IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-流体封入式防振装置 図1
  • 特許-流体封入式防振装置 図2
  • 特許-流体封入式防振装置 図3
  • 特許-流体封入式防振装置 図4
  • 特許-流体封入式防振装置 図5
  • 特許-流体封入式防振装置 図6
  • 特許-流体封入式防振装置 図7
  • 特許-流体封入式防振装置 図8
  • 特許-流体封入式防振装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20240808BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
F16F13/10 J
B60K5/12 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021003965
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108811
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】黒田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-004086(JP,A)
【文献】特開平10-009333(JP,A)
【文献】特開2009-008185(JP,A)
【文献】特開2006-275184(JP,A)
【文献】特開2000-065125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00- 13/30
B60K 1/00- 6/12
B60K 7/00- 8/00
B60K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて液体が封入された受圧室と、壁部の一部が可撓性のダイヤフラムで構成されて液体が封入された平衡室とが、仕切部材の各一方の側に形成されていると共に、該受圧室と該平衡室がオリフィス通路によって相互に連通された流体封入式防振装置において、
前記ダイヤフラムは前記平衡室に開口する溝状部を有しており、該溝状部の両側壁の少なくとも一方には溝内面を深さ方向に延びる突条部が設けられている流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記ダイヤフラムが円形の外周形状とされており、前記溝状部が周方向に延びる環状に形成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
記仕切部材には、膜状の可動部材が収容されていると共に、該可動部材の各一方の面に対して前記受圧室と前記平衡室の液圧を及ぼす透孔が形成されている一方、
該仕切部材における該平衡室側の面には、該透孔の該平衡室側への開口周りに位置して凹凸が設けられている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記可動部材が膜状の弾性材とされている請求項3に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記透孔が前記仕切部材の周方向に複数形成されており、それら複数の透孔の周方向間の桟状部分に前記凹凸が設けられている請求項3又は4に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記凹凸が前記仕切部材に一体形成された複数の突起によって構成されている請求項3~5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられる流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のパワーユニットと車両ボデーを防振連結するエンジンマウント等に適用される流体封入式防振装置が知られている。流体封入式防振装置は、例えば特開2000-065125号公報(特許文献1)に示されているように、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成されて液体が封入された受圧室と、壁部の一部が可撓性のダイヤフラムで構成されて液体が封入された平衡室とが、仕切部材の各一方の側に形成された構造を有している。受圧室と平衡室は、オリフィス通路によって相互に連通されており、振動入力時には、受圧室と平衡室の相対的な圧力変動によってオリフィス通路を通じた流体流動が生じ、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
【0003】
ところで、壁部の一部がダイヤフラムで構成された平衡室は、ダイヤフラムの変形によって容積変化が許容され、且つ内圧変動が抑えられており、振動入力等による受圧室の内圧変動によって、受圧室と平衡室の間に相対的な圧力差が生じるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-065125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、平衡室の容積可変量を大きく確保するためにダイヤフラムが弛みをもった形状とされている場合には、ダイヤフラムの変形によって、防振性能の低下や液体封入時のエアの残留といった不具合が生じ得るという、新規な課題が明らかとなった。即ち、振動入力や液体封入前の真空引き等によって受圧室に負圧が作用すると、受圧室の負圧が平衡室に伝達されて、ダイヤフラムが吸引される。ダイヤフラムは、弛み部分が平衡室内へ向けて吸引されて変形することから、弛み部分の内面同士が密着する場合があり、当該密着部分において平衡室の一部が密閉されることで、平衡室の実質的な容積が低下して、防振性能の低下を招くおそれがあった。更に、真空引きの途中で平衡室の一部が密閉されると、当該密閉部分にエアが残留して、防振性能の低下や異音の発生が問題になり得る。
