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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】肝硬変の治療のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/428 20060101AFI20240808BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240808BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61K31/428
A61K9/20
A61P1/16
A61P43/00 105
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019203498
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021075487
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】513248083
【氏名又は名称】インベンティバ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ヴェットシュタイン, ギョーム
(72)【発明者】
【氏名】ブロカ, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ジュニアン, ジャン-ルイ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109316601(CN,A)
【文献】J.Med.Chem.,2018年,61,2246-2265
【文献】Glob J Pharmaceu Sci,2017年,1(4),79-90
【文献】MEDCHEM NEWS,2014年,41(2),8-22
【文献】NATURE MEDICINE,2013年,19(6),656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラニフィブラノール若しくはその重水素化誘導体、又はその薬学的に許容される塩、又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む、肝硬変の治療のための医薬組成物。
【請求項2】
肝硬変が、非アルコール性脂肪肝疾患を含む非アルコール性脂肪肝炎により引き起こされる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
肝硬変がアルコール使用障害により引き起こされる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
肝硬変が慢性ウイルス性肝炎により引き起こされる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
肝硬変が原発性胆汁性肝硬変又は原発性硬化性胆管炎により引き起こされる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
肝硬変が薬物により引き起こされる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
上記ラニフィブラノールの重水素化誘導体が下記式(I)の化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【化1】
(式中、R~Rの少なくとも1つは重水素原子であり、他のR~Rは水素原子である。)
【請求項8】
上記ラニフィブラノールの重水素化誘導体が4-(1-(2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-イル)スルホニル)-5-クロロ-1H-インドール-2-イル)ブタン酸である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
上記ラニフィブラノールの重水素化誘導体が4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル]-2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオブタン酸である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
経口投与用である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
錠剤、軟若しくは硬カプセル、トロ-チ剤、ゲル、シロップ又は懸濁剤から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
錠剤である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
100mg~1000mgのラニフィブラノール又はその重水素化誘導体を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
錠剤である、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラニフィブラノール(lanifibranor)又はその重水素化誘導体を含む、肝硬変の治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変は、瘢痕組織及び肝線維症の発生につながる壊死性炎症を誘導する肝損傷の結果として生じる。一次損傷は、例えば、慢性アルコール中毒、慢性ウイルス性肝炎(B型、C型及びD型肝炎)、肝臓に蓄積する脂肪(非アルコール性脂肪肝疾患)、体内の鉄蓄積(ヘモクロマトーシス)、肝臓に蓄積する銅(ウィルソン病)、胆管形成不良(胆道閉鎖症)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)等の多くの形態の肝臓疾患及び異常、あるいはメトトレキサート又はイソニアジド等の薬物から生じ得る(非特許文献1を参照)。
