(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、目標軌道算出方法、及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
B60W30/10
(21)【出願番号】P 2023505290
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007969
(87)【国際公開番号】W WO2022190910
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021039029
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 遊
(72)【発明者】
【氏名】山門 誠
(72)【発明者】
【氏名】安部 正人
(72)【発明者】
【氏名】狩野 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 優介
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218098(JP,A)
【文献】特開2019-189187(JP,A)
【文献】特開2015-214282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した情報に基づいて演算した結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて車両の軌道を制御するよう構成され、
前記基本軌道座標データは、
前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、
少なくとも前記第1の
基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、
を有し、
前記コントロール部は、
前記第1の基本軌道座標データに対応する第1曲率と、前記第2の基本軌道座標データに対応する第2曲率と、の差に基づいて前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求める、
車両制御装置。
【請求項2】
入力した情報に基づいて演算した結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて車両の軌道を制御するよう構成され、
前記基本軌道座標データは、
前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、
少なくとも前記第1の
基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、
を有し、
前記コントロール部は、
前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を、前記第1の基本軌道座標データ及び前記第2の基本軌道座標データに基づいて求める、
車両制御装置。
【請求項3】
入力した情報に基づいて演算した結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて車両の軌道を制御するよう構成され、
前記基本軌道座標データは、
前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、
少なくとも前記第1の
基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、
を有し、
前記コントロール部は、
前記第2の基本軌道座標データにおける曲率が左方向に増加している場合は、前記第1の基本軌道座標データに対して、右方向に前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求め、
前記第2の基本軌道座標データにおける曲率が右方向に増加している場合は、前記第1の基本軌道座標データに対して、左方向に前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求める、
車両制御装置。
【請求項4】
入力した情報に基づいて演算した結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて車両の軌道を制御するよう構成されるとともに、
前記車両の速度と前方注視時間の積で与えられる、前記車両から所定距離前方のコース上に設定された第1プレビューポイントでの曲率の時間変化がゼロであり、前記第1プレビューポイントより前記コース上の先に位置する第2プレビューポイントでの曲率の時間変化の絶対値が増加している場合、
前記曲率の時間変化がゼロのときから、前記第1プレビューポイントに対して、右方向または左方向に前記オフセット量を求める、
車両制御装置。
【請求項5】
車両に搭載されたコントロールユニットが実行する車両制御方法であって、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて前記車両の軌道を制御する、
ことを含み、
前記基本軌道座標データは、
前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、
少なくとも前記第1の
基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、
を有し、
前記第1の基本軌道座標データに対応する第1曲率と、前記第2の基本軌道座標データに対応する第2曲率と、の差に基づいて前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求める、
車両制御方法。
【請求項6】
車両に搭載されたコントロールユニットが実行する車両制御方法であって、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて前記車両の軌道を制御する、
ことを含み、
前記基本軌道座標データは、
前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、
少なくとも前記第1の
基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、
を有し、
前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を、前記第1の基本軌道座標データ及び前記第2の基本軌道座標データに基づいて求める、
車両制御方法。
【請求項7】
車両に搭載されたコントロールユニットが実行する車両制御方法であって、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて前記車両の軌道を制御する、
ことを含み、
前記基本軌道座標データは、
前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、
少なくとも前記第1の
基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、
を有し、
前記第2の基本軌道座標データにおける曲率が左方向に増加している場合は、前記第1の基本軌道座標データに対して、右方向に前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求め、
前記第2の基本軌道座標データにおける曲率が右方向に増加している場合は、前記第1の基本軌道座標データに対して、左方向に前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求める、
車両制御方法。
【請求項8】
車両に搭載されたコントロールユニットが実行する車両制御方法であって、
原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、
前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、
前記新たな目標軌道座標データに基づいて前記車両の軌道を制御する、
ことを含み、
前記車両の速度と前方注視時間の積で与えられる、前記車両から所定距離前方のコース上に設定された第1プレビューポイントでの曲率の時間変化がゼロであり、前記第1プレビューポイントより前記コース上の先に位置する第2プレビューポイントでの曲率の時間変化の絶対値が増加している場合、
前記曲率の時間変化がゼロのときから、前記第1プレビューポイントに対して、右方向または左方向に前記オフセット量を求める、
車両制御方法。
【請求項9】
請求項1に記載の車両制御装置を搭載した車両。
【請求項10】
請求項2に記載の車両制御装置を搭載した車両。
【請求項11】
請求項3に記載の車両制御装置を搭載した車両。
【請求項12】
