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  • 特許-導電性複合繊維、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】導電性複合繊維、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20240808BHJP
   D03D 15/533 20210101ALI20240808BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240808BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20240808BHJP
   G03G 15/08 20060101ALI20240808BHJP
   G03G 15/02 20060101ALI20240808BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
D01F8/14 A
D01F8/14 B
D03D15/533
D03D15/283
D03D15/292
G03G15/08 237
G03G15/02 101
G03G15/00 550
G03G15/00 555
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019067414
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165044
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 直哉
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 純一
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-174089(JP,A)
【文献】特開2010-037664(JP,A)
【文献】特開2008-184713(JP,A)
【文献】特開2008-101314(JP,A)
【文献】特開2009-120990(JP,A)
【文献】特開昭63-085114(JP,A)
【文献】特開昭64-052818(JP,A)
【文献】国際公開第2008/004448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F
D03D
G03G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーを含む非導電性成分と、熱可塑性ポリマーおよび導電性粒子10~40質量%を含む導電性成分と、からなる導電性複合繊維であって、前記導電性複合繊維の電気抵抗値が1×10~1×1010Ω/cmであり、かつ繊維の長手方向の電気抵抗値のCV値が6%以下であり、かつ度が50%以上90%以下である、導電性複合繊維。
【請求項2】
糸斑が3.5%以下である、請求項1に記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
沸水収縮率が3%以上20%以下である、請求項1または2に記載の導電性複合繊維。
【請求項4】
請求項1に記載の導電性複合繊維の製造方法であって、以下の工程(イ)~(ハ)をこの順に含む、導電性複合繊維の製造方法。
(イ)熱可塑性ポリマーを含む非導電性成分と、熱可塑性ポリマーおよび導電性粒子を含む導電性成分と、を準備する工程。
(ロ)前記導電性成分と前記非導電性成分とを、複合紡糸する工程。
(ハ)第一引取ローラーで引き取った後、第二引取ローラーで引き取る工程。
ただし、第一引取ローラーの引取速度を4000~6000m/分、第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比を1.0以上1.1以下とし、かつ第二引取ローラーで引き取った後に実質的に延伸を施さないものとする。
【請求項5】
工程(ロ)における紡糸温度を250~310℃とする、請求項4に記載の導電性複合繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の導電性複合繊維を含む、織編物。
【請求項7】
請求項6に記載の織編物を含む、衣服。
【請求項8】
請求項1に記載の導電性複合繊維を含む、ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性複合繊維、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、優れた導電性能を有する導電性複合繊維が知られている(例えば、特許文献1)。こうした導電性複合繊維おいて、長手方向における導電性能のバラツキを抑制することが様々に検討されている。長手方向における導電性能のバラツキが抑制された導電性複合繊維は、織編物に用いられた場合に、全体の導電性が均一なものとなるために好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-44071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の導電性複合繊維においては、長手方向における導電性能のバラツキについて改善の余地を残している。
