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特許7535274リチウム空気電池及びこれに用いる酸素流路
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】リチウム空気電池及びこれに用いる酸素流路
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20240808BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M4/86 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022008855
(22)【出願日】2022-01-24
(65)【公開番号】P2023107591
(43)【公開日】2023-08-03
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 絢太郎
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-073765(JP,A)
【文献】特開2011-146339(JP,A)
【文献】特開2015-018679(JP,A)
【文献】特開2016-152125(JP,A)
【文献】特開2000-082505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、非水系電解液を充填させたセパレータと、正極とを備えるリチウム空気電池であって、
前記負極は、リチウムを含む負極活物質層と負極集電体とを備え、
前記正極は、多孔質構造の正極層と、正極活物質として酸素を取り込むための酸素流路とを備え、
前記酸素流路が正極集電体としても機能するか、又は、正極がさらに正極集電体を備え、
前記酸素流路として、以下の条件を満たす酸素流路材料を用いる、リチウム空気電池:
(1)前記酸素流路材料の空隙率は60%以上であり、
(2)前記酸素流路材料は、以下の式:
撥電解液度=1-[酸素流路材料が吸収した非水系電解液量/酸素流路材料の空隙量]
(ただし、酸素流路材料が吸収した非水系電解液量は、前記空気電池を構成する前に、予め、15×15mmのサイズにカットした酸素流路のみを乾燥して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積と、当該酸素流路を前記非水系電解液に1分間浸漬して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積との差に基づいて算出し、酸素流路の空隙量は、前記空気電池を構成する前の、当該酸素流路の空隙量に基づく)
で定義される撥電解液度が、0.80以上0.98以下である。
【請求項2】
前記正極が、前記酸素流路の両面に前記正極層を積層してなり、前記負極が、前記負極集電体の両面に前記負極活物質層を積層してなる、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸素流路。
【請求項4】
撥電解液性を有する有機化合物が表面にコーティングされている、請求項1~のいずれか一項に記載の酸素流路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質として酸素を取り込むための酸素流路を備えた正極を有するリチウム空気電池、及びこれに用いる酸素流路に関する。
【背景技術】
【0002】
IoTやドローンタクシーなど次世代デバイスの登場に伴い、高容量で、軽量かつコンパクトな電池の需要が高まっている。各種電池の中でも、リチウム空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質としてリチウムを用いる電池であるため、これらの要求に応える二次電池として期待されている。
【0003】
リチウム空気電池の例として、例えば、特許文献1には、空気リチウム電池の高容量化を目的として、直径1nm以上の細孔の占める細孔容積が1.0ml/g以上の炭素質物を集電体表面に担持させた正極と、負極活物質を具備する負極と、正極および負極に挟まれ、非水電解質を含有するセパレータとを具備する空気リチウム電池であって、酸素の拡散を速やかに行わせるために、集電体として、メッシュ、パンチドメタル、エクスパンディドメタル等の多孔質体を用いる空気リチウム電池が開示されている。
【0004】
特許文献2には、リチウム空気電池の電池セルの積層化と、積層化による大容量化を実現するため、板状の正極基材に多孔体からなる正極材が接合された薄型正極構造体であって、正極基材又は正極材に一の側面から対向する側面に通ずるガスの流路用の溝又は孔が形成された構成の薄型正極構造体を用いることが開示されている。また、特許文献2には、そのような構成であるため、薄型正極構造体を薄型セパレータ及び薄型負極構造体と積層しても、側面における連通された溝又は孔から、空気又は酸素ガスからなる正極活物質を正極材に供給可能であり、正極材中に保持した電解液に含まれるリチウムイオンと反応をさせることができることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、亜鉛が充填された負極を有するボタン型空気電池における水分除去機能を有する撥水膜(KOH水溶液が多用され、負極を構成する亜鉛に含浸保持される電解液の電池外への不用意な洩れを防止する)が開示された先行技術文献(特許第3034110号)にヒントを得て、撥水膜などに起因する内部抵抗を低減し得る空気電池及び組電池を提供することを目的とすることが開示され、正極層と、正極層上に積層された電解質層と、電解質層上に積層された負極層を備えた空気電池において、正極層上に積層され、正極層に対して電解質層と逆側に位置する導電性液密通気層を備えること、及び当該空気電池を複数備えた組電池を提供することが開示されている。また、特許文献3には、当該組電池において、第一の空気電池の導電性液密通気層と、第一の空気電池と隣り合う第二の空気電池の負極層との間に介在し、酸素含有ガスを流通する流路が形成されていることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、亜鉛と亜鉛に含浸された電解液が充填された負極を有するボタン型空気電池における撥水膜(電解液が電池外に漏出するのを防止する機能を果たす)が開示された先行技術文献(特開平11-54130号公報)にヒントを得て、ガス透過性及び導電性を両立させて空気電池の高出力化を実現し、空気電池の直列接続に有用な電極構造体を提供することを目的とすることが開示され、当該電極構造体が、負極を構成する負極集電体層、正極に対するガス流路を形成するガス流路形成層、正極を構成する液密通気層及び触媒層を順に積層した構造を有し、負極集電層、ガス流路形成層、液密通気層及び触媒層が、導電性炭素材料を含有する材料から成り、負極集電体層が電解液に対す撥液性を有していることが開示されている。
