(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】気流式分級機
(51)【国際特許分類】
B07B 7/08 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
B07B7/08
(21)【出願番号】P 2020159569
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000229450
【氏名又は名称】日本ニューマチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】藏元 隆夫
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-045819(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029483(WO,A1)
【文献】特開2016-049502(JP,A)
【文献】特開2004-057879(JP,A)
【文献】特開2007-000862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B07B 1/00-15/00
B04C 1/00-11/00
B02C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井壁(3)と、その天井壁(3)の外周から下方に延びる周壁(4)とをもつケーシング(2)と、
前記天井壁(3)の下方に対向して配置された分級板(1)と、
前記分級板(1)と前記天井壁(3)の間に形成される分級室(6)と、
前記分級室(6)内に旋回気流が形成されるように前記分級室(6)内に気体を噴射する複数の気体噴射ノズル(13a,13b)と、
前記天井壁(3)の下面に開口し、前記分級室(6)内に原料粉体を落下供給する原料粉体供給口(7)と、
前記分級板(1)の中央に開口する微粉排出口(8)と、
前記分級板(1)の外周に沿って開口する粗粉排出口(9)とを有する気流式分級機において、
前記複数の気体噴射ノズル(13a,13b)は、
前記周壁(4)の接線方向に対して前記分級室(6)の内側に第1角度(θ1)をなす方向に前記気体を噴射し、前記周壁(4)の内周に周方向に等間隔に配置された複数の第1気体噴射ノズル(13a)と、
前記周壁(4)の接線方向に対して前記分級室(6)の内側に前記第1角度(θ1)よりも大きい第2角度(θ2)をなす方向に前記気体を噴射し、前記複数の第1気体噴射ノズル(13a)のそれぞれに対して周方向に所定間隔ずれて配置された複数の第2気体噴射ノズル(13b)と、を有
し、
前記第1気体噴射ノズル(13a)と前記第2気体噴射ノズル(13b)の気体の噴射方向が、前記分級室(6)の中心を向く方向に対して周方向の一方に傾斜しており、
前記第1角度(θ1)は、10°~20°の範囲で設定され、
前記第2角度(θ2)は、前記第1角度(θ1)よりも大きい鋭角であり、
前記第2気体噴射ノズル(13b)が前記原料粉体供給口(7)の直下の位置に向かって前記気体を噴射するように、上方から見て、前記複数の第2気体噴射ノズル(13b)のうち少なくとも1つの第2気体噴射ノズル(13b)から気体の噴射方向に延ばした直線上に前記原料粉体供給口(7)が位置することを特徴とする気流式分級機。
【請求項2】
前記天井壁(3)は、前記微粉排出口(8)の真上の位置に、下方に突出する整流用の下垂突起(21)を有する請求項
1に記載の気流式分級機。
【請求項3】
前記分級板(1)は、分級板(1)の外周から径方向内側に向かって次第に高くなる環状の円錐面(10)と、その円錐面(10)の径方向内端から上方に延び出す円筒部(11)とを有し、その円筒部(11)の上端に前記微粉排出口(8)が開口している請求項1
または2に記載の気流式分級機。
【請求項4】
前記天井壁(3)は、前記周壁(4)の上端から径方向内方に延びる環状の外側天井面(17)と、前記外側天井面(17)の径方向内端から立ち上がる環状の段差部(18)と、前記段差部(18)の上端から径方向内方に延びる内側天井面(19)とを有し、
前記原料粉体供給口(7)は、前記内側天井面(19)の前記段差部(18)に沿った領域に開口している請求項1から