【0006】
また、仕切部材は、防振性能の向上を図るために、液圧吸収等の作用によって防振効果を発揮する可動部材を備える場合がある。この場合には、可動部材の各一方の面に受圧室と平衡室の液圧を及ぼす透孔が形成されているが、ダイヤフラムが負圧によって仕切部材側へ吸引されると、透孔の平衡室側の開口がダイヤフラムによって密閉されて、可動部材による防振効果が有効に発揮されなくなるという新規な課題が明らかになった。更に、真空引きの途中で透孔の平衡室側の開口が密閉されると、密閉された透孔内等にエアが残留して、防振性能の低下や異音の発生が問題になるおそれもあった。
【0007】
本発明の解決課題は、特定構造のダイヤフラムや可動部材によって優れた防振性能を実現しながら、目的とする性能を安定して得ることができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて液体が封入された受圧室と、壁部の一部が可撓性のダイヤフラムで構成されて液体が封入された平衡室とが、仕切部材の各一方の側に形成されていると共に、該受圧室と該平衡室がオリフィス通路によって相互に連通された流体封入式防振装置において、前記ダイヤフラムは前記平衡室に開口する溝状部を有しており、該溝状部の両側壁の少なくとも一方には溝内面を深さ方向に延びる突条部が設けられているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、ダイヤフラムが溝状部を有していることにより、ダイヤフラムに弛みが与えられて、ダイヤフラムの変形による平衡室の容積変化が大きく許容されている。これにより、オリフィス通路を通じた流体流動等による防振効果を効率的に得ることができる。
【0011】
溝状部を有するダイヤフラムは、受圧室の内圧が低下して平衡室におよぼされると、溝状部の両側壁の溝内面が相互に密着して溝内が閉鎖領域となり、容積可変量が制限されて防振性能の低下等が問題になる場合がある。そこで、本態様では、溝状部の両側壁の少なくとも一方に突条部が設けられており、溝状部の両側壁の溝内面が相互に接する際に、突条部によって隙間が形成されて、該隙間が突条部によって維持される。当該隙間は、突条部が溝状部の溝内面を深さ方向に延びていることから、溝状部の深さ方向に延びて形成され、溝状部の開口部分で両側壁の溝内面が相互に接しても、溝内の閉鎖が回避されて、溝状部を含んで平衡室の機能が維持される。これにより、例えば、流体封入式防振装置の使用状態で大荷重の入力によって受圧室の内圧が低下する場合に、溝状部の開口部分で両側壁の溝内面が相互に密着することによって平衡室の実質的な容積が減少することが防止され、目的とする防振性能を安定して得ることができる。また、例えば、受圧室及び平衡室へ液体を注入する前に受圧室及び平衡室内の空気を予め吸引する真空引きを行う際に、溝状部の開口部分で両側壁の溝内面が相互に密着することによって平衡室内に空気が残留するのを防ぐことができて、残留した空気の圧縮性による防振性能の低下や、気泡消失時の異音の発生などが防止される。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記ダイヤフラムが円形の外周形状とされており、前記溝状部が周方向に延びる環状に形成されているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、溝状部の長さを優れたスペース効率で長く確保することができて、平衡室の容積を大きく得ることによる防振性能の向上が図られる。また、両側壁の密着が生じ易い長い溝状部を設けても、突条部によって溝状部の両側壁の密着による悪影響が防止されて、目的とする防振性能や静粛性能等を得ることができる。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記仕切部材には、膜状の可動部材が収容されていると共に、該可動部材の各一方の面に対して前記受圧室と前記平衡室の液圧を及ぼす透孔が形成されている一方、該仕切部材における該平衡室側の面には、該透孔の該平衡室側への開口周りに位置して凹凸が設けられているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、仕切部材に可動部材が設けられていることにより、オリフィス通路による防振効果に加えて、可動部材による防振効果も発揮されて、より優れた防振性能を実現することができる。
【0016】
可動部材を備えた仕切部材は、受圧室の内圧が低下すると、受圧室側へ吸引されたダイヤフラムが変形して仕切部材に密着する場合があり、可動部材に液圧を及ぼす透孔の平衡室側の開口がダイヤフラムで閉塞されることによって、防振性能の低下等が問題になる場合がある。そこで、仕切部材における平衡室側の面に設けられた凹凸が、透孔の平衡室側への開口周りに配置されており、ダイヤフラムが仕切部材の平衡室側の面に接しても、透孔の平衡室側の開口がダイヤフラムによって完全に閉塞されるのを防ぐことができる。これにより、可動部材による防振効果がダイヤフラムの変形によって妨げられることなく発揮されて、目的とする防振性能を安定して得ることができる。また、例えば、受圧室及び平衡室へ液体を注入する前に受圧室及び平衡室内の空気を予め吸引する真空引きを行う際に、透孔の平衡室側への開口部分においてダイヤフラムと可動部材の間に密閉領域が形成されるのを凹凸によって防ぐことができる。それゆえ、透孔内への空気の残留が防止されて、空気の圧縮性による防振性能の低下や、気泡消失時の異音の発生などが防止される。なお、後述の実施形態から判るように、上述の第三の態様は、第一又は第二の態様に従属しない態様の発明としても認識できるものである。
