(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出する方法
(51)【国際特許分類】
C11B 1/10 20060101AFI20240808BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20240808BHJP
B01D 11/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C11B1/10
A23D9/02
B01D11/00
(21)【出願番号】P 2022502909
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2020070245
(87)【国際公開番号】W WO2021009337
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-06-26
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522019591
【氏名又は名称】エールベ プロセス ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム アブラーミ
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-047088(JP,A)
【文献】特開2014-005440(JP,A)
【文献】特表平08-509704(JP,A)
【文献】SHEN, Z. et al.,Pilot Scale Ectraction and Fractionation of Rice Bran Oil Using Supercritical Carbon Dioxide,J. Agric. Food Chem,(1997), vol.45, no.12 ,pp.4540-4544
【文献】KUK, M. S. et al.,Supercritical CO2 Extraction of Rice Bran,JAOCS,(1998), vol.75, no.5,pp.623-628
【文献】SPARKS, D. et al.,Extraction of Rice Bran Iol Using Supercritical Carbon Dioxide and Propane,JAOCS,(2006), vol.83, no.10,pp.885-891
【文献】TANIGUCHI, M. et al.,Treatment of Rice Bran with Supercritical Carbon Dioxide,日本食品工業会誌,(1987), vol.34, no.2,pp.102-108
【文献】GARCIA, A. et al.,Supercritical Carbon Dioxide Extraction of Fatty and Waxy Material from Rice Bran,JAOCS,(1996), vol.73, no.9,pp.1127-1131
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00- 15/00
C11C 1/00- 5/02
A23D 7/00- 9/06
B01D11/00- 12/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出する方法:
(a)米ぬか(15)を含む抽出容器(13)を提供し、前記抽出容器(13)を通して、100~1000barの範囲内の抽出圧力p1及び
50℃~
80℃の範囲内の抽出温度T1で、超臨界CO
2(12)を浸透させることを含む、抽出工程;
(b)工程(a)からの前記超臨界CO
2と、油及びワックスを含む抽出物(17)とを第1の分離容器(21)に移し、圧力を前記抽出圧力p1より低い第1の分離圧力p2に低下させて、超臨界CO
2から米ぬか油を含む第1の生成物(23)を沈殿させ
、抽出工程(a)の抽出温度T1よりも高い第1の分離温度T2まで温度を上昇させることを含む、第1の分離工程;並びに
(c)工程(b)からの超臨界CO
2及び残りの抽出物(29)を第2の分離容器(33)に移し、圧力を前記第1の分離圧力p2より低い第2の分離圧力p3に低下させ
、抽出工程(a)の抽出温度T1よりも低い第2の分離温度T3まで温度を低減させて、気体CO
2から米ぬかワックスを含む第2の生成物(35)を沈殿させることを含む、第2の分離工程。
