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  • 特許-魚油コレステロール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】魚油コレステロール
(51)【国際特許分類】
   C07J 75/00 20060101AFI20240808BHJP
   C07J 9/00 20060101ALI20240808BHJP
   C11B 3/06 20060101ALN20240808BHJP
   C11B 3/12 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C07J75/00
C07J9/00
C11B3/06
C11B3/12
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021519143
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 IB2020052962
(87)【国際公開番号】W WO2020201968
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】62/829,374
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/830,990
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521142128
【氏名又は名称】マルコビッツ ロハス,アレハンドロ
(73)【特許権者】
【識別番号】521136301
【氏名又は名称】ハーティング エックマン,スティーブン リー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マルコビッツ ロハス,アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ハーティング エックマン,スティーブン リー
(72)【発明者】
【氏名】ハーティンググレイド,トーマス フランシス
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-513199(JP,A)
【文献】米国特許第4452775(US,A)
【文献】米国特許第10196583(US,B1)
【文献】米国特許第10190074(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J
C11B
C11C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚油処理廃棄残渣からコレステロールを含む組成物を製造する方法であって、以下の工程:
(a)魚油処理廃棄残渣をアルカリと接触させて鹸化混合物を得る工程、
(b)前記鹸化混合物を蒸留工程に供して、第1の留出物および第1の残渣を得る工程、
(c)前記第1の残渣を真空蒸留工程に供して、第2の留出物および第2の残渣を得る工程、および
(d)前記第2の残渣を真空蒸留工程に供して、第3の留出物および第3の残渣を得る工程であって、当該第3の留出物が75重量%を超えるコレステロールを含む組成物である工程、を含む、製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)における前記アルカリが、NaOHの水溶液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(d)における第3の留出物をプリル化(prilling)してコレステロールプリル(cholesterol prills)を得る、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(d)における前記第3の残渣が無機酸で酸性化されて、20~60重量%のオメガ-3脂肪酸を含む組成物を形成し、当該組成物がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸およびドコサペンタエン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物を分子蒸留にかけて、40~90重量%のオメガ-3脂肪酸を含む濃縮物を得る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記オメガ-3脂肪酸を含む組成物をエタノールによってエステル化して、オメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む組成物を得る、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記オメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む組成物を分子蒸留にかけて、40~90重量%のオメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む濃縮物を得る、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
魚油処理廃棄残渣からコレステロールを含む組成物を製造する方法であって、以下の工程:
(i)前記魚油処理廃棄残渣を真空蒸留して、第1の留出物および第1の残渣を得る工程、
(ii)前記第1の残渣をアルカリと接触させて鹸化混合物を得る工程、
(iii)前記鹸化混合物を蒸留工程に供して、第2の留出物および第2の残渣を得る工程、
(iv)前記第2の残渣を真空蒸留工程に供して、第3の留出物および第3の残渣を得る工程、および
(v)前記第3の残渣を真空蒸留工程に供して、第4の留出物および第4の残渣を得る工程であって、当該第4の留出物は、75重量%を超えるコレステロールを含む組成物である工程、を含む、製造方法。
【請求項9】
