(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】型締装置および射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/64 20060101AFI20240808BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B29C45/64
B29C45/17
(21)【出願番号】P 2021017165
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】松浦 恭平
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-262514(JP,A)
【文献】特開2005-349836(JP,A)
【文献】特開2007-301783(JP,A)
【文献】実開昭59-134524(JP,U)
【文献】特開2000-280275(JP,A)
【文献】特開2016-097554(JP,A)
【文献】特開2003-191301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/64
B29C 45/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドに固定されている固定盤と、
前記ベッド上をスライド自在に設けられている型締ハウジングと、
前記固定盤と前記型締ハウジングの間で前記ベッド上をスライド自在に設けられている可動盤と、
前記固定盤と前記型締ハウジングとを連結していると共に前記可動盤を貫通している複数本のタイバーと、
前記型締ハウジングと前記可動盤の間に設けられている型締機構と、を備え、
前記可動盤には、前記ベッドに対してスライドするリニアガイド
が設けられ、
複数本の前記タイバーのうち、上部に配置されている前記タイバーのみに前記タイバーに対して摺動するタイバーガイドブッシュが設けられている、型締装置。
【請求項2】
前記タイバーガイドブッシュの内径は、前記タイバーに対して緩合の隙間嵌めになるように選定されている、請求項1に記載の型締装置。
【請求項3】
前記タイバーガイドブッシュは、径方向の断面がC字状をした中空円筒の一部であり前記タイバーの外周下側と接するようになっている、請求項1または2に記載の型締装置。
【請求項4】
樹脂を射出する射出装置と、
金型を型締めする型締装置と、を備えた射出成形機であって、
前記型締装置は、
ベッドに固定されている固定盤と、
前記ベッド上をスライド自在に設けられている型締ハウジングと、
前記固定盤と前記型締ハウジングの間で前記ベッド上をスライド自在に設けられている可動盤と、
前記固定盤と前記型締ハウジングとを連結していると共に前記可動盤を貫通している複数本のタイバーと、
前記型締ハウジングと前記可動盤の間に設けられている型締機構と、を備え、
前記可動盤には、前記ベッドに対してスライドするリニアガイド
が設けられ、
複数本の前記タイバーのうち、上部に配置されている前記タイバーのみに前記タイバーに対して摺動するタイバーガイドブッシュが設けられている、射出成形機。
【請求項5】
前記タイバーガイドブッシュの内径は、前記タイバーに対して緩合の隙間嵌めになるように選定されている、請求項
4に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記タイバーガイドブッシュは、径方向の断面がC字状をした中空円筒の一部であり前記タイバーの外周下側と接するようになっている、請求項
4または5に記載の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型開閉時に可動盤がリニアガイドによってベッド上をスライドするようになっている型締装置、およびそのような型締装置を備えた射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の型締装置は、固定盤と型締ハウジングと可動盤と複数本のタイバーと型締機構とから概略構成されている。固定盤はベッド上に固定され、型締ハウジングと可動盤はベッド上をスライド自在に設けられている。そして固定盤と型締ハウジングは複数本のタイバーによって連結され、可動盤はこれらのタイバーが貫通されている。型締装置はトグル機構、型締シリンダ等があり、型締ハウジングと可動盤の間に設けられている。従って、型締装置を駆動すると、可動盤がベッド上をスライドして型開閉される。
