(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】メチルセルロースを含む徐放性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/38 20060101AFI20240808BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240808BHJP
A61K 9/22 20060101ALI20240808BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240808BHJP
A61K 9/52 20060101ALI20240808BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20240808BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20240808BHJP
A61K 31/616 20060101ALI20240808BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240808BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61K47/38
A61K47/02
A61K9/22
A61K9/14
A61K9/52
A61K31/155
A61K31/167
A61K31/616
A61P3/10
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021534753
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 US2019066704
(87)【国際公開番号】W WO2020131780
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-04
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521153216
【氏名又は名称】ニュートリション アンド バイオサイエンシズ ユーエスエー 1,リミティド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーターマン、オリバー
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530856(JP,A)
【文献】特表2014-530857(JP,A)
【文献】特表2002-541270(JP,A)
【文献】特表2017-536404(JP,A)
【文献】国際公開第2017/182851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
9/00-9/72
31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルセルロースと混合された生理活性成分を含む、経口投与用の徐放性組成物であって、
前記メチルセルロースは、1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位を有し、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基
の水素原子は、s23/s26が0.27以下であるようにメチル基で置換され、
s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみ
の水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、且つ
s26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみ
の水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、
0.85以下:1の液体希釈剤対活性成分の重量比で、かつ0.1:1~0.85:1の液体希釈剤対固形分の重量比で液体希釈剤をさらに含んでなる組成物。
【請求項2】
液体希釈剤対活性成分の重量比が、0.75以下:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
メチルセルロースの濃度が、前記活性成分の
乾燥重量を基準として、0.1~10.0%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
s23/s26が0.26以下であるように、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基
の水素原子がメチル基によって置換されたメチルセルロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
界面活性剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記界面活性剤の濃度は、前記組成物の0.1~1.5重量%の範囲にある、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
胃液と反応して、ガスを発生させることが可能である添加剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記添加剤が、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ土類金属炭酸塩から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を含む単位剤形。
【請求項10】
前記活性成分が、メトホルミン、塩酸メトホルミン、アセトアミノフェン及びアセチルサルチル酸からなる群から選択される、請求項9に記載の単位剤形。
【請求項11】
1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位から構成されるメチルセルロースの使用であって、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基
の水素原子は、s23/s26が0.27以下であるようにメチル基で置換され、
s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみ
の水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、且つ
s26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみ
の水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率である、
メチルセルロースの、経口固体剤形からの活性成分の徐放を提供する組成物のポリマーマトリックスの賦形剤としての使用であり、
前記組成物は、0.85以下:1の液体希釈剤対活性成分の重量比で、かつ0.1:1~0.85:1の液体希釈剤対固形分の重量比で液体希釈剤をさらに含む、使用。
【請求項12】
s23/s26が0.12以上であるように、前記メチルセルロースのアンヒドログルコース単位のヒドロキシ基