前記工程(i)における前記魚油処理廃棄残渣の真空蒸留が、二重留出短行程蒸留器中で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記蒸留器からの下部凝縮留分が、工程(i)における前記蒸留器に供給される魚油処理廃棄残渣と接触される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(ii)におけるアルカリが、NaOHの水溶液を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(v)における第4の留出物をプリル化(prilling)してコレステロールプリル(cholesterol prills)を得る、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(v)における第4の残渣が無機酸で酸性化されて、20~60重量%のオメガ-3脂肪酸を含む組成物を形成し、当該組成物がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸およびドコサペンタエン酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物を分子蒸留にかけて、40~90重量%のオメガ-3脂肪酸を含む濃縮物を得る、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記オメガ-3脂肪酸を含む組成物をエタノールによってエステル化して、オメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む組成物を得る、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記オメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む組成物を分子蒸留にかけて、40~90重量%のオメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む濃縮物を得る、請求項15に記載の処理。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
<発明の背景>
〔発明の分野〕
本発明は魚油処理廃棄残渣から、75重量%を超えるコレステロール含有量を有する組成物を製造するための方法に関する。
【0002】
〔背景〕
米国特許第10,196,583号(Markovits and Harting, "fish Oil cholesterol")は、魚油から医薬用グレードのコレステロールを製造するプロセスを開示している。開示されたプロセスの欠点は、脂肪酸石鹸からコレステロールを分離するために溶媒を使用することである。溶媒または溶媒混合物は、抽出に供される物質の量と比較して、非常に大きな割合で使用される。また、有益な生成物の抽出および予備濃縮プロセスにおいて、溶媒の除去および/または再循環のための追加のプロセスを必要とする。加えて、溶媒混合物が利用される場合、回収およびリサイクルのコストが過度に増加する。前述の理由により、溶媒をベースとしたプロセスは高価になるので、最終生成物も高価になる。さらに、魚油からのコレステロール回収率は一般に70%未満である。
【0003】
米国特許第6,846,941号(Resitec Industria Quimica Ltda, "Process for separating non-saponifiable valuable products from raw materials")は、動物由来または植物由来の多種多様な原料から、有益な非鹸化性材料を分離する方法を開示している。この方法では、非鹸化性材料は、食品加工、セルロース加工などの動物または植物製品の加工による副産物、残渣および老廃物から分離される。魚油が原料であった場合、有益な非鹸化性材料はコレステロールである。この方法は、原料を水酸化ナトリウムまたはカリウムで鹸化し、ナトリウムまたはカリウム石鹸を、例えばマグネシウムまたは亜鉛石鹸のような金属石鹸に変換し、金属石鹸の混合物を蒸留することを含む。ここで、留出物は、出発物質が魚油である場合は、コレステロールを含み、残渣は金属石鹸を含む。
【0004】
本発明者らによれば、アルカリ石鹸を金属石鹸に変換する理由は、アルカリ鹸化混合物の蒸留における問題および困難性に由来する。
【0005】
米国特許第6,846,941号の処理にはいくつかの欠点がある。特に、出発物質が魚油である場合、その中でも、コレステロールの分離は有益な魚油の金属石鹸への変換をもたらし、コレステロール留出物は、魚油の毒性および/または有害な人為的汚染物質(POP)のほとんどを含む。さらに、65%以上の高純度のコレステロールを得るには、コレステロール留出物のさらなる結晶化が必要である。
【0006】
WO2016096989は、30℃を超える温度で、NaOH/KOHの存在下において、脂肪族または芳香族炭化水素などの少なくとも1つの非水混和性溶媒を用いて魚油廃残渣を鹸化によることによってコレステロールを抽出する方法を開示している。このプロセスは、コレステロールを抽出するために、溶媒抽出、結晶化および逆洗浄の繰り返しを含む。WO’989に記載されている方法は、大量の溶媒を必要とする多段階かつ扱いにくい溶媒抽出方法である。
【0007】
WO2019/053744A1もまた、触媒4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下でのNaOHによる鹸化によって、魚油廃残渣からコレステロールを抽出するプロセスを開示している。このプロセスは、続いて、酸水溶液で中和してエステルを含まないコレステロールを得て、この鹸化物の塊を2-ブタノン(メチルエチルケトン)中で臭化カルシウムと共に加熱してコレステロール付加物を得て、この付加物からコレステロールをトルエンで分離し、トルエンを蒸発させ、このコレステロールをメタノールに溶解させ、続いて溶液を結晶化してコレステロールを得るものである。開示された方法の欠点の1つは、コレステロールを分離するための異なる溶媒、例えばメタノール、2-ブタノナール、トルエンを用いるプロセスにある。溶媒は、大量に使用され、有益な生成物の抽出および予備濃縮処理において、溶媒の除去および/または再循環のために付加的な処理が必要とされる。さらに、回収およびリサイクルのコストが過度に増加する。別の欠点は、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)の使用である。DMAPは比較的高い毒性を有し、皮膚を通して吸収され得るため特に危険である。最後に、このプロセスは、大量の廃棄物流残渣を生成する。
【0008】
<発明の概要>
本開示の実施形態は、魚油処理廃棄残渣から、75重量%を超えるコレステロール含量を有する組成物を製造する方法を提供する。
【0009】
開示された方法によって得られる組成物は、養殖漁業におけるエビおよびエビ飼料への添加剤として適切である。この組成物はまた、ビタミンD、D、ホルモンの製造のため、および化粧品および医薬製剤におけるW/Oエマルジョンの乳化剤として使用することができる。
【0010】
本明細書で使用される場合、「魚油処理廃棄残渣」というタームは、例えば、米国特許第8,258,330号および米国特許第7,718,698号において開示されるように、魚油中の環境汚染物質の含有量を低減するために魚油を留出した流出物または真空ストリッピングされた留分を含む。これら開示においては、このようなストリッピングされた留分が同様にコレステロールを含むか、または米国特許第7,678,930号に開示されているように魚油中のコレステロール含量を減少させるための魚油の真空ストリッピングされた留分を含む。米国特許第7,678,930号では、そのようなストリッピングされた留分が典型的には5~15%のコレステロールを、魚油の環境汚染物質と共に含む。明らかに、これらの留分の大部分は、ストリッピングプロセスに利用される流体、最も頻繁には脂肪酸の1種以上のエチルエステルからなる。所望であれば、このようなストリッピングされた留分を漂白粘土、活性炭または他の漂白剤で漂白することができる。ここ以降のこの種の残渣は、「軽量残渣(light waste residue)」と呼ばれる。
