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特許7535441ポリオキシメチレン延伸体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ポリオキシメチレン延伸体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20240808BHJP
   C08G 2/10 20060101ALI20240808BHJP
   B29C 55/00 20060101ALI20240808BHJP
   B29K 59/00 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C08J5/00 CEZ
C08G2/10
B29C55/00
B29K59:00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020196871
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085268
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】末満 千豊
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-149439(JP,A)
【文献】特開昭64-020258(JP,A)
【文献】特開平06-080795(JP,A)
【文献】特開平04-133806(JP,A)
【文献】特公昭46-017138(JP,B1)
【文献】特公昭40-021994(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02、 5/12- 5/22
C08G 2/00- 2/38、61/00-61/12
B29C 55/00-55/30、61/00-61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が175℃以上であるポリオキシメチレン延伸体の製造方法であり、
ポリオキシメチレンを重合後から一貫してその融点以上に加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキシメチレンの延伸体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレンは、結晶性高分子のエンジニアリングプラスチックであり、剛性、強度、耐熱性、耐クリープ性といった機械的特性や摺動特性が要求される各種機構部品を中心に、広範囲に亘って使用されている。その多くは射出成形で製造されているが、近年、繊維やテープ、フィルムといった用途においてポリオキシメチレンの優れた特徴を生かす研究開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、ポリオキシメチレンに脂肪酸金属塩を配合して溶融紡糸し、ポリオキシメチレンの融点未満の温度で延伸することにより、延伸工程における加工性と引張強度に優れるポリオキシメチレンの延伸繊維が得られることが記載されている。また、特許文献2には、溶融紡糸後に加圧飽和水蒸気下で多段階で延伸することで、同様に延伸時の加工性に優れ、品質の向上したポリオキシメチレンの延伸物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/050448号
【文献】特開2002-285446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリオキシメチレンは重合過程で分子鎖が密にパッキングし、最も高い結晶性となるものの、一旦融点以上に加熱して溶融させたり、溶媒に溶解させたりすると、結晶が解れてしまい、その後固化させたとしても、非晶成分が多く、結晶のサイズも小さくなり、元々の状態よりも結晶性が著しく低下してしまう。結晶性と機械的強度は相関し、結晶性の低下は機械強度低下の要因となるが、特許文献1及び2に例示されるように、従来の延伸体の製造方法は溶融紡糸を経る。つまり、ポリオキシメチレンを一旦溶融させる工程が必須とされており、この工程における結晶性の低下、ひいては機械的強度の損失は長年解決不可とされていた。
【0006】
