(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】溶融紡糸装置
(51)【国際特許分類】
D01D 4/00 20060101AFI20240808BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
D01D4/00 Z
D01D5/08 Z
(21)【出願番号】P 2020213808
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 翔
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小島 匠吾
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公告第1172279(GB,A)
【文献】特開昭48-039715(JP,A)
【文献】実開昭60-086569(JP,U)
【文献】特開2014-074245(JP,A)
【文献】実開平06-037359(JP,U)
【文献】特公昭55-042161(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第110670148(CN,A)
【文献】特開2022-100262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸口金を有する紡糸パックと、
内部空間に前記紡糸パックが挿入される下方に開口した凹部を有する加熱箱体と、
前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記凹部を画定する壁面と前記紡糸パックの表面との間のすき間に位置し、前記すき間の大きさに応じて弾性変形可能な変形部品を有する伝熱機構を備え、
前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、少なくとも前記変形部品を含む前記伝熱機構が有する部材により、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面から前記紡糸パックの表面に至る熱伝導経路が構成されることを特徴とする溶融紡糸装置。
【請求項2】
前記伝熱機構は、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸装置。
【請求項3】
前記伝熱機構は、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面に取り外し可能に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の溶融紡糸装置。
【請求項4】
前記伝熱機構は、前記凹部に挿入された前記紡糸パックの表面のうち、上下方向において前記紡糸口金が配置されている範囲に接触する接触部をさらに有していることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融紡糸装置。
【請求項5】
前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面に窪みが形成されており、
前記伝熱機構の一部は、前記窪みに配置されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の溶融紡糸装置。
【請求項6】
前記変形部品は、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちのいずれか一方に固定されており、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちの他方に接触することで弾性変形するばねであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の溶融紡糸装置。
【請求項7】
前記変形部品は、線状部材であり、その一端部が前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちのいずれか一方に固定されており、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、その他端部が前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちの他方に接触することで弾性変形することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の溶融紡糸装置。
【請求項8】
前記伝熱機構は、前記紡糸パックの周方向に関して複数に分割された分割部材をさらに有しており、
前記変形部品は、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちのいずれか一方に固定されており、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記分割部材に対して、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちの他方に向けて付勢力を加えるばねであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の溶融紡糸装置。
【請求項9】
前記窪みの底面と前記紡糸パックの表面との間に、上下方向の一方側から他方側に向けて次第にすき間が狭くなる漸狭部が形成されており、
前記伝熱機構は、前記紡糸パックの周方向に関して複数に分割されており、且つ、前記熱伝導経路を構成する分割部材をさらに備えており、
前記分割部材は、前記窪みの底面と前記紡糸パックの表面との間の前記漸狭部に配置され、前記窪みの底面及び前記紡糸パックの表面の両方に面で接触し、
前記変形部品は、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記分割部材に対して、上下方向の前記一方側から前記他方側に向けて付勢力を加えるばねであることを特徴とする請求項5に記載の溶融紡糸装置。
【請求項10】
前記凹部内には、前記凹部の底面に固定されており、且つ、前記紡糸パックが取り外し可能に装着されるパック装着部が設けられていることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の溶融紡糸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーを紡糸するための溶融紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶融紡糸装置は、ポリマーの融点以上に加熱された加熱箱体と、加熱箱体に取り外し可能に装着される紡糸パックとを備えている。溶融紡糸装置においては、加熱箱体の内部に形成されたポリマー流路を介して紡糸パックに供給された溶融ポリマーが、紡糸パックの紡糸口金から紡出される。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、加熱箱体には、紡糸パックが挿入される下方に開口した凹部が形成されている。凹部内には、紡糸パックを装着するパック装着部が設けられている。パック装着部に装着された紡糸パックには、加熱箱体からの熱が紡糸パックに供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱箱体と紡糸パックとの間、より詳細には、加熱箱体のパック装着部が設けられる凹部を画定する壁面と加熱箱体に装着された紡糸パックの表面との間には、1mm程度のすき間が介在する。よって、加熱箱体からの熱は、この加熱箱体と紡糸パックとの間のすき間に存在する空気層を介して紡糸パックに伝わる。空気層の熱抵抗は比較的大きいために、加熱箱体からの熱が紡糸パックに十分に伝わらないという問題がある。