【請求項2】
前記抽出工程(a)の抽出圧力p1が、100~600barの範囲内
にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出工程(a)の抽出圧力p1が、200~600barの範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出工程(a)の抽出圧力p1が、300~600barの範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出工程(a)の抽出圧力p1が、550barである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出工程(a)の抽出温度T1が、55℃~65℃の範囲内
にある、請求項1
~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の分離温度T2が、少なくとも65
℃である、請求項
1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の分離工程(b)のための前記第1の分離圧力p2を、230bar未
満に設定する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の分離工程(c)のための前記第2の分離圧力p3を、73.8bar未
満に設定する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の分離温度T3を、70℃未
満に設定する、請求項
1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記抽出工程(a)を、25~4
5の溶剤/供給比で行う、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の分離工程(c)の後の前記気体CO
2の温度を、前記気体CO
2が液状に変化する回収温度T4まで低下させる回収工程(d)を更に含む、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記回収温度T4が、最大30
℃である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記回収工程(d)の後、液体CO
2の圧力及び温度を、前記抽出圧力p1及び前記抽出温度T1まで上昇させて、抽出工程(a)における再使用のためにCO
2の状態を超臨界に変化させる、請求項
12又は
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米ぬかは、精白工業の副産物であり、品種、精白プロセス、その他の農業気候条件に応じて10~26%の油を含んでいる。米ぬかは、タンパク質、遊離脂肪酸、グリセリド、ステロール、及び多糖を含有している。最近、米ぬか中に存在しているトコフェロール、トコトリエノール、ステロール、特に特有の酸化防止剤であるオリザノールなどの栄養的に重要な化合物に起因し得るその特有の健康上の利点のために、米ぬかがある程度注目されている。
【0003】
食品、医薬品、化粧品及び化学工業での使用のための高い可能性にもかかわらず、米ぬか油の有効な大規模生産は、他の植物油と比較して油の抽出に伴うコストが高いために制限されている。
【0004】
第1に、精白プロセスからの米ぬかは、安定化処理を施して、酵素を不活性化し、脂質酸化を阻害する必要がある。この安定化は、脂肪及びぬかの貴重な生物活性化合物の劣化を防ぐために必須である。米ぬか油の商業的抽出のために、ヘキサンを使用する溶剤抽出が、最近最も一般的に使用されている従来の方法である。米ぬか油からトリグリセリド及びステロールを回収することとは別に、抽出プロセスはまた、未精製の油中の遊離脂肪酸(FFA:free fatty acid)の回収を制限することを目的とする。精製した米ぬか油中のFFA含有量を最小限にすることは、良好な安定性及び色の質を達成するために必須であるが、ヘキサンなどの液体抽出剤では、脂肪種子脂質の特定の基成分(FFAなど)に対する溶解性を制御することができないため、この課題を達成することは困難である。更に、ヘキサンの可燃性、毒性、及びプロセスに関与する高温により、酸化劣化の結果生じる油中のいくらかの望ましくない成分、腐敗及び異臭の発生がもたらされるため、ヘキサンの使用は更なる欠点を有する。
【0005】
