(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】イベント施設
(51)【国際特許分類】
E04H 3/14 20060101AFI20240808BHJP
E04B 1/70 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
E04H3/14 C
E04B1/70 D
(21)【出願番号】P 2021000417
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591219393
【氏名又は名称】株式会社梓設計
(74)【代理人】
【識別番号】100160299
【氏名又は名称】伊藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】新井 舞子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】川野 久雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 佳剛
(72)【発明者】
【氏名】永廣 正邦
(72)【発明者】
【氏名】古田 安人
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-291129(JP,A)
【文献】実開昭50-105214(JP,U)
【文献】特開平08-105276(JP,A)
【文献】特開平11-324106(JP,A)
【文献】特開2009-041320(JP,A)
【文献】特開2018-021430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 3/14-3/16
E06B 7/082
E04B 1/70
F24F 13/08-13/18
E04H 17/14
E04H 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開放されたフィールド部と、前記フィールド部の周囲に設けられたスタンド部と、前記スタンド部の上方を覆う屋根部と、前記スタンド部の背面を覆う壁面部を備え、
前記屋根部の下側において、前記壁面部の外側に突出するように庇部を有し、前記庇部の下方における前記壁面部に形成され
、前記フィールド部と前記壁面部の外方とを通風可能にする開口部に風速低減部材を備えるイベント施設であって、
前記風速低減部材を備える前記開口部が複数設けられており、前記風速低減部材は、
一の前記開口部内において、鉛直方向
に所定間隔で並設される複数枚の細長羽根板を有するとともに、他の前記開口部内において、水平方向に所定間隔で並設される複数枚の細長羽根板を有し、
少なくとも一部の隣接する前記細長羽根板は、鉛直軸又は水平軸に対して、相互に反対向きに傾斜角度を有するように配設されているとともに、
前記細長羽根板は、部分的に形状又は寸法
が変え
られていることを特徴とするイベント施設。
【請求項2】
正面視した場合において、前記隣接する各細長羽根板間に間隙部が形成されており、
前記間隙部の面積の総和は、前記開口部の総面積の20%~60%であること、を特徴とする請求項1に記載のイベント施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風速低減部材を備えたイベント施設に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サッカータジアムと陸上競技場を兼用する屋外競技場のような複合的なイベント施設が多く整備されている。このような兼用屋外競技場の場合には、サッカー競技用の天然芝育成のために一定の風の流入を必要とするとともに、夏場の観客席の快適性向上及び熱中症危険性低減の要請のために、競技場の内部の通風を確保する必要がある。そのため、卓越風向又はコンコースなどの箇所に大きな開口部を備えたものが多い。
【0003】
このような要請から、通風性を確保するために、アリーナと、その周部に配置したスタンドとを備え、平面視において、スタンドの外方とアリーナとを通風可能な状態に連通させる複数の連通路を、スタンドの下方空間を貫通する状態で、アリーナの各辺部に対応させて設けている競技場が知られている(特許文献1)。
【0004】
ところで、競技場を、陸上競技場として使用する場合において、200mまでの短距離走等では風の影響で記録が変わってしまう。そのため、追い風が秒速2.1m以上であると、種目によっては参考記録(通称)となり、記録が公認されないことから、風環境の調整が必要不可欠となる。しかし、上記の従来の競技場は、アリーナへの通風性の確保を優先しているため、風速(風環境)の調整が行われているものではない。
【0005】
