近傍から切りくずが排出される方向と正反対である。このことはいわば当然のことのようでもあるが、このような構造だと、給油溝から排出された流体が逆に切りくずを押し込んでしまい、切りくず排出を妨げてしまうことがある。こういった点に着目しつつ、刃先の冷却性能、切りくずの排出性能の向上という観点からさらに検討を重ねた本発明者は、課題の解決に結びつく知見を得るに至った。

【0007】

本発明はかかる知見に基づき想到するに至ったものであり、その一態様は、切削工具であって、
当該切削工具の基端部に設けられた、工作機械に搭載可能なスリーブに取り付けられる部分となる、略円柱形状であるシャンク部と、
先端部に配置された切れ刃と、
該切れ刃から当該切削工具の基端部へ向け形成された、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝と、
先端部に向けてクーラントを供給する、当該切削工具の外周に設けられた複数の溝状のクーラント流路と、
を備え、
複数のクーラント流路のひとつである第１のクーラント流路は、当該切削工具の長手方向に延びる中心軸に沿って先端部からみた先端視にて、切れ刃の上部側に配置されている、切削工具である。

【0008】

この切削工具においては、外周に設けられた複数のクーラント流路のいずれかを、切れ刃と切りくず排出溝のいずれとも重なり合わない位置に設けられた状態、別言すれば、クーラント流路が切れ刃や切りくず排出溝に関与しない状態とすることで、給油の流れが切りくず排出を妨げることなく、また、切りくず排出の流れが給油を妨げることもないようにすることが可能となる。また、複数のクーラント流路のひとつである第１のクーラント流路を、先端視にて切れ刃の上部側に配置した構造とすることで、刃先の冷却性能と切りくずの排出性能を向上させることが可能である。

【0009】

上記のごとき切削工具において、第１のクーラント流路は、当該切削工具の外周のうち、切れ刃のすくい面がある側に配置されていてもよい。

【0010】

上記のごとき切削工具において、第１のクーラント流路は、先端部からみた先端視にて、切れ刃に垂直に交わる垂線が通る位置に配置されていてもよい。

【0011】

上記のごとき切削工具において、第１のクーラント流路は、先端部からみた先端視にて、切りくず排出溝とは連通しない位置に配置されていてもよい。

【0012】

上記のごとき切削工具において、複数のクーラント流路のうち、第１のクーラント流路以外のものは、先端部から見た先端視にて、切れ刃と切りくず排出溝のいずれとも重なり合わない位置に設けられていてもよい。

【0013】

上記のごとき切削工具において、複数のクーラント流路のうち、第１のクーラント流路以外のものとして、第２のクーラント流路と第３のクーラント流路とが設けられていてもよい。

【0014】

上記のごとき切削工具において、先端部から見た先端視にて、第２のクーラント流路および第３のクーラント流路は、周方向にて切りくず排出溝とは異なる位置に設けられていてもよい。

【0015】

上記のごとき切削工具において、先端部に、クーラント流路から供給されたクーラントの切りくず排出溝までの流路を拡大する切り欠き部が設けられていてもよい。

【0016】

上記のごとき切削工具において、切り欠き部は、中心軸に垂直ではない傾斜面で構成されていてもよい。

【0017】

上記のごとき切削工具において、切り欠き部は、先端部からみた先端視にて、第２のクーラント流路または第３のクーラント流路がある側に設けられていてもよい。

【0018】

上記のごとき切削工具において、シャンク部は、その外径が、先端部の外径よりも大きいものであってもよい。

【0019】

上記のごとき切削工具において、シャンク部と、シャンク部よりも先端部寄りの部分との間に段差部が形成されていてもよい。

【0020】

上記のごとき切削工具において、複数のクーラント流路は、いずれも、シャンク部の外周にのみ設けられていてもよい。

【0021】

上記のごとき切削工具において、シャンク部に、切削機械のスリーブに対する回り止めとして機能する切り欠き部が平坦面で構成されていて、クーラント流路は、切り欠き部とは重なり合わない位置に形成されていてもよい。

