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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】難燃剤、難燃性樹脂及び難燃性塗料
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/04 20060101AFI20240808BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20240808BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240808BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240808BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240808BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20240808BHJP
   C09D 5/18 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C09K21/04
C09K21/02
C08L101/00
C08K9/04
C08K3/22
C08K3/30
C09D5/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020086949
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181521
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前 英雄
(72)【発明者】
【氏名】西野 文善
(72)【発明者】
【氏名】山野 義雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 誠一
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-156397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0087186(US,A1)
【文献】特開平10-067515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K21/00-21/14
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の表面処理が施されたリン成分を含む酸化鉄粉末及び前記第1の表面処理とは異なる第2の表面処理が施された硫酸アンモニウム粉末からなる難燃剤であって、
前記第1の表面処理は、末端にカルボン酸基若しくはスルホン酸基を持つ界面活性剤機能を持った表面処理剤を用いた表面処理であり、
前記第2の表面処理は、メラミン、シリコン樹脂、リン酸トリフェニル、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース樹脂、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸プロピル及び没食子酸ドデシルの中のいずれか一つを用いた表面処理であり、
前記第1の表面処理が施されたリン成分を含む酸化鉄粉末と、前記第2の表面処理が施された硫酸アンモニウム粉末との混合比は、10:90~90:10である
ことを特徴とする難燃剤。
【請求項2】
請求項1の難燃剤を樹脂に2~50%含有させてなる
ことを特徴とする難燃性樹脂。
【請求項3】
前記樹脂がポリオレフィン系樹脂又は反応硬化型樹脂である
ことを特徴とする請求項に記載の難燃性樹脂。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂及びブタジエンの中のいずれかである
ことを特徴とする請求項に記載の難燃性樹脂。
【請求項5】
前記反応硬化型樹脂は、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の中のいずれかである
ことを特徴とする請求項に記載の難燃性樹脂。
【請求項6】
請求項1の難燃剤を塗料に2~60%含有させてなる
ことを特徴とする難燃性塗料。
【請求項7】