そこで、本発明は、機械的強度に優れたポリオキシメチレン延伸体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、ポリオキシメチレンを一貫して融点以上に加熱することなく加工して延伸体を得ることにより、融点の高いポリオキシメチレン延伸体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
(1)
融点が175℃以上であるポリオキシメチレン延伸体の製造方法であり、
ポリオキシメチレンを重合後から一貫してその融点以上に加熱しないことを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度に優れたポリオキシメチレン延伸体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
〈ポリオキシメチレン延伸体〉
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体は、融点が175℃以上であることを特徴とする。
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体は、ポリオキシメチレンのみからなることが好ましい。
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体は、例えば、後述するように、ポリオキシメチレンを重合後から一貫してその融点以上に加熱せずに加工することにより得ることができる。
【0012】
[ポリオキシメチレン]
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体を構成するポリオキシメチレンは、ポリオキシメチレンの骨格がすべてオキシメチレン単位で構成されるホモポリマーであってもよく、骨格にオキシアルキレン単位も含むコポリマーであってもよい。また、加工性や熱安定性、その他種々の目的により、既知の側鎖を含んでいてもよい。また、ポリオキシメチレンは、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよい。
【0013】
[低分子量成分]
本実施形態のポリオキシメチレンにおいて、低分子量成分の含有量は、特に限定されないが、機械的強度の観点から、好ましくは7.0%以下であり、より好ましくは5.0%以下であり、さらに好ましくは4.5%以下である。この範囲にあることにより、高い引張強度を保持する材料となる。
低分子量成分の含有量を上記範囲に制御する方法としては、例えば、重合時に使用する開始剤溶液の濃度の調整やルイス塩基の使用、重合時間や温度の調整、重合を固相系で行うことなどが挙げられる。
なお、本実施形態で定義する低分子量成分とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定してPMMAの標準物質で換算した分子量分布における分子量10,000以下の成分をいい、具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0014】
[数平均分子量及び重量平均分子量]
本実施形態のポリオキシメチレンの数平均分子量Mnは、特に限定されないが、機械的強度の観点から、好ましくは10,000超、より好ましくは25,000超、最も好ましくは30,000~300,000である。
また、重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000超、より好ましくは100,000超、最も好ましくは200,000~2000,000である。
平均分子量は高いほど機械強度が高いことが一般的に知られているが、平均分子量が高すぎると溶融粘度が高まるため成形加工が困難になる。この範囲であることにより、機械物性と成形加工性に優れた延伸体を提供することができる。
【0015】
[分子量分布]
本実施形態のポリオキシメチレンの分子量分布曲線の形状は、特に限定されないが、機械的強度向上の観点からは、logM=4.5~8.0(Mは分子量)にピークトップがあるピークを有する単峰性の形状であることが好ましく、より好ましくはlogM=4.5~7.0、さらに好ましくはlogM=4.5~6.0にピークトップがあるピークを有する単峰性の形状である。
ここで「単峰」とは、山なりのピークを一つのみ持つ形状であることを指す。
低分子量成分を含有する場合は、分子量10,000以下の領域で、分子量分布曲線が、山なりのピークの一部をなすことなく、ピークトップに対してショルダーをなしたり、ピークトップに連なってテーリングしたりする。
【0016】