したがって、多くの研究者によって、油の抽出及び利用のための異なる他の従来にはない技術を探求する努力がなされてきた。これらの方法のいくつかは、例えば、超臨界二酸化炭素抽出、亜臨界水抽出、酵素補助プロセス、超音波補助プロセス及びマイクロ波補助プロセスである。
【0006】
Sparks et al.2006(JAOCS、Vol.83、No.10)は、20~30MPa及び45~85℃で、40gの米ぬかのバッチ及び抽出媒体としての超臨界CO2を使用する小規模な米ぬか油抽出法を開示した。油は、サイクロンを通過することによって超臨界CO2から分離される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、低い収率及び高いコストは、米ぬか油の大規模生産におけるこれらの代替抽出方法の使用をこれまで制限してきた。
【0008】
更なる障害は、全ての既知の抽出方法の一次生成物が米ぬか油及びワックスの混合物であることである。最終生成物の濁りを抑制するために、ワックスは、冷却及び濾過によって米ぬか油から分離されなければならない。冷却及び濾過によって「廃棄物」として得られる米ぬかワックスはそれ自体、例えば増粘剤、結合剤、可塑剤、化粧品、コーティング及びゲル化剤としての産業上の用途が増加していることが最近見出されているが、未精製の米ぬか油の脱ワックス処理は、米ぬか油の生産の複雑さ及び全体的なコストを増大させる。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に製造することを可能にする方法を提供することである。この方法によれば、抽出された生成物は、毒性残渣を含まず、栄養的に価値のある成分の濃度が高く、従来の技術に匹敵する収率で得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、請求項1に記載の方法によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項の対象である。
【0011】
具体的には、本発明は、米ぬか油及び米ぬかワックスを米ぬかから別々に抽出することを可能にする方法を提供する。この方法は、以下の工程を含む:
(a)米ぬかを含む抽出容器を提供し、抽出容器を通して、100~1000barの範囲内の抽出圧力p1で、35~120℃の範囲内の抽出温度T1及び超臨界CO2を浸透させて、超臨界CO2に溶解した米ぬか油及び米ぬかワックスを含む抽出物を得ること、並びに
(b)工程(a)からの超臨界CO2及び抽出物を第1の分離容器に移し、抽出圧力p1を第1の分離圧力p2に低下させることによって、残りの抽出物から米ぬか油を含む第1の生成物を沈殿させること、並びに
(c)工程(b)からの超臨界CO2及び残りの抽出物を第2の分離容器に移し、第1の分離圧力p2を第2の分離圧力p3に低下させて、気体CO2から米ぬかワックスを含む第2の生成物を沈殿させること。
【0012】
本出願においては、以下の定義を適用する:
【0013】
本出願を通して使用するときは、「第1の生成物」という用語は、抽出圧力p1及び抽出温度T1での抽出物(とりわけ、超臨界CO2中の米ぬか油及び米ぬかワックスを含む)からの沈殿物を指す。p1及びT1の値に応じて、第1の生成物の組成は変化し得るが、好ましくは主成分として、米ぬか油を含有している。
【0014】
本出願を通して使用するときは、「超臨界CO2」という用語は、31℃の臨界温度以上及び74barの臨界圧力以上に保持されている二酸化炭素の流動状態を指す。
【0015】
本出願を通して使用するときは、「米ぬか」という用語は、米粒の硬い外層を指す。米ぬかは、糊粉及び果皮を組み合わせたものからなる。胚芽と一緒に、米ぬかは、全粒穀物の不可欠な部分であり、しばしば、精製された穀物の製造における精白の副産物として生じる。
【0016】
本出願を通して使用するときは、「抽出容器」という用語は、高圧耐性(1000barを超える)であり、超臨界CO2を米ぬかと混合させることができる容器を指す。
【0017】
本発明者らは、驚くべきことに、抽出媒体としての超臨界CO2中で、温度及び圧力を所定の範囲内に調整することによって、米ぬか油及び米ぬかワックスを、2つの成分を含む抽出物から選択的に分離することができることを見出した。例えば、本発明の工程(b)において、圧力を第1の分離圧力p2まで低下させることによって、抽出物を含有している超臨界CO2から米ぬか油を含有している第1の生成物を沈殿させることができ、一方、可溶性となっている米ぬかワックスの少なくとも大部分を超臨界CO2中に保持することができる。その後、圧力を第2の分離圧力p3に更に低減させると、超臨界CO2が気体CO2に変化し、その後、気体CO2から米ぬかワックスを含む第2の生成物が分離される。これによれば、本発明の方法は、米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出するという利点を提供する。