【0007】
しかしながら、上記のいずれの文献にも、後述する本発明の課題である、酸素流路の高い空隙率とスクイズ効果の抑制との両立について記載も示唆もされておらず、ましてや、酸素流路の空隙率が高かったとしても、好ましからざる当該スクイズ効果のために、リチウム空気電池のサイクル特性が著しく悪化し得ることについて記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-015737号公報
【文献】特開2013-073765号公報
【文献】特開2013-077548号公報
【文献】特開2015-079592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでの空気電池(従来の積層型の空気電池も含む)では、小型化、軽量化、大容量化などの当該空気電池が潜在的に有する能力を十分に引き出せているとはいえず、当該能力の向上が希求されている。その原因の一つが正極(具体的には、正極層、酸素流路及び集電体から構成される構造体)にある。当該酸素流路を「酸素流路構造体」又は「酸素流路層」と呼ぶこともあり、また、当該集電体を、負極を構成する集電体(すなわち、「負極集電体」)と意図的に区別するため、「正極集電体」と呼ぶこともある。
本発明者らは、非水系電解液を用いるリチウム空気電池のサイクル性能を低下させる要因として、スクイズ効果に着目した。本明細書においてスクイズ効果とは、リチウム空気電池の放電反応時に正極でLiが析出することにより、その析出体積分の非水系電解液が他の場所に押し出されてしまうことを指す。本発明者らは、リチウム空気電池の放電反応時に、このような好ましからざるスクイズ効果が生じて正極層中に必要な電解液が不足し(所謂、「液枯れ」が生じ)、ひいては、リチウム空気電池のサイクル特性が悪化するとの仮説を構築した。このことは、積層単位ごとに酸素流路を備えている積層型のリチウム空気電池でも、特に問題となり得る。とりわけ、高エネルギー密度化を目的として設計されたリチウム空気二次電池では、軽量化のために非水系電解液の使用量を限界まで少なく設計しており、当該使用量を減らせば減らすほど、スクイズ効果によって正極層中において不足する電解液量が問題となる。しかも、スクイズ効果によって酸素流路内で析出したLiに起因して、酸素流路の一部が閉塞することにより、正極活物質である酸素の透過率の低減を招き、これらが相まって、リチウム空気電池の容量低下、過電圧上昇などが生じて、著しいサイクル性能の劣化を招来することとなり得る。
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであって、酸素流路において良好な酸素供給を実現しつつ、スクイズ効果を抑制して正極層中における電解液量の不足を緩和し、サイクル特性が向上したリチウム空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、軽量化に適している酸素流路の一例として、ガス拡散層(GDL)を検証し、GDL断面(側面)からの均一で良好な酸素供給を考慮して、酸素流路材料に一定の高い空隙率を求める一方で、スクイズ効果を抑制してリチウム空気電池のサイクル特性が向上する手段を鋭意検討した。その結果、酸素流路に非水系電解液が染み込みにくい撥電解液処理を行い、撥電解液性を付与することで、リチウム空気電池の放電に伴い電解液が少しだけ酸素流路へと移動するものの、充電に伴いスムーズに正極層に戻るようにして、好ましからざるスクイズ効果を抑制し、リチウム空気電池のサイクル特性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 負極と、非水系電解液を充填させたセパレータと、正極とを備えるリチウム空気電池であって、
前記負極は、リチウムを含む負極活物質層と負極集電体とを備え、
前記正極は、多孔質構造の正極層と、正極活物質として酸素を取り込むための酸素流路とを備え、
前記酸素流路として、以下の条件を満たす酸素流路材料を用いる、リチウム空気電池:
(1)前記酸素流路材料の空隙率は60%以上であり、
(2)前記酸素流路材料は、以下の式:
撥電解液度=1-[酸素流路材料が吸収した非水系電解液量/酸素流路材料の空隙量]
(ただし、酸素流路材料が吸収した非水系電解液量は、前記空気電池を構成する前に、予め、15×15mmのサイズにカットした酸素流路のみを乾燥して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積と、当該酸素流路を前記非水系電解液に1分間浸漬して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積との差に基づいて算出し、酸素流路の空隙量は、前記空気電池を構成する前の、当該酸素流路の空隙量に基づく)
で定義される撥電解液度が、0.80以上0.98以下である。
[2] 前記酸素流路が正極集電体としても機能するか、又は、正極がさらに正極集電体を備える、[1]に記載のリチウム空気電池。
[3] 前記正極が、前記酸素流路の両面に前記正極層を積層してなり、前記負極が、前記負極集電体の両面に前記負極活物質層を積層してなる、[1]又は[2]に記載のリチウム空気電池。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の酸素流路。
[5] 撥電解液性を有する有機化合物が表面にコーティングされている、[1]~[4]のいずれかに記載の酸素流路。
【発明の効果】
【0012】
本発明の撥電解液性を示す酸素流路を正極の構成要素に用いることで、高エネルギー密度設計されたリチウム空気二次電池において電解液のスクイズ効果による性能劣化が抑制され、サイクル特性に優れた高エネルギー密度のリチウム空気電池が実現することができる。
また、本発明の撥電解液性と導電性とを示す酸素流路材料を、正極の酸素流路に用いることで、正極側の積層単位を軽量化した構造として設計することができ、しかも、酸素流路において良好な酸素供給を実現しつつ、スクイズ効果を抑制して正極層中における電解液量の不足を緩和し、サイクル特性が向上したリチウム空気電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態であるリチウム空気電池の構造を示す断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態であるリチウム空気電池の構造を示す断面模式図である。
