(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C23C14/24 C
(21)【出願番号】P 2020095941
(22)【出願日】2020-06-02
(62)【分割の表示】P 2020520683の分割
【原出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019090499
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】横山 礼寛
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-039055(JP,A)
【文献】特表2003-502494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャンローラを有する真空チャンバと、キャンローラに巻き掛けられるシート状の基材を走行させる基材走行手段と、一面が開口されてその開口側から真空チャンバに開設した取付開口に装着される格納チャンバと、格納チャンバ内に設けられる蒸着ユニットと、格納チャンバの開口を向く方向を上として、格納チャンバ内で蒸着ユニットを上下方向に進退する移動手段とを備える真空蒸着装置において、
蒸着ユニットが、蒸着物質が収納される収容箱と、収容箱内の蒸着物質を加熱する加熱手段と、収容箱上面の開口を覆う、放出開口が形成される蓋体とを有し、蓋体の放出開口がキャンローラの軸線に対して直交する姿勢で蒸着ユニットがセットされて当該放出開口から加熱により昇華または気化した蒸着物質が放出され、
真空チャンバ内に、蒸着ユニットの部分が格納される蒸着室を区画する第1隔壁と、第1隔壁に連設されて蒸着ユニットの周方向両側に位置するキャンローラの外筒部分をキャンローラの外周面に一致する曲率で湾曲する第1間隙を介して覆う第2隔壁とを更に備え、第1間隙を境界として蒸着室とこの蒸着室に隣接する真空チャンバ内の隣接室とが互いに連通し、第2隔壁で蒸着室と隣接室との間のコンダクタンスが確定されるように構成し、
第2隔壁が、キャンローラの回転軸を回転中心として回動自在な一対の回動アームの先端間に夫々架設されて、蒸着ユニットに対向するキャンローラの部分を遮蔽する遮蔽位置と蒸着ユニットから周方向に離間した退避位置との間でキャンローラの回転軸を回転中心として回動自在に構成され、各回動アームの互いに向かい合う面が第1間隙部を存して重ねられ、第2隔壁がキャンローラの周囲で第1間隙を保持したまま移動自在であることを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記第2隔壁の遮蔽位置と退避位置との間の第2隔壁の回動経路にて、第2隔壁の前記キャンローラの軸線方向の端面とこれに対峙する真空チャンバの内壁面との間に第2間隙部が形成されると共に、第2隔壁の外周面と真空チャンバの内壁面との間に第3間隙部が形成され、前記蒸着室と隣接室とが、第1間隙部、第2間隙部及び第3間隙部のみを通じて連通するように構成したことを特徴とする請求項
1記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着物質が収納される収容箱と収容箱内の蒸着物質を加熱する加熱手段とを備え、収容箱の一面に、加熱により昇華または気化した蒸着物質を放出する放出開口が形成される蒸着ユニットを備えて、特に、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材に対して成膜するのに適した真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば所定速度で移動(走行)する、比較的幅広のシート状の基材や基板などの被蒸着物に成膜する蒸着ユニットは例えば特許文献1で知られている。このものは、蒸着物質を収容する収容箱と、この収容箱内の蒸着物質を加熱する加熱手段とを備える。収容箱(上面)の蓋部には、筒状の放出開口が基材の幅方向に間隔を存して列設されている(所謂ラインソース)。そして、真空雰囲気の真空チャンバ(メインチャンバ)内にて収容箱を加熱することで、昇華または気化した蒸着物質が各放出開口から放出され、所定の余弦則に従ってその放出開口からドーム状に拡がりながら被蒸着物に向けて飛散し、蒸着される。
【0003】
