IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人昭和大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】Hic-5インヒビターの新規用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240808BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240808BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20240808BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P43/00 111
A61P9/00
A61P11/00
A61P19/02
A61P1/16
A61P35/00
A61P29/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
G01N33/68
A61K45/00
A61K38/00
A61K48/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021572972
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2020041644
(87)【国際公開番号】W WO2021149329
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2020007072
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020119476
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトの掲載日:令和1年10月31日 (2)公開者: 宮内彩、金山朱里(Joo-ri Kim-Kaneyama)、雷小峰(Xiao-Feng Lei)、張成虎(Song Ho Chang)、齋藤琢、原口省吾、宮崎拓郎、宮崎章 (3)公開された発明の内容:宮内彩、金山朱里、雷小峰、張成虎、齋藤琢、原口省吾、宮崎拓郎および宮崎章が、上記アドレスのウェブサイトで公開されている「″Alleviation of murine osteoarthritis by deletion of the focal adhesion mechanosensitive adapter,Hic-5″,Scientic Reports volume 9,Article number:15770」にて、金山朱里および雷小峰が発明したHic-5の阻害による変形性関節症の緩和に関する研究について公開した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(72)【発明者】
【氏名】金山 朱里
(72)【発明者】
【氏名】雷 小峰
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0292300(US,A1)
【文献】YUND, E. E.,Characterization of the expression and function of hic-5 and paxillin in cardiac hypertrophy,ALBANY MEDICAL COLLEGE GRADUATE STUDIES PROGRAM CENTER FOR CARIOVASCULAR SCIENCES,Albany Medical College, Union Univ., Albany, NY, U,2010年,Avail.: UMI, Order No. DA3376726From: Diss. Abstr. Int., B 2010, 70(9), 5280, 172pp.
【文献】KIM-KANEYAMA, J. et al.,Hydrogen peroxide-inducible clone 5 (Hic-5) as a potential therapeutic target for vascular and other,Journal of Atherosclerosis and Thrombosis,2012年,Vol. 19, No. 7,pp. 601-607,DOI 10.5551/jat.10736
【文献】LEI, X.-F. et al.,Hic-5 deficiency attenuates the activation of hepatic stellate cells and liver fibrosis through upre,Journal of Hepatology,2016年,Vol. 64, No. 1,pp. 110-117,DOI 10.1016/j.jhep.2015.08.026
【文献】MIYAUCHI, A. et al.,Alleviation of murine osteoarthritis by deletion of the focal adhesion mechanosensitive adapter, Hic,Scientific Reports,2019年10月31日,Vol. 9, No. 1,article number 15770, pp. 1-9,DOI 10.1038/s41598-019-52301-7
【文献】QIAN, B. et al.,Hic-5 in pancreatic stellate cells affects proliferation, apoptosis, migration, invasion of pancreat,Biomedicine & Pharmacotherapy,2020年01月,Vol. 121,article number 109355, pp. 1-8,DOI 10.1016/j.biopha.2019.109355
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Hic-5インヒビターを含む、左室負荷の増大に起因する心肥大、代償性の心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、及び脂肪肝から選択される疾患の処置のための組成物であって、Hic-5インヒビターが、阻害性核酸分子、ゲノム編集分子、Hic-5を抗原とする抗体、その抗原結合性誘導体、Hic-5結合性抗体模倣体、Hic-5のドミナントネガティブ変異体、及びこれらをコードする核酸分子から選択され、前記抗原結合性誘導体が、scFv、ミニボディ、scFv-Fc、scFv 、scFv 、scFv 、Fv-clasp、BIf、及び二重特異的抗体から選択され、前記抗体模倣体が、モノボディ、アフィボディ、アフィマー、アフィチン、アンチカリン、アトリマー、フィノマー、アルマジロリピートプロテイン、クニッツドメイン、ノッチン、アビマー、DARPin、アルファボディ、Oボディ、及びリピボディから選択される、組成物
【請求項2】
Hic-5インヒビターが、阻害性核酸分子、ゲノム編集分子、及び抗Hic-5抗体又はそれをコードする核酸分子から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
間質性肺炎、変形性関節症、及び脂肪肝から選択される疾患を検出する方法であって、
生体から単離された前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現を検出すること、及び
前記組織におけるHic-5の発現の程度を、正常組織におけるHic-5の発現の程度と比較すること、
を含み、前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現の程度が正常組織におけるHic-5の発現の程度よりも増大していることが、前記疾患の存在を示す、方法。
【請求項4】
脂肪肝がNASHである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Hic-5を検出する試薬を含む、間質性肺炎、変形性関節症、及び脂肪肝から選択される疾患を診断するための組成物。
【請求項6】
脂肪肝がNASHである、請求項1、2又は5に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Hic-5インヒビターの新規用途、特にHic-5インヒビターによる心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、NASH、腫瘍等の疾患の処置、がん細胞の脈管浸潤の抑制などに関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素誘導性クローン-5(Hic-5)は、パキシリンファミリーに属する細胞接着斑構成分子である。細胞接着斑は、インテグリンと、Hic-5を含む複数の接着斑タンパク質とから構成される、細胞外マトリックス(ECM)と細胞内のアクチン骨格とをつなぐ細胞装置であり、細胞接着、細胞運動、細胞の形態変化、細胞の周辺環境からの刺激の伝達などに重要な役割を果たしている。Hic-5ノックアウトマウス等を用いた研究により、Hic-5が様々な疾患に関与している可能性が示唆されている(非特許文献1~7)。また、Hic-5を阻害することにより瘢痕形成を処置する試みもなされている(特許文献1)。
【0003】
[特許文献]
特許文献1:US 2010/0292300 A1
【0004】
[非特許文献]
非特許文献1:Kim-Kaneyama et al.,J Atheroscler Thromb.2012;19(7):601-7
非特許文献2:Omoto et al.,Oncogene.2018;37(9):1205-1219
非特許文献3:Petropoulos et al.,J Cell Biol.2016;213(5):585-99
非特許文献4:Lei et al.,J Hepatol.2016;64(1):110-7
非特許文献5:Jamba et al.,PLoS One.2015;10(4):e0122773
非特許文献6:Arita-Okubo et al.,Cardiovasc Res.2015;105(3):361-71
非特許文献7:Yund et al.,J Mol Cell Cardiol.2009;47(4):520-7
【発明の開示】
【0005】
Hic-5が関与するさらなる疾患の解明が期待されている。
【0006】
本開示の一部の態様は、以下を提供する。
[1]
Hic-5インヒビターを含む、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患の処置のための組成物。
[2]
心肥大が左室負荷の増大に起因するものである、[1]に記載の組成物。
[3]
心肥大が代償性の心肥大である、[1]に記載の組成物。
[4]
Hic-5インヒビターを含む、がん細胞の脈管浸潤を抑制するための組成物。
[5]
Hic-5インヒビターが、阻害性核酸分子、ゲノム編集分子、及び抗Hic-5抗体又はそれをコードする核酸分子から選択される、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6]
心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝、及び脈管浸潤のリスクを有するがんから選択される疾患を検出する方法であって、
前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現を検出すること、及び
前記組織におけるHic-5の発現の程度を、正常組織におけるHic-5の発現の程度と比較すること、
を含み、前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現の程度が正常組織におけるHic-5の発現の程度よりも増大していることが、前記疾患の存在を示す、方法。
[7]
Hic-5を検出する試薬を含む、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び脈管浸潤のリスクを有するがんから選択される疾患を診断するための組成物。
【0007】
本開示により、Hic-5が心肥大、変形性関節症、間質性肺炎、脂肪肝、腫瘍等の疾患やがん細胞の脈管浸潤に関与していることが明らかとなり、これらの疾患や病態に対する新たな治療の選択肢が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】TACを施行したHic-5KOマウス(Hic-5 KO)及び同系の野生型マウス(WT)の心臓の外観を示した写真である。上端の目盛の単位は1mmである。
図2】BLM間質性肺炎モデルマウスにおける肺組織のHE染色及びマッソントリクローム(MT)染色の結果を示した光学顕微鏡像である。CT(左側)はBLM非投与対照群、BLM(中央及び右側)はBLM投与群のBLM投与後14日目の肺組織を示す。また、WT(上側)は野生型マウス、Hic-5 KO(下側)はHic-5 KOマウスの肺組織をそれぞれ示す。スケールバーは200μmを示す。
図3】BLM間質性肺炎モデルマウス(野生型)の肺組織におけるHic-5及びα-SMAの免疫染色の結果を示した蛍光顕微鏡像である。左側はHic-5、中央はα-SMA、右側はHic-5とα-SMAのmerge画像をそれぞれ示す。CT(上側)はBLM非投与対照群、BLM(下側)はBLM投与群のBLM投与後14日目の肺組織をそれぞれ示す。
図4】BLM間質性肺炎モデルマウスの肺組織におけるHic-5及びα-SMAをウェスタンブロットで評価した結果を示した図である。CTはBLM非投与対照群、BLMはBLM投与群をそれぞれ示す。
図5】BLM間質性肺炎モデルマウスの肺組織におけるHic-5及びα-SMAをウェスタンブロットで半定量した結果を示したグラフである。縦軸はGAPDHの発現量を基準としたHic-5又はα-SMAの発現量の変化倍率。
図6】間質性肺炎患者の肺組織のHE染色、アザン染色及びHic-5又はα-SMAに対する免疫染色の結果を示した顕微鏡像である。左側は正常な肺組織、右側は間質性肺炎に冒され、線維化した肺組織である。スケールバーは200μmを示す。
図7】BLM間質性肺炎モデルマウス(野生型)の肺組織におけるHic-5及びα-SMAの免疫染色の結果を示した代表的な顕微鏡像である。CT(左側)はBLM非投与対照群のHic-5の染色結果、Hic-5(中央)及びα-SMA(右側)はBLM投与群のBLM投与後14日目の肺組織のHic-5及びα-SMAの染色結果をそれぞれ示す。BLM投与群の肺組織において、細気管支周辺にHic-5陽性、α-SMA陰性のクララ細胞が認められる。
図8】変形性関節症を誘発させたHic-5KOマウスにおけるOAの重症度をOARSIスコアで示したグラフである(n=11)。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図9】変形性関節症を誘発させたHic-5KOマウス及び野生型マウスの膝関節組織のサフラニン-O染色の結果を示した光学顕微鏡像である。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示し、スケールバーは200μmを示す。
図10】変形性関節症を誘発させたHic-5KOマウス及び野生型マウスの膝関節組織の走査型電子顕微鏡像である。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示し、スケールバーは20μmを示す。
図11】変形性関節症を誘発させた野生型マウスの膝関節組織のHic-5に対する免疫染色の結果を示した蛍光顕微鏡像である。スケールバーは100μmを示す。
図12】変形性関節症誘発処置を行ったHic-5KOマウス及び野生型マウスの膝関節から採取した軟骨細胞におけるHic-5の局在を示した蛍光顕微鏡像である。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示し、スケールバーは20μmを示す。