【0017】
第四の態様は、第三の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動部材が膜状の弾性材とされているものである。
【0018】
例えば、弾性変形によって液圧を伝達する可動膜構造では、透孔が可動膜によって受圧室側と平衡室側に流体密に隔てられることから、ダイヤフラムが透孔の平衡室側への開口を防ぐことによる空気の残留が、より問題になり易い。しかし、本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、可動部材を可動膜構造としても、透孔の平衡室側への開口周辺に凹凸を設けることにより、透孔の平衡室側への開口が閉塞されるのを防いで、透孔への空気の残留を防ぐことができる。
【0019】
第五の態様は、第三又は第四の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記透孔が前記仕切部材の周方向に複数形成されており、それら複数の透孔の周方向間の桟状部分に前記凹凸が設けられているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、複数の透孔を設けることにより、透孔の孔断面積の総計を大きく得て、受圧室と平衡室の液圧を可動部材に対して有効に及ぼすことができると共に、桟状部分によって可動部材の過大な変形や飛び出しなどを防ぐことができる。また、桟状部分に凹凸を設けることにより、複数の透孔が平衡室側への開口において閉塞されるのを防ぐことができる。
【0021】
第六の態様は、第三~第五の何れか1つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記凹凸が前記仕切部材に一体形成された複数の突起によって構成されているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、複数の突起の間において仕切部材とダイヤフラムの間に隙間が形成されて、透孔の平衡室側への開口がダイヤフラムによって閉塞されるのを有効に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、流体封入式防振装置において、特定構造のダイヤフラムや可動部材によって優れた防振性能を実現しながら、目的とする性能を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントを示す断面図
図2図1に示すエンジンマウントを構成するダイヤフラムの斜視図
図3図2に示すダイヤフラムの平面図
図4図3のIV-IV断面図
図5図1に示すエンジンマウントを構成する仕切部材の斜視図
図6図5の仕切部材を別の角度で示す斜視図
図7図5に示す仕切部材の底面図
図8図1のエンジンマウントにおいて、ダイヤフラムの溝状部の両側壁部が密着した状態を示す部分的な断面図
図9図1のエンジンマウントにおいて、仕切部材の下面にダイヤフラムが密着した状態を示す部分的な断面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント中心軸方向である図1中の上下方向を言う。
【0032】
第一の取付部材12は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、円形断面で上下方向に延びている。第一の取付部材12は、上端部において外周へ向けて突出するフランジ状部を備えていると共に、下部の外周面が下方へ向けて小径となるテーパ面とされている。第一の取付部材12は、中心軸上を上下方向に貫通する液注入路18が形成されていると共に、液注入路18を途中で遮断する球状の栓部材20が液注入路18に嵌め入れられている。
【0033】
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材とされており、薄肉大径の略円筒形状とされている。第二の取付部材14は、上下方向の途中に段差状部22を備えており、段差状部22よりも上側が大径筒部24とされていると共に、段差状部22よりも下側が小径筒部26とされている。
【0034】
第一の取付部材12が第二の取付部材14の上開口部に略同一中心軸上で配されて、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円錐台形状とされており、小径側の端部である上端部が第一の取付部材12に加硫接着されていると共に、大径側の端部である下端部の外周面が第二の取付部材14に加硫接着されている。
【0035】
本体ゴム弾性体16は、下端面に開口する大径凹所28を備えている。大径凹所28は、底部である上端から開口側である下側へ向けて大径となっていると共に、開口部分において略一定の内径寸法で上下に延びている。大径凹所28の底部には、第一の取付部材12の液注入路18に連通される連通孔30が形成されており、液注入路18が連通孔30を通じて大径凹所28に連通されている。
【0036】
本体ゴム弾性体16の外周端部から下方へ向けて延び出すシールゴム層32が設けられている。シールゴム層32は、薄肉大径の略円筒状とされており、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。シールゴム層32は、第二の取付部材14の小径筒部26の内周面を覆っている。
