(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】シームレスカプセルを安定的に製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20240808BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240808BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240808BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/26
(21)【出願番号】P 2023220887
(22)【出願日】2023-12-27
【審査請求日】2023-12-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000191755
【氏名又は名称】森下仁丹株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】吉門 正智
(72)【発明者】
【氏名】西川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】中野 修身
(72)【発明者】
【氏名】桑原 克昌
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-011765(JP,A)
【文献】特開2013-071934(JP,A)
【文献】国際公開第2005/044174(WO,A1)
【文献】特開2001-238934(JP,A)
【文献】KONA,1985年,Vol.3,pp.32-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用い、
前記形成管内で主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成され、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超であ
り、
前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、
シームレスカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、請求項1記載のシームレスカプセルの製造方法。
【請求項3】
更に、前記主カプセル粒子を前記副カプセル粒子から分離した後、乾燥する、請求項1または請求項2記載のシームレスカプセルの製造方法。
【請求項4】
内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用いてシームレスカプセルを製造する方法において、
前記同心多重ノズルから吐出した液滴を前記形成管内で凝固して、主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成し、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超であ
り、
前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、
シームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
【請求項5】
前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、請求項
4記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
【請求項6】
更に、前記主カプセル粒子を前記副カプセル粒子から分離した後、乾燥する、請求項
4または請求項
5記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
【請求項7】
内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用いてカプセル粒子を製造する方法において、
前記同心多重ノズルから吐出した液滴を前記形成管内で凝固して、主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成し、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超であ
り、
前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、
2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
【請求項8】
前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、請求項
7記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
【請求項9】
更に、前記主カプセル粒子と前記副カプセル粒子と分離した後、それぞれを乾燥する、請求項
7または請求項
8記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスカプセルの新規でかつ安定的に製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シームレスカプセルは、通常、滴下法とよばれる液滴を凝固液に滴下することにより形成される。例えば、
図1に示される内容物1、中間層3および皮膜2の三層からなるシームレスカプセル4の場合、
図2に模式的に示される製造装置を用いて製造される。