【0005】
本発明の課題は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、優れた導電性能を有し、長手方向における導電性能のバラツキが抑制されて、均一な導電性能を有する導電性複合繊維を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、特定の条件で複合紡糸して得られた導電性複合繊維は、優れた導電性能を有し、長手方向における導電性能のバラツキが抑制されて、均一な導電性能を有するものとなることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)を要旨とする。
(1)熱可塑性ポリマーを含む非導電性成分と、熱可塑性ポリマーおよび導電性粒子10~40質量%を含む導電性成分と、からなる導電性複合繊維であって、前記導電性複合繊維の電気抵抗値が1×10~1×1010Ω/cmであり、かつ繊維の長手方向の電気抵抗値のCV値が6%以下であり、かつ度が50%以上90%以下である、導電性複合繊維。
(2)糸斑が3.5%以下である、(1)に記載の導電性複合繊維。
(3)沸水収縮率が3%以上20%以下である、(1)または(2)に記載の導電性複合繊維。
(4)(1)に記載の導電性複合繊維の製造方法であって、以下の工程(イ)~(ハ)をこの順に含む、導電性複合繊維の製造方法。
(イ)熱可塑性ポリマーを含む非導電性成分と、熱可塑性ポリマーおよび導電性粒子を含む導電性成分と、を準備する工程。
(ロ)前記導電性成分と前記非導電性成分とを、複合紡糸する工程。
(ハ)第一引取ローラーで引き取った後、第二引取ローラーで引き取る工程。
ただし、第一引取ローラーの引取速度を4000~6000m/分、第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比を1.0以上1.1以下とし、かつ第二引取ローラーで引き取った後に実質的に延伸を施さないものとする。
(5)工程(ロ)における紡糸温度を250~310℃とする、(4)に記載の導電性複合繊維の製造方法。
(6)(1)に記載の導電性複合繊維を含む、織編物。
(7)(6)に記載の織編物を含む、衣服。
(8)(1)に記載の導電性複合繊維を含む、ブラシ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性複合繊維は、複合紡糸した後に、第一引取ローラーの引取速度、および第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比を特定範囲とすることにより、優れた導電性能を有しつつ、長手方向における導電性能のバラツキが抑制されて均一な導電性能を有するものとなるために、導電性能が要求される織編物またはブラシに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の導電性複合繊維における複合形態の一例を示す模式図である。
図2】本発明の導電性複合繊維における複合形態の一例を示す模式図である。
図3】本発明の導電性複合繊維における複合形態の一例を示す模式図である。
図4】本発明の導電性複合繊維における複合形態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の導電性複合繊維は、熱可塑性ポリマーを含む非導電性成分と、熱可塑性ポリマーおよび導電性粒子10~40質量%を含む導電性成分とからなる。
【0011】
非導電性成分における熱可塑性ポリマーとしては、ポリエステル樹脂が好ましい。中でも、イソフタル酸を共重合成分として共重合させたポリエチレンテレフタレート(以下、PET樹脂という)であることがより好ましい。これにより、ポリマーの柔軟性が向上し、紡糸工程をスムーズに行うことができ、導電性粒子の配列状態(ストラクチャ)をいっそう向上させることができ、長手方向における導電性能のバラツキを抑制して、均一な導電性能を有するものとすることができる。
【0012】
非導電性成分を形成する熱可塑性ポリマー中のイソフタル酸の共重合量は、5~15モル%であることが好ましく、6~12モル%がより好ましい。共重合量が5モル%未満では、ポリマーの柔軟性が低く高速紡糸時に曳糸性が悪化する場合がある。一方、15モル%を超えると、非晶性が高くなり過ぎて沸水収縮率の制御が困難となり、ひいては長手方向における導電性能のバラツキを抑制することが困難となる場合がある。