前記塗料は、酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、塩化ゴム系、ポリウレタン樹脂系、ふっ素樹脂系、ニトロセルロース系及びフタル酸樹脂系塗料の中のいずれかである
ことを特徴とする請求項に記載の難燃性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の樹脂に添加して、その樹脂を難燃化するための難燃剤及びその難燃剤を含有させた難燃性樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料に添加して、その樹脂材料を難燃化するための難燃剤が開発されている。
例えば、特許文献1(特開2006-265417号公報)には、有害なガスを発生させることなく高難燃性が得られ、ポリマー物性を著しく低下させることがなく、リサイクル性に優れた難燃性樹脂組成物の提供を目的として、体積平均粒子径が1~500nmの範囲の特定の難燃性粒子と難燃助剤とを配合した難燃性樹脂組成物であって、難燃性粒子としてCa、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiのうちから選択される1種以上とMgとを含む金属の水和物又はMg、Ca、Al、Fe、Zn、Ba、Cu及びNiのうちから選択される1種類の金属の水和物を用いる点、難燃助剤としてホウ酸系難燃助剤、シリコーン化合物及びチッ素系難燃助剤のうちから選択される1種以上を用いる点等が記載されている(特に、段落0010及び0013~0018を参照)。
また、特許文献2(特開2015-63674号公報)には、様々な樹脂に添加することにより、前記樹脂の難燃性を向上させることができる樹脂用難燃化添加剤を提供することを目的として、赤リン、リン酸塩含有難燃剤および分散用媒体を含み、赤リンおよびリン酸塩含有難燃剤の合計重量に対して、赤リンの含量が25~75重量%の範囲であり、リン酸塩含有難燃剤の含量が75~25重量%の範囲であり、赤リンおよびリン酸塩含有難燃剤の合計100重量部に対して、分散用媒体の含量が30~180重量部の範囲であり、赤リンに対する分散用媒体の重量比が0.75~4.0の範囲である樹脂用難燃化添加剤が記載されている(特に、段落0011及び0013を参照)。
【0003】
しかし、特許文献2記載の樹脂用難燃化添加剤と同等以上の性能を有するとともに、特許文献1記載の難燃性樹脂組成物と同等又はそれより低い毒性の難燃剤は実現できておらず、両方の特性を兼ね備える難燃剤が要求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-265417号公報
【文献】特開2015-63674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の要求等に鑑みてなされたものであり、各種の樹脂に添加して十分な難燃性・不燃性を付与する難燃剤を提供すること及び毒性の低い難燃剤を提供することを第1の課題とする。
また、その難燃剤を混合又は含浸させた難燃性樹脂材料の成形体を提供すること及び接着性を有する樹脂材料や水性塗料にその難燃剤を混合して他の成形体に塗布することのできる難燃性樹脂材料を提供することを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、第1の表面処理が施されたリン成分を含む酸化鉄粉末及び前記第1の表面処理とは異なる第2の表面処理が施された硫酸アンモニウム粉末からなる難燃剤であって、
前記第1の表面処理は、末端にカルボン酸基若しくはスルホン酸基を持つ界面活性剤機能を持った表面処理剤を用いた表面処理であり、
前記第2の表面処理は、メラミン、シリコン樹脂、リン酸トリフェニル、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース樹脂、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸プロピル及び没食子酸ドデシルの中のいずれか一つを用いた表面処理であり、
前記第1の表面処理が施されたリン成分を含む酸化鉄粉末と、前記第2の表面処理が施された硫酸アンモニウム粉末との混合比は、10:90~90:10であることを特徴とする。
【0008】
請求項に係る発明は、請求項1の難燃剤を樹脂に2~50%含有させてなることを特徴とする難燃性樹脂である。
【0009】
請求項に係る発明は、請求項に記載の難燃性樹脂において、
前記樹脂がポリオレフィン系樹脂又は反応硬化型樹脂であることを特徴とする。
