(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】がん幹細胞特異結合ペプチドを含みビタミンB6が結合されたポリオール基盤ポリジキシリトール遺伝子伝達体及びがん幹細胞標的治療技術
(51)【国際特許分類】
C07K 7/02 20060101AFI20240808BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240808BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240808BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240808BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20240808BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20240808BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240808BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240808BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240808BHJP
C08G 73/04 20060101ALI20240808BHJP
C08G 81/00 20060101ALI20240808BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C07K7/02
A61K48/00 ZNA
A61P35/00
A61K31/7105
A61K31/711
A61K47/59
A61P35/02
C12N15/113 Z
C12N15/09 110
C08G73/04
C08G81/00
C12N15/87 Z
(21)【出願番号】P 2022555099
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 KR2020003566
(87)【国際公開番号】W WO2021182663
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0031434
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522362165
【氏名又は名称】エルバイオ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ELBIO INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】(Shin Rimdong,Seoul National University)2205ho 200dong College of Agriculture and Life Sciences 1,Gwanak-ro Gwanak-gu Seoul 08826,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ガルグ、バンガジ
(72)【発明者】
【氏名】パンデイ、シャムハビ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミョン チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ボク ヒ
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0246309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
A61K 48/00
A61P 35/00
C07K 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
で表されるビタミンB6とTR-7(anti-CD133:Thr-Ile-Ser-Trp-Pro-Pro-Arg)を含有している
ことを特徴とするポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(Dixylitol diacrylate VB-PEI-TR7 peptide copolymer、VBXYP-P)。
【請求項2】
前記伝達体は、血管脳関門(blood brain barrier、BBB)を通過する
請求項1に記載のポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体。
【請求項3】
a)キシリトール及びアセトンを用いてアセトン/キシリトール凝縮方法によってジキシリトール(di-xylitol)を製造する段階、
b)前記a)段階で製造したジキシリトールをアクリロイルクロライド(acryloyl chloride)でエステル化してジキシリトールジアクリレート(dXYA)を製造する段階、
c)前記b)段階で製造したジキシリトールジアクリレートと低分子量ポリエチレンイミン(PEI)間にマイケル付加反応を行ってポリジキシリトールポリマー(PdXYP)を収得する段階、
d)前記c)段階で製造されたポリジキシリトールポリマー(PdXYP)にビタミンB6を結合させる段階、
e)前記d)段階で製造されたビタミンB6を含むポリジキシリトールポリマー(VBXYP)にがん幹細胞標的化ペプチド(TR-7(anti-CD133:Thr-Ile-Ser-Trp-Pro-Pro-Arg))を結合させる段階、を含む
ことを特徴とするビタミンB6とTR-7ペプチドを含むことを特徴とするポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体を製造する方法。
【請求項4】
請求項1に記載のVBXYP-P遺伝子伝達体に治療核酸であるCRISPR遺伝子が結合された
ことを特徴とする核酸伝達複合体。
【請求項5】
請求項1に記載のVBXYP-P遺伝子伝達体に治療核酸であるsiRNAが結合された
ことを特徴とする核酸伝達複合体。
【請求項6】
前記核酸とポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体が1:0.5~1:100のモル比で結合されるものである
請求項4または5に記載の核酸伝達複合体。
【請求項7】
前記核酸伝達複合体が50~200nmの平均粒子の大きさを有するものである
請求項4または5に記載の核酸伝達複合体。
【請求項8】
前記核酸伝達複合体が25~40mV範囲のゼータ電位を示すものである
請求項4または5に記載の核酸伝達複合体。
【請求項9】
前記治療核酸が、CRISPR sgRNAとCas9遺伝子が一つのプラスミドで構成された形態である
請求項4に記載の核酸伝達複合体。
【請求項10】
前記治療核酸が、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(small hairpin RNA)、esiRNA(endoribonuclease-prepared siRNAs)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、DNA-RNA混成体(hybrid)、及びリボザイムよりなる群から選択される形態である
請求項5に記載の核酸伝達複合体。
【請求項11】
前記治療核酸が、がん幹細胞のスムーズンドタンパク質(Smoothened,SMO)をノックアウト(Knock-out)するものである
請求項4に記載の核酸伝達複合体。
【請求項12】
前記治療核酸が、スムーズンドタンパク質発現を抑制する、SMO CRISPR(Genescript)で配列TATCGTGCCGGAAGAACTCCと、AGGAGGTGCGTAACCGCATCに該当するsgRNAを含む
請求項4に記載の核酸伝達複合体。
【請求項13】
前記治療核酸が、がん幹細胞のスムーズンドタンパク質(Smoothened、SMO)をノックダウン(Knock-down)するものである
請求項5に記載の核酸伝達複合体。
【請求項14】
請求項4または5に記載の核酸伝達複合体を有効性分として含む
ことを特徴とする遺伝子治療用の薬学的組成物。
【請求項15】
前記核酸伝達複合体が吸入投与用剤形または注射投与用で剤形化された
請求項1
4に記載の組成物。
【請求項16】
前記核酸伝達複合体に含まれた治療核酸が、がん幹細胞を標的化してスムーズンドタンパク質(Smoothened、SMO)の発現抑制するものである
請求項1
4に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は、がんの治療または予防の効果を有するものである
請求項1
6に記載の組成物。
【請求項18】
前記がんは、多形性膠芽腫だけでなく、肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、大腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管がん腫、子宮内膜がん腫、子宮頸部がん腫、膣がん腫、外陰部がん腫、食道がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状線がん、軟組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性または急性白血病、幼年期の固相腫瘍、分化リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎臓細胞がん腫、腎臓骨盤がん腫、第1中枢神経系リンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹神経橋腫及び脳下垂体アデノーマよりなる群から選択された
請求項1
7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンB6が結合されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VB-PdXYPまたはVBXYP)にがん幹細胞標的化ペプチド(TR-7 peptide)が付着した複合体(VBXYP-P)を製造する方法に関する。また、本発明は、前記遺伝子伝達体に治療核酸が結合された核酸伝達複合体、及び該当複合体を有効性分として含む遺伝子治療用の薬学的組成物に関する。また、本発明は、前記遺伝子伝達体、遺伝子伝達複合体及びこれを利用したがん幹細胞治療に関する。