【0037】
第二の取付部材14には、ダイヤフラム34が取り付けられている。ダイヤフラム34は、図2図3にも示すように、薄肉のゴム膜で形成されており、外周形状が略円形とされている。ダイヤフラム34は、可撓性を有しており、ある程度の伸縮性も有していることが望ましい。
【0038】
ダイヤフラム34は、溝状部36を備えている。溝状部36は、上方へ向けて開口する凹形状とされており、図4にも示すように、本実施形態では周方向に連続する環状とされている。溝状部36は、一対の側壁38a,38bと、それら側壁38a,38bの下端部を相互につなぐ底壁40とを、一体的に備えている。なお、以下の説明において、外周側の側壁38aと内周側の側壁38bとを区別する必要がない場合には、側壁38と称する場合がある。
【0039】
側壁38は、溝状部36の深さ方向(上下方向)に延びる略円筒形状とされている。外周側の側壁38aが内周側の側壁38bよりも大径とされており、それら側壁38aと側壁38bが径方向で相互に対向している。
【0040】
外周側の側壁38aには、突条部42が設けられている。突条部42は、側壁38aと一体形成されており、側壁38aの内面から溝状部36の内部へ向けて突出している。突条部42は、略山状の断面形状で溝状部36の深さ方向である上下方向に延びている。突条部42は、ダイヤフラム34の成形時の型抜きを考慮して、上下方向に直線的に延びていることが望ましく、好適には周方向に傾斜していない。突条部42の突出高さ寸法は、ダイヤフラム34の剛性等を考慮して適宜に設定されるが、好適にはダイヤフラム34の厚さ寸法に対して1/4倍以上且つ1倍以下とされる。これにより、ダイヤフラム34の可撓性を確保しながら、後述する側壁38aと側壁38bの密着を有効に防ぐことができる。突条部42は、本実施形態では側壁38aの上下方向の全長にわたって設けられているが、例えば上下方向において側壁38aに部分的に設けられていてもよい。本実施形態では、複数の突条部42が側壁38aの周方向において相互に離隔して配されており、複数の突条部42が周方向で略等間隔に並んで配されている。
【0041】
底壁40は、下方に向けて凸となる半円弧状断面を有しており、両端部が一対の側壁38a,38bの各一方と一体でつながっている。また、ダイヤフラム34における溝状部36よりも内周側は、略円板形状の中央部44とされており、中央部44の外周端部が内周側の側壁38bと一体でつながっている。
【0042】
ダイヤフラム34の外周端部には、固定部材46が固着されている。固定部材46は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、略円環形状とされている。固定部材46は、第二の取付部材14の下端部に挿入されており、第二の取付部材14に八方絞り等の縮径加工が施されることによって、第二の取付部材14に固定されている。これにより、ダイヤフラム34が第二の取付部材14に取り付けられて、第二の取付部材14の下開口がダイヤフラム34によって塞がされている。なお、シールゴム層32が第二の取付部材14と固定部材46の間に介在されており、第二の取付部材14と固定部材46の重ね合わせ面間がシールゴム層32によって流体密に封止されている。
【0043】
本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の上下方向間には、仕切部材48が配されている。仕切部材48は、図1及び図5図7に示すように、全体として略円板形状とされている。仕切部材48は、第一の仕切板50と第二の仕切板52とが、上下方向で重ね合わされた構造を有している。
【0044】
第一の仕切板50は、略円板形状とされており、例えば金属や合成樹脂等で形成された硬質の部材とされている。第一の仕切板50の径方向中央部分には、上面に開口する凹状部54が形成されている。凹状部54の底壁部には、上下方向に貫通する第一の上透孔56と第二の上透孔58が形成されている。第一の上透孔56は、略円形断面とされており、第一の仕切板50の径方向中央を上下方向に貫通している。第二の上透孔58は、第一の上透孔56よりも外周側に設けられており、周方向に複数の第二の上透孔58が並んで配置されている。
【0045】
凹状部54の底壁部は、第一の上透孔56と複数の第二の上透孔58が形成されていることによって、第一の上透孔56と第二の上透孔58の径方向間及び周方向で隣り合う第二の上透孔58,58の間をそれぞれ延びる上側桟状部分60とされている。上側桟状部分60は、第一の上透孔56の周囲を延びる環状延伸部分と、環状延伸部分から外周へ向けて放射状に延び出して第二の上透孔58,58間を延びる放射状延伸部分とを、備えている。上側桟状部分60は、上部が上側へ向けて幅狭となっており、第一,第二の上透孔56,58の上部が上側へ向けて拡開している。
【0046】
第一の仕切板50の径方向中央部分には、下面に開口する収容凹所62が形成されている。収容凹所62は、略円形の凹所であって、外周端部が凹状部54よりも外周まで達している。第一の上透孔56及び第二の上透孔58は、凹状部54と収容凹所62をつないでいる。
【0047】
第一の仕切板50の外周部分には、外周面に開口して周方向に1周に満たない長さで延びる周溝64が設けられている。周溝64は、凹状部54及び収容凹所62よりも外周側に設けられている。
【0048】