図13】変形性関節症誘発処置を行ったHic-5KOマウス及び野生型マウスの関節軟骨組織におけるMMP13、ADAMTS5、II型コラーゲン及びX型コラーゲンの発現を示した蛍光顕微鏡像及び同じ組織のサフラニン-O染色像である。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示し、スケールバーは100μmを示す。
図14】野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるHic-5の発現量がTNF-α(左)又はIL-1β(右)によりどのように変化するかを示した図である。上段はウェスタンブロット像を、下段のグラフは、上段のウェスタンブロット像におけるGAPDHの発現量を基準としたHic-5の発現量の変化倍率を示す(n=3、平均値±SD、*P<0.05、**P<0.01)。
図15】Hic-5KOマウス又は野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるMMP13mRNAの発現量がTNF-α(左)又はIL-1β(右)によりどのように変化するかを示した図である(n=3、平均値±SD、*P<0.05)。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図16】Hic-5KOマウス又は野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるMMP13の発現量がTNF-α(左)又はIL-1β(右)によりどのように変化するかを示した図である。上段はウェスタンブロット像を、下段のグラフは、上段のウェスタンブロット像におけるGAPDHの発現量を基準としたMMP13の発現量の変化倍率を示す(n=3、平均値±SD、*P<0.05、**P<0.01)。また、Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図17】Hic-5KOマウス又は野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるHic-5の発現量が機械的ストレス(MS)によりどのように変化するかを示した図である。左側はウェスタンブロット像を、右側のグラフは、左側のウェスタンブロット像におけるGAPDHの発現量を基準とした野生型マウスにおけるHic-5の発現量の変化倍率を示す(n=5、平均値±SD、**P<0.01)。また、Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図18】Hic-5KOマウス又は野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるMMP13mRNAの発現量が機械的ストレス(MS)によりどのように変化するかを示した図である(n=3、平均値±SD、*P<0.05)。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図19】Hic-5KOマウス又は野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるMMP13の発現量がTNF-α又はIL-1βによりどのように変化するかを示した図である。左側はウェスタンブロット像を、右側のグラフは、左側のウェスタンブロット像におけるGAPDHの発現量を基準としたMMP13の発現量の変化倍率を示す(n=3、平均値±SD、*P<0.05)。また、Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図20】Hic-5KOマウス又は野生型マウスの膝関節から単離した軟骨細胞におけるADAMTS5mRNAの発現量が機械的ストレス(MS)によりどのように変化するかを示した図である(n=3、平均値±SD、*P<0.05)。Hic-5+/+は野生型、Hic-5-/-はHic-5KOマウスをそれぞれ示す。
図21】肺腺癌患者の肺組織のHic-5(上側)又はα-SMA(下側)に対する免疫染色の結果を示した顕微鏡像である。
図22】NASHを誘発した野生型(WT)マウス及びHic-5KOマウスの肝臓組織のアザン染色の結果を示した顕微鏡像である。いずれも同程度の脂肪滴の沈着が確認された(上)。野生型マウスでは、肝臓組織に線維化が顕著であったが、Hic-5KOでは殆ど線維化が認められないことが分かる(下)。
図23】NASHを誘発した野生型マウス(WT)及びHic-5KOマウスの肝細胞障害性マーカーである血清中のALT及びASTを示したグラフである。
図24】NASHを誘発した野生型(上)マウス及びHic-5KOマウス(下)における肝臓組織のα-SMAの免疫染色の結果を示した蛍光顕微鏡像である。左側はα-SMA、中央はDAPI、右側はα-SMAとDAPIのmerge画像をそれぞれ示す。スケールバーは300μmを示す。
図25】NASHを誘発した野生型マウス(上)及びHic-5KOマウス(下)における肝臓組織のα-SMAの免疫染色の結果を示した蛍光顕微鏡像である。左側はα-SMA、中央はDAPI、右側はα-SMAとDAPIのmerge画像をそれぞれ示す。スケールバーは50μmを示す。
図26】NASHを誘発した野生型(WT)マウス及びHic-5KOマウスにおける肝臓組織のα-SMA陽性細胞の面積比を比較したグラフを示す。KOは、Hic-5KOマウスを示す。
図27】NASHを誘発した野生型マウス(WT)及びHic-5KOマウス(Hic-5KO)における肝臓組織のアザン染色で青色に染色された領域の面積比を比較したグラフを示す。
図28】マウスイソプロテレノール誘発心肥大モデルに対するHic-5インヒビターの効果を示した図である。「non treat」は未処置対照群、「ISO 1w」は第7日のポンプ移植マウス、「ISO+vehicle 3w」は第30日のビヒクル対照群、「ISO+siRNA 3w」は第30日の処置群を示す。目盛の単位は1mmである。
図29】マウスイソプロテレノール誘発心肥大モデルに対するHic-5インヒビターの効果を示した図である。「non treat」は未処置対照群、「ISO(day 7)」は第7日のポンプ移植マウス、「ISO+vehicle」は第30日のビヒクル対照群、「ISO+siRNA」は第30日の処置群を示す。縦軸は体重(g)に対する心臓重量(mg)の比(HW/BW)を示す。*P<0.05、**P<0.01。
図30】BLM間質性肺炎モデルマウスにおける肺組織のマッソントリクローム(MT)染色の結果を示した光学顕微鏡像である(200倍)。「Control」(左側)は処置前対照群、「vehicle」(中央)はビヒクル対照群、「siRNA」(右側)は処置群を示す。
図31】BLM間質性肺炎モデルマウスにおける肺組織のマッソントリクローム(MT)染色像に基づくAshcroft scoreを示したグラフである。「control」は処置前対照群、「vehicle」はビヒクル対照群、「siRNA」は処置群を示す。*P<0.05、**P<0.01。
図32】各群の脛骨組織の代表的なサフラニン-O染色像である。「Day10 Control」は投与前対照群、「Control」は未処置対照群、「vehicle」はビヒクル対照群、「siRNA」はsiRNA投与群をそれぞれ示す。スケールバーは、500μmを示す。
図33】各群の脛骨におけるOARSIスコアを示したグラフである。「Control(day 10)」は投与前対照群、「control」は未処置対照群、「vehicle」はビヒクル対照群、「siRNA」はsiRNA投与群をそれぞれ示す。*P<0.05。
図34】各群の肝組織の代表的なHE染色像を示した写真図である。「NASH WT 3 wks」は投与前対照群、「Control」は未処置対照群、「Vehicle」はビヒクル対照群、「Treat」はsiRNA処置群をそれぞれ示す。また、上段は拡大倍率50倍、下段は拡大倍率200倍である。
図35】各群のNAS(A)、脂肪化スコア(B)、炎症スコア(C)及び肝細胞障害スコア(D)を示す。「NASH WT 3 wks」は投与前対照群、「Control」は未処置対照群、「Vehicle」はビヒクル対照群、「Treat」はsiRNA処置群をそれぞれ示す。
図36】ポンプ移植の5週間後における各個体の大腸の外観を示した写真図である。「Vehicle」はビヒクル対照群、「siRNA」はsiRNA処置群をそれぞれ示す。また、矢印は肉眼的に確認された大腸腫瘍を示す。
図37】ポンプ移植の5週間後に確認された代表的な大腸腫瘍の拡大像を示した写真図である。「Vehicle」はビヒクル対照群、「siRNA」はsiRNA処置群をそれぞれ示す。また、スケールバーは1mmを示す。
図38】各群の代表的な大腸腫瘍組織におけるCD34の発現を示した写真図である。「Vehicle」はビヒクル対照群、「siRNA」はsiRNA処置群をそれぞれ示す。また、スケールバーは上段が200μm(拡大倍率100倍)、下段が150μm(拡大倍率200倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語及び科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願及び他の出版物(オンライン情報を含む)は、その全内容を参照により本明細書に援用する。また、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる2020年1月20日に出願された日本国特許出願(特願2020-007072号)及び2020年7月10日に出願された日本国特許出願(特願2020-119476号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0010】
本開示は、一態様において、Hic-5インヒビターを含む、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患の処置のための組成物に関する。以下、前記組成物を「本開示の処置用組成物」又は「本開示の組成物A」と称することがある。また、Hic-5インヒビターを含む、心肥大の処置のための組成物を「本開示の心肥大処置用組成物」又は「本開示の組成物A1」、Hic-5インヒビターを含む、間質性肺炎の処置のための組成物を「本開示の間質性肺炎処置用組成物」又は「本開示の組成物A2」、Hic-5インヒビターを含む、変形性関節症の処置のための組成物を「本開示の変形性関節症処置用組成物」又は「本開示の組成物A3」、Hic-5インヒビターを含む、脂肪肝の処置のための組成物を「本開示の脂肪肝処置用組成物」又は「本開示の組成物A4」、腫瘍の処置のための組成物を「本開示の腫瘍処置用組成物」又は「本開示の組成物A5」と称することがある。
【0011】
本開示において、Hic-5インヒビターは、Hic-5の発現及び/又は活性を阻害する物質を意味する。Hic-5の発現を阻害する物質としては、限定されずに、Hic-5遺伝子を改変する物質、Hic-5遺伝子の転写を阻害する物質、Hic-5遺伝子の転写物を分解する物質、Hic-5遺伝子の翻訳を阻害する物質、Hic-5遺伝子の正常な折り畳みを阻害する物質等が挙げられる。Hic-5の発現を阻害する物質の好ましい例として、阻害性核酸及びゲノム編集分子、特にHic-5を標的とする阻害性核酸及びゲノム編集分子が挙げられる。Hic-5の活性を阻害する物質としては、限定されずに、Hic-5と他の分子との相互作用を阻害する物質、例えば、Hic-5に結合する物質、特にHic-5を抗原とする抗体、その抗原結合性誘導体、Hic-5結合性抗体模倣体が挙げられる。Hic-5の活性を阻害する物質の別の例は、Hic-5のドミナントネガティブ変異体(Shibanuma et al.,Mol Biol Cell.2003;14(3):1158-71)を含む。また、本開示におけるHic-5インヒビターは、上述のHic-5の発現及び/又は活性を阻害する物質をコードする核酸分子も含む。
【0012】
阻害性核酸は、標的分子の発現を阻害する核酸を意味し、RNAi分子、microRNA、microRNA模倣物、piRNA(Piwi-interacting RNA)、リボザイム(Jimenez et al.,Trends Biochem Sci.2015;40(11):648-661等参照)、アンチセンス核酸、ボナック核酸(WO 2012/005368等参照)等を含む。
【0013】
RNAi(RNA干渉)分子は、RNAi活性を有する任意の分子を意味し、例えば、限定されずに、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)などを包含する。RNAi干渉は、典型的には、二本鎖核酸分子が誘導する、標的RNAが配列特異的に分解される現象を指す。二本鎖核酸分子は細胞内に入ると、その長さに応じてダイサーにより切断された後、Argonaute(AGO)タンパク質を含むRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれる。RISCは、標的RNAと相補的な配列を有するアンチセンス鎖(ガイド鎖)をガイド役に標的RNAを認識し、これを切断する。
【0014】
siRNAは、典型的には、標的配列に相補性を有するアンチセンス鎖と、アンチセンス鎖に相補性を有するセンス鎖とを有し、両方の鎖が少なくとも部分的に二重鎖を形成している、低分子核酸を指す。
siRNAにおけるアンチセンス鎖及びセンス鎖は、それぞれ独立して、長さが15~49ヌクレオチド(例えば長さが15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48又は49ヌクレオチド)、17~35ヌクレオチド、17~30ヌクレオチド、15~25ヌクレオチド、18~25ヌクレオチド、18~23ヌクレオチド、19~21ヌクレオチド、25~30ヌクレオチド、又は26~28ヌクレオチドであってもよい。また、二重鎖領域は、長さが15~49ヌクレオチド(例えば、長さが約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48又は49ヌクレオチド)、15~35ヌクレオチド、15~30ヌクレオチド、約15~25ヌクレオチド、17~25ヌクレオチド、17~23ヌクレオチド、17~21ヌクレオチド、25~30ヌクレオチド、又は25~28ヌクレオチドであってもよい。
【0015】
一部の態様において、siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖は、別々のポリヌクレオチド鎖である。かかる態様において、アンチセンス鎖及びセンス鎖は、水素結合、例えばワトソン-クリック型塩基対形成を介して、又は、互いに共有結合的に連結されることにより、二本鎖構造を形成していてもよい。別の態様において、センス鎖及びアンチセンス鎖は、センス領域及びアンチセンス領域を有する単一のポリヌクレオチド鎖の一部であり、かかる態様において、ポリヌクレオチド鎖は、ヘアピン構造を有していてもよい。
【0016】
siRNAは、平滑末端又は突出末端を有していてもよい。突出末端は、1、2、3、4、5、6、7又は8ヌクレオチドのオーバーハングを有していてもよい。オーバーハングは、アンチセンス鎖及び/又はセンス鎖の5’末端又は3’末端のいずれか一方、又は、アンチセンス鎖又はセンス鎖の5’末端及び3’末端の両方に存在してもよい。すなわち、オーバーハングは、アンチセンス鎖の5’末端、アンチセンス鎖の3’末端、アンチセンス鎖の5’末端と3’末端の両方、センス鎖の5’末端、センス鎖の3’末端、センス鎖の5’末端と3’末端の両方、アンチセンス鎖の5’末端とセンス鎖の5’末端の両方、又は、アンチセンス鎖の3’末端とセンス鎖の3’末端の両方に存在してもよい。siRNAの末端は、対称であっても、非対称であってもよい。末端が対称なsiRNA(以下、「対称siRNA」と称することもある)としては、例えば、各末端が平滑末端であるもの、アンチセンス鎖とセンス鎖が同じ側に同じオーバーハングを有しているもの(例えば、アンチセンス鎖の5’末端とセンス鎖の5’末端の両方に同数のヌクレオチドのオーバーハングを有するものや、アンチセンス鎖の3’末端とセンス鎖の3’末端の両方に同数のヌクレオチドのオーバーハングを有するもの)等が挙げられる。末端が非対称なsiRNAとしては、例えば、一方の末端が平滑末端であり、他方の末端が突出末端であるもの(aiRNA)、両末端とも突出末端であるが、オーバーハングの位置、長さ及び/又は種類が異なるもの等が挙げられる。両末端とも突出末端である、末端が非対称なsiRNAとしては、例えば、アンチセンス鎖又はセンス鎖の5’末端及び3’末端の両方にオーバーハングを有するもの、アンチセンス鎖及びセンス鎖とも、同じ側(すなわち、5’末端又は3’末端)にオーバーハングを有するが、その長さ及び/又は種類が異なるもの等が挙げられる。オーバーハングの種類が異なるとは、例えば、オーバーハングを構成するヌクレオチドの種類が異なることを意味する。オーバーハングを構成するヌクレオチドは、RNA、DNA、及び、後述の種々の修飾を有する核酸を含む。したがって、未修飾RNAのみで構成されるオーバーハングは、修飾RNAを含むオーバーハングと種類が異なるし、ある修飾RNAで構成されるオーバーハングは、別の修飾RNAで構成されるオーバーハングと種類が異なる。