図3】本発明の一実施形態である積層型のリチウム空気電池の構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
<酸素流路>
酸素流路は、酸素が透過できる酸素流路としての機能と正極集電体としての機能を備えるものである(酸素流路兼正極集電体)。なお、酸素流路は、酸素流路としての機能と集電体としての機能を別にしてもよい。すなわち、酸素流路と集電体(正極集電体)をそれぞれ、独立して備えるものであってもよい。
後述する実施例では、酸素流路兼正極集電体として、燃料電池のガス拡散層に使用されることがある炭素系のガス拡散層(GDL)を用いたが、酸素を透過することができ、かつ集電機能を備えるものであれば必ずしも炭素系のGDLには限定されず、ステンレスやアルミニウム、ニッケル等の金属メッシュやポリエステル、ポリイミド、テトラフルオロエチレン等の高分子多孔体やメッシュを用いてもよい。
【0016】
酸素流路には、以下の条件を満たす酸素流路材料を用いて、リチウム空気電池を構成することができる。すなわち、
(1)前記酸素流路材料の空隙率は60%以上であり、
(2)前記酸素流路材料は、以下の式:
撥電解液度=1-[酸素流路材料が吸収した非水系電解液量/酸素流路材料の空隙量]
(ただし、酸素流路材料が吸収した非水系電解液量は、前記空気電池を構成する前に、予め、15×15mmのサイズにカットした酸素流路のみを乾燥して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積と、当該酸素流路を前記非水系電解液に1分間浸漬して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積との差に基づいて算出し、酸素流路の空隙量は、前記空気電池を構成する前の、当該酸素流路の空隙量に基づく)
で定義される撥電解液度が、0.80以上0.98以下である。
後述する実施例では、上記(1)の条件を満たす酸素流路材料を用いて、上記(2)の条件を満たすように、後述する撥電解液処理を行い、25mm×20mmに切り出して用いた。
上記(1)の条件について、酸素流路材料の空隙率は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは80%以上であり、好ましくは95%以下であり、より好ましくは90%以下である。上記の下限値以上とすることにより、酸素供給量を確保して空気電池としての良好な連続充放電に寄与することができる。また、上記の上限値以下とすることにより、強度を確保して多孔質構造の安定的な維持に寄与することができる。
上記(2)条件について、撥電解液度は、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.90以上であり、好ましくは0.98以下であり、より好ましくは0.96以下である。撥電解液度が小さすぎると、好ましからざるスクイズ効果により、サイクル特性が悪化するので好ましくない。また、撥電解液度が大きすぎると、放電に伴い電解液が染み出した際に、染み出した電解液を酸素流路で全く又はほとんど吸収できず、外部の周辺に染み出した電解液が戻れずにサイクル特性が悪化するので好ましくない。
【0017】
<撥電解液処理の方法(酸素流路の製造方法)>
撥電解液処理の方法としては、所定の撥電解液度を達成するために有効な方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、撥電解液性を有する有機化合物を表面にコーティングして、撥電解液性の調整を行う方法が挙げられる。撥電解液性を有する有機化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系有機高分子類の溶液又はディスパージョン、パーフルオロポリエーテル基含有シランカップリング剤やパーフルオロオクチルトリエトキシシランなどのフッ素置換直鎖アルキルシラン類、メチルシラン類、メチル・シロキサニルシラン類、炭素数2から32までの直鎖アルキルシラン、分岐・環状アルキルシラン、フェニル・フェニルアルキルシラン、置換フェニル・フェニルアルキルシラン、ナフチルシラン、ジアルキルシランなどシランカップリング剤、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルシリコン、市販のフッ素系防汚・防水・防湿コーティング剤(ダイキン工業株式会社製オプツール、オプトエース等)などから1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
撥電解液処理の処理条件については、使用する有機化合物により異なるが、所定の撥電解液度を達成するために有効な条件であれば特に限定されるものではない。
【0018】
<撥電解液度の測定方法>
撥電解液度の測定方法は以下の通りである。まず、酸素流路材料を15×15mmのサイズにカットした後、十分に乾燥後秤量する。次いで、その酸素流路材料を、電解液を浸したシャーレに完全に浸漬させ、1分後に当該酸素流路材料を引き上げて、表面の電解液を拭き取った後に再度秤量する。このようにして、
1-[酸素流路材料が吸収した非水系電解液量/酸素流路材料の空隙量]
で定義される撥電解液度を算出した。すなわち、酸素流路材料が吸収した非水系電解液量は、空気電池を構成する前に、予め、15×15mmのサイズにカットした酸素流路のみを乾燥して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積と、当該酸素流路を前記非水系電解液に1分間浸漬して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積との差に基づいて算出し、酸素流路の空隙量は、前記空気電池を構成する前の、当該酸素流路の空隙量に基づくものである。
【0019】
<リチウム空気電池の構成>
図1及び図2は、本発明の実施形態におけるリチウム空気電池の構造を示す断面模式図である。図2は、図1において固体電解質(層)108を用いない以外は、図1と同じである。
リチウム空気電池100及び200は、正極101と負極104とが非水電解質層107(非水系電解液を充填させたセパレータ)を介して積層された積層構造体からなる。
非水電解質層107は、図1の形態の他、図2に示すように、固体電解質(層)108をさらに含まなくてもよく、非水系電解液を充填させた複数のセパレータからなっていてもよいし、1枚のセパレータからなっていてもよい。この積層構造体は、スプリング115を介して、ガラスプレート110及びステンレス板111によって拘束されている。
【0020】
正極(空気極)101
