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  • 特許-成型用シート、及び成型体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】成型用シート、及び成型体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20240808BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240808BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
B32B5/24
B32B27/12
D04H3/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021527579
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2020022173
(87)【国際公開番号】W WO2020255738
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019112206
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222255
【氏名又は名称】東洋クロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲富 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 まり子
(72)【発明者】
【氏名】家根 武久
(72)【発明者】
【氏名】多賀 圭子
(72)【発明者】
【氏名】高木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 真史
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-533238(JP,A)
【文献】国際公開第2006/117868(WO,A1)
【文献】特開昭47-013676(JP,A)
【文献】特開2010-023275(JP,A)
【文献】特開2009-127169(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0957621(KR,B1)
【文献】国際公開第1999/026013(WO,A1)
【文献】特公平07-026309(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/225671(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
B29B 11/16,
15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10,
5/24
A47J 31/00-31/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と、前記不織布に積層されている樹脂層とを備え、
前記不織布は、複屈折率Δnが0.005以上、0.050以下である繊維を70質量%以上、100質量%以下の含量で含み、
前記繊維は、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、及びポリオレフィン系繊維よりなる群から選択される少なくとも1種の繊維であり、
前記繊維は、固有粘度が0.3dl/g以上、0.9dl/g以下の熱可塑性樹脂を90質量%以上、99.8質量%以下の含量で、前記熱可塑性樹脂よりもガラス転移点温度が高い高Tg有機化合物を0.02質量%以上、8質量%以下の含量で含み、
前記樹脂層は、数平均分子量が5,000以上、150,000以下である樹脂を含み、且つ前記不織布に含浸している含浸部と、前記不織布に含浸していない非含浸部とを備え
前記樹脂層100質量%中、前記樹脂の含有量は60質量%以上、100質量%以下であり、
前記樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、フェノキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂であることを特徴とする成型用シート。
【請求項2】
前記樹脂層は、架橋剤を含む請求項1に記載の成型用シート。
【請求項3】
前記非含浸部の平均厚さは、前記不織布の平均厚さよりも小さい請求項1または2に記載の成型用シート。
【請求項4】
前記非含浸部の平均厚さは、前記含浸部の平均厚さよりも大きい請求項1~のいずれかに記載の成型用シート。
【請求項5】
請求項1~のいずれかの成型用シートを成型して得られた成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層を備える成型用シート、及び成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の成型用シートが知られている。例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートと熱可塑性ポリスチレン系共重合体を含有する熱成型用途に適したスパンボンド不織布が開示されている。更に、特許文献2には、130℃雰囲気下で150%伸長時の伸長方向長さに対する、伸長後、20℃雰囲気下で30分放置後の伸長方向長さの収縮率が5%以下である熱成型用途に適したスパンボンド不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-222950号公報
