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特許7535496ガラス製造プロセスにおける金属容器を加熱するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ガラス製造プロセスにおける金属容器を加熱するための方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/235 20060101AFI20240808BHJP
   C03B 5/027 20060101ALI20240808BHJP
   C03B 7/07 20060101ALI20240808BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20240808BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C03B5/235
C03B5/027
C03B7/07
C03B17/06
H05B3/00 330Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021504422
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 US2019041313
(87)【国際公開番号】W WO2020023218
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】62/703,907
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イン ピン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥラムリア,メーガン オーロラ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイ,デニス ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】ハァ,チュンホン チェルシー
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-020521(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105948462(CN,A)
【文献】特開2011-173787(JP,A)
【文献】特開2018-052792(JP,A)
【文献】特開昭58-032030(JP,A)
【文献】特開2008-116169(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132472(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/035174(WO,A1)
【文献】特開2017-030987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00 - 7/22
C03B 17/00 - 17/06
H05B 3/00 - 3/00
F27D 7/00 - 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属容器を加熱する方法であって、
溶融ガラスを前記金属容器に通して流すステップであって、前記金属容器は前記金属容器に取り付けられた複数の電気フランジを備え、前記複数の電気フランジは少なくとも第1電気フランジ、前記第1電気フランジから隔てられた第2電気フランジ、及び前記第2電気フランジから隔てられた第3電気フランジを備え、前記第1電気フランジ、前記第2電気フランジ、及び前記第3電気フランジは前記金属容器の長さに沿って順に配置され、前記第1電気フランジ、前記第2電気フランジ、及び前記金属容器の前記第1及び第2電気フランジ間の第1部分が第1電気回路を成し、前記第2電気フランジ、前記第3電気フランジ、及び前記金属容器の前記第2及び第3電気フランジ間の第2部分が第2電気回路を成し、前記第2電気フランジは前記第1電気回路及び前記第2電気回路の共通の電気路を形成する、ステップと、
前記第1電気回路内に第1交流電流を確立し、前記第2電気回路内に前記第1交流電流に対して第1位相角を有する第2交流電流を確立するステップと、
前記第2電気フランジの温度が前記第1部分と前記第2部分の温度より低くなるように、前記第1交流電流又は前記第2交流電流のうち少なくとも1つを該少なくとも1つの交流電流の各半周期の間においてカットすることで前記金属容器の前記第1部分又は前記第2部分のうち少なくとも1つにおいて消費される電力を制御するステップと
を含、加熱する方法。
【請求項2】
前記第1位相角の絶対値は0度、30度、60度、又は120度のうちの1つである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属容器は前記第1、第2、及び第3電気フランジに続き、それらから隔てられた第4電気フランジを備え、前記第3電気フランジ、前記第4電気フランジ、及び前記金属容器の前記第3電気フランジと前記第4電気フランジ間に延在する第3部分が第3電気回路を成し、前記第3電気フランジが前記第2電気回路及び前記第3電気回路の共通の電気路を提供し、該方法は、
前記第3電気回路内に前記第1交流電流に対して第2位相角を前記第2交流電流に対して第3位相角を有する第3交流電流を確立するステップを更に含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記第2位相角の絶対値は0度、30度、60度、又は120度のうちの1つである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第2位相角の絶対値は前記第1位相角の絶対値に等しい、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第3位相角の絶対値は0度、30度、60度、又は120度のうちの1つである、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記第3位相角の絶対値は前記第1位相角の絶対値に等しい、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第1及び第2位相角はゼロでなく、前記第1位相角の符号は前記第2位相角の符号と異なる、請求項3記載の方法。
【請求項9】
前記第3交流電流は第3変圧器により供給される請求項3記載の方法。
【請求項10】
前記カットすることは前記第1交流電流又は前記第2交流電流のうち少なくとも1つを該少なくとも1つの交流電流の各半周期の間において位相点火制御器で阻止することを含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
成形本体に前記溶融ガラスを供給し前記成形本体から前記溶融ガラスを引っ張るステップを更に含む請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記溶融ガラスを引っ張りガラスリボンにするステップを更に含む請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2018年7月27日に出願された米国仮特許出願第62/703907号の優先権の利益を主張するものであり、その内容全体を本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、ガラス製造プロセスにおける金属容器を加熱するための方法、特に、金属容器内の溶融ガラスの温度及び粘度を制御するために金属容器の直接加熱を使用することに関する。
【背景技術】
【0003】
形成装置によるガラス物品の製造は、溶融ガラスが供給源、例えば溶融容器と形成装置の間を進行する時に溶融ガラスの粘度を制御することを必要とする。幾つかの製造オペレーションでは、溶融ガラスは耐熱性(例えば、セラミック)チャネルを通って流れ、耐熱性チャネルはチャネル外の加熱要素により間接的に加熱され溶融ガラスの温度を制御する。しかし、光学品質のガラスの製造、例えば電子画像表示用途用の表示ガラスシーの製造の間などの他のオペレーションでは、溶融ガラスは金属容器、例えば管及び処理チャンバーを通って流れ、容器は容器の壁内の電流により直接加熱される。商業規模のそのような加熱は、容器に結合され電源と連通する電気フランジを介して容器に供給される大きな電流を伴いうることは明らかなはずである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
必要なものは、電流を容器に伝えるフランジを過熱し損傷させない直接加熱プロセスを制御するための方法である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、ガラス物品を形成する方法が開示される。その方法は、溶融ガラスを金属容器に通して流すステップであって、前記金属容器は前記金属容器に取り付けられた複数の電気フランジを備え、前記複数の電気フランジは少なくとも第1電気フランジ、前記第1電気フランジから隔てられた第2電気フランジ、及び前記第2電気フランジから隔てられた第3電気フランジを備え、前記第1電気フランジ、前記第2電気フランジ、及び前記第3電気フランジは前記金属容器の長さに沿って順に配置され、前記第1電気フランジ、前記第2電気フランジ、及び前記金属容器の前記第1及び第2電気フランジ間の第1部分が第1電気回路を成し、前記第2電気フランジ、前記第3電気フランジ、及び前記金属容器の前記第2及び第3電気フランジ間の第2部分が第2電気回路を成し、前記第2電気フランジは前記第1電気回路及び前記第2電気回路の共通の電気路を形成する、ステップを含む。
