(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/26 20240101AFI20240808BHJP
【FI】
G06Q50/26
(21)【出願番号】P 2023028087
(22)【出願日】2023-02-27
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591115475
【氏名又は名称】株式会社三菱総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 良明
(72)【発明者】
【氏名】大熊 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 直久
(72)【発明者】
【氏名】平山 修久
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-280444(JP,A)
【文献】特許第7113590(JP,B1)
【文献】特開2022-081072(JP,A)
【文献】特開2014-142907(JP,A)
【文献】特開2022-013392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付部と、
前記災害情報を算出モデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出部と、
を備え
、
前記算出モデルではアセット毎に耐えられる災害の種類又は大きさとアセットの下流についての情報が設定されており、前記算出部は、あるアセットが破損したと判断された場合に当該あるアセットの下流側に位置する別のアセットは機能しないものとして前記経済的損失を算出する、情報処理装置。
【請求項2】
発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付部と、
前記災害情報を算出モデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出部と、
を備え、
前記災害情報はある災害が発生する確率を含み、
前記算出モデルでは、アセット毎に災害の大きさに応じた被害確率が設定されており、
前記算出部は、ある災害が発生することによって機能しなくなるアセットの評価を元に、当該ある災害に起因するインフラ供給ネットワークの下流部分に該当する需要家の経済的損失と当該ある災害が発生する確率とを用いて、所定地域で発生する生産量低下を算出する
、情報処理装置。
【請求項3】
前記算出部は、対象となるインフラの平常時評価指標と、前記経済的損失とを用いて、対策の優先度を決定する、請求項1
又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記経済的損失は、対象となるインフラの修理に必要な費用を含む、請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記算出部は、対策前の対策前情報と前記災害情報を前記算出モデルに適用することで、前記所定地域における対策前経済的損失を算出し、かつ想定される対策を取った後の対策後情報と前記災害情報を前記算出モデルに適用することで、前記所定地域における対策後経済的損失を算出する、請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記想定される対策に必要な費用と、前記対策前経済的損失と前記対策後経済的損失との差分を出力する出力部を備える、請求項
5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記算出部は、所定期間においてある災害が発生する確率を用いて、当該所定期間における経済的損失を算出する、請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記生産量低下は、前記所定地域に存在する工場での生産停止による生産量低下を含む、請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項9】
受付部によって、発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける工程と、
算出部によって、前記災害情報を
算出モデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する工程と、
を備え、
前記算出モデルではアセット毎に耐えられる災害の種類又は大きさとアセットの下流についての情報が設定されており、前記算出部は、あるアセットが破損したと判断された場合に当該あるアセットの下流側に位置する別のアセットは機能しないものとして前記経済的損失を算出する、情報処理方法。
【請求項10】
情報処理装置にインストールされるプログラムであって、