一方、防風パネル後縁近傍に形成された回転軸で枠体に回動可能に支持されるとともに、防風パネル断面形が所定の迎え角となるように、その前縁が枠体の一部に載置され、前縁側から吹く風で防風パネルを回転軸回りに回動させ、風の強さに応じて防風パネル間の通風経路を制御するようにした防風フェンス(以下、「第1防風フェンス」という。)が知られている(特許文献2)。
【0006】
また、表裏を貫通して風を導く複数の導風路を備え、これら複数の導風路は、隣接する導風路の水平面内又は鉛直面内での導風方向が互いに逆向きに傾斜するように設けられている防風フェンス(以下、「第2防風フェンス」という。)が存在している(特許文献3)。
【0007】
さらに、間隔を空けて設けた2本の支柱の上下に桟を夫々わたして設け、これらの上下の桟の間に、等間隔で多数の手すり子を縦方向に並べた手すり柵において、各手すり子を細幅板とし、また、支柱も細幅板とし、手すり子及び支柱を含めて、二つおき毎に桟の長手方向に直交するよう配置され、これらの手すり子又は支柱の間の二つの手すり子は桟の長手方向に沿って相互に「ハ」の字となるよう配設された手すり柵が存在している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-209651号公報
【文献】特開2010-18954号公報
【文献】特開2005-307432号公報
【文献】特開2015-200138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、第1防風フェンスは、風速が上がった場合には、防風パネル間に形成される通風経路が狭くなるために防風フェンスを境にして空間が隔絶されてしまい、視界が遮られることで視認性が低下して反対側の様子を把握できなくなるという問題点を有していた。
また、第2防風フェンスは、防風(通風させないこと)を主目的とし、防風を前提に風荷重を低減させる技術となっているため、視界が遮られる等の視認性については考慮がなされていないという問題点を有していた。
さらに、従来の手すり柵に関しても、風切音による騒音を減少させることを目的とする技術であり、視界が遮られる等の視認性については考慮がなされていない点では、上記各防風フェンスと同様である。
【0010】
本発明は、上記各問題点を解決するためになされたものであり、適度な通風を確保しつつ、風速の調整及び施設内外からの視認性(適切な視界の確保、及び、光環境の調節[例えば、日射等の光の透過等]を含む)(以下、単に「視認性」という場合がある。)の確保が可能となるイベント施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために用いられる本発明のイベント施設(以下、「本イベント施設」という場合がある。)は、上部が開放されたフィールド部と、上記フィールド部の周囲に設けられたスタンド部と、上記スタンド部の上方を覆う屋根部と、上記スタンド部の背面を覆う壁面部を備え、上記屋根部の下側において、上記壁面部の外側に突出するように庇部を有し、上記庇部の下方における上記壁面部に形成され、上記フィールド部と上記壁面部の外方とを通風可能にする開口部に風速低減部材を備えるイベント施設であって、上記風速低減部材を備える上記開口部が複数設けられており、上記風速低減部材は、一の上記開口部内において、鉛直方向に所定間隔で並設される複数枚の細長羽根板を有するとともに、他の上記開口部内において、水平方向に所定間隔で並設される複数枚の細長羽根板を有し、少なくとも一部の隣接する上記細長羽根板は、鉛直軸(鉛直面)又は水平軸(水平面)に対して、相互に反対向きに傾斜角度を有するように配設されているとともに、上記細長羽根板は、部分的に形状又は寸法が変えられていることを特徴としている。
【0012】
また、本イベント施設において、隣接する細長羽根板の間隔については、適宜定めることが可能であるが、通風確保、風速の調整及び視認性の確保のすべての条件をバランスよく満たすためには、正面視した場合において、上記隣接する各細長羽根板間に間隙部が形成されており、上記間隙部の面積の総和は、上記開口部の総面積の20%~60%(視認性の確保と風速低減効果をさらに両立させるためには、30%~50%)であることが好適である。
【0013】
ここで、本イベント施設は、各種スポーツ(野球、サッカー、ラグビー、陸上、バスケットボール等)の屋外競技場、音楽及び演劇等の多目的複合施設、並びにイベント会場等を含むものであり、各種のイベントの開催に使用される施設に適用することができる。
また、庇部とは、構造物に形成されている開口部(柱と梁で囲まれた構面で、壁面のない空間を含む)の上部に設けられ、水平方向に延在する突出部であり、イベント施設の少なくとも一部を覆う屋根部材の他、床スラブ(例えば、観客席等の床下を構成する部材)の突出部等を含むものである。