正極(空気極)101は、正極層102及び酸素流路兼正極集電体103から構成される。正極(空気極)101は、さらに正極リード(図示せず)を備えていてもよい。
【0021】
酸素流路兼正極集電体103
酸素流路兼正極集電体103は、正極活物質としての酸素が透過できる酸素流路としての機能と集電体としての機能を備えるものである。酸素流路兼正極集電体103は、酸素流路としての機能と集電体としての機能を別にしてもよい。すなわち、酸素流路と正極集電体をそれぞれ、独立して備えるものであってもよい。
酸素流路兼正極集電体として、燃料電池のガス拡散層(GDL)に使用されることがある炭素系の材料(例えば、カーボンペーパー(TGP-060、東レ株式会社製))を用いて、撥電解処理を行うことができるが、酸素を透過することができ、かつ集電機能を備えるものであれば必ずしもカーボンペーパーには限定されず、例えば、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有するメッシュなどを用いてもよく、ポリエステル、ポリイミド等の絶縁性の高分子多孔体とポリエステルメッシュにニッケルメッキした導電性メッシュ等を併用してもよい。
酸素流路兼正極集電体103には、以下の条件を満たす酸素流路材料を用いて、リチウム空気電池を構成することができる。すなわち、
(1)前記酸素流路材料の空隙率は60%以上であり、
(2)前記酸素流路材料は、以下の式:
撥電解液度=1-[酸素流路材料が吸収した非水系電解液量/酸素流路材料の空隙量]
(ただし、酸素流路材料が吸収した非水系電解液量は、前記空気電池を構成する前に、予め、15×15mmのサイズにカットした酸素流路のみを乾燥して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積と、当該酸素流路を前記非水系電解液に1分間浸漬して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積との差に基づいて算出し、酸素流路の空隙量は、前記空気電池を構成する前の、当該酸素流路の空隙量に基づく)
で定義される撥電解液度が、0.80以上0.98以下である。
酸素流路に用いる酸素流路材料、撥電解液処理の方法、及び撥電解液度の測定方法については、上述した通りである。
【0022】
正極層(空気極層)102
正極層(空気極層)102は導電性があり、多孔質構造であることが必要である。正極層の材質としては、炭素、金属、炭化物、酸化物などが挙げられるが、炭素が好ましく、炭素物質を主体とする多孔質構造の正極層を含む正極を好適に用いることができる。多孔質構造の正極層(空気極層)は、放電反応で生成する過酸化リチウムが析出する反応場となる。
正極層102、すなわち多孔質構造の空気極層は、一例として、材料混合工程(合剤スラリー作製工程)、シート成型工程(成型工程)、溶媒浸漬工程、乾燥工程、及び焼成工程(不融化工程、炭素化工程からなる2段階熱処理の工程としてもよい)を含む製造方法によって得ることができる。
【0023】
正極層(空気極層)102の製造方法
材料混合工程(合剤スラリー作製工程)は、例えば、多孔質炭素粒子を50重量%以上80重量%以下、炭素繊維を1重量%以上15重量%以下、結着用高分子材料を5重量%以上49重量%以下となるように秤量し、それらを均一に分散するため、N-メチルピロリドンからなる溶媒を用いて炭素多孔質体正極の合剤塗料(合剤スラリー)を調製する工程である。
ここで、多孔質炭素粒子としては、上述のとおり、ケッチェンブラック(登録商標)を含むカーボンブラック、その他テンプレート法にて形成された炭素粒子などを用いることができる。
炭素繊維としては、例えば、繊維径が0.1μm以上20μm以下、長さが1mm以上20mm以下の炭素繊維を用いることができる。
結着用高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデンを用いることができる。
溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)などを用いることができる。
【0024】
シート成型工程は、前記合剤塗料(合剤スラリー)を成型する工程である。シート成型方法は特に制限されないが、例えば、公知のドクターブレードなどを用いた湿式製膜法を挙げることができる。その他にも、ロールコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、スプレーコーティング法などを挙げることもできる。成型後の形は、目的に応じて様々な形とすることができる。
【0025】
溶媒浸漬工程は、非溶媒誘起相分離法にて、結着用高分子材料に対する溶解度が低い溶媒中に前記シート成型工程で成型した試料(シート)を浸漬し、多孔質膜化する工程である。溶媒浸漬工程で用いられる溶媒としては、例えば、水、及びエチルアルコール(エタノール)、メチルアルコール(メタノール)、イソプロピルアルコール(イソプロパノール)などのアルコール、並びに、これらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0026】
乾燥工程は、試料から各種溶媒を揮発させる工程である。乾燥方法としては、乾燥空気環境下に置く方法、減圧乾燥法、真空乾燥法などを挙げることができる。この乾燥工程では、乾燥速度を速めるために、溶媒の沸点を超える程度の温度で加温してもよい。
【0027】
焼成工程は、前記乾燥工程後の試料(シート)を焼成処理する工程である。焼成処理は、例えば、オーブン炉、赤外線照射、ベーク炉などを用いて行うことができる。
ここで、焼成工程は、一度の熱処理とすることもできるが、不融化と焼成の2段階熱処理とすることもでき、2段階熱処理の工程を、それぞれ不融化工程、炭素化工程と称してもより。焼成の熱処理温度は800℃以上1400℃以下が好ましく、そのときの雰囲気はアルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガスなどによる不活性雰囲気が好ましい。
例えば、結着用高分子としてPANを用いた場合は、約300℃で空気中にて不融化させる熱処理を行い、その後、Arガス、Nガスなどによる不活性雰囲気中にて800℃以上1400℃以下の熱処理を行うことが好ましい。
【0028】
以上の工程により、自立性を有するのに十分で実用的な機械的強度を有する正極層102(空気極層)が製造される。この正極層102(空気極層)は、自立性を有するとともに、高い空気透過性、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備える。
【0029】
負極104