【背景技術】
【0002】
グレード4の星状細胞腫である多形性膠芽腫は、最もよくある悪性の脳腫瘍であり、予後がよくなく生存率が低い。外科治療だけでは侵襲性腫瘍を完全に除去できないので、再発を防止するために化学放射線療法が主に試みられる。しかし、潜伏期にあるがん幹細胞のうち一部が治療を回避し、その後増殖及び転移して化学放射線療法に対する耐性を有した新しい腫瘍を作るが、これがすなわち腫瘍の再発原因となる。腫瘍の再発を防ぎ多形性膠芽腫を完全に治療するためには、腫瘍内部でがん幹細胞を標的とし除去する必要がある。しかし、がん幹細胞は、薬物の流出輸送体を過発現して化学治療薬物に対する抵抗性を発達させ、治療薬物を無力化する。このような難しさを克服するために、クリスパー遺伝子ハサミ技術(CRISPR/Cas9)と、siRNA(small interfering RNA)技術を利用したがん幹細胞のゲノム編集治療法に対する研究が、代案的がん治療法として注目されている。最近のCRISPR-Cas9の遺伝子編集技術は、ゲノムの特定位置で遺伝子物質の追加、除去または変更を許容し、既存の他のゲノム編集方法より早く安く正確で効率的である。CRISPR-Cas9遺伝子編集ツールは、二つの主要構成要素で構成される。一つは、一本鎖のRNA(sgRNA)で本遺伝子切断システムをゲノムの特定編集部位に案内し、二つ目の部分はDNA触媒活性を有するCas9タンパク質が該当特定部位のゲノムを切断する。この時点で、所望の遺伝子配列を獲得するために、所望の順序を挿入したり削除することができる。
【0003】
腫瘍内のがん細胞の生存及び再発に影響を及ぼすがん幹細胞の主要信号伝達体系をCRISPR-cas9システムを使用して壊すことは、がん幹細胞の死滅を誘導することにより腫瘍の根を除去する革新的な腫瘍治療法を提示することができる。がん幹細胞の生存及び維持に重要なソニック・ヘッジホッグ信号伝達体系(Sonic Hedgehog signaling)は、中間調節者であるスムーズンド膜タンパク質(Smoothened、SMO)により媒介される。したがって、このスムーズンドタンパク質は、がん誘発タンパク質に分類され、化学的抗がん薬物治療の標的になりもする。しかし、がん幹細胞は、化学療法薬物を処理した時、該当薬物の流出輸送体の発現を増加させることにより、薬物耐性を獲得して伝統的な抗がん治療に対して回避を行う。したがって、本発明者らは、がん幹細胞を標的化できる遺伝子伝達体を合成し、CRISPR-cas9システムを使用して根本的なスムーズンドタンパク質の発現を抑制することにより、がん幹細胞の自己死滅を誘導する新しい方法提示しようとする。このようながん幹細胞のゲノム遺伝子編集によって、がん幹細胞の死滅を誘導することにより腫瘍全体の死滅を誘導することは、悪性腫瘍治療の新しい代案を提示できるものと予想される。したがって、がん幹細胞の死滅を誘導できる核酸治療剤を、多形性膠芽腫内のがん幹細胞に高い効率で伝達されるように設計された遺伝子伝達体の開発が継続的に要求されている。
【0004】
しかし、大体の脳疾患に対する治療法は効率的でないが、これは治療薬物が血液脳関門(Blood Brain Barrier、BBB)を透過できないためである。血液脳関門は、血液から物質が脳組織に伝達されることを制限する脳血管構造であって、主に対外毛細管の内皮細胞の密着結合によって形成され、血管の周囲を囲んでおり、核酸を含む巨大分子に対して不透過性を有していると知られている。具体的には、脂溶性物質は血液脳関門を通過するが、極性物質、強電解質等の非脂溶性物質はうまく通過できないものと知られている。血液脳関門組織によって脳組織が有害物質から保護される長所があるが、脳組織治療に必要な放射線同位元素、色素、薬物等の伝達を防ぎ、人体内の他の組織に比べて治療物質の接近性が落ちる短所がある。血液脳関門を通過して脳組織に極性化合物の伝達さえ容易でない状況で、強い極性を有している大きな分子である核酸の伝達はさらに難しい実情である。血液脳関門以外に、生体内でヌクレアーゼによる分解、免疫除去(immune clearance)、細胞流入の難しさ、非標的蓄積(off target deposition)等のような生物学的妨害機作が脳組織への遺伝子伝達を難しくしている。
【0005】
大部分のウイルスベクターを介した遺伝子伝達は、全身的処理(systemic delivery)を介しては血管脳関門を通過することができないので、一般的に脳に直接注射/注入する。しかし、形質導入は注入部位が制限的であり、直接注射する方法は脳組織に侵襲的な問題があった。このため、既存に全身的処理を介した脳組織への物質伝達効率を高めるために、マンニトールのような浸透剤の動脈注射を介して血管脳関門の透過性を増加させようとしたことがある。具体的には、高浸透圧マンニトールで組織を予備処理して細胞間の密着結合を緩め、多様な遺伝子/薬物伝達ビークルで処理した。しかし、マンニトールの効果は一時的に起きて30分が過ぎた後には消え、しかも薬物またはDNAが流入する前に効果が消えた。また、前記マンニトールの全身的処理は、血管脳関門の全体的な透過能相乗効果をもたらすことにより、伝達しようとする特定物質のみの透過能を高めることができなかった。
【0006】
仮に遺伝子が血管脳関門を通過したしても、細胞取込(cellular up-take)及びエンドソーム捕獲(endosomal trapping)過程を無事に経なくては標的細胞に伝達されることができず、動物の遺伝子治療において遺伝子を組織の標的細胞に伝達させることは、最も大きい障害物であり解決しなければならない課題である。したがって、がん幹細胞に標的化して正確に遺伝子を伝達させるための伝達体が必要である。がん幹細胞を標的化するために本発明者らは、がん幹細胞の特異標識因子、プロミニン-1(Prominin-1)と知られた膜通過タンパク質であるCD133に注目した。この膜通過タンパク質は、多くの標識因子のなかで最も代表的にがん幹細胞の表面に発現される。多くの研究者は、この標識因子を狙うことができる抗体または特異的ペプチドを発見した。本発明者らは、7つのアミノ酸で構成されたCD133特異反応ペプチドであるTR-7(TISWPPR)に注目し、がん幹細胞の表面に存在するCD133を狙うことができるように前記ペプチドを含有している遺伝子伝達体の合成を試みた。
【0007】
遺伝子伝達体は毒性が低いかないものでなくてはならず、遺伝子を選択的かつ効果的に所望の細胞に伝達することができなければならない。このような核酸伝達体は、大きくウイルス性と非ウイルス性に分けることができる。最近まで臨床実験には、核酸伝達体で形質導入効率が高いウイルス性ベクター(viral vector)が使用されていた。しかし、レトロウイルス(retrovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、アデノウイルスとの複合体(adeno-associated virus)のようなウイルス性ベクターは、製造過程が複雑なだけでなく、免疫原性、感染の可能性、炎症誘発、非特異的DNAの挿入等の安全性問題と、収容できるDNAの大きさが限定されているという問題によって、人体に適用するには限界が多い。そこで現在は、非ウイルス性ベクター(non-viral vector)がウイルス性ベクターの代用として脚光を浴びている。
【0008】
非ウイルス性ベクターは、最小限の免疫反応で繰り返し投与することができ、特定細胞への特異的伝達が可能であり、保存安定性に優れ、大量生産が容易であるという長所を有している。このような非ウイルス性ベクターの例としては、陽イオン性リポソーム(liposome)系列としてN-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、アルキルアンモニウム(alkylammonium)、陽イオン性コレステロール誘導体(cationic cholesterol derivatives)、グラミシジン(gramicidin)等がある。
【0009】
最近、非ウイルス性ベクターのうち陽イオン性高分子が、負電荷を帯びるDNAとイオン結合を介した複合体を形成することができるので大きな関心を呼んでいる。このような陽イオン性高分子には、ポリ-L-リジン(PLL)、ポリ(4-ヒドロキシ-L-プロリンエステル)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ[α-(4-アミノブチル)-L-グリコール酸]、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリ[N,N′-(ジメチルアミノ)エチル]メタクリレート(PDMAEMA)等が含まれ、これらはDNAを圧縮してナノ粒子を形成することにより、酵素分解からDNAを保護し、早く細胞中に浸透してエンドソーム(endosome)から抜け出せるように手助けをする。大部分の非ウイルス性ベクターは、ウイルス性ベクターに比べて生分解性、低い毒性、非免疫原性、使用上の簡便さ等の長所を有するが、相対的に低い形質導入効率、制限的な粒子の大きさ等の問題点を有している。
【0010】
特に、非ウイルス性ベクターとして使用される大部分の陽イオン性高分子は、血清濃度が低い環境である試験管内では高い形質導入効率を示すが、生体内環境では、血清に存在する各種因子により陽イオン性高分子/遺伝子複合体の形質導入効率が深刻に阻害されて、遺伝子の細胞内流入が円滑でないという問題点がある。これは、生体内では陽イオン性高分子/遺伝子複合体の表面に過度な正電荷が発生して、血漿タンパク質及び血液構成成分との非特異的相互作用が誘発されるためである。したがって、試験管内の無血清培地または血清が非常に低い濃度で存在する環境ではない、多量の血清が存在する生体内では、陽イオン性高分子の形質導入効率が顕著に低下し、これを生体内にそのまま適用する場合には、肺、肝臓及び脾臓での凝集、蓄積と、さらには網状内皮系によるオプソニン化(opsonization)及び除去を誘発し得るため、前記陽イオン性高分子の治療的適用は大きく制限されざるを得ない。非ウイルス性ベクターとして最も広範囲に研究されているポリエチレンイミン(PEI)もやはり生体内の形質導入効率が顕著に落ち、高い細胞毒性及び低い血液適合性による遺伝子の低い発現効果等の問題点を有している。したがって、既存の非ウイルス性ベクターの長所はそのまま維持しながら形質導入効率を増強させた核酸伝達体の開発が切実に要求されている。
