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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】シート及びシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
C08J7/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022570014
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046082
(87)【国際公開番号】W WO2022131261
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2020208658
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智和
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優
(72)【発明者】
【氏名】宇梶 友乃
(72)【発明者】
【氏名】関口 昌史
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514547(JP,A)
【文献】特開2011-037011(JP,A)
【文献】特開2016-056363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイブ加工により得られた、合成樹脂製のシートであって、
前記シートの中心部のスカイブ加工面における平面寸法3mm×3mmの部位を、走査型電子顕微鏡を用いて6000倍の倍率で、横20μm×縦15μmの範囲を撮影し、1280×960画素数で保存した複数の画像データから抽出した任意の1280×960画素領域中に、スカイブ加工方向に伸長する空隙が実質的に視認されない、加工痕を実質的に有しない
シート。
【請求項2】
前記合成樹脂がフッ素樹脂を含有する請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記スカイブ加工面は、フッ素樹脂粉末を含む原料粉末の焼成物が集積してなる面を有し、
前記焼成物は、前記原料粉末の粒子と略同形状を保持し、且つスカイブ加工による延伸変形が生じていない、請求項2に記載のシート。
【請求項4】
180℃での加熱後、放冷したときに、前記シートの平面寸法が、シート平面方向においてスカイブ加工方向である所定方向に沿って収縮し、当該所定方向と直交する方向に沿って膨張する、請求項1~のいずれかに記載のシート。
【請求項5】
前記シートのスカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像における濃色部のアスペクト比の算術平均値が0.80を超える、請求項1~のいずれかに記載のシート。
【請求項6】
前記濃色部のアスペクト比の算術平均値が0.90以上である、請求項に記載のシート。
【請求項7】
表面改質した前記スカイブ加工面における接着強度が0.2N/mmを超える、請求項1~のいずれかに記載のシート。
【請求項8】
180℃での加熱後、放冷したときの、スカイブ加工方向の収縮率が1.5%未満である、請求項1~のいずれかに記載のシート。
【請求項9】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は変性PTFEである、請求項2~のいずれかに記載のシート。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載のシートを含む、プリント基板用材料。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のシートを製造する方法であって、
スカイブ加工により得られた、合成樹脂製のシートの少なくとも一面に対して、当該一面が加工痕を実質的に有しないように当該加工痕を除去する処理を行う工程を含む、シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート及びシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は優れた耐熱性、電気絶縁性、非粘着性、耐候性を備えた合成樹脂であり、シート状に成形してフッ素樹脂シートとしたものが、化学材料、電気電子部品、半導体、自動車等の産業分野において広く利用されている(例えば特許文献1~4)。
【0003】
例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称する。)などは溶融粘度が著しく高いため、一般的な熱可塑性樹脂で行われているような、押出成形等の溶融成形を行うことが困難である。
このような溶融成形が困難な樹脂のシートの製法としては、原料粉末を圧縮成形して円筒状のブロック(ビレット)を成形した後、ブロック表面を薄いフィルム状に削り出す、スカイブ加工と呼ばれる方法が採用されている。
【0004】
例えば特許文献1には、PTFEシートの製造方法に関して、スカイブ加工前のブロック体を、所定の条件で加熱処理及び温度低下処理することで、ブロック体の歪みを抑制する技術が開示されている。