【0018】
溶剤として二酸化炭素を使用することは、その適度な臨界圧力及び臨界温度のおかげで非常に便利である。更に、二酸化炭素は、非毒性の安価で環境に優しい溶剤である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、抽出工程(a)の抽出圧力p1は、100~600barの範囲内、好ましくは150~600barの範囲内、好ましくは300~600barの範囲内にあり、最も好ましくは約550barである。
【0020】
好ましくは、抽出工程(a)の抽出温度T1は、50℃~80℃の範囲内、より好ましくは55℃~65℃の範囲内にあり、最も好ましくは約60℃である。
【0021】
抽出圧力p1及び抽出温度T1の上記範囲内で、増加した量の米ぬか油及び米ぬかワックスを、超臨界CO2により米ぬかから抽出することができる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、第1の分離工程(b)を、抽出工程(a)の抽出温度T1よりも高い第1の分離温度T2で行う。
【0023】
好ましくは、前記第1の分離温度T2は、少なくとも65℃であり、より好ましくは70℃~80℃の範囲内にあり、最も好ましくは約75℃である。
【0024】
恒圧下で昇温すると、超臨界CO2の濃度が低下するため、溶質(米ぬか抽出物)の溶解度が低下することが見出された。そのため、抽出温度T1から第1の分離温度T2までの温度上昇は、米ぬか油を凝縮させ、抽出物から米ぬか油の沈殿を開始させ、その後、この沈殿物を第1の生成物として収集することができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、第1の分離工程(b)のための第1の分離圧力p2を、230bar未満、好ましくは200bar未満、より好ましくは170~190barの範囲内、最も好ましくは約180barの範囲内に設定する。
【0026】
本発明において、驚くべきことに、抽出圧力p1を第1の分離圧力p2に低下させることにより、米ぬか油を含有する第1の生成物を抽出物から効果的に分離することができることが見出された。
【0027】
好ましくは、第2の分離工程(c)のための第2の分離圧力p3を、73.8bar未満、好ましくは65bar未満、最も好ましくは約60barに設定する。
【0028】
73.8bar未満の第2の分離圧力p3の減少は、超臨界から気体へのCO2の変化をもたらし、この変化が、第2の生成物の沈殿を促進することが見出された。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、第2の分離工程(c)を、好ましくは抽出工程(a)の抽出温度T1よりも低い第2の分離温度T3で行う。
【0030】
好ましくは、前記第2の分離温度T3を、70℃未満、好ましくは60℃未満、より好ましくは45℃~55℃の範囲内、最も好ましくは約50℃に設定する。
【0031】
第2の分離工程のための上記の温度範囲は、米ぬかワックスの収率の増加をもたらす。好ましくは、圧力及び温度の低下は、外部エネルギーを使用せずに達せられ、例えば、単にバルブを開いて圧力を低下させ、次いで、この圧力の低下により温度の低下を生じさせることにより達せられる。これにより、本発明のプロセスのエネルギー消費を効果的に低減することができる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、抽出工程(a)を、25~45、好ましくは30~40、最も好ましくは約36の範囲内の溶剤/供給比で行い、米ぬか油及び米ぬかワックスの全体収量を最大にする。
【0033】
本出願を通して使用するときは、「溶剤/供給比」という用語は、超臨界CO2と米ぬかとの比を指す。例えば、2の溶剤/供給比は、工程(a)の培養容器中に米ぬかよりも2倍の超臨界CO2が存在することを示す。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明は、第2の分離工程(c)の後に行う回収工程(d)を更に含み、この回収工程(d)では、気体CO2の温度を回収温度T4まで低下させ、この温度で気体CO2を液状に凝縮させる。回収温度T4は、好ましくは最大30℃であり、好ましくは20℃~30℃の範囲内にあり、最も好ましくは約25℃である。