このような蒸着ユニットの収容箱は、通常、真空チャンバ内に固定配置される。このため、蒸着ユニットを組付けて真空蒸着装置を設計する場合、使用される蒸着物質の種類や、収容箱に対する単位時間当たりの加熱手段からの加熱量に応じた蒸着物質の飛散分布を考慮して、放出開口と被蒸着物との間の距離を設定することが一般的である。然し、同じ蒸着物質でもその加熱量(加熱温度)によっては、収容箱内で昇華または気化する蒸着物質の量が変わることで、その飛散分布も変わる一方で、異なる蒸着物質の場合、加熱量を適宜制御して収容箱内で昇華または気化する蒸着物質の量を一致させても、その種類によっては飛散分布が変わる。このため、収容箱を真空チャンバ内に固定配置するのでは、汎用性にかける。しかも、蒸着時、放出開口を含めて収容箱にも蒸着物質が付着、堆積するため、収容箱のクリーニングを含むメンテナンスを定期的に行うことになるが、これを複数の部品が設けられている真空チャンバ内で行うのでは、メンテンナンスの作業性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、汎用性が高く、メンテナンス性に優れた、キャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に連続的且つ良好に蒸着するための真空蒸着装置を提供することをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の真空蒸着装置は、キャンローラを有する真空チャンバと、キャンローラに巻き掛けられるシート状の基材を走行させる基材走行手段と、一面が開口されてその開口側から真空チャンバに開設した取付開口に装着される格納チャンバと、格納チャンバ内に設けられる蒸着ユニットと、格納チャンバの開口を向く方向を上として、格納チャンバ内で蒸着ユニットを上下方向に進退する移動手段とを備える真空蒸着装置において、蒸着ユニットが、蒸着物質が収納される収容箱と、収容箱内の蒸着物質を加熱する加熱手段と、収容箱上面の開口を覆う、放出開口が形成される蓋体とを有し、蓋体の放出開口がキャンローラの軸線に対して直交する姿勢で蒸着ユニットがセットされて当該放出開口から加熱により昇華または気化した蒸着物質が放出され、前記キャンローラの軸線方向をX軸方向、X軸に直交する方向をY軸方向として、前記蓋体がX軸方向に長手で且つ板状であり、前記蓋体のX軸方向中央領域でY軸方向に対峙させて前記放出開口の外縁部に、突片と当該突片を受け入れる受入孔を有する受入部材とのいずれか一方を夫々設けると共に、蒸着ユニットを蒸着位置に移動させると、突片が受入孔に嵌着するように当該放出開口の外縁部の上方に突片と受入部材とのいずれか他方を夫々設け、蒸着ユニットを蒸着位置に移動させると、蓋体のX軸方向両端部に当接する押圧片を更に設けたことを特徴とする。前記第1及び第2の各突片が柱状に形成される場合、前記受入孔のうち一方がY軸方向に長手の長円状の輪郭を有し、その他方が円形の輪郭を有する構成を採用してもよい。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明の真空蒸着装置は、キャンローラを有する真空チャンバと、キャンローラに巻き掛けられるシート状の基材を走行させる基材走行手段と、一面が開口されてその開口側から真空チャンバに開設した取付開口に装着される格納チャンバと、格納チャンバ内に設けられる蒸着ユニットと、格納チャンバの開口を向く方向を上として、格納チャンバ内で蒸着ユニットを上下方向に進退する移動手段とを備える真空蒸着装置において、蒸着ユニットが、蒸着物質が収納される収容箱と、収容箱内の蒸着物質を加熱する加熱手段と、収容箱上面の開口を覆う、放出開口が形成される蓋体とを有し、蓋体の放出開口がキャンローラの軸線に対して直交する姿勢で蒸着ユニットがセットされて当該放出開口から加熱により昇華または気化した蒸着物質が放出され、真空チャンバ内に、蒸着ユニットの部分が格納される蒸着室を区画する第1隔壁と、第1隔壁に連設されて蒸着ユニットの周方向両側に位置するキャンローラの外筒部分をキャンローラの外周面に一致する曲率で湾曲する第1間隙を介して覆う第2隔壁とを更に備え、第1間隙を境界として蒸着室とこの蒸着室に隣接する真空チャンバ内の隣接室とが互いに連通し、第2隔壁で蒸着室と隣接室との間のコンダクタンスが確定されるように構成し、第2隔壁が、キャンローラの回転軸を回転中心として回動自在な一対の回動アームの先端間に夫々架設されて、蒸着ユニットに対向するキャンローラの部分を遮蔽する遮蔽位置と蒸着ユニットから周方向に離間した退避位置との間でキャンローラの回転軸を回転中心として回動自在に構成され、各回動アームの互いに向かい合う面が第1間隙部を存して重ねられ、第2隔壁がキャンローラの周囲で第1間隙を保持したまま移動自在であることを特徴とする。