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特許7535367ビナフチル骨格を有するジエステル化合物の結晶及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ビナフチル骨格を有するジエステル化合物の結晶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/712 20060101AFI20240808BHJP
   C07C 67/02 20060101ALI20240808BHJP
   C07C 67/52 20060101ALI20240808BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C07C69/712 Z
C07C67/02
C07C67/52
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024016789
(22)【出願日】2024-02-07
【審査請求日】2024-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2023021252
(32)【優先日】2023-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】岩本 祐佳
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 崇史
(72)【発明者】
【氏名】畑 優
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-154123(JP,A)
【文献】特開2021-017406(JP,A)
【文献】特開2001-072872(JP,A)
【文献】ALVAREZ-CALERO, Jose Maria et al.,TiCl4/Et3N-Mediated Condensation of Acetate and Formate Esters: Direct Access to β-Alkoxy- and β-A,Organic Letters,2016年12月06日,Vol. 18, No. 24,p.6344-6347
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/712
C07C 67/02
C07C 67/52
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が177℃~181℃である、下記式(1):
【化1】
で表される化合物の結晶。
【請求項2】
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.6±0.2°、8.7±0.2°、18.0±0.2°、19.2±0.2°、19.7±0.2°及び21.9±0.2°にピークを有する、下記式(1):
【化2】
で表される化合物の結晶。
【請求項3】
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が177℃~181℃であり、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.6±0.2°、8.7±0.2°、18.0±0.2°、19.2±0.2°、19.7±0.2°及び21.9±0.2°にピークを有する、下記式(1):
【化3】
で表される化合物の結晶。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の前記式(1)で表される化合物の結晶の製造方法であって、
有機チタン化合物の存在下に、下記一般式(2):
【化4】
(式中、R1a、R1bはそれぞれ独立して分岐を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を示す。)
で表される化合物と、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルとを反応させる工程、及び
晶析溶媒として芳香族炭化水素類、アルコール類、エーテル類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を用い、前記式(1)で表される化合物を晶析する工程、
をこの順で含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビナフチル骨格を有する新規なジエステル化合物の結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビナフチル骨格を有するジカルボン酸成分を重合成分とする、ポリエステル樹脂やポリエステルカーボネート樹脂は、高屈折率及び低複屈折等の光学特性に優れ、高度の耐熱性を具備することから、光ディスク、透明導電性基盤、光学フィルター等の光学部材の原材料として期待されている。中でも、下記式(A):
【0003】
【化1】
で表される構成単位を有する樹脂は、光学特性に優れる樹脂として着目されており、該樹脂は例えば2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルを重合成分として製造される(例えば、特許文献1~3)。また、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルは例えば1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジオールとクロロ酢酸エチル等のハロゲン化酢酸エステルとを反応させることにより製造される(例えば、特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-002893号公報
【文献】特開2018-002894号公報
【文献】特開2018-002895号公報
【文献】特開2021-017406号公報
【文献】特開2008-024650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学樹脂の原料モノマーには、光学樹脂の光学特性に悪影響を及ぼす虞があることから、より高純度であることが求められる。したがって、沸点の高い原料モノマーを工業的規模で製造する際には専ら晶析による精製が行われている。