図2では、同心多重ノズルAは、内容物ノズル11、中間層ノズル12および皮膜ノズル13が同心円状に形成されていて、内容物液14、中間層液15および皮膜液16を同心多重ノズルAの下端(吐出口)から凝固液18が形成管19内を下方に流れているところに吐出され、形成部Bで液滴に分離して、凝固後、最終的にシームレスカプセル17が形成される。
【0003】
特開2022-26425号公報(特許文献1)には、上記のように製造されるシームレスカプセルの製造において、カプセル内容物(内容物1)にホスファチジルコリンを85重量%以上で含むレシチンを配合することで、「偏肉」や「アイズ」と呼ばれる欠陥を皮膜(皮膜2)で生じないようにする方法が開示されている。ここで、特許文献1によれば、「偏肉」も「アイズ」も皮膜の強度を下げる原因とされている。
【0004】
しかし、特許文献1のように、内容物1にホスファチジルコリンを85重量%以上で含むレシチンを配合するだけでは、皮膜が割れにくいシームレスカプセルを安定的に製造することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記を鑑みて見出されたものであり、本発明の目的は、シームレスカプセルを滴下法で製造する際に、皮膜が割れにくいシームレスカプセルを安定的に製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シームレスカプセルを滴下法で製造する際に、粒径の大きいシームレスカプセルの傍らに粒径の小さなシームレスカプセルが形成されることに注目し、積極的に2種類(粒径の大きなものと粒径の小さなもの)を形成することにより、目的とするシームレスカプセル(通常、大きなシームレスカプセル)を安定して得られることを見いだした。
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
【0008】
[1] 内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用い、
前記形成管内で主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成され、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
シームレスカプセルの製造方法。
[2] 前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、[1]記載のシームレスカプセルの製造方法。
[3] 前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、[1]または[2]記載のシームレスカプセルの製造方法。
[4] 更に、前記主カプセル粒子を前記副カプセル粒子から分離した後、乾燥する、[1]または[2]記載のシームレスカプセルの製造方法。
[5] 内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用いてシームレスカプセルを製造する方法において、
前記同心多重ノズルから吐出した液滴を前記形成管内で凝固して、主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成し、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
シームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[6] 前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、[5]記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[7] 前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、[5]または[6]記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[8] 更に、前記主カプセル粒子を前記副カプセル粒子から分離した後、乾燥する、[5]または[6]記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[9] 内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用いてカプセル粒子を製造する方法において、
前記同心多重ノズルから吐出した液滴を前記形成管内で凝固して、主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成し、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
[10] 前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、[9]記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
[11] 前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、[9]または[10]記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
[12] 更に、前記主カプセル粒子と前記副カプセル粒子と分離した後、それぞれを乾燥する、[9]または[10]記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、皮膜が割れにくいシームレスカプセルを安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】三層のシームレスカプセルの滴下法による製造装置の模式図である。
【