この場合、前記第2隔壁の遮蔽位置と退避位置との間の第2隔壁の回動経路にて、第2隔壁の前記キャンローラの軸線方向の端面とこれに対峙する真空チャンバの内壁面との間に第2間隙部が形成されると共に、第2隔壁の外周面と真空チャンバの内壁面との間に第3間隙部が形成され、前記蒸着室と隣接室とが、第1間隙部、第2間隙部及び第3間隙部のみを通じて連通する構成を採用してもよい。
【0008】
以上によれば、格納チャンバに蒸着ユニットを設けてモジュール化されているため、例えば、キャンローラを有して、このキャンローラに巻き掛けられたシート状の基材の部分に対して成膜が実施されるメインチャンバ(真空チャンバ)に開設された取付開口に、格納チャンバをその開口側から装着するだけで、収容箱の放出開口がキャンローラの軸線に対して直交する姿勢で蒸着ユニットをセットすることができる。そして、移動手段により蒸着ユニットを上下方向に移動させれば、放出開口がキャンローラ(ひいては、それに巻き掛けられたシート状の基材の部分)に対して近接または離間する、即ち、放出開口と被蒸着物との距離を蒸着ユニットの上下動のストロークの範囲内で任意に変化させることができる。その結果、例えば、蒸着物質の種類や加熱温度に応じて、昇華または気化した蒸着物質の飛散分布を調整することが可能になる。しかも、メンテナンス時には、メインチャンバの取付開口から格納チャンバごと、蒸着ユニットを取り外すことができるため、上記従来例のものよりメンテンナンスの作業性を向上させることができる。
【0009】
なお、前記収容箱は、上面を開口した外容器と、外容器の内壁面に固定の支持枠と、支持枠の内側に配置されて蒸着物質が収納される内容器と、外容器と内容器との上面の開口を覆う、放出開口が形成される蓋体とを備え、支持枠の所定位置にその内方に向けて突出する複数本の支持ピンが配置され、外容器内に内容器を格納したとき各支持ピンで内容器が支持されるように構成することが好ましい。これによれば、支持ピンで内容器を支持するため、伝熱による熱損失が小さくなって効率よく内容器を加熱することができる。この場合、外容器の内面を例えば電解研磨により鏡面仕上げしておけば、加熱手段で内容器を加熱するときに、外容器の内面が熱を反射するリフレクターとしての役割を果たし、輻射熱が加わってより一層効率よく内容器を加熱することができ、有利である。
【0010】
ところで、蒸着時、放出開口が形成される蓋体が冷却される場合があり、このような場合には、収容箱(内容器)に温度勾配が生じて、単位時間当たりの加熱手段からの加熱量に応じた、収容箱内で昇華または気化する蒸着物質の量が変化し、ひいては飛散分布が変化する場合がある。そこで、本発明において、前記加熱手段は、前記支持枠で保持されて前記内容器の外壁面に対向配置される複数本のシースヒータで構成され、前記内容器の外壁を複数の領域に分け、各領域に夫々対向配置されるシースヒータ毎に、所定電流値で通電可能とすることが好ましい。これによれば、領域毎に電流値を適宜設定してシースヒータからの加熱量を調整すれば、収容箱(内容器)に温度勾配が生じることを可及的に抑制でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の蒸着ユニットを設けた真空蒸着装置をその蒸着ユニットの退避位置で模式的に示す断面図。
【
図2】本実施形態の蒸着ユニットを設けた真空蒸着装置をその蒸着ユニットの蒸着位置で模式的に示す断面図。
【
図4】加熱手段を一体に組み付けた蒸着ユニットの収容箱を示す斜視図。
【
図6】第2隔壁を移動させる機構をその遮蔽位置で示す部分分解斜視図。
【
図7】第2隔壁を移動させる機構をその退避位置で示す部分分解斜視図。
【
