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特許7535353金属切断用丸鋸のチップおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】金属切断用丸鋸のチップおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23D 61/04 20060101AFI20240808BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B23D61/04
B23P15/28 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024051105
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-05-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594054841
【氏名又は名称】株式会社谷テック
(74)【代理人】
【識別番号】100121418
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 修
(72)【発明者】
【氏名】宮部 泰宏
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-166417(JP,A)
【文献】特開2009-196046(JP,A)
【文献】中国実用新案第202411553(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第115673420(CN,A)
【文献】米国特許第03576061(US,A)
【文献】米国特許第04133240(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D45/00-65/04
B23P15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体が略直方体状であって、頂面全体が山状となされ、頂面前縁の中央部分を底辺として後方へ伸びる三角形の下り傾斜状第一逃げ面が形成され、該第一逃げ面の後方には第一逃げ面の頂点と対向する頂点を有し、前記頂面の後縁を底辺とする逆三角形の下り傾斜状第二逃げ面が形成され、該第二逃げ面は前記第一逃げ面より大きい下り傾斜となされ、前記第一逃げ面および前記第二逃げ面の左右両側には、左右両側方向へ下降する下り傾斜状の第三逃げ面と第四逃げ面が形成されている、金属切断用丸鋸のチップ。
【請求項2】
第一逃げ面の頂点と第二逃げ面の頂点とが接している、請求項1記載の金属切断用丸鋸のチップ。
【請求項3】
横逃げ面に所定のラジアル角の傾斜および所定のタンジェンシャル角の傾斜がそれぞれ付されている、請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップ。
【請求項4】
前面上部には負の傾斜角を有するすくい面が形成され、該すくい面の左右両側部に面取り部が設けられている、請求項3記載の金属切断用丸鋸のチップ。
【請求項5】
第一逃げ面の傾斜角度が1°~15°の範囲内であり、第二逃げ面の傾斜角度が2°~35°の範囲内であり、且つ前記第二逃げ面の傾斜角度が前記第一逃げ面の傾斜角度よりも大きいことを特徴とする、請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップ。
【請求項6】
第一逃げ面の長さがチップの頂面前後長の50%以下である、請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップ。
【請求項7】
縦長直方体状のチップ原材料の頂面の前縁中央から後縁中央に伸びる中心線を稜線として左右両側方向に下降する左右傾斜面を形成することで前記頂面全体を山状部とする山状部成形工程と、前記山状部の上部を前記稜線に沿って前記前縁から後方に向かって所定長だけ下り傾斜状に一部切削することで前記前縁の中央部分を底辺とする三角形状の第一逃げ面を形成する第一逃げ面成形工程と、前記三角形状の第一逃げ面の頂点または頂点近傍から前記後縁に至る山状部の上部を前記第一逃げ面よりも大きい下り傾斜状に切削することで前記三角形状の第一逃げ面の後方に逆三角形状の第二逃げ面を形成する第二逃げ面成形工程とを有し、該第二逃げ面成形工程によって、第二逃げ面および第一逃げ面の左右両側に、第三逃げ面と第四逃げ面が形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップ製造方法。
