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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】ガラクトオリゴ糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/14 20060101AFI20240808BHJP
   C12N 9/38 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C12P19/14 Z
C12N9/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023066479
(22)【出願日】2023-04-14
(62)【分割の表示】P 2019527643の分割
【原出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2023093593
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017130761
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅和
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅彦
【審査官】三谷 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-245690(JP,A)
【文献】特開昭63-091092(JP,A)
【文献】特開平02-215392(JP,A)
【文献】特開2010-006718(JP,A)
【文献】特開昭62-079791(JP,A)
【文献】Kim, Chang-Sup, et al.,Biochemical and biophysical research communications,2004年,Vol. 316, Issue 3,pp. 738-743
【文献】MONTILLA, Antonia, et al.,Michwissenschaft,2012年,Vol. 67,pp. 14-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次反応として、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを基質に反応させた後、二次反応として、一次反応に用いたものと異なるβ-ガラクトシダーゼを、15~60mMの塩化ナトリウム及び0.5~8mMの塩化マグネシウムの存在下で一次反応液に作用させるβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法であって、
β-ガラクトシダーゼがクリベロマイセス・ラクチス由来のものである、
ことを特徴とするβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
塩化マグネシウムの濃度が1.5~8mMである請求項1記載のβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
一次反応に用いられるβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物が、スポロボロマイセス属、アスペルギルス属またはバチルス属に属する微生物である請求項1記載のβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
一次反応に用いられるβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物が、スポロボロマイセス属に属する微生物である請求項1記載のβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
一次反応に用いられるβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物が、スポロボロマイセス・シンギュラリスである請求項1記載のβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【請求項6】
一次反応に用いられるβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物がスポロボロマイセス・シンギュラリスであり、基質が乳糖であり
前記乳糖の濃度が10~60質量%であり、
前記スポロボロマイセス・シンギュラリスの添加量は、乳糖1gあたり0.03~0.3Uであり、
反応温度は30~70℃であり、
反応時間は24~96時間である、
請求項1記載のβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【請求項7】
一次反応液における残存乳糖の濃度は5~65質量%であり、
β-ガラクトシダーゼの添加量は、残存乳糖1gあたり10~1000Uであり、
反応温度は30~50℃である、
請求項1記載のβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法に関し、より詳細には、β-ガラクトシダーゼを、所定の濃度における特定の金属イオンの共存下で基質に作用させることによって、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ガラクトシダーゼは、乳糖などのβ-D-ガラクトシド結合を加水分解する反応とともに、ガラクトシル基転移反応も触媒することが知られており、腸内で選択的にビフィズス菌を増殖させるガラクトオリゴ糖の製造に使用されている。
【0003】
このようなβ-ガラクトシダーゼを用いた反応において、ガラクトシル基の転移率を向上させる方法が検討されている。例えば基質の乳糖濃度を高めてβ-ガラクトシダーゼを作用させることで転移率を高める方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
