IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許7535527形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法
<>
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図1
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図2
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図3
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図4
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図5
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図6
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図7
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図8
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図9
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図10
  • 特許-形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240808BHJP
   C12P 7/44 20060101ALI20240808BHJP
   C12P 7/42 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240808BHJP
   C12N 9/48 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/44
C12P7/42
C12N15/52 Z
C12N15/31
C12N9/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021545163
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029763
(87)【国際公開番号】W WO2021049207
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019163743
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛利 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】有川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第16/194771(WO,A1)
【文献】国際公開第19/142845(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105779488(CN,A)
【文献】ZHANG, Xing-Chen et al.,Engineering cell wall synthesis mechanism for enhanced PHB accumulation in E.coli,Metabolic Engineering,2017年11月24日,Vol.45,p.32-42
【文献】UniProtKB,Accesion No.Q0K924, H16_A2405 gene,[online], Last sequence update: October 3, 2006, [retrived on 2020.08.25], 〈URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q0K924〉
【文献】UniProtKB,Accesion No.Q0KBU9, H16_A1386 gene,[online], Last sequence update: October 3, 2006, [retrived on 2020.08.25], 〈URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q0KBU9〉
【文献】SHEN, Rui et al.,Manipulation of polyhydroxyalkanoate granular sizes in Halomonas bluephagenesis,Metablic Engineering,2019年04月06日,Vol.54,p.117-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12P 7/44
C12P 7/42
C12N 15/00-15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を有し、A1386遺伝子、及び/又は、A2405遺伝子の発現を低下させた、カプリアビダス・ネカトールの形質転換微生物であって、
前記A1386遺伝子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドグリカンの加水分解酵素をコードする遺伝子であり、
前記A2405遺伝子が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドグリカンの加水分解酵素をコードする遺伝子である、形質転換微生物。
【請求項2】
さらに、配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む細胞分裂を制御する機能を持つタンパク質をコードするminC遺伝子及び、配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む細胞分裂を制御する機能を持つタンパク質をコードするminD遺伝子の発現が強化された、請求項に記載の形質転換微生物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の形質転換微生物を、炭素源の存在下で培養する工程を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項4】
ポリヒドロキシアルカン酸が、2種以上のヒドロキシアルカン酸の共重合体である、請求項に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含有する共重合体である、請求項に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項6】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸との共重合体である、請求項に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換微生物、及び当該微生物を用いたポリヒドロキシアルカン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、食糧問題、健康及び安全に対する意識の高まり、天然又は自然志向の高まりなどを背景に、微生物を利用した物質製造(発酵生産、バイオ変換など)の意義及び重要性が益々高まっており、タンパク質医薬品や遺伝子治療用の核酸などの製造にも、微生物による物質生産が応用されている。例えば、酵母やバクテリアなどの微生物を利用したエタノール、酢酸、医療用タンパク質の生産などが活発に産業応用されている。