【0035】
好ましくは、回収工程(d)の後、液体CO2が超臨界状態とし、抽出工程(a)で再使用できるように、液体CO2の圧力及び温度を、抽出圧力p1及び抽出圧力T1まで上昇させる。
【0036】
本発明の別の好ましい実施形態では、工程(c)の気体CO2を、温度T1及び圧力p1で直接的に超臨界状態にし、工程(a)で再使用する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明は、添付の図面に基づいて更に説明される。これらの図は、本発明の例示的な実施形態を説明することを意図したものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことが理解される筈である。
【0038】
【
図2】
図2は、抽出媒体CO
2の各状態の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は本発明のプロセス1の模式図を示している。このプロセスでは、気体CO
2 3をプロセス1に導入し、第1の熱交換器5で温度を回収温度T4に低下させることによって、液体状態にし、液体CO
2貯蔵部7に貯蔵する。米ぬか15のストックを含む圧力調節された抽出容器13に、ポンプ9を用いて液体CO
2を移す。抽出容器13の前又は内部で、ポンプ9によって圧力を抽出圧力p1に上昇させ、第2の熱交換器11によって温度は抽出温度T1に調節する。したがって、「熱交換器」という用語は、広い用語で理解されるべきである。例えば、流体槽(図示せず)内に抽出容器13を配置することができ、CO
2装填中に、この流体槽を高温流体で満たし、抽出容器13、及びそれによりその中のCO
2を昇温させる。温度及び圧力を調整することにより、液体CO
2は超臨界状態12になる。次に、米ぬか油及び米ぬかワックスを超臨界CO
2に含浸させるのを確実にするのに充分な時間、好ましくは1~4時間、超臨界CO
2に米ぬか15のストックを浸透させる。その結果、米ぬか油及び米ぬかワックスを含む米ぬか抽出物17が超臨界CO
2に対して可溶性となる。次に、米ぬか抽出物17が充填された超臨界CO
2を、第1の逆止弁19を通して第1の分離器21に移し、そこで、圧力p1を、第1の分離圧力p2に減少させ、例えば、第3の熱交換器(図示せず)を使用することによって、温度T1を第1の分離温度T2に上昇させる。圧力の低減及び温度の上昇により、第1の生成物23の沈殿がもたらされ、それにより、超臨界CO
2及び残りの米ぬか抽出物29の混合物から第1の生成物23が分離するようにされる。沈殿した第1の生成物23は、第1のバルブ25を通過し、第1の容器27に集められる。超臨界CO
2及び残りの抽出物29の混合物は、第2の逆止弁31を通して第2の分離器33に供給され、そこで圧力p2を第2の分離圧力p3に低下させ、温度T2を第2の分離温度T3に低下させる。温度を第2の分離温度T3に調節するために、更なる熱交換器(図示せず)を使用することができる。第2の分離器33内の温度及び圧力の低下は、超臨界CO
2をその気体状態37に変化させ、気体CO
2 37から第2の生成物35の沈殿をもたらす。第2の生成物35は、第2のバルブ39を通過し、第2の容器41に収集される。気体CO
2 37を、第1の熱交換器5に戻し、そこで、気体CO
2を更に低温にして、貯蔵のために液状にすることができる。
【0040】
図2は、種々の圧力及び温度の条件における種々のCO
2状態の模式図を示す。高圧かつ低温では、CO
2はドライアイスとして知られる固体状態101にある。これとは対照的に、低圧かつ高温では、CO
2は気体状態103である。-56.6℃~31.0℃の温度の範囲内で、かつ5.2barを超える圧力では、CO
2は、主として液体状態105である。CO
2をその超臨界状態111にするためには、少なくとも73.8barの圧力及び少なくとも31.0℃の温度が必要である。
【0041】