【文献】特開2017-222951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2には、熱成型用として好適なスパンボンド不織布は、コーヒーフィルター材等に用いられることが記載されている。近年では、その他の種々の用途にも成型用シートを応用したいという要望が高まっている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、種々の用途に用い易い成型用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る[1]成型用シートは、不織布と、上記不織布に積層されている樹脂層とを備え、上記不織布は、複屈折率Δnが0.005以上、0.050以下である繊維を含み、上記樹脂層は、数平均分子量が5,000以上、150,000以下である樹脂を含み、且つ上記不織布に含浸している含浸部と、上記不織布に含浸していない非含浸部とを備える。該構成により、種々の用途に用い易い成型用シートを提供することができる。
【0007】
また、本発明に係る成型用シートの好ましい態様は以下の通りである。
[2]前記繊維は、固有粘度が0.3dl/g以上、0.9dl/g以下の熱可塑性樹脂を含む[1]に記載の成型用シート。
[3]前記樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、フェノキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種である[1]または[2]に記載の成型用シート。
[4]前記繊維は、前記熱可塑性樹脂よりもガラス転移点温度が高い高Tg有機化合物を含む[2]に記載の成型用シート。
[5]前記樹脂層は、架橋剤を含む[1]~[4]のいずれかに記載の成型用シート。
[6]前記非含浸部の平均厚さは、前記不織布の平均厚さよりも小さい[1]~[5]のいずれかに記載の成型用シート。
[7]前記非含浸部の平均厚さは、前記含浸部の平均厚さよりも大きい[1]~[6]のいずれかに記載の成型用シート。
【0008】
また本発明には、[1]~[7]のいずれかの成型用シートを成型して得られた成型体も含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記構成により、種々の用途に用い易い成型用シートを提供することができる。また当該成型用シートを用いて成型することにより、種々の成型体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る成型用シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0012】
本発明に係る成型用シートは、不織布と、上記不織布に積層されている樹脂層とを備え、上記不織布は、複屈折率Δnが0.005以上、0.050以下である繊維を含み、上記樹脂層は、数平均分子量が5,000以上、150,000以下である樹脂を含み、且つ上記不織布に含浸している含浸部と、上記不織布に含浸していない非含浸部とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明者らは、上記構成により、成型加工時における成型用シートの不織布と樹脂層の破損を防止し易くすることができることを見出した。そして、上記構成を備える成型用シートを用いて成型された成型体は、樹脂層を備えていることにより、防湿性、防水性、耐久性等の種々の特性が発揮され易くなる。更に、樹脂層に電磁波シールド性や吸音性等の特性を有するフィラーを樹脂層に含有させておけば、これらの特性を成型体に付与することもできる。即ち、上記構成を備える成型用シートは、種々の用途に用い易いものとなる。以下では、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る成型用シートの説明を行う。図1は、本発明の実施形態に係る成型用シートの断面図である。
【0014】
図1に示す通り、本発明の実施形態に係る成型用シート10は、不織布1と、不織布1に積層されている樹脂層2とを備えている。詳細には、樹脂層2は、不織布1中に一部含浸している形態で不織布1に積層されている。即ち樹脂層2は、不織布1に含浸している含浸部3を備える。樹脂層2が含浸部3を備えていることにより、樹脂層2は不織布1から剥がれ難くなる。
【0015】
含浸部3の平均厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。一方、含浸部3の平均厚さの上限は、特に限定されないが例えば100μm以下であってもよく、80μm以下であってもよく、70μm以下であってもよい。
【0016】
更に樹脂層2は、不織布1に含浸していない非含浸部4を備える。樹脂層2は非含浸部4を備えることにより、成型時に破損し難くなる。
【0017】