【0011】
魚油処理廃棄残渣はまた、エタノールでエステル交換された魚油からオメガ-3濃縮物を製造するための2つ以上の多段階短行程/分子蒸留工程の最終工程由来の最終残渣または残渣を含む。魚油のエステル交換の収率は、通常95%未満であり、これにより、多段階短行程蒸留工程による最終残渣中に部分的にグリセリドが存在する。最終残渣は、典型的には、5~25%のコレステロールと、遊離コレステロールまたはエステル化コレステロールのいずれかと、エステル交換魚油の他の高沸点留分を含有する。そして最終残渣は、これらの間に、EPA、DHAおよびDPA(22:5n3)のようなC18からC22オメガ-3脂肪酸までの脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、ならびにC18以上の炭素原子を有する多価不飽和脂肪酸の少量の部分グリセリドを含有する。米国特許第10,050,704号明細書には、エタノールでエステル交換した魚油由来のオメガ-3濃縮物を製造するための、典型的な2工程短行程/分子蒸留法の最終残渣を得るための方法が記載されている。所望であれば、このような最終残渣を漂白粘土、活性炭または他の漂白剤で漂白することができる。ここ以降のこの種の残渣は、「重量残渣(heavy waste residue)」と呼ばれる。
【0012】
したがって、本明細書で使用される場合、用語「魚油処理廃棄残渣」は、「軽量残渣」もしくは「重量残渣」、または両方の残渣の任意の混合物を含む。
【0013】
一態様では、開示される実施形態は、魚油処理廃棄残渣からコレステロールを含む組成物を製造する方法に関し、当該方法は以下の工程を含む:(a)魚油処理廃棄残渣をアルカリと接触させて鹸化混合物を得る工程、(b)鹸化混合物を蒸留工程に供して、第1の留出物および第1の残渣を得る工程、(c)第1の残渣を真空蒸留工程に供して、第2の留出物および第2の残渣を得る工程、および、(d)第2の残渣を真空蒸留工程に供して、第3の留出物および第3の残渣を得る工程であって、第3の留出物は少なくとも75重量%のコレステロールを含む組成物である工程。
【0014】
一実施形態では、工程(a)におけるアルカリがNaOHまたはKOH、好ましくはNaOH、最も好ましくはNaOHの水溶液である。別の実施形態では、工程(a)において、魚油処理廃棄残渣を、水および極性溶媒(例えば、メタノールまたはエタノール)または上記溶媒の混合物を含む溶液中のアルカリ(例えば、NaOHまたはKOH)と接触させる。別の実施形態では、工程(a)におけるアルカリは、加圧撹拌反応器中で魚油処理廃棄残渣と接触する。別の実施形態では、工程(a)におけるアルカリは、1~120分間で、魚油処理廃棄残渣と接触する。別の実施形態において、工程(a)におけるアルカリは、50~200℃の温度で魚油処理廃棄残渣と接触する。別の実施形態では、工程(a)におけるアルカリは、1~20barの圧力で魚油処理廃棄残渣と接触する。好ましい態様において、工程(a)におけるアルカリは、1~120分間、50~200℃の温度かつ1~20barの圧力で、加圧撹拌反応器中で魚油処理廃棄残渣と接触する。
【0015】
別の実施形態において、工程(b)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔、あるいは薄膜蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(b)における鹸化混合物の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(b)における温度は、150~400℃である。別の実施形態では、工程(b)における圧力は、2bar未満である。好ましい実施態様において、工程(b)は短行程蒸留塔で実施され、鹸化混合物の供給流量が10~350kg/h/m、温度が150~400℃であり、圧力が2bar未満である。
【0016】
別の実施形態において、工程(c)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(c)における第1の残渣の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(c)における温度は、200~400℃である。別の実施形態において、工程(c)における圧力は、500mbar未満である。好ましい実施態様において、工程(c)は短行程蒸留塔において実施され、第1の残渣の供給流量が10~350kg/h/mであり、温度が200~400℃であり、圧力が500mbar未満である。
【0017】
別の実施形態において、工程(d)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(d)における第2の残渣の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(d)における温度は、200~400℃である。別の実施形態において、工程(d)における圧力は、10mbar未満である。本発明の最も好ましい実施形態において、工程(d)は、短行程蒸留塔内で実施され、第2の残渣の供給流量が10~350kg/h/mであり、実施温度が200~400℃であり、圧力が10mbar未満である。
【0018】
別の態様では開示される実施形態が魚油処理廃棄残渣からコレステロールを含む組成物を製造するための方法に関し、この方法は以下の工程を含む:(i)魚油処理廃棄残渣を真空蒸留して、第1の留出物および第1の残渣を得る工程、(ii)第1の残渣をアルカリと接触させて鹸化混合物を得る工程、(iii)鹸化混合物を蒸留工程に供して、第2の留出物および第2の残渣を得る工程、(iv)第2の残渣を真空蒸留工程に供して、第3の留出物および第3の残渣を得る工程、および(v)第3の残渣を真空蒸留工程に供して、第4の留出物および第4の残渣を得る工程であって、このとき第4の留出物は、少なくとも75重量%のコレステロールを含む組成物である工程。
【0019】