CO2の凝集状態の上記の変化は、本発明のプロセスにおいて利用される:本発明のプロセスの抽出工程(a)のため、抽出圧力p1 112及び抽出温度T1 113でCO2を超臨界状態111にする。第1の分離工程(b)では、超臨界CO2 111の圧力を第1の分離圧力p2まで低下させ、温度を第1の分離温度T2 114、115まで上昇させる。第2の分離工程(c)の間、第2の分離圧力p3及び第2の分離温度T3 116、117まで、圧力及び温度をそれぞれ低下させ、そこでCO2を気体状態103に変化させる。回収工程(d)では、気体CO2の温度を回収温度T4 119まで更に低下させ、そこでCO2を液体状態105に変化させる。次いで、温度及び圧力をそれぞれ抽出圧力p1及び抽出温度T1 112、113まで上昇させて、CO2を再度超臨界状態111にすることによって、抽出工程(a)における抽出のために液体CO2を再使用することができる。
【実施例】
【0042】
材料及び方法
〈実施例1〉
抽出プロセス:
未加工の安定化米ぬか(FortiBran(登録商標)からのFORTIVIA(登録商標)N°09-050-2019-22として10kg)を抽出バスケットに導入し、次いで抽出器に入れた。抽出器を、280barの抽出圧力p1に加圧した。超臨界CO2(267kg)を、抽出圧力及び60℃の抽出温度T1で抽出器中の未加工の米ぬかに浸透させた。溶剤/供給比は36であった。
【0043】
実施例1において、米ぬかに含有されている初期の油/ワックス含有率は、15%の油及び3%のワックスであった。
【0044】
分離プロセス:
超臨界CO2及びその中に可溶性となっている抽出物を、第1の分離容器に移した。圧力を180barの第1の分離圧力p2まで低下させ、温度を75℃の第1の分離温度T2まで上昇させた。これにより、米ぬか油が超臨界CO2から沈殿し、分離容器の底部に集められた。
【0045】
超臨界CO2及び残りの抽出物を第2の分離容器に移し、圧力を60barの第2の分離圧力p3まで低下させ、温度を50℃の第2の分離温度T3まで低下させた。これらの条件下で、米ぬかワックスが気体CO2から沈殿し(大部分は液状)、第2の分離容器の底部に集められた。
【0046】
米ぬか油及び米ぬかワックスを含む第1及び第2の生成物を、即時に分離器に集めた。分離後、沈殿生成物から70℃でデカンテーションにより水を除去した。
【0047】
米ぬか油の収率は、重量測定及び脂肪酸滴定を含む他の分析方法によって算出した。
【0048】
デカンテーション及び水除去後の集めた米ぬか油及び米ぬかワックスの収率は、それぞれ15%及び3%であった。したがって、米ぬか油及び米ぬかワックスの総収率は、18%であった。
【0049】
実施例1の条件及び収率を以下の表1に要約する:
【0050】
【0051】
〈実施例2-低圧及び低温条件〉
材料:
未加工の安定化米ぬか(FortiBran(登録商標)-長粒米タイプ A Rombo、30秒間8barの蒸気で安定化(FORTIVIA(登録商標)による))を出発材料として使用した。
【0052】
予備的注意:米ぬか油及び米ぬかワックスの含有量は、非常に有意に変動し得る。実施例2に使用された米ぬかは、実施例1及び3に使用された米ぬかと同じ米ぬか油含有率、すなわち15%を有していたが、初期の米ぬかワックス含有率は有意に低く、すなわち3%ではなく単に0.5%であることが見出された。
【0053】
実施例2では、抽出及び分離工程を、実施例1と同様にして実施したが、以下の表2に示す条件で行った。この実施例2の目的は、非常に低い圧力及び温度で、米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出させることが可能であることを検証することであった。このために、実際には、少量の米ぬか油のみが採取され、第1の分離段階で収集された。第2の分離段階では、米ぬかを可能な限り多く抽出及び分離しようとした。
【0054】
実施例2の条件及び収率を以下の表2に要約する:
【0055】
【0056】
低圧及び低温条件(100bar及び35℃)下で、米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出させることが可能であることが見出された。
【0057】
(**)第1の分離段階の間に、実際には軽い米ぬか油の留分のみが分離され、収集されたが(全体15%のうちの0.55%)、原米ぬかに含まれる本質的に全ての米ぬかワックスの分離及び抽出が可能であった(全体0.5%のうちの0.45%)ことを検証することができた。
【0058】
〈実施例3-高圧及び高温条件〉
材料:
未加工の安定化米ぬか(FortiBran(登録商標)からFORTIVIA(登録商標)N°09-050-2019-22として)を出発材料として使用した(すなわち、実施例1と同じ)。米ぬかに含有されている初期の油/ワックスの含有率は、15%の油及び3%のワックスであった。
【0059】
実施例3では抽出及び分離工程を、実施例1と同様にして実施したが、以下の表3に示す条件で行った。