図3】形成管内で流れる凝固液中での一対の主カプセル粒子および副カプセル粒子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、シームレスカプセルを滴下法で製造する際に、2種類のカプセル粒子(即ち、主カプセル粒子および副カプセル粒子)が形成されることに着目した。このような2種類のカプセル粒子は、互いに大きさが異なっており、本発明者らによる基本的な考えでは、一方のカプセル粒子(具体的には、主カプセル粒子)が製造を目的としているカプセル粒子であり、もう一方のカプセル粒子(具体的には、副カプセル粒子)は副次的に生じ、製造を目的としていないカプセル粒子である。
【0012】
副カプセル粒子の発生は主カプセル粒子の歩留りを下げる要因として通常考えられるが、本発明者らによる鋭意検討の結果、副カプセル粒子も積極的に製造することにより、逆に主カプセル粒子を安定的に製造できることを見いだした。ここで「安定的」とは、皮膜の割れが生じにくくなり、しかも粒径のバラツキが低減されるという製造物(シームレスカプセル)の品質の安定性を指す。
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明に係るシームレスカプセルの製造方法では、滴下法が採用され、主カプセル粒子と副カプセル粒子との両方を製造する。このような製造方法において、ノズル先端から吐出液(ジェット)を吐出した場合に、ノズル先端が凝固液の液面または液中に存在する状態で、吐出液の最初は円筒状の形で凝固液中に落下していくのであるが、表面張力の働きでカプセル形成の球形の液滴になり、それが理想的には目的とするシームレスカプセルになるのである。しかし、円筒状の吐出液が球形の液滴になる際に、例えば液滴粒子ができる前に一時的に複数の粒子が連なったような状態になり、それが最終的に球状の液滴になる直前に、隣り合う粒子の間を繋いて延びた部分から小さな粒子を形成することがあり、これが粒径の小さな副カプセル粒子になると考えられる。
【0014】
副カプセル粒子は、基本的には、製造目的としていない粒子であるが、上記の通り、積極的に副カプセル粒子も製造することにより、主カプセル粒子の性状が安定的に維持できる。即ち、主カプセル粒子だけでなく副カプセル粒子も製造するようにすると、主カプセル粒子が割れにくくなり、しかも主カプセル粒子の粒径のバラツキを小さく(異形のカプセル粒子が生じない)できる。
【0015】
製造目的としているカプセル粒子は、上記説明では、主カプセル粒子であるが、本発明では副カプセル粒子を積極的に製造するのであるから、副カプセル粒子も粒径などの品質が商用上問題なければ、商品として使用できるので、主カプセル粒子と副カプセル粒子との両方を製造目的とすることもできる。尚、主カプセル粒子は皮膜と内容物とを含むシームレスカプセルの粒子形態を有することは当然であるが、副カプセル粒子もシームレスカプセルの粒子形態を有していることが多い。
【0016】
副カプセル粒子は必ずしも1種類である必要はない。副カプセル粒子は、主カプセル粒子の粒径より小さいものであれば良く、主カプセル粒子の粒径よりも小さい2種類以上の副カプセル粒子が得られても良い。ただし、主カプセル粒子をより安定して製造する場合、副カプセル粒子の粒径のバラツキがある程度まで低減されていることが好ましい。副カプセル粒子の粒径は、主カプセル粒子の粒径が1であるとすると、副カプセル粒子の粒径は0.9以下、好ましくは0.5以下である。また、副カプセル粒子の粒径の下限は特に制限されないが、例えば、副カプセル粒子の粒径は0.03よりも大きくてもよい。副カプセル粒子の粒径は、主カプセル粒子の粒径より大きいものは生じにくく、どちらが主カプセル粒子か解らなくなる。
【0017】
副カプセル粒子の発生割合は、主カプセル粒子の発生割合を1とした時に副カプセル粒子の発生割合は0.5超である。副カプセル粒子の発生割合が0.5以下であると、主カプセル粒子の品質が安定しにくくなる。主カプセル粒子の発生割合が1の場合に、副カプセル粒子の発生割合は好ましくは0.6以上である。また、副カプセル粒子の発生割合の上限は、例えば1.2以下であってもよい。上記の発生割合は、主カプセル粒子および副カプセル粒子の発生個数から算出される。各発生個数の計測方法として、後述の実施例では、所定の観測位置を形成管内で通過する主カプセル粒子および副カプセル粒子の各々の単位時間当たりの個数としているが、形成管の下流で流出する主カプセル粒子および副カプセル粒子の各々の単位時間当たり回収個数であってもよい。
【0018】
主カプセル粒子と副カプセル粒子とは、通常一対で(ペアで)形成される。副カプセル粒子は、例えば、
図3に記載するように、主カプセル粒子の周りに存在していることが多い。その状態を表すために、副カプセル粒子を「サテライト」と呼ぶこともある。
【0019】
本製造方法では、副カプセル粒子を積極的に形成して、主カプセル粒子の品質を安定して製造するために、製造時にカプセル粒子となる吐出液が通過する形成管内の凝固液の平均速度(V)と、主カプセル粒子の粒径(R)と主カプセル粒子の発生個数(N)の間に以下の式1に示される関係があるのが好ましい:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
この関係式を満足すると、主カプセル粒子は安定して製造されやすくなる。上記式1の下限は、好ましくは0.75、より好ましくは0.8、さらに好ましくは0.85である。上限は、好ましくは2.05、より好ましくは2.0、さらに好ましくは1.95、よりさらに好ましくは1.9である。凝固液の平均速度(V)は、単位はmm/秒であり、Rの粒径の単位はmmであり、Nの発生個数の単位は個/秒である。
【0020】
上記式1における「V/(R×N)」は、単位時間あたりの、形成管内を通過する主カプセル粒子の粒径の総和に対する凝固液の移動距離の割合を示す。このため、「V/(R×N)」が小さいほど、隣り合う主カプセル粒子の間隔が小さく、また副カプセル粒子の粒径が小さくなりやすくなるため、場合によっては副カプセル粒子が形成されにくくなる。一方、「V/(R×N)」が大きいほど、隣り合う主カプセル粒子の間隔が大きくなり、また副カプセル粒子の粒径が大きくなりやすくなる。