【0003】
肝硬変の発症につながり得るイベントは様々であるが、病態生理は同様のままであり、炎症、実質壊死、線維症、血管障害及び肝機能の消失が主な特徴である(非特許文献2)。代償性肝硬変は、多数の肝内障害にも関わらず、その代償不全が出血性静脈瘤、腹水及び黄疸の存在により明らかになるまで無症候性のままである。
【0004】
全身性炎症は肝硬変の病態生理の重要な要素の一つである。炎症反応は、肝臓が局所的侵襲に反応して本来の構造及び肝機能を回復しようとする協調的な過程である。しかしながら、侵襲又は損傷が持続すると、炎症が継続することによって、正常な肝組織が徐々に非機能性瘢痕組織に置き換わってしまう(非特許文献3)。全身性炎症は、全ての自然免疫細胞及び適応免疫細胞の活性化により媒介される。この活性化によって、炎症性サイトカイン(すなわち、IL-6、IL-1β、IFNγ)の増加及び細胞活性化マーカー(すなわち、ICAM-1、VCAM-1)の発現が起こる(非特許文献4)。肝星細胞(HSC)は、静止時にはビタミンA貯蔵の役割を介して、活性化時には多くの炎症性サイトカイン及びケモカインを分泌することで肝臓内で免疫細胞を動員させる能力を介して、免疫学的に重要な役割を果たす。肝類洞内皮細胞(LSEC)も、免疫細胞がLSECに結合し、実質肝臓に侵入することを可能にする膜マーカーの発現を介して、炎症発症において重要な役割を果たす。様々な免疫細胞のなかでも、マクロファージは炎症をさらに増強する能力を有することから、炎症の主なドライバーである。M1(古典的)/M2(選択的)マクロファージ極性化バランスの調節不全は、慢性炎症性疾患の病因に関わる中心的機構として明らかになっている。このことから、M1マクロファージ表現型を障害する戦略、及び/又はM2マクロファージ極性化を増強する戦略によって、炎症の増強を防ぐことができ、したがって、組織傷害を抑制できる可能性が示唆される(非特許文献3)。
【0005】
原因に関わらず慢性肝疾患の進行はいずれも、主に肝星細胞(HSC)及び肝類洞内皮細胞(LSEC)の表現型及び機能的変化により生じる肝類洞の変化に寄与する。
【0006】
LSECは、腸由来の血液と脂肪組織との界面に局在する特殊な内皮細胞である一方、肝細胞、クッパー細胞及び星細胞のような肝臓細胞でもある。LSECは、例えば、血液と肝実質との双方向的な脂質交換の主要な制御因子である。LSEC窓(fenestrae)によって、リポタンパク質、カイロミクロンレムナント等の巨大分子が類洞血流からディッセ腔へと効率的に移動でき、そこでそれらが肝細胞に取り込まれる。
【0007】
肝星細胞は、ディッセ腔中のLSECに近い非実質細胞であり、生理的条件でレチノイドを貯蔵し、肝損傷及び炎症時にその表現型を活性化筋線維芽細胞状態に変化させて、大量の細胞外マトリックス成分を分泌し、肝線維症を促進する。
【0008】
慢性肝疾患時において、LSEC及びHSCの機能的変化は肝硬変進行の重要な要素である。
【0009】
LSECは、血液白血球の動員、接着及び遊出を促す炎症性受容体(すなわち、ICAM1、VCAM1)の発現等の炎症誘発性表現型を獲得する。加えて、LSECによる炎症性メディエーターの放出は、隣接するクッパー細胞を活性化することで炎症反応に寄与し、肝内炎症をさらに増強する。最後に、ディッセ腔及び実質に位置するマクロファージがそれぞれ、炎症性・線維化促進環境により活性化され、有害な環境をさらに作り上げることになる(非特許文献5)。
【0010】
LSECは、毛細血管化及び内皮機能障害を介して肝線維症にも寄与する。LSECの毛細血管化は、慢性肝疾患の患者及び動物モデルにおいて観察され、線維症の発症を促進する。健常なLSECはHSCの静止状態を維持するが、毛細血管化したLSECはこの能力を失う(非特許文献6)。
【0011】
代償期から非代償期への移行に関与する肝硬変に伴う主要な合併症は門脈圧亢進症である。
【0012】
門脈系は、主に上腸間膜静脈、下腸間膜静脈及び脾静脈を介して、腸、脾臓及び膵臓から肝臓へ血液を排出する。門脈は、肝臓にその血液要求量の80%、酸素要求量の20%を供給する。門脈系は弁のない系であるため、系内のどこでも圧力は同じである。門脈系の圧力は、肝外門脈系の閉塞、又は門脈血流に対する抵抗の増加のいずれかにより上昇する。肝硬変では、門脈圧の上昇は肝血管抵抗により引き起こされる。肝内抵抗の増加は、(i)肝類洞の構造的変化(類洞線維症及び再生結節)と、(ii)類洞細胞からの血管拡張因子の産生低下に起因する肝内循環の機能的(動的)血管収縮とが組み合わさって生じる。HSCは、増殖、収縮性筋線維芽細胞への形質転換、及び肝類洞における細胞外マトリックス沈着を起こすことで肝損傷に反応する。通常は窓を含むLSECは、窓を失うことで損傷に反応し、その結果、基底膜の沈着により類洞の毛細血管化が生じる。毛細血管化は、肝内抵抗の増加及び線維症形成の促進の両方において非常に初期のプレーヤーとして作用し得る。LSECは類洞細胞の収縮性も増加させる。
【0013】
肝内血管抵抗が増加すると、門脈系の圧力が上昇し、それにより、内臓血管で剪断応力が生じ、血管拡張因子が放出される。結果としての内臓動脈の血管拡張は、臨床的に重要な門脈圧亢進症の発症に至る門脈圧亢進症の進行及び悪化におけるコア因子である。内臓血管拡張は体循環にも影響を及ぼして、平均動脈圧を低下させる。門脈圧が上昇すると、大きな静脈(静脈瘤)が食道及び胃を横断して発達して、閉塞を迂回する。静脈瘤はもろくなり、出血しやすくなる。肝硬変が進行するにつれてより多くの瘢痕組織が形成されるため、肝臓が機能しにくくなって非代償性肝硬変に至る。進行した肝硬変は生命を脅かすものであり、肝移植手術が必要となることもある(非特許文献7)。
【0014】