【0003】
その一例として、生分解性プラスチックとしての産業利用が期待されているポリヒドロキシアルカン酸(以下、PHAともいう)の微生物による生産が挙げられる(非特許文献1を参照)。PHAは、多くの微生物種の細胞にエネルギー蓄積物質として産生、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、生分解性を有している。現在、環境への意識の高まりから非石油由来のプラスチックが注目されるなか、特に、微生物が菌体内に産生、蓄積するPHAは、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることから生態系への悪影響が小さいと予想されており、その実用化が切望されている。微生物を利用したPHA生産では、例えば、カプリアビダス属細菌に炭素源として糖、植物油脂や脂肪酸を与え、細胞内にPHAを蓄積させることでPHAを生産することが知られている(非特許文献2及び3を参照)。
【0004】
しかしながら、微生物を利用した物質生産においては、微生物細胞や目的生産物の分離回収工程が煩雑となり、生産コストが高くなることが問題となるケースがある。従って、分離回収効率を向上させることは、生産コストの低減のための大きな課題であった。
【0005】
PHAを生産した微生物における細胞の大型化では、例えば、細胞分裂を阻害するタンパク質minCDを過剰発現することや、ペプチドグリカン合成酵素の1つである単機能性ペプチドグリカングリコシルトランスフェラーゼを破壊することで、PHAを生産した微生物細胞が大型化することが知られている(非特許文献4及び特許文献1を参照)。しかしながら、ペプチドグリカンの加水分解酵素とPHAを生産した微生物の細胞形態との関連性についてはこれまでに報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Anderson AJ.,et al.,Int.J.Biol.Macromol.,12,201-105(1990)
【文献】Sato S.,et al.,J.Biosci.Bioeng.,120(3),246-251(2015)
【文献】Insomphun C.,et al.,Metab.Eng.,27,38-45(2015)
【文献】Shen R.,et al.,Metab.Eng.,54,117-126(2019)
【文献】国際公開第2016/194771号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PHAは微生物細胞内に蓄積される。微生物細胞内に蓄積されたPHAを生分解性プラスチックとして利用するためには、まず、培養液から微生物細胞を分離回収することになる。微生物細胞の分離回収に際しては、遠心分離機や分離膜等を使用できるが、分離回収の容易さや効率は、微生物細胞の大きさに依存する。即ち、微生物細胞が大きいほど、遠心分離機や分離膜等を用いた分離回収を容易に効率よく実施でき、生産コストの低減につながる。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、PHAを蓄積し、かつ大型化が可能な形質転換微生物、及び、当該形質転換微生物を用いたPHAの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、カプリアビダス属細菌においてペプチドグリカンの加水分解酵素と推定されている、A0302遺伝子、A0597遺伝子、A1386遺伝子、A2272遺伝子、A2405遺伝子のうちいずれかの発現を低下させた結果、A1386遺伝子またはA2405遺伝子の発現を低下させることで、工業的に望ましいPHA蓄積量を維持しながら、微生物細胞を大型化できることを見出し、本発明に至った。さらに、上記A1386遺伝子またはA2405遺伝子の発現を低下させることに加えて、minC遺伝子およびminD遺伝子の発現を強化することで、微生物細胞をより大型化できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸合成酵素遺伝子を有し、A1386遺伝子、及び/又は、A2405遺伝子の発現を低下させた、形質転換微生物に関する。好ましくは、A1386遺伝子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子であり、A2405遺伝子が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子である。該形質転換微生物は、さらに、minC遺伝子及びminD遺伝子の発現が強化されたものであってもよい。好ましくは、前記minC遺伝子が、配列番号3に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子であり、前記minD遺伝子が、配列番号4に記載のアミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子である。前記形質転換微生物は、カプリアビダス属に属することが好ましく、カプリアビダス・ネカトールの形質転換微生物であることがより好ましい。さらに本発明は、前記形質転換微生物を、炭素源の存在下で培養する工程を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法にも関する。前記ポリヒドロキシアルカン酸は、2種以上のヒドロキシアルカン酸の共重合体であることが好ましく、3-ヒドロキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含有する共重合体であることがより好ましく、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸との共重合体であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PHAを蓄積し、かつ大型化が可能な形質転換微生物、及び、当該形質転換微生物を用いたPHAの製造方法を提供することができる。本発明によると、PHAを蓄積した微生物細胞が大型化するため、培養液からの微生物細胞の分離回収が容易となり、生産コストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】培養後のKNK-005株(比較例1)を撮影した顕微鏡写真(写真中のスケールバーは10μmを示す。図2~11についても同様。)
図2】培養後のA0597欠失破壊株(比較例2)を撮影した顕微鏡写真
図3】培養後のA0302欠失破壊株(比較例3)を撮影した顕微鏡写真
図4】培養後のA2272挿入破壊株(比較例4)を撮影した顕微鏡写真
図5】培養後のA1386欠失破壊株(実施例1)を撮影した顕微鏡写真
図6】培養後のA2405挿入破壊株(実施例2)を撮影した顕微鏡写真
図7】培養後のA2405欠失破壊株(実施例3)を撮影した顕微鏡写真
図8】培養後のA1386・A2405二重破壊株(実施例4)を撮影した顕微鏡写真
図9】培養後のminCD発現A1386破壊株(実施例5)を撮影した顕微鏡写真
図10】培養後のminCD発現A2405破壊株(実施例6)を撮影した顕微鏡写真