第二の仕切板52は、第一の仕切板50よりも薄肉の略円板形状とされており、第一の仕切板50と同様に硬質の部材とされている。第二の仕切板52には、上下方向に貫通する第一の下透孔66と第二の下透孔68が形成されている。第一の下透孔66は、略円形断面とされており、第二の仕切板52の径方向中央を上下方向に貫通している。第二の下透孔68は、第一の下透孔66よりも外周側に設けられており、周方向に複数の第二の下透孔68が並んで配置されている。
【0049】
第二の仕切板52の内周部分は、第一の下透孔66と複数の第二の下透孔68が形成されていることによって、第一の下透孔66と第二の下透孔68の径方向間及び周方向で隣り合う第二の下透孔68,68の間をそれぞれ延びる桟状部分としての下側桟状部分70とされている。下側桟状部分70は、第一の下透孔66の周囲を延びる環状延伸部分と、環状延伸部分から外周へ向けて放射状に延び出して第二の下透孔68,68間を延びる放射状延伸部分とを、備えている。下側桟状部分70は、下部が下側へ向けて幅狭となっており、第一,第二の下透孔66,68の下部が下側へ向けて拡開している。本実施形態では、第一の下透孔66が第一の上透孔56に対して略同一断面とされ、第二の下透孔68が第二の上透孔58に対して略同一断面とされており、上側桟状部分60と下側桟状部分70が互いに略同じ形状とされている。
【0050】
下側桟状部分70には、凹凸としての突起72が設けられている。突起72は、略半球状とされており、図6図7に示すように、下側桟状部分70の下面に突出している。突起72は、第二の仕切板52に一体形成されている。突起72は、突出高さ寸法が基端部の径寸法に対して1/2倍以上とされていることが望ましく、より好適には2/3倍以上且つ2倍以下とされる。これにより、後述するダイヤフラム34の張り付きを防止して、第二の隙間98(後述)を確実に形成することができる。また、突起72の突出先端が鋭くなり過ぎるのを防ぐことで、突起72の耐久性の低下や、ダイヤフラム34の接触時の損傷等を回避することができる。また、突起72は、複数が設けられている。複数の突起72は、第一の下透孔66の開口周辺(環状延伸部分)に全周にわたって略等間隔に設けられていると共に、第二の下透孔68の開口周辺(放射状延伸部分)に略全長にわたって設けられている。隣り合う突起72,72間の距離は、ダイヤフラム34の入り込みを制限し、十分な大きさの第二の隙間98が形成され得るように設定され、例えば2mm以上且つ10mm以下とされる。
【0051】
第一の仕切板50と第二の仕切板52は、上下方向において相互に重ね合わされている。第一の仕切板50の下面に第二の仕切板52が重ね合わされることによって、第一の仕切板50の収容凹所62の開口が第二の仕切板52によって覆われており、第一の仕切板50と第二の仕切板52の間に収容空所74が形成されている。収容空所74の上側の壁部に第一,第二の上透孔56,58が形成されていると共に、収容空所74の下側の壁部に第一,第二の下透孔66,68が形成されており、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68とがそれぞれ収容空所74に連通されている。
【0052】
収容空所74には、可動部材としての可動膜76が配されている。可動膜76は、ゴムや樹脂エラストマー等の弾性材によって形成されており、略円形の外周形状を有する膜状とされている。可動膜76は、外周端部が厚肉の挟持部78とされている。可動膜76は、収容空所74に収容されており、挟持部78が第一の仕切板50と第二の仕切板52の対向間で全周にわたって上下方向に挟持されている。挟持部78は、第一,第二の仕切板50,52に対して液密に重ね合わされていると共に、上下方向に締め代を有することから、通常振動の入力による可動膜76の変形に際して、挟持部78と第一,第二の仕切板50,52の重ね合わせ面間の液密性が維持される。
【0053】
収容空所74に配された可動膜76は、第一,第二の上透孔56,58の上下方向の延長上に位置していると共に、第一,第二の下透孔66,68の上下方向の延長上に位置している。これにより、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68は、直接的に連通されることなく、可動膜76によって隔てられている。
【0054】
可動膜76を備える仕切部材48は、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の間に配されて、第二の取付部材14に取り付けられている。仕切部材48は、軸直角方向に広がっており、外周面が第二の取付部材14の内周面を覆うシールゴム層32に押し当てられることにより、第二の取付部材14に対して固定されている。第二の取付部材14の内周面と仕切部材48の外周面との間にシールゴム層32が介在することにより、第二の取付部材14と仕切部材48の重ね合わせ面間が液密に封止されている。なお、仕切部材48は、例えば、ダイヤフラム34を第二の取付部材14へ取り付ける際の第二の取付部材14の縮径加工によって、第二の取付部材14に取り付けられる。また、ダイヤフラム34と仕切部材48を第二の取付部材14へ取り付ける際の第二の取付部材14の縮径加工によって、本体ゴム弾性体16に予圧縮が施され、成形後の収縮に起因する本体ゴム弾性体16の引張応力が低減されて、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
【0055】
