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特許7535375茹で麺の製造方法、および茹で麺の食感劣化を防止する方法
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  • 特許-茹で麺の製造方法、および茹で麺の食感劣化を防止する方法 図1
  • 特許-茹で麺の製造方法、および茹で麺の食感劣化を防止する方法 図2
  • 特許-茹で麺の製造方法、および茹で麺の食感劣化を防止する方法 図3
  • 特許-茹で麺の製造方法、および茹で麺の食感劣化を防止する方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】茹で麺の製造方法、および茹で麺の食感劣化を防止する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20240808BHJP
【FI】
A23L7/109 C
A23L7/109 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019230339
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2020099323
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018240088
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 充
(72)【発明者】
【氏名】吉原 ひろみ
(72)【発明者】
【氏名】太田 瑛美
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/021214(WO,A1)
【文献】特開2008-017746(JP,A)
【文献】特開2007-049972(JP,A)
【文献】特開平05-276882(JP,A)
【文献】特開平09-051764(JP,A)
【文献】特開2004-222550(JP,A)
【文献】特開2005-278406(JP,A)
【文献】特開平06-311864(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190310(WO,A1)
【文献】特開昭53-072846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラビアガム、ガティガム、および大豆多糖類からなる群より選択される1種以上の多糖類を含有する水溶液で麺を茹でること、および茹でた後、麺を冷蔵または冷凍することを特徴とする、茹で麺の製造方法。
【請求項2】
アラビアガム、ガティガム、および大豆多糖類からなる群より選択される1種以上の多糖類を含有する水溶液で麺を茹でること、および茹でた後、麺を冷蔵または冷凍することを特徴とする、保存後の茹で麺の食感劣化を抑制する方法。
【請求項3】
多糖類が、アラビアガム、大豆多糖類またはその混合物を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
麺が、小麦粉を原料として含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水溶液の多糖類の濃度が、0.01~30質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、平成30年12月21日に日本国特許庁に出願された出願番号2018-240088号の優先権の利益を主張する。優先権基礎出願はその全体について、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、保存時の食感の劣化が抑えられた茹で麺の製造方法、および保存時の茹で麺の食感劣化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
あらかじめ茹でられた状態で常温、冷蔵、または冷凍保存される麺類は、簡便に料理に応用できることから、弁当・惣菜、外食産業等で広く流通されている。しかしながら、茹でた麺を常温、冷蔵、または冷凍保存すると、保存中に食感の劣化が生じる場合がある。
【0004】
特許文献1は、冷蔵ないし冷凍で保存・流通される麺類の食感およびホグレ性を改善した麺類として、特定の澱粉、加工澱粉およびデュラム小麦由来の蛋白質を配合した麺の製造方法を開示する。しかしながら、麺の配合に特徴を有するものであり、例えば市販の麺に応用できるものではない。特許文献2は、第一の食塩水で麺類をα化する工程、冷却工程、および第二の食塩水を接触させる工程を含む調理済麺類の製造方法を開示する。しかし、麺類を2段階の食塩水で加工する必要があり、簡便な方法とはいえない。
【0005】
また、特許文献3には、ガティガムの水溶液に麺を浸漬するか、あるいはガティガムの水溶液を麺に噴霧する方法が開示されているが、麺のほぐれを改善する目的であり、常温、冷蔵、または冷凍保存時の茹で麺の食感の劣化を改善するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6408732号公報
【文献】特開2017-051163号公報
【文献】特開2008-283888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、保存時の食感劣化が抑制された茹で麺を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の多糖類を含有する水溶液で麺を茹でることにより、保存時の麺の食感劣化、より具体的には麺が硬くなることを防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、プルラン、および大豆多糖類からなる群より選択される1種以上の多糖類を含有する水溶液で麺を茹でることを特徴とする、茹で麺の製造方法、