【0017】
別の態様において、siRNAの末端はループ構造を有していてもよい。例えば、siRNAは、一端がループ構造であり、他端が平滑末端であるヘアピン構造(1つのポリヌクレオチドにセンス鎖とアンチセンス鎖を有する)を有しても、一端がループ構造であり、他端が突出末端である(例えば1、2、3、4、5、6、7又は8ヌクレオチドのオーバーハングを有する)ヘアピン構造を有していてもよい。後者の場合、オーバーハングは3’オーバーハング又は5’オーバーハングであってもよく、オーバーハングはセンス鎖又はアンチセンス鎖にあってもよい。
一部の態様において、siRNAのセンス鎖は1以上のニックを含んでいてもよい(例えばsisiRNA)。かかる態様において、センス鎖はニックにより分断されており、アンチセンス鎖がRISCに取り込まれると、センス鎖はニックの位置で分断された断片を形成する。
【0018】
miRNAによる遺伝子発現制御機構は、典型的には、miRNAが誘導する配列特異的なRNAの分解又は翻訳抑制を指す。成熟miRNAはArgonaute(AGO)タンパク質を含むmiRNA誘導サイレンシング複合体(miRISC)に取り込まれ、主にシード配列(5’末端から2~8位の配列)と相補的なmRNAにmiRISCを誘導し、mRNAからの翻訳を抑制するとともに、mRNAの3’末端に存在するポリAテールを分解して短縮し、mRNAの分解を促進する。
piRNAによる遺伝子発現制御機構は、典型的には、piRNAが誘導する配列特異的なRNAの分解を指す。piRNAは、PIWIサブファミリータンパク質であるPiwiタンパク質を含むpiRNA誘導サイレンシング複合体(piRISC)に取り込まれると核内に移行し、標的遺伝子の転写を配列特異的に抑制する。rasiRNA(repeat associated siRNA)もPiwiタンパク質を介した遺伝子サイレンシングを生じる。
【0019】
microRNA模倣物は、内因性microRNAの機能を模倣する核酸分子であり、当該技術分野において周知である(例えば、van Rooij and Kauppinen,EMBO Mol Med.2014;6(7):851-64、Chorn et al.,RNA.2012;18(10):1796-804)。microRNA模倣物は化学修飾を含んでもよく、内因性microRNAに対してヌクレオチド配列が変更されていてもよい。化学修飾は後述する種々のものを含んでもよい。好ましい化学修飾の非限定例としては、例えば、2’フルオロ修飾、2’-O-メチル修飾、2’-O-メトキシエチル修飾、LNA、ホスホロチオエート結合、モルホリノ、PNA等が挙げられる。microRNA模倣物は、内因性microRNA(例えば、pre-microRNA)と同一のヌクレオチド配列を有しても、内因性microRNAのヌクレオチド配列に対して、1又は2以上のヌクレオチドの欠失、置換、付加を有するヌクレオチド配列を有してもよい。また、microRNA模倣物は二本鎖であっても、一本鎖であってもよく、二本鎖の場合、1又は2以上の一本鎖の部分を有してもよい。
【0020】
shRNAは、互いに相補性を有するアンチセンス領域及びセンス領域と、その間に介在するループ領域とを含む1本鎖RNA分子であり、アンチセンス領域とセンス領域との対合により二重鎖領域が形成され、ヘアピン状の3次元構造を呈する。shRNAは細胞内でdicerにより切断され、二本鎖siRNA分子を生成し、これがRISCに取り込まれ、RNA干渉を引き起こす。shRNAは典型的には、これをコードする核酸構築物や、これを含むプラスミド等により細胞内で発現され、その作用を発揮するが、shRNA分子を直接細胞に送達することも可能である。
【0021】
阻害性核酸は、Hic-5(transforming growth factor beta-1-induced transcript 1 protein(TGFB1I1)、androgen receptor coactivator 55 kDa protein、androgen receptor-associated protein of 55 kDa又はARA55とも称する)の遺伝子配列等の情報に基づいて作製することができる。例えば、ヒトHic-5の遺伝子配列は、accession番号NM_001042454(transcript variant 1)、NM_015927(transcript variant 2)、NM_001164719(transcript variant 3)として登録されており、その配列は配列番号1、3、5にそれぞれ示すとおりである(対応するアミノ酸配列を配列番号2、4、6に示す)。ヒト以外の動物のHic-5の遺伝子配列としては、例えば、次のものが知られている。イヌ:accession番号XM_022419832、XM_005621231、XM_014114355及びXM_005621229。ネコ:accession番号XM_019820649、XM_019820647、XM_003998629、XM_006942108及びXM_019820648。ウマ:accession番号XM_023655571及びXM_023655570。ウシ:accession番号BC104510。マウス:accession番号NM_001289550。また、siRNAの設計方法は、例えば、Naito and Ui-Tei,Front Genet.2012;3:102等に、miRNAの設計方法は、例えば、Mickiewicz et al.,Acta Biochim Pol.2016;63(1):71-77等にそれぞれ記載されている。
【0022】
Hic-5に対するsiRNAの配列としては、例えば次のものが知られている:
5’-UCUGUGAGCUAGACCGUUU-3’(マウス、配列番号7)、5’-GGGAAUGCCUUGCGCCCCUU-3’(マウス、配列番号8)、5’-AGUGCUACUUUGAGCGCUU-3’(マウス、配列番号9)、5’-GGGACAAGGAUCAUCUAUA-3’(マウス、配列番号10)(Petropoulos et al.,J Cell Biol.2016;213(5):585-99)、5’-CCUUGCAAUUCCAGCGAAU-3’(ヒト、配列番号11)(Qian et al.,Biomed Pharmacother.2020;121:109355)、5’-GGAGCUGGAUAGACUGAUG-3’(ヒト、配列番号12)、5’-CAUCAGUCUAUCCAGCUCC-3’(ヒト、配列番号13)、5’-GGACCAGUCUGAAGAUAAG-3’(ヒト、配列番号14)(Deakin et al.,Mol Biol Cell.2011;22(3):327-41)、5’-GGAGCUGGAUAGACUGAUGUU-3’(ヒト、配列番号15)、5’-GGACCAGUCUGAAGAUAAGUU-3’(ヒト、配列番号16)(Desai et al.,J Biol Chem.2014;289(26):18270-8)、5’-GCAGCAGCTTCTTCGAGAA-3’(ヒト、配列番号17)(Du et al.,Cell Death Dis.2019;10(12):873)。また、Hic-5に対するshRNAとしては、例えば次のものが知られている:5’-GCAGCAGCTTCTTCGAGAA-3’(ヒト、配列番号17)を標的とするもの(上記Du et al.)、5’-TCTCTGACTTCCGCGTTCAAA-3’(ヒト、配列番号18)、5’-TCAGTTCAACATCACAGATGA-3’(ヒト、配列番号19)を標的とするもの(Mori et al.,FEBS J.2019;286(3):459-478)。Hic-5に対するsiRNAのさらなる配列として、5’-CCACUUGCCCAGCUAUAGG-3’(マウス、配列番号26)、5’-UGUGCUGUAUAGAUGAUCC-3’(ラット、配列番号27)が挙げられる。
【0023】
本開示における阻害性核酸は、非修飾ヌクレオチド及び/又は修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。本明細書において、非修飾ヌクレオチド及び修飾ヌクレオチドを、単に「ヌクレオチド」と総称することがある。非修飾ヌクレオチドは、天然に存在するDNAやRNAを構成するヌクレオチド、すなわち、核酸塩基(アデニン、グアニン、ウラシル、チミン、シトシン)と、糖(リボース、デオキシリボース)と、リン酸基とから構成されるものを指す。非修飾ヌクレオチドで構成される非修飾核酸分子において、隣接する2個の非修飾ヌクレオチド同士は通常ホスホジエステル結合により一方の非修飾ヌクレオチドの3’位と他方の非修飾ヌクレオチドの5’位が連結されている。一態様において、非修飾ヌクレオチドは非修飾リボヌクレオチドであり、非修飾核酸分子は非修飾リボヌクレオチドで構成される。
【0024】
修飾ヌクレオチドは、非修飾ヌクレオチドに対して化学的修飾を含むヌクレオチドを指す。修飾ヌクレオチドは、人工的に合成したものであっても、天然に存在するものであってもよい。修飾ヌクレオチドは、その核酸塩基、糖、バックボーン(ヌクレオチド間結合)、5’末端及び/又は3’末端が修飾されたものを包含する。修飾ヌクレオチドは、上記部位のいずれか1つが修飾されたもののほか、上記部位の2つ以上が修飾されたものも含む。
【0025】
核酸塩基に対する修飾としては、限定されずに、例えば、2,4-ジフルオロトルイル、2,6-ジアミノ、5-ブロモ、5-ヨード、2-チオ、ジヒドロ、5-プロピニル、及び、5-メチル修飾、脱塩基などが挙げられる。また、修飾核酸塩基としては、限定されずに、例えば、キサンチン、ヒポキサンチン、イノシン、2-アミノアデニン、アデニン及びグアニンの6-メチル誘導体及び他のアルキル誘導体、ユニバーサル塩基、アデニン及びグアニンの2-プロピル誘導体及び他のアルキル誘導体、5-ハロウラシル及び5-ハロシトシン、5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン、6-アゾウラシル、6-アゾシトシン及び6-アゾチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、アミノ、チオール、チオアルキル、ヒドロキシル及び他の8-置換アデニン及びグアニン、5-トリフルオロメチル及び他の5-置換ウラシル及び5-置換シトシン、7-メチルグアニン、アシクロヌクレオチド、デアザプリン、プリン及びピリミジンの複素環置換アナログ、例えばアミノエチオキシフェノキサジン、プリン及びピリミジンの誘導体(例えば1-アルキル誘導体、1-アルケニル誘導体、複素芳香環誘導体及び1-アルキニル誘導体)及びその互変異性体、8-オキソ-N6-メチルアデニン、7-ジアザキサンチン、5-メチルシトシン、5-メチルウラシル、5-(1-プロピニル)ウラシル、5-(1-プロピニル)シトシン、4,4-エタノシトシン、非プリン塩基及び非ピリミジン塩基、例えば2-アミノピリジン及びトリアジン、無塩基ヌクレオチド、デオキシ無塩基ヌクレオチド、逆位無塩基ヌクレオチド、逆位デオキシ無塩基ヌクレオチドなどが挙げられる。
【0026】
糖に対する修飾としては、限定されずに、2’位の修飾、例えば、2’-O-アルキル修飾(例えば、2’-O-メチル修飾、2’-O-エチル修飾等)、2’-メトキシエトキシ修飾、2’-メトキシエチル修飾、2’-デオキシ修飾、2’-ハロゲン修飾(2’-フルオロ修飾、2’-クロロ修飾、2’-ブロモ修飾等)、2’-O-アリル修飾、2’-アミノ修飾、2’-S-アルキル修飾、2’-O-[2(メチルアミノ)-2-オキソエチル]修飾、2’-アルコキシ修飾、2’-O-2-メトキシエチル、2’-アリルオキシ(-OCH2CH=CH2)、2’-プロパルギル、2’-プロピル、2’-O-(N-メチルカルバメート)修飾、2’-O-(2,4-ジニトロフェニル)修飾、2’-デオキシ-2’-フルオロ-β-D-アラビノ修飾など、4’位の修飾、例えば、4’チオ修飾、4’-C-ヒドロキシメチル修飾など、その他、エチニル、エテニル、プロペニル、CF、シアノ、イミダゾール、カルボキシレート、チオエート、C1~C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル又はアラルキル、OCF、OCN、O-S-又はN-アルキル、O-、S-又はN-アルケニル、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ又は置換シリルなどが挙げられる。上記以外の修飾糖としては、例えば、ロックド核酸(LNA)、オキセタン-LNA(OXE)、アンロックド核酸(UNA)、エチレン架橋核酸(ENA)、アルトリトール核酸(ANA)、ヘキシトール核酸(HNA)などが挙げられる。
【0027】
本開示において、アルキル基は、飽和脂肪族基を含み、これは直鎖アルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなど)、分枝鎖アルキル基(イソプロピル、tert-ブチル、イソブチルなど)、シクロアルキル(脂環式)基(シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル)、アルキル置換シクロアルキル基を含む。一部の態様において、直鎖又は分枝鎖アルキルはその骨格に6個又はそれ未満の炭素原子を有し(例えば、直鎖についてはC~C、分枝鎖についてはC~C)、より好ましくは4個又はそれ未満の炭素原子を有する。同様に、好ましいシクロアルキルは、その環構造中に3~8個の炭素原子を有してもよく、より好ましくは5個又は6個の炭素を環構造中に有してもよい。用語C~Cは、1~6個の炭素原子を含有するアルキル基を含む。アルキル基は、置換アルキル基、例えば、炭化水素骨格の1個又は2個以上の炭素上で水素に置換する置換基を有するアルキル部分であってもよい。かかる置換基は、例えば、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、硫酸塩、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール又は、芳香族部分又は複素環式芳香族部分を含んでもよい。
【0028】
本開示において、アルコキシ基は、酸素原子に共有結合的に連結した、置換及び非置換アルキル、アルケニル及びアルキニル基を含む。アルコキシ基の例は、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシ基を含む。置換アルコキシ基の例は、ハロゲン化アルコキシ基を含む。アルコキシ基は、例えば、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、シアノ、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを含む)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを含む)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、硫酸塩、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール又は芳香族部分又は複素環式芳香族部分で置換されていてもよい。ハロゲン置換アルコキシ基の例は、限定されずに、フルオロメトキシに、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、クロロメトキシ、ジクロロメトキシ、トリクロロメトキシなどを含む。