β-ガラクトシダーゼを用いたガラクトシル基転移反応による生成物には、β-D-ガラクトピラノシル(1-4)β-D-ガラクトピラノシル-Dグルコース(4´-GL)などの3糖以上のガラクトオリゴ糖の他、例えばβ-D-ガラクトピラノシル(1-6)-D-グルコースなどの転移2糖が含まれ得るが、ビフィズス菌増殖促進効果の向上等の点から、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量をより高める技術が求められている。また製造コストの低減及び生産効率の改善の観点からは、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が最大となるまでの反応時間を短縮することが重要であり、反応速度を向上させる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平5-22517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、β-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法において、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度を向上させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の濃度範囲のナトリウムイオン及びマグネシウムイオンの存在下で、β-ガラクトシダーゼを基質と反応させることにより、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が増大し、かつ、生成量が最大に至るまでの反応時間を短縮できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、5~60mMのナトリウムイオン及び0.5~8mMのマグネシウムイオンの存在下で、β-ガラクトシダーゼを基質と反応させることを特徴とするガラクトオリゴ糖の製造方法である。
また、本発明は、一次反応として、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを基質に反応させた後、二次反応として、一次反応に用いたものと異なるβ-ガラクトシダーゼを、5~60mMの塩化ナトリウム及び0.5~8mMの塩化マグネシウムの存在下で一次反応液に作用させることを特徴とするβ-ガラクトシダーゼを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量を高めることができるとともに、反応速度も向上し、最大の生成量に到達するまでの反応時間を短縮することが可能である。そのため、3糖以上のガラクトオリゴ糖を効率良く低コストで生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のガラクトオリゴ糖の製造方法は、5~60mMのナトリウムイオン及び0.5~8mMのマグネシウムイオンの存在下で、β-ガラクトシダーゼを基質と反応させることを特徴とする。ガラクトオリゴ糖には、一般式Gal-(Gal)n-Glc(Galはガラクトース残基、Glcはグルコース、nは1~6の整数を示す)で表される3糖以上のガラクトオリゴ糖が含まれる。
【0011】
β-ガラクトシダーゼは、ラクトースやo-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド等のβ-ガラクトシド結合を加水分解する反応や、ガラクトシル基転移反応を触媒する酵素である。本発明で用いるβ-ガラクトシダーゼとしては特に制限されるものではないが、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度の向上の点から、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、ストレプトコッカス(Streptcoccus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属又はバチルス(Bacillus)属等に属する微生物由来のものが好ましく、さらに、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)由来のものが好ましく、特にクリベロマイセス属に属する微生物由来のβ-ガラクトシダーゼが好ましく、さらにクリベロマイセス・ラクチス由来のβ-ガラクトシダーゼが好ましい。
【0012】
上記β-ガラクトシダーゼの市販品として、例えば、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)由来のGODO-YNL(合同酒精株式会社製)、マキシラクトLG5000(DSM社製)やクリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)由来のラクトザイム3000L(ノボザイムズ社製)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)由来のラクターゼY-ST(ヤクルト薬品工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0013】
β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼの形態としては特に限定されるものではなく、例えば、培養液、培養液を遠心分離や膜処理等により濃縮した菌体濃縮液またはペレット、乾燥菌体、菌体破砕物、粗酵素溶液、精製酵素溶液、酵素粉末等が挙げられ、これらは公知の方法に従って調製される。
【0014】
例えば、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物を使用する場合、公知の微生物の培養方法に従って培養し、得られた培養液をそのまま用いるか、必要に応じて公知の遠心分離、膜処理、乾燥、破砕等の処理を施して、菌体濃縮液またはペレット、乾燥菌体、菌体破砕物液等として用いる。菌体は生菌体のままでもよいし、有機溶剤処理、凍結乾燥処理等を施して死菌体としたものでもよい。
