(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】膀胱を凝縮性蒸気で治療するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/04 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
A61B18/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022129492
(22)【出願日】2022-08-16
(62)【分割の表示】P 2021002030の分割
【原出願日】2016-05-13
【審査請求日】2022-08-19
(32)【優先日】2015-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ホーイ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】フィオーレ マクシミリアン ディー
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-523220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0160648(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0006231(US,A1)
【文献】国際公開第2013/160772(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2007/0213703(US,A1)
【文献】特表2014-521445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/00-18/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気送出システムであって、
長手方向に延びるシャフトと、
前記シャフトに設けられると共に蒸気源に流体結合された少なくとも1つの蒸気送出ポートと、
患者の体内への挿入中に前記シャフト中に引っ込められるよう構成されるとともに前記シャフトから送り出されて進められるよう構成されている遠位先端部と、を備え、
前記遠位先端部は、膀胱組織を穴あけしないように前記シャフトから限定された距離にわたって前進するように構成されている、蒸気送出システム。
【請求項2】
前記シャフトは可撓性を有し、前記シャフトはかじ取り可能である、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記遠位先端部は、前記膀胱組織中に10mmを超えて延びることを防ぐようにされる、請求項1
又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記遠位先端部は、前記膀胱組織中に1~5mmを超えて延びることを防ぐようにされる、請求項1乃至
3の何れか1項に記載のシステム。
【請求項5】
さらに、前記患者から組織及び/又は流体を吸引するように構成された吸引源を備える、請求項1乃至
4の何れか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記吸引源は、前記少なくとも1つの蒸気送出ポートを通して、組織及び/又は流体を吸引するように構成されている、請求項
5に記載のシステム。
【請求項7】
前記吸引源は、前記シャフトの吸引ポートを通って組織及び/又は流体を吸引するように構成されており、前記吸引ポートは、前記少なくとも1つの蒸気送出ポートとは別個のものである、請求項
5に記載のシステム。
【請求項8】
さらに、流体又は冷却用灌注液を、前記シャフトにおけるルーメンを通して、前記膀胱組織に送出するように構成された流体源を備え、前記ルーメンは、前記少なくとも1つの蒸気送出ポートとは別個のものである、請求項1乃至
7の何れか1項に記載のシステム。
【請求項9】