前記プログラムがインストールされた情報処理装置に、
発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付機能と、
前記災害情報を
算出モデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出機能と、
を実行させ
、
前記算出モデルではアセット毎に耐えられる災害の種類又は大きさとアセットの下流についての情報が設定されており、前記算出機能は、あるアセットが破損したと判断された場合に当該あるアセットの下流側に位置する別のアセットは機能しないものとして前記経済的損失を算出する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害が発生した場合に所定地域で発生する経済的損失を算出する情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から災害に関連した提案がなされている。例えば特許文献1では、複数の構造物を一括で管理するための被災情報管理システムが提案されている。特許文献1で示されている被災情報管理システムは、複数の構造物のそれぞれに設置された地震センサと、複数の構造物のそれぞれに予め設定された判定基準を記憶する記憶部と、地震センサの検出値が、当該地震センサが設置された構造物に対応する判定基準を超えているかどうかを判定する判定部と、判定部における複数の構造物ごとの判定結果を管理者に出力する出力部と、を備えた構成となっている。
【0003】
また特許文献2では、推測された位置における被災の状況をより正確に把握するためのシステムが提案されている。特許文献2で示されている災害情報システムは、特定の位置での被災の状況を推測した推測情報と、特定の位置に応じた範囲に存在するユーザから投稿された投稿情報とを取得する情報取得部を備えた構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-129445号
【文献】特開2022-136844号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される発明は、あくまでも複数の構造物を一括で管理するためのものに過ぎない。特許文献2で示されている発明は、推測された位置における被災の状況を把握するためのものに過ぎない。
【0006】
本発明は、特許文献1や特許文献2等の従来技術とは異なる視点からなされたものであり、予測される災害情報から所定地域における経済的損失を導き出す情報処理装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[概念1]
本発明による情報処理装置は、
発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付部と、
前記災害情報を算出モデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出部と、
を備えてもよい。
【0008】
[概念2]
概念1による情報処理装置において、
前記算出部は、対象となるインフラの平常時評価指標と、前記経済的損失とを用いて、対策の優先度を決定してもよい。
【0009】
[概念3]
概念1又は2による情報処理装置において、
前記経済的損失は、対象となるインフラの修理に必要な費用を含んでもよい。
【0010】
[概念4]
概念1乃至3のいずれか1つによる情報処理装置において、
前記算出部は、対策前の対策前情報と前記災害情報を前記算出モデルに適用することで、前記所定地域における対策前経済的損失を算出し、かつ想定される対策を取った後の対策後情報と前記災害情報を前記算出モデルに適用することで、前記所定地域における対策後経済的損失を算出してもよい。
【0011】
[概念5]
概念4よる情報処理装置は、
前記想定される対策に必要な費用と、前記対策前経済的損失と前記対策後経済的損失との差分を出力する出力部を備えてもよい。
【0012】
[概念6]
概念1乃至5のいずれか1つによる情報処理装置において、
前記災害情報はある災害が発生する確率を含み、
前記算出モデルでは、アセット毎に災害の大きさに応じた被害確率が設定されており、
前記算出部は、ある災害が発生することによって機能しなくなるアセットの評価を元に、当該ある災害に起因するインフラ供給ネットワークの下流部分に該当する需要家の経済的損失と当該ある災害が発生する確率とを用いて、所定地域で発生する生産量低下を算出してもよい。
【0013】
[概念7]
概念1乃至6のいずれか1つによる情報処理装置において、
前記算出部は、所定期間においてある災害が発生する確率を用いて、当該所定期間における経済的損失を算出してもよい。
【0014】
[概念8]
概念1乃至7のいずれか1つによる情報処理装置において、
前記生産量低下は、前記所定地域に存在する工場での生産停止による生産量低下を含んでもよい。