一実施形態では、工程(ii)におけるアルカリが、NaOHまたはKOH、好ましくはNaOH、最も好ましくはNaOH水溶液である。別の実施形態では、工程(ii)において、第1の残渣を、水および極性溶媒(例えば、メタノールまたはエタノール)または上記溶媒の混合物を含む溶液中で、アルカリ(例えば、NaOHまたはKOH)と接触させる。別の実施形態では、工程(ii)におけるアルカリは、加圧撹拌反応器中で第1の残渣と接触する。別の実施形態において、工程(ii)におけるアルカリは、1~120分間、第1の残渣と接触する。別の実施形態において、工程(ii)におけるアルカリは、50~200℃の温度で第1の残渣と接触する。別の実施形態において、工程(ii)におけるアルカリは、1~20barの圧力で第1の残渣と接触する。好ましい実施形態において、工程(ii)におけるアルカリは、1~120分間、50~200℃の温度かつ1~20barの圧力で、加圧撹拌反応器中で、第1の残渣と接触する。
【0020】
別の実施形態では、工程(iii)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔または薄膜蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(iii)における鹸化混合物の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(iii)における温度は、150~400℃である。別の実施形態において、工程(iii)における圧力は、2bar未満である。好ましい実施態様において、工程(iii)は短行程蒸留塔で実施され、鹸化混合物の供給流量が10~350kg/h/mであり、温度が150~400℃であり、圧力が2bar未満である。
【0021】
別の実施形態において、工程(iv)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(c)における第2の残渣の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(c)における温度は、200~400℃である。別の実施形態において、工程(iv)における圧力は、500mbar未満である。好ましい実施形態において、工程(iv)は短行程蒸留塔において実施され、第2の残渣の供給流量が10~350kg/h/mであり、温度が200~400℃であり、圧力が500mbar未満である。
【0022】
別の実施形態において、工程(v)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(v)における第3の残渣の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(d)における温度は、200~400℃である。別の実施形態において、工程(v)における圧力は、10mbar未満である。本発明の最も好ましい実施形態において、工程(v)は短行程蒸留塔内で実施され、第3の残渣の供給流量が10~350kg/h/mであり、温度が200~400℃であり、圧力が10mbar未満である。
【0023】
別の実施形態において、工程(i)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(i)における魚油処理廃棄物の供給流量は、10~350kg/h/mである。別の実施形態では、工程(a)における実施温度は、100~250℃である。別の実施形態において、工程(i)における圧力は、0.5mbar未満である。好ましい実施形態では、工程(i)が短行程蒸留塔で実施され、魚油処理廃棄物の供給流量が10~350kg/h/mであり、温度が100~250℃であり、圧力が0.5mbar未満である。最も好ましい実施形態では、工程(a)が二重留出短行程蒸留器中で実施され、蒸留器において、内部凝縮器の底部で収集された下部留出物留分が、工程(i)において塔に供給された魚油処理廃棄残渣と接触する。
【0024】
短行程蒸留器としても知られている短行程蒸留塔は、典型的には、加熱ジャケットと、ローターと、加熱された表面付近の内側にある凝縮器とを有する垂直円筒形本体または塔を含む。ローターモビールの支持構造上に取り付けられている精密ワイパーブレードは、加熱された壁の下方に材料をポンプで送り、攪拌する。蒸発は、加熱され拭き取られたフィルムから起こる。供給物がシリンダーに入ると、加熱された表面に薄膜を作る回転ワイパーまたはローラーに遭遇する。冷却流体で冷却された装置の中央の凝縮器は、留出物を凝縮する。受容器は、留出物および高温の残渣を底部に集める。いくつかの短行程蒸留塔は、また、凝縮器に沿って一定の高さに配置された、凝縮器と同心の留出物収集トレーを備える。この設計により、留出物を2つの留分に分離することが可能になる。収集トレーの上方部分で凝縮する留分の一つは、蒸留に供される混合物のうち、より高い蒸気圧の構成要素を含み、これは「上部凝縮物」と呼ばれる。これより前段階に凝縮する他の留分は、蒸留に供される混合物のうちより低い蒸気圧の構成要素を含み、収集トレーの下部で凝縮し、これは「下部凝縮物」と呼ばれる。両方の留分を塔から別々に取り出す。このような塔は、二重留出短行程蒸留器(DD-SPE)として知られている。
【0025】
蒸留の運転条件は、塔温度、圧力および供給流量を含み、加熱された表面の温度、塔圧力および供給流量(質量/時間/加熱された表面積)が塔の上部に入ることを指す。
【0026】
短行程蒸留塔は、蒸留塔の加熱表面と内部凝縮器表面との間の距離が運転条件下での留出物分子の平均自由行程に匹敵する場合、分子蒸留塔としても知られている。したがって、いくつかの実施形態では、短行程蒸留および分子蒸留は、蒸留が、加熱された表面の近傍に内部凝縮器を有する蒸留塔内で実施されることを意味する。薄膜蒸留塔は蒸留塔である。蒸留塔は外部凝縮器を有する。蒸留塔は蒸留器とも呼ばれる。
【0027】
<発明の詳細な説明>
本開示の実施形態に共通する驚くべき予想外の特徴は、溶媒からの結晶化工程のようなさらなる精製工程をいずれも行うことなく、むしろ蒸留工程のみによって高純度コレステロールが得られることである。以下の表Aは、米国特許第6,846,941号に示されるような結晶化工程を行わない処理と、本開示の処理とにおける、ステロール収率および純度を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
高純度コレステロールに加えて、オメガ-3脂肪酸の形態の有益な副産物までもが得られることも、本開示の実施形態に共通する有利な特徴である。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態では、魚油処理廃棄残渣からコレステロールを含む組成物を製造するための方法を提供する。当該方法は、次の工程を含む:
(a)魚油処理廃棄残渣をアルカリと接触させて鹸化混合物を得る工程、
(b)前記鹸化混合物を蒸留工程に供して、第1の留出物および第1の残渣を得る工程、
(c)前記第1の残渣を真空蒸留工程に供して、第2の留出物および第2の残渣を得る工程、および
(d)前記第2の残渣を真空蒸留工程に供して、第3の留出物および第3の残渣を得る工程であって、当該第3の留出物が75重量%を超えるコレステロールを含む組成物である工程。