【0006】
また、加熱箱体と紡糸パックとの間のすき間の大きさは、部材の加工誤差等により不均一である。よって、加熱箱体から紡糸パックへの熱の伝わり方が不均一となり、紡糸パック内に温度ムラが生じる。さらに、すき間の大きさが不均一であるので、寸法の決まった部材で加熱箱体と紡糸パックとの間のすき間を埋めることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、加熱箱体と紡糸パックとの間のすき間の大きさにかかわらず、加熱箱体から紡糸パックへの熱の供給効率を向上させることができる溶融紡糸装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の溶融紡糸装置は、紡糸口金を有する紡糸パックと、内部空間に前記紡糸パックが挿入される下方に開口した凹部を有する加熱箱体と、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記凹部を画定する壁面と前記紡糸パックの表面との間のすき間に位置し、前記すき間の大きさに応じて弾性変形可能な変形部品を有する伝熱機構を備え、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、少なくとも前記変形部品を含む前記伝熱機構が有する部材により、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面から前記紡糸パックの表面に至る熱伝導経路が構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明では、伝熱機構が有する部材により構成される熱伝導経路により、加熱箱体からの熱を紡糸パックに伝えることができる。よって、加熱箱体からの熱が空気層を介して紡糸パックに伝わる場合に比べて、加熱箱体から紡糸パックへの熱の供給効率を向上させることができる。さらに、紡糸パック内に温度ムラが生じるのを抑制できる。また、伝熱機構が、加熱箱体と紡糸パックとの間のすき間の大きさに応じて弾性変形可能な変形部品を備えているので、すき間の大きさにかかわらず、加熱箱体から紡糸パックへの熱の供給効率を向上させることができる。
【0010】
第2の発明の溶融紡糸装置では、前記伝熱機構は、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面に取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
紡糸パックは、度々加熱箱体から取り外されて清掃等のメンテナンスが実施される。伝熱機構が紡糸パックに取り付けられている場合には、紡糸パックのメンテナンス時に伝熱機構を紡糸パックから取り外す必要があり、メンテナンス作業が煩雑化する。本発明では、伝熱機構が加熱箱体側に取り付けられているので、紡糸パックのメンテナンス作業が煩雑化するのを回避することができる。
【0012】
第3の発明の溶融紡糸装置では、前記伝熱機構は、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面に取り外し可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明では、凹部を画定する壁面や伝熱機構にポリマーが付着した際に、伝熱機構を取り外して清掃することができる。
【0014】
第4の発明の溶融紡糸装置では、前記伝熱機構は、前記凹部に挿入された前記紡糸パックの表面のうち、上下方向において前記紡糸口金が配置されている範囲に接触する接触部をさらに有していることを特徴とする。
【0015】
本発明では、伝熱機構の接触部が、凹部に挿入された前記紡糸パックの表面のうち、上下方向において紡糸口金が配置されている範囲に接触する。したがって、伝熱機構により、加熱箱体からの熱を紡糸パックにおける紡糸口金が設けられた部分に伝えやすくすることができる。よって、紡糸口金の温度が低いことに起因する糸品質の低下を抑制することができる。
【0016】
第5の発明の溶融紡糸装置では、前記加熱箱体における前記凹部を画定する壁面に窪みが形成されており、前記伝熱機構の一部は、前記窪みに配置されることを特徴とする。
【0017】
本発明では、窪みにより、伝熱機構を配置する空間を十分に確保することができる。なお、本明細書においては、「窪み」を画定する壁面は、凹部を画定する壁面の一部であると定義する。
【0018】
第6の発明の溶融紡糸装置では、前記変形部品は、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちのいずれか一方に固定されており、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちの他方に接触することで弾性変形するばねであることを特徴とする。
【0019】
本発明では、ばねの付勢力により、凹部を画定する壁面及び紡糸パックの表面のうちの他方と変形部品との接触圧を高めることができる。したがって、加熱箱体から紡糸パックへの熱の供給効率をさらに向上させることができる。
【0020】
第7の発明の溶融紡糸装置では、前記変形部品は、線状部材であり、その一端部が前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちのいずれか一方に固定されており、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、その他端部が前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちの他方に接触することで弾性変形することを特徴とする。
【0021】
本発明では、伝熱機構の緻密な寸法設計や部品精度の追求が不要であるので、伝熱機構の設計及び製作を比較的容易にすることができる。
【0022】
第8の発明の溶融紡糸装置では、前記伝熱機構は、前記紡糸パックの周方向に関して複数に分割された分割部材をさらに有しており、前記変形部品は、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちのいずれか一方に固定されており、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記分割部材に対して、前記凹部を画定する壁面及び前記紡糸パックの表面のうちの他方に向けて付勢力を加えるばねであることを特徴とする。
【0023】
本発明では、ばねの付勢力により、凹部を画定する壁面及び紡糸パックの表面のうちの他方と分割部材との接触圧を高めることができる。したがって、加熱箱体から紡糸パックへの熱の供給効率をさらに向上させることができる。
【0024】