図8】蒸着ユニットの収容箱の変形例を示す斜視図。第2隔壁を移動させる機構をその退避位置で示す部分分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、所謂巻取り式の真空蒸着装置に適用した場合を例に本発明の実施形態の蒸着ユニット及びこの蒸着ユニットを備える真空蒸着装置を説明する。以下においては、キャンローラの軸線方向が水平方向に一致する姿勢で当該キャンローラが、真空チャンバとしてのメインチャンバ内に収容されているものとし、軸線方向をX軸方向、同一の水平面内でX軸に直交する方向をY軸方向、X軸及びY軸に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、また、「上」「下」といった方向は
図1を基準とする。
【0013】
図1~
図3を参照して、本実施形態の真空蒸着装置Cmは、メインチャンバ1を備える。メインチャンバ1には、図示省略のターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ等で構成される真空ポンプが接続されて、真空雰囲気の形成(例えば、10
-5Pa)が可能になっている。メインチャンバ1の下面中央には、
図1に示す断面視にて半正六角形の輪郭を持つ、下方に突出する突出部11が形成されている。X軸方向にのびる突出部11の各平坦面12には、後述のキャンローラ2を臨む取付開口13が形成され、取付開口13を介して本実施形態の蒸着ユニットVUが着脱自在に装着できるようになっている。
【0014】
メインチャンバ1の上部空間には、図外の繰出ローラから移送されるシート状の基材Swをキャンローラ2へと案内し、キャンローラ2を周回したシート状の基材Swを図外の巻取ローラへと移送するために、複数個のガイドローラGrが配置されている。なお、特に図示して説明しないが、メインチャンバ1には、上流側チャンバと下流側チャンバとが連設され、上流側チャンバにはシート状の基材Swが巻回され、一定の速度でこのシート状の基材Swを繰り出す繰出ローラが設けられ、下流側チャンバにはメインチャンバ1にてキャンローラ2の周囲を周回することで成膜された成膜済みのシート状の基材Swを巻き取る巻取ローラが設けられている。シート状の基材Swを繰り出して巻き取るまでの機構としては、公知のものが利用できるため、これ以上の詳細な説明を省略する。
【0015】
キャンローラ2は回転軸21を備え、回転軸21がメインチャンバ1内でX軸方向(軸線方向)に間隔を置いて配置される2個の軸受装置Bmで軸支され、メインチャンバ1外に配置されるモータM1により所定の回転速度で回転駆動されるようになっている。軸受装置Bmは、特に詳細に図示していないが、枠体に径方向内側の内軸受と径方向外側の外軸受とを一体に組み付けたものであり、内軸受が回転軸21を軸支すると共に、外軸受が後述の第2隔壁の回動アームを回動自在に支持するようになっている。特に図示して説明しないが、キャンローラ2には、公知の方法でシート状の基材Swを加熱または冷却する機構が内蔵されている。
【0016】
各蒸着ユニットVUは、同一の構造を有し、連通開口30aが形成されるように一面を開口した格納チャンバ30を備え、格納チャンバ30が、取付開口13を囲うようにしてメインチャンバ1の平坦面12にその外側から夫々装着されるようになっている。格納チャンバ30には、連通開口30aに後述の放出開口34cの位相を一致させた姿勢で格納される収容箱3が設けられ、収容箱3には、その内部の蒸着物質Vmを加熱する加熱手段4が一体に組み付けられている。蒸着物質Vmとしては、シート状の基材Swに形成しようとする薄膜に応じて金属材料や有機材料が用いられる。本実施形態では、鉛直方向下方に位置する一方の平坦面12(
図1中、右側)と、水平面に対して傾斜した他方の平坦面12(
図1中、左側)とに2個の蒸着ユニットVUが夫々装着されたものを例に説明するが、これに限定されるものではなく、例えば、全ての平坦面12に蒸着ユニットVUを装着し、または、鉛直方向下方に位置する平坦面12にのみ蒸着ユニットVUを装着することもできる。この場合、蒸着ユニットVUが装着されない取付開口13には、これを塞ぐ蓋体(
図1及び
図2では、これを省略している)が装着される。
【0017】
図4及び
図5も参照して、収容箱3は、鉛直方向下方に位置する平坦面12に装着されるものを例に説明すると、例えばステンレス製であり、上面(キャンローラ2との対峙面)を開口した外容器31と、上面を除く外容器31の内壁面を覆うように、板状部材32a,32bを格子状に組み付けてなる外容器31に固定の支持枠32と、支持枠32の内側に配置されて蒸着物質Vmが収納される内容器33と、外容器31と内容器33との上面の開口を覆う蓋体34とから構成されている。外容器31と内容器33とは、
