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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】吹付材料組成物、及び、吹付施工方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20240808BHJP
   G21F 1/10 20060101ALI20240808BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
G21F9/28 Z
G21F1/10
G21F9/12 501F
G21F9/12 501G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021126814
(22)【出願日】2021-08-02
(65)【公開番号】P2023021750
(43)【公開日】2023-02-14
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅志
(72)【発明者】
【氏名】田中 真弓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寿幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 清一郎
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199057(JP,A)
【文献】特開2017-111063(JP,A)
【文献】特開2015-163848(JP,A)
【文献】特開2014-062735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 1/10
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付基盤材と、接合剤と、増粘剤と、密実化促進剤と、水とを含み、
前記吹付基盤材は、植生基材と、前記植生基材よりも密度が高い比重向上材と、放射性物質を吸着する吸着材とを含む、吹付材料組成物。
【請求項2】
前記植生基材と前記比重向上材と前記吸着材との含有比が、体積基準で10~60:30~89.9:0.1~10である、請求項1記載の吹付材料組成物。
【請求項3】
前記吹付基盤材100体積部に対して、前記接合剤を0.1~10体積部、前記増粘剤を0.01~5体積部、前記密実化促進剤を0.01~2体積部、水を30~100体積部含む、請求項1又は2記載の吹付材料組成物。
【請求項4】
前記接合剤がポリ酢酸ビニルであり、前記増粘剤が多糖類であり、前記密実化促進剤が高分子土壌改良材を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の吹付材料組成物。
【請求項5】
前記植生基材が、バーク堆肥、ピートモス、ココナッツ繊維、ヤシ殻発酵物及び腐葉土からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、
前記比重向上材が、砂、礫、粘土、シルト、黒土、バリウム及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、
前記吸着材が、ゼオライト、スメクタイト、風化雲母、バーミキュライト、イライトからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の吹付材料組成物。
【請求項6】
物理特性調整材を更に含む、請求項1~5のいずれか一項記載の吹付材料組成物。
【請求項7】
前記物理特性調整材が、おが粉、おから、もみ殻燻炭、コーンコブ、バイオチャー、コーヒー殻、茶殻、古紙、セルロース、綿、ヤシ殻及びヤシ繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項6記載の吹付材料組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項記載の吹付材料組成物と物理特性調整材とをそれぞれ別の吐出口から吐出させて同時に地盤に吹き付ける、吹付施工方法。
【請求項9】