請求項4に記載の車両制御装置を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、目標軌道算出方法、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1が開示する道路形状学習装置は、自車両がカーブを走行したと判定した場合、当該カーブの入口、中央及び出口に対応する自車両の位置を示す情報である入口座標、中央座標及び出口座標を抽出し、前記入口座標、前記中央座標及び前記出口座標を予め定められている走行傾向に対応した補正値で補正した補正後入口座標、補正後中央座標及び補正後出口座標を求め、前記補正後入口座標、前記補正後中央座標及び前記補正後出口座標の各点を通る円弧の半径を算出し、当該半径を前記カーブにおける曲率半径として設定する。
そして、特許文献1の道路形状学習装置では、アウト・イン・アウトの走行傾向に対応してカーブ方向毎の補正値を設定することにより、処理の複雑化を招くことなく容易に道路の形状を学習することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来では、道路形状とアウト・イン・アウトラインとの対応規則が明確ではなく、目標軌道に沿って車両を走行させる車両運動制御を実施する場合、エキスパートドライバが操舵する場合と同様なアウト・イン・アウトラインを実現した目標軌道を得ることができないおそれがあった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エキスパートドライバが操舵する場合と同様なアウト・イン・アウトラインを実現した目標軌道を得ることができる、車両制御装置、車両制御方法、目標軌道算出方法、及び車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、その1つの態様において、原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データに基づいて、前記基本軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を求め、前記基本軌道座標データ毎に前記オフセット量を加えることで、新たな目標軌道座標データを求め、前記新たな目標軌道座標データに基づいて車両の軌道を制御するものであって、前記基本軌道座標データは、前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、少なくとも前記第1の基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、を有し、前記第1の基本軌道座標データに対応する第1曲率と、前記第2の基本軌道座標データに対応する第2曲率と、の差に基づいて前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求める。
また、本発明の別の態様によれば、前記基本軌道座標データは、前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、少なくとも前記第1の基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、を有し、前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を、前記第1の基本軌道座標データ及び前記第2の基本軌道座標データに基づいて求める。
また、本発明の別の態様によれば、前記基本軌道座標データは、前記原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データと、少なくとも前記第1の基本軌道座標データよりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データと、を有し、前記第2の基本軌道座標データにおける曲率が左方向に増加している場合は、前記第1の基本軌道座標データに対して、右方向に前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求め、前記第2の基本軌道座標データにおける曲率が右方向に増加している場合は、前記第1の基本軌道座標データに対して、左方向に前記第1の基本軌道座標データのオフセット量を求める。
また、本発明の別の態様によれば、前記車両の速度と前方注視時間の積で与えられる、前記車両から所定距離前方のコース上に設定された第1プレビューポイントでの曲率の時間変化がゼロであり、前記第1プレビューポイントより前記コース上の先に位置する第2プレビューポイントでの曲率の時間変化の絶対値が増加している場合、前記曲率の時間変化がゼロのときから、前記第1プレビューポイントに対して、右方向または左方向に前記オフセット量を求める。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エキスパートドライバが操舵する場合と同様なアウト・イン・アウトラインを実現した目標軌道を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】弧長パラメータと曲率の関係を示す図である。
【
図3】車両の横加加速度及び曲率の変化率と、カーブ進入、カーブ脱出との相関を示す図である。
【
図4】前方の車線中央線のデータが既知である場合の曲率を説明する図である。
【
図5】2つのカーブを含む複合コース(A)、(B)を示す図である。
【
図6A】
図5のコース(A)に対するアウト・イン・アウトラインを示す図である。
【
図6B】
図5のコース(B)に対するアウト・イン・アウトラインを示す図である。
【
図7】Preview G-Vectoring制御の概念を示す図である。
【
図8】道路曲率の時間変化に基づく加減速モデルの概念図である。
【
図9A】カーブ進入前からの減速を示す図であって、プレビューポイント(preview point)の時間変化を示す図である。
【
図9B】カーブ進入前からの減速を示す図であって、プレビューポイントでの曲率と減速指令との相関を示す図である。
【
図9C】カーブ進入前からの減速を示す図であって、前後加速度と横加速度との相関を示す線図である。
【
図10A】カーブ脱出前からの加速を示す図であって、プレビューポイントの時間変化を示す図である。
【
図10B】カーブ脱出前からの加速を示す図であって、プレビューポイントでの曲率と加速指令との相関を示す図である。
【
図10C】カーブ脱出前からの加速を示す図であって、前後加速度と横加速度との相関を示す線図である。
【
図11】車線中央線からのオフセット指令値と加減速指令との相関を示す図である。
【
図12A】左カーブでのオフセットを示す図であって、左カーブ進入前における自車位置からのオフセットを示す図である。
【
図12B】左カーブでのオフセットを示す図であって、車線中央線の地点情報を示す図である。
【
図13】右カーブ進入前における自車位置からのオフセットを示す図である。
【
図14】オフセット量に基づき補正後の目標軌道を生成する方法を示す図である。
【
図15】オフセット量を曲率のオフセット量とする場合の計算方法を示す図である。
【
図16】サーキットトラック型のコースについてオフセット量を計算して目標軌道を生成した例を示す図である。
【
図17】数式14を用い、サーキットトラック型のコースについてオフセット量を計算して目標軌道を生成した例を示す図である。
【
図18A】
図6Aに示したコース(A)について第2実施形態の計算方法を適用して目標軌道を計算した結果を示す図である。
【
図18B】
図6Bに示したコース(B)について第2実施形態の計算方法を適用して目標軌道を計算した結果を示す図である。
【
図19】複雑なコースに対してプレビューポイントまでの距離を変更したときの目標軌道の計算結果を示す図である。
【
図20】複雑なコースに対してオフセットゲインを変更したときの目標軌道の計算結果を示す図である。
【
図21】本発明の目標軌道算出方法を用いる制御装置及び車両を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、目標軌道算出方法、及び車両の実施形態を説明する。
なお、本発明は、車両の自動運転において、車線或いは走行可能なエリアの中央からオフセットした目標軌道、詳細には、エキスパートドライバが操舵する場合と同様なアウト・イン・アウトラインを実現した目標軌道を、連続的に算出する機能を備えることを特徴とする。
【0010】
近年、自動運転の研究は活発化しており、「ぶつからない」を学習する人工知能を搭載した自動運転車両、先読み運転による危険予知アルゴリズムの開発、エキスパートドライバと同等以上の危険予測知能の実現、それを用いた乗り心地の良い自動運転の実現などの題目が提案されている。
また、自動運転の公道実証実験も各種行われているが、センサ情報に基づいて車線の中央を走り続けるという技術の検証に留まっている。
【0011】
一方、自動運転車両の差別化技術として、乗り心地向上という課題がある。
ここでの乗り心地とは、路面凹凸による上下振動などではなく、従来ドライバが行っていた運転操作によって発生する車両運動に対する乗り心地のことであり、エキスパートドライバが運転したときの車両運動を実現することが、乗り心地のよい自動運転と見做すことができる。
