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特許7535586超電導マグネットから発生する静磁場を均一化するための方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】超電導マグネットから発生する静磁場を均一化するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240808BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240808BHJP
   G01R 33/3873 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61B5/055 332
A61B5/055 ZAA
G01N24/00 610E
G01R33/3873
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022544934
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020032031
(87)【国際公開番号】W WO2022044122
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邉 肇
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-196776(JP,A)
【文献】特開2016-152898(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132832(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/005109(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00-24/14
G01R 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導マグネットから発生する静磁場を受ける特定空間に複数の強磁性体を配置して前記特定空間における前記静磁場を均一化するための方法であって、
前記特定空間において前記複数の強磁性体が配置される複数の位置は、予め定められており、
前記複数の強磁性体の各々は、予め厚さが定められた複数の特定強磁性体から選択され、
前記方法は、
前記特定空間の磁場分布の複数の誤差成分の各々について第1下限値および第1上限値を含む第1制約条件を設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第1制約条件を満たすように前記複数の位置の各々に配置する強磁性体の第1最適量を算出するステップと、
前記複数の位置の各々について、当該位置に対応する前記第1最適量との誤差が最小となる前記複数の特定強磁性体の第1組合せを算出するステップと、
前記複数の位置の各々に前記第1組合せの厚さの強磁性体が配置された場合の前記複数の誤差成分を算出するステップと、
前記複数の誤差成分の各々について、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第1下限値より小さい場合、前記第1下限値より大きい下限値および前記第1上限値より大きい上限値を含む条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第1上限値より大きい場合、前記第1下限値より小さい下限値および前記第1上限値より小さい上限値を有する条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第2制約条件を満たすように前記複数の位置の各々に配置する強磁性体の第2最適量を算出するステップと、
前記複数の位置の各々について、当該位置に対応する前記第2最適量との誤差が最小となる前記複数の特定強磁性体の第2組合せを算出するステップと
複数のシムポケットの各々において前記第2組合せによる離散化誤差を算出し、
前記複数のシムポケットの各々に配置される前記複数の特定強磁性体の厚さの前記離散化誤差が予め定められた許容範囲に含まれるか否かを判定し、
前記許容範囲に前記離散化誤差が含まれていれば離散化された前記複数の特定強磁性体の厚さを実際に配置し、
前記許容範囲に前記離散化誤差が含まれて制約条件を再設定し、前記複数の特定強磁性体の最適化計算を再実行すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1最適量を算出するステップは、前記複数の位置に配置される強磁性体の特定物理量についての第2上限値を有する第3制約条件を設定し、前記複数の誤差成分の各々が当該誤差成分に対応する前記第1制約条件を満たし、かつ前記特定物理量が前記第3制約条件を満たすように前記第1最適量を算出し、
前記第2最適量を算出するステップは、前記第1組合せの量の強磁性体の前記特定物理量が前記第2上限値より大きい場合、前記第2上限値より小さい上限値を含む条件を第4制約条件として設定し、前記複数の誤差成分の各々が当該誤差成分に対応する前記第2制約条件を満たし、かつ、前記特定物理量が前記第4制約条件を満たすように前記複数の位置の各々に配置する強磁性体の前記第2最適量を算出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特定物理量は、前記複数の位置に配置される強磁性体の合計重量、および前記複数の位置に配置される強磁性体の各々に発生するローレンツ力を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