第9の発明の溶融紡糸装置では、前記窪みの底面と前記紡糸パックの表面との間に、上下方向の一方側から他方側に向けて次第にすき間が狭くなる漸狭部が形成されており、前記伝熱機構は、前記紡糸パックの周方向に関して複数に分割されており、且つ、前記熱伝導経路を構成する分割部材をさらに備えており、前記分割部材は、前記窪みの底面と前記紡糸パックの表面との間の前記漸狭部に配置され、前記窪みの底面及び前記紡糸パックの表面の両方に接触し、前記変形部品は、前記凹部に前記紡糸パックが挿入されたとき、前記分割部材に対して、上下方向の前記一方側から前記他方側に向けて付勢力を加えるばねであることを特徴とする。
【0025】
本発明では、熱伝導経路を構成する分割部材は、窪みの底面及び紡糸パックの表面とそれぞれ面で接触する。また、分割部材に形成される熱伝導経路は、凹部を画定する壁面から紡糸パックの表面までの最短距離となる。したがって、加熱箱体から紡糸パックへの熱の供給効率をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかる溶融紡糸装置の断面図である。
【
図2】
図1に示す溶融紡糸装置の加熱箱体における凹部の下端部近傍の拡大図であり、(a)は紡糸パックを凹部に挿入していない状態を示し、(b)は紡糸パックを凹部に挿入した状態を示す。
【
図3】
図1に示す溶融紡糸装置の加熱箱体における凹部を画定する壁面に取り付けられたばねを表す図である。
【
図4】第1実施形態及び比較例の溶融紡糸装置における紡糸口金の温度変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2実施形態にかかる溶融紡糸装置の加熱箱体における凹部の断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態にかかる溶融紡糸装置の加熱箱体における凹部の下端部近傍の断面図であり、(a)は凹部に紡糸パックを挿入する際の状態を示し、(b)は凹部に紡糸パックを挿入した状態を示す。
【
図8】本発明の第4実施形態にかかる溶融紡糸装置の加熱箱体における凹部の下端部近傍の断面図であり、(a)は凹部に紡糸パックを挿入する際の状態を示し、(b)は凹部に紡糸パックを挿入した状態を示す。
【
図9】本発明の第2実施形態の一変形例にかかる溶融紡糸装置の加熱箱体における凹部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態にかかる溶融紡糸装置1の全体構成について、
図1を参照しつつ説明する。溶融紡糸装置1は、紡糸口金21を有する円筒状の紡糸パック2、下方に開口した凹部32を有する加熱箱体3と、伝熱機構4と、冷却箱体6と、を主に備えている。
【0028】
加熱箱体3の凹部32内には、紡糸パック2が取り外し可能に装着されるパック装着部31が設けられている。パック装着部31に装着される紡糸パック2は、その軸方向が上下方向となる姿勢で凹部32の内部空間に挿入される。凹部32は、平面視で円形である。凹部32は、
図1の紙面直交方向に沿って千鳥状に複数設けられている。凹部32を画定する壁面の下端部には、窪み32aが形成されている。なお、窪み32aを画定する壁面は、凹部32を画定する壁面の一部であると定義する。窪み32aは、凹部32の周方向に沿って等間隔で複数形成されている(
図3参照)。窪み32aは、下方に開放されている。伝熱機構4の一部は、この窪み32aに配置されている。凹部32を画定する壁面のうち窪み32aが形成されている部分を除いた部分と、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面との間のすき間は約1mmである。
【0029】
加熱箱体3の内部には、図示しない紡糸ポンプから、複数の凹部32に設けられたパック装着部31にそれぞれ装着された紡糸パック2に至る複数のポリマー流路33が設けられている。パック装着部31は、図示しないねじにより凹部32の底面に固定されている。パック装着部31は、下方に突出しており、且つ、外周面に雄ねじが形成された接続部31aを有している。パック装着部31には、ポリマー流路33の末端となる貫通孔31bが形成されている。
【0030】
加熱箱体3の内部空間3aには、図示しない熱媒ボイラーから供給された熱媒蒸気が封入されている。加熱箱体3の外側面は、例えばセラミックフェルト等の断熱部材5によって覆われている。
【0031】
紡糸パック2は、パック装着部31に装着されたときにポリマー流路33と繋がる内部空間2aが形成されたパック部材23を有している。パック部材23の内部空間2aには、ろ過部材22が配置されている。パック部材23には、その上面から凹んでおり、内周面にパック装着部31の接続部31aの雄ねじに対応した雌ねじが形成された螺着部23aが形成されている。螺着部23aは、接続部31aと螺着可能である。また、パック部材23には、下端において厚み方向に開口し、内部空間2aを外部空間と連通させる開口23bが形成されている。この開口23bには、紡糸口金21が嵌め込まれている。
【0032】
冷却箱体6は、加熱箱体3の下方に配置されている。冷却箱体6の上面には、パッキン7が配置されている。冷却箱体6は、図示しない駆動機構により上下に移動可能であり、パッキン7を介して加熱箱体3の下面と当接する状態(
図1の状態)と、加熱箱体3の下面から離隔する状態とを取り得る。
【0033】
パッキン7には、加熱箱体3の凹部32と対向する部分に開口71が形成されている。また、冷却箱体6の上壁及び下壁には、加熱箱体3の凹部32と対向する部分に開口61、62がそれぞれ形成されている。そして、冷却箱体6内における加熱箱体3の凹部32と対向する部分は、紡糸口金21から紡出された溶融ポリマーが通過する糸走行空間6aとなっている。冷却箱体6内において、糸走行空間6aとそれ以外の部分とはフィルター63によって仕切られている。冷却箱体6には、図示しないダクトを介して冷却空気が圧送される。冷却箱体6内に圧送された冷却空気は、フィルター63を介して糸走行空間6aに圧送される。
【0034】
上述のように構成された溶融紡糸装置1は、熱媒ボイラー(図示せず)から熱媒蒸気が加熱箱体3の内部空間3aへ供給される。そして、加熱箱体3の内部空間3aに供給された熱媒蒸気によって、加熱箱体3がポリマーの融点以上の所定の紡糸温度に加熱される。その後、加熱器(図示せず)などで上記紡糸温度と同等の温度に予熱された複数の紡糸パック2が、加熱箱体3の各凹部32内に挿入されて、パック装着部31に装着される。パック装着部31に装着された紡糸パック2には、伝熱機構4により加熱箱体3からの熱が伝えられる。
【0035】
そして、紡糸ポンプ(図示せず)から送り出されたナイロンやポリエステル等の高温の溶融ポリマーが、ポリマー流路33を介して紡糸パック2の内部空間2aに送り込まれる。紡糸パック2の内部空間2aに送り込まれた溶融ポリマーは、ろ過部材22によりろ過された後に紡糸口金21から紡出される。紡糸口金21から紡出された溶融ポリマーは、冷却箱体6内の糸走行空間6aを通過する。このとき、糸走行空間6aを走行する溶融ポリマーは、糸走行空間6aに圧送された冷却空気によって冷却される。
【0036】
次に、
図2(a)、(b)及び