図1に示す断面視にて互いに相似な有底直方体状の輪郭を有し、外容器31と内容器33のX軸方向長さは、キャンローラ2の母線(X軸方向)長さと同等以上に設定されている(
図3参照)。外容器31と内容器33のY軸方向長さ(幅)は、シート状の基材Swの横幅(具体的には、基材Swに対するX軸方向の蒸着範囲)や蒸着レート等を考慮して適宜設定される。
【0018】
また、支持枠32の所定位置には、その内方に向けて突出する複数本の支持ピンとしてのボルト35が立設され、外容器31の内側に内容器33を挿入すると、各ボルト35の頭部のみで内容器33が支持されるようにしている。キャンローラ2の外周面に対峙する蓋体34は、夫々が互いに平行な2本の横辺34aと縦辺34bからなる板材をキャンローラ2の外周面に一致する曲率で湾曲させて構成され、その中央には、内容器33の上面の開口に合致する単一の放出開口34cが開設されている。放出開口34cの内縁部が内容器33の上端に固定され、内容器33と蓋体34とが一体化されている。そして、
図4に仮想線で示す蓋体34が一体の内容器33を外容器31にその上面開口側から挿入すると、この外容器31の上面の開口が蓋体34で閉塞される。また、格納チャンバ30の外壁面には、直動モータやエアシリンダで構成される移動手段5が設けられ、その外壁面を貫通してその内部にのびる移動手段5の駆動軸51が収容箱3に連結されている。これにより、移動手段5によって蒸着ユニットVUの収容箱3が上下方向(即ち、蓋体34の放出開口34cの孔軸がキャンローラ2の軸線に対して直交する方向)に進退する。
【0019】
加熱手段4は、内容器33のX軸方向の両外側壁面、Y軸方向の両外側壁面並びに内容器33の下外壁の全体を覆うように配設した複数本のシースヒータ41で構成され、支持枠32で固定されている。そして、真空雰囲気中で蒸着物質Vmが収納された内容器33を外容器31に挿入した状態で加熱手段4の各シースヒータ41で加熱すると、蒸着物質Vmが内容器33内で昇華または気化し、この昇華または気化した蒸着物質が放出開口34cから放出される。ここで、キャンローラ2に内蔵した冷却機構によってシート状の基材Swを冷却しながら、蒸着するような場合、放射冷却により蓋体34が冷却されることで、内容器33に上下方向の温度勾配が生じる虞がある。本実施形態では、内容器33の外壁のうち、内容器33のY軸方向の両外側壁の上部と、内容器33のY軸方向の両外側壁の中央部と、内容器33のY軸方向の両外側壁の下部及び内容器33の下外壁と、内容器33のX軸方向の両外側壁との4つの領域に分け、各領域に対向するシースヒータを第1~第4の各シースヒータ41a,41b,41c,41dとし、第1~第4の各シースヒータ41a,41b,41c,41dを第1~第4の各電源装置Ps1、Ps2,Ps3,Ps4に夫々接続した。そして、第1~第4の各電源装置Ps1、Ps2,Ps3,Ps4によって第1~第4の各シースヒータ41a,41b,41c,41dに通電するのに際しては、シースヒータ毎に異なる電流値で通電できるようにしている。これにより、領域毎に電流値を適宜設定して第1~第4の各シースヒータ41a,41b,41c,41dからの加熱量を調整すれば、内容器33に温度勾配が生じることを可及的に抑制でき、有利である。
【0020】
上記実施形態によれば、格納チャンバ30に蒸着ユニットVUを設けてモジュール化されているため、メインチャンバ1の取付開口13に格納チャンバ30を装着するだけで、蒸着ユニットVUが、その放出開口34cをキャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swに向けた姿勢でセットされる。また、各ボルト35の頭部で内容器33が支持されるため、伝熱による熱損失が小さくなって効率よく内容器33を加熱することができる。この場合、外容器31の内面を例えば電解研磨により鏡面仕上げしておけば、各シースヒータ41で内容器33を加熱するときに、外容器31の内面が熱を反射するリフレクターとしての役割を果たし、輻射熱が加わってより一層効率よく内容器33を加熱することができる。収容箱3の内容器33に対する蒸着物質Vmの充填率は、例えば、蒸着物質Vmの種類や、収容箱3に充填された蒸着物質Vmの全てを昇華または気化させるまでの間における内容器33の内圧の変動に伴う蒸着レートの変化量を考慮して、20~40%の範囲で適宜設定される。