の水素原子がメチル基によって置換される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記メチルセルロースは、1.55~2.25のDS(メチル)を有する、請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
前記固体剤形が、錠剤、ペレット、又はカプセルである、請求項11~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
メチルセルロースと混合された生理活性成分を含む経口投与用の徐放性組成物の調製方法であって、
(a)液体希釈剤中のメチルセルロースの溶液を提供することと、
(b)0.1:1~0.85:1の液体希釈剤対固体の重量比で、粉末又は結晶形態の前記活性成分及び任意選択的に1つ又はそれ以上の固体賦形剤を、メチルセルロースの前記溶液と混合することと、
(c)任意選択的に、前記混合物の10重量%未満の液体含有量まで、ステップ(b)の前記混合物を乾燥させることと
を含み、前記メチルセルロースは、1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位から構成され、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基
の水素原子は、s23/s26が0.27以下であるようにメチル基で置換され、
s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみ
の水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、且つ
s26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみ
の水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性成分と、メチルセルロースとを含む、新規徐放性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性剤形は、パーソナルケア及び農業用途、水処理、並びに特に製薬用途などの様々な技術分野における広範囲の用途が見出された。徐放性剤形は、長期間、水性環境中に有限量の活性成分を放出するように設計されている。徐放性製薬剤形は、過量服用することなく1回の適用で持続的な用量を送達する方法を提供するため、望ましい。既知の徐放性製薬剤形は薬剤又はビタミンを含み、その放出は、例えば1つ又はそれ以上の水溶性セルロースエーテルを含み得るポリマーマトリックスによって制御される。水溶性セルロースエーテルは、錠剤の表面上で水和して、ゲル層を形成する。ゲル層の急速な形成は、内部の湿潤及び錠剤中心部の崩壊を防ぐために重要である。ゲル層が形成されると、それは錠剤中への追加的な水の侵入を制御する。外層は完全に水和し、溶解するため、内部層はそれに代わらなければならず、且つ水の流入を遅らせるため、及び薬剤拡散を制御するために十分に凝集性であり、連続的でなければならない。
【0003】
経口剤形から活性成分の徐放を提供するために一般に使用されるセルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。例えば、米国特許第4,734,285号明細書は、固体錠剤の賦形剤として微粒子サイズのHPMCを利用することによって、活性成分の放出を長期化することができることを開示する。HPMCは、ポリマーマトリックスの成分として市販の経口製薬配合物中で使用され、通常、経口剤形の30重量%~60重量%の濃度で薬剤の徐放をもたらす。
【0004】
患者の中には、特に小児若しくは高齢者、又は嚥下障害のある患者の中には、カプセル又は錠剤などの従来の経口剤形を飲み込むこむことが困難であるものがいることは、製薬技術における周知の課題である。特に、そのような剤形で投与される薬剤が高用量薬剤であり、市販の剤形に含まれる典型的な量の製薬賦形剤と一緒に薬剤が配合される場合、それぞれの剤形を非常に長く製造するか、又は同時に飲み込まれなければならない2つ以上の剤形に用量が分割される必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、剤形の全体的なサイズの減少を可能にするため、そしてその徐放性特性を損なうことなく飲み込み性を改善するために、減少された量の賦形剤と一緒に薬剤が配合される経口剤形を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、水性環境中、体温で安定なヒドロゲルを形成することが可能であるメチルセルロースが、生理活性成分との混合物中で賦形剤として使用される場合、剤形を摂取する個体の胃で活性成分の徐放を提供することができることが判明した。理論によって制限されることを望まないが、剤形が、剤形中の固体の量未満、すなわち、固体の85重量%以下である液体希釈剤の量を使用して調製される場合、ヒドロゲルは、それが胃などの水性環境中でゆっくり水和するので、メチルセルロースから形成することが可能であるが、剤形を調製するために使用される液体希釈剤の量が固体の量を越える場合、ヒドロゲルの形成が可能となる前に、メチルセルロースは胃で希釈されるであろうことが仮定される。
【0007】
したがって、本発明は、メチルセルロースと混合された生理活性成分を含む、経口投与用の徐放性組成物であって、
メチルセルロースは、1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位を有し、そしてアンヒドログルコース単位のヒドロキシ基の水素原子は、s23/s26が0.27以下であるようにメチル基で置換され、
s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、且つ
s26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、
0:1~0.85:1の範囲の液体希釈剤対活性成分の重量比で液体希釈剤をさらに含んでなる組成物に関する。
【0008】
体温でヒドロゲルを形成することができるメチルセルロース(以下、低温ゲル化又はLTG、メチルセルロースとして記載される)は、文献中で製薬及び機能性食品配合物の賦形剤として開示されている。したがって、国際公開第2015/009796号パンフレットは、LTGメチルセルロース、生理活性剤及び液体希釈剤を含む粘膜適用のための液体組成物を開示する。メチルセルロースは、粘膜、例えば鼻腔への適用後にゲルを形成し、そして活性剤はゲルから経粘膜的に送達される。
【0009】
欧州特許第2997098B1号明細書は、それらが食物繊維として使用されて、摂取時のねばつき及び粘着性を少なくさせる場合に、それらの嗜好性を改善するための非スターチの水溶性多糖類のコーティングとして使用される0.36以下のs23/s26比を有するメチルセルロースを開示する。
【0010】
米国特許出願公開第2017/0260414号明細書は、15重量%水溶液として13~25℃の温度でゲル化するメチルセルロースを開示する。メチルセルロースは、矯味コーティングとして固体剤形上に適用される。
【0011】