【0021】
<カプセル粒子(または、「シームレスカプセル」とも呼ぶ。)>
カプセル粒子は、通常、皮膜(または最外層)と、内容物(この皮膜内に内包された内容物または内層)とを有する。換言すれば、カプセル粒子は、内容物とこの内容物を被覆する皮膜とを有する。また、本発明では、皮膜と内容物の間に、中間層を有しても良い。中間層は、内容物と皮膜との相互間の保護をするために設けられ、内容物の性能の劣化を防ぐために設けられる。尚、本明細書で「カプセル粒子」と呼ぶときは、「主カプセル粒子」および「副カプセル粒子」の両方を意味する。
【0022】
<内容物>
カプセル粒子において、内容物の状態は特に限定されないが、内容物は、例えば、室温で液体状であってもよく、固体状であってもよく、半固体状であってもよい。このような内容物に配合できる成分として、例えば、脂肪酸(例えば、カプリル酸、カプリン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、オレイン酸、リノール酸など)、脂肪酸エステル[例えば、トリグリセリド(中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCTなど)などのグリセリンエステル(脂肪);ミリスチン酸イソプロピルなどの非グリセリン系の脂肪酸エステル)など]、植物油(例えば、オリーブ油、ヒマワリ油、コーン油、ラッカセイ油、ブドウ種子油、小麦胚芽油、菜種油、ホホバ油、サフラワー油)、硬化油、鉱物油、シリコーン油、ショ糖脂肪酸エステル、流動パラフィン、スクワラン、香料(例えば、エステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、フェノール類、エーテル類、ラクトン類、炭化水素類、含窒素化合物、含硫化合物類、酸類など)、機能性成分(例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、カフェイン、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、クロム、モリブデン、ポリグルタミン酸、藤茶ポリフェノール、ブルーベリーエキス、カシスエキス、ビルベリーエキス、サラシアエキス、ニンジン末、ゴカヒ、カンゾウ、シャクヤク、ケイヒ、ウイキョウ、シュクシャ、ラカンカ、ビフィズス菌、乳酸菌、酵母)などが挙げられる。
【0023】
機能性成分は、生体内に存在する場合に生体に対する生理学的作用の発揮が期待される成分を意味する。機能性成分は、上記に限らず、生体に対する生理学的作用に応じて、任意の成分を用いることができる。
【0024】
香料としては、内容物を着香できれば特に限定されず、天然香料、合成香料のいずれを用いてもよい。香料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。天然香料としては、特に限定されず、例えば、バラ、ジャスミン、ダイダイ・ネロリ、カモミール、イランイラン、ゼラニウム、ユーカリ、ティートリー、プチグレイン、ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、コショウ、ジュニパー、バニラ、サンダルウッド、マツ、ヒノキ、シナモン、乳香、ミルラ、ベチバー、スパイクナルド、オリスルート、ラベンダー、レモングラス、バジル、ローズマリー、ミント類(例えば、スペアミント、メントール、ペパーミント等)およびベリー類(例えば、ブルーベリー、クランベリー、リンゴンベリー、ハックルベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ローガンベリー、サーモンベリー、ボイセンベリー、ストロベリー、ビルベリー、エルダベリー、およびクズベリー等)などのオイルが挙げられる。合成香料としては、従来から香気・香味を付与する目的で使用されているものであれば特に制限されない。
【0025】
内容物が室温で固体状または半固体状である場合、内容物は上昇融点が24℃~55℃の脂質(具体的には、油脂)を含有することができる。「上昇融点」とは、「サンプルが十分に軟化し、開いたキャピラリチューブ内で浮き上がる温度」と定義されていて、ISO6321:2002に準拠して測定されたものである。
【0026】
油脂は、脂肪酸のグリセリンエステルであり、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドのいずれかであってもよい。油脂中の脂肪酸は、炭素数が10から20の範囲内であることが好ましい。このような脂肪酸は、例えば、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18:不飽和2重結合数1)、リノール酸(炭素数18:不飽和2重結合数2)、リノレン酸(炭素数18:不飽和2重結合数3)、アラキジン酸(炭素数20)、エイコセン酸(炭素数20:不飽和2重結合数1)からなる群から選択される少なくとも1種であるが、上記に限らず、任意の脂肪酸を用いることができる。
【0027】
内容物が室温で固体状または半固体状である場合、内容物は、上昇融点60℃以上の油脂を含有することができる。上昇融点60℃以上の油脂を説明の都合上、第2油脂とよび、上昇融点24~55℃の油脂を第1油脂と呼ぶこともある。第2油脂の上昇融点は、通常190℃以下であり、好ましくは150℃以下、より好ましく100℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0028】