【0031】
いくつかの実施形態では、魚油処理廃棄残渣からコレステロールを含む組成物を製造するための方法。当該方法は、次の工程を含む:
(i)前記魚油処理廃棄残渣を真空蒸留して、第1の留出物および第1の残渣を得る工程、
(ii)前記第1の残渣をアルカリと接触させて鹸化混合物を得る工程、
(iii)前記鹸化混合物を蒸留工程に供して、第2の留出物および第2の残渣を得る工程、
(iv)前記第2の残渣を真空蒸留工程に供して、第3の留出物および第3の残渣を得る工程、および
(v)前記第3の残渣を真空蒸留工程に供して、第4の留出物および第4の残渣を得る工程であって、当該第4の留出物は、75重量%を超えるコレステロールを含む組成物である工程。
【0032】
=工程(a)=
いくつかの実施形態では、工程(a)において、魚油処理廃棄残渣を、NaOHまたはKOHの水溶液を含むアルカリと接触させて、鹸化混合物を形成する。魚油処理廃棄残渣とアルカリ水溶液との重量比は、1:0.01~1:1、好ましくは1:0.1~1:0.3である。あるいは、魚油処理廃棄残渣を、水および極性溶媒(例えば、メタノールまたはエタノール)または上記溶媒の任意の混合物を含む溶液中のアルカリ(例えば、NaOHまたはKOH)と接触させて、鹸化混合物を形成する。いくつかの実施形態では、魚油処理廃棄物と溶液との重量比が1:0.01~1:1、好ましくは1:0.1~1:0.5である。
【0033】
いくつかの実施形態では、水または溶液中のアルカリ量は、魚油処理廃棄残渣の鹸化値に等しい。水または溶液中のアルカリ量は、好ましくは第1の留出物の鹸化値の0.9~1.2倍である。最も好ましくは、当該量は魚油処理廃棄残渣の鹸化価の0.97~1.05倍である。
【0034】
いくつかの実施形態では、鹸化混合物を形成するための鹸化反応は、撹拌密閉容器中または連続反応器中で1~120分間、好ましくは2~30分間、魚油処理廃棄残渣をアルカリと接触させることによって実施される。この鹸化反応は、温度50~200℃、好ましくは100~180℃、圧力1~20bar、好ましくは2~10barで行われる。
【0035】
=工程(b)=
いくつかの実施形態では、工程(a)に続いて、鹸化混合物を工程(b)で蒸留する。一実施形態では、工程(b)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で、あるいは薄膜蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、鹸化混合物の供給流量は、10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(b)における温度が150~400℃、好ましくは200~300℃である。別の実施形態において、工程(b)における圧力は、2bar未満、好ましくは0.5~1.5barである。好ましい実施態様では、工程(b)は短行程蒸留塔で実施され、鹸化混合物の供給流量が10~350kg/h/m、温度が150~400℃、圧力が2bar未満である。別の好ましい実施形態では、工程(b)が短行程蒸留塔で実施され、鹸化混合物の供給流量が75~220kg/h/m、温度が200~300℃、圧力が0.5~1.5barである。
【0036】
いくつかの実施形態では、工程(b)における蒸留工程が、第1の留出物と第1の残渣との分離をもたらす。このとき、第1の留出物と第1の残渣とは別々に蒸留塔から出る。
【0037】
=工程(c)=
いくつかの実施形態では、工程(b)に続いて、第1の残渣を工程(c)で蒸留する。一実施形態では、工程(c)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(c)における第1の残渣の供給流量は、10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(c)における温度は200~400℃、好ましくは250~350℃である。別の実施形態において、工程(c)における圧力は、500mbar未満、好ましくは1~100mbarである。好ましい実施形態では、工程(c)は短行程蒸留塔で実施され、第1の残渣の供給流量が10~350kg/h/m、温度が200~400℃、圧力が500mbar未満である。別の好ましい実施形態では、工程(c)は短行程蒸留塔で実施され、第1の残渣の供給流量が75~200kg/h/m、温度が250~350℃、圧力が1~100mbarである。あるいは、別の実施形態では、工程(c)はフラッシュタンクにおいて、500mbar未満の圧力で行うことができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、工程(c)における蒸留工程が、第2の留出物と第2の残渣との分離をもたらす。このとき、第2の留出物と第2の残渣とは、別々に蒸留塔から出る。
【0039】
=工程(d)=
いくつかの実施形態では、工程(c)に続いて、第2の残渣を工程(d)で蒸留して、第3の留出物および第3の残渣を得る。いくつかの実施形態では、第3の留出物は、75重量%を超えるコレステロールを含む。一実施形態では、工程(d)が短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、第2の残渣の供給流量が10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(d)における実施温度が200~400℃、好ましくは280~380℃である。別の実施形態において、工程(d)における圧力は、10mbar未満、好ましくは0.001~1mbarである。好ましい実施形態では、工程(d)は短行程蒸留塔で実施され、第2の残渣の供給流量が10~350kg/h/m、温度が200~400℃、圧力が10mbar未満である。別の好ましい実施形態では、工程(d)は短行程蒸留塔で実施され、第2の残渣の供給流量が75~220kg/h/m、温度が280~380℃、圧力が0.001~1mbarである。
【0040】
いくつかの実施形態では、工程(d)における蒸留工程が、第3の留出物と第3の残渣との分離をもたらす。このとき、第3の留出物と第3の残渣とは、別々に蒸留塔から出る。
【0041】
いくつかの実施形態において、工程(d)からの第3の留出物はコレステロールプリル(cholesterol prills)またはビーズを得るために、噴霧凝固、噴霧冷却または溶融噴霧としても知られるプリル化(prilling)に供される。
【0042】
少なくとも1つの特定の実施形態において、96%を超えるコレステロールを含む組成物は、ヘキサン、メタノール、エタノール、アセトン、水またはこれらの混合物などの適切な溶媒または溶媒混合物中で第3の留出物を結晶化することによって、得ることができる。別の特定の実施形態において、96%を超えるコレステロールを含む組成物は、充填塔蒸留ユニット中で、第3の留出物形態工程(d)における高真空分留によって得ることができる。別の特定の実施形態において、99%を超えるコレステロールを含む組成物は、工程(d)で得られた第3の留出物の組成物を、高圧液体クロマトグラフィーによって分留することによって得ることができる。
