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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】窒化物ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20240808BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240808BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240808BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240808BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20240808BHJP
   C09K 11/57 20060101ALI20240808BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20240808BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
C09K11/08 J
C09K11/08 A
B82Y30/00
B82Y40/00
B82Y20/00
C01G15/00 Z
C09K11/57
C09K11/62
C09K11/64
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020164737
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056796
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】森山 健治
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145972(JP,A)
【文献】特開2018-070807(JP,A)
【文献】特開2019-218527(JP,A)
【文献】NAM, K. M. et al.,New Crystal Structure: Synthesis and Characterization of Hexagonal Wurtzite MnO,Journal of the American Chemical Society,(2012), Vol.134, No.20,pp.8392-8395,https://doi.org/10.1021/ja302440y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/00;33/48-33/64
G02B 5/20- 5/28
H05B 33/00-33/28
C01G 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間群P63mcに属し、a=3.37±0.01Å、c=5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶構造をとる酸化マンガン粒子上に、窒化物半導体が積層されている窒化物ナノ粒子。
【請求項2】
前記窒化物半導体は、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層が積層された構造である請求項1に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項3】
前記コア層からの発光波長が、酸化マンガン粒子の吸収端より長波長側にあることを特徴とする請求項2に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項4】
前記コア層のGa組成xが、0.30≦x≦0.67であることを特徴とする請求項2記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項5】
前記シェル層のAl組成yが、0.25≦y≦0.55であることを特徴とする請求項2記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項6】
前記六方晶構造の酸化マンガン粒子は、粒子サイズが20nm以下であることを特徴とする請求項2記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項7】
サイズが20nm以上の六方晶構造をとる酸化マンガン粒子上に、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層が積層され、 前記コア層からの発光波長が563nm以上(光のエネルギーが2.2eV以下)であることを特徴とする窒化物ナノ粒子。
【請求項8】
空間群P63mcに属し、a=3.37±0.01Å、c=5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶構造をとる酸化マンガン粒子からなる基板を作成し、
前記基板上に、窒化物半導体を積層し、
六方晶構造の酸化マンガン粒子をエッチング除去することを特徴とする窒化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記窒化物半導体を積層する工程は、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層とを順次積層する工程を含む、請求項8に記載の窒化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
空間群P63mcに属し、a=3.37±0.01Å、c=5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶構造をとる酸化マンガン粒子からなる基板を作成し、
前記基板上に、酸化マンガン粒子の一部が露出するようにGaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層を積層し、