ラニフィブラノール(lanifibranor){4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロインドール-2-イル]ブタン酸;CAS927961-18-0}は、現在承認された治療法がない非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の患者の治療を目的として現在臨床開発中の汎PPARアゴニストである。PPARは、遺伝子の発現を制御する核内ホルモン受容体ファミリーに属するリガンド活性化転写因子である。PPARα、PPARγ及びPPARδとして知られる3種類のPPARアイソフォームが存在する。PPARαは肝細胞で高度に発現し、脂肪酸輸送及びβ酸化を制御し、抗炎症性を示す(非特許文献8、9)。PPARδはグルコ-ス及び脂質代謝、並びに骨格筋におけるインスリン抵抗性を制御する(非特許文献10)。PPARβ/δは、不飽和脂肪酸及び15-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15-HETE)を含む、炎症過程で機能する広範な天然アゴニストの受容体として働く(非特許文献11)。PPARγは脂肪組織で高度に発現し、そこで脂肪細胞の分化を促進し、グルコ-ス取り込み、トリグリセリド蓄積及び抗炎症性サイトカインの分泌を増加させる(非特許文献12)。PPARγは肝星細胞(HSC)でも発現し、そこで該細胞の運命を制御し、静止状態に維持することで、該細胞の活性化、筋線維芽細胞への分化転換、並びに肝臓の線維性瘢痕の主要構成要素であるコラーゲン及びフィブロネクチンの産生を妨げる(非特許文献13、14)。門脈圧亢進症を有する肝硬変ラットにおける二重α/γPPARアゴニストであるアレグリタザルの効果が最近研究されている(非特許文献15)。
【0015】
活性化のために1種類又は2種類のPPARアイソフォームのみを標的とするPPARアゴニストが存在するが、ラニフィブラノールは3種類のPPARアイソフォ-ム全て(そのため、「汎PPARアゴニスト」と呼ばれる)を中程度の効力で活性化し、PPARα及びPPARδのバランスのとれた活性化、並びにPPARγの部分的な活性化を示す。
【0016】
PPARδは、M1マクロファージに比べて炎症能が低い別のM2マクロファージへの極性化を促進する役割を通して、肝臓の炎症に関与する(非特許文献16)。しかしながら、マクロファージにおけるPPARδの役割はより複雑である可能性があり、マクロファージに与える影響は、NASH及び肝硬変の発症の段階によって異なる。実際に、PPARδは、DNA結合及び遺伝子制御を含む標準的な制御を介してだけでなく、複数の炎症誘発性メディエーターの阻害につながる内因性リガンド結合によってもマクロファージを制御できた(非特許文献11)。
【0017】
現在、ラニフィブラノールは、肝硬変の前臨床モデルにおいて有益な効果を発揮しており、肝類洞内皮細胞の表現型を改善し、線維症、類洞毛細血管化及び門脈圧亢進症の顕著な寛解をもたらすことが見出されている。したがって、ラニフィブラノールの使用は、進行した慢性肝疾患、特に肝硬変の治療のために検討される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/cirrhosis/symptoms-causes/syc-20351487
【文献】D’Amigo G,Morabito A,D’amigo M,Mlizia G,Rebora P,Valsecchi MG.Clinical states of cirrhosis.Journal of Hepatology 2018;68:563-576
【文献】Martinez-Esparza M,Tristan-Manzano M,Ruiz-Alcaraz AJ,Garcia-Penarrubia P.Inflammatory status in human hepatic cirrhosis.World J Gastroenterol.2015;21(41):11522-11541
【文献】Dirchwolf M,Ruf AE.Role of systemic inflammation in cirrhosis:From pathogenesis to prognosis.World J Hepatol.2015;7(16):1974-1981
【文献】Zhou WC,Zhang QB,Qiao L.Pathogenesis of liver cirrhosis.World Journal of gastroenterology 2014;20:7312-7324
【文献】Poisson J et al.Journal of Hepatology 2017,66,212-227
【文献】Turco L and Garcia-Tsao G;Clin Liver Dis,2019,23,573-587
【文献】Lefebvre P,Chinetti G,Fruchart JC,Staels B.Sorting out the roles of PPAR alpha in energy metabolism and vascular homeostasis.J Clin Invest 2006;116:571-580
【文献】Zambon A,Gervois P,Pauletto P,Fruchart JC,Staels B.Modulation of hepatic inflammatory risk markers of cardiovascular diseases by PPAR-alpha activators:clinical and experimental evidence.Arterioscler Thromb Vasc Biol 2006;26:977-986