【0014】
また、風速低減部材(以下、「本風速低減部材」という。)は、複数の細長羽根板を備えていればよく、開口部内において、鉛直方向に所定間隔で並設されている態様、及び水平方向に所定間隔で並設されている態様であればよい。
なお、視認性を高めるためには、細長羽根板は鉛直方向に所定間隔で並設されている態様を採用することが好適である。また、細長羽根板は、部分的に形状又は寸法等を変えるものであってもよい、
【0015】
少なくとも一部の隣接する細長羽根板は、水平面内又は鉛直面内での風向きが、相互に反対向き(平行とならずに、衝突又は離反する向き)に傾斜するように、すなわち、平面視又は側面視で、細長羽根板が、相互に「ハ字状」、又は「180度回転させたハ字状」となるように配置されている必要がある(以下、この部分を「反対傾斜部」という場合がある。)。このとき、風速低減効果を向上させるためには、隣接する細長羽根板の傾斜角度の絶対値は、鉛直軸(鉛直面)又は水平軸(水平面)の基準線に対して30度~70度とすることが好適である。
【0016】
なお、細長羽根部材の断面形状は、例えば、翼型形状、丸形断面又は三角形形状等と比べて、隅角部での剥離が起こりやすく、空気抵抗が大きくなるため風速低減効果が得られやすいことから、矩形形状にすることよりが好ましい。
また、細長羽根板の反対傾斜部は、開口部の全体に設けられていても、必要最小限で部分的に設けられていてもよい。例えば、風の流入方向に対して一方向に傾斜するように細長羽根板を配置した部分を、風速低減効果が高い箇所に部分的に配置し、反対傾斜部を適宜箇所に併設するものであってもよい。
【0017】
また、風速低減部材は、イベント施設における庇部の下部に形成される開口部の少なくとも一部に設けられるものであればよく、開口部の形状を問うものでもない。加えて、細長羽根板の並設態様以外の、材質、寸法、形状(細長羽根板を含む)には制限はなく、取付位置に応じて、適宜、定めることができる。
また、風速低減部材は、対象とするイベント施設に関して、所望の複数個所に設置されるものであってもよい。
【0018】
本イベント施設によれば、庇部の下方に形成される開口部内において、鉛直方向又は水平方向に所定間隔で並設されている複数枚の細長羽根板を有し、隣接する細長羽根板は、鉛直軸又は水平軸に対して、相互に反対向きに傾斜角度を有するように配設されている。したがって、細長羽根板を増やすことなく、同一の見付面積(流れ方向に直交する面に部材を平行投影した面積)である風速低減部材と比較して、風速を低減させる効果を高めることができる。また、隣接する細長羽根板を適宜の間隔に定めることにより、所望の風速となるように調整可能となるとともに、視認性を高めることが可能となる。そのため、施設が開放的になり、施設外に居ても内部の状況や臨場感を味わうことができるとともに、施設内に居ても、閉塞感等を感じることをなくすことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、適度な通風を確保しつつ、風速の調整及び施設内外からの視認性の確保が可能となるイベント施設を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を適用した競技場を示す斜視図である。
【
図2】本発明のイベント施設に使用する風速低減部材を示す図であり、(a)は、正面図、(b)は、同図(a)におけるX-X断面図である。
【
図3】本発明のイベント施設に使用する風速低減部材の他の実施形態を示す正面図である。
【
図4】(a)は、本発明のイベント施設に使用する風速低減部材の減速状況を検証した上面図であり、(b)は、第1比較例の減速状況を検証した上面図であり、(c)は、第2比較例の場合の減速状況を検証した上面図である。
【
図5】(a)は、本発明のイベント施設に使用する風速低減部材(他の実施形態)の減速状況を検証した側面図であり、(b)は、第1比較例の減速状況を検証した側面図であり、(c)は、第2比較例の場合の減速状況を検証した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本イベント施設として競技場(以下、本発明を適用した競技場を「本競技場S」という。)を例として、本風速低減部材20,20’を取り付けた場合について、詳細に説明する。なお、図面に基づく説明では、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
[本競技場]
本競技場Sは、陸上競技場とサッカースタジアムとを兼用する屋外型の競技場であり、フィールド部11と、当該フィールド部11の周囲に設けられたスタンド部12と、当該スタンド部12の上方を覆う屋根部15と、スタンド部12の背面を覆う壁面部13を備えている(
図1)。