3のいずれかに記載の気流式分級機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、旋回気流を用いて原料粉体を粗粉と微粉に遠心分離する気流式分級機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、積層セラミックスコンデンサ等の電子部品の原料となるニッケル粒子や、複写機等の画像形成装置に使用されるトナー粒子などの微小粉体を製造する場合、旋回気流を用いて原料粉体を粗粉と微粉に遠心分離する気流式分級機が使用される。
【0003】
この気流式分級機には、小さい分級点と高い分級精度が要求される。このような要求に応える気流式分級機として、本願の出願人は、すでに特許文献1のものを提案している。
【0004】
特許文献1の気流式分級機は、天井壁とその天井壁の外周から下方に延びる周壁とをもつケーシングと、そのケーシングの天井壁の下方に対向して配置された分級板と、その分級板と天井壁との間に形成される分級室と、その分級室内に旋回気流が形成されるように分級室内に気体を噴射する複数の気体噴射ノズルと、天井壁の下面に開口する原料粉体供給口と、分級板の中央に開口する微粉排出口と、分級板の外周に沿って開口する粗粉排出口とを有する。微粉排出口には、固気分離装置を介して吸引ブロワが接続される。
【0005】
この特許文献1の気流式分級機において、気体噴射ノズルは、ケーシングの周壁の内周に、周方向に等間隔に複数設けられている。そして、その複数の気体噴射ノズルが気体を噴射する方向は、すべて同一である。すなわち、気体噴射ノズルが気体を噴射する方向が周壁の接線方向に対してなす角度は、周壁の内周のいずれの気体噴射ノズルについても、同一の大きさの鋭角となるように設定されている。
【0006】
この特許文献1の気流式分級機は、気体噴射ノズルから分級室内に気体を噴射することで、分級室内に中心向きの旋回気流を形成し、その旋回気流に、ケーシングの天井壁の原料粉体供給口から原料粉体を落下供給する。そして、その旋回気流に落下した原料粉体が気体とともに旋回することで作用する外向きの遠心力と、中心向きに移動する気体の流れとによって、原料粉体を粗粉と微粉に分離させる。すなわち、粗粉は、気体とともに旋回することによる外向きの遠心力により分級室内を径方向外方に移動し、分級板の外周の粗粉排出口から排出され、微粉は、旋回しながら中心向きに移動する気体の流れにより分級室内を径方向内方に移動し、分級板の中央の微粉排出口から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願の発明者は、特許文献1の気流式分級機を使用して、原料粉体を粗粉と微粉に遠心分離する分級試験を行ない、その分級試験の結果を分析した。その分析の結果、特許文献1の気流式分級機を用いることで、高い分級精度(微粉に対する粗粉の混入の少なさ)が得られるものの、微粉回収率(原料粉体の質量に対する分級により得た微粉の質量の割合)に改善の余地があることが分かった。
【0009】
そこで、本願の発明者が、微粉回収率を高めるにはどのようにすればよいかを検討したところ、分級室内の旋回気流に流速の速い領域が幅広く生じるように、気体噴射ノズルの噴射方向を工夫することで、微粉回収率が上昇する可能性に気付いた。
【0010】
すなわち、原料粉体に含まれる微粉は粗粉と比較して、静電気や粒子表面の水分等による凝集を生じやすい。そして、微粉が凝集粒子を形成し、その凝集粒子が分散せずに旋回気流に乗って移動すると、凝集粒子は見かけ上、粗粉と同等の粒度をもつので、粗粉として分級され、その結果、微粉回収率が低下してしまう。一方、原料粉体供給口から分級室に落下供給された原料粉体は、分級室内の旋回気流で加速され、その加速時にはたらく分離力によって分散される。そのため、分級室内の旋回気流に、流速の速い領域が幅広く生じるように、気体噴射ノズルの噴射方向を工夫すると、分級室内において原料粉体が加速される領域が増加し、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、微粉回収率が上昇する可能性に気付いた。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、高い微粉回収率で、原料粉体を微粉と粗粉に分離することが可能な気流式分級機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の気流式分級機を提供する。
天井壁と、その天井壁の外周から下方に延びる周壁とをもつケーシングと、
前記天井壁の下方に対向して配置された分級板と、
前記分級板と前記天井壁の間に形成される分級室と、
前記分級室内に旋回気流が形成されるように前記分級室内に気体を噴射する複数の気体噴射ノズルと、