【0015】
[概念9]
本発明による情報処理方法は、
受付部によって、発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける工程と、
算出部によって、前記災害情報をモデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する工程と、
を備えてもよい。
【0016】
[概念10]
本発明によるプログラムは、
情報処理装置にインストールされるプログラムであって、
前記プログラムがインストールされた情報処理装置に、
発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付機能と、
前記災害情報をモデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出機能と、
を実行させてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、予測される災害情報から所定地域における経済的損失を導き出す情報処理装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態による情報処理装置のブロック図。
【
図2】本発明の実施の形態において、災害時の災害リスク評価を行うフローを示した図。
【
図3】本発明の実施の形態において、平常時における評価指標に、災害リスクに基づく影響度を加味して、維持更新費用の削減や老朽化による破損等による想定被害が軽減されることを説明するための図。
【
図4】評価指標と災害リスクとの関係から、取るべき対策の優先順位を示した図。
【
図5】取るべき対策の優先順位を出力した態様の一例を示した図。
【
図6A】一般的な規模の地震が発生した場合の年平均被害額及び年平均被害軽減額を示した図。
【
図6B】特定の大規模地震が発生した場合の被害額及び被害軽減額を示した図。
【
図7A】従来の態様における、予算と対策との関係を示したグラフ。
【
図7B】本実施の形態の態様における、予算と対策との関係を示したグラフ。
【
図9A】対策を取らなかった場合(現状)において、震災が発生したときに破損するアセットを点線で示し、破損しないアセットを実線で示した図。
【
図9B】対策を取った場合において、震災が発生したときに破損するアセットを点線で示し、破損しないアセットを実線で示した図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態
《構成》
本実施の形態の情報処理装置は、一つの装置から構成されてもよいし複数の装置から構成されてもよい。本実施の形態では、本実施の形態の情報処理装置を用いた情報処理方法、情報処理装置を生成するためにインストールされるプログラム(サーバプログラム)や、当該プログラムを記憶したUSB、DVD等からなる記憶媒体も提供される。本実施の形態の情報処理装置はサーバであってもよく、クラウド環境を利用した態様を採用することもできる。また、本実施の形態では、ユーザ端末にインストールされるプログラム(ユーザプログラム)や、当該プログラムを記憶したUSB、DVD等からなる記憶媒体も提供される。
【0020】
図1に示すように、情報処理装置は、発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付部10と、災害情報を算出モデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出部20と、を有してもよい。このような態様を採用することで、発生しうる災害に応じた生産量低下を含む経済的損失を算出することができ、災害によってどの程度の損失が発生するかを見込むことができ、ひいては防災対策に対する投資を的確に行うことを促すことができる。経済的損失は、例えばインフラを修理するために必要な費用といった発生する損害を含んでもよい。このような態様を採用する場合には、生産量低下及び修繕に必要な費用の両方を用いて経済的損失を算出することができる点で有益である。なお、経済的損失としては、修理費用等の発生する損害を含まず、生産量低下による経済的損失だけを含むようにしてもよいし、逆に、生産量低下による経済的損失を含まず、修理費用等の発生する損害だけを含むようにしてもよい。以降では、一例として、経済的損失が生産量低下及び修繕に必要な費用の両方を含む態様を主に用いて説明を行う。なお、補強工事等の対策を取っているかによって復旧期間にも差が出ることになるが、復旧期間が短ければ生産量低下を抑えることができるのに対して、復旧期間が長ければ生産量低下が拡大することになる。本願における「生産量」は、広い意味での生産物の量を意味し、製品や商品の製造量の他、サービスの提供量も含み、経済的な価値を生み出すものを広く含む概念である。
【0021】