本開示において、ハロゲンは、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素を含む。
【0029】
修飾バックボーンとしては、限定されずに、例えば、ホスホロチオエート、チオリン酸-D-リボース体、トリエステル、チオエート、2’-5’結合(5’-2’又は2’5’ヌクレオチド又は2’5’リボヌクレオチドとも称する)、PACE、PNA、3’-(又は-5’)デオキシ-3’-(又は-5’)チオ-ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、3’-(又は-5’)デオキシホスフィネート、ボラノホスフェート、3’-(又は-5’)デオキシ-3’-(又は5’-)アミノホスホルアミデート、水素ホスホネート、ホスホネート、ボラノリン酸エステル、ホスホルアミデート、アルキル又はアリールホスホネート及びホスホトリエステル修飾、アルキルホスホトリエステル、ホスホトリエステルリン結合、5’-エトキシホスホジエステル、P-アルキルオキシホスホトリエステル、メチルホスホネート、モルホリノなど、及び非リン含有結合、例えば、炭酸塩、カルバメート、シリル、硫黄、スルホネート、スルホンアミド、ホルムアセタール、チオホルムアセチル、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ及びメチレンオキシメチルイミノなどが挙げられる。
【0030】
5’末端及び/又は3’末端修飾としては、例えば、5’末端及び/又は3’末端へのキャッピング部分の付加や、5’末端及び/又は3’末端のリン酸基の修飾、例えば、[3~3’]-逆位デオキシリボース、デオキシリボヌクレオチド、[5’-3’]-3’-デオキシリボヌクレオチド、[5’-3’]-リボヌクレオチド、[5’-3’]-3’-O-メチルリボヌクレオチド、3’-グリセリル、[3’-5’]-3’-デオキシリボヌクレオチド、[3’-3’]-デオキシリボヌクレオチド、[5’-2’]-デオキシリボヌクレオチド及び[5-3’]-ジデオキシリボヌクレオチドなどが挙げられる。キャッピング部分の非限定例としては、例えば、無塩基ヌクレオチド、デオキシ無塩基ヌクレオチド、逆位(デオキシ)無塩基ヌクレオチド、炭化水素(アルキル)部分及びその誘導体、ミラーヌクレオチド(L-DNA又はL-RNA)、LNA及びエチレン架橋核酸を含む架橋核酸、結合修飾ヌクレオチド(例えばPACE)及び塩基修飾ヌクレオチド、グリセリル、ジヌクレオチド、非環式ヌクレオチド、アミノ、フルオロ、クロロ、ブロモ、CN、CF、メトキシ、イミダゾール、カルボキシレート、チオエート、C~C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリル又はアラルキル、OCF、OCN、O-、S-又はN-アルキル、O-、S-又はN-アルケニル、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ又は置換シリルなどが挙げられる。キャッピング部分は、非ヌクレオチド突出として機能することもできる。
【0031】
本開示における修飾ヌクレオチドには、2’-デオキシリボヌクレオチド、2’-O-メチルリボヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロリボヌクレオチド、ユニバーサル塩基ヌクレオチド、非環式ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチド、ビオチン基、及び末端グリセリル及び/又は逆位デオキシ無塩基残基を含むヌクレオチド、立体障害分子、例えば、蛍光分子などを含むヌクレオチド、3’-デオキシアデノシン(コルジセピン)、3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)、2’,3’-ジデオキシイノシン(ddI)、2’,3’-ジデオキシ-3’-チアシチジン(3TC)、2’,3’-ジデヒドロ-2’,3’-ジデオキシチミジン(d4T)、及び3’-アジド-3’-デオキシチミジン(AZT)、2’,3’-ジデオキシ-3’-チアシチジン(3TC)又は2’,3’-ジデヒドロ-2’,3’-ジデオキシチミジン(d4T)を含むヌクレオチド、ノーザンコンフォメーションを有するヌクレオチド、2’-メチルチオエチル、2’-デオキシ-2’-フルオロヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-クロロヌクレオチド、2’-アジドヌクレオチド、及び2’-O-メチルヌクレオチド、6員環ヌクレオチドアナログ(例えば、WO2006/047842等に記載のヘキシトール及びアルトリトールヌクレオチドモノマーを含むもの)、ミラーヌクレオチド(例えば、L-DNA(L-デオキシリボアデノシン-3’-ホスフェート(ミラーdA)、L-デオキシリボシチジン-3’-ホスフェート(ミラーdC)、L-デオキシリボグアノシン-3’-ホスフェート(ミラーdG)、L-デオキシリボチミジン-3’-ホスフェート(鏡像チミジン))及びL-RNA(L-リボアデノシン-3’-ホスフェート(ミラーrA)、L-リボシチジン-3’-ホスフェート(ミラーrC)、L-リボグアノシン-3’-ホスフェート(ミラーrG)、L-リボウラシル-3’-ホスフェート(ミラーdU)等)が包含される。
【0032】
修飾ヌクレオチドの非限定例は、例えば、Gaglione and Messere,Mini Rev Med Chem.2010;10(7):578-95、Deleavey and Damha,Chem Biol.2012;19(8):937-54、Bramsen and Kjems,J.Front Genet.2012;3:154などにも記載されている。
【0033】
ゲノム編集分子は、ゲノム配列を部位特異的に改変し得る分子又は分子のセットであり、限定されずに、例えば、CRISPR/Casシステム、TALEN、ZFN、メガヌクレアーゼ(MN)などに基づくものが挙げられる。CRISPR/Casシステムに基づくゲノム編集分子は、ガイドRNAとCas(CRISPR-associated protein)のセットとして機能する。CRISPR/Casシステムに含まれるCasとしては、限定されずに、例えば、Cas9、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas13、xCas9、VQR、VRER、spCas9-NG、spCas9-HF1、Casニッカーゼ(例えば、Cas9ニッカーゼ)、eSpCas9、evoCas9、HypaCas9、CjCas9、Split-Cas(例えば、Split-Cas9)、dCas-BE(例えば、dCas9-BE)等が挙げられる(Broeders et al.,iScience.2019;23(1):100789)。CRISPR/Cas13はRNAを編集することができるため、RNAiと同様の遺伝子サイレンシングに用いることができる。
【0034】
本開示において、抗体は、全長抗体と、その抗原結合断片を含む。抗体のクラスは特に限定されず、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMを含み、サブクラスとして、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3及びIgG4を含む。また、全長抗体にはIgNAR及び重鎖抗体も含まれる。抗原結合断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、Fcab、vNAR、VHH(ナノボディ)等が挙げられる。Hic-5を抗原とする抗体(抗Hic-5抗体)は、市販されているか、また、周知の手法、例えば、Hic-5又はその免疫原性断片で動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどを免疫し血清を単離することにより、また、免疫した動物から抗Hic-5抗体産生細胞を単離し、必要に応じて不死化して培養することなどにより得ることができる。抗体は、ポリクローナルでもモノクローナルでもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であってもよい。抗原となるHic-5は、好ましくはヒトのHic-5であるが、得られる抗体がヒトHic-5を認識し得る限りにおいて、他の動物種のHic-5を抗原としてもよい。別の態様において、抗体はウマHic-5を認識するウマ抗体、イヌHic-5を認識するイヌ抗体、ネコHic-5を認識するネコ抗体、又はウシHic-5を認識するウシ抗体であってもよい。
【0035】
抗体の抗原結合性誘導体は、抗体の抗原結合性部分(例えばVH領域、VL領域、Fv領域等)と、抗体の他の部分(例えばCH1領域、CH2領域、CH3領域、CL領域、Fc領域等)などとが組み合わされた抗体の誘導体、例えば、scFv、ミニボディ、scFv-Fc、scFv(ダイアボディ)、scFv(トリアボディ)、scFv(テトラボディ)、Fv-clasp(Arimori et al.,Structure.2017;25(10):1611-1622)、BIf(bispecific scFv immunofusion、Kuo et al.,Protein Eng Des Sel.2012;25(10):561-9)、二重特異的抗体等を含む。Hic-5結合性抗体模倣体としては、例えば、モノボディ(アドネクチン)、アフィボディ、アフィマー、アフィチン、アンチカリン、アトリマー、フィノマー、アルマジロリピートプロテイン、クニッツドメイン、ノッチン、アビマー、DARPin、アルファボディ、Oボディ、リピボディ(repebody)等が挙げられる(Simeon and Chen,Protein Cell.2018;9(1):3-14、Yu et al.,Annu Rev Anal Chem(Palo Alto Calif).2017;10(1):293-320、Wuo and Arora,Curr Opin Chem Biol.2018 Jun;44:16-22)。
【0036】
Hic-5インヒビターがポリペプチドである場合(ポリペプチド型Hic-5インヒビター、例えば、抗体、抗体の抗原結合性誘導体、抗体模倣体、ドミナントネガティブ変異体など)、本開示の組成物Aは、前記ポリペプチド型Hic-5インヒビターの代わりに、それをコードする核酸分子を含んでもよく、かかる核酸分子も本開示のHic-5インヒビターに含まれる。ポリペプチド型Hic-5インヒビターをコードする核酸分子を細胞内で発現させることにより、細胞内でHic-5インヒビターを作用させ、所望の効果を得ることができる。ポリペプチド型Hic-5インヒビターをコードする核酸分子の使用は、ポリペプチドよりも核酸分子の方が細胞内への導入が容易な場合などに特に有用である。
【0037】
本開示において、心肥大は心臓壁が肥大した状態を指し、求心性心肥大及び遠心性心肥大を含む。心肥大は、高血圧、心臓弁膜症、中隔欠損、肥大型心筋症などに起因することがある。心肥大は代償性であっても非代償性であってもよい。心肥大は心拡大を伴うものであってもよい。心拡大は、心胸郭比が50%以上になった状態を指す。一態様において、本開示における心肥大は左室負荷の増大に起因するものである。左室負荷の増大は、高血圧症、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症等により生じ得る。したがって、本開示の心肥大処置用組成物は、高血圧症、肥大型心筋症及び/又は大動脈弁狭窄症を有する対象に適用されるものであってよい。また、一態様において、本開示における心肥大は代償性の心肥大である。本開示の心肥大処置用組成物は、心肥大と診断された対象又は心肥大を発症するリスクのある対象に適用することができる。
【0038】
本開示において、間質性肺炎は、肺胞壁に生じた炎症や損傷により肺胞壁が線維化し、ガス交換に支障をきたす病態を指す。間質性肺炎は、ウイルス性肺炎、真菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎などに伴う感染性間質性肺炎、関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、混合性結合組織病(MCTD)などの膠原病に伴う間質性肺炎、放射線被曝に伴う間質性肺炎、ブレオマイシンなどの抗がん剤、小柴胡湯などの漢方薬、インターフェロン、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性肺炎、これらの間質性肺炎等に起因する肺線維症、及び特発性間質性肺炎(IIP)を含む。特発性間質性肺炎は、特発性肺線維症(IPF)及び特発性非特異性間質性肺炎(NSIP)を含む慢性線維化性間質性肺炎、呼吸細気管支炎関連間質性肺炎(RB-ILD)及び剥離性間質性肺炎(DIP)を含む喫煙関連間質性肺炎(SRIF)、特発性器質化肺炎(COP)及び急性間質性肺炎(AIP)を含む急性・亜急性間質性肺炎、リンパ球性間質性肺炎(LIP)、特発性胸膜肺実質線維弾性症(PPFE)、及び分類不能型間質性肺炎を含む。一態様において、間質性肺炎は、特発性間質性肺炎、特に特発性肺線維症を含む。本開示の間質性肺炎処置用組成物は、間質性肺炎と診断された対象又は間質性肺炎を発症するリスクのある対象に適用することができる。
【0039】
本開示において、変形性関節症(OA)は、関節軟骨の破壊や減少を特徴とする慢性の関節症を指す。病態により、骨棘形成、関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化、関節裂隙の消失等を伴うことがある。変形性関節症は、一次性(特発性)及び二次性のものを含む。二次性の変形性関節症は、軟骨の微小環境を変化させる病態、例えば、重大な外傷、先天性の関節異常,代謝障害(ヘモクロマトーシス、ウィルソン病等)、感染症、内分泌疾患、神経障害性の疾患、硝子軟骨の正常な構造及び機能を変化させる疾患(関節リウマチ、痛風、軟骨石灰化症等)などに起因し得る。本開示の変形性関節症処置用組成物は、変形性関節症と診断された対象又は変形性関節症を発症するリスクのある対象に適用することができる。
【0040】
本開示において、脂肪肝は肝臓への脂肪の蓄積を特徴とする病態を指し、アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とを含む。NAFLDはさらに、肝硬変や肝がんに進行する傾向のあるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と、比較的良性の経過を辿ることの多い非アルコール性脂肪肝(NAFL)とを含む。NASHは、肝細胞障害、炎症、肝細胞の風船様変化及び/又は線維化を特徴とする脂肪肝炎である。NASHは、NASHの進行による肝硬変、及びNASHの進行による肝がんを含む。NASHの処置は、NASHの進行により生じる肝硬変や肝がんの処置、特にこれらの疾患の予防につながる。本開示の脂肪肝処置用組成物は、脂肪肝と診断された対象又は脂肪肝を発症するリスクのある対象に適用することができる。一部の態様において、本開示の組成物A4は、NASHの処置のために用いられる。一部の態様において、本開示の組成物A4は、肝臓に蓄積した脂肪を低減するために用いられる。特定の態様において、本開示の組成物A4は、NASHを発症した肝臓に蓄積した脂肪を低減するために用いられる。
【0041】