【0021】
また、格納チャンバ30の外壁面に移動手段5を設けたため、取付開口13への格納チャンバ30の装着後には、移動手段5によって、蒸着ユニットVUの収容箱3が、
図1に示す、蓋体34がキャンローラ2の外周面から離間した離間位置と、
図2に示す、蓋体34がキャンローラ2の外周面に上記曲率で湾曲した間隙(以下、これを「第2間隙Gp2」とする)を存して近接する蒸着位置との間で移動自在となり、このとき、移動手段5のストロークの範囲内で放出開口34cとキャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swの距離(即ち、第2間隙Gp2の大きさ)を任意に変化させることができる。第2間隙Gp2が、蓋体34とこれに対峙するキャンローラ2の部分とで区画される蒸着空間となる。
【0022】
メインチャンバ1内には、キャンローラ2の周囲に位置させて、メインチャンバ1の内側壁に固定されたX軸方向にのびる固定隔壁6a,6b,6c,6dが夫々設けられ、固定隔壁6a,6b,6c,6dによって、格納チャンバ30に通じる、蒸着ユニットVUが格納される蒸着室Vsがメインチャンバ1内に夫々区画される。この場合、特に図示して説明しないが、メインチャンバ1と別に蒸着室Vs内を真空排気できるように構成することが望ましい。メインチャンバ1内には更に、キャンローラ2の外筒部分を上記曲率で湾曲する間隙(以下、これを「第1間隙Gp1」とする)を介して覆う第2隔壁7a,7bが夫々設けられ(
図2参照)、第1間隙Gp1を境界として蒸着室Vsとこの蒸着室Vsに隣接するメインチャンバ1内の隣接室As(例えば、シート状の基材Swの搬送空間)とが互いに連通し、第2隔壁7a,7bで蒸着室Vsと隣接室Asと間のコンダクタンス値が確定されるように構成している。
【0023】
図6及び
図7も参照して、第2隔壁7a,7bは、例えばステンレス製の板材を上記曲率で湾曲させて構成され、X軸方向に間隔を置いて配置される各軸受装置Bmの外軸受(図示せず)で回動自在に夫々支持される各回動アーム71,72の先端間に夫々架設されている。各軸受装置Bmの外周面には、歯73a,73bが所定ピッチで夫々形成され、各歯73a,73bには、図外のモータで駆動されるラック74a,74bが噛み合っている(
図3参照)。モータによりラック74a,74bをY軸方向に移動させると、第2隔壁7a,7bが、キャンローラ2の外周面に沿って相反する方向に回動する。この場合、各回動アーム71,72の互いに向かい合う面にはザグリ加工が施され、第1間隙部S1を存してザグリ加工面71a,71bを重ねることで、両第2隔壁7a,7bがキャンローラ2の周囲で第1間隙Gp1を保持したまま夫々移動できるようにしている。これにより、第2隔壁7a,7bが、蓋体34の放出開口34aが臨むキャンローラ2の部分を遮蔽する遮蔽位置と蒸着ユニットVUから周方向に離間した退避位置との間でキャンローラ2の回転軸21を回転中心として回動自在となる。この場合、第2隔壁7a,7bの遮蔽位置及び退避位置を含む第2隔壁7a,7bの回動経路にて、各第2隔壁7a,7bのX軸方向(軸線方向)の端面とこれに対峙するメインチャンバ1の内壁面との間に第2間隙部S2が形成されると共に、各第2隔壁7a,7bの外周面とメインチャンバ1の内壁面との間に第3間隙部S3が形成されるようにメインチャンバ1の内壁面が形成されている。
【0024】
図1に示す、蒸着ユニットVUが離間位置、第2隔壁7a,7bが遮蔽位置に夫々あるとき、蒸着室Vsと隣接室Asとは、第1間隙部S1~第3間隙部S3のみを通じて連通するが(
図7参照)、装置の構成上不回避的な第2間隙部S2及び第3間隙部S3の大きさや、予め実験的に求められる隣接室Asの圧力と蒸着室Vsの圧力との間の圧力差から、第1間隙部S1におけるコンダクタンス値が所定値になるように、例えばザグリ加工面71a,71bの面積を適宜設定すれば、蒸着室Vsと隣接室Asとを確実に雰囲気分離できる。一方、