負極104は、リチウムを含む負極活物質層を含む必要があり、集電体をさらに備えてもよい。負極104として、例えば、負極集電体106と、その上にリチウムを含む負極活物質層105からなる構造体を挙げることができる。負極活物質層105としては、リチウムを吸放出する金属又は合金からなる材料を挙げることができ、代表的にはリチウム金属を挙げることができる。負極集電体106としては、例えば銅箔を用いることができる。
非水電界質層107
【0030】
正極(空気極)101と負極104の間には非水電解質層107が配置される。
非水電解質層は、1枚のセパレータのみからなっていてもよいが、1以上のセパレータを含んでもよく、2以上のセパレータを含んでもよく、固体電解質(層)をさらに含んでもよい。一例として、非水電解質層107は、固体電解質(層)108及びセパレータ109から構成される。一実施形態では、非水電解質層は、2以上のセパレータを含み、当該セパレータ間に固体電解質の層を備える。別の実施形態では、1以上のセパレータの上に、固体電解質の層が形成されている。さらに別の実施形態では、セパレータの外縁が、正極層及び負極活物質層の外縁の外側にあり、且つ、固体電解質の層の外縁が、セパレータの外縁と略等しいか、又はセパレータの外縁よりも外側にある。このように、非水電解質層が、セパレータと固体電解質(層)とを特定の位置関係において備える構成を採用することにより、正極側非水系電解液と負極側非水系電解液が、セパレータを通じて移動することを抑制することができる。
セパレータ109
【0031】
セパレータ109としては、リチウムイオンが通過可能であり、多孔質構造の絶縁性材料で、かつ、正極層(空気極層)102、負極活物質層105、及び電解液との反応性を有さない任意の無機材料、又は有機材料が適用される。また、セパレータ109は電解液を保液する役割も果たす。この条件を満たせば、特に制限はなく、既存の金属電池に使用されるセパレータを使用することができる。例えば、セパレータ109は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィンなどの合成樹脂からなる多孔質膜(例えば、熱溶融性の微多孔質膜)、ガラス繊維及び不織布からなる群から選択される。
セパレータ109は、正極(空気極)101と負極104との間の短絡を防ぐため、各活物質層よりも大きなサイズにすることが好ましい。
【0032】
固体電解質(層)108
任意に固体電解質ないし固体電解質層108を設けてもよい。固体電解質ないし固体電解質層108は、リチウムイオンを選択的に透過することができ、それ以外の成分を確実に遮断できる緻密な構造体であり、かつ非水系電解液と反応性を有さないことが必要である。この条件を満たせば、固体電解質ないし固体電解質層108には特に制限はなく、既存の酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、ポリマー系固体電解質が適用される。電解液の非透過性、非水系電解液との反応性を考慮すると、酸化物系固体電解質が好ましい。例えば、固体電解質(層)108としては、Li1+x+yAlTi2-xSi3-y12、Li1.5Al0.5Ge1.512(LAGP)、La0.55Li0.33TiO、LiLaZr12などが挙げられる。
【0033】
固体電解質層108は、2つのセパレータに挟まれた位置に配置されてもよいし、セパレータ上に固体電解質の粒子を塗布することによってセパレータの上に固体電解質(層)が形成されていてもよい。
正極側非水系電解液と負極側非水系電解液が、セパレータを通じて移動することを抑制するため、固体電解質層108は、セパレータ109と同じサイズか、セパレータ109よりも大きなサイズにすることが好ましい。
固体電解質層は必須ではなく、固体電解質層108とセパレータ109の1枚は省略することもできる。
【0034】
電解液
電解液としては、リチウム金属塩を含有する非水系の任意の電解液が好ましい。前記非水系電解液(又は非水電解液)において、リチウム金属塩としてリチウム塩を用いる場合は、例えば、Li(CFSON(LiTFSI)、LiNO、LiBr、LiPF、LiBF、LiSbF、LiSiF、LiAsF、LiN(SO、Li(FSON、LiCFSO(LiTfO)、LiCSO、LiClO、LiAlO、LiAlCl、LiB(Cなどのリチウム塩を挙げることができる。中でも、リチウム空気二次電池の場合、当該リチウム塩として、LiBrを含む電解液が特に好ましい。
前記非水系電解液において、非水溶媒は、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン及びスルホランからなる群から選択されるが、これらに制限されない。また、これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
固体電解質(層)108を介して、正極側非水系電解液と負極側非水系電解液は、同一組成の電解液でもよく、異なる組成の電解液でもよい。
【0035】
その他の構成
図1及び図2に示す各リチウム空気電池100及び200について、その他の構成について説明する。
リチウム空気電池100及び200は、正極層102及び負極活物質層105が正方形の形状であり、ガラスプレート110、ステンレス板111、固定ねじ112、固定用座金113、支柱114、スプリング115、スペーサ116を備えている。
下側ステンレス板111のコーナー部4か所は、円柱状の4本の支柱114とあらかじめ接合されており、また、上側のステンレス板111には支柱114に相対する位置に、支柱114が通る穴が開けられている。
【0036】
正極101、非水電解質層107、負極104及び2枚のガラスプレート110は、2枚のステンレス板111によって上下から挟み込まれる構成となっており、上側ステンレス板111の4隅の穴に支柱114が通されて挟み込まれている。上側ステンレス板111の穴を通じて突き抜けた支柱114にスペーサ116、スプリング115、固定用座金113が通されている。支柱114にはねじが切ってあり、固定用ねじ112で固定され、固定ねじ112の締め付け度合によって、ステンレス板111の間にかかる圧力を制御することができる。
【0037】
ガラスプレート110は、ステンレス板111及び支柱114を通じて、正極101と負極104とが短絡することを防ぐ絶縁体として機能している。
【0038】
<積層型のリチウム空気電池の構成>