前記天井壁の下面に開口し、前記分級室内に原料粉体を落下供給する原料粉体供給口と、
前記分級板の中央に開口する微粉排出口と、
前記分級板の外周に沿って開口する粗粉排出口とを有する気流式分級機において、
前記複数の気体噴射ノズルは、
前記周壁の接線方向に対して前記分級室の内側に第1角度をなす方向に前記気体を噴射し、前記周壁の内周に周方向に等間隔に配置された複数の第1気体噴射ノズルと、
前記周壁の接線方向に対して前記分級室の内側に前記第1角度よりも大きい第2角度をなす方向に前記気体を噴射し、前記周壁の内周に、前記複数の第1気体噴射ノズルのそれぞれに対して周方向に所定間隔ずれて配置された複数の第2気体噴射ノズルと、を有することを特徴とする気流式分級機。
【0013】
このようにすると、原料粉体供給口から分級室に落下供給される原料粉体が、分級室内の旋回気流で加速され、その加速時にはたらく分離力によって分散される。ここで、第1気体噴射ノズルが噴射する気体で、分級室内に全体として旋回気流が形成され、さらにその旋回気流の内部が、第2気体噴射ノズルが噴射する気体で直接的に加速されるので、旋回気流の内部に、流速の速い領域が幅広く生じ、分級室内において原料粉体が加速される領域を広く形成することが可能となる。そのため、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、高い微粉回収率で、原料粉体を微粉と粗粉に分離することができる。
【0014】
前記第2気体噴射ノズルが前記原料粉体供給口の直下の位置に向かって前記気体を噴射するように、上方から見て、前記複数の第2気体噴射ノズルのうち少なくとも1つの第2気体噴射ノズルから気体の噴射方向に延ばした直線上に前記原料粉体供給口を位置させると好ましい。
【0015】
このようにすると、第2気体噴射ノズルが、原料粉体供給口から落下供給される原料粉体に向かって気体を噴射するので、原料粉体供給口から落下した直後の原料粉体が、第2気体噴射ノズルが噴射する気体で直接加速され、その加速時にはたらく分離力によって、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、高い微粉回収率で、原料粉体を微粉と粗粉に分離することができる。
【0016】
前記天井壁は、前記微粉排出口の真上の位置に、下方に突出する整流用の下垂突起を有する構成を採用すると好ましい。
【0017】
このようにすると、天井壁に設けた下垂突起によって、分級室内の旋回気流の中心位置を安定させることができ、天井壁で旋回気流が外方向へ広がるのを防ぐことができる。そのため、旋回気流のブレにより粗粉が微粉排出口に混入するのを防ぐことができ、高い分級精度を得ることができる。
【0018】
前記分級板は、分級板の外周から径方向内側に向かって次第に高くなる環状の円錐面と、その円錐面の径方向内端から上方に延び出す円筒部とを有し、その円筒部の上端に前記微粉排出口が開口している構成のものを採用すると好ましい。
【0019】
このようにすると、円錐面の径方向内端から上方に延び出す円筒部をもたない分級板を採用した場合よりも、円筒部の高さの分、微粉排出口の位置が高くなる。そのため、微粉排出口に分級点以上の粗粉が吸引されにくくなり、分級精度を向上させることができる。
【0020】
前記天井壁は、前記周壁の上端から径方向内方に延びる環状の外側天井面と、前記外側天井面の径方向内端から立ち上がる環状の段差部と、前記段差部の上端から径方向内方に延びる内側天井面とを有する構成とし、
前記原料粉体供給口は、前記内側天井面の前記段差部に沿った領域に開口させると好ましい。
【0021】
このようにすると、内側天井面の段差部に沿った領域と段差部の内周面とでコーナー領域が形成される。このコーナー領域では、気流の乱れが生じても、その気流の乱れが分級室内の旋回気流に及ぼす影響が小さい。そして、このコーナー領域に原料粉体が落下供給されるように、原料粉体供給口が、内側天井面の段差部に沿った領域に開口しているので、原料粉体供給口から供給される原料粉体によって分級室内の旋回気流が乱れるのが防止される。そのため、微粉排出口に粗粉が飛び込みにくくなり、分級精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の気流式分級機を用いると、原料粉体供給口から分級室に落下供給される原料粉体が、分級室内の旋回気流で加速され、その加速時にはたらく分離力によって分散される。ここで、第1気体噴射ノズルが噴射する気体で、分級室内に全体として旋回気流が形成され、さらにその旋回気流の内部が、第2気体噴射ノズルが噴射する気体で直接的に加速されるので、旋回気流の内部に、流速の速い領域が幅広く生じ、分級室内において原料粉体が加速される領域を広く形成することが可能である。そのため、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、高い微粉回収率で、原料粉体を微粉と粗粉に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の第1実施形態の気流式分級機を示す断面図
