(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240808BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240808BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2023222452
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2024-03-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】横尾 英紀
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】出口 直幹
(72)【発明者】
【氏名】大西 駿平
(72)【発明者】
【氏名】奥村 理沙
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/196364(WO,A1)
【文献】特開2017-084521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と導電性材料とを含む合材層が基板に形成された極板を備えた二次電池において、当該二次電池に用いる前記導電性材料を評価する評価方法であって、
前記二次電池の前記活物質を模擬した絶縁体からなる模擬一次粒子と、前記導電性材料と、を含むペーストを作製するペースト作製工程と、
前記ペースト作製工程で作製した前記ペーストを前記二次電池の前記基板を模擬した
絶縁体からなる模擬基板に塗工及び乾燥させて前記模擬一次粒子を含有した試験用塗膜を作製する試験用塗膜作製工程と、
前記試験用塗膜の表面抵抗である塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を測定することで前記導電性材料を評価する導電性評価工程とを含むことを特徴とする二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項2】
前記ペーストの前記模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合体積比R
v[vol%]が、前記活物質と前記導電性材料の配合体積比R
v[vol%]に基づいて設定されることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項3】
前記模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合質量比R
W[wt%]を、前記配合質量比R
W[wt%]の変化と前記試験用塗膜の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を示すグラフから、前記グラフの曲率の最も大きな部分を含む範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項4】
前記模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合質量比をR
W[wt%]としたとき、配合質量比R
W[wt%]が、1[wt%]以上、3[wt%]以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項5】
前記模擬一次粒子の平均粒径D
S(d50)[μm]は、前記二次電池の前記活物質の粒子と実質的に同径であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項6】
前記模擬一次粒子の平均粒径D
S(d50)[μm]が、0.1[μm]以上、50[μm]以下であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項7】
前記試験用塗膜は、前記二次電池の前記合材層の厚さ[μm]と同じ厚さ[μm]であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項8】
前記導電性材料が、繊維状炭素からなることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項9】
前記模擬一次粒子は、アルミナからなることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項10】
前記模擬基板は、PETフィルムから形成されていることを特徴とする
請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項11】
前記導電性材料の平均径D
C(d50)[nm]は、1[nm]以上、100[nm]以下であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【請求項12】
前記導電性材料の平均長さL
C(d50)[nm]は、100[nm]以上、10000[nm]以下であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法に係り、詳しくは、正確に導電性材料の導電性や分散性などを評価する二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、例えば、リチウムイオン二次電池は、高電圧であり、体積エネルギー密度[Wh/L]や重量エネルギー密度[Wh/kg]が大きいため、ハイブリッド車を含む電気自動車等の駆動用の電源として搭載されることが多い。電気自動車などでは、高負荷運転における大電流の放電や、急速充電や回生電流により大電流の充放電が要求される。しかしながら、正極活物質として用いられている例えばニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)のようなリチウム遷移金属酸化物を担持する結着材は、それ自体の導電性は比較的高くない。そのため、リチウムイオン二次電池の大電流での入出力の性能を向上させるため、多数の正極活物質の粒子と非水電解液等との間の電気抵抗を低下させる目的で正極板の正極合材層に導電性の高い導電性材料を添加する場合がある。このような場合の導電性材料の一例として、繊維状の炭素素材、例えばカーボンナノチューブ(CNT)や、粒状のアセチレンブラック(AB)などの高い導電性を有する材料を用いる場合がある。特にカーボンナノチューブは、繊維状の形状を有しており、正極合材層において分散しているリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質間に少量でも容易に導電ネットワークを形成して非水電解液と正極活物質間の電気的な抵抗を低下させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたようなカーボンナノチューブでは、樹脂への分散が容易で、樹脂中での高い導電性を示すなど、正極合材層に添加することで正極合材層における電気抵抗(塗膜抵抗)を低下させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、正極活物質に用いられるリチウム遷移金属酸化物は、まず結晶体である一次粒子を作製してから、さらにこれら一次粒子を凝集させて空洞のある球状の二次粒子を形成することで、正極活物質の表面における反応を効率的に行うものが用いられている。このような二次粒子の形状を有する正極活物質では、その表面に内部の空洞と連通している間隙を有するが、その程度は、焼成等の条件によりばらつきが大きい。