【0013】
非導電性成分を形成する熱可塑性ポリマーの固有粘度(IV)は、0.50~0.80でることが好ましく、0.60~0.70であることがより好ましい。IVが0.50未満であるとポリマーの造粒性が悪化し、ペレット化することが困難となりやすい場合がある。IVが0.80を超えるとポリマーの流動性・結晶性が悪化して、導電性能が劣るものとなりやすい場合がある。
【0014】
非導電性成分に含有される熱可塑性ポリマーには、艶消剤、顔料、着色料、安定剤、制電剤等の添加剤を加えることもできる。
【0015】
非導電性成分における、熱可塑性ポリマーの含有量は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0016】
導電性成分における熱可塑性ポリマーとしては、ポリエステル樹脂が好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリエチレンオキシベンゾエート、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTという)等が挙げられる。特にPBTが好ましい。PBT樹脂は非常に結晶性の高い樹脂であることから、比較的低い導電性粒子の含有量で比較的高い導電性能を発現することができる。また、目的に応じてこれらのポリマーの共重合体や変性体としてもよい。
【0017】
また、その他の共重合成分を、PBTの結晶性を損なわない範囲で含有することができ、例えば、フタル酸、1.3-プロパンジオール、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸、キシリレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0018】
導電性成分を形成する共重合PETの固有粘度(IV)は、0.4~0.8とすることが好ましい。IVが0.4未満であるとポリマーの流動性は上がり、ポリマー中への導電性粒子の分散性は向上するが、その後の造粒性が悪化し、ペレット化することが困難となりやすい場合がある。IVが0.8を超えるとポリマーの流動性または結晶性が悪化して、導電性能が劣るものとなりやすい場合がある。
【0019】
非導電性繊維における熱可塑性ポリマーには、艶消剤、顔料、着色料、安定剤、制電剤等の添加剤を加えることもできる。
【0020】
導電性成分に用いられる導電性粒子としては、例えば導電性カーボンブラックや金属粉末(銀、ニッケル、銅、鉄、錫あるいはこれらの合金等)、硫化銅、沃化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属化合物が挙げられる。また、酸化錫に酸化アンチモンを少量添加したり、酸化亜鉛に酸化アルミニウムを少量添加したりして導電性粒子としたものも挙げられる。さらには、酸化チタンの表面に酸化錫をコーティングし、酸化アンチモンを混合焼成し、導電性粒子としたものも用いることができる。中でも、導電性繊維の性能向上として汎用的に使用され、他の金属粒子と比較し、ポリマーの流動性を阻害しにくいために、導電性を有するカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)が好ましい。
【0021】
上記の導電性粒子は、特に限定されるものではないが、比抵抗値が1×10Ω/cm以下のものが好ましく、1×10Ω/cm以下のものがより好ましい。比抵抗値が10Ω/cmを超えるものを用いると、所望の導電性能を得るために、多量の導電性粒子をポリマー中に分散させることが必要な場合があり、繊維物性に悪影響を及ぼすばかりか、さらには曳糸性に問題を生じる可能性がある。
【0022】
また、導電性粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径が1μm以下のものが好ましく、0.5μm以下のものがより好ましい。平均粒子径が1μmを超えると、導電性粒子のポリマー中への分散性が悪くなりやすく、導電性能、強伸度のような特性が低下した繊維となりやすい。
【0023】
導電性成分における導電性粒子の含有量については、導電性成分中の10~40質量%であり、さらに好ましくは15~35質量%である。含有量が10質量%未満では、導電性能が不十分になる場合があり、また、40質量%を超えると、導電性粒子のポリマー中への分散が難しくなる場合があるために好ましくない。
【0024】
さらに、導電性成分および非導電性成分には、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて、ワックス類、ポリアルキレンオキシド類、各種界面活性剤、有機電解質等の分散剤や酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、着色剤、顔料、流動性改善剤、その他の添加剤を加えることもできる。