米国特許第9,700,630B2号明細書は、35~40℃の範囲のゲル化温度を有する低分子量のメチルセルロースを開示する。メチルセルロースは、非経口薬剤送達が意図される液体徐放性組成物に含まれる。メチルセルロースは組織中への注入と同時にゲルを形成し、ゆっくり分解して、薬剤を放出する。
【0012】
放出制御マトリックス材料としてのメチルセルロースの使用は、K.S. Aithalら、Indian J.Dent.Res.1,Apr-Sep1990,174-181に開示される。咀嚼錠は、2重量%のNaF、30重量%のメチルセルロース、63重量%のラクトース及び5重量%のスターチ粉末を含有する。著者は、約80%のNaFがこの配合物から20分以内に放出されるが、より多く又はより少ないメチルセルロースを含有する錠剤からのNaFの放出も約15分であったことを報告する。メチルセルロースが数時間にわたって徐放を提供する賦形剤として使用され得ることは示されていない。
【0013】
本発明者は、経口投与時に固体剤形からの活性成分の徐放を提供するためのポリマーマトリックスの賦形剤としてのLTGメチルセルロースの使用を開示するいずれの文献も知らない。
【0014】
したがって、別の態様において、本発明は、1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位から構成されるメチルセルロースであって、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基の水素原子は、s23/s26が0.27以下であるようにメチル基で置換され、
s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、且つ
s26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率である、
メチルセルロースの、経口固体剤形からの活性成分の徐放を提供するポリマーマトリックスの賦形剤としての使用に関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、メチルセルロースと混合された生理活性成分を含む経口投与用の徐放性組成物を調製するプロセスであって、
(a)液体希釈剤中のメチルセルロースの溶液を提供することと、
(b)0.1:1~0.85:1の液体希釈剤対固体の重量比で、粉末又は結晶形態の活性成分及び任意選択的に1つ又はそれ以上の固体賦形剤を、メチルセルロースの溶液と混合することと、
(c)任意選択的に、混合物の10重量%未満の液体含有量まで、ステップ(b)の混合物を乾燥させることと
を含み、前記メチルセルロースは、1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位から構成され、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基の水素原子は、s23/s26が0.27以下であるようにメチル基で置換され、
s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、且つ
s26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率である、プロセスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】組成物を含有するゼラチンカプセルを900mlの0.1N HCl(pH 1.1)に浸漬させた場合の、LTGメチルセルロースの2%溶液を含有する本発明の組成物からのアセトアミノフェン(APAP)の経時的放出を示すグラフである。
【
図2】組成物を含有するゼラチンカプセルを900mlの0.1N HCl(pH 1.1)に浸漬させた場合の、LTGメチルセルロースの4%溶液を含有する本発明の組成物からのアセトアミノフェン(APAP)の経時的放出を示すグラフである。
【
図3】乾燥組成物を含有するゼラチンカプセルを900mlの0.1N HCl(pH 1.1)に浸漬させた場合の、一晩乾燥させたLTGメチルセルロースの2%溶液を含有する本発明の組成物からのアセトアミノフェン(APAP)の経時的放出を示すグラフである。
【
図4】一晩乾燥させたLTGメチルセルロースの2%溶液を含有する本発明の組成物から(-◆-として示す)、及び一晩乾燥させたMethocel A4Mメチルセルロースの2%溶液を含有する本発明の組成物から(-■-として示す)のアセトアミノフェン(APAP)の経時的放出を示すグラフである。
【
図5】乾燥組成物を含有するゼラチンカプセルを900mlの0.1N HCl(pH 1.1)に浸漬させた場合の、一晩乾燥させたLTGメチルセルロース及びCaCO
3の4%溶液を含有する本発明の組成物からのアセトアミノフェン(APAP)の経時的放出を示すグラフである。
【
図6】30重量%のLTGメチルセルロース(-x-として示される)、30重量%のHPMC K100 M(-◆-として示される)、又は90重量%の充填剤(-□-として示される)を含有する乾燥圧縮マトリックスの錠剤からのメトロプロロール酒石酸塩(metroprolol tartrate)の放出を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、液体希釈剤は、好ましくは50~100%の水を含有する水性液体であり、そして例えば、純水、又は組成物の調製の間に消泡助剤として作用する界面活性剤を含有する水から選択され得る。液体希釈剤対活性成分の重量比は、好ましくは0:1~0.75:1、0:1~0.70:1、0:1~0.65:1、0:1~0.60:1、0:1~0.60:1、0:1~0.55:1、0:1~0.50:1、0:1~0.45:1又は0:1~0.40:1の範囲にある。重量比率「0:1」は、組成物が乾燥されて、すなわち、実質的に添加された液体を含有しないことを示すように意図される。
【0018】
本発明において、胃などの水性環境でヒドロゲルを形成することができる特定のメチルセルロースは、メチルセルロースが活性成分と比較して非常に低い量で存在する場合であっても、組成物の経口投与時に活性成分の徐放を提供するための組成物の本質的成分である。メチルセルロースは、1-4結合によって結合されたアンヒドログルコース単位を有する。各アンヒドログルコース単位は、2位、3位及び6位においてヒドロキシル基を含有する。これらのヒドロキシルの部分的又は完全な置換によって、セルロース誘導体が作成される。例えば、苛性溶液と、それに続くメチル化剤によるセルロース繊維の処理によって、1つ又はそれ以上のメトキシ基によって置換されたセルロースエーテルが得られる。他のアルキルによってさらに置換されない場合、このセルロース誘導体は、メチルセルロースとして知られる。
【0019】
本発明の組成物で使用される特定のメチルセルロースの本質的な特徴は、メチル基の位置である。本発明の組成物は、s23/s26が0.27以下、好ましくは0.26以下、より好ましくは0.24以下又は0.22以下でさえあるように、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基の水素原子がメチル基によって置換されたメチルセルロースを含む。本発明のこの実施形態において、メチルセルロースのs23/s26は、典型的に0.08以上、0.10以上、0.12以上、0.14以上、0.16以上又は0.18以上である。
【0020】
