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特許7535493乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌培養物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌培養物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240808BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240808BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20240808BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A23C9/123
A23C9/13
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021501806
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2020003848
(87)【国際公開番号】W WO2020170776
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2019027288
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-1366
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11320
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 洵己
(72)【発明者】
【氏名】星 亮太郎
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/126476(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/133009(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002322(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/126476(WO,A1)
【文献】J. Appl. Microbiol.,2004年,vol.97,pp.1257-1273
【文献】Food Res. Int.,2012年,vol.47,pp.6-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインまたはホエーを加水分解して得られる乳ペプチドを0.025~0.25質量%で含有する培地でラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベを培養して培養物を得る、培養物の製造方法において、
培養温度が、当該ラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベの至適培養温度よりも5~15℃低い温度であることを特徴とする培養物の製造方法。
【請求項2】
培地が、更に、甜茶エキス、ウーロン茶エキス、緑茶エキス、紅茶エキス、ジャスミン茶エキス及びオレイン酸類からなる群から選ばれる培養助剤の1種以上を含有するものである請求項1記載の培養物の製造方法。
【請求項3】
ラクトバチルス・カゼイが、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366)である請求項1または2記載の培養物の製造方法。
【請求項4】
ビフィドバクテリウム・ブレーベが、ビフィドバクテリウム・ブレーベYIT12272(FERM BP-11320)である請求項1~3の何れか1項記載の培養物の製造方法。
【請求項5】
培養物の10℃、21日間保存後の酸度変化量が、ラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベを当該ラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベの至適培養温度で培養して得た培養物の10℃、21日間保存後の酸度変化量未満である請求項1~4のいずれか1項記載の培養物の製造方法。
【請求項6】
保存前の培養物における生菌数が1.2×10cfu/ml以上であり、ラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベを当該ラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベの至適培養温度で培養して得た培養物の10℃、21日間保存後の生菌数の110%以上である請求項1~5のいずれか1項記載の培養物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項記載の培養物の製造方法で製造される培養物であって、
培養物の保存前の酸度が4~12であり、10℃、21日間保存後の酸度変化が1.45未満であることを特徴とする培養物。
【請求項8】
更に、保存前の培養物における生菌数が1.2×10cfu/ml以上であり、10℃、21日間保存後の生残率が80%以上である請求項7記載の培養物。
【請求項9】
請求項1~4の何れか1項記載の培養物の製造方法で製造される培養物であって、
