(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20240808BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A41D13/11 H
A41D13/11 Z
A62B18/02 C
(21)【出願番号】P 2021041067
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000179926
【氏名又は名称】山本光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴美代
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3094413(JP,U)
【文献】特開2011-251085(JP,A)
【文献】登録実用新案第3160019(JP,U)
【文献】登録実用新案第3113828(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口および鼻を覆うマスク本体(10)と、
両端が前記マスク本体(10)の両側部(10a、10b)と連結される上側バンド(20)と、
前記上側バンド(20)と視覚的又は触覚的に識別可能であり、前記マスク本体(10)の前記両側部(10a、10b)において、前記上側バンド(20)が連結される部分よりも下側の部分に両端が連結される下側バンド(30)
と、
装着者の頭部における左右両側の所定位置において前記上側バンド(20)と前記下側バンド(30)とを束ねる束具(40)とを具備
し、
前記上側バンド(20)と前記下側バンド(30)とは、前記束具(40)によって束ねられる前記所定位置を挟む前後の両方の部分が他方のバンドと識別可能とされるマスク。
【請求項2】
前記上側バンド(20)と前記下側バンド(30)が異なる色彩を有する請求項
1に記載のマスク。
【請求項3】
前記上側バンド(20)及び前記下側バンド(30)の少なくとも一方に、他方と識別するための文字または記号が表示される請求項1
又は請求項2に記載のマスク。
【請求項4】
前記上側バンド(20)及び前記下側バンド(30)の一方に、少なくとも1つの凸状物が形成される請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場、工事現場等の粉塵の多い場所、及び医療現場等の感染症対策において使用される防塵マスクなどのマスクに関し、特に、顔面との良好な密着性を実現できるマスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
防塵マスクなどのマスクとして、特許文献1、特許文献2には、一対のバンドを具備するマスクが記載されている。一対のバンドは、各々、両端がマスク本体の両側部に連結され、中央部が、装着者の耳ではなく、後頭部に掛けられる。一対のバンドのうちの1つは後頭部の上下方向における中央か、中央よりもやや上の位置に掛けられ、他の1つは、後頭部の下側、例えば、首と後頭部との境界近傍に掛けられる。つまり、一対のバンドは、後頭部において相対的に上の位置に掛けられる上側バンドと、相対的に下の位置に掛けられる下側バンドとに区別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-73445号公報
【文献】特開2020-59953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載のマスクにおいては、実際にマスクを装着する際に、上側バンドを後頭部における相対的に下の位置に掛けたり、下側バンドを後頭部における相対的に上の位置に掛けたりするバンドの掛け間違い、又は、マスク本体の上下、天地を間違えて装着する付け間違いが起こり得る。バンドの掛け間違いや、マスク本体の上下を間違える付け間違いなどの誤装着が起こると、特に防塵マスクにおいては、マスクと顔面との良好な密着性が得られず、設計的に保証されている防塵性能を発揮できないことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、誤装着を防止し、顔面との良好な密着性を実現できるマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に開示するマスクは、マスク本体(10、10A)と、上側バンド(20、20A)と、下側バンド(30、30A)と、束具(40)とを具備する。前記マスク本体(10、10A)は、口および鼻を覆う。前記上側バンド(20、20A)は、両端が前記マスク本体(10、10A)の両側部(10a、10b)と連結される。前記下側バンド(30、30A)は、前記上側バンド(20、20A)と視覚的又は触覚的に識別可能であり、前記マスク本体(10、10A)の前記両側部(10a、10b)において、前記上側バンド(20、20A)が連結される部分よりも下側の部分に両端が連結される。