【0006】
従来の正極板の正極合材層の塗膜抵抗は、実際にPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどからなる基板に正極合材層を形成して、その表面を測定しその導電性を塗膜抵抗として評価していた。しかしながら、特許文献1に記載されているように均質な樹脂に分散した場合と異なり、正極合材層の場合は導電性材料が正極活物質の粒子の内部に、その間隙から進入するとその塗膜抵抗が変化する。例えば、正極活物質の粒子の間隙が大きい場合は、多くの導電性材料が進入し、正極活物質間に存在する導電性材料が減少してしまう。そうすると、導電性材料による導電ネットワークが形成されにくくなり、抵抗が大きくなる。このような理由から、たとえ正極合材層の塗膜抵抗を正確に測定したとしても導電性材料を正しく評価することができないという問題があった。
【0007】
このような導電性材料を正しく評価することができないという事情は、正極板の中空の正極活物質に限定される問題ではなく負極板において生じうる問題である。さらに、リチウムイオン二次電池に限定される問題ではなく、他の非水電解液二次電池や、アルカリ二次電池、その他の二次電池などでも生じる問題である。
【0008】
本発明の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法が解決しようとする課題は、二次電池の導電性材料の導電性や分散性などを正確に評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法では、活物質と導電性材料とを含む合材層が基板に形成された極板を備えた二次電池において、当該二次電池に用いる前記導電性材料を評価する評価方法であって、前記二次電池の活物質を模擬した絶縁体からなる模擬一次粒子と、前記導電性材料と、を含むペーストを作製するペースト作製工程と、前記ペースト作製工程で作製した前記ペーストを前記二次電池の前記基板を模擬した模擬基板に塗工及び乾燥させて前記模擬一次粒子を含有した試験用塗膜を作製する試験用塗膜作製工程と、前記試験用塗膜の表面抵抗である塗膜抵抗[Ω・cm]を測定することで前記導電性材料を評価する導電性評価工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
この場合、前記ペーストの前記模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合体積比Rv[vol%]が、前記活物質と前記導電性材料の配合体積比Rv[vol%]に基づいて設定されることが望ましい。
【0011】
前記模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合質量比RW[wt%]を、前記配合質量比RW[wt%]の変化と前記試験用塗膜の塗膜抵抗[Ω・cm]を示すグラフから、前記グラフの曲率の最も大きな部分を含む範囲とすることができる。
【0012】
また、前記模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合質量比をRW[wt%]としたとき、配合質量比RW[wt%]が、1[wt%]以上、3[wt%]以下の範囲とすることができる。
【0013】
前記模擬一次粒子の平均粒径DS(d50)[μm]は、前記二次電池の前記活物質の粒子と実質的に同径とすることが望ましい。この場合、模擬一次粒子の平均粒径DS(d50)[μm]が、0.1[μm]以上、50[μm]以下とすることができる。
【0014】
前記試験用塗膜は、前記二次電池の前記合材層の厚さ[μm]と同じ厚さ[μm]であることが望ましい。
前記活物質が、一次粒子が集合した二次粒子である場合に好適に適用できる。前記導電性材料が、繊維状炭素からなる場合に好適に適用できる。また、前記模擬一次粒子は、アルミナからなる場合に好適に適用できる。
【0015】
前記模擬基板は、絶縁体から形成されていることが望ましく、前記模擬基板は、PETフィルムから形成されていることが望ましい。
前記導電性材料の平均径DC(d50)[nm]は、1[nm]以上、100[nm]以下で、前記導電性材料の平均長さLC(d50)[nm]は、100[nm]以上、10000[nm]以下であることが望ましい。
【0016】
前記二次電池がリチウムイオン二次電池である場合に特に好適に実施することができる。また、前記極板が正極板である場合に特に好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法によれば、導電性材料の導電性や分散性などを正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】(a)正極活物質の間隙がほとんどない場合の導電性材料との関係を示す模式図である。(b)正極活物質の間隙が中程度の場合の導電性材料との関係を示す模式図である。(c)正極活物質の間隙が多い場合の導電性材料との関係を示す模式図である。
【
図4】正極合材層における正極活物質の態様のばらつきを示す模式断面図である。
【
図5】(a)本実施形態の模擬正極板の模式図である。(b)本実施形態のリチウムイオン二次電池の正極板の模式図である。
【
図6】模擬一次粒子と導電性材料との関係を示す模式図である。
【
図7】本実施形態のリチウムイオン二次電池の外観構成の概略を示す斜視図である。
【
図8】捲回される電極体の構成を示す模式図である。
【
図10】正極活物質、模擬一次粒子のそれぞれのばらつきを示す変動係数CVを示す図である。
【
図11】模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合質量比R
W[wt%]の変化と試験用塗膜の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法を、リチウムイオン二次電池1に用いる正極板3の導電性材料322であるCNT(カーボンナノチューブ)を評価する評価方法の実施形態を一例として、
図1~12を参照して説明する。
【0020】
なお、本実施形態は一例であり、極板は正極板に限定されるものではなく、また二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではない。
(本実施形態の概要)
<本実施形態の背景技術>
図1は、正極活物質321を拡大した斜視模式図である。
図2は、正極活物質321を拡大した模式断面図である。
図1、
図2に示すように、正極活物質321として用いられるリチウム遷移金属酸化物は、まず結晶体である一次粒子321bが形成される。このままであると凝集しやすい。このため、分散性を改善するため、さらに一次粒子321bを凝集させて空洞321dのある球状の二次粒子321aを形成する。このことで、正極活物質321の表面における反応を効率的に行うものが用いられている。このような二次粒子321aの空洞321dを有する形状の正極活物質321では、その表面に内部の空洞321dと連通している間隙321cを有する。これらの間隙321cの数や面積の程度は、焼成等の条件によりばらつきが大きい。