【0015】
また、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを使用する場合、精製条件、精製度に特に制約はなく、一般的な精製手法を用いることができる。当該微生物を公知の方法に従って培養した後、遠心分離、膜処理等の分離手段で菌体を分離し、培養上清中にβ-ガラクトシダーゼが含まれる場合にはこれを回収し、粗酵素溶液とすることができる。また菌体内にβ-ガラクトシダーゼが含まれる場合は、菌体をホモジナイザーや超音波処理により物理的に破砕するか、細胞壁溶解酵素等を用いて酵素的に処理することにより、菌体内抽出液を得て、粗酵素溶液とすることができる。これらの粗酵素溶液を硫安塩析処理、透析、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより、精製度の高い精製酵素溶液としてもよい。
【0016】
上記β-ガラクトシダーゼを作用させる基質としては、ガラクトシル基の受容体及び供与体のいずれとしても作用する単独の基質である場合と、ガラクトシル基の受容体と供与体が別途共存している場合とが含まれる。ガラクトシル基の供与体となる基質としては、乳糖、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシドなどが挙げられる。またガラクトシル基の受容体となる基質としては、乳糖、ガラクトオリゴ糖、グルコース、グリセロールなどが挙げられる。
【0017】
基質の濃度はその種類等に応じて適宜設定されるが、例えば乳糖を用いる場合、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び生成速度の向上効果の点から、その濃度は5~65質量%であることが好ましく、15~60質量%がより好ましい。またβ-ガラクトシダーゼの添加量は、所望の反応時間に合わせて適宜調整することができるが、乳糖1gあたり10~1000Uが好ましく、30~800Uがより好ましい。反応温度等は使用するβ-ガラクトシダーゼの至適温度等に応じて適宜設定することができる。例えば、クリベロマイセス・ラクチス由来のβ-ガラクトシダーゼを用いる場合、反応温度は30~50℃が好ましく、40~50℃がより好ましい。なお、酵素活性(U)の測定は次のとおりである。
[β-ガラクトシダーゼ酵素活性(U)の測定法]
希釈酵素試料0.5mLを試験管に取り、0.1mMとなるように塩化マンガンを加えた100mMのKH2PO4-NaOH緩衝液(pH6.5、以下、「緩衝液」という)0.5mLを加えて混合した後、37℃で3分間保温する。あらかじめ37℃で保温しておいた0.1%のo-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(以下、「ONPG」という)溶液1.0mLを加えてすばやく混合し、正確に37℃で1分間保温する。0.2Mの炭酸ナトリウム溶液2.0mLを加えてすばやく混合し、反応を停止する(試験系)。別に、希釈酵素試料0.5mLを試験管に取り、緩衝液0.5mLを加えて混合した後、0.2Mの炭酸ナトリウム溶液2.0mLを加え、37℃で3分間保温し、あらかじめ37℃で保温しておいたONPG溶液0.1mLを加えて混合し、正確に37℃で1分間保温する(盲検系)。蒸留水を対照として試験系および盲検系の420nmの吸光度を測定し、次式により酵素活性(U)を算出した。
[数式1]
酵素活性=(A-A)×10×B
:試験系の吸光度
:盲検系の吸光度
B :希釈倍率
* U/ml
【0018】
本発明では、上記β-ガラクトシダーゼをナトリウムイオン及びマグネシウムイオンの存在下で基質に反応させる。反応系におけるナトリウムイオンの濃度は5~60mMである。一方、マグネシウムイオンの濃度は0.5~8mMであり、より好ましくは1.5~8mMである。ナトリウムイオン濃度が60mMより大きい場合やマグネシウムイオン濃度が8mMより大きい場合は、得られたガラクトオリゴ糖を脱塩して精製する際の負荷が大きくなり好ましくない。ナトリウムイオン及びマグネシウムイオンをこのような範囲で共存させることにより、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度を向上することができる。ナトリウムイオン及びマグネシウムイオンは、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の塩を固体または緩衝液の形態で反応系に添加することができ、添加後のpH変化が少ない点から、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムが好ましい。
【0019】
一般にβ-ガラクトシダーゼによるガラクトシル基転移反応は、基質の加水分解反応と競合するため、基質にβ-ガラクトシダーゼを作用させると、所望のガラクトオリゴ糖が産生されると共に、競合する加水分解反応によってグルコースやガラクトースなどの単糖が生成し、また一旦生成したガラクトオリゴ糖も加水分解を受ける。このようにガラクトシル基転移反応と加水分解反応が競合するうえ、それに伴ってガラクトシル基の供与体と受容体としても多様な組み合わせが生じ得るため、特定の供与体と受容体間のガラクトシル基転移反応を優先させ、所望のガラクトオリゴ糖が生成されるよう制御することは困難とされる。これに対し、本発明では、特定の濃度範囲のナトリウムイオン及びマグネシウムイオンの存在下でβ-ガラクトシダーゼを基質に作用させることにより、ガラクトオリゴ糖の中でも特に3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量を増加させることができ、さらにその反応速度を高めて生成量が最大となるまでの到達時間を短縮できるため、3糖以上のガラクトオリゴ糖を効率よく、低コストで生産することが可能となる。
【0020】