【
図4】
図1の気流式分級機内の気流の流れを示す拡大断面図
【
図6】この発明の第2実施形態の気流式分級機を
図2に対応して示す図
【
図7】比較例1の気流式分級機を
図2に対応して示す図
【
図8】比較例2の気流式分級機を
図2に対応して示す図
【
図9】実施例の気流式分級機を用い、
図10に示す比較例と同一の分級条件でニッケルの原料粒子を分級したときに微粉として回収された粒子の顕微鏡写真
【
図10】比較例の気流式分級機を用い、
図9に示す実施例と同一の分級条件でニッケルの原料粒子を分級したときに微粉として回収された粒子の顕微鏡写真
【
図11】実施例の気流式分級機を用い、微粉のD100径が
図10に示す比較例1と同じになるように分級条件を調整してニッケルの原料粒子を分級したときに微粉として回収された粒子の顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、この発明の第1実施形態の気流式分級機を示す。この気流式分級機は、分級板1と、分級板1を収容するケーシング2とを有する。ケーシング2は、分級板1の上方を覆う天井壁3と、その天井壁3の外周から分級板1の径方向外側を通って下方に延びる周壁4と、周壁4の下端に設けられた粗粉回収部5とを有する。分級板1は、天井壁3の下方に対向して配置されている。分級板1と天井壁3の間には、原料粉体を微粉と粗粉に遠心分離する分級室6が形成されている。天井壁3の下面には、分級室6内の旋回気流に原料粉体を落下供給する原料粉体供給口7が開口している。分級板1の中央には、微粉排出口8が開口している。また、分級板1の外周と周壁4の内周との間には、分級板1の外周に沿って開口する環状の粗粉排出口9が形成されている。
【0025】
分級板1は、分級板1の外周から径方向内側に向かって次第に高くなる環状の円錐面10と、その円錐面10の径方向内端から上方に延び出す円筒部11とを有する。円筒部11の上端には、微粉排出口8が開口している。微粉排出口8は、分級板1から下方に延び出す微粉排出筒12に接続している。微粉排出筒12は、ケーシング2の内部でL字状に湾曲し、ケーシング2の周壁4を貫通している。微粉排出筒12の微粉排出口8の側とは反対側の端部には、固気分離装置(図示せず)を介して吸引ブロワ(図示せず)が接続される。固気分離装置は、微粉排出筒12から排出される固気混合流体(微粉と気体が混合したもの)を微粉と気体に分離することで微粉を回収する装置である。吸引ブロワは、分級室6内の気体を吸引して分級室6内の圧力を負圧に保持する。
【0026】
図2に示すように、周壁4には、周方向に間隔をおいて複数の気体噴射ノズル13a,13bが設けられている。各気体噴射ノズル13a,13bは、周壁4を囲むようにケーシング2に設けられた環状の圧縮気体供給路14に連通している。気体噴射ノズル13a,13bは、圧縮気体供給路14から供給される圧縮気体を導入して分級室6内に噴射する。各気体噴射ノズル13a,13bは、分級室6内に向けて噴射した気体の流れによって分級室6内に旋回気流が形成されるように、分級室6の中心を向く方向に対して周方向の一方(図では反時計回り方向)に傾斜した方向に気体を噴射するように形成されている。
【0027】
図1に示すように、各気体噴射ノズル13a(および13b。
図2参照)は、分級板1の最も高い位置(すなわち円筒部11の上端)よりも高い位置で気体を噴射するように配置されている。また、周壁4には、気体噴射ノズル13a(および13b)の位置よりも下側に複数のガイドベーン15が設けられている。複数のガイドベーン15は、周方向に等間隔に並んで配置され、その隣り合うガイドベーン15の間には、周壁4の内外を連通する気体流入路16が形成されている。そして、微粉排出筒12を介して吸引ブロワで負圧とされる分級室6と、周壁4の外部との圧力差により、周壁4の外部の気体が、気体流入路16を通って分級室6に導入されるようになっている。隣り合うガイドベーン15の間の気体流入路16は、分級室6の中心を向く方向に対して気体噴射ノズル13a(および13b)と同じ方向に傾斜している。このガイドベーン15を設けることで、分級室6内の旋回気流で遠心分離される粗粉中に含まれる微粉を再度分級室6内の旋回気流に戻すことができ、微粉の回収率を向上させることができる。