【0012】
但し、エキスパートドライバのような滑らかな違和感の少ない運転を実現するために、自動運転車両の舵角を決定するドライバモデルをエキスパートドライバモデルとしても、乗り心地は必ずしも向上しない。
ある速度で旋回する車両の横加速度は車両軌道で決まり、前後加速度は加減速指令で決まり、これに伴って、車体ばね上姿勢であるロール運動、ピッチ運動が発生する。
【0013】
そして、これらが複合的に組み合わさったものが乗り心地であるため、車線中央を同じ速度で走った場合は、略同等な乗り心地となる。
つまり、許される範囲内での理想的な目標軌道、目標軌道を辿る速度を、道路形状、詳細には、道路の幅、車線中央の座標から決定することにより、乗り心地を向上することができ、車線中央座標(換言すれば、車線中央線)を辿ることが必ずしも理想的とは言えない。
【0014】
しかし、目標軌道の設定については、現状、マップデータとして記憶しておく、ビックデータを用いてAIに学習させるなどの方法が採用されているに過ぎない。
例えば、特開2011-203240号公報には、前述したように、アウト・イン・アウトの走行傾向に対応してカーブ方向毎の補正値を設定することにより、処理の複雑化を招くことなく容易に道路の形状を学習することができる、道路形状学習装置が開示されている。
【0015】
また、特開2014-218098号公報には、車両の走行可能領域を検出する走行可能領域検出装置と、前記走行可能領域検出装置が検出した前記走行可能領域を前記車両が走行するように生成される目標軌跡に基づいて、軌跡制御を実行する走行制御装置と、前記目標軌跡を生成する制御装置と、を備えた、運転支援装置が開示されている。
ここで、前記制御装置は、前記車両の進行方向先にカーブが存在する場合、前記車両の自車位置から、前記車両の車両速度に応じて設定される先読み距離分、進行方向先に位置する前記カーブの道路中心を基準点として決定する。
そして、前記制御装置は、前記基準点における前記カーブの曲率半径に応じて設定される横変位分だけ、前記基準点からカーブ内側へオフセットした位置を目標点として決定し、前記自車位置と前記目標点を通るように前記目標軌跡を生成する。
【0016】
また、特開2019-189187号公報には、エキスパートドライバと同等な経路生成を行う、走行軌道設計方法及び車両運動制御装置が開示されている。
この走行軌道設計方法及び車両運動制御装置は、緩和曲線長を進む速度Vが小さくなるか、単位緩和曲線長sだけ進むのに要する時間t(V=s/t)が大きくなると、曲率κを大きい方向に変化させ、緩和曲線長を進む速度Vが大きくなるか、単位緩和曲線長sだけ進むのに要する時間tが小さくなると、曲率κを大きい方向に変化させる。
【0017】
上記特開2011-203240号公報には、実際の走行軌道データから地図データをアップデートする方法は開示されているが、その実際の走行軌道はドライバの操舵に依存したものとなり、乗り心地の向上に適したものであるという保証がない。
また、上記特開2011-203240号公報には、アウト・イン・アウトの走行傾向に対応してカーブ方向毎の補正値を設定するとの記載があるが、具体的にどのように定義されたものがアウト・イン・アウトで、それをどのように決定するのかという、具体的な算出方法が明確ではない。
【0018】
また、上記特開2014-218098号公報の運転支援装置では、進行方向の先に位置するカーブの道路中心を基準点として決定し、当該基準点における前記カーブの曲率半径に応じて設定される横変位分だけ前記基準点からカーブ内側へオフセットした位置を目標点に設定する。
しかし、係る目標点の設定方法は、カーブ外側、すなわちアウト方向へ目標点をオフセットするものではないから、アウト・イン・アウトというセオリーを実現できる方法ではない。
【0019】
更に、上記特開2019-189187号公報の走行軌道設計方法では、加減速を伴う緩和曲線を設定することができるが、エキスパートドライバが実際に行うように、道幅を使って、カーブに対して車線中央ではなく外側から進入するという、目標軌道データを算出することはできない。
そこで、本発明は、経路中央の座標、例えば車線の中央の座標点情報を用いて、その車線中央からのオフセットを計算して中央値に加減することにより、アウト・イン・アウトラインを実現した目標軌道を得ることを課題とし、更に、その目標軌道を辿る自動運転車両の乗り心地、運動性能を向上することを課題とする。
【0020】
そのため、本発明に係る目標軌道算出方法の一態様においては、記憶しているまたは計測した結果に基づく、走行車線或いは走行可能エリアの中央を示す中央線座標点データを用い、任意の点における曲率とその先に位置する点における曲率との差分に基づいて、任意の点に対する車線中央線からのオフセット量を算出し、中央線座標からオフセットした目標軌道を連続的に算出する。
【0021】
具体的には、現在の車線中央地点(以下、ve点とする。)から距離Lpv[m]だけ前方のコース上に設定されたプレビューポイントにカーブがあるときに、そのプレビューポイントの曲率κpvと現在の車線中央地点の曲率κveとの差分を距離Lpvで除したものに、少なくとも走行速度VとゲインCo0を掛けたものをオフセット量とする。
また、原点(O点)の車線中央線から、カーブの旋回中心から反対方向(換言すれば、アウト側)或いはカーブの旋回中心の方向(換言すれば、イン側)へずらしたものを目標位置(換言すれば、目標軌道、若しくは、目標点)とする。
なお、プレビューポイントまでの距離Lpvは、自車速度Vとプレビュー時間tpvの積として与えられる。
上記の目標軌道算出方法によれば、カーブ進入前にカーブの曲率変化に応じてアウト側に膨らむ目標軌道とイン側に入り込む目標軌道を算出することができ、この目標軌道を辿るように車両を制御することにより、エキスパートドライバの運転と同様な安全性の向上と乗り心地の向上などの効果を享受することができる。
【0022】
なお、本発明における経路生成は、道路設計など絶対座標系に固定された幾何学的なものに対してのもの、すなわちA地点からB地点までの移動のようなマクロな経路ではなく、自動運転のように道路幅の中である程度の自由度を持った状態で、どのようなラインで走行を行うかを設定するものであり、地点移動としては同じ位置に着くが、そこに至る経路を可変とするものである。
【0023】
以下では、本発明の実施形態の説明に先立ち、
(1)緩和曲線及びアウト・イン・アウト
(2)横運動に連係した加減速制御(G-Vectoring)
(3)G-Vectoring制御、及び、カーブ進入前の自動減速制御を導入したPreview G-Vectoring制御
を説明する。
以下の説明においては、車両の重心点を原点とし、車両の前後方向をx、x方向に直角な方向(換言すれば、車両の横方向)をyとした場合、x方向の加速度を前後加速度、y方向の加速度を横加速度とする。
【0024】
そして、前後加速度は、車両の前方向を正、すなわち、車両が前方向に進行している際に、その速度を増加させる前後加速度を正とする。
また、横加速度は、車両が前方向に進行している際に、左回り(換言すれば、反時計回り)旋回時に発生する横加速度を正とし、逆方向を負とする。
更に、走行路について、左回りの旋回半径を正、右回りの旋回半径を負とし、旋回半径の逆数を曲率とする。同様に、目標軌道に関しても、左回りの旋回半径を正、右回りの旋回半径を負とし、旋回半径の逆数を曲率とする。
【0025】
(1)緩和曲線及びアウト・イン・アウト
車両が直線区間から曲線区間へ直接移行すると、急激な操舵操作を要求されたり、突然大きな遠心力(または横加速度)が作用したりするなど、乗り心地や安全性に悪影響を与え、曲率半径の小さな曲線区間への突然の移行は影響が大きくなる。
そこで、路線線形において、直線から所定の円弧曲線の曲率へ徐々に変化する曲線である緩和曲線を挿入する場合がある。
【0026】
図1は、直線区間と円弧曲線区間とを緩和曲線区間で接続した例を示す。なお、
図1においては、円弧曲線区間の半径ρを、250mとする。
但し、実際の車線は
図1の曲線を車線中央線として、左右に道路幅を持つ。また、直線区間の半径ρ[m]は無限大と見做すことができる。
【0027】
ここで、旋回半径は、緩和曲線区間を辿っていくにつれて漸次減少し、円弧曲線区間の半径ρ(ρ=250m)に向けて徐々に逓減する。
一方、曲率κ[1/m]は、数式1に示すように、旋回半径ρ[m]の逆数である。
【数1】
したがって、緩和曲線区間を辿っていくにつれて旋回半径ρが徐々に減少するとき、曲率κは徐々に増加することになる。
【0028】
また、道路設計や鉄道の線路設計において、曲率κは、単位長さを表す弧長パラメータs[m]で表現される。
図2は、弧長パラメータsと曲率κとの相関を示し、緩和曲線の曲率κがカーブ進入時に弧長パラメータsに従い増加していき、一定の曲率、つまり、定常円になり、その後、カーブ脱出時に減少していく様態を示す。
【0029】
図2では、緩和曲線長S
Tだけ進む間に、曲率κが0.004(0.004=1/250)となっている。
また、
図2は、クロソイド曲線と、サイン半波長逓減曲線との2つの緩和曲線のタイプを示している。
