(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】交流電圧源接近検知検電器
(51)【国際特許分類】
G01R 19/155 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
G01R19/155
(21)【出願番号】P 2020189918
(22)【出願日】2020-11-14
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(73)【特許権者】
【識別番号】500285727
【氏名又は名称】三和電気計器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597019609
【氏名又は名称】株式会社 シーディエヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100075410
【氏名又は名称】藤沢 則昭
(74)【代理人】
【識別番号】100135541
【氏名又は名称】藤沢 昭太郎
(72)【発明者】
【氏名】大浦 洋治
(72)【発明者】
【氏名】小島 正巳
(72)【発明者】
【氏名】関根 隆好
(72)【発明者】
【氏名】野田 龍三
(72)【発明者】
【氏名】松尾 和顕
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特許第7306872(JP,B2)
【文献】特開昭62-288997(JP,A)
【文献】特開2017-161525(JP,A)
【文献】実開昭50-79477(JP,U)
【文献】特開2010-203961(JP,A)
【文献】特開平8-220151(JP,A)
【文献】実開平5-14932(JP,U)
【文献】特開2009-70335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0264427(US,A1)
【文献】特開平3-183966(JP,A)
【文献】実開平6-30775(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧源の接近を検知する検電器において、検出回路は交流電圧源への接近によって人体に誘起された電圧を測定対象とした第1電極と、大地に対する
静電容量を介した電圧を測定対象とした第2電極とを有し、前記交流電圧源に人体が接近した際前記検出回路から信号を出力する回路を備え、前記第1電極は人体との間に誘電体を介して一定面積を有する板から成り、第2電極は前記第1電極に対する垂直投影面積を小さくし、かつ、大地に対する面積を大きくした形状としたことを特徴とする、交流電圧源接近検知検電器。
【請求項2】
前記人体との間に介在する誘電体は、前記第1電極、第2電極を収納する絶縁容器と、作業服、ヘルメット、靴、ベルトの内の何れかであることを特徴とする、請求項1に記載の交流電圧源接近検知検電器。
【請求項3】
前記第1電極は平板とし、前記第2電極は第1電極の平板の上に起立したポール形状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の交流電圧源接近検知検電器。
【請求項4】
前記第1電極は平板とし、前記第2電極は第1電極の平板の上に起立した円筒形状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の交流電圧源接近検知検電器。
【請求項5】
前記第1電極、第2電極及び検出回路が絶縁容器に収納されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の交流電圧源接近検知検電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビルや工場等の電気設備の点検作業や、改修工事等の電気工事の際に、作業者の感電事故や設備事故を防ぐために、交流電圧源に作業者が接近した際警報を発する交流電圧源の接近検知検電器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の交流電圧源の検電器は、
図17に示すように、大地と静電容量結合した人体を基準とし、被測定物である充電部に検電器の電極を接近させた際、充電部と検電器との間の静電容量C1、検電器と作業者との間の静電容量C2及び作業者と大地との間の静電容量C3を通じて流れる微小電流を検電器の検出回路が検出し、当該電流が一定値以上であれば、前記被測定物に電圧があると判定し、それを表示又は警報している。
【0003】