培養物の保存前の生菌数が1.2×10cfu/ml以上であり、10℃、21日間保存後の生残率が80%以上であることを特徴とする培養物。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項記載の製造方法により製造される培養物を含有することを特徴とする発酵飲食品。
【請求項11】
請求項7~9のいずれか1項記載の培養物を含有することを特徴とする発酵飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌培養物の製造方法および当該方法により製造される培養物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の培養物を利用する発酵乳の製造において、培養助剤として培地に乳ペプチドを添加することにより、乳酸菌等の増殖を促進させ、初発菌数を高めたり、発酵時間を短縮できることが知られている。
【0003】
その一方で、乳ペプチドの添加により、製品保存中の酸度変化が著しく大きくなり、製品品質を低下させることや、製品保存中に酸度が上昇する結果、製品調製時の菌数を高いレベルで維持できないことが問題となっていた。
【0004】
製品保存中の発酵乳の酸度上昇を抑制する方法としては、一応、ラクトバチルス属の乳酸菌の単独培養液を乳酸菌スターター(混合スターター)に添加する方法が出願されているが、その効果は十分ではなく、また、この出願において、乳ペプチドを単独で添加した場合には酸度上昇は抑制されなかったことも示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2013/133313号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、乳ペプチドを添加した培地で乳酸菌等を培養しても、製品保存中の酸度変化を促進することなく、製品調製時の菌数を高いレベルで維持できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、乳ペプチドを添加した培地で乳酸菌等を培養する場合において、通常は当該乳酸菌等の至適培養温度で行われるところを、意外にも至適培養温度よりも3℃以上低い温度で培養をすると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は乳ペプチドを含有する培地で乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を培養して培養物を得る、培養物の製造方法において、
培養温度が、当該乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の至適培養温度よりも3℃以上低い温度であることを特徴とする培養物の製造方法である。
【0009】
また、本発明は上記培養物の製造方法で製造される培養物を含有することを特徴とする発酵飲食品である。
【0010】
更に、本発明は上記培養物の製造方法で製造される培養物であって、
培養物の保存前の酸度が4~12であり、10℃、21日間保存後の酸度変化が1.45未満であることを特徴とする培養物である。
【0011】
また更に、本発明は上記培養物の製造方法で製造される培養物であって、
培養物の保存前の生菌数が1.2×10cfu/ml以上であり、10℃、21日間保存後の生残率が80%以上であることを特徴とする培養物である。
【0012】
更にまた、本発明は上記培養物を含有することを特徴とする発酵飲食品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の培養物の製造方法は、乳ペプチドを含有する培地で、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の至適培養温度よりも3℃以上低い温度で培養するという単純な方法で、保存中の酸度の変化が抑制され、これに含まれる乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の生残性も高い培養物を得ることができる。
【0014】
また、本発明の培養物の製造方法により製造される培養物は、上記した性質を有するため、保存時にも製品の品質が維持できる発酵飲食品の製造に利用することができる。
【0015】
なお、通常、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を培養して培養物を得る培養物の製造方法においては、最も菌数が増えるとされる至適培養温度で培養を行うのが技術常識であり、通常はその温度を外れて培養は行わない。また、培地に乳ペプチドのような培養助剤が添加されている場合に、至適培養温度を外れて培養した場合、増殖速度の上昇(回復)とこれに伴う酸度上昇(場合によってはさらなる悪化)が予想されるのみであり、本発明の効果(増殖速度の回復と酸度上昇抑制の両立)は容易に想到し得ない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の培養物の製造方法(以下、「本発明方法」という)は、乳ペプチドを含有する培地で乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌(以下、「乳酸菌等」ということもある)を培養して培養物を得る、培養物の製造方法において、培養温度を、当該乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の至適培養温度よりも3℃以上低い温度、好ましくは5℃以上低い温度、より好ましくは5~15℃低い温度とするものである。なお、本発明方法においては、至適培養温度の異なる複数の乳酸菌等を用いる場合には、どの乳酸菌の至適培養温度を基準としても構わないが、例えば、本発明の効果(酸度変化の抑制、生残率の向上)を得たい乳酸菌、即ち、発酵飲食品の酸度変化に寄与することが明らかな乳酸菌またはプロバイオティクスとしての有用性から生残性を向上させたい乳酸菌の至適培養温度を基準としてもよいし、当該複数の乳酸菌等の全てについて本発明の効果(酸度変化の抑制、生残率の向上)を得るために、最も至適培養温度が低い乳酸菌等の至適培養温度を基準としてもよい。