【0005】
フッ素樹脂等の合成樹脂の応用例として、例えば非粘着性で離型性に優れる特性を生かした、離型シートとしての利用が知られている。しかしながら、前述したスカイブ加工を経て得られた合成樹脂フィルムを離型シートとして用いると、離型される側のシートの表面に、スカイブ痕と呼ばれる縦筋が転写することがある。
フッ素樹脂フィルムの表面を平滑化する技術として、例えば特許文献2には、スカイブ法により得られたフィルムを加熱プレス処理する技術が開示されている。特許文献2の技術によれば、離型シートの表面を平滑化しているが、一部の縦筋(スカイブ痕)を低減できる可能性があるものの縦筋を実質的に除去することはできず、また、スカイブ加工後のフィルムに加熱プレス処理を行うと、温度変化等による熱変形が生じ得る。
【0006】
また、フッ素樹脂は耐熱性、絶縁性に優れるため、例えば耐熱絶縁テープ等の耐熱材料やプリント基板材料としての応用も期待されている。
しかしながら、スカイブ加工により製造したフッ素樹脂シートは、加熱等により熱収縮し易く、寸法安定性が悪いため、例えば他の材料との接合等の加工処理を行いにくいという問題が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-027983号公報
【文献】特開2015-189934号公報
【文献】特開2014-231562号公報
【文献】特開2010-201649号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、熱変形を抑制でき、寸法安定性に優れたシートを提供することである。
【0009】
本発明によれば、以下のシートが提供される。
1.スカイブ加工により得られた、合成樹脂製のシートであって、加工痕を実質的に有しないシート。
2.前記合成樹脂がフッ素樹脂を含有する1に記載のシート。
3.前記スカイブ加工面は、フッ素樹脂粉末を含む原料粉末の焼成物が集積してなる面を有し、前記焼成物は、前記原料粉末の粒子と略同形状を保持し、且つスカイブ加工による延伸変形が生じていない、2に記載のシート。
4.前記シートの中心部のスカイブ加工面における平面寸法3mm×3mmの部位を、走査型電子顕微鏡を用いて6000倍の倍率で、横20μm×縦15μmの範囲を撮影し、1280×960画素数で保存した複数の画像データから抽出した任意の1280×960画素領域中に、スカイブ加工方向に伸長する空隙が実質的に視認されない、1~3のいずれかに記載のシート。
5.180℃での加熱後、放冷したときに、前記シートの平面寸法が、シート平面方向においてスカイブ加工方向である所定方向に沿って収縮し、当該所定方向と直交する方向に沿って膨張する、1~4のいずれかに記載のシート。
6.前記シートのスカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像における濃色部のアスペクト比の算術平均値が0.80を超える、1~5のいずれかに記載のシート。
7.前記濃色部のアスペクト比の算術平均値が0.90以上である、6に記載のシート。
8.表面改質した前記スカイブ加工面における接着強度が0.2N/mmを超える、1~7のいずれかに記載のシート。
9.180℃での加熱後、放冷したときの、スカイブ加工方向の収縮率が1.5%未満である、1~8のいずれかに記載のシート。
10.前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又は変性PTFEである、2~9のいずれかに記載のシート。
11.1~10のいずれかに記載のシートを含む、プリント基板用材料。
12.1~10のいずれかに記載のシートを製造する方法であって、スカイブ加工により得られた、合成樹脂製のシートの少なくとも一面に対して、当該一面が加工痕を実質的に有しないように当該加工痕を除去する処理を行う工程を含む、シートの製造方法。
【0010】
本発明によれば、熱変形を抑制でき、寸法安定性に優れたシートが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】焼成した成形体(ビレット)の長手方向外周表面を切削してシート状にするスカイブ工程を示す図である。
図2】成形体の内部構造を説明するための概念図である。
図3】加工痕を有するスカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像である。
図4】加工痕を有しないスカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像である。
図5図5(a)は、加工痕を有するスカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像であり、図5(b)は、図5(a)中に示す濃色部の一つを抜き出して示す概念図である。
図6図6(a)は、加工痕を実質的に有しないスカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像であり、図6(b)は、図6(a)中に示す濃色部の一つを抜き出して示す概念図である。
図7】実施例1~6及び比較例1~2で得られたシート表面の走査型電子顕微鏡画像である。