【0043】
いくつかの実施形態において、工程(d)からの第3の残渣は、無機酸で酸性化されて、10~70重量%のオメガ-3脂肪酸を含む組成物を形成し、当該組成物は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびドコサペンタエン酸(DPA)を含む。ある実施形態において、前記組成物は、動物およびヒトの消費に適したオメガ-3脂肪酸を40~90%含む濃縮物を得るために、1以上の分子蒸留工程に供される。
【0044】
ある実施形態において、工程(d)からの第3の残渣を酸性化する際に得られるオメガ-3脂肪酸の組成物をエタノールでエステル化することで、オメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む組成物が得られる。ある実施形態において、前記組成物は、動物およびヒトの消費に適したオメガ-3脂肪酸エチルエステルを40~90%含む濃縮物を得るために、1以上の分子蒸留工程に供される。
【0045】
=工程(i)=
本開示の一実施形態では、魚油処理廃棄残渣が短行程蒸留塔または分子蒸留塔で蒸留される。別の実施形態では、魚油処理廃棄物の供給流量は10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(i)における温度は100~250℃、好ましくは120~220℃である。別の実施形態において、工程(i)における圧力は、0.5mbar未満、好ましくは0.001~0.1mbarである。別の実施形態では、工程(i)は短行程蒸留塔で実施され、魚油処理廃棄物の供給流量が10~350kg/h/m、温度が100~250℃、圧力が0.5bar未満である。別の実施形態では、工程(i)が短行程蒸留塔で実施され、魚油処理廃棄物の供給流量が75~220kg/h/m、温度が120~220℃、圧力が0.001~0.1mbarである。好ましい実施形態において、工程(i)は、二重留出短行程蒸留器中で行われる。当該蒸留器では、内部凝縮器の底部に下部留出物留分が集められて、工程(i)において塔に供給された魚油処理廃棄残渣に接触する。
【0046】
いくつかの実施形態では、工程(i)における蒸留工程が、第1の留出物と第1の残渣との分離をもたらす。このとき、第1の留出物と第1の残渣とは、別々に蒸留塔から出る。
【0047】
必要があれば、第1の残渣を漂白粘土、活性炭または他の漂白剤で漂白することができる。
【0048】
=工程(ii)=
いくつかの実施形態では、工程(b)において、工程(i)からの第1の残渣を、NaOHまたはKOHの水溶液を含むアルカリと接触させて鹸化混合物を形成する。第1の残渣とアルカリ水溶液との重量比は、1:0.01~1:1、好ましくは1:0.05~1:0.3である。あるいは、第1の留出物を、水および極性溶媒(例えば、メタノールまたはエタノール)または上記溶媒の任意の混合物を含む溶液中のアルカリ(例えば、NaOHまたはKOH)と接触させて、鹸化混合物を形成する。いくつかの実施形態では、溶液と第1の留出物との重量比が1:0.01~1:1、好ましくは1:0.05~1:0.5である。
【0049】
いくつかの実施形態では、水または溶液中のアルカリ量は、第1の残渣の鹸化値に等しい。水または溶液中のアルカリ量は、好ましくは第1の残渣の鹸化値の0.9~1.2倍、最も好ましくは第1の残渣の鹸化値の0.97~1.05倍である。
【0050】
いくつかの実施形態において、鹸化混合物を形成するための鹸化反応は、撹拌密閉容器中または連続反応器中で1~120分間、好ましくは2~30分間、第1の残渣をアルカリと接触させることによって実施される。この鹸化反応は、温度50~200℃、好ましくは100~180℃、圧力1~20bar、好ましくは2~10barで行われる。
【0051】
=工程(iii)=
いくつかの実施形態では、工程(ii)に続いて、鹸化混合物を工程(iii)で蒸留する。一実施形態では、工程(iii)は、短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で、あるいは薄膜蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、鹸化混合物の供給流量は、10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(iii)における温度が150~400℃、好ましくは200~300℃である。別の実施形態において、工程(iii)における圧力は、2bar未満、好ましくは0.5~1.5barである。好ましい実施態様では、工程(iii)は短行程蒸留塔で実施され、鹸化混合物の供給流量が10~350kg/h/m、温度が150~400℃、圧力が2bar未満である。別の好ましい実施形態では、工程(b)は短行程蒸留塔で実施され、鹸化混合物の供給流量が75~220kg/h/m、温度が200~300℃、圧力が0.5~1.5barである。
【0052】
いくつかの実施形態では、工程(iii)における蒸留工程が、第2の留出物と第2の残渣との分離をもたらす。このとき、第2の留出物と第2の残渣とは、別々に蒸留塔から出る。
【0053】
=工程(iv)=
いくつかの実施形態では、工程(iii)に続いて、第2の残渣を工程(iv)で蒸留する。一実施形態では、工程(iv)が短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、工程(iv)における第2の残渣の供給流量は、10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(iv)における温度が200~400℃、好ましくは250~350℃である。別の実施形態では、工程(iv)における圧力が500mbar未満であり、好ましくは100~1mbarである。好ましい実施形態では、工程(iv)は短行程蒸留塔で実施され、第2の残渣の供給流量が10~350kg/h/m、温度が200~400℃、圧力が500mbar未満である。別の好ましい実施形態では工程(iv)は短行程蒸留塔で実施され、第2の残渣の供給流量が75~200kg/h/m、温度が250~350℃、圧力が1~100mbarである。あるいは別の実施形態において、工程(iv)はフラッシュタンクにおいて、500mbar未満の圧力で行うことができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、工程(iv)における蒸留工程が、第3の留出物と第3の残渣との分離をもたらす。このとき、第3の留出物と第3の残渣とは、別々に蒸留塔から出る。