【0010】
請求項に係る発明は、請求項に記載の難燃性樹脂において、
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂及びブタジエンの中のいずれかであることを特徴とする。
【0011】
請求項に係る発明は、請求項に記載の難燃性樹脂において、
前記反応硬化型樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の中のいずれかであることを特徴とする。
【0012】
請求項に係る発明は、請求項1の難燃剤を塗料に2~60%含有させてなることを特徴とする難燃性塗料である。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項に記載の難燃性塗料において、
前記塗料が、酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、塩化ゴム系、ポリウレタン樹脂系、ふっ素樹脂系、ニトロセルロース系及びフタル酸樹脂系塗料の中のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、当該発明の難燃剤を樹脂材料に添加した場合に、樹脂材料の燃焼温度付近で急激な吸熱反応が起こるので、樹脂材料の燃焼を抑制できる。
【0015】
請求項に係る発明によれば、樹脂(請求項ではポリオレフィン系樹脂又は反応硬化型樹脂、請求項ではポリオレフィン系樹脂であるポリビニルアルコール、ポリスチレン、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂及びブタジエンの中のいずれか、請求項では反応硬化型樹脂であるウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂のいずれか)に、請求項1の難燃剤を2~50%含有させてあり、同樹脂の燃焼温度付近で急激な吸熱反応が起こるので、燃焼を抑制する機能の高い難燃性樹脂を提供することができる。
【0016】
請求項及びに係る発明によれば、塗料(請求項では酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、塩化ゴム系、ポリウレタン樹脂系、ふっ素樹脂系、ニトロセルロース系及びフタル酸樹脂系塗料)に、請求項1の難燃剤を2~60%含有させてあり、同塗料の燃焼温度付近で急激な吸熱反応が起こるので、同塗料を樹脂、木材、紙等からなる構造物の表面に塗布することによって、燃焼しにくい構造物を製作し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】難燃剤を製造する工程の概要を示すフロー図。
図2】未処理の酸化鉄粉末及び硫酸アンモニウム粉末を混合した難燃剤と表面処理した酸化鉄粉末及び硫酸アンモニウム粉末を混合した難燃剤の熱分析結果を示すグラフ。
図3】基材自体、基材に従来の難燃剤を添加した難燃性樹脂材料及び基材に本発明の難燃剤を添加した難燃性樹脂材料の熱分析結果を示すグラフ。
図4】未処理の発泡スチロール成形体及び実施例7の難燃性樹脂材料を塗布した発泡スチロール成形体の燃焼実験結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の難燃剤を製造する工程の概要を示すフロー図である。
本発明の難燃剤を製造する工程は図1に示すとおり大きく分けて3つの工程からなっている。
一つ目は、酸化鉄粉末とリン成分等を混合した後に乾燥し、得られた乾燥済粉末と表面処理剤を混合し、撹拌装置で撹拌した後に乾燥して処理済酸化鉄粉末を得る工程。
二つ目は、硫酸アンモニウム粉末と表面処理剤を混合し、粉砕機で粉砕した後に、160~220℃で加熱処理して処理済硫酸アンモニウム粉末を得る工程。
三つ目は、一つ目の工程で得られた処理済酸化鉄粉末と二つ目の工程で得られた処理済硫酸アンモニウム粉末を、適宜の混合比で混合する工程である。
ここで、酸化鉄粉末としては、粉末状の三酸化二鉄(Fe23)及び四酸化三鉄(Fe34)のいずれでも良く、リン成分等としては、リン酸塩としてリン酸二水素アンモニウムと水やリン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸を用いる。
また、得られた処理済酸化鉄粉末と処理済硫酸アンモニウム粉末の混合比は、50:50を基本とするが、実験によると、10:90~90:10で本発明の難燃剤の特徴である樹脂材料の燃焼温度である380℃付近における急激な吸熱反応が確認できている。