図8図4に示すシートの原料粉末の走査型電子顕微鏡画像である。
図9図8のβで示す範囲を拡大して観察した走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るシート及びシートの製造方法について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0013】
[シート]
本発明の一態様に係るシートは、スカイブ加工により得られた、合成樹脂製のシートであって、加工痕を実質的に有しないシートである。シートとは、厚みに関わらず、平面をなす一面とその裏面である他面を有しており、帯状、平板状等の形状で構成されることができ、例えば、フィルム、テープを含む。合成樹脂製のシートとは、合成樹脂を含有するシートを意味する。
また、以下の説明において、合成樹脂を含有する樹脂片を単に合成樹脂の樹脂片と示す。
【0014】
スカイブ加工とは、図1に示すように、樹脂粉末の圧縮成形体を焼成したビレット10を回転させながら、ビレット10の表面に切削刃20を当てて薄く連続的にシートを削り出す方法をいう。
スカイブ加工面とは、スカイブ加工により削り出されたシートにおいて、切削刃により切削された面30A、30Bをいう。ビレット10の外周面を一面に有して切り出された部分は、通常、製品としては除かれることに鑑み、スカイブ加工面とは典型的にはシートの両平面をいう。またスカイブ加工方向とは、図1中矢印Aで示す方向をいう。
加工痕とは、スカイブ加工面に形成された、スジ形状の合成樹脂の樹脂片をいう。具体的には、加工痕は、スカイブ加工面において、合成樹脂の樹脂片が後述する空隙に架設された態様をいい、当該空隙上の樹脂片と、当該樹脂片により画定される空隙とをいう。
なお、スカイブ加工方向について詳説すると、シート平面に加工痕が残っている場合は、スカイブ加工方向は、当該加工痕の形成方向(具体的には、シート平面において、空隙上に前述した樹脂片(加工痕)が跨って延設されている方向、又は当該樹脂片(加工痕)によりその一部が覆われて長尺状をなす空隙の長手方向)として特定できる。換言すれば、加工痕とは、スカイブ加工面の空隙上において加工方向に伸長するスジ形状の合成樹脂の樹脂片と、当該樹脂片により画定される空隙をいう。
一方、シート平面に加工痕が残っていない場合は、スカイブ加工方向は、当該シートの熱処理後の収縮方向として特定できる。具体的には、スカイブ加工により得られたシートは、スカイブ加工による応力特性上、熱処理後、放冷したとき(より詳細には、後述する実施例の「加熱寸法変化率の測定」における項目1~項目5の処理をしたとき)に、その平面寸法は、シート平面方向においてスカイブ加工方向である所定方向に沿って収縮し、当該所定方向と直交する方向に沿って膨張する。即ち、熱処理後、放冷したときにシートの平面寸法が収縮する方向を、スカイブ加工方向として特定できる。
【0015】
本発明者らは、スカイブ加工を経て得られた合成樹脂製のシートが熱変形し易く、寸法安定性に劣る原因について鋭意研究した結果、スカイブ加工面に加工痕が残存していると、シートの熱変化が生じ易くなり寸法安定性が悪化することを見出した。
ここで、スカイブ加工面における加工痕を有する層を脆弱層という。すなわち、脆弱層とは、スカイブ加工によりシートの表層が切削刃によって加工方向に引き伸ばされて形成された層をいう。脆弱層は、機械的に脆く、熱変化等の影響を受けやすいと推定される。
【0016】
本態様のシートは、前述した加工痕(脆弱層)を実質的に有しないため、温度変化に伴う変形が抑制されており、寸法安定性に優れる。
その他にも、本態様のシートは、前述した加工痕(脆弱層)を実質的に有しないため、当該シートを離型シートとして用いる場合には、離型される側のシートへの加工痕の転写を低減でき、また当該シートを他部材(例えば銅等の金属材料や、その他の材料)と接着させる場合には、プラズマ処理等の表面改質を効果的に行うことができるので、他部材との接着強度を向上させることができる。
【0017】
上述のように、スカイブ加工は、原料粉末の圧縮成形体を焼成したビレット(成形体)に対して行われる。この場合、被加工体であるビレットの内部には、圧縮粉末間に存在するボイド10aと呼ばれる空隙が、全体に分散して存在する(図2参照)。このため、スカイブ加工により削り出されたシートの表面には、ビレット内部のボイドの一部が陥没部となって顕れる。
スカイブ加工面に加工痕を有する場合、樹脂片の少なくとも一部は、陥没部(前述した空隙に相当する)を跨いで、スカイブ加工方向に伸びて存在する(図3中の領域α)。このため、スカイブ加工面において識別される陥没部(前述した空隙に相当する)の形状は、樹脂片によりその一部が覆われることで、スカイブ加工方向に細長く伸長したもの(スジ形状部)が多くなる。
一方、スカイブ加工面に加工痕を実質的に有しない場合、スカイブ加工面において識別される陥没部の形状は、前述したボイド自体の形状に近いため、スカイブ加工方向の伸長度は低いものが多くなる(図4参照)。
典型的な加工痕はスジ形状に見えるため、加工痕の有無は顕微鏡画像により確認できる(図3)。本願において「加工痕を実質的に有しない」とは、シートのスカイブ加工面において、加工痕が実質的に除去され、内部構造が露出してなることをいう。