さらに、前記蒸気源に作動的に連結されると共に、前記膀胱組織をアブレーションするように、前記少なくとも1つの蒸気送出ポートを通して、蒸気を送出するように構成された電子制御装置を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記電子制御装置は、蒸気を介して500カロリーのエネルギーより少ないエネルギーを送出させるように構成される、請求項
9に記載のシステム。
【請求項11】
さらに、ハンドル部分を備え、前記シャフトは、前記ハンドル部分に連結される、請求項1乃至
10の何れか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記シャフトは、その上に配置された視覚化特徴部を有している、請求項1乃至
11の何れか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記視覚化特徴部は、縞模様、形状、色のうちの少なくとも一つを含む、請求項
12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容、すなわち本発明は、最小侵襲方式を用いた膀胱の治療装置および関連方法に関する。特に、本発明は、凝縮可能な蒸気による過活動膀胱の治療に関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本願は、2015年5月13日に出願された米国特許仮出願第62/160,963号(発明の名称:SYSTEMS AND METHODS FOR TREATING THE BLADDER WITH CONDENSABLE VAPOR)の権益主張出願であり、この米国特許仮出願を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。
【0003】
本明細書において言及する全ての刊行物および特許文献を参考により引用し、これらの記載内容を本明細書の一部とするものとするが、その引用の程度は、あたかも個々の刊行物または特許文献の各々の記載内容が具体的にかつ個別的に本明細書の一部をなしているかのごとくである。
【背景技術】
【0004】
過活動膀胱(OAB)は、数百万の人々に影響を及ぼしている病態である。症状としては、我慢できないような強い尿意や尿失禁である。頻繁でかつ突然の尿意切迫感は、この障害によって影響を受ける人々のクオリティオブライフ(生活の質)にマイナスの影響を及ぼす場合がある。
【0005】
OABの現行の治療としては、水分制限、カフェインを避けることおよび骨盤底筋訓練を含むライフスタイルの変化が挙げられる。薬物もまた、OABの幾つかの症状を治療することができるが、この効果はそこそこであるに過ぎない。外科的処置もまた、ボトックス注射または膀胱の電気的刺激を含む外科的処置もまた用いられるが、これら治療の長期間効能は分かっていない。
【0006】
OABは、排尿平滑筋と神経の両方の連結度(connectivity)および興奮度(excitability)の増大によって引き起こされるとされている。尿意にかかわる神経の興奮度および連結度の増大は、神経可塑性を調整する成長因子で決まる。神経伝達物質、プロスタグランジン、および成長因子、例えば神経成長因子は、筋または尿路上皮と神経との両方向連絡のためのメカニズムを提供し、このメカニズムは、切迫性尿失禁のあるなしにかかわらずOABをもたらす。
【発明の概要】
【0007】
過活動膀胱を治療する方法が提供され、この方法は、蒸気送出システムを患者の膀胱中に挿入するステップと、蒸気送出システムの遠位部分を患者の膀胱まで送り進めるステップと、蒸気送出システム上にまたはこの中に設けられたカメラにより蒸気送出システムの遠位部分を観察するステップと、蒸気送出先端部を蒸気送出システムから膀胱組織中に配備して組織を穿刺しないで組織を変形させるステップと、蒸気を膀胱組織中に送出して膀胱内の神経、平滑筋、尿路上皮および他の興奮性組織に損傷を与えるステップとを含む。
【0008】
幾つかの実施形態では、送出ステップは、過活動膀胱、有痛性膀胱症候群および/または間質性膀胱炎の症状を軽減する目的で興奮組織を壊死させることを念頭に置いて、1カロリーのエネルギーから500カロリーのエネルギーを多数の場所で膀胱中に送出するステップを含む。
【0009】