本体ゴム弾性体16とダイヤフラム34の間に仕切部材48が配されることにより、仕切部材48の上下両側に受圧室80と平衡室82が形成されている。即ち、仕切部材48の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16によって構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形による内圧変動が惹起される受圧室80が形成されている。仕切部材48の下側には、壁部の一部がダイヤフラム34によって構成されて、ダイヤフラム34の変形によって容積変化が許容される平衡室82が形成されている。
【0056】
仕切部材48の周溝64の外周開口が、第二の取付部材14によって流体密に覆われることにより、仕切部材48の外周端部には、周方向に延びるトンネル状の流路が形成される。そして、当該流路の一方の端部が上連通口84を通じて受圧室80に連通されると共に、他方の端部が下連通口86を通じて平衡室82に連通されることにより、受圧室80と平衡室82を連通するオリフィス通路88が形成されている。オリフィス通路88は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、例えばエンジンシェイクに相当する低周波に設定されている。
【0057】
第一,第二の上透孔56,58が受圧室80に開口しており、第一,第二の上透孔56,58を通じて受圧室80の液圧が可動膜76の上面に及ぼされている。また、第一,第二の下透孔66,68が平衡室82に開口しており、第一,第二の下透孔66,68を通じて平衡室82の液圧が可動膜76の下面に及ぼされている。このように、可動膜76の各一方の面に受圧室80と平衡室82の液圧を及ぼす複数の透孔90が、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68とによって構成されている。第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68は、可動膜76によって隔てられて直接的には連通されていないが、可動膜76の弾性変形による液圧の伝達作用によって、第一,第二の上透孔56,58と第一,第二の下透孔66,68が実質的な連通状態とされ得る。
【0058】
ところで、受圧室80と平衡室82は、外部から液密に隔てられており、内部に液体が封入されている。受圧室80と平衡室82に封入される液体は、非圧縮性であることが望ましく、例えば、水、エチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、それらの混合液等が好適に採用され得る。また、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を効率的に得るために、封入される液体は、粘性率が0.1Pa・s以下とされた低粘性流体であることが望ましい。
【0059】
受圧室80と平衡室82に対する液体の封入は、例えば、第一の取付部材12の液注入路18を通じた液体の注入によって実現される。即ち、栓部材20が嵌め込まれる前の連通状態の液注入路18に図示しない液体供給用ノズルをセットし、液体供給用ノズルから液注入路18へ液体を注ぐことにより受圧室80及び平衡室82へ液体が充填される。液体の充填完了後に、栓部材20を液注入路18へ嵌め込んで液注入路18を液密に封止することにより、受圧室80と平衡室82に液体が封入される。
【0060】
また、受圧室80と平衡室82は、液体が注入される前に、予め真空引きされる。即ち、液注入路18にセットされる図示しない吸引用ノズルによって、受圧室80と平衡室82から空気が吸い出されて外部へ排出されることで、受圧室80と平衡室82が略真空状態とされる。そして、空気が排出された受圧室80と平衡室82に液体供給用ノズルから液体が注入されることにより、受圧室80と平衡室82が液体で満たされる。
【0061】
真空引きによって受圧室80と平衡室82から空気を排出すると、ダイヤフラム34における溝状部36の側壁38a,38bが、平衡室82の圧力低下によって相互に接近し、相互に密着する場合がある。この場合に、側壁38aの壁内面に突出する突条部42が設けられていることにより、図8に示すように、突条部42が側壁38bの壁内面に当接し、少なくとも突条部42の両側には、側壁38aと側壁38bとの間に第一の隙間92が形成される。第一の隙間92は、上下方向に延びる突条部42に沿って上下方向に延びて形成され、側壁38aと側壁38bの密着が生じ易い上下方向の中間部分を上下に貫通するように形成される。これにより、平衡室82において側壁38aと側壁38bの密着部分に対する上側の領域94と下側の領域96が、第一の隙間92を通じて相互に連通された状態に保持されて、それら上側の領域94と下側の領域96が液密に分断されることがない。従って、側壁38aと側壁38bの密着部分に対する下側の領域96に空気が残留するのを防いで、受圧室80と平衡室82を液体で満たすことができる。
【0062】
また、真空引きによって受圧室80と平衡室82の空気を排出する際に、吸引されたダイヤフラム34が仕切部材48の平衡室82側の面(下面)に密着する場合がある。ダイヤフラム34が第一,第二の下透孔66,68の平衡室82への開口周辺に密着して、第一,第二の下透孔66,68の下開口がダイヤフラム34で塞がれると、可動膜76とダイヤフラム34の間で第一,第二の下透孔66,68に空気が残留し易くなる。この場合に、ダイヤフラム34が当接する仕切部材48の下面において、第一,第二の下透孔66,68の開口周辺に突起72が設けられていることにより、図9に示すように、第一,第二の下透孔66,68の開口周辺において、仕切部材48の下面に対するダイヤフラム34の張り付きが防止される。そして、隣接して配された突起72,72間に第二の隙間98が形成されて、空気が第二の隙間98を通じて排出可能とされ、第一,第二の下透孔66,68内への空気の残留が防止される。