非含浸部4の平均厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。一方、非含浸部4の平均厚さの上限は、特に限定されないが例えば130μm以下であってもよく、80μm以下であってもよく、70μm以下であってもよい。また非含浸部4の平均厚さは、不織布1の平均厚さよりも小さい方が好ましく、不織布1の平均厚さの1/2以下であることがより好ましい。これにより樹脂層2の伸長時の応力の偏りを低減して破れ難くすることができる。また非含浸部4の平均厚さは、含浸部3の平均厚さよりも大きい方が好ましい。これにより成型時に樹脂層2が剥がれ難くなる。
【0018】
非含浸部4の平均厚さは、例えば以下の方法により測定することができる。まず成型用シート10の非含浸部4の表面4s上の10mm角の領域において3点を選択して印をつけ、成型用シート10を液体窒素で凍結する。次いで、各点をそれぞれ観察できるように厚さ方向Tに成型用シート10を切断していく。その後、各断面を実体顕微鏡で2倍の倍率で観察し、その画像において、非含浸部4の表面4s上の上記3点のうちの1点(A点)から、厚さ方向Tに直線を引く。上記直線と不織布1の表面1sとの交点(B点)とA点との距離(μm)を測定し、その平均値を非含浸部4の平均厚さ(μm)とすればよい。
【0019】
含浸部3の平均厚さは、例えば上記各断面の画像において、厚さ方向Tの上記直線と含浸部3の含浸面3sとの交点(C点)と、不織布1の表面1sの上記B点との距離(μm)を測定し、その平均値を含浸部3の平均厚さ(μm)とすればよい。なお、この場合の含浸面3sとは、不織布1の表面1sとは反対側の含浸部3の面を意味する。
【0020】
図1では、樹脂層2は不織布1の一方の面に積層されているが、不織布1の両面に積層されていてもよい。樹脂層2は、不織布1の一方の面に積層されている方が軽量化できるため好ましい。また非含浸部4の表面4s上には他の層が形成されておらず、表面4sは露出していることが好ましい。これにより加工性を向上し易くすることができる。
【0021】
不織布1は、複屈折率Δnが0.005以上、0.050以下である繊維を含む。繊維の複屈折率(Δn)が、0.005以上であると不織布1の剛性を向上して、成型体の形態保持性を向上し易くすることができる。複屈折率(Δn)は、好ましくは0.007以上、より好ましくは0.008以上である。一方、複屈折率(Δn)が、0.050以下であると、加工性を向上し易くすることができる。複屈折率(Δn)は、好ましくは0.020以下、より好ましくは0.015以下である。複屈折率(Δn)は、具体的には後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
不織布100質量%中、複屈折率Δnが0.005以上、0.050以下である繊維の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0023】
不織布1に含まれる繊維として、ポリエステル系繊維が好ましい。その他に、不織布1に含まれる繊維として、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等の繊維を用いてもよい。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、熱可塑性ポリエステル系繊維がより好ましい。
【0024】
ポリエステル系繊維として、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするものが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートは、機械的強度、耐熱性、保型性等に優れている。このような効果を有効に発揮させるために、ポリエステル系繊維中におけるポリエチレンテレフタレートの含有量は、ポリエステル系繊維を100質量%としたとき、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは94質量%以上である。一方、ポリエチレンテレフタレートの含有量は、後記する高Tg有機化合物の含有量を考慮すると、好ましくは99.8質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。なおポリエステル系繊維中には、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエチレンテレフタレート以外のポリエステルが含まれていてもよい。当該含有量の記載は、繊維の素材としてポリアミド、ポリオレフィン等を用いる場合に参照することができる。
【0025】
不織布1に含まれる繊維は、固有粘度が0.3dl/g以上、0.9dl/g以下の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。また上記繊維は、当該熱可塑性樹脂よりもガラス転移点温度が高い高Tg有機化合物を含むことが好ましい。
【0026】