【文献】Lee CH,Olson P,Hevener A,Mehl I,Chong L-W,Olefsky JM,et al.PPARdelta regulates glucose metabolism and insulin sensitivity.Proc Natl Acad Sci USA 2006;103:3444-3449
【文献】Adhikary T,Wortmann A,Schumann T,Finkernagel F,Lieber S,Roth K,Toth PM,Diederich WE,Nist A,Stiewe T,Kleinesudeik L,Reinartz S,Muller-Brusselbach S,Muller R.The transcriptional PPARβ/δ network in human macrophages defines a unique agonist-induced activation state.Nucleic Acids Res.2015 May 26;43(10):5033-5051
【文献】Grygiel-Gorniak B.Peroxisome proliferator-activated receptors and their ligands:nutritional and clinical implications--a review.Nutr J 2014;13:17
【文献】Hazra S,Xiong S,Wang J,Rippe RA,Krishna V,Chatterjee K,et al.Peroxisome proliferator-activated receptor gamma induces a phenotypic switch from activated to quiescent hepatic stellate cells.J Biol Chem 2004;279:11392-11401
【文献】Marra F,Efsen E,Romanelli RG,Caligiuri A,Pastacaldi S,Batignani G,et al.Ligands of peroxisome proliferator-activated receptor gamma modulate profibrogenic and proinflammatory actions in hepatic stellate cells.Gastroenterology 2000;119:466-478
【文献】Tsai HC,Li TH,Huang CC,Huang SF,Liu RS,Yang YY et al.Beneficial effect of the Peroxisome proliferator-activated receptor α/γ agonist aleglitazar on progressive hepatic and splanchnic abnormalities in cirrhotic rats with portal hypertension.The Am J of Pathology 2018;188:1608-1624
【文献】Liu Y,JK,Zuo X,Jaoude J,Wei D,Shureiqi I,The Role of PPAR-δ in Metabolism,Inflammation,and Cancer:Many Characters of a Critical Transcription Factor.Int J Mol Sci.2018;19:3339
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、進行した慢性肝疾患、特に肝硬変の治療のための医薬組成物であって、ラニフィブラノール若しくはその重水素化誘導体、又はその薬学的に許容される塩、又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む医薬組成物に関する。
【0020】
本発明はまた、門脈圧亢進症の制御のための医薬組成物であって、ラニフィブラノール若しくはその重水素化誘導体、又はその薬学的に許容される塩、又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】溶媒(Veh)又はラニフィブラノール(Lani)を投与したラットにおける、コラーゲン(col)沈着により示される線維症の程度を示す。
図2】溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるTIMP1及びTIMP2のレベルを示す。
図3図3aは、溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるα-SMAレベルを示す。図3bは、溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるデスミンレベルを示す。
図4】溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおける窓の割合(%)を示す。
図5】溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるフォン・ヴィルブランド因子(vWF)レベルを示す。
図6】溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるICAM-1、E-セレクチン(E-Sel)及びVCAM-1のレベルを示す。
図7】溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるIL-6レベルを示す。
図8】溶媒又はラニフィブラノールを投与したラットにおけるASTレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ラニフィブラノール若しくはその重水素化誘導体、又はその薬学的に許容される塩、又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む、進行した慢性肝疾患の治療のための医薬組成物に関する。