第2油脂は、第1油脂と同様、脂肪酸グリセリンエステルであるが、第1油脂に使用される油脂以外のグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ビーズワックスからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸と複数のグリセリンが縮合してなるポリグリセリンとのエステル化物であり、ポリグリセリンを構成するグリセリン骨格の数、脂肪酸の数、脂肪酸の種類は、第2油脂の上昇融点が60℃以上であれば、特に制限されない。脂肪酸エステルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルに含有される脂肪酸は、炭素数が10~30の範囲内であることが好ましい。このような脂肪酸は、例えば、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、パルミトレイン酸(炭素数16:不飽和2重結合数1)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18:不飽和2重結合1)、リノール酸(炭素数18:不飽和2重結合数2)、リノレン酸(炭素数18:不飽和2重結合数3)、アラキジン酸(炭素数20)、エイコセン酸(炭素数20:不飽和2重結合数1)、ベヘン酸(炭素数22)、リグノセリン酸(炭素数24)からなる群から選択される少なくとも1種であるが、上記に限らず、任意の脂肪酸を用いることができる。
【0029】
本発明のカプセル粒子の内容物には、更に賦形剤、安定化剤、界面活性剤、補助剤または発泡剤などを適宜配合してもよい。これらの配合剤の量は、本発明の効果を阻害しない限り、特に制限されない。
【0030】
<皮膜>
本発明のカプセル粒子は、内容物の外側を皮膜で被覆される。皮膜は、水溶性天然高分子を含む。水溶性天然高分子は、例えばゼラチン、カゼイン、ゼイン、ペクチンまたはその誘導体、アルギン酸またはその塩、寒天、ゲランガム、カラギナン、ファーセレラン、キトサン、カードラン、デンプン、変性デンプン、プルラン、マンナンおよびそれらの混合物から選択される。もちろん水溶性天然高分子は、これらに限定されない。これらの水溶性天然高分子は、シームレスカプセルの皮膜組成物の全固形分重量を基準として50重量%~90重量%の範囲であるのが好ましい。アルギン酸塩、ゲランガム、ペクチン、もしくはカラギナンを使用する場合は、適宜アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などを添加してもよい。
【0031】
本発明のカプセル粒子の皮膜は、乾燥状態で柔軟性を付与するため、更に可塑剤を含有してもよく、上記可塑剤の例として、グリセリン、ソルビトールなどが挙げられる。上記可塑剤の配合量は、乾燥後の皮膜総重量を基準として、1~50重量%、好ましくは5~40重量%、より好ましくは15~35重量%である。上記可塑剤の配合量が、1重量%未満では皮膜が真空乾燥に耐えられなかったり、乾燥状態で十分な柔軟性を保つことができずにヒビ割れを生じたりし、50重量%を超えると皮膜が軟化して高温で付着や溶けが生じる。
【0032】
本発明のカプセル粒子の皮膜は、必要に応じて、上記組成に加えて、香料、甘味剤、着色剤、パラベン等の防腐剤等、この分野において通常使用される種々の添加剤を含んでもよい。このような添加剤を用いる場合における、全添加剤の合計含有量は、カプセルの皮膜となる組成物中の全固形分重量に対して、例えば0.01重量%~10重量%であり、好ましくは0.1重量%~5重量%である。
【0033】
皮膜の厚さ(膜厚)は、カプセル粒子の使用目的に合わせて任意に選択できるため、特に限定されないが、例えば、膜厚は10~600μmであってもよく、30~400μmであってもよく、40~250μmであってもよい。
【0034】
<中間層>
中間層は、必要に応じて設けられる。中間層は、内容物を複層にしたり、皮膜層を複層にしたりすることにより形成される。例えば、内容物について粘度が違う液体の場合に、内層に粘度の低いものを使用し、第2層(内層から2番目の層)に粘度の高いものをしようすることで複層にすることができ、あるいは油脂の融点が異なる複数の内容物を用いる場合、内層の融点を最も低くし、第2層の融点を内層よりも高くすることで複層にすることがでる。また、皮膜についても同様に、例えば酸素透過性の少ない皮膜を最外層にして、その内側に通常に水溶性天然高分子の皮膜を外側から2番目の層に形成しても良い。
【0035】
<カプセル粒子の製造方法>
本発明のカプセル粒子の製造方法は、
図2に示すような製造装置で行うことができる。
図2は、本発明のカプセル粒子の製造方法に使用される製造装置を模式的に表した図であり、特許文献1の説明に用いた図を使用する。この製造装置は、同心多層ノズルAと、凝固液を流下させる冷却管19と、を備える。
【0036】
図2を説明する。
図2では、三層のカプセル粒子を製造する装置を示している。内容物液14は内側のノズル11の先端(吐出口)から吐出し、皮膜液16は外層のノズル13の先端(吐出口)から吐出する。この
図2では、中間層が1層の場合を示しているので、中間層液14は、ノズル11とノズル13との間に配置された中間のノズル12の先端(吐出口)から吐出する。それぞれのノズルは内側のノズル11の中心軸を基準とした同心円状に形成される。
図2には、中間層を形成する中間層のノズル12が存在しているが、中間層ノズルが無い場合または中間層ノズルが複数存在する場合も本発明に含まれる。
【0037】
図2中に存在する矢印は、形成管19内で凝固液18の流れる方向をしていている。凝固液18は、形成管19の内部を下降する方向に流れている。同心多重ノズルから吐出した液滴(カプセル粒子を形成する液滴)は、形成管19内の凝固液18中に吐出されて、最初は吐出液が長く連続した棒状の吐出液Bになり、それが形成管19内を下降する間に表面張力で球状になると同時に凝固して、カプセル粒子17を形成する。
【0038】
本発明では、このカプセル粒子が