ただし、十分な吸熱反応を生じさせるためには25:75~65:35が好ましく、35:65~55:45がより好ましい。
【0019】
表面処理剤は、難燃剤の用途等に応じて適当なものを選択する必要があるが、概略次の4通りに分けられる。
(1)難燃剤をポリオレフィン系の樹脂に添加して用いる場合
乾燥済粉末と混合する表面処理剤:ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ドデシル硫酸のような末端にカルボン酸基やスルホン酸基を持つ界面活性剤機能を持ったものを選択。
硫酸アンモニウム粉末と混合する表面処理剤:メラミン、シリコン樹脂、リン酸トリフェニル、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル樹脂及びニトロセルロース樹脂の中からいずれか一つを選択。
なお、これらは硫酸アンモニウムの耐水性を上げる効果もあり、難燃剤を長期保存する場合に役立つ。
(2)難燃剤を二液性の反応硬化樹脂に添加して用いる場合
乾燥済粉末と混合する表面処理剤:リン酸トリフェニル、ステアリン酸、ラウリン酸及びドデシル硫酸の中からいずれか一つを選択するとともに、シランカップリング剤としてエチルシリケート又はプロピルアミントリメチルシリケートを併用。
硫酸アンモニウム粉末と混合する表面処理剤:リン酸トリフェニル、メラミン及びタンニン酸の中からいずれか一つを選択。
なお、その理由は、樹脂原料が反応して硬化するとき、硫酸アンモニウム粉末が反応を妨害する可能性があるためである。
(3)難燃剤を酢酸ビニル樹脂(木工用ボンド)や水溶性の物質に添加して用いる場合
乾燥済粉末と混合する表面処理剤:分散性を良くするため、界面活性剤のドデシル硫酸を選択。
硫酸アンモニウム粉末と混合する表面処理剤:硫酸アンモニウムに耐水性を持たせる必要があるため、タンニン酸及びポリビニルアルコールの中からいずれか一つを選択。
(4)難燃剤を親油性の溶剤に添加して用いる場合
乾燥済粉末と混合する表面処理剤:酸化鉄が親水性のため、ラウリン酸又はステアリン酸を選択。
硫酸アンモニウム粉末と混合する表面処理剤:リン酸トリフェニル及びタンニン酸の中からいずれか一つを選択。
【実施例1】
【0020】
実施例1に係る難燃剤の製造方法を説明する。
まず、処理済酸化鉄粉末を得る工程について順を追って説明する。
(工程1-1)中心粒径0.2~10μmの酸化鉄汚泥500g(水分45~50%)と、リン酸二水素アンモニウム(10~500g)と、水500gを混合し、フィルタープレスする。
そうすると、水分量20%の酸化鉄とリン酸鉄の混ざった混合汚泥が得られるが、酸化鉄とリン酸鉄の比率は、難燃剤の用途に応じてリン酸二水素アンモニウムの量を加減することにより、50:50~80:20に調整する。
すなわち、酸化鉄が多いと樹脂にチャーを形成炭に変化しにくいが吸熱効果は大きく、リン酸鉄が多いとチャーを形成しやすくなるが吸熱効果は小さくなる。そのため、例えば、実施例1に係る難燃剤を、チャーを形成しにくいポリプロピレン等の合成樹脂に添加する場合には、酸化鉄とリン酸鉄の比率を50:50程度に調整し、チャーを形成しやすいウレタン樹脂等の合成樹脂に添加する場合には、酸化鉄とリン酸鉄の比率を80:20程度に調整すれば良い。
(工程1-2)工程1-1で得られた混合汚泥を105℃で1~2時間乾燥する。
(工程1-3)乾燥させた混合汚泥にラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リン酸エステル(リン酸トリフェニル、リン酸トリメチル)及びドデシル硫酸の中のいずれか一つから選択した表面処理剤を20g加え、ヘンシェルミキサーに投入して、2,500rpmの回転数で約30分間攪拌する。
(工程1-4)ヘンシェルミキサーから取り出した表面処理後の粉末をフルイにかけ、粒度を調整した後、120℃で約1時間乾燥する。
以上の工程により、処理済酸化鉄粉末を得ることができるが、酸化鉄が多い場合、乾燥させた混合汚泥はヘンシェルミキサー程度の攪拌では粉砕できないため、工程1-2と工程1-3の間に粉砕機による粉砕工程を加える必要がある。
【0021】
次に、処理済硫酸アンモニウム粉末を得る工程について順を追って説明する。
(工程1-5)硫酸アンモニウム粉末500gとメラミン(硫酸アンモニウム粉末の10~15%、すなわち50~75g)を高速回転式の粉砕機で粉砕し、中心粒径を10~50μmに調整する。