【0006】
前記方法は、前記第1電気回路内に第1交流電流を確立し、前記第2電気回路内に前記第1交流電流に対して第1位相角を有する第2交流電流を確立するステップを更に含む。
【0007】
前記方法は、前記第1交流電流と前記第2交流電流のうち少なくとも1つを該少なくとも1つの交流電流の各半周期の間においてカットすることで前記金属容器の前記第1部分と前記第2部分のうち少なくとも1つにおいて消費される電力を制御するステップを更に含み、前記第2電気フランジの温度は前記第1部分と前記第2部分の温度より低い。
【0008】
実施形態では、前記第1位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つでありうる。
【0009】
幾つかの実施形態では、前記金属容器は前記第1、第2、及び第3電気フランジに続き、それらから隔てられた第4電気フランジを備え、前記第3電気フランジ、前記第4電気フランジ、及び前記金属容器の前記第3電気フランジと前記第4電気フランジ間に延在する第3部分が第3電気回路を成し、前記第3電気フランジが前記第2電気回路及び前記第3電気回路の共通の電気路を提供し、該方法は、前記第3電気回路内に前記第1交流電流に対して第2位相角を前記第2交流電流に対して第3位相角を有する第3交流電流を確立するステップを更に含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、前記第2位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つでありうる。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記第2位相角の絶対値は前記第1位相角の絶対値に等しいことがある。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記第3位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つである。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記第3位相角の絶対値は前記第1位相角の絶対値に等しいことがある。
【0014】
幾つかの実施形態では、前記第1及び第2位相角はゼロでなく、前記第1位相角の符号は前記第2位相角の符号と異なりうる。本書で使用されるように、用語「符号」は基準位相に対する正位相角又は負位相角を指す。
【0015】
前記第1交流電流と前記第2交流電流は第1変圧器と第2変圧器によりそれぞれ供給されうる。
【0016】
実施形態では、前記第3交流電流は第3変圧器により供給される。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記第1、第2、及び/又は第3変圧器のうちいずれも又は組み合わせはデルタY変圧器(Δ‐Y)でありうる。
【0018】
前記カットすることは前記第1交流電流及び前記第2交流電流のうち少なくとも1つを該少なくとも1つの交流電流の各半周期の間において位相点火制御器で阻止することを含みうる。
【0019】
幾つかの実施形態では、前記金属容器は清澄室を含みうる。
【0020】
前記方法は成形本体に前記溶融ガラスを供給し前記成形本体から前記溶融ガラスを引っ張るステップを更に含んでもよい。
【0021】
幾つかの実施形態では、前記引っ張ることは前記溶融ガラスを引っ張りガラスリボンにすることを含む。
【0022】
更に他の実施形態では、ガラスを製造する方法が開示される。その方法は、溶融ガラスを金属容器に通して流すステップであって、前記金属容器は前記金属容器にその長さに沿って取り付けられたn個の電気フランジを備え、前記n個の電気フランジはn-1個の電気回路を形成し、前記n-1個の電気回路のそれぞれは前記n個の電気フランジのうち2つの近接する電気フランジとそれらの間の前記金属容器の一部分とを含み、前記n-1個の電気回路のうち隣接する電気回路は、前記n個の電気フランジのうち前記隣接する電気回路に共通の電気路を形成する1つを含み、前記nは3以上である、ステップを含む。
【0023】
前記方法は、前記n-1個の電気回路のうち各電気回路内に交流電流を確立するステップを更に含む。
【0024】
前記方法は、前記n-1個の電気回路を成す前記金属容器の少なくとも一部分において消費される電力を対応する電気回路に供給される交流電流を前記対応する電気回路内の交流電流の各半周期の間においてカットすることで制御するステップを更に含み、前記n個の電気フランジのそれぞれの温度は前記少なくとも一部分の温度より低い。
【0025】
幾つかの実施形態では、前記nは4以上でありうる。
【0026】
幾つかの実施形態では、前記n-1個の電流の少なくとも2つの間の位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つでありうる。
【0027】
前記方法は、前記n-1個の電気回路のうちそれぞれに供給される前記交流電流を、例えば位相点火制御器でカットするステップを更に含んでもよい。
【0028】
幾つかの実施形態では、前記金属容器は白金を含みうる。例えば、幾つかの実施形態では、前記金属容器は清澄室を含みうる。
【0029】
更に他の実施形態では、ガラス物品を形成するための装置が記述される。その装置は、金属容器と前記金属容器にその長さに沿って取り付けられたn個の電気フランジを備え、前記n個の電気フランジはn-1個の電気回路を形成し、前記n-1個の電気回路のそれぞれは前記n個の電気フランジのうち2つの近接する電気フランジと、それらの間に接続された前記金属容器の一部分と、電流を該電気回路に供給するように構成された電源とを含み、前記n-1個の電気回路のうち隣接する電気回路は、前記n個の電気フランジのうち前記隣接する電気回路に共通の電流路を形成する1つを含み、前記n-1個の電気回路のそれぞれの前記電源は変圧器と位相点火制御器とを備える。
【0030】
幾つかの実施形態では、前記nは3以上である。
【0031】
幾つかの実施形態では、前記n-1個の電気回路のうちそれぞれの前記位相点火制御器は変圧器の一次コイルに接続されている。
【0032】
様々な実施形態では、前記金属容器は清澄室を含む。
【0033】
本書に開示した実施形態の追加の特徴と利点は下記の詳細な説明において記述され、その説明から当業者にとって容易に明白となるか、又は下記の詳細な説明、請求項、及び添付図面を含めて本明細書に記載した発明を実施することにより認識されるであろう。
【0034】
上記概要説明と下記の詳細な説明の両方とも、本明細書に開示した実施形態の特質及び特性を理解するための概観又は枠組みを提供するよう意図された実施形態を提示していることは理解されるべきである。添付図面は更なる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ一部をなしている。図面は本開示の様々な実施形態を例示し、記述内容と共にそれら実施形態の原理と動作を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】代表的なガラス製造装置の概略図である。
図2】直接加熱用に構成された図1の金属容器などの金属容器を備える代表的なガラス製造装置の一部の側面図である。
図3図2の電気フランジなどの代表的な電気フランジの前面図である。
図4A】金属容器の一部を加熱するのに使用される2つの隣接する電気回路を備える代表的なガラス製造装置の一部の別の側面図である。
図4B図4Aの2つの隣接する電気回路の等価回路図である。
図4C】共通の電気フランジ内の電流を算出するのに重ね合わせが使用されうる方法を例示する。
図4D】共通の電気フランジ内の電流を算出するのに重ね合わせが使用されうる方法を例示する。
図5】3つの隣接する電気回路を有する金属容器を備える代表的なガラス製造装置の一部の概略図である。
図6】代表的な正弦波交流電流波形を示すグラフである。
図7A】基準正弦波交流電流波形のグラフである。
図7B図7Aの正弦波交流電流波形に遅れる正弦波交流電流波形のグラフである。
図7C図7Aの交流電流波形及び図7Bの交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図7D図7Bの正弦波交流電流波形が図7Aの正弦波交流電流波形に遅れるのと同じ位相角だけ図7Aの正弦波交流電流波形に先行する正弦波交流電流波形のグラフである。
図7E図7Aの交流電流波形及び図7Dの交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図8A】基準カット交流電流波形のグラフである。
図8B図8Aのカット交流電流波形に遅れるカット交流電流波形のグラフである。
図8C図8Aのカット交流電流波形及び図8Bの交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図8D図8Bのカット交流電流波形が図8Aのカット交流電流波形に遅れるのと同じ位相角だけ図8Aのカット交流電流波形に先行するカット交流電流波形のグラフである。