【0006】
しかしながら、上記した2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルについては、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製しても液状であったり(特許文献5)、仮に晶析で結晶を得ようとしても工業的規模での実施が困難な方法(具体的には1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジオールとクロロ酢酸エチルとをアセトニトリル溶媒中で反応させ、得られた反応混合物から水洗及びアセトニトリルの除去を行うことで得られた残渣の一部に75%アセトン水溶液を加えて冷凍庫で一晩放置する方法)で種晶を得、該種晶を使用することで、ようやく反応混合物から粗結晶が取り出せることが示されている(特許文献4)。このように、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルは結晶性が極めて悪いか、溶媒に溶けすぎることが示唆されるため、該化合物を工業的規模で高純度化することが困難であり、光学樹脂の原料モノマーとして好ましくない。
【0007】
本発明の目的は、より容易に、晶析によって得ることが可能であるビナフチル骨格を有する新規なジエステル化合物の結晶及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記式(1)で表される化合物によれば前記課題が解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下の発明を含む。
【0009】
〔1〕
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が177℃~181℃である、下記式(1):
【0010】
【化2】
で表される化合物の結晶。
【0011】
〔2〕
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.6±0.2°、8.7±0.2°、18.0±0.2°、19.2±0.2°、19.7±0.2°及び21.9±0.2°にピークを有する、下記式(1):
【0012】
【化3】
で表される化合物の結晶。
【0013】
〔3〕
示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が177℃~181℃であり、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.6±0.2°、8.7±0.2°、18.0±0.2°、19.2±0.2°、19.7±0.2°及び21.9±0.2°にピークを有する、下記式(1):
【0014】
【化4】
で表される化合物の結晶。
【0015】
〔4〕
〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の前記式(1)で表される化合物の結晶の製造方法であって、
有機チタン化合物の存在下に、下記一般式(2):
【0016】
【化5】
(式中、R1a、R1bはそれぞれ独立して分岐を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を示す。)
で表される化合物と、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルとを反応させる工程、及び
晶析溶媒として芳香族炭化水素類、アルコール類、エーテル類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を用い、前記式(1)で表される化合物を晶析する工程、
をこの順で含む、製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルに比して、より容易に、晶析によって得ることが可能であるビナフチル骨格を有する新規なジエステル化合物の結晶(即ち、後述する特徴を有する、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶)及びその製造方法を提供することができる。特に、後述する実施例の項にて示す通り、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルに比し、芳香族炭化水素類等の汎用有機溶媒への溶解性が小さいことから、複数種類の有機溶媒を混合して使用せずとも単独の溶媒で晶析可能であるため、高い収率及び純度で回収可能であると共に、使用した溶媒のリサイクルも容易である。更には、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、再晶析により更なる高純度化も可能である。そのため、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルよりも、例えば、上記式(A)で表される構成単位を有する樹脂の原料モノマーとして好適である。
【0018】
併せて、後述する実施例の項にて示す通り、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルに比して融点(示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度)が高いため、より耐ブロッキング性に優れることが期待される。更には、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、熱安定性(5%重量減少温度)にも優れることから、溶融重合等、結晶を溶融して使用しやすいとの特徴も兼ね備える。
【0019】
また、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、後述する特定の製造方法によってのみ製造可能である。例えば、特許文献4及び5に記載の2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルの製造方法に代表される、2,2’-ビス(アルコキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルの一般的な製造方法、即ち、ハロゲン化酢酸アルキルと1,1’-ビ-2-ナフトールとを塩基の存在下に反応させる方法を上記式(1)で表される化合物の製造方法として適用した場合、後述する比較例に記載の通り、反応後の反応混合物は副生物を多量に含むものとなり、結果として本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶を得ることができない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】上記式(1)で表される化合物のH-NMRチャートである。