超電導マグネットから発生する静磁場を受ける特定空間に複数の強磁性体を配置して前記特定空間における前記静磁場を均一化するための装置であって、
処理回路と、
特定プログラムが保存されたメモリとを備え、
前記特定空間において前記複数の強磁性体が配置される複数の位置は、予め定められており、
前記複数の強磁性体の各々は、予め厚さが定められた複数の特定強磁性体から選択され、
前記処理回路は、前記特定プログラムを実行することによって、
前記特定空間の磁場分布の複数の誤差成分の各々について第1下限値および第1上限値を含む第1制約条件を設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第1制約条件を満たすように前記複数の位置の各々に配置する強磁性体の第1最適量を算出し、
前記複数の位置の各々について、当該位置に対応する前記第1最適量との誤差が最小となる前記複数の特定強磁性体の第1組合せを算出し、
前記複数の位置の各々に前記第1組合せの厚さの強磁性体が配置された場合の前記複数の誤差成分を算出し、
前記複数の誤差成分の各々について、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第1下限値より小さい場合、前記第1下限値より大きい下限値および前記第1上限値より大きい上限値を含む条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第1上限値より大きい場合、前記第1下限値より小さい下限値および前記第1上限値より小さい上限値を有する条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する前記第2制約条件を満たすように前記複数の位置の各々に配置する強磁性体の第2最適量を算出し、
前記複数の位置の各々について、当該位置に対応する前記第2最適量との誤差が最小となる前記複数の特定強磁性体の第2組合せを算出し、
複数のシムポケットの各々において前記第2組合せによる離散化誤差を算出し、
前記複数のシムポケットの各々に配置される前記複数の特定強磁性体の厚さの前記離散化誤差が予め定められた許容範囲に含まれるか否かを判定し、
前記許容範囲に前記離散化誤差が含まれていれば離散化された前記複数の特定強磁性体の厚さを実際に配置し、
前記許容範囲に前記離散化誤差が含まれて制約条件を再設定し、前記複数の特定強磁性体の最適化計算を再実行する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導マグネットから発生する静磁場を均一化するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超電導マグネットから発生する静磁場を均一化するための方法(シミング)が知られている。たとえば、特開2016-152898号公報(特許文献1)には、磁性体片が配置されるシムトレイを備えた静磁場発生装置の磁場均一度調整方法が開示されている。当該磁場均一度調整方法によれば、シムトレイに配置可能な磁性体片の量に上限値があっても、高い磁場均一度に効率よく調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-152898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された磁場均一度調整方法においては、静磁場発生装置の目標磁場を予め定められた範囲で変化させて静磁場の磁場均一度が最小になる目標磁場が選択される。その結果、シミングにおいて静磁場の均一化のために計算された磁性体片の量と磁性体片の実際の離散的な量との誤差(離散化誤差)が考慮される。しかし、最終的に選択された目標磁場においても離散化誤差は残存している。そのため、当該磁場均一度調整方法による静磁場の均一化には、改善の余地がある。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、超電導マグネットによって形成される静磁場の均一化を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面に係る方法は、複数の強磁性体を用いて超電導マグネットから発生する静磁場を均一化するための方法である。特定空間において複数の強磁性体が配置される複数の位置は、予め定められている。複数の強磁性体の各々は、予め量が定められた複数の特定強磁性体から選択される。方法は、特定空間の磁場分布の複数の誤差成分の各々について第1下限値および第1上限値を含む第1制約条件を設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1制約条件を満たすように複数の位置の各々に配置する強磁性体の第1最適量を算出するステップを含む。方法は、複数の位置の各々について、当該位置に対応する第1最適量との誤差が最小となる複数の特定強磁性体の第1組合せを算出するステップをさらに含む。方法は、複数の位置の各々に第1組合せの量の強磁性体が配置された場合の複数の誤差成分を算出するステップをさらに含む。方法は、複数の誤差成分の各々について、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1下限値より小さい場合、第1下限値より大きい下限値および第1上限値より大きい上限値を含む条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1上限値より大きい場合、第1下限値より小さい下限値および第1上限値より小さい上限値を有する条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第2制約条件を満たすように複数の位置の各々に配置する強磁性体の第2最適量を算出するステップをさらに含む。方法は、複数の位置の各々について、当該位置に対応する第2最適量との誤差が最小となる複数の特定強磁性体の第2組合せを算出するステップをさらに含む。