【請求項8】
山状部成形工程で、山状部の稜線が前縁側から後縁側に向かって下り傾斜状に成形されることを特徴とする、請求項7記載の金属切断用丸鋸のチップ製造方法。
【請求項9】
山状部成形工程の前に、チップ原材料の横逃げ面部分に、所定のラジアル角の傾斜および所定のタンジェンシャル角の傾斜をそれぞれつける傾斜成形工程を有することを特徴とする、請求項7記載の金属切断用丸鋸のチップ製造方法。
【請求項10】
山状部成形工程と第一逃げ面成形工程との間に、チップ原材料の前面上部に負の傾斜角を有するすくい面を形成するすくい面成形工程と、該すくい面成形工程によって形成されたすくい面の左右両側部に面取り部を形成するベベル加工工程とを有する、請求項9記載の金属切断用丸鋸のチップ製造方法。
【請求項11】
台金の外周に鋸刃が所定間隔をあけて設けられ、該鋸刃の台座にチップが固着された金属切断用丸鋸において、前記チップとして請求項1または請求項2記載のチップが固着されている、金属切断用丸鋸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属切断用丸鋸の台金の外周に所定間隔をあけて設けられた鋸刃の台座に固着されるチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属切断用丸鋸は円板状台金の外周に鋸刃が所定間隔をあけて形成され、該鋸刃に設けられた台座にチップが固着されたものである。かかる金属切断用丸鋸は、主として鋼管等の硬質な被削材の切削切断に使用されるものである。そして、その切削作業において、前記チップには、被削材に対する回転接触の際に容易に欠損しないように十分な強度が求められると同時に被削材に対する回転接触の際の接触抵抗を極力低減させて切削性能を高める必要がある。しかしながら、一般的に、前記接触抵抗を極力低減させるためにはチップに鋭利性が求められるが、鋭利性を高めれば、チップが欠損し易くなるという問題がある。
【0003】
従来、円板状台金の外周に鋸刃が一定間隔をあけて形成され、該鋸刃に設けられた台座にチップが固着された金属切断用丸鋸において、前記チップの逃げ面が、該逃げ面とすくい面とが交差する切れ刃稜を介して接する中央に位置する第一逃げ面と、第一逃げ面から両側へ傾斜して位置する第二・第三逃げ面と、前記第一逃げ面の後方に、該第一逃げ面の逃げ角より大きい逃げ角を有する第四逃げ面を有し、該第四逃げ面が、その頂部となる稜を介して前記第一逃げ面に交わると共に、前記第一逃げ面との稜を頂辺とし、前記チップの背面側の稜を底辺とし、左右の稜を介して前記第二・第三逃げ面に交わる台形状を呈するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017―42842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した金属切断用丸鋸は、チップの逃げ面が、すくい面との切り刃稜の中央部分に位置する方形の第一逃げ面と、該第一逃げ面の後方に位置する台形の第四逃げ面と、該第四逃げ面および前記第一逃げ面の両側に位置する第二・第三逃げ面という合計4面構成となっているが、鋼管等の硬質な被削材に対して最も接触する第一逃げ面が方形であり、且つ第四逃げ面が台形であることから、チップにある程度十分な耐久性や耐欠損性が確保されるものの、チップの前縁から後縁に至る逃げ面の全長にわたっての鋭利性がないため、切削性能の面では不十分であった。
【0006】
本発明の目的は、金属切断用丸鋸等について、耐久性や耐欠損性に優れ、しかも高い切削性能が得られるチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明は、全体が略縦長直方体状であって、頂面全体が山状となされ、頂面前縁の中央部分を底辺として後方へ伸びる三角形の下り傾斜状第一逃げ面が形成され、該第一逃げ面の後方には第一逃げ面の頂点と対向する頂点を有し、前記頂面の後縁を底辺とする逆三角形の下り傾斜状第二逃げ面が形成され、該第二逃げ面は前記第一逃げ面より大きい下り傾斜となされ、前記第一逃げ面および前記第二逃げ面の左右両側には、左右両側方向へ下降する下り傾斜状の第三逃げ面と第四逃げ面が形成されている、金属切断用丸鋸のチップである。