【0025】
そして、本発明の複合繊維において、非導電性成分と導電性成分の複合比率としては、非導電性成分が60~90質量%、導電性成分が40~10質量%とすることが好ましく、非導電性成分が70~85質量%、導電性成分が30~15質量%であることがより好ましい。導電性成分の複合比率が10質量%未満では、導電性能が十分でない場合があり、一方、導電性成分の複合比率が40質量%を超えると、強伸度特性等の糸質性能が劣り、曳糸性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0026】
次に、本発明の導電性複合繊維における複合形態について図面を用いて説明する。複合形態については特に限定するものではないが、図1~4に示すような断面形状のものとすることが好ましい。
【0027】
まず、図1は、非導電性成分2を導電性成分1で分割した形状となるタイプのものである。導電性成分の列数は1つであっても複数であってもよいが、2~8であることが好ましい。図1は列数が3つでかつ交差しているものを示す。図2は、導電性成分1の一部が繊維表面に露出したタイプのものであり、露出する導電性成分1は1箇所であっても複数箇所であってもよいが、好ましくは2~8箇所で露出しているものである。図2は導電性成分が3箇所で露出しているものを示す。図3は、導電性成分1の一部が繊維表面に露出したタイプのものであり、導電性成分1が4箇所で露出しているものである。図4は、導電性成分2と非導電性成分1とが芯鞘構造を呈するものであり、導電性成分1が鞘部として繊維表面を被覆したタイプのものである。
【0028】
(物性)
本発明の導電性複合繊維の導電性能としては、電気抵抗値が1×10~1×1010Ω/cmである。複合繊維の電気抵抗値が1×1010Ω/cmを超えると、導電性能が不十分となる。一方、1×10Ω/cm未満にしようとすると、導電性粒子をポリマーに多量に含有させることが必要となり、繊維物性に悪影響を及ぼすばかりか、更には曳糸性に問題を生じる。
【0029】
中でも、電気抵抗値は1×10Ω/cm~1×10Ω/cmであることが好ましい。1×10Ω/cm以下とすることで、得られた織編物またはブラシを通常の環境で使用した場合に、帯電をほとんどなくすことが可能となる。また、1×10Ω/cm以上とすることで、繊維物性、曳糸性ともに問題を生じる可能性が少なくなる。
【0030】
なお、本発明における電気抵抗値は、AATCC76法に準じて以下のようにして測定するものである。
まず、1本の導電性複合繊維を長手方向にカットして、長さ15cmのサンプルを10個採取する。このサンプルの両端の表面に導電性ペースト(フクダ電子株式会社製、商品名「ケラチンクリーム」、型式「OJE-01D」)を塗布し、この両端表面部分を金属端子に接続する。ここで、試料の測定長が10cmとなるようにして(つまり、試料10cmの長手方向の電気抵抗値を測定するようにして)、金属端子に接続する。温度20℃、かつ相対湿度20%RHの環境下、抵抗値測定機(東亜電波工業株式会社製の「SM-10E」)を使用して50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式で電気抵抗値を算出した。
電気抵抗値=E/(I×L)
E:電圧(V)
I:測定電流(A)
L:測定長(cm)
そして、算出した10個のサンプルの電気抵抗値の相加平均値とする。
【0031】
さらに、上記のようにして算出する10個のサンプルの電気抵抗値の最大値と最小値と相加平均値から、下記式から算出する導電性のバラツキ(繊維の長手方向の電気抵抗値のCV値)においても、本発明の導電性複合繊維はCV値が6%以下であり、さらには5%以下であることが好ましい。繊維の長手方向の電気抵抗値のCV値が6%以下であることにより、長手方向に導電性能のバラツキがいっそう抑制されて均一であることが示される。
【0032】
繊維の長手方向の電気抵抗値のCV(%)=(V/E(X))×100
V:電気抵抗値の不偏分散の平方根
E(X):電気抵抗値の平均値
不偏分散は以下のようにして求める。つまり全ての試験片に対し、電気抵抗値と電気抵抗値の平均の差を、それぞれ求める。これらの差を二乗して得られた値の総和を(試験片の数-1)で除して、得られた値を不偏分散とする。
【0033】
本発明の導電性複合繊維の糸斑は3.5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。糸斑が3.5%を超えると上記のCV値が本発明の範囲を超えて大きくなり、すなわち長手方向における導電性能のバラツキが大きくなる場合がある。
【0034】
本発明の導電性複合繊維の伸度は、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。伸度が50%未満であると、配向結晶化が進み過ぎ後工程での切糸が発生する場合があり、一方90%を超えると配向結晶化が低く導電性能が低くなる場合がある。