比率s23/s26において、s23は、アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、そしてs26は、アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率である。s23の決定に関して、「アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率」という用語は、2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基の水素原子がメチル基によって置換され、6-位が未置換ヒドロキシ基であることを意味する。s26の決定に関して、「アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基のみの水素原子がメチル基によって置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率」という用語は、2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基の水素原子がメチル基によって置換され、3-位が未置換ヒドロキシ基であることを意味する。
【0021】
下記の式Iは、アンヒドログルコース単位中のヒドロキシ基の番号付けを示す。
【化1】
【0022】
本発明の一実施形態において、アンヒドログルコース単位のヒドロキシ基の水素原子は、メチルセルロースのs23/s26が0.27以下、好ましくは0.26以下、より好ましくは0.25以下、より好ましくは0.24以下又は0.22以下でさえあるようにメチル基によって置換される。本発明のこの実施形態において、メチルセルロースのs23/s26は、典型的に0.08以上、0.10以上、0.12以上、0.14以上、0.16以上又は0.18以上である。
【0023】
本発明の組成物中に含まれるメチルセルロースは、好ましくは1.55~2.25、より好ましくは1.65~2.20、そして最も好ましくは1.70~2.10のDS(メチル)を有する。メチルセルロースの、DS(メトキシ)とも示されるメチル置換度、DS(メチル)は、アンヒドログルコース単位あたりのメチル基によって置換されたOH基の平均数である。
【0024】
メチルセルロース中の%メトキシルの決定は、米国薬局方(USP 34)に従って実行される。得られる値は、%メトキシルである。これらを、その後、メチル置換基に関する置換度に変換する。塩の残留量は、変換において考慮された。
【0025】
本組成物中に含まれるメチルセルロースの粘度は、5℃、10秒-1の剪断速度で、2重量%水溶液として測定した場合、一般に少なくとも2.4mPa・秒、好ましくは少なくとも3mPa・秒、最も好ましくは少なくとも10mPa・秒である。メチルセルロースの粘度は、上記で示されるように測定される場合、好ましくは最高10,000mPa・秒まで、好ましくは最高5000mPa・秒まで、最も好ましくは最高2000mPa・秒までである。
【0026】
水性環境において、本組成物中に含まれるメチルセルロースは、体温(約35~37℃)でゲル化することができ、非常に低濃度のメチルセルロースでさえ水性環境で安定なヒドロゲルを形成することができ、満足な徐放性能が得られる。「安定なヒドロゲル」という用語は、本明細書で使用される場合、37℃で4時間、0.1N HCl(pH 1.1)中に入れた後、それらの形状を保持し、且つ完全に溶解しないか、又は有意に侵食されないヒドロゲルを意味するように意図される。メチルセルロースは、本明細書中、低温ゲル化(LTG)として記載される。ゲル化温度は、例えば国際公開第2015/009796号パンフレットに記載されるように決定されてよい。
【0027】
メチルセルロースの製造方法は、実施例にさらに詳細に記載される。一般に、セルロースパルプは、腐食剤、例えばアルカリ金属水酸化物で処理される。好ましくは、セルロースのモルアンヒドログルコース単位あたり約1.5~約3.0モルのNaOHが使用される。パルプの均一な膨潤及びアルカリ分布は、任意選択的に混合及びかき混ぜによって制御される。水性アルカリ性水酸化物の添加の速度は、発熱アルカリ化反応の間に反応器を冷却する能力によって制御される。一実施形態において、ジメチルエーテルなどの有機溶媒は、希釈剤及び冷却剤として反応器に添加される。同様に、反応器のヘッドスペースは、酸素との望ましくない反応、及びメチルセルロースの分子量損失を最小化するために、不活性ガス(窒素など)によって任意選択的にパージされる。一実施形態において、温度は45℃以下に保持される。
【0028】
塩化メチレンなどのメチル化剤は、一般にセルロースのアンヒドログルコース単位1モルあたり2.0~3.5モルのメチル化剤の量で、腐食剤の前、又は後、又はそれと同時に、従来の手段によってセルロースパルプに添加される。好ましくは、メチル化剤は腐食剤の後に添加される。セルロースが腐食剤及びメチル化剤と接触すると、反応温度は約75℃まで増加して、そして約30分間、この温度で反応する。
【0029】
好ましい実施形態において、段階的添加が使用され、すなわち、腐食剤の第2の量は、20~70℃に温度を維持しながら、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも45分かけて混合物に添加される。好ましくは、セルロースのアンヒドログルコース単位1モルあたり2~4モルの腐食剤が使用される。メチル化剤の段階的な第2の量は、腐食剤の前、後、又はそれと同時に、一般にセルロースのアンヒドログルコース単位1モルあたり2~4.5モルのメチル化剤の量で混合物に添加される。好ましくは、メチル化剤の第2の量は、腐食剤の第2の量の前に添加される。
【0030】
塩及び他の反応副産物を除去するために、メチルセルロースを洗浄する。塩が可溶性であるいずれの溶媒も利用されてよいが、水が好ましい。メチルセルロースは反応器中で洗浄されてもよいが、好ましくは反応器の下流に位置する別々の洗浄機において洗浄される。洗浄の前又は後に、残留する有機含有量を減少させるために、蒸気に曝露することによってメチルセルロースがストリッピングされてもよい。セルロースエーテルは、その後、部分的脱重合プロセスを受けてもよい。部分的脱重合プロセスは当該技術分野において既知であり、例えば欧州特許第1141029号明細書、欧州特許第210917号明細書、欧州特許第1423433号明細書及び米国特許第4316982号明細書に記載される。或いは、部分的脱重合は、セルロースエーテルの製造の間、例えば酸素又は酸化剤の存在によって達成可能である。
【0031】
メチルセルロースの重量に基づき、好ましくは約0.5~約10.0重量パーセントの水、より好ましくは約0.8~約5.0重量パーセントの水及び揮発性物質の減少された水及び揮発性物質含有量になるまで、メチルセルロースを乾燥させる。水及び揮発性物質含有量を減少させることによって、メチルセルロースを粒子形態へとミル粉砕することが可能となる。メチルセルロースは、所望のサイズの微粒子へとミル粉砕される。必要に応じて、乾燥及びミル粉砕は同時に行われてもよい。
【0032】