【0021】
図3(a)は、正極活物質321の間隙321cがほとんどない場合の導電性材料322との関係を示す模式図である。
図3(b)は、正極活物質321の間隙321cが中程度の場合の導電性材料322との関係を示す模式図である。
図3(c)は、正極活物質321の間隙321cが多い場合の導電性材料322との関係を示す模式図である。導電性材料322は間隙321cのばらつきが大きい。例えば
図3(a)に示すように間隙321cがほとんどない場合は、導電性材料322は、正極活物質321の空洞321dに入り込むことがない。この場合、導電性材料322は、隣接する正極活物質321の二次粒子321aの間の結着材323に存在することになる。そうすると、同じ導電性材料322の量[vol%]を配合された正極合材層32では、正極合材層32の体積当たりの導電性材料322の密度が大きくなる。その結果、導電性材料322同士は接触しやすくなって、導電ネットワークを形成しやすくなる。つまり、正極合材層32の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]が小さくなる。
【0022】
一方、
図3(c)に示すように間隙321cが多い場合は、導電性材料322は、間隙321cを介して正極活物質321の空洞321dに入り込みやすくなる。この場合、導電性材料322は、正極活物質321の二次粒子321aの間の結着材323のみならず空洞321dにも存在することになる。そうすると、同じ導電性材料322の量[vol%]を配合された正極合材層32でも、正極合材層32の体積当たりの導電性材料322の存在数が小さくなる。その結果、導電性材料322同士は接触しにくくなって、導電ネットワークを形成しにくくなる。つまり、正極合材層32の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]が大きくなる。
【0023】
また、
図3(b)に示すような間隙321cは存在するが、その数や面積が
図3(c)に示すより小さい場合は、
図3(a)と
図3(c)の中間の性質を示すことになる。
図4は、正極合材層32における、正極活物質321の態様のばらつきを示す模式断面図である。実際の原料となる正極活物質321は、
図4に示すように均質なものではなく、
図3(a)~(c)に示したような、間隙321cの数の多寡に差がある。
【0024】
さらに、実際の正極合材層32は、正極基板31に塗工する前の正極合材層32の正極合材ペーストが、正極基板31に塗工された後プレス成形工程で圧迫される。このため、正極活物質321の二次粒子321aが崩壊しているものや、単独の一次粒子321bとなっているようなものもある。したがって、完成したリチウムイオン二次電池1では、正極活物質321の状態は均質なものではない。このため、正極合材層32の塗膜抵抗RS[Ω・cm]をいかに正確に測定しても、導電性材料322自体の導電性や、正極合材層32の出来栄え自体の評価ができないという問題を生じていた。
【0025】
<リチウムイオン二次電池1の正極板3と模擬正極板103>
図5(a)は、本実施形態の模擬正極板103の模式図である。
図5(b)は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の模式図である。模擬正極板103は、リチウムイオン二次電池1の正極板3では正確に測定できない導電性材料322の導電性や分散性を、正確に測定するための試験用の構成である。
【0026】
<リチウムイオン二次電池1の正極板3の構成>
まず、
図5(b)を参照して本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3から説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3は、Al箔からなる正極基板31を備え、この正極基板31の上に、正極合材層32が形成される。正極合材層32は、正極合材ペーストが塗工され、乾燥・プレス成形された層である。正極合材ペーストは、正極活物質321と導電性材料322と結着材323とが、溶媒により混練されて作製される。
【0027】
この正極板3では、上述のような正極活物質321の二次粒子321aは、形状、特に間隙321cの多寡などにより導電性材料322による導電ネットワークの形成に差が出る。ここで、本実施形態の「塗膜抵抗RS[Ω・cm]」について説明するとともに、導電性材料322の評価方法について説明する。本実施形態の「塗膜抵抗RS[Ω・cm]」では、まずAl箔からなる正極基板31に替えてPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム製の模擬基板131に正極合材層32を塗布する。そして、その正極合材層32の表面において、1[cm]離れた位置に、計測点MP1とMP2を設ける。この計測点MP1とMP2に抵抗計OMのプローブを接触させてこの間の導電性材料322の表面抵抗である塗膜抵抗RS[Ω・cm]を測定する。測定は、例えば日置電機株式会社の4探針プローブを用いた抵抗計で4端子法で測定した。この「塗膜抵抗RS[Ω・cm]」により、導電性材料の導電性や分散性などを正確に評価することができる。
【0028】
従来、正極合材層32の計測点MP1とMP2の面と対向する面では、導電性のAl箔からなる正極基板31があるため、実際には正極合材層32の厚み方向の抵抗しかわからなかった。その結果、材料として用いた導電性材料322自体の評価を正確にすることは困難であった。そこで、上述のようにAl箔からなる正極基板31に替えて、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム製の模擬基板131により塗膜抵抗RS[Ω・cm]測定することでAl箔からなる正極基板31の影響をなくすようにしていた。
【0029】
しかしながら、上述のように正極活物質321の二次粒子321aは、それ自体が導電性を有するだけでなく、その形状、特に間隙321cの多寡などにより導電性材料322による導電ネットワークの形成に差が出る。このため、導電性材料322自体の導電性や、分散により形成される導電ネットワークの状態などを正確に観測することができなかった。
【0030】
<本実施形態の模擬正極板103の構成>
次に、本実施形態の模擬正極板103を、
図5(a)を参照して説明する。
図5(a)に示す本実施形態の模擬正極板103では、正極活物質321を、模擬一次粒子132aに置き換えている。
【0031】
図6は、模擬一次粒子132aと導電性材料132bとの関係を示す模式図である。
図6に示すように、模擬一次粒子132aは、
図3(a)のようなリチウムイオン二次電池1の正極活物質321を模擬して作製した絶縁体からなる粒子である。ここで、「模擬」とは、正極活物質321の二次粒子321aの外形を近似させて、構造的に正極活物質321を真似たものである。例えば、その平均粒径(d50)[μm]などは実質的に同一である。本願において、特にことわりが無い限り、「模擬一次粒子132aの平均粒径D
S[μm]」はレーザ回折法で計測した頻度分布におけるメディアン径(d50)をいい、導電性材料132bの平均径D
C[nm]や平均長さL