本開示において、腫瘍は良性腫瘍及び悪性腫瘍(がん)を含む。がんは上皮性悪性腫瘍及び非上皮性悪性腫瘍を含む。本開示の組成物Aにおける腫瘍は固形腫瘍を含む。固形腫瘍としては、限定されずに、例えば、脳腫瘍、頭頚部腫瘍、乳腺腫瘍、肺腫瘍、食道腫瘍、甲状腺腫瘍、胃腫瘍、小腸腫瘍、大腸腫瘍、直腸腫瘍、肝腫瘍、膵腫瘍、胆嚢腫瘍、胆管腫瘍、肛門腫瘍、腎腫瘍、腎盂尿管腫瘍、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、陰茎腫瘍、精巣腫瘍、子宮腫瘍、卵巣腫瘍、外陰腫瘍、膣腫瘍、皮膚腫瘍、線維腫、線維肉腫、線維性組織球腫、脂肪腫、脂肪肉腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、血管腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管腫、リンパ管肉腫、滑膜腫、滑膜肉腫、軟骨腫、軟骨肉腫、骨腫、骨肉腫、骨髄腫、リンパ腫、GISTなどが挙げられる。特定の態様において、腫瘍は大腸腫瘍である。腫瘍は、任意の部位、例えば、脳、頭頚部、胸部、四肢、肺、心臓、胸腺、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、盲腸、虫垂、直腸)、肝臓、膵臓、胆嚢、肛門、腎、尿管、膀胱、前立腺、陰茎、精巣、子宮、卵巣、外陰、膣、皮膚、横紋筋、平滑筋、滑膜、軟骨、骨、甲状腺、副腎、腹膜、腸間膜、骨髄、血管系、リンパ節等のリンパ系に存在し得る。
【0042】
一部の態様において、本開示の組成物Aはがんの処置に用いられる。がんは固形がんを含む。固形がんとしては、限定されずに、例えば、脳腫瘍、頭頚部がん、乳がん、肺がん、食道がん、甲状腺がん、胃がん、小腸がん、大腸がん(CRC)、直腸がん、肝がん、膵がん、胆嚢がん、胆管がん、肛門がん、腎がん、腎盂尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣がん、子宮がん、卵巣がん、外陰がん、膣がん、皮膚がん、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、骨髄腫、リンパ腫、GISTなどが挙げられる。がんは、任意の部位、例えば、脳、頭頚部、胸部、四肢、肺、心臓、胸腺、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、盲腸、虫垂、直腸)、肝臓、膵臓、胆嚢、肛門、腎、尿管、膀胱、前立腺、陰茎、精巣、子宮、卵巣、外陰、膣、皮膚、横紋筋、平滑筋、滑膜、軟骨、骨、甲状腺、副腎、腹膜、腸間膜、骨髄、血管系、リンパ節等のリンパ系に存在し得る。がんは、がん関連線維芽細胞(CAF)を伴い得る。一部の態様において、がんは原発がんである。別の態様において、がんは転移がんである。特定の態様において、がんは大腸がん、特に原発性の大腸がんである。大腸がんは、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がんを含む。大腸腺がんは、乳頭腺がん、管状腺がん、低分化腺がん、粘液がん、印環細胞がん、髄様がんを含む。
【0043】
一態様において、本開示の組成物Aで処置される腫瘍(がんを含む)は、確立された(すなわち、既に存在する)腫瘍である。好ましい態様において、本開示の組成物A5は、腫瘍の成長を抑制するだけでなく、腫瘍の縮小をもたらす。別の好ましい態様において、本開示の組成物A5は、正常組織に悪影響を与えないか、与えるとしても軽微な影響しか与えない。一部の態様において、本開示の組成物A5は、腫瘍組織の血管新生を抑制し、及び/又は、腫瘍組織に存在する血管を消退させる。
【0044】
本開示は、別の態様において、Hic-5インヒビターを含む、がん細胞の脈管浸潤を抑制するための組成物(以下、「本開示の脈管浸潤抑制用組成物」又は「本開示の組成物B」と称することがある)。
本開示の組成物BにおけるHic-5インヒビターは、本開示の組成物Aについて記載したものと同様である。がん細胞の脈管浸潤は、血管への浸潤及びリンパ管への浸潤を含む。がん細胞は、脈管浸潤を生じ得るものであれば特に限定されず、上皮性悪性腫瘍細胞及び非上皮性悪性腫瘍細胞を含む。本開示の組成物Bにおけるがん細胞としては、限定されずに、例えば、脳腫瘍、頭頚部がん、乳がん、肺がん、食道がん、甲状腺がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、肝がん、膵がん、胆嚢がん、胆管がん、肛門がん、腎がん、腎盂尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣がん、子宮がん、卵巣がん、外陰がん、膣がん、皮膚がん、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管肉腫、滑膜肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、骨髄腫、リンパ腫、GIST、白血病などの細胞が挙げられる。がん細胞は、任意の部位、例えば、脳、頭頚部、胸部、四肢、肺、心臓、胸腺、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、盲腸、虫垂、直腸)、肝臓、膵臓、胆嚢、肛門、腎、尿管、膀胱、前立腺、陰茎、精巣、子宮、卵巣、外陰、膣、皮膚、横紋筋、平滑筋、滑膜、軟骨、骨、甲状腺、副腎、腹膜、腸間膜、骨髄、血液、血管系、リンパ節等のリンパ系、リンパ液などに存在し得る。
【0045】
がん細胞の脈管浸潤を抑制するとは、Hic-5インヒビターを作用させなかった場合に比べ、がん細胞の脈管浸潤を低減させることを意味する。抑制の程度は、Hic-5インヒビターを作用させなかった場合に比べ、例えば、脈管浸潤したがん細胞の数が、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、又は100%減少するものであってよい。抑制の程度は大きいほど好ましい。脈管浸潤したがん細胞の数は、例えば、病理組織検査等により計測することができる。
【0046】
Hic-5は通常細胞内に存在するため、本開示の組成物A及びBにおいて、Hic-5インヒビターは細胞内に送達されることが好ましい。Hic-5インヒビターの細胞内への送達には、限定されずに、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、デキストラン法、マイクロインジェクション法、iTOP(D’Astolfo et al.,Cell.2015;161(3):674-690)、細胞膜透過性ペプチド(CPP)、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターなどを用いることができる(Bruce and McNaughton,Cell Chem Biol.2017;24(8):924-934、Lee et al.,J Control Release.2019;313:80-95等参照)。in vivoでの送達には、細胞膜透過性ペプチド、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターを用いた送達手法が好ましい。
【0047】
細胞膜透過性ペプチドは、細胞膜を通過し、細胞内に移行することができるペプチドであり、多くの種類が知られている。細胞膜透過性ペプチドの非限定例としては、TAT、ポリアルギニン(R5、R8、R9など)、Penetratin、Pep-1、プロリンリッチペプチド(Pro)、TAT-HA2、Hph-1、HP4、LAH4、LAH4-L1、Vectofusin-1、低分子量プロタミン(LMWP)、LL-37、Pep-7、Pept1、Pept2、IVV-14、Transportant、Ig(v)、pVEC、HRSV、TGN、Derived Ku-70、RW(n)、RRRRRRGGRRRRG、SVS-1、L-CPP、RLW、K16ApoE、Angiopep-2、ACPP、KAFAK、hCT(9-32)、VP22などが挙げられる(Vanova et al.,Materials(Basel).2019;12(17).pii:E2671、Silva et al.,Biomolecules.2019;9(1).pii:E22、Derakhshankhah and Jafari,Biomed Pharmacother.2018;108:1090-1096など参照)。細胞膜透過性ペプチドは、Hic-5インヒビターに直接連結してもよいし(Tai,Molecules.2019;24(12).pii:E2211)、Hic-5インヒビターを含むウイルスベクター又は非ウイルスベクターに連結して用いてもよい(上記Vanova et al.、上記Silva et al.)。
【0048】
ウイルスベクターとしては、限定されずに、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルスなどをベースとするベクターが挙げられる。
非ウイルスベクターとしては、限定されずに、例えば、ポリマー粒子、脂質粒子、無機粒子などの粒子状担体、細菌ベクター等が挙げられる。粒子状担体としては、大きさがナノレベルのナノ粒子を用いることができる。ポリマー粒子としては、限定されずに、例えば、カチオン性ポリマー、ポリアミドアミン(PAMAM)、キトサン、グリコールキトサン、シクロデキストリン、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(乳酸-コ-カプロラクトン酸)(PLCA)、ポリ(βアミノエステル)、アテロコラーゲン、ポリエチレンイミン(PEI)などのポリマーを含むものが挙げられる。脂質粒子にはリポソームや非リポソーム型脂質粒子などが含まれる。リポソームは脂質二重膜で包まれた内腔を有する小胞であり、非リポソーム型脂質粒子は、このような構造を有しない脂質粒子である。無機粒子としては、例えば、金ナノ粒子、量子ドット、シリカナノ粒子、酸化鉄ナノ粒子(例えば、超常磁性酸化鉄ナノ粒子(SPION))、ナノチューブ(例えば、カーボンナノチューブ(CNT))、ナノダイヤモンド、フラーレンなどが挙げられる。細菌ベクターとしては、限定されずに、例えば、リステリア菌、ビフィズス菌、サルモネラ菌などをベースにしたものが挙げられる。非ウイルスベクターは、核酸分子のみならず、抗体やCasなどのポリペプチドの送達にも使用することができる。上記粒子担体には種々の修飾を加えることができる。例えば、PEGによるステルス化、標的化リガンドによる標的化、細胞透過ペプチド(CPP)による修飾などが挙げられる。
【0049】
Hic-5インヒビターの標的細胞の非限定例としては、心肥大については心臓線維芽細胞(筋線維芽細胞を含む)や心筋細胞、間質性肺炎については肺線維芽細胞(筋線維芽細胞を含む)やクララ細胞、脂肪肝については肝星細胞、筋線維芽細胞、門脈域の線維芽細胞、骨髄由来のfibrocyte等、変形性関節症については軟骨細胞、腫瘍については腫瘍細胞、腫瘍組織中の線維芽細胞、CAFなど、がん細胞の脈管浸潤についてはがん細胞等が挙げられる。例えば、in vivoでの軟骨組織への核酸の送達に、関節内注射によるアデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、レンチウイルスベクター、AAVベクター及び種々の非ウイルスベクターの投与が有効だったことが報告されている(Evans et al.,Hum Gene Ther.2018;29(1):2-14)。また、軟骨細胞に発現しているCD44を標的とするヒアルロン酸被覆ナノ粒子を軟骨細胞への薬物送達に用いたことが報告されている(Ansboro et al.,Eur Cell Mater.2012;23:310-8)。したがって、ヒアルロン酸を軟骨細胞に対する標的化リガンドとして使用することができる。
【0050】
Hic-5インヒビターに上記のポリマーや脂質、標的化リガンド、CPPなどの機能的部分を結合させ、コンジュゲートとすることもできる。これにより、上記の担体を用いることなく、Hic-5インヒビターを製剤化することが可能となる。
一態様において、本開示の組成物A及びBに含まれるHic-5インヒビターは、細胞への送達を補助する機能的部分、例えば、ポリマーや脂質、標的化リガンド、CPPなどとのコンジュゲートとして存在する。別の態様において、本開示の組成物A及びBに含まれるHic-5インヒビターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターに内包されるか、これらベクターと結合して存在する。
【0051】
一部の態様において、本開示の組成物A及びBに含まれるHic-5インヒビターは、特定の細胞に標的化されていない。Hic-5 KOマウスは正常に誕生し、成長することから(Kim-Kaneyama et al.,J Atheroscler Thromb.2012;19(7):601-7)、Hic-5が全身的に抑制されても生体の正常な機能に悪影響は生じないと考えられる。一方、Hic-5 KOマウスでは、今回明らかとなった心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝、腫瘍及びがん細胞の脈管浸潤のほか、動脈硬化症などのHic-5が関与する他の疾患についても発症や進行が抑制されるため、Hic-5インヒビターを特定の細胞に標的化することなく対象に投与することで、処置が意図されるHic-5が関与する複数の疾患を同時に処置することが可能となるだけでなく、対象において検出されていない潜在的なHic-5が関与する疾患の処置も可能となる。
【0052】
本開示の組成物A及びBは、経口及び非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、頬側、口腔内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、心筋内、関節内、経粘膜、経皮、鼻腔内、腹腔内、気道内、気管支内、肺胞内、肺内及び子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形及び製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1990)などを参照)。
【0053】
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性又は非水性の等張性無菌溶液又は懸濁液の形態であってもよい。肺組織への送達には、例えば、吸入装置又は噴霧器による投与に適したエアゾール又は噴霧乾燥製剤の形態とすることができる。
【0054】
本開示の組成物A及びBは、1又は2以上の薬学的に許容し得る添加物(例えば、界面活性剤、担体、希釈剤、賦形剤など)を含んでもよい。薬学的に許容し得る添加物は医薬分野でよく知られており、例えば、その全体を本明細書に援用するRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1990)などに記載されている。
【0055】
本開示において、「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解又は予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的及び/又は治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」は、疾患の進行の遅延又は停止、病変の退縮又は消失、当該疾患発症の予防又は再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0056】
本開示において、「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。別の態様において、対象は、コンパニオンアニマル又は産業動物、特にイヌ、ネコ、ウマ、ロバ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの非ヒト動物であってもよい。対象は健常(例えば、特定の又は任意の疾患を有しない)であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、疾患の処置等が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
【0057】