【0035】
本発明の導電性複合繊維の沸水収縮率は、3%以上20%以下であることが好ましく、5%以上15%以下であることがより好ましい。沸水収縮率が3%未満であると、他の繊維と複合して使用する際に複合相手の繊維との沸水収縮率差により熱セット時に布帛が波打ってしまう場合があり、一方20%を超えると、布帛とした際の熱セットによる収縮で導電性能のバラツキが大きくなる場合がある。
【0036】
本発明の導電性複合繊維においては、上記のCV値を6%とすることを目的として、糸斑を3.5%以下とするために、後述するような特定の製造方法を採用することが必須である。すなわち、複合紡糸した後に、特定の引き取り速度の第一引取ローラーで引き取った後、第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比を1.0以上1.1以下として第二引取ローラーで引き取り、かつ第二引取ローラーで引き取った後に実質的に延伸を施さないものとすることが必須である。または、複合紡糸時の導電性成分および非導電性成分の溶融粘度を特定範囲とすることもできる。
【0037】
(製造方法)
本発明の導電性複合繊維の製造方法は、以下の工程(イ)~(ハ)をこの順に含む。
(イ)熱可塑性ポリマーを含む非導電性成分と、熱可塑性ポリマーおよび導電性粒子を含む導電性成分と、を準備する工程。
(ロ)前記導電性成分と前記非導電性成分とを、複合紡糸する工程。
(ハ)第一引取ローラーで引き取った後、第二引取ローラーで引き取る工程。
ただし、第一引取ローラーの引取速度を4000~6000m/分、第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比を1.0以上1.1以下とし、かつ第二引取ローラーで引き取った後に実質的に延伸を施さないものとする。
【0038】
工程(イ)について、導電性成分を得る方法としては、特に限定されるものではなく、ベースとなるポリマーの重合段階で導電性粒子を添加する方法、導電性粒子を後工程でポリマーに添加して溶融混練する方法等がある。用いるポリマーによっては重合段階での添加が困難なものもあるので、後工程で溶融混練する方法が好ましい。
【0039】
このようにして得られた導電性成分と、非導電性成分とを用い、必要に応じて乾燥等の処理を行ってチップ化する。次いで、工程(ロ)に付して複合紡糸する。複合紡糸の手法としては、特に限定されるものではなく、通常の二成分系の複合溶融紡糸装置を用いることができる。
【0040】
工程(ロ)において、紡糸温度は250~310℃であることが好ましく、中でも使用する樹脂の融点に対して+10℃~+30℃であることがより好ましい。紡糸温度が250℃未満であると、溶融紡糸性に劣る場合があり、310℃を超えると樹脂の分解が発生し物性に劣ったり、切糸が発生したりする場合がある。
【0041】
工程(ロ)において、導電性成分および非導電性成分の溶融粘度を特定範囲とすることが好ましい。導電性成分の溶融粘度を500~2800dPa・Sとすることが好ましく、800~2400dPa・Sとすることがより好ましい。非導電性成分の溶融粘度を500~2600dPa・Sとすることが好ましく、1000~2000dPa・Sとすることがより好ましい。両者の溶融粘度を上記範囲とすることで、上記のような高速の紡糸に好適となり、糸斑を抑制することができ、導電性のバラツキにいっそう顕著に優れた複合繊維が得られる。
【0042】
工程(ハ)において、第一引取ローラーの引取速度は4000~6000m/分であり、4500~6000m/分であることが好ましい。こうした従来よりも高速の引取り速度とすることで、導電性成分および非導電性成分の何れもが、溶融状態で高速に配向することで繊維を形成するポリマーの配向結晶化が適切に進行するために、導電性粒子のストラクチャが発達して糸斑が抑制され、導電性のバラツキに顕著に優れた複合繊維が得られる。さらに、沸水収縮率を低くすることができる。
【0043】
工程(ハ)において第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比は1.0以上1.1以下であり、1.0以上1.05以下であることが好ましい。本発明においては、第一引取ローラーと第二引取ローラーとの速度比をこうした範囲とし実質的に延伸させず、かつ、その後の工程においても実質的に延伸させないことを必須とする。これにより、糸斑を抑制し、導電性能のバラツキを低減することができる。
【0044】
本発明の織編物は、本発明の導電性複合繊維を含むものである。本発明の織編物中に占める本発明の導電性複合繊維の割合は、特に限定されるものではないが0.01~20質量%であることが好ましい。
【0045】