【0023】
いくつかの実施形態において、進行した慢性肝疾患は肝硬変である。いくつかの実施形態において、肝硬変は、初期アルコール中毒、慢性アルコール中毒又は末期アルコール中毒等のアルコール使用障害により引き起こされる。他の実施形態において、肝硬変は慢性ウイルス性肝炎により引き起こされる。他の実施形態において、肝硬変はNAFLD及び/又はNASHにより引き起こされる。他の実施形態において、肝硬変は原発性胆汁性肝硬変及び/又は原発性硬化性胆管炎により引き起こされる。他の実施形態において、肝硬変は薬物により引き起こされる。
【0024】
いくつかの実施態様において、ラニフィブラノールの重水素化誘導体は下記式(I)の化合物である。
【0025】
【化1】
【0026】
式中、仏国特許出願第1857021号に記載されるように、R~Rのうち少なくとも1つは重水素(D)原子であり、他のR~Rは水素(H)原子である。いくつかの態様では、少なくともRはDである。いくつかの態様では、R~Rのうち少なくとも1つはDであり、特にR及びRのうち少なくとも1つ、並びに/又はR及びRのうち少なくとも1つ、並びに/又はR及びRのうち少なくとも1つはDである。好ましい態様では、R、R、R、R、R及びRのそれぞれがDである。
【0027】
いくつかの実施形態において、ラニフィブラノールの重水素化誘導体は4-(1-(2-ジュウテリオ-1,3-ベンゾチアゾール-6-イル)スルホニル)-5-クロロ-1H-インドール-2-イル)ブタン酸である。他の実施形態において、ラニフィブラノールの重水素化誘導体は4-[1-(1,3-ベンゾチアゾール-6-イルスルホニル)-5-クロロ-インドール-2-イル]-2,2,3,3,4,4-ヘキサジュウテリオブタン酸である。
【0028】
いくつかの実施形態において、ラニフィブラノール又はその重水素化誘導体は、その薬学的に許容される塩又は溶媒和物の形態である。「溶媒和物」という用語は、本明細書において、ラニフィブラノール又はその重水素化誘導体と、1種以上の薬学的に許容される溶媒分子、例えばエタノール、とを含む分子複合体を記載するために使用される。「水和物」という用語は、上記溶媒が水である場合に用いられる。ラニフィブラノール又はその重水素化誘導体の薬学的に許容される塩は、その酸付加及び塩基塩を含む。
【0029】
いくつかの態様において、ラニフィブラノール又はその重水素化誘導体の塩は、非毒性の薬学的に許容される有機又は無機塩基で形成されたものを含む。無機塩基の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムが挙げられる。有機塩基の例としては、アミン、アミノアルコール、リジン又はアルギニン等の塩基性アミノ酸、及びベタイン又はコリン等の第四級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0030】
本発明はまた、ラニフィブラノール若しくはその重水素化誘導体(上記定義の通り)、又はその薬学的に許容される塩、又はその薬学的に許容される溶媒和物を含む、門脈圧亢進症の制御のための医薬組成物に関する。
【0031】
ラニフィブラノール若しくはその重水素化誘導体、又はその薬学的に許容される塩、又はその薬学的に許容される溶媒和物は、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物中に処方することができる。賦形剤の選択は、個々の投与方式、溶解性及び安定性に対する賦形剤の影響、並びに剤形の性質等の要因に大きく依存する。本発明の医薬組成物は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,19th Edition(Mack Publishing Company,1995)(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の方法等の従来の方法により調製することができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、上記医薬組成物は経口投与に適している。経口投与に適した組成物の例としては、錠剤、軟若しくは硬(ゼラチン)カプセル、トロ-チ剤、ゲル、シロップ又は懸濁剤が挙げられる。
【0033】
いくつかの実施形態において、上記医薬組成物は、約1~約1000mgのラニフィブラノール又はその重水素化誘導体、例えば、約10mg、約20mg、約50mg、約100mg、約200mg、約500mg、約750mg又は約1000mgの上記化合物を含む。
【0034】
本発明を以下の実施例により例示する。
【実施例
【0035】
チオアセトアミド(TAA)の投与により誘発された肝硬変のラットモデルにおいてラニフィブラノールを評価した。該投与により、初期の時点で線維症が発症し、その後、後期の時点で肝硬変が発症して、動物の大部分が非代償性肝硬変に移行する。
【0036】
Sprague Dawleyラット(各群12~15匹)にTAA(週に2回)を12週間腹腔内投与して、確実に非代償性肝硬変へ到達させた。この期間の終わりに、4日間のTAA解毒期間が観察された。その後、ラットには溶媒(メチルセルロ-ス1%+ポロキサマー188 0.1%)中100mg/kg/日のラニフィブラノール又は溶媒単独(対照)のいずれかを2週間経口投与した。2週間の投与終了時に、in vivoで全身及び肝臓の血行動態を測定してから、ラットを屠殺し、血漿試料及び肝組織を採取した。
【0037】
血行動態測定値は以下のようにして得た。平均動脈圧(MAP)及び心拍数(HR)は大腿動脈のカニューレ挿入により、門脈圧(PP)は回結腸静脈のカニューレ挿入により測定し、いずれも、圧力プローブに接続したヘパリン化p50カテーテル(Portex)を用いた。また、門脈血流(PBF)は特異的非収縮性血管周囲超音波通過時間フロープローブ(Transonic Systems Inc.)を用いて測定した。