C[nm]は、電子顕微鏡写真の画像解析で求めた値をいう。
【0032】
ここで「実質的」としたのは、多少の凹凸などの形状の差があっても、試験用塗膜132における模擬一次粒子132aの機械的機能が、正極合材層32における正極活物質321の機械的機能と同等であるとの趣旨である。但し、その材質は、絶縁体からなり、本実施例ではアルミナの粒子を用いているため、電気化学的な機能は異なる。
【0033】
また、ここでいう「一次粒子」とは、粒子を製造するときに最初に形成される状態の粒子であり、模擬一次粒子132aでは、全体が中実の一塊の結晶粒子となっている。一方正極活物質321では、一次粒子が多数凝集して二次粒子321aを形成している。その結果、
図3(b)や
図3(c)に示すような正極活物質321では、二次粒子321a内部の空洞321dや間隙321cを有する。これに対して、模擬一次粒子132aでは、このような内部の空洞や間隙を有さない。
【0034】
<導電性材料132b>
導電性材料132bについては、呼び方は異なるが、正極合材層の導電性材料322と同一のものである。すなわち、本実施例ではカーボンナノチューブを例示しているが、その種類、長さ、径、質量、添加量などすべて同一である。また、検査用塗膜ペーストの模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合体積比RV[vol%]は、正極活物質321と導電性材料322の配合体積比RV[vol%]に基づいて設定される。つまり、実質的に同じ量とするためである。なお、この配合体積比RV[vol%]は、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比RW[wt%]に置き換えられる。これは、正確な体積[mm3]は、かさ密度や空隙率の影響で特定が難しいため、予め測定が簡単な質量[g]に置き換えて実施するためである。
【0035】
以上のようにする理由は、以下のとおりである。すなわち本実施形態のリチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料322を評価する評価方法は、リチウムイオン二次電池1の正極合材層32に含有される導電性材料322自体の導電性や分散性などを正確に評価することを目的としているからである。そのために、実際の状態を厳密に再現するためである。なお、一般的に工学の分野では、導電性は、単位[S/m]で示されるが、本実施形態では、リチウムイオン二次電池1における実際の導電性材料322の分散状態などを解析するためこのような測定を行っている。
【0036】
なお、本実施形態では、導電性材料322、132bとして繊維状炭素、具体的にはCNT(カーボンナノチューブ)を例示したが、他の導電性材料、例えば繊維状のカーボンマイクロファイバや、さらに粒状のAB(アセチレンブラック)などを使用してよい。粒状の導電性材料であっても、繊維状の導電性材料と同様に、正極活物質321の間隙321cを介して空洞321dに進入する、若しくは隙間などに進入する。そして、結着材323における導電性材料による導電ネットワークの構成を変化させるという問題点は同様であるからである。
【0037】
具体的には、本実施形態では、導電性材料132bの平均径DC(d50)[nm]は、1[nm]以上、100[nm]以下である。また、導電性材料の平均長さLC(d50)[nm]は、100[nm]以上、10000[nm]以下である。
【0038】
<模擬基板131>
本実施形態の模擬正極板103は、正極基板31と同様の外観形状を示すが、Al箔ではなく絶縁体からなる模擬基板131を備える。絶縁性があり、試験用塗膜ペーストが塗工できれば、材質は限定されない。例えば、本実施例ではPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを用いており絶縁性が高く、塗工もしやすい。この模擬基板131の上に、試験用塗膜132が形成される。試験用塗膜132は、試験用塗膜ペーストが塗工され、乾燥・プレス成形された層である。試験用塗膜ペーストは、模擬一次粒子132aと導電性材料132bと結着材132cとが、溶媒により混練されて作製される。導電性材料132bと結着材132cと溶媒は、正極合材ペーストの導電性材料322と結着材323と溶媒と同じものである。言い換えれば、正極活物質321だけが模擬一次粒子132aに置き換わった構成である。
【0039】
<塗膜抵抗RS[Ω・cm]の測定>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料を評価する評価方法では、従来の測定方法と同じく、完成した模擬正極板103の試験用塗膜132の表面において測定する。測定は、1[cm]離れた位置に、計測点MP1とMP2を設け、この計測点MP1とMP2に抵抗計OMのプローブを接触させてこの間の導電性材料の塗膜抵抗RS[Ω・cm]を測定する。
【0040】
ここで、正極活物質321は、絶縁性の模擬一次粒子132aに置き換わっている。また、正極基板31も絶縁性の模擬基板131に置き換わっている。このため、模擬一次粒子132aは、それ自体が絶縁性を有するだけでなく、その形状、特に間隙321cがないため、常に同じ密度で導電性材料322が存在する。このため、導電性材料322による導電ネットワークの形成は、常に同一の状態となる。このため、導電性材料322自体の導電性や、導電性材料322が分散されて形成される導電ネットワークの状態などを正確に観測することができる。さらに、正極合材層32の計測点MP1とMP2の面と対向する面には、絶縁性の樹脂からなる模擬基板131がある。このため、測定は導電性の正極基板31の影響を受けることなく試験用塗膜132において導電性材料132bにより形成された導電ネットワークの抵抗のみを測定することができる。その結果、原料として用いた導電性材料132b自体の評価を正確にすることができる。
【0041】
(本実施形態の構成)
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料322であるCNTを評価する評価方法の前提となるリチウムイオン二次電池1の一例について説明する。なお、対象となる電池の種類を限定する趣旨ではない。
【0042】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図7は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の外観構成の概略を示す斜視図である。
【0043】
図7に示すようにリチウムイオン二次電池1は、車両に搭載される駆動用の電池パックの電池モジュールを構成するセル電池である。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する板状の直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から非水電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、蓋体により密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。正極外部端子14は、蓋体を介して、電池ケース11内部の正極集電端子16と電気的に接続されている。また、負極外部端子15は、蓋体を介して、電池ケース11内部の負極集電端子17と電気的に接続されている。正極集電端子16は、電極体12の正極集電部33(