図3は、本発明の実施形態における積層型のリチウム空気電池の構造を示す断面模式図である。 積層型のリチウム空気電池300は、正極構造体101と負極構造体104とがセパレータ109を介して積層した積層構造を備える。積層数は、正極構造体101と負極構造体104とが各々1からなる1対を単位として、1対以上複数対でよく、対の数に特段の上限はない。ここで、負極構造体104は、負極集電体106を挟んで負極活物質層105を上下に配置した構成になっており、正極構造体101についても、酸素流路兼正極集電体103を挟んで正極層102を上下に配置した構成になっている。こういったシンプルな積層構造でより容量の大きな電池を構成できるのも、自立性を有する多孔質炭素粒子を有する正極構造体ならではの特徴である。負極集電体106としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有する電極を挙げることができる。酸素流路兼正極集電体103は酸素流路を兼ねるため、カーボンペーパーやタングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を有するメッシュなどを用いてもよく、ポリエステル、ポリイミド等の絶縁性の高分子多孔体とポリエステルメッシュにニッケルメッキした導電性メッシュ等を併用することができる。なお、積層構造は、酸素を満たした収納容器(図示せず)に収容される。積層型のリチウム空気電池300は、正極構造体101が、高い空気又は酸素透過性をもっていて多量の酸素を取り込むことが可能であり、さらに高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えており、更に小型化が可能でシンプルな構造であるため、小型軽量化が可能で大容量化に適した空気電池になる。
【0039】
<リチウム空気電池の製造方法>
リチウム空気電池100ないし200の製造方法について、その一例を説明する。
【0040】
正極層(空気極層)102の製造方法に関しては、上述の通りである。
また、酸素流路兼正極集電体103に用いる酸素流路材料、撥電解液処理の方法、及び撥電解液度の測定方法については、上述した通りである。
【0041】
負極104は、例えば、次のようにして準備し、製造する。すなわち、矩形状に切り出された負極集電体106の上に、負極集電体106の短辺と同じ長さの正方形状のリチウムなどによる負極活物質層105を準備し、重なるように積層し、負極104を得る。
【0042】
次いで、負極活物質層105の上にセパレータ109を配置し、所定量の非水系電解液をセパレータ109に充填させる。
セパレータは1枚のみでもよいが、さらに、任意選択で、図1に示すように、セパレータ109の上に固体電解質層108を正方形の形状の中心が重なるように配置し、その上にセパレータ109を正方形の形状の中心が重なるように積層し、所定量の非水系電解液をセパレータ109に充填させてもよい。また、任意選択で、図2に示すように、セパレータ109の上にさらにセパレータ109を配置してもよい。セパレータからなる、又はセパレータを含む上記部材が、非水電解質層として機能し得る。
【0043】
次に、セパレータ109の上に正極層102を正方形の形状の中心が重なるように重ね、所定量の非水系電解液を正極層102に充填させてもよい。
【0044】
その後、酸素流路兼正極集電体103(予め正極リード(図示せず)が取り付けられていてもよい)を、正極層102の3辺と重なるように積層する。このとき、正極と負極の短絡を抑制するため、正極層102と重ならない部分(例えば、正極リードが取り付けられた1辺)を、負極集電体106と反対方向に取り出すことが好ましい。
【0045】
次いで、正極101、負極104及び非水電解質層107(セパレータのみからなっていてもよい)からなる積層体を、ガラスプレート110及びステンレス板111により、スプリング115及びスペーサ116を用いて拘束し、工程用座金113及び固定ねじ112で固定する。このとき、正極101、負極104及び非水電解質層107に13~14N/cmの圧力が印加されるように固定ねじで調整する。
【0046】
以上の工程で、リチウム空気電池100を得る。ここで、リチウム空気電池の組立は乾燥空気下、例えば露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。
なお、リチウム空気電池200を製造する場合は、上述の工程において、固体電解質層108を含まない以外は、リチウム空気電池100と同様に組み立てればよい。
【0047】
<リチウム空気電池の充放電特性及び充放電サイクル測定の測定方法>
リチウム空気電池の充放電特性及び充放電サイクル特性の測定方法について説明する。
充放電サイクル特性の評価には、東洋システム製充放電評価装置(TOSCAT-3100)を用いて行った。
充電条件は、印加電流を電極面積当たり0.2mA/cmの電流密度(4cmの電極を持つセルに対し0.8mA)とし、所定のカットオフ電圧に達するまで充電することができる。本発明の充電カットオフ電圧の上限値は、好ましくは4.0Vであり、下限値は、好ましくは3.7Vである。
一方、放電条件は印加電流を電極面積当たり0.4mA/cmの電流密度(4cmの電極を持つセルに対し1.6mA)とし、10時間又は2.0Vのカットオフ電圧に達するまでとし、放電容量が初期放電容量の80%以下になるまで行った。すなわち、N+1回目の放電で初期放電容量の80%を下回った場合、そのセルのサイクル数をN回と定義した。
【実施例
【0048】
以下、実施例に基づき、本発明のリチウム空気電池の作製及びその特性について、更に詳しく説明する。なお、これらの記載は本発明の実施形態の例示であって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
酸素流路兼正極集電体に、PTFEを10%コーティング処理したCarbon Paper JNT 21((株)MFCテクノロジー製)を用いて、下記の要領でリチウム空気二次電池を作製し、充放電サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
酸素流路兼正極集電体103
酸素流路兼正極集電体103には、炭素系のガス拡散層(GDL)として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を10%コーティング処理したCarbon Paper JNT 21((株)MFCテクノロジー製)を用いた。以下の式:
撥電解液度=1-[酸素流路材料が吸収した非水系電解液量/酸素流路材料の空隙量]
(ただし、酸素流路材料が吸収した非水系電解液量は、前記空気電池を構成する前に、予め、15×15mmのサイズにカットした酸素流路のみを乾燥して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積と、当該酸素流路を前記非水系電解液に1分間浸漬して秤量した重量を電解液の比重で除して得られた体積との差に基づいて算出し、酸素流路の空隙量は、前記空気電池を構成する前の、当該酸素流路の空隙量に基づく)