図3に示されているように、主カプセル粒子20と副カプセル粒子21の2種類が可能な限り1対をなして形成される。
図3は、形成管19の下部で矢印方向に流れる凝固液18中での主カプセル粒子20と副カプセル粒子21が対をなしていることを模式的に表した図である。
図2では、カプセル粒子は主カプセル粒子17のみを記載しているが、そのカプセル粒子の近傍に副カプセル粒子も存在するように調整される。尚、
図3では、副カプセル粒子21は、主カプセル粒子20と一対ずつ存在して示されているが、1つの主カプセル粒子20に対して副カプセル粒子がゼロ個または複数個存在した状態が凝固液18の流れ方向に部分的にできていてもよい。ただ、主カプセル粒子を安定的に製造する場合には、
図3のように、主カプセル粒子20が副カプセル粒子21一つを対になって形成されるのが好ましい。
【0039】
本発明では、既に述べているように、主カプセル粒子の粒径が副カプセル粒子の粒径よりも大きく、主カプセル粒子の発生割合を1とすると副カプセル粒子の発生割合が0.5超であることを必要とする。
【0040】
主カプセル粒子の粒径(球の直径)は、目的とする粒子径を基準として考えられるので、特に限定するものでは無いが、例えば、直径0.3~10mm、好ましくは1~8mmを有することが望ましい。主カプセル粒子の直径が0.3mm未満では、本発明で用いる滴下法では製造することが難しい。主カプセル粒子の粒径が10mmを超えるものも、特に問題がないが、主カプセル粒子が経口摂取される場合、飲み込みが難しくなる傾向にある。
【0041】
副カプセル粒子の粒径は、主カプセル粒子の粒径より小さければ問題がない。ただ、副カプセル粒子の粒径が、主カプセル粒子の粒径より大きい場合は、どちらが主カプセル粒子であるのかが解らなくなり、制御が難しくなるので、望ましくない。
【0042】
本発明において、既に述べてはいるが、カプセル粒子を安定的に製造するには、形成管内での凝固液の平均速度(V)、主カプセル粒子の粒径(R)と、主カプセル粒子の発生個数(N)が以下の式1を満足することが望ましい。
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
この範囲内に入ると、主カプセル粒子が安定的に製造することができる。副次的にではあるが、副カプセル粒子を積極的に製造することから、副カプセル粒子も製造することができ、副カプセル粒子も安定かつ定常的に発生するので、副カプセル粒子(主カプセル粒子より小さい粒径)も製造することが可能である。
【0043】
得られたカプセル粒子は、主カプセル粒子と副カプセル粒子を分離した後、目的とする粒子を乾燥することにより、目的とするカプセル粒子(シームレスカプセル)を製造することができる。
【0044】
本発明のカプセル粒子の製造において、予め、カプセル皮膜調製液およびカプセル内容物液を調製する。そして、多層ノズルからカプセル皮膜調製液およびカプセル内容物液の各々が吐出されて複合ジェットが形成される。
【0045】
カプセル皮膜調製液は、天然高分子、及び溶媒を含む。天然高分子は、カプセル皮膜調製液を凝固させる成分であり、水溶性である。この天然高分子は、上記した水溶性天然高分子の説明を引用する。
【0046】
溶媒は、カプセル皮膜調製液中の成分を分散させる液体である。このような溶媒は、例えば、水およびエタノールからなる群から選択される少なくとも1つである。水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、超純水、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0047】
カプセル皮膜調製液は、可塑剤を更に含んでもよい。可塑剤は、カプセル皮膜調製液の凝固物に柔軟性を付与する成分である。可塑剤は、特に、湿潤カプセル(湿潤状態のカプセル粒子)の乾燥物である乾燥カプセルにおいて、皮膜に対し、十分な柔軟性を保つとともにヒビ割れを生じにくくできる。可塑剤の例として、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコールを挙げることができる。可塑剤は、上記に限らず、任意の成分を適用できる。
【0048】
カプセル皮膜調製液は、必要に応じて、色素、呈味成分、防腐剤、又は香料などの添加物を更に含んでもよい。
【0049】
カプセル粒子の製造方法において、凝固液は、典型的には20℃以下であり、好ましくは1~18℃である。また、各ノズルから押出される各液の温度は、特に限定されるものではないが、典型的には15~70℃、好ましくは20~65℃である。
【0050】
凝固液として、例えば中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、植物油脂(ヤシ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、ゴマ油、ナタネ油、グレープ種子油、およびこれらの混合物など)、流動パラフィンおよびこれらの混合物を使用することができる。
【0051】
上記の製造方法において、図示はしていないが、振動手段を用いて複合ジェット流(
図2ではB)に適度な振動を与えて複合ジェットの切れを良くしてもよい。
【0052】
本発明のカプセル粒子は、使用条件により、必要に応じて水洗、加熱殺菌、加熱滅菌をすることができる。
【実施例】
【0053】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0054】
実施例および比較例において、下記に示す成分が用いられた。
・中鎖脂肪酸トリグリセリド(密度:0.960g/cm3(10℃))
・ゼラチン:ゼライス株式会社製のゼラチンCP-771
・寒天:伊那食品工業社製の寒天T-1
【0055】
実施例1~5および比較例1~2