図8E図8Aのカット交流電流波形及び図8Dの交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図9A】波形カットがより少ない以外は図8Bの交流電流波形と同一のカット交流電流波形のグラフである。
図9B図8Aのカット交流電流波形及び図9Aのカット交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図10A図7Aの交流電流波形と同一の第1電気回路内の正弦波交流電流波形のグラフである。
図10B図7Aの交流電流波形及び図10Aの正弦波交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図10C図7Aの交流電流波形に近い第2電気回路内の図10Aの電流波形に類似したカット交流電流波形のグラフである。
図10D図7Aの交流電流波形及び図10Cのカット交流電流波形が共通の電気フランジなどの同じ導電体内に存在する時の合成交流電流波形を示すグラフである。
図11】電気フランジ内の電流の関数として電気フランジ温度を描く代表的な回帰線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
添付の図面に例が示された本開示の実施形態を詳細に記述する。可能ならいつでも、同じ又は類似の部品を指すために同じ符号を全図面に亘って使用する。しかし、本開示は多くの異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に明記された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。
【0037】
本明細書では範囲は「約」特定の値から及び/又は「約」別の特定の値までのように表現されうる。そのような範囲が表現された場合、別の実施形態はその特定の値からその別の特定の値までを含む。同様に、数値が「約」を先行詞として使用することで近似値として表される場合、その特定の値は別の実施形態を形成することが理解されよう。また、各範囲の端点は別の端点と関係して、また別の端点とは独立して意味を持つことは理解されよう。
【0038】
本明細書で使用する方向の用語、例えば上へ、下へ、右へ、左へ、前、後、上部、底部は描かれた図を参照してのみ使用され、絶対的向きを示唆するように意図されていない。
【0039】
そうでないと明確に記述されていない限り、本明細書で明らかにされるどんな方法も、特定の順序でそのステップが実行されることを要求しているとも、どんな装置も特定の向きが要求されているとも解釈されることは決して意図されていない。従って、方法請求項がそのステップが従う順序を実際に明記しない場合、又は装置請求項が個々の部品の順序又は向きを実際に明記しない場合、又はステップが特定の順序に限定されるべきと請求項又は説明に他のやり方で具体的に記載されていない場合、又は装置の部品の順序又は向きが記載されていない場合、順序又は向きが推論されることはどんな点においても決して意図されていない。これは、ステップの配列に関する論理事項、動作フロー、部品の順序、又は部品の向きを含むどんな可能な非表現解釈基準、文法構成又は句読点から導かれる平易な意味、及び本明細書に記載された実施形態の数又は種類について当てはまる。
【0040】
本明細書で使用されるように、文脈からそうでないと明らかに指示されない限り、英語の単数形「a」、「an」、及び「the」は複数の指示対象を含む。従って、例えば、1つの構成要素への言及は、文脈からそうでないと明らかに示されない限り、2つ以上のそのような構成要素を有する態様を含む。
【0041】
語「代表的な」、「例」、又はそれらの様々な形は本明細書で例又は例示として働くことを意味するのに使用される。「代表的な」又は「例」として本書に記載されたどんな態様又は構成も他の態様又は構成に比べて好適又は有利であると解釈されるべきでない。また、例は明確さ及び理解の目的のためにだけ提供され、開示対象又は本開示の関連部分を限定するように決して意図されていない。様々な範囲の無数の追加の又は代わりの例を提示できたが、簡潔さの目的のために省略されていることは理解されうる。
【0042】
本書で使用されるように、用語「金属容器」は槽、導管、管、又は溶融ガラスが収容され又は運ばれうる金属でできた他の構造体を含むと解釈されるべきである。
【0043】
本書で使用されるように、用語「comprising」及び「including」及びそれらの変形はそうでないと指示されない限り、同義語で非限定として解釈されるべし。
【0044】
図1に代表的なガラス製造装置10を示す。幾つかの実施形態では、ガラス製造装置10は溶融容器14を含むガラス溶融炉12を備えうる。溶融容器14に加えて、ガラス溶融炉12は1つ以上の追加の部品、例えば原材料を加熱し溶融ガラスに変えるように構成された加熱要素(例えば、燃焼バーナー及び/又は電極)を任意選択で含みうる。例えば、溶融容器14は、エネルギーが原材料に燃焼バーナーと直接加熱の両方により加えられ、電流を原材料に流しそれによりエネルギーを原材料のジュール加熱により加える電気ブースト溶融容器であってもよい。
【0045】
他の実施形態では、ガラス溶融炉12は溶融容器から熱損失を減らす温度管理具(例えば、絶縁部材)を含みうる。更に他の実施形態では、ガラス溶融炉12は原材料の溶融ガラスへの溶融を容易にする電子及び/又は電気機械装置を含みうる。更にまた、ガラス溶融炉12は支持構造体(例えば、支持台、支持部材など)又は他の部材を含みうる。
【0046】
溶融容器14は耐熱性材料、例えば耐熱性セラミック材料、例えばアルミナ又はジルコニアを含む耐熱性セラミック材料から通常作られるが、耐熱性セラミック材料は他の耐熱性材料、例えばイットリウム(例えば、イットリア、イットリア安定化ジルコニア、イットリウムリン酸)、ジルコン(ZrSiO)、又はアルミナ・ジルコニア・シリカ、又は酸化クロムを別個に或いは任意の組み合わせで含みうる。幾つかの例では、溶融容器14は耐熱性セラミック煉瓦から作られてもよい。
【0047】
幾つかの実施形態では、ガラス溶融炉12は、ガラス物品、例えば無限長さのガラスリボンを製造するように構成されたガラス製造装置の構成要素として組み込まれうるが、他の実施形態では、ガラス製造装置は他のガラス物品、限定されないが例えばガラス棒、ガラス管、ガラス覆い(例えば、照明装置、例えば電球のガラス覆い)、及びガラスレンズ(多くの他のガラス物品が考えられるが)を形成するように構成されうる。幾つかの例では、溶融炉はスロットドロー装置、フロート槽装置、下方ドロー装置(例えば、融合下方ドロー装置)、上方ドロー装置、圧縮装置、圧延装置、管ドロー装置、又は本開示の利益を受けうる任意の他のガラス製造装置を備えるガラス製造装置に含まれてもよい。例として、図1は、個々のガラスシートにする次の処理又はガラスリボンをスプールに巻くためにガラスリボンを融合延伸するための融合下方ドローガラス製造装置10の構成要素としてガラス溶融炉12を概略的に示す。
【0048】
ガラス製造装置10(例えば、融合下方ドローガラス製造装置10)は、溶融容器14の上流に位置する上流ガラス製造装置16を任意選択で含みうる。幾つかの例では、上流ガラス製造装置16の一部又は全体がガラス溶融炉12の一部として組み込まれる。
【0049】
図1に例示した実施形態に示すように、上流ガラス製造装置16は原材料格納ビン18、原材料送達装置20、及び原材料送達装置20に接続されたモーター22を備えうる。原材料格納ビン18は矢印26で示すようにガラス溶融炉12の溶融容器14に1つ以上の供給口を通って供給されうるある量の原材料24を格納するように構成されうる。原材料24は通常1つ以上のガラス形成金属酸化物及び1つ以上の変性剤からなる。幾つかの例では、原材料送達装置20はモーター22により動力供給され所定の量の原材料24を格納ビン18から溶融容器14に送達しうる。他の例では、モーター22は原材料送達装置20に動力供給し溶融ガラスの流れ方向に関し溶融容器14の下流で検知した溶融ガラスのレベルに基づいて制御された割合で原材料24を導入してもよい。溶融容器14内の原材料24はその後、加熱され溶融ガラス28を形成しうる。通常初期の溶融工程では、原材料は溶融容器に微粒子、例えば様々な「砂」として加えられる。原材料24は前の溶融及び/又は形成オペレーションからのくずガラス(即ち、カレット)も含んでよい。燃焼バーナーは通常溶融プロセスを開始するのに使用される。電気ブースト溶融プロセスでは、原材料の電気抵抗が十分低下すると、電気ブーストが原材料と接触して配置された電極間に電位差を生じさせることで開始され、それにより原材料を通る電流を確立する。原材料はこの時、通常溶融状態に入るか溶融状態である。
【0050】
ガラス製造装置10は、溶融ガラス28の流れ方向に関しガラス溶融炉12の下流に位置する下流ガラス製造装置30も任意選択で含みうる。幾つかの例では、下流ガラス製造装置30の一部はガラス溶融炉12の一部として組み込まれてもよい。しかし、幾つかの例では、下記の第1接続管32又は下流ガラス製造装置30の他の部分はガラス溶融炉12の一部として組み込まれてもよい。第1接続管32を含む下流ガラス製造装置30の部品は貴金属でできていてもよい。適切な貴金属は、プラチナ、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、及びパラジウムからなるグループから選択される白金族金属又はそれらの合金を含む。例えば、ガラス製造装置の下流の部品は約70重量%から約90重量%のプラチナ及び約10重量%から約30重量%のロジウムを含むプラチナ‐ロジウム合金からできていてもよい。しかし、ガラス製造装置の形成下流部品のための他の適切な金属はモリブデン、レニウム、タンタル、チタン、タングステン、及びそれらの合金を含みうる。