【0011】
本発明者らは、多くの遺伝子伝達体を開発してきて、その中に非常に低い細胞毒性を示しながらもキシリトールダイマー骨格による血液脳関門(blood brain barrier、BBB)の高い透過率、浸透圧活性で増加した膜透過率及び促進された細胞内取込と、ポリエチレンイミン骨格によるプロトンスポンジ効果によって顕著に向上した形質転換効率を示すポリエチレンイミン(polyethylenimine、PEI)に、ジキシリトールジアクリレート(dixylitol diacrylate)を結合して製造したポリオール系浸透圧的遺伝子伝達体に、ビタミンB6とがん幹細胞特異付着ペプチド(TR-7)を結合させることにより、がん幹細胞への遺伝子伝達効率が高いだけでなく、多形性膠芽腫内のがん幹細胞を標的化して遺伝子を伝達させることができることを確認することにより本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一つの目的は、がん幹細胞を標的化できる遺伝子伝達体として細胞毒性を示さないながらも形質転換効率が顕著に向上したがん幹細胞標的化ペプチドが結合されたポリジキシリトール基盤のポリマー遺伝子伝達体を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、前記ポリジキシリトール基盤の標的型ポリマー遺伝子伝達体を製造する方法を提供することである。
【0014】
本発明のまた他の目的は、前記ポリジキシリトール基盤のポリマー遺伝子伝達体に治療核酸を結合させた核酸伝達複合体を提供することである。
【0015】
本発明のまた他の目的は、前記核酸伝達複合体を有効性分として含有する遺伝子治療用の薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するための一つの様態として、以前に発明されたポリジキシリトールポリマー(PdXYP)(化学式3)を最初の骨格としてビタミンB6を付着させると同時に、がん幹細胞の標識因子であるCD133タンパク質に特異的に結合するペプチド(TR-7 peptide)が装着された遺伝子伝達体(VBXYP-P)を提供する。本発明は、既に開発されていた遺伝子伝達体であるポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(PdXYP、VB-PdXYP(VBXYP))を改良して、がん幹細胞を標的化して遺伝子を伝達させることができるように設計された。本発明の遺伝子伝達体は、下記化学式1の構造を有することができ
【0017】
【0018】
スルホスクシンイミジル-6[4′-アジド-2′-ニトロフェニルアミノ]ヘキサノエート(sulfosuccinimidyl-6-[4´-azido-2´-nitrophenylamino]hexanoate、Sulfo-SANPAH)は、化学式2の構造を有する。この連結体を用いて、既に開発されたVB-PdXYP(VBXYP)遺伝子伝達体にがん幹細胞特異反応ペプチド(TR-7 peptide)が結合されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(Dixylitol diacrylate VB-PEI-TR7 peptide copolymer、VBXYP-P)を製造し
【0019】
【0020】
本発明のSulfo-SANPAHは、ヘテロバイファンクショナル(heterobifunctional)交差連結体(crosslinker)である。この連結体のN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide、NHS)が、pH7-9の緩衝溶液環境で伝達体の低分子量ポリエチレンイミン(PEI)の1次アミン基と安定したアミド結合(amide bond)を生成させ、300-460nmの紫外線光反応を介してニトロフェニルアザイド(Nitrophenyl azide)がジヒドロアゼピン中間体(Dehydroazepine intermediate)を経てがん幹細胞特異反応ペプチドであるTR-7のアミン基と結合されることによりVBXYP-Pが製造されることができる(
図3)。
【0021】
本発明の用語TR-7は、がん幹細胞の表面に特異的に存在するCD133タンパク質に特異的に結合できる計7つのアミノ酸で構成されたペプチドである。その配列は、トレオニン-イソロイシン-セリン-トリプトファン-プロリン-プロリン-アルギニン(Thr-Ile-Ser-Trp-Pro-Pro-Arg)で構成されている。本配列の最初のアミノ酸と最後のアミノ酸のイニシャルを取ってTR-7と命名した。TR-7は、がん幹細胞表面のCD133と特異的に反応して、TR-7を含有している前記遺伝子伝達体を用いる場合に、がん幹細胞に標的化して治療核酸を伝達させることができる可能性を高めてくれる。
【0022】
本発明の用語ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(polydixylitol polymer based gene transporter、PdXYP)は、本発明者らが特許登録した遺伝子伝達体である(10-1809795)。この伝達体は、アセトン/キシリトール凝縮方法によってジキシリトール(di-xylitol)を製造し、前記ジキシリトールをアクリロイルクロライド(acryloyl chloride)でエステル化してジキシリトールジアクリレート(dXYA)を製造し、前記ジキシリトールジアクリレートと低分子量ポリエチレンイミン(PEI)とのマイケル付加反応(Micheal addition reaction)によって製造されることができる(
図1
【0023】
【0024】
用語「キシリトール(xylitol)」は、C5H12O5の化学式を有する糖アルコール系天然甘味料の一種を意味する。白樺、柏等から抽出され、特有な5炭糖構造を有している。本発明のポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体を製造するために、キシリトール二量体であるジキシリトールを用いた。
【0025】
用語「アクリロイルクロライド(acryloyl chloride)」は、一名2-プロペノイルクロライドやアクリル酸クロライドとも称されることができる。前記化合物は、水と反応してアクリル酸を生産したり、カルボキシル酸ナトリウム塩と反応してアンハイドライド(anhydride)を形成したり、アルコールと反応してエステル基を形成する特性を有している。本発明の具体的な一実施例では、糖アルコールの一種であるキシリトールの二量体ジキシリトールとアクリロイルクロライドを反応させ、エステル化してジキシリトールジアクリレート(dXYA)を形成した。
【0026】
用語「ポリエチレンイミン(polyethylenimine、PEI)」は、一次、二次及び三次アミノ基を有し、1,000~100,000g/molのモル質量を有する陽イオン性高分子であって、陰イオン性を有する核酸を効果的に圧縮してコロイド粒子にし、pH反応性の緩衝能力による高い遺伝子伝達効率を有して、試験管内及び生体内で遺伝子を多様な細胞に効果的に伝達することができる。本発明でポリエチレンイミンは、下記化学式4で表される線形(linear)または下記化学式5で表される分枝型(branched-type)であり得、その分子量は細胞毒性を考慮して低分子量、好ましくは50~10,000Da(重量平均分子量基準)である。ポリエチレンイミンは、水、アルコール、グリコール、ジメチルフォルムアミド、テトラヒドロピラン、エステル類等に溶解され、高分子量の炭化水素類、オレイン酸(oleic acid)、ジエチルエーテルには溶解されない。
【0027】
【0028】
【0029】
また、本発明の最終遺伝子伝達体の骨格は、前記ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体にビタミンB6を追加で連結したポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体、一名ビタミンB6結合ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VB-PdXYP(VBXYP))である。前記ビタミンB6を追加で連結したものである、ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体は下記化学式6の構造を有することができ
【0030】
【0031】
用語「ビタミンB6」は、ピリドキシン(pyridoxine、PN)、ピリドキサール(pyridoxal、PL)、ピリドキサミン(pyridoxamine、PM)、またはそれぞれのリン酸化形態(PNP、PLP、PMP)等で存在し、多くの生活性酵素の補酵素として使用される。特に、補酵素として使用されるにおいては、主にPLP及びPMPの形態で使用され、PLPは生物学的活性が非常に大きい形態と知られている。本発明の活性型ビタミンB6(ピリドキサール5′リン酸、pyridoxal 5′phosphate、PLP)は、下記化学式7の構造を有することができ
【0032】
【0033】
ピリドキサール5′リン酸(pyridoxal 5′phosphate、PLP)と前記製造されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体を反応させて一時的シッフ塩基(transient Schiff base)を形成するようにした。その後NaCNBH
4を用いて還元し、ビタミンB6結合ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体を収得した(
図2)。
【0034】
本発明のVBXYP-Pは、がん幹細胞の細胞膜に存在するCD133に標的化して結合することにより、伝達体の細胞膜付着を誘導し、このように細胞膜に付着した後にはポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体によるプロトンスポンジ効果で細胞内の核酸流入が効率的に誘導されて、顕著に向上した形質転換効率を示すことができる。また、細胞毒性が非常に低く、遺伝子伝達体として遺伝子治療に有用に使用されることができる。したがって、一般がん細胞と比べてがん幹細胞に対し高い形質転換効率を示すことができる(
図8、9、10)。