【0017】
本発明方法で用いられる培地は、乳酸菌等が生育可能な培地に乳ペプチドが含有されていればよい。このような培地としては、例えば、牛乳、山羊乳、馬乳、羊乳等の生乳や、脱脂粉乳、全粉乳、生クリーム等の乳製品等からなる獣乳培地や各種合成培地を挙げることができる。これらの培地の中でも脱脂粉乳が好ましい。
【0018】
上記培地に含有される乳ペプチドは特に限定されず、例えば、カゼイン、ホエー等に加水分解等の処理をして得られるもの等が挙げられる。また、乳ペプチドの分子量も特に限定されない。培地における乳ペプチドの含有量は、特に限定されないが、例えば、0.025~0.25質量%、好ましくは0.05~0.10質量%である。
【0019】
上記培地には、必要に応じて、乳酸菌等が資化可能な糖質を含有させてもよい。このような糖質としては、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、リボース、キシロース、ラクトース、マルトース、スクロース、パラチノース、トレハロース、ラフィノース等が挙げられる。培地における乳酸菌等が資化可能な糖質の含有量は、特に限定されず、培養に用いる乳酸菌等にあわせて適宜設定すれば良いが、例えば、0~20質量%、好ましくは2~8質量%である。
【0020】
上記培地には、更に、甜茶エキス、ウーロン茶エキス 、緑茶エキス、紅茶エキス、ジャスミン茶エキス、オレイン酸類等の培養助剤を含有させることが保存前の培養物における生菌数が高くなる点から好ましい。これら培養助剤は1種以上を用いればよい。
【0021】
培養助剤のうち、甜茶エキス、ウーロン茶エキス 、緑茶エキス、紅茶エキス、ジャスミン茶エキスは、市販のものや、特開2001-178413、特開2016-174589等の公報に記載の方法によって得られるものを用いればよい。培地におけるこれらエキスの含有量は、特に限定されないが、例えば、甜茶エキス、ウーロン茶エキスは0.1~2質量%、好ましくは0.22~0.33質量%である。
【0022】
培養助剤のうち、オレイン酸類は、特に限定されるものではなく、遊離のオレイン酸やオレイン酸の無機塩の他、一般的に乳化剤として用いられているシュガーエステル、グリセリド、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル等において、その脂肪酸部分がオレイン酸であるものを挙げることができる。また、オレイン酸類を多量に含有する食品素材を使用することも可能である。
【0023】
オレイン酸類の具体例としては、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等のオレイン酸の塩、グリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等のオレイン酸エステルを挙げることができる。これらのオレイン酸類は、1種以上を用いることができる。
【0024】
培地におけるオレイン酸類の含有量は、特に限定されないが、例えば、5~200ppm、好ましくは10~100ppmである。
【0025】
更に、上記培地には、通常の乳酸菌等の培養に用いられる培地に添加可能な成分、例えば、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類や、乳ペプチド以外のペプチド、アミノ酸類、カルシウム、マグネシウム等の塩類を含有させてもよい。
【0026】
本発明方法に用いられる乳ペプチドを含有する培地の好ましい一態様としては次のものが挙げられる。
乳ペプチド 0.025~0.25質量%
脱脂粉乳 10~20質量%
ぶどう糖 0~8質量%
【0027】
本発明方法において、乳ペプチドを含有する培地で培養される乳酸菌等は特に限定されず、例えば、自然界から見出したもの、寄託機関に寄託されたものや、市販されているもの、更に、これらを変異させたものの何れでもよい。
【0028】
乳酸菌であれば、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・クレモリス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ユーグルティ、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.ブルガリカス、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.デルブルッキィー、ラクトバチルス・ジョンソニー等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌を挙げることができる。これらの乳酸菌は1種以上を用いればよい。
【0029】