図11】培養後のminCD発現A2405・A1386破壊株(実施例7)を撮影した顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態に係る形質転換微生物は、PHA合成酵素遺伝子を有し、A1386遺伝子、及び/又は、A2405遺伝子の発現を低下させた、形質転換微生物である。該形質転換生物は、さらに、minC遺伝子及びminD遺伝子の発現を強化させたものであってもよい。
【0014】
(微生物)
本実施形態に係る形質転換微生物は、PHA合成酵素遺伝子を有し、かつ、A1386遺伝子の発現を低下させるように形質転換された微生物であってよい。また、PHA合成酵素遺伝子を有し、かつ、A2405遺伝子の発現を低下させるように形質転換された微生物であってよい。また、PHA合成酵素遺伝子を有し、かつ、A1386遺伝子の発現を低下させ、minC遺伝子及びminD遺伝子の発現が強化されるように形質転換された微生物であってもよい。また、PHA合成酵素遺伝子を有し、かつ、A2405遺伝子の発現を低下させ、minC遺伝子及びminD遺伝子の発現が強化されるように形質転換された微生物であってもよい。また、PHA合成酵素遺伝子を有し、かつ、A1386遺伝子及びA2405遺伝子の発現を低下させるように形質転換された微生物であってもよい。また、PHA合成酵素遺伝子を有し、かつ、A1386遺伝子及びA2405遺伝子の発現を低下させ、minC遺伝子及びminD遺伝子の発現が強化されるように形質転換された微生物であってもよい。
【0015】
本実施形態に係る形質転換微生物の宿主は、特に限定されないが、好ましくは、A1386遺伝子、A2405遺伝子、minC遺伝子、またはminD遺伝子を有する細菌である。当該細菌としては、例えば、ラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Wautersia)属、バークホルデリア(Burkholderia)属などバークホルデリア(Burkholderiaceae)科に属する細菌類が好ましい例として挙げられる。安全性及びPHA生産性の観点から、より好ましくはラルストニア属、カプリアビダス属に属する細菌であり、さらに好ましくはカプリアビダス属に属する細菌であり、特に好ましくはカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)である。
【0016】
本実施形態に係る形質転換微生物の宿主は、PHA合成酵素遺伝子を本来的に有する野生株であってもよいし、そのような野生株を人工的に突然変異処理して得られる変異株や、あるいは、遺伝子工学的手法により外来のPHA合成酵素遺伝子が導入された菌株であってもよい。外来のPHA合成酵素遺伝子を導入する方法は特に限定されず、宿主の染色体上に遺伝子を直接挿入または置換する方法、宿主が保有するメガプラスミド上に遺伝子を直接挿入または置換する方法、あるいはプラスミド、ファージ、ファージミドなどのベクター上に遺伝子を配置して導入する方法などが選択でき、これらの方法のうち2つ以上を併用しても良い。導入遺伝子の安定性を考慮すると、好ましくは、宿主の染色体上または宿主が保有するメガプラスミド上に遺伝子を直接挿入または置換する方法であり、より好ましくは、宿主の染色体上に遺伝子を直接挿入または置換する方法である。
【0017】
(PHA合成酵素遺伝子)
PHA合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、ラルストニア属、カプリアビダス属、ワウテルシア属、アルカリゲネス属、アエロモナス属、シュードモナス属、ノルカディア属、クロモバクテリウム属に類する生物に由来するPHA合成酵素遺伝子や、それらの改変体などが挙げられる。前記改変体としては、1以上のアミノ酸残基が欠失、付加、挿入、又は置換されたPHA合成酵素をコードする塩基配列などを用いることができる。例えば、配列番号5~9のいずれかに記載のアミノ酸配列で示されるポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子、及び、該アミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列で示され、かつPHA合成酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子などが挙げられる。上記配列相同性としては好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0018】
(PHA)
本実施形態に係る形質転換微生物が生産するPHAの種類としては、微生物が生産し得るPHAである限り特に限定されないが、炭素数4~16の3-ヒドロキシアルカン酸から選択される1種のモノマーの単独重合体、炭素数4~16の3-ヒドロキシアルカン酸から選択される1種のモノマーとその他のヒドロキシアルカン酸(例えば、炭素数4~16の2-ヒドロキシアルカン酸、4-ヒドロキシアルカン酸、5-ヒドロキシアルカン酸、6-ヒドロキシアルカン酸など)の共重合体、及び、炭素数4~16の3-ヒドロキシアルカン酸から選択される2種以上のモノマーの共重合体が好ましい。例えば、3-ヒドロキシ酪酸(略称:3HB)のホモポリマーであるP(3HB)、3HBと3-ヒドロキシ吉草酸(略称:3HV)の共重合体P(3HB-co-3HV)、3HBと3-ヒドロキシヘキサン酸(略称:3HH)の共重合体P(3HB-co-3HH)(略称:PHBH)、3HBと4-ヒドロキシ酪酸(略称:4HB)の共重合体P(3HB-co-4HB)、乳酸(略称:LA)を構成成分として含むPHA、例えば3HBとLAの共重合体P(LA-co-3HB)などが挙げられるが、これらに限定されない。この中でも、ポリマーとしての応用範囲が広いという観点から、PHBHが好ましい。なお、生産されるPHAの種類は、目的に応じて、使用する微生物の保有するあるいは別途導入されたPHA合成酵素遺伝子の種類や、その合成に関与する代謝系の遺伝子の種類、培養条件などによって適宜選択しうる。
【0019】
(ペプチドグリカン)
ペプチドグリカンとは、細菌の細胞壁を主要に構成する、ペプチドと糖からなる高分子化合物の一種である。ペプチドグリカンの構造は菌種によって異なるが、代表的な例として大腸菌では、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)とN-アセチルムラミン酸(MurNAc)という2種のアミノ糖の交互の繰り返しを単位とした糖鎖と、L-アラニン(L-Ala)-γ-D-グルタミン酸(Glu)-メソジアミノピメリン酸(m-DAP)-D-アラニン(D-Ala)-D-Alaのペンタペプチドにより構成される。糖鎖のMurNAcにペンタペプチドのL-Alaがペプチド結合により結合している。ペンタペプチドからD-Alaが取り除かれ、テトラペプチドになった後、テトラペプチドのm-DAPと別の糖鎖のテトラペプチドのD-Alaが結合して、2つの糖鎖が架橋されることで、強固な構造を形成する。
【0020】
(ペプチドグリカン加水分解酵素)
多くの細菌は、N-アセチルムラミル-L-アラニンアミダーゼ、D-アラニル-D-アラニン-エンドペプチダーゼ、D-アラニル-D-アラニン-カルボキシペプチダーゼ等、複数のペプチドグリカン加水分解酵素を有している。N-アセチルムラミル-L-アラニンアミダーゼはペプチドグリカンのMurNAcとL-AlaのN末端の結合を切断する。D-アラニル-D-アラニン-エンドペプチダーゼはテトラペプチド同士の架橋部分に存在するm-DAPとD-Alaの結合等を切断する。D-アラニル-D-アラニン-カルボキシペプチダーゼは、ペンタペプチドのD-AlaとD-Alaの結合を切断し、末端のD-Alaを取り除く。