患者の過活動膀胱を治療する方法が提供され、この方法は、蒸気送出カテーテルを患者の尿道中に挿入するステップと、蒸気送出カテーテルの遠位アンカー先端部を経尿道的に患者の膀胱中に送り進めるステップと、遠位アンカー先端部を切迫性尿失禁感を生じさせる原因となっている膀胱の表面センサを含む標的組織上にまたはこの標的組織に隣接して位置決めするステップと、遠位アンカー先端部を標的組織中に送り進めて膀胱を穿刺することなく膀胱を変形させるステップと、蒸気を蒸気送出システムから標的組織に送出して表面センサを含む標的組織を剥離するステップとを含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、本方法は、1~500カロリーのエネルギーを標的組織に送出するステップを更に含む。
【0011】
他の実施形態では、本方法は、遠位アンカー先端部を標的組織中に10mm未満、送り進めるステップを更に含む。
【0012】
変形実施形態では、本方法は、遠位アンカー先端部を標的組織中に5mm未満、送り進めるステップを更に含む。
【0013】
一実施形態では、遠位アンカー先端部は、標的組織中に5mmを超えて延びることができない。
【0014】
別の実施形態では、遠位アンカー先端部は、標的組織中に1~2mmを超えて延びることができない。
【0015】
幾つかの実施形態では、送り進めステップは、遠位アンカー先端部の針を標的組織中に送り進めるステップを更に含む。
【0016】
別の実施形態では、送出ステップは、蒸気を蒸気送出システムの遠位カテーテル先端部に設けられた蒸気送出ポートから送出するステップを更に含む。
【0017】
別の実施形態では、送出ステップは、蒸気を蒸気送出システムの遠位アンカー先端部に設けられた少なくとも1つの蒸気送出ポートから送出するステップを更に含む。
【0018】
一実施形態では、蒸気は、標的組織中に同心治療リングを形成するよう構成された1つまたは2つ以上の同心スプレーパターンを作るために蒸気送出ポートを通って送り出される。
【0019】
幾つかの実施形態では、本方法は、標的組織を1~3mmの深さまで剥離するステップを更に含む。
【0020】
蒸気送出システムもまた提供され、この蒸気送出システムは、ハンドル部分と、ハンドル部分に連結された細長い可撓性シャフトとを含み、細長い可撓性シャフトは、細長い可撓性シャフトを、患者の膀胱を穿通することなく、膀胱中に定着させるよう構成された遠位アンカー先端部を有し、蒸気送出システムは、蒸気源と、細長い可撓性シャフトに設けられるとともに蒸気源に流体結合された少なくとも1つの蒸気送出ポートと、蒸気源に作動的に結合された電子制御装置とを更に含み、電子制御装置は、蒸気を少なくとも1つの蒸気送出ポートから送出して膀胱を削るよう構成されている。
【0021】
幾つかの実施形態では、遠位アンカー先端部は、円錐形の形をしている。
【0022】
他の実施形態では、遠位アンカー先端部は、ピラミッドの形をしている。
【0023】
変形実施形態では、遠位アンカー先端部は、針先端部から成る。
【0024】
一実施形態では、針先端部は、患者の体内への挿入中に細長い可撓性シャフト中に引っ込められるよう構成されるとともに蒸気送出に先立って細長い可撓性シャフトから送り出されて進められるよう構成されている。
【0025】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの蒸気送出ポートは、膀胱内に同心治療リングを形成するよう構成された1つまたは2つ以上の同心スプレーパターンを作るよう配置されている。
【0026】
他の実施形態では、遠位アンカー先端部は、かじ取り可能である。
【0027】
幾つかの実施形態では、遠位アンカー先端部は、膀胱中に10mmを超えて延びることができない。
【0028】
追加の実施形態では、遠位アンカー先端部は、膀胱中に1~5mmを超えて延びることができない。
【0029】
次に、本発明を良好に理解するとともに本発明を実際にどのように実施すればよいのか分かるようにするために、添付の図面を参照して幾つかの好ましい実施形態を説明するが、これは非限定的な例示であるに過ぎず、図中、同一の参照符号は、添付の図面に記載された互いに類似している実施形態全体を通じ一貫して、対応の特徴を示している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】蒸気送出システムの一実施形態を示す図である。