この方式の検電器は従来広く使用されており、特許文献1は、検電器を手首に装着し、検電器本体から手先方向に電極を突出させたものであり、当該検電器を被測定物に接近させて、検電するものである。また、特許文献2は工具の柄の部分に検電器の検電電極を密着させ、当該工具を握って作業者が工具を被測定物に接近させ、被測定物の電圧を検出、警報するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-220151号公報
【文献】特許第6467447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの検電器は、被測定物に作業者が装着した検電器をかざしたり、手に持った工具を接近させなければならない。即ち、作業者は検電を行うことを失念することなく、検電器を正しく使うことが要求される。これらのどちらかが欠けても前記事故につながる可能性が高くなる。
【0006】
そこで、この発明は上述の課題を解決するため、作業者の体に装着するだけで作業者の意識に関係なく、電圧源が近くにあることを注意喚起できる検電器を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来の検電器は、電線等の交流電圧源の電圧を測定対象とし、前記電圧源と静電容量結合した人体への流入電流を測っているが、この発明の検電器は、
図2に示す交流電圧源のV
0と、充電部と人体との間の静電容量C
01と、人体と大地の間の静電容量C
02によって人体に生じる電圧V
02を測定対象とし、当該電圧によって生じる人体からの流出電流を測る点で大きく異なる。
【0008】
具体的には、請求項1の発明は、交流電圧源の接近を検知する検電器において、検出回路は交流電圧源への接近によって人体に誘起された電圧を測定対象とした第1電極と、大地に対する静電容量を介した電圧を測定対象とした第2電極とを有し、前記交流電圧源に人体が接近した際前記検出回路から信号を出力する回路を備え、前記第1電極は人体との間に誘電体を介して一定面積を有する板から成り、第2電極は前記第1電極に対する垂直投影面積を小さくし、かつ、大地に対する面積を大きくした形状とした、交流電圧源接近検知検電器とした。
【0009】
また、請求項2の発明は、前記人体との間に介在する誘電体は、前記第1電極、第2電極を収納する絶縁容器と作業服、ヘルメット、靴、ベルトの内の何れかである、請求項1に記載の交流電圧源接近検知検電器とした。
【0010】
また、請求項3に発明は、前記第1電極は平板とし、前記第2電極は第1電極の平板の上に起立したポール形状である、請求項1又は2に記載の交流電圧源接近検知検電器とした。
【0011】
また、請求項4の発明は、前記第1電極は平板とし、前記第2電極は第1電極の平板の上に起立した円筒形状である、請求項1又は2に記載の交流電圧源接近検知検電器とした。
【0012】
また、請求項5の発明は、前記第1電極、第2電極及び検出回路が絶縁容器に収納されている、請求項1~4のいずれかに記載の交流電圧源接近検知検電器とした。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、人体のどこかに当該検電器を装着しておけば、当該検電器を装着した作業員が電圧源に近づくと信号を出力する。従って、電気工事等において、作業者の失念によって充電部に近づいた場合でも、注意喚起が可能となり、感電等の事故を未然に防ぐことが出来る。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、前記作業服、ヘルメット、靴、ベルトは電気工事の際必ず作業者が着用するものであり、これらのいずれかに、第1電極と第2電極が収納された絶縁容器を装着すればよく、検電器の作業者への装着が容易である。
【0015】
また、請求項3及び4の発明によれば、電極1と電極2との間に発生する電圧が大きくなり、人体に生じる電圧V02を確実に捉えることができる。
【0016】
また、請求項5の発明によれば、検電器が絶縁容器に収納されているため、当該絶縁容器を作業者に容易に装着でき便利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】電圧源に人体が接近した際の人体に流れる電流及び人体から流れる電流が生じることを示す原理説明図である。
【
図2】この発明の実施の形態例1の人体に誘起される電圧に関する主回路の原理概略図である。
【
図3】(a)図はこの発明の実施の形態例1の検電器の検出回路の原理を示す概略構成図、(b)図は同等価回路図である。
【
図4】(a)図はこの発明の実施の形態例1の検電器の外観正面図、(b)図は同検電器の人体への装着状態図、(c)図は同検電器の電極の分解図である。
【