【0023】
フィールド部11は、トラック競技及びフィールド競技(サッカー競技)を行うために設けられ、平面視で長円形状(トラック形状)に形成されている。このフィールド部11は、矩形形状のフィールド競技部11aと、その周囲の長円環状のトラック競技部11bから構成されており、フィールド競技部11aには、天然芝が植えられている。
【0024】
屋根部15は、中央部に長円形状の上部開口16aを有し、平面視でフィールド部11と略同一形状である屋根板16と、当該屋根板16を支持する大梁(図示せず)を備えており、スタンド部12の所定箇所に立設する支柱(図示せず)により支持されている。
【0025】
スタンド部12は、観客席及び通路等が設けられており、フィールド部11の全周にわたり連続的に設けられている。このスタンド部12は、フィールド部11側に面する前側から後側に向かうほど高くなるように側面視で傾斜して形成されている。
【0026】
さらに、スタンド部12の背面側を覆うように、長円筒状に壁面部13が設けられており、屋根部15の下側には壁面部13の外側に突出するように庇部17が形成されている。そして、庇部17の下方において、壁面部13の半円形状(平面視)の部分の3か所には、上縁部から約1/2の高さの部分に至る領域に、所定幅である矩形形状の開口部18,18’が形成されており、当該開口部18,18’には本風速低減部材20,20’が設置されている。
なお、
図1において、壁面部13の半円形状の部分の正面部において、下記第2のタイプの本風速低減部材20’が設けられており、その両側には、所定の間隔をあけて下記第1のタイプの本風速低減部材20が設けられている。
【0027】
[本風速低減部材]
本風速低減部材20,20’は、二種類のタイプが用いられている。
第1のタイプの本風速低減部材20(以下、このタイプの本風速低減部材20を「鉛直タイプ」という場合がある。)は、矩形形状の枠体21と、当該枠体21の内部に並設されている複数本の細長羽根板22(隣接する細長羽根板を区別する場合には、22A,22B,22C,22Dの符号を付して区別する場合がある)を備えている(
図2(a),(b))。細長羽根板22は、細長の薄板形状であり、鉛直方向に設けられている。そして、隣接する一対の細長羽根板(22A,22B)及び(22C,22D)は、鉛直面に対応した風向きが、相互に反対向き(平行とならずに、衝突又は離反する向き)に傾斜するように、すなわち、平面視で、細長羽根板(22A,22B)及び(22C,22D)が、相互に「ハ字状」となるように配置されている。そのため、上記一対の細長羽根板22A,22Bの一方の細長羽根板22Bと、当該細長羽根板22Bに対向する、他の一対の細長羽根板22C,22Dの一方の細長羽根板22Cは、「180度回転させたハ字状」となるように配置されることになる。
【0028】
隣接する細長羽根板22の鉛直軸に対する傾斜角度の絶対値は、30度~70度の範囲で適宜、調整する必要があるが、本実施形態では約30度の角度とした場合を表示している。
本風速低減部材20を正面視した場合において、隣接する各細長羽根板22間にスリット部23(間隙部)が形成されることになる。そして、本実施形態では、本風速低減部材20のスリット部23の面積の総和は、枠体21全体の面積の20%~60%(さらに、好ましくは30%~50%)となっている(下記本風速低減部材20’でも同様である)。
【0029】
また、第2のタイプの本風速低減部材20’(以下、このタイプの本風速低減部材20’を「水平タイプ」という場合がある。)は、細長羽根板22’が、水平方向に設けられている。そして、枠体21’内に並設される隣接する一対の細長羽根板22’は、水平面に対応した風向きが、相互に反対向きに傾斜するように、すなわち、側面視で、細長羽根板22’が、相互に「ハ字状」となるように配置されている(
図3)。なお、符号23’は、スリット部を示す。
【0030】
[本競技場の作用効果]
本競技場Sによれば、庇部17の下方における壁面部13の開口部18,18’に、本風速低減部材20,20’が配設されている。本風速低減部材20,20’は、開口部18,18’に嵌め込まれている枠体21,21’内において、鉛直方向に所定間隔で並設されている複数枚の細長羽根板22,22’を有し、隣接する細長羽根板22,22’は、鉛直軸又は水平軸に対して、相互に反対向きに傾斜角度を有するように形成されている。そのため、個々の隣接する細長羽根板22,22’の後流(減速)域を効果的に維持できることから、本風速低減部材20,20’を設置している面全体の抵抗が増加し、風速を効果的に減じさせることができる。したがって、枠体21,21’内に設けられる細長羽根板の枚数を増やすことなく、同一の見付面積である風速低減部材と比較して、外部から流入する風の風速を効果的に低減させることができる(実施例参照)。
