(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】抗ヒトVSIG4抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240808BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240808BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240808BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240808BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240808BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240808BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240808BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20240808BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240808BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240808BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240808BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240808BHJP
C12R 1/19 20060101ALN20240808BHJP
C12R 1/84 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0786
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
C12P21/08
C12R1:19
C12R1:84
(21)【出願番号】P 2021517275
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 US2019053824
(87)【国際公開番号】W WO2020069507
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-24
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519001408
【氏名又は名称】ユーティレックス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】クウォン ビョン エス.
(72)【発明者】
【氏名】キム ヘ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ソニ
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュンウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ スン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】イム スン ウー
(72)【発明者】
【氏名】チェ チン ギョン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヒョン テ
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒョク-ジュン
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/130204(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106188298(CN,A)
【文献】特表2010-526076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 配列番号17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、および配列番号19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列; ならびに
b. 配列番号20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および配列番号23のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む、単離されたヒト化抗ヒトV-Set And Immunoglobulin Domain Containing 4(VSIG4)抗体またはその抗原結合性フラグメントであって、
配列番号6または配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、
前記抗体またはその抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、請求項
1記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項3】
配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、請求項
1記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
ヒトV-Set And Immunoglobulin Domain Containing 4(VSIG4)分子に対して1×10
-7~1×10
-9 Mの結合親和性(K
D)を有する、請求項1~
3のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
VSIG4分子に対して7.156×10
-8 M~7.636×10
-9 Mの結合親和性(K
D)を有する、請求項1~
4のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
VSIG4分子に対して7.156×10
-8、7.636×10
-9、7.952×10
-9、8.226×10
-9、または8.688×10
-9 Mの結合親和性(K
D)を有する、請求項1~
4のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメントをコードする、核酸分子。
【請求項8】
請求項
7記載の核酸分子を含む、組換えベクター。
【請求項9】
請求項
7記載の核酸分子がプロモーターに機能的に連結されている、請求項
8記載の組換えベクター。
【請求項10】
前記抗体または抗原結合性フラグメントの重鎖および軽鎖に対応する核酸配列をそれぞれ含む2つの異なるベクターを含む、請求項
8または
9記載の組換えベクター。
【請求項11】
請求項
7記載の核酸分子または請求項
8~
10のいずれか一項記載の組換えベクターを含む、宿主細胞。
【請求項12】
哺乳動物細胞、酵母細胞、または細菌細胞である、請求項
11記載の宿主細胞。
【請求項13】
大腸菌(E. coli)、P. パストリス(P. pastoris)、Sf9、COS、HEK293、Expi293、CHO-S、CHO-DG44、CHO-K1、および哺乳動物リンパ球からなる群より選択される細胞である、請求項
12記載の宿主細胞。
【請求項14】
Expi293細胞である、請求項
13記載の宿主細胞。
【請求項15】
請求項1~
6のいずれか一項記載の抗体もしくは抗原結合性フラグメント、および
薬学的に許容される担体
を含む、対象におけるがんを処置するための薬学的組成物。
【請求項16】
対象ががんを有するか、またはがんを発症するリスクを有する、請求項
15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
がんが、膀胱がん、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、ファロピウス管がん、胆嚢がん、胃腸がん、頭頸部がん、血液がん、喉頭がん、肝がん、肺がん、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、卵巣がん、原発性腹膜がん、唾液腺がん、肉腫、胃がん、甲状腺がん、膵がん、腎細胞がん、神経膠芽腫、および前立腺がんより選択される、請求項
15または
16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
対象が、電離放射線、化学療法剤、抗体剤、および細胞ベースの療法より選択される1種または複数種の追加抗がん療法を、該対象が両方による処置を受けるように、施されていたかまたは施される予定である、請求項
15~
17のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項19】
1種または複数種の追加抗がん療法が、免疫チェックポイント阻害剤、IL-12、GM-CSF、抗CD4剤、シスプラチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン、イリノテカン、パクリタキセル、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ-1(IDO1)阻害剤、またはシクロホスファミドを含む、請求項
18記載の薬学的組成物。
【請求項20】
a. M2マクロファージを請求項1~
6のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメントと接触させる工程
を含む、M2マクロファージにおけるサイトカインまたはケモカインの分泌を増加させるインビトロの方法。
【請求項21】
a. M2マクロファージを請求項1~
6のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメントと接触させる工程; および
b. 該M2マクロファージをCD8
+T細胞と共インキュベートする工程
を含む、CD8
+T細胞増殖を誘導するインビトロの方法。
【請求項22】
M2マクロファージを請求項1~
6のいずれか一項記載の抗体または抗原結合性フラグメントと接触させる工程
を含む、M2マクロファージをM1マクロファージに変換するインビトロの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月28日に出願された米国仮特許出願第62/738,255号および2018年12月7日に出願された米国仮特許出願第62/776,523号に基づく優先権およびその恩典を主張するPCT出願である。前記出願の開示内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本開示は、V-Set And Immunoglobulin Domain Containing 4(VSIG4)に結合する抗体および抗原結合性フラグメントに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
がんは今なお世界の主要死因のうちの1つである。最近の統計では、世界人口の13%ががんで死亡すると報告されている。国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer)(IARC)の推計によると、2012年には、世界中で1410万例の新規がん症例および820万例のがん死症例があった。世界負荷は、2030年までに、人口増加および加齢や、喫煙、不健康な食事および運動不足などのリスク因子への曝露により、新規がん症例2170万例およびがん死症例1300万例に拡大すると予想されている。さらに、痛みとがん処置の医療費とは、がん患者にとっても、その家族にとっても、生活の質が低減する原因になる。なによりも、がんが、改良された処置方法を至急見いだす必要のある疾患であることは、明らかである。
【0004】
マクロファージは、我々の免疫系のために中心的役割を果たし、がん生物学に関連している、多機能性抗原提示細胞である。がんでは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)が悪性腫瘍組織に浸潤し、がん生物学に関連しており腫瘍進行に影響することが公知である。TAMは、2つのカテゴリー、すなわちM1およびM2に分類されると説明することができる。M1マクロファージは、炎症誘発性かつ細胞障害性(抗腫瘍性)機能を有することが分かっており、一方、M2マクロファージは、抗炎症性(腫瘍誘発性)であり創傷治癒を促進する。
【0005】
これらの機能と一致して、TAM、特にM2表現型を有するマクロファージは、多くの種類の悪性腫瘍において臨床的予後が悪いことに密接に関連している。浸潤するTAMそれら自体またはTAMの極性化経路は、悪性腫瘍の療法のための新しい治療標的とみなされている。
【発明の概要】
【0006】
概要
本開示は、VSIG4(V-Set And Immunoglobulin Domain Containing 4; CRIgまたはZ39Igとも呼ばれる)に結合する抗体およびその断片、ならびにがんの治療、マクロファージにおけるサイトカインおよび/またはケモカインの分泌の誘導、ならびにM1マクロファージへのM2マクロファージの変換のためにそのような抗体および抗原結合性フラグメントを用いる方法に、少なくとも一部において関する。
【0007】
1つの局面において、本発明は、以下を含む、単離されたヒト化抗体または抗原結合性フラグメントに関する: (a)SEQ ID NO: 17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、SEQ ID NO: 18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、SEQ ID NO: 19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3; ならびに(b)SEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、SEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、およびSEQ ID NO: 22またはSEQ ID NO: 23のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0008】
いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、以下のいずれか1つを含んでよい: (a)SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン; (b)SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン; または(c)SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン; およびSEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン。
【0009】
いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン、またはSEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインのいずれか1つを含んでよい。いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 23のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含んでよい。
【0010】
いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。いくつかの態様において、抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。いくつかの態様において、抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、SEQ ID NO: 16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。
【0011】
いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、ヒトV-Set And Immunoglobulin Domain Containing 4(VSIG4)分子に対して1×10-7~1×10-9の結合親和性(KD)を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、VSIG4分子に対して約7.156×10-8~約7.636×10-9の結合親和性(KD)を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントは、VSIG4分子に対して約7.156×10-8、約7.636×10-9、約7.952×10-9、約8.226×10-9、または約8.688×10-9の結合親和性(KD)を有する。
【0012】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントのいずれか1つをコードする核酸分子に関する。
【0013】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載する核酸分子のいずれか1つを含む組換えベクターに関する。いくつかの態様において、本明細書に記載する組換えベクターは、プロモーターに機能的に連結されている、本明細書に記載する核酸分子を含む。いくつかの態様において、組換えベクターには、本明細書において提供される抗体または抗原結合性フラグメントの重鎖および軽鎖に対応する核酸配列をそれぞれ含む、2つの異なるベクターが含まれる。
【0014】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載する核酸分子または組換えベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの態様において、宿主細胞は、哺乳動物細胞、酵母細胞、または細菌細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞は、大腸菌(E. coli)、P. パストリス(P. pastoris)、Sf9、COS、HEK293、Expi293、CHO-S、CHO-DG44、CHO-K1、および哺乳動物リンパ球からなる群より選択される細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞はExpi293細胞である。別の局面において、本発明は、本明細書に記載する抗体もしくは抗原結合性フラグメントのいずれか1つ、本明細書に記載する核酸分子のいずれか1つ、本明細書に記載する組換えベクターのいずれか1つ、または本明細書に記載する宿主細胞のいずれか1つと、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物に関する。
【0015】
別の例として、別の局面において、本発明は、以下の工程を含む、その必要がある対象を処置する方法に関する: (a)本明細書に記載する抗体もしくは抗原結合性フラグメントのいずれか1つ、本明細書に記載する核酸分子のいずれか1つ、本明細書に記載する組換えベクターのいずれか1つ、または本明細書に記載する宿主細胞のいずれか1つを含むまたは送達する組成物を対象に投与し、それによって疾患または状態を処置する工程。いくつかの態様において、対象は、がんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクを有する。いくつかの態様において、がんは、膀胱がん、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、ファロピウス管がん、胆嚢がん、胃腸がん、頭頸部がん、血液がん、喉頭がん、肝がん、肺がん、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、卵巣がん、原発性腹膜がん、唾液腺がん、肉腫、胃がん、甲状腺がん、膵がん、腎細胞がん、神経膠芽腫、および前立腺がんより選択される。
【0016】
いくつかの態様において、対象は、電離放射線、化学療法剤、抗体剤、および細胞ベースの療法より選択される1種または複数種の追加抗がん療法を、該対象が両方による処置を受けるように、施されていたかまたは施される予定である。例えば、いくつかの態様において、1種または複数種の追加抗がん療法は、免疫チェックポイント阻害剤、IL-12、GM-CSF、抗CD4剤、シスプラチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン、イリノテカン、パクリタキセル、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ-1(IDO1)阻害剤、またはシクロホスファミドを含んでよい。
【0017】
さらに別の局面において、本発明はまた、M2マクロファージを本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントのいずれか1つと接触させる工程を含む、M2マクロファージにおけるサイトカインまたはケモカインの分泌を増加させる方法にも関する。
【0018】
さらに別の局面において、本発明は、(a)M2マクロファージを本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントのいずれか1つと接触させる工程; および(b)該M2マクロファージをCD8+T細胞と共インキュベートする工程を含む、CD8+T細胞増殖を誘導する方法に関する。
【0019】
さらに別の局面において、本発明はまた、M2マクロファージを本明細書に記載する抗体または抗原結合性フラグメントのいずれか1つと接触させる工程を含む、M2マクロファージをM1マクロファージに変換する方法にも関する。
【0020】
他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと同様または等価な方法および材料を、本発明の実践または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を後述する。本明細書において言及される刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はすべて、それらの全体が参照により組み入れられる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は、例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0021】
[本発明1001]
a. SEQ ID NO: 17のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、SEQ ID NO: 18のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、SEQ ID NO: 19のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列; ならびに
b. SEQ ID NO: 20のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、SEQ ID NO: 21のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、およびSEQ ID NO: 22またはSEQ ID NO: 23のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3
を含む、単離されたヒト化抗体またはその抗原結合性フラグメント。
[本発明1002]
a. SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン;
b. SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン; または
c. SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン
のいずれか1つを含む、本発明1001の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1003]
a. SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン;
b. SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン; または
c. SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 14、もしくはSEQ ID NO: 16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 8、SEQ ID NO: 10、もしくはSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン
のいずれかを含む、本発明1001または1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1004]
抗体が、SEQ ID NO: 23のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、本発明1001の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1005]
SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 4のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、本発明1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1006]
SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 8のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、本発明1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1007]
SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、本発明1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1008]
SEQ ID NO: 6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、本発明1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1009]
SEQ ID NO: 14のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、本発明1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1010]
SEQ ID NO: 16のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよびSEQ ID NO: 12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、本発明1002の抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1011]
ヒトV-Set And Immunoglobulin Domain Containing 4(VSIG4)分子に対して1×10
-7
~1×10
-9
の結合親和性(K
D
)を有する、本発明1001~1010のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1012]
VSIG4分子に対して約7.156×10
-8
~約7.636×10
-9
の結合親和性(K
D
)を有する、本発明1001~1011のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1013]
VSIG4分子に対して約7.156×10
-8
、約7.636×10
-9
、約7.952×10
-9
、約8.226×10
-9
、または約8.688×10
-9
の結合親和性(K
D
)を有する、本発明1001~1011のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメント。
[本発明1014]
本発明1001~1013のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントをコードする、核酸分子。
[本発明1015]
本発明1014の核酸分子を含む、組換えベクター。
[本発明1016]
本発明1014の核酸分子がプロモーターに機能的に連結されている、本発明1015の組換えベクター。
[本発明1017]
前記抗体または抗原結合性フラグメントの重鎖および軽鎖に対応する核酸配列をそれぞれ含む2つの異なるベクターを含む、本発明1015または1016の組換えベクター。
[本発明1018]
本発明1014の核酸分子または本発明1015~1017のいずれかの組換えベクターを含む、宿主細胞。
[本発明1019]
哺乳動物細胞、酵母細胞、または細菌細胞である、本発明1018の宿主細胞。
[本発明1020]
大腸菌(E. coli)、P. パストリス(P. pastoris)、Sf9、COS、HEK293、Expi293、CHO-S、CHO-DG44、CHO-K1、および哺乳動物リンパ球からなる群より選択される細胞である、本発明1019の宿主細胞。
[本発明1021]
Expi293細胞である、本発明1020の宿主細胞。
[本発明1022]
本発明1001~1013のいずれかの抗体もしくは抗原結合性フラグメント、本発明1014の核酸分子、本発明1015~1017のいずれかの組換えベクター、または本発明1018~1021のいずれかの宿主細胞; および
薬学的に許容される担体
を含む、薬学的組成物。
[本発明1023]
以下の工程を含む、その必要がある対象を処置する方法:
a. 本発明1001~1013のいずれかの抗体もしくは抗原結合性フラグメント、本発明1014の核酸分子、本発明1015~1017のいずれかの組換えベクター、または本発明1018~1021のいずれかの宿主細胞を含むまたは送達する組成物を該対象に投与し、それによって疾患または状態を処置する工程。
[本発明1024]
対象ががんを有するか、またはがんを発症するリスクを有する、本発明1023の方法。
[本発明1025]
がんが、膀胱がん、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、ファロピウス管がん、胆嚢がん、胃腸がん、頭頸部がん、血液がん、喉頭がん、肝がん、肺がん、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、卵巣がん、原発性腹膜がん、唾液腺がん、肉腫、胃がん、甲状腺がん、膵がん、腎細胞がん、神経膠芽腫、および前立腺がんより選択される、本発明1024の方法。
[本発明1026]
対象が、電離放射線、化学療法剤、抗体剤、および細胞ベースの療法より選択される1種または複数種の追加抗がん療法を、該対象が両方による処置を受けるように、施されていたかまたは施される予定である、本発明1023~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
1種または複数種の追加抗がん療法が、免疫チェックポイント阻害剤、IL-12、GM-CSF、抗CD4剤、シスプラチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン、イリノテカン、パクリタキセル、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ-1(IDO1)阻害剤、またはシクロホスファミドを含む、本発明1026の方法。