【0007】
前記束具(40)は、装着者の頭部における左右両側の所定位置において、前記上側バンド(20A)と前記下側バンド(30A)とを束ねる。ここで、「装着者の頭部」とは、いわゆる「頭」の部分のみならず、顎から頬にかけての部分、すなわち「顔」の部分を含む。そして、前記上側バンド(20)と前記下側バンド(30)とは、前記束具(40)によって束ねられる前記所定位置を挟む前後の両方の部分が他方のバンドと識別可能とされる。
【0008】
本願に開示するマスクにおいては、前記上側バンド(20)と前記下側バンド(30)が異なる色彩を有する。また、前記上側バンド(20)及び前記下側バンド(30)の少なくとも一方に、他方と識別するための文字または記号が表示されてもよい。例えば、「上」、「下」、「↑」、「↓」などの文字、記号を上側バンド(20、20A)と下側バンド(30、30A)の少なくとも一方に印字し、表示してもよい。
【0009】
また、本願に開示するマスクにおいては、前記上側バンド(20)及び前記下側バンド(30)の一方に、少なくとも1つの凸状物が形成されてもよい。例えば、複数の凸状物を一方のバンド表面にドット状に設けてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマスクによれば、誤装着を防止し、顔面との良好な密着性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るマスクを示す斜視図である。
【
図2】
図1のマスクの使用例を示す装着者の頭部側面図である。
【
図3】
図1のマスクの第1変形例を示す装着者の頭部側面図である。
【
図4】
図1のマスクの第2変形例を示す装着者の頭部側面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るマスクを示す斜視図である。
【
図6】
図3のマスクの第1使用例を示す装着者の頭部側面図である。
【
図7】
図3のマスクの第2使用例を示す装着者の頭部側面図である。
【
図8】
図3のマスクの第3使用例を示す装着者の頭部側面図である。
【
図9】
図3のマスクに使用される束具の第1実施例を示す斜視図である。
【
図10】
図3のマスクに使用される束具の第2実施例を示す斜視図である。
【
図11】
図3のマスクに使用される束具の第3実施例を示す斜視図である。
【
図12】
図3のマスクに使用される束具の第4実施例を示す斜視図である。
【
図13】
図3のマスクに使用される束具の第5実施例を示す斜視図である。
【
図14】
図3のマスクに使用される束具の第6実施例を示す斜視図である。
【
図15】
図3のマスクに使用される束具の第7実施例を示す斜視図である。
【
図16】(a)
図3のマスクに使用される束具の第8実施例を示す斜視図である。(b)
図14(a)の束具の分解斜視図である。
【
図17】(a)
図3のマスクに使用される束具の第9実施例を示す斜視図である。(b)
図15(a)の束具の分解斜視図である。
【
図18】(a)
図3のマスクに使用される束具の第10実施例を示す斜視図である。(b)
図16(a)の束具の分解斜視図である。
【
図19】(a)
図3のマスクに使用される束具の第11実施例を示す斜視図である。(b)
図17(a)の束具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るマスクを図面に基づいて詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するのに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨が明記されていない限り、この実施形態に限定されるものではない。
【0013】
〈実施形態〉
以下に、
図1~
図4を参照して、本発明の実施形態に係るマスクを説明する。
図1は、実施形態に係るマスクを示す斜視図である。
図2は、
図1のマスクの使用例を示す装着者の頭部側面図である。
図3は、
図1のマスクの第1変形例を示す装着者の頭部側面図である。
図4は、
図1のマスクの第2変形例を示す装着者の頭部側面図である。
【0014】
実施形態に係るマスク1は、防塵マスクであり、
図1、
図2に示すように、マスク本体10と、上側バンド20と、下側バンド30とを具備する。
【0015】
マスク本体10は、実施形態においては、粉塵用のフィルタを含み、口および鼻を覆う。マスク本体10の素材としては、不織布を好適に使用することができる。また、マスク本体10は、紙製、又は不織布以外の布製とすることもできる。マスク本体10の形状は、特に限定されないが、実施形態においては半球状である。
【0016】