【0031】
また、隣接する細長羽根板22,22’を適宜の間隔に定めることにより、所望の風速となるように調整可能である。さらに、施設内外から利用者が良好に視界を確保できることとなるため、圧迫感等の防止を図り、開放感を付与するとともに、周辺環境との調和(一体性)を高めることが可能となる。
【0032】
そのため、フィールド競技部11aの天然芝を育成するための通風確保と、トラック競技部11bでトラック競技を行うに際しての風速の制限を抑制すること、並びに、利用者等の視認性の確保の3条件をバランスよく達成させることができ、サッカースタジアムと陸上競技場を兼用している複合競技場の利点を最大限に発揮させることができる。
【0033】
以上、本発明について、好適な実施形態についての一例を説明したが、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各要素に関して、適宜設計変更が可能である。
【0034】
上記のとおり、イベント施設の態様に制限はなく、最適な構成要素を採用することができる。また、風速低減部材の構成要素に関しては、必要最小限の構成要素を例示したものであり、本発明の作用効果を阻害しない限り、必要となる他の構成要素を付加するものであってもよい。
また、本風速低減部材は、競技場の複数個所に設けるものであってもよい。
【0035】
また、本風速低減部材を開口部に設置する場合には、必ずしも矩形形状の枠体は必要なく、2箇所の桟の間、あるいは、開口部に直接的に、細長羽根板を取り付けるものであってもよい。
さらに、細長羽根板の反対傾斜部と、一般的な細長羽根板を並行又は一方向に傾斜させた部分を適宜箇所に併設するものであってもよい。
【実施例】
【0036】
本風速低減部材20,20’の効果を検証するために、2つの実施形態の本風速低減部材20,20’と、各本風速低減部材20,20’に対して、それぞれ2つの比較例の部材(以下、「第1比較例部材30,30’」及び「第2比較例部材40,40’」という。)を使用し、数値流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)による風速の簡易評価試験(RANS[Reynolds-Averaged Navier-Stokes]による定常解析[シミュレーション])を行った。
【0037】
(1)第1実施例
鉛直タイプの本風速低減部材20と、2つの比較例の部材(第1比較例部材30及び第2比較例部材40)(以下、本風速低減部材と、比較例の部材を総称して「試験用部材」ということがある。第2実施例も同様である)に関し、試験用部材の一部を水平方向に取り出し、流入風(秒速5m)を通過させ、試験用部材の下流側の風速を算出した。
【0038】
各比較例部材は、屋根スラブの下部に形成されている開口部(水平範囲2850mm)に吹き込む風を想定し、その速度を低減するため開口部の少なくとも一部を覆うように、取付態様が異なる同一形状である複数枚の細長羽根板を、水平方向に一定間隔で並設することにより形成されている。第1比較例部材30は、奥行方向の辺が風の流入方向と平行となるように垂設されている(
図4(b))。また、第2比較例部材40は、短辺(幅方向の辺)が風の流入方向と30度の角度となる斜め方向(
図4(c)の左方向に近接する向き)に垂設されている。
【0039】
ここで、試験用部材における各細長羽根板は、奥行100mm×厚さ50mmに形成されている。
第1比較例部材30及び第2比較例部材40は、細長羽根板が200mm間隔で配置されている。なお、第2比較例部材40の第1比較例部材30に対する見付面積比は、1.865となっている。
【0040】
本風速低減部材20では、一対の細長羽根板がハ字状(傾斜角度は、左右方向に各々30度)となっており、一対の細長羽根板が400mm間隔で配置されている(但し、
図4(a)の右端部の細長羽根板は一対になっておらず、左方向に傾斜している)。なお、本風速低減部材20の第1比較例部材30に対する見付面積比は、1.865となっている。
【0041】
図4(a)~(c)は、それぞれ、図中の左から右の方向に秒速5mの風を発生させて、試験用部材を通過させ、所定の地点における風速を算出した結果を示したものである(図中の黒塗りの四角部は、測定地点であり、風速の単位はm/sである)。
【0042】
本結果によれば、第1比較例部材30を配置した場合には、全体的に、流入風に対して約10%の風速低減がなされているにすぎない(
図4(b))。
【0043】
この結果からすると、第1比較例部材30を配置する場合において、風速低減効果を高めるためは、隣接する細長羽根板の枚数を増やし、間隔を狭める対応が考えられるが、費用増加が生じるため好ましくない。
【0044】