【0055】
=工程(v)=
いくつかの実施形態では、工程(iv)に続いて、第3の残渣を工程(v)で蒸留して、第4の留出物および第4の残渣を得る。いくつかの実施形態では、第4の留出物は、75重量%を超えるコレステロールを含む。一実施形態では、工程(v)が短行程蒸留塔または分子蒸留塔内で実施される。別の実施形態では、第3の残渣の供給流量が10~350kg/h/m、好ましくは75~220kg/h/mである。別の実施形態では、工程(v)における実施温度は、200~400℃、好ましくは280~380℃である。別の実施形態において、工程(v)における圧力は、10mbar未満、好ましくは0.001~1mbarである。好ましい実施形態では、工程(v)は短行程蒸留塔で実施され、第3の残渣の供給流量が10~350kg/h/m、温度が200~400℃、圧力が10mbar未満である。別の好ましい実施形態では、工程(v)は短行程蒸留塔内で実施され、第3の残渣の供給流量が75~220kg/h/m、温度が280~380℃、圧力が0.001~1mbarである。
【0056】
いくつかの実施形態において、工程(v)における蒸留工程が、第4の留出物と第4の残渣との分離をもたらす。このとき、第4の留出物と第4の残渣とは、別々に蒸留塔から出る。
【0057】
いくつかの実施形態において、工程(v)からの第4の留出物はコレステロールプリル(cholesterol prills)またはビーズを得るために、噴霧凝固、噴霧冷却または溶融噴霧としても知られるプリル化(prilling)に供される。
【0058】
少なくとも1つの特定の実施形態において、96%を超えるコレステロールを含む組成物は、ヘキサン、メタノール、エタノール、アセトン、水またはこれらの混合物などの適切な溶媒または溶媒混合物中で第4の留出物を結晶化することによって、得ることができる。別の特定の実施形態において、96%を超えるコレステロールを含む組成物は、充填塔蒸留ユニット中で、第3の留出物形態工程(d)における高真空分留によって得ることができる。別の特定の実施形態において、99%を超えるコレステロールを含む組成物は、工程(v)で得られた第4の留出物の組成物を、高圧液体クロマトグラフィーによって分留することによって得ることができる。
【0059】
いくつかの実施形態において、工程(v)からの第4の残渣は、無機酸で酸性化されて、10~70重量%のオメガ-3脂肪酸を含む組成物を形成し、当該組成物は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびドコサペンタエン酸(DPA)を含む。ある実施形態において、前記組成物は、動物およびヒトの消費に適したオメガ-3脂肪酸40~90%を含む濃縮物を得るために、1以上の分子蒸留工程に供される。
【0060】
ある実施形態において、工程(v)からの第4の残渣を酸性化する際に得られるオメガ-3脂肪酸の組成物をエタノールでエステル化することで、オメガ-3脂肪酸エチルエステルを含む組成物を得られる。ある実施形態において、前記組成物は、動物およびヒトの消費に適したオメガ-3脂肪酸エチルエステルを40~90%含む濃縮物を得るために、1以上の分子蒸留工程に供される。
【0061】
図1は、魚油処理廃棄物からコレステロールを含む組成物を製造するための連続プロセスの実施形態であり、工程(i)が、二重留出短行程蒸留器中で実施される。
【0062】
図1を参照すれば、工程(i)における二重留出短行程蒸留器が示されている。ライン2を通って集められた、二重留出短行程蒸留器(i)から出る「下部凝縮物」は、ライン1において流入する「魚油処理廃棄残渣」と接触し、蒸留器(i)に供給される混合物を形成する。蒸留器(i)から出る「上部凝縮物」は、ライン3を通って廃棄される。工程(i)における残渣、すなわち上記に開示された処理の実施形態の第1の残渣は、ライン4を通って塔から出る。
【0063】
ライン4を通って、反応器(ii)に残渣が供給され、同時にライン5を介して水酸化ナトリウム水溶液が反応器(ii)に供給され、鹸化混合物が形成される。鹸化混合物は、ライン6を通って反応器から出る。
【0064】
鹸化された混合物は、ライン6を通って短行程蒸留塔(iii)に供給され、ライン7を通って蒸留塔から出る留出物と、ライン8を通って塔から出る残渣とが生成される。
【0065】
残渣はライン8を通って短行程蒸留塔(iv)に供給され、ライン9を通って塔から出る留出物と、ライン10を通って塔から出る残渣とが生成される。
【0066】
残渣はライン10を通って短行程蒸留塔(v)に連続的に供給され、ライン12を通って塔から出る脂肪酸石鹸を含む残渣と、ライン11を通って蒸留塔から出るコレステロールを含む留出物とが生成される。
【0067】
<実施例>
実施例に開示される分析データは、欧州薬局法9.0および9.2に記載される分析方法論に基づく。当該分析方法論は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
実施例1:「軽量残渣」からコレステロールを製造するプロセス
実施例1で使用した「軽量残渣」のコレステロールおよび環境汚染物質含有量を以下の表1に示す:
【0069】
【表2】
【0070】
1mの蒸発面積を有するUIC短行程蒸留塔に、「軽量残渣」1000kgを100kg/hで供給し、152℃、0.04mbarで蒸留して、第1の留出物660kgおよび第1の残渣340kgを得た。第1の残渣は、コレステロールを24.5重量%含んでいた。
【0071】
撹拌加圧反応器中で、第1の残渣150kgと50%NaOH水溶液27kgとを、145℃で15分間混合し、鹸化混合物を得た。
【0072】
次いで、鹸化混合物を、運転状況を表2に示した直列の3つの蒸留塔または蒸留器からなるVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラントに供給した。
【0073】
【表3】
【0074】
鹸化混合物を10kg/hで蒸留器Iに供給し、1.3kg/hで第2の留出物を得た。次に、第2の残渣を蒸留器IIに供給し、130g/hで第3の留出物を得た。次いで、第3の残渣を蒸留器IIIに供給し、2.6kg/hで第4の留出物を、5.9kg/hで脂肪酸石鹸を含む第4の残渣をそれぞれ得た。以下の表3は、第4の留出物の組成を示す。
【0075】
【表4】
【0076】
実施例1におけるコレステロールのコレステロール回収率は88.0%であった。
【0077】
実施例2:「軽量残渣」からコレステロールを製造するプロセス
撹拌圧力反応器中で、実施例1の第1の残渣120kgと50%NaOH水溶液21.6kgとを、145℃で15分間混合し、鹸化混合物を得た。
【0078】
次いで、鹸化混合物を、運転状況を表4に示した直列の3つの蒸留塔または蒸留器からなるVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラントに供給した。