【0051】
下流ガラス製造装置30は溶融容器14の下流に位置し上記第1接続管32を通って溶融容器14に結合された第1調整(即ち、処理)室、例えば清澄室34を含みうる。幾つかの例では、溶融ガラス28は溶融容器14から清澄室34に重力により第1接続管32を通って供給されてもよい。例えば、重力は溶融ガラス28を第1接続管32の中を通って溶融容器14から清澄室34に駆り立ててもよい。しかし、他の調整室が溶融容器14の下流、例えば溶融容器14と清澄室34の間に位置してもよいことは理解されるべきである。幾つかの実施形態では、調整室は溶融容器と清澄室の間で使用され、清澄室に入る前に一次溶融容器からの溶融ガラスが二次容器内で更に加熱され溶融プロセスを続けるか又は一次溶融容器内の溶融ガラスの温度より低い温度に冷却されてもよい。
【0052】
上述したように、様々な手法で泡を溶融ガラス28から取り除いてよい。例えば、原材料24は、加熱された時、化学還元反応を起こし酸素を放出する多価化合物(即ち、清澄剤)、例えばスズ酸化物を含んでもよい。他の適切な清澄剤は限定されないがヒ素、アンチモン、鉄、及びセリウムを含むが、ヒ素及びアンチモンの使用は幾つかの用途では環境上の理由のため推奨されない場合がある。清澄室34は溶融容器温度より高い温度に加熱され、それにより清澄剤を加熱する。溶融ガラス内に含まれる1つ以上の清澄剤の温度誘発化学還元により生成される酸素泡は清澄室内の溶融ガラスを通って上昇し、溶融炉内で生成された溶融ガラス中のガスは、清澄剤により生成される酸素泡に合体するか酸素泡内に拡散する。増加した浮力を持つ拡大したガス泡は、清澄室内の溶融ガラスの自由表面へ上昇し、その後清澄室から外へ放出されうる。酸素泡は溶融ガラスを通って上昇しながら清澄室内の溶融ガラスの機械的混合を更に引き起こしうる。
【0053】
下流ガラス製造装置30は別の調整室、例えば混合装置36、例えば清澄室34から下流へ流れる溶融ガラスを混合するための撹拌室を更に含みうる。混合装置36は均質のガラス溶融組成を提供するのに使用され、それにより清澄室を出る溶融ガラス内にさもなければ存在することがある化学的又は熱的不均質さを低減しうる。図示のように、清澄室34は第2接続管38を通って混合装置36に結合されてもよい。幾つかの実施形態では、溶融ガラス28は清澄室34から重力により第2接続管38を通って混合装置36に供給されてもよい。例えば、重力は溶融ガラス28を第2接続管38の中を通って清澄室34から混合装置36に駆り立ててもよい。通常、混合装置36内の溶融ガラスは自由表面を含み、自由体積が自由表面と混合装置の上部の間に延在する。なお、溶融ガラスの流れ方向に関し混合装置36は清澄室34の下流に示されるが、他の実施形態では、混合装置36は清澄室34の上流に位置してもよい。幾つかの実施形態では、下流ガラス製造装置30は複数の混合装置、例えば清澄室34の上流の混合装置及び清澄室34の下流の混合装置を含んでもよい。これらの混合装置は同じ構成であっても互いに異なる構成であってもよい。幾つかの実施形態では、容器及び/又は管の1つ以上は、中に配置された静止混合羽根を含み、溶融材料の混合及びその次の均質化を促進しうる。
【0054】
下流ガラス製造装置30は別の調整室、例えば混合装置36の下流に位置する送達容器40を更に含みうる。送達容器40は下流の形成装置に供給される溶融ガラス28を調整しうる。例えば、送達容器40は蓄積器及び/又は流れ制御器として働き、溶融ガラス28の一貫した流れを調整し成形本体42に出口管44を通して提供しうる。送達容器40内の溶融ガラスは、幾つかの実施形態では、自由表面を含み、自由体積が自由表面から送達室の上部へ上方に延在する。図示のように、混合装置36は送達容器40に第3接続管46を通って結合されうる。幾つかの例では、溶融ガラス28は混合装置36から重力により第3接続管46を通って送達容器40に供給されてもよい。例えば、重力は溶融ガラス28を第3接続管46の中を通って混合装置36から送達容器40に駆り立ててもよい。
【0055】
下流ガラス製造装置30は入口管50を含む上記成形本体42を備える形成装置48を更に含みうる。出口管44は溶融ガラス28を送達容器40から形成装置48の入口管50へ送達するように配置されうる。融合下方ドローガラス製造装置の成形本体42は、成形本体の上面に位置する桶52と、成形本体の底縁(根元)56に沿ってドロー方向に収束する収束成形表面54(1つだけの表面が示されている)とを備えうる。送達容器40、出口管44、及び入口管50を介して成形本体桶52に送達された溶融ガラスは、桶52の壁を越えてあふれ、溶融ガラスの別々の流れとして収束成形表面54に沿って下降する。溶融ガラスの別々の流れは下方で根元56に沿って結合し、例えば重力及び引っ張るロール組立体により下向き張力をガラスリボンに加え、溶融ガラスが冷え粘度が増しながらガラスリボンの寸法を制御することでドロー方向60に根元56から引っ張られる溶融ガラスの単一のリボン58を作製する。従って、ガラスリボン58は粘弾性遷移を経てガラスリボン58に安定した寸法特性を与える機械的特性を取得する。ガラスリボン58は幾つかの実施形態では、ガラスリボンの弾性領域で個々のガラスシート62にガラス分離装置(不図示)により分離されてよい。他の実施形態では、ガラスリボンは更なる処理のためにスプールに巻かれ保存されてもよい。
【0056】
下流ガラス製造装置30の第1接続管32、清澄室34、混合装置36、第2接続管38、送達容器40、出口管44、及び入口管50を含む金属容器は、例えば金属容器の最も近くに位置する電気抵抗加熱要素により間接的に加熱されうる。しかし、多くの場合、このような加熱は金属容器自体、例えばその中の溶融ガラスに接触する金属容器の壁に電流を確立することで行われ、金属容器壁はジュール加熱で加熱される。本書で使用されるように、金属容器のこのようなジュール加熱は直接加熱と呼ばれる。
【0057】
図2及び3は、直接加熱用に構成された金属容器102を備える代表的な直接加熱送達装置100の一部の断面図と端面図である。金属容器102は通常耐熱及び耐腐食性材料から成る。例えば、金属容器102はプラチナ、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、及びパラジウム又はそれらの合金を含みうる。例えば、金属容器は約70重量%から約90重量%のプラチナ及び約10重量%から約30重量%のロジウムを含むプラチナ‐ロジウム合金からできていてもよい。しかし、金属容器を形成するための他の適切な金属はモリブデン、レニウム、タンタル、チタン、タングステン、及びそれらの合金を含みうる。また、金属容器102は縦軸106と直交する円断面形状を有すると示されているが、金属容器102は非円断面形状、例えば楕円断面形状、長円断面形状、又は溶融ガラスを運ぶのに適した任意の他の断面形状を有してもよい。
【0058】
直接加熱送達装置100は金属容器102に、例えば溶接で取り付けられた第1電気フランジ104a及び第2電気フランジ104bを更に備える。様々な実施形態では、第1電気フランジ104a及び第2電気フランジ104bは金属容器102の全円周の周りに延在し、1つ以上のリングを含みうるが、他の実施形態では、第1及び第2電気フランジ104a及び104bは金属容器102の円周の一部だけの周りに延在するように構成されうる。図3に示した実施形態では、第1及び第2電気フランジ104a及び104bは少なくとも2つのリング、最内リング108及び最外リング110を含む。熱い金属容器102への近さのために、最内リング108は幾つかの実施形態では、それが取り付けられた金属容器と同じ又は類似の金属からできていてもよい。例えば、金属容器102がプラチナ‐ロジウム合金からできている場合、最内リング108も同じ又は類似のプラチナ‐ロジウム合金からできていてもよい。一方、最外リング110はより低コストの耐熱性に劣る金属、例えばニッケル又はその合金からできていてもよい。幾つかの実施形態では、電気フランジ104a及び/又は104bは2つ超のリング、例えば最内リング108と最外リング110の間に位置する中間リングを含みうる。しかし、他の実施形態では、第1及び/又は第2電気フランジ104a及び104bは金属容器102に取り付けられた単一のリングとして、幾つかの場合は、単一のタブとして形成されうることは留意されるべきである。
【0059】
電気フランジ104a及び104bはそれらから延びる電極部112a及び112bをそれぞれ更に含んでもよく、電極部112a及び112bは第1電気フランジ104a及び第2電気フランジ104bに(及びから)電流I1を伝える電気ケーブル114(及び/又は母線)の接続点を提供する。また、幾つかの実施形態では、第1及び第2電気フランジ104a及び104bは電気フランジの外周、例えば最外リング110の外周の周りに取り付けられた冷却管(不図示)を含んでもよく、冷却管は冷却流体が中を流れる通路を成す。幾つかの実施形態では、冷却流体は気体、例えば空気であり、他の実施形態では、冷却流体は液体、例えば水、又は気体と液体の組み合わせでありうる。
【0060】