内容物液:中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)のみでカプセル内容物液を作製した。
カプセル皮膜調製液:ゼラチン80部、ソルビトール20部およびイオン交換水400部を均一になるまで混合した後、この混合物を60℃で加熱溶解させることで、カプセル皮膜調製液を作製した。カプセル皮膜調製液の粘度は50mPa・s(60℃)であった。
【0056】
次に、
図2に例示されるようなシームレスカプセル製造装置(森下仁丹製)において、同心二重ノズルを用い、カプセル内容物液70部に対してカプセル皮膜調製液の固形分が30部となるようにして最内側ノズルからカプセル内容物液を、最外層ノズルからカプセル皮膜調製液を同時に10℃の凝固液中に吐出することで、2層構造の湿潤カプセルを形成した。
【0057】
カプセル製造時に、主カプセル粒子と副カプセル粒子が一対で形成管内に連続的に製造されているのを確認した。この際、形成管の長さの中央付近を撮影した動画で観測位置を10秒間通過した主カプセル粒子および副カプセル粒子の各個数を計測することで、主カプセル粒子および副カプセル粒子の各発生個数(単位:個/秒)を算出した。また、凝固液の平均流速は、形成管から10秒間流出する凝固液の重量を計測し、この凝固液重量を下記式2に導入することで、算出した。
平均流速=凝固液重量/(凝固液の密度×形成管の流路断面積)/10秒 ・・・(式2)
【0058】
下記の評価方法に従い、主カプセル粒子の製剤性I(割れ)および製剤性II(粒径のバラツキ)を評価するとともに、異形状副カプセル粒子の有無、異形状副カプセル粒子の発生率および副カプセル粒子の粒径のバラツキを以下に記載のように評価し、その評価結果を表1に示す。表1には、主カプセル粒子の粒径(mm)、主カプセル粒子の粒径と主カプセル粒子の発生個数の積に対する凝固液平均速度の割合(V/(R×N))、副カプセル粒子の粒径(mm)、副カプセル粒子の粒径と主カプセル粒子の粒径の比率および主カプセル粒子の発生割合を1とする場合における副カプセル粒子の発生割合を記載した。
【0059】
<評価方法>
[製剤性I(割れ)]
形成管の長さの中央付近を撮影した動画で観測位置を通過した100粒の主カプセル粒子を観察し、この100粒のうち、割れのある主カプセル粒子の粒数が占める割合を100分率で算出した。
【0060】
[製剤性II(粒径のバラツキ)]
主カプセル粒子を無作為に20粒採取した。そして各主カプセル粒子の粒径をノギスで計測し、その計測値から平均粒径、標準偏差および変動係数を算出した。そして変動係数の100分率を「製剤性II」における評価結果とした。
【0061】
[異形状副カプセル粒子の発生率]
副カプセル粒子を無作為に100粒採取した。そして各副カプセル粒子の外観を目視確認し、その外観が球以外の形状(水滴状等の異形状)であるカプセルの粒数を数えた。その後、異形状の粒数を100粒で除した値の100分率を算出した。
【0062】
[副カプセル粒子の粒径のバラツキ]
副カプセル粒子を無作為に20粒採取した。そして各副カプセル粒子の粒径をノギスで計測し、その計測値から平均粒径、標準偏差および変動係数を算出した。そして変動係数の100分率を「製剤性II」における評価結果とした。
【0063】
【0064】
実施例6~9および比較例3~4
内容物液:MCTのみでカプセル内容物液を作製した。
カプセル皮膜調製液:寒天68部、アルギン酸ナトリウム32部およびイオン交換水6000部を均一になるまで混合した後、この混合物をオートクレーブ内温度が105℃の下で加熱溶解させることで、カプセル皮膜調製液を作製した。カプセル皮膜調製液の粘度は70mPa・s(80℃)であった。
【0065】
次に、
図2に例示されるようなシームレスカプセル製造装置(森下仁丹製)において、同心二重ノズルを用い、カプセル内容物液100部に対してカプセル皮膜調製液の固形分が1.63部となるようにして最内側ノズルからカプセル内容物液を、最外層ノズルからカプセル皮膜調製液を同時に10℃の凝固液中に吐出することで、2層構造の湿潤カプセルを形成した。
【0066】
カプセル製造時に、主カプセル粒子と副カプセル粒子が一対で形成管内に連続的に製造されているのを確認した。この際、主カプセル粒子および副カプセル粒子の各発生個数および凝固液の平均流速は、実施例1と同様にして算出した。
【0067】
上記の評価方法に従い、主カプセル粒子の製剤性I(割れ)および製剤性II(粒径のバラツキ)を評価するとともに、異形状副カプセル粒子の有無、異形状副カプセル粒子の発生率および副カプセル粒子の粒径のばらつきを評価し、その評価結果を表2に示す。表1と同様な項目も表2に記載した。
【0068】
【0069】
実施例1~5および比較例1~2は、主カプセル粒子の粒径が4mmの例であり、全ての例で主カプセル粒子の粒径より小さい粒径の副カプセル粒子が発生しているが、比較例1~2では副カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5より小さくなっている。比較例1~2では、主カプセル粒子の割れおよびバラツキが多く、安定的にカプセル粒子が製造できていない。実施例1~5では、主カプセル粒子の割れも少なく、粒径のバラツキも少ない。また実施例では全てにおいて異形状の副カプセルの発生が非常に少なく、副カプセル粒子の粒径のバラツキも少ない。尚、比較例2では、主カプセル粒子の割れ(%)は実施例に匹敵するぐらいであるが、主カプセル粒子の粒径のバラツキは高く、異形状副カプセル粒子の発生も多い。
【0070】