上記LTGメチルセルロースは、徐放性剤形のための賦形剤として有用であり、すなわち、長期間、剤形からの活性成分の放出を調整する機能を有することを意味する。「徐放性」という用語は、本明細書中、「放出制御」という用語と同義的に使用される。徐放は、生理活性化合物などの活性成分を、意図された効果を達成するように設計された速度及び期間で利用可能にさせるアプローチである。LTGメチルセルロースは、活性成分が包埋されるポリマーマトリックスの全部又は一部を形成するために有用である。ポリマーマトリックスは、剤形からの活性成分の徐放をもたらすことができる1つ又はそれ以上の他のポリマーを追加的に含んでもよい。LTGメチルセルロースは、典型的に、ポリマーマトリックスの少なくとも50重量%、好ましくは60~100重量%、より好ましくは70~100重量%、より好ましくは80~100重量%、そして最も好ましくは90~100重量%を構成する。1つ又はそれ以上の他のポリマーがポリマーマトリックス中に含まれる場合、それらは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、0.27~0.36若しくは0.38~0.42のs23/s26を有するメチルセルロース、又はカルボキシメチルセルロース、或いはアルギン酸ナトリウム又はアルギン酸カルシウムなどの他の多糖類から選択されてもよい。しかしながら、LTGメチルセルロースがポリマーマトリックスの100重量%を構成することが一般に好ましい。
【0033】
LTGメチルセルロースは、徐放性剤形、特に所望の血漿プロファイルを達成するために活性成分の吸収速度を制御するための薬剤又は他の生理活性成分の経口投与、及び消化管中へのその放出が意図される剤形に含まれてよい。剤形中のLTGメチルセルロース及び活性成分の合計量は、剤形の乾燥重量を基準として、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%、及び剤形の乾燥重量を基準として、最高100%まで、好ましくは最高98%まで、最も好ましくは最高95%までである。
【0034】
剤形は、剤形から全て又はほぼ全ての活性成分を放出するために4~30時間、好ましくは8~24時間などの長期間をかけての活性成分の遅く連続的な放出を介して、変動が減少した状態で、血漿中一定又はほぼ一定濃度の活性成分を提供するように設計されている。
【0035】
ポリマーマトリックスが部分的に、又は完全にLTGメチルセルロースから形成される錠剤及びカプセルなどの徐放性剤形は、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、そして最適化条件下では少なくとも8時間などの長期間にわたって損傷がないままであることが判明した。理論に束縛されることを望まないが、LTGメチルセルロースが水和し、体温において水性液体との接触時に剤形の外側表面上で強膨張層を形成すると考えられる。強膨張層は、剤形の腐食によって引き起こされる活性成分の放出を最小化する。錠剤又はカプセル含有物が分散しない(すなわち、任意の有意な程度まで分離しない)ため、活性成分の放出は、剤形の外側表面上のメチルセルロースの水和によって形成された膨張層からの遅い拡散によって制御される。強膨張層は徐放性剤形中への水の侵入を減少させ、そしてその中に水が拡散し、活性成分を溶解させる剤形の領域における水の量が減少したために、水性環境中への活性成分、特に水溶性活性成分の放出が遅くなる。
【0036】
組成物中のLTGメチルセルロースの濃度は広範な限度の間で変動し得、例えば最高60重量%までの活性成分の濃度で含まれ得るが、驚くべきことに、ポリマーマトリックスの全て又は一部分として非常に低量のLTGメチルセルロースを用いて、活性成分の本質的に同じ放出速度を達成することができることが判明した。したがって、活性成分の乾燥重量を基準として、0.1~10%、好ましくは0.2~5.0%、より好ましくは0.5~4.0%、より好ましくは0.75~2.0%、なおより好ましくは0.8~1.5%の濃度で単独マトリックスポリマーとして剤形中にLTGメチルセルロースが含まれる場合、約30重量%のHPMCを典型的に含有する市販の徐放性剤形と本質的に同じ活性成分の放出速度を達成することができることが判明した。一実施形態において、LTGメチルセルロースは、活性成分の乾燥重量を基準として約1%の濃度で単独マトリックスポリマーとして剤形中に含まれる。錠剤又はカプセルなどの得られた徐放性剤形はサイズがより小さく、したがって、摂取がより容易である。剤形に他の任意の賦形剤を添加することなく、満足な放出速度が得られ得ることがさらに判明したが、任意選択的に消泡剤として界面活性剤が製造プロセスの間に添加されてもよい。
【0037】
一実施形態において、組成物は、摂取時に胃液と反応し、CO2などのガスを生成させる添加剤を含む。発生したガスはヒドロゲル中に捕捉され、その結果として、胃内容物の表面に浮いて、長期の胃保持時間がもたらされる。長期の胃保持時間は、活性成分の生物学的利用能を改善して、放出の期間を増加させて、腸の高pH環境では容易に溶解しない活性成分の溶解度を改善する。胃液との接触時にガスを生成する添加剤の例は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、例えばCaCO3又はNa2CO3である。添加剤の濃度は、組成物の1~5重量%の範囲、好ましくは1.5~3重量%、例えば2重量%であり得る。
【0038】
本組成物は、任意選択的に加工助剤として界面活性剤を溶液に添加して、本プロセスのステップ(a)において水などの液体希釈剤中のLTGメチルセルロースの溶液を提供することによって適切に調製され得る。次いで、粉末又は結晶形態の活性成分、及び任意選択的に1つ又はそれ以上の固体賦形剤を、本プロセスのステップ(b)においてLTGメチルセルロース溶液と混合してよい。ステップ(b)で固体と混合される液体希釈剤の量は、固体の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは少なくとも40重量%であり、且つ固体の最高85重量%まで、好ましくは最高75重量%まで、より好ましくは最高70重量%まで、なおより好ましくは最高60重量%まで、最も好ましくは最高50重量%までである。「固体」という用語は、組成物中の活性成分、LTGメチルセルロース、及び任意選択的に1つ又はそれ以上の他の固体賦形剤の組合せを意味するものとして理解される。
【0039】
界面活性剤の添加は、低濃度の液体希釈剤を均質に分布させ、おそらく消泡及び乳化によって、平滑な高粘性半固体ペーストを製造することの補助となる。界面活性剤は、アニオン官能基を有するアニオン界面活性剤、例えば、スルフェート、スルホネート、ホスフェート及びカルボキシレート、例えばアルキル硫酸塩、例えばラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム、SLS又はSDS)及びアルキルエーテル硫酸塩、例えば、ラウレス硫酸ナトリウム(ラウリルエーテル硫酸ナトリウム又はSLES)及びミレス硫酸ナトリウムなど;カチオン官能基を有するカチオン界面活性剤、例えば、臭化セトリモニウム(CTAB)、塩化セチルピリジニウム(CPC)、塩化ベンザルコニウム(BAC)、塩化ベンゼトニウム(BZT)、塩化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、臭化ジオクタデシルジメチルアンモニウム(DODAB)など;双性イオン界面活性剤、例えば、コカミドプロピルベタインなど;並びにノニオン界面活性剤、例えば、変性ポリジメチルシロキサンベースの消泡剤などのシロキサン界面活性剤、エトキシレート、グリセロールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びサッカロースなどからなる群から選択される従来の消泡剤から選択されてよい。