六方晶構造の酸化マンガン粒子をエッチング除去した後、コア層の上にAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層を積層することを特徴とする窒化物ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物を用いたナノ粒子に関し、特にコアシェル構造の窒化物ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光性の窒化物ナノ粒子は、波長変換材料や太陽電池等に有用な材料であり、特に、III族窒化物材料は、GaInNをコア層に用いた場合、そのサイズと組成を制御することで紫外~赤外光まで幅広い波長域の量子ドットを作製することが可能である。これまで、種々の製造方法やそれによって製造された発光性の窒化物ナノ粒子が提案されている。例えば、特許文献1には、化学合成によって製造された窒化物ナノ粒子が開示されている。しかし、一般に化学合成では結晶の自然核形成によって粒子が形成されるため、形成される粒子の組成とサイズがばらつきやすく発光ピークがブロードになりやすいという問題がある。特許文献1には、窒化物ナノ粒子の発光スペクトルが示されているが、発光ピークの半値幅が広く、量子ドットとして必要とされる半値幅30nm以下のものは得られていない。
【0003】
一方、自然核形成によらないナノ粒子の製造方法として、ナノ基板上に窒化物を積層する方法がある。例えば、特許文献2には、ナノ粒子用のナノ基板としてZnOSナノ粒子を利用する方法が提案されている。しかし、ZnOSは三元混晶系の粒子であるため作製時に組成のばらつきが生じることがある。そのような三元混晶系のナノ基板上に窒化物ナノ粒子を積層させた場合、窒化物ナノ粒子がナノ基板の影響を受け結果的に発光スペクトル半値幅が広くなるなどの影響がありえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-132086号公報
【文献】特開2016-145972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
組成やサイズのバラツキがなく量子ドットの要件を満たす発光半値幅を持つ窒化物ナノ粒子を得るためには、特許文献2のように、自然核形成によらずナノ基板を用いる方法が有効であるが、上述したようにナノ基板として窒化物と格子整合性の高い三元混晶系のナノ基板を用いた場合には、ナノ基板の組成バラツキによる影響が懸念される。
【0006】
一方、二元系ナノ粒子は、三元系の粒子のような組成のバラツキの問題は生じないが、ナノ基板上に窒化物を積層する場合には、両者の格子定数が近いことが必須である。窒化物ナノ粒子と格子定数が近い二元系ナノ粒子としてZnO、ZnS等が知られており、例えば、ZnOの場合、GaNとの格子不整合率はa軸で2%程度である。しかし、窒化物ナノ粒子の量子ドットで可視光を得るためにはInを含有させる必要があるが、Inの比率を増加させることにより格子不整合率は増加し、ナノ基板として利用することができない。ZnSについてもInNに対して格子不整合率は約6%程度であり、Inの比率が50%ではその倍以上の不整合率となり、到底、In含有窒化物のナノ基板に利用できない。
【0007】
本発明は、二元系のナノ基板上に積層されたIn含有窒化物を含む窒化物ナノ粒子であって、組成やサイズのバラツキがなく量子ドットの要件を満たす発光半値幅を持つ窒化物ナノ粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、In含有窒化物との格子整合性に優れ、ナノ基板として利用できる材料について研究を進め、特定の結晶構造を持つ酸化マンガンがIn含有窒化物との格子整合に優れ、これを用いることにより、発光半値幅が狭く且つ発光効率に優れた窒化物ナノ粒子となることを見出し本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明の窒化物ナノ粒子は、空間群P63mcに属し、a=3.37±0.01Å、c=5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶構造をとる酸化マンガン粒子上に、窒化物半導体の層が積層されているものである。窒化物半導体は、例えば、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層が積層された構造
である。
【0010】
また本発明の窒化物ナノ粒子は、サイズが20nm以上の六方晶酸化マンガン粒子上に、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層が積層され、 前記コア層からの発光波長が563nm以上(光のエネルギーが2.2eV以下)であることを特徴とする窒化物ナノ粒子である。
【0011】
さらに本発明は、空間群P63mcに属し、a=3.37±0.01Å、c=5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶酸化マンガン粒子からなる基板を利用して、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層とを有するコアシェル型の窒化物ナノ粒子の製造方法を提供する。製造方法の一つの態様は、上記基板上に、GaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層とAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層とを順次積層し、六方晶酸化マンガン粒子をエッチング除去することを特徴とする。
【0012】
別の態様は、上記基板上に、酸化マンガン粒子の一部が露出するようにGaxIn1-xN(0<x<1)からなるコア層を積層し、六方晶酸化マンガン粒子をエッチング除去した後、コア層の上にAlyIn1-yN(0<y<1)からなるシェル層を積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願に先立って、本発明者らは、a軸:3.37±0.01Å、c軸:5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶構造をとる新規な酸化マンガン粒子を開発した(特願2019-205644号)。この新規な構造を持つ酸化マンガン粒子をナノ基板として、窒化物ナノ粒子を作製することで、自然核形成によらずに窒化物コアシェル構造を積層することが可能になった。その結果、窒化物コアシェル層の組成、サイズばらつきを抑制することができる。更に、この六方晶酸化マンガンは、窒化物コアシェル層と格子不整合が小さいので、窒化物コアシェル層の結晶性を向上させることができる。結果として、半値幅が30nm以下の狭い半値幅を有する窒化物コアシェル粒子が提供することができる。
【0014】
また酸化マンガンはエッチングにより除去可能であり、これにより基板を含まない窒化物コアシェル粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の窒化物ナノ粒子の構造例を示す図で、(A)はMnOナノ基板をコア層とシェル層とが覆った構造の粒子、(B)はMnOナノ基板の表面の一部にコア層とシェル層とを含む窒化物ナノ粒子が形成された構造、(C)はMnOナノ基板の表面の一部にコア層となる窒化物が形成された構造、(D)は、(C)のMnOナノ基板を除去し、コア層上にシェル層に積層した構造、を示す。