また本発明の方法は、2種のβ-ガラクトシダーゼを作用させる逐次反応によるガラクトオリゴ糖の製造における二次反応にも適用できる。すなわち、一次反応として、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを基質に反応させた後、二次反応として、一次反応に用いたものと異なるβ-ガラクトシダーゼを、5~60mMのナトリウムイオン及び0.5~8mMのマグネシウムイオンの存在下で一次反応液に作用させることにより、未反応の基質を減少させるとともに、ガラクトオリゴ糖の生成量を増大させることができる。
【0021】
一次反応に用いるβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物としては、例えば、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属に属する微生物が好ましく、特にスポロボロマイセス属に属する微生物が好ましく、さらにスポロボロマイセス・シンギュラリス(Sporobolomyces singularis)が3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度の向上の点から好ましい。
【0022】
一次反応において用いるβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼの形態としては特に限定されるものではなく、例えば、培養液、培養液を遠心分離や膜処理等により濃縮した菌体濃縮液またはペレット、乾燥菌体、菌体破砕物、粗酵素溶液、精製酵素溶液、酵素粉末等が挙げられ、これらは公知の方法に従って調製される。
【0023】
例えば、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物を使用する場合、公知の微生物の培養方法に従って培養し、得られた培養液をそのまま用いるか、必要に応じて公知の遠心分離、膜処理、乾燥、破砕等の処理を施して、菌体濃縮液またはペレット、乾燥菌体、菌体破砕物液等として用いる。菌体は生菌体のままでもよいし、有機溶剤処理、凍結乾燥処理等を施して死菌体としたものでもよい。
【0024】
また、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを使用する場合、精製条件、精製度に特に制約はなく、一般的な精製手法を用いることができる。当該微生物を公知の方法に従って培養した後、遠心分離、膜処理等の分離手段で菌体を分離し、培養上清中にβ-ガラクトシダーゼが含まれる場合にはこれを回収し、粗酵素溶液とすることができる。また菌体内にβ-ガラクトシダーゼが含まれる場合は、菌体をホモジナイザーや超音波処理により物理的に破砕するか、細胞壁溶解酵素等を用いて酵素的に処理することにより、菌体内抽出液を得て、粗酵素溶液とすることができる。これらの粗酵素溶液を硫安塩析処理、透析、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより、精製度の高い精製酵素溶液としてもよい。
【0025】
一次反応において、上記β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼを、乳糖等の基質に反応させる。反応条件は、使用するβ-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物または当該微生物由来のβ-ガラクトシダーゼの特性に応じて適宜設定することができる。例えば、β-ガラクトシダーゼ活性を有する微生物としてスポロボロマイセス・シンギュラリスを使用し、基質として乳糖を用いる場合、ガラクトオリゴ糖の生成量及び生成速度の向上効果の点から、乳糖の濃度は10~60質量%が好ましく、40~50質量%がより好ましい。またスポロボロマイセス・シンギュラリスの添加量は、乳糖1gあたり0.03~0.3Uが好ましく、0.2~0.3Uがより好ましい。また反応温度は30~70℃程度であり、24~96時間程度反応させればよい。
【0026】
二次反応では、一次反応で得られた一次反応液に、特定の濃度範囲のナトリウムイオン及びマグネシウムイオンの存在下で、一次反応に用いたものとは異なるβ-ガラクトシダーゼを作用させる。
【0027】
二次反応において使用されるβ-ガラクトシダーゼは特に制限されるものではないが、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度の向上の点から、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、ストレプトコッカス(Streptcoccus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属又はバチルス(Bacillus)属等に属する微生物由来のものが好ましく、更に、クリベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)由来のものが好ましく、特にクリベロマイセス属に属する微生物由来のβ-ガラクトシダーゼが好ましく、さらにクリベロマイセス・ラクチス由来のβ-ガラクトシダーゼが好ましい。
【0028】
上記β-ガラクトシダーゼを特定の濃度範囲のナトリウムイオン及びマグネシウムイオンの存在下で一次反応液に作用させることにより、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が増加する。さらに、その反応速度も向上し、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が最大となるまでの反応時間が短縮される。二次反応液におけるナトリウムイオンの濃度は5~60mMである。一方、マグネシウムイオンの濃度は0.5~8mMであり、より好ましくは1.5~8mMである。ナトリウムイオン濃度が60mMより大きい場合やマグネシウムイオン濃度が8mMより大きい場合は、ガラクトオリゴ糖を脱塩して精製する際の負荷が大きくなり好ましくない。ナトリウムイオン及びマグネシウムイオンをこのような濃度範囲で存在させることにより、ガラクトオリゴ糖の生成量及び生産効率を向上することができる。ナトリウムイオン及びマグネシウムイオンは、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩等の塩を固形または緩衝液の形態で反応系に添加することができ、添加後のpH変化が少ない点から、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムが好ましい。