これらの乳酸菌の中でもラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌およびラクトコッカス属細菌からなる群より選ばれた乳酸菌の1種以上が好ましく、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトコッカス・ラクチス及びストレプトコッカス・サーモフィルスからなる群より選ばれた乳酸菌の1種以上がより好ましく、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366、受託日:昭和56年1月12日、至適培養温度37℃)、ラクトコッカス・ラクチス YIT2027(FERM BP-6224、受託日:平成9年2月10日、至適培養温度30℃)及びストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2021(FERM BP-7537、受託日:平成8年11月1日、至適培養温度37℃)からなる群より選ばれる乳酸菌の1種以上が特に好ましい。なお、これら乳酸菌は、後述するビフィドバクテリウム属細菌のそれぞれの1種以上と組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、ビフィドバクテリウム属細菌であれば、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム、ビフィドバクテリウム・アングラータム、ビフィドバクテリウム・ガリカム、ビフィドバクテリウム・ラクチス、ビフィドバクテリウム・アニマリス等を挙げることができる。これらのビフィドバクテリウム属細菌の中でもビフィドバクテリウム・ブレーベが好ましい。これらビフィドバクテリウム属細菌は1種以上を用いればよい。また、ビフィドバクテリウム属細菌は、前述した乳酸菌のそれぞれの1種以上と組み合わせて用いてもよい。
【0031】
これらのビフィドバクテリウム属細菌の中でもビフィドバクテリウム・ブレーベがより好ましく、ビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272(FERM BP-11320、受託日:平成23年1月20日、至適培養温度37℃)が特に好ましい。なお、これらビフィドバクテリウム属細菌は、前述する乳酸菌のそれぞれの1種以上と組み合わせて用いてもよい。
【0032】
更に、本発明方法においては、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を用いるが、ラクトバチルス・カゼイ及び/又はビフィドバクテリウム・ブレーベが好ましい。
【0033】
上記した受託日の記載されている乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌については、いずれも独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 120号室)に寄託されている。
【0034】
本発明方法において、乳ペプチドを含有する培地で乳酸菌等を培養する条件は、至適培養温度よりも3℃以上低い温度で培養する以外は使用する乳酸菌等の種類にあわせればよく、特に限定されない。
【0035】
具体的に、乳ペプチドを含有する培地で乳酸菌を培養する場合には、培地中の菌数が5×10cfu/ml程度となるように接種し、これを上記した乳酸菌等の至適培養温度よりも3℃以上低い温度で、pHが3.6程度あるいは酸度が24程度となるまで培養する条件が挙げられる。このときの培養条件としては、静置、攪拌、振とう、通気等から用いる乳酸菌の培養に適した方法を適宜選択して行えばよい。
【0036】
また、乳ペプチドを含有する培地でビフィドバクテリウム属細菌を培養する場合には、培地中の菌数が5×10cfu/ml程度となるように接種し、これを上記した乳酸菌等の至適培養温度よりも3℃以上低い温度で、pHが4.9程度となるまで培養する条件が挙げられる。このときの培養条件としては、静置、攪拌、振とう等から用いるビフィドバクテリウム属細菌の培養に適した方法を適宜選択して行えばよく、嫌気的な条件としても良い。
【0037】
更に、乳ペプチドを含有する培地で乳酸菌とビフィドバクテリウム属細菌の両方を培養する場合には培地中のビフィドバクテリウム属細菌数が5×10cfu/ml、乳酸菌数が5×10cfu/ml程度となるように接種し、これを上記した乳酸菌等の至適培養温度よりも3℃以上低い温度で、pHが4.4程度となるまで培養する条件が挙げられる。
【0038】
以上説明した本発明方法により本発明の培養物が得られる。本発明の培養物は、保存中にも酸度の変化が抑制され、これに含まれる乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の生残性も高いものとなる。
【0039】
具体的に、本発明の培養物は、培養物の10℃、21日間保存後の酸度変化量が、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を当該乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の至適培養温度で培養して得た培養物の10℃、21日間保存後の酸度変化量未満、好ましくは1.40~1.45のものとなり、好ましくは更に上記に加えて保存前の培養物における生菌数が1.2×10cfu/ml以上、好ましくは1.2×10cfu/ml~2.0×10cfu/mlであり、乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌を当該乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の至適培養温度で培養して得た培養物の10℃、21日間保存後の生菌数の110%以上、好ましくは110~130%となるものである。
【0040】
また、本発明の培養物は、保存前の酸度が4~12であり、10℃、21日間保存後の酸度変化が1.45未満、好ましくは1.40~1.45となり、好ましくは更に上記に加えて保存前の培養物における生菌数が1.2×10cfu/ml以上、好ましくは1.2×10cfu/ml~1.5×10cfu/mlであり、10℃、21日間保存後の生残率が80%以上、好ましくは80~90%となるものである。