図2】六方晶MnO、GaInN、AlInNの格子定数とバンドギャップの関係を示すグラフ。
図3】コア層及びシェル層を構成する窒化物結晶のGa/Al組成とMnOとの格子不整合率との関係を示すグラフ。
図4】(A)は六方晶構造の酸化マンガンの量子サイズ効果を示すグラフで、(B)は(A)の一部を拡大して示したグラフ。
図5】窒化物ナノ粒子のサイズと発光波長との関係を示す図。
図6】本発明の窒化物ナノ粒子の製造方法の実施形態を示す図。
図7】実施例1の窒化物ナノ粒子とその基板である酸化マンガン粒子のXRD回折パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の窒化物ナノ粒子とその製造方法の実施形態を説明する。
【0017】
本発明の窒化物ナノ粒子は、特定の格子定数を持つ六方晶の酸化マンガン粒子からなるナノ基板の上に、コア層とシェル層とを積層したコアシェル構造を持ち、シェル層のエネルギーギャップがコア層のエネルギーギャップよりも大きい量子閉じ込め効果の高いType1型のナノ粒子である。コア層とシェル層は、図1(A)に示すように、ナノ基板1の上にコア層2及びシェル層3が順次積層された構造でもよいし、図1(B)に示すように、ナノ基板1の上にシェル層3、コア層2及びシェル層3が積層された構造、すなわち2つのシェル層でコア層1をはさんだ構造でもよい。またコア層及びシェル層は、ナノ基板の表面全体を覆うように積層されていてもよいし、その一部に積層されていてもよい。
【0018】
コア層及びシェル層は、ともにInを含むIII族窒化物であり、具体的には、コア層はGaxIn1-xN(0<x<1)で表されるInGaN、シェル層はAlyIn1-yN(0<y<1)で表されるInAlNである。このように、コア材料としてエネルギーギャップが比較的小さいInを含む窒化物を用い、シェル材料としてAlを多く含むエネルギーギャップの大きい窒化物を用いることで、量子閉じ込め効果の高いType1型のナノ粒子が得られる。
【0019】
コア層が積層されるナノ基板は、一般に知られる酸化マンガンとは結晶構造が異なり、空間群P63mcに属し、a=3.37±0.01Å、c=5.36±0.01Åの格子定数を有する六方晶構造をとる酸化マンガン粒子である。通常、酸化マンガンは塩化ナトリウム型(立方晶)構造をとるが、立方晶構造は六方晶構造であるIII族窒化物とは全く格子定数が適合しない。六方晶構造をとる酸化マンガンの報告もあるが(特許第5827950号)、その格子定数はa=8.73Å、c=14.36Åとあり、同じく六方晶構造であるGaNの格子定数a=3.189Å、c=5.185Åなどとは全く格子定数は合わないため、窒化物ナノ粒子のナノ基板には使えない。
【0020】
本発明の窒化物ナノ粒子は、上述した格子定数の酸化マンガン結晶を基板として用いることが特徴であり、基板としてこのような結晶構造酸化マンガンを用いることで、積層されるIII族窒化物との格子整合性がよくIII族窒化物の発光特性を最大限生かすことができる。この酸化マンガンは、本出願人らがすでに提案している製造方法(特願2019-205644号)により製造することができる。この製造方法では、熱分解法による製造方法であり、反応系に特定の添加材を添加し、反応温度を多段的に制御することによりウルツ鉱型酸化マンガン粒子であって格子定数が、a=3.37±0.01Å、c=5.38±0.01Åである酸化マンガン粒子が得られる。製造方法の詳細は後述するが、この製造方法により、50nm以下、さらには30nm以下のウルツ鉱型酸化マンガン粒子が得られる。本発明では、好適には20nm以下の粒子を用いる。
【0021】
次にこの酸化マンガン粒子からなる基板と、その上に積層する窒化物との格子整合性について説明する。酸化マンガン粒子の上に、GaInNからなるコア層とAlInNからなるシェル層を積層して窒化物ナノ粒子を得るには、まず、それぞれの層が、酸化マンガンの格子定数に整合する必要がある。図2に、六方晶MnO、GaInN、AlInNの格子定数とバンドギャップの関係を示す。図中、GaInN及びAlInNは、それぞれ、実線及び点線で示すようにGa、Alの組成によって格子定数とバンドギャップが変化する。この図から、六方晶MnOに完全に格子整合する窒化物ナノ粒子の構成組成は、Ga0.5In0.5Nのコア層に対して、Al0.4In0.6Nのシェル層であることが判る。
【0022】
一般的に、臨界膜厚は、格子不整合率が1%程度では50~100nm、格子不整合率が0.1%程度では数100nm~μmオーダーと言われており、格子不整合率は小さい方が望ましい。しかし、概ね20nm以下のナノ粒子の場合、数%程度の格子不整合は許容されると考えられる。事実、代表的な量子ドットであるInP系の場合、InPコアでZnSシェルの量子ドットが数多く報告されており、この場合、InPの格子定数を5.869Å、ZnSの格子定数を5.420Åとすると、格子不整合率は8%を超えるものが利用されていることになる。
【0023】
図3は、六方晶MnOナノ基板に対するコア層(GaInN)及びシェル層(AlInN)のGa/Al組成が変化した場合の格子不整合率を表したものである。図中、横軸はGa組成x又はAl組成yが0から1までを示している。
図3からわかるように、本発明のナノ基板、コア層及びシェル層の組み合わせでは、コア層のGa組成が最も高いGaNの場合でも不整合率は5%以内であり、従来のInP/ZnS系の組み合わせより格子整合性は高いことがわかる。
【0024】
ただし、格子整合率が大きすぎるとナノサイズのものであっても良質な結晶を作製することは難しく、粒子のサイズ、結晶性の観点から、格子整合率は約2%程度に抑えることが、望ましい。この場合、図3に四角で囲った範囲、すなわち、Ga組成xは、0.3≦x≦0.67、Al組成yは0.25≦y≦0.55の範囲で組み合わせることが望ましい。
【0025】
次に酸化マンガン粒子の吸収端とコア層の発光波長との関係について説明する。基本的には、酸化マンガン粒子の吸収端よりもコア層の発光波長を長波長とすることが必要であり、酸化マンガン粒子のサイズに応じた調整が必要となる。
【0026】
図4は、本発明で用いる六方晶構造の酸化マンガンの量子サイズ効果を示した図であり、サイズと吸収波長との関係を示している。図4(B)は、図4(A)のグラフのうち、サイズが20nm以下の領域の詳細を示す図である。図4(A)に示すように、酸化マンガンのサイズが20nm以上の場合、量子サイズ効果が表れにくい。従って、この場合は、ほぼバルクのバンドギャップである2.2eV以下(563nm以上)の発光波長を有する窒化物ナノ粒子を積層すればよい。一方、酸化マンガンのサイズが20nm以下の場合は、図4(B)に示すように、量子サイズ効果により、吸収端が短波長化する。この場合は、少なくとも酸化マンガンの吸収端より長波長側の窒化物ナノ粒子を積層する。例えば、酸化マンガン粒子が2nmの場合、吸収端が350nm付近にあることから、窒化物コア層からの発光はそれより長波長である450nmになるように調整すればよい。