請求項6又は7記載の吹付材料組成物を地盤に吹き付ける、吹付施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付材料組成物、及び、吹付施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飛来した放射性物質で汚染された森林の空間線量を低減させるために、森林内の土壌の表面に散布することで土壌に含まれている放射性物質を吸着するとともに放射線を遮蔽する覆土剤が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-142251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、用いる材料や対象土壌の状況によっては、放射線を遮蔽するのに十分な覆土ができない場合がある。例えば、比重が小さい材料では遮蔽効果が不十分である。また、液性限界以上となる含水材料の吹付を行う客土吹付では覆土厚を確保することが困難であり、覆土厚を確保したとしても時間の経過や降雨によって覆土が流失する虞がある。そこで本発明は、放射線の空間線量を低減できるとともに、長期間に亘って覆土厚を維持できることを可能にする吹付材料組成物を提供することを目的とする。また、この吹付材料組成物を用いる吹付施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、吹付基盤材と、接合剤と、増粘剤と、密実化促進剤と、水とを含み、吹付基盤材は、植生基材と、植生基材よりも密度が高い比重向上材と、放射性物質を吸着する吸着材とを含む、吹付材料組成物を提供する。
【0006】
この吹付材料組成物は、後述する物理特性調整材と混合されることで覆土材料として有効に機能することができるものである。この覆土材料は、放射性物質を吸着することができるとともに、放射線の遮蔽効果が高い。そして、たとえ傾斜面に対して吹き付けたとしても、十分な覆土厚を確保することができ、長期間に亘ってその覆土厚を維持することができる。
【0007】
この吹付材料組成物では、植生基材と比重向上材と吸着材との含有比は、体積基準で10~60:30~89.9:0.1~10であってもよい。なお、本明細書において「体積」とは、計測する物質を目盛が付された容器に2倍量入れ、10回タッピングをした後に擦切ったときのその目盛で読み取る容積をいう。また、この時の体積当たりの重量をかさ密度とする。
【0008】
この吹付材料組成物では、吹付基盤材100体積部に対して、接合剤を0.1~10体積部、増粘剤を0.01~5体積部、密実化促進剤を0.01~2体積部、水を30~100体積部含んでいてもよい。
【0009】
この吹付材料組成物では、接合剤がポリ酢酸ビニルであり、増粘剤が多糖類であり、密実化促進剤が高分子土壌改良材を含んでいてもよい。
【0010】
この吹付材料組成物は、植生基材が、バーク堆肥、ピートモス、ココナッツ繊維、ヤシ殻発酵物及び腐葉土からなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、比重向上材が、砂、礫、粘土、シルト、黒土、バリウム及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含み、吸着材が、ゼオライト、スメクタイト、風化雲母、バーミキュライト、イライトからなる群から選ばれる少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0011】
この吹付材料組成物は、物理特性調整材を更に含んでいてもよい。物理特性調整材としては、おが粉、おから、もみ殻燻炭、コーンコブ、バイオチャー、コーヒー殻、茶殻、古紙、セルロース、綿、ヤシ殻及びヤシ繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むものが挙げられる。
【0012】
本発明は、上記吹付材料組成物と物理特性調整材とをそれぞれ別の吐出口から吐出させて同時に地盤に吹き付ける吹付施工方法を提供する。また、この吹付けは、物理特性調整材を含んだ吹付材料組成物を地盤に吹き付けることでもよい。
【0013】
この吹付材料組成物を地盤に吹き付けると、物理特性調整材による水の吸収、保持によって、吹付箇所において覆土厚が確保できる。そして、密実化促進剤の働きにより土粒子が下部に集中して、土壌の深さ方向において接合剤及び増粘剤の濃度に勾配ができる。接合剤及び増粘剤の濃度が高まってくる覆土の表面付近では、覆土が乾燥するにつれて接合剤による被膜の形成と増粘剤による被膜の強化が生じ、これにより雨滴浸食を防ぐことができる。接合剤及び増粘剤の濃度が低くなる覆土の内部では、接合剤により土粒子同士の接着が生じるが、覆土の表面ほどの硬度は生じず、比較的やわらかい状態となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、放射線の空間線量を低減できるとともに、長期間に亘って覆土厚を維持できることを可能にする吹付材料組成物を提供することができる。また、この吹付材料組成物を用いる吹付施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】材料の混合時点からの経過時間と粘度との関係を示すグラフである。