【0003】
可動盤はその垂直度が傾く、いわゆる倒れを防止して精度良くなめらかにスライドするために、ガイド機構が設けられている。ガイド機構は、タイバーガイドブッシュとリニアガイドの2種類が周知である。タイバーガイドブッシュは可動盤のタイバーが貫通する貫通孔に設け、該タイバーガイドブッシュとタイバーとが摺動的にスライドして可動盤がガイドされるようになっている。リニアガイドは、特許文献1等に記載されているが、ベッドと可動盤との間に設けられている。可動盤にはいずれか一方のガイド機構が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リニアガイドは、耐久性が高く長期間に渡って運転しても故障しにくく優れている。従って、近年は可動盤のガイド機構としてリニアガイドが採用されることが多い。しかしながらリニアガイドには可動盤の倒れの虞もある。例えば、重量の大きい金型が取り付けられると、可動盤と金型との重心が金型寄りにずれる。そうすると型開閉時や型締時に倒れが生じやすくなる。あるいは、型締機構がトグル機構からなる場合には、トグル機構の各リンクを結合しているピンや、これらピンに設けられているブッシュが長期間の運転により摩耗する。この摩耗によってトグル機構の対称性が崩れて可動盤に作用する力のバランスが崩れ、可動盤に倒れが生じやすくなる。リニアガイドは倒れが発生したときにこれを完全には防止できない。
【0006】
本開示において、可動盤の倒れを確実に防止できるガイド機構を備えた型締装置および射出成形機を提供する。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、可動盤のガイド機構に特徴を備えた型締装置およびそのような型締装置を備えた射出成形機として構成する。型締装置は固定盤と型締ハウジングと可動盤とを備え、固定盤はベッドに固定され、型締ハウジングと可動盤はベッド上をスライドされるようになっている。型締ハウジングと固定盤は複数本のタイバーで連結され、可動盤はタイバーに貫通されている。そして型締ハウジングと可動盤の間に型締機構が設けられている。本開示は、このような型締装置において可動盤のスライド機構を、ベッド上に対してスライドするリニアガイドと、タイバーに対して摺動するタイバーガイドブッシュとから構成する。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、可動盤の開閉を長期間安定的にガイドすることができ可動盤の倒れを確実に防止する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係る射出成形機を示す正面図である。
【
図2】本実施の形態に係る型締装置の可動盤と、タイバーとを示す正面断面図である。
【
図3】本実施の第1形態に係る可動盤の一部とタイバーとタイバーガイドブッシュとを示す正面断面図である。
【
図4】本実施の第1形態に係る可動盤と、タイバーとを示す正面断面図である。
【
図5】ガイド機構がリニアガイドからなる従来の可動盤とタイバーとを示す正面断面図である。
【
図6】本実施の第2形態に係る可動盤とタイバーとを示す正面断面図である。
【
図7】本実施の第3形態に係る可動盤の一部とタイバーとタイバーガイドブッシュとを示す正面断面図である。
【
図8A】本実施の第4形態に係る可動盤の一部とタイバーとタイバーガイドブッシュとを示す正面断面図である。
【
図8B】
図8Aにおいて断面X-Xで切断した本実施の第4形態に係る可動盤の一部とタイバーとタイバーガイドブッシュとを示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0012】
本実施の形態を説明する。
<射出成形機>
本実施の形態に係る射出成形機1は、
図1に示されているように構成されている。すなわち次に説明する本実施の形態に係る型締装置2と射出装置3とから概略構成されている。射出装置3は、
図1に簡略的に示されているが、加熱シリンダ5と、この加熱シリンダ5内に設けられている図示されないスクリュとから構成されている。加熱シリンダ5には射出材料を供給するホッパ6と、射出ノズル7とが設けられている。
【0013】
<型締装置>