図5】この発明の実施の形態例1の検電器の第2電極の形状例を示す斜視図である。
【
図6】この発明の実施の形態例1の検電器の第2電極の形状による感度の比較を示す比較表図である。
【
図7】この発明の実施の形態例1の検電器の検出回路の構成図である。
【
図8】この発明の実施の形態例2の検電器の一例を示す概略縦断面図である。
【
図9】この発明の実施の形態例2の検電器の一例の電極を示す斜視図である。
【
図10】この発明の実施の形態例2の検電器の他の例を示す概略縦断面図である。
【
図11】この発明の実施の形態例2の検電器の他の例の電極を示す斜視図である。
【
図12】この発明の実施の形態例2の検電器を作業者のヘルメットに装着した状態を示す側面図であり、(a)図はクリップ留め、(b)図はバンド留めの図である。
【
図13】この発明の実施の形態例2の検電器を作業靴に装着した状態を示す側面図であり、(a)図は検電器をかかとにクリップで止めた図、(b)図は検電器をつま先にバンドで留めた図である。
【
図14】各電圧における電圧源と人体との距離に対する電界強度を測定した値の表及びグラフ図である
【
図15】電圧3.3kVの活線を電圧源とした場合の人体及び頭部周辺空間の電界強度の測定結果を示すグラフ図である。
【
図16】この発明の実施の形態例2の検電器を用いて電圧3.3kVの活線を電圧源とした場合の人体との距離に対する警報音の状態を測定した表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態例1)
まず、この発明の実施の形態例1の検電方法及び検電器を図に基づいて説明する前に、人体の各部の電位を測定した。なお、実施の形態例1の検電器の主回路では、電圧や静電容量を示す場合にVやCに「0」を入れて表示するが、検出回路ではVやCに「0」を入れないで表示する。
【0019】
まず、人体の電位分布がどのようになっているかを検討した。これには、
図1に示すように、AC電位無線測定器を用いてAC電線に近づいた人体の両手首、両足首、頭部の電位を測った。
【0020】
その測定結果で、AC電線側に伸ばした手に電位が生じるのは当然の結果であるが、反対側の手にも電位が生じていることが確認できた。また、AC電線側に伸ばした手よりも、足側の電位が大きい体位が多くあった。これにより、人体全体で電位が生じていることが分かった。また、人体は大地から浮いた電位になっており、その電位は人体各部で異なっているということが分かった。
【0021】
しかし、人体は数kΩの導体であり、AC電線や大地からは数MΩ以上のインピーダンスで隔離されていることを考えると、人体内で検電器が動作するような数十V以上の電位差が生じることは考えられない。
【0022】
検討の結果、測定したAC電位無線測定器は大地からの電極電位を測っているのではなく、電極を通過する電流レベルを示していることが分かった。また、人体電位は大地から浮いているが、人体自体は同電位状態で、周辺のインピーダンス関係に応じて人体各部を流れる電流値に大小が生じており、その電流値に応じてAC電位無線測定器の測定値が変化していた。
【0023】
図1示すように、人体Hが100VのAC電線Wに近づくと、腕、胴体、頭を通じてAC電線Wからi
1、i
2、i
3の電流が人体Hに流れ込む。この電流によって人体Hは大地GからAC電圧を持った状態になる。ここでは30Vである。そして、その人体電位によって人体Hと大地G間容量を通じてAC電線Wと逆側の腕、両足、頭を通じて電流i
4、電流i
5、電流i
6、電流i
7が流れ出す。
【0024】
その電流比率は、AC電線Wと人体Hと大地Gの関係によって大きく変動するが、片手をAC電線Wに近づけてAC電線Wの反対側に壁が有る環境では、
図1に示したような電流値になった。i
1=0.1μA、i
2=0.2μA、i
3=0.1μA、i
4=0.02μA、i
5=0.18μA、i
6=0.18μA、i
7=0.02μAである。この結果、AC電線Wと反対側の腕に検電器を持っても検電動作ができ、さらにその腕よりも足の方が感度が良い状態となると考えらえる。
【0025】
従来の一般の検電器では、AC電線に近づいた場合の電線からの電流i
1、i
2レベルを検知するように設定されているため、電流i
4、i
7の様な低レベルの人体からの流出電流を検知できずにいる。また、人体=大地電位モデルで考えているため、電流レベルが比較的大きい電流i
5、i
6の流れを利用せずにいる。なお、
図1では代表的な電流分布を示した。実際にはもっと多様な人体部位で電流の入出力が生じているのが現実である。
【0026】
また、人体の絶縁が悪く、人体が大地と同電位となるような条件では電流i1、i2、i3の流入電流しか利用できないので、人体電位を検電することは出来ない。実際に裸足で人体を大地と同電位にしたところ、AC電線と反対側の検電器は反応しなかった。