【
図2】蒸気送出システムの遠位部分の拡大図である。
【
図3】蒸気送出システムの遠位部分の別の実施形態を示す図である。
【
図4】蒸気送出システムの遠位部分の更に別の実施形態を示す図である。
【
図5】蒸気送出システムを用いた一治療方法を示す図(AおよびB)である。
【
図6】蒸気送出システムを用いた治療方法を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一般に、過活動膀胱を治療する一方法は、加熱状態の蒸気を導入してこれを、膀胱内の尿路上皮の表面の近くに位置していて切迫性尿失禁感を生じさせる興奮組織に接触させるステップを含む。この方法は、切迫性尿失禁または過活動膀胱(OAB)、有痛性膀胱症候群および/または間質性膀胱炎を最小限に抑えるよう膀胱組織の局所剥離または焼灼を生じさせることができる。本発明は、OABの治療に関し、特に、尿失禁の原因となっている膀胱内の興奮組織構造を経尿道的に剥離する治療に関する。
【0032】
本システムは、水蒸気を含む蒸気媒体を送出する蒸気送出機構を含むのが良い。本システムは、少なくとも60~140℃の温度を有する蒸気を提供するよう構成された蒸気源を利用するのが良い。別の実施形態では、本システムは、1秒から30秒までの範囲にある時間間隔の間、蒸気を送出するよう構成されたコンピュータ制御装置を更に含む。
【0033】
幾つかの実施形態では、本システムは、蒸気と一緒に送出可能な薬理学的作用剤または他の化学物質もしくは化合物の源を更に含む。これら作用剤としては、麻酔薬、抗生物質もしくは毒素、例えばボトックス(Botox(登録商標))、またはガン組織細胞を治療することができる化学物質が挙げられるが、これらには限定されない。作用剤は、シーラント、接着剤、グルー、スーパーグルー、抗炎症薬、抗生物質などであっても良い。
【0034】
図1は、蒸気送出システムの一実施形態を示している。蒸気送出システム100は、患者の膀胱中に挿入可能に構成された細長い可撓性シャフト102および人間の手で掴むことができるハンドル部分104を含むのが良い。蒸気システム100は、アンカー先端部108および1つまたは2つ以上の蒸気送出ポート110を備えた遠位カテーテル先端部106を含むのが良い。幾つかの実施形態では、遠位カテーテル先端部は、変形可能であるとともに/あるいはかじ取りまたは操向可能であるのが良い。
【0035】
1つまたは2つ以上の蒸気送出ポート110は、蒸気源に流体結合されており、かかる蒸気送出ポートは、蒸気媒体の流れを蒸気源250から蒸気用の細長い可撓性シャフト102に通して膀胱組織中に送出するよう構成されているのが良い。蒸気送出システムは、患者から組織および/または流体を吸引する(例えば、蒸気送出ポートを通ってまたは遠位カテーテル先端部に設けられた別個の吸引ポートを通って)よう構成された吸引源320を更に含むのが良く、この蒸気送出システムは、蒸気送出前、蒸気送出中、および/または蒸気送出後に流体または冷却用灌注液を組織に送出するよう構成された流体源300を更に含むのが良い。
【0036】
図1の蒸気送出システム100は、システムの種々の機能を作動させるよう構成されているのが良い複数の作動装置107、例えばトリガ、ボタン、またはレバーを含むのが良い。例えば、作動装置は、遠位カテーテル先端部をかじ取りするとともに/あるいは蒸気の流れ、吸引、および/または冷却用灌注を開始/停止させるよう構成されているのが良い。
【0037】
蒸気媒体を発生させるとともに/あるいは遠位カテーテル先端部を通ってこの蒸気媒体を送出して組織を剥離しまたは損傷させるための蒸気源250が設けられている。蒸気源は、蒸気媒体、例えば水蒸気を送出することができる蒸気発生器であるのが良く、この蒸気媒体は、例えば毎秒カロリーの単位で測定される熱エネルギーの正確な送出量を提供するよう正確に制御される特性を有する。幾つかの実施形態では、蒸気源は、誘導加熱システムを含むのが良く、かかる誘導加熱システムでは、流れ媒体が誘導加熱されて凝縮性の蒸気を発生させる。蒸気源は、蒸気送出システムの外部に位置するのが良く、あるいは、変形例として、蒸気送出システムのハンドルおよび/または細長い可撓性シャフト中に組み込まれても良い。
【0038】