なお、本実施形態における数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0017】
[ポリオキシメチレンの製造方法]
本実施形態のポリオキシメチレンの製造方法は、特に限定されず、モノマーにホルムアルデヒドを用いたアニオン重合であってもよく、モノマーに環状エーテルを用いたカチオン重合であってもよい。結晶性向上の観点から、開始剤の存在下で[-CH-O-]単位を形成するモノマーをカチオン重合させる方法が好ましく、特に、モノマーを溶融状態で重合開始させ、急冷によって系を固化して高分子量体を得る重合方法(冷却重合)や、固相重合が好ましい。
【0018】
[モノマー]
モノマーは、ポリオキシメチレンにおいて[-CH-O-]単位を形成するものとしてよい。
具体例を挙げると、ホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサンである。
【0019】
[コモノマー]
コモノマーは、ポリオキシメチレンにおいて次の式(I)の構造式で表される単位を形成するものが好ましい。
[-O-(CH-]・・・(I)
式(I)中、xは2~8の整数を表し、x=2が特に好ましい。
具体例を挙げると、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキセパンである。中でも、1,3-ジオキソランが特に好ましい。
【0020】
[開始剤]
本実施形態のポリオキシメチレンの製造方法では、開始剤は特に限定されない。例えば、フッ化ホウ素化合物が使用されてよく、フッ化ホウ素、フッ化ホウ素水和物、フッ化ホウ素と有機化合物(例えば、エーテル類)との配位化合物が開始剤として使用されてよい。これらは、ポリマーの熱分解への影響が小さいため、実用上好ましい。
望ましい開始剤は、三フッ化ホウ素ジアルキルエーテル錯体であり、特に好ましいのは三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテル錯体である。
開始剤は液体の状態で添加してもよく、噴霧してもよい。
【0021】
開始剤の添加量としては、モノマーとコモノマーとの合計量1molに対して、開始剤が、3.5×10-4mol以下であることが好ましく、より好ましくは2.6×10-4mol以下であり、また、5.0×10-7mol以上が好ましく、より好ましくは2.0×10-5mol以上である。
開始剤の添加量が上記範囲であれば、低分子量成分の含有量が低く、高い耐衝撃性を示し、かつ熱安定性に優れるポリオキシメチレンが得られやすい。
【0022】
一般的にポリオキシメチレンの製造の開始剤には、トリフルオロメタンスルホン酸に代表されるフッ化又はアルキルスルホン酸及びアリールスルホン酸のような強プロトン酸や、リンタングステン酸のようなヘテロポリ酸が用いられる。しかしながら、これら開始剤を使用した場合には、その強力な酸性によりポリオキシメチレンが分解されてしまい、末端安定化等の処理を施してもなお熱安定性に劣るという欠点があった。
本実施形態のようにフッ化ホウ素をベースとした開始剤を用いることにより、熱安定性に優れたポリマーを提供することができる。
【0023】
また、開始剤は、メソポーラスシリカに担持されていてもよく、担持は、水素結合や分子間力等の相互作用による付着、接着、吸着等により、又は化学的結合により、なされていてよい。
【0024】
メソポーラスシリカは、平均孔径1.0~5.5nmの細孔を有することが好ましい。細孔径がこの範囲にあることにより、開始剤が孔に侵入して担持され、さらにモノマーが侵入することによって孔内で重合がなされ、狭い反応場により成長末端の運動が制限されるため、環状体つまり低分子量成分の副生が抑制される。
なお、メソポーラスシリカの細孔の平均孔径は、窒素吸着試験から得られる窒素吸着等温線をBHJ法で解析することにより算出できる。
【0025】
メソポーラスシリカの細孔は、好ましくは個々の細孔が三次元で円筒構造を有する。多数の細孔は、二次元で六方構造(六方晶系秩序構造)をなすことが好ましい。
二次元で六方構造をなすメソポーラスシリカの具体例としては、MCM-41、SBA-15等が挙げられる。
【0026】
本実施形態で用いるメソポーラスシリカの細孔壁の平均厚みは、0.5~2.5nmであることが好ましい。
なお、メソポーラスシリカの細孔壁の平均厚みは、断面SEM画像において、任意に細孔を10個選び、各細孔について当該細孔に最も近接する他の細孔との距離(細孔間距離)を測定し、当該距離を平均した値をいう。