上記固有粘度は、好ましくは0.3dl/g以上、0.9dl/g以下である。固有粘度を0.3dl/g以上とすることにより、熱劣化し難くなり、不織布1の耐久性を向上することができる。そのため固有粘度は、より好ましくは0.4dl/g以上、更に好ましくは0.5dl/g以上、更により好ましくは0.55dl/g以上である。一方、固有粘度が0.9dl/g以下であると、不織布1の熱成型時の応力を低減し易くすることができる。そのために固有粘度は、より好ましくは0.7dl/g以下である。固有粘度は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂0.1gを秤量し、25mlのフェノール/テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で3回測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0027】
高Tg有機化合物として、ポリスチレン、ポリスチレン系共重合体等が挙げられる。ポリスチレン系共重合体は、熱可塑性ポリスチレン系共重合体であることが好ましい。またポリスチレン系共重合体のガラス転移点温度は100℃以上、160℃以下であることが好ましい。またポリスチレン系共重合体は、上記熱可塑性樹脂に非相溶であることがより好ましい。ポリスチレン系共重合体は、上記熱可塑性樹脂よりガラス転移点温度が高いことより、溶融紡糸の冷却の際にスチレン系共重合体が先に固化して、配向を阻害し結晶性を乱すことができる。その結果、得られる不織布1の破断伸度を向上し易くし、更に伸長時応力を低減し易くすることができる。そのためにポリスチレン系共重合体のガラス転移点温度は好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上である。一方、ガラス転移点温度は、紡糸生産性を考慮すると好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。ガラス転移点温度は、JIS K7122(1987)に従って、20℃/分の昇温速度で測定して求めることができる。
【0028】
ポリスチレン共重合体としては、例えばスチレン・共役ジエンブロック共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・アクリル酸エステル共重合体、及びスチレン・メタクリル酸エステル共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。このうちスチレン・アクリル酸エステル共重合体、及びスチレン・メタクリル酸エステル共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、スチレン・メタクリル酸エステル共重合体が更に好ましい。スチレン・メタクリル酸エステル共重合体として、例えばスチレン・メタクリル酸メチル・無水マレイン酸共重合体が挙げられる。これらは単独でまたは組み合わせて含有してもよい。市販品では、Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS HW55が挙げられ、少量の添加量で優れた効果を発揮することができる。
【0029】
不織布1に含まれる繊維中における高Tg有機化合物の含有量は、当該繊維を100質量%としたとき、0.02質量%以上、8質量%以下であることが好ましい。0.02質量%以上とすることにより、上記添加の効果が得られ易くなる。そのために高Tg有機化合物の含有量は、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、更により好ましくは2質量%以上、特に好ましくは4質量%以上である。一方、高Tg有機化合物の含有量が8質量%以下であることにより、上記熱可塑性樹脂と高Tg有機化合物との延伸性の違いを低減して、繊維を破断し難くすることができる。そのため、高Tg有機化合物の含有量は、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下、更により好ましくは6質量%以下である。
【0030】
不織布1に含まれる繊維の繊維径は、好ましくは5μm以上である。繊維径を5μm以上とすることにより、成型体の保型性を向上することができる。そのために繊維径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは7μm以上、更に好ましくは12μm以上である。一方、繊維径の上限は特に限定されないが、例えば80μm以下、60μm以下、50μm以下であってもよい。
【0031】
不織布1は、繊維が交絡処理されていないものであることが好ましい。これにより不織布1は成型し易くなる。また不織布1に含まれる繊維は、長繊維であることが好ましい。長繊維であることにより、成型時にかかる力が均一に分散されて応力集中を防止し易くし、成型体の保型性を向上することができる。そのため不織布は、スパンボンド不織布、またはメルトブロー不織布であることが好ましく、スパンボンド不織布であることがより好ましい。
【0032】
不織布の目付は、成型後の剛性等を考慮して調整すればよく、特に限定しないが、20g/m以上、500g/m以下であることが好ましい。目付けが20g/m以上であると成型時に破損し難くなる。そのため目付けは、より好ましくは80g/m以上、更に好ましくは150g/m以上である。一方、目付けが500g/m以下であると成型時に伸長し易くなる。そのために目付けは、より好ましくは400g/m以下、更に好ましくは300g/m以下である。不織布の目付は、具体的には後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