【0028】
天井壁3は、周壁4の上端から径方向内方に延びる環状の外側天井面17と、外側天井面17の径方向内端から立ち上がる環状の段差部18と、段差部18の上端から径方向内方に延びる内側天井面19とを有する。この実施形態では、外側天井面17は、外径側から内径側に向かって次第に高くなる凹円錐面である。また、段差部18は、円筒状の内周面であり、内側天井面19は、水平に延びる円形の平面である。原料粉体供給口7は、内側天井面19の段差部18に沿った領域に開口している。
【0029】
天井壁3には、上方に向けて拡径する漏斗状に形成されたホッパ20が固定して設けられている。ホッパ20の下端開口は、天井壁3の下面に開口する原料粉体供給口7を構成している。ホッパ20の上方には図示しない定量供給装置が配置され、この定量供給装置からホッパ20内に原料粉体が連続的に定量供給される。ホッパ20内に供給された原料粉体は、ホッパ20内に溜められ、そのホッパ20の下端開口である原料粉体供給口7を通って分級室6内に落下供給される。このとき、原料粉体供給口7内の原料粉体は、分級室6内の気体が原料粉体供給口7の直下を流れることにより生じるエジェクタ効果によって分級室6内に引き込まれて落下する。
【0030】
天井壁3は、微粉排出口8の真上の位置に、整流用の下垂突起21を有する。下垂突起21は、内側天井面19の中央から下方に突出する中空円筒状の突起である。下垂突起21の下端は開口している。また下垂突起21の下端は、段差部18の下端よりも上方に位置している。好ましくは、下垂突起21の外径は、微粉排出口8の内径よりも小さく設定されている。
【0031】
図2に示すように、複数の気体噴射ノズル13a,13bは、周壁4の内周に周方向に等間隔(図では120°の等間隔)に配置された複数の第1気体噴射ノズル13aと、複数の第1気体噴射ノズル13aのそれぞれに対して周方向に所定間隔(第1気体噴射ノズル13aの配置間隔よりも小さい間隔。図では55°~65°の範囲の間隔)ずれて配置された複数の第2気体噴射ノズル13bとを有する。第2気体噴射ノズル13bは、第1気体噴射ノズル13aと同様、周壁4の内周に周方向に等間隔(図では120°の等間隔)に配置されている。
【0032】
図3に示すように、第1気体噴射ノズル13aは、周壁4の接線方向に対して、周壁4で囲まれた分級室6の内側に第1角度θ1をなす方向に気体を噴射するように形成されている。第1角度θ1の大きさは、10°~20°の範囲で設定することができる。第2気体噴射ノズル13bは、周壁4の接線方向に対して、周壁4で囲まれた分級室6の内側に第2角度θ2(第1角度θ1よりも大きい鋭角。図では45°~60°の範囲の角度)をなす方向に気体を噴射するように形成されている。
【0033】
原料粉体供給口7は、原料粉体供給口7の直下の位置に向かって第2気体噴射ノズル13bが気体を噴射するように、上方から見て、第2気体噴射ノズル13bから気体を噴射する方向に延ばした直線上に配置されている。
【0034】
次に、上記の気流式分級機の使用例を説明する。
【0035】
微粉排出筒12に接続した吸引ブロワを作動させた状態で、各気体噴射ノズル13a,13bから分級室6内に気体を噴射する。このとき、
図2に示すように、各気体噴射ノズル13a,13bの気体の噴射方向が、分級室6の中心を向く方向に対して周方向の一方に傾斜しているので、分級室6内には一定方向に回転する旋回気流が形成される。ここで、
図4の鎖線の矢印に示すように、気体噴射ノズル13a(および13b)が噴射する気体により形成される旋回気流は、天井壁3の下面に沿って旋回しながら次第に分級室6の中心に向かって移動し、分級室6の中心付近で微粉排出口8に向かって旋回しながら下降する旋回気流となる。また、分級室6内には、天井壁3に沿って旋回しながら中心に向かう上記の旋回気流のほか、気体自体が受ける遠心力によって、周壁4の内周に沿って旋回しながら下降する気流も発生する。
【0036】