【0027】
図3に示した格子整合性の許容範囲にあるGa組成(0.3≦x≦0.67)のGaInN粒子について、粒子サイズと発光波長との関係を図5に示す。ここでは、Ga組成xが0.3、0.5、0.67の場合を示している。概ね10nm程度で量子サイズ効果が明瞭に出るとすると、完全に格子整合するGa=0.5をコアに用いた場合、サイズを変えることで、300~700nm程度の波長領域をカバーできる。最もGa組成が高い0.67の場合も300~500nm程度の波長領域をカバーでき、最もGa組成が低い場合では900nm近い長波長領域までカバーできることが判る。
【0028】
このように本発明の窒化物ナノ粒子は、特定の格子定数を持つ六方晶構造のMnO粒子をナノ基板とし、その上にGaInNのコア層とAlInNのシェル層とを積層した構成とすることで、格子整合性がよく、組成のバラツキがなく、したがって発光の半値幅が狭く優れた発光効率を有する。しかもGa組成/Al組成を調整することで、これら効果を保ちながら長波長領域を含む広い波長領域をカバーすることできる。
【0029】
次に、本発明の窒化物ナノ粒子の製造方法の実施形態を説明する。
【0030】
本発明の窒化物ナノ粒子は、熱分解法を基本とする化学合成によって製造することができ、例えば、図6に示す実施形態1~4の製造方法により製造することができる。実施形態1の製造方法は、酸化マンガン粒子のナノ基板を作製し(ステップ1)、酸化マンガン粒子の上にGaInNのコア層を積層し(ステップ2)、最後にコア層の上にAlInNのシェル層を積層する(ステップ3)。実施形態2の製造方法は、上記ステップ1の後に、酸化マンガン粒子の上に、AlInNのシェル層を積層し(ステップ31)、続いてGaInNのコアを積層し(ステップ2)、及びコア層の上にAlInNのシェル層を積層する(ステップ32)。実施形態1の製造方法により、図1(A)に示す構造の窒化物ナノ粒子が製造される。また実施形態2の製造方法でも、図1(A)に示すように、全体を覆うように積層する場合もあるが、図1(B)に示すようにナノ基板の一部を覆う窒化物ナノ粒子が形成される場合もある。
【0031】
窒化物結晶が部分的に形成するか否かは、ナノ粒子のサイズと関係する。具体的には、ナノ粒子が粗大化すると形状異方性が発生し、表面にむき出しになった結晶面がどの結晶面であるかによって窒化物の成長速度が大きく異なってくる。この場合、粗大な粒子を完全に覆うことは難しくなり、部分的に覆われた構造となる。
【0032】
実施形態3の製造方法は、実施形態2のステップ31の後に、基板である酸化マンガンをエッチング除去するステップ4を含む。この方法では、酸化マンガン基板に窒化物ナノ粒子が部分的に形成されることを利用して、酸化マンガンを除去する。この製造方法によれば、図1(B)に示す酸化マンガン基板1が除去された結果、コア層2を2つのシェル層3で挟んだ構造の窒化物ナノ粒子が得られる。この製造方法で得られる窒化物ナノ粒子は、酸化マンガンによる吸収の問題がないので、基板上にコア層とシェル層を積層した構造の窒化物ナノ粒子の場合よりも、基板の粒子サイズに依存した窒化物ナノ粒子の発光波長の制限が緩和される。結果として、製造の際のナノ基板のサイズが20nm以上であってもMnO基板の吸収端の制約を受けることなく分離した窒化物ナノ粒子そのものの発光が得られる。
【0033】
実施形態4の製造方法は、実施形態1のステップ2の後に、基板の酸化マンガンをエッチング除去し(ステップ4)、残ったコア粒子を回収し、コア粒子の上にシェル層を積層する(ステップ33)。図1(C)、(D)は、この製造方法のステップ2終了後の状態、及び、最終的に得られる窒化物ナノ粒子を示す図である。実施形態4で製造される窒化物ナノ粒子は、実施形態3と同様に、窒化物の組成の自由度が高い。
【0034】
次に製造方法の各ステップの詳細を説明する。
【0035】
<ステップ1:基板の製造>
六方晶構造の酸化マンガン粒子は、マンガンを含む化合物を熱分解反応して酸化マンガンを製造する際に、反応系に特定の添加剤を添加し、結晶の核を形成する工程(核形成工程)と結晶粒子を成長させる工程(粒子成長工程)とを経て、これら工程の加熱温度を異ならせて多段的に加熱処理を行うことにより製造する。この際、添加剤の種類とこれら二段階の工程の反応条件(加熱温度、圧力、昇温レート等)を適切に制御することにより、立方晶の酸化マンガンや副生成物である層状複水酸化物(LDH)等の生成を抑制し、これら副生物を実質的に含まない単相の六方晶の酸化マンガン粒子を製造することができる。
【0036】
上記製造方法において、マンガン及び酸素の原料となるマンガン化合物としては、マンガンの有機酸塩や錯体を用いることができる。具体的には、ステアリン酸マンガン(st-Mn)、Mn(ACAC)やMn(ACAC)などのマンガンアセチルアセトナート、酢酸マンガン(Mn(AC))、トリオクチルホスフィン錯体(TOP:Mn)などを用いることができる。これらのうち、結晶粒子が成長する過程で粒子表面に配位することによって成長を抑制する効果があるステアリン酸マンガンが特に好ましい。
【0037】
反応の溶媒としては、反応を比較的高温で行うため、沸点(b.p.)が反応温度より高い溶媒を用いる。具体的には、オレイルアミン(b.p.:350℃)やベンジルベンゾエート(b.p.:350℃)、1-オクタデセン(b.p.:179℃(15mmHg下))、オレイン酸(b.p.:360℃)、トリオクチルホスフィンオキシド(b.p.:202℃(2mmHg下))、トリオクチルホスフィン(b.p.:445℃)、トリオクチルアミン(b.p.:367℃)、トリベンジルアミン(b.p.:390℃)を用いることができる。特に高沸点のオレイルアミンが好適である。原料の濃度は、特に限定されないが、0.1~1.0mol/l(リットル)程度とする。
【0038】
添加剤としては、還元剤であるポリオール系材料を用いる。具体的には、ヘキサデカンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ステアリルグリコール、ステアリン酸エチレングリコールなどの1種又は2種以上を混合して用いることができる。このような還元剤を添加することにより、MnとOの電荷による結合力を高め、イオン性の8面体配位から共有結合性の4面体配位への転化を促すことができる。
【0039】
添加剤は、上述した還元剤のみでもよいが、好適には、粒子表面に配位して粒子の成長を抑制する配位剤を添加することが好ましい。配位剤として、具体的には、トリオクチルホスフィン(TOP)、またはトリオクチルホスフィン・スルフィド(TOP:S)を用いることができる。トリオクチルホスフィン・スルフィドを用いる場合には、TOPと硫黄とをそれぞれ反応系に添加してもよい。