不織布の平均厚さは、100μm以上、3000μm以下であることが好ましい。厚さが100μm以上であると成型時に破損し難くなる。そのため厚さは、より好ましくは200μm以上、更に好ましくは400μm以上である。一方、厚さが3000μm以下であると成型時に伸長し易くなる。そのために厚さは、より好ましくは2000μm以下、更に好ましくは1000μm以下である。不織布の平均厚さは、具体的には後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
不織布1は、130℃で1分加熱後の破断伸度が200%以上であることが好ましい。これにより、深絞り成型等の成型加工に追従し易くすることができる。より好ましくは250%以上、更に好ましくは260%以上、更により好ましくは280%以上、特に好ましくは300%以上である。一方、破断伸度の上限は、おおよそ500%以下であってもよく、450%以下であってもよい。なお上記伸度とは、初期の長さに対する伸長後の長さの割合で、例えば100mmの長さのものを250mmに伸長させたときの伸度は250%となる。
【0035】
不織布1は、130℃で1分加熱後の20%伸張時応力が目付200g/m換算で40N/5cm以下であることが好ましい。これにより熱成型時の型追従性を向上することができる。より好ましくは39N/5cm以下、更に好ましくは38N/5cm以下、更により好ましくは37N/5cm以下、特に好ましくは36N/5cm以下である。一方、その下限は特に限定されないが、成型後の皺の発生抑制を考慮すると、好ましくは20N/5cm以下である。なお20%伸張時とは、例えば初期の長さが100mmのものであれば、120mmの長さまで伸長させた時を意味する。
【0036】
不織布1の上記破断伸度、20%伸張時応力は例えば下記の方法により、測定することができる。まず不織布1から試料幅5cm、長さ20cmの試料片を縦方向および横方向にそれぞれ5枚ずつ切り出す。次いで、チャック間距離5cmで試料をセットし、130℃に加熱した炉に投入して1分経過後に、加熱炉内にてオリエンテック社製万能引張試験機を用い、引張速度10cm/分で変型させて歪-応力曲線を得る。その歪-応力曲線より、破断時の伸度および20%伸張時の応力を読み取って、縦方向と横方向の各5点の平均値を上記破断伸度、20%伸張時応力とすればよい。
【0037】
不織布1を製造するに当たっては、特開2017-222950号公報や、特開2017-222951号公報に記載の製造方法を参照することができる。
【0038】
不織布1に積層されている樹脂層2は、数平均分子量が5,000以上、150,000以下である樹脂(以下では単に樹脂Aと呼ぶ場合がある)を含むものである。数平均分子量が5,000以上であることにより、樹脂層2の靱性が向上し易くなり、成型時の変形に樹脂が追従し易くなる。数平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましく20,000以上である。一方、数平均分子量が150,000以下であることにより、樹脂に溶媒を混ぜて不織布1に塗布して樹脂層2を形成する場合に、溶液の粘度を低減し易くすることができるので塗布し易くなる。また樹脂を加熱溶融して不織布1に付着させることにより樹脂層2を形成する場合でも、樹脂の溶融状態における粘度を低減し易くできるので不織布1内に樹脂が浸透し易くなる。その結果、樹脂層2の不織布1に対する接着強度が向上し、成型時に樹脂層2が剥がれ難くなる。なお数平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置を用いて、ポリスチレン換算で求めることができる。
【0039】
樹脂層100質量%中、樹脂Aの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上である。
【0040】
上記樹脂Aとして、熱可塑性樹脂が好ましく、非晶性の熱可塑性樹脂がより好ましい。これにより、成型用シート10が加熱成型し易いものとなる。樹脂Aとして、具体的には、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、フェノキシ系樹脂、オレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリエステル系樹脂がより好ましい。
【0041】