制御装置255は、種々の蒸気送出パラメータを制御するよう設定されるのが良く、例えば、この制御装置は、選択された治療時間間隔、選択された圧力、または選択された蒸気特性に関して蒸気媒体を送出するよう設定されるのが良い。蒸気送出システム、蒸気発生器、および蒸気および流体をどのように組織に送出するかについてのそれ以上の細部は、米国特許第8,273,079号明細書および国際公開第2013/040209号パンフレットに見受けられ、これら両方の特許文献を参照により引用し、これらの記載内容を本明細書の一部とする。幾つかの実施形態では、電子制御装置はまた、蒸気送出システムの吸引および/または冷却灌注機能を制御するのが良い。
【0039】
上述したように、蒸気送出システムは、蒸気源250、吸引源320、流体または灌注(液)源300、光源140、および電子制御装置255に連結されるのが良く、この電子制御装置は、蒸気の発生および蒸気源からシャフトのルーメンを通り、そして遠位カテーテル先端部を通り、そして組織中への蒸気の送出を制御するよう構成されている。幾つかの実施形態では、電子制御装置は、蒸気送出システム上または蒸気送出システム内に設けられるのが良く、他の実施形態では、電子制御装置は、このシステムとは別個に設けられるのが良い。
【0040】
依然として
図1を参照すると、流体または灌注液源300は、シャフトに設けられた別個のルーメンを通って流体、例えば生理的食塩水を提供してシステムの挿入中および組織への蒸気送出中、灌注および組織へのフラッシングを行うのが良い。幾つかの実施形態では、灌注は、血液およびデブリを組織ルーメンから除いて視認性を高めるために使用されるのが良い。灌注液はまた、灌注液と組織の直接的な接触と蒸気送出システムのシャフトの冷却との両方により患者の尿道および/または膀胱に対して冷却作用をもたらすことができる。と言うのは、流体がシャフトを通って灌注液源から流れて組織に接触するからである。
【0041】
図2は、蒸気送出システムの遠位カテーテル先端部106の拡大図である。細長いシャフトおよび遠位カテーテル先端部は、軟性膀胱鏡のルーメン中に挿入されるよう寸法決めされるとともに形作られている。遠位カテーテル先端部は、組織を穿刺することなく組織を変形させるよう膀胱の組織中に部分的に押し込められまたは定着されるよう構成された遠位アンカー先端部108を更に含むのが良い。遠位アンカー先端部108が膀胱を変形させると、この遠位アンカー先端部は、蒸気送出システムを膀胱の標的組織内に定着させることができる。一実施形態では、とがった先端部は、円錐形またはピラミッド形のとがった先端部であるのが良い。とがった先端部がピラミッド形の先端部である実施形態では、ピラミッド形は、2つ、3つ、または4つ以上のフェースを有するのが良い。組織を穿刺しないで組織を変形させることによって、とがったアンカー先端部を治療されるべき標的神経またはセンサの近くで膀胱組織中に定着させることができ、この場合、膀胱の構造的健全性を損なうことはない。
【0042】
とがったアンカー先端部が膀胱組織内に定着すると、蒸気を蒸気源から1つまたは2つ以上の蒸気送出ポート110に通して膀胱組織に送出するのが良い。幾つかの実施形態では、蒸気ポートは、アンカー先端部108の近位側でシャフトに設けられるのが良い。他の実施形態では、蒸気ポートは、アンカー先端部それ自体に設けられても良い。
【0043】
アンカー先端部に対する蒸気ポートの位置は、組織中の所望の熱的剥離またはアブレーションに従って調節可能であるとともに設計可能である蒸気スプレーパターンを決定する。一実施形態では、蒸気ポートは、先端部および/または組織に同心状に配置されるのが良く、それにより膀胱組織内に同心治療リングを形成するよう構成された1つまたは2つ以上の同心スプレーパターンを作り出すことができる。蒸気は、膀胱組織の全厚を剥離することなく、標的膀胱センサを損傷させる特定の深さまで組織を剥離するよう膀胱に送出されるのが良い。例えば、幾つかの実施形態では、蒸気は、膀胱組織の1~6mmの深さを剥離するよう膀胱組織に送出されるのが良い。膀胱組織の全体を穿通しないでセンサを損傷させるという目的を達成するために組織のほんの僅かな深さについて治療することが望ましい。
【0044】