図2】疑似スランプ試験での直径と土厚を示すグラフである。
図3】材料の混合時点からの経過時間と粘度との関係を示すグラフである。
図4】疑似スランプ試験での直径と土厚を示すグラフである。
図5】山中式土壌硬度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態として、吹付材料組成物、及び、この吹付材料組成物を用いる吹付施工方法を説明する。この吹付材料組成物及び吹付施工方法は、放射性物質で汚染された森林の空間線量を低減するために用いることができる。特に、放射性物質の除染のために土壌の表層を剥ぎ取った後の覆土材料として、本実施形態の吹付材料組成物が有効である。
【0017】
従来、森林除染は林縁を中心に行われ、落葉などの堆積物の除去が主な手法であった。放射性物質は植物の成長と落葉落枝等を通じて森林内で循環しており、土壌と植物体内に存在する。土壌から放射性物質を除染するためには土壌の表層から5cmまで(最大15cm程度まで)の剥ぎ取りが必要である。土壌の剥ぎ取りを行なった場合、植生への悪影響の低減や、残る放射線の遮蔽のために、覆土することが望ましい。
【0018】
覆土工法としては植生基材吹付工や客土吹付工があるが、いずれも材料面と工法面での課題がある。すなわち、材料の課題としては、放射線の遮蔽効果や放射性物質の吸着の面が挙げられる。放射線遮蔽効果は一般に、覆土が厚く比重が大きいほど高くなるため、例えば比重の小さいバーク堆肥を主原料とした植生基材での吹付工では遮蔽効果が小さい。また、森林内の放射性物質の一部は土壌から植物に吸収され、落葉落枝等による環境中へ再拡散するので、この拡散を低減するためには、覆土材料に放射性物質を安定的に吸着する資材を配合することが考えられる。
【0019】
他方、工法面の課題としては、5cm以上の厚い覆土を形成するためには、液性限界未満の材料を空気圧送により吹き付ける植生基材吹付工が選択されるが、容易に移動できない大型コンプレッサーを使用し、専用プラントの設置が必要であるので、狭隘箇所や森林内での施工が困難であることが挙げられる。また、覆土を固定して流失を防止するためのラス網の施工が必須であるので、土壌中に人工の残置物が残ることにもなる。そして客土吹付工では、車載設備により狭隘箇所での施工が可能であるが、材料が水分を多く含んだスラリー状のため吹付厚が高々3cmであって、それ以上の覆土厚を確保することができない。また、放射線の遮蔽効果を高めるために比重の大きい材料を混合すると、混合タンク内で沈降して材料同士の混合が不十分となったり、吹付時に材料が分離したりする虞がある。
【0020】
本実施形態の吹付材料組成物は以上の点に鑑みて考案されたものであり、客土として地盤に吹き付けることによって、放射線の空間線量を低減できるとともに、覆土厚を確保できることを可能にするものである。主に対象とする放射性物質は、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムである。なかでも、セシウム137とセシウム134、ストロンチウム89とストロンチウム90を対象とする。
【0021】
本実施形態の吹付材料組成物は、吹付基盤材と、接合剤と、増粘剤と、密実化促進剤と、水とを含んでなるものである。これらのうち、水は任意の水道水等であってよい。水の含有量は、吹付基盤材100体積部に対して30~100体積部であってもよく、40~80体積部であってもよい。
【0022】
(吹付基盤材)
吹付基盤材は、植生基材と、比重向上材と、放射性物質の吸着材とを含むものである。吹付基盤材は、吸着材によって放射性物質を吸着するとともに、比重向上材によって比重が高められていることによって放射線遮蔽効果が高められている。また、植生基材を含んでいるので、植物の生育基盤としても働く。吹付基盤材は、乾燥かさ密度が0.5~2.0g/cmであってもよく、0.6~1.4g/cmであってもよい。
【0023】
植生基材は、植物の生育に必要な保水性を有するものであることが好ましく、また、有機質の資材であることが好ましい。植生基材は、バーク堆肥、ピートモス、ココナッツ繊維、ヤシ殻発酵物及び腐葉土からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。植生基材の比重は、0.05~0.45g/cmであることが好ましく、0.15~0.3g/cmであることがより好ましい。
【0024】