図1に示す状態から、第2隔壁7a,7bを退避位置に移動させた状態では、蒸着室Vsと隣接室Asとが、第1間隙部S1~第3間隙部S3に加えて第1間隙Gp1を通じて互いに連通するが、上記同様、隣接室Asの圧力と蒸着室Vsの圧力と圧力差や、キャンローラ2の回転によるシート状の基材Swの通過にとって不回避的な第1間隙Gp1の大きさから、この第1間隙Gp1におけるコンダクタンス値が所定値になるように、第2隔壁7a,7bの周方向の長さを適宜設定すれば、蒸着室Vsと隣接室Asとを確実に雰囲気分離できる。そして、
図2に示す、蒸着ユニットVUが蒸着位置、第2隔壁7a,7bが退避位置に夫々移動させても、蒸着空間としての第2間隙Gp2は、隣接室Asと互いに雰囲気分離された状態を維持する。なお、特に図示して説明しないが、第2隔壁7a,7b内に、冷媒を循環させる冷媒循環路を形成し、第2隔壁7a,7bを遮蔽位置に移動させた後、軸受装置Bmを介して冷媒循環路に冷媒を循環させて第2隔壁7a,7bを所定温度に冷却できるように構成することもできる。
【0025】
また、第2隔壁7a,7bの周方向の端面には、キャンローラ2の母線方向長さと同等以上の長さを持つ隔壁板75a,75b,75c,75dが夫々取り付けられている。
図1に示す第2隔壁7a,7bの遮蔽位置では、各隔壁板75a,75b,75c,75dが固定隔壁6a,6b,6cの径方向内端面に夫々当接する一方で、第2隔壁7a,7bを互いに相反する方向に回動させた、
図2に示す第2隔壁7a,7bの退避位置では、一方の第2隔壁7aの隔壁板75bが固定隔壁6aに、他方の第2隔壁7bの隔壁板75cが固定隔壁6cに夫々当接する。そして、第2隔壁7a,7bの退避位置にて蒸着ユニットVUの収容箱3を蒸着位置に進入させると、蓋体34の各横辺34a,34aが、各第2隔壁7a,7bの各隔壁板75a,75dに夫々当接し、キャンローラ2の周囲において第1間隙Gp1と第2間隙Gp2とが互いに連通するようになっている(
図2参照)。
【0026】
上記真空蒸着装置Cmにて、シート状の基材Swを走行させながら、キャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に蒸着する場合、先ず、メインチャンバ1の取付開口に13にその外側から、蒸着ユニットVUが内蔵された格納チャンバ30を装着する。そして、蒸着室Vsを含むメインチャンバ1を所定圧力まで真空排気する。このとき、蒸着ユニットVUの収容箱3を離間位置に、各第2隔壁7a,7bを遮蔽位置に夫々移動させる。この状態で加熱手段4により蒸着物質Vmを加熱する。すると、収容箱3内で蒸着物質Vmが昇華または気化し、加熱手段4の加熱量に応じて次第にその蒸着量が安定するが、それまでの間、収容箱3内で昇華または気化した蒸着物質の一部が蓋体34の放出開口34cからシート状の基材Swに向けて放出され、第2隔壁7a,7bに夫々付着する。次に、収容箱3内での蒸着物質Vmの蒸着量が安定すると、各第2隔壁7a,7bを退避位置にそれ夫々移動させ、その後、蒸着ユニットVUの収容箱3を蒸着位置に移動する。これにより、蒸着空間がメインチャンバ1内に形成され、基材走行手段によりシート状の基材Swを走行させると、キャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に、放出開口34cから放出される蒸着物質が付着、堆積して連続的に蒸着される。
【0027】
蒸着時、蒸着室Vsと隣接室Asとは雰囲気分離されているため、放出開口34cから、蒸着空間としての第2間隙Gp2を経て第1間隙Gp1を通して隣接空間Asに至る経路の密閉度が高められる。その結果、極めて高い成膜レートを得るために放出開口34cの開口面積を比較的大きく設定していても、放出開口34cから放出される蒸着物質は、広範囲に拡がる前に第2間隙Gp2を経てシート状の基材Swの部分に付着、堆積するようになる一方で、放出開口34cから第2間隙Gp2に放出された蒸着物質のうち基材Swへの蒸着に寄与しないものは、内容器33に戻るようになる。これにより、隣接室Asを含むメインチャンバ1内に回り込んで、シート状の基材Sw以外の部分(部品)に着膜するといったことが可及的に抑制され、ひいては、蒸着物質Vmの無駄を防止することが可能になる。最後に、メンテナンス時には、メインチャンバ1の取付開口13から格納チャンバ30を取り外した状態でメンテナンスが実施される。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、直動モータやエアシリンダ等の移動手段5で蒸着ユニットVUの収容箱3をキャンローラ2の外周面に対して直接進退させているが、その移動をガイドする公知のガイド機構を格納チャンバ30内に設けるようにしてもよい。また、蒸着ユニットVUの収容箱3が上下方向、即ち、蓋体34の放出開口34cの孔軸がキャンローラ2の軸線に対して直交する方向に進退させているが、これに限定されるものではなく、例えば放出開口34cから放出される蒸着物質Vmの飛散分布を考慮して、適宜変更することができる。