【0040】
還元剤と配位剤の2種を用いることで、反応の各段階(核形成及び結晶成長)で、生成しやすい立方晶の生成を抑制し、六方晶の生成が支配的となる系を維持することができる。
【0041】
添加剤の量は、多いほど安定構造である立方晶粒子の生成を抑制することができるが、過剰になるとMnを取り込んだ層状複水酸化物(LDH)が生成する。粒子合成過程でLDHがわずかでも発生すると急激に成長し、六方晶粒子の成長を阻害するだけでなく副生成物として混在することになるため、六方晶粒子の収率が大幅に低下する。具体的な添加剤の量は、添加剤の種類、原料の濃度、その他の反応条件によっても異なるが、例えば還元剤(例えばエチレングリコール)の量は、Mnに対して100モル%以上、1000モル%以下であることが好ましい。Mn材料に対し還元剤の量が100モル%未満では、Mn材料を十分に還元できないためイオン結合性の立方晶粒子が優先的に析出しやすくなる。一方、還元剤の量が1000モル%を超えると、反応系内に還元剤由来の水分濃度が高くなり、LDHの生成量が増加し、六方晶粒子の収量が減少する。ただし、LDHは生成する六方晶粒子に比べ、粒子径が大きく異なる。例えば六方晶粒子は100nm以下であるのに対し、LDHは数μm程度である。従って、反応後の処理(分級)などにより容易に分離可能であるので、収率を考慮しなければ、立方晶粒子の生成を抑制できる量以上とすればよい。
【0042】
また還元剤として、比較的沸点が低いエチレングリコールなどを用いる場合には、その量は、溶媒全体に対して10vol%以下であることが好ましい。沸点が低い還元剤の溶媒に対する量が多いと(例えば、10vol%を超えると)、減圧工程において突沸してしまい、反応溶媒中での添加剤濃度分布にムラが生じやすい。これにより、添加剤濃度の低いところでは立方晶粒子が析出、添加剤濃度の高いところではLDHが析出するなど、単一組成の、六方晶粒子得られない可能性がある。
【0043】
また配位剤については、トリオクチルホスフィン・スルフィドを用いる場合、TOPと硫黄との比率(モル比)は2:1とし、Mnに対する量は、還元剤の量を基準として、TOPの量が100モル%~200モル%程度とすることが好ましい。
反応は、N等の不活性ガス雰囲気又は減圧雰囲気で行う。まず反応容器に溶媒、Mn原料、還元剤を投入し、反応容器を含む反応系の空気を不活性ガスで置換した後、配位剤を反応容器に投入し、その後材料を溶媒中に溶解する。この材料溶解のための工程は、100℃以下の温度で加熱して行ってもよい。溶解のための時間は、特に限定されないが、1時間以下、30分程度とする。
【0044】
次いで反応系を減圧にしながら昇温し、核形成工程(第一工程)の反応を行う。核形成工程において、過剰な酸素源があると急速に安定構造である立方晶の酸化マンガン粒子の成長が進み、また反応系内に材料由来又は反応副生成物である水分が存在するとLDHが形成されるので、過剰な酸素を除去するとともに雰囲気中に存在する水分や材料由来又は反応副生成物である水分を除去するために減圧とする。具体的には、圧力1000Pa以下、好ましくは100Pa以下、より好ましくは20Pa以下とする。但し、圧力が低すぎると還元剤であるポリオール系材料が反応系から蒸発して反応に寄与できなくなるため、10Paを超えた圧力とすることが好ましい。また核形成過程で反応温度が高いとRS型の酸化マンガンが成長しやすくなる。このため核形成工程は、立方晶酸化マンガンが生成する温度以下の温度、具体的には200℃以下とし、好ましくは110~150℃、さらに好ましくは115~145℃とする。
【0045】
上述した温度範囲と減圧の反応条件では、添加剤であるポリオール系材料、例えばエチレングリコールの蒸気圧を超えることとなるが、密閉された反応系では還流して反応に寄与する状態が保たれ、上述した還元剤としての効果が持続するものと考えられる。また添加剤は、材料溶解時に添加されるため反応の初期の段階から還元剤としての機能を果たしているものと考えられる。
【0046】
第一工程の反応時間は、温度や圧力によって異なるが、1~3時間程度である。また、材料溶解から核形成工程に至るまでの昇温レートは、特に限定されないが、10℃~30℃/分程度とする。
【0047】
粒子成長工程(第二工程)は、不活性ガス雰囲気(常圧)で核形成工程よりも高い温度で粒子を成長させる。粒子成長工程の反応温度が高すぎると、立方晶粒子が生成しやすくなり、反応温度が低すぎるとLDHが生成しやすくなる。具体的には反応温度は225℃~275℃、好ましくは230℃~260℃とする。また核形成工程からの昇温レートが速いと、核形成工程で生成した六方晶が立方晶に転化しやすくなる。従って、昇温レートは30℃/分以下であることが好ましく、10℃/分以下であることがさらに好ましい。
【0048】
粒子が成長する過程においても、添加剤は還元剤として機能するとともに、粒子表面に配位する配位剤(第二の添加剤)を含む場合は粒子表面に配位することによって、粒子の急速な成長を抑制し、六方晶粒子のみを成長させる。但し、この段階での添加剤の含有量が多すぎるとLDHが生成しやすくなるため、前述したとおり、添加剤の量はLDHの生成を抑制する量にすることが好ましい。
【0049】
粒子成長工程の反応時間は、反応系の規模によっても異なるが、例えば1分間~24時間程度とする。この粒子成長工程において、六方晶酸化マンガンは数nm~30nm程度のナノ粒子に成長する。反応時間を変えることでサイズを制御することができる。
粒子成長工程の後に、さらに温度を上げて粒子を熟成する工程を加えてもよい。反応時間をある程度長くすること或いは熟成工程を設けることにより、小さな粒子が溶解して大きな粒子に取り込まれる溶解再出が起こり、その結果サイズが均一化する。熟成工程は、300℃以下の温度で30分以下、例えば15分程度行うことが好ましい。
【0050】
反応終了後の結晶粒子は、例えば、反応液にヘキサン等の有機溶媒を加えた後、貧溶媒であるエタノール等を加えて凝集させることにより回収することができる。有機溶媒の添加と貧溶媒による凝集は、複数回繰り返してもよい。
こうして製造した六方晶MnO粒子は、窒化物ナノ粒子の合成溶媒に分散させることで六方晶MnOナノ基板となる。具体的には、溶媒分散した六方晶MnO粒子に、窒化物ナノ粒子の合成溶媒、例えば、トリオクチルホスフィンを加え、スターラーで撹拌しながらフラスコを減圧にすることで、六方晶MnOの分散媒を徐々に脱気する。
【0051】
<ステップ2:コア層の積層>
GaInNコア層の原料を調整する。インジウム原料としてヨウ化インジウム、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム、窒素原料としてリチウムアミドを用いることができるが、それ以外の原料を用いてもよい。例えば、インジウム原料としては、塩化インジウムや臭化インジウム、ガリウム原料としては、塩化ガリウムや臭化ガリウム、また窒素原料としてはナトリウムアミドが挙げられる。