比重向上材は、吹付材料組成物の比重を高めるために配合されるものであり、植生基材よりも比重(密度)が高いものである。比重向上材は、無機質の資材であることが好ましく、砂、礫、粘土、シルト、黒土、バリウム及びチタンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。比重向上材の比重は、0.6~4.6g/cmであることが好ましく、0.8~3.0g/cmであることがより好ましい。比重向上材の粒径は篩別法、ピペット法で測定したときに10mm未満の粒子が重量で90%以上を占めていることが好ましい。同時に、0.075mm未満の粒子の含有割合が重量で50%未満であることが好ましく、15%未満であることがより好ましく、5%未満であることが更に好ましい。
【0025】
吸着材としては、放射性物質を吸着する性質を有するものを用いる。放射性セシウムを対象とする観点からは、層状ケイ酸塩粘土鉱物であることが好ましく、ゼオライト、スメクタイト、風化雲母、バーミキュライト、イライトからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。吸着材の粒径は、篩別法、ピペット法で測定したときに0.005~8mmであることが好ましく、0.075~2mmであることが好ましく、0.5~1mmであることが更に好ましい。
【0026】
植生基材と比重向上材と吸着材との含有比(配合比)は、体積基準で10~60:30~89.9:0.1~10であってもよい。ここで、植生基材の含有比は15~55であってもよく、20~50であってもよい。比重向上材の含有比は40~80であってもよく、50~70であってもよい。吸着材の含有比は1~8であってもよく、3~6であってもよい。
【0027】
(接合剤)
接合剤は、吹付後の土壌粒子間の接着と、土壌表面での被膜形成に働くものである。接合剤は有機高分子であることが好ましく、特にポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコールであることが好ましい。接合剤の含有量は、吹付基盤材100体積部に対して0.1~10.0体積部であってもよく、0.5~5.0体積部であってもよく、1.0~3.0体積部であってもよい。接合剤のかさ密度は、0.8~1.2g/cmであってもよく、0.9~1.1g/cmであってもよい。
【0028】
(増粘剤)
増粘剤は、吹付材料組成物の各材料の混合時において粘性を高め、比重の異なる材料の分離を防ぐものである。そして吹付後は、土壌表面における被膜構造の強化に働き、雨滴浸食も防止する。増粘剤は生分解性を有していてもよく、多糖類であることが好ましい。多糖類としては、グアガム、アラビアガム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、タマリンドシードガム、カラギーナン、カラヤガム、スクシノグリカン、ローカストビーンガム、大豆多糖類、プルラン、サイリウムシードガム、カードラン、アルギン酸・PGA、ジェランガム、グルコマンナン、寒天、ペクチン等が挙げられる。これらの中でもガラクトマンナンを主成分とするグアガムが好ましい。増粘剤の含有量は、吹付基盤材100体積部に対して0.01~5.0体積部であってもよく、0.1~3.0体積部であってもよく、0.2~1.0体積部であってもよい。増粘剤のかさ密度は、0.4~0.9g/cmであってもよく、0.6~0.7g/cmであってもよい。
【0029】
(密実化促進剤)
密実化促進剤は、吹付後に吹付基盤材の団粒化と、吹付基盤材と水との分離を促進し、吹付基盤材の沈降により土壌の早期の密実化を促進する働きをするものである。また、密実化促進剤は、吹付材料組成物の各材料の混合時において粘性を高め、比重の異なる材料の分離を防ぐ働きも有する。密実化促進剤は、高分子土壌改良材であることが好ましく、更に任意の成分を含んでいることが好ましい。高分子土壌改良材としては、アニオン系高分子土壌改良材とカチオン系高分子土壌改良材のいずれであってもよく、凝集剤として働くものであってもよい。任意の成分としては硫酸アルミニウム、炭酸塩、有機酸等が挙げられる。
【0030】
アニオン系高分子土壌改良材としては特に制限はないが、例えば、アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸あるいはこれらの塩との共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物等を使用することができる。中でも、分子量が数十万~数百万の化合物を用いることが好ましい。また、土粒子の凝集効果を向上する観点から、スルホン酸基やカルボン酸基等の強酸基を有する化合物を用いることが好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