【0030】
「クロソイド曲線」
クロソイド曲線は、弧長パラメータsに対して直線的に曲率κが増加するので、クロソイド係数をCとすると、曲率κは、数式2のように表せる。
【数2】
【0031】
ここで、クロソイド曲線は、車両が一定速度での走行しているときに、ドライバが一定の速度でステアリングホイールを操作したときの軌道に相当する。
なお、クロソイド係数Cは、道路形状の設計時に決定されたとおりのものである。また、クロソイド曲線の場合、横加加速度が一定となる。
【0032】
「サイン半波長逓減曲線」
サイン半波長逓減曲線は、弧長パラメータsに対して半波長の正弦波状の形状で曲率が増加するので、緩和曲線長をXとし、最終的に半径Rの円弧に接続する場合、曲率κは、数式3のように表せる。
【数3】
【0033】
ここで、緩和曲線長S
Tの緩和曲線を、車両が速度一定(V=V0)で辿る場合を想定する。
この場合、V0×t
TVC=S
Tを満たす時間t
TVC後に、車両は定常旋回状態になる。
そして、このときの車両横加速度G
yVCは、数式4で表せる。
【数4】
【0034】
また、緩和曲線走行中における車両横加加速度J
yVCは、数式5で表せる。
【数5】
【0035】
ここでは、走行速度Vが速度V0を維持されることを想定しているため、1秒間に増加する弧長パラメータsはV0となり、車両横加加速度JyVCは、曲率κを緩和曲線長で微分したものを係数とし、係る係数を速度V0の3乗に乗算した値となる。
そして、弧長パラメータsに対して曲率κが増加しない状態になると、車両は横加加速度一定で数式4の横加速度に到達する。
【0036】
また、車両がカーブからの脱出するときは、旋回運動から直線運動へと遷移していくため、曲率κは弧長パラメータsに対して減少し、横加加速度の符号が反転する。
本発明で取り扱う曲率κは、符号付き曲率(signed curvature)で、左カーブの曲率κを正、右カーブの曲率κを負とする。
【0037】
図3は、カーブ進入時、カーブ走行時、カーブ脱出時の横加加速度及び曲率の変化率の正負を、左カーブと右カーブとのそれぞれについて示す。
例えば、車両が左カーブを走行するときで、カーブ進入時に正の横加加速度ととると、カーブ脱出時には負の横加加速度をとることになる。
【0038】
また、曲率κの変化率は、例えば、車両が左カーブを走行するときは、カーブ進入時は正で、カーブ脱出時は負となる。
つまり、横加加速度及び曲率の変化率の正負は、カーブ進入とカーブ脱出とを表す指標となり、例えば、左カーブを走行する場合、横加加速度、曲率変化率が正の場合はカーブ進入時、負の場合はカーブ脱出時であることを示す。
【0039】
したがって、車両の自動運転を制御する車両制御装置は、横加加速度の計測値を取得するなどすれば、カーブ進入、脱出を把握することができるが、前方の曲率情報或いは座標情報を保持しておれば、車両がこれから進んでいく車線の先の曲率を予測計算することができる。
図4は、前方の車線中央線のデータが既知である場合の曲率の予測計算を示す。
【0040】
ここで、文献1(小野直樹、瀧山龍三「離散点で表された曲線の曲率の計算について」、テレビジョン学会技術報告、17巻 (1993) 76号)を参照し、XY平面上座標は、N個の標本点(X(i),Y(i))(i=1, …, N)の系列によって表されているとする。
但し、各点列データは、数式6に示すように、標本点間距離が1であるとする。
【数6】
【0041】
したがって、これらの値より、数式7となる。
【数7】
そして、文献1を参考にして、各標本点における経路曲率κ[i]を求めると、数式8に示すようになる。
【数8】
この瞬間での旋回半径ρ[i]は、数式9から求まる。
【数9】
【0042】
したがって、車両制御装置は、車両前方の座標が例えばマップデータとして蓄積されていれば、車両前方の曲率を予測できる。
また、車両制御装置は、車両前方を例えば車両に搭載されたカメラの画像などから計測して、自車が走行可能な範囲である走行路の真ん中の部分、たとえば、車線中央を座標データとして抽出することができれば、車両前方の経路曲率を予測することができる。
【0043】
即ち、車両制御装置は、
図3に示した関係に基づき、この先に車両が走行する、カーブ進入、定常旋回、カーブ脱出を予測することができる。
そして、車両制御装置が、アウト・イン・アウトの実現のために使える情報は、車両の速度情報と曲率情報であり、車両制御装置は、これらの情報から、車線中央線(換言すれば、走行路における基準線)から走行路の幅方向に目標位置をオフセットさせる量を決定しなければならない。
なお、車線中央線とは、車両が走行する走行路、つまり、車線或いは走行可能なエリアの幅方向の中央に沿って引かれた仮想線である。
【0044】
また、1つのカーブに対して存在する概念は、カーブ進入、カーブ旋回、カーブ脱出の3つフェーズである。
このうち、カーブ旋回のフェーズは、定常的な円旋回である。
また、アウト・イン・アウトを実現するための車線中央線からのオフセットが必要とされる理由として、過渡的な状況への対応が考えられる。
【0045】
更に、アウト・イン・アウトなどのオフセットを実現するためには、カーブ進入時及びカーブ脱出時の2つのフェーズに対してオフセットを考える必要がある。
このように考えると、アウト・イン・アウトというように1つのカーブに3つのオフセットを考えるのではなく、アウト・インが通常の1つのカーブに付随する概念で、次のカーブの様態に応じてアウトに膨れるかインをキープするのかが異なってくる。
【0046】
以下では、アウト・イン・アウトと呼ばれるコーナリングラインにおけるオフセットの方向を検証する。
図5は、曲がり方が異なる2つのコース(A)、(B)を例示する。
【0047】
図5に示すコース(A)及びコース(B)は走行路の中心線、つまり、車線中央線を示し、車線中央線の左右に道幅のマージンが存在し、目標軌道のオフセットはマージンの範囲内、つまり、車両が道幅を逸脱しない範囲内で行うことになる。
コース(A)とコース(B)の前半は同じ左に曲がるカーブセクション(1)であり、その後、カーブセクション(2)において、コース(A)は更に左に曲がり、コース(B)は右に曲がるコース設定になっている。
【0048】
図6Aは、
図5のコース(A)についてのアウト・イン・アウトラインを示し、
図6Bは、
図5のコース(B)のアウト・イン・アウトラインを示す。
図6A及び
図6Bにおいて、点線は車線中央線を表し、実線はエキスパートドライバが操舵する場合でのアウト・イン・アウトラインを示す。
また、
図6A及び
図6Bにおいて、矢印は、それぞれ車線中央線からのオフセットの方向を示している。
【0049】
カーブセクション(1)においては、コース(A)、(B)とも左カーブなので、アウト・イン・アウトラインは、カーブセクション(1)の手前ではコース右側、すなわち外側にポジションをとり、その後カーブセクション(1)においてコース左側、すなわち内側をとる。
次いで、コース(A)のカーブセクション(2)は左カーブであるので、カーブセクション(2)への進入時のオフセットとしての外側は、車線中央に対して右方向となる。
【0050】
そして、コース(A)のカーブセクション(2)においてコース左側、すなわち車線中央に対して内側にオフセットしたラインを辿る。
ここで、コース(A)の走行ラインは、カーブセクション(1)の前後においては、アウト・イン・アウトとなっている。
【0051】
一方、コース(B)のカーブセクション(2)は右カーブであるので、カーブセクション(2)への進入時のオフセットとしての外側は、車線中央に対し左方向となる。
そして、コース(B)のカーブセクション(2)においてコース右側、すなわち車線中央に対して内側にオフセットしたラインを辿る。
ここで、コース(B)の走行ラインは、カーブセクション(1)の前後においては、アウト・イン・インとなっている。
【0052】
このように、アウト・イン・アウトと呼ばれているコーナリングラインは、カーブ進入時にアウト、カーブ旋回時にインという2つのオフセットの組み合わせをカーブ毎に行っていると見做すことができ、実際には、アウト・イン・アウトのときもあれば、アウト・イン・インのときもある。
更に、アウト・イン・アウトラインでは、最初のオフセットとしてのアウトは、カーブの前に行われ、次のオフセットとしてのインはカーブが終わる前に行われていて、カーブの進入前からアウト側のオフセットを算出し、カーブの脱出前にイン側のオフセットを算出する必要がある。
【0053】
(2)横運動に連係した加減速制御(G-Vectoring)
横運動に連係した加減速制御は、操舵操作による横運動に連係して自動的に加減速することにより、前輪と後輪の間に荷重移動を発生させて車両の操縦性と安定性の向上を図る方法である。
数式10は、横運動に連係した加減速制御における加減速度指令値である前後加速度指令値Gxcの算出式であり、前後加速度指令値Gxcは、基本的に、横加加速度Gy_dotにゲインCxyを掛け、1次遅れを付与した値とする。
【0054】