図8参照)に電気的に接続されている。また、負極集電端子17は、電極体12の負極集電部23(
図8参照)に電気的に接続されている。
【0044】
<電極体12>
図8は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、多数の負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが積層される。積層された負極板2と正極板3とセパレータ4は捲回されて扁平に形成される。負極板2は、基材となる銅箔からなる負極基板21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極集電部23が設けられている。負極集電部23は、負極合材層22が形成されておらず負極基板21が露出した構成である。
【0045】
正極板3は、基材となるアルミニウム箔からなる正極基板31上に正極合材層32が形成される。
図8に示すように、正極基板31が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(負極集電部23と反対側)に正極集電部33が設けられている。正極集電部33には、正極合材層32が形成されておらず正極基板31の金属が露出したものとなっている。
【0046】
<電極体12の積層構造>
図8に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0047】
負極板2は、負極基材となる負極基板21の両面に負極合材層22を備える。負極基板21の一端部は、金属が露出する負極集電部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極基板31の両面に正極合材層32を備える。正極基板31の他端部は、金属が露出する正極集電部33となっている。
【0048】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。
図4に示すようにこの積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、
図7に示すような扁平に成形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0049】
<非水電解液13>
図7に示す本実施形態のリチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSO
3CF
3等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液13として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。なお、非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0050】
本実施形態では、有機溶媒としてEC(エチレンカーボネート)を用いている。
また、本実施形態では、被膜形成材としての添加剤として、例えばLiBOB(リチウムビスオキサレートボレート、LiB(C2O4)2)などを添加してもよい。
【0051】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0052】
<負極板2>
図8に示すように負極基材である負極基板21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極合材層22は、源泉工程において、負極基板21に負極合材ペーストが塗工される。その後乾燥工程、プレス工程、切断工程を経て負極板2が完成する。
【0053】
負極基板21は、本実施形態ではCu箔から構成されている。負極基板21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極基板21の一端部は、負極合材層22が形成されずに金属面が露出した負極集電部23となっている。つまり負極活物質粒子は、負極基板21、負極集電部23、負極集電端子17を介して負極外部端子15と電気的に接続されている。
【0054】
負極合材層22は、原材料として負極活物質、ここに副材料となるバインダ(結着材)、添加剤などからなる。原材料と副材料は、有機溶媒などが加えられ混練されて負極合材ペーストが生成される。この負極合材ペーストが負極基板21に塗工される。塗工された負極合材ペーストが乾燥され、成形プレスされることで負極板2が完成する。
【0055】
本実施形態では負極活物質は、層状の構造を有する黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の黒鉛粒子GPであり、リチウムイオンLi
+を吸蔵・放出可能な材料である。
<正極板3>
図5(b)、
図8に示すように正極板3は、正極基材である正極基板31と、ここに塗工された正極合材層32とから構成される。正極合材層32は、源泉工程において正極基板31に正極合材ペーストが塗工され、乾燥工程、プレス工程、切断工程を経て正極板3が完成する。
【0056】
正極基板31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極基板31は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極基板31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0057】
まず、正極基板31を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性の良好な材料としては、例えば、Al箔の他、Al合金を含む材料を用いることができる。正極基板31の構成はこれに限られるものではない。
【0058】
正極合材層32は、正極合材ペーストを正極基板31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質321の二次粒子321a、導電性材料322、結着材323、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0059】
正極活物質321は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。本実施形態の正極活物質321は、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物を有するいわゆるNCMと呼ばれる三元系のものを例示する。
【0060】
なお、本実施形態の正極活物質321は、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物を有するものに限定されない。また、これら以外に例えばAlを含むような組成でもよい。
【0061】
<セパレータ4>
セパレータ4は、負極板2及び正極板3の間に非水電解液13を保持するための多孔性樹脂であるポリプロピレン製等の絶縁性の高い不織布である。また、セパレータ4としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。