カチオン系高分子土壌改良材としては特に制限はないが、例えば、アクリルアミドとジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド又はこれらの塩もしくは四級化物等のカチオン系単量体との共重合物あるいはこれらカチオン系単量体の単独重合物又は共重合物などを使用することができる。また、土粒子の凝集効果を向上する観点から、アミノ基等の強塩基を有する化合物を用いることが好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
硫酸アルミニウムは、土粒子の凝集効果を高める観点から、添加剤に含まれる硫酸アルミニウム全量の50質量%以上が粒径0.15mm以下であることが好ましい。また、硫酸アルミニウムの60質量%以上が粒径0.15mm以下であることが好ましく、80質量%以上が粒径0.15mm以下であることがより好ましく、全量が粒径0.15mm以下であることが最も好ましい。
【0033】
硫酸アルミニウムの粒径が0.15mm以下であるかどうかは、100メッシュふるい(目開き0.15mm)を用いることで確認し、100メッシュふるいを通過した粒子を、粒径0.15mm以下の粒子とする。すなわち、添加剤中の硫酸アルミニウムのうち、100メッシュふるいを通過した粒子が、硫酸アルミニウム全量の50質量%以上であることが好ましい。
【0034】
添加剤中の硫酸アルミニウムの含有量は、優れた凝集効果を得るとともに、優れた凝集速度を得る観点から、添加剤全量中、10~85質量%であることが好ましく、28~85質量%であることがより好ましく、35~50質量%であることが更に好ましい。硫酸アルミニウムは粒径が異なる種類を組み合わせて用いることができる。
【0035】
添加剤が任意成分として硫酸アルミニウムを含む場合、同時に炭酸塩を含むことが好ましい。硫酸アルミニウムは水に溶けると酸性になるため、添加剤は、アルカリ性のときに沈殿しやすい。このため、添加剤がアルカリ性の炭酸塩を含有することで、土粒子の凝集効果を素早く得られる。この効果をより十分に得る観点から、添加剤中の炭酸塩の含有量は、添加剤全量中、10~75質量%であることが好ましく、28~70質量%であることがより好ましく、42~57質量%であることが更に好ましい。炭酸塩としては、アルカリ金属イオンを含むものであることが好ましく、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0036】
有機酸は、アニオン系高分子土壌改良材とカチオン系高分子土壌改良材とが互いに固まることを抑制する働きをする。すなわち、アニオン系高分子土壌改良材とカチオン系高分子土壌改良材は、両者が互いに反応して高分子の固まりが生成されるが、有機酸の存在によってこれが抑制される。この効果をより十分に得る観点から、添加剤中の有機酸の含有量は、添加剤全量中、15質量%以下であることが好ましく、1.5~7質量%であることがより好ましい。
【0037】
有機酸は、リンゴ酸、スルファミン酸、シュウ酸、クエン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0038】
密実化促進剤の任意の成分としては、他に凍結防止剤、防腐剤、増粘剤等が挙げられる。
【0039】
密実化促進剤の含有量は、吹付基盤材のかさ密度が1.0g/cmである場合に、吹付基盤材100体積部に対して0.01~2.0体積部であってもよく、0.05~1.5体積部であってもよく、0.1~0.8体積部であってもよい。この下限値は、0.18体積部であってもよく、0.23体積部であってもよい。密実化促進剤のかさ密度は、0.5~1.0g/cmであってもよく、0.7~0.8g/cmであってもよい。
【0040】
(物理特性調整材)
物理特性調整材は、吹付材料組成物が含有している過剰の水を吸収し、吹付厚を確保する働きをするものである。吹付材料組成物を傾斜面に適用した場合にも、吹付材料組成物が垂れることなくその場に維持される。物理特性調整材は有機質の資材であることが好ましく、おが粉、おから、もみ殻燻炭、コーンコブ、バイオチャー、コーヒー殻、茶殻、古紙、セルロース、綿、ヤシ殻及びヤシ繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。物理特性調整材は人工の吸水材であってもよく、例えば高吸水性高分子であってもよい。高吸水性高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、及び、ポリアクリル酸、並びに、でんぷん、キトサン、セルロース等の天然多糖類を加工した天然高分子が挙げられる。物理特性調整材のかさ密度は、0.1~0.7g/cmであってもよく、0.2~0.4g/cmであってもよい。
【0041】
物理特性調整材は、吹付材料組成物の構成要素として上記の各材料と混合されていてもよく、上記の各材料とは別であってもよい。上記の各材料とは別である場合は、物理特性調整材を含まない吹付材料組成物と物理特性調整材とを二材吹付することになる。