上記のように分級室6内に旋回気流を形成した状態で、原料粉体供給口7から分級室6内に原料粉体を落下供給する。このとき、原料粉体供給口7から分級室6内に落下した原料粉体は、分級室6内の旋回気流に乗って旋回する。そして、その原料粉体が気体とともに旋回することで作用する外向きの遠心力と、中心向きに移動する気体の流れとによって、原料粉体が粗粉と微粉に分離される。すなわち、粗粉は、気体とともに旋回することによる外向きの遠心力により分級室6内を径方向外方に移動し、分級板1の外周の粗粉排出口9から排出され、微粉は、旋回しながら中心向きに移動する気体の流れにより分級室6内を径方向内方に移動し、分級板1の中央の微粉排出口8から排出される。
【0037】
ところで、原料粉体に含まれる微粉は粗粉と比較して、静電気や粒子表面の水分等による凝集を生じやすい。そして、微粉が凝集粒子を形成し、その凝集粒子が分散せずに旋回気流に乗って移動すると、凝集粒子は見かけ上、粗粉と同等の粒度をもつので、粗粉として分級され、その結果、微粉回収率(原料粉体の質量に対する分級により得た微粉の質量の割合)が低下してしまう。一方、原料粉体供給口7から分級室6に落下供給された原料粉体は、分級室6内の旋回気流で加速され、その加速時にはたらく分離力によって分散される。そのため、分級室6内の旋回気流に、流速の速い領域が幅広く生じるように、気体噴射ノズル13a,13bの噴射方向を工夫すると、分級室6内において原料粉体が加速される領域が増加し、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、微粉回収率を上昇させることが可能となる。
【0038】
このような知見に基づき、微粉回収率を高めるために、この実施形態の気流式分級機では、
図2、
図3に示すように、周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第1角度θ1(
図3参照)をなす方向に気体を噴射する複数の第1気体噴射ノズル13aと、周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第1角度θ1よりも大きい第2角度θ2(
図3参照)をなす方向に気体を噴射する複数の第2気体噴射ノズル13bとを設けた構成を採用している。
【0039】
これにより、第1気体噴射ノズル13aが噴射する気体で、分級室6内に全体として旋回気流が形成され、さらにその旋回気流の内部が、第2気体噴射ノズル13bが噴射する気体で直接的に加速されるので、旋回気流の内部に、流速の速い領域が幅広く生じ、分級室6内において原料粉体が加速される領域を広く形成することが可能となる。そのため、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、高い微粉回収率で、原料粉体を微粉と粗粉に分離することができる。
【0040】
また、この気流式分級機は、
図3に示すように、第2気体噴射ノズル13bが、原料粉体供給口7から落下供給される原料粉体に向かって気体を噴射するので、原料粉体供給口7から落下した直後の原料粉体が、第2気体噴射ノズル13bが噴射する気体で直接加速され、その加速時にはたらく分離力によって、原料粉体に含まれる凝集粒子の分散が促進され、高い微粉回収率で、原料粉体を微粉と粗粉に分離することができる。
【0041】
また、この気流式分級機は、
図4に示すように、天井壁3に整流用の下垂突起21を設けているので、分級室6内の旋回気流の中心位置が安定したものとなり、天井壁3で旋回気流が外方向へ広がるのを防ぐことができる。そのため、旋回気流のブレや、天井壁3で外方向へ拡散し旋回速度の低下した旋回気流により粗粉が微粉排出口8に混入するのを防ぐことができ、高い分級精度を得ることができる。
【0042】
また、この気流式分級機は、
図4に示すように、円錐面10の径方向内端から上方に延び出す円筒部11をもつ分級板1を採用しているので、円錐面10の径方向内端から上方に延び出す円筒部11をもたない分級板1を採用した場合よりも、円筒部11の高さの分、微粉排出口8の位置が高くなる。そのため、微粉排出口8に分級点以上の粗粉が吸引されにくくなり、分級精度を向上させることが可能となっている。
【0043】
また、この気流式分級機は、
図4に示すように、内側天井面19の段差部18に沿った領域と段差部18の内周面とでコーナー領域が形成される。このコーナー領域では、気流の乱れが生じても、その気流の乱れが分級室6内の旋回気流に及ぼす影響が小さい。そして、このコーナー領域に原料粉体が落下供給されるように、原料粉体供給口7が、内側天井面19の段差部18に沿った領域に開口しているので、原料粉体供給口7から供給される原料粉体によって分級室6内の旋回気流に乱れが生じにくい。そのため、微粉排出口8に粗粉が飛び込みにくくなり、分級精度を向上させることが可能となっている。