【0035】
本発明のVBXYP-P遺伝子伝達体は、効果的な遺伝子伝達のために1,000~100,000Da範囲の分子量(重量平均分子量基準)を有することが好ましい。また、本発明の遺伝子伝達体に核酸を結合した核酸伝達複合体は、1~100mV範囲のゼータ電位(zeta potential)を有することが効果的な遺伝子伝達のために好ましく、特に25~50mVのゼータ電位を有することができる。前記範囲の物理化学的特性を示す時、この遺伝子伝達体は細胞のエンドソーム(endosome)内に効果的に流入することができる。
【0036】
また一つの様態として、本発明は、ジキシリトールをアクリロイルクロライド(acryloyl chloride)でエステル化してジキシリトールジアクリレート(dXYA)を製造する段階、及びこれを低分子量ポリエチレンイミン(PEI)と反応させてポリジキシリトールポリマー(PdXYP)を収得する段階を含み、PdXYPにビタミンB6を結合させる段階を追加で含み、ビタミンB6を含むポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VB-VBXYP[VBXYP])にがん幹細胞標的化ペプチドであるTR-7をSulfo-SANPAH連結体を用いてVBXYP-Pを製造する方法を提供する。
【0037】
具体的には、本発明のVBXYP-P遺伝子伝達体の製造方法は、
a)キシリトール及びアセトンを用いてアセトン/キシリトール凝縮方法によってジキシリトール(di-xylitol)を製造する段階、
b)前記a)段階で製造したジキシリトールをアクリロイルクロライド(acryloyl chloride)でエステル化してジキシリトールジアクリレート(dXYA)を製造する段階、
c)前記b)段階で製造したジキシリトールジアクリレートと低分子量ポリエチレンイミン(PEI)間にマイケル付加反応を行ってポリジキシリトールポリマー(PdXYP)を収得する段階、及び
d)前記c)段階で製造されたポリジキシリトールポリマー(PdXYP)にビタミンB6を結合させる段階、
e)前記d)段階で製造されたビタミンB6を含むポリジキシリトールポリマー(VBXYP)にがん幹細胞標的化ペプチド(TR-7)を結合させる段階を含む
ビタミンB6とTR-7ペプチドを含むことを特徴とするポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体を製造する方法。
【0038】
また一つの様態として、本発明は、前記VBXYP-P遺伝子伝達体に治療核酸が結合された核酸伝達複合体を提供する。
【0039】
本発明のVBXYP-Pに結合されることができる治療核酸の種類は特に限定されず、本発明の目的に応じて所望の標的に伝達されて所望の治療効果を発揮することができるどんな核酸も、本発明の範囲に含まれる。例えば、本発明のポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体との複合体形態で伝達が可能な遺伝子としては、疾病と関連する治療核酸の正常遺伝子、標的タンパク質の発現抑制遺伝子、アンチセンスポリヌクレオチドを含む多様なポリヌクレオチド、リボザイムやsiRNAを含む任意のRNA形態の遺伝子が含まれることができる。すなわち、本発明の治療核酸は、CRISPR sgRNAとCas9遺伝子を含有しているプラスミド形態であり得、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(small hairpin RNA)、esiRNA(endoribonuclease-prepared siRNAs)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、DNA-RNA混成体(hybrid)、及びリボザイムよりなる群から選択される形態であり得る。本発明の治療核酸は、特に特定疾患の原因となる遺伝子に対して、これを過発現させるか阻害するための核酸であり得て、特にがんの発生及び再発に作用するがん幹細胞の遺伝子(oncogene)の発現を阻害するCRISPR sgRNAとsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(small hairpin RNA)、esiRNA(endoribonuclease-prepared siRNAs)、アンチセンスオリゴヌクレオチドに該当する核酸か、がんの発生や進行を防ぐのに作用する遺伝子(tumor suppressor gene)の発現を誘導する核酸であり得る。
【0040】
特に、本発明で治療核酸は、がん幹細胞の自己再生信号体系のうちの1つであるソニック・ヘッジホッグ信号伝達体系の調節者であるスムーズンドタンパク質(Smoothened、SMO)に対するSMO CRISPR sgRNA(配列:TATCGTGCCGGAAGAACTCCまたはAGGAGGTGCGTAACCGCATC)とcas9を含むプラスミド、siRNAまたはこれのcomplex mixtureであるesiRNAであり得、これはSMO siRNA(esiRNA、Cat No:4392420)であり得る。
【0041】
本発明による遺伝子伝達複合体の効果的な形成のために、治療核酸とVBXYP-P遺伝子伝達体の1:0.5~1:100、好ましくは1:10~1:40、より好ましくは1:12~1:28のモル比で反応させることが好ましい。
【0042】
本発明者らは、本発明によるVBXYP-P遺伝子伝達体の治療核酸に対する凝縮能(condensation capability)及びゼータ電位を調査するために、多様なモル比でVBXYP-P遺伝子伝達体とDNAを反応させた結果、これらのモル比が1:0.5以上の場合に前記VBXYP-P遺伝子伝達体とDNAの遺伝子伝達複合体(PdXYA/DNA)が最も効果的に形成されることを確認した(
図4)。本発明による核酸伝達複合体は、平均150~200nmの相対的に小さくて均一な粒子の大きさの分布を示し(
図5a)、遺伝子伝達体として使用されるのに適した粒子の大きさを有するだけでなく、表面電荷が25~40mVの陽性ゼータ電位(zeta potential)を示し(
図5b)、陰イオンの細胞表面に効果的に結合できることを確認した。
【0043】
本発明者らは、VBXYP-Pのがん幹細胞内の吸収と分解の過程を観察し、細胞の毒性を確認した(
図6、
図7)。遺伝子伝達体は、細胞内で吸収が容易で分解されて細胞外放出が起きることによって細胞の毒性が低いことを予想することができ、MTT分析の結果、がん幹細胞と多形性膠芽腫の細胞株に対して高い毒性を示す25kD PEIに比べてVBXYP-Pの細胞毒性がほとんど示されないことを確認した。
【0044】
本発明者らは、VBXYP-Pのがん幹細胞に対する標的化能力を確認するために、代表的な非ウイルス遺伝子伝達体とTR-7が付着していないVBXYPの遺伝子伝達能力を比較分析した(
図9)。緑色蛍光タンパク質遺伝子を搭載した多くの伝達体のうち、顕著に高い遺伝子伝達能力(約60%)を示したものはVBXYP-Pのみであることを確認した。
【0045】
本発明者らは、VBXYP-PにSMO CRISPR(SMOcr)を搭載して、がん幹細胞に伝達したとき、死滅を誘導できるか確認した。その結果、VBXYP-P/SMOcrを処理したがん幹細胞実験群で最も低い細胞増殖能力が確認され(
図11、
図12、
図13)、細胞死滅が起きていることが確認され(
図14、
図15)、SMOの発現のみを抑制したが、信号体系の他のタンパク質の発現まで減少することによって、SMO発現の抑制によって細胞死滅が誘導されていることをタンパク質水準で証明した(
図16、
図17)。
【0046】
本発明者らは、VBXYP-PにSMO siRNA(siSMO)を搭載して、がん幹細胞に伝達したとき、死滅を誘導できるか確認した。その結果、前記CRISPRを用いてSMOの発現を抑制したときとほとんど同一の結果を確認した。VBXYP-P/siSMOを処理したがん幹細胞実験群で最も低い細胞増殖能力が確認され(
図18、
図19、
図20)、細胞死滅が起きていることが確認され(
図21、
図22)、SMOの発現のみを抑制したが、信号体系の他のタンパク質の発現まで減少することによって、SMO発現の抑制によって細胞死滅が誘導されていることをタンパク質水準で証明した(
図23、
図24)。
【0047】
最後に本研究陣は、VBXYP-Pが血管脳関門を透過して多形性膠芽腫内のがん幹細胞を標的化して遺伝子を伝達させることができるか確認するために、試験管内3D微細流体システムを用いて実験を行った(
図25、
図26、
図27)。その結果、VBXYP-PはBBBを通過することができ、通過した後に多形性膠芽腫内の非常に少ない量で存在するがん幹細胞に標的化して遺伝子を伝達させることができることを確認した。
【0048】
また一つの様態として、本発明は、前記VBXYP-Pに治療核酸が結合された核酸伝達複合体を有効性分として含有する遺伝子治療用の薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、これを構成する治療核酸の種類によって遺伝子治療が可能な疾患の治療または予防の用途で使用されることができる。
【0049】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体と共に投与されることができ、経口投与時には前記有効性分以外に結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料等を追加で含むことができる。注射剤の場合に、本発明の薬学的組成物は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤等を混合して使用することができる。また、局所投与時に、本発明の組成物は、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤等を使用することができる。
【0050】