図2に示すように、第1及び第2電気フランジ104a及び104bは、電力(例えば、電流)を電気回路118に供給する電源116に電気的に連通し、電気回路118は電源116、電気ケーブル114、第1及び第2電気フランジ104a及び104b、及び金属容器102の第1及び第2電気フランジ104a及び104b間に延在しそれらと電気連通する部分120によって形成される。電源116、第1及び第2電気フランジ104a及び104b、及び金属容器102の第1及び第2電気フランジ104a及び104b間に延在する部分120(加えて、第1及び第2電気フランジ104a、104bを電源116に接続するケーブル112及び電極部分112a、112b)は電気回路118を構成する。電源116により提供される電流I1は、電荷流れが一方向である直流(DC)、又は電荷流れが周期的で半周期毎に逆転する交流(AC)でありうる。
【0061】
図4Aは直接加熱用に構成された金属容器202を備える代表的な直接加熱送達装置200の別の実施形態を示す。直接加熱送達装置200は第2電気回路を備える以外は直接加熱送達装置100と類似する。
【0062】
図4Aを参照すると、金属容器202は耐熱及び耐腐食性材料から成る。例えば、金属容器102について説明したように、金属容器202はプラチナ、イリジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、及びパラジウム又はそれらの合金でできていてもよい。例えば、金属容器は約70重量%から約90重量%のプラチナ及び約10重量%から約30重量%のロジウムを含むプラチナ‐ロジウム合金からできていてもよい。しかし、金属容器を形成するための他の適切な金属はモリブデン、レニウム、タンタル、チタン、タングステン、及びそれらの合金を含みうる。また、金属容器202は縦軸206と直交する円断面形状を有すると示されているが、金属容器202は非円断面形状、例えば楕円断面形状、長円断面形状、又は溶融ガラスを運ぶのに適した任意の他の断面形状を有してもよい。
【0063】
直接加熱送達装置200は金属容器202に、例えば溶接で取り付けられた第1電気フランジ204a及び第2電気フランジ204bを更に備える。様々な実施形態では、第1電気フランジ204a及び第2電気フランジ204bは金属容器202の全円周の周りに延在し、1つ以上のリングを含みうるが、他の実施形態では、第1及び第2電気フランジ204a及び204bは金属容器202の円周の一部だけの周りに延在するように構成されうる。しかし、他の実施形態では、第1及び/又は第2電気フランジ204a、204bは、金属容器202に取り付けられた単一のリング又は単一のタブとして形成されうることは留意されるべきである。電気フランジ204a及び204bの構造及び組成は第1及び第2電気フランジ104a及び104bの構造及び組成と類似又は同一でありうる。
【0064】
図4Aに示すように、第1及び第2電気フランジ204a及び204bは、電力(例えば、電流)を第1電気回路218aに供給する電源216aに電気的に連通し、電気回路218aは電源216a、ケーブル214、電気フランジ204a及び204b、及び金属容器202の第1及び第2電気フランジ204a及び204b間に延在しそれらと電気連通する第1部分202aによって形成される。第1電源216a、第1電気フランジ204a及び第2電気フランジ204b、及び金属容器202の第1及び第2電気フランジ204a及び204b間に延在する第1部分202a(加えて、第1及び第2電気フランジ204a、204bを電源216aに接続する関連ケーブル214)は第1電気回路218aを構成する。第1電源216aにより提供される電流I2aは、電荷流れが周期的(例えば、正弦波)で半周期毎に極性を逆転する交流(AC)でありうる。
【0065】
また、直接加熱送達装置200は第2電源216bを備える第2電気回路218bを更に備える。第2電気回路218bは第2電気フランジ204b、金属容器202に接続され第2電気フランジ204bから隔てられ第1電気フランジ204a及び第2電気フランジ204bと一列に配置された第3電気フランジ204c、及び金属容器202の第2電気フランジ204bと第3電気フランジ204c間に延在しそれらと電気連通する第2部分202bを含む。第2電源216bは第2電流I2bを第2電気回路218bに供給する。しかし、第2電気フランジ104bが第1電流I1だけを通した図2の実施形態と異なり、この実施形態では第2電気フランジ204bは第1電気回路218a及び第2電気回路218bに共通であり、第1及び第2電気回路218a及び218b両方の電流を通す。電気フランジ204bを通る共通の電気経路の合成総電流は電流I2a及びI2bの差(I2a―I2b)である。図4B図4Aの実施形態の等価な表現であり、R1、R2、及びR3は電気フランジ204a、204b、及び204cの抵抗をそれぞれ表し、R4及びR5は第1金属容器部分202a及び第2金属容器部分202bの抵抗をそれぞれ表し、E1及びE2は電源216a及び216bの電圧をそれぞれ表す(仲介するどのケーブルの抵抗も省略される)。R2を通る電流の重ね合わせによる算出の解は当業者には明らかなはずであり次のようにまとめられうる。
【0066】
図4Cによれば、電源216bは短絡で置き換えられ、2つの内部ループ、ループ222a及び222bと3つの枝(R1とR4、R2、R3とR5)とを持つ単一の回路網を形成し、第1及び第2ループ222a及び222bの周りの電圧はそれぞれ次の式で表わされうる。
【0067】
(R1+R4+R2)I2a1-R2・I2a2=E1、
(R2+R3+R5)I2a2-R2・I2a1=0 (1)
ここでI2a1は第1ループ222aの電流、I2a2は第2ループ222bの電流であり、電流I2a1及びI2a2は両方とも電源216aによる。本書で使用するように、枝はより大きな回路網の残りの部分に2つの端子でのみ接続された任意の小回路網であり、ループは一連の枝に沿った閉経路である。(R1、R4、R5、及びR3を含む第3外部ループはこの議論に不必要でありここでは考慮されない。)
図4Dによれば、次のステップで、電源216aが短絡で置き換えられ、電源216bが復元される。第1及び第2ループ222a及び222bの電圧はそれぞれ次の式で表わされうる。
【0068】
(R1+R4+R2)I2b1-R2・I2b2=0、
(R2+R5+R3)I2b2-R2・I2b1=E2 (2)
ここでI2b1、第1ループ222aの電流とI2b2、第2ループ222bの電流は電源216bによる。
【0069】
或いは、図4Bから第1及び第2回路218a及び218bの電圧はより単純に次の式で表わされる。
【0070】
(R1+R2+R4)I1-R2・I2=E1、
(R2+R5+R3)I2-R2・I1=E2 (3)
方程式(1)及び(2)、或いは、方程式(3)は、1つの共通電気経路(例えば、共通電気フランジ)を共有する2つの隣接する回路の場合、各回路は自身の電源により電力供給され、それらの電源により供給される個々の回路内電流に基づいて、共通電気経路の電流は共通電気経路を通る個々の回路の電流の差であることを示す。各電源により供給される電流がその電源と電気連通する全ての他の電気回路に作用するので、隣接する電気回路の数が増えるとともに、各共通電気フランジの電流を計算することは益々より複雑になることは明らかなはずである。より実際的にはどの回路の変化も接続された他の全ての回路に影響する。
【0071】
図4Aの基本構成によれば、n個の電気フランジはn-1個の電気回路が生じ、各電気回路は1つの電源、2つの近接する電気フランジ、及び金属容器の加熱される一部からなる。金属容器の近接する電気フランジ間に延在する部分は関連する電気回路によって加熱される個々の加熱ゾーンを表す。複数の電気フランジに供給される電流を変えることで、異なる熱力を金属容器の各部分(例えば、各加熱ゾーン)に印加でき、従って、各部分で異なる温度が得られる。この加熱方式は金属容器を通って流れる溶融ガラスの粘度を制御するのに使用されうる。
【0072】
代表的な製造設備に供給される電力は商業電力系統から提供され、120度の位相角だけ離された3電圧(及び電流)相を送達する交流電流システムから成る。一般的には、個々の電圧相は次の式で表されうる。
【0073】
E・sin(ωt+φ) (5)
ここで、Eは電圧波形の大きさ、ωt=θは角周波数(ラジアン/秒)、φは位相角である。本書に記載した3相システムの場合、式5は3相に対して次のように表される。
【0074】
V1(θ)=E1・sin(θ) (6)
V2(θ)=E2・sin(θ-120) (7)
V3(θ)=E3・sin(θ-240) =E3・sin(θ+120) (8)
ここで、V1(θ)、V2(θ)、及びV3(θ)は角周波数及び位相角の関数である瞬間電圧を表し、E1、E2、及びE3はピーク相電圧を表す。平衡システムの場合、E1=E2=E3である。図示のように、電圧V2は-120度だけ電圧V1と位相がずれ(電圧V1とV2の間の位相角は120度、又は電圧V2は電圧V1より120度遅れる)、電圧V3は-240度だけ電圧V1と位相がずれ(電圧V1とV3の間の位相角は負の240度、電圧V2とV3の間の位相角は負の120度、又は電圧V3は両方の電圧V1及びV2より遅れる)。当業者は各電気回路の電流が電圧と同じ正弦依存波形を示すことを容易に理解するであろう。
【0075】
また、3相の極性を反転させる(180度位相シフトと等価)ことで追加の相が得られうることは当業者には明らかなはずである。例えば、
V4=-V1=-E1・sin(θ)=asin(θ-180) (9)
V5=-V2=-E2・sin(θ-120-180)=E2・sin(θ-300)=
E2・sin(θ+60) (10)