【0063】
以上のように、本実施形態のエンジンマウント10は、受圧室80と平衡室82への液体の封入時に、ダイヤフラム34の側壁38a,38b間への空気の残留と、仕切部材48の第一,第二の下透孔66,68内への空気の残留とが、それぞれ防止されて、受圧室80と平衡室82を液体で満たすことができる。それゆえ、後述する振動入力時において、受圧室80と平衡室82の相対的な圧力変動が、液中に気泡として残留する空気の圧縮性によって吸収されるのを防いで、目的とする防振性能を安定して得ることができる。また、液中への空気の混入を防ぐことにより、振動入力によって気泡が押し潰される際の異音を防止することができる。
【0064】
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14が図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットと車両ボデーを防振連結する車両装着状態とされる。
【0065】
エンジンマウント10の車両への装着状態において、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されて、受圧室80と平衡室82の間に相対的な圧力変動が惹起されると、オリフィス通路88を通じた流体流動が生じる。オリフィス通路88は、エンジンシェイクにチューニングされていることから、流体流動が共振状態で積極的に生じて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
【0066】
低周波大振幅振動の入力時には、可動膜76の弾性変形が入力振動に追従しきれず、可動膜76が実質的な拘束状態となる。これにより、受圧室80の内圧が可動膜76の液圧伝達作用によって平衡室82へ逃げるのが防止されて、受圧室80と平衡室82の相対的な圧力差が大きく確保されることから、オリフィス通路88による防振効果(振動減衰作用)が効率的に発揮される。
【0067】
平衡室82は、溝状部36を備えることによって容積が大きく確保されており、オリフィス通路88を通じた流体流動が、平衡室82の容積不足によって制限されることなく有効に生じて、目的とする防振性能を安定して得ることができる。特に、溝状部36が周方向に延びて設けられていることから、溝状部36の長さを優れたスペース効率で長くすることができて、平衡室82の容積を大きく得ることができる。なお、溝状部36の長さが長くなると、側壁38a,38bの密着が生じ易くなるが、側壁38a,38bの密着は、突条部42によって防止されることから、目的とする防振性能や静粛性能を得ることができる。
【0068】
ダイヤフラム34が円形の外周形状を有していることから、ダイヤフラム34の変形剛性が周方向で部分的に大きく或いは小さくなるのを防いで、ダイヤフラム34の歪な変形を防ぐことができると共に、ダイヤフラム34全体を変形させることで容積変化を効率的に生じさせることができる。なお、溝状部36がダイヤフラム34の周方向に延びる円環状とされていることから、溝状部36の全周にわたって側壁38a,38bの張り付きが生じ得るが、突条部42が設けられていることによって側壁38a,38bの張り付きは問題にならない。
【0069】
ダイヤフラム34の突条部42は、外周側の側壁38aに設けられており、底壁40や内周側の側壁38bには設けられていない。このように、ダイヤフラム34において変形が生じやすい内周部分には突条部42が設けられておらず、ダイヤフラム34の内周部分の変形剛性が小さくされていることから、平衡室82の容積変化による液圧補償作用が効果的に発揮されて、防振性能の向上が図られる。
【0070】
また、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間にアイドリング振動やこもり音などのエンジンシェイクよりも高周波の振動が入力されると、オリフィス通路88は、反共振によって実質的な遮断状態とされて、流体流動による防振効果が発揮されなくなる。
【0071】
可動膜76は、厚さ方向の弾性変形によって、受圧室80の液圧を平衡室82へ伝達する液圧伝達作用を発揮する。これにより、オリフィス通路88が実質的に遮断された状態において、受圧室80の密閉化が回避されて、低動ばね化による防振効果(振動絶縁作用)が発揮される。
【0072】
本実施形態では、可動膜76の両面に受圧室80と平衡室82の各一方の液圧を及ぼす透孔90が、上下の第一の透孔56,66によって構成される中央の透孔90と、上下の第二の透孔58,68によって構成される外周の透孔90とによって、複数設けられている。これにより、透孔90の孔断面積の総計を大きく確保して、受圧室80と平衡室82の液圧を可動膜76に有効に及ぼしつつ、上下の桟状部分60,70によって可動膜76の過大な変形を防ぐことができる。
【0073】
このように、エンジンマウント10は、周波数の異なる振動に対して、オリフィス通路88と可動膜76による防振効果がそれぞれ発揮され、優れた防振性能を得ることができる。
【0074】
ところで、例えば大荷重の入力等によって受圧室80の内圧が大幅に低下すると、平衡室82の容積が小さくなる際にダイヤフラム34の側壁38a,38bが溝状部36の開口部付近で相互に接近して密着する場合がある。この場合に、側壁38aに突条部42が設けられていることによって、図8に示すように、側壁38a,38bの間には第一の隙間92が形成されて、平衡室82において側壁38a,38bの密着部分に対する上側の領域94と下側の領域96とが液密に分断されて溝状部36の底部40内が閉鎖領域とされることがない。それゆえ、下側の領域96が密閉されることによる平衡室82の容積の実質的な減少が回避されて、平衡室82の容積変化による液圧補償作用が有効に発揮されることから、目的とする防振性能を安定して得ることができる。