実施例6~9および比較例3~4は、主カプセル粒子の粒径が1.5mmの例であり、全ての例で主カプセル粒子の粒径より小さい粒径の副カプセル粒子が発生しているが、比較例3~4では副カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5より小さくなっている。比較例3~4では、主カプセル粒子の割れおよびバラツキが多く、安定的に主カプセル粒子が製造できていない。実施例1~5では、主カプセル粒子の割れも少なく、粒径のバラツキも少ない。また実施例では全てにおいて異形状の副カプセルの発生が非常に少なく、副カプセル粒子の粒径のバラツキも少ない。尚、比較例4では、主カプセル粒子の割れ(%)は実施例に匹敵するぐらいであるが、主カプセル粒子の粒径のバラツキは高く、異形状副カプセル粒子の発生も多い。
【0071】
実施例では、副カプセル粒子を積極的に製造することにより、主カプセル粒子の粒径が安定し、割れが少なくなり、安定的に主カプセル粒子を製造することができる。また、副カプセル粒子の粒径も安定しているので、副カプセル粒子の製造も可能である。副カプセル粒子は、内容物と皮膜の2層が明確に形成されている。
【0072】
<本発明の態様の追加>
[1] 内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用い、
前記形成管内で主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成され、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
シームレスカプセルの製造方法。
[2] 前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、[1]記載のシームレスカプセルの製造方法。
[3] 前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、[1]または[2]記載のシームレスカプセルの製造方法。
[4] 更に、前記主カプセル粒子を前記副カプセル粒子から分離した後、乾燥する、[1]~[3]のいずれかに記載のシームレスカプセルの製造方法。
[5] 内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用いてシームレスカプセルを製造する方法において、
前記同心多重ノズルから吐出した液滴を前記形成管内で凝固して、主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成し、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
シームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[6] 前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、[5]記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[7] 前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、[5]または[6]記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[8] 更に、前記主カプセル粒子を前記副カプセル粒子から分離した後、乾燥する、[5]~[7]のいずれかに記載のシームレスカプセルの皮膜の割れを防止する方法。
[9] 内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用いてカプセル粒子を製造する方法において、
前記同心多重ノズルから吐出した液滴を前記形成管内で凝固して、主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成し、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
[10] 前記主カプセル粒子は、前記副カプセル粒子と一対で形成される、[9]記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
[11] 前記カプセル粒子の形成管内での凝固液の平均流速と、前記主カプセル粒子の粒径と、前記主カプセル粒子の発生個数とが、以下の関係:
0.7≦V/(R×N)≦2.1 (式1)
(式1中、Vは凝固液の平均流速であり、Rは主カプセル粒子の粒径であり、Nは主カプセル粒子の発生個数である。)
を満足する、[9]または[10]記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
[12] 更に、前記主カプセル粒子と前記副カプセル粒子と分離した後、それぞれを乾燥する、[9]~[11]のいずれかに記載の2種類のシームレスカプセルを同時に製造する方法。
【符号の説明】
【0073】
1…内容物
2…皮膜
3…中間層
11…内容物ノズル
12…中間層ノズル
13…皮膜ノズル
14…内容物液
15…中間層液
16…皮膜液
17…シームレスカプセル
18…凝固液
19…形成管
20…主カプセル粒子
21…副カプセル粒子
A…同心多重ノズル
B…形成部
【要約】
【課題】 シームレスカプセルを滴下法で製造する際に、皮膜が割れにくいシームレスカプセルを安定的に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、内側から内容物ノズル、皮膜ノズルおよび必要に応じて前記内容物ノズルと前記皮膜ノズルのとの間に存在する1層以上の中間ノズルを同心円状に備えた同心多重ノズルと、前記同心多重ノズルの吐出口から吐出したカプセル液滴を流動する凝固液中で凝固する形成管とを備えるカプセル製造装置を用い、
前記形成管内で主カプセル粒子と副カプセル粒子の2種類のカプセル粒子を形成され、
前記主カプセル粒子の粒径が、前記副カプセル粒子の粒径より大きく、
前記主カプセル粒子の発生割合を1とする場合、前記副カプセル粒子の発生割合が0.5超である、
シームレスカプセルの製造方法およびその利用を提供する。
【選択図】
図1