V6=-V3=-E3・sin(θ-240)=
E3・sin(θ-240-180)=E3・sin(θ-60) (11)
従って、60度の位相角だけ離された6電圧相が3相電力システムから得られ、同様に60度の位相角だけ離された6電流相も得られうる。
【0076】
電気加熱(例えば、電気ブースト)ガラス製造設備への電気供給の負荷のかなりの部分は溶融プロセスと溶融ガラスを溶融容器から成形本体へ運ぶ及び/又は処理するのに使用される様々な金属容器の直接加熱とによる。供給された電力の効率的使用は下記に説明するカット波形電力管理と共に金属容器の多相電力を利用する直接加熱により得られうる。
【0077】
図5は金属容器302と、金属容器302に取り付けられこれと電気連通する複数の電気フランジとを備える代表的な直接加熱溶融ガラス送達装置300の一部を例示する。図5に描かれた実施形態では、4つの電気フランジ304a、304b、304c、及び304dが金属容器302の長さに沿って順に配置され示されているが、他の実施形態では、電気フランジの数は、金属容器を加熱する、例えば所望の数の加熱ゾーンを作るのに必要なだけの数でありうる。例えば、他の実施形態では、電気フランジの数は、金属容器302の長さ及び加熱ゾーンの数に依って5個、6個、7個、又は更に多くてもよい。また、金属容器302は単一の容器に限定されず、互いに電気連通しそれらを通って流れる溶融ガラスの流路を形成する複数の容器を備えてもよい。直接加熱溶融ガラス送達装置への特別な関心は溶融容器と混合装置の間、特に第1接続管32、清澄室34、及び任意選択で第2接続管38の加熱である。簡単に上述したように、清澄室34は溶融容器14内の溶融ガラスの温度より高い温度に溶融ガラスを加熱するのに使用される。上昇した温度は溶融ガラス28内の清澄剤に酸素ガスを放出させ、酸素ガスは溶融容器内で起こる化学反応中に溶融ガラスに放出されたガスと原材料に含まれうるガスとの除去を逆説的に助ける。適切な清澄を達成するために、溶融ガラスの温度上昇は第1接続管32内で始まり溶融ガラス28は清澄室34に到着する時までに第1清澄温度に達する。溶融ガラスが清澄室34を出て第2接続管38を通る時、溶融ガラスは制御された割合で冷却される。第1接続管32及び第2接続管38に加えて、清澄室自体が直接加熱で加熱される幾つかの温度ゾーンを更に備え、清澄室に亘って溶融ガラス温度、従って、その粘度を制御してもよい。従って、第1接続管32と清澄室34の下流端又は随意に第2接続管38の下流端の間に延在する単一の電気回路の代わりに、これらの部品は幾つかの相互接続された回路を使って加熱され、これらの回路を通る電流は制御され、相互接続された回路で形成された各加熱ゾーン内で所望の温度を得る。従って、金属容器302は接続管32、38、46の任意の1つ以上、及び/又は清澄室34、混合装置36、送達容器40、出口管44、又は入口管50を様々な組み合わせで備えうる。
【0078】
また、上述のように、n個の電気フランジはn-1個の電気回路に配置され、n-1個の電気回路の各電気回路は2つの近接する電気フランジ、それらの間に接続された金属容器302の部分、及び近接する電気フランジの各ペアに電気的に結合された電源を備える。
【0079】
従って、直接加熱溶融ガラス送達装置300は3つの電気回路、第1電気回路318a、第2電気回路318b、及び第3電気回路318cを更に備える。第1電気回路318aは第1電気フランジ304a、第2電気フランジ304b、及び第1及び第2電気フランジ304a及び304bの間に延在しそれらと電気連通する金属容器302の第1部分302aを備える。
【0080】
第1電気回路318aは、図5Aの実施形態では第1変圧器T1から成る第1交流電源316aを更に備える。変圧器T1の一次コイル330aは3相電源332の線L1と線L3の間に接続される。3相電源332は、例えば地域の公益事業会社によりガラス製造設備へ供給される3相電力から成りうる。また、図5AはL1とL3の間に接続された一次コイル330aを描くが、一次コイル330aは3相電源332の任意の他の2線間、例えば線L1とL2の間又は線L2とL3の間に結合されうる。変圧器T1は一次コイル330aに電磁結合された二次コイル334aを更に備える。変圧器T1は第1電気回路312aを3相電源332から絶縁する。変圧器T1は線L1とL3の間の高い電圧をより低い電圧へ変換し同時に電流を増加させる電圧下げ変圧器でもある。また、変圧器T1はもし望むなら二次コイルリード線を逆転することで電圧位相反転(180度位相シフト)を可能にし、異なるタップに接続することで異なる相電圧(及び電流)を更に提供してもよい。
【0081】
第1交流電源316aは一次コイル330aと線L1の間に電気的に結合された位相点火制御器S1を更に備えるが、他の実施形態ではS1は一次コイル330aと線L3の間に電気的に結合されうる。更に他の実施形態では位相点火制御器S1は二次コイル334aに電気的に結合されうる。位相点火制御器は印加波形の所定の位相角で導電を開始し、波形がゼロに到達するまで導電する。例えば、位相点火制御器S1は1つ以上のサイリスター(例えば、シリコン制御整流器)を備え、波形の各半周期に対して1つのサイリスターを備えてもよい。
【0082】
直接加熱溶融ガラス送達装置300は第2電気回路318bを更に備える。第2電気回路318bは第2電気フランジ304b、第3電気フランジ304c、及び第2電気フランジ304bと第3電気フランジ304cの間に延在しそれらと電気連通する金属容器302の第2部分302bを備える。
【0083】
第2電気回路318bは、図5Aの実施形態では第2変圧器T2である第2交流電源316bを更に備える。変圧器T2の一次コイル330bは3相電源332の線L1と線L2の間に接続される。また、図5AはL1とL2の間に接続された一次コイル330bを描くが、一次コイル330bは3相電源332の任意の他の2線間、例えば線L1とL3の間又は線L2とL3の間に結合されうる。変圧器T2は一次コイル330bに電磁結合された二次コイル334bを更に備える。変圧器T2は第2電気回路318bを3相電源332から絶縁する。しかし、変圧器T2は線L1とL2の間の高い電圧を低い電圧で大きな電流へ変換する電圧下げ変圧器でもある。また、変圧器T2は電圧位相反転能力を可能にする。
【0084】
第2交流電源316bは一次コイル330bと線L1の間に電気的に結合された位相点火制御器S2を更に備えるが、他の実施形態ではS2は一次コイル330bと線L2の間に電気的に結合されうる。更に他の実施形態では位相点火制御器S2は二次コイル334bに電気的に結合されうる。位相点火制御器S1と同様に位相点火制御器S2は印加電流波形の所定の位相角範囲の間だけ導電する。
【0085】
直接加熱溶融ガラス送達装置300は第3電気回路318cを更に備える。第3電気回路318cは第3電気フランジ304c、第4電気フランジ304d、及び第3電気フランジ304cと第4電気フランジ304dの間に延在しそれらと電気連通する金属容器302の第3部分302cを備える。
【0086】
第3電気回路318cは、図5Aの実施形態では第3変圧器T3である第3交流電源316cを更に備える。変圧器T3の一次コイル330cは3相電源332の線L2と線L3の間に接続される。また、図5AはL2とL3の間に接続された一次コイル330cを描くが、一次コイル330cは3相電源332の任意の他の2線間、例えば線L1とL3の間又は線L1とL2の間に結合されうる。変圧器T3は一次コイル330cに電磁結合された二次コイル334cを更に備える。従って、変圧器T3は、例えば安全性の理由のために第3電気回路318bを3相電源332から絶縁する。しかし、変圧器T3は線L2とL3の間の高い電圧を低い電圧で大きな電流へ変換する電圧下げ変圧器でもある。また、変圧器T3は電圧位相反転能力を可能にする。
【0087】
第3交流電源316cは一次コイル330cと線L3の間に電気的に結合された位相点火制御器S3を更に備えるが、他の実施形態ではS3は一次コイル330cと線L2の間に電気的に結合されうる。更に他の実施形態では位相点火制御器S3は二次コイル334cに電気的に結合されうる。位相点火制御器S1及びS2と同様に位相点火制御器S3は印加電流波形の所定の位相角範囲の間だけ導電する。
【0088】
図4A~4Dの実施形態と同様に、図5の構成は共通の電気路を含み、例えば第2電気フランジ304bは第1電気回路318aと第2電気回路318b両方に共通の電気路を提供する。第3電気フランジ304cは第2電気回路318bと第3電気回路318c両方に共通である。従って、第2電気フランジ304bは第1電流I3aと第2電流I3b両方を通し、第3電気フランジ304cは第2電流I3bと第3電流I3c両方を通す。第2電気フランジ304bを通る総電流は電流I3aとI3bの差であり、第3電気フランジ304cを通る総電流は第2電流I3bと第3電流I3cの差である。
【0089】
本書に記載の位相点火制御器の効果をより良く理解するために、先ず、代表的な正弦波電流波形を例示する図6を考える。電流Iは360度の角度範囲に亘って正弦的に変化し、90度において+Ipeakから270度において-Ipeakまでの最大振れ幅を有する。波形は180度でゼロ交差し、2・|Ipeak|の最大振れ幅を有し、式I(θ)=Ipeak・sin(θ)で表される。通常、人は瞬時値よりも導電体内の等価一定値電流、例えば電流の二乗平均平方根(RMS)値に関心がある。電流のRMS値は2の平方根で割った電流ピーク値、即ちIpeak/√2として容易に計算される。
【0090】