【0079】
【表5】
【0080】
鹸化混合物を10kg/hで蒸留器Iに供給し、1.3kg/hで第2の留出物を得た。次に、第2の残渣を蒸留器IIに供給し、1.0kg/hで第3の留出物を得た。次いで、第3の残渣を蒸留器IIIに供給し、1.8kg/hで第4の留出物を、5.9kg/hで脂肪酸石鹸を含む第4の残渣をそれぞれ得た。以下の表5は、第4の留出物の組成を示す。
【0081】
【表6】
【0082】
実施例2におけるコレステロールのコレステロール回収率は76.9%であった。
【0083】
実施例3:工程(i)において二重留出短行程蒸留器を用いて「軽量残渣」からコレステロールを製造するプロセス
1mの蒸留器表面を有し、凝縮器の途中にコレクタトレーを有するUIC二重留分短行程蒸留器に、表1に示す「軽量残渣」1000kgを、質量流量90kg/hで供給した。トレーは、凝縮器の下半分からの凝縮物「下部凝縮物」とは別に、凝縮器の上半分からの凝縮物「上部凝縮物」の回収が可能であり、回収速度は60kg/hである。「上部凝縮物」は再循環され、入ってくる「軽量残渣」と図1に示すように接触し、蒸留器(i)への総質量流量は150kg/hとなる。連続操作では、上部凝縮物の速度は60kg/hであり、残渣(または第1の残渣)の速度は30kg/hであり、コレステロール濃度は27.1%であった。蒸留は、168℃かつ0.04mbarの真空で行った。
【0084】
撹拌圧力反応器中で、第1の残渣150kgと50%NaOH水溶液25.9kgとを、140℃で15分間混合し、鹸化混合物を得た。
【0085】
次いで、鹸化混合物を、運転状況を表6に示した直列の3つの蒸留塔または蒸留器からなるVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラントに供給した。
【0086】
【表7】
【0087】
鹸化混合物を10kg/hで蒸留器Iに供給し、1.3kg/hで第2の留出物を得た。次に、第2の残渣を蒸留器IIに供給し、1.2kg/hで第3の留出物を得た。次いで、第3の残渣を蒸留器IIIに供給し、1.8kg/hで第4の留出物を、5.7kg/hで脂肪酸石鹸を含む第4の残渣をそれぞれ得た。以下の表7は、第4の留出物の組成を示す。
【0088】
【表8】
【0089】
実施例3におけるコレステロールのコレステロール回収率は75.4%であった。
【0090】
実施例4:「軽量残渣」からコレステロールを製造するプロセス
撹拌圧力反応器中で、実施例1の第1の残渣100kgと50%NaOH水溶液17.3kgとを、143℃で15分間混合し、鹸化混合物を得た。
【0091】
次いで、鹸化混合物を、運転状況を表8に示した直列の3つの蒸留塔または蒸留器からなるVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラントに供給した。
【0092】
【表9】
【0093】
鹸化混合物を10kg/hの速度で蒸留器Iに供給し、1.3kg/hで第2の留出物を得た。次に、第2の残渣を蒸留器IIに供給し、290g/hで第3の留出物を得た。次いで、第3の残渣を蒸留器IIIに供給し、2.7kg/hで第4の留出物を、5.7kg/hで脂肪酸石鹸を含む第4の残渣をそれぞれ得た。以下の表9は、第4の留出物の組成を示す。
【0094】
【表10】
【0095】
実施例4におけるコレステロールのコレステロール回収率は95.6%であった。
【0096】
実施例5:「重量残渣」からコレステロールを製造するプロセス
撹拌圧力反応器中で、12.5%のコレステロールを含むオメガ-3エチルエステル濃縮物を製造するための古典的な二工程短行程分子蒸留プロセスによる「重量残渣」150kgと、50%NaOH水溶液31.5kgとを、140℃で15分間混合して鹸化混合物を得た。
【0097】
次いで、鹸化混合物を、運転状況を表10に示した直列の3つの蒸留塔または蒸留器からなるVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラントに供給した。
【0098】
【表11】
【0099】
鹸化混合物を10kg/hで蒸留器Iに供給し、1.8kg/hで第1の留出物を得た。次に、第1の残渣を蒸留器IIに供給し、410g/hで第2の留出物を得た。次いで、第2の残渣を蒸留器IIIに供給し、1.0kg/hで第3の留出物を、6.8kg/hで脂肪酸石鹸を含む第3の残渣をそれぞれ得た。以下の表11は、第3の留出物の組成を示す。
【0100】
【表12】
【0101】
実施例5におけるコレステロールのコレステロール回収率は89.0%であった。
【0102】
蒸留器Iから出た留出物1 100gを、ロータリーエバポレーター中で50mbarかつ101℃で蒸発させた。残渣29.5gをグリセリン含量99.4%で回収した。
【0103】
実施例6:遊離した脂肪酸の濃縮物
撹拌反応器中で、実施例1の脂肪酸石鹸の残渣10.0kgを熱水30kgに溶解し、10%硫酸水溶液30kgで酸性化した。2つの相が生成され、下相は廃棄した。上相を熱水で洗浄し、分離し、真空下で乾燥させて、遊離脂肪酸混合物9.2kgを得た。
【0104】
次いで、運転状況を表12に示したVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラント中で、遊離脂肪酸混合物を5kg/hの供給速度で蒸留した。その結果、蒸留器IIIの留出物から1.9kg/hで脂肪酸の濃縮物を得ることが可能であった。蒸留器III留出物の分析結果を表13に示す。
【0105】
【表13】
【0106】
【表14】
【0107】
実施例7:エチルエステルの濃縮物
撹拌反応器中で、実施例5の脂肪酸石鹸の残渣10.0kgを熱水30kgに溶解し、10%硫酸水溶液16kgで酸性化した。2つの相が生成され、下相は廃棄した。上相を熱水で洗浄し、分離し、真空下で乾燥させて、遊離脂肪酸混合物9.2kgを得た。
【0108】
乾燥させた遊離脂肪酸をエタノールでエステル化して、粗エチルエステルを生成した。ガラス反応器中で、エタノール40kgおよび10%硫酸溶液1kgを含むエタノール中70リットルに上記遊離脂肪酸9kgを溶解した。混合物を、エタノールの90%が蒸発するまで、500mbarで穏やかに蒸発させた。次いで、水20kgおよび水酸化ナトリウム100gを添加した。混合物を5分間撹拌し、次いで30分間、上澄みを移した。下相を廃棄した。水20kgを添加し、この手順を繰り返した。粗エチルエステルを含む油相9.7kgを回収した。
【0109】
次に、粗エチルエステルを、運転状況を表14に示したVTAモジュラー真空蒸留パイロットプラント中で、5kg/hの供給速度で蒸留した。その結果、蒸留器IIIの留出物から1.2kg/hでエチルエステルの濃縮物を得ることができた。蒸留器III留出物の分析結果を表15に示す。
【0110】
【表15】
【0111】
【表16】
図1