本発明の組成物の剤形は、上述したように薬学的に許容可能な担体と混合して多様に製造されることができ、特に吸入投与用剤形または注射投与用として製造されることができる。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ、ウェーハ等の形態で製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多重投薬形態で製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、徐放性製剤等で剤形化することができる。吸入(inhalation)を介した薬物伝達は、非侵襲的(non-invasive)方法のうちの一つで、特に肺疾患の広範囲な治療に吸入投与用剤形(例えば、エアゾール)を介した治療核酸伝達が有利に利用されることができる。これは、肺の解剖学的構造及び位置が即刻的で非侵襲的な接近を可能にし、他の機関には影響を及ぼさないながら遺伝子伝達システムの局所適用を受けることができるためである。
【0051】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシア、アルジネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレート、または鉱物油等が使用されることができる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、防腐剤等を追加で含むことができる。
【0052】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口投与が可能である。本発明による薬学的組成物の投与経路は、これらに限定されるものではないが、例えば、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、腸管、舌下、または局所投与が可能である。このような臨床投与のために、本発明の薬学的組成物は、公知の技術を用いて適した剤形で製剤化することができる。例えば、経口投与時には不活性希釈剤または食用担体と混合するか、硬質または軟質ゼラチンカプセルに密封されるか、または錠剤に押型して投与することができる。経口投与用の場合、有効性分は賦形剤と混合して摂取形錠剤、頬側錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェーハ等の形態で使用されることができる。また、注射用、非経口投与用等の各種剤形は、当該技術分野の公知の技法または通用する技法によって製造することができる。
【0053】
本発明の薬学的組成物の有効投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度等によってその範囲が多様であり、当該技術分野の通常の専門家によって容易に決定することができる。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、これを構成する治療核酸と伝達体に含有されている標的化ペプチド(TR-7)が、がん幹細胞のスムーズンドタンパク質(Smoothened、SMO)発現を抑制し、がん幹細胞を標的化して死滅させるものであり得、この治療核酸は、SMO CRISPR sgRNA(配列:TATCGTGCCGGAAGAACTCCまたはAGGAGGTGCGTAACCGCATC)とcas9を含むプラスミド、またはSMO siRNA(esiRNA、Cat No:4392420)でもあり得る。本発明の薬学的組成物は、これを構成する治療核酸の種類によってがん幹細胞の治療または予防効果を有するものであり得、前記がんは、肺がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、大腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管がん腫、子宮内膜がん腫、子宮頸部がん腫、膣がん腫、外陰部がん腫、食道がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状線がん、軟組織の肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性または急性白血病、幼年期の固相腫瘍、分化リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎臓細胞がん腫、腎臓骨盤がん腫、第1中枢神経系リンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹神経橋腫及び脳下垂体アデノーマよりなる群から選択されたものであり得る。
【0055】
また一つの様態として、本発明は、前記で説明した本発明のポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体、これを含む核酸伝達複合体、またはこれを含む薬学的組成物を利用した遺伝子がん幹細胞治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0056】
本発明のビタミンB6とがん幹細胞特異ペプチドが結合されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VBXYP-P)は、既存に存在する核酸伝達体よりがん幹細胞に対して顕著に高い核酸伝達率を有し、DNAと結合時に結合体の細胞毒性はほとんどなく、何より血液脳関門を通過して多形性膠芽腫内のがん幹細胞に標的化して特異的に核酸を伝達させて形質を転換させることを確認した。これによって、本発明の遺伝子伝達体は、生体内で腫瘍内部のがん幹細胞の発現を抑制することにより多様ながん疾患に対する遺伝子治療分野で幅広く使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】本発明の最初の骨格となるポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(PdXYA)を合成する過程を示す図である。
【
図2】本発明の骨格となるビタミンB6結合ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VB-PdXYA)を合成する過程を示す図である。
【
図3】本発明の遺伝子伝達体にがん幹細胞標的マーカーであるTR-7を付着させるためにSulfo-SANPAHと伝達体を合成する過程を示す図である。本発明のSulfo-SANPAHが結合された伝達体にがん幹細胞標的マーカーであるTR-7を合成する過程を示す図である。
【
図4】本発明のポリマー遺伝子伝達体であるVBXYP-Pと、siRNAまたはpDNAと結合してポリプレックス(polyplex)を形成する形成能をゲル遅延実験した結果を示す。VBXYP-PとsiRNAを0.05、0.1、0.3、0.5、1.0のモル比(N/P)にして反応させて生成したPdXYP-P/siRNAポリプレックスをゲル電気泳動した結果を示した図である。
【
図5】本発明のポリマー遺伝子伝達体の骨格となるVBXYPと、TR-7が付着したVBXYP-Pの大きさとゼータ電位を比較した結果である。
【
図6】本発明のVBXYP-Pと緑色蛍光タンパク質遺伝子(tGFP plasmid)複合体のがん幹細胞に対する細胞内吸収と分解の過程を示す図である。
【
図7】本発明のVBXYP-Pの試験管内細胞毒性をがん幹細胞(Cancer stem cell、CSC)と多形性膠芽腫(Gliblastoma multiforme、GBM)でMTT分析によって評価し、PEI 25 kDa及びVBXYPと比較した図である。
【
図8】本発明のVBXYP-PとDNAを多種の重量比(w/w 2:1、4:1、6:1、8:1、10:1、20:1)にして反応させて生成したVBXYP/DNAポリプレックスを、がん幹細胞と多形性膠芽腫の細胞株に処理して蛍光の発現を比較した結果を示した図である。
【
図9】本発明のVBXYP-P遺伝子伝達体の形質転換効率を調査するために、前記遺伝子伝達体と様々に異なる遺伝子伝達体(リポフェクタミン(lipofectamin)、PEI 25kD、VBPEA)を緑色蛍光タンパク質遺伝子(tGFP gene)と結合させた核酸伝達複合体を、がん幹細胞と多形性膠芽腫の細胞株に処理した後に蛍光の発現を比較した結果を示した図である。
【
図10】本発明のVBXYP-Pのがん幹細胞の標的化の程度を蛍光活性細胞分類流細胞分析機(Fluorescence-activated cell sorting flow cytometry、FACS)を用いて比較分析した結果である。
【
図11】本発明のVBXYP-Pとスムーズンドタンパク質(Smoothened、SMO)クリスパー遺伝子ハサミプラスミド(CRISPR-cas9 plasmid)ポリプレックスをがん幹細胞に伝達したとき、がん幹細胞の増殖にどのような影響を及ぼすか細胞の生/死分析(cell live/dead assay)分析をした結果である。
【
図12】本発明のVBXYP-PとSMO CRISPR(SMOcr)ポリプレックスをがん幹細胞に伝達したときの細胞増殖の差を、がん幹細胞(Cancer stem cell、CSC)でWST-1分析によって評価比較した図である。
【
図13】本発明のVBXYP-PとSMO CRISPR(SMOcr)ポリプレックスをがん幹細胞に伝達したとき、5-エチニル-2′-デオキシウリジン(5-Ethynyl-2′-deoxyuridine、EdU)細胞増殖分析法によって細胞の増殖程度を評価比較した図である。
【
図14】本発明のVBXYP-P用いてがん幹細胞にSMO CRISPR伝達以後、トンネルアッセイ(TUNEL assay)によって細胞死滅を評価した結果である。
【
図15】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO CRISPR伝達以後、アネキシンVアッセイ(Annexin V assay)によって細胞死滅を評価した結果である。
【
図16】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO CRISPRを伝達した後、スムーズンドタンパク質(SMO)とソニック・ヘッジホッグタンパク質(Shh)の発現量の変化を免疫細胞化学染色(Immunocytochemistry staining、ICC staining)で評価分析した結果である。
【
図17】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO CRISPRを伝達した後、スムーズンドタンパク質(SMO)とソニック・ヘッジホッグタンパク質(Shh)の発現量の変化をウエスタンブロット(western blot)タンパク質定量分析によって評価した結果である。
【