数式10において、Gyは車両横加速度、Gy_dotは車両横加加速度、つまり、加速度の一階微分値、Cxyはゲイン、Tは一次遅れ時定数、sはラプラス演算子、Gx_DCは横運動に連係しない加減速度指令である。
そして、横運動に連係した加減速制御により、エキスパートドライバの横と前後運動の連係制御ストラテジの一部を模擬することができ、車両の操縦性、安定性の向上が実現できることが確認されている。
【0055】
【数10】
数式10における横運動に連係しない加減速度指令Gx_DCは、横運動に連係していない減速度成分であり、前方にカーブがある場合の予見的な減速、或いは区間速度指令がある場合に必要となる項である。
【0056】
また、数式10におけるsgn(シグナム)項は、右カーブと左カーブの双方において上記の動作が得られるように設けた項である。
そして、操舵開始のターンイン時に減速し、定常旋回になると横加加速度が略ゼロとなるので減速を停止し、操舵戻しを開始するカーブ脱出時に加速する動作が、上記の前後加速度指令値Gxcによって実現できる。
【0057】
車両制御装置が、数式10にしたがって車両を制御した場合、横軸に車両の前後加速度、縦軸に車両の横加速度をとる“g-g”ダイアグラムにおいて、前後加速度と横加速度の合成加速度Gを表記すると、時間の経過とともに曲線的に遷移する運動になり、数式10を制御則とする制御手法は、「G-Vectoring制御」と呼ばれている。
【0058】
(3)G-Vectoring制御及びPreview G-Vectoring制御
近年、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)と地図データを用いたアダプティブクルーズコントロールシステムが提案されており、GPSを使った加減速制御が実用化されている。
そこで、車両の運動情報のみで制御を行っていたG-Vectoring制御に、新たにGPSと地図データを加え、カーブ進入前の減速のような横運動に連係しない領域まで拡張した、違和感の少ない新たな前後加速度制御であるPreview G-Vectoring制御が提案されている。
【0059】
図7は、Preview G-Vectoring制御の概念を示す。
従来のG-Vectoring制御は、カーブ進入後に車両に発生する横加加速度に基づいて減速制御を実施するのに対し、Preview G-Vectoring制御は、自車前方の道路曲率から車両に発生すると推定される横加加速度を事前に求めることで、カーブ進入前から減速制御を行う。
【0060】
図8は、道路曲率の時間変化に基づく加減速モデルの概念図である。
本モデルでは、自車から距離Lpv[m]だけ離れた自車前方のコース上に移動速度Vpvのプレビューポイントを設定し、プレビューポイントでの道路曲率κpvの時間変化に基づいて前後加速度指令値Gxt_pvを演算する。
【0061】
数式11に、加減速モデルの基本式を示す。
【数11】
数式11において、Vは自車速度、Cxy_pvはゲイン、Tpvは時定数、κpvはプレビューポイントの道路曲率であり、κpv上の「・」記号は時間微分を表す。自車からプレビューポイントまでの距離Lpvは、自車速度Vとプレビュー時間tpvの積として与える。
【0062】
数式11によって得た前後加速度指令値Gxt_pvに基づいて前後加速度を発生させることで、自車がカーブに進入する前からの減速が可能となる。
また、数式11によって得た前後加速度指令値Gxt_pvと、従来のG-Vectoring制御による前後加速度指令値Gxt_GVCとを組み合わせることで、実際に車両に発生した横運動に連係した前後加速度制御を実現でき、カーブ進入前から定常旋回に至るまで連続した減速制御となる。
【0063】
図9A、
図9B、
図9Cは、数式11に基づく減速制御におけるカーブ進入前での減速を示す。なお、
図9Cは、横軸を前後加速度、縦軸を横加速度とする、“g-g”ダイアグラムである。
プレビューポイントがカーブ進入前である時刻t0からカーブ進入後の時刻t1となった際、プレビューポイントでの道路曲率κpvが増加する。
そのため、道路曲率κpvの時間変化が正となって、負の前後加速度指令値Gxt_pvが演算され、結果、車両はカーブ進入前から減速することになる。
【0064】
このように、前後加速度指令値Gxt_pvの演算に自車前方の道路曲率時間変化κpvを用いることで、G-Vectoring制御による加減速制御を、実際に車両に横運動が発生する前の領域まで拡張でき、カーブ進入前からの減速を実現できる。
また、前後加速度指令値Gxt_pvを道路曲率の時間変化に比例して与えるため、同じカーブであっても、速度が高い条件では急激に道路曲率が変化することで強い減速となり、速度が低い条件では弱い減速となる。
【0065】
また、速度が高くなるほど自車に発生する横加加速度が大きくなって、G-Vectoring制御による前後加速度指令値Gxt_GVCは大きくなるから、前後加速度指令値Gxt_GVCと前後加速度指令値Gxt_pvとは同じ傾向である。
そのため、前後加速度指令値Gxt_pvと前後加速度指令値Gxt_GVCの親和性は高い。
そして、両者を組み合せることで、
図9A、
図9B、
図9Cに示すように、Preview G-Vectoring制御による前後加速度指令値Gxt_PGVCが作成できる。
【0066】
Preview G-Vectoring制御では、自車のカーブ進入前(たとえば、
図9A、
図9B、
図9Cの時刻t0、時刻t1)は、前後加速度指令値Gxt_pvによる前後加速度制御、自車がカーブに進入した後(たとえば、
図9A、
図9B、
図9Cの時刻t2)は、従来のG-Vectoring制御による前後加速度制御となり、カーブ進入前から定常旋回に至るまで連続した減速制御が可能となる。
その結果、ドライバフィーリングがよいとされる“g-g”ダイアグラム内をまわるような、換言すれば、合成加速度がベクタリングするような、加速度変化が実現される(
図9C参照)。
【0067】
図10A、
図10B、
図10Cは、カーブからの脱出時の様子を示している。
なお、
図10Cは、横軸を前後加速度、縦軸を横加速度とする、“g-g”ダイアグラムである。
図10A、
図10Bに示すように、車両がまだカーブを走行している時刻t5の状況でも、プレビューポイントがカーブから脱出しているため、プレビューポイントでの道路曲率κpvは減少する。
そのため、時刻t5の時点で道路曲率κpvの時間変化が負となって、正の前後加速度指令値Gxt_pvが演算され、結果、車両は旋回途中から脱出に向けて加速するように制御される。
【0068】
係るカーブ脱出時においても、前後加速度指令値Gxt_pvと前後加速度指令値Gxt_GVCの親和性は高く、両者を組み合せることで、
図10Bに示すように、Preview G-Vectoring制御による前後加速度指令値Gxt_PGVCが作成できる。
そして、ドライバフィーリングがよいとされる“g-g”ダイアグラム内をまわるような、換言すれば、合成加速度がベクタリングするような、加速度変化が実現される(
図10C参照)。
【0069】
以下では、前述のPreview G-Vectoring制御を参照した、アウト・イン・アウトラインを実現するためのオフセット量算出方法(車両制御方法、目標軌道算出方法)、つまり、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、目標軌道算出方法、及び車両の実施形態を詳細に説明する。
図6A、
図6Bの説明で述べたように、アウト・イン・アウトを実現するためには、カーブの進入前からアウト側のオフセットを算出し、カーブの脱出前にイン側のオフセットを算出する必要がある。
【0070】
一方、
図11は、Preview G-Vectoring制御時における、車両横加速度、加減速指令値、曲率、オフセット指令値の相関を示す図である。
図11は、横加速度が発生する前に減速度を発生させ、横加速度が低下する前に加速度を発生させるという概念を表している。
【0071】
なお、車両横加速度、加減速指令値の変化を示すグラフの横軸は時間である。
一方、曲率は、車両走行点での曲率であって、曲率の変化を示すグラフの横軸は弧長パラメータとしてある。
また、オフセット指令値は、車線中央線からのオフセット量の指令であって、オフセット指令値の変化を示すグラフの横軸は弧長パラメータとしてある。
【0072】
ここで、走行速度が略一定の場合は、数式4に示した通り、横加速度と曲率は略同一プロファイルとなる。
また、曲率のグラフが示すように、どこからカーブが始まり、どこでカーブが終わるかを弧長パラメータ値で表現することができる。
【0073】
そして、
図11に示すオフセット指令値は、車線中央線からのオフセット量であって、Preview G-Vectoringの加減速指令値を参照した値である。
ここでは、Preview G-Vectoring制御が減速指令を発生しているときに、減速指令値と略同プロファイルの信号をアウト側のオフセット指令値とし、Preview G-Vectoring制御が加速指令を発生しているときに、加速指令と略同プロファイルの信号をイン側のオフセット指令値とする。