で定義される酸素流路材料の撥電解液度を測定したところ、表1に記載のとおり、0.96であった。この酸素流路材料を、25mmx20mmに切り出して、酸素流路兼正極集電体103として用いた。
【0051】
正極層102
(合剤スラリー作製工程)
多孔質炭素粒子としてケッチェンブラックEC600JDを75質量部、カーボンファイバーを10質量部、バインダー用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を15質量部、及びそれらを均一に分散する溶媒としてN-メチルピロリドンを加え、シンキー社製の自公転混練機ARE310で混合し、合剤スラリーを作製した。カーボンファイバーは、繊維平均径6μm、平均長さ3mmのものを用いた。
【0052】
(成型工程)
前記合剤スラリーを、ドクターブレードを用いた湿式製膜法にて、厚み300μmに成型してシート化した。
【0053】
(溶媒浸漬工程)
成型したシートをトレーに入れ、そこにメタノール220gを投入し、静置した。2時間後にトレー中のメタノールを排出し、新たにメタノール220gを投入し、17時間静置後にトレー中のメタノールを排出した。
実施例1では、PANのN-メチルピロリドン溶液中に多孔質炭素粒子と炭素繊維とが分散した状態の上記成形シートを、非溶媒(貧溶媒)であるメタノールに浸漬することで、PANが炭素粒子及び炭素繊維を結合した状態で相分離析出し、炭素粒子を骨格とした多孔質膜が生成され、N-メチルピロリドンは、ほとんどがメタノールと相溶した。
(乾燥工程)
トレーから、前記多孔質膜を取り出し、50℃で2時間、80℃で10時間の乾燥を行い、多孔質膜に含まれている揮発性の溶媒を取り除いた。
【0054】
(不融化工程)
乾燥した多孔質膜を、大気循環雰囲気下、320℃で3時間の不融化熱処理を行い、乾燥多孔質膜中のPANを、不融樹脂に変化させた。
【0055】
(炭素化工程)
不融化処理で得られた長さ90mm、幅80mmの不融化多孔質膜を、デンケンハイデンタル社のボックス型炉を用い、窒素ガスを600mL/分で流しながら、昇温速度10℃/分で1050℃まで昇温し、1050℃で3時間保持後、室温まで放冷することで、不融化されたPANを炭素化し、全炭素からなる多孔質炭素膜を得た。膜の平均厚みは170μm、単位面積当たりの平均目付量は3mg/cmであった。この多孔質炭素膜から20mm角の形状に切り出すことで、正極層102を得た。
得られた正極層のうちの1つを、電解液1mlを入れた直径40mmのシャーレに浸漬し、15分間真空含浸後、表面に残る電解液をキムタオルでふきとった後の正極重量の増加量は14.5mg/cmであった。この正極重量の増加量を、使用した電解液の比重(1.12)で除して得られた体積から充填最大量(電解液充填量が100%となる容積)を算出した。算出された充填最大量は、13.0μL/cmであった。
【0056】
負極104
負極集電体106には、厚み18μmの銅箔を60mm×20mm形状に切り出したものを用いた。負極活物質層105には、厚み100μmのリチウム箔を20mm×20mm形状に切り出したものを用いた。そして、切り出した20mm角のリチウム箔の3辺が負極集電体106の3辺に重なるように貼り合わせることで、負極104を得た。
【0057】
非水系電解液
非水系電解液は、0.5mol/LのLi(CFSON(LiTFSI)、0.5mol/LのLiNO及び0.2mol/LのLiBrの3種類の電解質をテトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)溶媒に溶解することで得た。
【0058】
固体電解質(層)108
固体電解質層には、22mm×22mm、厚さ180μmのNASICON型Li1+x+yAl(Ti,Ge)2-xSi3-y12(株式会社オハラ製固体電解質LICGCTMAG-01)を用いた。
【0059】
セパレータ109
セパレータ109には、W-SCOPE社製のポリエチレン微多孔膜(厚み20μm)を22mm角に切り出して用いた。
【0060】
リチウム空気電池(リチウム空気二次電池)100
リチウム空気二次電池100の作製(組立て)は、露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行った。負極104の負極活物質層105の上にセパレータ109を配置し、前記非水系電解液10μL(2.5μL/cm)を前記セパレータ109へ充填させた。
さらに、前記セパレータの上に、固体電解質層108(株式会社オハラ製固体電解質LICGCTMAG-01(NASICON型Li1+x+yAl(Ti,Ge)2-xSi3-y12)(22mmx22mm、厚さ180μm)及び正極用セパレータを配置した。正極の充填最大量(電解液充填量が100%となる容積)に対し、70%の注液量とした。この注液量は正極1cm当たり9.1μLに相当し、上記20mm角の正極を用いたので正極全体での注液量は36.3μLとなる。まず、真空チャンバー内に、前記方法で作製した正極1枚及び、前記テトラグライム(TEGDME)溶媒0.2mLを入れたシャーレ(φ30mm深さ10mm)を置き、直結型油回転真空ポンプにてチャンバー内を1.3Paまで減圧した。次に、チャンバー内を70℃まで加熱し、30分間保持した後、チャンバー内を大気に戻して正極を取り出した。気相吸着前後の正極重量を測定した結果、電解液の比重で除して得られた体積からこの時の正極への電解液溶媒の吸着容量は1.3μL/cmであった。次に、1つの前記正極に対し、電解液を含む部材(電解液転写用部材)として22mm角にカットしたPTFEタイプメンブレンフィルター(Advantec東洋株式会社製、直径90mm、穴径1μm)を2つ準備し、各電解液転写用部材に対し、前記電解液を3.8μL/cm(電解液転写用部材1つあたり18.1μL)となるようそれぞれマイクロピペットで測り取り、電解液転写用部材にそれぞれ滴下した。室温、大気圧下で3分間静置して電解液を転写し、その後、電解液転写用部材を取り外し、注液された正極の重量を測定して、電解液の比重で除して得られた体積から70%入っていることを確認した。注液した正極層を正方形の中心が重なるように重ね、酸素流路を正極層の3辺と重なるように積層させた後、正極リード(アサダメッシュ製ステンレス金網SHS_430/13)を取り付けた。前記積層体を、ガラスプレート110及びステンレス板111により、スプリング115を介在させて拘束し、固定用座金113及び固定ねじ112で固定した。このとき、正極101、負極104及びセパレータ109に、13~14N/cmの圧力が印加されるように固定ねじ112で調整し、リチウム空気二次電池100を得た。