【0022】

上記のごとき切削工具において、クーラント流路は、円弧形状の溝で構成されていてもよい。

【0023】

上記のごとき切削工具において、クーラント流路は、当該切削工具の中心軸と平行に真っ直ぐ形成されていてもよい。

【0024】

上記のごとき切削工具において、切りくず排出溝が螺旋状に形成されていてもよい。

【0025】

上記のごとき切削工具において、切れ刃は、当該切削工具と一体の刃で構成されていてもよい。

【0026】

上記のごとき切削工具において、先端部に、切削インサートが取り付けられるインサート取付座が設けられていてもよい。

【0027】

上記のごとき切削工具は、旋削用工具であってもよい。

【0028】

上記のごとき切削工具は、先端部に、切削インサートがロウ付けされるロウ付け工具であってもよい。

【図面の簡単な説明】

【0029】

【図1】本発明にかかる切削工具の一例を示す斜視図である。

【図2】切削工具を別の角度から見た斜視図である。

【図3】切削工具を先端部から見た（先端視）図である。

【図4】切削工具を基端部から見た（基端視）図である。

【図5】切削工具の先端部の傾斜面（切り欠き部）におけるクーラントの流れを示す斜視図である。

【図6】穴あけ加工時のワーク（被削材）の内部の様子を説明する図である。

【図7】従来の切削工具の一例を参考として示す斜視図である。

【発明を実施するための形態】

【0030】

以下、図面を参照しつつ本発明に係る切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する（図１～図６参照）。

【0031】

本発明に係る切削工具は、特に小型の旋削用工具や穴あけ工具といった内径加工用として好適な工具として構成されているものである。本実施形態の切削工具１０は、シャンク部１４、切れ刃１８、切りくず排出溝３０、クーラント流路４０などを備えていて、中心軸１０Ａに沿って基端部１０ｂから先端部１０ｔまで延びる略円筒状に形成されている（図１、図２等参照）。当該切削工具１０の基端部１０ｂ側にはシャンク部１４が設けられ、先端部１０ｔには切れ刃１８が配置されている。

【0032】

シャンク部１４は、当該切削工具１０のうち、工作機械に搭載可能なスリーブ（図７において符号２１０で示す）に取り付けられる部分であり、切削工具１０の基端部１０ｂ側に設けられている（図１、図２等参照）。このシャンク部１４は略円柱形状であって、当該シャンク部１４の一部には、スリーブ２１０に対する回り止めとして機能する切り欠き部１４ｆが形成されている。切り欠き部１４ｆは、中心軸１０Ａに平行な平坦面であってもよい（図１等参照）。本実施形態の切削工具１０におけるシャンク部１４は、その外径が、切削工具１０の他の部分（たとえば先端部１０ｔ）の外径よりも大きく、切削工具１０においてもっとも大きい部分となっている。このシャンク部１４と、切削工具１０のうち当該シャンク部１４よりも先端部１０ｔ寄りの部分との間には、外径が急に変化する段差部１５が形成されている（図１、図２等参照）。

【0033】

切れ刃１８は、先端部１０ｔに配置された刃で構成されている（図１等参照）。本実施形態の切削工具１０においては、切れ刃１８は当該切削工具１０と一体の刃で構成されている。ただしこれは好適な一例にすぎない。特に図示はしていないものの、切削工具１０として、その先端部１０ｔに、切削インサートが取り付けられるインサート取付座が設けられているものを採用してもよいし、切削インサートをロウ付けしたロウ付け工具を採用してもよい。

【0034】

切りくず排出溝３０は、切削により生じる切りくず（図６において符号１２０で示す）を案内し排出するための溝である。本実施形態の切削工具１０における切りくず排出溝３０は、切れ刃１８のすくい面１８ｓから当該切削工具１０の基端部１０ｂ側へ向けて延びる螺旋状のポケットで形成されている（図１、図３等参照）。

【0035】

クーラント流路４０は、先端部１０ｔに向けてクーラントＣを供給するように当該切削工具１０に形成されている。本実施形態の切削工具１０におけるクーラント流路４０は、切削工具１０の外周（符号１０ｐで示す）のうち、シャンク部１４の外周部分にのみ設けられた例えば３本の給油溝で構成されている（図１～図４参照）。クーラント流路４０の吐出口４０ｄは段差部１５がある部分に位置している（図１、図２参照）。クーラント流路４０は例えば本実施形態におけるごとく断面が円弧形状の溝で構成されていてもよいし（図３、図４参照）、これ以外の形状の溝で構成されていてもよい。これらクーラント流路４０は、当該切削工具１０の中心軸１０Ａと平行に、中心軸１０Ａの方向に沿って真っ直ぐに形成されている（図２、図３等参照）。

【0036】

なお、以下では、図３中の上側に位置するクーラント流路を第１のクーラント流路、向かって左側に位置するクーラント流路を第２のクーラント流路、下側に位置するクーラント流路を第３のクーラント流路と称し、それぞれ符号４１，４２，４３で示しつつ説明することとする。以下ではまず第２のクーラント流路４２と第３のクーラント流路４３について説明し、その後、第１のクーラント流路４１について説明し、さらにその後、先端部１０ｔにおける切り欠き部１１についても説明する（図１～図４参照）。