【0007】
本開示の他の局面に係る装置は、複数の強磁性体を用いて超電導マグネットから発生する静磁場を均一化するための装置である。装置は、処理回路と、特定プログラムが保存されたメモリとを備える。特定空間において複数の強磁性体が配置される複数の位置は、予め定められている。複数の強磁性体の各々は、予め量が定められた複数の特定強磁性体から選択される。処理回路は、特定プログラムを実行することによって、特定空間の磁場分布の複数の誤差成分の各々について第1下限値および第1上限値を含む第1制約条件を設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1制約条件を満たすように複数の位置の各々に配置する強磁性体の第1最適量を算出する。処理回路は、特定プログラムを実行することによって、複数の位置の各々について、当該位置に対応する第1最適量との誤差が最小となる複数の特定強磁性体の第1組合せをさらに算出する。処理回路は、特定プログラムを実行することによって、複数の位置の各々に第1組合せの量の強磁性体が配置された場合の複数の誤差成分をさらに算出する。処理回路は、特定プログラムを実行することによって、複数の誤差成分の各々について、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1下限値より小さい場合、第1下限値より大きい下限値および第1上限値より大きい上限値を含む条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1上限値より大きい場合、第1下限値より小さい下限値および第1上限値より小さい上限値を有する条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第2制約条件を満たすように複数の位置の各々に配置する強磁性体の第2最適量をさらに算出する。処理回路は、特定プログラムを実行することによって、複数の位置の各々について、当該位置に対応する第2最適量との誤差が最小となる複数の特定強磁性体の第2組合せをさらに算出する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る磁場均一度調整方法によれば、複数の誤差成分の各々について、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1下限値より小さい場合、第1下限値より大きい下限値および第1上限値より大きい上限値を含む条件を第2制約条件として設定し、当該誤差成分が当該誤差成分に対応する第1上限値より大きい場合、第1下限値より小さい下限値および第1上限値より小さい上限値を有する条件を第2制約条件として設定することにより、超電導マグネットによって形成される静磁場の均一化を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る磁気共鳴画像診断装置の外観を示す斜視図である。
図2図1のMRI装置の磁場調整計算のための情報処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3図1の静磁場発生部に含まれる超電導マグネットの構造を示す断面図である。
図4図1のシムトレイの分解斜視図である。
図5図4の鉄シムの種類を示す図である。
図6】極座標系を示す図である。
図7図1のMRI装置に対して行われるシミングの流れを示すフローチャートである。
図8】比較例に係るシミングの流れを示すフローチャートである。
図9】実施の形態2に係るシミングの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰り返さない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る磁気共鳴画像診断(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置100の外観を示す斜視図である。図1に示されるように、MRI装置100は、静磁場発生部110と、被験者Sbが横たわる寝台130とを含む。静磁場発生部110は、円筒型の超電導マグネットを含む。当該超電導マグネットから、トンネル形状の中空部であるボア120内部に静磁場が発生する。なお、実施の形態1に係るMRI装置100は円筒型に限定されず、開放型であってもよい。開放型のMRI装置においては、超電導マグネット群が上下方向あるいは左右方向に一定のギャップを持たせて対向配置され、被験者は当該ギャップに配置される。
【0012】
図2は、図1のMRI装置100の磁場調整計算のための情報処理装置140の構成を示す機能ブロック図である。図2に示されるように、情報処理装置140は、処理回路141と、メモリ142と、入出力部143とを含む。処理回路141、メモリ142、および入出力部143は、バス144を介して互いに接続されている。情報処理装置140は、MRI装置100とは別個の装置であり、たとえば、パーソナルコンピュータ、またはワークステーションを含む。
【0013】