ポリエステル系樹脂は、主にカルボン酸成分と水酸基成分とを反応させて形成されるものである。カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。水酸基成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステル、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-ドデカンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ポリエステルウレタン系樹脂としては、例えばポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートとを付加重合反応することによって得られるものが挙げられる。ポリエステルポリオールとして、ジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、琥珀酸などの多塩基酸と、プロピレングリコール、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの多価アルコールを縮合反応して得られるものが挙げられる。ポリイソシアネートとして、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族系ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンメチルエステルジイソシアネート(LDI)等の脂肪族系ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族系ジイソシアネート;等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
ポリアミド系樹脂は、分子中にアミド結合を有する高分子である。ポリアミド系樹脂として、例えばナイロン6,6、ナイロン6,9、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン4,6等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
ポリアミドイミド系樹脂は、アミド結合とイミド結合とを有する高分子である。ポリアミドイミド系樹脂としては、酸成分とジアミンとを反応させることにより得られるものが挙げられる。
【0045】
酸成分としては、トリメリット酸、その無水物、塩化物;ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸、これらの無水物;修酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)、ジカリュボキシポリ(スチレン-ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、これらのジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン、これらのジイソシアネート;m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o-トリジン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン、これらのジイソシアネート;等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
フェノキシ系樹脂として、例えばエピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂等が挙げられる。具体的には、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビスフェノールM型フェノキシ樹脂、ビスフェノールP型フェノキシ樹脂、ビスフェノールZ型フェノキシ樹脂、2種以上のビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂等のビスフェノール型フェノキシ樹脂、ノボラック型フェノキシ樹脂、ナフタレン型フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
オレフィン系樹脂として、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類の単重合体もしくは共重合体;これらのオレフィン類と共重合可能な単量体成分との共重合体;またはこれらの無水マレイン酸変性物が挙げられる。オレフィン系樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、及びプロピレン-ブテン共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0049】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル系モノマーを重合もしくは共重合したものが挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
樹脂層2には、樹脂Aの他にエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド、メラミン、ブロック化イソシアネート等の架橋剤;酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム等の難燃剤;フタル酸エステル、アジピン酸エステル等の可塑剤;カルボジイミド等の加水分解抑制剤;アルミニウム、亜鉛、鉄、銀、銅、酸化亜鉛等の電磁波シールド性フィラー;シリカ等の吸音性フィラー;等が含まれていてもよい。これらの添加剤は、これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂層2は架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、ブロック化イソシアネートが好ましい。架橋剤の含量は、樹脂A100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは4質量部以上であって、好ましくは20質量部以下、より好ましくは14質量部以下である。