図1に示すように、マスク本体10の前面上部には、線状の補強金具11が取付けられている。補強金具11は、鼻梁を挟むなだらかな山形にマスク本体10における上部の形状を保つ。補強金具11がマスク本体10の形状をなだらかな山形に保つことによって、顔面における鼻梁の周辺とマスク本体10の上側縁部との密着性を向上させることができる。なお、補強金具11は必須ではなく、マスク本体10の形状、構造によっては、補強金具11を設けないものとしたり、補強金具11の形状を変更したりすることができる。
【0017】
上側バンド20は、実施形態においては、ゴムバンドであり、両端が、マスク本体10の右側部10aと左側部10bとに連結される。上側バンド20の両端が連結されるマスク本体10の両側部10a、10bにおける上下方向の位置は特に限定されないが、実施形態においては、上側バンド20の両端は、マスク本体10の上下方向における中央よりも上の位置に連結されている。
【0018】
下側バンド30も、実施形態においては、ゴムバンドであり、上側バンド20と視覚的又は触覚的に識別可能である。下側バンド30は、マスク本体10の両側部10a、10bにおいて、上側バンド20が連結される部分よりも下側の部分に両端が連結される。実施形態においては、下側バンド30の両端は、マスク本体10の上下方向における中央よりも下の位置に連結されている。
【0019】
実施形態においては、上側バンド20と下側バンド30とが異なる色彩を有することによって、視覚的に識別可能である。
【0020】
例えば、上側バンド20の色を白色としたとき、下側バンド30は、水色、黄、ピンクなどの白以外の色に着色される。また、下側バンド30の色を白色としたとき、上側バンド20は、水色、黄、ピンクなどの白以外の色に着色される。また、上側バンド20と下側バンド30の色が同色であっても、両者の輝度、鮮やかさに差を設けることによって、下側バンド30を上側バンド20と視覚的に識別可能とすることもできる。
【0021】
更に、「上」、「下」、「↑」、「↓」などの文字、記号を上側バンド20と下側バンド30の少なくとも一方に表示することによって、下側バンド30を上側バンド20と視覚的に識別可能とすることもできる。
図3に、文字または記号の一例として、「下」という文字30aが、下側バンド30に印字され、表示されている、
図1のマスクの変形例を示す。
【0022】
あるいは、織り方の異なるバンド素材を上側バンド20と下側バンド30とに使用することによって、視覚的又は触覚的に識別可能とすることもできる。また、上側バンド20及び下側バンド30の一方に、少なくとも1つの凸状物を形成することによって、視覚的又は触覚的に上側バンド20と下側バンド30とを識別可能とすることもできる。
【0023】
図4に、少なくとも1つの凸状物の一例として、複数の凸状物30bが、下側バンド30の一方の表面に、長手方向に沿って所定の間隔で付設されている、
図1のマスクの変形例を示す。上側バンド20と下側バンド30とが触覚的に識別可能であることによって、眼の不自由な方であっても、上側バンド20と下側バンド30とを識別できる。
【0024】
以上、
図1~
図4を参照して説明したように、実施形態のマスクによれば、下側バンド30が、上側バンド20と視覚的又は触覚的に識別可能である。従って、一対のバンドの上下の掛け間違いや、マスク本体の上下、天地を間違えて装着する付け間違いなどの誤装着を防止することができ、顔面との良好な密着性を実現できる。
【0025】
特に、マスクが防塵マスクである場合には、粉塵などの種類及び作業内容に応じた性能区分があり、国家検定に合格したマスクだけが使用を認められる。従って、国家検定により保証される防塵性能を実現するためには、誤装着を防止することが重要であり、実施形態のマスクによれば、誤装着を防止し、設計的に保証されている防塵性能を実現できる。
【0026】
次に、
図5~
図8を参照して、本発明の他の実施形態を説明する。
図5は、本発明の他の実施形態に係るマスクを示す斜視図である。
図6は、
図5のマスクの第1使用例を示す装着者の頭部側面図である。
図7は、
図5のマスクの第2使用例を示す装着者の頭部側面図である。
図8は、
図5のマスクの第3使用例を示す装着者の頭部側面図である。
【0027】
図5、
図6に示すように、本実施形態に係るマスク1Aは、防塵マスクであり、上記実施形態のマスク1と同様に、マスク本体10Aと、上側バンド20Aと、下側バンド30Aとを具備するとともに、一対の束具40と、バンド長さ調節具50とを具備する。
【0028】
マスク本体10Aは、本実施形態においても、粉塵用のフィルタを含み、口および鼻を覆う。マスク本体10Aの素材としては、不織布を好適に使用することができる。また、マスク本体10Aは、紙製又は不織布以外の布製とすることもできる。マスク本体10Aの形状は、特に限定されないが、本実施形態においても半球状である。また、マスク本体10Aの前面上部に、補強金具を取り付けてよいことも、
図1のマスク1と同様である。
【0029】