処理回路141は、専用のハードウェアであってもよいし、メモリ142に格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。処理回路141が専用のハードウェアである場合、処理回路141には、たとえば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいはこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路141がCPUの場合、情報処理装置140の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアあるいはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ142に格納される。処理回路141は、メモリ142に記憶されたプログラムを読み出して実行する。メモリ142には、たとえば磁場調整プログラム(特定プログラム)が保存されている。なお、CPUは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、あるいはDSP(Digital Signal Processor)とも呼ばれる。メモリ142には、不揮発性または揮発性の半導体メモリ(たとえばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、あるいはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory))、および磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)が含まれる。
【0014】
入出力部143は、ユーザからの操作を受けるとともに、処理回路141の処理結果をユーザに出力する。入出力部143は、たとえば、マウス、キーボード、タッチパネル、ディスプレイ、およびスピーカを含む。
【0015】
図3は、図1の静磁場発生部110に含まれる超電導マグネット1の構造を示す断面図である。図3においてX軸、Y軸、およびZ軸は、互いに直交している。図3に示されるように、超電導マグネット1は、円筒型である。超電導マグネット1は、断熱容器であるクライオスタット20と、複数のシムトレイ11とを備える。クライオスタット20は、真空容器21と、熱シールド22と、ヘリウム容器23とを含む。なお、複数のシムトレイ11は、超電導マグネット1とは別個の構造物(不図示)を介して超電導マグネット1に取り付けられてもよい。
【0016】
クライオスタット20の最も外側に、中空円筒状の真空容器21が配置されている。真空容器21の円筒中心部の空間が、ボア120に対応するボア部26(特定空間)となる。真空容器21の内部は、真空になるように不図示の減圧装置により減圧されている。真空容器21は、下部に配置された脚部27によりボア部26の中心軸がZ軸と平行になるように支えられている。
【0017】
真空容器21の内部には、真空容器21と略相似形の中空円筒状の熱シールド22が配置されている。熱シールド22の内部には、熱シールド22と略相似形の中空円筒状のヘリウム容器23が配置されている。熱シールド22は、ヘリウム容器23と真空容器21との間を断熱する機能を有している。
【0018】
ヘリウム容器23の内周面上に超電導コイル24が配置されている。ヘリウム容器23の内部には、液体ヘリウム25が充填されている。超電導コイル24は、液体ヘリウム25に浸漬されて冷却されている。
【0019】
超電導マグネット1が稼動すると、ボア部26の磁場空間28(撮像空間)において、Z軸方向に静磁場29が発生する。磁場空間28における鮮明な撮像のためには、磁場空間28の内部において百万分の一(ppm:parts per million)オーダーで高均一な状態にする必要がある。そのため、超電導マグネット1は、設計段階において高磁場均一性を実現するように最適化される。
【0020】
しかし、製作誤差などにより超電導マグネット1の実機の完成時点において数百~数千ppm程度の低磁場均一状態であることが多い。そのため、通常、超電導マグネット1の製作後に磁場均一性の調整(シミング)が行われる。シミングを行うために用いられる構成(たとえばコイルまたは鉄片)であるシムの種類には、たとえば、超電導シム、常電導シム、および鉄シムが含まれる。
【0021】
超電導シムを用いるシミングにおいては、MRI撮像のために主たる静磁場を発生する超電導コイルとは別個独立に複数の超電導コイルが配置される。当該シミングにおいては、複数の超電導コイルの各々に当該超電導コイルに対応して最適化された電流を流し、当該超電導コイルから発生する磁場によって磁場均一性の調整が行われる。常電導シムを用いるシミングは、超電導コイルに替えて常電導コイルが使用される。
【0022】
鉄シムを用いるシミングにおいては、複数の強磁性体の鉄片(鉄シム)の各々がボア部26内の最適位置に配置される。超電導マグネット1が発生する静磁場29によって、当該鉄シムが磁化され、当該鉄シムが発生する磁場を利用してシミングが行われる。なお、飽和磁束密度、および品質のばらつき等の理由から、通常、鉄シムとしてケイ素鋼板が使用される。鉄シムとして、永久磁石が使用される場合もある。
【0023】
超電導シムを用いるシミングおよび常電導シムを用いるシミングには、電流の微調整によって正確なシミングができること、および作業が容易であること等のメリットがある。特に超電導シムは、通電電流を大きくすることができることから、超電導シムのシミング能力は大きい。しかし、超電導シムおよび常電導シムについては、主たる静磁場29を発生する超電導コイルおよぶ常電導コイルとの磁気的カップリングを考慮しなければならない。また、超電導シムおよび常電導シムは、複雑な非対称的磁場を発生できないため、シミングの自由度が低い。さらに、超電導シムを用いるシミングおよび常電導シムを用いるシミングのコストは、比較的高くなり易い。超電導シムを用いるシミングおよび常電導シムを用いるシミングにおいては、何らかの不具合によってシム内部の電流が減衰あるいは変動した場合には、磁場空間28内の磁場の均一性が悪化し得る。