[本発明1028]
a. M2マクロファージを本発明1001~1013のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントと接触させる工程
を含む、M2マクロファージにおけるサイトカインまたはケモカインの分泌を増加させる方法。
[本発明1029]
a. M2マクロファージを本発明1001~1013のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントと接触させる工程; および
b. 該M2マクロファージをCD8
+
T細胞と共インキュベートする工程
を含む、CD8
+
T細胞増殖を誘導する方法。
[本発明1030]
M2マクロファージを本発明1001~1013のいずれかの抗体または抗原結合性フラグメントと接触させる工程
を含む、M2マクロファージをM1マクロファージに変換する方法。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、抗VSIG4抗体をマクロファージに投与することによりM2マクロファージがM1マクロファージに変換され、その結果、CD8
+T細胞が増殖し、次いでがんが抑制されるメカニズムを示す概略図である。
【
図2A-1】
図2Aは、VSIG4とヒトB7ファミリーの様々なタンパク質との配列アラインメントを示す。
【
図2B】
図2Bは、VSIG4とヒトB7ファミリーの様々なタンパク質との進化的関係を示す系統樹である。
【
図3A】
図3Aおよび3Bは、腫瘍組織におけるVSIG4 mRNA発現と様々な遺伝子との相関を示す。
【
図4】
図4Aは、EU103.2抗体のタンパク質プロファイルを示すHPLCプロットである。
図4Bは、VSIG4へのEU103.2抗体の結合を示す表面プラズモン共鳴データである。
【
図5-1】
図5は、M1マクロファージおよびM2マクロファージの光学顕微鏡画像(それぞれ、左上および右上)ならびにM1マクロファージおよびM2マクロファージにおけるVSIG4の発現を示すFACS解析データを示す。
【
図6】
図6は、EU103.2による、M1マクロファージおよびM2マクロファージにおける炎症誘発性のサイトカインおよびケモカインの誘導を示すグラフのセットである。
【
図7】
図7は、EU103.2で処理したM2マクロファージにおけるCD163発現の低下を示すFACSデータのセットである。
【
図8-1】
図8は、EU103.2で処理したM2マクロファージと共にCD8
+T細胞を共培養した場合にCD8
+ T細胞増殖が誘導されることを示すFACSデータのセット(最初の6つの列)およびこれらのデータの定量(最後の列)である。
【
図9】
図9は、卵巣がん患者に由来する腹腔液から単離されたマクロファージにおけるVSIG4発現を示すFACSデータのセットである。
【
図10-1】
図10は、卵巣がん患者から単離しEU103.2で処理したマクロファージと共に共培養した場合に、CD8
+T細胞増殖が誘導されることを示すFACSデータのセットである。
【
図11】
図11は、卵巣がん患者から単離し抗EU103.2で処理したマクロファージと共に共培養した場合に、CD8
+T細胞増殖が誘導されることを示すグラフである。
【
図12】
図12は、EU103.2抗体によってM2マクロファージをM1マクロファージに変換した後の形態学的差異を示す、M1マクロファージおよびM2マクロファージの顕微鏡画像のセットである。
【
図13-1】
図13は、CD8
+細胞とVSIG4の相互作用を妨害するとCD8
+T細胞増殖が亢進することを示すFACSデータのセットである。
【
図14A】
図14Aおよび
図14Bは、THP-1細胞による抑制を妨害することによってCD8
+細胞増殖が亢進することを示すグラフのセットである。
【
図15】
図15A~15Cは、3種の異なるマウス腫瘍モデルにおける抗VSIG4抗体の抗腫瘍活性を示すグラフのセットである。
【
図16】
図16は、VSIG4ノックアウトマウスモデルにおける抗VSIG4抗体の抗腫瘍活性を示すグラフのセットである。
【
図17A】
図17Aは、VSIG4シグナル伝達の非存在下でのTDLNにおけるT細胞およびMDSCの活性化状態を示すFACSデータのセットである。
【
図17B】
図17Bは、VSIG4シグナル伝達の非存在下でのTDLNにおけるT細胞およびMDSCの活性化状態を示すグラフのセットである。
【
図17C】
図17Cは、VSIG4シグナル伝達の非存在下でのTDLNにおけるT細胞およびMDSCの活性化状態を示すグラフのセットである。
【
図17D】
図17Dは、VSIG4シグナル伝達の非存在下でのTDLNにおけるT細胞およびMDSCの活性化状態を示すグラフのセットである。
【
図18】
図18Aは、VSIG4シグナル伝達の非存在下での腫瘍増殖の抑制を示すグラフである。
図18Bは、VSIG4シグナル伝達の非存在下での腫瘍増殖の抑制を示す組織スライドのセットである。
【
図19】
図19は、ヒト化マウスモデルにおける抗VSIG4抗体の抗腫瘍活性を示すグラフである。
【
図20】
図20は、EU103.2抗体をマクロファージに投与することによりM2マクロファージがM1マクロファージに変換され、その結果、CD8
+T細胞が増殖するメカニズムを示す概略図である。
【
図21】
図21Aおよび21Bは、ヒト化抗VSIG4抗体をクローン化し発現させるのに使用される発現ベクターを示す概略図である。
【
図22】
図22は、A1抗体(EU103_T01.01)のタンパク質プロファイルを示すHPLCプロットである。
【
図23】
図23は、A2抗体(EU103_T01.02)のタンパク質プロファイルを示すHPLCプロットである。
【
図24】
図24は、A1.3抗体(EU103_T01.01S)のタンパク質プロファイルを示すHPLCプロットである。
【
図25】
図25は、A2.3抗体(EU103_T01.02S)のタンパク質プロファイルを示すHPLCプロットである。
【
図26】
図26Aは、A1抗体またはA2抗体で処理したM2マクロファージにおけるCD163発現の低下を示すFACSデータのセットである。
図26Bは、A1抗体またはA2抗体で処理したM2マクロファージにおけるCD163発現の低下を示すグラフである。
【
図27-1】
図27は、A1抗体またはA2抗体で処理したM2細胞におけるM2型のサイトカインおよびケモカインの減少を示すグラフのセットである。
【
図28-1】
図28は、A1抗体またはA2抗体で処理したM2マクロファージにおけるCD163発現の低下およびCD86発現の増加を示すFACSデータのセットである。
【
図29】
図29は、A1抗体またはA2抗体で処理したM2マクロファージにおけるM1型サイトカイン/ケモカイン発現の増加を示すグラフのセットである。
【
図30】
図30は、A2抗体によるM2マクロファージからM1マクロファージへの変換後にマクロファージの走化能力を測定する走化性アッセイ法から得られたデータを示すグラフである。
【
図31A】
図31A~31Cは、ヒト化マウスモデルにおけるA1抗体およびA2抗体の抗腫瘍効果を示す。
【
図32A】
図32A~32Cは、インビボでのA2抗体によるマクロファージ変換を示す。
【
図33A】
図33Aおよび33Bは、M1マクロファージへのM2マクロファージ変換が腫瘍増殖に与える影響を解析することにより、インビボでのA2抗体によるマクロファージ変換を示す。
【
図34A】
図34A~34Eは、ヒト化マウスモデルにおけるA2抗体の抗腫瘍効果を示す。
【
図35A】
図35A~35Dは、ヒト化マウスモデルにおけるA2抗体およびA2.3抗体の抗腫瘍効果を示す。
【
図36A-1】
図36Aおよび36Bは、A1抗体、A1.3抗体、A2抗体、およびA2.3抗体の共培養を示す共培養アッセイ法から得られたデータのセットであり、M2マクロファージはCD8
+T細胞増殖の増加を示した。
【
図37】
図37は、A2抗体およびA2.3抗体の共培養を示す共培養アッセイ法から得られたデータを示すグラフであり、M2マクロファージはCD8
+T細胞増殖の増加を示した。
【
図38】
図38Aおよび38Bは、A2抗体またはA2.3抗体によるCD8
+T細胞増殖を観察するための、hVSIG4を発現するHeLa-hVSIG4細胞の使用を示すグラフのセットである。
【
図39】
図39は、A2抗体によるマクロファージ変換のシグナル経路を観察するための、ヒトホスホロキナーゼアレイの使用を示すグラフである。
【
図40】
図40は、ヒト化したEU103.3抗体、A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体の重鎖および軽鎖の配列アラインメントを示す。
【
図41】
図41は、VSIG4 K/Oマウスの作製および性質決定を示す。
【
図42】
図42は、A2抗体によるM2マクロファージからM1マクロファージへの変換後の遺伝子発現の変化を示す遺伝子アレイ解析のデータである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本発明は、ある種の抗VSIG4抗体を用いてVSIG4とCD8+T細胞の相互作用を阻害するとCD8+ T細胞が増殖し、それによりがんの抑制をもたらすことができるという発見に、少なくとも部分的に基づいている。
【0024】
本明細書において使用する場合、値に関して本明細書において使用する場合、「約」という用語は、言及された値との関連において類似する値を指す。一般に、ある文脈において「約」が包含する妥当な変動の程度は、その文脈に精通している当業者には理解されるであろう。例えばいくつかの態様において、「約」という用語は、言及された値の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%以内またはそれ未満以内の値の範囲を包含しうる。
【0025】
本明細書において使用する場合、「投与」という用語は、典型的には、組成物である剤または組成物に含まれる剤の送達を達成するための、対象または系への組成物の投与を指す。当業者は、適当な状況において、対象(例えばヒト)への投与に利用することができるさまざまな経路を知っているであろう。例えばいくつかの態様において、投与は点眼、経口、非経口、外用などであることができる。いくつかの特定態様において、投与は、気管支(例: 気管支点滴によるもの)、バッカル、皮膚(例えば皮膚への外用、皮内、皮下(interdermal)、経皮などのうちの1つまたは複数であるか、またはそれらを含みうる)、経腸、動脈内、皮内、胃内、髄内、筋肉内、鼻腔内、腹腔内、髄腔内、静脈内、室内(intraventricular)、具体的器官内(例えば肝臓内)、粘膜、経鼻、経口、直腸、皮下、舌下、外用、気管(例: 気管内点滴によるもの)、膣、硝子体などでありうる。いくつかの態様において、投与は単回投与だけを伴いうる。いくつかの態様において、投与は固定された投与回数の適用を伴いうる。いくつかの態様において、投与は、間欠的(例: 時間を空けて複数回)および/または周期的(同じ時間を隔てた個々の投与)投与である投与を伴いうる。いくつかの態様において、投与は、少なくとも選択されたある期間にわたる連続的投与(例: 灌流)を伴いうる。
【0026】
本明細書において使用する場合、「親和性」という用語は、典型的には、ある特定リガンドがそのパートナーに結合する堅固さの尺度を指す。親和性はさまざまな方法で測定することができる。いくつかの態様において、親和性は定量的アッセイによって測定される。いくつかのそのような態様では、結合パートナー濃度を、生理的条件を模倣するために、リガンド濃度過剰に固定することができる。上記に代えて、または上記に加えて、いくつかの態様では、結合パートナー濃度および/またはリガンド濃度を変化させることができる。いくつかのそのような態様では、親和性を、同等な条件下(例: 濃度)で、基準と比較することができる。
【0027】
本明細書において使用する場合、「親和性成熟」という用語は、ある抗体が、典型的には1つまたは複数のアミノ酸残基の変異によって基準抗体(本明細書において鋳型抗体または親抗体とも呼ばれる)から進化して、該基準抗体の対応する形態が標的抗原に対して有するよりも増大した活性を同じ標的抗原に対して有するようになるプロセスを指す。したがって、進化した抗体は、基準抗体または鋳型抗体と比べて最適化されている。本明細書において使用する場合、「親和性成熟抗体」という用語は、典型的には、標的抗原に対する活性が基準抗体と比べて増大している抗体を指す。いくつかの態様において、親和性成熟抗体は、基準抗体または親抗体と比べて増大した、標的抗原への結合を示す。典型的には、親和性成熟抗体は、基準抗体と同じエピトープに結合する。
【0028】
本明細書において使用する場合、「抗体」という用語は、特定ターゲット抗原への特異的結合を付与するのに十分な標準的(canonical)免疫グロブリン配列要素を含むポリペプチドを指す。当技術分野において公知であるとおり、自然界で産生されるインタクトな抗体は、2本の同一重鎖ポリペプチド(それぞれ約50kD)および2本の同一軽鎖ポリペプチド(それぞれ約25kD)から構成され、それらが互いに会合して一般に「Y字」構造と呼ばれるものになる、およそ150kDの四量体の物質である。各重鎖は、少なくとも4つのドメイン(それぞれ約110アミノ酸長)、すなわちアミノ末端の可変(VH)ドメイン(Y構造の先端部に位置する)とそれに続く3つの定常ドメイン: CH1、CH2およびカルボキシ末端のCH3(Yの軸部分の基部に位置する)とから構成される。「スイッチ」と呼ばれる短い領域が、重鎖の可変領域と定常領域とを接続している。「ヒンジ」は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを抗体の残りの部分に接続している。インタクトな抗体では、このヒンジ領域中の2つのジスルフィド結合が2本の重鎖ポリペプチドを互いに接続している。各軽鎖は、2つのドメイン、すなわち、もう1つの「スイッチ」によって互いに分離されたアミノ末端の可変(VL)ドメインと、それに続くカルボキシ末端の定常(CL)ドメインとから構成される。インタクトな抗体四量体は、重鎖と軽鎖が単一のジスルフィド結合によって互いに連結されている2つの重鎖-軽鎖二量体から構成され、他の2つのジスルフィド結合は、これらの二量体が互いに接続されて四量体を形成するように、重鎖ヒンジ領域を互いに接続している。また、天然に産生される抗体は、典型的にはCH2ドメイン上が、グリコシル化されている。天然抗体中の各ドメインは、圧縮された逆平行ベータバレルへと互いに相対してパッケージングされた2つのベータシート(例: 3、4または5ストランドのシート)から形成される「免疫グロブリンフォールド」を特徴とする構造を有する。各可変ドメインは、「相補性決定領域」と呼ばれる3つの超可変ループ(CDR1、CDR2およびCDR3)と、いくらか不変である4つの「フレームワーク」領域(FR1、FR2、FR3およびFR4)とを含有する。天然抗体がフォールディングすると、FR領域は、ドメインの構造的フレームワークとなるベータシートを形成し、重鎖と軽鎖の両方からのCDRループ領域は三次元空間で寄せ集められることで、Y構造の先端に位置する単一の超可変抗原結合部位を作り出す。天然抗体のFc領域は補体系の要素に結合すると共に、例えば細胞傷害性を媒介するエフェクター細胞含むエフェクター細胞上の受容体にも結合する。当技術分野では知られているとおり、Fc受容体に対するFc領域の親和性および/または他の結合属性は、グリコシル化または他の修飾によって調整することができる。いくつかの態様において、本発明に従って産生および/または利用される抗体は、グリコシル化されたFcドメイン、例えば修飾されたまたは改変されたそのようなグリコシル化を伴うFcドメインを含む。本発明に関して、特定の態様では、天然抗体に見いだされるように十分な免疫グロブリンドメイン配列を含む任意のポリペプチドまたはポリペプチドの複合体を、そのポリペプチドが天然に産生されたか(例えば抗原に反応する生物によって作成されたか)、組換え工学、化学合成または他の人工系もしくは方法論によって産生されたかを問わず、「抗体」と呼ぶことができ、かつ/または「抗体」として使用することができる。