具体的には、「加工痕を実質的に有しない」とは、以下の状態を意味する。まず、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、「SU3500」)の試料台にカーボンテープを添付し、測定試料(シート中心部の平面寸法3mm×3mm部位)のスカイブ加工面が観察面となるように設置する。次いで、スカイブ加工面に白金蒸着し、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、「SU3500」)を用いて加速電圧5kV、6000倍の倍率で、横20μm×縦15μmの範囲で観察した走査型電子顕微鏡画像を1280×960画素数で保存した複数の画像データにおける、任意の3点の画像(1280×960画素領域)中に、スジ形状部が実質的に視認されないことを意味しており、スジ形状部が画像上において全く視認されない場合はもとより、本発明の目的等に照らし、本発明の本質に反しない範囲内で残存するスジ形状部が画像上において視認される場合も含む。
【0018】
一実施形態に係るシートは、スカイブ加工面の走査型電子顕微鏡画像における濃色部のアスペクト比の算術平均値が0.80を超える。本実施形態は、上述した加工痕(スジ形状部)を特定する1つの手法を提供するものである。
ここで、本願では、走査型電子顕微鏡画像における濃色部は、シート表面における陥没部(空隙)に相当するものであり、以下のようにして特定される。
【0019】
まず、シートのスカイブ加工面を走査型電子顕微鏡で倍率6000倍にて横20μm×縦15μmの範囲で撮影し、1280×960画素数で保存した複数の画像データから、所定の画素領域(1280×960画素領域)を設定して抽出する。この抽出画像に対して、多値画像処理のヒストグラム解析取得プログラム(例えば、解析ソフト(Media Cybernetics.Inc.製、「Image-Pro 10」))を使用して、グレースケール(256階調)のヒストグラムを取得し、取得したヒストグラムを正規分布とし、その分散量をσとしたときの平均値±3σの範囲を抽出し、256階調とする。さらに、ヒストグラムの平坦化処理を行い、これにより得られたグレースケール度数分布データをもとに、256階調における0~35階調の画素部分を「濃色部」と定義する。
【0020】
図5(a)は、加工痕を有するスカイブ加工面中心部の走査型電子顕微鏡画像の一例であり、当該走査型電子顕微鏡画像について、上述した手法で画像解析して抽出された濃色部Pの外縁を線で囲って示している。図5(b)は、図5(a)中に示す濃色部の一つを抜き出して示す概念図である。
なお、図5(a)中、「a」で示す方向はスカイブ加工方向であり、図5(a)に示す例では、シートの長手方向に該当する。図5(a)中、「b」で示す方向はスカイブ加工方向に直交する方向であり、図5(a)に示す例では、シートの長手方向に直交する方向に該当する。なお、図5(a)の右下に示すスケール(10目盛り)は、スケール全体で5.00μmを示している。この点は、図6(a)についても同様である。
【0021】
図6(a)は、加工痕を実質的に有しないスカイブ加工面中心部の走査型電子顕微鏡画像の一例であり、当該走査型電子顕微鏡画像について、上述した手法で画像解析して抽出された濃色部の外縁を線で囲って示している。図6(b)は、図6(a)中に示す濃色部の一つを抜き出して示す概念図である。
なお、図6(a)中、「a」で示す方向はスカイブ加工方向であり、図6(a)に示す例では、シートの長手方向に該当する。図6(a)中、「b」で示す方向はスカイブ加工方向に直交する方向であり、図6(a)に示す例では、シートの長手方向に直交する方向に該当する。
【0022】
また、本願では、「濃色部のアスペクト比」とは、スカイブ加工方向の径に対する、スカイブ加工方向に直交する方向の径である。
また、「濃色部のアスペクト比の算術平均値」とは、測定試料(シート中心部の平面寸法3mm×3mm部位)のスカイブ加工面について、走査型電子顕微鏡を用いて観察される画像から任意の3点の画像(1280×960画素領域)を抽出し、これら3点の画像の各々において特定される全濃色部のアスペクト比について、画像毎に算術平均値を算出し、各画像について得られた算術平均値をさらに算術平均して得られる値である。例えば図5に示す例では、濃色部Pのスカイブ加工方向の径はRa1であり、スカイブ加工方向に直交する方向の径はRb1であるため、濃色部Pのアスペクト比(スカイブ加工方向に直交する方向の径/スカイブ加工方向の径)は、(Rb1/Ra1)で表される。図5に示す例では、(Rb1/Ra1)は概ね0.5である。
また、例えば図6に示す例では、濃色部Pのスカイブ加工方向の径はRa2であり、スカイブ加工方向に直交する方向の径はRb2であるため、濃色部Pのアスペクト比は(Rb2/Ra2)で表される。図6に示す例では、(Rb2/Ra2)は概ね1である。
【0023】
シート表面に加工痕がある場合、スカイブ加工面における陥没部の形状は、前述したように、スカイブ加工方向に伸長した形状ものが多くなるため、図5に示すように、アスペクト比は小さくなる傾向がある。