【0024】
鉄シムを用いるシミングのメリットおよびデメリットは、超電導シムを用いるシミングおよび常電導シムを用いるシミングのメリットおよびデメリットとほぼ相反する。しかし、鉄シムを用いるシミングは、正確なシミングが可能という点では必要十分な微調整能力を有している。また、シミング能力の大きさという点でも鉄シムは必要十分である。
【0025】
そこで、超電導マグネット1においては、鉄シムを用いてシミングを行う。鉄シムは図3のシムトレイ11に収容されている。シミングの自由度を高めるため、複数のシムトレイ11が予め定められたピッチ(たとえばZ軸方向からみて15°ピッチ)でボア部26の内周面に配置されている。なお、複数のシムトレイ11は、超電導マグネット1とは別個の装置を介してボア部26に配置されてもよい。また、開放型のMRI装置においては、対向配置された超電導マグネット群の間に鉄シムが配置される。
【0026】
図4は、図3のシムトレイ11の分解斜視図である。図4に示されるように、シムトレイ11は、本体部111と、蓋部112とを含む。本体部111は、Z軸方向に延在し、棒状である。本体部111には、Y軸方向を深さ方向とする複数のシムポケット12が形成されている。複数のシムポケット12には、複数の鉄シム13が収容される。なお、蓋部112は、一体的に構成されている必要はなく、複数のシムポケット12のそれぞれに対応する複数の蓋を含んでいてもよい。
【0027】
なお、複数のシムポケット12の各々の寸法は、必ずしもすべて同じにする必要はないが、作業およびコストの効率化のため同じ寸法とすることが一般的である。そのため、複数の鉄シム13の各々の縦方向(図4においてはZ軸方向)の長さは、互いに同じであり、複数の鉄シム13の各々の横方向(図4においてはX軸方向)の長さも互いに同じであることが一般的である。
【0028】
鉄シム13が取り付けられる構造は必ずしもポケット状の構造である必要はない。当該構造は、たとえば、シムトレイに設けられたネジ棒に孔が形成された鉄シムが取り付けられるような構造であってもよい。また、超電導マグネット1に鉄シムが取り付けられる構造は、どのような構造であってもよい。たとえば、超電導マグネット1のボア部26に直接設けられたネジ棒に鉄シムがシムトレイを介さずに直接取り付けられる構造であってもよい。
【0029】
図5は、図4の鉄シム13の種類を示す図である。図5に示されるように、複数の鉄シム13の各々は、予め厚さ(Y軸方向の長さ)が定められた鉄シム13a,13b,13c(特定強磁性体)から選択される。鉄シム13a~13cの各々は、同じ鉄材料から形成され、Y軸方向を法線方向としている。鉄シム13a~13cの各々のZ軸方向の長さは、互いに同じである。鉄シム13a~13cの各々のX軸方向の長さは、互いに同じである。鉄シム13aの厚さは、鉄シム13bの厚さよりも厚い。鉄シム13bの厚さは、鉄シム13cの厚さよりも厚い。すなわち、鉄シム13aの重量は、鉄シム13bの重量より重い。鉄シム13bの重量は、鉄シム13cの重量より重い。たとえば、鉄シム13a~13cの厚さは、それぞれ0.35mm,0.10mm,0.05mmである。
【0030】
複数のシムトレイ11の各々について、複数のシムポケット12の各々に収容される鉄シム13の枚数を調節することにより、磁場空間28内の磁場の均一性を向上させることができる。シミングにおいては、磁場空間28内の磁場分布を複数の誤差成分に分解してから、複数の誤差成分の各々が最適な状態になるように複数の鉄シムの配置が最適化される。
【0031】
磁場空間28内の磁場分布(磁場強度)Bは、Legendre関数展開を用いて以下の式(1)により表される。
【0032】
【数1】
【0033】
式(1)のように表される磁場分布Bは、図6に示される極座標系の点P(r,θ,φ)における磁場強度である。式(1)において、距離rは、原点Oと点Pとの距離である。角度θは、ベクトルOPとZ軸とのなす角度である。角度φは、ベクトルOPをXY平面に射影したベクトルとX軸とのなす角度である。式(1)において,整数n(≧0)は次数を表し、整数m(≧0)は階数を表す。Pn,mは、Legendre陪関数である。An,mおよびBn,mの各々は、誤差成分である。以下では、An,mおよびBn,mを、A(n,m)およびB(n,m)とそれぞれ表す。A(0,0)およびB(0,0)は、誤差成分として扱われない。なお、X軸、Y軸、およびZ軸によって規定される直交座標系において、A(n,m)およびB(n,m)は、以下の式(2)ように表される場合がある。
【0034】
【数2】
【0035】
シミングにおいては、図4の複数のシムポケット12の各々に磁場空間28内の磁場の均一化に最適な量の鉄シムが配置される。複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの最適量は、磁場空間28において所望の磁場の均一性を実現するために磁場調整プログラムによって最適化された量である。当該最適化においては、式(1)で得られた複数の誤差成分の各々に以下の式(3)で示されるような下限値および上限値を含む制約条件が設定される。
【0036】
【数3】
【0037】