導電体、例えば図4Aの共通の電気フランジ204b内に存在する2つの電流相I1及びI6を表す2つの正弦波波形を例示する図7A及び7Bを考えると、I1の位相はV1の位相、式(6)(電圧の代わりに電流として表した)と等価であり、I6の位相はV6の位相、式(11)と等価である。図7Bに示すI6は図7Aに示すI1と60度位相がずれている(I6はI1より60度遅れる)。限定ではなく議論のために、I1は2000アンペアのピーク値と、従って1414アンペアのRMS値を持つと仮定する。I6は1000アンペアのピーク値と、従って707アンペアのRMS値を持つと仮定する。共通の導電体内の合成電流は図7A及び7Bからの2つの電流の差であり図7Cに示される。合成電流I1-I6は1732アンペアのピーク値と1225アンペアのRMS値を有する。合成電流波形も正弦波であることに留意することが重要である。
【0091】
別の例を考える。図7DはV5(式10)と位相が等価な第3電流I5を示す。I6と同様に、I5は1000アンペアのピーク値と、従って707アンペアのRMS値を有する。しかし、遅れるのでなく、I5はI1(図7A)に60度先行する。I6にI5を代入すると、合成電流I1-I5は図7Eに示され、図7Cの合成電流と同一の1732アンペアのピーク値と1225アンペアのRMS値を有する。図7C及び図7Eを比較すると、合成電流I1-I5の位相は図7Cのとは異なるが電流振幅は異ならないということが明らかなはずである。即ち、第2電流がI1より遅れる(I6)か先行する(I5)かに拘らず、共通の導電体(例えば、共通の電気フランジ204b)内の電流は同じである。これは波形が非正弦波である場合は事実ではない。
【0092】
図8A図7Aの波形と類似しているが波形の所定の半周期の一部がカットされた導電体内の第1電流波形I1aを描く。即ち、図8Aの電流は阻止された部分を持つそうでなければ正弦波の波形である。阻止された部分は波形全体を非正弦波にする。図8Aにおいて、I1aの正と負の半周期両方の先行部分がカットされている(0と30度の間及び180度と210度の間)。図7Aの場合のように、I1aのピーク値が2000アンペアであると仮定すると、I1aのRMS値はもうI/√2ではない。I1aのRMS値を求めるために、I1aの瞬時値を、例えば角周波数の全ての度において求め、RMS値を瞬時値の二乗の平均値の平方根として計算しなければならない。この例では、I1aのRMS値は1396アンペアで図7Aの純粋に正弦波の波形のI1のRMS値1414より小さい。波形カットは電流、従って電力を制御する効果的な方法でありうると理解できる。
【0093】
図8B図7BのI6に類似したI6aの概略図であるが、I6aは正と負の各半周期の先行する45度間がカットされている。I6aは図7Bのように1000アンペアのピーク値を有するが、RMS値は678アンペアである。図8Cは共通の電気フランジ(例えば、電気フランジ204b)内の合成電流I1a-I6aを描くが、図7A~7Eの場合と異なり明らかに非正弦波である。図8Cの波形(I1a-I6a)は2000アンペアのピーク値及び1281アンペアのRMS値を有する。また、図8Bの波形を図8Dに示すように60度シフトすると、シフトされた波形I5a(例えば、I5aはI1aに60度先行する)は1000アンペアのピーク値及び678アンペアのRMS値をまだ有するが、図8A及び8Dからの合成電流I1a-I5aは図8Eに示され、1732アンペアのピーク値及び1178アンペアのRMS値を有し、図8Cの電流波形(I1a-I6a)と非常に異なる。従って、波形がカットされた(例えば、非正弦波)場合、共通の導電体内の合成電流のRMS値は2つの電流間の位相角に依存する。この例では、単に第2電流の位相角を遅れ(図8B)から先行(図8D)に第1電流I1aに対して60度の同じ絶対位相角だけシフトすることで、遅れた場合と先行した場合で103アンペアのRMS電流差が生じた。
【0094】
電流I1aが金属容器を有する直接加熱溶融ガラス送達装置の第1電気回路内に確立され、I6aが隣接する第2電気回路内に確立された場合を考えると、それら2つの電気回路間にI1a及びI6a両方を通す共通の電気フランジが存在し、その金属容器の第1部分はI1aを通し、金属容器の第2部分はI6aを通す。電流I1aは図8Aに示すのと同じであり、電流I6aは図8Bに示すのと同じである。もし、金属容器の第2部分内での温度上昇が所望であれば、位相点火制御器の点火角度を変え、位相点火制御器が導電を開始する角度を減少させ、従って電流波形の非阻止部分を増やす(波形の阻止部分を減らす)ことで達成される。例えば、電流I6aの場合、位相点火制御器の点火角度を45度から15度に変えることで、I6aの得られる波形が図9AにI6bとして示されている。理解されうるように、I6bのピーク値1000アンペアはI6aと同じであるが、I6bのRMS値は678アンペア(I6a)から704アンペアに増加し、第2電気回路を構成する金属容器のその部分への電力を増加させ、それによりその金属容器部分の温度(及びその中の溶融ガラスの温度)を上昇させる。しかし、図9Bに示す電流1a及びI6b両方を通す共通のフランジ内の電流I1a-I6bを見ることも有益である。図9BはRMS電流の1186アンペアへの減少を示す。即ち、I6bが供給されるその金属容器部分の電流がI6aに対して26アンペア増加する時に、電流の増加した取り消しのゆえに(I6b電流波形のより多くが位相点火制御器を通るので)、電流I1a及びI6b両方を通す共通のフランジ内の電流(I1a-I6b)は1281アンペアから1178アンペアへ減少する(103アンペアの差)。従って、隣接する電気回路の電流間の適切な位相角と関連する位相点火制御器の点火角度とを選択することで、個々の回路の電流が増えても共通の電気フランジを過熱させない共通の電気フランジ内の合成電流を生成できる。
【0095】
共通のフランジ内の電流を、2つの隣接する電気回路の1つに供給される電流波形の少なくとも1つをカットすることで、2つの隣接する電気回路間位相角差なし(ゼロ度の位相角)で変更できることは明らかなはずである。このことは図7A及び10A~10Cの助けがあり理解されうる。図7Aは2000アンペアのピークと1414アンペアのRMS値を持つ正弦波電流波形を描いていることを思い出すと、図10Aは同一の電流波形I1cを示す。図7Aの電流波形I1が第1電気回路(例えば、図4Bの電気回路218a)の電流を表し、図10Aの電流波形I1cが隣接する第2電気回路(例えば、図4Bの電気回路218b)の2000アンペアのピークと1414アンペアのRMS値を持つ電流を表し、第1と第2電気回路は共通の電気フランジを共有すると仮定する。共通の電気フランジ(例えば、電気フランジ204b)内の合成電流は図10Bに示すようにゼロである。これは共通の電気フランジ内の第1電気回路からの第1電流I1が共通の電気フランジ内の第2電気回路からの第2電流I1cにより相殺されるためである。
【0096】
第2電気回路の電流は図10Cの電流波形I1dにより表され、図10Aの電流波形の各半周期の最初の30度は、例えば位相点火制御器により阻止されていると仮定する。第2電気回路の電流は2000アンペアのピークと1396アンペアのRMS値を有する。共通の電気フランジ内の合成電流は図10Dに示す939アンペアのピークと229アンペアのRMS値を持つ電流波形により表される。
【0097】
図7A及び10A~10Cの前記例は、2つの隣接する電気回路について、カットがなければ2つの電流波形は同一で2つの電流間の位相角がゼロであっても、少なくとも1つの電気回路の電流波形をカットすることは、2つの隣接する電気回路により共有される共通の電気フランジ内の合成電流を制御するのに使用されうることを明示する。電流波形の1つ又は両方をカットすることで、共通の電気フランジ内の電流を制御できる。この構想は拡張できることは明らかなはずである。即ち、共通の電気フランジ内の合成電流の更なる制御は第1及び第2電気回路の少なくとも1つのピーク電流を制御することで提供される。また、追加の隣接する電気回路を上述した基本2回路構想に加えうることも理解されるはずである。
【0098】
上記議論及び例は次のことを示す。
【0099】
3相電源の全3つの線相をより良い負荷バランスを得るのに使用できる;
変圧器は個々の回路を線電源から絶縁し、電気回路の電流を増加(又は減少)させ、利用可能な相の数を増加させるために使用されうる。実際、当業者はΔ‐Y変圧器の使用は一次電流と二次電流の間の30度位相角(二次巻線の極性に依って遅れるか先行する)を提供しうることを理解するであろう;
位相点火制御器(例えば、サイリスター)は送達される電流波形の一部を阻止することで電気回路内の電力を制御するのに使用されうる。
【0100】
これらの原理は所定の電流を提供するために様々な組み合わせで使用され、それにより隣接する電気回路に配置された金属容器の所定の部分に所定の温度を達成しうると共に、共通の電気フランジなどの様々な電気フランジに金属容器の所定の部分の温度より低い温度を提供しうる。
【0101】
例えば、図5Aの各電気回路は単独で単相回路であるが、金属容器の長さに沿った異なる電気位相を利用する複数の回路の配置は金属容器の所定の部分の電流だけでなく回路間(加熱ゾーン間)の共通の電気フランジ内の電流及び温度も制御するのに使用されうる。例えば、製造プロセス変更に対応するために金属容器の所定の部分内(例えば、所定の加熱ゾーン内)の上昇した温度が必要な時、位相点火制御器の点火角度を減らし、それにより金属容器の選択された部分への電流を増加させうる。同時に、位相点火制御器を通過する電流波形の増加した部分は、共通の電気フランジ内の電流相殺の量を増加させることで共通の電気フランジ内の電流を減少させる。