一方、シート表面に加工痕が無い場合、スカイブ加工面における陥没部の形状は、前述したように、スカイブ加工方向の伸長度が低いものが多くなるため、図6に示すように、アスペクト比は所定値より大きくなる傾向がある。大局的には、アスペクト比は、所定の下限値より大きく、所定の上限値より小さくなる傾向、即ち、真円である1の近傍にばらつきをもつ傾向があるので、1に近くなるともいえる。
【0024】
一実施形態において、走査型電子顕微鏡画像における濃色部のアスペクト比の算術平均値が0.80を超えれば、加工痕を実質的に有しないものとする。
なお、算術平均値は、前述した画素領域内から抽出した全濃色部のアスペクト比から算出される値とする。
【0025】
本発明の他の実施形態として、濃色部のアスペクト比の算術平均値の下限値は、0.80を超え、0.81以上、0.85以上、0.90以上、0.93以上、0.95以上、1.00以上、1.05以上、1.12以上、1.14以上、1.16以上、又は1.20以上であってもよい。本発明のその他の実施形態として、濃色部のアスペクト比の算術平均値の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、1.5以下、1.35以下、1.33以下、1.26以下、1.23以下、又は1.15以下で構成することができる。さらに本発明のその他の実施形態では、濃色部のアスペクト比の算術平均値は、上記実施形態の上限値と下限値を組み合せて構成することができ、例えば、0.80を超え1.5以下、又は0.90以上1.35以下で構成することもできる。
濃色部のアスペクト比の算術平均値が上記範囲にあれば、スカイブ加工面に加工痕が少なく、内部構造に近い構造が表面に露出した、良好な表面状態を有するシートであるといえる。
【0026】
(ヘイズ値)
一実施形態において、シートスカイブ加工面のヘイズ値の下限は、53%超であってもよく、55%以上、又は60%以上であってもよい。またヘイズ値の上限は、例えば100%以下、99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、又は65%以下であってもよい。
なお、ヘイズ値とは、フィルムの透明性に関する指標であり、濁度(曇度)を表す指標である。ヘイズ値は、具体的には実施例に記載の方法により評価する。
【0027】
(接着強度)
一実施形態において、シートのスカイブ加工面にプラズマ処理等の表面改質を行った後の、当該スカイブ加工面における接着強度は、0.2N/mm超であってもよく、0.5N/mm以上であってもよい。接着強度は、具体的には実施例に記載の方法により評価する。
【0028】
(加熱寸法変化率)
一実施形態に係るシートは、180℃での加熱処理後、放冷したときの、シート平面方向におけるスカイブ加工方向の収縮率(加熱寸法変化率)が1.5%未満であってもよく、1.3%以下、又は1.1%以下であってもよい。加熱寸法変化率は、具体的には実施例に記載の方法により評価する。
【0029】
[合成樹脂]
合成樹脂としては、一般に用いられているものを特に限定なく使用できるが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、フッ素樹脂を好適に使用できる。
【0030】
フッ素樹脂としては、一般に用いられているものを特に限定なく使用できるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、テトラフルオロエチレンの単独重合体である。
【0031】
また、フッ素樹脂としては、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)を用いてもよい。変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)は、パーフルオロアルキルビニルエーテルで変性されたポリテトラフルオロエチレンである。
上記パーフルオロアルキルビニルエーテルとしては、下記式(1)で表されるパーフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
CF=CF-OR (1)
(式(1)中、Rは炭素数1~10(好ましくは炭素数1~5)のパーフルオロアルキル基、又は下記式(2)で表されるパーフルオロ有機基である。)
【化1】
(式(2)中、nは1~4の整数である。)
【0032】
式(1)の炭素数1~10のパーフルオロアルキル基としては、例えばパーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、好ましくはパーフルオロプロピル基である。
【0033】
[その他充填材]
一実施形態において、シートはさらに充填材を含んでもよい。当該充填材としては、アルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、マイカが挙げられる。これら充填材は、1種又は2種以上を使用できる。
【0034】
シート中におけるアルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ及びマイカから選択される1種以上の充填材を含む場合、その含有量は、例えば0.5~50質量%であり、好ましくは1~35質量%である。なお、シート中には必ずしも充填剤を含んでいなくてもよい。
【0035】