算出部20は、算出モデルを利用して、経済的損失を算出するようにしてもよい。算出モデルは、予め準備された統計モデル等のモデルであってもよいし、機械学習によって生成されるモデルであってもよい。算出モデルでは、一例として、インフラ等のアセット毎に耐えられる災害の種類又は大きさが設定されており、あるアセットの耐えられる災害の種類又は大きさを超えた場合には当該あるアセットは破損したものとして取り扱われることになる。計算モデルには、インフラにおけるアセットの上流及び下流についての情報も含まれており、あるアセットが破損したと判断された場合には、当該あるアセットの下流側に位置する需要家における生産活動は停止されることになる。アセットの破損に関しては閾値での確定的な評価ではなく、被害確率で評価するようにしてもよい。例えば災害の大きさに応じた被害確率がアセット毎に設定されており、算出部20は、ある災害が発生することによって機能しなくなるアセットの評価を元に、当該ある災害に起因するインフラ供給ネットワークの下流部分に該当する需要家の経済的損失と当該ある災害が発生する確率とを用いて、所定地域で発生する生産量低下を算出してもよい。この際には、ある災害が発生することによるアセット毎の被害確率と、当該ある災害が発生する確率の両方の確率が用いられて、インフラ供給ネットワークの下流部分に該当する需要家の経済的損失が算出部20で算出されるようにしてもよい。算出モデルは記憶部60に記憶されており、適用時に記憶部60から読み出されるようにしてもよい。一例としては、アセットデータとして入力されるインフラ設備の耐用年数と、発生しうる地震の規模の期待値とから、機能しなくなるインフラが算出部20で導かれてもよい。また、発生しうる地震の規模を順次入力することで、機能しなくなるアセットが算出部20で導かれてもよい。
図9Aは、補強等の対策をしなかった場合(現状)において、震災が発生したときに破損するアセットを点線で示し、破損しないアセットを実線で示した図である。他方、
図9Bは、補強等の対策をした場合において、震災が発生したときに破損するアセットを点線で示し、破損しないアセットを実線で示した図である。このようなアウトプットが出力部80(後述する)から出力され、表示部220(後述する)で表示されることになるが、
図9Bでは点線で示される箇所が減っており、補強工事等の対策を取った場合の効果をユーザが視覚的に把握することができる。
【0022】
統計モデルや人工知能機能を用いる場合には、所定の採用変数と各採用変数に対する係数が利用されることになってもよい。統計モデルとしては、回帰分析手法(線形回帰分析及びロジスティック回帰分析を含む。)を利用してもよいし、決定木手法(CART、CHAID、ID3、C4.5といった学習アルゴリズム手法を含む。)を利用してもよい。人工知能機能を用いる場合には、ディープラーニング手法を用いてもよいし、ランダムフォレスト、SVMやGBDT等の多様な機械学習手法を用いてもよい。インプットデータに対して、専門家や担当者の算出結果を出力データとして算出モデルを生成するようにしてもよい。
【0023】
算出モデルを生成するためのインプットデータとして、ハザードデータ、アセットデータ、予定復旧期間、インフラ設備の単価、ネットワーク構造等を含むインフラネットワークデータ、生産額等を含む需要家データ等を用いてもよい。一例を示すと、ハザードデータは、地震ハザードカーブの空間分布(超過確率-速度・加速度)を含んでもよい。アセットデータは、アセットの位置、アセットによる生産額、アセットの評価額が含まれてもよい。アセットデータは適宜のタイミング(例えば年1回)で更新されることになる。このため、毎年の予算決定時に、最新のアセットデータを用いて、算出を行うことができる。また、毎年、補強工事等の対策を取ったことによる効果を確認することができる。
【0024】
対策を取る対象としてインフラを対象とする場合、上流側のインフラが破壊されてしまうと、下流側まで影響が出ることから、災害に対するレジリエンスが同等であれば、上流側のインフラでの補強等の対策を取った方が、経済的損失の低減効果が大きいことになる。
【0025】
算出部20は、補強等の対策を取る前(現状)の対策前情報と災害情報を適用することで、所定地域における対策前の経済損失である対策前経済的損失を算出し、かつ想定される対策を取った後の対策後情報と災害情報を適用することで、所定地域における対策後の経済損失である対策後経済的損失を算出するようにしてもよい。このような態様を採用することで、対策することによってどの程度の経済的損失を免れることができるかを算出することができ、対策に係る費用と、低減される経済的損失とを比較した判断を行うことができるようになる。また、この態様を採用した場合には、行う対策毎にどの程度の経済的損失を免れることができるかを把握することができることになり、対策を取るために必要な費用と、当該対策によって得られると考えられる経済的効果とを一対一で把握することができ、どの対策を優先的に行うべきかを把握することができることになる点で有益である(