図18】本発明のVBXYP-Pとスムーズンドタンパク質(Smoothened、SMO)siRNAのポリプレックスをがん幹細胞に伝達したとき、がん幹細胞の増殖にどのような影響を及ぼすか細胞の生/死分析(cell live/dead assay)分析をした結果である。
【
図19】本発明のVBXYP-PとSMO siRNAのポリプレックスをがん幹細胞に伝達したとき、細胞増殖の差をがん幹細胞(Cancer stem cell、CSC)でWST-1分析によって評価比較した図である。
【
図20】本発明のVBXYP-PとSMO siRNA(siSMO)のポリプレックスをがん幹細胞に伝達したとき、5-エチニル-2′-デオキシウリジン(5-Ethynyl-2′-deoxyuridine、EdU)細胞増殖分析法によって細胞の増殖程度を評価比較した図面である。
【
図21】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO siRNAを伝達以後、トンネルアッセイ(TUNEL assay)によって細胞死滅を評価した結果である。
【
図22】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO siRNA伝達以後、アネキシンVアッセイ(Annexin V assay)によって細胞死滅を評価した結果である。
【
図23】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO siRNAを伝達した後、スムーズンドタンパク質(SMO)とソニック・ヘッジホッグタンパク質(Shh)の発現量の変化を免疫細胞化学染色(Immunocytochemistry staining、ICC staining)で評価分析した結果である。
【
図24】本発明のVBXYP-Pを用いてがん幹細胞にSMO siRNAを伝達した後、スムーズンドタンパク質(SMO)とソニック・ヘッジホッグタンパク質(Shh)の発現量の変化をウエスタンブロット(western blot)タンパク質定量分析によって評価した結果である。
【
図25】内部に脳細胞である星状細胞(astrocyte)が培養されていて、外郭通路にはヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)が培養されて試験管内3次元BBB構造を模写した微細流体チップを利用して、本発明のVBXYP-PとVBXYPのBBB通過可否を確認した結果と、BBB内部細胞でtGFPの伝達による形質転換の程度を定性的に分析した結果である。
【
図26】前記3次元微細流体BBBモデルチップを利用して内部にがん幹細胞のみを培養し、外郭通路にHUVECを培養してBBBモデルを構成し、VBXYP-PとtGFPポリプレックスのBBB通過可否とがん幹細胞に対する遺伝子の伝達可否を比較分析した結果である。
【
図27】前記3次元微細流体BBBモデルチップを利用して内部に多形性膠芽腫の細胞株のみを培養し、外郭通路にHUVECを培養してBBBモデルを構成し、VBXYPdとVBXYP-Pの多形性膠芽腫内部のがん幹細胞の標的化遺伝子の伝達可否を比較分析した結果である。
【発明を実施するための最善の形態】
【0058】
本発明は、一実施例として、以前に発明されたポリジキシリトールポリマー(PdXYP)(化学式3)を最初の骨格としてビタミンB6を付着させると同時に、がん幹細胞の標識因子であるCD133タンパク質に特異的に結合するペプチド(TR-7 peptide)が装着された遺伝子伝達体(VBXYP-P)を提供する。本発明は、既に開発された遺伝子伝達体であるポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(PdXYP、VB-PdXYP(VBXYP))を改良して、がん幹細胞を標的化して遺伝子を伝達させることができるように設計された。本発明の遺伝子伝達体は、下記化学式1の構造を有することができ
【0059】
【0060】
スルホスクシンイミジル-6[4′-アジド-2′-ニトロフェニルアミノ]ヘキサノエート(sulfosuccinimidyl-6-[4´-azido-2´-nitrophenylamino]hexanoate、Sulfo-SANPAH)は化学式2の構造を有する。この連結体を用いて、既に開発されたVB-PdXYP(VBXYP)遺伝子伝達体にがん幹細胞特異反応ペプチド(TR-7 peptide)が結合されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(Dixylitol diacrylate VB-PEI-TR7 peptide copolymer、VBXYP-P)を製造した。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、実施例を介して本発明をさらに詳細に説明することにする。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されない。
【0062】
実施例1:使用試薬及び物質
本発明では、本発明のビタミンB6を含みがん幹細胞特異ペプチドであるTR-7が付着しているポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VBXYP-P)を製造し、以下、実施例を確認するために下記の物質及び試薬を使用した。
【0063】
bPEI(branched Poly(ester imine)、Mn:1.2k及び25k)、DMSO(dimethyl sulfoxide)、アクリロイルクロライド(Acryloyl chloride)、キシリトール(Xylitol)、ピリドキサール5-リン酸塩(pyridoxal 5-phosphate、PLP)、4′-デオキシピリドキシン塩酸塩(4′-deoxypyridoxine hydrochloride)、ナトリウムシアノボロハイドライド(NaCNBH4)、ゲニステイン(genistein)、クロルプロマジン(chlorpromazine) バフィロマイシンA1(bafilomycin A1)、及びMTT(3-(4,5-dimethyl thioazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetra-zolium bromide)、スルホスクシンイミジル-6[4′-アジド-2′-ニトロフェニルアミノ]ヘキサノエート(sulfosuccinimidyl-6-[4´-azido-2´-nitrophenylamino]hexanoate,Sulfo-SANPAH)等の試薬は、シグマ(St.Louis、MO、USA)製品を使用した。がん幹細胞の標識因子であるCD133結合ペプチドであるTR-7は、A&PEP社を介して合成した。また、ホタルルシフェラーゼ(firefly,Photonus pyralis)を暗号化するルシフェラーゼレポーター(Luciferase reporter)、pGL3-ベクター及びエンハンサーはプロメガ(Promega、Madison,WI,USA)から得た。GFP(Green fluorescent protein)遺伝子は、クロンテック(Clontech,Palo Alto,CA,USA)から得た。共焦点顕微鏡分析にはTRITC(Tetramethylrhodamine isothiocyanate)とYOYO-1 iodide(Molecular Probes,インビトロジェン、Oregon,USA)染料を使用した。スクランブルsiRNA(siScr)は、ジェノルーションファーマシューティカル株式会社(Genolution Pharmaceuticals Inc.,Republic of Korea)で購入し、スムーズンドsiRNA(siSMO)はサーモフィッシャー社(Thermo Fisher Scientific,USA)で購入した。また、スムーズンドSMOクリスパー(SMOcr)はジェンスクリプト社(Genscript,USA)から得た。最後に、3D BBB微細流体チップはシンビーボ社(Synvivo,USA)から購入した。
【0064】
実施例2:ビタミンB6とTR-7ペプチドが結合されたポリオール系浸透圧的ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体の製造
本発明によるビタミンB6とTR-7ペプチドが結合されたポリオール系浸透圧的ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VBXYP-P)は、下記の5段階を介して合成した。この発明の遺伝子伝達体は、発明者らが以前に発明した特許物質を改良及び改善して発明した。したがって4段階までは登録特許(10-1809795)を引用した。
【0065】
2-1.ジキシリトールの合成
本発明者らは、ヒドロキシグループの数と立体構造(stereochemistry)が細胞間伝達に影響を及ぼすことに着眼して、浸透圧活性ヒドロキシグループを調節して細胞内伝達効率を高めた遺伝子伝達物質を開発しようとした。商業的に購買可能な8つのヒドロキシグループを有する糖アルコールが存在しないことにより、本発明者らは、
図1の過程を介してオクタマーの類似体として、キシリトール二量体、ジキシリトール(dixylitol)を直接合成した。
【0066】
具体的には、キシリトールをまずRaymond及びHudsonのアセトン/キシリトール凝縮方法を用いてジアセトンキシリトール(diacetone xylitol,Xy-Ac)結晶に結晶化した。ジアセトンキシリトールの末端ヒドロキシグループをtrifluoromethyl sulphonyl chloride(CF
3SO
2-O-SO
2CF
3)と反応させトリフルオロメタンスルホニルキシリトール(trifluoromethane sulphonyl xylitol,TMSDX)を生産した。前記製造したトリフルオロメタンスルホニルキシリトールを乾燥THF存在下でジアセトンキシリトールを同一のモル量で反応させ、ジキシリトールジアセトン(Xy-Ac二量体)を形成した。この反応生成物をHCl/MeOH溶液で化学式環を開放させて、キシリトール二量体に最終転換させた(
図1の(a))。
【0067】
2-2.ジキシリトールジアクリレートの合成
ジキシリトールジアクリレート(dXYA)単量体を、2当量のアクリロイルクロライド(Acryloyl chloride)でジキシリトールをエステル化して合成した。DMF(20ml)及びピリジン(10ml)中にジキシリトール(1g)を溶解させ、一定に撹拌しながら4℃でアクリロイルクロライド溶液(5mlDMF中1.2ml溶解)を滴下方式で添加してエマルジョンを製造した。反応が完了した後、HCl-ピリジン塩をろ過し、前記ろ過物をジエチルエーテルに一滴ずつ落とした。前記生成物をシロップ液で沈殿させ真空下で乾燥させた。