本実施の形態に係る型締装置2は、ベッドB上に固定されている固定盤9と、ベッドB上をスライドする型締ハウジング10と、ベッドB上を同様にスライドする本実施の第1形態に係る可動盤11Aとを備えている。固定盤9と型締ハウジング10は複数本、例えば4本のタイバー13、13、…によって連結されている。可動盤11Aは、これらタイバー13、13、…に貫通されて固定盤9方向にスライド自在になっている。型締ハウジング10と可動盤11Aの間には型締機構15が設けられている。そして固定盤9と可動盤11にはそれぞれ金型16、17が設けられている。従って型締機構15を駆動すると金型16、17が型開閉される。なお、型締機構15は油圧で駆動される型締シリンダから構成することもでき、その種類は限定されないが、本実施の形態においてはトグル機構が採用されている。
【0014】
<可動盤のガイド機構>
本実施の形態においては、
図2に示すように、可動盤11Aに2種類の異なるガイド機構が共に設けられている点に特徴がある。これを説明する。
【0015】
<リニアガイド>
本実施の第1形態に係る可動盤11Aには、ガイド機構としてまず、リニアガイド19が設けられている。リニアガイド19は、ベッドB上に固定されているレール22と、レール22上をスライドするスライダー23とから構成されている。スライダー23は可動盤11Aの底部に固定されている。可動盤11Aは、ガイド機構としてリニアガイド19を備えているので、十分に滑らかにベッドB上をスライドすることができる。
【0016】
<タイバーガイドブッシュ>
本実施の第1形態においては、可動盤11Aにさらにガイド機構としてタイバーガイドブッシュ20、20、…が設けられている。詳しく説明すると、可動盤11Aにおいて、タイバー13、13、…が貫通されるガイド孔24、24、…にタイバーガイドブッシュ20、20、…が設けられている。
【0017】
ただし、本実施の第1形態においては、タイバーガイドブッシュ20、20、…について、さらに2点の特徴がある。第1の特徴は、タイバーガイドブッシュ20、20、…は、上部に配置されているタイバー13、13にのみ設けられ、下部に配置されているタイバー13、13には設けられていない点である。後で説明するように、可動盤11Aの倒れを防止する効果は、タイバーガイドブッシュ20、20を上部に配置されているタイバー13、13に設けるだけで十分に得られるからである。
【0018】
第2の特徴は、タイバーガイドブッシュ20、20、…と、タイバー13、13の嵌め合い公差についてである。
図3において、可動盤11Aのガイド孔24に設けられているタイバーガイドブッシュ20が示されているが、タイバーガイドブッシュ20の内径26は、これを貫通しているタイバー13の外径27よりも大きくなっている。
【0019】
一般的に、軸と穴との嵌め合いの度合いは、軸径が穴径より大きいときを締まり嵌め、略等しいときを中間嵌め、そして小さいときを隙間嵌めと呼ぶ。ガイド機構がタイバーガイドブッシュのみからなる従来の可動盤では、軽転合の隙間嵌めのタイバーガイドブッシュが採用されている。しかしながら、本実施の第1形態においては、より緩い嵌め合いである緩合の隙間嵌めのタイバーガイドブッシュ20、20、…が採用されている。具体的には、タイバー13の外径27を基準にする、いわゆる軸基準において穴の公差クラスとして、従来は軽転合の「H7」、「H8」等が採用されている。しかしながら本実施の第1形態においては、緩合の「D7」、「D8」等が採用されている。例えば「D7」が採用される場合、タイバー13の外径27が160mmのとき、タイバーガイドブッシュ20の内径26は、160.145mm~160.185mmになるように製造されている。
【0020】
このように本実施の第1形態において可動盤11Aに設けられているタイバーガイドブッシュ20、20、…はタイバー13、13、…に対して緩合の隙間嵌めになっているので、タイバーガイドブッシュ20、20、…の摺動負荷は小さい。可動盤11Aは主としてリニアガイド19によってガイドされるので、タイバーガイドブッシュ20、20、…とタイバー13、13、…とが接触する頻度が小さく、その面圧Pが小さくなるからである。従って、可動盤11Aを高速で型開閉しても、摺動速度Vとの積であるPV値が、タイバーガイドブッシュ20、20、…の許容PV値を超えることはない。つまり型開閉が高速に実施でき、ハイサイクルで射出成形が実施できる、有利な構成になっている。
【0021】
<本実施の形態に係る型締装置の作用>
本実施の形態に係る型締装置2の作用を説明する。
図4に示されているように可動盤11Aには金型17が取り付けられている。そうすると可動盤11Aの重心28は金型17の重量が大きいほど、矢印29方向にずれる。重心28が金型17方向にずれればずれるほど、リニアガイド19において、