【0008】
請求項2記載の本発明は、前記請求項1記載のチップについて、第一逃げ面の頂点と第二逃げ面の頂点とが接していることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の本発明は、前記請求項1または請求項2記載のチップについて、横逃げ面に所定のラジアル角の傾斜および所定のタンジェンシャル角の傾斜がそれぞれ付されているものである。
【0010】
請求項4記載の本発明は、前記請求項3記載の金属切断用丸鋸のチップについて、前面上部には負の傾斜角を有するすくい面が形成され、該すくい面の左右両側部に面取り部が設けられているものである。
【0011】
請求項5記載の本発明は、前記請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップについて、第一逃げ面の傾斜角度が1°~15°の範囲内であり、第二逃げ面の傾斜角度が2°~35°の範囲内であり、且つ前記第二逃げ面の傾斜角度が前記第一逃げ面の傾斜角度よりも大きいことを特徴とする。すなわち、前記請求項1または請求項2記載の構成のチップにおいて、第一逃げ面の傾斜角度が1°~15°の範囲内としたのは、第一逃げ面の傾斜角度が15°を超える場合、該第一逃げ面に続く第二逃げ面の形成が十分に行えない傾向が顕著となるため、第一逃げ面の傾斜角度を1°~15°の範囲内とするのが好適だからである。また、第二逃げ面について、2°~35°の範囲内とするのは、第二逃げ面を第一逃げ面より大きい傾斜角度とするために、最低2°の傾斜を有し、且つ35°を超える傾斜角度とした場合、第二逃げ面による切削性能の低下が顕著となることから、上限を35°とするのが好適である。
【0012】
請求項6記載の本発明は、前記請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップについて、第一逃げ面の長さがチップの頂面前後長の50%以下であることを特徴とする。すなわち、第一逃げ面は第二逃げ面に先行して被削材に接触するものであるであるため、第一逃げ面の長さがチップの頂面前後長の50%を超える場合、第一逃げ面に続く第二逃げ面の切削性能が低下する傾向が顕著となることから、第一逃げ面の長さをチップの頂面前後長の50%以下とすることで、第二逃げ面の前後長を十分に確保することが好適である。
【0013】
請求項7記載の本発明は、請求項1または請求項2記載の金属切断用丸鋸のチップ製造方法であって、縦長直方体状のチップ原材料の頂面の前縁中央から後縁中央に伸びる中心線を稜線として左右両側方向に下降する左右傾斜面を形成することで前記頂面全体を山状部とする山状部成形工程と、前記山状部の上部を前記稜線に沿って前記前縁から後方に向かって所定長だけ下り傾斜状に一部切削することで前記前縁の中央部分を底辺とする三角形状の第一逃げ面を形成する第一逃げ面成形工程と、前記三角形状の第一逃げ面の頂点または頂点近傍から前記後縁に至る山状部の上部を前記第一逃げ面よりも大きい下り傾斜状に切削することで前記三角形状の第一逃げ面の後方に逆三角形状の第二逃げ面を形成する第二逃げ面成形工程とを有し、該第二逃げ面成形工程によって、第二逃げ面および第一逃げ面の左右両側に、第三逃げ面と第四逃げ面が形成されることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の本発明は、前記請求項7記載のチップ製造方法について、山状部成形工程で、山状部の稜線が前縁側から後縁側に向かって下り傾斜状に成形されることを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の本発明は、前記請求項7記載のチップ製造方法について、 山状部成形工程の前に、チップ原材料の横逃げ面部分に、所定のラジアル角の傾斜および所定のタンジェンシャル角の傾斜をそれぞれつける傾斜成形工程を有することを特徴とする。
【0016】
請求項10記載の本発明は、前記請求項9記載のチップ製造方法について、山状部成形工程と第一逃げ面成形工程との間に、チップ原材料の前面上部に負の傾斜角を有するすくい面を形成するすくい面成形工程と、該すくい面成形工程によって形成されたすくい面の左右両側部に面取り部を形成するベベル加工工程とを有することを特徴とする。