【0021】
UniProtKBデータベースにおいて、カプリアビダス・ネカトールのA0597遺伝子(UniProtKB ID Q0KEW8)にコードされるタンパク質はN-アセチルムラミル-L-アラニンアミダーゼと推定される。
【0022】
UniProtKBデータベースにおいて、カプリアビダス・ネカトールのA0302遺伝子(UniProtKB ID Q0KE26)およびA1386遺伝子(UniProtKB ID Q0KBU9)にコードされるタンパク質は、D-アラニル-D-アラニン-カルボキシペプチダーゼと推定される。
【0023】
UniProtKBデータベースにおいて、カプリアビダス・ネカトールのA2272遺伝子およびA2405遺伝子は細胞壁に関与する加水分解酵素をコードすると推定されるが、詳細な機能は報告されていない。
【0024】
前記A1386遺伝子は、配列番号1に記載のアミノ酸配列で示されるポリペプチド、又は、該アミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子である。上記配列相同性としては好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列と、A0302遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ酸配列との配列相同性は約30%である。
【0025】
前記A2405遺伝子は、配列番号2に記載のアミノ酸配列で示されるポリペプチド、又は、該アミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子である。上記配列相同性としては好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。なお、配列番号2に記載のアミノ酸配列と、A2272遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ酸配列との配列相同性は約40%である。
【0026】
(minC遺伝子、minD遺伝子)
minC遺伝子、minD遺伝子、及び、minE遺伝子がコードするタンパク質MinC、MinD、及び、MinEは、細菌において協調して細胞分裂を制御する機能を持つタンパク質である(MinCDEシステム)。例えば大腸菌細胞内においては、MinDはATP依存的に重合体を形成し、さらにMinCと複合体を形成して、細胞の極から極へと素早く振動することが知られている。MinCは細胞分裂の際の隔壁形成を阻害する働きを持つ。また、MinEはMinCと競合的にMinDに結合することが知られており、細胞の中央でのみ隔壁形成が生じるように調節する働きを持つ。
【0027】
本開示におけるminC遺伝子は、配列番号3に記載のアミノ酸配列で示されるポリペプチド(UniProtKB ID Q0KFI3)、又は、該アミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子である。上記配列相同性としては好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0028】
本開示におけるminD遺伝子は、配列番号4に記載のアミノ酸配列で示されるポリペプチド(UniProtKB ID Q0KFI4)、又は、該アミノ酸配列に対して85%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドをコードする塩基配列を有する遺伝子である。上記配列相同性としては好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0029】
(遺伝子発現の低下)
本開示における「遺伝子発現の低下」とは、対象遺伝子の発現を低下させていない菌株と比較して、対象遺伝子の転写量または対象遺伝子のコードするポリペプチドの発現量が減少している状態を指す。その減少量は特に限定されないが、対象遺伝子の発現を低下させていない菌株による発現量に対して、1倍未満であればよく、好ましくは0.8倍以下、より好ましくは0.5倍以下、さらに好ましくは0.3倍以下、さらにより好ましくは0.2倍以下である。対象遺伝子の転写量または対象遺伝子のコードするポリペプチドの発現量はゼロであってもよい。また、対象遺伝子の塩基配列を改変することなどにより、該遺伝子がコードするポリペプチドが元来の機能を示さない場合も、該遺伝子発現が低下しているとみなすことができる。また、PHA合成酵素遺伝子を有する微生物に対して、当該ポリペプチドの機能を阻害する代謝物やタンパク質を生産するように遺伝子改変を行うことで対象遺伝子の発現を低下させることもできる。
【0030】
本実施形態において、遺伝子の発現を低下させる方法は特に限定されないが、対象遺伝子の一部分または全長を欠失させる方法、対象遺伝子の発現に関わる「遺伝子発現調節配列」を改変する方法や、対象遺伝子及び/またはその周辺の塩基配列を改変することにより、転写されたメッセンジャーRNAの安定性を低下させる方法などが挙げられる。塩基配列を改変する方法は特に限定されず、対象遺伝子及び/またはその周辺の塩基配列の少なくとも一部の置換、欠失、挿入及び/又は付加などによって実施することができ、当業者に周知の方法により行うことができる。さらには、PHA合成酵素遺伝子を有する形質転換微生物に対してアンチセンスRNAやRNA干渉法(RNAi)、CRISPR干渉法(CRISPRi)などを使用することで、対象遺伝子及び/またはその周辺の塩基配列を改変することなく、対象遺伝子の発現を低下させてもよい。
【0031】
(遺伝子発現強化)
本開示における遺伝子発現の強化とは、対象遺伝子の発現が強化されていない菌株と比較して、対象遺伝子の転写量または対象遺伝子のコードするポリペプチドの発現量が増加している状態を指す。その増加量は特に限定されないが、対象遺伝子の発現が強化されていない菌株と比較して1倍超であればよく、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上、さらにより好ましくは2倍以上の増加である。
【0032】
本実施形態において、minC遺伝子およびminD遺伝子の発現を強化する方法は特に限定されないが、対象遺伝子を宿主に導入する方法、宿主がゲノムDNA上に元来有する対象遺伝子の発現量を増強する方法、またはその両方を選択することができる。
【0033】
対象遺伝子を宿主に導入する方法としては特に限定されないが、宿主の染色体上に対象遺伝子を直接挿入または置換する方法、宿主が保有するメガプラスミド上に対象遺伝子を直接挿入または置換する方法、あるいはプラスミド、ファージ、ファージミドなどのベクター上に対象遺伝子を配置して導入する方法などが選択でき、これらの方法のうち2つ以上を併用しても良い。
【0034】