【0044】
上記実施形態では、天井壁3に設ける整流用の下垂突起21として、天井壁3の下面から下方に延びる円筒状のものを例に挙げて説明したが、
図5に示すように、天井壁3の下面から下方に延びる円錐形のものを採用することも可能である。
【0045】
上記実施形態において、第1気体噴射ノズル13aおよび第2気体噴射ノズル13bで噴射する気体は、エアを採用することができるが、この発明は、エア以外の気体(例えば、窒素ガスやアルゴンガスやヘリウムガス等の不活性ガスなど)を用いた気流式分級機にも同様に適用することが可能である。
【0046】
図6に、第2実施形態の気流式分級機を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べて、気体噴射ノズルの構成のみが異なり、それ以外の構成は第1実施形態と同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付し、説明を省略する。
【0047】
複数の気体噴射ノズル13a,13b,13cは、周壁4の内周に周方向に等間隔(図では120°の等間隔)に配置された複数の第1気体噴射ノズル13aと、複数の第1気体噴射ノズル13aのそれぞれに対して周方向に所定間隔(図では75°~85°の範囲の間隔)ずれて配置された複数の第2気体噴射ノズル13bと、複数の第1気体噴射ノズル13aのそれぞれに対して周方向に所定間隔(図では35°~45°の範囲の間隔)ずれて配置された複数の第3気体噴射ノズル13cとを有する。第2気体噴射ノズル13bは、第1気体噴射ノズル13aと同様、周壁4の内周に周方向に等間隔(図では120°の等間隔)に配置されている。第3気体噴射ノズル13cも、周壁4の内周に周方向に等間隔(図では120°の等間隔)に配置されている。
【0048】
第1気体噴射ノズル13aは、周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第1角度をなす方向に気体を噴射するように形成されている。第1角度の大きさは、10°~20°の範囲で設定することができる。第2気体噴射ノズル13bは、周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第2角度(第1角度よりも大きい鋭角。図では45°~60°の範囲の角度)をなす方向に気体を噴射するように形成されている。第3気体噴射ノズル13cは、周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第3角度(第1角度よりも大きく、第2角度よりも小さい鋭角。図では25°~35°の範囲の角度)をなす方向に気体を噴射するように形成されている。
【0049】
原料粉体供給口7は、原料粉体供給口7の直下の位置に向かって第2気体噴射ノズル13bが気体を噴射するように、上方から見て、第2気体噴射ノズル13bから気体を噴射する方向に延ばした直線上に配置されている。
【0050】
この第2実施形態の気流式分級機でも、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
気体を噴射する方向が互いに異なる第1気体噴射ノズル13aと第2気体噴射ノズル13bを併用することで微粉回収率が上昇することを確認するため、炭酸カルシウム粒子を原料粉体とする以下の試験を行なった。
【0052】
図2に示すように、3つの第1気体噴射ノズル13a(周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第1角度をなす方向に気体を噴射するもの)と3つの第2気体噴射ノズル13b(周壁4の接線方向に対して分級室6の内側に第1角度よりも大きい第2角度をなす方向に気体を噴射するもの)とを周壁4に交互に設けた実施品の気流式分級機と、
図7に示すように、6つの第1気体噴射ノズル13aを周壁4に設けた比較品1の気流式分級機(つまり
図2に示す第2気体噴射ノズル13bを第1気体噴射ノズル13aに置き換えたもの)と、
図8に示すように、6つの第2気体噴射ノズル13bを周壁4に設けた比較品2の気流式分級機(つまり