【0017】
請求項11記載の本発明は、台金の外周に鋸刃が所定間隔をあけて設けられ、該鋸刃の台座にチップが固着された金属切断用丸鋸において、前記チップとして請求項1または請求項2記載のチップが固着されている金属切断用丸鋸である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るチップは、全体が略縦長直方体状であって、頂面全体が山状となされ、頂面前縁の中央部分には、該部を底辺として後方へ伸びる三角形の下り傾斜状第一逃げ面が形成され、該第一逃げ面の後方には第一逃げ面の頂点と対向する頂点を有し、前記頂面の後縁を底辺とする逆三角形の下り傾斜状第二逃げ面が形成され、該第二逃げ面は前記第一逃げ面より大きい下り傾斜となされ、前記第一逃げ面および前記第二逃げ面の左右両側には、左右両側方向へ下降する下り傾斜状の第三逃げ面と第四逃げ面が形成されている構造であるため、鋼管等の硬質な被削材を切削切断する際に、三角形状の下り傾斜状第一逃げ面の底辺部分が先ず被削材に接触して十分な切削幅が確保されると共に、前記第一逃げ面の後側部分の頂点に向かって被削材との接触面積が徐々に減少していくため、切削時の接触抵抗が少なくなる。そして、当該チップの頂面において、被削材に対して、前記三角形状の第一逃げ面に続いて逆三角形状の第二逃げ面が接触し、この際、三角形状の第一逃げ面の頂点に続いて第二逃げ面の頂点部分が最初に接触するため、第一逃げ面による切削を引き継ぐように且つ少ない接触面積で第二逃げ面が接触するため、当初の切削抵抗が低く抑えられ、その後、逆三角形状の第二逃げ面の後側の底辺部分に向かって接触面積が徐々に広がるように切削が行われることから、大きな接触抵抗を生むことなく、十分な接触幅の切削が確保される。
【0019】
以上要するに、本発明のチップによれば、三角形状の第一逃げ面と逆三角形状の第二逃げ面との連携によって、被削材に対して、接触抵抗が少なく、且つ十分な切削幅の切削が可能になるという格別の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る金属切断用丸鋸の鋸刃部分の斜視図である。
図2図1の金属切断用丸鋸の鋸刃部分の平面図である。
図3図1の金属切断用丸鋸の鋸刃部分の側面図である。
図4図1の金属切断用丸鋸のチップ逃げ面に切粉分割用溝が形成された斜視図である。
図5】チップ原材料の斜視図である。
図6】チップ原材料の横逃げ面部分にラジアル角とタンジェル角をつけた状態の斜視図である。
図7】チップ原材料の頂面に山状部を形成した状態の斜視図である。
図8】チップ原材料の前面上部にすくい面を形成した状態の斜視図である。
図9】すくい面の左右両側部に面取り部が形成された状態の斜視図である。
図10】チップ原材料頂面の山部に第一逃げ面が形成された状態の斜視図である。
図11図10において、第一逃げ面の後方に第二逃げ面、並びに第三・第四逃げ面が形成された状態の斜視図である。
図12】第三逃げ面に切粉分割用溝が形成された状態の斜視図である。
図13】チップ頂面における逃げ面の他の実施形態を示す金属切断用丸鋸の鋸刃部分の斜視図である。
図14図13の金属切断用丸鋸の側面図である。
図15】比較性能試験に係る金属切断用丸鋸の鋸刃部分の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態を図面にしたがって説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0022】
なお、本発明において、「前後」「左右」および「上下」は、図3を基準とし、「前」とは、矢印A方向で示す当該丸鋸1の回転方向側、すなわち、図3の右側方向を指し、「後」とは、矢印A方向で示す当該丸鋸1の回転方向と反対側、すなわち、図3の左側方向を指すものとする。また、「上」とは図3の上側方向を指し、「下」とは図3の下側方向を指すものとする。更に、「左」とは図3の図面紙葉の裏側方向を指し、「右」とは図3の図面紙葉の表側方向を指すものとする。
【0023】
図1図3に示すように、本実施形態に係る金属切断用丸鋸1の基本的構成について説明すると、金属切断用丸鋸1は、円板状台金2の外周に所定間隔をあけて形成された鋸刃3の台座4に後述するチップ5がロウ付け等によって固着されたものである。