(2)アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、プルラン、および大豆多糖類からなる群より選択される1種以上の多糖類を含有する水溶液で麺を茹でることを特徴とする、保存後の茹で麺の食感劣化を抑制する方法、
(3)多糖類が、アラビアガム、大豆多糖類またはその混合物を含む、(1)または(2)の方法、
(4)茹でた後、麺を冷蔵または冷凍することをさらに含む、(1)~(3)のいずれかの方法、
(5)麺が、小麦粉を原料として含む、(1)~(4)のいずれかの方法、
(6)水溶液中の多糖類の濃度が、0.01~30質量%である、(1)~(5)のいずれかの方法、および
(7)(1)、(3)~(6)のいずれかの製造方法で製造された、保存時の食感劣化が抑制された茹で麺、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存の際の食感劣化が抑えられた茹で麺を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1の官能検査の生データを示す図である。
図2図2は、実施例2の官能検査の生データを示す図である。
図3図3は、実施例3の官能検査の生データを示す図である。
図4図4は、実施例4の官能検査の生データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一の態様において、本発明は、多糖類を含有する水溶液で麺を茹でることを特徴とする、茹で麺の製造方法を提供する。また、他の態様において、本発明は、多糖類を含有する水溶液で麺を茹でることを特徴とする、保存後の茹で麺の食感劣化を抑制する方法を提供する。
【0013】
本明細書において、「麺を茹でる」とは、麺を、麺全体がつかる程度以上のお湯に入れて、沸騰状態を一定時間保つことをいう。
【0014】
本明細書において、麺とは、澱粉等の多糖類を含む原料と水分を混合して作成した生地を成型したものをいう。具体的な麺の例として、うどん、ひやむぎ、そうめん、きしめん、そば、中華麺、パスタ、ビーフン、フォー、冷麺、葛きり、はるさめ、餃子の皮等が挙げられる。ある特定の実施形態において、麺はパスタである。典型的には、麺は穀粉と水分を含む原料を捏ねて作成した生地を成型したものである。より具体的な実施形態において、麺は小麦粉を原料として含む。麺の形状も特に限定されず、例えば、細長い線状のもの、マカロニ状、シート状のものや、リボン型、星型、キャラクター型等に成型したもの等が挙げられる。典型的には、麺の形状は細長い線状のものである。また、茹でる際の麺の状態も特に限定されず、乾麺、生麺のいずれでもよい。一実施形態において、麺はα化されていてもよいし、されていなくてもよい。ある特定の実施形態において、麺はα化されていない乾麺である。
【0015】
本態様において、麺には澱粉等の多糖類を含む原料、水分の他に、麺に使用できる原料を追加してもよい。他の原料の例として、果実、野菜、果汁、野菜汁、コーヒー、茶、卵、乳製品、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、食物繊維、安定剤、保存料、酸化防止剤、増粘剤、ゲル化剤、界面活性剤およびキレート剤等が挙げられる。他の原料の添加量や添加のタイミングは特に限定されず、当業者が適宜調整できる。
【0016】
本態様で茹で水に使用される多糖類は、アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、プルラン、および大豆多糖類からなる群より選択される1種以上の多糖類であり、好ましくは、アラビアガム、ガティガム、プルラン、および大豆多糖類からなる群より選択される1種以上の多糖類であり、より好ましくは、アラビアガム、大豆多糖類またはその混合物である。
【0017】
本態様において、水溶液中の多糖類の濃度は、麺の種類、形状、水溶液の粘度等に応じて当業者が適宜調整できる。多糖類の濃度の例として、例えば下限として約0.01、0.03、0.06、0.1、0.2、0.3、0.5、0.8、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10質量%以上、上限として約30、26、23、20質量%以下等が挙げられる。
【0018】
本態様において、多糖類を含有する水溶液中で麺を茹でる温度、時間は麺の種類や所望の性状等に応じて当業者が適宜調整できる。温度の例として、約80~100℃、約100~125℃等が挙げられる。また、茹で時間の例として、約1~20分、約1~10分、約2~5分等が挙げられる。
【0019】
ある実施形態において、本態様における茹で麺は茹でた後に冷却される。冷却方法は特に限定されず、例えば流水等の水による冷却、冷風による冷却、冷蔵庫、冷凍庫での冷却が挙げられる。冷却温度は当業者が適宜調整でき、例えば、常温~約10℃、約10~0℃、約0~-5℃、約-5~-20℃、約-20~-60℃等が挙げられる。
【0020】
ある実施形態において、本態様における茹で麺は常温、冷蔵、または冷凍で保存される。保存温度は製品に応じて当業者が適宜設定でき、例えば、約5~35℃、約10~30℃、約15~25℃、約0~10℃、約-5~0℃、約-20~-5℃、約-60~-20℃等が挙げられる。より具体的な実施形態では、本態様における茹で麺は冷蔵、または冷凍で保存される。
【0021】
本態様における茹で麺は、常温、冷蔵、または冷凍で保存した際の食感の劣化が抑制される。より具体的には、常温、冷蔵、または冷凍で保存した際に麺が硬くなることを防止できる。さらに具体的には、本態様を用いた麺は、本態様における多糖類の水溶液を茹で水に用いずに、同じ温度、時間で茹でた後に同条件で同じ時間、常温、冷蔵、または冷凍保存した麺と比較して、茹でた直後の麺の食感により近いものとなる。
【0022】
ある実施形態において、本態様における茹で麺は、常温または冷蔵で約2日間以上、または約5日間以上の保存が可能である。より具体的には、例えば約1~10日間、約9、約8、約7、約6、約5、約4、約3、約2、または約1日間の保存が可能である。