【0041】
更に、本発明の培養物は、培養物の保存前の生菌数が1.2×10cfu/ml以上、好ましくは1.2×10cfu/ml~2.0×10cfu/mlであり、10℃、21日間保存後の生残率が80%以上、好ましくは80~90%となるものである。
【0042】
なお、本発明において、生菌数、酸度変化率、生残率は実施例に記載の方法で測定される値である。
【0043】
以上説明した本発明の培養物は、そのまま、あるいは必要に応じて、シロップ等の甘味料のほか、糖質、増粘剤、乳化剤、ビタミン類、フレーバー類等の食品素材を従来公知の方法で配合して、発酵飲食品とすることができる。これら発酵飲食品には、例えば、乳等省令により定められている発酵乳だけでなく、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料等の飲料、ケフィア、ヨーグルト等の生菌含有タイプのものが包含される。また、その形態としては、例えばハードタイプ、ソフトタイプ、プレーンタイプ、甘味タイプ、フルーツタイプ、ドリンクタイプ、フローズンタイプ等が挙げられる。
【0044】
本発明の培養物に配合することができる食品素材としては、ショ糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ペクチン、ローカストビーンガム、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコール等の各種増粘(安定)剤、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クリーム、バター、サワークリームなどの乳脂肪、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE類等の各種ビタミン類、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、マンガン等のミネラル分、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、アプリコット系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル系、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバー類を挙げることができる。
【0045】
これら発酵飲食品も、本発明の培養物と同様に保存中の酸度の変化が抑制され、これらに含まれる乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌の生残性も高いものとなる。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
実 施 例 1
培養物および乳酸菌飲料の製造:
15w/w%(以下、培地組成中の「%」は「w/w%」を意味する)の脱脂粉乳、2.0%のグルコース、4.7%のフルクトースを水に溶解した培地に、表1に記載の成分を添加し、100℃62分間殺菌した。各培地にラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP-1366:至適培養温度37℃)スターターを0.5%接種(初発菌数:5.0×10cfu/ml)して、表1に記載の温度で培養を開始し、酸度規格24.0まで培養を行った。得られた培養物70質量部に、3%大豆多糖類溶液30質量部を混合した混合物を15MPaで均質化処理した。この均質化処理した混合物35質量部を、シロップ(14%のスクロースを含む)65質量部と混合し、生菌数が1.2×10cfu/ml以上、酸度が5.5~6.8の乳酸菌飲料を得た(製品1~3)。この乳酸菌飲料を光透過性容器(ポリスチレン製)に100mlずつ分注し、10℃で保存後、酸度変化と生菌数(および生残率)を以下の方法により測定した。それらの結果も表1に記載した。
【0048】
【表1】
【0049】
<酸度測定方法>
培養物9gに40gのイオン交換水を加え、pHが8.5となるよう0.1N水酸化ナトリウムで中和滴定したときの滴定値(単位:ml)
【0050】
<生菌数測定方法>
BCP培地(栄研化学(株))により測定した。
【0051】
<生残率算出方法>
X日目の生残率(%)=(X日目の生菌数/0日目の生菌数)×100
【0052】
<酸度変化率算出方法>
X日目の酸度変化率(%)=(X日目の酸度/0日目の酸度)×100
【0053】
ラクトバチルス・カゼイ YIT9029の至適培養温度よりも7℃低い30℃で、基本の培地に乳ペプチドやウーロン茶エキスを含有させた培地で培養して得られる培養物を含有する製品3は、保存前(0日目)の生菌数が高く、21日保存後の酸度の変化が少なく、また、生残率も高かった。
一方、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029の至適培養温度よりも2℃低い35℃で、基本の培地に乳ペプチドやウーロン茶エキスを含有させた培地で培養して得られる培養物を含有する製品2は、保存前(0日目)の生菌数は製品3と同程度に高いものの、製品3と比べて21日保存後の酸度の変化が大きく、また、生残率も低かった。
また、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029の至適培養温度の37℃よりも2℃低い35℃で基本の培地で培養して得られる培養物を含有する製品1は、乳ペプチドやウーロン茶エキスを含有しない基本の培地で培養したもののため、製品2と比べて保存前(0日目)の生菌数が低いものの、21日保存後の酸度の変化は小さく、生残率は同程度であった。