いくつかの態様において、抗体はポリクローナルであり、いくつかの態様において、抗体はモノクローナルである。いくつかの態様において、抗体は、マウス抗体、ウサギ抗体、霊長類抗体またはヒト抗体に特有の定常領域配列を有する。いくつかの態様において、抗体配列要素は、当技術分野において公知であるとおり、ヒト化型、霊長類化型、キメラなどである。さらにまた、本明細書において使用する「抗体」という用語は、適当な態様において(別段の言明がある場合、または文脈上そうでないことが明らかである場合を除き)、抗体の構造的および機能的特徴を代替的表現で利用するための、当技術分野において公知のまたは開発されたコンストラクトまたはフォーマットのいずれをも指すことができる。例えばいくつかの態様において、本発明に従って利用される抗体は、以下から選択されるフォーマット(ただしそれらに限定されるわけではない)をとる: インタクトなIgA、IgG、IgEまたはIgM抗体; 二重特異性または多重特異性抗体(例: Zybodies(登録商標)など); 抗体フラグメント、例えばFabフラグメント、Fab'フラグメント、F(ab')2フラグメント、Fd'フラグメント、Fdフラグメントおよび単離されたCDRまたはそれらのセット; 単鎖Fv; ポリペプチド-Fc融合物; 単一ドメイン抗体(例: IgNARまたはそのフラグメントなどのサメ単一ドメイン抗体); ラクダ科抗体; マスク(masked)抗体(例: Probodies(登録商標)); Small Modular ImmunoPharmaceuticals(「SMIPs(商標)」); 単鎖またはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標)); ヒューマボディ、VHH; Anticalins(登録商標); Nanobodies(登録商標)ミニボディ; BiTE(登録商標); アンキリンリピートタンパク質またはDARPINs(登録商標); Avimers(登録商標); DARTs; TCR様抗体、Adnectins(登録商標); Affilins(登録商標); Trans-bodies(登録商標); Affibodies(登録商標); TrimerX(登録商標); マイクロプロテイン(MicroProtein); Fynomers(登録商標)、Centyrins(登録商標); およびKALBITOR(登録商標)。いくつかの態様において、抗体は、天然に産生された場合に有するであろう共有結合による修飾(例: グリカンの付加)を欠いてもよい。いくつかの態様において、抗体は、修飾(例: グリカン、ペイロード[例: 検出可能部分、治療部分、触媒部分など]または他のペンダント基[例: ポリエチレングリコールなど]の付加)を含有しうる。
【0029】
本明細書において使用する場合、「抗体フラグメント」とは、本明細書に記載する抗体または抗体剤の一部を指し、典型的には、抗原結合部分またはその可変領域を含む部分を指す。抗体フラグメントは任意の手段によって作製されうる。例えばいくつかの態様において、抗体フラグメントは、インタクトな抗体または抗体剤の断片化により、酵素的または化学的に作製することができる。あるいは、いくつかの態様において、抗体フラグメントは組換え的に(すなわち改変された核酸配列の発現によって)産生することもできる。いくつかの態様において、抗体フラグメントは、全部または一部を合成的に作製することができる。いくつかの態様において、抗体フラグメント(特に抗原結合性抗体フラグメント)は、少なくとも約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190アミノ酸またはそれ以上、いくつかの態様では少なくとも約200アミノ酸の長さを有しうる。
【0030】
本明細書において使用する場合、「結合」という用語は、典型的には、2つ以上の実体間での非共有結合的会合を指す。「直接的」結合は実体間または部分間の物理的接触を伴い、間接的結合は1つまたは複数の中間実体との物理的接触を介した物理的相互作用を伴う。2つ以上の実体間の結合は、典型的には、例えば相互作用する実体または部分を分離して研究する場合や、より複雑な系を背景として(例えば共有結合または他の形で担体実体と関連付けられた状態で、かつ/または生物学的な系もしくは細胞中で)研究する場合を含めて、さまざまな背景のいずれにおいても評価することができる。
【0031】
本明細書において使用する場合、「がん」、「悪性腫瘍」、「新生物」、「腫瘍」および「がん腫」という用語は、典型的には、相対的に異常な、制御されないおよび/または自律的な成長を示し、その結果、細胞増殖の制御が著しく失われていることを特徴とする異常成長表現型を示す細胞を指す。いくつかの態様において、腫瘍は、前がん性(例えば良性)、悪性、前転移性、転移性および/または非転移性の細胞であるか、それを含みうる。本開示では、その教示内容が特に関連しうる特定のがんを、具体的に特定する。いくつかの態様において、関連がんは固形腫瘍を特徴としうる。いくつかの態様において、関連がんは血液腫瘍を特徴としうる。一般に、当技術分野において公知のさまざまなタイプのがんの例には、例えば白血病、リンパ腫(ホジキンおよび非ホジキン)、骨髄腫および骨髄増殖性障害を含む造血器がん; 肉腫、黒色腫、腺腫、固形組織のがん、口、のど、喉頭および肺の扁平上皮がん、肝がん、尿生殖器がん、例えば前立腺がん、子宮頸がん、膀胱がん、子宮がんおよび子宮内膜がん、ならびに腎細胞がん、骨がん、膵がん、皮膚がん、皮膚黒色腫または眼内黒色腫、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、頭頸部がん、乳がん、胃腸がんおよび神経系がん、パピローマなどの良性病変などがある。
【0032】
本明細書において使用する場合、「CDR」という用語は、抗体可変領域内の相補性決定領域を指す。重鎖および軽鎖の可変領域のそれぞれには3つのCDRがあり、それらは、可変領域のそれぞれについて、CDR1、CDR2およびCDR3と称されている。「CDRのセット」または「CDRセット」とは、抗原結合能を有する単一可変領域に見いだされる、または抗原結合能を有するコグネイト重鎖および軽鎖可変領域のCDRに見いだされる、3つまたは6つのCDRの集まりを指す。当技術分野ではCDRの境界を画定するためにいくつかのシステムが確立されており(例: Kabat、Chothiaなど)、当業者はこれらのシステム間の相違を認識して、本願に係る発明を理解し実施するために必要な程度には、CDRの境界を理解することができる。
【0033】
本明細書において使用する場合、「化学療法剤」という用語は、アポトーシス促進性、細胞分裂阻害性および/または細胞傷害性の1つまたは複数の剤に関して当技術分野で理解されているその意味を有し、例えば特に、望ましくない細胞増殖に関連する1つまたは複数の疾患、障害または状態の処置に利用されかつ/またはそのような処置における使用が推奨されている剤を含む。多くの態様において、化学療法剤はがんの処置に有用である。いくつかの態様において、化学療法剤は、1種または複数種のアルキル化剤、1種または複数種のアントラサイクリン類、1種または複数種の細胞骨格破壊剤(例えばタキサン、メイタンシンおよびそれらの類似体などの微小管標的剤)、1種または複数種のエポチロン、1種または複数種のヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDAC)、1種または複数種のトポイソメラーゼ阻害剤(例: トポイソメラーゼIおよび/またはトポイソメラーゼIIの阻害剤)、1種または複数種のキナーゼ阻害剤、1種または複数種のヌクレオチド類似体またはヌクレオチド前駆体類似体、1種または複数種のペプチド系抗生物質、1種または複数種の白金ベースの剤、1種または複数種のレチノイド、1種または複数種のビンカアルカロイド、および/または以下に挙げるもの(すなわち抗増殖活性を共通して有するもの)のうちの1つまたは複数の1種または複数種の類似体であるか、それを含みうる。いくつかの特定態様において、化学療法剤は、アクチノマイシン、全トランス型レチノイン酸、アウリスタチン(Auiristatin)、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、クルクミン、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イマチニブ、イリノテカン、メイタンシンおよび/またはその類似体(例えばDM1)、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、メイタンシノイド、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テニポシド、チオグアニン、トポテカン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、およびそれらの組み合わせの1つまたは複数であるか、それを含みうる。いくつかの態様では、化学療法剤を抗体-薬物コンジュゲートとの関連において利用しうる。いくつかの態様において、化学療法剤は、hLL1-ドキソルビシン、hRS7-SN-38、hMN-14-SN-38、hLL2-SN-38、hA20-SN-38、hPAM4-SN-38、hLL1-SN-38、hRS7-Pro-2-P-Dox、hMN-14-Pro-2-P-Dox、hLL2-Pro-2-P-Dox、hA20-Pro-2-P-Dox、hPAM4-Pro-2-P-Dox、hLL1-Pro-2-P-Dox、P4/D10-ドキソルビシン、ゲムツズマブオゾガマイシン、ブレンツキシマブベドチン、トラスツズマブエムタンシン、イノツズマブオゾガマイシン、グレンバツモマブ(glembatumomab)ベドチン、SAR3419、SAR566658、BIIBO15、BT062、SGN-75、SGN-CD19A、AMG-172、AMG-595、BAY-94-9343、ASG-5ME、ASG-22ME、ASG-16M8F、MDX-1203、MLN-0264、抗PSMA ADC、RG-7450、RG-7458、RG-7593、RG-7596、RG-7598、RG-7599、RG-7600、RG-7636、ABT-414、IMGN-853、IMGN-529、ボルセツズマブマホドチン、およびロルボツズマブメルタンシンからなる群より選択される抗体-薬物コンジュゲートに見いだされるものである。
【0034】
本明細書において使用する場合、「併用療法」という用語は、対象が2種以上の治療レジメン(例えば2種以上の治療剤)に同時に曝される状況を指す。いくつかの態様において、前記2種以上の治療レジメンを同時に施しうる。いくつかの態様において、前記2種以上の治療レジメンを逐次的に施しうる(例えば、第2レジメンを何らかの用量で施す前に第1レジメンを施す)。いくつかの態様において、前記2種以上の治療レジメンを、オーバーラップした投与レジメンで施す。いくつかの態様において、併用療法の施行は、1種または複数種の治療剤または治療モダリティを、他の剤またはモダリティを受ける対象に施すことを伴いうる。
【0035】
本明細書において使用する場合、「フレームワーク」または「フレームワーク領域」という用語は、可変領域のうちのCDRを除いた配列を指す。CDR配列は異なるシステムによって決定することができるので、同様にフレームワーク配列も、相応に異なる解釈の対象となる。6つのCDRが、重鎖および軽鎖上のフレームワーク領域を、各鎖上の4つのサブ領域(FR1、FR2、FR3およびFR4)に分割する。ここで、CDR1はFR1とFR2の間に位置し、CDR2はFR2とFR3の間に位置し、CDR3はFR3とFR4の間に位置する。特定サブ領域をFR1、FR2、FR3またはFR4と指定しない場合、フレームワーク領域とは、他でもいわれるとおり、1本の天然免疫グロブリン鎖の可変領域内のFRを合わせたものを表す。本明細書においてFR(a FR)とは、4つのサブ領域のうちの1つを表し、例えばFR1は、可変領域のアミノ末端に最も近くCDR1に対して5'側にある第1フレームワーク領域を表す。また、複数のFR(FRs)とは、フレームワークを構成するサブ領域のうちの2つ以上を表す。
【0036】
本明細書において使用する場合、「ヒト化」という用語は、抗体(または抗体構成要素)であって、そのアミノ酸配列は非ヒト種(例: マウス)において産生させた基準抗体からのVH領域配列およびVL領域配列を含むが、それらの配列は、基準抗体と比較して、それらをより「ヒト様」にすること、すなわちヒト生殖細胞系可変配列により類似させることを意図した修飾も含んでいるものを指すために、よく使用される。いくつかの態様において、「ヒト化」抗体(または抗体構成要素)は、関心対象の抗原に免疫特異的に結合し、かつ実質的にヒト抗体の配列のようなアミノ酸配列を有するフレームワーク(FR)領域と実質的に非ヒト抗体の配列のようなアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)とを有するものである。ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質上すべてが非ヒト免疫グロブリン(すなわちドナー免疫グロブリン)に対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質上すべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のそれである、少なくとも1つの、典型的には2つの、可変ドメイン(Fab、Fab'、F(ab')2、FabC、Fv)の実質上すべてを含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリン定常領域のものも含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体は、軽鎖と、重鎖の少なくとも可変ドメインとを、どちらも含有する。抗体は、重鎖定常領域のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、そして任意でCH4領域も含みうる。
【0037】
本明細書において使用する場合、「インビトロ」という用語は、多細胞生物内ではなく、例えば試験管内または反応槽内、細胞培養中などの、人工的環境において起こる事象を指す。
【0038】
本明細書において使用する場合、「インビボ」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物などの多細胞生物内で起こる事象を指す。細胞ベースの系との関連では、この用語は(例えばインビトロ系との対比で)生細胞内で起こる事象を指すために使用されうる。
【0039】
本明細書において使用する場合、「単離された」という用語は、(1)それが最初に作製された時(自然界でのことであるか、かつ/または実験的状況でのことであるかは問わない)に、それに付随していた構成要素の少なくとも一部から分離されており、かつ/または(2)人間の手によって設計され、作製され、調製され、かつ/または製造された、物質および/または実体を指す。単離された物質および/または実体は、それらに最初に付随していた他の構成要素の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約99%超から分離されていることができる。いくつかの態様において、単離された物質は、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約99%超純粋である。本明細書において、物質は、それが他の構成要素を実質的に含まなければ、「純粋」である。いくつかの態様において、当業者には理解されるであろうとおり、物質は、特定の他の構成要素、例えば1種または複数種の担体または賦形剤(例: 緩衝液、溶媒、水など)などと組み合わされた後でもなお、「単離された」とみなすことができ、さらには「純粋」とさえみなしうる。そのような態様において、物質の単離率または純度は、そのような担体または賦形剤を含めずに算出される。一例を挙げると、いくつかの態様において、自然に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの生物学的ポリマーは、a)それが、その起源または派生源ゆえに、自然界でそのネイティブ状態にあるそれに伴う構成成分の一部または全部が付随していない場合、b)それが、自然界でそれを産生する種からの同じ種の他のポリペプチドまたは核酸を実質上含まない場合、c)それが、自然界でそれを産生する種のものではない細胞または他の発現系によって発現されるか、他の形でそのような細胞または他の発現系からの構成要素が付随している場合には、「単離された」とみなされる。したがって例えばいくつかの態様において、化学合成されたポリペプチドまたは自然界でそれを産生するものとは異なる細胞系において合成されたポリペプチドは、「単離された」ポリペプチドであるとみなされる。上記に代えて、または上記に加えて、いくつかの態様において、1種または複数種の精製技法に供されたポリペプチドは、a)自然界でそれに付随している他の構成要素および/またはb)最初に作製された時にそれに付随していた他の構成要素から分離されている限り、「単離された」ポリペプチドであるとみなしうる。
