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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】隔膜式センサ及びこれを用いた分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/404 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
G01N27/404 341B
G01N27/404 341J
G01N27/404 341R
G01N27/404 341D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020199341
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087418
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 久典
(72)【発明者】
【氏名】内藤 久実
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05770039(US,A)
【文献】特開2010-107335(JP,A)
【文献】実開昭62-071556(JP,U)
【文献】特開平11-002619(JP,A)
【文献】特開2005-274311(JP,A)
【文献】実開昭52-095487(JP,U)
【文献】特開2019-066330(JP,A)
【文献】特開平06-130025(JP,A)
【文献】国際公開第2022/091947(WO,A1)
【文献】特開2006-234508(JP,A)
【文献】特開2009-069025(JP,A)
【文献】特開平11-183424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中の特定物質を透過させる隔膜を有し、当該隔膜を透過した特定物質を、内部液に浸した作用極及び対極間に流れる電流に基づいて検出する隔膜式センサであって、
前記内部液を外部から補給できるように構成された内部液補給型のものであり、
前記内部液と、前記作用極がその先端面から露出する電極構造体とを収容する収容部を有する収容体と、
前記収容部の先端部に取付けられ、前記隔膜を、前記電極構造体の前記先端面に対向させるように前記収容部との間に挟んで固定する蓋部材とを備え、
前記蓋部材が、前記電極構造体の先端面に対向する対向面を有し、
前記隔膜が、前記電極構造体の前記先端面と前記蓋部材の前記対向面との間にシール部材を介して挟まれ、液密に固定されており、
前記電極構造体の先端面に内部液を流通させる溝が形成されており、当該溝が前記シール部材を横断して形成されている隔膜式センサ。
【請求項2】
前記隔膜が、前記シール部材によって前記電極構造体の先端面に対して押さえ付けられている請求項1に記載の隔膜式センサ。
【請求項3】
前記電極構造体の先端面が、前記試料溶液側に向かって凸形状を成すように湾曲して形成されたものである請求項1又は2に記載の隔膜式センサ。
【請求項4】
前記収容体が、その外表面と前記収容部により形成される内部液収容空間とを連通する内部流路を備える請求項1~3のいずれか一項に記載の隔膜式センサ。
【請求項5】
前記蓋部材の対向面が環状をなし、
前記溝が、前記電極構造体の先端面における前記蓋部材の対向面と対向する環状領域を横断するように形成されている請求項に記載の隔膜式センサ。
【請求項6】
前記溝が、前記先端面における環状領域の最外縁部から、前記先端面から露出する前記作用極の表面に亘って設けられている請求項に記載の隔膜式センサ。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の隔膜式センサと、
前記内部液を貯蔵する内部液タンクと、前記内部液タンク内の前記内部液を前記隔膜式センサに導出する内部液送り流路と、ポンプとを備え、前記ポンプを駆動させることで前記内部液タンク内に貯蔵した前記内部液を前記隔膜式センサに補給する内部液補給機構とを備える分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液に含まれる特定物質を検知する隔膜式センサ及びこれを用いた分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
隔膜式センサとしては、内部液と作用極と対極とを収容する収容体と、この収容体に液密に固定され、特定物質を収容体内に透過させる隔膜とを有するものが知られている。この隔膜式センサは、隔膜を試料溶液中に浸して使用され、隔膜を透過した例えば溶存酸素等の特定物質を作用極の表面で還元反応させ、これにより生じる電流変化を測定することにより特定物質の濃度等を測定することができる。
【0003】