【0074】
図11の最下段には、オフセット指令値に基づく目標軌道と車線中央線との相関を示してある。
この図に示す目標軌道は、カーブ進入時に外側(アウト)に膨らみ、カーブ脱出時に内側(イン)に切り込むようなアウト・イン(・アウト)になっている。
【0075】
本発明の車線中央線からのオフセットを計算する方法としての基本的な考え方として、オフセットを計算すべきポイントよりも前方のポイントでの曲率の変化情報を用いて、曲率変化の絶対値が増加しているときには、その曲率の符号と逆方向のアウト側(旋回外側)へのオフセット量を算出する。
つまり、オフセットを計算すべきポイントよりも前方のポイントでの曲率が左方向に増大している場合、右方向にオフセット量を求め、オフセットを計算すべきポイントよりも前方のポイントでの曲率が右方向に増大している場合、左方向にオフセット量を求める。
一方、曲率変化の絶対値が減少しているときには、その曲率の符号と同方向のイン側(旋回内側)へのオフセット量を算出する。
【0076】
以下では、解析的に導き出されたオフセット量算出方法の具体的な計算ロジック、計算例について開示する。
図12Aは、車線中央線上の自車位置[xve, yve]、車線中央線上のプレビューポイント[xpv, ypv]、自車位置からのオフセットを示す図であり、
図12Bは、車線中央線上における地点情報(waypoint deta)を示す。
【0077】
本例では、予め車線中央線上のXY平面上座標が、点列データとして、N個の標本点[x(i),y(i)]、i=1,…,Nの系列によって表されているものとする。
したがって、車線中央線上の自車位置[xve, yve]及び車線中央線上のプレビューポイント[xpv, ypv]は、上記の標本点の中に入っている。
【0078】
ここで、前記数式8を用いた計算結果である、各点毎の曲率κ(i)(i=1,…,N)の系列、更には、弧長パラメータsに対する曲率の変化率(dκ/ds)についても、各点毎のデータに加えられる。
仮に、i=1の点列が座標系の原点であり、i=2の点列を結ぶ直線がx軸上であれば、数式12で、この車線中央線の瞬時毎の方位角を計算することができ、これらの情報も各点毎のデータに加えることができる。
【数12】
上記の各種データは、車線中央線の地点情報として標本点毎に記憶される(
図12B参照)。
【0079】
「第1実施形態」
第1実施形態においては、前述した車線中央線の地点情報を用い、各地点(換言すれば、各標本点)に対するオフセット量d(i)を算出し、アウト・イン・アウトを実現するための目標位置の補正を行い、新たな点列データX(i),Y(i)、つまり、車線中央線から補正された目標軌道を決定する。
【0080】
なお、以下では自車位置という表現が出てくるが、これは便宜上の表記であり、車線中央線の地点情報があれば、下記の方法はオフラインで計算できる。
但し、オフラインの場合、速度一定としての計算となるため、複数の速度域に対して事前に車線中央から補正された目標軌道を計算しておく必要がある。
【0081】
車両制御装置は、事前に計算した車線中央線から補正された目標軌道を予めマップデータとして記憶しておいて、その軌道を辿るように自動運転車両を制御することができる。
また、車両制御装置は、自動運転での走行中に、自車両の前方の車線中央線に対して補正を行って目標軌道を随時計算しながら、その上を辿るようにアクチュエータを制御することもできる。
【0082】
以下、
図12A、
図12Bを参照して具体的な計算ロジックを説明する。
先に述べた通り、Preview G-Vectoring制御の減速指令をアウト側のオフセットとし、加速指令をイン側のオフセットとすることにより、カーブの進入前及び脱出前にオフセットを実現することができる(
図11参照)。
【0083】
一方、
図12Aに示すように、自車位置から車線中央線上の距離Lpvだけ先のプレビューポイントでの旋回半径をρpvとすると、距離Lpvだけ先のプレビューポイントでの曲率κpvは、κpv=1/ρpvとなる。
上記の曲率κpvの情報は、地点情報に記載される(
図12B参照)。
【0084】
ここで、車線中央線上の各地点に対するオフセット量dveは、Preview G-Vectoring制御を参考にし、一次遅れ要素などを省略すると、数式13にしたがって求められる。
【数13】
自車位置前方にあるプレビューポイントでの曲率の時間変化、換言すれば、車両が走行する走行路における前方の曲率の時間変化に関する物理量に応じて、車線中央線からのオフセット量を決定するのが、本発明の基本的な考え方である。
【0085】
そして、
図12Aに示す左カーブの場合、プレビューポイントでの曲率変化が正(左方向へ増加)のときは、車両固定座標のy軸の負の方向、換言すれば、左カーブの外側に、オフセットの向きを決定する。
図示を省略したが、左カーブの場合であってプレビューポイントでの曲率変化が負、つまり、左方向の曲率が減少のときは、車両固定座標のy軸の正の方向、換言すれば、左カーブの内側にオフセットの向きを決定する。
【0086】
また、
図13に示す右カーブの場合、プレビューポイントでの曲率変化が負、つまり、右方向へ増加のときは、車両固定座標のy軸の正の方向、換言すれば、右カーブの外側にオフセットの向きを決定する。
図示を省略したが、右カーブの場合であってプレビューポイントでの曲率変化が正、つまり、右方向の曲率が減少のときは、車両固定座標のy軸の負の方向、換言すれば、右カーブの内側にオフセットの向きを決定する。
【0087】
数式13のCO0は、曲率の時間変化に対するオフセット量のゲインであり、このゲインCO0の設定においては、曲率の時間変化が最大値でも、オフセットによって目標位置が道幅を超えることがないようにするなどの考慮が必要である。
また、曲率の時間変化は、弧長パラメータの時間変化(ds/dt)と弧長パラメータ変化に対する曲率の変化(dκ/dt)の積となる。
【0088】
ここで、弧長パラメータの時間変化(ds/dt)は、プレビューポイントの移動速度となるため、結局、車両位置でのオフセット量dveは、数式13の最右辺となる。
係るオフセット量dveは、
図12Bの地点情報の検索結果から速度毎に決定することができる。
【0089】
図14は、数式13にしたがって計算されたオフセット量(座標値のオフセット量)を用いて、車線中央線上の自車位置[xve, yve]=[x0(i),y0(i)]から、補正後の目標軌道を構成する目標点(目標位置)[Xve, Yve]=[X(i),Y(i)]を決定する方法を示している。
図14に示したように、車線中央線の固定座標系O-XYにおける方位角(X軸に対する角度)をθ(i)、オフセット量をd(i)とすると、自車位置[x0(i),y0(i)]から補正後の目標点[X(i),Y(i)]への変換式は、数式14のようになる。
【0090】
【数14】
なお、方位角θ(i)は、予め設定された固定座標系に対する走行路における基準線の方位角に関する物理量である。
【0091】
以上により、車線中央線の地点情報を用いて、解析的にオフセット量を計算し、目標軌道を構成する目標点[X(i),Y(i)]を計算する方法が開示された。
つまり、上記の目標軌道算出方法は、前方の曲率の時間変化に関する物理量と、車線中央線(基準線)の方位角に関する物理量とに基づいて、車線中央線から走行路の幅方向にオフセットさせた目標位置を求めるものである。
【0092】
上記では、
図14に示したように、座標点に対する変位オフセットという形で補正後の目標軌道を定めるが、次のように、曲率のオフセット量として補正後の目標軌道を定めることができる。
曲率オフセットκdveは、数式15にしたがって求められる。
【数15】
【0093】
図15は、曲率オフセットκdveを用いて目標軌道を定める方式において、補正後の目標軌道の具体的な計算方法を示している。
ここで、車線中央線の地点情報が単位弧長毎に記録されているとすると、数式16に示すようになる。
【数16】
【0094】
そして、曲率κの元々の定義である、単位弧長進むとθだけ向きを変える(κ=dθ/ds)から考えると、車線中央線の接線とX軸の成す角である方位角θは、各点i毎に数式17にしたがって求まる。
【数17】
【0095】
したがって、
図15中にも記載したように、車線中央線の固定座標系O-XYにおける方位角(X軸に対する角度)をθ(i)、オフセット量をκdve(i)とすると、自車位置[x0(i),y0(i)]から補正後の目標点[X(i),Y(i)]への変換式は数式18のようになる。
【数18】
【0096】
以上のように、数式14の変換式と数式18の変換式は、基本的には同じ情報を含むが、数式14ではオフセット量を座標差分として求め、数式18ではオフセット量を曲率差分として求める。
いずれの場合も、前方の車線中央線の曲率変化の情報に基づいてオフセット量を計算し、車線中央線からオフセット量だけ加減算することにより、アウト・イン(・アウト)の目標軌道を解析的に算出することができる。
【0097】