本発明の織編物は、織物の場合、経糸と緯糸のどちらか一方もしくは両方に本発明の導電性複合繊維を用い、織物中に導電性複合繊維を10mm以下の間隔で配置されるように用いるものが好ましい。より好ましくは5mm以下の間隔とする。織組織としては、特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織、二重織、絡み織等を挙げることができる。
【0046】
編物の場合は、丸編、緯編、経編のいずれでもよく、丸編、緯編の場合は、10mm以下好ましくは5mm以下の間隔で本発明の導電性複合繊維をボーダー状に挿入することが好ましい。経編の場合も本発明の導電性複合繊維を10mm以下好ましくは5mm以下の間隔でストライプ状に挿入することが好ましい。
【0047】
本発明の織編物においては、本発明の導電性複合繊維をそのまま用いてもよいが、導電性複合繊維を他の繊維と合撚、混繊したものを用いてもよい。他の繊維としては特に限定されるものではなく、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン等の合成繊維やレーヨン等の再生繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維等が挙げられ、中でも導電性複合繊維と同じであることからポリエステル繊維が好ましい。
【0048】
本発明の織編物の好ましい用途としては、例えば各種衣服、アウトドア用品、インテリア用品などが挙げられる。
【0049】
本発明のブラシは、本発明の導電性複合繊維を少なくとも一部に用いたものである。本発明のブラシ中に占める本発明の導電性複合繊維の割合は、特に限定されるものではないが10~100質量%であることが好ましい。
【0050】
本発明のブラシは、例えば、電子写真複写機、電子写真プリンター等の現像用ブラシ、接触帯電用ブラシ及び感光ドラムクリーナー用ブラシなどに好適に用いられる。
【実施例
【0051】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
なお、それぞれの物性の測定方法又は評価方法は以下の通りである。
(1)糸斑
導電性複合繊維を50m採取し、これを1mずつ50本に切断した。これら50本に対し、サーチ製のデニールコンピューター「DC-11B」を用いて各々の単糸繊度を測定し、50本の繊度の平均値をX、繊度の最大値をXmax、繊度の最小値をXminとして、以下の式によって求めた。
糸斑[%]=(|X-Xmax|/X×100+|X-Xmin|/X×100)÷2
【0052】
(2)繊維の長手方向の電気抵抗値、繊維の長手方向の電気抵抗値のCV値
AATCC76法により、以下のようにして測定した。
導電性複合繊維を15cm程度にカットして、10サンプルを採取した。このサンプルの両端の表面に導電性ペースト(フクダ電子株式会社製、商品名「ケラチンクリーム」、型式「OJE-01D」)を塗布し、この両端表面部分を金属端子に接続した。ここで、試料の測定長が10cmとなるようにして(つまり、10cmの長手方向の電気抵抗値を測定するようにして)、金属端子に接続した。温度20℃、かつ相対湿度20%RHの環境下、抵抗値測定機(東亜電波工業株式会社製の「SM-10E」)を使用して50Vの直流電流を印加して電流値を測定し、下記式で電気抵抗値を算出した。
X=E/(I×L)
X:電気抵抗値(Ω/cm)
E:電圧(V)
I:測定電流(A)
L:測定長(cm)
【0053】
そして、下記式に従って繊維の長手方向の電気抵抗値のCV値を算出した。
繊維の長手方向の電気抵抗値のCV(%)=(V/E(X))×100
V:電気抵抗値の不偏分散の平方根
E(X):電気抵抗値の平均値
不偏分散は以下のようにして求めた。つまり全ての試験片に対し、電気抵抗値と電気抵抗値の平均の差を、それぞれ求めた。これらの差を二乗して得られた値の総和を(試験片の数-1)で除して、得られた値を不偏分散とした。
【0054】
(3)沸水収縮率
得られた繊維を検尺機で20回かせ取りを行い、0.03(cN/dtex)の荷重下で糸長L0を測定し、次いで無荷重下で沸水中に入れ30分間処理した。その後、風乾し、再度0.03(cN/dtex)の荷重下で収縮後の長さL1を測定し、沸水収縮率を次式で算出するものである。
沸水収縮率(%)=〔(L0-L1)/L0〕×100
【0055】
(4)固有粘度[η]
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.9質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
【0056】
(5)溶融粘度
フローテスター(島津製作所製、型式「CFT-500」)を用いて、温度270℃、剪断速度1000sec-1の条件で測定した。
【0057】
(6)断面形状の観察
導電性複合繊維の横断面を、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ「VHX-600」を用いて観察した(倍率;1000倍)。
【0058】
<実施例1>