本開示の別の態様は、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患を処置する方法であって、該方法が、治療有効量のHic-5インヒビター又はこれを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する(以下、「本開示の処置方法」と称することがある)。ここで、有効量とは、例えば、当該疾患の発症及び再発を予防し、又は当該疾患を治癒する量である。本方法における対象は、限定されずに、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患を有すると診断された対象、及び、前記疾患を発症するリスクのある対象を含む。前記疾患を発症するリスクのある対象としては、限定されずに、例えば、前記疾患の原因となる状態を有する対象等が挙げられる。具体的には、例えば、心肥大であれば、高血圧、心臓弁膜症、中隔欠損、肥大型心筋症などを有する対象、間質性肺炎であれば、肺感染症、膠原病、放射線被曝、喫煙歴、間質性肺炎を惹起し得る薬剤への暴露歴などを有する対象、変形性関節症であれば、高齢及び/又は肥満の対象、関節を酷使する環境にある対象、脂肪肝であれば、肥満、2型糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、メタボリックシンドロームなどを有する対象、腫瘍であれば、放射線被曝、喫煙歴、飲酒歴、発がん性物質への暴露歴などを有する対象等が挙げられる。特定の態様において、本方法における対象は、後述の本開示の疾患検出方法により、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症及び脂肪肝から選択される疾患が検出された対象を含む。本開示の処置方法における疾患の種類やHic-5インヒビターについては、本開示の組成物Aについて上記したとおりである。
【0058】
本開示の別の態様は、がん細胞の脈管浸潤を抑制する方法であって、該方法が、有効量のHic-5インヒビター又はこれを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する(以下、「本開示の脈管浸潤抑制方法」と称することがある)。ここで、有効量とは、がん細胞の脈管浸潤を抑制し得る量である。本方法における対象は、典型的にはがんを有すると診断された対象を含む。本開示の脈管浸潤抑制方法におけるHic-5インヒビターについては、本開示の組成物Aについて上記したとおりであり、がん細胞の種類や脈管浸潤の抑制については、本開示の組成物Bについて上記したとおりである。
【0059】
前記方法において対象に投与するHic-5インヒビター又は組成物の具体的な用量は、投与を要する対象に関する種々の条件、例えば、方法の目的、治療内容、疾患の種類、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期及び頻度、併用している医薬、治療への反応性、及び治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。Hic-5インヒビター又は組成物の1日総投与量は、限定されずに、例えば、Hic-5インヒビターの量として約1μg/kg~約1000mg/体重kg、約10μg/kg~約100mg/体重kg、約100μg/kg~約10mg/体重kgであってもよい。あるいは、投与量は患者の表面積に基づいて計算してもよい。
【0060】
投与経路としては、経口及び非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、頬側、口腔内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、局所、直腸、動脈内、門脈内、心室内、心筋内、関節内、経粘膜、経皮、鼻腔内、腹腔内、気道内、気管内、気管支内、肺胞内、肺内、肝臓内、及び子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる製剤又は組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回又は5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0061】
本開示の別の態様は、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患の処置に使用するためのHic-5インヒビターに関する。本開示のさらなる態様は、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患の処置へのHic-5インヒビターの使用に関する。本開示のさらに別の態様は、Hic-5インヒビターの、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び腫瘍から選択される疾患を処置するための医薬の製造への使用に関する。これらの態様における疾患の種類やHic-5インヒビターについては、本開示の組成物Aについて上記したとおりである。
【0062】
本開示の別の態様は、がん細胞の脈管浸潤の抑制に使用するためのHic-5インヒビターに関する。本開示のさらなる態様は、がん細胞の脈管浸潤を抑制するためのHic-5インヒビターの使用に関する。本開示のさらに別の態様は、Hic-5インヒビターの、がん細胞の脈管浸潤を抑制するための医薬の製造への使用に関する。これらの態様におけるHic-5インヒビターについては、本開示の組成物Aについて上記したとおりであり、がん細胞の種類や脈管浸潤の抑制については、本開示の組成物Bについて上記したとおりである。
【0063】
本開示の別の態様は、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、NASH及び脈管浸潤のリスクを有するがんから選択される疾患を検出する、診断する、検査する又は診断を補助する方法であって、前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現を検出すること、及び
前記組織におけるHic-5の発現の程度を、正常組織におけるHic-5の発現の程度と比較すること、
を含み、前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現の程度が正常組織におけるHic-5の発現の程度よりも増大していることが、前記疾患の存在を示す、方法に関する(以下、「本開示の疾患検出方法」と称することがある)。
【0064】
疾患の発症が疑われる組織としては、心肥大については心臓壁、特に心筋層、間質性肺炎については肺組織、変形性関節症については関節軟骨組織、特に好発部位である膝関節、股関節などの下肢荷重関節、手指関節、脊椎の軟骨組織、脂肪肝については肝臓組織、がんについてはがん組織が挙げられる。また、疾患の発症が疑われる組織は、疾患の発症が疑われる対象に由来するものであってもよい。疾患の発症が疑われる対象としては、例えば、疾患に係る症状を呈している対象や、疾患の原因となる状態を有する対象等が挙げられる。例えば、心肥大であれば、高血圧、心臓弁膜症、中隔欠損、肥大型心筋症などを有する対象、間質性肺炎であれば、咳や息苦しさなどの呼吸器症状を呈する対象や、肺感染症、膠原病、放射線被曝、喫煙歴、間質性肺炎を惹起し得る薬剤への暴露歴などを有する対象、変形性関節症であれば、関節の痛みを呈する対象や、高齢及び/又は肥満の対象、関節を酷使する環境にある対象、脂肪肝であれば、肥満、2型糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、メタボリックシンドロームなどを有する対象、脈管浸潤のリスクを有するがんであれば、がんを有する対象等が挙げられる。Hic-5の発現を検出する組織は生体内に存在しても、生体から単離されたものであってもよい。
正常組織としては、前記疾患を有しない対象における対応する組織(例えば、心臓壁、肺組織、関節軟骨組織、被験対象においてがんが存在する組織と同じ組織)、又は、がん組織の隣接正常組織が挙げられる。
【0065】
Hic-5の発現の検出は、種々の手法により行うことができる。Hic-5の発現を遺伝子レベルで検出する手法としては、限定されずに、例えば、Hic-5をコードする核酸分子若しくはそのユニークな断片に特異的にハイブリダイズする核酸分子を利用した、種々のハイブリダイゼーション法(例えば、in situハイブリダイゼーション)、ノーザンブロット法、サザンブロット法、種々のPCR法、NGS等を利用したシーケンシングなどが挙げられる。Hic-5の発現をタンパク質レベルで検出する手法としては、限定されずに、例えば、抗体等のHic-5を特異的に認識し得る物質を利用した免疫沈降法、EIA(enzyme immunoassay)(例えば、ELISA(emzyme-linked immunosorbent assay)など)、RIA(radio immuno assay)(例えば、IRMA(immunoradiometric assay)、RAST(radioallergosorbent test)、RIST(radioimmunosorbent test)など)、ウエスタンブロッティング法、免疫組織化学法、免疫細胞化学法、フローサイトメトリー法、MRIなどが挙げられる。
【0066】
Hic-5の発現の程度は、各検出手法に応じて適宜決定することができる。例えば、in situハイブリダイゼーション法であればプローブに付した標識の反応強度、ノーザンブロット法、サザンブロット法、ウエスタンブロッティング法であればバンドの密度、PCR法であれば増幅産物の量、シーケンシングであれば標的シーケンスのカウント数、免疫沈降法であれば沈降物の量(濁度など)、EIAであれば吸光度や放射活性、免疫組織化学法、免疫細胞化学法であれば染色部分の面積や染色強度、フローサイトメトリー法であれば蛍光強度や陽性細胞数などを用いてHic-5の発現の程度を決定することができる。
【0067】
正常組織におけるHic-5の発現の程度に対する疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現の程度の増大は、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、又は100%以上などであってよい。
一態様において、本開示の疾患検出方法は、医師の行為を含まない。別の態様において、本開示の疾患検出方法はin vitroで行われる。
【0068】
本開示の疾患検出方法は、本開示の処置方法又は本開示の脈管浸潤抑制方法と組み合わせて行うことができる。例えば、本開示の疾患検出方法で疾患が検出された対象に、本開示の処置方法又は本開示の脈管浸潤抑制方法を適用することができる。したがって、本開示の一態様は、
心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝、及び脈管浸潤のリスクを有するがんから選択される疾患の発症が疑われる対象の組織におけるHic-5の発現を検出すること、
前記組織におけるHic-5の発現の程度を、正常組織におけるHic-5の発現の程度と比較すること、
前記疾患の発症が疑われる組織におけるHic-5の発現の程度が正常組織におけるHic-5の発現の程度よりも増大している場合に、前記対象が前記疾患を有すると決定すること、及び
前記疾患を有すると決定された前記対象に、有効量のHic-5インヒビター又はこれを含む組成物を投与すること、
を含む方法
に関する。
【0069】
本開示の別の態様は、Hic-5を検出する試薬を含む、心肥大、間質性肺炎、変形性関節症、脂肪肝及び脈管浸潤のリスクを有するがんから選択される疾患を検出、診断、又は検査するための組成物に関する(以下、「本開示の疾患検出用組成物」と称することがある)。
Hic-5を検出する試薬としては、Hic-5を検出する手法で使用される試薬が挙げられる。Hic-5を検出する試薬の非限定例としては、Hic-5をコードする核酸分子に特異的にハイブリダイズすることができる核酸分子、Hic-5をコードする核酸分子をPCRにより増幅し得るプライマー、Hic-5を特異的に認識し得る物質(例えば、本開示の組成物Aについて記載したHic-5に結合する物質、特にHic-5を抗原とする抗体、その抗原結合性誘導体、Hic-5結合性抗体模倣体)等が挙げられる。
Hic-5を検出する試薬には、検出可能な標識が付されていてもよい。検出可能な標識としては、限定されずに、例えば、蛍光標識、発光標識、放射性標識、MRIなどで検出可能な金属原子又は金属原子を含む化合物(例えば、錯体)等が挙げられる。
【0070】
蛍光標識としては、限定されずに、例えば、CyTMシリーズ(例えば、CyTM2、3、5、5.5、7など)、DyLightTMシリーズ(例えば、DyLightTM405、488、549、594、633、649、680、750、800など)、Alexa Fluor(R)シリーズ(例えば、Alexa Fluor(R)405、488、549、568、594、633、647、680、750など)、HiLyte FluorTMシリーズ(例えば、HiLyte FluorTM488、555、647、680、750など)、ATTOシリーズ(例えば、ATTO488、550、633、647N、655、740など)、FAM、FITC、テキサスレッド、GFP、RFP、Qdotなどが挙げられる。
発光標識としては、限定されずに、例えば、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン、イクオリンなどが挙げられる。
【0071】
金属原子としては、限定されずに、例えば、ガドリニウム(III)(Gd(III))、イットリウム-88(88Y)、インジウム-111(111In)など、金属錯体としては、前記金属原子と、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、(1,2-エタンジイルジニトリロ)四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン、2,2’-ビピリジン(bipy)、1,10-フェナントロリン(phen)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、2,4-ペンタンジオン(acac)、シュウ酸塩(ox)などの配位子との錯体等が挙げられる。また、超常磁性酸化鉄(SPIO)、酸化マンガン(MnO)などを用いることもできる。
【0072】
放射性標識としては、限定されずに、例えば、テクネチウム-99m(99mTc)、インジウム-111(111In)、ヨウ素-123(123I)、ヨウ素-124(124I)、ヨウ素-125(125I)、ヨウ素-131(131I)、タリウム-201(201Tl)、炭素-11(11C)、窒素-13(13N)、酸素-15(15O)、フッ素-18(18F)、銅-64(64Cu)、ガリウム-67(67Ga)、クリプトン-81m(81mKr)、キセノン-133(133Xe)、ストロンチウム-89(89Sr)、イットリウム-90(90Y)、123I-IMP、99mTc-HMPAO、99mTc-ECD、99mTc-MDP、99mTc-テトロフォスミン、99mTc-MIBI、99mTcO-、99mTc-MAA、99mTc-MAG3、99mTc-DTPA、99mTc-DMSA、18F-FDG1などが挙げられる。
本開示の疾患検出用組成物は、生体内で使用しても(in vivoイメージング)、生体外で使用してもよい。
【実施例
【0073】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。なお、試薬等の品番及び製造者は簡潔のため初出箇所にのみ記載した。
【0074】
[例1] 心肥大におけるHic-5の関与