図5に示すように、マスク本体10Aの背面上部には、鼻梁に対応するスリットを有する鼻パッド12を設けることができる。マスク本体10Aの背面上部に鼻パッド12を設けることによって、顔面における鼻梁の周辺とマスク本体10Aの上側縁部との間の気密性を向上させることができる。なお、鼻パッド12は必須ではなく、マスク本体10Aの形状、構造によっては、鼻パッド12を設けないものとしたり、鼻パッド12の形状、取付位置を変更したりすることができる。また、鼻パッド12は、上記実施形態におけるマスク1のマスク本体10に設けることもできる。
【0030】
上側バンド20Aは、実施形態においては、ゴムバンドであり、両端が、マスク本体10Aの右側部10aと左側部10bとに連結される。上側バンド20Aの両端が連結されるマスク本体10Aの両側部10a、10bにおける上下方向の位置も
図1のマスク1と同様である。
【0031】
下側バンド30Aも、実施形態においては、ゴムバンドであり、上側バンド20Aと視覚的又は触覚的に識別可能であり、マスク本体10の両側部10a、10bにおいて、上側バンド20が連結される部分よりも下側の部分に両端が連結される。下側バンド30Aの両端が連結されるマスク本体10Aの両側部10a、10bにおける上下方向の位置も
図1のマスク1と同様である。また、上側バンド20Aを下側バンド30Aと視覚的又は触覚的に識別可能とする手段も、
図1のマスク1と同様に、代表的には色彩であり、文字、記号、バンド素材の織り方、凸状物などとすることもできる。
【0032】
図6に示すように、束具40は、装着者の頭部2における左右両側において上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねる。実施形態においては、束具40は、上側バンド20A及び下側バンド30Aに沿って移動可能に上側バンド20A及び下側バンド30Aと係合している。また、
図6に示す例においては、束具40は、装着者の耳の付け根の上端に接する位置において、上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねている。
【0033】
束具40によって束ねられた上側バンド20A及び下側バンド30Aのうちの一方は、装着者の後頭部に掛けられ、他方は、装着者の頭頂部に掛けられる。
図6に示す例においては、より望ましい装着例として上側バンド20Aが装着者の後頭部に掛けられ、下側バンド30Aが装着者の頭頂部に掛けられている。しかしながら、これに限らず、上側バンド20Aが、装着者の頭頂部に掛けられ、下側バンド30Aが、装着者の後頭部に掛けられてもよい。
【0034】
また、束具40は、
図7に示すように、装着者の耳の位置よりも頭頂部に近い位置において上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねることも、
図8に示すように、装着者の耳の位置よりも口に近い位置において上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねることもできる。
【0035】
バンド長さ調節具50は、
図6に示すように、装着者の後頭部に掛けられる方のバンド、図示例においては、上側バンド20Aに取付けられる。バンド長さ調節具50は、必須ではないが、バンド長さ調節具50が、装着者の後頭部に掛けられる方のバンドに取付けられることによって、装着者の鼻梁の周辺とマスク本体10Aの上側縁部とのより良好な密着性を得ることができる。特に、鼻梁の周辺部は人の顔においても敏感な部位であり、バンドの長さを適切な長さに調節できることによって、快適な装着性と良好な密着性とをバランスよく向上させることができる。
【0036】
以上、
図5~
図8を参照して説明したように、実施形態のマスク1Aによれば、束具40によって、装着者の頭部2における左右両側において上側バンド20Aと下側バンド30Aとが束ねられ、上側バンド20A及び下側バンド30Aのうちの一方が、装着者の後頭部に掛けられ、他方が装着者の頭頂部に掛けられる。従って、装着者の顎とマスク本体10Aの下部との密着性が向上されるとともに、装着者の鼻梁の周辺とマスク本体10Aの上部との密着性が向上される。
【0037】
詳述すれば、本実施形態のマスク1Aにおいては、例えば
図6に示すように、束具40を節目として、上側バンド20A及び下側バンド30Aに働く力の向きが変わる。従って、上側バンド20A及び下側バンド30Aの一方を装着者の頭頂部に掛けた状態で安定させることが容易となり、装着者の後頭部の形状や髪質によっては長時間の作業中にバンドがずれてしまうことを防止し、マスク本体10Aと顔面との良好な密着性を維持できる。また、下側バンド30Aと上側バンド20Aとが視覚的又は触覚的に識別可能であることによって、マスク本体の上下、天地を間違えて装着する付け間違いを防止でき、顔面との良好な密着性を実現できる。
【0038】