(工程1-6)粉砕機から取り出した表面処理済粉末を160~220℃で加熱処理する。
以上の工程により、硫酸アンモニウムにメラミンの結合した処理済硫酸アンモニウム粉末を得ることができる。
そして、工程1-1~工程1-4によって得られた処理済酸化鉄粉末と、工程1-5及び工程1-6によって得られた処理済硫酸アンモニウム粉末を混合することにより、実施例1に係る難燃剤を得ることができる。
なお、工程1-1~工程1-4と工程1-5及び工程1-6は並行して行っても良いし、工程1-1~工程1-4を先に行い工程1-5及び工程1-6を後に行っても良いし、工程1-5及び工程1-6を先に行い工程1-1~工程1-4を後に行っても良い。
【実施例2】
【0022】
実施例2に係る難燃剤の製造方法を説明する。
ただし、処理済酸化鉄粉末を得る工程は実施例1と同じなので、処理済硫酸アンモニウム粉末を得る工程についてだけ順を追って説明する。
(工程2-5)硫酸アンモニウム粉末500gとラウリン酸又は没食子酸プロピル(硫酸アンモニウム粉末の10~15%、すなわち50~75g)を高速回転式の粉砕機で粉砕し、中心粒径を10~50μmに調整する。
(工程2-6)粉砕機から取り出した表面処理済粉末を120℃で加熱処理する。
以上の工程により、硫酸アンモニウムにラウリン酸又は没食子酸プロピルの結合した処理済硫酸アンモニウム粉末を得ることができる。
そして、工程1-1~工程1-4によって得られた処理済酸化鉄粉末と、工程2-5及び工程2-6によって得られた処理済硫酸アンモニウム粉末を混合することにより、実施例2に係る難燃剤を得ることができる。
なお、工程1-1~工程1-4と工程2-5及び工程2-6を行う順序は、実施例1と同じく自由に選択できる。
【実施例3】
【0023】
次に、実施例1又は2に係る難燃剤を各種樹脂材料に添加して難燃性樹脂材料を製造する方法について説明する。
実施例3に係る難燃性樹脂材料は発泡ポリプロピレンである。
(工程3-1)二軸混錬機を用いて、ポリプロピレン90%と発泡剤としてクエン酸と炭酸水素ナトリウムの混合粉末10%を、140℃で加熱混合する。
(工程3-2)ステアリン酸による表面処理を行った処理済酸化鉄粉末を、ポリプロピレンと混合粉末の合計量の20%加えて均一に混合する。
(工程3-3)メラミンによる表面処理を行った処理済硫酸アンモニウム粉末を、同じく20%加えて均一となるまで混合する。
(工程3-4)160℃に加熱して発泡させながら、型枠に押し出す。
以上の工程により得られたポリプロピレン発泡体は、難燃性評価の規格である難燃性UL94(1/16)のV0に相当する性能を有していることが確認された。
【実施例4】
【0024】
実施例4に係る難燃性樹脂材料は発泡塩化ビニルである。
(工程4-1)二軸混錬機を用いて、塩化ビニル90%と発泡剤としてクエン酸と炭酸水素ナトリウムの混合粉末10%を、140℃で加熱混合する。
(工程4-2)ステアリン酸による表面処理を行った処理済酸化鉄粉末を、塩化ビニルと混合粉末の合計量の15%加えて均一に混合する。
(工程4-3)メラミンによる表面処理を行った処理済硫酸アンモニウム粉末を、同じく15%加えて均一となるまで混合する。
(工程4-4)160℃に加熱して発泡させながら、型枠に押し出す。
以上の工程により得られた塩化ビニル発泡体は、難燃性評価の規格である難燃性UL94(1/16)のV0に相当する性能を有していることが確認された。
【実施例5】
【0025】
実施例5に係る難燃性樹脂材料は二液混合タイプの発泡ポリウレタンである。
(工程5-1)ポリオールを主成分とする反応液側に実施例1又は2の難燃剤を40%になるように加える。
(工程5-2)発泡ポリウレタンの二つの反応液を混合して発泡反応させる。
(工程5-3)発泡させながら、型枠に押し出す。
以上の工程により得られたポリウレタン発泡体は、難燃性評価の規格である難燃性UL94(1/16)のV0に相当する性能を有していることが確認された。
【実施例6】
【0026】
実施例6に係る難燃性樹脂材料は射出成形するポリプロピレンである。
(工程6-1)二軸混錬機を用いて、ポリプロピレンにステアリン酸による表面処理を行った処理済酸化鉄粉末を15%加えて均一に混合する。
(工程6-2)リン酸トリフェニルによる表面処理を行った処理済硫酸アンモニウム粉末を、同じく15%加えて均一となるまで混合する。
(工程6-3)180℃に加熱して射出成形する。
以上の工程により得られたポリプロピレンの射出成形体は、難燃性評価の規格である難燃性UL94(1/16)のV0に相当する性能を有していることが確認された。