導入遺伝子の安定性を考慮すると、好ましくは、宿主の染色体上または宿主が保有するメガプラスミド上に対象遺伝子を直接挿入または置換する方法であり、より好ましくは、宿主の染色体上に対象遺伝子を直接挿入または置換する方法である。導入する遺伝子を確実に発現させるために、対象遺伝子が、宿主が元来有する「遺伝子発現調節配列」の下流に位置するように導入するか、または、対象遺伝子が、外来の「遺伝子発現調節配列」の下流に位置する形で導入することが好ましい。本開示における「遺伝子発現調節配列」とは、その遺伝子の転写量を制御する塩基配列(例えばプロモーター配列)、及び/または、その遺伝子から転写されたメッセンジャーRNAの翻訳量を調節する塩基配列(例えばシャイン・ダルガノ配列)を含むDNA配列である。「遺伝子発現調節配列」としては、自然界に存在する任意の塩基配列を利用することもできるし、人工的に構築または改変された塩基配列を利用しても良い。
【0035】
また、宿主がゲノムDNA上に元来有する対象遺伝子の発現量を増強する方法としては特に限定されないが、対象遺伝子の上流に位置する「遺伝子発現調節配列」を改変する方法、対象遺伝子の上流に外来の「遺伝子発現調節配列」を導入する方法、あるいは、対象遺伝子及び/またはその周辺の塩基配列を改変することにより、転写されたメッセンジャーRNAの安定性を向上させる方法などが挙げられる。
【0036】
「遺伝子発現調節配列」に含まれるプロモーター配列やシャイン・ダルガノ配列としては、例えば、配列番号10~16のいずれかに示される塩基配列、または、これら塩基配列の一部を含む塩基配列などが挙げられるが、特に限定されない。
【0037】
ゲノムDNAの少なくとも一部の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、当業者に周知の方法により行うことができる。代表的な方法としてはトランスポゾンと相同組換えの機構を利用した方法(Ohman et al.,J.Bacteriol.,162:1068-1074(1985))や、相同組換えの機構によって起こる部位特異的な組み込みと第二段階の相同組換えによる脱落を原理とした方法(Noti et al.,Methods Enzymol.,154:197-217(1987))などがある。また、Bacillus subtilis由来のsacB遺伝子を共存させて、第二段階の相同組換えによって遺伝子が脱落した微生物株をスクロース耐性株として容易に単離する方法(Schweizer,Mol.Microbiol.,6:1195-1204(1992)、Lenz et al.,J.Bacteriol.,176:4385-4393(1994))も利用することができる。さらに別の方法として、標的DNAを改変するためのCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術(Y.Wang et al.,ACS Synth Biol.2016,5(7):721-732)も利用することができる。CRISPR/Cas9システムでは、ガイドRNA(gRNA)は改変すべきゲノムDNAの塩基配列の一部に結合しうる配列を有しており、Cas9を標的に運ぶ役割をもつ。
【0038】
細胞へのベクターの導入方法としても特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、スフェロプラスト法等が挙げられる。
【0039】
本実施形態に係る形質転換微生物を培養することで、菌体内にPHAを蓄積させることができる。本実施形態に係る形質転換微生物を培養する方法としては、常法の微生物培養法に従うことができ、適切な炭素源が存在する培地中で培養を行なえばよい。培地組成、炭素源の添加方法、培養スケール、通気攪拌条件や、培養温度、培養時間などは特に限定されない。炭素源は、連続的に、または間欠的に培地に添加することが好ましい。
【0040】
培養時の炭素源としては、本実施形態に係る形質転換微生物が資化可能であればどのような炭素源でも使用可能である。特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、シュークロースなどの糖類;パーム油やパーム核油(これらを分別した低融点分画であるパームオレイン、パームダブルオレイン、パーム核油オレインなども含む)、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油などの油脂やその分画油類、あるいはその精製副産物;ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリンスチン酸などの脂肪酸やそれらの誘導体、あるいはグリセロール等が挙げられる。また、本実施形態に係る形質転換微生物が二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、メタノール、エタノールなどのガスやアルコール類を利用可能である場合、これらを炭素源として使用することもできる。
【0041】
本実施形態に係るPHAの製造では、上記炭素源、炭素源以外の栄養源である窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源を含む培地を用いて、前記微生物を培養することが好ましい。下記に限定されないが、窒素源としては、例えば、アンモニア;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。その他の有機栄養源としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸、ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0042】
培養を適切な時間行なって菌体内にPHAを蓄積させた後、周知の方法を用いて菌体からPHAを回収する。回収方法については特に限定されないが、例えば、培養終了後、培養液から遠心分離機や分離膜等で菌体を分離し、乾燥させた後、乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHAを抽出し、このPHAを含んだ有機溶剤溶液から濾過等によって細胞成分を除去し、その濾液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてPHAを沈殿させ、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHAを回収することができる。また、界面活性剤やアルカリ、酵素などを用いてPHA以外の細胞成分を水に溶解させた後、濾過や遠心分離によってPHA粒子を水相から分離し乾燥させて回収することもできる。
【0043】
本実施形態によると、PHAを蓄積した大粒径の微生物細胞を得ることができるので、培養液からの微生物細胞の分離を容易に効率よく実施することができる。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお全体的な遺伝子操作は、例えばMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載されているように行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主等は、市場の供給者から購入し、その説明に従い使用することができる。なお、酵素としては、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0045】
(製造例1)A0597欠失破壊株の作製
まず、遺伝子欠失用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A0597構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号17)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A0597構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0597UDを作製した。