近年、このような隔膜式センサとして、例えば内部に形成された内部液収容空間に対して、外部に設けたタンクから内部液を補給できるようにした内部液補給型のものが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-107335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したような内部液補給型の隔膜式センサでは、隔膜式センサ内に内部液を補給することで内部液の変質等を抑制することができるものの、大気圧下に設置されたタンクに内部液収容空間が接続されていることから、隔膜を支持する内部液の圧力が内部液非補給型のものに比べて低くなってしまうことがある。そのため、測定時に隔膜を試料溶液中に浸すと、試料溶液の圧力により隔膜が変形してしまい、測定精度が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、内部液の変質を抑制でき、かつ隔膜の耐圧性を向上させた隔膜式センサを提供することを主たる課題とするものである。
【0007】
すなわち本発明に係る隔膜式センサは、試料溶液中の特定物質を透過させる隔膜を有し、当該隔膜を透過した特定物質を、内部液に浸した作用極及び対極間に流れる電流に基づいて検出する隔膜式センサであって、前記内部液を外部から補給できるように構成された内部液補給型のものであり、前記内部液と、前記作用極がその先端面から露出する電極構造体とを収容する収容部を有する収容体と、前記収容部の先端部に取付けられ、前記隔膜を、前記電極構造体の前記先端面に対向させるように前記収容部との間に挟んで固定する蓋部材とを備え、前記蓋部材が、前記電極構造体の先端面に対向する対向面を有し、前記隔膜が、前記電極構造体の前記先端面と前記蓋部材の前記対向面との間にシール部材を介して挟まれ、液密に固定されていることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、内部液を外部から補給できるように構成されているので、測定に伴う内部液のpHの低下等の変質を抑制することができる。また隔膜を、電極構造体の先端面と蓋部材の対向面の間にシール部材を介して挟み込んで液密に固定しているので、隔膜を試料溶液中に浸した際に、試料溶液の圧力を隔膜の全面にかけるのではなく、隔膜におけるシールされていない部分のみに限定することができ、これにより隔膜が試料溶液から受けるトータルの力を低減することができる。さらに、隔膜における試料溶液の圧力がかかる領域は電極構造体の先端面によって裏側から支持されるので、試料溶液から受ける力の全てを隔膜で受けることなく電極構造体に負担させることができる。
このように、本発明の隔膜式センサによれば、外部から内部液を補給することでその変質を抑制しながら、隔膜が試料溶液から受ける力を低減でき、隔膜の耐圧性を向上させることができる。
【0009】
前記隔膜が、前記シール部材によって前記電極構造体の先端面に対して押さえ付けられていることが好ましい。
このようにすれば、隔膜を電極構造体の先端面により密着させることで、試料溶液から受ける力を電極構造体で負担することができるので、隔膜の耐圧性をより向上できる。
【0010】
また前記隔膜式センサは、電極構造体の先端面が、試料溶液側に向かって凸形状を成すように湾曲して形成されたものであることが好ましい。
このようにすれば、電極構造体の先端面に対して隔膜をより密着させることができ、隔膜の耐圧性をより一層向上できる。また、隔膜よりも試料溶液側において気泡溜まりとなり得るスペースを減らすことができる。
【0011】
本発明の効果をより顕著に奏する態様として、前記収容体が、その外部表面と前記収容部により形成される内部液収容空間とを連通する内部流路を備えるものが挙げられる。
【0012】
前記電極構造体の先端面に内部液を流通させる溝が形成されていることが好ましい。
このようにすれば、電極構造体の先端面をシール部材で押さえつけても、収容部の内部液が溝を通って作用極まで確実に到達できるので、作用極と対極との間の導通を確保しやすい。
【0013】
内部液を作用極までより確実に到達させ、作用極と対極との間の導通をより確実に確保するには、前記蓋部材の対向面が環状を成し、前記溝が、前記電極構造体の先端面における前記蓋部材の対向面と対向する環状領域を横断するように形成されていることが好ましく、前記先端面における環状領域の最外縁部から、前記先端面から露出する前記作用極の表面に亘って設けられているのがより好ましい。
【0014】
また本発明の分析装置は、前記した本発明の隔膜式センサと、前記内部液を貯蔵する内部液タンクと、前記内部液タンク内の前記内部液を前記隔膜式センサに導出する内部液送り流路と、ポンプとを備え、前記ポンプを駆動させることで前記内部液タンク内に貯蔵した内部液を前記隔膜式センサに補給する内部液補給機構とを備えることを特徴とする。
このようなものであれば、前記した本発明の隔膜式センサと同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、内部液の変質を抑制でき、かつ隔膜の耐圧性を向上させた隔膜式センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態における分析装置の構成を模式的に示す図。