【0038】
組織診断用肝組織試料を4%ホルムアルデヒド(Sigma)で固定し、パラフィンに包埋し、切片を作製し、ピクリン酸水溶液中0.1%シリウスレッド(Sigma)で染色した。
【0039】
類洞窓を電子顕微鏡で分析した。
【0040】
トリトン溶解緩衝液を肝組織試料のタンパク質抽出に用いた。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動によってタンパク質を分子量により分離し、ニトロセルロース膜に移した(ウエスタンブロット)。
【0041】
Trizol(Life Technologies)を用いて肝組織からRNAを抽出し、NanoDrop分光光度計を用いて定量した。QuantiTect逆転写キット(Qiagen)に従って逆転写を行った。PowerUp SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher)及び特異的プライマーを用いてqPCRを行った。
【0042】
<血行動態パラメータ及び腹水>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して門脈圧(PP)(11.2±0.5mmHg対13.1±0.4mmHg、p<0.05)、肝内抵抗(IHVR)(0.75±0.1mmHg・分/mL対0.53±0.06mmHg・分/mL、p<0.05)を有意に低下させた。表1から分かるように、体重、肝臓重量、脾臓重量又は心拍数に変化は認められなかった。TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して腹水(16%対67%;p=0.04)も有意に減少させた(表1)。
【0043】
【表1】
【0044】
<線維症>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して、コラーゲン沈着(ピクロシリウスレッド(PSR)染色12.3%対18%、p<0.05)の組織学的減少が32%であることから明らかであるように、確立された線維症を有意に減少させた。この組織学的所見は、コラーゲン1a1mRNA発現の有意な低下(p<0.005)を伴っていた(図1)。
【0045】
<線維症マーカー>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して、線維症の2種類のマーカーであるTIMP1及びTIMP2のmRNA発現(それぞれp<0.001及びp<0.05)を有意に低下させた(図2)。
【0046】
<肝星細胞(HSC)活性化>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して、HSC活性化の主要マーカーであるα-SMA(α平滑筋アクチン)の発現をmRNA及びタンパク質のレベル(それぞれp<0.005及びp<0.05)の両方で有意に低下させた(図3a)。
【0047】
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較してデスミンのタンパク質レベル(p<0.05)を有意に低下させた(図3b)。
【0048】
<類洞毛細血管化>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して、類洞窓の増加(p<0.05)により明らかであるように類洞毛細血管化を有意に減少させた(図4)。
【0049】
<フォン・ヴィルブランド因子>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較してフォン・ヴィルブランド因子のタンパク質レベル(p<0.01)を有意に低下させた(図5)。
【0050】
<肝類洞内皮細胞(LSEC)>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して、ICAM-1及びE-セレクチン(P<0.05)mRNAの有意な低下とVCAM-1mRNA発現の傾向とにより明らかであるようにLSEC活性化(炎症誘発性)表現型を有意に減少させた(図6)。
【0051】
<IL-6mRNA発現>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して、炎症性サイトカインであるIL-6mRNA発現(p<0.05)を有意に低下させた(図7)。
【0052】
<血漿中のASTタンパク質含量>
TAA曝露ラットにおいて、100mg/kgのラニフィブラノールは、溶媒と比較して血漿中のASTタンパク質含量(p<0.005)を有意に低下させた(図8)。
【0053】
上記結果によると、ラニフィブラノールを投与した肝硬変ラットの門脈圧(PP)は溶媒投与動物よりも有意に低かったが、門脈血流(PBF)に有意な変化はなかった。このことから、肝血管抵抗(HVR)が改善したことが示された。門脈圧亢進症の改善に応じて、ラニフィブラノールを投与した動物のほとんどで腹水はみられなかった。全身血行動態への影響は認められなかった。加えて、ラニフィブラノール投与ラットは、有意な線維症退縮、肝星細胞(HSC)活性化の阻害、類洞毛細血管化の減少、並びに肝臓炎症及び異常(AST)の改善を示した。肝硬変の炎症成分(IL-6ARNレベルで表される)は、ラニフィブラノール投与により有意に阻害されたことも注目に値する。
【0054】
理論に拘束されることは望まないが、ラニフィブラノールがPPARα及びPPARδのバランスのとれた活性化、並びにPPARγの部分的な活性化を示すという事実によって、得られた結果、特に類洞毛細血管化の減少が説明されると考えられる。本出願人の知る限りでは、類洞毛細血管化に対するこのような効果は、これまでPPARアゴニストについて報告されていない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8