図2】上記式(1)で表される化合物の13C-NMRチャートである。
図3】上記式(1)で表される化合物の結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図4】上記式(1)で表される化合物の結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0022】
本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、後述する特定の製造方法により製造することができ、その融点(示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度)は177℃~181℃である。また、本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.6±0.2°、8.7±0.2°、18.0±0.2°、19.2±0.2°、19.7±0.2°及び21.9±0.2°に特徴的なピークを有し、好ましくは回折角2θ=14.1±0.2°、16.1±0.2°、22.8±0.2°および25.0±0.2°にもピークを有する。
本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、示差走査熱量分析による融解吸熱最大温度が177℃~181℃である、並びに、Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.6±0.2°、8.7±0.2°、18.0±0.2°、19.2±0.2°、19.7±0.2°及び21.9±0.2°にピークを有する、の少なくとも一方を充足するものであってよく、好ましくは両方を充足する。
【0023】
本発明の上記式(1)で表される化合物の結晶は、有機チタン化合物の存在下に、下記一般式(2):
【0024】
【化6】
(式中、R1a、R1bはそれぞれ独立して分岐を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を示す。)
で表される化合物と、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルとを反応させる工程(反応工程)及び晶析溶媒として芳香族炭化水素類、アルコール類、エーテル類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を用い、上記式(1)で表される化合物を晶析する工程(晶析工程)をこの順で含む製造方法により製造することができる。まず、反応工程について詳述する。
【0025】
上記一般式(2)のR1a、R1bにおける炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0026】
上記一般式(2)で表される化合物は常法により精製されたもの(例えば特許文献4に記載された結晶)を用いてもよく、また、精製されていないもの(例えば1,1’-ビ-2-ナフトールとハロゲン化酢酸エステルとを反応させて得られた反応混合物に含まれる上記一般式(2)で表される化合物)を用いてもよい。特に本発明の式(1)で表される化合物の結晶は芳香族炭化水素類等の汎用有機溶媒への溶解性が小さいため、精製されていない上記一般式(2)で表される化合物を原料として用いても、反応後、晶析により前工程に含まれる不純物を容易に除去可能である。
【0027】
有機チタン化合物としては、例えば、アルコキシチタン触媒等が挙げられる。アルコキシチタン触媒としては、例えば、チタン酸のテトラメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトライソプロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、テトラ-2-エチルヘキシルエステル、テトラオクチルエステル、テトラフェニルエステル、テトラベンジルエステル、テトラトリルエステル等が挙げられる。これら有機チタン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
有機チタン化合物の使用量としては、例えば、上記一般式(2)で表される化合物1モルに対し、0.025モル~0.10モルである。
【0029】
炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルの使用量としては、例えば、上記一般式(2)で表される化合物1モルに対し、4モル~25モルである。
【0030】
上記一般式(2)で表される化合物と、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルとの反応は、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルを溶媒として実施してもよく、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニル以外の他の有機溶媒の存在下に実施してもよい。他の有機溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。また、他の有機溶媒を使用する場合、その使用量は、例えば、上記一般式(2)で表される化合物1重量部に対し、0.05重量部~5.0重量部である。また、これら他の有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記一般式(2)で表される化合物と、炭酸ジフェニル又は酢酸フェニルとの反応は、例えば、130℃~170℃で実施することができる。また、必要に応じて、常圧もしくは減圧下に副生物を除去しながら反応を実施してもよい。減圧下に反応を実施する場合の内圧は例えば、0.67kPa~6.7kPaである。
【0032】