【0040】
本明細書において使用する場合、「KD」という用語は、結合剤(例: 抗体またはその結合構成要素)の、そのパートナー(例: その抗体または結合構成要素が結合するエピトープ)との複合体からの解離定数を指す。
【0041】
本明細書において使用する場合、「マクロファージ」という用語は、脾臓中に見出されるかまたは組織マクロファージに分化した、単球/マクロファージ系統の細胞を指す。これらの細胞には、濾胞樹状細胞(FDC)、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、ならびに他の組織マクロファージが含まれる。マクロファージは、循環末梢血中の単球から分化する食細胞であり抗原提示細胞である。マクロファージは、Tリンパ球を活性化することにより、先天性免疫と獲得免疫の両方において重要な役割を果たす。Th1 Tリンパ球を活性化するマクロファージは、炎症応答をもたらし、M1マクロファージと表される。M1マクロファージは、「キラーマクロファージ」とも呼ばれ、細胞増殖を阻害し、組織損傷を引き起こし、細菌に対して攻撃的である。Th2 Tリンパ球を活性化するマクロファージは、抗炎症応答をもたらし、M2マクロファージと表される。M2マクロファージは、「修復マクロファージ」とも呼ばれ、細胞増殖および組織修復を促進し、抗炎症性である。本明細書において使用する場合、「腫瘍関連マクロファージ」(TAM)という用語は、がん、例えば腫瘍の微小環境に存在するマクロファージを通常は指す。
【0042】
本明細書において使用する場合、「機能的に連結された」という用語は、記載した複数の構成要素が意図したように機能することを可能にする関係にある並置を指す。機能要素に「機能的に連結された」制御要素は、制御要素と適合する条件下で機能要素の発現および/または活性が達成されるような関係にある。いくつかの態様では、「機能的に連結された」制御要素は、関心対象のコーディング要素と連続しており(例えば共有結合で連結され)、いくつかの態様では、制御要素は関心対象の機能要素に対してトランスに作用するか、または他の形で関心対象の機能要素から離れた位置において作用する。
【0043】
本明細書において使用する場合、「薬学的組成物」という用語は、活性剤が1種または複数種の薬学的に許容される担体と共に処方されている組成物を指す。いくつかの態様において、組成物はヒト対象または動物対象への投与に適している。いくつかの態様において、活性剤は、適切な集団に投与されたときに予め決定された治療効果を達成する統計的に有意な確率を示す治療レジメンでの投与に適した単位投与量で存在する。
【0044】
本明細書において使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、一般に、少なくとも3アミノ酸のポリマーという、当技術分野において認識されているその意味を有する。「ポリペプチド」という用語が、本明細書に詳述する完全配列を有するポリペプチドを包含するだけでなく、そのような完全ポリペプチドの機能的フラグメント(すなわち少なくとも1つの活性を保っているフラグメント)に相当するポリペプチドも包含するほど十分に広義であることが意図されていることは、当業者には理解されるであろう。さらにまた、タンパク質配列が一般に活性を破壊することなく多少の置換に耐えうることも、当業者には理解される。したがって、活性を保っており、同じクラスの他のポリペプチドとの間に、少なくとも約30~40%の総配列同一性、多くの場合、約50%、60%、70%または80%を上回る総配列同一性を有し、さらに通常は、通常少なくとも3~4アミノ酸、多くの場合、最大20アミノ酸またはそれ以上を包含する1つまたは複数の高度に保存された領域に、はるかに高い同一性、多くの場合、90%、さらには95%、96%、97%、98%または99%を上回る同一性を持つ領域を少なくとも1つは含む、任意のポリペプチドが、本発明において使用される関連用語「ポリペプチド」に包含される。ポリペプチドはL-アミノ酸、D-アミノ酸またはその両方を含有してよく、当技術分野において公知のさまざまなアミノ酸修飾またはアミノ酸類似体をどれでも含有してよい。有用な修飾として、例えば末端アセチル化、アミド化、メチル化などが挙げられる。いくつかの態様において、タンパク質は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸およびそれらの組み合わせを含みうる。「ペプチド」という用語は、一般に、約100アミノ酸未満、約50アミノ酸未満、20アミノ酸未満、または10アミノ酸未満の長さを有するポリペプチドを指すために使用される。いくつかの態様において、タンパク質は、抗体、抗体フラグメント、生物学的に活性なそれらの部分および/またはそれらの特徴的部分である。
【0045】
本明細書で使用する場合、「予防する」または「予防」という用語は、疾患、障害および/または状態の発生に関連して使用される場合、疾患、障害および/または状態を発症するリスクを低減することおよび/または疾患、障害もしくは状態の1つまたは複数の特徴または症状の開始を遅延させかつ/またはその重症度を低減することを指す。いくつかの態様において、予防は集団ベースで評価されるので、ある剤は、ある疾患、障害または状態に陥りやすい集団において、その疾患、障害または状態の1つまたは複数の症状の発生、頻度および/または強さに統計的に有意な減少が観察されるのであれば、その特定の疾患、障害または状態を「予防する」とみなされる。
【0046】
本明細書において使用する場合、「組換え」という用語は、組換え手段によって設計され、改変され、調製され、発現され、作出され、製造されかつ/または単離されるポリペプチド、例えば宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使って発現されるポリペプチド; 組換えコンビナトリアルヒトポリペプチドライブラリーから単離されるポリペプチド; 当該ポリペプチドまたはその1種もしくは複数種の構成要素、部分、要素もしくはドメインをコードしかつ/またはその発現を指示する1つまたは複数の遺伝子または遺伝子構成要素についてトランスジェニックであるか、または他の形でそれらを発現するように操作されている動物(例: マウス、ウサギ、ヒツジ、魚など)から単離されるポリペプチド; および/または選択された核酸配列要素を互いにスプライスしまたはライゲートすること、選択された配列要素を化学合成することおよび/または他の形で当該ポリペプチドまたはその1種もしくは複数種の構成要素、部分、要素またはドメインをコードしかつ/またはその発現を指示する核酸を生成させることを伴う他の任意の手段によって調製され、発現され、作出されまたは単離されるポリペプチドを指すものとする。いくつかの態様において、そのような選択された配列要素のうちの1種または複数種は、自然界に見いだされる。いくつかの態様において、そのような選択された配列要素のうちの1種または複数種は、インシリコで設計される。いくつかの態様において、1種または複数種のそのような選択された配列要素は、例えば天然源または合成源からの、例えば関心対象の由来生物の(例えばヒト、マウスなどの)生殖細胞系における、公知配列要素の(例えばインビボまたはインビトロでの)変異導入に由来する。
【0047】
本明細書において使用する場合、「特異的結合」という用語は、結合が起こるべき環境において、考えうる結合パートナー同士を区別する能力を指す。他の潜在的ターゲットも存在する時に、ある特定ターゲットと相互作用する結合剤は、それが相互作用するターゲットに「特異的に結合する」といわれる。いくつかの態様において、特異的結合は、結合剤とそのパートナーとの間の会合を検出しまたはその程度を決定することによって評価され、いくつかの態様において、特異的結合は、結合剤-パートナー複合体の解離を検出しまたはその程度を決定することによって評価され、いくつかの態様において、特異的結合は、結合剤の、そのパートナーと別の実体との間での二者択一的相互作用において競争する能力を検出しまたは決定することによって評価される。いくつかの態様において、特異的結合は、そのような検出または決定を、ある範囲の濃度にわたって行うことによって評価される。
【0048】
本明細書において使用する場合、「対象」という用語は、生物、典型的には哺乳動物(例: ヒト、いくつかの態様では出生前のヒト形態を含む)を指す。いくつかの態様において、対象は、関連する疾患、障害または状態を患っている。いくつかの態様において、対象は、ある疾患、障害または状態に陥りやすい。いくつかの態様において、対象は、ある疾患、障害または状態の1つまたは複数の症状または特徴を示す。いくつかの態様において、対象は、ある疾患、障害または状態の症状または特徴を何も示さない。いくつかの態様において、対象は、疾患、障害または状態への陥りやすさまたはそのリスクに特有の1つまたは複数の特徴を持つ者である。いくつかの態様において、対象は患者である。いくつかの態様において、対象は、診断および/または療法を施されているおよび/または施されていた個体である。
【0049】
本明細書において使用する場合、「治療剤」という表現は、概して、生物に投与されたときに所望の薬理学的効果を誘発する任意の剤を指す。いくつかの態様において、剤は、それが適当な集団全体に統計的に有意な効果を示すのであれば、治療剤であるとみなされる。いくつかの態様において、前記適当な集団は、モデル生物の集団でありうる。いくつかの態様において、適当な集団は、一定の年齢群、性別、遺伝的背景、既存の臨床状態などといった、さまざまな基準によって定義されうる。いくつかの態様において、治療剤は、ある疾患、障害および/または状態の1つまたは複数の症状または特徴を軽減し、改善し、緩和し、阻害し、予防し、その開始を遅延させ、その重症度を低減し、かつ/またはその発生率を低減するために使用することができる物質である。いくつかの態様において、「治療剤」は、政府機関による承認を得ることでヒトへの投与用に販売することができるようになった剤または政府機関による承認を得なければヒトへの投与用に販売することができない剤である。いくつかの態様において、「治療剤」は、ヒトに投与するには処方箋が必要とされる剤である。
【0050】
本明細書において使用する場合、「治療有効量」という用語は、ある疾患、障害および/または状態を患っている集団またはある疾患、障害および/または状態に陥りやすい集団に、治療的投与レジメンに従って投与したときに、その疾患、障害および/または状態を処置するのに十分な量を意味する。いくつかの態様において、治療有効量は、疾患、障害および/または状態の1つまたは複数の症状の発生率および/または重症度を低減し、それらの症状の1つまたは複数の特徴を安定化し、かつ/またはそれらの症状の開始を遅延させる量である。「治療有効量」という用語が、ある特定個体において処置の成功が達成されることを、実際に必要としないことは、当業者には理解されるであろう。むしろ、治療有効量は、そのような処置を必要とする患者に投与されたときに、有意な数の対象において、所望する特定の薬理学的応答を与える量でありうる。例えばいくつかの態様において、「治療有効量」という用語は、本発明の療法との関連においてその必要がある個体に投与した場合に、該個体において起きているがん支持過程を遮断し、安定化し、減弱し、または逆転させるであろう量、または該個体におけるがん抑制過程を強化または増加させるであろう量を指す。がん処置との関連において、「治療有効量」は、がんと診断された個体に投与した場合に、その個体におけるがんのさらなる発達を予防し、安定化し、阻害し、または低減するであろう量である。本明細書に記載する組成物の特に好ましい「治療有効量」は、膵がんなどの悪性腫瘍の発達を(治療的処置において)逆転させるか、または悪性腫瘍の寛解を達成しもしくは長引かせるのに役立つ。個体におけるがんを処置するために当該個体に投与される治療有効量は、寛解を促進しまたは転移を阻害するために投与される治療有効量と、同じである場合も異なる場合もある。大半のがん療法がそうであるように、本明細書に記載する治療方法は、がんの「治癒(cure)」と解釈されたり、がんの「治癒」に制約されたり、または他の形でがんの「治癒」に限定されたりするべきではなく、むしろ本処置方法は、がんを「処置」するための、すなわちがんを有する個体の健康に望ましい変化または有益な変化をもたらすための、記載の組成物の使用に関する。そのような利益は腫瘍学分野の熟練した医療提供者には認識されており、これには、患者状態の安定化、腫瘍サイズの減少(腫瘍退縮)、生体機能の改善(例: がん性組織またはがん性機関の機能改善)、さらなる転移の減少または阻害、日和見感染の減少、生存性の増加、痛みの減少、運動機能の改善、認知機能の改善、エネルギー感(feeling of energy)の改善(活力、倦怠感の減少)、幸福感の改善、正常な食欲の回復、健康な体重増加の回復およびそれらの組み合わせなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。加えて、(例えば処置の過程において)膵臓腺がんなどの腫瘍の部位からがん細胞の試料を採取し、悪性度の低い表現型へのがん細胞の退縮を分子レベルで検証するために、そのがん細胞を、代謝マーカーおよびシグナル伝達マーカーのレベルについて試験してがん細胞の状態を監視することによって、個体における特定腫瘍の(例えば本明細書に記載する処置の結果としての)退縮を評価してもよい。例えば、本発明の方法を使用することによって誘導される腫瘍退縮は、上述の血管新生促進マーカーのいずれかの減少、本明細書に記載する抗血管新生マーカーの増加、がんと診断された個体において異常な活性を示す代謝経路、細胞間シグナリグ経路または細胞内シグナル伝達経路の正常化(すなわちがんを患っていない正常個体に見いだされる状態への変化)を見いだすことによって示されるだろう。いくつかの態様において、治療有効量を製剤化し、かつ/または単回投与で投与しうることは、当業者には理解されるであろう。いくつかの態様では、治療有効量を製剤化し、かつ/または複数回投与で、例えば投与レジメンの一部として、投与しうる。
【0051】
核酸、タンパク質または小分子などの分子に関連して本明細書において使用する場合、「変種」という用語は、基準分子とは有意な構造的同一性を示すが、例えば基準実体と比較して1つまたは複数の化学部分の有無またはレベルに関して基準分子と構造的に異なる分子を指す。いくつかの態様において、変種は、その基準分子とは機能的にも異なる。一般に、ある特定分子が、基準分子の「変種」であると適正にみなされるかどうかは、その特定分子の、基準分子との構造同一性の程度に基づく。当業者には理解されるであろうとおり、任意の生物学的または化学的基準分子は、一定の特徴的構造要素を有する。変種は、定義上、1つまたは複数のそのような特徴的構造要素を共通して持つが、少なくとも1つの局面において基準分子とは異なる、別個の分子である。いくつか例を挙げると、ポリペプチドは、線形空間または三次元空間中で互いに対して指定された位置を有しかつ/または特定の構造モチーフにおよび/もしくは生物学的機能に寄与する複数のアミノ酸から構成される特徴的配列要素を有しうる。核酸は、線形空間または三次元空間中で互いに対して指定された位置を有する複数のヌクレオチド残基から構成される特徴的配列要素を有しうる。いくつかの態様において、変種ポリペプチドまたは変種核酸は、基準ポリペプチドまたは基準核酸とは、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列中の1つまたは複数の相違の結果として、異なりうる。いくつかの態様において、変種ポリペプチドまたは変種核酸は、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%または99%である基準ポリペプチドまたは基準核酸との総配列同一性を示す。いくつかの態様において、変種ポリペプチドまたは変種核酸は、基準ポリペプチドまたは基準核酸と、少なくとも1つの特徴的配列要素を共有しない。いくつかの態様において、基準ポリペプチドまたは基準核酸は、1つまたは複数の生物学的活性を有する。いくつかの態様において、変種ポリペプチドまたは変種核酸は、基準ポリペプチドまたは基準核酸の生物学的活性のうちの1つまたは複数を共有する。