遠位カテーテル先端部は、オプションとして、カテーテル先端部に設けられたマークであるのが良い視覚化特徴部112を有するのが良い。視覚化特徴部112として、例えば、縞模様、形状、色、または遠位カテーテル先端部に直接設けられた他の視覚的特徴部が挙げられる。遠位カテーテル先端部を剥離手技中に膀胱鏡を越えて伸長させると、視覚化特徴部を遠位カテーテル先端部が膀胱鏡を越えて適正な距離にわたって送り進められた時点を求めるよう膀胱鏡の視覚化下において(例えば、カメラを用いて)観察することができる。また、カテーテルに施されたマークを用いると、医師を誘導して医師がカテーテルを適正な向きに配置して蒸気パターンを所定のパターンで送出することができる。例えば、視覚化特徴部としては、蒸気送出ポートが遠位カテーテル先端部上で差し向けられる場所を指示するための特徴部が挙げられ、あるいは、視覚化特徴部は、蒸気送出ポートが設けられている区分でのみシャフトに設けられても良い。
【0045】
蒸気送出システムのとがったアンカー先端部は、滑りを阻止するとともに医師が蒸気送出システムを膀胱内に押し込んでいるときに蒸気送出システムを定着させる。医師がより強く押すと、蒸気送出システムは、これが膀胱鏡を越えて伸長し続けているときに膀胱を変形させる。医師は、膀胱鏡からの視覚化特徴部の距離を観察することによって膀胱変形レベルを確認することができる。膀胱変形量はまた、蒸気送出ポートから膀胱組織上への蒸気付着パターンを決定する。適当な蒸気付着パターンが達成されると、蒸気を蒸気送出システムから膀胱組織上または膀胱組織中に送出するのが良い。
【0046】
図3は、組織を完全に貫通することなく組織を変形させるよう膀胱の組織中に押し込められるよう構成された針アンカー先端部114を含む遠位カテーテル先端部106の変形実施形態を示している。針アンカー先端部114は、上述したとがったアンカー先端部と同様な仕方で作用することができる。幾つかの実施形態では、針アンカー先端部114は、針上にもしくは針内にまたは針のまさに遠位側の先端部のところに設けられた1つまたは2つ以上の蒸気送出ポートを有するのが良い。
【0047】
幾つかの実施形態では、針アンカー先端部を膀胱へのナビゲーション中に遠位カテーテル先端部中に引っ込めることができ、そしてカテーテル先端部から送り出して進めてシステムを蒸気送出を可能にするために定着させる。例えば、蒸気送出システムに設けられた作動装置が針の前進および引っ込みを制御するのが良い。幾つかの実施形態では、針は、カテーテルの遠位先端部から限定された距離にわたって前進して膀胱組織を完全に貫通することがなくまたは穴あけすることがないように設計されるのが良い。例えば、膀胱組織は、典型的には、厚さが5mm~15mmまでの範囲にあると言える。幾つかの実施形態では、針アンカー先端部114は、膀胱組織を穴あけすることがないよう組織中に10mmを超えて延びることができない。幾つかの実施形態では、医師は、患者の膀胱の厚さを求めることができ(例えば、視覚化により)そして針アンカー先端部の長さを膀胱の厚さよりも小さく調節することができる。他の実施形態では、針アンカー先端部は、組織中に1~5mmを超えて延びることができず、この長さは、カテーテル先端部を膀胱組織内に定着させるのに十分であるが、患者となりそうな人の大部分の膀胱組織を穴あけするに足るほど長くはない。システムが針アンカー先端部により組織内にいったん定着すると、蒸気を蒸気送出ポート110から膀胱組織に送出するのが良い。
【0048】
図4は、
図3を参照して上述した実施形態に類似した針アンカー先端部114を備えた遠位カテーテル先端部106の別の実施形態を示している。しかしながら、この実施形態では、蒸気送出ポート110は、カテーテルシャフトに設けられるのではなく、針アンカー先端部114それ自体上にまたはこの中に設けられている。蒸気送出ポート110は、例えば針アンカー先端部114の遠位端部に設けられても良い。この構成により、針アンカー先端部114は、遠位カテーテル先端部を組織中に定着させることができ、そして蒸気を蒸気送出ポート110から膀胱組織中に直接送出することができる。
【0049】
図5を参照すると、本発明の装置および方法がOABの治療のために膀胱内の組織の正確で制御された熱剥離治療を提供する。特に、剥離治療は、切迫性尿失禁感を生じさせる膀胱内またはその近くに位置する表面センサを剥離してOABを治療するよう構成されている。