反応工程実施後、得られた反応混合物を晶析工程に供することにより上記式(1)で表される化合物の結晶を得ることができる。なお、晶析工程に供する前に、反応工程実施後に得られた反応混合物に対し、必要に応じて中和、水洗等の後処理や濃縮等を行ってもよい。以下、晶析工程について詳述する。
【0033】
晶析工程で使用される溶媒(晶析溶媒)は、芳香族炭化水素類、アルコール類、エーテル類及びエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物である。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等の分岐を有してもよい炭素数1~6のアルコール類等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。これら晶析溶媒の中でも、芳香族炭化水素類が好ましい。これら晶析溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、単独で使用すれば、より容易に溶媒をリサイクルできるため、環境負荷低減やコストの観点から単独で使用することが好ましい。
【0034】
晶析溶媒の使用量は、例えば、上記式(1)で表される化合物1重量部に対し、1重量部~10重量部である。なお、反応混合物に含まれる上記式(1)で表される化合物の量は、例えば、液体クロマトグラフを用いた絶対検量線法や内部標準法等により測定することが可能である。
【0035】
上記式(1)で表される化合物を晶析する方法としては、例えば、上記式(1)で表される化合物を晶析溶媒に溶解後、得られた溶液を冷却して結晶を析出させ、析出した結晶を濾別する方法が挙げられる。上記式(1)で表される化合物を晶析溶媒に溶解させる温度は、例えば、後述する結晶を析出させる温度より10℃以上高い温度とすればよい。得られた溶液を冷却し、結晶を析出させる温度は、例えば、80℃~100℃である。なお、結晶を析出させる際に種晶を用いてもよいが、上記式(1)で表される化合物は種晶を用いずとも結晶が析出することから、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルのように結晶を析出させるために上述した煩雑な工程を経る必要はなく、容易に晶析可能である。
【0036】
その後、必要に応じ更に冷却を行ってもよい。その際の冷却速度は、例えば、0.1℃/分~20℃/分であり、冷却終点温度は、例えば0℃~25℃である。その後、ろ過、遠心分離等の常法により結晶を取り出すことができる。取り出した結晶は、通常、溶媒を含むが、乾燥させることにより溶媒を除去することができる。乾燥は、例えば、常圧下又は減圧下に加熱することで実施することができる。加熱する際の温度は、例えば、70℃~90℃である。
【0037】
こうして得られた上記式(1)で表される化合物の結晶は、更に、再結晶、蒸留、吸着、カラムクロマトグラフィー等により精製することも可能である。
【実施例
【0038】
以下、実施例等を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、実施例等における各種測定及び試験は下記する方法で実施した。また、実施例等に記載した「純度」は下記条件で測定したHPLCの面積百分率値である。
【0039】
〔1〕HPLC測定
・装置:島津社製 LC-2030
・カラム:XBridge Phenyl(3.5μm、4.6mmφ×150mm)
・カラム温度:40℃
・検出波長:UV 254nm
・移動相:A液=0.1%ギ酸含有超純水、B液=0.1%ギ酸含有アセトニトリル(なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。)
B液濃度:40%(5min hold)→30min→70%(10min hold)→5min→100%(10min)
・移動相流量:1.0ml/min
・サンプル注入量:5μL
【0040】
〔2〕NMR測定
H-NMR及び13C-NMRは、内部標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒として重クロロホルム(CDCl)を用いて、JEOL-ESC400分光計によって記録した。
【0041】
〔3〕LC-MS測定
・装置:Waters社製、Xevo G2 Q-Tof
・カラム:L-Column2 ODS(2μm、2.1mmφ×100mm)
・カラム温度:40℃
・検出波長:UV 200-500nm
・移動相:A液=10mM酢酸アンモニウムメタノール水、B液=メタノール(なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った)
B液濃度:60%(1min hold)→7min→90%(2min hold)
・移動相流量:0.35ml/min
・検出法:Q-Tof
・イオン化法:ESI(+)法
・Ion Source:電圧(+)2.0kV、温度120℃
・Sampling Cone:電圧 10V、ガスフロー50L/h
・Desolvation Gas:温度400℃、ガスフロー1000L/h
【0042】
〔4〕示差走査熱量測定(DSC)
上記式(1)で表される化合物の結晶5mgをアルミパンに精密に秤取し、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社:DSC7020)を用い、酸化アルミニウムを対照として下記操作条件で測定した。
(操作条件)
昇温速度:10℃/min、
測定範囲:30-300℃、
雰囲気 :開放、窒素40ml/min。
【0043】
〔5〕粉末X線回折
上記式(1)で表される化合物の結晶150mgをガラス試験板の試料充填部に充填し、粉末X線回折装置(スペクトリス社製:X’PertPRO)を用いて下記の条件で測定した。
X線源 :CuKα、
出力 :1.8kW(45kV-40mA)、
測定範囲 :2θ=5°~70°、
スキャン速度:2θ=2°/min、
スリット :DS=1°、マスク=15mm、RS=可変(0.1mm~)。
【0044】
〔6〕溶解度の測定
25℃で各結晶の飽和溶液を調製し、更に同温度で15分攪拌後15分静置し上澄み液を採取した。採取液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液を秤量、一定量に希釈後HPLC測定に供することで溶解度(重量%)を算出した。なお、対象化合物の含有量はLC‐ES法にて算出した。