【0062】
<リチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料を評価する評価方法>
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料を評価する評価方法の実験例について、説明する。
【0063】
<模擬一次粒子132a>
模擬一次粒子132aの平均粒径D(d50)[μm]は、リチウムイオン二次電池1の正極活物質321の粒子と実質的に同径である。具体的には、本実施形態では模擬一次粒子132aの平均粒径D(d50)[μm]が、0.1[μm]以上、50[μm]以下である。
【0064】
<アルミナ塗膜抵抗の測定条件>
本実験例の試験用塗膜ペースト30[g]の組成は、アルミナ7.41[g]、CNT3%溶液3.96[g]、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)18.63[g]である。このうちCNTは0.1188[g]で、アルミナの1.6[wt%]に相当する。
【0065】
ペースト作製工程は以下のように行われる。ペーストの混練は下記のように行う。撹拌脱泡機を用いて2000[rpm]で30[秒]撹拌した後、容器内をスパチュラでかき混ぜて塊りの有無を目視で確認する。塊りがある場合はスパチュラですり潰す。撹拌脱泡機を用いて、2000[rpm]で5[分]撹拌し、塗膜作製用スラリーを作製する。撹拌脱泡機としては、例えば、株式会社シンキーの自転・公転方式ミキサーあわとり練太郎(登録商標)大気圧タイプARE-312を用いることができる。
【0066】
試験用塗膜作製工程は、以下のように行われる。試験用塗膜132は、リチウムイオン二次電池1の正極合材層32の厚さ[μm]と同じ厚さ[μm]である。試験用塗膜132の作製は、塗工工程と乾燥工程とからなり、下記のように行う。模擬基板131であるPETフィルム上に試験用塗膜ペーストを4~5[ml]乗せ、バーコーターと300[μm]アプリケーターを用いてこれを塗布する。塗布後、120[°C]熱風乾燥機内で15[分]加熱乾燥し、試験用塗膜132を作製する。試験用塗膜132の厚みは膜厚計(デジタルマイクロ)にて測定した。試験用塗膜132の表面抵抗である塗膜抵抗RS[Ω・cm]は四探針法にて測定する。
【0067】
図9は、実験例の例1~例4の条件を示す表である。条件は、模擬一次粒子132a若しくは正極活物質321の粒子組成と、その粒子構造が、一次粒子か二次粒子かである。
また、「給油量[ml/100g]」を測定した。この給油量[ml/100g]は、アマニ油を吸収した量を示すものである。浸透性が高いアマニ油を用いることで間隙321cから空洞321dにアマニ油が浸透する。この給油量[ml/100g]が多ければ、CNTからなる導電性材料322が間隙321cから空洞321dに進入しやすいことがわかる。
【0068】
導電性評価工程は以下のように行われる。
図5(a)に示すような方法で、試験用塗膜132の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を測定した。また、
図5(b)に示すような方法で正極合材層32の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を測定した。なお、測定に当たっては、条件を揃えるため、
図5(b)に示す正極基板31は、
図5(a)に示すPET製の模擬基板131に取り換えられる。表ではこれらをまとめて「塗膜抵抗R
S[Ω・cm]」という。
【0069】
「σ」は、標準偏差を表し、塗膜抵抗RS[Ω・cm]の標準偏差である。
「変動係数CV(Coefficient of Variation)」は、ばらつきを示す数値で、変動係数CV=標準偏差σ÷平均値で求められる。単位の異なるデータのばらつきや、平均値に対するデータとばらつきの関係を相対的に評価する際に用いる単位を持たない無次元の数値である。ここでは100分率[%]で表示している。
【0070】
<例1~例4について>
・例1:模擬一次粒子132aを用いたもので、粒子組成はアルミナで、粒子構造は中実の一次粒子である。このため給油量[ml/100g]は、16[ml/100g]と少なくなっている。これは、例1の模擬一次粒子132aには、正極活物質321のような空洞321dや間隙321cが極めて少ないことを意味している。
【0071】
例1の塗膜抵抗RS[Ω・cm]の平均値は、11.2[Ω・cm]であった。また、標準偏差σは、0.26[Ω・cm]であった。このため、変動係数CVは、2.7%となり、ばらつきが小さいことが分かった。
【0072】
・例2:
図3(b)に示すような間隙321cが比較的少ない正極活物質を用いたもので、ここでは正極活物質(b)という。粒子組成は正極活物質321で、粒子構造は中空の二次粒子321aである。このため給油量[ml/100g]は、41[ml/100g]と例1の模擬一次粒子132aと比較しておよそ2.5倍と多くなっている。これは、例2の正極活物質(b)では空洞321dや、間隙321cが存在することを意味している。
【0073】
例2の塗膜抵抗RS[Ω・cm]の平均値は、9.1[Ω・cm]であった。また、標準偏差σは、0.62[Ω・cm]であった。このため、変動係数CVは、5.2%となり、例1と比較してばらつきが大きいことが分かった。
【0074】
・例3:
図3(c)に示すような間隙321cが比較的多い正極活物質を用いたもので、ここでは正極活物質(c)という。粒子組成は正極活物質321で、粒子構造は中空の二次粒子321aである。このため給油量[ml/100g]は、47[ml/100g]と例2と比較しても、多くなっている。これは、例2の正極活物質(b)よりも、空洞321dや、間隙321cが多く存在することを意味している。
【0075】
例3の塗膜抵抗RS[Ω・cm]の平均値は、20.5[Ω・cm]であった。また、標準偏差σは、1.36[Ω・cm]であった。このため、変動係数CVは、6.7%となり、例2と比較してばらつきがやや大きいことが分かった。
【0076】
・例4:
図3(b)に示すような間隙321cが比較的少ない正極活物質を用いた正極活物質(b)と、
図3(c)に示すような間隙321cが比較的多い正極活物質を用いた正極活物質(c)を混合したもので、ここでは正極活物質(b+c)という。粒子組成は正極活物質321で、粒子構造は中空の二次粒子321aである。このため給油量[ml/100g]は、46[ml/100g]と例2と例3との中間の値を示している。これは、例2の正極活物質(b)と例3の正極活物質(c)との中間の性質を示している。
【0077】
例4の塗膜抵抗RS[Ω・cm]の平均値は、14.8[Ω・cm]であった。これは、例2の正極活物質(b)と例3の正極活物質(c)との中間の性質を示している。
また、標準偏差σは、5.78[Ω・cm]であった。このため、変動係数CVは、39.1%となり、例2、例3と比較してばらつきが極めて大きいことが分かった。
【0078】
<ばらつき係数CVに対する評価>
図10は、正極活物質321、模擬一次粒子132aのそれぞれのばらつきを示す変動係数CVを示す図である。例1のアルミナからなる模擬一次粒子132aは、その生産工程から比較的ばらつきが少なく、変動係数CV=2.7[%]である。