【0040】
界面活性剤の濃度は、組成物の0.1~1.5重量%の範囲にあってよい。
【0041】
本発明の一実施形態において、活性成分と混合させたLTGメチルセルロースを含む組成物は、乾燥粉末の形態である。乾燥粉末は、本プロセスのステップ(c)において、当該技術分野において既知の様式で、混合物が10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%、特に2重量%未満、例えば1重量%未満の含水量を有するようになるまで、40~100℃の温度でメチルセルロース溶液及び活性成分の混合物を乾燥させ、続いて、所望の粒径の顆粒になるまで、混合物をミル粉砕又は製粉することによって調製されてよい。乾燥粉末は、典型的に、上記で示したように活性成分の徐放を促進するメチルセルロース中に部分的に又は完全に包埋された活性成分を含む顆粒を含有するであろう。
【0042】
一実施形態において、本発明は、本組成物を含む単位剤形に関する。単位剤形は、経口投与が意図されたものであり、乾燥組成物の圧縮顆粒を含む錠剤の形態であってよい。或いは、単位剤形は、上記で記載されたように調製される半固体ペーストを押出成形し、押出成形された物体を適切な径に切り分け、続いて乾燥することによって調製される錠剤又はペレットの形態であってもよい。錠剤は、任意選択的に1つ又はそれ以上の他の賦形剤を含んでもよいが、上記で示されるように胃液と反応してガスを発生させることができる界面活性剤及び/又は添加剤も任意選択的にまれ得ることを除き、好ましくはLTGメチルセルロースが剤形中に含まれる唯一の賦形剤である。単位剤形は、好ましくはLTGメチルセルロース及び活性成分の混合物を含有する乾燥顆粒の形態で、乾燥組成物を含むカプセルでもあり得る。単位剤形は、湿潤混合物であらかじめ充填されたシリンジ又はポーチの形態であってもよく、この剤形は幼児により容易に投与され得る。
【0043】
単位剤形は、1つ又はそれ以上の生理活性成分、好ましくは1つ又はそれ以上の薬剤、1つ又はそれ以上の診断薬、或いは美容目的又は栄養目的のために有用である1つ又はそれ以上の生理活性成分を含有する。「薬剤」という用語は、個体、典型的に哺乳類、特にヒト個体に投与される時に有益な予防及び/又は治療特性を有する化合物を意味する。摂取がより容易となる径で活性成分の必要量を含む単位用量を提供することが可能であるため、この剤形は、高用量薬剤、すなわち、500mg以上の単位用量で投与される薬剤を投与するために特に適切であると考えられる。高用量薬剤の例は、メトホルミン、塩酸メトホルミン、アセトアミノフェン(パラセタモール)又はアセチルサルチル酸である。したがって、各単位剤形は、典型的に500~1000mgの活性成分を含み得る。
本発明のいくつかの実施形態が、以下の実施例においてここで詳細に記載される。
特に明記しない限り、全ての部及び百分率は、重量による。本実施例では、以下の試験手順を用いる。
【0044】
メチルセルロースの製造
メチルセルロースは、以下の手順によって製造された。微細製粉された木材セルロースパルプを、ジャケット付きの撹拌反応器に装填した。酸素を除去するために反応器を脱気し、窒素パージして、次いで再び脱気した。反応を2段階で実行する。第1段階において、セルロース中のアンヒドログルコース単位1モルあたり1.8モルの水酸化ナトリウムの濃度に達するまで、50重量%の水酸化ナトリウム水溶液をセルロース上に噴霧し、そして温度を40℃に調整した。40℃で約20分間、水酸化ナトリウム水溶液及びセルロースの混合物を撹拌した後、アンヒドログルコース単位1モルあたり1.5モルのジメチルエーテル及び2.3モルの塩化メチルを反応器に添加した。次いで、反応器の含有物を60分間、80℃まで加熱した。80℃に達した後、第1段階の反応を5分間進行させた。次いで、反応物を20分間で65℃まで冷却した。
【0045】
アンヒドログルコース単位1モルあたり3.4モル当量の塩化メチルの量での塩化メチルの添加によって、第2段階の反応を開始した。塩化メチルの添加時間は20分間であった。次いで、アンヒドログルコース単位1モルあたり2.9モルの水酸化ナトリウムの量の50重量%の水酸化ナトリウム水溶液を45分間かけて添加した。添加速度は、1分あたりアンヒドログルコース単位1モルあたり0.064モルの水酸化ナトリウムであった。第2段階の添加が完了した後、反応器の内容物を20分間で80℃まで加熱し、次いで120分間、80℃の温度を保持した。
【0046】
反応後、反応器を開放し、そして50℃まで冷却した。反応器の含有物を除去し、熱水を含有するタンク中に移した。次いで、粗製メチルセルロースをギ酸で中和し、熱水を用いて塩化物がなくなるまで洗浄し(AgNO3凝集試験によって評価する)、室温まで冷却し、空気が掃除された乾燥機中、55℃で乾燥させ、その後、製粉した。メチルセルロースは、1.88のDS(メチル)(30.9重量%のメトキシル)、0.3276±0.0039のモル分率(26-Me)、0.0642±0.0060のモル分率(23-Me)、0.20±0.02のs23/s26及び5500mPa・秒の一定-剪断-流粘度η(5℃、10秒-1、2重量%MC)を有した。メチルセルロースの特性は、下記のように測定された。
【0047】
メチルセルロースのs23/s26の決定
メチルセルロース中のエーテル置換基を測定するアプローチは、一般に既知である。例えば、Bengt Lindberg、Ulf Lindquist及びOlle Stenbergによる、Carbohydrate Research,176(1988)137-144,Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam,DISTRIBUTION OF SUBSTITUENTS IN O-ETHYL-O-(2-HYDROXYETHYL)CELLULOSE中、Ethyl Hydroxyethyl Celluloseに関する原理に記載される。
【0048】
具体的には、s23/s26の決定は、以下の通りに実行された:
10~12mgのメチルセルロースを、撹拌しながら、約90℃で4.0mLの乾燥分析-グレードジメチルスルホキシド(DMSO)(Merck,Darmstadt,Germany、0.3nmモレキュラーシーブビーズ上で貯蔵されたもの)中に溶解し、次いで室温まで冷却した。完全な可溶化/溶解を確実にするために、溶液を一晩、室温で撹拌させた。メチルセルロースの可溶化を含む全てのペルエチル化は、4mLのスクリューキャップバイアル中、乾燥窒素雰囲気を使用して実行された。可溶化後、溶解されたメチルセルロースを22mLのスクリューキャップバイアル中に移し、ペルエチル化プロセスを開始した。メチルセルロース中のアンヒドログルコース単位の濃度に対して30倍モル過剰量で、粉末状の水酸化ナトリウム(新たに乳棒ですったもの、分析グレード、Merck,Darmstadt,Germany)及びヨウ化エチル(分析用、銀で安定化されたもの、Merck-Schuchardt,Hohenbrunn,Germany)を導入し、そして混合物を周囲温度で3日間、暗室中、窒素下で強力に撹拌した。第1の試薬添加と比較して3倍量の試薬水酸化ナトリウム及びヨウ化エチルを添加することによって、ペルエチル化を繰り返し、そして室温での撹拌をさらに2日間継続した。反応経過中の良好な混合を確実にするために、任意、選択的に、反応混合物を最高1.5mLまでのDMSOで希釈することができた。次に、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液5mLを反応混合物中に注ぎ入れ、次いで、混合物を4mLのジクロロメタンで3回抽出した。組み合わせた抽出物を2mLの水で3回洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム(約1g)によって乾燥させた。濾過後、穏やかな窒素流中で溶媒を除去し、そして必要となるまで4℃で試料を貯蔵した。