【0068】
2-3.ポリキシリトールポリマー(PdXYP)の合成
本発明のポリキシリトールポリマー(PdXYP)は、低分子量bPEI(Poly ethylene imide,1.2k)とジキシリトールジアクリレート(dXYA)間にマイケル付加反応を介して製造した。
【0069】
具体的には、DMSO(5ml)中に溶解された合成dXYA(0.38g)を1当量のbPEI(1.2kDa、10mlDMSO中に溶解される)に滴下方式で添加し、24時間の間一定に撹拌しながら60℃で反応させた。反応が完了した後、混合物を蒸溜水に対して4℃で36時間の間Spectra/Por膜(MWCO:3500Da;Spectrum Medical Industries,Inc.,Los Angeles,CA,USA)を使用して透析した。最後に、前記合成重合体を凍結乾燥させて-70℃で保存した。
【0070】
2-4.ビタミンB6結合ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VB-PdXYPまたはVBXYP)の合成
ピリドキサール5′リン酸(pyridoxal 5′phosphate,PLP)とポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(PdXYP)を反応させ、一時的シッフ塩基(transient Schiff base)を形成するようにした。その後、NaCNBH
4を用いて還元してビタミンB6結合ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VB-PdXYPまたはVBXYP)を収得した(
図2)。
【0071】
2-5.ビタミンB6とTR-7が結合されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VBXYP-P)の合成
Sulfo-SANPAHのN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide,NHS)がpH7-9緩衝溶液環境でVBXYP遺伝子伝達体の低分子量ポリエチレンイミン(PEI)の1次アミン基と安定したアミド結合(amide bond)を生成させ、300-460nmの紫外線光反応を介してニトロフェニルアザイド(Nitrophenyl azide)がジヒドロアゼピン中間体(Dehydroazepine intermediate)を経てがん幹細胞特異反応ペプチドであるTR-7のアミン基と結合されることによりVBXYP-Pを収得した(
図3)。
【0072】
実施例3:ポリマー遺伝子伝達体の特性分析
3-1.ポリマー遺伝子伝達体のナノプレックス(VBXYP-P nanoplex)形成
本発明のVBXYP-Pは、pDNAまたはsiRNAと結合してポリプレックス(polyplex)形成する形成能を、ゲル遅延実験を介して確認した。具体的には、PdXYPとpDNAまたはsiRNAを、0.05、0.1、0.3、0.5、及び1.0のモル比(N/P)にして反応させて生成したVBXYP-P/pDNAまたはVBXYP-P/siRNAポリプレックスを、ゲル電気泳動してゲル遅延実験を行った。その結果、VBXYP-P/siRNAの場合、N/P0.3、0.5、1のモル比でポリプレックスがよく形成され(
図4a)、VBXYP-P/DNAの場合、N/P0.5、1のモル比でポリプレックスがよく形成されることを確認した(
図4b)。
【0073】
3-2.ポリマー遺伝子伝達体のナノプレックス(VBXYP-P nanoplex)の大きさ及びゼータ電位
本発明のVBXYP-Pと以前に発明したVBXYPの大きさとゼータ電位を、動的光散乱(dynamic light scattering)装置を用いて比較分析した(
図5)。その結果、VBXYPよりVBXYP-Pが大きさがより大きく、VBXYPのゼータ電位がVBXYP-Pよりさらに大きいか同じくらいであった。理論的に、TR-7ペプチドがPdXYPのアミン基に付着するのでゼータ電位が減少する。
【0074】
3-3.ポリマー遺伝子伝達体のナノプレックス(VBXYP-P nanoplex)の細胞内吸収と細胞毒性の評価
図6は、VBXYP-Pの細胞内吸収と分解の過程を示している。赤色蛍光を示すTRITCをVBXYP-P遺伝子伝達体にタグした後、緑色蛍光タンパク質遺伝子とポリプレックスを形成させてがん幹細胞に処理し、7日の間、変化を観察した。その結果、3時間後に赤い蛍光を帯びたVBXYP-Pが細胞全体に発見される。しかし、時間が流れ7日が過ぎるまでに赤い蛍光が次第に消えていき、緑色蛍光が細胞内でたくさん発現されていることを確認した。これは伝達体のがん幹細胞内によく吸収されるだけでなく、遺伝子伝達がうまくなされ、分解されて細胞内に残っていないようになることを意味する。このように伝達体がよく分解されて細胞外に放出されるなら、細胞毒性が低くなることが予想できる。
【0075】
図7は、VBXYP-Pのがん幹細胞と多形性膠芽腫の細胞株に対する細胞毒性の分析結果である。遺伝子伝達に一般的に使用される25kD PEIと以前に発明したVBXYPの細胞毒性を共に比較した。その結果、高い毒性を示す25kD PEIに比べてVBXYP-Pの細胞毒性がほとんど示されないことを確認した。
【0076】
実施例4:ビタミンB6とTR-7ペプチドが結合されたポリオール系浸透圧的ポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VBXYP-P)のがん幹細胞の標的化
がん幹細胞に対する最適の遺伝子伝達率を示すVBXYP-Pと遺伝子の比率(w/w)を確認した結果、8:1の比率で製作したポリプレックスが最も高い遺伝子伝達能力を有することを確認した(
図8)。
【0077】
また、VBXYP-Pのがん幹細胞の標的化遺伝子の伝達能力を確認するために、発明者が以前に発明した遺伝子伝達体と商用化されたいくつかの非ウイルス遺伝子伝達体(Lipofectamine 3000、25kD PEI、VBPEA、PdXYP、VBXYP)との遺伝子伝達効率を比較した(
図9)。その結果、がん幹細胞に対して、ただVBXYP-P伝達体のみが非常に高い効率で形質転換をさせた。がん幹細胞標的化ペプチドであるTR-7が付着していなかったVBXYPの場合、約3%の形質転換を起こしたが、VBXYP-Pの場合は約60%の形質転換を誘発させた。このような結果により、TR-7ががん幹細胞の標的化に有意味に作用するということを確認した。
【0078】
また、一つ非常に興味深い結果が確認された。TR-7が付着していないVBXYPの場合、がん幹細胞に対する形質転換効率は低かったが、多形性膠芽腫の細胞株に対しては他の伝達体に比べて最も高い効率を示した。以前の特許(10-2015-0014399、10-1809795)で確認された、ビタミンB6が結合された遺伝子伝達体を用いたとき、がん細胞に対して遺伝子伝達能力が優れることが、他の細胞株でも同じく適用されることを確認した。がん組織はビタミンB6の消耗量が高いので、細胞外ビタミンB6の吸収率が高い。したがってビタミンB6が結合された遺伝子伝達体は、がん組織に特異的な遺伝子伝達能を有することができる。VBXYP-PもまたビタミンB6を含有しているが、多形性膠芽腫の細胞株に対して5%未満の遺伝子伝達効率が確認された。これはビタミンB6による遺伝子伝達より、TR-7による標的化伝達が優先順位にあることを予想することができる。
【0079】
さらに正確にVBXYP-Pのがん幹細胞標的化遺伝子の伝達能力を確認するために、がん幹細胞をアロフィコシアニン(AllophycocyaniN,APC)が付着したCD133抗体で標識し、VBXYP-P/GFPを処理した後、FACS分析によって標的化能力を比較した(
図10)。その結果、TR-7がないVBXYPに比べてVBXYP-Pの標的化能力がはるかに高いということが確認された。
【0080】
実施例5:VBXYP-Pとクリスパーキャスナイン(CRISPR-cas9)システムを利用したがん幹細胞のスムーズンド(Smoothened、SMO)タンパク質のノックアウト(Knock-out)誘導による細胞死滅誘導
5-1.スムーズンドクリスパー(SMOcr)の伝達によるがん幹細胞の細胞増殖の変化
最初に、細胞の生/死(live/dead)分析によってVBXYP-P/SMOcrの処理以後のがん幹細胞の増殖能力の変化を確認した(
図11)。生きている細胞は緑色蛍光を帯び、死んでいく細胞は赤色蛍光を発現する。実験結果、VBXYP-P/SMOcrを処理してがん幹細胞グループで、死んでいく細胞の比率が最も高いことが確認された。また、WST-1増殖評価によっても、VBXYP-P/SMOcrを処理した実験群で有意味に同じ結果を得ることができた(
図12)。最後に、新たに合成される遺伝子に結合されて蛍光を示すEdU分析によって、SMOcrの伝達ががん幹細胞に及ぼす増殖能力を確認した(
図13)。その結果、前記実験結果と同じくVBXYP-P/SMOcrを処理した実験群で最も低い蛍光発現が現れた。これらの結果により、SMOcrの伝達ががん幹細胞の増殖能力を大きく減少させることを確認し、細胞の死滅が誘導するものであるという仮説を立てるようになった。
【0081】
5-2.スムーズンドクリスパー(SMOcr)の伝達によるがん幹細胞の自己死滅(Apoptosis)誘導の確認
SMOcrの伝達によるがん幹細胞の死滅が誘導されるか、トンネルアッセイ(TUNEL assay)とオアネキシンV(Annexin V)分析を行った(
図14、
図15)。トンネル分析は、カラーメトリックトンネル分析(Colormetric tunel assay)方法を採用した。この分析法は、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(terminal deoxynucleotidyl transferase,TdT)という酵素を用いて、ウリジントリホスフェート(uridine triphosphate,UTP)を損傷したDNAの3′末端に結合し、染色して濃い茶色を帯びるようになって細胞の自己死滅が起きた細胞を光学顕微鏡で観察する容易な方法である。実験結果、VBXYP-P/SMOcrを処理したがん幹細胞実験群で濃い茶色が最も多く観察された。