Hic-5KOマウスに横行大動脈縮窄術(TAC)を施し、心臓の変化を野生型マウスと比較した。Hic-5KOマウス(Hic-5-/-)はCre-loxPシステムを用いて作製したものを使用した(Kim-Kaneyama et al.,J Mol Cell Cardiol.2011;50(1):77-86)。具体的には、Hic-5の全エキソンをloxP配列で挟み込んだターゲティングベクターを用いて相同組換えES細胞(C57BL/6ベース)を作製し、このES細胞クローンを用いてhic-5/floxマウスを作出した。得られたhic-5/floxマウスをPgk2-Creトランスジェニックマウス(Kido et al.,Dev Growth Differ.2005;47(1):15-24)と交配することでHic-5KOマウスを得た。Hic-5KOマウス及び野生型マウス(C57BL/6)をイソフルランでの吸入麻酔下開胸し、横行大動脈を露出した。横行大動脈を27ゲージ針と一緒に6.0絹縫合糸で結紮した後、針を除去することで横行大動脈に直径0.4mmの狭窄を生じさせた。各マウスを閉胸し、3週間飼育後、安楽死させ、心臓を摘出した。図1の結果が示すとおり、Hic-5KOマウスの心臓は、野生型マウスに比べ顕著に小さく、心肥大が抑制されていることが明らかとなった。
【0075】
[例2] 間質性肺炎におけるHic-5の関与
<BLM間質性肺炎モデルでの検討>
Hic-5KOマウスにブレオマイシン(BLM)を投与し、肺組織の変化を野生型マウスと比較した。Hic-5KOマウスは例1と同様に作製した。マウスに経口気管挿管し、生理食塩水に2mg/mlで溶解したBLM(硫酸ブレオマイシン、B1141000、Sigma-Aldrich)を2mg/kg投与した。対照群には同量の生理食塩水を同様に投与した。野生型マウス(C57BL/6)に対しても同様の処置を行った。BLM接種後14日目にマウスを安楽死させ、左肺組織を摘出し、10%パラホルムアルデヒドで24時間固定後、パラフィン包埋し、4μmの切片を作製した。切片をHE染色又はマッソントリクローム染色に供し、光学顕微鏡にて分析した(図2)。また、肺組織におけるHic-5及びα-SMAの発現を免疫染色及びウェスタンブロット法により評価した。免疫染色は以下のように行った。まず左肺組織の残りの部分で凍結切片を作製し、これをPBSで洗浄後、ブロッキング試薬(X0909、Agilent)でブロッキングし、抗Hic-5抗体(1:200、611165、BD Biosciences)又は抗α-SMA抗体(1:200、ab5694、abcam)で染色した。次いで、蛍光標識二次抗体(抗マウスIgG Alexa 488(A11001、Thermo Fisher Scientific)もしくは抗ウサギIgG Alexa 568(A11011、Thermo Fisher Scientific))を用いて検出した(図3)。ウェスタンブロット法は以下のように行った。前記マウスから摘出した右肺組織をProtease Inhibitor Cocktail(P8340、Sigma-Aldrich)を添加したRIPAバッファー(10mM Tris(pH7.4)、150mM NaCl、0.5%NP-40)中でホモジナイズし、肺組織溶解物を調製した。得られた肺組織溶解物をSDS-PAGEで分離し、ポリビニリデンジフルオリド膜(GE Healthcare)に移し、0.1%Tween20含有PBS中の0.5%BSAでブロッキングした。次いで、膜を抗Hic-5抗体(1:1000)及び抗α-SMA抗体(1:200)でブロットし、HRP結合二次抗体とインキュベートした後、Western Lightning chemiluminescence reagent(PerkinElmer)を用いて陽性バンドを可視化し、続いてX線フィルム(Fujifilm)に曝露した。バンド密度は、CS Analyzer 4(ATTO)を用いて測定し、GAPDHに対して正規化した(図4~5)。
図3の結果から、BLMの投与によりHic-5の発現が誘導されることが分かる。また、図4~5に示すとおり、Hic-5KOマウスでは、BLM投与による肺組織の線維化が野生型マウスに比べ顕著に抑制されていた。
【0076】
<間質性肺炎患者におけるHic-5の発現>
間質性肺炎患者(60歳男性、日本人)の肺組織におけるHic-5の発現を評価した。対照となる正常組織は、肺がん患者(75歳女性、日本人、肺腺癌)の肺組織の正常部分を使用した。各組織からパラフィン切片を調製し、キシレンで脱パラフィン後、エタノール、水で洗浄し、PBSを浸透させた。次いで、抗原賦活剤(抗原賦活化液、Nichirei Biosciences)を用いて抗原を賦活化し、ブロッキング試薬(X0909、Agilent)でブロッキング後、抗Hic-5抗体(1:200)又は抗α-SMA抗体(1:200)で染色し、HRP標識された抗マウスIgG抗体又は抗ウサギIgG抗体及びDABを用いて発色させた。図6に示す結果から、間質性肺炎患者の肺組織においてHic-5が高発現していることが分かる。BLM間質性肺炎モデルマウスでの結果と併せ考えると、Hic-5を抑制することによりヒトの間質性肺炎も抑制されることが示唆される。
【0077】
<間質性肺炎に罹患した肺組織におけるHic-5の局在>
上記「BLM間質性肺炎モデルでの検討」で得た野生型マウスのパラフィン切片をキシレンで脱パラフィン後、エタノール、水で洗浄し、PBSを浸透させた。次いで、抗原賦活剤(抗原賦活化液、Nichirei Biosciences)を用いて抗原を賦活化し、ブロッキング試薬(X0909、Agilent)でブロッキング後、抗Hic-5抗体(1:200)又は抗α-SMA抗体(1:200)で染色し、HRP標識された抗マウスIgG抗体又は抗ウサギIgG抗体及びDABを用いて発色させた。図7に示す結果から、細気管支の周囲に存在するクララ細胞(α-SMA陰性)にHic-5の発現が認められた。
【0078】
[例3] 変形性関節症におけるHic-5の関与
<Hic-5KOマウスにおける変形性関節症の検討>
Hic-5KOマウスは例1と同様に作製した。変形性関節症(OA)の誘導は、Kamekura et al.,Osteoarthritis Cartilage.2005;13(7):632-41に記載の方法に従って行った。具体的には、全身麻酔下、手術用顕微鏡下でHic-5KOマウス及び野生型マウスの内側側副靭帯と内側半月の切除を行った。施術後、各マウスを同じ条件下で維持し、8週間後に分析に供した。OA重症度はOARSIシステム(Glasson et al.,Osteoarthritis Cartilage.2010;18 Suppl 3:S17-23)を用いて定量化した。具体的には、観察者(盲検)が、マウスの膝関節を露出し、内側脛骨プラトー(MTP)、内側大腿骨顆(MFC)、外側脛骨プラトー(LTP)、及び外側大腿骨顆(LFC)の4つの領域について、関節の損傷の程度を0~6の数値でスコアリングし、4領域の合計スコアを算出した(図8、n=11)。各群のスコアをStudentのt検定(対応なし、両側)に供し、P<0.05を有意差ありとした。
【0079】
関節の組織学的検討はサフラニン-O染色及び走査型電子顕微鏡で行った。サフラニン-O染色は、定法に従って行った。走査型電子顕微鏡による評価はArita-Okubo et al.,Cardiovasc Res.2015;105(3):361-71に記載の手法に従って行った。具体的には、左膝関節後面の関節軟骨を手術の8週間後にマウスから採取し、2.5%グルタルアルデヒドで4℃で24時間浸漬固定した。固定後のサンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、0.1Mリン酸緩衝液中の1%四酸化オスミウムで染色した。次に、染色後のサンプルをエタノール勾配による脱水、凍結乾燥、次いで白金によるコーティングに共し、走査型電子顕微鏡(S-4700、Hitachi)にて25kVで観察した。図9~10示す結果から、Hic-5KOマウスの関節の方が野生型に比べ軟骨損傷が軽度であったことが分かる。
【0080】
<変形性関節症の進行とHic-5発現の推移>
変形性関節症の進行と関節軟骨におけるHic-5発現の推移を検討した。野生型C57BL/6マウスにおいて、上記と同様にして内側側副靭帯と内側半月の切除を行った。施術前、施術後2、4又は8週目にマウスを安楽死させ、膝関節組織を採取した。組織はPBS緩衝4%パラホルムアルデヒド中4℃で1日固定し、10%EDTA(pH7.4)中4℃で2週間脱灰した後、パラフィン包埋した。矢状切片(4μm厚)を切り出し、抗Hic-5抗体(1:200)及びDAPIで染色した。図11に示す結果から、Hic-5が施術後2週目から発現していることが明らかとなった。
【0081】
<軟骨細胞におけるHic-5の局在>
上記と同様にして、Hic-5KOマウス及び野生型マウスの内側側副靭帯と内側半月の切除を行った。施術後、各マウスを同じ条件下で維持し、8週間後に軟骨細胞を採取した。具体的には、安楽死させたマウスから、外科用メスで大腿骨頭、大腿骨顆、及び脛骨プラトーを採取し、これらの軟骨片を、コラゲナーゼD(Roche)を3mg/mL含むD-MEM(低グルコース、FUJIFILM Wako Pure Chemical)溶液中での45分間のインキュベーションに2回供した後、コラゲナーゼDを0.5mg/mL含むD-MEM(低グルコース)中で一晩インキュベートした。翌日、軟骨の残留物を含むコラゲナーゼD溶液を回収し、この溶液をピペットに連続して出し入れし、細胞凝集物を分散させた。得られた細胞懸濁液をストレーナーで濾過し、軟骨細胞を単離した。得られた軟骨細胞をPBS緩衝3.7%ホルムアルデヒドで固定し、PBS緩衝0.2%Triton-Xで透過処理した後、BSA(A6003、Sigma-Aldrich)でブロッキングした。その後、抗Hic-5抗体(1:200)及びDAPIで染色した(n=3)。図12に示す結果から、Hic-5が接着斑に局在していることが明らかとなった。
【0082】
<変形性関節症に冒された関節における異化因子の発現>
上記と同様にして、Hic-5KOマウス及び野生型マウスの内側側副靭帯と内側半月の切除を行った。施術後、各マウスを同じ条件下で維持し、8週間後にマウスを安楽死させ、膝関節組織を採取した。組織はPBS緩衝4%パラホルムアルデヒド中4℃で1日固定し、10%EDTA(pH7.4)中4℃で2週間脱灰した後、パラフィン包埋した。矢状切片(4μm厚)を切り出し、抗ADAMTS5抗体(1:50、D-16、Santa Cruz Biotechnology)、抗II型コラーゲン抗体(1:200、LB-1297、LSL)、抗X型コラーゲン抗体(1:200、LB-0092、LSL)及び抗MMP13抗体(1:100、18165-1-AP、Proteintech)で染色し、CSA II,Biotin-Free Catalyzed Amplification System(Agilent)で発色させた。また、同じ切片をサフラニン-Oで染色した。図13に示すとおり、Hic-5KOマウスにおけるMMP13、ADAMTS5及びX型コラーゲンの発現が野生型マウスに比べ抑制されており、逆にII型コラーゲンの発現は、Hic-5KOマウスの方が野生型マウスに比べ高かった。これらのことから、Hic-5KOマウスにおける変形性関節症の抑制は、MMP13及びADAMTS5などの異化因子の発現低下を伴うことが分かる。
【0083】
<炎症性サイトカインによるHic-5及び異化因子の発現への影響>
変形性関節症に関与する炎症性サイトカインがHic-5及び異化因子の発現にどのように影響するか、また、異化因子の発現がHic-5のKOによりどのような影響を受けるかを検討した。初代関節軟骨細胞を、5日齢のHic-5KOマウス及び野生型マウスから、Stanton et al.,Nat Protoc.2011;6(3):388-404に記載の手法に従って単離した。具体的には、安楽死させたマウスから、外科用メスで大腿骨頭、大腿骨顆、及び脛骨プラトーを採取し、これらの軟骨片を、コラゲナーゼD(Roche)を3mg/mL含むD-MEM(低グルコース)中での45分間のインキュベーションに2回供した後、コラゲナーゼDを0.5mg/mL含むD-MEM(低グルコース)中で一晩インキュベートした。翌日、軟骨の残留物を含むコラゲナーゼD溶液を回収し、この溶液をピペットに連続して出し入れし、細胞凝集物を分散させた。得られた細胞懸濁液をストレーナーで濾過し、次いで培養皿に播種した。こうして得た初代軟骨細胞は、維持培地(10%ウシ胎仔血清(Thermo Fisher Scientific)を添加したD-MEM(低グルコース))中で維持した。初代軟骨細胞を、血清フリーのD-MEM培地に移し、24時間インキュベートした。次いで、培養物にTNF-α(201-13461、FUJIFILM Wako Pure Chemical)又はIL-1β(094-04681、FUJIFILM Wako Pure Chemical)をそれぞれ10ng/mL加え、12時間又は24時間インキュベートした。Hic-5の発現はウェスタンブロット法で、MMP13の発現はリアルタイムqRT-PCR法及びウェスタンブロット法でそれぞれ評価した。
【0084】
ウェスタンブロット法による評価は以下のように行った。まず軟骨細胞をPBSで洗浄後、1%SDSで溶解した。得られた溶解物をSDS-PAGEで分離し、ポリビニリデンジフルオリド膜(GE Healthcare)に移し、0.1%Tween20含有PBS中の0.5%BSAでブロッキングした。次いで、膜を抗Hic-5抗体(1:1000)、抗GAPDH抗体(1:2000、171-3、MBL)及び抗MMP13抗体(1:400、MAB13426、Merck KGaA)でブロットし、HRP結合二次抗体とインキュベートした後、Western Lightning chemiluminescence reagent(PerkinElmer)を用いて陽性バンドを可視化し、続いてX線フィルム(FUJIFILM)に曝露した。バンド密度は、CS Analyzer4(ATTO)を用いて測定し、GAPDHに対して正規化した。リアルタイムqRT-PCR法による評価は以下のように行った。まず軟骨細胞をRT-qPCRキット(CellAmpTMDirect TB Green(R)RT-qPCR kit、Takara Bio)付属のWashing bufferで洗浄後、前記キット付属のLysis bufferで溶解した。得られた軟骨細胞溶解物に対して、RT-qPCRキット及びABI7900リアルタイムPCR検出システム(Thermo Fisher Scientific)によりqRT-PCRを行った。プライマーは以下のもの使用し、発現値はハウスキーピング遺伝子(18s)に対して正規化し、2-ΔΔCt法を用いて対照群に対する倍率変化を算出した。
18s
mmp13
【0085】
Hic-5発現に関する結果を図14に、MMP13発現に関する結果を図15~16にそれぞれ示す。図14の結果から、軟骨細胞におけるHic-5の発現がTNF-α又はIL-1βの添加により有意に増大したことが分かる。また、図15~16の結果からMMP13の発現はTNF-α又はIL-1βの添加により顕著に増大するが、Hic-5KOマウスの軟骨細胞における増大の程度は、野生型マウスのものより有意に小さいことが分かる。
【0086】
<機械的ストレスによるHic-5及び異化因子の発現への影響>
変形性関節症の原因の1つである機械的ストレスがHic-5及び異化因子の発現にどのように影響するか、また、異化因子の発現がHic-5のKOによりどのような影響を受けるかを検討した。上記と同様にして得た初代関節軟骨細胞を、2.5×10個/チャンバーの密度でコラーゲンでコートされたシリコンストレッチチャンバー(培養面積2cm×2cm)上に播種した。48時間培養した後、一軸伸展システム(NS-550、Scholertec)を用いて、37℃及び5%COで、周期的引張歪み(0.5Hz、10%伸び)を30分間適用し、機械的ストレスを与えた。陰性対照として、周期的引張歪みを適用しない以外は同じ条件で培養した細胞を用いた。周期的引張歪み適用の12時間後に細胞を採取し、上記と同様、Hic-5の発現はウェスタンブロット法で、MMP13の発現はリアルタイムqRT-PCR法及びウェスタンブロット法でそれぞれ評価した。また、ADAMTS5の発現を、以下のプライマーを用い、上記と同様のリアルタイムqRT-PCR法で評価した。
adamts5
【0087】
Hic-5発現に関する結果を図17に、MMP13発現に関する結果を図18~19に、ADAMTS5発現に関する結果を図20にそれぞれ示す。図17の結果から、軟骨細胞におけるHic-5の発現が機械的ストレスの適用により有意に増大したことが分かる。また、図18~20の結果からMMP13及びADAMTS5の発現は機械的ストレスの適用により顕著に増大するが、Hic-5KOマウスの軟骨細胞における増大の程度は、野生型マウスのものより有意に小さいことが分かる。