図3をさらに参照しつつ、伝熱機構4の構成について説明する。伝熱機構4は、加熱箱体3に形成された凹部32を画定する壁面(より詳細には、窪み32aの底面)と、凹部32に挿入された紡糸パック2との間のすき間に配置される。以降の説明において、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面とのすき間の厚み方向(
図2(a)、(b)の左右方向)を、単に「すき間の厚み方向」と称する。伝熱機構4は、複数の板ばね41で構成されている。板ばね41の材質は、熱伝導率が高い部材であることが好ましく、例えばアルミニウム合金、銅合金、普通鋼、合金鋼、特殊鋼、炭素繊維コンポジット、シリコーンゴム等を用いることができる。板ばね41の材質は、少なくとも流動しない空気層よりも熱伝導率が高い材質であればよい。
【0037】
各板ばね41は、凹部32を画定する壁面の下端部に形成された複数の窪み32aのそれぞれに取り外し可能に嵌め込まれている。板ばね41は、平板状の部材の一端部を折り返すことで形成されており、平板状のベース部41a及び折返部41bで構成されている。折返部41bは、ベース部41aの下端部に接続されており、ベース部41aの一方の面側に折り返されている。折返部41bは、上下方向に関する中央部41cが最もベース部41aから離れるように屈曲している。板ばね41は、ベース部41aの背面(折返部41bが折り返されている側とは反対側の面)が、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み32aの底面)に接触するように、加熱箱体3に取り付けられる。
【0038】
板ばね41のベース部41aは、窪み32a内に配置されている。板ばね41の折返部41bにおける中央部41cは、窪み32aの外に位置している。すなわち、板ばね41の中央部41cのすき間の厚み方向に関する位置は、凹部32を画定する壁面のうち窪み32aが形成されていない部分よりも紡糸パック2側に位置している。すき間の厚み方向に関する、外力が加わっていない状態の板ばね41の厚みT(
図2(a)参照)は、窪み32aにおける凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面とのすき間G(
図2(b)参照)の大きさよりも大きい。
【0039】
図2(b)に示すように、凹部32に紡糸パック2が挿入されたとき、板ばね41の折返部41bにおける中央部41cは、紡糸パック2の表面に接触する。より詳細には、板ばね41の中央部41cは、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面のうち、上下方向において紡糸口金21が配置されている範囲A(
図2(b)参照)に接触する。板ばね41の中央部41cは、本発明の接触部に対応する。板ばね41は、その中央部41cが紡糸パック2の表面に接触したとき、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面との間のすき間の大きさに応じて弾性変形する。
図2(b)に示すように、板ばね41が弾性変形したとき、折返部41bの上端がベース部41aに接触する。
【0040】
板ばね41の中央部41cが紡糸パック2の外周面に接触したとき、板ばね41によって、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み32aの底面)から紡糸パック2の外周面に至る熱伝導経路が構成される。これにより、加熱箱体3からの熱は、まず加熱箱体3に接触しているベース部41aに伝わる。そして、ベース部41aに伝わった熱は、折返部41bに伝わる。ここで、折返部41bは、下端部がベース部41aに繋がっており、且つ、上端部がベース部41aに接触している。したがって、ベース部41aの熱は、折返部41bの下端部及び上端部の両方に伝わる。最後に、折返部41bに伝わった熱は、折返部41bの中央部41cと接触する紡糸パック2に伝わる。
【0041】
溶融紡糸装置1においては、定期的に紡糸口金21の表面に付着した異物を除去するいわゆる面掃作業を行う必要がある。面掃作業中に紡糸口金21から紡出された溶融ポリマーは、破棄することとなる。したがって、溶融ポリマーが無駄とならないように、面掃作業は、紡糸口金21からの溶融ポリマーの紡出を止めた状態で行われることがある。面相作業中は、冷却箱体6を下方に移動させて、冷却箱体6がパッキン7を介して加熱箱体3の下面と当接する状態から、冷却箱体6が加熱箱体3の下面から離隔する状態とする。面掃作業後は、冷却箱体6を上方に移動させて、冷却箱体6が加熱箱体3の下面から離隔する状態から、冷却箱体6がパッキン7を介して加熱箱体3の下面と当接する状態とする。紡糸パック2は、加熱箱体3に取り付ける前に予め所定温度に加熱されるが、冷却箱体6が加熱箱体3の下面と当接する状態となるまでは紡糸口金21が外気に晒されるので、紡糸口金21の温度が低下する。紡糸口金21の温度が低下すると、面掃作業後に紡糸口金21からの溶融ポリマーの紡出を再開したときに、紡出される糸の品質が低下する。よって、面掃作業後に速やかに紡糸口金21の温度を上昇させることが望まれている。
【0042】
ここで、実施例及び比較例の溶融紡糸装置における紡糸口金21の温度変化を
図4のグラフに示す。
図4のグラフは、具体的には、加熱箱体3に紡糸パック2を取り付けてからの紡糸口金21の温度変化を示す。
【0043】
実施例は、上述の第1実施形態の溶融紡糸装置1で、板ばね41の材質をステンレス材としたものである。比較例の溶融紡糸装置は、伝熱機構4を備えていないこと、及び、加熱箱体3の凹部32に窪み32aが形成されていないことを除いて、上述の実施形態の溶融紡糸装置1と同様の構成を有する。比較例の溶融紡糸装置においては、凹部32を画定する壁面と、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面との間のすき間は、約1.0mmである。比較例の溶融紡糸装置においては、この約1.0mmのすき間に存在する空気層を介して加熱箱体3からの熱が紡糸パック2に供給される。
【0044】
図4のグラフは、縦軸が紡糸口金21の温度(℃)を示し、横軸が紡糸パック2の加熱箱体3に装着してからの時間経過(min)を示す。また、破線は実施例の紡糸口金21の下面の中央部で計測した温度を示し、実線は比較例の紡糸口金21の下面の中央部で計測した温度を示す。
【0045】
図4に示すように、実施例の紡糸口金21の下面の中央部の温度は、比較例の紡糸口金21に比べて、加熱箱体3に紡糸パック2を取り付けてからの低下が緩やかである。また、計測開始から約10min経過後に冷却箱体6がパッキン7を介して加熱箱体3の下面と当接する状態とした後、実施例の紡糸口金21の下面の中央部の温度は約80min経過後に260℃に達しているが、比較例の紡糸口金21の下面の中央部の温度は、260℃に達するまでに約110minかかっている。
【0046】
(第1実施形態の効果)
以上のように、本実施形態の溶融紡糸装置1は、紡糸口金21を有する円筒状の紡糸パック2と、内部空間に紡糸パック2が挿入される下方に開口した凹部32を有する加熱箱体3と、凹部32に紡糸パック2が挿入されたとき、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の表面との間のすき間に位置し、すき間の大きさに応じて弾性変形可能な板ばね41を有する伝熱機構4を備え、凹部32に紡糸パック2が挿入されたとき、板ばね41により、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面から紡糸パック2の表面に至る熱伝導経路が構成される。