【0060】
実施例3の条件及び収率を以下の表3に要約する:
【0061】
【0062】
高圧かつより小さい溶剤/供給比では、より高い全抽出収率が得られた(合計18%ではなく合計20%)ことが見出された。すべての米ぬか油及び米ぬかワックスは抽出されたが、より低い圧力では、共抽出されなかったいくつかの他の化合物と一緒に抽出されたと推定される。この想定は、いくつかの他の化合物、とりわけ色素粒子及び極性脂質と共に、第1の分離段階の間に米ぬか油が効果的に収集されたという観察に基づいている。第2の分離段階の間に、全てのワックスを収集した。
本発明の実施態様の一部を以下の項目1~13に記載する。
〈項目1〉
以下の工程を含む、米ぬか油及び米ぬかワックスを別々に抽出する方法:
(a)米ぬか(15)を含む抽出容器(13)を提供し、前記抽出容器(13)を通して、100~1000barの範囲内の抽出圧力p1及び35℃~120℃の範囲内の抽出温度T1で、超臨界CO
2
(12)を浸透させることを含む、抽出工程;
(b)工程(a)からの前記超臨界CO
2
と、油及びワックスを含む抽出物(17)とを第1の分離容器(21)に移し、圧力を前記抽出圧力p1より低い第1の分離圧力p2に低下させて、超臨界CO
2
から米ぬか油を含む第1の生成物(23)を沈殿させることを含む、第1の分離工程;並びに
(c)工程(b)からの超臨界CO
2
及び残りの抽出物(29)を第2の分離容器(33)に移し、圧力を前記第1の分離圧力p2より低い第2の分離圧力p3に低下させて、気体CO
2
から米ぬかワックスを含む第2の生成物(35)を沈殿させることを含む、第2の分離工程。
〈項目2〉
前記抽出工程(a)の抽出圧力p1が、100~600barの範囲内、好ましくは150~600bar、好ましくは200~600barの範囲内にあり、最も好ましくは約550barである、項目1に記載の方法。
〈項目3〉
前記抽出工程(a)の抽出温度T1が、50℃~80℃の範囲内、好ましくは55℃~65℃の範囲内にあり、最も好ましくは約60℃である、項目1又は2に記載の方法。
〈項目4〉
前記第1の分離工程(b)を、抽出工程(a)の抽出温度T1よりも高い第1の分離温度T2で行う、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
〈項目5〉
前記第1の分離温度T2が、少なくとも65℃であり、好ましくは70℃~80℃の範囲内にあり、最も好ましくは約75℃である、項目4に記載の方法。
〈項目6〉
前記第1の分離工程(b)のための前記第1の分離圧力p2を、230bar未満、好ましくは200bar未満、より好ましくは170~190barの範囲内、最も好ましくは約180barに設定する、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
〈項目7〉
前記第2の分離工程(c)のための前記第2の分離圧力p3を、73.8bar未満、好ましくは65bar未満、最も好ましくは約60barに設定する、項目1~6のいずれか一項に記載の方法。
〈項目8〉
前記第2の分離工程(c)を、抽出工程(a)の抽出温度T1よりも低い第2の分離温度T3で行う、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
〈項目9〉
前記第2の分離温度T3を、70℃未満、好ましくは60℃未満、より好ましくは45℃~55℃の範囲内、最も好ましくは約50℃に設定する、項目8に記載の方法。
〈項目10〉
前記抽出工程(a)を、25~45、好ましくは30~40の範囲内、最も好ましくは約36の溶剤/供給比で行う、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
〈項目11〉
前記第2の分離工程(c)の後の前記気体CO
2
の温度を、前記気体CO
2
が液状に変化する回収温度T4まで低下させる回収工程(d)を更に含む、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
〈項目12〉
前記回収温度T4が、最大30℃、好ましくは0℃~30℃の範囲内、最も好ましくは約5℃~15℃の範囲内にある、項目11に記載の方法。
〈項目13〉
前記回収工程(d)の後、液体CO
2
の圧力及び温度を、前記抽出圧力p1及び前記抽出温度T1まで上昇させて、抽出工程(a)における再使用のためにCO
2
の状態を超臨界に変化させる、項目11又は12に記載の方法。