【0082】
アネキシンV分析方法は、細胞の自己死滅の初期段階に細胞膜構造が壊れて細胞内部のホスファチジルセリン(Phosphatidylserine)が細胞外部に露出するが、これと結合して蛍光を示すようになって細胞の自己死滅の初期を確認させてくれる。この実験の結果は、トンネル分析の結果と同様に、VBXYP-P/SMOcrを処理した実験群で最も多くの蛍光が発現された。このような結果から、がん幹細胞のSMOタンパク質を、SMOcrを用いてノックアウトさせることによってがん幹細胞の死滅を誘導できることを証明した。
【0083】
5-3.スムーズンドタンパク質のノックアウト以後のタンパク質発現の分析
本発明のVBXYP-Pを用いてSMOcrをがん幹細胞に伝達させることによりSMOのノックアウトを誘導し、それに伴うタンパク質発現の変化を免疫蛍光染色法で分析した(
図16)。その結果、VBXYP-P/SMOcrを処理したがん幹細胞で、SMOタンパク質(緑色)とソニック・ヘッジホッグ(Shh)タンパク質が他の実験群に比べて最も低く発現され、ウエスタンブロットを介した定量的分析結果もまた、同じ結果が確認された(
図17)。SMOタンパク質は比較群に比べて約86%減少し、Shhタンパク質は比較群に比べて約92%減少することを示した。Shhタンパク質の場合、ディスパッチ(Dispatch)タンパク質から自己分泌(autocraine)または傍分泌(paracrine)の方式で放出がなされるが、SMOタンパク質の発現抑制を介して、細胞の自己死滅が起きている細胞から不完全にShhが放出されるもので、自然にShhタンパク質の量が減少するのである。Shhは、がん幹細胞の自己再生を誘導するソニック・ヘッジホッグ信号伝達体系を開始する重要なタンパク質である。しかし、SMOのノックアウトによってShhタンパク質の発現が減少し、これに伴いがん幹細胞の自己再生能力が落ち、細胞死滅が加速化され得るのである。
【0084】
このような結果を土台に、本発明者らは、VBXYP-P/SMOcrを処理したがん幹細胞でSMOタンパク質の発現抑制がShhタンパク質の発現を減少させ、自己再生経路が壊れることによって細胞の自己死滅が誘導され得ることを証明した。
【0085】
実施例6:VBXYP-PとsiRNAを用いたがん幹細胞のスムーズンド(Smoothened、SMO)タンパク質のノックダウン(Knock-down)誘導による細胞死滅の誘導
6-1.スムーズンドsiRNA(siSMO)の伝達によるがん幹細胞の細胞増殖の変化
VBXYP-P/siSMOの処理以後のがん幹細胞の増殖能力の変化を確認するために、細胞の生/死(live/dead)分析、WST-1細胞増殖評価、及びEdu分析を行った(
図18、
図19、
図20)。その結果、前記VBXYP-P/SMOcrを伝達したときと同じ結果を確認することができた。3種の細胞増殖能力の評価において、VBXYP-P/siRNAを処理したがん幹細胞実験群の細胞増殖が、最も減少することが確認された。これらの結果から、siSMOの伝達を介したSMOタンパク質のノックダウンも同様にがん幹細胞の増殖能力を大きく減少させることを確認し、細胞の死滅が誘導するものであるという仮説を立てるようになった。
【0086】
6-2.スムーズンドsiRNA(siSMO)の伝達によるがん幹細胞の自己死滅(Apoptosis)誘導の確認
siSMOを伝達してSMOのノックダウンを誘導した後、上述した細胞の自己死滅を確認するために用いた、トンネルアッセイとアネキシンV分析を行った(
図21、
図22)。その結果は、VBXYP-Pを使用してsiSMOをがん幹細胞に伝達させた実験群で、最も多くの細胞の自己死滅が発生することを確認することができた。
【0087】
6-3.スムーズンドタンパク質のノックダウン以後のタンパク質発現の分析
本発明のVBXYP-Pを使用してsiSMOをがん幹細胞に伝達させることによってSMOタンパク質のノックダウンを誘導し、それに伴うタンパク質の発現変化を上述の蛍光免疫染色分析とウエスタンブロットタンパク質定量分析法を用いて比較分析を行なった(
図23、
図24)。その結果、VBXYP-P/siSMOを処理したがん幹細胞実験群で、SMOタンパク質と、Shhタンパク質の発現が最も低くなることを確認することができた。ウエスタンブロットタンパク質定量分析によって、VBXYP-P/siSMOを処理した実験群と、何も処理をしていない比較群と比較したとき、SMOタンパク質の量が約74%減少し、Shhタンパク質の量が約63%減少したことを確認した。このような結果を土台に、本発明者らは、前記の内容によりSMOcrを用いたSMOノックアウトによるがん幹細胞の細胞の自己死滅の誘導と同様に、VBXYP-P/siSMOを処理したがん幹細胞で、SMOがノックダウンされることによってShhタンパク質の発現を減少させ、自己再生経路が壊れることによって細胞の自己死滅が誘導され得ることを証明した。
【0088】
実施例7:血液脳関門(blood brain barrier、BBB)と脳腫瘍関門(brain tumor barrier、BTB)を透過して多形性膠芽腫内のがん幹細胞に標的化遺伝子を伝達
7-1.3次元BBB微細流体チップを利用したBBB及びBTB模写モデルの構築
3次元BBB微細流体チップの中心部に脳組織を模写するために、星状細胞(astrocyte)を培養し、外郭部に血管を模写するためにヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)を培養した後、血管部に該当する所に注射器ポンプを用いて持続的に培地を送り流すことにより(0.02~0.5μL/min)、実際の血管と類似に生成されるように誘導した。また、BTBを模写するためにチップの中心部に多形性膠芽腫細胞またはがん幹細胞を培養し、外郭部にヒト臍帯血管内皮細胞を培養した後、外郭血管部に持続的に培地を送り流すことにより(0.02~0.5μL/min)、実際の血管と類似に生成されるように誘導した。
【0089】
7-2.VBXYPとVBXYP-PのBBB透過率の比較
VBXYPとVBXYP-PにTRITCで標識を付けて赤色蛍光を帯びるようにした後、GFP遺伝子と複合体を形成させ、3次元BBB微細流体モデルの血管部に0.01μL/minの速度で120分間送り流しながら、星状細胞が培養されている中心部にどのくらい透過して入るのか定性的に確認し、イメージ分析によって各伝達体の透過率を計算した。また、48時間以後に該当遺伝子伝達体によってどのくらい形質転換が起きたか確認した。その結果、VBXYPとVBXYP-P遺伝子伝達体どちらもBBBを透過し、VBXYPのBBB透過率がより高かった。48時間以後の形質転換の程度は二つの実験群で同じような結果を示した(
図25)。
【0090】
7-3.VBXYP-Pのがん幹細胞に対する標的化遺伝子の伝達
がん幹細胞が中心部に培養されている3次元微細流体チップ内の血管部に、VBXYP-P/GFPを0.01μL/minの速度で120分間送り流しながら、どのくらい模写された血管を透過して中心部の細胞に遺伝子を伝達させることができるのか確認した(
図26)。その結果、単純なBBBモデルにVBXYP-Pを送り流したときより透過率は顕著に落ちた。しかし、48時間以後、星状細胞での形質転換率と比較してがん幹細胞に対して非常に高い形質転換が確認された。これは、前記実験によって確認したVBXYP-Pが、がん幹細胞に対して高い形質転換能力を有しているということを、3次元BTBモデルを介して再確認したものである。腫瘍細胞は、星状細胞に比べて非常に密度が高く構成されて増殖することにより、遺伝子伝達体の透過率は落ち得るが、標的化機能性遺伝子伝達体を用いるならば、所望の遺伝子を目標に伝達させることができることを確認することができた。最後に、3次元微細流体チップの中心部に多形性膠芽腫を培養し、血管部にそれぞれVBXYP-P/GFPとVBXYP/GFPを0.01μL/minの速度で120分間送り流しながら、遺伝子伝達体の透過率と48時間以後の形質転換の程度を比較した(
図27)。その結果、一般的なBBBモデルに各伝達体を適用したときと比較すると、全体的に透過率が顕著に落ちるが、各伝達体の透過率の様相は類似していた。本モデルでも同じくVBXYP/GFPがVBXYP-P/GFPより高い透過率を示した。しかし、48時間以後、VBXYP-P/GFPを処理した実験群で有意味に高い形質転換された細胞が発見された。これらの結果により、VBXYP-PはBBBとBTBを透過できるだけでなく、腫瘍内部に非常に少ない量で存在するがん幹細胞に標的化して遺伝子を伝達させることができることを本実験によって証明した。
これら全ての実施例から、がん幹細胞を標的化できるVBXYP-Pという遺伝子伝達体を発明し、この伝達体に、がん幹細胞の自己再生信号伝達体系を壊すことにより細胞の自己死滅を誘導できるスムーズンド(Smoothened、SMO)CRISPR、siRNAを用いて、がん幹細胞の死滅を誘導できることを示し、その機作を糾明した。また、本発明の遺伝子伝達体がBBBを通過できるだけでなく、脳腫瘍内部のがん幹細胞を標的化することができることを、3次元微細流体システムを介して証明した。
【0091】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せずに、他の具体的な形態で実施されることができる。これと関連して、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり限定的なものではない。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲の意味及び範囲そしてその等価概念から導出される全ての変更または変形された形態が、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のビタミンB6とがん幹細胞特異ペプチドが結合されたポリジキシリトールポリマー遺伝子伝達体(VBXYP-P)は、既存に存在する核酸伝達体よりがん幹細胞に対して顕著に高い核酸伝達率を有し、DNAと結合時に結合体の細胞毒性はほとんどなく、何より血液脳関門を通過して多形性膠芽腫内のがん幹細胞に標的化して特異的に核酸を伝達させて形質を転換させることを確認した。これによって、本発明の遺伝子伝達体は、生体内で腫瘍内部のがん幹細胞の発現を抑制することにより多様ながん疾患に対する遺伝子治療分野で幅広く使用されることができる。