このリチウム空気二次電池100は単層セルであるが、ガラスプレート110で挟み込むことにより、酸素の取り込み面を酸素流路兼正極集電体103の断面(側面)に限定した。
【0061】
<測定及び測定結果>
放電容量の測定は、東洋システム製充放電評価装置(TOSCAT―3100)を用いて行った。放電条件は、印加電流は電極面積当たり0.4mA/cmの電流密度(4cmの電極を持つセルに対し1.6mA)とし、2.0Vのカットオフ電圧に達するまで放電させることで放電容量とした。
表1に示したとおり、実施例1において、酸素流路材料の空隙率及び撥電解液度は、それぞれ88.4%及び0.96であり、充放電サイクル測定の結果、充放電サイクル特性(設定容量の80%を繰り返し可能なサイクル回数、以下同じ)は、12回であった。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、酸素流路兼正極集電体として、撥電解処理を行わずPTFEのコーティング処理をしていないCarbon Paper JNT 21((株)MFCテクノロジー)を用いた以外は、実施例1と同じ要領でリチウム空気二次電池を作製し、充放電サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
表1に示したとおり、比較例1において、酸素流路材料の空隙率及び撥電解液度は、それぞれ89.5%及び0.58であり、充放電サイクル測定の結果、充放電サイクル特性は、2回であった。
【0063】
[実施例2]
実施例1において、酸素流路兼正極集電体として、PTFEディスパージョン(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製31-JR)をカーボンペーパーTGP-H-060(東レ株式会社製、200um厚み)に塗布して乾燥後30%になるように含侵して大気雰囲気下360℃で30分の処理を行ったものを用いた以外は、実施例1と同じ要領でリチウム空気二次電池を作製し、充放電サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
表1に示したとおり、実施例2において、酸素流路材料の空隙率及び撥電解液度は、それぞれ74.2%及び0.95であり、充放電サイクル測定の結果、充放電サイクル特性は、15回であった。
【0064】
[実施例3]
実施例1において、酸素流路兼正極集電体として、FEPディスパージョン(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製120-JRB)をカーボンペーパーTGP-H-060(東レ株式会社製、200um厚み)に塗布して乾燥後10%になるように含侵して大気雰囲気で340℃で30分の処理を行ったものを用いた以外は、実施例1と同じ要領でリチウム空気二次電池を作製し、充放電サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
表1に示したとおり、実施例3において、酸素流路材料の空隙率及び撥電解液度は、それぞれ80.0%及び0.95であり、充放電サイクル測定の結果、充放電サイクル特性は、16回であった。
【0065】
[比較例2]
実施例2において、酸素流路兼正極集電体として、撥電解処理を行わずPTFEのコーティング処理をしていないカーボンペーパーTGP-H-060(東レ株式会社製、200um厚み)を用いた以外は、実施例2と同じ要領でリチウム空気二次電池を作製し、充放電サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
表1に示したとおり、比較例2において、酸素流路材料の空隙率及び撥電解液度は、それぞれ80.7%及び0.48であり、充放電サイクル測定の結果、充放電サイクル特性は、6回であった。
【0066】
【表1】


(補足) 本願明細書の記載のみに基づいて表1を補足すると、順に、実施例1、比較例1、実施例2、実施例3及び比較例2のそれぞれについて、(i)「酸素流路の空隙量」(μl)の数値は、表1の厚み(μm)から17.8、17.0、19.8、20.2、19.1であることが明らかであり、(ii)「流路が吸収した電解液量(平均値)」(μl)の数値は、表1の平均(mg/cm )を電解液(1.12)の比重で除して得られた体積から0.696、7.1、0.98、0.98、9.9であることが明らかであり、「流路が吸収した電解液量(平均値)/「酸素流路の空隙量」の数値は、上記の(ii)/(i)から、0.04、0.42、0.05、0.05、0.52であることが明らかである。本願明細書に繰り返し記載されているとおり、上記の(ii)/(i)を1から引き算することにより、撥電解液度が求められる。なお、上記の(i)及び(ii)はいずれも体積であって、単位はいずれも(μl)である。
表1から明らかなとおり、撥電解処理を行っていない酸素流路を用いた比較例1及び2では、酸素流路材料の空隙率が80.7%~89.5%と比較的高いところ、酸素流路材料の撥電解液度は0.48~0.58と低く、その結果、充放電サイクル特性は2回~6回と極めて低いことが観測された。
一方で、比較例1及び2とは異なり、撥電解処理を行った酸素流路を用いた実施例1~3では、酸素流路材料の空隙率が74.2%~88.4%と比較的高いところ、酸素流路材料の撥電解液度は0.95~0.96と相対的に高く、その結果、充放電サイクル特性は12回~16回と高く、比較例との差異が明確に観測された。
表1から、酸素流路材料の空隙率が74.2%~88.4%と比較的高くても、撥電解処理を行って酸素流路材料の撥電解液度を相対的に高くすることで、充放電サイクル特性が明確に改善されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、高エネルギー密度設計のため電解液量を制限したリチウム空気電池においてもサイクル特性の向上が期待できるため、小型化、軽量化、大容量化などのリチウム空気電池が潜在的に有する能力を一層向上させることが可能になる。そのため、本発明は、小型・軽量で大容量化に適したリチウム空気電池への利用可能性があり、今後需要が大幅に拡大すると見込まれるリチウム空気電池に好んで用いられることが期待される。
【符号の説明】
【0068】
100、200 リチウム空気電池(リチウム空気二次電池)
101 正極、正極構造体
102 正極層
103 酸素流路兼正極集電体
104 負極、負極構造体
105 負極活物質層
106 負極集電体
107 非水電解質層
108 固体電解質(層)
109 セパレータ
110 ガラスプレート
111 ステンレス板
112 固定ねじ
113 固定用座金
114 支柱
115 スプリング
116 スペーサ
300 積層型のリチウム空気電池
図1
図2
図3