以上の結果から、変形性関節症の進行において、軟骨組織の変性に関与するMMP13及びADAMTS5などの異化因子の発現が、Hic-5の発現の増大に伴い増大すること、そして、Hic-5の発現を抑制することで、前記異化因子の発現、ひいては、変形性関節症における軟骨組織の変性を抑制できることが示唆された。
【0088】
[例4] がん細胞の脈管浸潤におけるHic-5の関与
肺腺癌患者の肺組織におけるHic-5の発現を免疫染色により評価した。患者の肺組織からパラフィン切片を調製し、キシレンで脱パラフィン後、エタノール、水で洗浄し、PBSを浸透させた。次いで、抗原賦活剤(抗原賦活化液、Nichirei Biosciences)を用いて抗原を賦活化し、ブロッキング試薬(X0909、Agilent)でブロッキング後、抗Hic-5抗体(1:200)又は抗α-SMA抗体(1:200)で染色し、HRP標識された抗マウスIgG抗体又は抗ウサギIgG抗体及びDABを用いて発色させた。図21に示すとおり、癌組織の間質のみならず、癌細胞自体にもHic-5の発現がみられた。特に、脈管に浸潤した癌細胞にHic-5が高発現していた。この結果は、癌細胞におけるHic-5の高発現が癌細胞の周辺組織への浸潤、特に脈管浸潤に関与していることを示唆するものであり、Hic-5の高発現がMMP13の高発現を伴うことを示す例3の結果と併せ考えると、癌細胞におけるHic-5の高発現が同様にMMP13の高発現をもたらし、これが癌細胞の浸潤を促進している可能性が示唆される。
【0089】
[例5] NASHにおけるHic-5の関与
<NASH誘発性モデルでの検討>
6週齢のHic-5KOマウス及び野生型マウス(C57BL/6)に60kcal%の脂肪、及び0.1%のメチオニンを含有する、コリン欠乏飼料(A06071302、Research Diet株式会社)を、6週間給餌した。採血後に安楽死させ、肝臓を摘出し、10%パラホルムアルデヒドで24時間固定後、パラフィンで包埋し4μmの切片を作製した。切片をアザン染色に供し、光学顕微鏡にて分析した。Hic-5KOマウス及び野生型マウスのアザン染色の結果を図22に示す。また、Hic-5KOマウス及び野生型マウスの血清中のALT及びASTを測定した。結果を図23に示す。
図22のアザン染色の結果から、肝臓組織への脂肪滴の沈着は同程度であったが、野生型マウスと比較してHic-5KOマウスでは肝臓組織の線維化が顕著に抑制されていた。また、図23の示す通り、野生型マウスと比較してHic-5KOマウスでは肝細胞障害性マーカであるALT及びASTの上昇も半分程度に抑制されていた。
【0090】
さらに肝臓組織におけるα-SMAの発現を免疫染色により評価した。免疫染色は以下のように行った。肝臓組織の残りの部分で凍結切片を作製し、これをPBSで洗浄後、ブロッキング試薬(X0909、Agilent)でブロッキングし、抗α-SMA抗体(1:200、ab5694、abcam)及びDAPIで染色した。次いで、抗ウサギIgG Alexa 488(A32790、Thermo Fisher Scientific)を用いて検出した。条件は、対物レンズ:20×、Exposure time:300ms、Bininng:1にて画像を取得した。結果の代表画像を図24及び図25に示す。閾値以上の蛍光強度を有する部分の面積をα-SMA陽性面積として、各マウスについて、画像全体の面積に対するα-SMA陽性面積比を5枚の画像から算出し平均化した。α-SMA陽性面積比(%)を示すグラフを図26に示す。図24図26から分かるように、野生型マウスと比較してHic-5KOマウスではα-SMAの発現が顕著に抑制されていた。これらのことからHic-5の発現を抑制することで、NASHにおける肝細胞障害、肝星細胞の活性化、肝臓組織の線維化を抑制できることが示唆された。
【0091】
野生型マウス及びHic-5KOマウスの肝臓組織のアザン染色切片を用いて、青色に染色された線維化領域の定量を試みた。血管系の管が入らないよう、かつ、視野内すべてが肝組織になるようにして、各個体のアザン染色切片を拡大倍率200倍で各個体21視野撮影した。各視野の青色に染色された面積をMetaMorph(R)イメージングソフトウェア(Molecular Devices)で計測し、各個体の計測値を平均化した。Prism8(version 8.4.0、GraphPad Software)を用い、野生型マウス及びHic-5KOマウス(それぞれn=3)の2群で正規性があることをShapiro-Wilk検定で確認し、Welch検定によりp値を計算した。図27に示すとおり、Hic-5KOマウスにおいて、青色に染色された領域の割合は野生型マウスに比べ有意に小さく(p=0.0361)、線維化が抑制されていることが明らかとなった。
【0092】
[例6] Hic-5インヒビターによる心肥大の処置
マウスイソプロテレノール誘発心肥大モデルに対するHic-5インヒビターの効果を検討した。Hic-5インヒビターとして、以下の配列を有するsiRNAを使用した。
イソプロテレノール塩酸塩(Product# I0260、Tokyo Chemical Industry)1gを生理食塩水3mLに溶解し、30mg/体重kg/dayとなるようALZET micro-osmotic pump(model 1004、Durect corporation)に充填した。イソフルラン麻酔下で、C57BL/6野生型マウス(8週齢、雄)の皮下にポンプを移植した(第0日)。処置群には、第2週から3週間、in vivo-jet PEI(PolyPlus-transfection SAS)に溶解したsiRNAを2.4μg/体重gの用量で週2回尾静脈より投与した(投与日:第8、12、16、19、23、26日)。ビヒクル対照群にはin vivo-jet PEI溶液のみを同様に投与した。また、ポンプを移植しない未処置対照群も設けた。
第30日にマウスを安楽死させ、心臓を摘出し、重量を測定し、心臓/体重比(mg/g)を算出した。また、ポンプを移植したマウスの一部及び未処置対照群は、siRNA又はビヒクルを投与することなく、第7日に安楽死、心臓摘出、重量測定、心臓/体重比算出を行った。有意差は、one-way ANOVA後Tukey検定を行って評価した。結果を図28~29に示す。図28より、イソプロテレノールの投与により第7日には心肥大が生じたが、第30日の処置群の心臓はビヒクル対照群のものよりも一回り小さくなっており、心肥大が抑制されたことが分かる。また図29より、第30日の処置群の心臓/体重比はビヒクル対照群のものに比べ有意に低下していた。
【0093】
[例7] Hic-5インヒビターによる間質性肺炎の処置
BLM間質性肺炎モデルに対するHic-5インヒビターの効果を検討した。Hic-5インヒビターとして、例6に記載のsiRNAを用いた。C57BL/6野生型マウスに経口気管挿管し、生理食塩水に2mg/mlで溶解したBLM(硫酸ブレオマイシン、B1141000、Sigma-Aldrich)を1mg/kg投与した(第0日)。処置群には、第2週から3週間、in vivo-jet PEI(PolyPlus-transfection SAS)に溶解したsiRNAを2.0μg/体重gの用量で週2回尾静脈より投与した(投与日:第9、13、17、20、23、27日)。ビヒクル対照群にはin vivo-jet PEI溶液のみを同様に投与した。第30日にマウスを安楽死させ、左肺組織を摘出し、10%パラホルムアルデヒドで24時間固定後、パラフィン包埋し、4μmの切片を作製した。切片をマッソントリクローム染色に供し、光学顕微鏡にて分析し、Ashcroft scoreを決定した。処置前対照群はBLM投与後第8日に安楽死させ、同様の評価を行った。有意差は、one-way ANOVA後Tukey検定を行って評価した。図30~31に示す結果から、処置群においてビヒクル対照群に比べ、線維化が有意に抑制されていることが分かる。
【0094】
[例8] Hic-5インヒビターによる変形性関節症の処置
変形性関節症に対するHic-5インヒビターの効果を検討した。Hic-5インヒビターとして、以下の配列を有するsiRNAを使用した。
siRNA投与液は、上記siRNAとAteloGene(R)Local Use“Quick Gelation”(Koken、以下AteloGene(R)QGと略すことがある)とを混合することにより調製した。より具体的には、Atelogene(R)QGをキット付属の2mLチューブに180μL分取し、これにキット付属のQG bufferを180μL、siRNA溶液(Nuclease free water中100μM)を40μLそれぞれ添加した。泡立たないように留意しながら、約4℃で10分間、12rpmの速度でローテーターにより撹拌させた後、約4℃で10,000rpm、1分間、遠心分離した。得られた上清をsiRNA投与液とし、使用するまで氷上にて保管した。ビヒクル投与液は、siRNA溶液に代えて同量のNuclease free waterを用いた以外は、siRNA投与液と同様に調製した。
【0095】
全身麻酔下、Wistarラット(7週齢、雄、Japan SLC)の右後肢の内側側副靭帯及び前十字靭帯を切断し、大腿骨及び脛骨から半月板を切り離し、半月板を除去した(第0日)。施術後、各ラットを同じ条件下で維持し、第10、13及び16日に40μLのsiRNA投与液又はビヒクル投与液をシリンジ(マイジェクター29G、0.5mLシリンジ、Terumo Corporation)にて右膝関節内に投与した。第19日に、siRNA投与群、ビヒクル対照群及びsiRNAもビヒクルも投与していない未処置対照群のラットを安楽死させ脛骨を採取した。なお、投与開始時点の病変を評価するため、第10日に一部のラットを安楽死させ脛骨を採取した(投与前対照群)。採取した組織は10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬、固定後パラフィン包埋し、薄切してパラフィン切片を作製した。各切片を定法に従いサフラニン-O染色し、以下のGrade0~6(深さ)及びStage0~4(広がり)に基づいてOA重症度をスコア化した(Pritzker et al.,Osteoarthritis Cartilage.2006;14(1):13-29)。
【0096】
Grade0:正常関節軟骨
Grade1:表層部の毛羽立ち(fibrillation)、あるいは壊死・増殖。中間部・深部は正常。
Grade2:表層部から中間部に、限局性の毛羽立ち、壊死・細胞増殖、基質染色性の増加/低下。
Grade3:亀裂や基質の毛羽立ちは中間部まで広がる。亀裂の枝分かれは深部に達し、亀裂付近の壊死・増殖は顕著に。
Grade4:関節の基質の消失。深部までの糜爛。
Grade5:病態は石灰化層から骨まで達する。線維軟骨による修復。
Grade6:骨リモデリングが進行
Stage0:変化なし
Stage1:<10%
Stage2:10-25%
Stage3:25-50%
Stage4:>50%
【0097】
上記のGrade数及びStage数を乗じ、0~24のOARSIスコアを算出した。例えば、ある部位がGrade3、Stage2と判定された場合、スコアは3×2=6となる。代表的なサフラニン-O染色像を図32に、OARSIスコアの結果を表1及び図33にそれぞれ示す。なお、有意差は、Kruskal-Wallis検定後にDunn検定を行って評価した。投与前対照群において関節軟骨組織の損傷がみられており、投与開始時点(第10日)で既に病態が発症していることが示された。また、siRNA投与群のスコアがビヒクル対照群のスコアに比べて低かったことから、siRNA投与群の病態が軽度である傾向がみられた。
【表1】
【0098】
[例9] Hic-5インヒビターによるNASHの処置
NASHに対するHic-5インヒビターの効果を検討した。Hic-5インヒビターとして、例6に記載のsiRNAを用いた。C57BL/6マウス(野生型、6週齢、雄)を例5で使用したコリン欠乏飼料で飼育した。給餌開始3週間後から、siRNAとInvivofectamine(R)3.0Reagent(Thermo Fisher Scientific)との複合体を、siRNAの用量として0.5mg/体重kg/wkで3週間、尾静脈より投与した。ビヒクル対照群には同量のInvivofectamine(R)3.0Reagentを同様に投与し、未処置対照群には何も投与しなかった。投与終了後、マウスを安楽死させ、肝臓を摘出し、10%パラホルムアルデヒドで24時間固定後、パラフィンで包埋し4μmの切片を作製した。切片をHE染色に供し、光学顕微鏡にて分析し、NAFLD活動性スコア(NAS)を算出した。また、siRNA投与開始時の病態を評価するため、コリン欠乏飼料給餌開始3週間後のマウスを安楽死させ、同様の病理組織学的分析を行った(投与前対照群)。NASの算出は、Kleiner et al.,Hepatology.2005;41(6):1313-21の記載に従って行った。すなわち、脂肪化、小葉の炎症及び肝細胞障害の3項目についてHE染色像をそれぞれ撮像して、下表2に基づいて各項目をスコア化し、各項目のスコアを合算してNASとした。有意差はBonferroni検定で評価した。
【0099】
【表2】
図34に代表的なHE染色像を、図35にNASの結果を示す。これらの結果から、Hic-5インヒビターにより肝臓の脂肪化が有意に抑制されることが明らかとなった。
【0100】
[例10] Hic-5インヒビターによる腫瘍の処置
腫瘍に対するHic-5インヒビターの効果を検討した。Hic-5インヒビターとして、例6に記載のsiRNAを、動物モデルとして、アゾキシメタン(AOM)誘発大腸がんモデルをそれぞれ用いた。C57BL/6マウス(野生型、7~11週齢、雄)に、生理食塩水に溶解したAOM(011-20171、FUJIFILM Wako Pure Chemical)を、12.5μg/体重gの用量で毎週1回、6週間にわたり腹腔内投与した。このモデルでは、通常AOM投与開始から15週後までに大腸に腫瘍が生じる。確立した大腸腫瘍に対するHic-5インヒビターの効果を検討するため、AOM投与開始の15週後からHic-5インヒビターによる処置を行った。具体的には、生理食塩水に溶解したsiRNAを0.43μg/体重g/dayとなるようALZET micro-osmotic pump(model 1004、Durect corporation)に充填し、イソフルラン麻酔下でマウスの腹腔内に移植した(siRNA処置群、n=3)。ビヒクル対照群(n=5)には、生理食塩水を充填したポンプを移植した。ポンプの移植から5週間後にマウスを安楽死させ、大腸を摘出し肉眼で腫瘍の発生状況を観察した。図36に示すとおり、ビヒクル対照群の個体は5頭全てで大腸に腫瘍が確認されたが、siRNA処置群では3頭中1頭で肉眼的な腫瘍が認められず、また、残り2頭で確認された腫瘍も、ビヒクル対照群に生じた腫瘍に比べ一回り小さく、血管も目立たなかった(図37)。siRNA処置群とビヒクル対照群との血管の分布の違いを検討するため、腫瘍組織を摘出して10μmの凍結切片を作製し、これをPBSで洗浄後、ブロッキング試薬(X0909、Agilent)でブロッキングし、抗CD34抗体(1:50、119302、BioLegend)で染色した。次いで、蛍光標識二次抗体(抗ラットIgG Alexa 568(A11077、Thermo Fisher Scientific)で標識後、DAPIで染色し、蛍光顕微鏡で観察した。図38に示すとおり、ビヒクル対照群の腫瘍組織ではCD34陽性の領域がsiRNA処置群の腫瘍組織より広く、血管が密に分布していることが示唆された。
【0101】
多数の様々な改変が、本発明の精神から逸脱せずになされ得ることを当業者は理解する。したがって、本明細書に記載された本発明の形態は例示にすぎず、本発明の範囲を制限する意図がないことを理解すべきである。
[配列表]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38