【0050】
尿意切迫感という感覚認知は、2つの膀胱センサによって媒介できる。膀胱三角および後部尿道のところに位置するセンサは、圧力の僅かな変化に敏感であり、膀胱充填の早期警告システムとして機能することができる。切迫性尿失禁の幾つかの場合が結果として起こるのは、早期警告システムが機能しなくなって排尿筋収縮が第2のセンサの刺激直後に起こったときである。かくして、2つの形態の尿失禁が第1のセンサの機能喪失と関連している場合があり、一方は関連した周期と関係し他方は関連した周期とは関係せず、この差は、排尿筋の不安定性の存否である。本明細書において説明する方法は、センサを蒸気で剥離して尿失禁またはOABを最小限に抑える永続的な効果を達成する技術に関する。
【0051】
図5Aおよび
図5Bには、蒸気送出システム100および患者の膀胱中に挿入されたアンカー先端部108が示されている。
図5Bは、アンカー先端部の拡大図である。
図6は、患者の過活動膀胱を治療する方法を記載した流れ
図600を示しており、この方法は、以下のステップを含むのが良く、すなわち、第1に(
図6の流れ
図600のステップ602において)、蒸気送出システム100のアンカー先端部108、例えば上述したアンカー先端部を有するシャフトを患者の尿道中に挿入するのが良い。幾つかの実施形態では、蒸気送出システムのシャフトを患者の尿道中に挿入されている膀胱鏡中に挿入する。他の実施形態では、蒸気送出システムそれ自体のシャフトを尿道中に挿入するのが良い。
【0052】
次に(
図6の流れ
図600のステップ604において)、蒸気送出システムおよび/または膀胱鏡を経尿道的に患者の体内に送り進めるのが良く、ついには、アンカー先端部および/または膀胱鏡を含む蒸気送出システムの遠位部分が膀胱内に位置決めされるようになる。
【0053】
次に(
図6の流れ
図600のステップ606において)、蒸気送出システムの遠位アンカー先端部を送り進めて切迫性尿失禁感を生じさせる原因となっている膀胱の表面センサを含む標的場所上にまたはこれに隣接したところに位置決めするのが良い。膀胱鏡が用いられる実施形態では、蒸気送出システムの遠位アンカー先端部を膀胱鏡を介する視覚化において膀胱鏡の端部を越えて伸長させるのが良い。
【0054】
次に(
図6の流れ
図600のステップ608において)、遠位アンカー先端部を表面センサ上のまたはこれに隣接して位置する膀胱組織中に送り進めて膀胱組織を穴あけすることなく膀胱組織を変形させるのが良い。幾つかの実施形態では、遠位アンカー先端部は、かじ取り可能であり、この遠位アンカー先端部の向きを変えまたはこれを変形させて遠位アンカー先端部を治療されるべき表面センサ上に、この近くに、あるいはこれに隣接したところに正確に定着させるのが良い。
【0055】
最後に(
図6の流れ
図600のステップ610において)、蒸気送出システムを通って蒸気を表面センサを含む標的組織に送出して表面センサを剥離するのが良い。蒸気によって十分なエネルギーを表面センサに送出して表面センサを剥離するのが良く、この場合、膀胱への外傷を生じないようにする。幾つかの実施形態では、蒸気送出システムは、1~500カロリーのエネルギーを標的組織に送出するよう構成される。このプロセスを膀胱内の他の表面センサについて繰り返し実施するのが良く、ついには標的表面センサ全てが治療されるようにする。
【0056】
本発明の特定の実施形態を詳細に上述したが、この説明は、例示目的であるに過ぎず、本発明の上述の説明は、網羅的ではないことは理解されよう。本発明の特定の特徴は、幾つかの図には示されているが他の図には示されておらず、これは便宜上であるに過ぎず、本発明に従って任意の特徴を別の特徴と組み合わせることができる。多くの変更および変形が当業者には明らかであろう。かかる変形および変更は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲に含まれることが意図されている。従属形式の請求項に記載されている特定の特徴を互いに組み合わせることができ、これらは本発明の範囲に含まれる。本発明はまた、従属形式の請求項が他の従属形式の請求項を参照した多項従属形式の請求項に択一的に記載されているかのごとくの実施形態を含む。