【0029】
一次反応液における残存乳糖の濃度は、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び反応速度の向上効果の点から、5~65質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましい。またβ-ガラクトシダーゼの添加量は、残存乳糖1gあたり10~1000Uが好ましく、30~800Uがより好ましい。反応温度等は使用するβ-ガラクトシダーゼの至適温度等に応じて適宜設定することができる。例えば、クリベロマイセス・ラクチス由来のβ-ガラクトシダーゼを用いる場合、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量及び生成速度の向上効果の点から、反応温度は30~50℃が好ましく、40~50℃がより好ましい。
【0030】
以上のようにしてガラクトオリゴ糖が生成した反応液は、そのまま、あるいは適宜活性炭による脱色やケイソウ土による濾過、イオン交換樹脂による脱塩、濃縮機による濃縮を行い、液糖として、または噴霧乾燥機などによって粉末化して食品素材として利用できる。例えば、そのままテーブルシュガーとして利用したり、発酵乳、乳酸菌飲料、パン、ジャムや菓子類等の飲食品に添加することも可能である。その際の添加濃度には特に限定されず、風味や物性等を鑑みて適宜決定すればよい。このような食品以外にも、化粧品、医薬品等にも利用できる。
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【実施例
【0032】
実施例1
100mL容三角フラスコに局方グレードの乳糖を15g秤量し、脱イオン水で調製した(ナトリウムイオンとマグネシウムイオンが含まれていない)Bis-Tris緩衝液(pH6.8)を85g加えた(乳糖濃度15%)。沸騰水浴中で乳糖を完全に溶解した後に、45℃の恒温水槽中で冷却した。これに2.6Mの塩化ナトリウムをナトリウムイオン濃度が15mMとなるように加え、また0.75Mの塩化マグネシウムをマグネシウムイオン濃度が下記表1に記載された濃度になるように加え、これらにGODO-YNL(クリベロマイセス・ラクチス由来のβ―ガラクトシダーゼ、合同酒精株式会社製)を乳糖1g当たり600U添加して40℃で反応させた。これら反応液を経時的に7時間目までサンプリングし、沸騰水浴中で90℃まで昇温して酵素を失活させた後、残2糖と3糖以上のガラクトオリゴ糖の割合を下記条件に基づくHPLC分析により測定した。各マグネシウムイオン濃度における3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が最大となったときの測定結果を表1に示す。なお、残2糖には未反応の乳糖及び転移2糖が含まれる。
【0033】
<HPLC条件>
カラム:Shodex SUGAR KS-802
移動層:精製水
流 速:0.5mL/min
検 出:示差屈折計
【0034】
【表1】
【0035】
実施例2
2.6Mの塩化ナトリウムをナトリウムイオン濃度が30mMとなるように添加した以外は実施例1と同様にして残2糖と3糖以上のガラクトオリゴ糖の割合を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
実施例3
反応液中の乳糖濃度を45%とし、2.6Mの塩化ナトリウムをナトリウムイオン濃度が5mMとなるように添加し、GODO-YNLを乳糖1g当たり250U添加して45℃で反応させた以外は実施例1と同様にして残2糖と3糖以上のガラクトオリゴ糖の割合を測定した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
実施例4
反応液中の乳糖濃度を45%とし、2.6Mの塩化ナトリウムをナトリウムイオン濃度が60mMとなるように添加し、GODO-YNLを乳糖1g当たり250U添加して45℃で反応させた以外は実施例1と同様にして残2糖と3糖以上のガラクトオリゴ糖の割合を測定した。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表1及び表2より、ナトリウムイオン濃度が15mM及び30mMで、マグネシウムイオンを0.5mM以上となるように添加することで、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が最大となるまでの反応時間が、マグネシウムイオン濃度が0mM及び0.1mMの場合と比較して半分以下に短縮されることが明らかとなった。また、マグネシウムイオン濃度の増加に伴って、3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が増加することが示された。さらに、ナトリウムイオン濃度が15mMの場合、マグネシウムイオンを1.5mM以上となるように添加することで、3糖以上ガラクトオリゴ糖の生成量が最大となるまでの反応時間がより短縮されることが明らかとなった。また、表3及び表4より、ナトリウムイオン濃度が5mM、60mMの場合、マグネシウムイオンを0.5mM以上となるように添加することで3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が最大となるまでの反応時間が、マグネシウムイオン濃度が0mM及び0.1mMの場合と比較して短縮されることが明らかとなり、マグネシウムイオン濃度の増加に伴って、特にマグネシウムイオン濃度が1.5mM以上で3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量が増加することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、短い反応時間で3糖以上のガラクトオリゴ糖の生成量を高めることができるため、工業的なガラクトオリゴ糖の製造方法として有用である。