【0027】
細孔形状や細孔壁の平均厚みが上記形態や範囲であることにより、開始剤が細孔内に侵入しやすくなり細孔内部以外に担持される開始剤を低減できる。
【0028】
また、本実施形態では、開始剤が細孔内に侵入しやすくなり細孔内部以外に担持される開始剤を低減できることから、メソポーラスシリカ粒子の形状は好ましくは球状であり、細孔が粒子中心部から外側に放射状に配列していることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、開始剤担持メソポーラスシリカを調製する段階において、メソポーラスシリカの添加量としては、開始剤1molに対して、メソポーラスシリカが35~60gであることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、重合系中において、開始剤担持メソポーラスシリカの添加量としては、モノマーとコモノマーとの合計量1molに対して、開始剤担持メソポーラスシリカが、5.0×10-3~3.0×10-2gであることが好ましい。
開始剤担持メソポーラスシリカの添加量が上記範囲であれば、低分子量成分の含有量が低く、高い耐衝撃性を示し、かつ熱安定性に優れるポリオキシメチレンが得られやすい。
【0031】
[添加剤]
本実施形態のポリオキシメチレンの製造には、種々の目的により分岐剤や連鎖移動剤、添加塩基を使用してもよい。
【0032】
好ましい分岐剤は、多官能エポキシド、多官能性グリシジルエーテル又は多官能性環状ホルマールである。
【0033】
好ましい連鎖移動剤は、式(II)で表される化合物である。
-(-O-CH-O-R・・・(II)
式(II)中、rは整数を表し、R及びRは、炭素数1~6のアルキル基である。
好ましくはrが1である式(II)で表される化合物であり、特に好ましいのはメチラールである。
【0034】
また、ポリマー末端OH基の標的製造に対して、プロトンを移動する連鎖移動剤を使用することもまた可能である。
連鎖移動剤の例は、水、ギ酸、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ブタンジオール、グリセロール又は1,1,1-トリメチロールプロパンのような一価及び多価アルコールである。これらのプロトン性移動剤を使用することによって、その後の加水分解において安定した末端アルキレン-OH基を導く、一定の割合の不安定な末端ヘミアセタール基が初めに生じる。好ましい移動剤は、多価アルコールである。
【0035】
連載移動剤は、通常、モノマー及びコモノマーの合計を基準として、20,000質量ppm以下で使用してよく、好ましくは100~5,000質量ppm、特に好ましくは200~2,000質量ppmで使用される。
【0036】
好ましい添加塩基として、ルイス塩基を使用してもよい。適切な添加塩基の利用により、低分子量成分の副生抑制が可能である。
好ましいルイス塩基は、エステル基、リン酸エステル基、チオエーテル基、ニトリル基、炭化フッ素基、及び/又はカルボニル基を含むルイス塩基である。
具体例を挙げると、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、t-ブチル酢酸、酪酸メチル、プロピオン酸メチル、ヘキシル酸アミル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジヘキシル、アゼライン酸ジメチル、アゼライン酸ビス(2-エチルヘキシル)、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、ミリストニトリル、フェニルアセトニトリル、バレロニトリル、トリフルオロアセチルアセトン、3-アセチルベンゾトリフルオリド、テトラヒドロ-2-メチルフラン-3-オン等である。
【0037】
ルイス塩基の添加方法や添加順序は、特に限定されることなく、開始剤溶液と混合して添加してもよく、重合前に直接モノマーと混合してもよい。各ルイス塩基によって最適な添加方法や添加順序が異なる。
また、使用する開始剤、重合スケールによってルイス塩基の最適な添加量は異なるため、重合条件によって適宜添加量の最適化が必要である。開始剤の物質量よりもルイス塩基の物質量の方が最適量を超えて多いと、開始剤の活性を損ない、低分子量成分の増加やポリマー収率の低下を引き起こす。また、開始剤の物質量よりもルイス塩基の物質量の方が最適量より少ないと、低分子量成分の含有量は変化しない。
【0038】