式(3)の各誤差成分の下限値および上限値の各々の単位は、ppmである。式(1)によれば、誤差成分は無限大の項数があるが、所望の水準の磁場空間28内の磁場の均一性を実現するためには有限の誤差成分で必要十分である。当該有限の誤差成分の個数は、通常、百~数百個程度である。また、式(3)に示される誤差成分の絶対値が0.2ppm以下、あるいは0.3ppm以下等の比較的小さな制約条件ではなく、誤差成分によっては当該誤差成分の絶対値が10ppmあるいはそれ以上の比較的大きな制約条件になる場合がある。これは配置可能な鉄シムの合計量が限られているためである。どの誤差成分にどの程度の制約条件を課するは、理論的かつ経験的に確立される。
【0038】
磁場調整プログラムによって最適化された複数のシムポケット12に取付けられる鉄シムの量は厚さとして決定され、0~1の値に規格化されている。鉄シムの量が0であるシムポケットには、鉄シムが配置されない。鉄シムの量が1のシムポケットには、最大厚さの鉄シムが配置される。当該最大厚さはシムポケットの深さによって制限され、予め決定されている。磁場調整プログラムによる最適化の結果、複数のシムポケット12の全てに鉄シムが配置されるわけではなく、鉄シムが配置されないシムポケット12も生じ得る。
【0039】
たとえば、或るシムポケット12に配置される鉄シムの最大厚さが10mmであるとすると、最適量が1.0である場合には当該シムポケット12に厚さが10mmの鉄シムが配置される。最適量が0.5の場合には当該シムポケット12に厚さが5mmの鉄シムが配置される。磁場調整プログラムによって算出された最適量は、有効桁数の範囲で連続的な少数値を取り得る。たとえば、当該最適量は0.99998の場合もあり得るし、0.000012の場合もあり得る。
【0040】
このように、最適化によって算出される複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの最適量(厚さ)は、0~1に規格化された連続的な値である。しかし、複数のシムポケット12の各々に実際に配置される鉄シムは、図5に示される鉄シム13a~13cの組合せである。当該組合せには、鉄シム13a~13cのいずれか1つも含まれる。複数のシムポケット12の各々について、有限の鉄シムの種類から当該シムポケット12に対応する鉄シムの最適量に最も近い組合せが選択され、当該シムポケット12に配置される鉄シムの最適量が離散化される。
【0041】
その結果、複数のシムポケット12の各々について、磁場調整プログラムによって計算された当該シムポケット12に対応する最適量と当該シムポケット12に配置される実際の鉄シムの量との間には誤差(離散化誤差)が生じる。離散化誤差が大きい程、磁場分布Bの複数の誤差成分の各々が当該誤差成分に対応する許容範囲から乖離する程度は大きくなり得る。その結果、磁場空間28内の磁場の均一性が所望の水準に到達するまでに必要なシミングの回数が増加し得る。
【0042】
鉄シムには比較的大きな電磁力が作用しており、磁場発生中にシミングを行なうことが困難である。そのため、シミングの回数が1回増加するたびに、磁場の強度を低下させて、鉄シムを再配置して、再度磁場の強度を上昇させる等の作業が追加的に必要になる。さらに、磁場の強度の上昇および低下によって超電導マグネット1を冷却している液体ヘリウムが一定量消費される。液体ヘリウムは比較的高価であるため、シミングの回数が1回増加すると、シミングの作業時間の増加に加えて、シミングのコストも増大する。
【0043】
離散化誤差を減少させるための方法として、できるだけ薄い鉄シムを使用して微調整する方法が考えられる。しかし、たとえば0.05mm程度の非常に薄い鉄シムは、取扱いが困難または煩雑である等の理由で、シミングの作業性に悪影響を及ぼし得る。非常に薄い鉄シムの枚数の数え間違いも生じ易い。また、非常に薄い鉄シムは製作コストが高くなる傾向がある。
【0044】
そこで、MRI装置100においては、複数の誤差成分の各々に対応する許容範囲からの当該誤差成分の乖離の程度に応じて、離散化誤差が打ち消されるように当該誤差成分の制約条件を再設定する。再設定された制約条件の下で複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シム13の最適量が再計算させることにより、磁場空間28内の磁場の均一性を向上させることができる。
【0045】
図7は、図1のMRI装置100に対して行われるシミングの流れを示すフローチャートである。以下ではステップを単にSと記載する。図7に示されるS32~S38は、情報処理装置140が磁場調整プログラムを実行することによって実現される。
【0046】
図7に示されるように、S31において磁場空間28の磁場分布が測定される。S32において、S31において測定された磁場分布が所望の磁場均一度を満たしているか否かが判定される。磁場分布が所望の磁場均一度を満たしているか否かは、たとえば、当該磁場均一度が予め定められた閾値より低いか否かによって判定される。
【0047】
S31において測定された磁場分布が所望の磁場均一度を満たしている場合(S32においてYES)、シミングは終了する。S31において測定された磁場分布が所望の磁場均一度を満たしていない場合(S32においてNO)、S33において磁場分布Bの複数の誤差成分が式(1)を用いて算出される。S34において、磁場分布の複数の誤差成分の各々に制約条件(第1制約条件)が設定されて、鉄シムの最適化計算が行われる。当該最適化計算において、複数のシムポケット12の各々に配置する鉄シムの厚さが最適化される。S34の鉄シムの最適化計算の結果、複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの量(第1最適量)に対応する厚さが計算理想値として求められる。
【0048】