【実施例7】
【0027】
次に、実施例1又は2に係る難燃剤を、接着性を有する樹脂材料や水性塗料に混合して難燃性樹脂材料を得、その難燃性樹脂材料を各種成形体の表面に塗布して用いる方法について説明する。
なお、実施例7は接着性を有する樹脂材料に難燃剤等を加えたものであり、同樹脂材料に難燃剤等を加えた難燃性樹脂材料を塗布する成形体は発泡スチロール成形体である。
(工程7-1)イソプロピルアルコール70%とスチレンモノマー30%を混合した混合液に、実施例1又は2に係る難燃剤を、その混合液と同じ量加えて混合する。
(工程7-2)スチレンモノマー硬化剤を1%加えて混合し、10分以内に発泡スチロール成形体に刷毛で塗布する。
(工程7-3)混合液に難燃剤とスチレンモノマー硬化剤を加えた難燃性樹脂材料が乾燥するまで放置し、硬化させる。
以上の工程により得られた、表面に硬化した難燃性樹脂材料を有する発泡スチロール成形体は、メタンガスバーナーでは燃えない。さらに加熱を続けると、熱が伝わって内部の発泡スチロールは変形するが、硬化した難燃性樹脂材料はそのままの形で残ることが確認された。
【実施例8】
【0028】
実施例8は水性塗料に難燃剤を加えたものであり、同水性塗料に難燃剤等を加えた難燃性樹脂材料を塗布する成形体は紙又は木材からなる成形体である。
(工程8-1)酢酸ビニルエマルジョン接着剤に、実施例1又は2の処理済酸化鉄粉末とリン酸トリフェニル、メラミン及び没食子酸ドデシルの中からいずれか一つを選択して表面処理を行った処理済硫酸アンモニウム粉末を混合して得られた難燃剤を、同じ量加えて均一となるまで混合する。
(工程8-2)紙又は木材からなる成形体の表面に、難燃性樹脂材料を刷毛で塗布する。
(工程8-3)表面に塗布された難燃性樹脂材料が乾燥するまで放置し、硬化させる。
以上の工程により得られた、表面に硬化した難燃性樹脂材料は、硬化した後には難燃剤の含有量が50%以上の塗膜となり、その塗膜はメタンガスバーナーでは燃えないので、基材から発生する可燃性ガスがバーナー側に流れ出すのを防ぐことができる。
また、酸素が基材側に流れ込むのを阻害するため、基材の温度が800℃以上にならないと発火しない。
【0029】
図2は、未処理の酸化鉄粉末及び硫酸アンモニウム粉末を混合した難燃剤と、表面処理した酸化鉄粉末及び硫酸アンモニウム粉末を混合した難燃剤の熱分析結果を示すグラフである。図中に「Fe3O4」と記載されているのは粉末状の四酸化三鉄(Fe34)及び硫酸アンモニウム粉末を、いずれも処理せずに混合した難燃剤を示し、「Fe2O3」と記載されているのは粉末状の三酸化二鉄(Fe23)及び硫酸アンモニウム粉末を、いずれも処理せずに混合した難燃剤を示し、「本発明の難燃剤」と記載されているのは粉末状の酸化鉄(四酸化三鉄と三酸化二鉄を含む)及び硫酸アンモニウム粉末を、それぞれ表面処理を施した上で混合した難燃剤を示している。
熱分析の方法は、示差熱分析(DTA)及び熱重量測定(TG)である。
示差熱分析結果のグラフである図2(a)及び熱重量測定結果のグラフである図2(b)から、各難燃剤とも300℃付近で急激な吸熱反応が起こっていることが分かる。
そして、「Fe3O4」及び「Fe2O3」では400~600℃においても連続的な吸熱反応がみられるものの、300℃付近における吸熱反応を超える吸熱反応は起こっていない。
また、「Fe3O4」及び「Fe2O3」では300℃付近で硫酸アンモニウムが分解し、同時に酸化鉄と硫酸成分の反応が起こり、硫酸鉄を主成分とする化合物が生成される。
これに対して、「本発明の難燃剤」では、380℃付近で300℃付近における吸熱反応を超える大きな吸熱反応と急激な重量減少が起こっている。
ここで、380℃の温度は、プラスチックなどの樹脂材料が分解し可燃性のガスが発生する温度、すなわち燃焼温度とほぼ一致している。
そのため、「本発明の難燃剤」によれば、380℃付近で非常に大きな吸熱反応が起こることから、樹脂材料に添加することで樹脂材料の燃焼を抑制する効果が期待できる。
さらに、「本発明の難燃剤」では380℃付近で同様に酸化鉄と硫酸成分の反応が起こるが、鉄ミョウバンを主成分とする化合物が生成する。そして、鉄ミョウバンは、溶融状態を600℃まで維持するため、これが樹脂材料の表面を覆うことによって酸素を遮断する効果が期待できる。
なお、図2における「本発明の難燃剤」には、リン酸鉄を混合していなかったが、実際にはリン酸鉄を混合しているため、鉄ミョウバンの生成が促進されるとともに、リン成分が周辺の有機物の炭化を促進し、さらに難燃性を高めることができる。