なお、上側バンド20A及び下側バンド30Aのうちのいずれを装着者の頭頂部に掛けるべきかについては、発明者達の実験によれば、下側バンド30Aを装着者の頭頂部に掛ける方が、安定的なフィット感を得られたために、好ましいと言える。従って、上側バンド20Aと下側バンド30Aとが視覚的又は触覚的に識別可能であることによって、装着者は、一対のバンドの掛け間違いをすることなく、下側バンド30Aを頭頂部に掛け、上側バンド20Aを後頭部に掛けることができ、マスクと顔面との良好な密着性を実現できる。
【0039】
ただし、束具40が大きな拘束力によって上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねる場合には、上側バンド20A及び下側バンド30Aのいずれを装着者の頭頂部に掛けても装着者は同様のフィット感を得られるものと考えられる。しかしながら、バンドの掛け間違いを防止することによって、束具40が大きな拘束力を有していない場合にもマスクと顔面との良好な密着性を実現できる。
【0040】
次に、束具40によって、頭部側方のどのような位置で上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねるべきかについて、発明者達の実験結果に基づき考察する。
【0041】
図6に示すように、装着者の耳の付け根の上端に接する位置において上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ね、更に、下側バンド30Aを装着者の頭頂部に掛けたとき、マスクの装着状態は最も安定し、装着者が激しく動いてもバンドがずれることはなかった。
【0042】
また、
図6に示す状態において、下側バンド30Aではなく上側バンド20Aを装着者の頭頂部に掛けた場合にも、マスクの装着状態は十分に安定し、激しい動きによってもバンドがずれることはなかった。しかしながら、マスクと顔面との密着性に関しては、下側バンド30Aを装着者の頭頂部に掛けた方が、良好な密着性が得られ、例えば特開2019-41957号(特許第6836788号)公報に記載のマスク密着度判定装置を使用し、密着度を判定した判定結果においても有意的な差異が認められた。
【0043】
図7に示すように、束具40によって、装着者の耳の位置より頭頂部に近い位置において上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねた場合にも、顎とマスク本体10Aの下部との密着性が向上し、マスクの装着状態もある程度安定し、従来よりもバンドはずれにくくなった。
【0044】
図8に示すように、装着者の耳の位置より口に近い位置において上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねた場合には、
図6及び
図7の使用状態と比較すると、マスクの装着状態における安定性は劣っていた。しかしながら、
図1、
図2に示すマスク1と比較すると、マスクの装着状態は安定し、マスク本体10Aと顔面との良好な密着性を維持できた。
【0045】
以上のとおり、束具40によって、どのような位置で上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねるべきかについては、発明者達の実験によれば、装着者の耳の付け根の上端に接する位置において、上側バンド20Aと下側バンド30Aとを束ねることが最も好ましいといえる。
【0046】
以下、
図9~
図19を参照して、実施形態のマスクに使用される束具を説明する。実施形態の束具は、
図1、
図2に示すようなマスク1、つまり、口および鼻を覆うマスク本体10と、両端がマスク本体10の両側部と連結される上側バンド20と、マスク本体10の両側部において、上側バンド20が連結される部分よりも下側の部分に両端が連結される下側バンド30とを具備するマスクに取付けることによって、
図1、
図2に示すようなマスク1を
図5に示すようなマスク1Aに改変することができる。なお、実施形態の束具は、
図1、
図2に示すマスク1に限らず、実施形態の束具を取付けることによって同様の効果が得られるマスクであれば、どのようなマスクに取付けてもよい。
【0047】
図9は、実施形態の束具の第1実施例としての束具40を示し、束具40は、扁平な角筒状であり、中空部に上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される。束具40は、バンド挿通方向に沿った二辺に、嵌脱可能な凹凸を有しており、上側バンド20Aと下側バンド30Aとを中空部に配した状態で凹凸が嵌め合わされる。
図10~
図12の束具40A、40B、40Cも同様に、嵌脱可能な凹凸を有している。また、束具40は、上側バンド20A及び下側バンド30Aに沿って移動可能に上側バンド20A及び下側バンド30Aと係合する。
【0048】