【0027】
この様に、人体が電圧源に近づくと、腕、胴体、頭を通じて電圧源から電流が人体に流れ込み、この電流によって人体は大地からAC電位を持った状態になり、その人体電位によって人体と大地間容量を通じて電圧源と逆側の腕、両足、頭を通じて電流が流れ出すことが分かった。
【0028】
この原理に基づいてこの発明はなされたものである。
図2に示す電圧源Wから人体Hを通って大地Gに流れる閉回路(以下、主回路と言う)の合成容量(C
01とC
02の直列接続)C
0は、次式1、2となる。なお、V
0は電圧源Wの大地Gに対する電位、V
01は電圧源Wと人体Hとの間の静電容量C
01による電位、V
02は人体Hの大地Gに対する静電容量C
02による電位を示す。
【0029】
【0030】
【0031】
よって式3及び式4となり、人体Hは大地Gに対して電位(V02)を有することが分かる。
【0032】
【0033】
【0034】
また、式5、式6であるから、人体Hが充電部に近づく程(C01のdが小さくなり、C01が大きくなる)V02が大きくなる。これにより、V02を検出できれば、「人(人体H)が充電部に近づくこと」を検出できる。
【0035】
【0036】
【0037】
また、
図3の(a)図は、
図2のA部、即ち本発明の検電器Aの検出原理を示す概略構成図である。この検電器Aは人体Hの腕に巻き付ける腕章型であり、第1電極1と第2電極2により構成されている。ここでC
1は人体Hと第1電極1間の静電容量、C
21は第1電極1と第2電極2間の静電容量、C
22は人体Hと第2電極2間の静電容量、C
31は第1電極1と大地G間の静電容量、C
32は第2電極2と大地G間の静電容量である。
【0038】
また、第1電極1と第2電極2の間に検出回路4が設けられている。そして、
図4に示すように、腕章型の帯状体5の表面に前記第1電極1、第2電極2及び検出回路4が取り付けられ、帯状体5の端部の表裏面に夫々設けた雄雌の面ファスナー5a、5bによって、作業者の腕に装着できるようになっている。
【0039】
この検電器Aの全体の合成容量は、次式の式7となることが予想される。また、第1電極1と第2電極2の間に発生する電圧VC2は式8となる。このVC2が検出を可能にする電圧である。
【0040】
【0041】
【0042】
上記式8から、C1を大きくし、かつC2を小さくすれば、VC2が大きくなり、検出に有効なVC2を得ることが出来る。また、C32が大きければ、さらに有効なVC2を得られる。また、C22が小さければ、検出回路4に流れる電流を大きくすることができ、検出に有利となる。
【0043】
そこで、C=εS/dの「S」を大きくし、かつ、「d」を小さくすることにより前記C
1を大きくする。このため第1電極1を、大きな面積を有し、かつ、人体Hに巻き付くような可とう性のある電極とし、第2電極2と接する電極形状を細くすることでC=εS/dの「S」を小さくし、前記C
21を小さくした。
図4に示す第1電極1は両側の電極板1aを四方形として面積を大きくし、これらの電極板1a、1aを繋ぐ接続部1bを帯状の細い電極板とし、全体を可とう性を有するものとした。
【0044】
また、第2電極2は、第1電極1に対する垂直投影面積を小さくして上記「S」を小さくし、前記C
21を小さくする。また、人体に対する垂直投影面積を小さくして上記「S」を小さくし、前記C
22を小さくする。また、空間(大地)に対する面積(側面積)を確保し、これによってC
32を大きくする。
図4に示す第2電極2は円筒形状とし、前記第1電極1の接続部1bに起立させたものである。
【0045】
これらの構成によって、第1電極1と第2電極2の間に発生する電圧VC2を大きくし、検出を可能にしている。また、前記第1電極1を人体Hに直に当てて密着させた場合、前記C1は無限大となり、前記式8に示すようにVc2は大きくなり、感度が良くなる。
【0046】
なお、前記第1電極1の形状は
図4に示すものに限らない。また、前記第2電極2の形状についても円筒形状に限らない。例えば、
図5の(a)図に示すように円板形状のものや、
図5の(b)図に示すように、2枚の半円板を十字形状にクロスさせたものでも良い。
図5の(c)図は前記円筒形状の第2電極2を示す。これらの各第2電極2は夫々絶縁材から成る基板3を介して前記第1電極1の接続部1bに載置される。
【0047】
図6はこれらの第2電極2が
図5の(a)図のもの、(b)図のもの、(c)図のものから成る各検出器Aを装着した人が、人体側(検出器Aを装着していない腕の側)から一定の電圧を有する電圧源に近づいたとき、及びセンサ側(検出器Aを装着した腕の側)から前記電圧源に近づいた際、警報ブザーが鳴った距離を測った。