[ポリオキシメチレン延伸体の融点及び結晶性]
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体の結晶性は、示差熱量測定(DSC)で測定されるファーストスキャンの融点で主に評価され、ファーストスキャンの融点は175℃以上である。ファーストスキャンの融点は、ポリマー中の結晶の大きさと相関があるため、機械的強度向上の観点から、ファーストスキャンの融点は、より好ましくは177℃以上、さらに好ましくは180℃以上、よりさらに好ましくは185℃以上、特に好ましくは190℃以上である。延伸体の原料として用いるポリオキシメチレンの結晶性が保持された結果、延伸体において上記の融点を示す。
原料のポリオキシメチレンは、固体状態のモノマーと触媒とを接触させることによっても製造することができ、この方法では、固相で重合が進行するため結晶性の高いポリマーが得られ、従来のポリオキシメチレンよりも高いファーストスキャンの融点を示す。また、固体状態のモノマーが極めて高純度である場合には、触媒との接触なしで重合が可能であり、この場合においても結晶性の高いポリマーが得られ、従来のポリオキシメチレンよりも高いファーストスキャンの融点を示す。
なお、ファーストスキャンの融点とは、重合後に特別な熱処理をしていない状態の試料を所定の昇温条件で測定開始して最初に検出される融点ピークのピークトップの温度である。より具体的には、NETZSCH製DSC装置(DSC3500)を使用し、アルミニウムパンにサンプル5mgを採取したのち、窒素雰囲気下で30℃から200℃まで20℃/minの昇温速度で昇温するプログラムにより測定できる。
これまで、結晶性が示差熱量測定(DSC)で測定されるファーストスキャンの融点で評価され、ファーストスキャンの融点が175℃以上であるポリオキシメチレン延伸体は得られていなかったが、本発明者は、後述するような圧延、延伸方法により、ファーストスキャンの融点が高い、すなわち、結晶性が高いポリオキシメチレン延伸体が得られることを見出した。
【0039】
また一般に、結晶性は、X線解析によっても評価される。本実施形態のポリオキシメチレン延伸体のX線解析による結晶化度は、機械強度向上の観点から、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。
なお、結晶化度は、広角X線散乱において、2θ=20°付近の散乱をブロードな非晶由来の散乱とシャープな結晶由来の散乱とにピーク分離し、下記式により算出される値である。
結晶化度(%)=結晶由来のピーク面積値/(非晶由来のピーク面積値+結晶由来のピーク面積値)×100
【0040】
[ポリオキシメチレン延伸体の製造方法]
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体の製造方法は、ポリオキシメチレンを、重合後からすべての工程で一貫してその融点以上に加熱しない点以外には、特に限定されない。
【0041】
本実施形態のポリオキシメチレン延伸体の製造方法として、例えば、原料のポリオキシメチレンをプレス機にて圧縮して圧縮プレートを得(圧縮工程)、その後、圧縮プレートを溶融させることなく固相状態に保持したままロールプレス機にて圧延して圧延シートを作製し(圧延工程)、圧延シートを延伸機にて延伸して延伸体を作製する(延伸工程)という3段階の工程を含む方法が挙げられる。
以下、圧縮、圧延、延伸の3段階の工程について説明する。
【0042】
(圧縮工程)
圧縮工程で用いられるプレス機は、特に限定されないが、成形安定性の観点から二段プレス機を用いることが好ましい。
圧縮工程における温度は、原料のポリオキシメチレンの融点未満であれば特に限定されないが、結晶を溶融させず、熱による分子鎖の絡み合いを抑制する観点から、好ましくは160℃以下であり、より好ましくは140℃以下であり、さらに好ましくは120℃以下である。例えば、加熱冷却二段プレス機を用いる場合、140℃以下で加熱プレスを行った後、20℃以下で冷却プレスを行うことが好ましい。
圧縮工程における圧力及び時間は、特に限定されないが、例えば、加熱冷却二段プレス機を用いる場合、5~10MPaの圧力をかけて1~5分間加熱プレスした後、3~5MPaの圧力をかけて1~5分間冷却プレスする等が挙げられる。
圧縮工程において、ポリオキシメチレンは、3.0mm以下に圧縮されることが好ましく、より好ましくは1.0mm以下、更に好ましくは0.5mm以下である。圧縮後の厚みが上記範囲であると、後の圧延工程で割れや欠けを少なくできる傾向にある。