【0052】
本明細書において使用する場合、「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸を輸送する能力を有する核酸分子を指す。ベクターの一タイプは「プラスミド」であり、これは、その中に追加DNAセグメントをライゲートすることができる環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、ここでは追加DNAセグメントをウイルスゲノム中にライゲートすることができる。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律的に複製する能力を有する(例:細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例:非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入後に宿主のゲノム中に組み込まれることができ、その結果、宿主ゲノムと一緒に複製される。さらにまた、特定のベクターは、ベクターが機能的に連結された遺伝子の発現を指示する能力を有する。そのようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」という。組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成ならびに組織培養および形質転換には、標準的技法(例: エレクトロポレーション、リポフェクション)を使用しうる。酵素反応および精製技法は、製造者の仕様書に従って、または当技術分野においてよく行われているとおりに、または本明細書に記載するとおりに行いうる。前記の技法および手順は、一般に、当技術分野において周知の従来法に従って、本明細書の全体を通して引用し議論するさまざまな一般文献およびより具体的な文献に記載されているように行いうる。例えば、参照によりあらゆる目的で本明細書に組み入れられるSambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989))を参照されたい。
【0053】
がんにおけるマクロファージ
マクロファージは、循環末梢血中の単球から分化する食細胞であり抗原提示細胞である。これらの細胞は、Tリンパ球を活性化することにより、先天性免疫と獲得免疫の両方において重要な役割を果たすことが公知である。Th1 Tリンパ球を活性化するマクロファージは、炎症応答をもたらし、M1マクロファージと表される。M1マクロファージは、「キラーマクロファージ」とも呼ばれ、細胞増殖を阻害し、組織損傷を引き起こし、細菌に対して攻撃的である。Th2 Tリンパ球を活性化するマクロファージは、抗炎症応答をもたらし、M2マクロファージと表される。M2マクロファージは、「修復マクロファージ」とも呼ばれ、細胞増殖および組織修復を促進し、抗炎症性である。
【0054】
マクロファージは単球の分化によって形成され、単球は、それらの分化を引き起こすサイトカインおよび増殖因子に応じて、M1(CD68+およびCD80+)マクロファージまたはM2(CD68+およびCD163+)マクロファージのいずれかに成熟する。リポ多糖(LPS)およびインターフェロンγ(IFNγ)は、単球を活性化してM1マクロファージに分化させ、M1マクロファージは、高レベルのインターロイキン-1(IL-1)およびインターロイキン-12(IL-12)ならびに低レベルのインターロイキン-10(IL-10)を分泌する。一方、インターロイキン-4(IL-4)、IL-10、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1ra)、および形質転換増殖因子β(TGFβ)は、単球を活性化してM2マクロファージに分化させ、M2マクロファージは、高レベルのIL-10、TGFβ、およびインスリン様増殖因子1(IGF-1)ならびに低レベルのIL-12を分泌する。
【0055】
発がんにおける免疫の役割は、次第に高く評価されてきている。マクロファージは先天性免疫と獲得免疫の両方において重要な役割を果たすことが公知であるため、腫瘍およびそれらの微小環境の主要構成要素として認識されている。通常、腫瘍関連マクロファージ(TAM)とは、がんの微小環境に存在するマクロファージを意味する。腫瘍の増殖、浸潤、および転移における腫瘍関連マクロファージ(TAM)の役割は徹底的に調査されてきた。TAMは、選択された腫瘍の初期におけるM1様表現型から大半の進行腫瘍におけるM2様表現型に及ぶ、広範な表現型を示すことが公知である。腫瘍形成を促進する際のその役割の証拠として、M2マクロファージは、IL-10、IL4、MMP、およびVEGFの発現は増加しているが炎症誘発性サイトカインならびに殺腫瘍活性に関係付けられている細胞障害性iNOおよびROIの発現は低下しているという特徴的な表現型を示す。腫瘍形成を促進する際の固有の機能に加えて、TAMはまた、腫瘍微小環境におけるT細胞応答およびバランスを変更することにより抗腫瘍免疫を抑制するのにも寄与する。
【0056】
抗炎症性の役割を果たす細胞増殖を促進する以外に、がんにおいて、M2マクロファージは腫瘍領域に血管新生を誘導することができる。したがって、このようなシナリオにおいては、マクロファージのM2極性化を阻害し、腫瘍細胞を攻撃することが公知であるマクロファージのM1極性化を誘導することが有用であると思われる。
【0057】
VSIG4
VSIG4(V-set immunoglobulin-domain-containing 4)は、iC3bおよびC3bに結合することによってCD8
+T細胞増殖およびIL-2産生を負に調節することが公知である免疫グロブリンスーパーファミリーの補体受容体(CRIg)に属するB7ファミリー関連膜タンパク質である。VSIG4の発現は、腹腔マクロファージおよび肝臓に存在するクッパー細胞を含む組織マクロファージに限定されている。
図2Aおよび
図2Bは、VSIG4とB7ファミリーの他のタンパク質との関係(それぞれ、相同性関係および系統学的関係)を示す(
図2Aおよび
図2BにおいてVSIG4はEU103と呼ばれる)。
図2Aは、VSIG4と他の様々なB7ファミリータンパク質とのアミノ酸配列アラインメントを示す。
図2Bは、VSIG4と他のB7ファミリータンパク質との進化上の関係を示す。
【0058】
がんを処置するための抗VSIG4抗体
腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、免疫療法のための複数の標的を提供する免疫抑制的腫瘍微小環境(TME)を作り出す重要な細胞である。マクロファージはまた、順応性が高いことも公知であり、再極性化して抗腫瘍形成性のM1様表現型を獲得することもできる。
【0059】
典型的には、腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、がん細胞運動性、転移形成、および血管形成の促進のような腫瘍促進機能が公知である。TAMの形成は、腫瘍を発達させる際に存在する微小環境因子に依存している。TAMは、多くのがん、特に腫瘍微小環境中に豊富に存在し、腫瘍増殖を助長し療法抵抗性を高める免疫抑制性のM2様表現型をしばしば示す。TAMはまた、IL-10、TGFβ、およびPGE2のような免疫抑制性サイトカイン、ごく少量のNOまたはROI、ならびに低レベルの炎症性サイトカイン、例えば、IL-12、IL-1β、TNFα、およびIL-6も産生する。マクロファージがTAMに変換すると、腫瘍関連抗原を提示しT細胞およびNK細胞の抗腫瘍機能を刺激する能力が低下する。さらに、TAMは腫瘍細胞を溶解することができない。したがって、TAMを標的とすることは、がんを抑制または処置するための新しい治療戦略であり、例えば、TAMの動員および分布のいずれかを変更するための作用物質を送達すること、存在するTAMを枯渇させること、またはM2表現型からM1表現型へのTAMの再教育を誘導すること(もしくは変換すること)による。
【0060】
本開示は、VSIG4を発現するM2マクロファージをヒト化抗VSIG4抗体で処理してM2マクロファージを腫瘍抑制性M1マクロファージに変換(または再極性化)し、それによって、CD8
+T細胞増殖および炎症誘発性サイトカイン産生を誘導して腫瘍抑制をもたらすことができるという発見に基づいている。さらに、抗VSIG4抗体の使用は、(1)M1マクロファージへのM2マクロファージの変換と(2)CD8
+T細胞増殖および炎症誘発性サイトカイン産生の誘導の両方を目標とし、それによって腫瘍微小環境それ自体に影響を与えることにより、効果的にがんを抑制することができる。がんを抑制するために抗VSIG4抗体を使用するこのアプローチは、T細胞増殖を誘導するだけまたはマクロファージの腫瘍補助活性を妨害するだけである他の療法よりも優れている。(マクロファージ機能に対する抗VSIG4抗体の効果、T細胞増殖に対するその効果、および結果として起こるがん抑制を概略的に示す)
図1を参照されたい。
【0061】
マウス抗体のヒト化
モノクローナル抗体は、生物学的研究のためのマウス免疫系を用いて高速に作製することができるが、臨床の場では、これらのマウス抗体の使用は、ヒト抗マウス抗体応答(HAMA)を招きうる。キメラ抗体は、ヒトの抗IgG応答を軽減することができるが、誘発性のT細胞エピトープ内容物をマウス可変ドメインが引き続き有している場合があるため、それらのフレームワーク領域の「ヒト化」を必要とする。
【0062】
通常、従来の抗体ヒト化は、6つのマウス相補性決定領域(CDR)すべてをヒト抗体フレームワークに移すことにより始まる(Jones et al., Nature 321, 522-525 (1986))。通常、これらのCDR移植抗体は抗原結合のための元の親和性を保持せず、実際に、親和性が大幅に減ることが多い。適切なCDR立体構造を維持するためには、CDRに加えて、いくつかの非ヒトフレームワーク残基もまた可変ドメインに組み込まれなければならない(Chothia et al., Nature 342:877 (1989))。機能を修復させるためにヒトフレームワーク中の重要な位置にマウス残基を組み込むことは、通常、「復帰変異」と呼ばれる。復帰変異により、移植されたCDRの構造形態を支援し、抗原結合および親和性を修復することができる。親和性に影響を及ぼす可能性が高いフレームワーク位置の多くが特定されており、したがって、通常、段階的に新しい残基を選択するための構造モデリングにより、抗原結合が修復された変種を生じることができる。あるいは、これらの残基に狙いを定めたファージ抗体ライブラリーを用いて、親和性成熟プロセスを強化し速めることもできる(Wu et al. , J. Mol. Biol. 294:151-162 (1999)およびWu, H., Methods in Mol. Biol. 207:197-212 (2003))。
【0063】
抗体親和性成熟
親和性成熟は、TFH細胞によって活性化されたB細胞が、特定の抗原に対する親和性が高まった抗体を免疫応答の過程で産生するプロセスである。同じ抗原に繰り返し曝露すると、宿主は、次第に親和性が高い抗体を産生するようになる。二次応答は、一次応答の際よりも数倍高い親和性を有する抗体を誘発することができる。親和性成熟は、安全かつ有効な第2世代治療薬を作るための抗体最適化において重量な戦略である。従来、治療的抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現するマウスまたはトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫化することによって得られる。これらの動物から得られる抗原刺激された免疫細胞をハイブリドーマに転換し、続いてスクリーニングして、標的抗原に対して低ナノモル親和性を有するモノクローナル抗体を同定した。インビボでは、免疫系による天然の親和性成熟が、体細胞超変異およびクローン選択により起こり、一方、インビトロ、研究室での親和性成熟は、変異および選択によって達成することができる。さらに、TFH細胞によって活性化されたB細胞を用いるもの以外の、他の親和性成熟方法も当技術分野において公知であり、本開示の範囲内である。
【実施例】
【0064】
本発明を以下の実施例においてさらに説明する。これらの実施例は、特許請求の範囲で説明する本発明の範囲を限定しない。
【0065】
方法および材料
以下の方法および材料を、実施例で説明する実験のために使用した。
【0066】
ヒトPBMCからのCD14
+単球単離
M1マクロファージまたはM2マクロファージへのマクロファージの分化は、PBMCを対象から単離し、50ng/mlのhGM-CSFの存在下でマクロファージを6日間インキュベートしてM1マクロファージに変換するかまたは100ng/mlのM-CSFの存在下でマクロファージを6日間インキュベートしてM2マクロファージに変換することによって実施した(
図5)。
【0067】
M1マクロファージまたはM2マクロファージへのマクロファージの変換は、表現型を調べることによって確認した(
図6および
図7)。
【0068】
続いてのM1マクロファージまたはM2マクロファージのM1マクロファージへの変換は、それらのマクロファージをLPS(100ng/ml)+IFNγ(100ng/ml)または500ng/ml抗VSIG4抗体(EU103.2)の存在下で24時間インキュベートすることによって実施した(
図12)。
【0069】
M1マクロファージまたはM2マクロファージのM2マクロファージへの変換は、それらのマクロファージを20ng/ml IL-4の存在下で24時間インキュベートすることによって実施した(
図12)。
【0070】
ヒト化抗VSIG4抗体―EU103.2抗体
EU103.2抗体は、マウス抗VSIG4抗体mu6H8から作製したヒト化抗VSIG4抗体である。
図4Aおよび
図4Bは、サイズ排除HPLCを用いたEU103.2抗体の生化学的特徴付け(
図4A)およびEU103.2抗体へのVSIG4の結合を示す表面プラズモン共鳴実験(
図4B)を示す。EU103.2抗体精製データの概要を下記の表1に示す。
【0071】
(表1)EU103.2抗体のサイズ排除HPLCデータの概要
【0072】
マウス抗VSIG4抗体のヒト化―EU103.3抗体
ヒト化抗VSIG4抗体hu6H8(またはEU103.3)を後述のようにして作製した。
【0073】
mu6H8 VHヒト化
VHのヒト化変種のためのフレームワークを、マウス6H8抗体およびBlast(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE=Proteins)(生殖系列遺伝子: VH2-5/D3-3/JH6c)を用いて作製した。Kabatの番号付与を用いてCDRを分類し、前記フレームワークおよび分類されたmu6H8 VH CDRと、VH2、VH27、VH30、VH93、およびVH94の復帰変異を用いてヒト化VHを設計した(hu6H8.3 VH)。
【0074】
mu6H8 VLヒト化
VLのヒト化変種のためのフレームワークを、マウス6H8抗体およびBlast(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE=Proteins)(生殖系列遺伝子: A17/JK2)を用いて作製した。Kabatの番号付与を用いてCDRを分類し、前記フレームワークおよび分類されたmu6H8 VL CDRと、VH2、VH4、VH36、およびVH46の復帰変異を用いてヒト化VLを設計した(hu6H8.3 VL)。