S35において、複数のシムポケット12の各々について、当該シムポケット12に対応する計算理想値としての厚さとの誤差が最小となる鉄シム13a~13cの組合せを算出する。すなわち、S35において複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの量(厚さ)が離散化される。S36において、複数のシムポケット12の各々にS35において離散化された鉄シムの量が配置された場合の磁場分布の複数の誤差成分の各々を算出する。
【0049】
S37において、複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの量の離散化誤差が予め定められた許容範囲に含まれるか否かが判定される。複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの量の離散化誤差が当該許容範囲に含まれる場合(S37においてYES)、S39において複数のシムポケット12の各々にS35において離散化された鉄シムの量が実際に配置され、処理がS31に戻される。
【0050】
たとえば、S34における誤差成分A(1,0)の制約条件が-0.3≦A(1,0)≦+0.3である場合に、S37において誤差成分A(1,0)が+0.5ppmであるとする。誤差成分A(1,0)は、制約条件の上限値を超えている。この場合、S34において最適化された鉄シムの量に従って実際に鉄シムを配置しても、離散化誤差によって所望の磁場均一度が得られない。
【0051】
所望の磁場均一度を達成するためにシミングを繰り返して磁場均一度が高まっていくと離散化誤差の影響も減少する。しかし、シミングの回数が増加することによってシミングの作業時間が長期化するとともに、シミングのコストが増加する。
【0052】
そこで、複数のシムポケット12に含まれる或るシムポケット12に対応する鉄シムの量の離散化誤差が許容範囲に含まれない場合(S37においてNO)、S38において、離散化誤差がキャンセルされるように磁場分布の複数の誤差成分の各々の制約条件が再設定される。S38において、再設定された各誤差成分の制約条件(第2制約条件)が満たされるように鉄シムの最適量(第2最適量)が再計算される。S38において鉄シムの最適化計算が終了後、処理がS35に戻される。
【0053】
S38においては、磁場分布の複数の誤差成分の各々について、当該誤差成分がS34において設定された制約条件の下限値(第1下限値)より小さい場合、当該制約条件の下限値より大きい下限値および当該制約条件の上限値より大きい上限値を有する条件が新たな制約条件として設定される。当該誤差成分がS34において設定された制約条件の上限値(第1上限値)より大きい場合、当該制約条件の下限値より小さい下限値および当該制約条件の上限値より小さい上限値を有する条件が新たな制約条件として設定される。
【0054】
たとえば、誤差成分A(1,0)がS37において+0.5ppmである場合、誤差成分A(1,0)に対応する新たな制約条件として、たとえば-0.6ppm≦A(1,0)≦-0.4ppmがS38において設定される。誤差成分A(1,0)がS37において-0.5ppmである場合、誤差成分A(1,0)に対応する新たな制約条件として、たとえば+0.4ppm≦A(1,0)≦+0.6ppmがS38において設定される。なお、制約条件の再設定は、複数の誤差成分毎に個別に行われる。誤差成分によっては離散化誤差を含めても当初の制約条件内の値が得られることもあり、その場合、当該誤差成分に対しての制約条件の再設定は不要である。
【0055】
鉄シムの最適化計算が再実行された場合、前回とは異なり得る最適量がS38において得られる。その場合の離散化誤差も前回から若干変化し得るが、複数の誤差成分の各々の補正量に比べて離散化誤差は比較的小さい。そのため、誤差成分の制約条件の変更も比較的小さく、今回の最適量は前回の最適量と大幅に変わるような最適化にはならない。すなわち、離散化誤差が適切にキャンセルされるような制約条件を再設定することにより、再計算結果での各誤差成分は制約条件を満たすことがほとんどである。仮に、再計算結果での各誤差成分が制約条件を満たさない場合でも、再度同じ手順で各誤差成分の許制約条件を再設定して再計算すれば、離散化誤差がさらに一段階小さくなる。そのため、各誤差成分は、いずれ制約条件を満たす。
【0056】
図8は、比較例に係るシミングの流れを示すフローチャートである。図8に示されるフローチャートは、図7に示されるフローチャートからS36~S38が除かれたフローチャートである。図8のS31~S35,S39は、図7のS31~S35,S39と同様であるため、説明を繰り返さない。比較例においては、鉄シムの量の離散化誤差を適切にキャンセルするS38のような処理がない。そのため、実際に鉄シムを配置した場合に離散化誤差によって磁場分布が所望の磁場均一度を満たさない場合が多い。実施の形態1に係るシミングにより、離散化誤差が適切にキャンセルされて、超電導マグネットによって形成される静磁場の均一化を改善することができるとともに、磁場分布が所望の磁場均一度に到達するまでのシミングの回数を削減することができる。
【0057】
実施の形態1に係るシミングによれば、鉄シムの最適化計算の繰り返しの過程で離散化誤差を低減することができる。離散化誤差を低減する目的で使用されていた最薄の厚さの鉄シムが不要になるため、鉄シムの厚さの種類を減少することができる。その結果、鉄シムの製造コストを低減することができる。また、鉄シムの配置にかかる作業時間を削減することができる。さらに、鉄シムの枚数の数え間違いを低減することができる。
【0058】
以上、実施の形態1に係る超電導マグネットから発生する静磁場を均一化する方法および装置によれば、超電導マグネットによって形成される静磁場の均一化を改善することができる。
【0059】
実施の形態2.