【0046】
次に、遺伝子欠失破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0597UDを用いて、以下のようにしてA0597欠失破壊株の作製を行った。
遺伝子挿入破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0597UDで大腸菌S17-1株(ATCC47055)を形質転換し、それによって得た形質転換微生物を、KNK-005株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。KNK-005株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上にアエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素遺伝子(配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子)が導入された形質転換体であり、米国特許第7384766号明細書に記載の方法に準じて作製することができる。
【0047】
得られた培養液を、250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、りん酸二水素アンモニウム1g/L、りん酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK-005株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRおよびDNAシーケンサーによる解析により染色体上のA0597構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA0597遺伝子欠失株をA0597欠失破壊株と命名した。
【0048】
(製造例2)A0302欠失破壊株の作製
まず、遺伝子欠失用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A0302構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号18)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A0302構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0302UDを作製した。
【0049】
次に、A0302遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A0302UDを、製造例1と同様の方法でKNK-005株に導入した。さらに、製造例1と同様の方法で、染色体上のA0302構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA0302遺伝子欠失株をA0302欠失破壊株と命名した。
【0050】
(製造例3)A1386欠失破壊株の作製
まず、遺伝子欠失用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A1386構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号19)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A1386構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1386UDを作製した。
【0051】
次に、A1386遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1386UDを、製造例1と同様の方法でKNK-005株に導入した。さらに、製造例1と同様の方法で、染色体上のA1386構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA1386遺伝子欠失株をA1386欠失破壊株と命名した。
【0052】
(製造例4)A2272挿入破壊株の作製
まず、A2272遺伝子挿入破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A2272構造遺伝子の47~231番目の塩基配列のDNA断片(配列番号20)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A2272構造遺伝子の47~231番目の塩基配列を有する遺伝子挿入破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB-A2272-indelを作製した。
【0053】
次に、遺伝子挿入破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB-A2272-indelを、製造例1と同様の方法でKNK-005株に導入した。さらにPCRおよびDNAシーケンサーによる解析により染色体上のA2272構造遺伝子配列内にプラスミドが挿入されることにより、A2272遺伝子が破壊された菌株1株を単離した。このA2272遺伝子破壊株をA2272挿入破壊株と命名した。
【0054】
(製造例5)A2405挿入破壊株の作製
まず、A2405遺伝子挿入破壊用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A2405構造遺伝子の7~204番目の塩基配列のDNA断片(配列番号21)を得た。得られたDNA断片を制限酵素SwaIで消化した。このDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A2405構造遺伝子の7~204番目の塩基配列を有するA2405遺伝子挿入破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB-A2405-indelを作製した。
【0055】
次に、遺伝子挿入破壊用プラスミドベクターpNS2X-sacB-A2405-indelを、製造例1と同様の方法でKNK-005株に導入した。さらにPCRおよびDNAシーケンサーによる解析により染色体上のA2405構造遺伝子配列内にプラスミドが挿入されることにより、A2405遺伝子が破壊された菌株1株を単離した。このA2405遺伝子破壊株をA2405挿入破壊株と命名した。
【0056】
(製造例6)A2405欠失破壊株の作製
まず、遺伝子欠失用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A2405構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号22)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A2405構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A2405UDを作製した。
【0057】