一実施形態において、シートは、例えば、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上、又は100質量%が、
ポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレン;
及び任意にアルミナ、酸化チタン、シリカ、ガラスファイバー、ガラスビーズ及びマイカから選択される1種類以上の充填材からなってもよい。
【0036】
[シートの製造方法]
本発明の一態様に係るシートの製造方法は、スカイブ加工により得られた、合成樹脂製のシートの少なくとも一面に対して、当該一面が加工痕を実質的に有しないように当該加工痕を除去する処理を行う工程を含む。
【0037】
一実施形態に係るシートの製造方法は、下記(1)~(4)の工程を含む:
(1)合成樹脂を含む原料を金型に充填し、圧縮成形して成形体を形成する工程
(2)成形体を焼成する工程
(3)焼成した成形体の表面を切削してシート状にするスカイブ加工処理を行う工程
(4)シート状にした成形体の表面から加工痕を除去する工程
【0038】
合成樹脂としては、前述したシートの項目で説明した樹脂を用いることができる。
圧縮成形する原料は、合成樹脂としてフッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン又は変性ポリテトラフルオロエチレン)を80~100質量%含む原料が好適なものとして挙げられる。
圧縮する原料が、アルミナ、酸化チタン、シリカ、ガラスファイバー、ガラスビーズ、マイカから選択される1種類以上の充填材を含む場合、当該充填材の配合量はフッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン又はこれらの混合物)に対して1~50質量%である。
【0039】
上記原料を金型に充填して、圧縮成形して圧縮成形体を形成する。面圧は、10~100MPaであってもよく、20~60MPaであってもよく、30~50MPaであってもよい。
【0040】
得られた圧縮成形体を焼成し、ビレットを得る。焼成温度は100~400℃であってもよく、350~370℃であってもよく、360~370℃であってもよい。
圧縮成形体の原料粉末として、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を含む原料粉末を用いた場合、得られるビレットは、原料粉末の焼成物が集積してなる成形体として得られる。
【0041】
後述するスカイブ加工の行い易さの点から、ビレット(成形体)の形状は、好ましくは円筒状である。ビレット(成形体)が円筒体である場合、当該円筒体の直径は、例えば100~500mmであってもよく、150~500mmであってもよい。
【0042】
次に、焼成した成形体であるビレットの表面を切削してシート状にするスカイブ加工処理を行う。
ビレット(成形体)が円筒体である場合、焼成した円筒体の長手方向外周表面に切削刃を当てて切削してシート状にする。
【0043】
ビレット(成形体)が円筒体である場合、焼成した円筒体の長手方向外周表面を切削してシート状にする工程を実施する前に、焼成した円筒体の外周表面、内周表面及び端面表面をそれぞれ表面外側から3mmまでの厚みを除去してもよい。
【0044】
焼成した円筒体の長手方向外周表面を切削してシート状にするスカイブ加工工程は図1に示す装置を用いて実施できる。切削して得られるシートの厚さは、例えば0.01~1mmであってよく、0.01~0.5mmであってもよい。
図1において、焼成したビレット(円筒体)10を回転させ、切削刃(バイト)20で切削してシート30とする。
【0045】
次いで、シートの表面に粒子を投射することで、シートの表面に存在する加工痕を除去する。これにより、当該シート表面が加工痕を実質的に有しないようにすることができる。
粒子投射によって加工痕を除去する方法としては、当該粒子投射によってシート表面が引き伸ばされて新たに加工痕(スカイブ加工による加工痕とは異なる痕)を発生させないように調整できる方法であれば、特に限定されない。加工痕を除去する方法としては、例えば、投射粒子としてドライアイスを用いるドライアイスブラスト処理、水に粒子を分散させたスラリーを投射する処理が挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
粒子投射による加工痕の除去は、シート表面の加工痕を除去して当該シート表面が加工痕を実質的に有しないものすることができるように、且つ、粒子投射によってシート表面が引き伸ばされて新に加工痕を発生させることがないように、投射粒子の種類(粒子の材質、形状、粒径)や、投射条件(投射角度、投射距離、投射圧)を適宜調整することより行うことができる。
【0047】
上述した方法により得られるシートにおいては、ビレット内部の構造と略同じ構造が、スカイブ加工面の表面形状として顕れる。
例えば、原料粉末として、フッ素樹脂を含む原料粉末を用いた場合、原料粉末の焼成物が集積してなる成形体(ビレット)について、上述したスカイブ加工処理及び加工痕の除去処理を行うことにより、最終的に得られるシートは、スカイブ加工面が、原料粉末の焼成物が集積してなる面を有するものとなる。当該焼成物は、原料粉末の粒子と略同じ形状を保持しており、スカイブ加工による延伸変形が生じていないものとして、スカイブ加工面を構成する。