【0029】
また、上記実施形態では、単一の放出開口34cを設けるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、筒状の放出開口の複数個をシート状の基材Swの幅方向に所定間隔で列設したものでもよい。この場合、筒状の各放出開口の孔軸がキャンローラ2の軸線に対して直交するだけでなく、所定の角度で傾斜するように各放出開口が蓋体に形成される場合があるので、これに応じて、格納チャンバ内での蒸着ユニットの姿勢や、格納チャンバ内での蒸着ユニットの移動方向を適宜変更することができる。更に、上記実施形態では、キャンローラ2を有してこれに巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に対して成膜が実施されるメインチャンバ1に開設された取付開口に取り付ける場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、被蒸着物を矩形の基板とし、複数枚の基板を順次搬送する搬送機構を備える真空蒸着装置にも本発明は適用でき、このとき、例えば収容箱の放出開口が基板の成膜面に対して直交する姿勢で蒸着ユニットが格納チャンバ内にセットされる。
【0030】
ところで、上記実施形態では、蒸着ユニットVUの収容箱3を蒸着位置に移動し、放出開口34cから蒸着物質Vmを放出させて、キャンローラ2に巻き掛けられたシート状の基材Swの部分に蒸着するとき、蓋体34自体がシート状の基材Swの部分に対する蒸着範囲を規定するマスクとしての役割も果たす。一方、蓋体34は、放射冷却で冷却されているといっても、加熱される内容器33の上端に固定されて一体化されているため、熱変形(膨張)する場合がある。このとき、蓋体34は、キャンローラ2の母線(X軸方向)長さと同等以上に設定される関係でX軸方向に長手なものであるため、そのときの温度条件によりY軸方向より顕著にX軸方向に熱変形する。
【0031】
変形例に係るものでは、
図8に示すように、蓋体34のY軸方向への変位(熱変形)及びZ軸回りの回転は許容するが、X軸方向及びZ軸方向への変形は許容しないように規制手段が設けられている。規制手段は、例えば、X軸方向中央領域で放出開口34
cの外縁部に対峙させて設けた第1及び第2の両規制部8a,8bと、X軸方向両端部で放出開口34
cの外縁部に設けた一対の第3の規制部8cと、を備える。第1及び第2の各規制部8a
,8bは、
蓋体34上面の所定位置に設けた柱状の突片81a,8
1bと、各突片81a,8
1bに対応させてメインチャンバ(図示せず)に固定配置された、各突片81a,8
1bを夫々受け入れる受入孔821,822を有する受入部材82a,82bと、を備える。
【0032】
移動手段5によって蒸着ユニットVUの収容箱3を蒸着位置に移動すると、各受入孔821,822に各突片81a,81bが夫々嵌挿されるようになっている。この場合、受入孔821は、Y軸方向への変位は許容するが、X軸方向への変形は許容しないように、Y軸方向に長手の長円状の輪郭を有し、また、受入孔822は、Z軸回りの回転は許容するが、Z軸方向への変位は許容しないように、受入れ孔82aは円形の輪郭を有する。また、第3規制部8cは、蓋体34に一致する曲率で湾曲させた押圧片で構成され、移動手段5によって蒸着ユニットVUの収容箱3を蒸着位置に移動すると、蓋体34に当接して、蓋体34のZ軸方向への変位を規制する。なお、規制手段は、蓋体34の下面と支持枠32と上面の間に設けることもできる。
【符号の説明】
【0033】
Sw…シート状の基材(被蒸着物)、Vm…蒸着物質、VU…蒸着ユニット、1…メインチャンバ(真空チャンバ)、13…取付開口、3…収容箱、30…格納チャンバ、30a…連通開口、31…外容器、32支持枠、33…内容器、34…蓋体、34c…放出開口、35…ボルト(支持ピン)、4…加熱手段、41a,41b,41c,41d…シースヒータ、5…移動手段。