図5参照)。対策前情報は、現時点において地震、津波、風水害、森林火災等の災害が発生した場合におけるインフラ等への影響を示す情報である。対策後情報は、想定される対策を取った後に地震、津波、風水害、森林火災等の災害が発生した場合におけるインフラ等への影響を示す情報である。なお前述したとおり、経済的損失には生産量低下と修繕に必要な費用の両方が含まれる。対策の内容によっても対策の効果が変わることになるが、経済的損失を算出する際には例えば標準的な補強工事が行われる前提としてもよい。但し、このような態様に限られることはなく、例えば補強工事のランクを変えた上で、災害発生時の経済的損失がどのように変わるかを算出部20が算出するようにしてもよい。
【0026】
算出部20による算出結果等を含む様々な情報を出力する出力部80が設けられてもよい。出力部80は、想定される対策に必要な費用、及び対策前経済的損失と対策後経済的損失との差分を出力するようにしてもよい(
図6A及び
図6B参照)。本態様を採用した場合には、より確実に、対策に必要な費用と、当該対策によって得られると考えられる効果とを把握することができるようになる点で有益である。
【0027】
また、算出部20は、企業等の需要家毎の生産量低下を算出するようにしてもよい(
図8参照)。このような態様を採用する場合には、需要家毎の供給停止の影響の受けやすさを評価可能となる。地域企業がその効果をもとに強靭化事業への投資金額を決めたり、対策効果に応じた企業間の負担割合を定める際の参考情報として活用可能となったりする。一例として、工業用水についてのインフラを対象とする場合であって、改修費用の一部を受水企業が負担するスキームの場合、企業間の負担金額を定めたり、需要家間の不公平感を緩和したりすることができる。また工業用水事業者が強靭化事業で工業用水道料金を値上げする場合にも、各企業に対策と利用料値上げの必要性を説明する参考情報とすることができる。一例として配水管を対象とする場合、供給路が長いほど生産量低下の影響が大きくなり、管路の耐震水準が低いほど生産量低下の影響が大きくなる。また迂回路が存在する場合には生産量低下という支障が発生しにくくなる。
【0028】
災害情報は、ある災害が発生する確率と、当該ある災害が発生することによって機能しなくなるインフラに関する不機能情報とを含んでもよい。一例として、災害情報は、災害Aが発生する確率と、災害Aが発生することによって機能しなくなるインフラ(アセット)に関する情報、災害Bが発生する確率と、災害Bが発生することによって機能しなくなるインフラに関する情報、・・・、災害Nが発生する確率と、災害Nが発生することによって機能しなくなるインフラに関する情報を用いて所定地域で発生する経済的損失を算出するようにしてもよい。この際、例えば、所定期間(例:1年)以内に災害Aが発生する確率×災害Aが発生することによって機能しなくなるインフラに基づいて被る経済的損失+所定期間以内に災害Bが発生する確率×災害Bが発生することによって機能しなくなるインフラに基づいて被る経済的損失+・・・+所定期間以内に災害Nが発生する確率×災害Nが発生することによって機能しなくなるインフラに基づいて被る経済的損失によって、1年以内に想定される平均的な経済的損失が算出されることになる。ここでの災害A、災害B、・・・、災害Nは、災害の大きさであってもよいし、災害の種類であってもよい。ここでの経済的損失には、前述したとおり、生産量低下と修繕に必要な費用の両方が含まれる。また、経済的損失には、直接被害額の他、後述する波及被害が含まれてもよい。一例として、災害の大きさXにおいて、あるアセットが破損した場合には、当該あるアセット及び当該あるアセットの下流側にあるアセット(インフラ)を用いる需要家の生産量低下と、当該あるアセットの修繕に必要な費用が直接被害額として考慮されることになる。直接被害額だけを考慮する場合には、災害の大きさXが所定期間内に発生する確率を当該直接被害額に掛けることで、災害の大きさXに対する損害の予測値を算出することができる。災害の大きさXよりも大きな災害Yを用いる際にも同様であるが、この際には、災害の大きさXに対する損害の予測値と災害の大きさYに対する損害の予測値とが一部重複して算出されることになるので、適宜、減算等をする必要がある。
【0029】
例として所定期間を「1年」とした場合には、1年あたりの所定地域で発生する経済的損失を算出することができる。このため、例えば、年間の予算が決まっている場合には、改善できる年あたりの経済的損失を算出部20で算出し、改善できる年あたりの経済的損失が高いインフラから優先的に予算をあてて、対策を取るようにしてもよい。
【0030】
図6Aは、一般的な規模の地震が発生した場合の年平均被害額及び年平均被害軽減額を示している。A地域では補強工事等の対策を取ることで10億円の被害軽減を実現でき、B地域では対策を取ることで20億円の被害軽減を実現できることを示している。