【0047】
したがって、伝熱機構4が有する板ばね41により構成される熱伝導経路により、加熱箱体3からの熱を紡糸パック2に伝えることができる。よって、加熱箱体3からの熱が空気層を介して紡糸パック2に伝わる場合に比べて、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率を向上させることができる。さらに、紡糸パック2内に温度ムラが生じるのを抑制できる。また、板ばね41が、加熱箱体3と紡糸パック2との間のすき間の大きさに応じて弾性変形可能であるので、すき間の大きさにかかわらず、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率を向上させることができる。
【0048】
本実施形態の溶融紡糸装置1では、板ばね41は、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に取り付けられている。紡糸パック2は、度々加熱箱体3から取り外されて清掃等のメンテナンスが実施される。板ばね41が紡糸パック2に取り付けられている場合には、紡糸パック2のメンテナンス時に板ばね41を紡糸パック2から取り外す必要があり、メンテナンス作業が煩雑化する。本実施形態では、板ばね41が加熱箱体3側に取り付けられているので、紡糸パック2のメンテナンス作業が煩雑化するのを回避することができる。
【0049】
本実施形態の溶融紡糸装置1では、板ばね41は、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に取り外し可能に取り付けられている。したがって、凹部32を画定する壁面や板ばね41にポリマーが付着した際に、板ばね41を取り外して清掃することができる。
【0050】
本実施形態の溶融紡糸装置1では、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に窪み32aが形成されており、板ばね41のベース部41aは、窪み32aに配置される。したがって、窪み32aにより、板ばね41を配置する空間を十分に確保することができる。
【0051】
本実施形態の溶融紡糸装置1では、板ばね41における折返部41bの中央部41cは、凹部32に挿入された紡糸パック2の表面のうち、上下方向において紡糸口金21が配置されている範囲Aに接触する。したがって、板ばね41によりに、加熱箱体3からの熱を紡糸パック2における紡糸口金21が設けられた部分に伝えやすくすることができる。よって、紡糸口金21の温度が低いことに起因する糸品質の低下を抑制することができる。
【0052】
本実施形態の溶融紡糸装置1では、板ばね41は、凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み32aの底面)に固定されており、凹部32に紡糸パックが挿入されたとき、板ばね41が紡糸パック2の外周面に接触することで弾性変形する。したがって、板ばね41の付勢力により、紡糸パック2の外周面と板ばね41との接触圧を高めることができる。よって、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率をさらに向上させることができる。
【0053】
<第2実施形態>
続いて、
図5を参照しつつ、本発明の第2実施形態にかかる溶融紡糸装置101について説明する。本実施形態の溶融紡糸装置101の構成は、伝熱機構104を除いて、第1実施形態の溶融紡糸装置1の構成とほぼ同じである。以下の説明においては、第1実施形態と同じ構成要素については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
第1実施形態においては、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面の下端部に形成される窪み32aは、凹部32の周方向に沿って等間隔で複数形成されている。一方、本実施形態の窪み132aは、凹部32の全周にわたって形成されている。
【0055】
本実施形態の伝熱機構104は、ブラシ状であり、帯状のベース部材141及び帯状のベース部材141の一方の面に取り付けられた多数のブラシ毛142を有する。ベース部材141及びブラシ毛142の材質は、熱伝導率が高い材質であることが好ましく、例えばアルミニウム合金、銅合金、普通鋼、合金鋼、特殊鋼、炭素繊維コンポジット、シリコーンゴム等を用いることができる。ベース部材141及びブラシ毛142の材質は、少なくとも流動しない空気層よりも熱伝導率が高い材質であればよい。
【0056】
伝熱機構104は、ボルト(図示せず)等によって加熱箱体3における凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み132aの底面)に取り外し可能に取り付けられている。伝熱機構104は、ベース部材141のブラシ毛142が取り付けられた面とは反対側の面が、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に接触するように、加熱箱体3に取り付けられる。すなわち、ブラシ毛142のベース部材141に取り付けられている側の一端部は、ベース部材141を介して凹部32を画定する壁面に固定されている。伝熱機構104は、凹部32に挿入された紡糸パック2の周囲を全周にわたって取り囲むように配置されている。
【0057】
伝熱機構104のベース部材141は、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面の下端部に形成された窪み132a内に配置されている。ブラシ毛142の先端部142a(ベース部材141に取り付けられている側とは反対側の他端部)は、窪み132aの外に位置している。すなわち、ブラシ毛142の先端部142aのすき間の厚み方向に関する位置は、凹部32を画定する壁面のうち窪み132aが形成されていない部分よりも紡糸パック2側に位置している。ブラシ毛142に外力が加わっていない状態での、すき間の厚み方向に関する伝熱機構104の長さは、窪み132aにおける凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面とのすき間Gの大きさよりも大きい。
【0058】
凹部32に紡糸パック2が挿入されたとき、ブラシ毛142の先端部142aは紡糸パック2の表面に接触する。より詳細には、ブラシ毛142の先端部142aは、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面のうち、上下方向において紡糸口金21が配置されている範囲Aに接触する。本実施形態においては、全てのブラシ毛142の先端部142aが紡糸パック2の外周面の範囲Aに接触する。ブラシ毛142の先端部142aは、本発明の接触部に対応する。ブラシ毛142は、その先端部142aが紡糸パック2の表面に接触したとき、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面との間のすき間の大きさに応じて弾性変形する。
【0059】