【0042】
吹付材料組成物中の物理特性調整材の含有量、又は、吹付材料組成物との二材吹付に使用する物理特性調整材の使用量は、吹付基盤材100体積部に対して0.01~60体積部であってもよく、0.05~50体積部であってもよく、0.1~40体積部であってもよい。
【0043】
(施工方法)
吹付の施工手順としては、物理特性調整材を別に扱う二材吹付と、物理特性調整材を吹付材料組成物に予め混合する単材吹付がある。二材吹付の施工手順としては、始めにハイドロシーダーのタンクに吹付基盤材と、接合剤と、増粘剤と、密実化促進剤と、水とを投入し、混合及び撹拌を行う。撹拌を続けると、次第に粘度が高まっていき、吹付材料組成物が調整される。
【0044】
ここで、吹付材料組成物の粘度は、材料分離が生じず、吹付を容易に行うことができる程度であることが好ましい。例えば、B型粘度計で測定した粘度が、材料の混合開始から50秒経過した以降で、1000~5000cP(センチポアズ)であってもよく、1500~4500cPであってもよく、2000~4000cPであってもよい。
【0045】
吹付材料組成物と物理特性調整材とをそれぞれポンプで圧送し、別々のノズルから吐出させて土壌に吹付ける。吹付け先である土壌は、放射性物質の除染のために表層を剥ぎ取った土壌であってもよい。また、水平な土壌であってもよく、傾斜面であってもよい。傾斜面である場合は、傾斜角が最大45°であってもよい。吹付は二材で同時に同じ箇所を狙う。すると吹付けた箇所で二材が混合され、吹付材料組成物が含有している水を物理特性調整材が即座に吸水し、吹付基盤材の流動性が低下して厚層化する。これによって、対象土壌を覆土することができる。覆土厚は、3cm超としてもよく、更には5cm超としてもよい。
【0046】
単材吹付の施工手順としては、ハイドロシーダーのタンクに吹付基盤材と、接合剤と、増粘剤と、密実化促進剤と、物理特性調整材と、水とを投入し、混合及び撹拌を行う。撹拌している間にも物理特性調整材が水を吸収するので、吹付までの時間間隔を短くすることが望ましい。また、二材吹付の場合よりも圧送力の高いポンプを使用する。この場合の吹付材料組成物の粘度は、圧送できる限度を超えていなければよい。例えば、B型粘度計で測定した粘度が4500~8000cPであってもよく、5000~7000cPであってもよい。
【0047】
(作用効果)
土壌に吹付けた吹付材料組成物は、物理特性調整材による水の吸収によって、吹付箇所において覆土となる。そして、密実化促進剤の働きにより土粒子が団粒化し沈降して、下部に集中する。これにより吹付材料組成物の固形分と水との分離が進行し、覆土の深さ方向において接合剤及び増粘剤の濃度に勾配が生じる。接合剤及び増粘剤の濃度が高まってくる覆土の表面付近(深さ1~1.5cm程度)では、覆土が乾燥するにつれて接合剤による被膜の形成と増粘剤による被膜の強化が生じ、これにより雨滴浸食を防ぐことができる。他方、接合剤及び増粘剤の濃度が低くなる覆土の内部では、密実化促進剤により団粒化した土粒子同士が接合剤により接着するが、適度に間隙が保たれ、植物根の生育には問題のない硬度になりやすい。したがって、吹付により形成された覆土層では植生も可能である場合が多い。
【0048】
本実施形態の吹付材料組成物は、放射性物質を吸着する吸着材を含んでいるので、放射性物質を吸着によりその場に固定化することができ、森林内での放射性物質の循環を止めることができる。また、本実施形態の吹付材料組成物は比重向上材を含んでいることから、放射線を遮蔽する効果が高く、森林における放射線の空間線量を低減することができる。
【0049】
本実施形態の吹付材料組成物及びその施工方法は、同時に、従来の覆土工法の欠点を補うことができる。すなわち、従来の植生基材吹付工では5cmを超える厚い覆土を形成するためには専用プラントの設置が必要であり狭隘箇所や森林内での施工が困難であったが、本実施形態の施工方法では、ハイドロシーダーを設置できる場所があれば足りる。また、覆土の流失を防止するラス網の施工が不要であるため、土壌中に人工の残置物が残ることがない。そして客土吹付工では、材料が水分を多く含んだスラリー状のため吹付厚が高々3cmであって覆土厚を確保することができなかったが、本実施形態では物理特性調整材が水を即座に吸収するので、液性限界以上の含水材料を吹き付けた場合にも、吹付直後に5cmを超える覆土厚を確保することができる。
【0050】
また、従来では、放射線の遮蔽効果を高めるために比重の大きい材料を混合すると、混合タンク内で沈降して吹付時に材料が分離してしまう虞があったが、本実施形態の吹付材料組成物では増粘剤や密実化促進剤の働きにより、混合物の粘性が高まり材料分離が防止される。
【実施例