図6Bは、特定の大規模地震が発生した場合の被害額及び被害軽減額を示している。A地域では対策を取ることで500億円の被害軽減を実現でき、B地域では補強工事等の対策を取ることで1000億円の被害軽減を実現できることを示している。
【0031】
また経済的損失は産業分類別に算出部20で算出されるようにしてもよい。このような態様を採用することで、産業分類別に経済的損失を把握することができる。
【0032】
経済的損失の生産量低下に関しては、直接被害額に加え、1次波及被害額、2次波及被害額等の波及被害額が含まれてもよい。そして、直接被害額及び波及被害額を合計することで生産量低下の合計額が算出されてもよい。但し、これらの被害額は直接被害額単独、波及被害額単独といったように、個々で算出されるようにしてもよい。工業用水を例に挙げると、直接被害額は、工業用水の供給が停止し受水企業が生産停止することによる被害額であり、1次波及被害額は、受水企業の生産停止に伴い原材料・部品等の需要が低下することにより誘発される被害額であり、2次波及被害額は、従業員の給与が低減し、その分消費が低下することによる被害額である。これらの被害額は、生活圏間産業連関分析による経済波及効果の評価に基づいてもよい。
【0033】
ユーザ端末等の端末200等の入力部210から所定地域を選択できるようにしてもよく、算出部20では選択された所定地域毎に発生しうる災害による経済的損失を算出するようにしてもよい。端末200は、パソコン、タブレット、スマートフォン等からなってもよい。端末200は、入力部210の他、表示部220を有してもよい。タブレットやスマートフォンでは、タッチパネルが入力部210と表示部220の両方の機能を兼ねてもよい。所定地域は、予め定められた選択肢から選択できるようにしてもよく、例えばプルダウン式で表示される選択肢から所定地域が選択されるようにしてもよい。また、タッチパネルにおいてタッチペン等を使って所定地域を囲むようにし、囲まれた所定地域における災害発生による経済的損失を算出部20が算出するようにしてもよい。このような態様を採用する場合には、施設・街区レベルの評価も可能となる。
【0034】
所定地域を入力することで、対策することで低減される経済的損失の観点から、対策が取られるべきインフラの情報が優先順位別に出力部80によって出力されるようにしてもよい。この際、インフラ毎に優先順位が示されてもよいが(
図5参照)、インフラの種類に関係なく複数の種類が混合された状態で補強等の対策を取ることが優先されるインフラが出力されるようにしてもよい。この場合には、例えば、配管、電線、電柱、道路等のインフラが得られる経済的効果の順に列記されてもよい。
【0035】
また、補強等の対策にかかる費用と補強等の対策することで低減される経済的損失の観点から、対策されるべきインフラの情報が優先順位別に出力部80によって出力されるようにしてもよい。この際、例えば、対策することで低減される経済的損失が対策にかかる費用よりも大きくなり、その差が大きい順に優先順位がつけられるようにしてもよい。また、対策することで低減される経済的損失が対策にかかる費用よりも大きくなるものが存在しない場合には、対策にかかる費用から対策することで低減される経済的損失を引いた差が小さくなるものから順に優先順位がつけられるようにしてもよい。
【0036】
図2を用いて、経済的損失を算出するためのフローの一例について説明する。
【0037】
所定地域を入力部210から入力することで、所定の災害レベル毎にインフラ等のアセット毎の被害の有無が判断される(
図2のS1参照)。この態様で用いられる記憶部60で記憶されている算出モデルでは、前述したように例えばアセット毎に耐えられる災害レベルが設定されており、あるアセットの耐えられる災害レベルを超えた場合には当該あるアセットは破損したものとして取り扱われることになる。この際には、災害レベル毎に後述するように経済波及影響を考慮した経済的損失を算出し、当該経済的損失に所定期間(例:1年)以内に当該災害レベルが発生する確率を掛け合わせた結果を足し合わせて、当該所定期間における経済的損失を算出部20が算出するようにしてもよい。このような態様を採用することで、年期待被害額を算出することができる。
【0038】
被害が発生したアセットに対しては、アセット毎の復旧期間及び復旧コストが算出部20で算出されることになる(
図2のS2及びS6参照)。また、アセット毎の復旧期間をもとに、インフラ供給ネットワークの下流部分に該当する需要家の復旧期間が算出部20で算出されることになる(
図2のS3参照)。
【0039】
算出された復旧期間と需要家での生産高等の情報とから需要家毎の生産停止に伴う損害額を算出部20が算出する(
図2のS4参照)。この損害額とアセット毎の復旧コストから、(後述する経済波及影響評価を含まない)年期待被害額が算出部20で算出される(
図2のS10参照)。対策を取った場合と対策を取っていない場合(現状)の差額が期待される年平均被害軽減額になる。