【0037】

［第２、第３のクーラント流路］
本実施形態の切削工具１０における第２のクーラント流路４２と第３のクーラント流路４３は、切れ刃１８と切りくず排出溝３０のいずれとも重なり合わない位置に設けられている（図３等参照）。例えば、この切削工具１０を先端部１０ｔから見た場合（本明細書では先端視と呼んでいる）、第２のクーラント流路４２と第３のクーラント流路４３は、周方向にて切りくず排出溝３０とは異なる位置（周方向にて切りくず排出溝３０とは重なり合わない位置）に設けられている（図３参照）。このような切削工具１０においては、これら第２のクーラント流路４２と第３のクーラント流路４３が、切れ刃１８と切りくず排出溝３０のいずれとも重なり合わない状態、別言すれば、切れ刃１８や切りくず排出溝３０に関与しない状態となっている。このため、クーラント流路４２，４３を通って先端部１０ｔ側へと供給されるクーラントＣの流れが切りくず１２０の排出を妨げることなく、また、切りくず排出の流れが給油を妨げることもない（図６参照）。このため、第２のクーラント流路４２と第３のクーラント流路４３を内部に設けることが困難な特に小型の切削工具１０などにおいて、クーラントＣをワーク１００の加工点近傍へ十分に供給することが可能となる。したがって、本実施形態のごとき切削工具１０によれば、特に小型の旋削用工具や穴あけ工具といった内径加工用の工具に適用した際、シャンク部１４からワーク１００の内部に向かって給油し、切りくず１２０の排出、刃先の冷却、潤滑を効果的に実施することを可能とする。

【0038】

上述のごとき第２のクーラント流路４２と第３のクーラント流路４３は、また、切り欠き部１４ｆとも重なり合わない位置に形成されている（図１等参照）。なお、本実施形態では、第２のクーラント流路４２を、基端部１０ｂから見た場合（基端視）において、切り欠き部１４ｆ（の中心位置）を基準にして時計回りに１０５°以上１３５°以下の位置（例えば、およそ１２０°の位置）に配置した例（別言すれば、先端部１０ｔから見た場合（先端視）において（図３参照）、中心軸１０Ａと切れ刃１８の最外部とを結ぶ直線を基準にして反時計回りに１５５°以上１８５°以下の位置に配置した例）や、第３のクーラント流路４３を、基端部１０ｂから見た場合（基端視）において、切り欠き部１４ｆ（の中心位置）を基準にして反時計回りに１０５°以上１３５°以下の位置（例えば、およそ１２０°の位置）に配置した例（別言すれば、先端部１０ｔから見た場合（先端視）において（図３参照）、中心軸１０Ａと切れ刃１８の最外部とを結ぶ直線を基準にして時計回りに６５°以上９５°以下の位置に配置した例）を示しているが（図４参照）、これらは好適な配置の一例にすぎず、切れ刃１８や切りくず排出溝３０、さらには切り欠き部１４ｆと重なり合わない配置である限り、具体的な位置が限定されることはない。

【0039】

［第１のクーラント流路］
本実施形態の切削工具１０における第１のクーラント流路４１は、中心軸１０Ａに沿って先端部１０ｔからみた先端視にて、切れ刃１８を上に向けた姿勢で、当該切れ刃１８の上部側、より詳細には切れ刃１８のすくい面１８ｓがある側に配置されている（図３参照）。ここで、先端部１０ｔからみた先端視にて切れ刃１８に垂直に交わる垂線ＰＬを想定するならば（図３参照）、本実施形態における第１のクーラント流路４１は、当該垂線ＰＬが通る位置に配置されている。また、第１のクーラント流路４１は、当該第１のクーラント流路４１と切りくず排出溝３０との間に外周１０ｐが存在するように配置されている（図１参照）。この結果、本実施形態における第１のクーラント流路４１は、先端部１０ｔからみた先端視にて、切りくず排出溝３０とは連通しない状態となっている（図３参照）。