つまり、本発明に係る目標軌道算出方法、及び、当該算出方法を用いる制御装置、制御方法、車両は、原点とするある位置から弧長が大きくなるように順序つけられた各座標における、少なくとも2次元座標値、軌道曲率、軌道方位角の一部或いは全部である基本軌道座標データを基に、軌道座標データ毎に座標値、或いは曲率のオフセット量を計算する手段を有し、該軌道座標データ毎にオフセット量を加え、新たな目標軌道座標データを構築し、その目標軌道座標データに基づいて車両の軌道を制御することを特徴とする。
【0098】
図16は、サーキットトラック型のコースにおいて、本発明を用い、車線中央線の地点情報に基づきオフセット量を計算し、目標軌道を生成した例である。
なお、
図16では、補正した目標軌道を見やすくするために、オフセットゲインを大きめの値に設定していることから、目標軌道が不連続に見えている。
【0099】
図16中に点線で示したコースは、XY座標の原点からスタートし、[X,Y]=[0, 100]のポイントからサイン半波長逓減曲線を緩和曲線として半径80mの円弧を辿るコースである。
図16中に矢印で示したポイントからオフセット量が計算され、目標軌道がアウト側に膨れている。その後、オフセット量がゼロになるため、車線中央線に復帰する目標軌道が生成される。
【0100】
図16中に矢印で示した第1プレビューポイントは、緩和曲線が始まる手前の直線路であって曲率の時間変化がゼロの状態である。
しかし、係る第1プレビューポイントよりも先のコース上に位置する第2プレビューポイントでの曲率の時間変化の絶対値が増加していてカーブ入口を示唆しているため、曲率の時間変化がゼロのときから、車線中央線に対してアウト側にオフセットさせた目標位置が設定される。換言すれば、第1プレビューポイントに対して、右方向または左方向にオフセット量が求められる。
【0101】
また、カーブの終わりでは、早めにイン側に切り込む経路も再現されている。
その後、目標軌道は車線中央線の上に戻り、次のカーブ進入に備えて目標軌道がアウト側に膨れ、カーブ走行時には車線中央線に戻り、その後、早めにイン側に切り込む目標軌道が生成されている。
【0102】
つまり、車両がカーブを脱出する前に、先のプレビューポイントでの曲率の時間変化の絶対値が減少している場合は、車線中央線に対してイン側、つまり、旋回内側にオフセットさせた目標位置が設定される。
なお、
図16は、オフセットを座標差分とした場合での目標軌道を示すが、オフセットを曲率差分とする場合も同等な結果が得られる。
【0103】
「第2実施形態」
上述した方法が本発明の基本原理であるが、以下では、本発明の第2実施形態として、更なる改善を加えた方法を説明する。
【0104】
Preview G-Vectoring制御は、前方曲率の変化率に基づいて作成した減速度指令(上述のオフセット量に相当)と、車両が緩和曲線上を走るときに発生する横加加速度に比例した減速度指令を組み合わせて利用する。
即ち、Preview G-Vectoring制御は、前方の情報により導出した成分と、現在の情報に基づいた成分を組み合わせて制御に用いている。
【0105】
一方、数式13、数式15のオフセット量の計算手法では、車両位置での情報は考慮することができないため、以下のような対応をとる。
プレビューポイントの移動速度を略車両速度と同じVとし、プレビューポイントの曲率を弧長パラメータsで微分したdκpv/dsを、プレビューポイントでの曲率κpvと車両位置での曲率κveの差分を距離Lpvで除したものに変更する。
【0106】
更に、オフセットゲインを、C
O0/Lpv=Coとして再定義し、オフセット量dveの計算方法を数式19に示すように変形した。
【数19】
【0107】
数式19のような変換を行うと、シンプルな計算となるとともに、オフセット量dveの計算式中に明示的に前方の曲率情報と現在の曲率情報を加えることができる。
更に、数式19によると、速度Vが増加すると、オフセット量dveが大きくなるように変化することが分かる。
【0108】
また、数式19によれば、原点からの弧長が小さい第1の基本軌道座標データのオフセット量は、少なくとも、第1の軌道座標よりも弧長が大きい第2の基本軌道座標データの情報を用いて算出されることが明らかである。
換言すれば、数式19によれば、車両の位置を含む走行路における前方の第1プレビューポイントでの第1曲率と、走行路の前方における前記第1プレビューポイントより先に位置する第2プレビューポイントでの第2曲率と、の差から曲率の時間変化に関する物理量を求め、係る曲率の時間変化に基づき第1プレビューポイントでのオフセット量を求めることができる。
【0109】
つまり、本発明の目標軌道算出方法においては、走行路における前方のオフセットの量を求めるべき位置よりも先の走行路における曲率の時間変化に関する物理量に基づいて、オフセットの量を求める。
そして、本発明の目標軌道算出方法によれば、第2の基本軌道座標データの前後のデータに対する軌道曲率の変化量が、左方向に増大する場合は、第1の軌道座標の法線方向への座標値オフセットを右方向とするか、第1の軌道座標の曲率オフセットを右方向にし、右方向に増大する場合は、第1の軌道座標の法線方向への座標値オフセットを左方向とするか、第1の軌道座標の曲率オフセットを左方向にすることを特徴とする。
【0110】
詳細には、本発明の目標軌道算出方法によれば、第2の基本軌道座標データの左への曲がりを正とした符号付き軌道曲率をκpvとし、第1の基本軌道座標データの左への曲がりを正とした符号付き軌道曲率を軌道曲率をκveとしたときに、これらの差分Δκ(Δκ=κpv-κve)を求める。
そして、差分Δκが正の時は、差分Δκに正のゲインC0を乗じた値に比例して第1の軌道座標の法線方向への座標値オフセットを右方向とするか、第1の軌道座標の曲率オフセットを負の方向にする。
また、差分Δκが負の時は、差分Δκに正のゲインC0を乗じた値に比例して第1の軌道座標の法線方向への座標値オフセットを左方向とするか、第1の軌道座標の曲率オフセットを正の方向にする。
【0111】
以下では、数式19を用いた目標軌道の生成結果を示す。なお、実際の修正座標、換言すれば、補正後の目標点の計算は、数式14を用いた。
図17は、
図16と同様に、サーキットトラック型のコースにおいて、車線中央線の地点情報を用い、数式14にしたがってオフセット量を計算し、目標軌道を生成した例である。
【0112】
なお、
図17では、補正した目標軌道を見やすくするためにオフセットゲインを大きめの値に設定している。
また、距離Lpvを100[m]と設定し、100m先の車線中央線の曲率情報と現在の車線中央線の曲率情報を用いてオフセット量を計算している。
【0113】
図17のコース(図中の点線)は、
図16と同様に、XY座標の原点からスタートして、[X,Y]=[0, 100]のポイントからサイン半波長逓減曲線を緩和曲線として半径80mの円弧を辿るコースである。
図中に矢印で示したポイント(緩和曲線が始まる100m手前)からオフセット量が計算され、目標軌道がアウト側に膨れている。その後、オフセット量がゼロになるため、車線中央線に復帰する目標軌道が生成される。
【0114】
つまり、本発明の目標軌道算出方法によれば、第1の基本軌道座標データの左への曲がりを正とした符号付き軌道曲率がゼロのときから、補正が始まる。
また、カーブの終わりでは、早めにイン側に切り込む経路も再現されている。
その後、目標軌道は車線中央線の上に戻り、次のカーブに備えて目標軌道がアウト側に膨れ、カーブ走行時には目標軌道が車線中央線に戻り、その後、イン側に切り込む目標軌道が生成されている。
【0115】
ここで、
図17の目標軌道は、
図16の目標軌道に比べて滑らかであり、エキスパートドライバが行うようなカーブ前から事前にアウト側へオフセットする様子も再現できている。
なお、
図17は、オフセットを座標差分とした場合での目標軌道を示すが、オフセットを曲率差分とする場合も同等な結果が得られる。
【0116】
図17は、同じ方向へ連続してカーブする車線中央線データに対して、本発明によってアウト・イン(・アウト)の目標軌道が得られることを示す。
次に、
図5に示したようなコース(A)、(B)について、数式19を用いて目標軌道を計算した結果を説明する。
【0117】
図18A、
図18Bは、
図5に示したコース(A)、(B)について、数式19を用いて目標軌道を計算した結果を示し、
図18Aはコース(A)での目標軌道、
図18Bはコース(B)での目標軌道を示す。
図5の説明で述べた通り、コース(A)は、1つ目の左カーブを抜けて、また左カーブに入るというコースである(
図18Aの点線)。
【0118】
このようなコース(A)に対して、数式19を用いて目標軌道を計算した結果が、
図18A中の実線である。
ここで、1つ目のカーブ及び2つ目のカーブに対し、右側(換言すれば、アウト側)からカーブに進入する目標軌道が計算できていることが分かる。
係る目標軌道は、エキスパートドライバがとるだろうアウト・イン・アウト(イン)ラインと定性的に一致している。
【0119】
一方、コース(B)は、1つの目の左カーブを抜けた後、切り返して次は右カーブに入るというコースである(
図18Bの点線)。