【0075】
IgG抗体のクローニングおよび発現―EU103.3抗体
図21Aに示すように、FES(L234F、L235E、P331S)変異によって重鎖可変領域配列を改変して、Fcエフェクター機能を持たない重鎖pOptivec(Invitrogen)発現プラスミドを構築した。
図21Bに示すように、pcDNA3.3(Invitrogen)を用いて軽鎖可変領域配列を構築し、IDTを用いて合成した。重鎖(HC)をコードする遺伝子をEcoR1制限酵素、Nhe1制限酵素で挟んでpOptivec(FES)プラスミドベクターを構築し、軽鎖(LC)をコードする遺伝子をEcoR1制限酵素、BsiW1制限酵素で挟んでpcDNA3.3プラスミドベクターを構築した。クローニングを行い、変異部位をhu6H8.3バックボーン中にサブクローニングした。得られた挿入遺伝子および線状化ベクターをIn-Fusion(登録商標)HDクローニングキット(Clontech)を用いてそれぞれクローニングし、CMVフォワードプライマー、EMCV IRESリバースプライマーを用いて配列決定用プライマーを同定した。
【0076】
VSIG4ノックアウトマウス
エクソン1をネオマイシン耐性遺伝子で置換する相同組換えによってVSIG K/Oマウスを作製した。ES細胞における相同組換えで使用するためにターゲティングベクターを作製した。E1およびE1およびE2は、CRIg遺伝子のエクソン1およびエクソン2を示す(
図41A)。WTマウスと交配されたES細胞クローン1および2(C1、C2)キメラマウスに由来するヘテロ接合体雌仔マウスにおけるCRIg対立遺伝子の相同組換えをサザンブロットによって確認した(
図41B)。雄および雌のWTマウスおよびK/Oマウスの末梢血中の白血球数を比較した。血球計数器を用いて総血球数を測定した。白血球を、いくつかの細胞表面マーカーに特異的な蛍光色素結合抗体と共にインキュベートし、様々な白血球サブセットの数をフローサイトメトリーによって測定した。データは、マウス5~7匹の平均値+SDを表す(
図41C)。
【0077】
A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体
EU103.3抗体の親和性成熟によってA1抗体およびA2抗体を作製する(下記の表2を参照されたい)。下記の表2に示すように、これらの抗体では、軽鎖可変領域の76位、90位、および/または92位(kabatの番号)が変異している。
【0078】
A1抗体およびA2抗体からA1.3抗体およびA2.3抗体をそれぞれ作製して、VSIG4に対する親和性をさらに向上させる。
【0079】
図40は、EU103.3、A1、A2、A1.3、およびA2.3の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列アライメントを提供し、重鎖および軽鎖のコンセンサスアミノ酸配列と共に示している。異なる抗体間で違いがあるアミノ酸残基を長方形で囲んで示している。
【0080】
(表2)親和性成熟実験でスクリーニングされたヒト化抗VSIG4抗体のクローン
【0081】
結合親和性の高い抗体の産生
ヒト化抗体遺伝子をプラスミドに挿入し、Expi293発現系(Invitrogen)を用いてIgG型を発現させ、次いで、AktaPure(GE healthcare)、AktaPrime精製装置(GE healthcare)、およびMabselectSUREカラム(GE healthcare、カタログ番号11-0034-95)を用いて精製した。精製した抗体を脱塩カラム(GE Healthcare、カタログ番号17-1408-01)に通してPBS緩衝液に交換し、Multiskan GO (Thermo)を用いて抗体濃度を測定した。
【0082】
【0083】
PBMC由来マクロファージの分化
下記のプロトコールを用いて、M1マクロファージおよびM2マクロファージをPBMCから得た。
1. 血液とPBSの混合物(1:1)20mlを、Ficoll-Paque(商標)Plus(GE Healthcare、カタログ番号17-1440-02)10mlの上に重ねる。
2. 400×gで35分間、遠心分離する(加速2、ブレーキ0)
3. PBMCを単離し、RPMI-1640培地(WelGene、カタログ番号LB011-01)を用いて2000rpmで5分×2回、洗浄する
4. 計数する
5. MACs緩衝液(2%FBS(Millipore、カタログ番号TMS-013-BKR)をPBS(WelGene、カタログ番号LB004-02)に溶かしたもの)1~2mlに懸濁する
6. CD14マイクロビーズ(20ul/細胞107個)(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-050-201)を添加する
7. 氷上で30分間インキュベートする
8. 2000rpmで5分×2回、MACs緩衝液を用いて洗浄する
9. 計数する
10. 細胞をMACsカラム(Miltenyi Biotec、カタログ番号130-042-401)に載せる
11. ポジティブ選択を行い計数する
12. 培養培地(RPMI-1640+10%FBS+ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、カタログ番号15140-122)+Glutamax(Gibco、カタログ番号35050-061)+20~40ng/mlのrhM-CSF(Biolegend、カタログ番号574806)によって懸濁する
13. 100mm培養シャーレにCD14+細胞を播種する(1×106個の細胞/10ml/シャーレ)(Thermo Scientific、カタログ番号150466)
14. 3日過ぎるごとに、新鮮な培養培地に交換する
15. 7~10日後に、FACsによってM0マクロファージの分化を調べる
16. 20ng/ml LPS(Sigma-Aldrich、カタログ番号L4391)+20ng/ml rhIFNγ(Biolegend、カタログ番号570204)(M1)および20ng/ml rhIL4(Biolegend、カタログ番号574002)+20ng/ml rhIL13(Biolegend、カタログ番号571102)(M2)の培養培地(RPMI-1640+10%FBS+ペニシリン/ストレプトマイシン+Glutamax)を2日間用いて、M0マクロファージをM1マクロファージまたはM2マクロファージに分化させる
17. M1分化またはM2分化後、FACsによって細胞表現型を調べる
18. M2マクロファージからM1マクロファージへの変換のために、新鮮な培養培地(RPMI-1640+10%FBS+ペニシリン/ストレプトマイシン+Glutamax)に加えた20ug/ml抗体または20ng/ml LPS+20ng/ml rhIFNγ(陽性対照)を2日間添加する
19. M2からM1への変換後、FACsによって細胞表現型を調べ、LEGENDplex(商標)(Biolegend、カタログ番号740502)によって培養上清中のサイトカイン/ケモカインを調べる。
【0084】
FACs解析
以下の抗体をFACs解析のために使用した。
・hCD14-BV650(BD Bioscience、カタログ番号563419)
・hCD14-BV421(BD Bioscience、カタログ番号565283)
・hIFNγ-PE/Cy7(BD Bioscience、カタログ番号557844)
・hCD3-BV510(BD Bioscience、カタログ番号563109)
・hCD8-V450(BD Bioscience、カタログ番号560347)
・hCD68-PE(Biolegend、カタログ番号333808)
・hCD93-PE(Biolegend、カタログ番号336108)
・HLA-DR-BV421(Biolegend、カタログ番号307636)
・hCD45-PE(Biolegend、カタログ番号304008)
・hCD64-APC(Biolegend、カタログ番号305014)
・hCD163-APC/Cy7(Biolegend、カタログ番号333622)
・hCD86-PerCP/Cy5.5(Biolegend、カタログ番号305420)
・hCD86-BV421(BD Bioscience、カタログ番号562432)
【0085】
実施例1: マクロファージにおけるVSIG4発現
VSIG4は、M2マクロファージにおいて発現される。
図3Aおよび
図3Bは、2型マクロファージ(M2)および腫瘍関連マクロファージに関連する様々な遺伝子の発現に対する、VSIG4発現(mRNAに基づいて測定)の相関データを示す。
図3Aに示すように、VSIG4発現は、[CXCL11、CXCL13、ZNMB、IFNAR1、IFNAR2] の発現と負の相関関係にあるが、CCL19、IRF5、およびIL1Aの発現とは正の相関関係にある。
図3Bは、VSIG4発現がCD163、CSF1R、MSR1、TGFBR2、STAT6、IL1R1、IL10RA、MS4A4A、CCL2、CCL14、CCL17、およびMS4A6Aの発現と正の相関関係にあることを示す。
【0086】
図5は、M2マクロファージにおけるVSIG4の発現を示す。
図5の一番上の列の2つのパネルは、M1マクロファージおよびM2マクロファージの形態を示す光学顕微鏡画像を示す。2番目および3番目の列は、CD14およびVSIG4について染色したリンパ球のフローサイトメトリーデータを示すものであり、(CD14について陽性に染色された)M2細胞もまたVSIG4を発現していることを実証している。
【0087】
実施例2: ヒト抗VSIG4抗体は、M2マクロファージにおけるサイトカインおよびケモカインの分泌を誘導する
M1マクロファージおよびM2マクロファージをEU103.2抗体で処理し、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの分泌を測定した。
図6に示すように、M2マクロファージをEU103.2で処理すると、サイトカインおよびケモカイン、IL12、IFNγ、IL10、およびIL23が誘導された。
【0088】
実施例3: ヒト化抗VSIG4抗体はM2マクロファージをM1マクロファージに変換する
マクロファージに対するEU103.2の影響をさらに試験するために、M2マクロファージをEU103.2抗体で処理し、M2マクロファージマーカーCD163について染色した。
図7に示すように、EU103.2で処理すると、M2マクロファージにおけるM2マクロファージマーカーCD163の発現が減少したことから、EU103.2を用いてVSIG4を妨害するとM2マクロファージが別の細胞型に変換されることが示唆された。
【0089】
次に、マクロファージとT細胞の相互作用に対するEU103.2抗体の影響を、EU103.2抗体処理を行ってまたは行わずに、M2マクロファージをCD8
+T細胞と共インキュベートすることにより試験した。
図8に示したように、EU103.2で処理したM2マクロファージは、CD8
+T細胞と共インキュベートした場合、CD8
+T細胞の増殖をもたらした。このことから、M1マクロファージはCD8
+T細胞増殖を誘導するがM2マクロファージはCD8
+T細胞増殖を抑制することを踏まえて、EU103.2抗体で処理されるとM2マクロファージはM1マクロファージに変換することが示された。
【0090】
次に、がん生物学との関連でヒトマクロファージに対するEU103.2抗体の影響をさらに調査するために、卵巣がん患者から腹腔液試料を採取し、VSIG4発現について最初に解析した。
図9に示すように、卵巣がん患者の腹腔液から得たマクロファージは、VSIG4およびCD14を共発現するM2マクロファージを含んでいた。また、
図10および
図11に示すように、これらはCD8
+T細胞増殖を誘導した。
【0091】
さらに、
図12に示すように、EU103.2抗体処理によってM2マクロファージがM1マクロファージに変換されたことが顕微鏡画像から確認される。
【0092】
図13に示すように、VSIG4を妨害する抗VSIG4抗体の存在下または非存在下で、VSIG4発現HeLa細胞をPBMCと共培養することにより、CD8
+T細胞増殖の際にマクロファージが果たすVSIG4シグナル伝達の役割をさらに確認した。この実験により、VSIG4とCD8
+T細胞の相互作用を妨害するとCD8
+T細胞増殖が亢進することが示された。CD8
+T細胞におけるVSIG4の役割をさらに調べるために、抗VSIG4抗体または対照IgG抗体のいずれかの存在下で単球THP-1細胞を様々な比でT細胞と共インキュベートした。これにより、抗VSIG4抗体が、対照IgGと比べて4回の分裂時にCD8
+T細胞を増やすことができることが示された。
【0093】
実施例4: 抗VSIG4抗体またはVSIG4ノックアウトマウスモデルを用いてVSIG4シグナル伝達を妨害する抗腫瘍効果
抗VSIG4抗体の抗腫瘍効果を明らかにするために、3種のマウス腫瘍モデル、すなわちVSIG4ノックアウトマウスを用いたMC38結腸腺がんマウス腫瘍モデル、B16F10黒色腫マウス腫瘍モデル、および3LL肺がんマウス腫瘍モデルを使用し、
図15A、
図15B、および
図15Cにそれぞれ示すように、これらを野生型マウスと比較した。特にVSIG4ノックアウトマウスのMC38マウス腫瘍モデルおよび3LLマウス腫瘍モデルにおいて、野生型マウスと比べて腫瘍増殖が抑制された(それぞれ、
図15Aおよび
図15Cを参照されたい)ことから、VSIG4シグナル伝達がない場合に腫瘍増殖が抑制されることが確認された。
【0094】
図16に示すように、対照IgGを注射したマウスと比べて、抗VSIG4抗体を注射された野生型マウスにおけるMC38マウス腫瘍モデルでも、同様の腫瘍増殖抑制が観察された。抗VSIG4抗体による腫瘍増殖抑制の程度は、VSIG4ノックアウトマウスでの程度より大きくないとしても、少なくとも明白であった。
【0095】
次に、腫瘍流入領域リンパ節に由来するリンパ球の活性化状態をVSIG4ノックアウトマウスにおいて調査し、野生型マウスと比較した。
図17Aおよび
図17Bに示すように、野生型の対照物と比べて同程度のレベルのCD4
+リンパ球およびCD8
+リンパ球がVSIG4ノックアウトマウスにおいて観察され、また、VSIG4ノックアウトマウスと野生型マウスとでは、CD4を発現するリンパ球およびCD8を発現するリンパ球において同程度のCD62L発現が観察された。さらに、VSIG4ノックアウトマウスでは、
図17Cに示すように野生型マウスと比べてCD8β
+T細胞が増加していたが、
図17Dに示すようにCD11β
+/Gr-1-リンパ球のレベルは同程度であった。
【0096】
腫瘍増殖におけるVSIG4シグナル伝達の役割をさらに評価するために、CD38結腸腺がんマウス腫瘍モデルをVSIG4ノックアウトマウスおよび野生型マウスの両方で用い、
図18Aの上部の概略図に示すように、対象マウスへの腫瘍注入後18日目および23日目に化学療法剤クラフォラン(CTX)を腹腔内注射した。クラフォラン注射の結果、VSIG4ノックアウトマウスでは、野生型マウスよりも大幅に腫瘍体積が減少し、この腫瘍サイズ減少は腫瘍注入後40日間維持された。対照的に、
図18Aに示すように、野生型マウスではCTX注射によってわずかな腫瘍サイズ減少しか起こらず、その後、腫瘍サイズが継続的に大きくなった。VSIG4ノックアウトマウスおよび野生型マウスの両方について腫瘍注入後24日目に撮影したマウスの画像および腫瘍切片の顕微鏡写真を
図18Bに示している。24日目にVSIG4
+/+C57BL/6マウスおよびVSIG4
-/-C57BL/6マウスから腫瘍切片を採取し、腫瘍組織のパラフィン切片をH&Eで染色した。
【0097】
ヒト化マウスモデルにおいて抗VSIG4が腫瘍抑制に与える影響を、ヒト化マウスへのHT29がん細胞注射後19日目、22日目、25日目、28日目、および31日目に10mg/kgの抗VSIG4抗体を注射することによって評価した。これを
図19に示している。抗VSIG4抗体を与えられたマウスでは、IgG対照注射を受けたマウスと比べて顕著な腫瘍増殖抑制が観察された。
【0098】
図20に概略的に示すように、これらの実験から、VSIG4シグナル伝達がM2マクロファージによるT細胞増殖抑制を調節すること、ならびにVSIG4シグナル伝達を妨害すると(1)M2マクロファージによって誘導されるT細胞増殖が抑止されて、CD8