【0049】
約5mgのペルエチル化された試料の加水分解は、100℃で1時間の撹拌下、1mLの90%含水ギ酸を含む2mLのスクリューキャップバイアル中、窒素下で実行した。35~40℃の窒素流中で酸を除去し、そして撹拌しながら、不活性窒素雰囲気中、120℃で3時間、1mLの2M含水トリフルオロ酢酸を用いて加水分解を繰り返した。完了後、共蒸留のために約1mLのトルエンを使用して、周囲温度において窒素流中で酸を除去乾固した。
【0050】
加水分解の残留物は、撹拌しながら、室温で3時間、2Nアンモニア水溶液(新たに調製されたもの)中0.5M重水素化ホウ素ナトリウム0.5mLによって還元した。約200μLの濃酢酸の液滴添加によって過剰量の試薬を破壊した。得られた溶液を約35~40℃の窒素流中で蒸発乾固させ、その後、室温で15分間、真空中で乾燥させる。粘性の残留物をメタノール中15%の酢酸0.5mL中に溶解し、室温で蒸発乾固した。これを5回実行し、純粋なメタノールを用いて、さらに4回繰り返した。最終蒸発後、試料を室温で一晩、真空乾燥させた。
【0051】
還元の残留物を、90℃で3時間、600μLの無水酢酸及び150μLのピリジンを用いてアセチル化した。冷却後、試料バイアルにトルエンを充填し、室温において窒素流中で蒸発乾固させた。残留物を4mLのジクロロメタン中に溶解し、2mLの水中に注ぎ入れ、2mLのジクロロメタンで抽出した。抽出を3回繰り返した。組み合わせた抽出物を4mLの水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、乾燥ジクロロメタン抽出物にGC分析を受けさせた。GCシステムの感度次第で、抽出物のさらなる希釈が必要となり得た。
【0052】
1.5バールのヘリウムキャリアガスを用いて操作された、Agilent J&Wキャピラリーカラム(30m、内径0.25mm、0.25μm相層厚)を備えたAgilent 6890N型のガスクロマトグラフ(Agilent Technologies GmbH,71034 Boeblingen,Germany)によって、ガス-液体(GLC)クロマトグラフィ分析を実行した。ガスクロマトグラフは、1分間60℃で一定に保持し、20℃/分の速度で200℃まで加熱し、4℃/分の速度で250℃までさらに加熱し、20℃/分の速度で310℃までさらに加熱し、さらに10分間一定に保持されるという温度プロファイルでプログラムされた。インジェクター温度を280℃に設定し、そして水素炎イオン化検出器(FID)の温度を300℃に設定した。正確に1μLの各試料を0.5分のバルブ時間でスプリットレスモードで注入した。LabSystems Atlasワークステーションによってデータを入手し、処理した。
【0053】
FID検出を用いてGLCによって測定されるピーク面積から定量的なモノマー組成データが得られた。モノマーのモル応答は、下記の表に記載される通りに変更された有効炭素数(ECN)の概念と同調して算出された。有効炭素数(ECN)の概念は、Ackman(R.G.Ackman,J.Gas Chromatogr.,2(1964)173-179及びR.F.Addison,R.G.Ackman,Gas Chromatogr.,6(1968)135-138)によって説明され、そしてSweetら(D.P.Sweet,R.H.Shapiro,P.Albersheim,Carbohyd.Res.,40(1975)217-225)によって、部分的にアルキル化されたアルジトールアセテートの定量的な分析に適用された。
【0054】
【0055】
モノマーの種々のモル応答に関して補正するために、ピーク面積は、2,3,6-Meモノマーに対して応答として定義されるモル応答因子MRFモノマーによって乗算された。2,3,6-Meモノマーは、s23/s26の決定において分析された全ての試料中にそれが存在するため、参照として選択された。
MRFモノマー=ECN2,3,6-Me/ECNモノマー
【0056】
モノマーのモル分率は、以下の式に従って、補正されたピーク面積を、全ての補正されたピーク面積によって分割することによって算出された。
(1)s23は、以下の条件[アンヒドログルコース単位の2-位及び3-位の2つのヒドロキシ基の水素原子はメチル基によって置換され、そして6-位は置換されない(=23-Me)]を満たすアンヒドログルコース単位のモル分率の合計であり、且つ
(2)s26は、以下の条件[アンヒドログルコース単位の2-位及び6-位の2つのヒドロキシ基の水素原子はメチル基によって置換され、そして3-位は置換されない(=26-Me)]を満たすアンヒドログルコース単位のモル分率の合計である。
【0057】
DS(メチル)メチルセルロースの決定
メチルセルロース中の%メトキシルの決定は、米国薬局方(USP34)に従って実行される。得られる値は、%メトキシルであった。これらを、その後、メチル置換基に関する置換度に変換した。塩の残留量は、変換において考慮された。
【0058】
メチルセルロースの2%純粋水溶液の製造
メチルセルロースの2%水溶液を得るために、3-ウィング(ウイング=2cm)ブレード撹拌器を備えた750rpmオーバーヘッド研究室撹拌器を用いて撹拌しながら、(メチルセルロースの含水量を考慮しながら)ミル粉砕、製粉及び乾燥が行われた3gのメチルセルロースを室温で147gの水道水(温度20~25℃)に添加した。次いで、溶液を約1.5℃まで冷却した。1.5℃の温度に達した後、溶液を750rpmsで180分間撹拌した。使用又は分析の前に、溶液を氷浴中で15分間、100rpmで撹拌した。
【0059】
メチルセルロースの粘度の決定
Anton Paar Physica MCR 501レオメーター並びにカップ及びボブ備品(CC-27)を用いて、5℃、10秒-1の剪断速度で、2重量%のメチルセルロース水溶液の一定-剪断-流粘度η(5℃、10秒-1、2重量%MC)を測定した。
【実施例】
【0060】
実施例1:LTGメチルセルロースを含むゼラチンカプセルからのアセトアミノフェンの放出
LTGメチルセルロースの2重量%の水溶液を調製し、そして変性ポリジメチルシロキサンベースの消泡剤(商品名Foamstar SI2210でBASFから入手可能)を溶液に添加した。白色の均質で高度に粘性のあるペーストが得られるまで、10.0gのアセトアミノフェン(本明細書中、APAPと略される)を5.0gのLTGメチルセルロース溶液と十分混合した。ペースト中のFoamstar SI2210の含有量は0.0885gであった。混合物をシリンジに充填し、ゼラチンカプセル(サイズ000)に注入し、これをその後、閉鎖し、密閉した。各カプセルは、2mg/mlのAPAPを含有した。充填されたカプセルを37℃において900mlの0.1N HCl(pH 1.1)中に即座に配置し、22時間、150rpmで振とうした。薬剤放出は、0.1mmの経路長さで、243nmの波長で測定された。