離散化誤差を考慮して制約条件が再設定されるのは磁場分布の複数の誤差成分に限定されない。磁場分布の複数の誤差成分に加えて、鉄シムの合計重量または鉄シムに発生する電磁力等の鉄シムの特定物理量、もしくはその他の要素に対しても、制約条件が再設定されてもよい。実施の形態2においては、鉄シムの物理量に制約条件が課される場合について説明する。
【0060】
たとえば、鉄シムの合計重量の上限値が5.0kgである場合、離散化された鉄シムの合計重量が5.1kgになったとする。その場合、鉄シムの離散化による誤差が鉄シムの上限値よりも0.1kg多く発生している。上限値を4.9kgに再設定することによって、離散化された鉄シムの合計重量を5.0kg以下にすることができる。
【0061】
あるいは、鉄シムに発生する電磁力を制御する場合にも鉄シムの合計重量と同様の方法を適用可能である。下限値および上限値を含む制約条件を設定することで、鉄シムの物理量を目標値に近づけることができる。
【0062】
図9は、実施の形態2に係るシミングの流れを示すフローチャートである。図9に示されるフローチャートは、図7のS34,S37,S38がそれぞれS34A,S37A,S38Aに置き換えられたフローチャートである。これら以外は同様であるため、説明を繰り返さない。
【0063】
図9に示されるように、実施の形態1と同様にS31~S33が行われた後、S34Aにおいて、磁場分布の複数の誤差成分の各々に制約条件が設定されるとともに、鉄シムの特定物理量に制約条件(第3制約条件)が設定されて、鉄シムの最適化計算が行われる。
【0064】
実施の形態1と同様に、S35~S36が行われた後、S37Aにおいて、複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの量の離散化誤差が予め定められた許容範囲に含まれ、かつ離散化後の鉄シムの特定物理量が予め定められた許容範囲に含まれるか否かが判定される。複数のシムポケット12の各々に配置される鉄シムの量の離散化誤差が許容範囲に含まれ、かつ離散化後の鉄シムの特定物理量が許容範囲に含まれる場合(S37AにおいてYES)、S39において複数のシムポケット12の各々にS35において離散化された鉄シムの量が実際に配置され、処理がS31に戻される。複数のシムポケット12に含まれる或るシムポケット12に対応する鉄シムの量の離散化誤差が許容範囲に含まれないか、または離散化後の鉄シムの特定物理量が許容範囲に含まれない場合(S37AにおいてNO)、S38Aにおいて離散化誤差がキャンセルされ、かつ鉄シムの特定物理量が目標値に近づくように、磁場分布の複数の誤差成分の各々の制約条件および鉄シムの特定物理量の制約条件が再設定される。S38Aにおいて、再設定された各誤差成分の制約条件および再設定された鉄シムの特定物理量の制約条件(第4制約条件)が満たされるように鉄シムの最適化計算が再実行される。S38Aにおいて鉄シムの最適化計算が終了後、処理がS35に戻される。
【0065】
S38Aにおいては、磁場分布の複数の誤差成分の各々について、実施の形態1と同様に制約条件の再設定が行われる。さらにS38Aにおいては、鉄シムの特定物理量がS34Aにおいて設定された制約条件の上限値(第2上限値)より大きい場合、当該制約条件の上限値より小さい上限値を含む条件が制約条件として再設定される。
【0066】
以上、実施の形態2に係る超電導マグネットから発生する静磁場を均一化する方法および装置によれば、超電導マグネットによって形成される静磁場の均一化を改善することができる。
【0067】
今回開示された各実施の形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせて実施することも予定されている。今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 超電導マグネット、11 シムトレイ、12 シムポケット、13,13a~13c 鉄シム、20 クライオスタット、21 真空容器、22 熱シールド、23 ヘリウム容器、24 超電導コイル、25 液体ヘリウム、26 ボア部、27 脚部、28 磁場空間、29 静磁場、100 装置、110 静磁場発生部、111 本体部、112 蓋部、120 ボア、130 寝台、140 情報処理装置、141 処理回路、142 メモリ、143 入出力部、144 バス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9