図2】同実施形態における隔膜式センサの構成を模式的に示す断面図。
図3図2におけるA部の拡大図であり、電極構造体の先端部近傍の構成を模式的に示す断面図。
図4】同実施形態の電極構造体の先端面の構成を模式的に示す平面図。
図5図2におけるA部の拡大図であり、蓋部材を収容体から取り外した構成を模式的に示す断面図。
図6】同実施形態の隔膜式センサを用いた実験結果を示すグラフ。
図7】他の実施形態の分析装置の構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係る隔膜式センサ100を用いた分析装置400について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態の分析装置400は、例えば薬液等の試料溶液中の溶存酸素等の特定物質の濃度を測定するものである。具体的にこの分析装置400は、図1に示すように、試料溶液に浸漬される、内部液を外部から補給できるように構成された内部液補給型の隔膜式センサ100と、隔膜式センサ100に内部液Lを補給する内部液補給機構200と、制御装置300とを備えている。
【0019】
隔膜式センサ100は、試料溶液中の特定物質を透過させるガス透過膜等の隔膜1を有しており、この透過した特定物質を、内部液Lに浸した電極構造体4に流れる電流に基づいて検出するものである。具体的にこの隔膜式センサ100は、図2に示すように、内部液Lと電極構造体4とを収容する収容部21を有する収容体2と、収容体2の一面に設けられる隔膜1と、収容体2に取付けられ、収容体2との間に隔膜1を挟んで固定する蓋部材3とを備える。
【0020】
収容体2は略円柱状をなすものであり、その軸方向に沿った先端部に、筒状(ここでは円筒状)を成す収容部21が同軸上に設けられている。
【0021】
電極構造体4は、略円柱状をなすものであり、収容部21の内側に同軸上に収容されている。具体的にこの電極構造体4は、支持部材41と、当該支持部材41に互いに離間するように取付けられた作用極42(カソード極)、対極43(アノード極)及びガード極44とを備えている。
【0022】
支持部材41は、絶縁性材料からなる円柱状をなすものであり、図2及び図3に示すように、棒状の作用極42の周囲を囲んで作用極42を支持するとともに、対極43を周囲に巻回して支持するものである。またこの支持部材41には、作用極42の周囲を取り囲むようにして筒状のガード極44が取り付けられている。この作用極42とガード極44は、いずれもその先端面が、段差を形成することなく支持部材41の先端面41sから露出して設けられている。
【0023】
そしてこの支持部材41の先端面41sと、ここに露出する作用極42の先端面42s(以下、作用極面ともいう)及びガード極44の先端面44s(以下、ガード極面ともいう)によって、電極構造体4の先端面4sが構成されている。図4に示すように、電極構造体4の先端面4sは、その軸方向から視て円形状をなすものであり、その中央領域には、円形状をなす作用極面42sと、これを取り囲む円環形状のガード極面44sとが同心円状に形成されている。
【0024】
図3及び図5に示すように、収容部21はその軸方向に沿った先端側に開口しており、隔膜1は、この収容部21の開口を塞ぐようにして設けられている。具体的にこの隔膜1は、その表面の中央部が電極構造体4の先端面4sに対向し、且つこれと接触するように収容部21の先端に取り付けられる。隔膜1は、試料溶液中の特定物質を透過させるものであれば、例えばシリコンやフッ素樹脂等の任意の材料により構成されてよい。
【0025】
蓋部材3は、概略円筒状を成すものであり、収容部21の先端部にその中心軸と同軸上に固定して取付けられている。この蓋部材3は、図5に示すように、収容部21の外周に外嵌するように構成された円筒部31と、この円筒部31の先端から内周側に向かって延びる円環板状の庇部32とを備えている。蓋部材3は、例えば円筒部31の内側面が収容部21の外側面にネジ止めや溶着等されることで収容部21に固定される。
【0026】
この蓋部材3は、収容部21に固定された状態で、収容部21の先端面に対向する円環状の第1対向面321を備えている。具体的にこの第1対向面321は、庇部32における内向き面に形成されている。そして前記した隔膜1の外周部が、収容部21の円環状の先端面と、これに対向する蓋部材3の第1対向面321との間にシール部材(具体的にはOリング)S1を介して挟まれており、これにより隔膜1が固定されている。
【0027】
そして、収容部21の内側面と電極構造体4の外側面との間に形成される内部液収容空間5に内部液Lが収容される。この内部液Lは、例えば塩化カリウム等の電解質、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液又はクエン酸緩衝液等であってよい。
【0028】