図10は、実施形態の束具の第2実施例としての束具40Aを示し、束具40Aは、平面視楕円形状を有する筒体であり、中空部に上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される。束具40Aは、上側バンド20A及び下側バンド30Aに沿って移動可能に上側バンド20A及び下側バンド30Aと係合する。
【0049】
図11は、実施形態の束具の第3実施例としての束具40Bを示し、束具40Bは、短い角筒状であり、中空部に上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される。束具40Bによれば、束具をよりコンパクトにできる。また、束具40Bは、上側バンド20A及び下側バンド30Aに沿って移動可能に上側バンド20A及び下側バンド30Aと係合する。
【0050】
図12は、実施形態の束具の第4実施例としての束具40Cを示し、束具40Cは、円筒状であり、中空部に上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される。束具40Cは、上側バンド20A及び下側バンド30Aに沿って移動可能に上側バンド20A及び下側バンド30Aと係合する。
【0051】
図13は、実施形態の束具の第5実施例としての束具40Dを示し、束具40Dは、長板部材をリング状に形成したフックであり、上側バンド20A及び下側バンド30Aは、束具40Dの周方向における両端部の隙間から内部に嵌め入れられ、束具40Dによって拘束される。
【0052】
図14は、実施形態の束具の第6実施例としての束具40Eを示し、束具40Eは、丸棒部材をリング状に形成したフックであり、上側バンド20A及び下側バンド30Aは、束具40Eの周方向における両端部の隙間から内部に嵌め入れられ、束具40Eによって拘束される。
【0053】
図15は、実施形態の束具の第7実施例としての束具40Fを示し、束具40Fは、丸棒部材を螺旋状に形成したフックであり、上側バンド20A及び下側バンド30Aは、束具40Fの軸方向における一端部の隙間から内部に入れられる。
【0054】
図16は、実施形態の束具の第8実施例としての束具40Gを示し、束具40Gは、中空部の一端開口が幅広に形成された扁平な角筒状であり、中空部に上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される。中空部の一端開口が幅広とされることによって、上側バンド20A及び下側バンド30Aを頭頂部と後頭部とに掛けるように分岐して伸ばすことが容易となる。
【0055】
図17は、実施形態の束具の第9実施例としての束具40Hを示し、束具40Hは、中空部の一端開口が2筋に分岐した扁平な角筒状であり、中空部は、Y字状に形成されている。中空部がY字状に形成されることによって、上側バンド20Aを後頭部に掛け、下側バンド30Aを掛けるように、装着者を誘導することが容易となり、バンドの掛け間違いを防止し、装着者がより適切な使用方法でマスク1を使用することが容易となる。また、例えば、上側バンド20Aの出口に「後に」を示す文字又は記号を設け、下側バンド30Aの出口に「上に」を示す文字又は記号を設けることによって、より確実に装着者を誘導できる。
【0056】
図18は、実施形態の束具の第10実施例としての束具40Iを示し、束具40Iは、平面視十字状ないしはX字状で上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される中空部を有する。上側バンド20Aと下側バンド30Aとが中空部の中で交差するように、上側バンド20Aと下側バンド30Aとを中空部に配置することによって、装着者は、自然と上側バンド20Aを後頭部に掛け、下側バンド30Aを頭頂部に掛けるように誘導され、バンドの掛け間違いを防止し、装着者がより適切な使用方法でマスクを使用することが容易となる。
【0057】
図19は、実施形態の束具の第11実施例としての束具40Jを示し、
図19(a)に示すように、束具40Jは、平面視が正方形に近い角筒状であり、中空部に上側バンド20Aと下側バンド30Aとが挿通される。また、
図19(b)に示すように、束具40Jは、略同形の蓋部材41及びバンド押さえ受部材42と、バンド押さえ43とを具備する。バンド押さえ43は、実施形態においては丸棒部材であり、上側バンド20A又は下側バンド30Aにくい込むように、周面に凹凸が形成されている。バンド押さえ43が、束具40Jの中空部に配されることによって、マスクの長時間の装着時、又はマスクの着脱時においても、束具40Jの位置がずれることがなく、束具40Jの位置を一度調整することで、以降安定して装着し続けることができる。
【0058】
以上、図面(
図1~
図19)を参照しながら本発明の実施形態を説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1、1A…マスク
10、10A…マスク本体
10a、10b…両側部
20、20A…上側バンド
30、30A…下側バンド
40…束具