【0048】
図8は、図4に示すシートの原料粉末を、走査型電子顕微鏡で観察した画像であり、図9は、図8中、βで示す範囲をさらに拡大して走査型電子顕微鏡で観察した画像である。
図8に示す原料粉末(PTFE粉末)は、懸濁重合により合成された一次粒子を圧縮成形用に造粒したものであり、βに示す範囲において、例えばQで示す位置に存在する微小な一次粒子(平均粒子径:約1μm)が凝集して、平均粒子径が10~100μm程度の二次粒子(例えば、βに示す範囲を占める塊状粒子)を形成している。
図8に示す原料粉末を圧縮成形して得られる圧縮成形体は、前述した一次粒子(平均粒子径:約1μm)の集合体であり、当該成形体を焼成して得られるビレットをスカイブ加工して得られるシートのスカイブ加工面を走査型電子顕微鏡で観察した走査型電子顕微鏡画像が、図4に示されている。
当該ビレットは、平均粒子径約1μm程度の一次粒子を圧縮成形し、焼成過程を経ているため、当該一次粒子の一部は偏平状に変形し、一部は他の一次粒子と融着、圧着又は接着している。即ち、ビレットは、偏平状の一次粒子が互いに結合(係合)した状態、換言すると、一次粒子が原料粉末の粒子と略同形状を保持した状態を有しており、当該ビレットをスカイブ加工して得られるシートのスカイブ加工面は、図4に示すように、平均粒子径約1μm程度の粒子(原料粉末の焼成物)が集積してなる面を有している。
図4中、例えばc、d、e、fに示す各領域(原料粉末の焼成物)の形状は、図9中、g、h、i、jに示す各領域(原料粉末の一次粒子)の形状と、それぞれ略同じ形状を有している。
【0049】
以上説明した本態様のシートは、例えばプリント基板用材料として好適に用いられる。
【実施例
【0050】
実施例1
<ビレットの作製>
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のパウダーを金型に充填して、上下からプレス圧力20MPaで0.5時間圧縮成形し、円筒状の予備成形体(外径245mm×内径75mm×高さ300mm)を得た。得られた予備成形体を焼成炉に投入して365℃で5時間焼成した。
【0051】
<スカイブ加工>
得られた円筒状焼成体(外径245mm×内径75mm×高さ300mm)を図1に示す装置でスカイブ加工し、0.05mm厚のシートを製造した。
【0052】
<加工痕の除去>
得られたシートのスカイブ加工面に向けて投射粒子として研磨剤を分散させたスラリー(研磨液)を投射する処理を行った。
なお、本実施例においては、加工痕の除去工程の一例として、研磨液を投射する処理を採用したが、本発明における加工痕の除去工程では、例えば粒子投射により加工痕を除去できる方法であれば、異なる方法を適宜採用可能である。
加工痕の除去は、以下の条件で行った。
(粒子投射条件)
・スラリー(研磨液):
溶媒:純水
研磨剤:アルミナ(Al)、多角形粒子、平均粒子径(D50)6.7μm、
研磨剤含有量:0.95体積%
・投射角度:90°
・投射距離:20mm
・エア圧:0.2MPa
【0053】
得られたシートについて、以下の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0054】
[濃色部の抽出及びアスペクト比の算出]
まず、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、「SU3500」)の試料台にカーボンテープを添付し、測定試料(シート中心部の平面寸法3mm×3mm部位)のスカイブ加工面が観察面となるように設置した。次いで、測定試料のスカイブ加工面に白金蒸着し、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、「SU3500」)を用いて加速電圧5kV、6000倍の倍率で、横20μm×縦15μmの範囲で観察した走査型電子顕微鏡画像を1280×960画素数で保存した複数の画像データにおける、任意の3点の画像(1280×960画素領域)から、1280×960画素領域の画像を、任意で3点抽出した。
これら3点の各抽出画像に対して、多値画像処理のヒストグラム解析取得プログラム(Media Cybernetics.Inc.製、「Image-Pro 10」)を使用して、グレースケール(256階調)のヒストグラムを取得し、取得したヒストグラムを正規分布とし、その分散量をσとしたときの平均値±3σの範囲を抽出し、256階調とした。さらに、ヒストグラムの平坦化処理を行い、これにより得られたグレースケール度数分布データをもとに、256階調における0~35階調の画素部分を「濃色部」として特定した。
次いで、各画像において特定した全濃色部について、それぞれスカイブ加工方向の径、及びスカイブ加工方向に直交する方向の径を計測し、アスペクト比((スカイブ加工方向に直交する方向の径)/(スカイブ加工方向の径))を算出した。このようにして得られた全濃縮部のアスペクト比について、画像毎に算術平均値を算出し、3点の画像について得られた各々の算術平均値を、さらに算術平均して「濃色部のアスペクト比の算術平均値」を算出した。
【0055】
[加工痕の有無]