そしてこの収容体2には、その外表面と内部液収容空間5との間を連通する内部流路が形成されている。具体的に収容体2には、内部液補給機構200から補給される内部液Lを内部液収容空間5に導入するための第1内部流路61と、内部液収容空間5内の内部液Lを内部液補給機構200に導出するための第2内部流路62とが形成されている。第1内部流路61と第2内部流路62は、いずれもその一端が内部液収容空間5に接続されるとともに、他端が収容体2の外表面に開口しており、当該開口が内部液導入口及び内部液導出口をそれぞれ構成している。
【0029】
内部液補給機構200は、隔膜式センサ100に対して定期的に内部液Lを補給することで、隔膜式センサ100内の内部液LのpHが所定値以下に維持されるようにするものである。本実施形態の内部液補給機構200は、隔膜式センサ100との間で内部液Lを循環させる循環型のものであり、具体的には、内部液Lを貯蔵する内部液タンク210と、内部液タンク210内の内部液Lを隔膜式センサ100に導出する内部液送り流路220と、隔膜式センサ100内の内部液Lを内部液タンク210に導出する内部液戻り流路230と、内部液戻り流路230上に設けられたポンプPと、各流路上に設けられた複数の開閉弁V(電磁弁)とを備えている。
【0030】
本実施形態の内部液タンク210は、隔膜式センサ100に供給する内部液Lと、隔膜式センサ100から回収した内部液Lとを区別することなく混合して貯蔵するものである。内部液タンク210の圧力は大気圧程度になっており、内部液タンク210を含む循環系を流れる内部液Lの圧力は大気圧と同程度又はそれ以下となっている。
【0031】
内部液送り流路220は、その一端が内部液タンク210の導出口に接続され、他端が隔膜式センサ100の内部液導入口に接続されている。内部液戻り流路230は、その一端が隔膜式センサ100の内部液導出口に接続され、他端が隔膜式センサ100の導入口に接続されている。そして制御装置300によりポンプPが定期的に稼働することで、内部液送り流路220及び内部液戻り流路230を介して、内部液タンク210と隔膜式センサ100との間を内部液Lが循環する。
【0032】
制御装置300は、CPU、メモリ及び入出力インターフェース等を備えた汎用乃至専用のコンピュータである。この制御部320は、メモリの所定領域に格納された所定プログラムに従ってCPUや周辺機器を協働させることにより、測定部310及び制御部320としての機能を少なくとも発揮する。
【0033】
測定部310は、作用極42と対極43との間に測定電圧を印加した際に、作用極42と対極43との間に流れる電流値を取得し、これに基づき試料溶液中の特定物質の濃度を算出するものである。
【0034】
制御部320は、内部液補給機構200が備えるポンプPや開閉弁Vを制御して、隔膜式センサ100に内部液Lを定期的に補給するものである。具体的にこの制御部320は、隔膜式センサ100内に収容されている内部液LのpHが所定値以下(例えばpH8.5以下)となるように内部液Lを定期的に循環させる。
【0035】
しかして、本実施形態の分析装置400の隔膜式センサ100は、隔膜1の耐圧性を向上させるようにすべく、蓋部材3が、電極構造体4の先端面4sに対向する環状の第2対向面322を有し、隔膜1が、電極構造体4の先端面4sと蓋部材3の環状の第2対向面322との間に、OリングS2を介して挟まれ、液密に固定されている。具体的には、隔膜1は、第2対向面322により先端側から基端側に向けて押圧されたOリングS2によって、電極構造体4の先端面4sに押し付けられて固定されている。
【0036】
具体的にはこの第2対向面322は、蓋部材3の庇部32の内向き面において、第1対向面321よりもさらに内周側に、円環状を成すように形成されている。図3及び図4に示すように、この第2対向面322は、その軸方向から視て電極構造体4の先端面4sと同心円状をなし、作用極面42s及びガード極面44sを取り囲むように形成されている。
【0037】
また図4に示すように、電極構造体4の先端面4sには内部液Lが流通する複数の溝45が形成されている。各溝45は、平面視において、電極構造体4の先端面4sにおける第2対向面322と対向する環状領域4p及びガード極面44sを横断するように形成された直線状のものである。具体的に各溝45は、環状領域4pの最外縁部から作用極面42sに亘って設けられている。この各溝45は、電極構造体4の軸方向から視て、電極構造体4の先端面4sの中心に点対称を成すように形成されている。
【0038】
またここでは、電極構造体4の先端面4sは、基端側から先端側に向かって凸形状を成すように湾曲して形成されている。具体的にこの電極構造体4の先端面4sは、作用極面42sが形成されている中央部が先端側に突出するように、球面状又は非球面状に湾曲して形成されている。
【0039】