【0024】
そして、前記チップ5は、全体が略縦長直方体状であって、前面22上部に負のすくい角βを有するすくい面6が形成され、頂面7は全体が山状であって、前記すくい面6と交わる頂面7の前縁7aの中央部分には、該部を底辺8aとして後方へ伸びる三角形の下り傾斜状第一逃げ面8が形成され、更に第一逃げ面8の後方には第一逃げ面8の頂点8bと対向する頂点9bを有し、前記頂面7の後縁7bを底辺9aとする逆三角形の下り傾斜状第二逃げ面9が形成され、該第二逃げ面9は前記第一逃げ面8より大きい下り傾斜状となされ、また前記第一逃げ面8および前記第二逃げ面9の左右両側には、左右両側方向へ下降する下り傾斜状の第三逃げ面11と第四逃げ面12が形成されている。
また本実施形態では、前記第一逃げ面8の頂点8bと第二逃げ面9の頂点9bとの間には、下り傾斜状の稜線13が存在し、前記下り傾斜状の第一逃げ面8は逃げ角α1を有し、下り傾斜状の第二逃げ面9は逃げ角α2を有し、第一逃げ面8と第二逃げ面9との各頂点8b・9b間の稜線13は傾斜角α3を有する。そして、通常、前記第一逃げ面8の逃げ角α1を1°~15°の範囲内とし、第二逃げ面9の逃げ角α2を2°~35°の範囲内とし、且つ前記第二逃げ面9の逃げ角α2を前記第一逃げ面8の逃げ角α1よりも大きくする。また、前記稜線13の傾斜角α3は前記第一逃げ面8の逃げ角α1と前記第二逃げ面9の逃げ角α2の中間の傾斜角となる。また、チップ5の頂面前後長Lに対して、第一逃げ面8の長さL1を50%以下とするのが好適である。
【0025】
更に、図4に示すように、前記チップ5の頂面7における第四逃げ面12には、例えば前縁7aから後方へ伸びる切粉分割用溝10が形成される場合もある。また、切粉分割用溝10は、頂面7において、第三逃げ面11にも形成される場合がある。
【0026】
次に、図5図12に示すように、前述した構成の金属切断用丸鋸1におけるチップ5の製造方法について説明すると、該製造方法としては、例えば超硬合金やサーメット等で構成された縦長直方体状のチップ原材料21(図5参照)の横逃げ面部分23に、所定のラジアル角θRの傾斜SP1および所定のタンジェンシャル角θGの傾斜SP2をそれぞれつける傾斜成形工程(図6)と、前記チップ原材料21の頂面7の前縁7a中央から後縁7b中央に伸びる中心線を稜線13として左右両側方向に下降する左右傾斜面14・15を形成することで前記頂面7全体を山状部16とする山状部成形工程(図7)と、前記山状部16の上部を前記稜線13に沿って前記前縁7aから後方に向かって所定長だけ下り傾斜状に一部切削することで前記前縁7aを底辺とする三角形状の前記第一逃げ面8を形成する第一逃げ面成形工程(図10)と、前記三角形状の第一逃げ面8の頂点8b近傍から前記後縁7bに至る山状部16の上部を前記第一逃げ面8よりも大きい下り傾斜状に切削することで前記三角形状の第一逃げ面8の後方に逆三角形状の第二逃げ面9を形成する第二逃げ面形成工程を有し(図11)、該第二逃げ面成形工程によって、該第二逃げ面9と前記第一逃げ面8の左右両側には、左右両側方向へ下降する傾斜状の第三逃げ面11と第四逃げ面12が形成されている。また、前記第二逃げ面成形工程(図11)後においては、図12に示すように、第一逃げ面8の一側の第三逃げ面11に、その前縁7aから後方へ伸びる切粉分割用溝10が切削形成される。
【0027】
更に、本実施形態では、図8および図9に示すように、縦長直方体状のチップ原材料21の前面22の上部に前記すくい面6を形成するすくい面成形工程を実施し、次に前記すくい面6の左右両側部に面取り部6aを形成するベベル加工工程を実施する。そして、かかるすくい面成形工程とベベル加工工程は、通常、チップ頂面7全体を山状部16とする山状部成形工程(図7)の後に行われる。
【0028】
以上要するに、本実施形態では、図5に示す縦長直方体状のチップ原材料21から図6の傾斜成形工程、図7の山状部成形工程、図8のすくい面成形工程および図9のベベル加工工程、図10の第一逃げ面成形工程、図11の第二逃げ面形成工程によって、最終的に前記チップ5が製造される。また、必要に応じて、更に図12の切粉分割用溝10の成形工程が実施されて、該切粉分割用溝10付きのチップ5が製造される
【0029】