【0075】
また、例えば大荷重の入力等によって受圧室80の内圧が大幅に低下すると、ダイヤフラム34が仕切部材48の下面に接近して透孔90の下開口周辺に密着する場合がある。この場合に、透孔90の下開口周辺に突起72が設けられていることから、図9に示すように、突起72,72の間において、ダイヤフラム34と仕切部材48の下面との間に第二の隙間98が形成されて、第二の隙間98によって透孔90内と平衡室82の連通状態が保持される。これにより、透孔90を通じた液圧の伝達による防振効果や液圧補償作用がダイヤフラム34の仕切部材48への張り付きによって阻害されるのを防ぐことができる。例えば大振幅振動入力時にもダイヤフラム34の仕切部材48への張り付きが防止されて、同時に入力される走行こもり音等の小振幅振動に対しても可動膜76による液圧吸収作用を安定して享受することが可能になる。
【0076】
本実施形態では、ダイヤフラム34の仕切部材48への張り付きを防止する凹凸が突起72によって構成されている。これにより、下側桟状部分70の強度を低下させることなく凹凸を設けることができて、下側桟状部分70によって可動膜76の変形量を制限しながら、下側桟状部分70に対するダイヤフラム34の張り付きを防ぐことができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、弾性変形によって液圧伝達作用を発揮する可動膜76を可動部材として示したが、可動部材は、収容空所74内での微小変位によって液圧伝達作用を発揮する可動板によって構成することもできる。
【0078】
ダイヤフラム34における側壁38a,38bの張り付きを防ぐ突条部42が設けられ、仕切部材48の下面に対するダイヤフラム34の張り付きを防ぐ突起72が設けられていない構造を採用することもできる。この場合には、可動部材76や透孔90は必須ではない。また、突起72が設けられ、突条部42が設けられていない構造を採用することもできる。この場合には、ダイヤフラム34の溝状部36は必須ではない。
【0079】
突条部42は、ダイヤフラム34の内周側の側壁38bに設けられていてもよい。突条部42が側壁38bに設けられる場合に、側壁38aは突条部42が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。また、突条部42は、底壁40に達していてもよく、例えば、側壁38aと底壁40と側壁38bにわたって連続的に設けられ得る。尤も、溝状部36の変形による平衡室82の容積可変性をより効率的に得るためには、底壁40の内面を両側壁38a,38b間に亘って連続して延びるような突状部42を設けることは避けることが望ましく、突状部42は底壁40において不連続又は形成されていないことが望ましい。
【0080】
突起72の形状は、前記実施形態で例示した半球状に限定されない。突起72は、例えば、下側桟状部分70を横断するように延びる突条形状等であってもよい。
【0081】
突起72に代えて仕切部材48の下面に開口する凹部を凹凸として設けることによっても、仕切部材48の下面に対するダイヤフラム34の張り付きを防ぐことができる。凹部は、下側桟状部分70を横断する溝状が望ましいが、開口形状が円形、多角形、異形等のスポット的な凹みであってもよい。
【0082】
前記実施形態では、受圧室80と平衡室82の形成後に液注入路18を通じて液体を注入する例を示したが、例えば、ダイヤフラム34の第二の取付部材14への組付けを液中で行うことによって、受圧室80と平衡室82の形成時に液体が封入されるようにしてもよい。この場合には、液注入路18や栓部材20はなくてよい。また、前記実施形態では、第一の取付部材12を貫通する液注入路18を例示したが、例えば、第二の取付部材14と本体ゴム弾性体16を貫通する液流入路を設けることもできる。
【0083】
オリフィス通路は、複数が設けられていてもよい。例えば、低周波にチューニングされた第一のオリフィス通路と、第一のオリフィス通路よりも高周波にチューニングされた第二のオリフィス通路とを設けて、異なる周波数の振動に対して第一,第二のオリフィス通路による防振効果を得ることもできる。
【符号の説明】
【0084】
10 エンジンマウント(流体封入式防振装置)
12 第一の取付部材
14 第二の取付部材
16 本体ゴム弾性体
18 液注入路
20 栓部材
22 段差状部
24 大径筒部
26 小径筒部
28 大径凹所
30 連通孔
32 シールゴム層
34 ダイヤフラム
36 溝状部
38 側壁
40 底壁
42 突条部
44 中央部
46 固定部材
48 仕切部材
50 第一の仕切板
52 第二の仕切板
54 凹状部
56 第一の上透孔
58 第二の上透孔
60 上側桟状部分
62 収容凹所
64 周溝
66 第一の下透孔
68 第二の下透孔
70 下側桟状部分(桟状部分)
72 突起(凹凸)
74 収容空所
76 可動膜(可動部材)
78 挟持部
80 受圧室
82 平衡室
84 上連通口
86 下連通口
88 オリフィス通路
90 透孔
92 第一の隙間
94 上側の領域
96 下側の領域
98 第二の隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9