【0045】
〔7〕熱分解温度(Td5)の測定
示差熱天秤(リガク(株)製「Thermo plus EVO2」)を用いて、アルミパンに結晶を5mg精秤し、もう一方のアルミパンは空の状態でセットした。重量値をゼロにセットした後に窒素雰囲気中で昇温速度10℃/minで450℃まで昇温させ、熱分解温度を測定した。なお、熱分解温度は5%重量減少時の温度とした。
【0046】
<実施例1>
攪拌器、加熱冷却器、及び温度計を備えたガラス製反応器に、1,1’-ビ-2-ナフトール50g(0.18モル)、アセトニトリル150g、炭酸カリウム55.5g(0.40モル)、ヨウ化カリウム5gを仕込み、内温を80℃まで昇温し同温度で1時間攪拌した。次いで、クロロ酢酸エチル59.9g(0.49モル)を反応液の温度を70℃~80℃に保ちながら滴下した。24時間同温度で攪拌後、反応液にイオン交換水125gを滴下し、無機塩を溶解させた後水層を分離した。次に得られた有機層を濃縮することで、水及び一部のアセトニトリルを留去した後、トルエン150gを仕込み有機層を水洗した。その後、得られた有機層を濃縮することで水及び一部のトルエンを留去して、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルのトルエン溶液111.4g(トルエン25.1重量%含有)を得た。
上記のトルエン溶液に25℃にて炭酸ジフェニル187g(0.87モル)を仕込み、内温を80℃まで昇温することで炭酸ジフェニルを溶解させた。次にオルトチタン酸テトライソプロピル1.3g(0.0046モル)を仕込み、内圧を1.3kPaまで減圧後、内温を150℃まで昇温し、同温度でトルエン及び副生物を留去しながら8時間反応を実施した。その後、内温を100℃まで冷却した時点で結晶が析出したため、トルエン150gを仕込み、内温を110℃まで昇温することで析出した結晶を再度溶解させた。次に、内温を85℃まで冷却し種晶を添加することなく結晶を析出させた後、10℃/時間の冷却速度で内温を5℃まで冷却した。続いて、同温度で析出した結晶を濾別し、得られた結晶を水浴温度90℃で加熱しながら1.3kPaにて11時間減圧乾燥することで、上記式(1)で表される化合物73.2gを結晶として得た(収率:76%、純度:98.7%)。
得られた結晶について、上記測定方法に従って溶解度を測定した結果を表1に、示差走査熱量測定(DSC)による融解吸熱最大温度及び示差熱天秤による熱分解温度(Td5)を測定した結果を表2に、粉末X線回折で得られた主なX線回折ピーク(5%を超える相対強度を有するもの)を表3に示す。また、前記示差走査熱量測定で得られたDSC曲線を図3に、前記粉末X線回折で得られたX線回折パターンを図4に示す。なお、表中において上記式(1)で表される化合物を「式(1)化合物」と記す。
【0047】
また、得られた上記式(1)で表される化合物について上記測定方法に従ってNMR測定及びLC-MS測定を行った。H-NMR、13C-NMR、及びLC-MSの各スペクトル値を下記する。また、図1及び2にH-NMR、13C-NMRの測定チャートを示す。
【0048】
H-NMR(CDCl)]
δ(ppm)=4.78(4H、s)、6.92(4H、d)、7.17-7.22(6H、m)、7.29-7.34(6H、m)、7.44(2H、d)、7.88(2H、d)、7.99(2H、d)。
【0049】
13C-NMR(CDCl)]
δ(ppm)=67.08、115.44、120.46、121.23、124.30、125.66、126.01、126.68、127.96、129.39、129.85、129.93、133.99、150.06、153.57、167.84。
【0050】
[LC-MS]
質量分析値([M+NH):572.20650
(上記式(1)で表される化合物の計算上の分子量(ESI+;[C3626+NH):572.20676)。
【0051】
<比較例1>
特許文献4の<合成例>に記載の方法と同様にして、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルの粗結晶を製造した。また、得られた粗結晶を用いて、特許文献4の<実施例1>に記載の方法と同様にして、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルの結晶を得た。得られた結晶について、上記測定方法に従って溶解度を測定した結果を表1に、融解吸熱最大温度及び熱分解温度(Td5)を測定した結果を表2に示す。なお、表中において2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルを「化合物A」と記す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
<比較例2>
攪拌器、加熱冷却器、及び温度計を備えたガラス製反応器に、1,1’-ビ-2-ナフトール0.5g(0.0018モル)、4-メチルテトラヒドロピラン1.5g、炭酸カリウム1.0g(0.0072モル)、ヨウ化カリウム0.05gを仕込み、120℃まで昇温し、同温度で1時間撹拌した。次いで、ブロモ酢酸フェニル0.94g(0.0044モル)を反応液の温度を100℃~120℃に保ちながら滴下した。1時間撹拌後、反応混合物についてHPLC測定を行ったところ、副生成物が多量に生成した複雑な混合物となっており、上記(1)で表される化合物を単離することができなかった。
【要約】
【課題】
2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルに比し、より容易に、晶析によって得ることが可能であるビナフチル骨格を有する新規なジエステル化合物の結晶及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
鋭意研究を重ねた結果、下記式(1)で表されるビナフチル骨格を有する新規なジエステル化合物が、2,2’-ビス(エトキシカルボニルメトキシ)-1,1’-ビナフチルに比し芳香族炭化水素類等の汎用有機溶媒への溶解性が小さいことから、より容易に、晶析によって結晶が得られることを見出した。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4