また、細長羽根板の数を増やさないことを前提に風速低減効果を高めるためには、第2比較例部材40のように細長羽根板を一方向に傾斜させ、当該細長羽根板の見付面積を上げる対応が考えられる。
そこで、第2比較例部材40を配置した場合について検証すると、10%~30%の風速低減がなされているが、全体的に良好な風速低減効果が得られなかった(
図4(c))。この結果によれば、第2比較例部材40を配置した場合には、風向きを全体的に一方向に導風するだけであるため、一部の風速は下げられるが、全体的な風速の低減効果が得られないことが明らかとなった。
【0045】
一方、本風速低減部材20によれば、全体的に約30%の良好な風速低減が得られ、その有用性が確認された(
図4(a))。
【0046】
(2)第2実施例
水平タイプの本風速低減部材20’と、2つの比較例の部材(第1比較例部材30’及び第2比較例部材40’)に関し、第1実施例に準じて、試験用部材の一部を鉛直方向に取り出し、流入風(秒速5m)を通過させ、試験用部材の下流側の風速を算出した。
各比較例部材は、屋根スラブ50’(奥行6000mm×厚さ400mm)の下部に形成されている開口部(鉛直範囲3000mm)に、取付態様が異なる同一形状である複数枚の細長羽根板を、鉛直方向に一定間隔で並設している。第1比較例部材30’は、短辺(幅方向の辺)が風の流入方向と平行となるように横設されている(
図5(b))。また、第2比較例部材40’は、短辺(幅方向の辺)が風の流入方向と30度の角度となるように上向きに横設されている(
図5(c))。
【0047】
ここで、試験用部材の細長羽根板は、奥行100mm×厚さ50mmに形成されている。
第1比較例部材30’及び第2比較例部材40’は、細長羽根板が200mm間隔で配置されている。なお、第2比較例部材40’の第1比較例部材30’に対する見付面積比は、1.865となっている。
【0048】
本風速低減部材20’では、一対の細長羽根板がハ字状(傾斜角度は、上下方向に各々30度)となっており、一対の細長羽根板の設置幅は、400mm間隔で配置されている(但し、
図5(a)の最下部の細長羽根板は一対になっておらず、上方向に傾斜している)。また、本風速低減部材20’の第1比較例部材30’に対する見付面積比は、1.865となっている。
【0049】
なお、第2実施例では、本風速低減部材20’、第1比較例部材30’及び第2比較例部材40’は、屋根スラブ50’の下部に形成されている開口部に取り付けられている。
【0050】
図5(a)~(c)は、それぞれ、図中、左から右の方向に秒速5mの風を発生させて、試験用部材を通過させ、所定の地点での風速を算出した結果を示したものである(図中の黒塗りの四角部は、測定地点であり、風速の単位はm/sである)。
【0051】
本結果によれば、第1比較例部材30’を配置した場合には、全体的に、流入風に対して約10%の風速低減がなされているにすぎない(
図5(b))。なお、最上部の計測点での計測結果は、本風速低減部材20’及び第2比較例部材40’と比較して、屋根スラブ50’との間での空間が広いという構造上の問題、風速低減効果が生じてしまっている。
また、第2比較例部材40を配置した場合には、下方では、約30%の風速低減効果が確認されたが、上方に行くにしたがって、風速低減効果は減少し、屋根スラブ50’の近傍では約7%の風速低減効果しか見られなかった。
しかし、本風速低減部材20’によれば、16%~32%の風速低効果がみられ、全体的に良好な風速低減が得られ、その有用性が確認された(
図5(a))。
【0052】
なお、詳細に説明していないが、参考例として、細長羽根板の断面形状の風速低減に寄与する程度を確認するための解析を行った。この場合には、二等辺三角形状の断面形状の細長羽根板を使用し(第1比較例部材30’に対する見付面積比は、1.865)、隣接する細長羽根板の向きを180度変えて配置した比較例部材を用い、上記各比較例部材における試験に準じて、流入風(秒速5m)を通過させ、試験用部材の下流側の風速を算出した。
【0053】
その結果、本風速低減部材20’と比較して、各細長羽根板の近傍での風速低減効果が小さく、その効果も高さ位置により、ばらつきがあるという結果となった。細長羽根板の断面形状が異なる場合には、各細長羽根板が受ける風荷重が異なることに起因して、このような結果となったことが推察されるが、細長羽根板の断面形状に関し、矩形形状が好適であることの効果が確認された。
【符号の説明】
【0054】
S 競技場(イベント施設)
11 フィールド部
11a フィールド競技部
11b トラック競技部
12 スタンド部
13 壁面部
15 屋根部
16 屋根板
16a 上部開口
17 庇部
18,18’ 開口部
20,20’ 風速低減部材
21,21’ 枠体
22,22’ 細長羽根板
23,23’ スリット部(間隙部)