このようなコース(B)に対して、数式19を用いて目標軌道を計算した結果が、
図18B中の実線であって、パラメータ、符号切り替えなどの操作は行っていない。
【0120】
ここで、1つ目のカーブに対しては右側(アウト側)からアプローチし、2つ目のカーブに対しては左側(アウト側)からカーブに進入する目標軌道が計算できていることが分かる。
係る目標軌道は、エキスパートドライバがとるだろうアウト・イン・アウト(イン)ラインと定性的に一致している。
【0121】
以上のように、前方の車線中央線の曲率変化情報を用いてオフセット量を連続的に計算する本発明の計算手法を用いると、左右のカーブ形状、連続性にも対応して、車線中央線のデータから、エキスパートドライバがとるだろうアウト・イン・アウト(イン)ラインを定性的に再現できることが立証できた。
また、アウト・イン・アウトと言われていたエキスパートドライバのラインとりが、実は1つのカーブに対してはアウト・インのみで、次の車線中央線の曲率情報に応じて、最後のアウトかインが決定されていることが明らかになった。
【0122】
図19及び
図20は、本発明に係る目標軌道算出方法の複雑なコースへの対応状況を示している。
この
図19及び
図20から、アウト・イン・アウト、連続カーブ時のショートカットなど、エキスパートドライバがとるだろう軌道が再現できていることが確認できる。
【0123】
図19は、自車位置からプレビューポイントまでの距離Lpvを、50mとした場合と、100mとした場合との比較を示している。
図19に示すように、距離Lpvを延ばした方が、手前からアウト或いはイン方向へのオフセットが発生することになる。
したがって、コース形状や車速などの条件に応じて最適な距離Lpvを設定する必要があるが、距離Lpvをチューニングすることにより、本発明に係る目標軌道算出方法は、エキスパートドライバと同様な軌道を再現できることは明らかである。
【0124】
図20は、距離Lpvを100mとし、ゲインCoと車速Vの積Co・V(図中では、単にGainと記載)のノミナル値を1として、それぞれゲインを5倍、10倍としたものである。
ゲインCoについても、コース形状や車速などの条件に応じて最適値を設定する必要があるが、ゲインCoをチューニングすることにより、本発明に係る目標軌道算出方法は、エキスパートドライバと同様な軌道を再現することができることは明らかである。
なお、
図20の(X,Y)=(500, 500)の近辺で不連続点が発生しているが、これは100m以上先のデータが存在しないことに因る。
【0125】
本発明に係る目標軌道算出方法における更なるチューニングの余地としては、カーブ進入時と脱出時とで可変ゲイン(つまり、アウト側とイン側のゲインを変える)、速度依存性をより明確に反映するために車速Vの2乗、或いは3乗にするなどの各種設定が可能である。
また、本発明に係る目標軌道算出方法のチューニングとして、ドライバ・パッセンジャーの意向に沿って距離LpvやゲインCoなどのパラメータを変更できるようにすることも可能である。
【0126】
図21は、本発明に係る目標軌道算出方法を実行する制御装置である車両制御装置を含む車両制御システム、つまり、本発明に係る車両制御方法を実行する車両制御システム、及び、車両を示す概念図である。
車両100が搭載する車両制御システム200は、外界認識部300、運転状態検出部400、車両制御装置500、制動装置600、駆動装置700、操舵装置800を有する。
【0127】
外界認識部300は、レーザスキャン装置、カメラ、ミリ波レーダ、GPS受信装置などの外界検出装置を有し、車両100が走行する走行路における前方の外界情報を取得する。
上記の外界情報は、車両100が走行する走行路に関する白線などの情報の他、周辺の移動物体、静的物体である障害物などの情報を含む。
【0128】
運転状態検出部400は、車両100の運転状態を検出する複数のセンサからなり、例えば、車両100の各車輪100FL,100FR,100RL,100RRの回転速度を検出する車輪速センサ、車両100の前後加速度、横加速度を検出する加速度センサなどを有する。
なお、車輪速センサが検出する各車輪の回転速度に基づき車両100の速度を推定できる。
【0129】
車両制御装置500は、車両100のAD(Autonomous Driving)/ADAS(Advanced driver-assistance systems)コントローラである。
車両制御装置500は、入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するマイクロコンピュータ(換言すれば、コントロール部、若しくは、コントロールユニット)を主体とする電子制御装置であり、マイクロコンピュータは、MPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。
【0130】
制動装置600は、油圧を発生させるアクチュエータを備えた電子制御電動油圧式ブレーキなどの、車両100の制動力を電子制御可能な装置である。
駆動装置700は、車両100の駆動力を発生する内燃機関や電動モータなどであって、車両100の駆動力を電子制御可能な装置である。
操舵装置800は、電動モータなどの転舵アクチュエータによって車両100の転舵輪、詳細には、前輪100FL,100FRの舵角を電子制御可能な、電動パワーステアリング装置やステアバイワイヤシステムなどの装置である。
【0131】
車両制御装置500は、外界認識部300及び運転状態検出部400から各種情報を取得し、前述した、前方の車線中央線の曲率変化情報を用いてオフセット量を連続的に計算する手法を用いて目標軌道(換言すれば、目標位置)を生成する。
そして、車両制御装置500は、生成した目標軌道に沿って設定速度で車両100が走行するように車両100の運動に関する指令を求め、車両10の運動を制御するアクチュエータである制動装置600、駆動装置700、操舵装置800に制御指令を出力する。
【0132】
更に、車両制御装置500は、大きな舵角で旋回をするような場面や、他車両や歩行者の急な飛び出し、また、路上の落下物を回避するための急旋回が必要な場面においても、外界認識部300がセンシングした情報に応じて目標軌道を生成し、係る目標軌道に追従走行するように制御指令を出力する。
一般道において自動運転車両が走行する場合、高速道路と違い、狭く入り組んだ路地やショッピングセンターなどの駐車場のような内輪差が大きく小回りをする走行に加えて、自車以外の車両のほか歩行者など様々な移動対象、更に進行方向上の落下物などを回避する走行が必要になる。
【0133】
そして、大きな舵角旋回や急な舵角操作が求められる操作シーンでは、センシングした前方の情報に基づいて車両制御しても、実際の走行結果が目標となる軌道からずれてしまう場合がある。
そこで、車両制御装置500は、前方のセンシング情報或いは車線中央線の地点情報をそのまますぐに使うのではなく、内部メモリに一旦蓄積し、オフセット量を計算して補正してから使うことで、過去から現在までの点を線(換言すれば、軌道)として認識することができ、係る構成によって目標となる軌道を高精度に追従できる。
【0134】
また、目標軌道に合わせて操舵装置800などのアクチュエータを動かすときに、一般的に、アクチュエータや車両が応答するまでの遅れによって、軌道追従の精度が下がったり、車両制御の安定性が損なわれたりする場合がある。
そこで、車両制御装置500は、車両運動の予測シミュレーションを行ってアクチュエータや車両の応答を予測し、応答遅れに対する補正を行い、軌道追従の精度を更に高めることができる。
【0135】
車両制御装置500が、上記のような構成を実現することで、経路中央の座標、例えば車線の中央の座標点情報を用いて、その中央からのオフセットを計算して中央値に加減することによりアウト・イン・アウトラインを実現した目標軌道を得て、その目標軌道を辿る自動運転において、乗り心地性能や運動性能を向上することが可能となる。
【0136】
また、上記では、自動運転(AD:Autonomous Driving)を想定して本発明の実施形態を説明したが、例えば、走行レーンからのはみだしの警告やレーンキープアシストなどの先進運転支援(ADAS: Advanced driver-assistance systems)に上記の目標軌道算出方法を適用することができる。
この場合、レーン中央という判断材料に加え、アウト・イン・アウトラインをベースとしてはみだしやレーンキープを判断することにより、警告・介入の品質を向上できる。
【0137】
更に、上記実施形態では、走行路の基準線を車線中央線としたが、基準線を車線中央線に限定するものではなく、どのような曲線を基準線とする場合であっても、本発明が適用可能であることは言うまでもない。
【0138】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0139】
100…車両、200…車両制御システム、300…外界認識部、400…運転状態検出部、500…車両制御装置(AD/ADASコントローラ)、600…制動装置、700…駆動装置、800…操舵装置