【0079】
一方、例2の正極活物質(b)では、変動係数CV=5.2[%]と大きくなっている。これは、正極活物質(b)では、一次粒子321bを焼成して二次粒子321aを作製する段階で、ばらつきが出るからである。さらに、例3の正極活物質(c)では、間隙321cが多くなり、さらにばらつきが大きくなる。加えて導電性材料132bが、間隙321cから正極活物質(c)の内部に移動するが、その配置にもばらつきが出やすいからであると思われる。そして、例4の正極活物質(b+c)では、正極活物質(b)と正極活物質(c)との混合物となる。このため、場所により塗膜抵抗R
Sが9.1[Ω・cm]の正極活物質(b)と、塗膜抵抗R
S[Ω・cm]の正極活物質(c)の影響が変わりやすく、標準偏差σ=5.78と大きくなる。つまり、給油量[ml/100g]や塗膜抵抗R
S[Ω・cm]は、例2と例3の平均的な値となる。しかし、ばらつきに関しては、
図10に示すように塗膜抵抗R
S[Ω・cm]の小さな正極活物質(b)と、塗膜抵抗R
S[Ω・cm]の大きな正極活物質(c)との間でばらつきが出るため変動係数CV=39.1%と大きくなる。
【0080】
<模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比R[wt%]の最適化>
図11は、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]の変化と試験用塗膜132の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を示すグラフである。
図11に示すように、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]をゼロから変化させていくと、最初は、きわめて高い塗膜抵抗R
S[Ω・cm]示す。その後、配合質量比R
W[wt%]=0.1~0.2あたりで急激に低下していることがわかる。これは、隣接する模擬一次粒子132aの間に導電性材料132bによる導電ネットワークが形成されるに十分な量に達したからであるものと思われる。
【0081】
また、
図12は、
図11に示すグラフの一部(0≦R
W≦5、0≦R
S≦100)の部分を拡大したグラフである。
図12に示すように、0≦R
W≦5、0≦R
S≦100の範囲で大きくグラフの傾きに変化がある。ここで、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]を0.8~3[wt%]で変動させ、試験用塗膜の塗膜抵抗R
S[Ω・cm]の挙動を確認した。
【0082】
そうすると、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]が概ね1[wt%]以上、3[wt%]以下の範囲の比率で導電性材料132bを配合すればよいことがわかる。特に、
図12で示すグラフから、グラフの曲率が最大となる1.6[wt%]近傍の範囲で分散性に対する感度が出ることが分かった。より具体的には配合質量比R
W[wt%]が3[wt%]を超える場合は、塗膜抵抗R
S[Ω・cm]に変化がなく、かえって導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]が過剰であることがわかる。一方、配合質量比R
W[wt%]が1[wt%]未満では、導電ネットワークを形成するのに十分な導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]ではないことがわかる。その結果、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比R
W[wt%]が概ね1[wt%]以上、3[wt%]以下の範囲の比率で導電性材料132bを配合すればよいことがわかった。
【0083】
(本実施形態の作用)
図5(b)に示すような完成したリチウムイオン二次電池1の正極板3に配合された導電性材料322の導電性を測定すると正極活物質321自体の導電性の影響を受ける。また、
図3に示すような正極活物質321に形成された空洞321dや間隙321cの影響で結着材323における密度が変化する。さらに導電性の正極基板31の影響を受ける。このため、正極板3の表面抵抗である塗膜抵抗R
S[Ω・cm]を如何に正確に測ったとしても、導電性材料322自体の導電性や分散性、導電ネットワークの形成などを正しく評価することができない。
【0084】
そこで、
図5(a)に示す模擬正極板103では、このような測定に影響を与える正極活物質321のみを、その機械的な構成はそのまま、絶縁体である模擬一次粒子132aに置き換えた。また、正極基板31も、その機械的な構成はそのまま、絶縁体である模擬基板131に置き換えた。
【0085】
その結果、完成したリチウムイオン二次電池1では、正確に評価できなかった導電性材料322自体の導電性や、分散性、ネットワークの形成などを正しく評価することができるようになった。
【0086】
また、この模擬正極板103を用いて実験することで、本来の適正な導電性材料322の添加量なども導き出せる。
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料322を評価する評価方法は、導電性材料322の導電性や分散性などを正確に評価することができるという効果がある。
【0087】
(2)本実施形態は、正極活物質321と導電性材料322とを含む正極合材層32が正極基板31に形成された正極板3を備えたリチウムイオン二次電池1において、当該リチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料322を評価する評価方法である。このため、実際の生産対象であるリチウムイオン二次電池1を製造するにあたり、導電性材料322を添加する添加量などを適正に設定することができるようになるという効果がある。
【0088】
(3)模擬正極板103では、リチウムイオン二次電池1の正極活物質321を模擬した絶縁体からなる模擬一次粒子を含む。このため導電性材料322の分散状態などを正確に再現することで、正確に導電性材料322の導電性や分散性などを正確に評価することができるという効果がある。
【0089】
(4)また、模擬正極板103では、リチウムイオン二次電池1の正極基板31を模擬した模擬基板131に塗工及び乾燥させて模擬一次粒子132aを含有した試験用塗膜132を作製する。このため、正極基板31の導電性などの影響をなくして、正確に導電性材料322の導電性や分散性などを正確に評価することができるという効果がある。
【0090】
(5)試験用塗膜132の表面抵抗である塗膜抵抗RS[Ω・cm]を測定する。このため、正確に導電性材料322の導電性や分散性などを正確に評価することができるという効果がある。
【0091】
(6)試験用塗膜ペーストの模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合体積比Rv[vol%]が、正極活物質321と導電性材料322の配合体積比RV[vol%]に基づいて設定される。このため、模擬正極板103において、リチウムイオン二次電池1の導電性材料132bの作用を正確に再現することができるという効果がある。