+T細胞が増殖し、腫瘍が抑制され、かつ(2)M2マクロファージがM1マクロファージに変換することが実証された。
【0099】
実施例5: A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体の評価
EU103.2抗体の親和性成熟によって、抗体クローンA1、A2、A1.3、およびA2.3を開発した。サイズ排除HPLCによるタンパク質プロファイルは、
図22、
図23、
図24、および
図25にそれぞれ示し、下記の表4に要約する。
【0100】
(表4)A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体のSEC HPLCデータ
【0101】
図26Aおよび
図26Bに示すように、分化したM2マクロファージにA1抗体またはA2抗体を2日間添加したところ、FACs解析により、M2マクロファージのマーカーであるCD163の減少およびM1マクロファージのマーカーであるCD86の有意な増加が示された。2日間のLPS/IFNγによる処理を陽性対照として使用した。A1抗体およびA2抗体の両方で処理した場合、M1/M2比の上昇が示された。具体的には、A2抗体が、陽性対照群の比に近づく、比の上昇を示した。
【0102】
次に、
図27に示すように、分化したM2マクロファージにA1抗体またはA2抗体を2日間添加してそれらをM1マクロファージに再極性化し、培養培地におけるサイトカインおよびケモカインの産生の変化をLEGENDplex(商標)を用いて測定した。これは、M1マクロファージへのM2マクロファージの再極性化を確認するためである。2日間のLPS/IFNγによる処理を陽性対照として使用した。A1群とA2群のどちらも、M2マクロファージと比べてM1型のサイトカイン/ケモカイン(TNFα、IL6、IFNγ、IP-10、およびIL12p40)の増加を示し、M2型サイトカイン/ケモカイン(IL-10、アルギナーゼ、TARC、およびIL-1RA)の産生は減少した。具体的には、TNFαおよびIL6の産生の増加は、陽性対照群での増加と同等であった。
【0103】
さらに、
図28に示すように、分化したM2マクロファージにA1抗体またはA2抗体を2日間添加し、FACs解析を実施したところ、M2マクロファージのマーカーであるCD163の発現の減少およびM1マクロファージのマーカーであるCD86発現の有意な増加が示された。2日間のLPS/IFNγによる処理を陽性対照として使用した。
【0104】
A1抗体およびA2抗体によるM1マクロファージへのM2マクロファージの再極性化をさらに確認するために、分化したM2マクロファージにA1抗体またはA2抗体を様々な濃度(5ug/ml、10ug/ml、および20ug/ml)で2日間添加し、これらのマクロファージによるサイトカインおよびケモカインの産生を評価した。この結果を
図29に示す。培養培地におけるサイトカイン/ケモカイン産生の変化をLEGENDplex(商標)を用いて測定した。2日間のLPS/IFNγによる処理を陽性対照として使用した。A1群とA2群のどちらも、M1マクロファージに関連しているTNFα、IL6、およびIP-10の増加を示した。この傾向は、M2マクロファージをA2抗体で処理した場合に特に顕著であった。M2マクロファージに関連しているアルギナーゼの産生は、抗体濃度に関係なく減少した。
【0105】
A2抗体によるM2マクロファージからM1マクロファージへの変換後のマクロファージの走化能力を走化性アッセイ法によって評価した。孔径5μmのTranswell 24ウェルチャンバー(Corning、カタログ番号CLS3421-48EA)を用い、M1型ケモカインである化学誘引物質rhCCL19(Biolegend、カタログ番号582104)を濃度100ng/ml(体積400μl)で用いて下側チャンバーを処理し、1.5~5×10
5細胞/600μlの再極性化したM1マクロファージで上側チャンバーを処理し、そこにM2またはA2を2日間添加した。(2日間のLPS/IFNγによる処理を陽性対照として使用した)。37℃および5%CO
2での4時間のインキュベーション期間の後、下側チャンバー中の細胞100μlを96ウェルプレートに移した。次いで、CCK-8溶液(Dojindo、カタログ番号CK04)10μlを各ウェルに添加し、1時間のインキュベーション期間の後、吸光度を測定した(450nm)。
図30に示すように、A2群に由来するM1マクロファージは走化能力を示したことから、A2抗体によるM2からM1へのマクロファージ変換が確認された。
【0106】
図42に示すように、遺伝子アレイ解析を実施して、A2抗体によるM2マクロファージからM1マクロファージへの変換後の遺伝子発現の変化を解析した。M2マクロファージをA2抗体で処理し、2日後にこれらの細胞を回収した。(Macrogen、Agilent Human GE 8x60K V3)。解析により、陽性対照としてのLPS/IFNγ処理細胞と同様の、M1表現型マーカーおよびM1型サイトカイン/ケモカインの発現の増加、ならびにM2表現型マーカーおよびM2型サイトカイン/ケモカインの発現の減少が示されている。
【0107】
実施例6: A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体の抗腫瘍効果
A1抗体およびA2抗体の抗腫瘍効果を、ヒト化マウスモデルを用いて評価した。ヒトCD34細胞をNBSGWマウスに注入した後、血液試料を採集し、PBMC中のヒトCD45細胞を測定して、12~14週の期間にわたってマウスのヒト化を観察した。1×10
7細胞/マウスのHCT-15結腸がん細胞をヒト化マウスに注入し、5日後にマウスを3群に分け、各群はhIgG(Sigma-Aldrich、カタログ番号I4506)、A1抗体、またはA2抗体の注射を受けた。
図31Aに概略的に示すように、抗体を3日ごとに注射して合計5回の注射を行った。腫瘍サイズを観察し、マウスを犠死させた後、血液から得た血清を用いてELISA(invitrogen、カタログ番号88-7316-88)によってIFNγを測定し、腫瘍試料を用いて浸潤白血球を解析した。
【0108】
図31Bおよび
図31Cに示すように、A1抗体による抗腫瘍効果は観察されなかったが、A2抗体群から得た試料は、相対的に小さな腫瘍サイズおよびIFNγ増加を示したことから、A2抗体の抗腫瘍効果が確認された。
【0109】
次に、腫瘍増殖の状況におけるA2抗体によるM2マクロファージからM1マクロファージへの変換効果をインビボで評価した。
図32Aに概略的に示すように、SW480結腸がん細胞をマウスに注入し(1×10
7細胞/マウス)、ひとたび腫瘍サイズが特定のサイズ(1000mm3~)まで大きくなれば、分化したM2マクロファージ(7×10
5細胞/マウス)をhIgG抗体またはA2抗体と共に注射した。抗体を2日ごとに注射して合計5回の注射を行い、1回目の注射後、血液試料を腫瘍注入後4日目、7日目、および11日目に採取した。これらの血液試料を用いて血清またはPBMCを単離し、マクロファージ表現型の変化をFACs解析によって解析した。
【0110】
図32Bに示すように、M1マクロファージ表現型の変化が、A2抗体群において腫瘍細胞注入後7日目に観察された。
図32Cに示すように、M2マクロファージマーカーであるCD163の変化はなかったが、M1マクロファージマーカーであるCD86およびHLA-DRの発現はhIgG群と比べて目立って増加していたことから、A2抗体によるM2からM1へのマクロファージ変換が確認される。
【0111】
次に、M1マクロファージへのM2マクロファージ変換が腫瘍増殖に与える影響を解析した。
図33Aに概略的に示すように、HCT-15結腸がん細胞(8×10
6細胞/マウス)および様々な濃度のM2マクロファージ(2.5×10
5細胞/マウス、5×10
5細胞/マウス、または1×10
6細胞/マウス)の混合物をマウスに注入した。2日後、hIgG抗体またはA2抗体を3日ごとに注射して合計5回注射した。
【0112】
図33Bに示すように、A2抗体は、hIgG対照マウスと比べて腫瘍注入後14日目の時点で用量依存的に腫瘍増殖を低減または鈍化させ、この効果は腫瘍注入後25日目の時点で持続していた。
【0113】
次に、ヒト化マウスモデルにおけるA2抗体の抗腫瘍効果を、別のマウス腫瘍モデルを用いて評価した。
図34Aに概略的に示すように、ヒトCD34細胞をNBSGWマウスに注入した後、血液試料を採集し、PBMC中のヒトCD45細胞を測定して、12~14週の期間にわたってマウスのヒト化を観察した。SW480結腸がん細胞(1×10
7細胞/マウス)をマウスに注入し、5日後にマウスを2群に分け、各群にhIgG抗体またはA2抗体(20mg/kg)を注射した。抗体を各群に3日ごとに注射して合計5回の注射を行った。腫瘍サイズを観察し、マウスを犠死させた後、血液から得た血清を用いてELISAによってIFNγを測定し、腫瘍試料を用いて浸潤白血球を解析した。
【0114】
図34Bおよび
図34Cに示すように、A1抗体による抗腫瘍効果は観察されなかったが、A2抗体群から得た試料は、相対的に小さな腫瘍サイズを示し、IFNγ増加が観察されたことから、A2抗体の抗腫瘍効果がさらに確認された。
【0115】
概して、A2抗体注射群の方が、小さな腫瘍サイズおよび血清中IFNγの増加を示した。さらに、
図34Dに示すように、CD8
+T細胞、具体的にはIFNγ分泌CD8γT細胞の増加も観察された。
図34Eに示すように、CD93およびCD163(M2マクロファージマーカー)の発現減少ならびにCD86(M1マクロファージマーカー)の発現増加が観察されたが、HLA-DRの変化は認められなかった。これらのデータは、A2抗体がCD8
+T細胞の細胞障害活性をもたらすことを裏付ける。
【0116】
次に、A2抗体およびA2.3抗体の抗腫瘍効果をヒト化マウスモデルにおいて比較した。
図35Aに概略的に示すように、ヒトCD34細胞をNBSGWマウスに注入した後、血液試料を採集し、PBMC中のヒトCD45細胞を測定して、12~14週の期間にわたってマウスのヒト化を観察した。1×10
7細胞/マウスのHCT-15結腸がん細胞をヒト化マウスに注入し、ひとたび腫瘍サイズが特定のサイズ(約100mm
3)まで大きくなったらマウスを3群に分け、各群はhIgG抗体、A2抗体、またはA2.3抗体の注射を受けた(20mg/kg)。抗体を3日ごとに注射して合計5回の注射を行った。腫瘍サイズを観察し、1回目の注射後、血液試料を5日目および13日目に採取したところ、血液由来の血清中に炎症性サイトカインが観察された。
図35Bに示すように、A2抗体およびA2.3抗体のどちらも、腫瘍サイズを小さくした。
【0117】
次に、4種の抗VSIG4抗体、すなわちA1、A1.3、A2、およびA2.3がCD8
+T細胞増殖に与える影響を評価した。A1抗体、A1.3抗体、A2抗体、およびA2.3抗体を、ドナーから単離したマクロファージに添加してM2マクロファージをM1マクロファージに変換し、共培養アッセイ法のために、同じドナーに由来するPBMCから単離したCD8
+T細胞と共培養した。CD8
+T細胞をCFSE(Life technologies、カタログ番号V12883)で標識し、抗CD3でコーティングした96ウェルプレート(BD Biocoat、カタログ番号354725)中で変換後マクロファージと共に2:1の比で共培養した(CD8 T:マクロファージ=2×10
5細胞/ウェル:1×10
5細胞/ウェル)。5日後、回収した細胞をhCD8-V450で染色し、FACs解析によって解析した。CFSEレベルの低下を観察することによってCD8
+T細胞増殖を確認した。M2マクロファージはCD8
+T細胞増殖を負に調節したが、A1抗体、A1.3抗体、A2抗体、およびA2.3抗体の共培養は、M1マクロファージへのM2マクロファージの変換をもたらし、CD8
+T細胞増殖の増加をもたらした。これを
図36Aおよび
図36Bに示す。
【0118】
上記の実験でのドナーとは異なる(すなわち、
図36のドナーとは異なる)ドナーから単離したマクロファージおよびT細胞を用いて、A2抗体およびA2.3抗体の効果を比較する同様の実験を実施した。A2抗体およびA2.3抗体を、マクロファージに適用してM2マクロファージをM1マクロファージに変換し、同じドナーに由来するPBMCからCD8
+T細胞を単離し、共培養アッセイ法のために使用した。CD8
T細胞をCFSE(Life technologies、カタログ番号V12883)で標識し、抗CD3でコーティングした96ウェルプレート(BD Biocoat、カタログ番号354725)中で変換後マクロファージと共に1:1または2:1の比で共培養した(CD8
+T:マクロファージ=2×10
5細胞/ウェル:2×10
5細胞/ウェルまたは2×10
5細胞/ウェル:1×10
5細胞/ウェル)。5日後、回収した細胞をhCD8-V450で染色し、FACs解析によって解析した。CFSEレベルの低下を観察することによってCD8
+T細胞増殖を確認した。M2マクロファージはCD8
+T細胞増殖を負に調節したが、A2抗体およびA2.3抗体の添加によってM2マクロファージをM1マクロファージに変換すると、CD8
+T細胞増殖が増加した。
【0119】
次に、hVSIG4を発現するHeLa細胞(HeLa-hVSIG4細胞)を用いて、A2抗体およびA2.3抗体を介したCD8
+T細胞増殖誘導に対するVSIG4シグナル伝達の役割を確認した。CD8
+T細胞を、健常なドナー由来のPBMCから単離し、CFSEで標識し、抗CD3でコーティングしたプレートに加えた(2×10
5細胞/ウェル)。1日後、HeLa細胞またはHeLa-hVSIG4細胞を30Gy照射(x線)後にウェルに添加した(1×10
5細胞/ウェルまたは0.5×10
5細胞/ウェル)。5日後、FACs解析を用いてCFSEレベルを測定することによって、CD8
+T細胞増殖を解析した。また、CD8
+T細胞を様々な濃度の抗CD3(Miltenyi Biotech、カタログ番号130-093-387)で処理し、1日後、HeLa細胞またはHeLa-hVSIG4細胞を30Gy照射(x線)後にウェルに添加した(1×10
5細胞/ウェル)。5日後、100μlの培養細胞を別の96ウェルプレートに移し、CCK-8を各ウェルに添加した(10ul/ウェル)。5時間後、450nmでの吸光度を測定してCD8
+T細胞増殖を確認した。
図38Aおよび
図38Bに示すように、HeLa-hVSIG4はCD8
+T細胞増殖を負に調節した。一方、A2またはA2.3よる処理は、T細胞増殖を誘導する。
【0120】
ヒトホスホロキナーゼアレイを用いて、マクロファージがA2抗体によって再極性化されるシグナル経路を調べた。
図39に示すように、Proteome Profiler(商標)抗体アレイ(R&D Systems、カタログ番号ARY003B)を用いて測定したところ、A2抗体処理によってM2マクロファージをM1マクロファージに変換した結果、JNK、MSK1/2、およびp38aのリン酸化が有意に上昇していた。
【0121】
抗体配列および結合親和性の情報
本明細書に記載する様々な抗VSIG4抗体の配列情報および結合親和性情報を下記の表5~12に提供する。
【0122】
(表5)EU103.2抗体のVH配列およびVL配列
【0123】
(表6)EU103.3抗体のVH配列およびVL配列
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
(表11)EU103.2抗体、EU103.3抗体、A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体のCDR配列
【0129】
(表12)EU103.2抗体、EU103.3抗体、A1抗体、A2抗体、A1.3抗体、およびA2.3抗体のVSIG4に対する結合親和性(K
D)
【0130】
他の態様
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を例示することを意図し、限定することを意図しないことを理解すべきである。他の局面、利点、および修正は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【配列表】