【0048】
その結果、3種類の第2電極2では、
図5の(c)図に示した円筒形状の第2電極2が一番感度が良いことが実証された。
【0049】
また、前記検出回路4の構成は、
図7に示すように、前記第1電極1と第2電極2間のC
21に流れる電流信号によって生じた電圧V
C2を増幅する増幅回路6、基準電圧発生回路7が夫々設けられ、前記増幅回路6の出力信号と前記基準電圧発生回路7の出力信号とを比較する比較回路8により、信号が出力された場合にのみ音声発生回路9及び点灯表示回路10が作動する。また、当該検出回路4には電源11を備えており、当該電源11のスイッチ12をオンにすることにより各回路に電源が供給される。
【0050】
次に、本発明の検電器Aによる交流電圧源の接近警報方法の説明をする。
当該検電器Aを装着した作業者は、作業に際して、まず、検出回路4のスイッチ12をオンにする。そして当該作業者が交流電圧源に接近すると、作業者に微小電流が流入する。この電流により人体はV02の電位となる。第1電極1は電位V02から静電容量C1を経由して分圧されて電位V2となる。第2電極2の電圧は電位V2により流出する電流がC21とC32によって分圧された電位となる。この流出電流iによって生じた静電容量C21間の電位差VC2を検出回路4が検知し、流出電流iによる静電容量C21の電位差VC2を増幅した出力信号が基準電圧より大きければ、音声発生回路9から警報音が発せられ、また、点灯表示回路10が点灯する。これにより検電器Aを装着した作業者は交流電圧源に接近したことが分かる。また、作業者は前記スイッチ12をオン状態にしていても、交流電圧源に接近しなければ前記音声発生回路9及び点灯表示回路10は作動しない。
【0051】
なお、上記実施の形態例1では検電器Aを腕章型としたが、これに限らず、人体の頭、首、胴、足、上半身、下半身のいずれかの部位に装着されるものであれば良い。また、上記実施の形態例1では検電器Aを腕章型の帯状体5に取付けているが、これに限らず、第1電極1のみを人体に巻き付け、この第1電極1と第2電極2とを離して、第2電極2を別途人体の他の部位に取付ける構成としてもよい。また、第1電極1は可とう性のある平板としたが、これに限らず、編組導体等、広く導体であればよい。
【0052】
(実施の形態例2)
次にこの発明の実施の形態例2の検電器Bについて
図8~
図13に基づいて説明する。
【0053】
前記実施の形態例1では第1電極1を、大きな面積を有し、かつ、人体Hに巻き付くような可とう性のある電極とし、第2電極2と接する電極形状を細くすることでC=εS/dの「S」を小さくし、前記C21を小さくした。しかしながら、第1電極を人体Hに密着させない場合でも前述の原理で検電が可能であることが分かった。これが実施の形態例2である。
【0054】
実施の形態例2における検電器Bの一つの例は、
図8及び
図9に示すように、箱型の絶縁ケース15の内部に円板から成る第1電極16が収納され、当該第1電極16の一面中央部に、垂直に棒状の第2電極17が設けられ、さらに、これらの第1電極及び第2電極の間に、実施の形態例1と同じ検出回路4が設けられている。また、前記絶縁ケース15の側面にはクリップ15aが設けられている。
【0055】
また、実施の形態例2における検電器Bの他の例は、
図10及び
図11に示すように、箱型の絶縁ケース15の内部に円板から成る第1電極18が収納され、当該第1電極18の一面中央部に、垂直に筒状の第2電極19が設けられ、さらに、これらの第1電極及び第2電極の間に、実施の形態例1と同じ検出回路4が設けられている。また、前記絶縁ケース15の側面にはクリップ15aが設けられている。
【0056】
そして、この検電器Bは、
図12の(a)図に示すように、絶縁ケース15がクリップ15aにより作業用ヘルメット20の後部に取り付けられる。なお、この(a)図のクリップ15aは前記
図8及び
図10の構成とは多少異なるクリップであるが、把持機能は同じである。また、(b)図に示すように、絶縁ケース15がバンド21により作業用ヘルメット20に取り付けられる場合もある。また、
図13の(a)に示すように作業靴22のかかとに、絶縁ケース15がクリップ15aにより取り付けることもできる。また、(b)図に示すように作業靴22のつま先の甲側にバンド23により絶縁ケース15が取り付けることもできる。
【0057】
この様に、第1電極16又は18は誘電体であるヘルメット20や作業靴22及び絶縁ケース15を介して人体Hに装着されるが、電圧源Wに人体Hが近づくと、作業者である人体Hに微小電流が流入する。そこで、人体Hと第1電極16又は18間の静電容量C1は、実施の形態例1と比べて小さくなるが、第1電極16又は18と第2電極17又は19との間で電流が生じ、これを検出回路14でとらえて、警報が発せられる。