【0092】
(7)模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比RW[wt%]を、配合質量比をRW[wt%]の変化と試験用塗膜の塗膜抵抗RS[Ω・cm]を示すグラフにおいて、グラフの曲率の最も大きな部分を含む範囲とする。このため、導電性材料132bの作用を正確に解析することができるという効果がある。
【0093】
本発明者らの実験によれば、模擬一次粒子132aに対する導電性材料132bの配合質量比RW[wt%]が、1[wt%]以上、3[wt%]以下の範囲が適当であることを解析した。このため、導電性材料132bの適正な添加量を導き出すことができるという効果がある。
【0094】
(8)模擬一次粒子132aの平均粒径DS(d50)[μm]、リチウムイオン二次電池1の正極活物質321の粒子と実質的に同径とした。このため、模擬正極板103において、リチウムイオン二次電池1の導電性材料132bの作用を正確に再現することができるという効果がある。
【0095】
本発明者らの実験によれば、模擬一次粒子の平均粒径DS(d50)[μm]が、0.1[μm]以上、50[μm]以下とした場合に適切であることを解析した。
(9)試験用塗膜132は、リチウムイオン二次電池1の正極合材層32の厚さ[μm]と同じ厚さ[μm]とした。このため、模擬正極板103において、リチウムイオン二次電池1の導電性材料132bの作用を正確に再現することができるという効果がある。
【0096】
(10)本実施形態では、正極活物質321が、リチウム遷移金属酸化物の二次粒子である場合に適用した。このような場合に、本実施形態により問題点を解決することができる。また、導電性材料322が、繊維状炭素からなる場合に好適に適用できるという効果がある。
【0097】
(11)模擬一次粒子132aは、アルミナを適用した。アルミナは、絶縁性が高く、機械的に安定で、不要な電気化学的反応を生じない。模擬基板131は、絶縁体から形成されていることが望ましく、本実施形態では、模擬基板131は、PETフィルムから形成されている。PETフィルムは絶縁性が高く、機械的に安定で、不要な電気化学的反応を生じない。このため、正確に導電性材料322の導電性や分散性などを正確に評価することができるという効果がある。
【0098】
(12)導電性材料322、132bの平均径DC(d50)[nm]は、1[nm]以上、100[nm]以下で、平均長さLC(d50)[nm]は、100[nm]以上、10000[nm]以下である。このようなものが、正極活物質321の形状の影響を受けやすいため、正確に導電性材料322の導電性や分散性などを正確に評価することができるという効果がある。
【0099】
(別例)
○本実施形態における説明は、本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。以下の別例のように実施することができ、これら別例の場合には当業者により発明が最適化される。
【0100】
○本実施形態では、間隙321cを備え、空洞321dを備えた中空な構造の正極活物質321を例示したが、間隙321cや空洞321dを備えない中実の正極活物質321のみから構成される場合でも本発明を実施することができる。そのような場合では、間隙321cや空洞321dにCNTが入り込むということはない。しかし、表面の凹凸が大きかったり、大きさが均一でなかったりする場合にも、本発明のような模擬一次粒子132aを用いることにより導電性材料の導電性や分散性をより正確に評価することができるからである。
【0101】
○同様に、極板は正極板3に限定されるものではなく、負極板2においても実施しうるものである。例えば、リチウムイオン二次電池1の活物質としては負極活物質としてグラファイトを用いたものや、シリコンを用いたような場合にも導電パスの検証などを実施することができる。
【0102】
○さらに、二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、他の非水電解液二次電池や、アルカリ二次電池、その他の二次電池などにおいて実施することができる。
【0103】
○本実施形態では、導電性材料322、132bとして繊維状炭素、具体的にはCNT(カーボンナノチューブ)を例示したが、他の導電性材料、例えば繊維状のカーボンマイクロファイバや、さらに粒状のAB(アセチレンブラック)などを使用してよい。
【0104】
○図面は、本実施形態のリチウムイオン二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法を説明するための模式的な図面であり、その数量や形状、寸法などは、実際の形態を反映したものではない。
【0105】
○数量や形状、寸法など各数値や数値範囲、形状、材質等は、一例であり、本発明を限定するものではない。当業者により適宜最適化されることは言うまでもない。
○リチウムイオン二次電池に用いる導電性材料を評価する評価方法の手順は、一例であり、その順序を変更し、手順を付加、又は削除することができる。
【0106】
○その他、本発明は特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者によりその構成を付加し、削除し、又は変更して実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0107】
1…リチウムイオン二次電池(セル電池)
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
16…正極集電端子
17…負極集電端子
2…負極板
21…負極基板
22…負極合材層
23…負極集電部
3…正極板
31…正極基板
32…正極合材層
321…正極活物質
321a…二次粒子
321b…一次粒子
321c…間隙
321d…空洞
322…導電性材料
323…結着材
33…正極集電部
103…模擬正極板
131…模擬基板
132…試験用塗膜
132a…模擬一次粒子
132b…導電性材料
132c…結着材
133…正極集電部
4…セパレータ
OM…抵抗計
MP1,MP2…計測点
RS[Ω・cm]…塗膜抵抗(表面抵抗)
RV[vol%]…一次粒子に対する導電性材料の配合体積比、若しくは、正極活物質と導電性材料の配合体積比
RW[wt%]…模擬一次粒子に対する前記導電性材料の配合質量比、若しくは、正極活物質と導電性材料の配合質量比
DS(d50)[μm]…模擬一次粒子の平均粒径
DC(d50)[nm]…導電性材料の平均径
LC(d50)[nm]…導電性材料の平均長さ
【要約】
【課題】二次電池に用いる導電性材料の導電性や分散性などを正確に評価すること。
【解決手段】リチウムイオン二次電池1に用いる導電性材料322を評価する評価方法では、ペースト作製工程でリチウムイオン二次電池1の正極活物質321を模擬した絶縁体からなる模擬一次粒子132aと導電性材料132bとを含むペーストを作製し、試験用塗膜作製工程でペーストをリチウムイオン二次電池1の正極基板31を模擬した模擬基板131に塗工及び乾燥させて模擬一次粒子132aを含有した試験用塗膜132を作製し、導電性評価工程で、試験用塗膜132の表面抵抗である塗膜抵抗R
Sを測定することで、導電性材料322、132bを評価する。
【選択図】
図5