【0051】
成型用シート10は、JIS 1096 (2010)8.18.2B法に準じた下記成型加工後において樹脂層2と不織布1に破損部が生じないことが好ましい。
〈成型加工条件〉
成型用シート10を直径72mmの円形に切り取る。次いで直径が25mmの円柱部と、円柱部の先端に設けられている半径が12.5mmの半球部とを備えている凸金型と、半球部に嵌合することが可能な凹金型とを用意する。次いで樹脂層2側を凹金型に向けて成型用シート10を凹金型の上に配置し、成型用シート10の周縁部にリング状の押さえ板を乗せる。次いで加熱温度140℃、加熱時間1分の条件で加熱して、その後速度20mm/分で半球部と円柱部とを成型用シート10に対して垂直方向に20mm押し込んだ後、30秒維持してから離型する。その後、1分ドライヤーの冷風で冷却した後、成型体を取り出す。
【0052】
成型用シートは、樹脂層2の剥離強度が、2N/cm以上であることが好ましい。これにより成型時に樹脂層2が破損し難くなる。そのため、樹脂層2の剥離強度は、より好ましくは3N/cm以上、更に好ましくは4N/cm以上である。一方、上限は特に限定されないが、例えば15N/cm以下であってもよく、10N/cm以下であってもよい。樹脂層2の剥離強度は、後記する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0053】
不織布1に樹脂層2を形成するに当たっては、転写法、スクリーン印刷法等により形成することができる。また転写法等を行うに当たっては、樹脂を加熱溶融してもよいし、樹脂にメチルエチルケトン等の溶媒を混合してもよい。
【0054】
本発明には、成型用シート10を成型して得られる成型体も含まれる。成型に当たっては、成型用シート10を例えば100~180℃の加熱条件下で、浅絞り加工や深絞り加工等の絞り加工を行えばよい。また、加工の形状は限定されず、円筒絞り加工、角筒絞り加工、円錐絞り加工、角錐絞り加工、球頭絞り加工、その他の異形絞り加工等を行うことができる。
【0055】
本願は、2019年6月17日に出願された日本国特許出願第2019-112206号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年6月17日に出願された日本国特許出願第2019-112206号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0057】
複屈折率(Δn):不織布の任意の場所10点を選び、単繊維をとりだし、ニコン社製の偏向顕微鏡OPTIPHOT-POL型を用いて、繊維径とレターデーションを読み取り、複屈折率(Δn)を求めた。
【0058】
不織布の平均厚さ:JIS L 1913(2010)の6.1に基づき、不織布の平均厚さを測定した。
【0059】
不織布の目付:JIS L 1913(2010)の6.2の「単位面積当たりの質量」に基づき、不織布の目付を求めた。
【0060】
非含浸部の平均厚さ:成型用シートの非含浸部の表面上の10mm角の領域において3点を選択して印をつけ、成型用シートを液体窒素で凍結した。次いで、各点をそれぞれ観察できるように厚さ方向に成型用シートを切断していった。その後、各断面をLEICA社製の実体顕微鏡で2倍の倍率で観察し、その画像において、非含浸部の表面上の上記3点のうちの1点(A点)から、厚さ方向に直線を引いた。上記直線と不織布の表面との交点(B点)とA点との距離(μm)を測定し、その平均値を非含浸部の平均厚さ(μm)とした。
【0061】
含浸部の平均厚さ:上記各断面の画像において、厚さ方向の上記直線と含浸部の含浸面との交点(C点)と、不織布の表面の上記B点との距離(μm)を測定し、その平均値を含浸部の平均厚さ(μm)とした。
【0062】
樹脂の数平均分子量:株式会社島津製作所製のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置を用いてクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線に基づいて樹脂の数平均分子量(Mn)を求めた。
【0063】
剥離強度:成型用シートを縦100mm、横250mmに裁断した。その後、幅20mm、厚さ25μmのサン化成株式会社製のホットメルトテープを表面温度120℃に加温したアイロンで成型用シートの樹脂層に熱圧着させた。その後、株式会社島津製作所製のオートグラフ引張試験機を用いて、オートグラフ速度300mm/分、剥離距離50mm、剥離角度180°の条件でホットメルトテープを樹脂層ごと引き剥がして測定を行い、その測定を2回繰り返して平均値を剥離強度(N/cm)とした。なお小数点以下は四捨五入した。
【0064】
成型性評価:JIS 1096(2010)8.18.2B法に準じた下記成型加工を行って、成型用シートの成型性評価を行った。成型加工時の表面観察において、樹脂層及び不織布のうち少なくとも一方に破損部があったものを×、樹脂層及び不織布に破損部がなかったものを○とした。