【0061】
カプセルからのAPAPの放出を
図1に示す。この図から、約75%のAPAPが24時間後に各カプセルから放出されたことが明らかである。
【0062】
視覚による検査によって、0.1N HCl中での浸入の24時間後でさえ、活性成分の固体コアを有するヒドロゲルのカプセルは明らかに目に見えたことが示された。
【0063】
LTGメチルセルロースの4%水溶液と混合したAPAPの混合物を充てんしたカプセルで類似の実験を行った。
図2から、約75%のAPAPが、ゼロ次数の様式で、24時間かけてカプセルから放出されたことが明らかである。
【0064】
腸/大腸での条件を模倣するために、上記と類似の条件でUSPリン酸塩緩衝剤pH 7.4中、LTGメチルセルロースの2%溶液と混合されたAPAPを含有するゼラチンカプセルを配置した。
【0065】
視覚による検査によって、リン酸緩衝剤pH 7.4中での浸入の24時間後でさえ、活性成分の固体コアを有するヒドロゲルのカプセルは明らかに目に見えたことが示された。カプセルからの活性成分の溶解プロファイルは、カプセルがリン酸緩衝剤中に浸漬された場合、HCl(pH 1.1)中と類似であったこと、すなわち、本発明の組成物は、胃及び腸の両方の中で活性成分の放出制御を得るために使用されることができることが結論づけられた。
【0066】
実施例2:LTGメチルセルロースを含有する乾燥ゼラチンカプセルからのアセトアミノフェンの放出
LTGメチルセルロースの2重量%の水溶液を調製し、そして変性ポリジメチルシロキサンベースの消泡剤(商品名Foamstar SI2210でBASFから入手可能)を溶液に添加した。白色の均質で高度に粘性のあるペーストが得られるまで、10.0gのAPAPを5.0gのLTGメチルセルロース溶液と十分混合した。ペースト中のFoamstar SI2210の含有量は0.0885gであった。ゼラチンカプセル(サイズ000)に約1gのペーストを充填し、その後、閉鎖した。次いで、カプセルを50℃で一晩、慎重に乾燥させた。各カプセルは、約1gのAPAP及び10mgのLTGメチルセルロースを含有した。乾燥カプセルを37℃において900mlの0.1N HCl(pH 1.1)中に配置し、22時間、150rpmで振とうした。薬剤放出は、0.1mmの経路長さで、243nmの波長で測定された。
【0067】
カプセルからのAPAPの放出を
図3に示す。この図から、約75%の薬剤が24時間後に各カプセルから放出されたことが明らかである。
【0068】
視覚による検査によって、0.1N HCl(pH 1.1)中での浸入の22時間後でさえ、活性成分の小固体コアを有するヒドロゲルのカプセルは明らかに目に見えたことが示された。したがって、乾燥組成物からの活性成分の放出は、湿潤組成物からのものと類似であるように見える。
【0069】
実施例3:LTGメチルセルロース及びA4Mメチルセルロースを含有する乾燥ゼラチンカプセルからのアセトアミノフェンの放出
LTGメチルセルロース及びMethocel A4Mメチルセルロース(DuPontから入手可能)の2重量%の水溶液を調製し、そして変性ポリジメチルシロキサンベースの消泡剤(商品名Foamstar SI2210でBASFから入手可能)を各溶液に添加した。A4Mメチルセルロースは、1.82のDS(メチル)、0.38~0.42のs23/s26、及び4580mPa・秒の一定-剪断-流粘度η(5℃、10秒-1、2重量%メチルセルロース)を有した。白色の均質で高度に粘性のあるペーストが得られるまで、10.0gのAPAPを5.0gのLTGメチルセルロース及びA4Mメチルセルロースの溶液とそれぞれ十分混合した。各ペースト中のFoamstar SI2210の含有量は0.0885gであった。ゼラチンカプセル(サイズ000)に約1gの各ペーストを充填し、その後、閉鎖した。次いで、カプセルを50℃で一晩、慎重に乾燥させた。各カプセルは、約1gのAPAP及び10mgのLTGメチルセルロース又はA4Mメチルセルロースを含有した。乾燥カプセルを37℃において900mlの0.1N HCl(pH 1.1)中に配置し、22時間、150rpmで振とうした。薬剤放出は、0.1mmの経路長さで、243nmの波長で測定された。
【0070】
カプセルからのAPAPの放出を
図4に示す。この図から、A4Mメチルセルロースを含有するカプセルからは6時間後に約90%の薬剤が放出されたのに対して、徐放性ポリマーマトリックスとしてLTGメチルセルロースを含有するカプセルからは24時間後に約75%の薬剤が放出されたことが明らかである。したがって、LTGメチルセルロースから構成されるポリマーマトリックスは、1日1回投与用の経口剤形として特に適切であるように見える。
【0071】
実施例4:LTGメチルセルロース及びCaCO3を含有する乾燥ゼラチンカプセルからのアセトアミノフェンの放出
LTGメチルセルロースの4重量%の水溶液を調製し、そして0.196gのCaCO3を溶液に添加した。均質で高度に粘性のあるペーストが得られるまで、6.373gのAPAPを溶液と十分混合した。ゼラチンカプセル(サイズ000)に約1gのペーストを充填し、その後、閉鎖した。次いで、カプセルを60℃でオーブン内で24時間慎重に乾燥させた。
【0072】
乾燥カプセルを37℃において900mlの0.1N HCl(pH 1.1)中に配置し、22時間、150rpmで振とうした。薬剤放出は、0.1mmの経路長さで、243nmの波長で測定された。
【0073】
乾燥カプセルからのAPAPの放出を
図5に示す。この図から、約80%の薬剤が22時間後に放出されたことが明らかである(図中、-●-として示す)。
【0074】
実施例5(比較):マトリックスポリマーとしてLTGメチルセルロース又はHPMC K100Mを含むマトリックス錠剤からのメトロプロロール酒石酸塩(metroprolol tartrate)の放出
以下の表に従って、異なる比率でHPMC K100M(DuPontから入手可能)、LTGメチルセルロース、メトロプロロール酒石酸塩(metroprolol tartrate)、リン酸酸二カルシウム及びステアリン酸マグネシウムの乾燥粉末ブレンドを使用して錠剤を製造した。錠剤は、7.5tの圧縮力を用いて、手動IR錠剤プレス(Perkin-Elmer,Norwalk,USA)で押圧された。
【0075】
【0076】
メトロプロロール酒石酸塩(metroprolol tartrate)の放出を
図6に示す。この図から、成分の乾燥混合と、それに続く錠剤への圧縮によって調製されたHPMC K100Mを含むマトリックス錠剤が、600分以内に約90%の活性成分を放出した(-◆-として示される)のに対して、90重量%のリン酸二カルシウムによって調製されたマトリックス錠剤(-□-として示される)と同様に、成分の乾燥混合と、それに続く錠剤への圧縮によって調製されたLTGメチルセルロースを含むマトリックス錠剤は、20分以内に100%の活性成分を放出した(-x-として示される)ことが明らかである。