ブラシ毛142の先端部142aが紡糸パック2の外周面に接触したとき、ベース部材141及びブラシ毛142によって、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み132aの底面)から紡糸パック2の外周面に至る熱伝導経路が構成される。これにより、加熱箱体3からの熱は、まず加熱箱体3に接触しているベース部材141に伝わる。そして、ベース部材141に伝わった熱は、ベース部材141に取り付けられているブラシ毛142に伝わる。最後に、ブラシ毛142に伝わった熱は、ブラシ毛142と接触する紡糸パック2に伝わる。
【0060】
(第2実施形態の効果)
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の構成に基づく効果に加えて、次の効果が得られる。本実施形態の溶融紡糸装置101では、伝熱機構104の緻密な寸法設計や部品精度の追求が不要であるので、伝熱機構104の設計及び製作を比較的容易にすることができる。
【0061】
<第3実施形態>
続いて、
図6(a)、(b)及び
図7を参照しつつ、本発明の第3実施形態にかかる溶融紡糸装置201について説明する。本実施形態の溶融紡糸装置201の構成は、伝熱機構204を除いて、第1実施形態の溶融紡糸装置1の構成とほぼ同じである。以下の説明においては、第1実施形態と同じ構成要素については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0062】
第1実施形態においては、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面の下端部に形成される窪み32aは、凹部32の周方向に沿って等間隔で複数形成されている。また、窪み32aは、下方に開放されている。一方、本実施形態の窪み232aは、凹部32の全周にわたって形成されている。さらに、窪み232aを画定する壁面は、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面と対向する底面と、底面における上下方向の両端にそれぞれ位置する側面とで構成されている。すなわち、窪み232aは、下方に開放されていない。
【0063】
本実施形態の伝熱機構204は、紡糸パック2の周方向に関して複数の移動ブロック242に分割された分割部材241と、分割部材241の各移動ブロック242に対応して設けられたばね243とを備えている。分割部材241及びばね243の材質は、熱伝導率が高い材質であることが好ましく、例えばアルミニウム合金、銅合金、普通鋼、合金鋼、特殊鋼、炭素繊維コンポジット、シリコーンゴム等を用いることができる。分割部材241及びばね243の材質は、少なくとも流動しない空気層よりも熱伝導率が高い材質であればよい。
【0064】
図7に示すように、分割部材241を構成する移動ブロック242は、円弧状の部材である。分割部材241は、凹部32に挿入された紡糸パック2の周囲に配置されている。ばね243は、すき間の厚み方向に伸縮する圧縮コイルばねであり、その一端部が移動ブロック242における加熱箱体3と対向する面に取り付けられている。ばね243は、移動ブロック242に取り付けられている側とは反対側の他端部が、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み232aの底面)に接触するように、加熱箱体3に対して取り外し可能に取り付けられている。
【0065】
伝熱機構204のばね243は、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面の下端部に形成された窪み232a内に配置されている。移動ブロック242の先端面242a(すき間の厚み方向(
図6(a)、(b)の左右方向)に関してばね243が取り付けられている面とは反対側の面)は、窪み232aの外に位置している。すなわち、移動ブロック242の先端面242aのすき間の厚み方向に関する位置は、凹部32を画定する壁面のうち窪み232aが形成されていない部分よりも紡糸パック2側に位置している。移動ブロック242に外力が加わっていない状態での、すき間の厚み方向に関する伝熱機構204の長さは、窪み232aにおける凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面とのすき間G(
図6(b)参照)の大きさよりも大きい。移動ブロック242の上下面は、窪み232aの両側面と接触している。すなわち、移動ブロック242の上下方向に沿う長さは、窪み232aの上下方向に沿う長さとほぼ等しい。
【0066】
移動ブロック242には、傾斜面242bが形成されている。傾斜面242bは、移動ブロック242おけるすき間の厚み方向(
図6(a)、(b)の左右方向)に関してばね243が取り付けられている側とは反対側の部分の下面に形成されている。傾斜面242bは、すき間の厚み方向に関して下端が上端よりも加熱箱体3に近い位置に位置するように傾斜している。
【0067】
図6(a)に示すように、下方から凹部32に紡糸パック2が挿入するとき、紡糸パック2の上端が移動ブロック242の傾斜面242bと当接する。紡糸パック2の上端が移動ブロック242の傾斜面242bと当接した状態で、紡糸パック2を押し上げることで移動ブロック242が加熱箱体3に近づく方向に移動し、ばね243が縮む。
【0068】
図6(b)に示すように、紡糸パック2が凹部32内に完全に挿入されたとき、移動ブロック242の先端面242aが紡糸パック2の表面に接触する。より詳細には、移動ブロック242の先端面242aは、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面のうち、上下方向において紡糸口金21が配置されている範囲A(
図6(b)参照)に接触する。本実施形態においては、移動ブロック242の先端面242aの全体が紡糸パック2の外周面の範囲Aに接触する。移動ブロック242の先端面242aは、本発明の接触部に対応する。ばね243は、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面との間のすき間の大きさに応じて縮む。ばね243は、移動ブロック242に対して、紡糸パック2の表面に向かう方向の付勢力を加える。
【0069】
移動ブロック242の先端面242aが紡糸パック2の外周面に接触したとき、移動ブロック242及びばね243によって、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面から紡糸パック2の外周面に至る熱伝導経路が構成される。これにより、加熱箱体3からの熱は、移動ブロック242の上下面と接触する窪み232aの両側面から移動ブロック242に伝わる。また、加熱箱体3からの熱は、ばね243を介しても移動ブロック242に伝わる。最後に、移動ブロック242に伝わった熱は、移動ブロック242と接触する紡糸パック2に伝わる。
【0070】