非導電性成分としてIPA(イソフタル酸)が8モル%の割合で共重合されたPETを使用した。導電性成分としてカーボンブラックを25質量%含有し、270℃での溶融粘度が1581dPa・s(固有粘度が0.54)のPBTを使用した。これら各々の成分を、通常の複合紡糸装置に供給し、繊維の断面形状が図1となるよう設計された紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、導電性成分の複合比率が20質量%となるように溶融紡糸した。図1においては、非導電性成分を導電性成分で分割した形状となるタイプのもので、導電性成分の列数は3つでかつ交差しているものである。紡出した糸条を冷却し、オイリングしながら、第一引取ローラーで4000m/分の速度で引き取り、続けて第二引取ローラーで速度比1.002にて実質的に延伸せずに引き取り、実施例1の導電性複合繊維(28dtex/3f)を得た。
【0059】
<実施例2、3><比較例2>
第一引取ローラーの引取速度をそれぞれ5000m/分、6000m/分、3000m/分に変更した以外は実施例1と同様に行って、実施例2、3および比較例2の導電性複合繊維を得た。
【0060】
<実施例4、5><比較例5>
導電性成分として含有するカーボンブラック量を35質量%、15質量%、5質量%に変更し、それに伴い溶融粘度を1793dPa・s、1145dPa・s、940dPa・sに変化させた以外は実施例1と同様に行って、実施例4、5および比較例5の導電性複合繊維を得た。
【0061】
<実施例6、7><比較例3、4>
導電性成分の固有粘度、および非導電性成分の固有粘度を、それぞれ表1に示したように変更し、それに伴い溶融粘度を、それぞれ表1に示したように変化させた以外は実施例1と同様に行って、実施例6、7および比較例3、4の導電性複合繊維を得た。
【0062】
<実施例8、9、10>
繊維の断面形状を図2図3図4に変更した以外は実施例1と同様に行って、実施例8、9、10の導電性複合繊維を得た。
【0063】
<比較例1>
非導電性成分としてIPAが8モル%共重合されたPETを使用した。導電性成分としてカーボンブラックを25質量%含有し、270℃での溶融粘度が1581dPa・s(固有粘度が0.54)のPBTを使用した。これらを、通常の複合紡糸装置に各々の成分を供給し、繊維の断面形状が図1となるよう設計された紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、導電性成分の複合比率が20質量%となるように溶融紡糸した。図1においては、非導電性成分を導電性成分で分割した形状となるタイプのもので、導電性成分の列数は3つでかつ交差しているものである。紡出した糸条を冷却し、オイリングしながら、第一引取ローラーで1500m/分の速度で引き取り、続けて第二引取ローラーで速度比1.002にて実質的に延伸せずに引き取り、74dtex/3fの未延伸糸を得た。この未延伸糸を90℃の熱ローラーを介して2.64倍に延伸し、更に140℃のヒートプレートで熱処理を行った後に捲き取り、図1の断面形状を呈する比較例1の導電性複合繊維(28dtex/3f)を得た。
【0064】
実施例および比較例にて得られた導電性複合繊維の評価を、表1および表2にまとめて示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1および2から理解できるように、実施例1~10で得られた本発明の導電性複合繊維は、導電性能に優れ、糸斑が抑制されて導電性のバラツキが顕著に低減されていた。
【0068】
比較例1においては、第一引取ローラーの引取速度が遅く、かつ第二引取ローラーで引き取った後に、倍率2.7倍の延伸工程を経たため、得られた導電性複合繊維は、糸斑が非常に悪く導電性のバラツキも大きくなった。
【0069】
比較例2においては、第一引取ローラーの引取速度が遅かったため、得られた導電性複合繊維は、糸斑が悪く導電性のバラツキも大きくなった。また、導電性成分および非導電性成分の何れにおいても配向結晶化が適切に進んでいないため、沸水収縮率も高くなった。さらに配向結晶化が適切に進んでいないため、導電性粒子のストラクチャも発達しておらず、導電性能のバラツキも低くなった。
【0070】
比較例3においては、導電性成分に含まれるポリマーの溶融粘度が高く、比較例4においては、導電性成分に含まれるポリマーの溶融粘度が低く、本発明のような高速紡糸(すなわち、第一の引取ローラーの引取速度が4000~6000m/分)に適した好ましい範囲ではないため、配向結晶化が適切に進まず、導電性能が低くなった。また、糸斑も悪いため、導電性能のバラツキも大きくなった。
【0071】
比較例5においては、導電性粒子の含有量が少なかったため、導電性能に劣る導電性複合繊維しか得られなかった。
【符号の説明】
【0072】
1 導電性成分
2 非導電性成分
図1
図2
図3
図4