図4の左側の方よりも右側の方に荷重が集中する。これによって可動盤11Aは時計回りの力のモーメントが生じ倒れやすい状態になる。
【0022】
型締機構15を駆動して型開閉すると、可動盤11Aは矢印30に示されているようにスライドする。本実施の第1形態に係る可動盤11Aは、リニアガイド19だけでなく、タイバーガイドブッシュ20、20によってガイドされるので、確実に倒れが防止される。なお、可動盤11Aの倒れは上部に配置されているタイバー13、13に対応して設けられているタイバーガイドブッシュ20、20によって十分に防止できる。可動盤11Aは、高速に型開閉しても倒れることなく滑らかにスライドされる。可動盤11Aの倒れが防止されるので、リニアガイド19の損傷も防止されることになる。なお、タイバーガイドブッシュ20、20が設けられていることにより、リニアガイド19に作用している荷重の右側寄りの偏りが緩和される効果もある。
【0023】
<従来の型締装置との比較>
図5には、ガイド機構としてリニアガイド52のみが設けられている、従来の可動盤51が示されている。この可動盤51もタイバー53、53が貫通しているが、タイバー53、53にはタイバーガイドブッシュは設けられていない。このような従来の可動盤51に比較的重量の大きい金型55が設けられた状態で型開閉する。型開閉を高速に実施する場合には、
図5に示されているように、可動盤51に倒れが生じてしまう。この場合リニアガイド52の損傷も引き起こす。本実施の形態に係る型締装置2が奏する効果は得られない。
【0024】
<本実施の第2形態に係る可動盤>
本実施の形態に係る型締装置2において、可動盤11Aは変形が可能である。変形例として、本実施の第2形態に係る可動盤11Bが
図6に示されている。本実施の第2形態に係る可動盤11Bは、第1形態に係る可動盤11Aと同様にガイド機構が2種類設けられている。すなわちリニアガイド19と、タイバーガイドブッシュ20、20、…である。ただし、この第2形態においては、タイバーガイドブッシュ20、20、…は、すべてのタイバー13、13、…に対応して設けられている。すなわち、タイバーガイドブッシュ20、20、…は、上部に配置されているタイバー13、13と、下部に配置されているタイバー13、13のいずれにも設けられている。これらタイバーガイドブッシュ20、20、…も第1形態と同様にタイバー13、13、…に対して緩合の隙間嵌めになっているので、高速に型開閉しても摩耗の虞がない。
【0025】
<本実施の第3形態に係る可動盤>
本実施の第1、2形態に係る可動盤11A、11B(
図2、
図6参照)において、タイバーガイドブッシュ20、20、…を変形することができる。
図7には、変形したタイバーガイドブッシュ20Cが採用された本実施の第3形態に係る可動盤11Cが示されている。このタイバーガイドブッシュ20Cは、タイバー13に対して軽転合の隙間嵌めになっている。この実施の形態に係る可動盤11Cも、リニアガイド19とタイバーガイドブッシュ20Cとからなる2種類のガイド機構によって滑らかにスライドすることができる。
【0026】
<本実施の第4形態に係る可動盤>
本実施の第1、2形態に係る可動盤11A、11B(
図2、
図6参照)において、タイバーガイドブッシュ20、20、…についてその形状を変形することもできる。
図8Aと
図8Bには、形状を変形したタイバーブッシュガイド20Dが設けられた、本実施の第4形態に係る可動盤11Dが示されている。タイバーガイドブッシュ20Dは、径方向の断面がC字状をした中空円筒の一部である。このようなタイバーガイドブッシュ20Dは、可動盤11Dのガイド孔24の下側に設けられ、タイバー13の外周下側と接している。つまり、タイバーガイドブッシュ20Dはタイバー13に対して実質的に緩合の隙間嵌め状態になっている。この本実施の第4形態に係る可動盤11Dも、リニアガイド19とタイバーガイドブッシュ20Dとからなる2種類のガイド機構によって滑らかにスライドすることができる。
【0027】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。
【符号の説明】
【0028】
1 射出成形機 2 型締装置
3 射出装置 5 加熱シリンダ
6 ホッパ 7 射出ノズル
9 固定盤 10 型締ハウジング
11 可動盤 13 タイバー
15 型締機構 16 金型
17 金型 19 リニアガイド
20 タイバーガイドブッシュ 22 レール
23 スライダー 24 ガイド孔
26 内径 27 外径
28 重心