【0043】
(圧延工程)
圧延工程で用いられるロールプレス機は、特に限定されず、公知のロールプレス機を使用することができる。摩擦熱除去のため、ロール内部において冷却水が循環していることが好ましい。
圧延工程における温度も、使用するポリオキシメチレンの融点未満であれば特に限定されないが、結晶を溶融させず熱による分子鎖の絡み合いを抑制する観点から、好ましくは160℃以下であり、より好ましくは140℃以下であり、さらに好ましくは120℃以下であり、特に好ましいくは50℃以下である。
ロールプレス機のロールとしては、上下同一の回転速度で反対方向に回転する一対のロールを用いることが好ましく、速度は、好ましくは0.1~20m/分であり、より好ましくは0.1~15m/分であり、更に好ましくは0.1~10m/分である。
また、ロールのロール径は、10~400mmであることが好ましく、面長(ロール幅)は、100~2000mmであることが好ましい。
ロールプレス機のロール線圧は、好ましくは10~500kg/cmであり、より好ましくは50~500kg/cmであり、更に好ましくは100~500kg/cmである。
また、圧延の際には、圧縮プレートを強度の高い金属板で挟んでロールプレス機に導入することが好ましい。強度の高い金属板を用いると、圧延時の圧力により金属板が凹んだり、得られた圧延シートがロールの形に丸まったりすることが抑えられ、圧縮プレートを良好に圧延することができる。また、金属板を用いずに直接ロールに導入すると、圧縮プレートが破砕する傾向にある。強度の高い金属板としては、Fe板、アルミニウム板等が挙げられる。
圧延工程において、ポリオキシメチレン圧縮プレートは、圧延倍率2~300倍で圧延されることが好ましく、より好ましくは10~300倍である。圧延倍率がこの範囲であると、一軸配向が十分にかかり、高強度の繊維となる傾向にある。
なお、圧延倍率は、後述の実施例に記載の方法により算出されるものとする。
圧延工程において、ポリオキシメチレン圧縮プレートは、0.5mm以下に圧延されることが好ましく、より好ましくは0.3mm以下、更に好ましくは0.1mm以下である。圧延後の厚みが上記範囲であると、延伸工程において圧延シート全体で一方向に延伸がかかり、より高強度な延伸体となる傾向にある。
圧延の回数は、特に限定されないが、1~10回であることが好ましい。圧延の方向は、圧延の都度、同じ一方向とすることが好ましい。
【0044】
(延伸工程)
延伸工程で用いられる延伸機は、特に限定されず、公知のロール延伸機、引張強度測定機等を使用することができる。
延伸工程における温度も同様に、使用するポリオキシメチレンの融点未満であれば特に限定されないが、好ましくは融点-100℃であり、より好ましくは融点-60℃であり、さらに好ましくは融点-30℃であり、特に好ましくは融点-20℃である。
ロール延伸機のロールとしては、上下同一の回転速度で反対方向に回転する一対のロールを用いることが好ましく、速度は、好ましくは0.1~100m/分であり、より好ましくは0.1~90sm/分であり、更に好ましくは0.1~70m/分である。
また、ロールのロール径は、10~300mmであることが好ましく、ロール幅は、100~2000mmであることが好ましい。
ポリオキシメチレン圧延シートは、延伸の都度、圧延の方向が長手方向となるような短冊状に切断し、短冊の長手方向に延伸することを繰り返すのが好ましい。このような短冊状に切り出すことにより、圧延で生じた端部の欠けやヒビを除去して圧延方向に延伸することができる。
延伸工程において、ポリオキシメチレン圧延シートは、延伸倍率2~50倍で延伸されることが好ましく、より好ましくは5~50倍である。延伸倍率がこの範囲であると、より配向の揃った高強度の延伸体となる傾向にある。
延伸の回数は、特に限定されないが、1~10回であることが好ましい。
【0045】
従前、ポリオキシメチレンの延伸体を製造する場合、加熱延伸など、融点以上にポリオキシメチレンを加熱して溶融させていた。この場合、重合直後の結晶構造は、融点以上の加熱により破壊され、冷却後に再び結晶構造を形成するが、この冷却後の結晶構造は、重合直後の結晶構造よりも結晶性が低くなることが常であり、機械強度が低下してしまう。
ここで、融点以上に加熱せずに圧縮、圧延、延伸することができれば、延伸体においても重合直後の結晶構造が保持され、高い機械強度を発現するものと考えられる。