【0052】
これら原料と、溶媒(例えばトリオクチルホスフィン)及び同溶媒に分散したMnO基板を、酸素・水分濃度を1ppm以下に管理した環境下で、反応容器(内筒)に充填し、これを合成容器内に入れ、合成を行う。合成条件は、例えば、まず所定の昇温速度で150℃程度に昇温した後、温度140℃~150℃の間で数分反応させる。これにより固相の前駆体が形成される。前駆体形成温度は適宜変更可能であるが、その後の合成温度より低ければよい。また、前駆体形成温度は二段階以上であってもよく、例えば、一段目が150℃、二段目が200℃などでもよい。反応は、溶媒への溶解度の低い材料(リチウムアミド)を均一に反応させるため、撹拌しながら行うことが好ましい。その後、さらに合成容器を350℃程度まで昇温して合成を行う。合成時間は10分程度とする。その後、合成容器を冷却し、反応を速やかに停止させる。なお、時間と温度を調整することで、GaInNコア層のサイズを制御することができる。
【0053】
このような反応によって、MnO基板上にGaInNコア層が形成される。ここでナノ基板として用いるMnO粒子(の総表面積)のサイズによって、図1(A)に示すようなMnO粒子全体を覆うコア層とするか、図1(B)に示すような部分的に覆うコア層とするかを異ならせることができる。また合成時間や合成温度を制御することで、コア層の膜厚を調整することができる。
【0054】
なお実施形態2の製造方法ように、MnO基板の上にAlInNシェル層を形成した後、GaInNコア層を積層する場合も、基本的にはMnO基板をAlInNシェル層付きMnOと置き換えるだけで同様の方法でコア層を形成することができる。
【0055】
<ステップ3、31、32、33:シェル層の形成>
シェル層の形成も基本的にはコア層の反応と同様の反応で行うことができる。すなわち、コア層を形成した反応容器(内筒)に、シェル層の原料、例えば、インジウム原料としてヨウ化インジウム、アルミニウム原料としてヨウ化アルミニウム、窒素原料としてリチウムアミドを充填し、合成容器に入れて反応を開始する。用いるシェル原料の量は、それが積層される層(コア層かナノ基板か)に応じて適宜調整する。
【0056】
反応は所定の昇温速度で前駆体を形成する温度(例えば150℃)まで加熱して5分程度、攪拌をしながら反応させた後、さらに400℃程度まで昇温しシェル層を構成する窒化物を合成する。合成後、速やかに冷却する。これによりGaInNコア層の上にAlInNシェル層が積層された窒化物ナノ粒子が得られる。
【0057】
また実施形態4の製造方法において、GaInNコア層積層後にMnO基板をエッチング除去後に回収したGaInNコアをAlInNシェル層で被覆するステップ5についても、上述した方法と同様に行うことができる。
【0058】
<ステップ4:酸化マンガンのエッチング>
酸化マンガン粒子の表面に、部分的に窒化物(コア層のみ、あるいはコア層とシェル層)を積層した場合、エッチングによって酸化マンガンを除去し、積層した窒化物の粒子を回収することができる。エッチングは、塩酸や硝酸、その混合酸などを用いて、遠心洗浄後の粒子を酸洗浄することで行う。得られた粒子は、エタノール等の溶媒を用いた遠心洗浄などを行い回収する。その際、必要に応じて分散処理などを行うことができる。
【0059】
<分散処理>
分散処理は、バルキーな配位子を粒子表面に配位させて分散性の粒子を得るための処理である。配位子としては、ステアリン酸亜鉛やドデカンチオールなどを用いることができる。これら配位子を溶媒に溶解させて、シェル層合成後の反応液に加え、所定時間攪拌する。配位子の添加量は、窒化物ナノ粒子のモル量に対して等モル以上が好ましく、それにより安定的に粒子表面に配位させることができる。
【0060】
以上、製造方法の各実施形態のステップの詳細を説明したが、ここに記載した材料や数値は一例に過ぎず、原料の種類や量、組成等に応じて適宜変更することができる。
【実施例
【0061】
以下、本発明の窒化物ナノ粒子の実施例を説明する。なお以下の実施例で、発光スペクトル測定は、測定器(日立ハイテクサイエンス製F-7100)を用い、ヘキサン分散粒子の光学セルにセットし、励起波長:300nmで測定したものである。また、量子効率は、測定器(大塚電子製QE-2100)の光学セルにヘキサン分散粒子をセットし、励起波長:300で測定したものである。またXRD測定は、ブルカーエイエックスエス製D8 ADVANCEを用いた。
【0062】
<実施例1>
本実施例は、量子サイズ効果が発現しているサイズの六方晶MnOナノ粒子を用いて、その六方晶MnOナノ粒子上に、実施形態1の製造方法により、六方晶MnOに対しする格子不整合率が2%以内の六方晶GaxIn1-xNコア層と六方晶AlyIn1-yNシェル層を有するコアシェル型窒化物ナノ粒子を製造した製造例である。
【0063】
[六方晶酸化マンガンのナノ基板の作製]
溶媒としてオレイルアミン10mL、Mn材料としてステアリン酸マンガン(st-Mn)を1.5mmol、還元剤としてエチレングリコール(EG) 0-3.0mmol、サイズ制御剤としてTOP0-3.6mmol、硫黄0-1.8mmolを調製した。
【0064】
容器に材料充填後、不活性雰囲気下(N2)で70℃30分保持したのち、昇温し減圧雰囲気下で140℃2時間保持した。この時の圧力の上限は大気圧の1/100以下、下限は溶媒の突沸を防ぐため15Pa以上とした。その後昇温し不活性雰囲気下(N2)で250℃5分保持し、更に昇温して不活性雰囲気下(N2)300℃15分保持して合成を行った。昇温レートは50℃/5minの速度とした。
【0065】
降温後の反応液にヘキサンを5ml加え撹拌した後に遠沈管に回収した。貧溶媒であるエタノールを加えて粒子を凝集させ、遠心分離機を用いて沈降させた。分離条件は12,000rpm、60分とした。上澄み液を廃棄した後、ヘキサンを5ml加えて振とう機で30分撹拌して粒子を分散させた。もう一度エタノールを加え、同様の工程を繰り返して粒子洗浄を行った後、ヘキサンを加え、ヘキサンに分散させたMnO粒子を作製した。粒子成長工程の反応時間を5分とすることでサイズが約3nmのMnO粒子が得られた。
【0066】
得られたMnO粒子のXRD測定を行った。その回折スペクトルを図7に示す(点線)。XRDの結果から、得られたMnO粒子は、空間群P63mcに属する、a軸:3.37±0.01Å、C軸:5.36±0.01Åの格子定数を有していることが確認された。
【0067】
また上記の方法で作製した酸化マンガンの吸収端を調べたところ約2.2eV(564nm)であった。従って、発光波長がそれより長波長の窒化物コア層を積層することで、量子サイズ効果が得られることがわかる。