「濃色部の抽出及びアスペクト比の算出」において得られた走査型電子顕微鏡画像において、加工痕の有無を確認した。具体的には、上記条件にて観察した走査型電子顕微鏡画像から抽出した、3点の1280×960画素領域の画像のいずれかに、シートのスカイブ加工面の空隙上においてスカイブ加工方向に伸長するスジ形状の樹脂片又は同方向に長尺状をなす空隙(加工痕)が認められた場合には「加工痕有り」とし、前述した3点の画像のいずれにも加工痕が認められなかった場合には「加工痕無し」とした。
【0056】
実施例2~6、比較例2
加工痕の除去に用いるスラリー(研磨液)の研磨剤濃度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
加工痕の除去工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例7
ポリテトラフルオロエチレンの代わりに変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)を用いたこと以外は、実施例6と同様にしてシートを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0059】
比較例3
ポリテトラフルオロエチレンの代わりに変性ポリテトラフルオロエチレンを用いたこと以外は、比較例1と同様にしてシートを作製し、評価した。結果を表2に示す。
【0060】
[加熱寸法変化率の測定]
実施例6、7及び比較例1、3で得られたシートの加熱前後の寸法変化(加熱寸法変化率)を以下の手順により評価した。結果を表2に示す。
1. シートを110mm×130mmの寸法にカットし、23℃の恒温室に15時間静置した。
2. 1.の静置後のシートに、50mm×50mmの標線を描き、スカイブ加工方向(以下、MD方向ともいう。)とその直交する方向(以下、CD方向ともいう。)の標線間距離をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、「VHX5000」)で測定し、加熱前寸法とした。
3. 2.の寸法測定後のシートのMD方向の両端をクリップで挟み、熱風循環式ギアオーブン(タバイエスペック株式会社製、「PHH-100」)内に吊るして設置した。
4. 3.の熱風循環式ギアオーブンを常温から180℃まで昇温し、180℃到達後に1時間保持し、常温まで放冷した。
5. 4.の放冷後、クリップを取り外し、23℃の恒温室に15時間静置した。
6. 5.の静置後に、再びデジタルマイクロスコープで標線間距離を測定し、加熱後寸法とした。
7. 2.で得られた加熱前寸法及び6.で得られた加熱後寸法から、加熱寸法変化率を下記式(i)により算出した。
加熱寸法変化率=(加熱後寸法-加熱前寸法)/加熱前寸法 ・・・(i)
【0061】
[ヘイズ値の測定]
実施例7及び比較例3で得られたシートのヘイズ値を以下の手順で測定した。
JIS K7136に準拠し、シートの中心部から平面寸法30mm×30mmの部位を切り出し、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、「NDH5000」)を用いて、拡散透過率及び全光線透過率を測定し、以下の式(ii)からヘイズ値を算出した。拡散透過率及び全光線透過率の測定は、シートの3箇所(スカイブ加工面の任意の3点)で行い、各々の測定値から算出されるヘイズ値の算術平均値を算出した。結果を表3に示す。
ヘイズ値(%)=拡散透過率/全光線透過率×100 ・・・(ii)
【0062】
[表面改質後のシートの接着性評価]
実施例6、比較例1のシートを100mm×100mmに切り出し、下記に示すプラズマ処理を行った後、下記に示す接着性評価を行った。結果を表4に示す。
【0063】
(プラズマ処理)
真空プラズマ装置にシートを設置して真空引きを行い、窒素ガス及び水素ガスの混合ガス雰囲気下で、2.45GHzのマイクロ波を用いてプラズマ処理を10秒間施した。
【0064】
(接着強度測定)
プラズマ処理済のシート、ハロゲンフリー低誘電接着剤(半硬化)シート(ニッカン工業株式会社製、「SAFY」、厚さ25μm)、及び電解銅箔(三井金属鉱業株式会社製、「TQ-M4-VSP」、厚さ18μm)をこの順で重ね合わせ、熱プレス(温度:160℃、プレス時間:1時間、プレス荷重:4MPa)で圧着させて、接着強度測定用の試料を作製した。この試料に10mm幅に切れ込みを入れ、銅箔を30mm剥がした。剥がした銅箔付きの試料を小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、「EZ-LX」)を用いて、引張速度50mm/minで90°剥離試験を行い、接着強度を測定した。
【0065】
実施例1~6、比較例1~2において、「濃色部の抽出及びアスペクト比の算出」で取得した電子顕微鏡画像(倍率6000倍、1280×960画素領域)を図7に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のシートは、耐熱絶縁テープ等の耐熱材料、プリント基板用材料、離型シートとして好適に使用されるが、これに限定されるものではない。
【0071】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9