次に、A2405遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A2405UDを、製造例1と同様の方法でKNK-005株に導入した。さらに、製造例1と同様の方法で、染色体上のA2405構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA2405遺伝子欠失株をA2405欠失破壊株と命名した。
【0058】
(製造例8)A1386・A2405二重破壊株の作製
A2405遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A2405UDを、製造例1と同様の方法でA1386欠失破壊株に導入した。さらに、製造例1と同様の方法で、染色体上のA2405構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA1386遺伝子およびA2405遺伝子が欠失された株をA1386・A2405二重破壊株と命名した。
【0059】
(製造例9)minCD発現A1386欠失破壊株の作製
minCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-sacB-PA-minCDの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、プロモーター配列とminCD遺伝子配列およびゲノム上の組込み領域の塩基配列を有するDNA断片(配列番号23)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、minCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-PA-minCDを作製した。
【0060】
次に、minCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-sacB-PA-minCDを、製造例1と同様の方法でA1386欠失破壊株に導入した。さらに製造例1と同様の方法で、染色体上にプロモーター配列とminCD遺伝子配列が挿入された菌株1株を単離した。このminCD遺伝子発現A1386欠失株をminCD発現A1386破壊株と命名した。
【0061】
(製造例10)minCD発現A2405破壊株の作製
minCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-sacB-PA-minCDを、製造例1と同様の方法でA2405欠失破壊株に導入した。さらに製造例1と同様の方法で、染色体上にプロモーター配列とminCD遺伝子配列が挿入された菌株1株を単離した。このminCD遺伝子発現A2405欠失株をminCD発現A2405破壊株と命名した。
【0062】
(製造例11)minCD発現A2405・A1386破壊株の作製
A1386遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1386UDを、製造例1と同様の方法でminCD発現A2405破壊株に導入した。さらに製造例1と同様の方法で、染色体上のA1386構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このminCD遺伝子発現A2405・A1386欠失株をminCD発現A2405・A1386破壊株と命名した。
【0063】
(比較例1)KNK-005株によるPHA生産
下記の条件でKNK-005株を用いた培養検討を行なった。
【0064】
(培地)
種母培地の組成は1w/v% Meat-extract、1w/v% Bacto-Tryptone、0.2w/v% Yeast-extract、0.9w/v% NaHPO・12HO 、0.15w/v% KHPO、(pH6.8)とした。
前培養培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19w/v%KHPO、1.29 w/v%(NHSO 、0.1w/v% MgSO・7HO、2.5w/v% パームオレインオイル、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)とした。炭素源としてパームオレインオイルを10g/Lの濃度で一括添加した。
PHA生産培地の組成は0.385w/v% NaHPO・12HO、0.067w/v% KHPO、0.291w/v%(NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)とした。
【0065】
(乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合の測定方法)
乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合は次のように測定した。遠心分離によって培養液から菌体を回収、エタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体を取得した。得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、乾燥菌体に対する菌体内のPHA蓄積量の割合を算出した。
【0066】
(細胞径の測定方法)
細胞径は次のように測定した。培養終了後の培養液を65℃で60分間処理し、菌体細胞不活化を行った後、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製Microtrac MT3300EXII)により解析し細胞の体積平均径(MV)を測定した。測定は標準的な設定(粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.81、粒子形状:非球形、溶媒屈折率:1.333)で行った。
【0067】
(細胞の顕微鏡観察)
細胞の顕微鏡観察は次のように行った。培養終了後の培養液を適宜希釈し、スライドガラスにのせて乾燥させた後、フクシンによって染色した。染色された細胞を光学顕微鏡によって観察した。
【0068】
(PHA生産培養)
PHA生産培養は次のように行った。まず、KNK-005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL-300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7~6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0069】
次に、前培養液を、2.5LのPHA生産培地を入れた5Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS-U50型)に5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度420rpm、通気量2.1L/minとし、pHは6.7~6.8の間でコントロールした。pHコントロールには25%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は断続的に添加した。炭素源としてはパームオレインオイルを使用した。培養はPHA蓄積量が90%程度に達するまで行った。PHA蓄積量の割合および細胞径は前述のように測定した。結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察時に撮影した写真を図1に示す。
【0070】