【0068】
続いて、フラスコに入れたヘキサン分散した六方晶MnO粒子に、窒化物ナノ粒子の合成溶媒であるトリオクチルホスフィンを加えた。スターラーで撹拌しながらフラスコを減圧にすることでヘキサンを徐々に脱気し、トリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板を作製した。
【0069】
[コア層の形成]
トリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板上に窒化物ナノ粒子の成長を以下の手順で実施した。
【0070】
インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製99.998%)を133.8mg(0.27mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を121.6mg(0.27mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248mg(10.8mmol)、調製した。また反応溶媒として、トリオクチルホスフィン(Sigma Aldrich製 97%)を5ml、六方晶MnOナノ基板分散トリオクチルホスフィン液を1mlを用いた。
【0071】
反応容器として、合成容器(Parr社製4740)と、マントルヒーターとスターラーが一体化している加熱装置(アズワン製MS-ESB)を用い、上述した合成溶媒と原料を蓋付き内筒(白金製)に仕込み、合成容器内に入れて反応を行った。内筒への材料充填は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で行った。
【0072】
反応は、まず、合成容器をマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、前駆体を形成した。前駆体は温度140℃~160℃の間で5min反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶媒への溶解度の低いリチウムアミドを均一に反応させるため、撹拌速度600rpmで撹拌子にて撹拌を行った。その後、合成容器を350℃まで昇温し10min合成をおこなった。合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。これによりMnOナノ基板上に約4nmのGa0.5In0.5Nコア層が形成された粒子を得た。
【0073】
図7に、Ga0.5In0.5NのXRD回折スペクトルを示す(実線)。このコア層は、基板として採用した六方晶MnO粒子の格子定数と回折ピーク位置が一致しており、両者は完全に格子整合する組み合わせであることがわかる。
【0074】
[シェル層の形成]
続いて、合成容器をグローブボックスに移し、AlInNシェル原料を内筒に投入した。AlInN原料は、インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製99.998%)を160.6mg(0.33mmol)、アルミニウム原料としてヨウ化アルミニウム(Aldrich製 99.99%)を88.1mg(0.22mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248mg(10.8mmol)用いた。
【0075】
合成容器を再びマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、前駆体を形成した。前駆体は温度 140℃~160℃の間で5min反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶液を撹拌速度600rpmで攪拌した。その後、合成容器を400℃まで昇温し15分合成をおこなった。合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。これにより、 Ga0.5In0.5Nコア層上にAl0.4In0.6Nシェル層を積層した。
【0076】
さらに、反応液に、ナノ粒子のモル量に対し等モル程度のステアリン酸亜鉛を溶解したベンゼン溶液とドデカンチオールを溶解させたエタノールを加え、約80℃で6時間、スターラーで攪拌した。これにより、粒子表面にステアリン酸亜鉛とドデカンチオールを配位させて分散性粒子とした。
【0077】
その後、合成液にエタノールとヘキサンを加え、遠心分離による洗浄を3回行った。最後にヘキサンに分散させヘキサン分散するコアシェル構造を有する窒化物ナノ粒子を作製した。
【0078】
得られた窒化物ナノ粒子(ヘキサン分散粒子)の発光スペクトル(励起波長:300nm)を計測したところ、発光波長が450nm、半値幅が25nmであった。また、量子効率を測定(励起波長:300)した結果、約20%程度であった。
【0079】
<実施例2>
本実施例は、量子サイズ効果が発現していないサイズの六方晶MnOナノ基板上に、六方晶MnOに対して格子不整合率が2%以内の六方晶GaxIn1-xNコア層と六方晶AlyIn1-yNシェル層を有するコアシェル型窒化物ナノ粒子した製造例である。製造方法は実施形態1の方法である。
【0080】
[六方晶酸化マンガンのナノ基板の作製]
まず、六方晶MnOナノ粒子を作製は、実施例1の作製方法において、粒子成長工程の反応時間を2分から120分に変更した以外は、実施例と同様に行った。これによりサイズが約20nmのヘキサンに分散した六方晶MnOナノ基板を作製した。このヘキサン分散した六方晶MnOナノ粒子を、実施例1と同様に窒化物ナノ粒子の合成溶媒(トリオクチルホスフィン)に分散させた後、ヘキサンを脱記して、トリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板を作製した。
【0081】
[コア層及びシェル層の形成]
上記のように作製したトリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板上に、実施例1と同様にコア層を積層した。但し、実施例1では、合成容器の温度を350℃に昇温した後の合成時間が10分であったのに対し、合成時間を30分とした。これにより約6nmのGa0.5In0.5Nコア層が形成された。
【0082】
次いで、合成容器に実施例1と同様のシェル原料を投入し、実施例1と同様の方法でコア層の上にシェル層を積層し、さらに分散処理を行ってヘキサン分散のコアシェル型窒化物ナノ粒子を製造した。
【0083】
本実施例で作成した窒化物ナノ粒子は、発光スペクトルから発光波長が600nm、半値幅が30nmであることが確認された。また、量子効率は約15%程度のものが得られた。
【0084】
<実施例3>