【0030】
図3は、基材自体(発泡ポリウレタン)、基材に従来の難燃剤を添加した難燃性樹脂材料及び基材に本発明の難燃剤を添加した難燃性樹脂材料の熱分析結果を示すグラフである。図中に「基材」と記載されているのは発泡ポリウレタン自体を示し、「従来の難燃剤」と記載されているのは発泡ポリウレタンに従来の難燃剤を添加した難燃性樹脂材料を示し、「本発明の難燃剤」と記載されているのは発泡ポリウレタンに本発明の難燃剤を添加した難燃性樹脂材料を示している。
示差熱分析結果のグラフである図3(a)及び熱重量測定結果のグラフである図3(b)から、「基材」では、200℃付近から酸化が起こり始め、350℃付近の小さなピーク地点で可燃性のガスを発生した後、炭化しながら550℃付近で炭化物が燃焼していることが分かる。
また、「従来の難燃剤」では、350℃付近における可燃性ガスの発生ピークは抑えられているが、500℃付近に急激な重量減少を伴う燃焼ピークが観察される。そのため、実際の火災では、発泡ポリウレタンが燃え上がってしまうものと予想される。
これに対して、「本発明の難燃剤」では、400~500℃において連続的に酸化反応が起こり発熱しているが、500℃以降では発熱が起こっていない。そして、「基材」における550℃付近の急激な発熱や「従来の難燃剤」における500℃付近の急激な発熱は生じていないことから、燃焼は起こっていないものと考えられる。そのため、実際の火災では、黒くなり炭化はするものの形状は維持されるものと予想される。
【0031】
図4は、未処理の発泡スチロール成形体(縦8cm、横5cm)及び実施例7の難燃性樹脂材料を塗布した発泡スチロール成形体(縦10cm、横5cm)の燃焼実験結果を示す写真である。
図4(a)は、前者の成形体を吊り下げておき、下方にろうそくの炎を当てて1分間経過した状態を示す写真、図4(b)は、後者の成形体を吊り下げておき、下方にろうそくの炎を当てて1分間経過した状態を示す写真、図4(c)は、図4(b)の状態からさらに1分間経過後にろうそくを外した時の状態を示す写真である。
これらの写真から、前者の成形体は延焼が進み燃え上がってしまうことが分かり、後者の成形体は図4(b)に示すように全く延焼することなく、長時間ろうそくの火を当てた後でも、ろうそくの煤が付着するにとどまることが分かる。
【0032】
実施例1~8の難燃剤や難燃性樹脂材料の製造方法の変形例を列記する。
(1)実施例1~3においては、撹拌装置にヘンシェルミキサーを用いたが、ヘンシェルミキサー以外の撹拌羽根を回転させるタイプの撹拌機、ボールミル、振動撹拌機等いずれのタイプの撹拌装置を利用しても良い。
(2)実施例1~4、6及び7においては、加熱手段を特定していないが、ホットプレートや内部の温度を300℃程度までの任意の温度に保持できる焼成器等、粉末を加熱できるもの又は電熱器等発泡樹脂を加熱できるものであれば、どのような装置を利用しても良い。
【0033】
(3)実施例7及び8においては、難燃剤を水性塗料に混合したが、水性塗料に限らず各種塗料に混合しても良く、塗料としては酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、塩化ゴム系、ポリウレタン樹脂系、ふっ素樹脂系、ニトロセルロース系及びフタル酸樹脂系塗料の中から選択すれば良い。
また、難燃剤は塗料に対して2~60%含有させれば、難燃性塗料として機能するが、30~60%含有させれば、より効果の高い難燃性塗料を得ることができる。
(4)難燃剤を添加するポリオレフィン系の樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂及びブタジエンの中からいずれかの樹脂を選択すれば良い。
(5)難燃剤を添加する反応硬化型樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の中からいずれかの樹脂を選択すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、非常に性能の良い難燃剤が得られるので、各種の樹脂材料にその難燃剤を添加し成形することによって難燃性樹脂材料成形体を作製でき、接着性を有する樹脂材料や水性塗料にその難燃剤を混合したものを各種成形体の表面に塗布することによって各種成形体を難燃化することができ、また、セルロースファイバー等にその難燃剤を混ぜ合わることによって優れた断熱材を作製できる。
図1
図2
図3
図4