【0040】
年期待被害額及び年平均被害軽減額に加えて、経済波及影響評価を行ってもよい(
図2のS20参照)。経済波及影響評価は、1次波及被害額及び2次波及被害額を意味している。上記では、災害レベルを入力部210から入力する態様を用いて説明しているが、これに限られることはなく、所定地域を選択するだけで、年期待被害額が算出され、また経済波及影響評価が行われるようにしてもよい。
【0041】
対策を取った場合には、平常時のインフラ維持管理が変化する。より具体的には、例えば配水管を新たなものに取り換えた場合には、当該配水管における漏水リスクが格段に低くなり、インフラ維持管理費が下がることになる。本実施の形態では、平常時のリスク評価と災害時の災害リスク評価の両方を算出部20が行い、その評価結果を出力部80が出力するようにしてもよい。
図3で示されている老朽度(Sy)、漏水(Sl)、耐震度(Ss)及び容量・能力(Sc)は平常時における評価指標である。災害が発生することでインフラが破損することが見込まれるが、対策がなされることで、維持更新費用の削減や老朽化による破損等による想定被害が軽減されることが見込まれることにある。
【0042】
図4で示すように、算出部20は対象となるインフラに対する劣化度等の平常時評価指標と災害リスクの両方の観点から、工事等の対策の優先順位を算出するようにしてもよい。老朽度(Sy)、漏水(Sl)、耐震度(Ss)及び容量・能力(Sc)等の観点から平常時評価指標が低い場合(劣化度等が高い場合)には、優先的に工事等の対策が行われることになるが、平常時評価指標が同等程度の場合(評価ランクとして同じランクに属する場合)には、災害リスク(影響度)が高い工事等の対策を優先的に実施することを促すようにしてもよい。ここでの災害リスクは、前述した災害発生時における経済的損失を意味している。一例としては、算出部20は、災害の発生を考慮せず、老朽度(Sy)、漏水(Sl)、耐震度(Ss)、容量・能力(Sc)等の観点から対策すべきアセットを選択し、その後、当該アセットを補強する等の対策を取った場合における災害発生時における経済的損失の軽減値を算出するようにしてもよい。このような態様を採用することで、老朽化等を考慮しつつも、災害発生時における経済的損失の軽減効果の高いアセットを優先的に補強等の対策を取ることができる点で有益である。
【0043】
インフラの不機能情報は様々な情報が考えられるが、一例として配水管に関する不機能情報を含んでもよい。配水管は例えば工業用水を流す管であってもよく、配水管が断絶することで工業用水を利用できなくなり、その結果として、当該工業用水を利用している工場での生産が停止されることになる。
【0044】
算出部20は、インフラ毎に経済的損失を算出するようにしてもよく、このような態様を採用することで、例えば配水管を補強しないことによる経済的損失や、配電線を補強しないことによる経済的損失といった、インフラ毎の経済的損失を導き出すことができる。このため、どのインフラに優先的に対策を取るべきかをより確実に把握することができるようになる。なおインフラには、水道、電力、ガス、道路等の様々なものが含まれる。
【0045】
従来の態様では、予算制約を超える工事等の対策は優先度をもとに後倒しとし、事後保全とならざるを得ないインフラも発生していたが(
図7A参照)、本実施の形態を採用する場合には、民間による投資・寄付により性能向上(例:ライフサイクルコストの縮減)し、予算制約の緩和によって工事等の対策時期の前倒しし、老朽化による破損リスク解消(=事後保全の解消)を実現することができる(
図7B参照)。本実施の形態を採用することで、適切な予算額を計上することも期待できる上、対策効果を踏まえた選択的改修を早期化することができ、また被災時のダウンタイムを短くすることもできる。
【0046】
上述した実施の形態の記載及び図面の開示は、特許請求の範囲に記載された発明を説明するための一例に過ぎず、上述した実施の形態の記載又は図面の開示によって特許請求の範囲に記載された発明が限定されることはない。また、出願当初の請求項の記載はあくまでも一例であり、明細書、図面等の記載に基づき、請求項の記載を適宜変更することもできる。
【符号の説明】
【0047】
10 受付部
20 算出部
80 出力部
【要約】 (修正有)
【課題】予測される災害情報から所定地域における経済的損失を導き出す情報処理装置等を提供する。
【解決手段】情報処理装置は、発生しうる災害に関する災害情報を受け付ける受付部10と、災害情報をモデルに適用することで、所定地域で発生する生産量低下を含む経済的損失を算出する算出部20と、を有する。算出部20は、補強等の対策を取る前の対策前経済的損失と、対策を取った後の対策後経済的損失を算出する。算出部20は、対象となるインフラの平常時評価指標と、算出した経済的損失とを用いて、対策の優先度を決定する。
【選択図】
図1