【0040】

このように、複数のクーラント流路のひとつである第１のクーラント流路４１を、先端視にて切れ刃１８の上部側に配置した構造とした本実施形態の切削工具１０によれば、当該第１のクーラント流路４１から切れ刃１８へ向けて供給されるクーラントＣの量を増やすことで、切れ刃１８の刃先の冷却性能を向上させること、さらには、切りくず１２０の排出性能を向上させることが可能となる。なお、第１のクーラント流路４１は、先端部１０ｔからみた先端視においては切りくず排出溝３０と重なる位置にあるため（図４参照）、この図だけからすれば、当該第１のクーラント流路４１から供給されるクーラントＣが切りくず排出の妨げをするかのように見えるかもしれない。ただ、実際には、切りくず排出溝３０が、切れ刃１８のすくい面１８ｓから基端部１０ｂ側へ向けて延びる螺旋状のポケットで形成されていることから、立体的な構造という点では、第１のクーラント流路４１と切りくず排出溝３０は大部分において重なり合っていない（図１等参照）。したがって図４等から受けるかもしれない印象とは異なり、当該第１のクーラント流路４１から供給されるクーラントＣが切りくず排出を妨げるようなことはない。

【0041】

［先端部における切り欠き部］
本実施形態では、切削工具１０の先端部１０ｔに、クーラント流路４０から供給されたクーラントＣの切りくず排出溝３０までの流路を拡大する切り欠き部１１を設けている（図１～図３参照）。このような切り欠き部１１の具体的な一例は、たとえば、中心軸１０Ａに垂直ではなく、かつ、先端部１０ｔからみた先端視にて第２のクーラント流路４２がある側に設けられた傾斜面である（図４等参照）。かかる傾斜面は、第２のクーラント流路４２に向けて傾斜する（第２のクーラント流路４２に近づくほど、先端部１０ｔから基端部１０ｂへと傾斜する）ように設けられている（図１等参照）。このような、切りくず排出溝３０につながる傾斜面で構成された切り欠き部１１によれば、ワーク１００内でクーラントＣが循環可能なスペースがより広くなるため、よりクーラントＣが切れ刃１８や切りくず排出溝３０内に流れやすくなり、切れ刃１８の刃先の冷却や、切りくず１２０の排出が促進されることとなる（図５、図６参照）。なお、ここで説明した傾斜面は、このような機能を奏しうる切り欠き部１１の好適な一例にすぎず、具体的な構造や形態がこのような傾斜面に限定されることはない。切り欠き部１１は、たとえば曲面で構成されていてもよいし、溝や凹凸で構成されていてもよい。また、切り欠き部１１の配置が、第２のクーラント流路４２の近傍位置に限られることもない。

【0042】

なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。たとえば、上述した実施形態ではクーラント流路４０が３本である形態を例示したが（第１のクーラント流路４１、第２のクーラント流路４２、第３のクーラント流路４３）、これらクーラント流路４０の本数がとくに限定されることはないし、クーラント流路４０の形状や形態が限定されることもない。また、複数のクーラント流路４０を設ける場合、それらクーラント流路４０の大きさや形状が互いに異なっていても構わない。

【産業上の利用可能性】

【0043】

本発明は、切削工具に適用して好適である。

【符号の説明】

【0044】

１０…切削工具
１０Ａ…中心軸
１０ｂ…基端部
１０ｐ…外周
１０ｔ…先端部
１１…傾斜面（切り欠き部）
１４…シャンク部
１４ｆ…切り欠き部
１５…段差部
１８…切れ刃
１８ｓ…すくい面
３０…切りくず排出溝
４０…クーラント流路
４０ｄ…吐出口
４１…第１のクーラント流路（切れ刃の上部側に配置されたクーラント流路）
４２…第２のクーラント流路
４３…第３のクーラント流路
１００…ワーク（被削材）
１２０…切りくず
２１０…スリーブ
Ｃ…クーラント
ＰＬ…切れ刃に垂直に交わる垂線

【要約】

【課題】工具自体がとくに小型である場合にもクーラント等の流体をワークの加工点近傍へ十分に供給することが可能であり、かつ、刃先の冷却性能、切りくずの排出性能を向上させた構造の切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具１０は、基端部１０ｂに設けられた、略円柱形状であるシャンク部１４と、先端部１０ｔに配置された切れ刃１８と、該切れ刃１８から基端部１０ｂへ向け形成された、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝３０と、先端部１０ｔに向けてクーラントを供給する、当該切削工具１０の外周１０ｐに設けられた複数の溝状のクーラント流路４０と、を備える。複数のクーラント流路４０のひとつである第１のクーラント流路４１は、当該切削工具１０の長手方向に延びる中心軸１０Ａに沿って先端部１０ｔからみた先端視にて、切れ刃１８の上部側に配置されている。
【選択図】図１

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】