【0102】
電流、従って加熱電力は適切な変圧器タップと隣接する電気回路間の位相角と電気回路内の位相点火制御器の点火角度とを選択し所望の量の波形カットを得ることで制御されうる。なお、隣接する電気回路間の位相配置と様々な電気回路の点火角度は特定の装置及びプロセス条件に基づいて選択される。
【0103】
本書に記載した原理を使用して、ガラス製造装置の電気フランジの温度は算出された電流に基づいて予測されうる。このような予測能力を、例えば製造システムを作る前に設計するのに、又は上述したように製造プロセス変更、例えば溶融ガラス流れの増加又は減少、電気フランジの数、位置、及び寸法の変更などに対応するのに使用できる。
【0104】
金属容器の周りに配置された絶縁体の厚み及び熱伝導率、溶融ガラス流量、溶融ガラス粘度、加熱ゾーン温度ニーズを含みうる様々なプロセス変数を取り入れた包括的モデルを開発できる。例えば、Ansys(登録商標)FLUENTを使用するモデリング、各加熱ゾーンの温度ニーズ、及び次にそれらの温度を得るために金属容器の各電気回路部分で必要な電流を求めることができる。次に、金属容器の電気回路部分での所望の電流を、関連する電気フランジ内の電流を本書で説明した重ね合わせ方法を使い電流位相角と位相点火制御器点火角度の両方を計算に入れて算出するのに使用できる。
【0105】
電気フランジの予想される温度は経験的計算を使って予測されうる。即ち、電気フランジ電流と電気フランジ温度の相関は異なる電流条件の下、電気フランジの温度を測定し、条件毎に様々な電気パラメータ(例えば、電流、電圧、及びインピーダンス)を測定することで得られうる。各電気フランジ内の所定の電流を得られる温度と関連付ける回帰(回帰の理想化された表現を図11に示す)を計算できる。
【0106】
1組の所定の条件(例えば、電源パラメータ、電流位相角、点火角度、及びインピーダンス)に対して重ね合わせを使い予測される電気フランジ電流を算出するのに使用されうる等価電気回路を策定できる(例えば図4Bに示すように)。その計算は経験結果に適合する結果を提供するように等価電気回路インピーダンスを調整することで最適化されうる。
【0107】
本開示の要旨と範囲から逸脱することなく、様々な部分変更及び変形が本開示の実施形態にされうることは当業者には明らかであろう。従って、本開示は、そのような部分変更及び変形が添付の請求項及びそれらの等価物の範囲内に入る場合、それらを包含するように意図されている。
【0108】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0109】
実施形態1
金属容器を加熱する方法であって、
溶融ガラスを前記金属容器に通して流すステップであって、前記金属容器は前記金属容器に取り付けられた複数の電気フランジを備え、前記複数の電気フランジは少なくとも第1電気フランジ、前記第1電気フランジから隔てられた第2電気フランジ、及び前記第2電気フランジから隔てられた第3電気フランジを備え、前記第1電気フランジ、前記第2電気フランジ、及び前記第3電気フランジは前記金属容器の長さに沿って順に配置され、前記第1電気フランジ、前記第2電気フランジ、及び前記金属容器の前記第1及び第2電気フランジ間の第1部分が第1電気回路を成し、前記第2電気フランジ、前記第3電気フランジ、及び前記金属容器の前記第2及び第3電気フランジ間の第2部分が第2電気回路を成し、前記第2電気フランジは前記第1電気回路及び前記第2電気回路の共通の電気路を形成する、ステップと、
前記第1電気回路内に第1交流電流を確立し、前記第2電気回路内に前記第1交流電流に対して第1位相角を有する第2交流電流を確立するステップと、
前記第1交流電流と前記第2交流電流のうち少なくとも1つを該少なくとも1つの交流電流の各半周期の間においてカットすることで前記金属容器の前記第1部分と前記第2部分のうち少なくとも1つにおいて消費される電力を制御するステップと
を含み、
前記第2電気フランジの温度は前記第1部分と前記第2部分の温度より低い、加熱する方法。
【0110】
実施形態2
前記第1位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つである、実施形態1記載の方法。
【0111】
実施形態3
前記金属容器は前記第1、第2、及び第3電気フランジに続き、それらから隔てられた第4電気フランジを備え、前記第3電気フランジ、前記第4電気フランジ、及び前記金属容器の前記第3電気フランジと前記第4電気フランジ間に延在する第3部分が第3電気回路を成し、前記第3電気フランジが前記第2電気回路及び前記第3電気回路の共通の電気路を提供し、該方法は、
前記第3電気回路内に前記第1交流電流に対して第2位相角を前記第2交流電流に対して第3位相角を有する第3交流電流を確立するステップを更に含む、実施形態1記載の方法。
【0112】
実施形態4
前記第2位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つである、実施形態3記載の方法。
【0113】
実施形態5
前記第2位相角の絶対値は前記第1位相角の絶対値に等しい、実施形態4記載の方法。
【0114】
実施形態6
前記第3位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つである、実施形態3記載の方法。
【0115】
実施形態7
前記第3位相角の絶対値は前記第1位相角の絶対値に等しい、実施形態6記載の方法。
【0116】
実施形態8
前記第1及び第2位相角はゼロでなく、前記第1位相角の符号は前記第2位相角の符号と異なる、実施形態3記載の方法。
【0117】
実施形態9
前記第1交流電流と前記第2交流電流は第1変圧器と第2変圧器によりそれぞれ供給される実施形態1記載の方法。
【0118】
実施形態10
前記第3交流電流は第3変圧器により供給される実施形態3記載の方法。
【0119】
実施形態11
前記カットすることは前記第1交流電流及び前記第2交流電流のうち少なくとも1つを該少なくとも1つの交流電流の各半周期の間において位相点火制御器で阻止することを含む、実施形態1記載の方法。
【0120】
実施形態12
前記金属容器は清澄室を含む、実施形態1記載の方法。
【0121】
実施形態13
成形本体に前記溶融ガラスを供給し前記成形本体から前記溶融ガラスを引っ張るステップを更に含む実施形態1記載の方法。
【0122】
実施形態14
前記溶融ガラスを引っ張りガラスリボンにするステップを更に含む実施形態13記載の方法。
【0123】
実施形態15
金属容器を加熱する方法であって、
溶融ガラスを前記金属容器に通して流すステップであって、前記金属容器は前記金属容器にその長さに沿って取り付けられたn個の電気フランジを備え、前記n個の電気フランジはn-1個の電気回路を形成し、前記n-1個の電気回路のそれぞれは前記n個の電気フランジのうち2つの近接する電気フランジとそれらの間の前記金属容器の一部分とを含み、前記n-1個の電気回路のうち隣接する電気回路は、前記n個の電気フランジのうち前記隣接する電気回路に共通の電気路を形成する1つを含み、前記nは3以上である、ステップと、
前記n-1個の電気回路のうち各電気回路内に交流電流を確立するステップと、
前記n-1個の電気回路を成す前記金属容器の少なくとも一部分において消費される電力を対応する電気回路に供給される交流電流を前記対応する電気回路内の交流電流の各半周期の間においてカットすることで制御するステップと
を含み、
前記n個の電気フランジのそれぞれの温度は前記少なくとも一部分の温度より低い、加熱する方法。
【0124】
実施形態16
前記nは4以上である実施形態15記載の方法。
【0125】
実施形態17
前記n-1個の電流の少なくとも2つの間の位相角の絶対値は0度、30度、60度、及び120度のうちの1つである、実施形態15記載の方法。
【0126】
実施形態18
前記n-1個の電気回路のうちそれぞれに供給される前記交流電流をカットするステップを更に含む実施形態15記載の方法。
【0127】
実施形態19
前記金属容器は白金を含む、実施形態15~18のいずれかに記載の方法。
【0128】
実施形態20
前記金属容器は清澄室を含む、実施形態15~19のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0129】
10 ガラス製造装置
12 ガラス溶融炉
14 溶融容器
16 上流ガラス製造装置
18 原材料格納ビン
20 原材料送達装置
22 モーター
24 原材料
28 溶融ガラス
30 下流ガラス製造装置
32 第1接続管
34 清澄室
36 混合装置
38 第2接続管
40 送達容器
42 成形本体
44 出口管
46 第3接続管
48 形成装置
50 入口管
52 桶
54 収束成形表面
56 底縁(根元)
58 ガラスリボン
60 ドロー方向
62 ガラスシート
100 直接加熱送達装置
102 金属容器
104a、104b 電気フランジ
106 縦軸
108 最内リング
110 最外リング
112a、112b 電極部
114 電気ケーブル
116 電源
330 一次コイル
332 3相電源
334 二次コイル
S1、S2、S3 位相点火制御器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11