本実施例は、六方晶MnOナノ基板上に、コア層とシェル層とを少なくとも1か所以上、六方晶MnOナノ基板(粒子)を完全被覆することなく積層した窒化物ナノ粒子の製造方法(実施形態3)であり、更に、六方晶MnOを除去する工程を含む。
【0085】
[六方晶酸化マンガンのナノ基板の作製]
六方晶MnOナノ粒子を作製方法は実施例1の方法と同様であるが、粒子成長工程の反応時間を24時間とし、これによりサイズが約50nmの比較的サイズの大きい六方晶MnO粒子を作製した。続いて、ヘキサン分散した六方晶MnO粒子を、実施例1と同様に、分散媒置換して窒化物ナノ粒子の合成溶媒トリオクチルホスフィンに分散させた。
【0086】
[第1シェル層の(AlInN層)形成]
トリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板上に第一シェルであるAlInN層の成長を以下の手順で実施した。合成容器は実施例1と同様のものを用いた。
【0087】
AlInN原料は、インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製99.998%)を160.6mg(0.33mmol)、アルミニウム原料としてヨウ化アルミニウム(Aldrich製 99.99%)を88.1mg(0.22mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248mg(10.8mmol)用い、これらを内筒に充てんした。また溶媒として、トリオクチルホスフィン(Sigma Aldrich製 97%)を5ml充填した。更に、六方晶MnOナノ粒子分散トリオクチルホスフィン液を1ml添加した。
【0088】
合成容器を再びマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、温度 140℃~160℃の間で攪拌しながら5分反応させることで固相の前駆体を形成した。その後、合成容器を400℃まで昇温し15分合成を行い、合成後、冷水にて容器を冷却した。これにより、粗大な六方晶MnO粒子の表面にAl0.4In0.6N第一シェル層が部分的に形成された粒子が得られた。
【0089】
[コア層の形成]
続いて、合成容器をグローブボックスに移し、GaInNコア原料を投入し、第一シェル層の上に、約4nmのGa0.5In0.5Nコア層を形成した。このコア層に用いた原料は、実施例1とのコア層に用いたものと同じで、合成方法も実施例1のコア層形成と同じとした。これにより約4nmのGa0.5In0.5Nコア層がAl0.4In0.6N第一シェル層上にのみ形成された粒子が得られた。
【0090】
最後に、このコア層の上にAlInN第二シェル層を形成した。まず第二シェル層のAlInN原料は第一シェルと同じ原料を第一シェル層と同量用いて、コア層形成後の合成容器(内筒)に投入し、第一シェル層を形成する際の合成条件と同様の条件で合成を行った。
【0091】
その後、得られた合成液にエタノールを投入し、遠心洗浄を行った後、遠心にて沈殿した固形物に水で薄めた酸を投入し、酸洗浄を行い、酸化マンガンを酸に溶解して除去した。この酸洗浄には、関東化学製EL級塩酸を純水で2倍に希釈したものを用いた。なお、使用する酸は、硝酸や王水を適宜、純水で希釈したものを用いてもよい。酸洗浄後の溶液をエタノールで遠心洗浄し、溶媒をエタノールに置換した。
【0092】
さらに、ステアリン酸亜鉛を溶解したベンゼン溶液とドデカンチオールを溶解させたエタノールを加え、約80℃で、6時間スターラーで攪拌し、表面にステアリン酸亜鉛とドデカンチオールが配位した粒子を得た。その後、遠心分離による洗浄を3回行って不要な配位子を除去し、最終的にヘキサンに分散させヘキサン分散するコアシェル構造を有する窒化物ナノ粒子を作製した。
【0093】
ナノ基板除去後の窒化物ナノ粒子は、発光波長が450nm、半値幅が25nmで、量子効率は約15%程度であった。
【0094】
<実施例4>
本実施例は、実施形態4の製造方法によって、MnOナノ基板除去後のGaxIn1-xNコア層上にAlyIn1-yNシェル層を積層したコアシェル型窒化物ナノ粒子の製造例である。
【0095】
まず、実施例3と同様にして、サイズが約50nmの比較的サイズの大きい、ヘキサンに分散した六方晶MnO粒子を作成し、溶媒置換して、トリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板を作製した。
【0096】
続いて、実施例1と同様に、トリオクチルホスフィンに分散した六方晶MnOナノ基板上にコア層を成長する反応を行った。実施例1では、MnOナノ基板として約3nmのサイズの小さい粒子を用いており、粒子表面全体を覆うコア層が形成されたが、本実施形態では、粗大な六方晶MnO粒子を用いているため、その表面に約4nmのGa0.5In0.5Nコア層が部分的に形成された。
【0097】
次いで以下の手順でMnO粒子を除去し、トリオクチルホスフィンに分散したGa0.5In0.5Nナノ粒子を作製した。まず、コア層を形成して得られた合成液にエタノールを投入し、遠心洗浄を行った後、遠心にて沈殿した固形物に水で薄めた酸を投入した。この酸洗浄には、関東化学製EL級塩酸を純水で2倍に希釈したものを用いた。なお、使用する酸は、硝酸や王水を適宜、純水で希釈したものを用いてもよい。酸洗浄した溶液をエタノールで遠心洗浄し、エタノールに置換した。エタノールに分散したGa0.5In0.5Nナノ粒子をフラスコに入れ、このフラスコに窒化物ナノ粒子の合成溶媒であるトリオクチルホスフィンを加えた。スターラーで撹拌しながらフラスコを減圧にすることでエタノールを徐々に脱気し、トリオクチルホスフィンに分散したGa0.5In0.5Nナノ粒子を作製した。
【0098】
続いて、この粒子をコア層とし、AlInNシェル層を形成した。AlInN原料は、実施例1のシェル層原料と同じものを用い、これを投入した内筒に、溶媒として、トリオクチルホスフィン(Sigma Aldrich製 97%)を5ml、及び、上記 Ga0.5In0.5Nナノ粒子分散トリオクチルホスフィン液を1ml、それぞれ添加した。内筒を合成容器に収納し、実施例1のシェル層形成工程と同様の方法で、合成を行い、Ga0.5In0.5Nコア粒子上にAl0.4In0.6Nシェル層を形成した。その後、実施例1と同様に分散処理、遠心分離及び溶媒置換を行い、ヘキサン分散のコアシェル構造を有する窒化物ナノ粒子を作製した。
【0099】
上記の窒化物ナノ粒子は、発光波長が450nm、半値幅が25nmで、量子効率は約20%程度であった。
【0100】
以上説明したように、すべての実施例で、量子ドットに必要とされる30nm以下の発光半値幅が実現できた。
【符号の説明】
【0101】
1:ナノ基板、2:GaInNコア層、3:AlInNシェル層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7