図2に示す第1気体噴射ノズル13aを第2気体噴射ノズル13bに置き換えたもの)とを試作し、それぞれの気流式分級機で、粒度♯2300の炭酸カルシウムの原料粒子を分級する試験を行なった。この試験結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1において、微粉回収率は、原料粉体供給口7から分級室6内に供給した原料粉体の質量に対する微粉排出口8から排出された微粉の質量の割合である。また、微粉のD50径は、微粉排出口8から微粉として排出された粒子の粒度分布において、粒度の小さい側からの体積累計が全体の50%となるときの粒度(いわゆるメジアン径)である。また、微粉のD100径は、微粉排出口8から微粉として排出された粒子の粒度分布において、粒度の小さい側からの体積累計が全体の100%となるときの粒度(すなわち微粉の最大粒径)である。
【0055】
この試験結果によれば、第1気体噴射ノズル13aと第2気体噴射ノズル13bを併用した実施品の方が、第1気体噴射ノズル13aのみを用いた比較例1や、第2気体噴射ノズル13bのみを用いた比較例2よりも、微粉回収率が高いことが分かる。
【0056】
一方、比較品1は、微粉回収率が17.3%と低い。これは、原料粉体に含まれる凝集粒子(微粉が凝集したもの)が十分に分散されず、粗粉として分級され、その結果、微粉回収率が低下したものと考えられる。
【0057】
また、比較品2は、微粉回収率が24.0%と比較的高いものの、微粉のD100径が3.27μmと大きくなってしまっている。これは、
図8に示すように、第2気体噴射ノズル13bのみを周壁4に設けたのでは、周壁4で囲まれた領域のうち、周壁4に近い径方向外側の領域において整流としての旋回気流が生じにくくなり、その結果、微粉排出口8への粗粉の飛び込みが生じやすくなったためと考えられる。
【0058】
以上のように、実施品の気流式分級機を用いると、比較品1、2の気流式分級機に比べて、高い微粉回収率と高い分級精度とを両立した分級が可能であることを確認することができる。
【0059】
上記の分級試験では、炭酸カルシウムの原料粒子を原料粉体として用いたが、炭酸カルシウムにかえて、ニッケルの原料粒子を原料粉体として用いた分級試験も行なった。その試験結果を、
図9から
図11に示す。
【0060】
この分級試験の「実施例」(
図9および
図11参照)では、
図2に示すように、3つの第1気体噴射ノズル13aと3つの第2気体噴射ノズル13bとを周壁4に交互に設けた気流式分級機を用いてニッケルの原料粒子を分級した。また「比較例」(
図10参照)では、
図7に示すように、6つの第1気体噴射ノズル13aを周壁4に設けた気流式分級機を用いてニッケルの原料粒子を分級した。
【0061】
図9と
図10に、「実施例」の分級機と「比較例」の分級機とで、分級室6に供給する気体の流量や圧力などの分級条件を同一に揃えて分級を行なったときの試験結果を示す。
図9と
図10を比較すると、
図10に示す比較例では、微粉のD100径が400nm、微粉回収率が12.2%だったのに対し、
図9に示す実施例では、微粉のD100径が350mn、微粉回収率が13.7%となった。つまり、実施例は、比較例よりも分級精度が高く、かつ、微粉回収率も高いことを確認することができる。
【0062】
また、
図11に、「実施例」の分級機で分級を行ない、その際に、微粉のD100径(微粉の最大粒径)が、
図10に示す「比較例」のD100径と同じ400nmとなるように、分級室6に供給する気体の流量や圧力などの分級条件を調整して分級したときの試験結果を示す。
図11と
図10を比較すると、
図11の実施例の写真に示される微粉の最大粒径と、
図10の比較例の写真に示される微粉の最大粒径は、いずれも共通の400nm程度であるが、
図11に示す実施例の写真では、
図10に示す比較例の写真に比べて、400nmの近傍の大きさをもつ粒子が、数多く含まれていることが観察される。これはすなわち、比較例の分級機では、本来製品として回収したいD100径の近傍の大きさをもつ粒子の多くが、粗粉として排出されてしまっているのに対し、実施例の分級機では、本来製品として回収したいD100径の近傍の大きさをもつ粒子の多くを、微粉として回収することに成功していることをあらわしている。また、実施例の微粉回収率は24.8%であり、比較例の微粉回収率12.2%の2倍以上となっている。このことから、実施例は、比較例よりも格段に改善された微粉回収率を有することが分かる。
【符号の説明】
【0063】
1 分級板
2 ケーシング
3 天井壁
4 周壁
6 分級室
7 原料粉体供給口
8 微粉排出口
9 粗粉排出口
10 円錐面
11 円筒部
13a 第1気体噴射ノズル
13b 第2気体噴射ノズル
13c 第3気体噴射ノズル
17 外側天井面
18 段差部
19 内側天井面
21 下垂突起
θ1 第1角度
θ2 第2角度