なお、分割部材241を構成する移動ブロック242の先端面242aは、紡糸パック2の外周面と曲率が同じとなるように設計されているが、加工誤差等により両者の曲率に差が生じ得る。したがって、移動ブロック242の先端面242aの全面を、紡糸パック2の外周面に接触させるのは困難である。ここで、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率は、移動ブロック242の先端面242aと紡糸パック2の外周面との接触面積が大きいほど向上する。そこで、移動ブロック242の先端面242aと紡糸パック2の外周面との接触面積を大きくするという観点から、両者の曲率に差が生じても接触面積を多く確保できるように、分割部材241の分割数を多くすることが好ましい。すなわち例えば、分割部材241は8個の移動ブロック242に分割される。
【0071】
また、ばね243の数が多いほど熱伝導経路が増えるので、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率が向上する。ばね243は、例えば8個の移動ブロック242のそれぞれ2つずつ、合計16個設けられる。
【0072】
(第3実施形態の効果)
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の構成に基づく効果に加えて、次の効果が得られる。本実施形態の溶融紡糸装置201では、ばね243の付勢力により、紡糸パック2の表面と分割部材241(移動ブロック242)との接触圧を高めることができる。したがって、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率をさらに向上させることができる。
【0073】
<第4実施形態>
続いて、
図8(a)、(b)を参照しつつ、本発明の第4実施形態にかかる溶融紡糸装置301について説明する。本実施形態の溶融紡糸装置301の構成は、伝熱機構304を除いて、第1実施形態の溶融紡糸装置1の構成とほぼ同じである。以下の説明においては、第1実施形態と同じ構成要素については、第1実施形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0074】
第1実施形態においては、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面の下端部に形成される窪み32aは、凹部32の周方向に沿って等間隔で複数形成されている。また、窪み32aは、下方に開放されている。一方、本実施形態の窪み332aは、凹部32の全周にわたって形成されている。さらに、窪み332aを画定する壁面は、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面と対向する底面と、底面における上下方向の両端にそれぞれ位置する側面とで構成されている。すなわち、窪み332aは、下方に開放されていない。窪み332aの底面は、すき間の厚み方向に関して下端が上端よりも凹部32に挿入された紡糸パック2に近い位置に位置するように傾斜している。これにより、凹部32に紡糸パック2が挿入されたとき、窪み332aの底面と紡糸パック2の外周面との間は、上方側から下方側に向けて次第にすき間が狭くなる漸狭部308となる。
【0075】
本実施形態の伝熱機構304は、紡糸パック2の周方向に関して複数の移動ブロック342に分割された分割部材341と、分割部材341の各移動ブロック342にそれぞれ設けられたばね343とを備えている。分割部材341及びばね343の材質は、熱伝導率が高い材質であることが好ましく、例えばアルミニウム合金、銅合金、普通鋼、合金鋼、特殊鋼、炭素繊維コンポジット、シリコーンゴム等を用いることができる。分割部材341及びばね343の材質は、少なくとも流動しない空気層よりも熱伝導率が高い材質であればよい。
【0076】
分割部材341を構成する移動ブロック342は、円弧状の部材である。分割部材341は、凹部32に挿入された紡糸パック2の周囲に配置されている。ばね343は、窪み332aを画定する壁面のうち下方を向く面と移動ブロック342の上面との間に配置されている。ばね343は、その一端が移動ブロック342の上面に取り付けられており、且つ、他端が凹部32を画定する壁面に取り外し可能に取り付けられている。ばね343は、例えば皿ばねであり、上下方向(紡糸パック2の軸方向)に伸縮する。
【0077】
伝熱機構304のばね343は、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面の下端部に形成された窪み332a内に配置されている。移動ブロック342の先端面342a(凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面と対向する面)は、窪み332aの外に位置している。すなわち、移動ブロック342の先端面342aのすき間の厚み方向に関する位置は、凹部32を画定する壁面のうち窪み332aが形成されていない部分よりも紡糸パック2側に位置している。
図8(a)に示すように、移動ブロック342に外力が加わっていない状態での、移動ブロック342における窪み332aの外に位置する部分のすき間の厚み方向に関する長さL2は、凹部32を画定する壁面のうち窪み332aが形成されていない部分と凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面との間の長さL1よりも長い。
【0078】
移動ブロック342には、傾斜面342bが形成されている。傾斜面342bは、先端面342aの下端に接続されている。傾斜面342bは、すき間の厚み方向に関して下端が上端よりも加熱箱体3に近い位置に位置するように傾斜している。
【0079】
移動ブロック342の窪み332aの底面と対向する面は、窪み332aの底面と同じ傾斜角度の傾斜面342cとなっている。すなわち、傾斜面342cは、すき間の厚み方向に関して下端が上端よりも凹部32に挿入された紡糸パック2に近い位置に位置するように傾斜している。
【0080】
図8(a)に示すように、下方から凹部32に紡糸パック2が挿入するとき、紡糸パック2の上端が移動ブロック342の傾斜面342bと当接する。紡糸パック2の上端が移動ブロック342の傾斜面342bと当接した状態で、紡糸パック2を押し上げることで移動ブロック342が上方に移動し、ばね343が縮む。このとき、移動ブロック342は、その傾斜面342cが窪み332aの底面に接触した状態で上方に移動する。移動ブロック342は、窪み332aの底面の傾斜によって、上方に移動するにつれて、その中心が凹部32に挿入された紡糸パック2から離れる方向(加熱箱体3に近づく方向)に移動する。
【0081】
図8(b)に示すように、紡糸パック2が凹部32内に完全に挿入されたとき、移動ブロック342は漸狭部308に配置される。また、移動ブロック342の先端面342aは、紡糸パック2の表面に接触する。より詳細には、移動ブロック342の先端面342aは、凹部32に挿入された紡糸パック2の外周面のうち、上下方向において紡糸口金21が配置されている範囲A(
図8(b)参照)に接触する。本実施形態においては、移動ブロック342の先端面342aの全体が紡糸パック2の外周面の範囲Aに接触する。移動ブロック342の先端面342aは、本発明の接触部に対応する。ばね343は、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面との間のすき間の大きさに応じて縮む。ばね343は、移動ブロック342に対して、上方側から下方側に向かう付勢力を加える。