しかしながら、融点以上に加熱せずに圧縮、圧延、延伸することができる高分子としては、超高分子量ポリエチレンが知られているのみであり、一般的な高分子には適用が難しく、特にポリオキシメチレンでは重合後、溶融前の時点では高結晶であることが広く知られておらず、この高結晶を有効利用することが長年見逃されてきた。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上述のように、ポリオキシメチレンを融点以上に加熱せずに延伸体を製造することに成功した。
【実施例
【0046】
以下の実施例は本発明を制限することなく説明するものである。
【0047】
[重量平均分子量、数平均分子量、及び分子量分布の測定]
実施例及び比較例で用いたポリオキシメチレンについて、東ソー株式会社製GPC装置(HPLC8320)を使用し、Mn、Mw、分子量分布を測定した。標準物質にはPMMAを使用した。
また、分子量分布曲線のピークトップの位置を求めた。
溶離液にはトリフルオロ酢酸ナトリウム塩を0.4質量%溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用いた。
ポリオキシメチレンを上記溶離液に溶解し、濃度0.5mg/mLの試料溶液とした。
カラムには、Shodex社製のK-G 4A×1本、Shodex社製のKF-606M×2本をヘキサフルオロイソプロパノールに溶媒置換して用いた。
検出器には、RI(示差屈折)検出器を用いた。
流速0.3mL/分
カラム温度40℃
試料溶液の注入量60μL
【0048】
[低分子量成分の含有量の測定]
低分子量成分の含有量は、分子量分布においてlogM=4.14の位置に標準偏差σ=0.3の正規分布のピークを仮定することで、logM=3.0~3.7にピークトップを有する正規分布のピークを低分子量成分のピークとして仮定し、ピークフィッティングにより分子量分布曲線全体の面積における低分子量成分のピークの面積の比率を求め、算出した。
【0049】
[融点]
実施例及び比較例で用いたポリオキシメチレン及び得られた延伸体について、NETZSCH社製DSC装置(DSC3500)を使用し、融点を測定した。アルミニウムパンにサンプル5mgを採取したのち、窒素雰囲気下で30℃から200℃まで20℃/minの昇温速度で昇温するプログラムにより測定し、ファーストスキャンで吸熱ピークの頂点を示す温度を求め、融点(℃)とした。
【0050】
[延伸体の結晶化度]
実施例・比較例で得られた延伸体について、一部を切り出し、広角X線散乱解析(装置:(株)リガク製NANOPIX)を実施した。WAXSプロフィールにおいて2θ=20°付近のピークをブロードな非晶由来のピークとシャープな結晶由来のピークにピーク分離し、下記式により結晶化度(%)を算出した。
結晶化度(%)=結晶由来のピーク面積値/(非晶由来のピーク面積値+結晶由来のピーク面積値)×100
【0051】
[延伸体の引張破断時応力]
実施例・比較例で得られた延伸体を恒温恒湿実験室(温度25℃、湿度50%)内で一昼夜放置した後、20mm×50mm×各厚みの試験片を切り出し、インストロン社製万能材料試験機5564型を用いて引張試験を行い、延伸体が破断した際の応力を測定した。延伸体の万能材料試験機への固定は、その両端各々5cmをチャックに挟み込んで行い、延伸体に弛みが生じないようにチャック間を調節した後、速度100mm/分で試験した。測定された試料破断時の荷重(N)は、延伸体の断面積で除し、破断時応力(MPa)に換算した。
【0052】
[実施例1]
(重合)
直径16mmのフッ素樹脂製試験管に、1,3,5-トリオキサン(東京化成販売(株)製、以下、1,3-ジオキソランとシクロヘキサン以外の試薬はすべて東京化成販売(株)製のものを使用した。)を2g計量して撹拌子と共に入れ、次いでルイス塩基として酢酸ブチル50μLを加えてセプタムキャップをした。90℃に加温したオイルバス中に試験管を固定し、1,3,5-トリオキサンを融解させた後、シクロヘキサン(シグマアルドリッチ社製)で0.06mmol/mLに調製した三フッ化ホウ素ジブチルエーテル溶液を100μL添加し、重合を開始した。15分後、オイルバスから試験管を取り出して氷水に浸け、セプタムキャップを外し、20%トリエチルアミン/エタノール溶液を1mLとアセトン2.5mLをそれぞれ加え、重合を停止した。生成したポリマーを砕いて取り出し、洗浄後、濾過し、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。結果、約2gのポリオキシメチレンを得た。重合を繰り返し、延伸体作成に必要量のポリオキシメチレンを得た。
