(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】水素製造方法及びその残渣物の再利用方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/08 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C01B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2020090563
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】514169714
【氏名又は名称】アルハイテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】水木 伸明
(72)【発明者】
【氏名】麻生 善之
(72)【発明者】
【氏名】高坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 孝明
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和範
(72)【発明者】
【氏名】原 裕之
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-107895(JP,A)
【文献】国際公開第99/038802(WO,A1)
【文献】特開2010-001175(JP,A)
【文献】特開昭60-071522(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0033382(US,A1)
【文献】特開2003-190906(JP,A)
【文献】特開平11-207285(JP,A)
【文献】特開平11-140555(JP,A)
【文献】特開平11-319753(JP,A)
【文献】特開2017-217606(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1055456(KR,B1)
【文献】特開昭51-136599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 - 6/34
C01F 7/34
C01F 7/42
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の切粉とアルカリ性水溶液とを反応させて水素を発生させるステップと、
前記アルミニウム合金中の前記アルカリ性水溶液に溶解した溶液成分と、溶解されずに残った固形物とを分離するステップとを有し、前記固形物を再利用する
ものであり、
前記アルミニウム合金の切粉はアルミダイカスト鋳造に用いられたSi:9.6~12.0%,Cu:1.5~3.5%含有するJIS ADC12の切粉であり、
前記固形物からシリコン又は/及び銅を利用することを特徴とする水素製造残渣物の再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金を原材料として水素を製造する場合に、水素製造機で発生する残渣物の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム又はアルミニウム合金をアルカリ水溶液と反応させると水素が発生し、アルミニウムはアルカリ水溶液中にアルミン酸イオンとして溶解する。
アルカリ水溶液が水酸化ナトリウムの場合には、アルミン酸ナトリウムとして溶解する。
また、アルカリ水溶液が水酸化カリウムの場合には、アルミン酸カリウムとして溶解する。
アルミン酸ナトリウム及びアルミン酸カリウムの水溶液から水不溶性の水酸化アルミニウムとして回収し、アルカリ水溶液は再利用できる。
例えば特許文献1には、回収アルミ缶を用いた水素製造装置を開示する。
本発明者らは、水素製造原料として純アルミニウムではなく、例えばアルミダイカスト鋳造品の製造過程で発生した切粉等を原料にして水素製造を検討した。
この種のアルミニウム合金には、鋳造性や高強度の目的に応じてシリコン,銅等の各種添加成分が多く、この添加成分の影響を調査し検討した結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アルミニウム合金を用いた水素製造に関し、特にアルミニウム合金を用いた各種製品の製造過程で発生する端材や、切粉等を用いた水素製造における残渣物の再利用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水素製造残渣物の再利用方法は、アルミニウム合金とアルカリ性水溶液とを反応させて水素を発生させるステップと、前記アルミニウム合金中の前記アルカリ性水溶液に溶解した溶液成分と、溶解されずに残った固形物とを分離するステップとを有し、前記固形物を再利用することを特徴とする。
【0006】
本発明は、アルミニウム合金に含まれていて、アルカリ水溶液に溶出しない成分、あるいは一部溶出するが溶出する割合が少ない例えばシリコン,銅,亜鉛,マグネシウム,ニッケルの成分等を回収し、再利用できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、各種アルミニウム合金の切粉や端材を原料に水素を製造することができるとともに、その含有合金成分を再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(a)は水素製造の原材料に用いたアルミの切粉を示し、(b)は水素製造後の残渣物、(c)は反応液から回収した水酸化アルミニウムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
アルミニウム合金の切粉を用いた水素の製造例にて本発明を以下説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0010】
本発明に用いられるアルミニウム合金は、純アルミニウム系でなければJISに規定されている各種合金を用いることができる。
特に鋳造用合金には、添加成分が多く、本発明が有効である。
以下、アルミダイカスト鋳造に用いられているJIS ADC12の切粉で実験したので、説明する
JIS ADC12の化学成分は、下記のとおりである。
Si:9.6~12.0%
Cu:1.5~3.5%
Mg:0.3%以下
Zn:1.0%以下
Fe:1.3%以下
Ni:0.5%以下
Mn:0.5%以下
残部がAl
【0011】
アルミダイカスト鋳造品を機械加工する際に発生した切粉の外観を
図1(a)に示す。
この切粉と水酸化ナトリウムのアルカリ水溶液を反応させて、水素を製造した。
反応終了後にフィルターで固液分離し、得られた固形物の写真を
図1(b)に示す。
アルカリ水溶液に溶けずに残った残渣物は、黒色を示していた。
この黒色残渣物の成分を分析したところ、Si,Cu,Mg,Ni,Fe等が多く検出された。
【0012】
一方、固液分離にて得られた水溶液には、上記の成分のうち、Cu,Niは検出されず、Siの量は僅かであった。
次に、この溶液を冷却し、溶液中のアルミン酸イオンを水酸化アルミニウムとして折出させ、回収した写真を
図1(c)に示す。
水酸化アルミニウムも工業用に利用できる。
水酸化アルミニウムの回収後の水溶液は、水素製造のアルカリ水溶液として再利用できた。
【0013】
以上のことから、アルミニウム合金の切粉を用いてアルカリ水溶液との反応により、水素を製造する際にADC12に多く含まれている添加成分は、反応残渣物として回収できることが明らかになった。
本実施例は、ADC12の切粉を用いたものであるが、本発明におけるプロセスは、いろいろなアルミニウム合金に適用できる。
特に製品の製造過程で発生する切粉等を用いて水素を製造し、その反応溶液から得られる水酸化アルミニウムの利用のみならず、反応残渣物に含まれる成分の利用に有効である。