【0058】
以下、検電器Bについて実証試験を行った。
まず、交流電圧源の各電圧について距離と電界強度の状況を測定した。
【0059】
電界強度は、デジタル電磁波測定器(GM3120)を使用して測定した。人体帯電は電極部を体に押し当てて電界強度を測定した。また、測定器のGNDはケーブルでGNDに接続している。
【0060】
図14はその測定結果を示す各電圧における電圧源と人体との距離に対する電界強度の値を示す表及びグラフ図である。これらを見ると、交流電圧源が電圧1kVの場合、電圧源と人体との距離が110cmでは96V/mが測定され、3kVの場合は240V/mが測定された。これにより1kV以上の電圧源に対し約1m離れた距離で96V/mの電界強度が検出されることが分かった。
【0061】
次に、交流電圧源を3kVの活線とした場合の人体及び頭部周辺空間の電界強度を測定した結果を
図15に示す。また、
図16は、前記検電器Bをヘルメットの後部に付けた場合であって、第1電極及び第2電極の形状による、前記3kVの電源からの距離によって警報音がどのように動作するかを測定した。
【0062】
なお、
図16において、「センサ側電極」は第2電極を指し、「人体側電極」は第1電極を示す。また、「前向接近」は活線に向かって前向きに人体が接近した場合、「後向接近」は活線に後ろ向きで接近した場合を示す。「短連」はほぼ連続音、「短4」は10秒間に4回警報音が鳴る場合、「短10」は10秒間に10回警報音が鳴り、「短30」は10秒間に30回警報音が鳴ることを意味する。従って、「短4」は電界強度が弱く、「短連」は電界強度が強いことを意味する。
【0063】
この表から、番号3の第2電極が長さ10mmの棒型で、第1電極が60×30mmの方形板型のものは「前向接近」では110cmの距離で毎10秒間で5回の警報音がなり、「後向接近」では210cmの距離で毎10秒間で5回の警報音が鳴る。また、番号1の第2電極が長さ20mmの棒型で、第1電極が直径40mmの円板型のものは「前向接近」で70cmの距離で「短30」の警報音がなり、「後向接近」では230cmで「短4」の警報音が鳴る。
【0064】
また、番号2の第2電極が直径35mm、高さが7mmの円筒型、第1電極が直径40mmの円板型のものは「前向接近」でも190cmの距離で「短21」の警報音がなり、「後向接近」では330cmで「短15」の警報音が鳴る。また、番号4の第2電極が長さ10mmの棒型、第1電極が直径40mmの円板型のものが「前向接近」でも190cmの距離で「短27」の警報音がなり、「後向接近」では330cmで「短4」の警報音が鳴る。
【0065】
この様に、交流電源が1000V以上、好ましくは3000V以上であれば、第1電極が人体に密着しておらず、第1電極がヘルメットや検知器の絶縁ケース等の誘電体を介している場合でも、検電器の機能を充分発揮する。第1電極を人体に密着させる場合は、汗等の影響で検出が不確実になる恐れもあるが、このように誘電体を介した場合は汗等の影響を受けない。
【0066】
しかしながら、上記
図16の表の結果から、電気工事での当該検電器の使用では、電源から100cm離れた箇所で警報音が鳴りだす、番号3、2、4の構成の検電器が実用的である。
【0067】
なお、上記実施の形態例1及び2では検電器A又はBに音声発生回路9及び点灯表示回路10を設けたが、これらを設けずに、比較回路8からの出力を送信部(図示省略)で受けて外部に無線で信号を飛ばし、検電器Aとは別に設けた通信機器や端末機器でこれを受信し、当該機器で警報や表示する構成にすることもできる。
【0068】
以上、実施の形態例1及び2を説明したが、これは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この発明はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことが出来る。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
A 検電器 B 検電器
G 大地 H 人体
W 電圧源
1 第1電極 1a 電極板
1b 接続部 2 第2電極
3 基板 4 検出回路
5 帯状体 5a 面ファスナー
5b 面ファスナー 6 増幅回路
7 基準電流発生回路 8 比較回路
8 音声発生回路 9 点灯表示回路
11 電源 12 スイッチ
15 絶縁ケース 15a クリップ
16 第1電極 17 第2電極
18 第1電極 19 第2電極
20 ヘルメット 21 バンド
22 作業靴 23 バンド