なお、製品1および製品2の結果から、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029を基本の培地に乳ペプチドやウーロン茶エキスを含有させた培地でラクトバチルス・カゼイ YIT9029の至適培養温度である37℃で培養した場合には、保存前の生菌数がさらに高くなると共に酸度の変化もさらに大きくなる。
【0054】
これらの結果より、通常の乳酸菌等の至適培養温度付近で、培地に乳ペプチドやウーロン茶エキスを含有させた場合、保存前の生菌数が高くなるものの、それに伴い酸度変化も大きくなるが、通常は採用されない至適培養温度よりも3℃以上低い温度で培養すると、保存前の生菌数が高くなるものの、保存後の酸度変化が少なく、しかも、生残率も高くなるという予想外の効果が得られた。
【0055】
実 施 例 2
培養物および乳酸菌飲料の製造:
実施例1の製品3の製造において、基本培地に含有させる乳ペプチドの含有量を0.025%または0.2%とする以外は同様にして製品4または製品5を得た。
【0056】
これらの製品の保存前の生菌数は1.7×10cfu/ml(製品4)および1.7×10cfu/ml(製品5)であり、10℃、21日間保存後の酸度変化や生残率は、製品3と同程度であったが、乳ペプチドの含有量が、0.1~0.2%の方が0.025%よりも酸度変化が少ないことが分かった。
【0057】
実 施 例 3
培養物および乳酸菌飲料の製造:
実施例1の製品3の製造において、基本培地に含有させる培養助剤であるウーロン茶エキスを0.15%とする以外は同様にして製品6を得た。
【0058】
この製品の保存前の生菌数は1.5×10cfu/ml(製品6)であり、10℃、21日間保存後の酸度変化や生残率は、製品3と同程度であった。
この結果から、基本培地に含有させる培養助剤であるウーロン茶エキスの含有量を変化させることは製品に影響を及ぼさないことが分かった。
【0059】
実 施 例 4
培養物および乳酸菌飲料の製造:
実施例3の製品6の製造において、基本培地に含有させる乳ペプチドの種類をCE90-GMMから、MCH-30(森永乳業(株)製:カゼイン由来、平均分子量230)またはLF80GF-US(日本新薬(株)製:ホエー由来、平均分子量7800)とする以外は同様にして製品7および製品8を得た。
【0060】
これらの製品の保存前の生菌数は1.5×10cfu/ml(製品7)および1.6×10cfu/ml(製品8)であり、10℃、21日間保存後の酸度変化や生残率は、製品3と同程度であった。
これらの結果から、基本培地に含有させる乳ペプチドの種類を変化させることは製品に影響を及ぼさないことが分かった。
【0061】
実 施 例 5
培養物および乳酸菌飲料の製造:
実施例3の製品6の製造において、培養温度を22℃、24℃、30℃または34℃とする以外は同様にして製品9、製品10、製品11、製品12を得た。
【0062】
これらの製品の保存前の生菌数は1.7×10cfu/ml(製品9)、1.7×10cfu/ml(製品10)、1.8×10cfu/ml(製品11)および1.8×10cfu/ml(製品12)であり、10℃、21日間保存後の酸度変化や生残率は、製品3と同程度であった。
【0063】
これらの結果から、培養温度はラクトバチルス・カゼイ YIT9029の至適培養温度の37℃よりも3℃以上低ければ、保存前の生菌数が高く、21日保存後の酸度の変化が少なく、また、生残率も高くなることが分かったが、特にその温度範囲の中でも培養温度が高い方が保存前の生菌数が高くなる傾向が、また、酸度の変化は培養温度が低い方が少なくなる傾向が、また、生残率は30~34℃付近で高くなることが分かった。保存前の生菌数、保存後の酸度の変化、生残率を考慮すると、培養温度はラクトバチルス・カゼイ YIT9029の至適培養温度の37℃よりも5℃以上低いことが好ましく、特に5~15℃低いことが好ましいことが分かった。
【0064】
実 施 例 6
培養物の製造:
9.7%脱脂粉乳溶液を121℃で15分間加熱殺菌したものを基本培地とし、これにビフィドバクテリウム・ブレーベ YIT12272(FERM BP-11320:至適培養温度37℃)スターターを1%接種(初発菌数:7.0×10cfu/ml)して、表2記載の温度でpHが4.9~5.0となるまで培養し、培養物1、2を得た。
また、基本培地に乳ペプチド(CE90-GMM(日本新薬(株)製:カゼイン由来、平均分子量640))を表2記載の量添加する以外は、同様にして培養物3~6を得た。
【0065】
【表2】
【0066】
これらの結果から、乳酸菌のみならずビフィドバクテリウム属細菌を用いた場合でも、乳ペプチドを含む培地でビフィドバクテリウム属細菌を至適温度よりも7℃低い30℃で培養することで培養物中の生菌数が向上することが分かった。
【0067】
実 施 例 7
培養物の製造
11.5%脱脂粉乳、0.1%酵母エキス(BD社製)、0.03%L-システイン塩酸塩(和光純薬工業(株)製)および0.2%炭酸カルシウム(関東化学(株)製)を含む溶液を窒素を充填した密閉容器内で、115℃で15分間殺菌したものを基本培地とする以外は、実施例6の培養物1、2、5、6と同様にして培養物7~10を得た。
【0068】
【表3】
【0069】
これらの結果から、ビフィドバクテリウム属細菌にとってより好適な環境で培養し、十分に高い菌数が得られる場合においても、至適温度よりも7℃低い30℃で培養した培養物9は、至適温度の37℃で培養した培養物10よりも高い生菌数が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の培養物の製造方法及び当該方法により製造される培養物は、製造時の生菌数が多く、保存時にも製品の品質が維持できる発酵飲食品の製造に利用することができる。