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
<使用材料>
・吹付基盤材…植生基材としての「フジミソイル」(商品名)(富士見工業社製、主成分はバーク堆肥、かさ密度0.18g/cm)40体積%、比重向上材としての山砂(粒径:2.0~0.075mmが90%以上)55体積%、吸着材としてのゼオライト(粒径:0.5~1.0mm)5体積%の混合物
・水…水道水
・接合剤…酢酸ビニル共重合体(かさ密度1.1g/cm
・増粘剤…ガラクトマンナンとポリエチレングリコールの混合物(かさ密度0.6~0.7g/cm
・密実化促進剤…炭酸ナトリウムと硫酸アルミニウムとポリマーの混合物(かさ密度0.7~0.8g/cm
・物理特性調整材…おが粉(かさ密度0.17g/cm
【0053】
<粘度の測定と疑似スランプ試験>
表1に示した配合のとおりに各材料を混合し、比較例1~8及び実施例1の吹付材料組成物をそれぞれ調製した。各吹付材料組成物の粘度を、B型粘度計で140秒間にわたって経時測定した。結果を図1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
次に、比較例1~7の吹付材料組成物300mlを、250ml用ポリ瓶(口径3.2cm)に充填し、高さ10cmの位置でポリ瓶を逆さにしてバットの中へ落下させた。落下した吹付材料組成物の高さ(土厚)と、平面視での広がり径(直径)を測定した。比較例8及び実施例1の吹付材料組成物は比較例1~7と比べて流動性が低いことが明らかであったので、吹付材料組成物300mlを、300ml用ビーカー(口径9.0cm)に充填し、高さ2cmの位置でポリ瓶を逆さにしてバットの中へ落下させた。落下した吹付材料組成物の高さ(土厚)と、平面視での広がり径(直径)を測定した。結果を図2に示した。
【0056】
これらの結果から、接合剤や増粘剤の濃度を高めるだけでは十分な土厚が得られず、密実化促進剤及び物理特性調整材を配合することで十分な土厚が得られることが分かった。
【0057】
<増粘剤と密実化促進剤の配合量の検討>
表2に示した配合のとおりに各材料を混合し、実施例2~7の吹付材料組成物をそれぞれ調製した。各吹付材料組成物の粘度を、B型粘度計で120秒間にわたって経時測定した。結果を図3に示した。
【0058】
【表2】
【0059】
次に、実施例2~7の吹付材料組成物を対象として、上記と同様にして300ml用ビーカー(口径9cm)を用いた疑似スランプ試験を行い、落下した吹付材料組成物の高さ(土厚)と、平面視での広がり径(直径)を測定した。結果を図4に示した。
【0060】
更に、実施例2~7の吹付材料組成物を対象として、山中式土壌硬度を求めた。山中式土壌硬度を求める方法として、山中式土壌硬度計を乾燥した吹付材料組成物へ挿入した。結果を図5に示す。ここで、山中式土壌硬度の植栽基盤としての判定は以下のとおりである(日本造園学会緑化環境工学委員会(2000),緑化事業における植栽基盤整備マニュアル、ランドスケープ研究,63,224~241)。
27mm< …多くの根が侵入困難
24mm~27mm …根系発達に阻害あり
20mm~24mm …根系発達阻害樹種あり
11mm~20mm …根系発達に阻害なし
<11mm …根系発達に阻害なし(支持力低下、乾燥)
【0061】
これらの結果から、配合によって粘度が変動するが、いずれの配合でも十分な土厚が得られることが分かった。また、増粘剤と密実化促進剤の配合量によっては、植物根系の発達が阻害される程度に土の硬度が高くなる場合があることが分かった。
【0062】
<実機試験>
表3に示した配合のとおりに各材料(ただし、おが粉を除く。)を混合し、実施例8の吹付材料組成物を調製した。物理特性調整材を除く材料を混合した時点からB型粘度計で粘度を測定したところ、混合開始から50秒経過した以降で2000~4000cPの粘度を保っていた。車載したハイドロシーダーを用いて、この吹付材料組成物とおが粉とを、0°、15°、30°、45°の四種類の傾斜面に対して二材吹付を行った。傾斜面は耐水ラワン合板製の板を傾けて、表面に不織布マットを設置することで用意し、吹付厚が5cmを超える程度に吹き付けた。
【0063】
【表3】
【0064】
吹付けた翌日の未固結時に30mm/日(最大5mm/h)程度の降雨があったが、吹付けた土の流失は生じなかった。土壌硬度としては、吹付け5日後に1.5kg/cmを超え、8日後に5kg/cmを超え、12日後に10kg/cmを超えた。12日後、いずれの傾斜面の土でも材料分離や流失が生じておらず、5cmを超える土厚を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、傾斜面への土壌材料の吹付けに利用することができる。

図1
図2
図3
図4
図5