【0082】
移動ブロック342の先端面342aが紡糸パック2の外周面に接触したとき、移動ブロック342及びばね343によって、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み332aの底面)から紡糸パック2の外周面に至る熱伝導経路が構成される。これにより、加熱箱体3からの熱は、まず加熱箱体3に接触している移動ブロック342及びばね343に伝わる。ばね343に伝わった熱は、移動ブロック342に伝わる。そして、移動ブロック342に伝わった熱は、移動ブロック342と接触する紡糸パック2に伝わる。
【0083】
なお、分割部材341を構成する移動ブロック342の先端面342aは、紡糸パック2の外周面と曲率が同じとなるように設計されているが、加工誤差等により両者の曲率に差が生じ得る。したがって、移動ブロック342の先端面342aの全面を、紡糸パック2の外周面に接触させるのは困難である。ここで、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率は、移動ブロック342の先端面342aと紡糸パック2の外周面との接触面積が大きいほど向上する。そこで、移動ブロック342の先端面342aと紡糸パック2の外周面との接触面積を大きくするという観点から、両者の曲率に差が生じても接触面積を多く確保できるように、分割部材341の分割数を多くすることが好ましい。すなわち例えば、分割部材341は8個の移動ブロック342に分割される。
【0084】
(第4実施形態の効果)
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の構成に基づく効果に加えて、次の効果が得られる。本実施形態の溶融紡糸装置301では、熱伝導経路を構成する移動ブロック342は、加熱箱体3の凹部32を画定する壁面(より詳細には窪み332aの底面)及び紡糸パック2の外周面とそれぞれ面で接触する。また、移動ブロック342内に形成される熱伝導経路は、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面から紡糸パック2の外周面までの最短距離となる。したがって、加熱箱体3から紡糸パック2への熱の供給効率をさらに向上させることができる。
【0085】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0086】
上述の実施形態では、伝熱機構4(104、204、304)が加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に形成された窪み32a(132a、232a、332a)の底面に取り付けられている場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、
図9に示すように、第2実施形態の一変形例にかかる溶融紡糸装置401においては、帯状のベース部材441及び帯状のベース部材441の一方の面に取り付けられた多数のブラシ毛442を有する伝熱機構404が、紡糸パック2の外周面に取り付けられている。
【0087】
上述の実施形態では、伝熱機構4(104、204、304)が、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に取り外し可能に取り付けられている場について説明したが、これには限定されない。すなわち、伝熱機構4(104、204、304)は、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面から取り外しできない構成であってもよい。
【0088】
上述の実施形態では、伝熱機構4(104、204、304)の一部が、加熱箱体3における凹部32を画定する壁面に形成された窪み32a(132a、232a、332a)に配置されている場合について説明したが、窪み32a(132a、232a、332a)は形成されていなくてもよい。伝熱機構4(104、204、304)は、窪みが形成されていない凹部を画定する壁面に配置されていてもよい。
【0089】
上述の第1実施形態では板ばね41の中央部41c、第2実施形態ではブラシ毛142の先端部142a、第3及び第4実施形態では移動ブロック242、342の先端面242a、342aが、凹部32に挿入された紡糸パック2の表面のうち、上下方向において紡糸口金21が配置されている範囲Aに接触する場合について説明したが、これには限定されない。これら板ばね41の中央部41c、ブラシ毛142の先端部142a、移動ブロック242、342の先端面242a、342aは、紡糸パック2の表面のうち範囲A以外の部分に接触してもよい。なお、第2実施形態では全てのブラシ毛142の先端部142a、第3及び第4実施形態では移動ブロック242、342の先端面242a、342aの全体が、範囲Aに接触する場合について説明したが、一部のブラシ毛142の先端部142aや、移動ブロック242、342の先端面242a、342aの一部が、範囲Aに接触するようにしてもよい。
【0090】
上述の第1実施形態では、板ばね41が弾性変形したとき、折返部41bの上端がベース部41aに接触する場合について説明したが、折返部41bの上端はベース部41aに接触しなくてもよい。
【0091】
上述の第2実施形態では、伝熱機構104が、帯状のベース部材141及び帯状のベース部材141の一方の面に取り付けられた多数のブラシ毛142を有するブラシ状である場合について説明した。同様に、伝熱機構は、帯状の部材の一方の面に多数の線状部材を取り付けたたわし状とすることもできる。
【0092】
上述の第3実施形態では、移動ブロック242の上下面が窪み232aの両側面と接触している場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、移動ブロック242の上下方向に沿う長さが窪み232aの上下方向に沿う長さよりも十分に小さく、移動ブロック242の上下面が窪み232aの両側面と離隔していてもよい。
【0093】
上述の第4実施形態では、凹部32を画定する壁面と紡糸パック2の外周面との間に、上方側から下方側に向けて次第にすき間が狭くなる漸狭部308が形成されており、ばね343が移動ブロック342に対して上方側から下方側に向かう付勢力を加える場合について説明したが、これには限定されない。すなわち例えば、下方側から上方側に向けて次第にすき間が狭くなる漸狭部が形成されており、ばねが移動ブロック342に対して下方側から上方側に向かう付勢力を加えてもよい。
【0094】
また、第4実施形態では、凹部32を画定する壁面に形成された窪み332aが下方に開放されていない場合について説明したが、窪み332aは下方に開放されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1、101、201、301、401 溶融紡糸装置
2 紡糸パック
3 加熱箱体
4、104、204、304、404 伝熱機構
21 紡糸口金
32 凹部
32a、132a、232a、332a 窪み
41 板ばね(変形部品)
41c 中央部(接触部)
142 ブラシ毛(変形部品、線状部材)
142a 先端部(接触部)
241、341 分割部材
242a、342a 先端面(接触部)
243、343 ばね(変形部品)
308 漸狭部