【0023】
本態様では、従来技術のような、他の設備が必要な浸漬、噴霧等の工程を必要とせず、さらに練り込みといった原料段階での特別な工程が不要である。すなわち、例えば市販の麺を利用して、通常の麺を茹でる設備を用いるのみで、茹で麺の保存時の食感の劣化を抑制することができる。
【0024】
本発明は、他の態様において、上記態様により製造された茹で麺を提供する。また、他の態様において、上記態様により製造された茹で麺を含む食品を提供する。本態様の茹で麺は、保存時の食感の劣化が抑制されており、そのまま包装して製品として販売でき、またレストランでの料理、弁当、惣菜の原料等として利用できる。
【0025】
本明細書において、「約」なる用語は、±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。また、その範囲の境界値となる数値は、本明細書に記載されているものとみなされる。
【実施例
【0026】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明の例示のために用いられるものであり、本発明の限定を意図するものではない。特に記載の無い限り、「%」、「部」は質量基準である。
【0027】
実施例1:多糖類の種類による麺の食感劣化抑制効果の比較(冷蔵保存)
市販のパスタを、表1に記載の配合の茹で水に、それぞれ1/10量加えて3分間ボイルした。茹でた麺を湯切りし、10%の大豆油を加え、容器に入れて、5℃の冷蔵庫で2日間保存した。多糖類を添加しない水を使用して麺を茹でたものを対照とし、麺の硬さ、弾力について、対照を茹でた直後に相当するものを5点、対照を5℃で1日間保存したものに相当するものを3点、対照を5℃で2日間保存したものに相当するものを1点とし、食品開発に3年以上従事するパネラー5名により評価した。茹でた直後よりも麺が硬くなるほど点数が低くなり、また茹でた直後よりも麺の弾力が少なくなるほど点数が低くなる。結果を表2に示す。表内の数値は、パネラー5名の評価の平均値である。また、麺の硬さ、麺の弾力の数値を平均したものを総合評価とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示すとおり、キサンタンガムを添加した1、2は保存時の麺の食感の劣化を抑制する効果は得られないか、効果が弱かった。アラビアガム、ガティガム、プルラン、大豆多糖類を添加したものについては、抑制効果が得られた。特に、アラビアガム、大豆多糖類について優れた結果が得られた。
【0031】
実施例2:多糖類の種類による麺の食感劣化抑制効果の比較(冷凍保存)
市販のパスタを、表3に記載の配合の茹で水に、それぞれ1/10量加えて3分間ボイルした。茹でた麺を湯切りし、10%の大豆油を加え、容器に入れて、-40℃で急速冷凍した後、-20℃で2日間保存した。多糖類を添加しない水を使用して麺を茹でたものを対照とし、麺の硬さ、弾力について、対照を茹でた直後に相当するものを5点、対照を-20℃で1日間保存したものに相当するものを3点、対照を-20℃で2日間保存したものに相当するものを1点とし、食品開発に3年以上従事するパネラー5名により評価した。結果を表4に示す。表内の数値は、パネラー5名の評価の平均値である。また、麺の硬さ、麺の弾力の数値を平均したものを総合評価とした。
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
表4に示すとおり、冷凍保存においても、冷蔵保存と同様の結果が得られた。
【0035】
実施例3:麺の種類による食感劣化抑制効果の比較
番号33:そば(乾麺)、番号34:うどん(乾麺)、番号35:素麺(乾麺)、番号36:中華麺(生麺)の各種麺を、大豆多糖類5%の茹で水で、茹で水の1/10量の麺を入れて3分間ボイルし、容器に入れて5℃で2日間保存した。各番号の麺に対応する麺を、水のみで茹でたものを対照とし、麺の硬さ、弾力について、対照を茹でた直後に相当するものを5点、対照を5℃で1日間保存したものに相当するものを3点、対照を5℃で2日間保存したものに相当するものを1点とし、食品開発に3年以上従事するパネラー5名により評価した。結果を表5に示す。表内の数値は、パネラー5名の評価の平均値である。また、麺の硬さ、麺の弾力の数値を平均したものを総合評価とした。
【0036】
【表5】
【0037】
表5に示すとおり、パスタ以外の各種麺でも保存時の麺の食感の劣化を抑制する効果が得られた。また、乾麺、生麺のいずれでも効果が得られた。
【0038】
実施例4:浸漬との比較
番号37として、水に1/10量の中華麺(生麺)を入れて3分間ボイルした後、大豆多糖類5%の水溶液に1/10量の茹でた麺を30秒間浸漬し容器に入れて5℃で2日間保存した。処理を行っていない麺を水のみで茹でたものを対照とし、麺の硬さ、弾力について、対照を茹でた直後に相当するものを5点、対照を5℃で1日間保存したものに相当するものを3点、対照を5℃で2日間保存したものに相当するものを1点とし、食品開発に3年以上従事するパネラー5名により評価した。結果を表6に示す。表内の数値は、パネラー5名の評価の平均値である。また、麺の硬さ、麺の弾力の数値を平均したものを総合評価とした。
【0039】
【表6】
【0040】
表6に示すとおり、番号36と番号37を比較すると、浸漬による方法よりも、茹で水に多糖類を添加する方法がより有効であることが示された。茹で水に多糖類を添加する方法によって、浸漬よりも優れた保存時の食感劣化抑制効果がなぜ得られるのかは不明であるが、茹で水に多糖類を添加することにより、麺になんらかの構造的な変化が生じている可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、設備を追加することなく、また原料段階で処理をする必要なく、例えば市販の麺を利用して、簡便な方法により、茹で麺の常温、冷蔵、または冷凍保存時の食感の劣化を抑制することが可能となる。
図1
図2
図3
図4