(比較例2)A0597欠失破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA0597欠失破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図2に示す。
【0071】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA0597欠失破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、10%以上低下した。PHAの生産性についてはKNK-005株と同等であった。
【0072】
(比較例3)A0302欠失破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA0302欠失破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図3に示す。
【0073】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA0302欠失破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、10%以上低下した。PHAの生産性についてはKNK-005株と同等であった。
【0074】
(比較例4)A2272挿入破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA2272挿入破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図4に示す。
【0075】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA2272挿入破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、同等であった。PHAの生産性についてはKNK-005株と同等であった。
【0076】
(実施例1)A1386欠失破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA1386欠失破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図5に示す。
【0077】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA1386欠失破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、20%以上増大した。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0078】
(実施例2)A2405挿入破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA2405挿入破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図6に示す。
【0079】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA2405挿入破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、20%以上増大した。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0080】
(実施例3)A2405欠失破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA2405欠失破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図7に示す。
【0081】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA2405欠失破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、20%以上増大した。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0082】
(実施例4)A1386・A2405二重破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA1386・A2405二重破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図8に示す。
【0083】
培養検討の結果、前述の条件で測定したA1386・A2405二重破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、40%以上増大した。すなわち、A1386破壊とA2405破壊には細胞径拡大に対する相乗効果または相加効果があった。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0084】
(実施例5)minCD発現A1386破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でminCD発現A1386破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図9に示す。
【0085】
培養検討の結果、前述の条件で測定したminCD発現A1386破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、20%以上増大した。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0086】
(実施例6)minCD発現A2405破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でminCD発現A2405破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図10に示す。
【0087】
培養検討の結果、前述の条件で測定したminCD発現A2405破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、40%以上増大した。すなわち、A2405破壊とminCD発現には細胞径拡大に対する相乗効果または相加効果があった。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0088】
(実施例7)minCD発現A2405・A1386破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でminCD発現A2405・A1386破壊株を用いた培養検討を行なった。PHA蓄積量の割合および細胞径の測定結果を表1に示す。また、前述のように行った細胞の顕微鏡観察写真を図11に示す。
【0089】
培養検討の結果、前述の条件で測定したminCD発現A2405・A1386破壊株の細胞径は、親株であるKNK-005株と比較して、50%以上増大した。すなわち、A1386破壊とA2405破壊とminCD発現には細胞径拡大に対する相乗効果または相加効果があった。PHAの生産性についてもKNK-005株と同等であった。
【0090】
なお、比較例および実施例の培養検討によって生産されたPHAはPHBHであることをHPLC分析にて確認した。
【0091】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
0007535527000001.app