このように構成した本実施形態の分析装置400によれば、内部液補給機構200から隔膜式センサ100に内部液Lを定期的に補給できるように構成されているので、隔膜式センサ100内に収容されている内部液LのpHの低下等の変質を抑制することができる。また隔膜式センサ100において、隔膜1を、電極構造体4の先端面4sと蓋部材3の第2対向面322の間にOリングS2を介して挟み込んで液密に固定しているので、隔膜1を試料溶液中に浸した際に、試料溶液の圧力を隔膜1の全面にかけるのではなく、OリングS2によりシールされていない部分のみに限定することができ、これにより隔膜1が試料溶液から受けるトータルの力を低減することができる。さらに、隔膜1における試料溶液の圧力がかかる領域は電極構造体4の先端面4sによって裏側から支持されるので、試料溶液から受ける力の全てを隔膜1で受けることなく電極構造体4に負担させることができる。これにより、内部液補給機構200から隔膜式センサ100に内部液Lを補給してその変質を抑制しながらも、隔膜1が試料溶液から受ける力を低減でき、隔膜1の耐圧性を向上させることができる。そのため、隔膜1を試料溶液中に浸した際に隔膜1の変形を防止でき、高い精度で特定物質の濃度を測定することができる。また、電極構造体4の先端面4sが測定溶液側に凸形状を成すように湾曲しているので、隔膜1よりも測定溶液側において気泡溜まりとなり得るスペースを減らすことができる。
【0040】
ここで、本実施形態の隔膜式センサ100による内部液Lの変質の抑制効果を確認した実験データを図6に示す。この実験では、上記した実験例である隔膜式センサ100と、比較例である従来型の隔膜式センサ(すなわち、(i)内部液非補給型であり、(ii)電極構造体と蓋部材との間で隔膜が液密に固定されていない)とを一つずつ準備し、これらを測定溶液である28%のアンモニア原液内に浸漬し、測定状態で室温にて静置するとともに、センサ内の内部液のpH値を測定した。そして、実験例である隔膜式センサに対して、40μl/2時間の流量で内部液を補給して置換し、比較例である隔膜式センサに対しては内部液の補給を行わなかった。図6に示すように、比較例である隔膜式センサでは、測定開始直後から内部液のpH値が上昇し、5日経過後に電極面にAgが析出した。一方で、実験例である隔膜式センサ100では、測定開始後にpH値が大きく変動することなく、pH7以下の状態を120日間維持することができた。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0042】
例えば、前記実施形態の内部液補給機構200は、隔膜式センサ100との間で内部液Lを循環させる循環型のものであったが、他の実施形態では循環型でなくてもよい。この場合内部液補給機構200では、例えば、図7に示すように、隔膜式センサ100に補給する内部液Lを貯蔵する内部液タンク210と、隔膜式センサ100から戻ってくる内部液Lを貯蔵する廃液タンク240とを別々に備えていてもよい。
【0043】
また前記実施形態の隔膜式センサ100は、隔膜1は、蓋部材3の第2対向面322と電極構造体4の先端面4sとの間に1本のOリングS2を介して液密に固定されるものであったがこれに限らない。他の実施形態では、隔膜1は、同心円状に設けた複数本のOリングS2を介して、蓋部材3の第2対向面322と電極構造体4の先端面4sとの間に液密に固定されてもよい。
【0044】
また前記実施形態の隔膜式センサ100では、隔膜1は、OリングS2によって電極構造体4の先端面4sに押し付けられて液密に固定されていたがこれに限らない。他の実施形態では、隔膜1は、OリングS2によって蓋部材3の第2対向面322に押し付けられて液密に固定されてもよい。
【0045】
また前記実施形態の隔膜式センサ100では、電極構造体4の先端面4sが、凸形状を成すように湾曲して形成されていたがこれに限らない。他の実施形態では、電極構造体4の先端面4sは湾曲せず、平坦状に形成されてもよい。
【0046】
また、前記実施形態の隔膜式センサ100では、電極構造体4の先端面4sに形成された各溝45は直線状をなしていたが、これに限らない。他の実施形態では、各溝45は例えば曲線状、ジグザグ状等の任意の形状をなすように形成されてもよい。いずれの形状であっても、各溝45は、電極構造体4の先端面4sにおける環状領域4p及びガード極面44sを横断するように形成されていればよい。
【0047】
また前記実施形態の隔膜式センサ100では、電極構造体4の先端面4sは、支持部材41の先端面41sと作用極面42sとガード極面44sとが互いに段差無く形成されていたがこれに限らない。例えば他の実施形態では、作用極面42sが支持部材41の先端面41sよりも先端側に突出するように構成されていてもよい。
【0048】
また前記実施形態のシール部材S2はOリングであったがこれに限らない。他の実施形態のシール部材S2は、隔膜1を液密に固定できるものであれば、例えばガスケット等任意のものにより構成されていてもよい。
【0049】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
100・・・隔膜式センサ
1 ・・・隔膜
2 ・・・収容体
21 ・・・収容部
3 ・・・蓋部材
322・・・第2対向面(対向面)
4 ・・・電極構造体
4s ・・・先端面
42 ・・・作用極
43 ・・・対極
5 ・・・内部液収容空間
S2 ・・・Oリング
L ・・・内部液

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7