〈成型加工条件〉
成型用シートを直径72mmの円形に切り取った。次いで直径が25mmの円柱部と、円柱部の先端に設けられている半径が12.5mmの半球部とを備えている凸金型と、半球部に嵌合することが可能な凹金型とを用意した。次いで樹脂層側を凹金型に向けて成型用シートを凹金型の上に配置し、成型用シートの周縁部にリング状の押さえ板を乗せた。次いで加熱温度140℃、加熱時間1分の条件で加熱して、その後速度20mm/分で半球部と円柱部とを成型用シートに対して垂直方向に20mm押し込んだ後、30秒維持してから離型した。その後、1分ドライヤーの冷風で冷却した後、成型体を取り出した。
【0065】
実施例1
スパンボンド紡糸設備を用い、固有粘度0.63dl/gのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)に、ガラス転移点温度が122℃のスチレン・メタクリル酸メチル・無水マレイン酸共重合体(Rohm GmbH&Co.KGのPLEXIGLAS HW55(以下、「HW55」という)を0.40質量%添加した樹脂を、オリフィス径0.23mmの紡糸口金より単孔吐出量0.75g/分で紡出した。更に、エジェクタに0.6kg/cmの圧力(ジェット圧)で乾燥エアを供給し、1段階で延伸して、下方のコンベア上へ繊維を開繊させつつ捕集し長繊維フリースを得た。得られた長繊維フリースの繊維径は22.0μm、複屈折率は0.0120、換算紡糸速度は1430m/分であった。
【0066】
得られた長繊維フリースを、2つのフラットロールからなる1対の仮熱圧着ロールを用い、それぞれの表面温度を80℃とし、押し圧を8kN/mとして仮圧着した後、ロールの表面温度:145℃で、押し圧:3.0kgf/cm、加工時間:9.3秒、加工速度:8.4m/分の条件でフェルトカレンダーにより面拘束しながら本圧着を行い、スパンボンド不織布を得た。当該不織布の目付は210g/m、厚さは650μmであった。
【0067】
次に、下記樹脂と溶媒を下記割合で混合してから30℃まで加温し、撹拌機にて溶解して、架橋剤を下記割合で添加して樹脂層用塗料を得た。
・樹脂:バイロンBX-1001(東洋紡株式会社製) 100部
・溶媒:メチルエチルケトン 200部
・架橋剤:ブロックイソシアネート7960(Baxenden社製) 8部
【0068】
更に離型フィルムであるSP3000#75(東洋クロス株式会社製)に樹脂層用塗料をコンマコーターにて、平方メートルあたり450gの割合で塗工した。次いで150℃の乾燥機で3分間乾燥させて、離型フィルム付樹脂層を得た。
【0069】
次に、離型フィルム付樹脂層の樹脂層側を上記スパンボンド不織布の表面に向けて、貼り合わせ、60℃、20N/cmの条件で熱圧着した。得られた離型フィルム付積層体を、60℃に加温した部屋で48時間放置した。その後、離型フィルムを剥離して成型用シートを得た。
【0070】
比較例1
不織布として、東洋紡株式会社製のポリエステルスパンボンド不織布(エクーレ(登録商標)W6B61A)を用いたこと以外は実施例1と同様に離型フィルム付積層体を得て、60℃に加温した部屋で48時間放置した後、離型フィルムを剥離して成型用シートを得た。なお上記不織布の目付は210g/m、厚さは650μmであった。
【0071】
比較例2
下記樹脂と溶媒を下記割合で混合してから30℃まで加温し、撹拌機にて溶解して、架橋剤を下記割合で添加して樹脂層用塗料を得た。
・樹脂:数平均分子量が180000相当のアクリル樹脂(市販品) 100部
・溶媒:メチルエチルケトン 150部
ジメチルホルムアミド 50部
・架橋剤:コロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製) 8部
【0072】
次に実施例1と同じスパンボンド不織布を用いて、実施例1と同様に離型フィルム付積層体を得て、60℃に加温した部屋で48時間放置した後、離型フィルムを剥離して成型用シートを得た。これらの成型用シートを用いて各評価を行った。その結果を表1に示す。なお上記不織布の目付は210g/m、厚さは650μmであった。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1の成型用シートは、押し込み量20mmの絞り加工において、スパンボンド不織布と樹脂層に破損部が生じることなく成型することができた。
【0075】
一方、比較例1の成型用シートは、スパンボンド不織布の繊維の複屈折率Δnが0.005以上、0.050以下の範囲外のものであり、押し込み量20mmの絞り加工において、スパンボンド不織布に破れが生じた。更に、押し込み量10mmで同様の絞り加工を行った結果、押し込み量10mmでもスパンボンド不織布に破れが生じていたことが分かった。
【0076】
比較例2の成型用シートは、樹脂層の樹脂の数平均分子量が5,000以上、150,000以下の範囲を上回るものであり、押し込み量20mmの絞り加工において、樹脂層が剥がれ樹脂層に破れが生じた。更に、押し込み量10mmで同様の絞り加工行った結果、押し込み量10mmでも樹脂層が剥がれ樹脂層に破れが生じていたことが分かった。
【符号の説明】
【0077】
1 不織布
1s 不織布の表面
2 樹脂層
3 含浸部
3s 含浸部の含浸面
4 非含浸部
4s 非含浸部の表面
10 成型シート
図1