本実施形態では、前記山状部成形工程において、前記稜線13がチップ原材料21の前縁7a側から後縁7b側に向かって下り傾斜状となるように形成され、また、第一逃げ面8の頂点8bと第二逃げ面9の頂点9bとの間には稜線13が存在する構成となされている。ただし、図13および図14に示すように、本発明は前述した構成に限定されない。すなわち、前記チップ5の変形例としての実施形態に係るチップ35は、三角形状の第一逃げ面28の頂点28bと逆三角形状の第二逃げ面29の頂点29bが、前記実施形態のように稜線13を介して対向する構造とせずに、稜線13を介さずに、直接的に接している構造とする場合もある。
【0030】
その他の構成は、前記実施形態と同様であるため、前記実施形態と同じ符号を付すことによって説明を省略する
(切削性能試験)
【0031】
次に、図15に示す従来の金属切断用丸鋸41と前記図4に示す本発明の金属切断用丸鋸1を比較する切削性能試験について説明する。
【0032】
図15に示す金属切断用丸鋸41は、台金42の鋸刃43に形成された台座44に略縦長直方体状のチップ45がロウ付け等によって固着されたものであって、チップ45の頂面47の前縁47aの中央部分には該部を底辺48aとして後方へ頂点48bを有する三角形状の第一逃げ面48が形成され、該第一逃げ面48の後方には該第一逃げ面48の頂点48bから頂面47の後縁47b中央部分へ伸びる稜線53を中心として左右両側へ下降する第二逃げ面51と第三逃げ面52が形成されている。また、前記第三逃げ面52には切粉分割用溝60が形成されている。
【0033】
前述した両金属切断用丸鋸1・41の仕様として、外径380mm×3.0(2.5)×37.1H×52Z(台金=合金工具鋼、チップ=超硬チップ)について、従来の金属切断用丸鋸41と本発明の金属切断用丸鋸1について、下記の条件で性能試験を行った。すなわち、回転数300RPM、鋸送り速度600mm/min、被切削材=鋼管(STKM)200mm×200mm×12.0tの切削切断試験を実施した。
【0034】
その結果、切削寿命が従来の金属切断用丸鋸41では、切断面積2.4m2で欠損したのに対して、本発明の金属切断用丸鋸1では切断面積4.32m2にまで延び、従来の金属切断用丸鋸41と比較して約1.8倍の耐欠損性が確認された。また、被切削材の切削面においても従来の金属切断用丸鋸41よりも美麗な切削切断面が得られ、しかも前記被削材の完全な切断の時間が、本発明の金属切断用丸鋸1では従来の金属切断用丸鋸41に比べて約20%短縮された。また、本切削性能試験を種々の仕様の金属切断用丸鋸1について実施した結果、本願の請求項5およびまたは請求項6記載の構成数値が好適であることが確認された。
【0035】
以上要するに、切削性能試験では、耐欠損性、切削可能距離、切断面の美麗さのいずれにもおいても本発明の金属切断用丸鋸1の方が従来の金属切断用丸鋸41よりも優れた結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るチップによれば、被削材に対して切削抵抗が少なく、しかも十分な切削作業が行えるため、鋼管等を切断する刃物業界において幅広い利用が期待できる。
【符号の説明】
【0037】
1 金属切断用丸鋸
2 台金
3 鋸刃
4 台座
5 チップ
6 すくい面
7 頂面
7a 頂面の前縁
7b 頂面の後縁
8 第一逃げ面
8a 第一逃げ面の底辺
8b 第一逃げ面の頂点
9 第二逃げ面
9a 第二逃げ面の底辺
9b 第二逃げ面の頂点
10 切粉分割用溝
11 第三逃げ面
12 第四逃げ面
【要約】
【課題】 金属切断用丸鋸等におけるチップについて、耐久性や耐欠損性に優れ、しかも高い切削性能が得られるようにする。
【解決手段】 全体が略縦長直方体状であって、頂面7全体が山状となされ、頂面前縁7aの中央部分には、該部を底辺として後方へ伸びる三角形の下り傾斜状第一逃げ面8が形成され、該第一逃げ面8の後方には第一逃げ面8の頂点8bと対向する頂点9bを有し、前記頂面7の後縁7bを底辺とする逆三角形の下り傾斜状第二逃げ面9が形成され、該第二逃げ面9は前記第一逃げ面8より大きい下り傾斜となされ、第一逃げ面8および第二逃げ面9の左右両側には、左右両側方向へ下降する下り傾斜状の第三逃げ面11と第四逃げ面12が形成されている。
【選択図】 図1
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図15