(圧縮工程)
ステンレス板の上にカプトンシートを載せた後、中央部に型となるポリプロピレン(PP)チューブリング、その外側に厚み1mmのステンレス製スペーサーを設置し、ポリオキシメチレンを3g計量して、PPチューブリング内に山盛りに載せた。その上から別のカプトンシートを載せ、次いでステンレス板を載せた。これを160℃に温度設定した二段プレス機(テスター産業(株)社製SA-301)に導入し、10MPaの圧力をかけて3分間プレスしたのち、20℃の冷却水が循環した冷却層に移設させ、3MPaの圧力をかけてさらに3分間プレスし、厚み1mmの圧縮プレートを得た。
(圧延工程)
((装置仕様))
ロール形状:ロール径305mmφ、面長500mm
ロール数:1対
ロール間隔:0.18mm
得られた圧縮プレートをFe板で挟み、回転周速度1.00m/分のロール間に水平方向から供給して室温にて圧延を行った。圧延を数回繰り返し、圧延倍率10.2倍、厚み98μmの圧延シートを得た。
圧延倍率の算出は、圧縮プレート中央部に直線状に10mm間隔で油性マジックインキを用いて印をつけ、この印がロールの回転軸に垂直になるように圧縮プレートをロールに導入し、圧延後の印の間隔を測定し、圧延後の印の間隔を10mmで除すことにより算出した。測定は5回行い、最も圧延倍率が大きい値を圧延倍率とした。
(延伸工程)
得られた圧延シートを長辺50mm、短辺20mmの長方形に圧延方向が長手方向となるようにして切り出し、引張試験機(インストロン社製、万能材料試験機5564型)を用いて圧延方向と同方向に延伸を行った。チャック間隔を5mmとなるように引張試験機にセットし、雰囲気温度140℃、引張速度50mm/分で延伸を行い、延伸倍率2倍、厚み50μmの延伸体を得た。
【0053】
[実施例2]
実施例1のポリオキシメチレンの代わりに、下記のとおり重合したポリオキシメチレンを用いた以外には実施例1と同様に実施し、延伸体を得た。
直径16mmのフッ素樹脂製試験管に、1,3,5-トリオキサンを2g計量して撹拌子と共に入れ、セプタムキャップをした。90℃に加温したオイルバス中に試験管を固定し、1,3,5-トリオキサンを融解させた。次いで、シクロヘキサンで0.12mol/mLに調製した三フッ化ホウ素ジブチルエーテル溶液を50μL添加し、その直後、試験管を氷水の入ったビーカー(4℃)に移動し、重合反応を継続した。15分後、セプタムキャップを外し、20%トリエチルアミン/エタノール溶液を1mLとアセトン2.5mLをそれぞれ加えて重合を停止した。生成したポリマーを砕いて取り出し、洗浄後、濾過し、25℃下で2時間の真空乾燥を実施した。結果、約2gのポリオキシメチレンを得た。重合を繰り返し、延伸体作成に必要量のポリオキシメチレンを得た。
【0054】
[実施例3]
実施例1のポリオキシメチレンの代わりに、下記のとおり重合したポリオキシメチレンを用いた以外には実施例1と同様に実施し、延伸体を得た。
1,3,5-トリオキサンを2g計量して直径16mmのフッ素樹脂製試験管に撹拌子と共に入れ、シクロヘキサンで0.12mmol/mLに調製した三フッ化ホウ素ジブチルエーテル溶液を50℃環境下で50μL添加し、重合を開始した。30分後、20%トリエチルアミン/エタノール溶液を1mLとアセトン2.5mLをそれぞれ加え重合を停止した。生成したポリマーを砕いて取り出し、洗浄後、濾過し、25℃で2時間の真空乾燥を実施した。結果、約1.5gのポリオキシメチレンを得た。重合を繰り返し、延伸体作成に必要量のポリオキシメチレンを得た。
【0055】
[比較例1]
実施例1と同じ方法で重合したポリオキシメチレンを融点以上に熱して融解させた後、冷却してから用いた以外には実施例1と同様に実施し、延伸体を得た。
【0056】
[比較例2]
実施例2と同じ方法で重合したポリオキシメチレンを融点以上に熱して融解させた後、冷却してから用いた以外には実施例1と同様に実施し、延伸体を得た。
【0057】
[比較例3]
実施例3と同じ方法で重合したポリオキシメチレンを融点以上に熱して融解させた後、冷却してから用いた以外には実施例1と同様に実施し、延伸体を得た。
【0058】
表1、表2に各実施例・比較例の重合条件と結果をまとめた。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリオキシメチレン延伸体は、機械的強度に優れており、高い強度が求められる各種機構部品等に好適に使用することができ、産業上の利用可能性がある。